説明

インク吐出装置

【課題】吐出ヘッドの主走査方向の反転して移動する際におけるインク吐出標的間の移動を短時間で行う。
【解決手段】本発明に係るインク吐出装置は、インク吐出手段が正方向吐出標的2a(2c)間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段が負方向吐出標的2b間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記複数個の正方向吐出標的2aのうち上記インク吐出手段が最後に走査する最後の正方向吐出標的から、上記複数個の負方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最初に走査する最初の負方向吐出標的に上記インク吐出手段が移動する際の副走査方向移動時間は、主走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段は、上記最後の正方向吐出標的から上記最初の負方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の負方向吐出標的へ向かう副走査方向への移動を開始するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吐出装置に関し、特に、インク吐出手段が主走査方向に対し反転して移動するインク吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクを吐出する技術は、民生用のプリンタのみならず、液晶用のCF(Color filter)パネル生産装置やその他生産装置にも幅広く転用されるようになり、その用途が多様化している。
【0003】
その一例として、インクを吐出する技術を利用して基板上にパターンを形成するインクジェットパターニング技術が挙げられる。インクジェットパターニング技術は、インク吐出装置からインクをはじめとする微量液体を吐出し、基板上に直接微細なパターンを印字する技術である。このインクジェットパターニング技術は、従来のフォトリソグラフィーによる真空プロセスを用いたパターン生成方法に代わり、脱真空プロセスに使用可能な技術として注目が高まっている。
【0004】
近年、このインクジェットパターニング技術を用いた、CFパネルを形成するための装置の開発が進められている。この装置は、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の各色からなるインクを、ガラス基板上に形成されたRGB用画素内に着弾させることによって各画素を埋め、CFパネルを形成する。この装置は、特に、近年益々大面積化が進んでいる液晶用のCFパネルの製造において用いられる。そして、この装置は、その処理時間が厳重に管理され、確実に一定の短い時間内で処理を成し遂げることが要求される。
【0005】
従来のCFパネルでは、図9に示すように、その印字対象の画素101が、主走査方向Yおよび副走査方向Xに対して格子状に配列されている。そのため、従来のCFパネルの全面画素の印字方法では、吐出ヘッドは、画素の行列方向に相当する主走査方向Yと副走査方向Xとの直交方向に交互に繰返しながら移動し、目的位置に移動してからインクを吐出する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。なお、同図中、吐出ヘッドの移動経路は矢印にて示す。
【0006】
また、インクジェットパターニング技術は、画素の全面印字技術としてのみならず、混色、夾雑物の混入または付着といった欠陥画素を修復するための技術として広く用いられている(例えば、特許文献2参照)。欠陥画素の修復方法として、インクのリークなどによって隣接画素間でインクの混色が発生した欠陥画素のインク層を、レーザ装置などを用いて取り除き、その取り除いた部分に再度RGBの内、指定された色のインクをインクジェットパターニング技術によって吐出して修復する方法が用いられている。
【0007】
上記修復に際しての欠陥画素へのインク吐出装置の吐出ヘッドの移動方法としては、修復位置のXY座標に基づき2次元方向に吐出ヘッドを移動させ、目的位置に到着したらインク滴を所定数吐出して欠陥画素の穴埋めを行う方法が用いられている。この2次元方向へ吐出ヘッドを移動させる方法として、XYプロッタ法や、主走査方向への移動と副走査方向への移動とを交互に繰り返す方法が広く用いられている。
【0008】
XYプロッタ法は、主走査方向をY座標軸方向とし、副走査方向をX座標軸方向とした場合、単純にY座標値に基づいて欠陥箇所を並び替え、並び替えられた欠陥箇所を昇順や降順にしたがって修復をしていく方法である。例えば、図10に示すように、基板204上には、複数の画素印字対象部202が存在する。このとき、XYプロッタ法では、例えば各画素印字対象部202のY座標値の最も大きな欠陥箇所から順に、吐出ヘッドが移動しながら修復をしていく。このとき、主走査方向であるY方向および副走査方向であるX方向への加速および減速が繰り返される。なお、同図における矢印は、吐出ヘッドの移動経路を示す。同図に示すように、上記方法によれば、吐出ヘッドは、画素印字対象部202間を略一直線に移動することとなる。
【0009】
また、主走査方向への移動と副走査方向への移動とを交互に繰り返す方法は、主走査方向へ移動しながら欠陥箇所を修復し、その後、副走査方向へ移動する。副走査方向への移動が終了した後、再び、主走査方向へ移動しながら欠陥箇所を修復する。上記方法は、このように、主走査方向への移動と副走査方向への移動とを交互に繰り返す方法である。例えば、図11に示すように、基板304上には、複数の画素印字対象部302が点在する。このとき、上記方法では、主走査方向Yへのみ移動しながら画素印字対象部302を修復する。修復が終了したとき、主走査方向Yへの移動を行うことなく、副走査方向Xへのみ移動する。したがって、上記方法では、主走査方向Yおよび副走査方向Xへの加速および減速が繰り返される。なお、同図における矢印は、吐出ヘッドの移動経路を示す。同図に示すように、上記方法によれば、吐出ヘッドは、画素印字対象部302間をジグザグに移動することとなる。
【特許文献1】特開2004−306617号公報(平成16年(2004)11月4日公開)
【特許文献2】特開2003−66218号公報(平成15年(2003)3月5日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来のインク吐出方法では、吐出ヘッドが主走査方向において反転して移動する場合に長時間を要するという問題を生じる。また、インク吐出対象へ吐出ヘッドが移動する場合、吐出ヘッドの移動速度の変化が大きいために、装置にかかる負荷が大きいとともに、インクの着弾精度を保とうとすれば、修復処理時間が長くなるという問題を生じる。
【0011】
具体的には、従来のインク吐出方法であるXYプロッタ法では、Y座標の最も大きな欠陥箇所から順に吐出ヘッドが移動しながら修復を行うため、主走査方向における反転時には、次に移動する欠陥箇所が考慮されずに吐出ヘッドが移動する。そのため、XYプロッタ法では、吐出ヘッドの反転時に長時間を要する。一方、主走査方向への移動と副走査方向への移動とを交互に繰り返す方法では、画素印字対象部302間をジグザグに移動するため、吐出ヘッドの反転時における移動時間が非常にかかることとなる。
【0012】
