説明

インジェクタ

【課題】ピエゾインジェクタにおいて、圧電素子の積層体2が伸長しても、ベローズが積層体2の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制する。
【解決手段】積層体2が伸長すると、ベローズ組立体24において、小径ベローズ27が伸長するとともに大径ベローズ26が短縮する。この結果、小径ベローズ27が伸長することで積層体2の伸長に対する抵抗を増しても、大径ベローズ26が軸方向に短縮することで積層体2の伸長に対する抵抗を減ずるので、ベローズ組立体24によれば、単一のベローズに比べて、積層体2の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制することができる。以上により、ピエゾインジェクタにおいてベローズ組立体24を採用することにより、単一のベローズを使用する場合に比べて、積層体2の伸長に対する抵抗を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに燃料を噴射供給するインジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インジェクタでは、圧電素子の積層体に電圧を印加して積層体を軸方向に伸長させることで、弁体を駆動して噴孔を開放するものが公知となっている(以下、圧電素子の積層体に電圧を印加することで開弁するインジェクタを、ピエゾインジェクタと呼ぶことがある。)。
【0003】
ところで、従来のピエゾインジェクタ100では、圧電素子に対する燃料付着回避および電気的絶縁等の観点から、積層体101の外周面に電気絶縁性の接着剤を塗布して環状の接着剤層(図示せず)を設けるとともに接着剤層の外周側を絶縁材料(図示せず)で覆い、さらに絶縁材料の外周側に空洞102を形成するようにSUSカバー103を配している(図4参照)。
【0004】
そして、圧電素子に対する燃料付着回避および電気絶縁性等を確保した上で積層体101の伸長力を他部材に伝達するため、SUSカバー103の一端にベローズ104が接続され、ベローズ104によりSUSカバー103の一端側が封鎖されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、ベローズ104は、軸方向に伸長すると