また、インク吐出対象に対して、精度良くインクを着弾させるためには、吐出ヘッドは、加速および減速が少ない状態でインクを吐出することが必要である。したがって、上記2つのいずれの方法においても、吐出ヘッドは、印字する直前に、速度を一定にする必要が生じる。その結果、吐出ヘッドは、加速および減速を伴う動作、換言すれば負荷を伴う動作を繰り返さなくてはならない。さらに、速度を一定にするための時間を必要とし、その結果、処理時間が長くなる。
【0013】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、吐出ヘッドの主走査方向の反転して移動する際におけるインク吐出標的間の移動を短時間で行うことができるインク吐出装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、吐出標的に正確にインクの吐出が可能であるインク吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインク吐出装置は、上記課題を解決するために、インク吐出手段を備えるインク吐出装置であって、上記インク吐出手段は、媒体上に点在するインク吐出標的グループにインクを吐出すべく、主走査方向および副走査方向に沿って、上記媒体に対して相対的に移動可能となっており、主走査方向に沿って、一定速度で移動する構成であり、上記インク吐出標的グループは、上記インク吐出手段による主走査方向の第1方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第1方向吐出標的と、主走査方向の第1方向に対して反対方向である、主走査方向の第2の方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第2方向吐出標的とを含んでおり、上記インク吐出手段が上記第1方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段が上記第2方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記複数個の第1方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最後に走査する最後の第1方向吐出標的から、上記複数個の第2方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最初に走査する最初の第2方向吐出標的に上記インク吐出手段が移動する際の副走査方向移動時間は、主走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的から上記最初の第2方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の第2方向吐出標的へ向かう副走査方向への移動を開始することを特徴としている。
【0015】
上記の発明によれば、上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的から上記最初の第2方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の第2方向吐出対象へ向かう副走査方向への移動を開始するので、上記インク吐出手段が主走査方向において反転する場合に、短い時間で反転することができる。
【0016】
また、本発明に係るインク吐出装置は、上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置と、上記最初の第2方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置とに基づいて、上記主走査方向の第1方向から第2方向に反転することが好ましい。
【0017】
上記最後の第1方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置と、上記最初の第2方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置とに基づいて、インク吐出手段が反転することによって、インク吐出手段の移動距離を短縮できるので、上記インク吐出手段が主走査方向における反転時間をさらに短縮することができる。
【0018】
また、本発明に係るインク吐出装置は、上記最初の第2方向吐出標的が上記最後の第1方向吐出標的よりも主走査方向の第1方向側に位置しているときは、上記最初の第2方向吐出標的の位置に基づいて、上記インク吐出手段は上記第1方向から上記第2方向に反転することが好ましい。
【0019】
また、本発明に係るインク吐出装置は、上記最後の第1方向吐出標的が上記最初の第2方向吐出標的よりも主走査方向の第1方向側に位置しているときは、上記最後の第1方向吐出標的の位置に基づいて、上記インク吐出手段は上記第1方向から上記第2方向に反転することが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、主走査方向においてインク吐出手段が反転する際、主走査方向における移動時間を短縮することができるため、インク吐出手段が反転する時間をさらに短縮することができる。
【0021】
また、上記インク吐出手段は、上記主走査方向に沿った加減速特性に基づいて決定された反転位置において上記第1方向から上記第2方向へ反転することが好ましい。
【0022】
これにより、インク吐出手段は主走査方向に一定速度で移動した状態で最初の第2方向吐出標的に移動することができ、最初の負方向吐出標的に対して、より正確にインクが吐出されることとができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のインク吐出装置は、以上のように、上記インク吐出手段が上記第1方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段が上記第2方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記複数個の第1方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最後に走査する最後の第1方向吐出標的から、上記複数個の第2方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最初に走査する最初の第2方向吐出標的に上記インク吐出手段が移動する際の副走査方向移動時間は、主走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的から上記最初の第2方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の第2方向吐出標的へ向かう副走査方向への移動を開始するものである。
【0024】
それゆえ、吐出ヘッドが主走査方向に反転して移動する際における移動時間を短縮することができ、インク吐出標的グループにインクを正確に吐出することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の一実施形態について図1〜図8に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
本実施の形態に係るインク吐出装置は、インク吐出手段を備えるインク吐出装置であって、上記インク吐出手段は、媒体上に点在するインク吐出標的グループにインクを吐出すべく、主走査方向および副走査方向に沿って、上記媒体に対して相対的に移動可能となっており、主走査方向に沿って、一定速度で移動する構成であり、上記インク吐出標的グループは、上記インク吐出手段による主走査方向の第1方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第1方向吐出標的と、主走査方向の第1方向に対して反対方向である、主走査方向の第2の方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第2方向吐出標的とを含んでおり、上記インク吐出手段が上記第1方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段が上記第2方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記複数個の第1方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最後に走査する最後の第1方向吐出標的から、上記複数個の第2方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最初に走査する最初の第2方向吐出標的に上記インク吐出手段が移動する際の副走査方向移動時間は、主走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的から上記最初の第2方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の第2方向吐出標的へ向かう副走査方向への移動を開始するものである。以下、上記インク吐出装置について説明する。
【0027】
上記主走査方向の第1方向とは、インク吐出手段が移動する主走査方向の一方を示し、さらに上記主走査方向の第1の方向と上記主走査走方向の第2方向とは、反対方向の関係であればよい。本実施の形態においては、便宜上、上記第1方向を正方向、上記第2方向を負方向として説明するが、上記第1方向を負方向、上記第2方向を正方向としてもよい。
【0028】
なお、主走査方向をY座標軸方向、副走査方向をX座標軸方向として説明する。また、本発明の一実施形態として、基板上に点在したCFパネルの修正画素部分をインクジェットによって吐出穴埋めを行うCF欠陥画素の修復を例として説明する。そのため、使用するインクとしては赤色(R)、緑色(G)および青色(B)の3色のインクとし、修正箇所は画素1に相当する略矩形領域とする。なお、パネル基板の配置によって、インク吐出装置が走査する方向との関係で、前記粗矩形領域は図1(a)および図1(b)で示すように縦長および横長の場合が存在し、本発明は何れの場合にも対応できるものである。なお、図1(a)および図1(b)において、インク吐出装置が走査する方向は、矢印3にて示す。
【0029】
まず、本実施の形態に係るインク吐出装置の各構成について、図2を用いて説明する。本実施の形態のインク吐出装置は、情報入力部10、処理部11、インク吐出制御部15およびインク吐出部16を有している。さらに、上記処理部11は、データ入力部12、判定部13および順番決定部14を有している。
【0030】
本発明のインク吐出装置では、上記インク吐出部16は、媒体(図示されず)に対して相対的に移動可能である。言い換えれば、本発明のインク吐出装置では、(1)公知の固定部材によって固定された媒体に対して、公知の移動部材によってインク吐出部16が移動可能となっている構成であってもよい。あるいは、(2)公知の固定部材によって固定されたインク吐出部16に対して、公知の移動部材によって媒体が移動可能になっている構成であってもよい。さらには、(3)公知の移動部材によって、インク吐出部16および媒体の双方が移動可能になっている構成の何れであってもよい。なお、固定部材や移動部材の具体的構成は特に限定されるものではなく、本発明の技術分野において公知の構成を適宜採用することができる。
【0031】
媒体に対するインク吐出部16の相対的な移動は、インク吐出制御部15によって制御される。例えば、上記(1)の構成であれば、移動部材によるインク吐出部16の移動が制御され、上記(2)の構成であれば、移動部材による媒体の移動が制御され、上記(3)の構成であれば、移動部材によるインク吐出部16および媒体の双方の移動が制御される。なお、具体的な移動の制御と、媒体に対するインク吐出部16の位置を決定する制御とについては、上記(1)の構成を挙げて後述する。
【0032】
本実施の形態のインク吐出装置では、情報入力部10からインク吐出対象に関する情報などが入力される。上記情報入力部10は、点在する複数のインク吐出対象に関する情報などを、データ入力部12へ入力する。情報としては、媒体上に点在する複数のインク吐出対象へのインクを吐出する順番を決定するための情報であればよく、特に限定するものではない。例えば、インク吐出対象のCFパネル上での位置情報などが挙げられる。また、情報入力部10としては、公知の構成を用いることが可能であり、特に限定するものではないが、例えば、カメラを搭載する画像認識装置などによってインク吐出対象を認識し、その位置情報を得、その情報をデータ入力部12へ入力する構成であってもよい。
【0033】
データ入力部12は、上記情報入力部10からの情報を受信する。受信された情報は、判定部13へ入力される。データ入力部12としては、特に限定するものではなく、公知の構成を適宜使用することができるものとする。
【0034】
判定部13は、データ入力部12から入力される情報に基づいて、インクを吐出するインク吐出標的グループを決定する。上記インク吐出標的グループとは、以下に示す複数の正方向吐出標的および複数の負方向吐出標的を含む。
【0035】
まず、主走査方向の一方の方向において、最初にインクを吐出するインク吐出対象を決定し、それを始点とする。この主走査方向の一方を、主走査方向の正方向とする。上記始点の選択方法としては特に限定するものではない。例えば、媒体上に点在する複数のインク吐出対象の中で、Y座標値が1番大きなものを選択してもよいし、1番小さなものを選択してもよい。あるいは、インク吐出部16から1番近い位置に存在するインク吐出対象を始点として選択することも可能である。
【0036】
また、判定部13は、データ入力部12から入力される情報に基づいて、インク吐出標的グループに含まれる正方向吐出標的および負方向吐出標的を決定する。例えば、任意のインク吐出対象を、第1のインク吐出標的とする場合、上記インク吐出部16が上記第1のインク吐出標的から他のインク吐出対象へ移動する場合における主走査方向移動時間(以下適宜「Yt」と称する)と副走査方向移動時間(以下適宜「Xt」と称する)とを計算し、上記XtがYt以下となるインク吐出対象を次順のインク吐出標的候補として判定する。
【0037】
また、上記判定部13は、データ入力部12から入力される情報に基づいて、任意のインク吐出対象を、第1のインク吐出標的とする場合、上記第1のインク吐出標的から近い位置に存在するインク吐出対象から順に、上記インク吐出部16が上記第1のインク吐出標的から他のインク吐出対象へ移動する場合におけるYtとXtとを計算し、上記XtがYt以下となるか否かを判定し、かつXt≦Ytの条件を満たすインク吐出対象を、次順のインク吐出標的として決定する。主走査方向の正方向への順に決定された上記次順のインク吐出標的を正方向吐出標的とする。
【0038】
順番決定部14は、上記次順のインク吐出標的候補の中から、上記第1のインク吐出標的から最も短い時間で到達できるインク吐出対象を次順のインク吐出標的として決定する。なお、上記順番決定部14は、上記判定部13が、上記第1のインク吐出標的から近い位置に存在するインク吐出対象から順に判定を行う場合には、一番はじめに次順のインク吐出標的候補として判定されたものを、次順のインク吐出標的候補として決定する。したがって、この場合には、上記順番決定部14は、省略されることも可能である。
【0039】
次に、上記正方向吐出標的のうち上記インク吐出部16が最後に走査する最後の正方向吐出手段から近い位置に存在するインク吐出対象から順に、上記インク吐出部16が上記第1のインク吐出標的から他のインク吐出対象へ移動する場合におけるYtとXtとを計算し、上記XtがYt以上となるか否かを判定し、かつXt≧Ytの条件を満たすインク吐出対象を、最初の負方向吐出標的候補として判定する。そして、上記最初の負方向吐出標的候補のうち、最後の正方向インク吐出標的から最も近くに位置する最初の負方向吐出標的候補を最初の負方向吐出標的として決定する。
【0040】
さらに、主走査方向を正方向の逆方向である負方向とし、始点を最初の負方向吐出標的とする。そして、正方向吐出標的を決定した手順と同様に、次順の負方向吐出標的を決定し、複数の負方向吐出標的を決定する。これによって、複数の正方向吐出標的および複数の負方向吐出標的が決定され、インク吐出標的グループが決定される。また、インク吐出対象が存在している場合、再度、最後の正方向吐出標的および最初の負方向吐出標的が決定される。
【0041】
インク吐出制御部15は、インクを吐出する順番にしたがって、インク吐出部16をインク吐出対象に対して移動させることや、インク吐出部16をインク吐出対象に対向した状態で、主走査方向または副走査方向に傾けることが可能である。インク吐出部16を傾けた場合については後述する。また、インク吐出制御部15は、インク吐出部16を移動させることもできるし、インク吐出対象を含む基板を移動させることも可能であり、特に限定されるものではない。
【0042】
インク吐出部16が最後の正方向吐出標的から最初の負方向吐出標的へ移動を開始する際、インク吐出制御部15は、インク吐出部16を副走査方向に移動を開始させる。これによって、インク吐出部16が主走査方向に反転する際副走査方向への移動を伴うため、従来の主走査方向への移動終了後に副走査方向への移動を行っていた移動手順に比して、インク吐出部16が反転する際における時間を短縮することができる。
【0043】
インク吐出部16が反転する際には、最後の正方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置と、上記最初の負方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置とに基づいて反転を行うことが好ましい。
【0044】
具体的には、上記最初の負方向吐出標的が上記最後の正方向吐出標的よりも主走査方向の正方向側に位置しているときは、上記最初の負方向吐出標的の位置に基づいて、インク吐出部16を上記正方向から上記負方向に反転する。すなわち、上記最初の負方向吐出標的からインク吐出部16を反転させる。または、上記最後の正方向吐出標的が上記最初の負方向吐出標的よりも主走査方向の正方向側に位置しているときは、上記最後の正方向吐出標的の位置に基づいて、上記インク吐出部16を上記正方向から上記負方向に反転させることが好ましい。すなわち、上記最後の正方向吐出標的からインク吐出部16を反転させる。これにより、インク吐出部16が反転する時間をさらに短縮することができる。
【0045】
また、インク吐出部16は、上記主走査方向に沿った加減速特性に基づいて決定された反転位置において上記正方向から上記負方向へ反転することが好ましい。すなわち、インク吐出部16は加速または減速を行いながら移動する。このインク吐出部16が加速または減速する際の加減速特性に基づいて決定された反転位置において主走査方向の反転(正方向から負方向または負方向から正方向)を行うことによって、さらに短時間で反転を行うことができる。具体的には図7を用いて後述する。
【0046】
また、インク吐出制御部15は、インク吐出部16をプレ揺動させることもできる。プレ揺動とは、インクが吐出される前段において、インク吐出部16におけるインクを攪拌することを示す。これにより、インクの溶媒が揮発することによってインクの粘度が部分的に変化することを抑制することができる。その結果、インクの吐出状態の変化を小さくすることができる。
【0047】
インク吐出部16は、インクをインク吐出対象に対して吐出する。上記インク吐出部16としては、特に限定するものではなく、適宜、公知の構成を用いることが可能である。インク吐出部16から吐出されるインクの吐出量は、インク吐出標的の面積、吐出したインクで形成する膜の厚さ、インク物性および残膜率などに基づいて、以下の式8に基づき算出することが好ましい。
【0048】
インク吐出量 = インク吐出対象面積×膜厚/残膜率 ……… (式8)
また、インク吐出対象に割り当てられた各ノズルから吐出する液滴数は、以下に示す式9に基づき、各ノズルから吐出する1滴当りの吐出液滴体積を用いて算出することが好ましい。上記算出した液滴数は、各吐出対象ノズルに割り当てられるものとする。各ノズルへの液滴数の割り当ては均等に割りあてる方法や、走査方向などを考慮して各ノズルへの割り当て数を変化させる場合など、インク吐出対象の下地に対する濡れ性の状態や、走査方向に対するヘッドの取り付けられたノズル列の方向などに基づき制御される。
【0049】
液滴数 = インク吐出量/液滴体積 ……… (式9)
インク吐出制御部15によって、インク吐出部16を、インク吐出対象に対向した状態で、主走査方向または副走査方向に傾けた場合、副走査方向における各ノズル間の距離を小さくすることが可能となる。その結果、同一のインク吐出対象に対して、より多くの複数のノズルを用いてインクを吐出することができる。副走査方向における各ノズル間の距離は、インク吐出部16の傾き角度によって決定することができる。なお、インク吐出部16の傾き角度は、特に限定するものではなく、選択可能である。例えば、上記傾き角度は、インク吐出対象の大きさ、特にX座標軸方向の長さとインク液滴の大きさとに応じて設定することができる。
【0050】
例えば、図3に示すように、本実施の形態のインク吐出装置およびインク吐出制御方法は、インク吐出部16を、インク吐出対象に対向した状態で、主走査方向または副走査方向に傾けることが可能である。以下に、インク吐出部16を、主走査方向または副走査方向に傾ける前後のノズルの配置について説明する。なお、図3では、吐出ヘッド20が、インク吐出部16に相当する。
【0051】
図3(a)に示すように、吐出ヘッド20は、ノズル21・22・23を有し、基板4に対向して配置されている。なお、吐出ヘッド20は、矢印3に示される方向に移動しながらインクを吐出するものとする。また、基板4は、複数の画素1を有している。上記画素1のなかで、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)のインクを吐出される画素は、それぞれ画素5・6・7によって示されている。吐出ヘッド20は、赤色(R)、緑色(G)および青色(B)のインクを吐出するために、それぞれ複数のノズル21・22・23を有している。上記ノズルのなかで、画素5・6・7に対してインクを吐出するノズルは、黒丸にて示されている。つまり、図3(a)に示すように、画素5・6・7は、それぞれ1個のノズル21・22・23によって、インクが吐出される。
【0052】
また、図3(b)に示すように、吐出ヘッド20は、基板4に対向した状態で、主走査方向または副走査方向に傾けることが可能である。図3(b)に示すように、吐出ヘッド20を傾けることによって、画素5・6・7に対しそれぞれ2個のノズル21・22・23によって、インクを吐出させることが可能となる。基板4に対しインクの濡れ性が悪い場合であっても、インク吐出対象内のより広い領域に対してインクを吐出することによって、インク吐出標的にインクを充填することができる。
【0053】
上記のように吐出ヘッド20を傾け、例えば吐出ヘッド20の傾きを80度に固定している場合は、隣接するインク滴の間隔は一定であるため、吐出させる液滴数を各ノズル単位で調整し、欠陥画素を穴埋めさせるためのインク滴量を決定する。なお、150dpi相当のノズル間隔を有すインク吐出装置の吐出ヘッド20を約80度傾けることで、副走査方向におけるノズル間の距離は約30μmとなる。画素幅を100μmとすると、少なくとも2個のノズルからインクを吐出することにより、同一画素内を印字することができる。この2個のノズルから吐出される液滴数を制御して欠陥画素を生めるために必要な液滴総量を確保することも可能である。
【0054】
例えば、図1(b)に示すように矢印方向3に垂直方向の画素1の幅が広く、その幅が300μmである場合、9個のノズルが画素1の幅内に収まることとなる。この場合、9個のノズルの内、例えば1個のノズルの状態が不良状態となった場合でも残り8個のノズルを用いて所望の液滴量のインクを吐出することが可能となる。
【0055】
また、図4に示すように、本実施の形態のインク吐出装置を用いれば、欠陥画素を修復する際、例えばRGB画素のうち、画素色抜けなど1色の欠陥画素を修正する場合のほか、ダストなどの異物による画素間の色リークなどによって生じるRGやGB、BRなどの隣接した2個の欠陥画素、またはRGB、GBR、BRGなど隣接した3個の欠陥画素の修正を同時に行うことが可能となる。
【0056】
そのため、各色用のインク吐出装置の吐出ヘッド20を近接させ、少なくとも主走査方向に対して各吐出ヘッド20のノズルがインク吐出標的に位置するようにし、さらに前述のように吐出ヘッド20を傾けることで、仮想的に副走査方向におけるインク吐出間隔を狭くすることができる。また、隣接する欠陥画素を異なる色のインクを用いて修復できるように隣接画素位置に合わせて吐出ヘッド20のノズル位置を微調整し、複数の異なるインクを用いて同一走査中に欠陥画素を修復することが可能である。
【0057】
例えば、図4に示すように、本実施の形態のインク吐出装置は、隣接する2個の画素を、同一走査中に修復することができる。なお、図4(a)・(b)では、吐出ヘッド20が、インク吐出部16に相当する。この場合、隣接する画素5・6を、それぞれノズル21・22を用いて修復することが可能となる。また、図4(b)に示すように、本実施の形態のインク吐出装置およびインク吐出制御方法は、隣接する3個の画素を、同一走査中に修復することができる。この場合、吐出ヘッド20を傾けることによって、隣接する画素5・6・7を、それぞれノズル21・22・23を用いて修復することが可能となる。
【0058】
次に、本実施の形態に係るインク吐出装置の動作手順および制御方法について、図5に従って説明する。同図は、本実施の形態に係るインク吐出装置のインク吐出に係るフローチャートであり、step1からstep10までによって構成されている(以下適宜「step」を「S」と称する)。また、図6は、図5におけるS1を構成するS1−1からS1−6までを示すフローチャートである。まず、図6を用いてS1について説明する。
【0059】
(S1の処理について)
S1は本実施の形態における吐出ヘッドによってインクが吐出されるインク吐出対象グループを決定するステップである。S1にはS1−1からS1−6までが含まれる。
【0060】
(S1−1)
まず、情報入力部10は、媒体上に点在する複数のインク吐出対象へインクを吐出する順番を決定するための情報を入手する。先ず基板上に点在した各インク吐出対象について、基板上の各XY座標値、インク吐出対象を矩形とした場合の上記インク吐出対象のX座標軸方向およびY座標軸方向の長さ、並びにインク吐出部16がX座標軸方向およびY座標軸方向に移動する速度などを入力情報とする。さらに、インク吐出対象にインクを吐出する際、Y座標軸方向に移動する長さ(上記インク吐出対象のY座標軸方向の長さ)に加え、インク吐出部16がインク吐出位置のX座標値に到達したときに停止に要する時間や、その停止に要する時間でY座標軸方向に移動する距離や、X座標軸方向に向かって移動する際の加減速も加味することが好ましい。
【0061】
インク吐出順番が未決定であるインク吐出対象の集合を集合R1とし、その要素をP(i),i=1〜n(nはインク吐出対象箇所数)で示す。また、吐出ヘッド20(インク吐出部16)が、Y座標軸方向の一方向に向かって移動する間にインク吐出可能な対象としてインク吐出順を決定したインク吐出対象の集合を集合R2とし、その要素をPP(j)(k),j=1〜s、k=1〜mで示す。なお、吐出ヘッド20が、Y座標軸の一方向に向かって移動を開始し、次に移動方向を変えるまでの移動を「1回の主走査方向への移動」と規定した場合、上記jは、PP(j)(k)にインクが吐出されるときの、吐出ヘッド20の移動回数を示し、sは、全移動回数を表す。また、kは、jによって規定される移動中にインクが吐出されるインク吐出対象のインク吐出順を示し、mは、jによって規定される移動中にインクが吐出されるインク吐出対象の個数を示す。なお、jとkとの初期値を、それぞれ1とする。
【0062】
(S1−2の処理について)
次いで、判定部13によって、入力された情報に基づいて始点を決定する(S1−2)。S1−2では主走査方向の一方における正方向インク吐出標的または負方向インク吐出標的が決定される。始点の決定方法としては、例えば、各インク吐出対象の基板上でのY座標値に基づいて、各インク吐出対象を並び替える。このとき、例えば、Y座標値の大きな順または小さな順でデータを並べ替えることが可能である。このとき、Y座標軸のマイナス方向を主走査方向とする場合はY座標値を大きなものから順に並べ、Y座標軸のプラス方向を主走査方向とする場合はY座標を小さいものから順に並べるものとする。また、各インク吐出対象を並び替える方法として、インク吐出部16から直線距離として近いものから順に、並べ替えることも可能である。なお、インク吐出対象を並べ替える基準には様々な基準があり、特に限定するものではない。
【0063】
並べ替えたインク吐出対象全体を含む集合を集合R1とすると、各インク吐出対象は、集合R1の要素としてP(i),i=1〜n(nはインク吐出対象箇所数)として並び替えられる。そして、この集合R1の中から、最初の要素P(1)を選択して取り出し、集合R1から取り除き、新たに集合R2に入れる。このとき、集合R1の要素は、P(i)、i=2〜nとなり、集合R2の要素は、PP(j)(k)=P(1)となる。そして、このPP(j)(k)を始点とする。
【0064】
(S1−3の処理について)
次いで、判定部13によって、インク吐出標的候補の選択を行う。具体的には、インク吐出部16が、PP(j)(k)から、集合R1の要素である各インク吐出対象、つまりP(i)、i=2〜nに向かって移動して到達するために要する、X座標軸方向およびY座標軸方向への移動時間を算出する。そして、X座標軸方向への移動時間がY座標軸方向への移動時間以下となる集合R1中の要素を、インク吐出標的候補として判断する。
【0065】
なお、このとき、集合R1の要素である各インク吐出対象が判定される順番は、特に限定するものではない。判定する順番として、上記始点から近いものから順に判定してもよい。この場合、全てのインク吐出対象についてXt≦Ytの条件を満たすか否かを判定する必要がなく、最初にXt≦Ytの条件を満たすものが、次順のインク吐出標的として決定される。
【0066】
以下に、PP(j)(k)から、集合R1の各要素に向かって移動して到達するために要する、X座標軸方向およびY座標軸方向への移動時間の算出方法を示す。
【0067】
まず、Y座標軸方向への移動時間の算出方法について示す。ここで、Y座標軸方向への移動時間をYt(秒)、Y座標軸方向への移動距離をY(mm)、Y座標軸方向への等速移動速度をa(mm/秒)とすると、Ytは、以下の(式1)によって示される。
Yt=Y/a (式1)
次に、X座標軸方向への移動時間の算出方法について示す。X座標軸方向への移動は、加速、等速移動、減速、および停止の4種類の過程を含む。X座標軸方向への移動時間をXtとすると、Xtは、加速、等速移動、減速、および停止の4種類の過程に要する時間の和である。そこで以下に、それぞれの過程に要する時間を示す。なお、ここで停止とは減速が終了したインク吐出部16が、X座標軸方向に対して静止する過程である。
【0068】
まず、加速、減速および停止に要する時間をそれぞれd、dおよびc(秒)とし、加速および減速時にX座標軸方向へ移動する距離をともにX(mm)とする。このときX座標軸方向への移動距離をXとすると、等速移動する距離Xは(式2)によって示される。
=X−2×X (式2)
このとき、等速移動を行うときの速度をb(mm/秒)とすると、等速移動を行う時間dは(式3)によって示される。
=(X−2×X)/b (式3)
ここでXtは、加速、等速移動、減速、および停止の4種類の過程に要する時間の和であり、(式4)によって示される。
Xt=d+d+d+c=(X−2×X)/b+(d+d)+c (式4)
したがって、(式1)および(式2)によって示されるYtおよびXtが、(式5)の条件を満たすものが、インク吐出標的候補として選択される。
Xt≦Yt (式5)
なお、X座標軸方向に対する速度が等速度b(mm/秒)に到達するまでの時間dは、X座標軸方向への加速度をK(mm/秒)とすると(式6)によって示される。
=b/K (式6)
同様に、減速に要する時間dは、X座標軸方向への減速度をK(mm/秒)とすると(式7)によって示される。
=b/K (式7)
また、停止に要する時間cは、実際に本発明のインク吐出装置を動作させ、その値を実験的に測定することによって求めることが可能である。
【0069】
なお、X座標軸方向への移動時間およびY座標軸方向への移動時間は、上記変数を用い、(式1)〜(式7)によって算出したが、その算出方法は、限定されるものではない。例えば、他の変数をも考慮し、X座標軸方向への移動時間およびY座標軸方向への移動時間を算出することも可能である。あるいは、上記d、d2、およびcのうち、その値が非常に小さいものに関しては、省略することも可能である。
【0070】
(S1−4の処理について)
次いで、順番決定部14が、上記インク吐出標的候補の中から、上記始点から最も短い時間で到達できるインク吐出対象を次順の始点として決定する。なお、S1−3において、上記始点から近いインク吐出対象から順に判定した場合、最初にXt≦Ytの条件を満たすものが、次順のインク吐出標的として決定される。この場合には、上記判定部13が、次順のインク吐出標的を決定することも可能である。このようにして、インク吐出標的である正方向吐出標的または負方向吐出標的が決定される。
【0071】
(S1−5の処理について)
S1−4において、選択できる要素が集合R1に存在する場合は、その選択されたインク吐出対象の要素P(j),(2≦j≦n)を集合R1から取り除き、集合R2に追加する(PP(j)(k),(k=k+1))。そして、その要素を新たな始点とし、S1−3の処理に進む。
【0072】
S1−4において、選択できる要素が集合R1に存在しない場合は、1回の主走査方向への移動中にインクを吐出することが可能なインク吐出対象が無くなったことになり、S1−6の処理に進む。
【0073】
(S1−6の処理について)
全てのインク吐出対象が集合R2の要素として選択された場合、全ての点在するインク吐出対象の処理順が決定したことになり、S1は終了する。一方、全てのインク吐出対象が集合R2の要素として選択されていない場合、S1−2に戻る。
【0074】
S1−2に戻り、新たな始点を決定する場合、S1−4で最後に決定された最後の正方向吐出標的から近い位置に存在するインク吐出対象から順に、上記インク吐出部16が上記第1のインク吐出標的から他のインク吐出対象へ移動する場合におけるYtとXtとを計算し、上記XtがYt以上となるか否かを判定し、かつXt≧Ytの条件を満たすインク吐出対象を、最初の負方向吐出標的として決定する。上記最初の負方向吐出標的がXt≧Ytの条件を満たすことによって、媒体上に広く点在する正方向吐出標的および負方向吐出標的に、インク吐出部16が移動することができる。
【0075】
そして、上記最初の負方向吐出標的を新たな始点として決定し、吐出ヘッド20が、主走査方向に対して前回とは逆向きに移動しながらインクを吐出することのできるインク吐出対象を選択する。また、主走査方向に対して前回とは逆向きに移動を開始する反転位置をも決定する。その際、吐出ヘッド20の主走査方向への移動回数を示すjの値を加算し、j=j+1とする。また、インク吐出順番を示すkを初期値に戻し、k=1とする。以上のように、上記S1−2からS1−6までの処理を、順番決定部14が行う。順番決定部14は、全ての点在するインク吐出対象にインクを順次吐出する際に、処理時間を最小化するように、点在するインク吐出対象へのインク吐出順番を決定する。これによりS1は終了する。
【0076】
(S2の処理について)
媒体上の点在した複数の正方向吐出対象または負方向吐出対象にヘッドを移動させるため、インク吐出装置の主走査方向での往復動作となるスキャン動作を開始する。スキャン動作開始前において、インク吐出部16は、キャップに収容されている。上記スキャン動作を開始する前に、インク吐出部16は、ヘッドのキャッピング位置から最初に吐出対象となるインク吐出標的へ移動すべく副走査方向への移動を開始する。
【0077】
(S3の処理について)
S3では、判定部13によって、1回の主走査方向への移動中におけるインク吐出標的が存在するか否かを判定する。インク吐出標的が存在する場合は、媒体上のインク吐出標的にインクを吐出するため、S1で決定されたインク吐出順番に基づき、インク吐出標的にインク吐出部16を移動させ、その後、S4の処理に進む。また、媒体上に、1回の主走査方向への移動中におけるインク吐出標的が存在しない場合はS7に進む。
【0078】
(S4の処理について)
S4では、吐出ヘッドをインク吐出標的に移動させる。インク吐出部16は、主走査方向に一定速度で移動しており、副走査方向には移動を開始する際において移動を開始する。
【0079】
(S5の処理について)
S5は、インク吐出対象へ移動中の吐出ヘッドを、プレ揺動手段を用いてプレ揺動させるステップである。プレ揺動を行うことによって、吐出ヘッド内部において特に、インク吐出孔付近のインク増粘を改善し、インクを安定に吐出させることができる。本ステップはインク増粘の改善のために行われることが好ましいが、必ずしも行われる必要はなく省略することも可能である。
【0080】
(S6の処理について)
S6ではインク吐出制御部15およびインク吐出部16は、S1によって決定した集合R2に含まれる要素の順番にしたがって、主走査方向への移動回数に応じてインク吐出対象にインクを吐出する。その結果、後述する図7に示すように複数のインク吐出対象が基板上に点在する場合、同図の矢印で示す順番にしたがってインクを吐出する。
【0081】
(S7の処理について)
ステップS2により、1回の主走査方向への移動で対象となる全てのインク吐出対象に対して、インク吐出が完了し、その結果全ての主走査方向への移動が完了したかどうかを判定部13によって判断する。次の1回の主走査方向への移動でインク吐出する対象となるインク吐出対象が残っている場合はステップ8に移行し、媒体上の全てのインク吐出対象へのインク吐出が完了した場合はステップ10に移行する。
【0082】
(S8の処理について)
各1回の主走査方向への移動における最後にインクを吐出したインク吐出標的に対するインク吐出が完了した後、好ましくは直後に、走査方向を反転して行う次の各1回の主走査方向への移動における最初のインク吐出標的の副走査方向での位置への移動を開始する。インク吐出部16が予め副走査方向の移動を行うことで、主走査方向で方向を反転する際にかかる時間を短縮することができる。
【0083】
(S9の処理について)
インク吐出部16を主走査方向における反転位置まで移動する。その際、反転を開始する位置は最終インク吐出対象のインク吐出終了位置と次スキャン走査の最初のインク吐出対象位置とを比較して、インク吐出部16の反転時間が最も短縮される位置が選ばれることが好ましい。
【0084】
(S10の処理について)
全ての主走査方向におけるインク吐出部16の移動が完了し、全てのインク吐出標的グループへのインク吐出が完了後、インク吐出部16をキャップ位置に移動させる。インク吐出部16にキャップすることによって吐出ヘッドの、特にインク吐出孔付近のインク像粘を防ぐことができる。
【0085】
図7に、本実施の形態のインク吐出装置およびインク吐出制御方法によるインクの吐出順路を示す。基板4上には、点在した複数の画素印字対象部である正方向吐出標的2a・負方向吐出標的2b・正方向吐出標的2cが存在する。また、基板4上には、最後の正方向吐出標的2a−2、最初の負方向吐出標的2b−1、最後の負方向吐出標的2b−2、最初の正方向吐出標的2c−1が存在する。
【0086】
インク吐出部は、同図中、矢印によって示される経路を通りながら、S1にて決定されたインク吐出標的グループに対しインクを吐出する。同図中、Y軸方向のマイナス方向を主走査方向の正方向、Y軸方向のプラス方向を主走査方向の負方向とする。同図中において、便宜上、上記のように主走査方向の正方向および主走査方向の負方向を設定したが、Y軸方向のマイナス方向を主走査方向の負方向、Y軸方向のプラス方向を主走査方向の正方向に設定してもよい。また、インク吐出部は移動開始後、主走査方向の一方である正方向に移動しながら副走査方向への移動を開始する。
【0087】
インク吐出部が、正方向標的2aの副走査方向に移動した時点で、副走査方向の移動を停止し、主走査方向における正方向へ一定速度で移動しながら、正方向吐出標的2aにインクを吐出する。つまり、速度変化の無い状態でインクを吐出する。したがって、正方向吐出標的に対して、加速および減速が少ない状態でインクを吐出できるので、精度良くインクをインク吐出標的グループに吐出することができる。また、インク吐出部は、主走査方向に対して、移動速度の増減が少ないことから、インク吐出手段に加わる負荷を軽減することが可能となる。
【0088】
インク吐出後、インク吐出部は、次にインクが吐出される正方向吐出標的2aに移動すべく、副走査方向への移動を開始する。その後、上述した動作を繰り返し、2箇所の正方向吐出標的2aにインクが吐出され、インク吐出部は最後の正方向吐出標的2a−2にインクを吐出する。
【0089】
最後の正方向吐出標的2a−2にインクを吐出した後に、上記インク吐出部は、最後の正方向吐出標的2a−2から最初の負方向吐出標的2b−1への移動を開始する際、最初の負方向吐出標的2b−1へ向かう副走査方向への移動を位置P1から開始する。すなわち、同図に示すように、本実施の形態に係るインク吐出部は、最後の正方向吐出標的2a−2にインクを吐出した後に、位置P1から、主走査方向の正方向のみへ移動するのではなく、最初の負方向吐出標的2b−1へ向かう副走査方向へ移動を開始している。このため、インク吐出部が主走査方向において短い時間で反転することができる。上記主走査方向において短い時間で反転するとは、換言すれば、最後の正方向吐出標的2a−2から最初の負方向吐出標的2b−1へ短い時間で反転することを表す。
【0090】
最後の正方向吐出標的2a−2から最初の負方向吐出標的2b−1へ向かうインク吐出部は、副走査方向への移動におけるXtはYt以上であるため、まず、反転位置P2に基づき、インク吐出部の主走査方向の正方向への移動が位置P3において停止する。その後、インク吐出部は、副走査方向であるX軸のプラス方向のみへ移動し、反転位置P2に到達し、副走査方向への移動が停止する。そして、インク吐出部は、主走査方向の負方向へ移動を開始し、最初の負方向吐出標的2b−1に到達する。
【0091】
同図において、上記インク吐出部の反転位置P2は、好ましい反転位置として、上記主走査方向に沿った加減速特性に基づいて決定されている。すなわち、反転位置P2は、最初の負方向吐出標的P2の直前ではなく、負方向吐出標的P2から主走査方向の正方向側に位置している。負方向吐出標的2b−1から反転位置P3までの距離は、上記主走査方向に沿った加減速特性に基づいて決定されている。換言すれば、インク吐出部が停止した状態から主走査方向への移動を開始し一定速度に達するまでの距離に基づいて決定される。このように、上記反転位置P2が決定されていることによって、インク吐出部が主走査方向に一定速度で移動した状態でインクが吐出されることとなるため、最初の負方向吐出標的2b−1に対してより正確にインクが吐出されることができる。
【0092】
図8は、本実施の形態に係るインク吐出部の動作、インク吐出部の副走査方向および主走査方向への移動時間を示す模式図である。なお、プレ揺動を含む場合のインク吐出部の動作を示している。同図において、横軸は時間の流れを示す。
【0093】
時刻t0〜時刻t1では、予め、正方向吐出標的2aの副走査方向への移動を行っている。次に、時刻t1の時点で主走査方向の正方向へ、インク吐出部の移動を開始する。インク吐出部は、上記正方向へ一定速度で移動する。
【0094】
時刻t2〜時刻t3では、正方向吐出標的2aへ到着する前に、プレ揺動を行う。プレ揺動は、インク吐出制御部において制御される。プレ揺動を行うことによって、インク吐出部に収容されているインクを攪拌し、インク全体の粘度を均一にする。上記プレ揺動は、インク吐出部が移動中に行われる。
【0095】
時刻t3の時点で、インク吐出部が正方向吐出標的2aに到着する。その後、インク吐出部によってインクの吐出が行われる。プレ揺動が事前に行われているため、インク吐出状態の変化を小さくすることができる。時刻t4の時点でインクの吐出が終了した後に、インク吐出部は、次に移動する最後の正方向吐出標的2a−2への副走査方向の移動を開始する。時刻t5の時点で、インク吐出部は、副走査方向への移動を伴いながら、プレ揺動を開始している。このように、プレ揺動は副走査方向の移動を伴いながら行われてもよい。プレ揺動は時刻t6の時点まで継続される。
【0096】
さらに、時刻t6〜時刻t7において、インク吐出部から最後の正方向吐出標的2a−2に対しインクが吐出される。時刻t7の時点でインク吐出が終了した後に、上記インク吐出部は、最後の正方向吐出標的2a−2から最初の負方向吐出標的2b−1への移動を開始する際、最初の負方向吐出標的2b−1へ向かう副走査方向への移動を開始する。
【0097】
時刻t7〜時刻t8において、インク吐出部は主走査方向および副走査方向へ移動するため、反転位置に到着する時点である時刻t9までの主走査方向において反転する時間を短縮することができる。すなわち、時刻t7〜時刻t8の時間を短縮することが可能となる。その後時刻t9の時点において、インク吐出部は主走査方向を負方向へと反転する。なお、同図中の中央部の破線で囲まれた副走査移動を示すグラフは、1回の主走査方向への移動間における、インク吐出部の移動時間を示している。その後、時刻t10〜時刻t16において時刻t2から時刻t8における動作と同様に、主走査方向の負方向において、最初の負方向吐出標的2b−1および最後の負方向吐出標的2b−2にインクが吐出され、その後インク吐出部は主走査方向への反転を行う。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明に係るインク吐出装置は、インク吐出手段が主走査方向において反転する際に、短い時間で反転することができ、また、インク吐出標的グループにインクを正確に吐出することができる。そのため、本発明は、プリンタや液晶用のCFパネル生産装置に代表される各種インク吐出装置やその部品を製造する分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】上記インク吐出装置およびインク吐出制御方法における、(a)縦長インク吐出対象および(b)横長インク吐出対象へのインク吐出処理を示す模式図である。
【図2】上記インク吐出装置における各構成を示すブロック図である。
【図3】上記インク吐出装置における、(a)吐出ヘッドを傾かせない場合のノズルの位置、および(b)吐出ヘッドを傾かせた場合のノズルの位置を示す模式図である。
【図4】上記インク吐出装置における、(a)隣接2画素、および(b)隣接3画素を同時に修復する場合のノズルの位置を示す模式図である。
【図5】本実施の形態に係るインク吐出装置のインク吐出に係るフローチャートである。
【図6】本実施の形態に係るstep1の詳細なフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態を示すものであり、インク吐出装置およびインク吐出制御方法における、インク吐出対象にインクを吐出する順序を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係るインク吐出部の動作、インク吐出部の副走査方向および主走査方向への移動時間を示す模式図である
【図9】従来の主走査方向および副走査方向に交互に走査する方法によって行われる欠陥箇所の修正処理の順序を示す模式図である。
【図10】従来のXYプロッタ法によって行われる欠陥箇所の修正処理の順序を示す模式図である。
【図11】従来の主走査方向および副走査方向に交互に走査する方法によって行われる欠陥箇所の修正処理の順序を示す模式図である。
【符号の説明】
【0100】
1 画素
2a・2c 画素印字対象部(正方向吐出標的、第1方向吐出標的)
2a−2 最後の正方向吐出標的(最後の第1方向吐出標的)
2b 画素印字対象部(負方向吐出標的、第2方向吐出標的)
2b−1 最初の負方向吐出標的(最初の第2方向吐出標的)
2b−2 最後の負方向吐出標的(最後の第2方向吐出標的)
2c−1 最初の正方向吐出標的
4 基板
10 情報入力部
11 処理部
12 データ入力部
16 インク吐出部(インク吐出手段)
20 吐出ヘッド(インク吐出手段)
P2 反転位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク吐出手段を備えるインク吐出装置であって、
上記インク吐出手段は、媒体上に点在するインク吐出標的グループにインクを吐出すべく、主走査方向および副走査方向に沿って、上記媒体に対して相対的に移動可能となっており、主走査方向に沿って、一定速度で移動する構成であり、
上記インク吐出標的グループは、上記インク吐出手段による主走査方向の第1方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第1方向吐出標的と、主走査方向の第1方向に対して反対方向である、主走査方向の第2の方向に向う同一の走査によってインクを吐出される複数個の第2方向吐出標的とを含んでおり、
上記インク吐出手段が上記第1方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、上記インク吐出手段が上記第2方向吐出標的間を移動する際の主走査方向移動時間は、副走査方向移動時間よりも長く、
上記複数個の第1方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最後に走査する最後の第1方向吐出標的から、上記複数個の第2方向吐出標的のうち上記インク吐出手段が最初に走査する最初の第2方向吐出標的に上記インク吐出手段が移動する際の副走査方向移動時間は、主走査方向移動時間よりも長く、
上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的から上記最初の第2方向吐出標的への移動を開始する際、上記最初の第2方向吐出標的へ向かう副走査方向への移動を開始することを特徴とするインク吐出装置。
【請求項2】
上記インク吐出手段は、上記最後の第1方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置と、上記最初の第2方向吐出標的の上記主走査方向に沿った位置とに基づいて、上記主走査方向の第1方向から第2方向に反転することを特徴とする請求項1記載のインク吐出装置。
【請求項3】
上記最初の第2方向吐出標的が上記最後の第1方向吐出標的よりも主走査方向の第1方向側に位置しているときは、上記最初の第2方向吐出標的の位置に基づいて、上記インク吐出手段は上記第1方向から上記第2方向に反転することを特徴とする請求項1記載のインク吐出装置。
【請求項4】
上記最後の第1方向吐出標的が上記最初の第2方向吐出標的よりも主走査方向の第1方向側に位置しているときは、上記最後の第1方向吐出標的の位置に基づいて、上記インク吐出手段は上記第1方向から上記第2方向に反転することを特徴とする請求項1記載のインク吐出装置。
【請求項5】
上記インク吐出手段は、上記主走査方向に沿った加減速特性に基づいて決定された反転位置において上記第1方向から上記第2方向へ反転することを特徴とする請求項1記載のインク吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−162020(P2008−162020A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350637(P2006−350637)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】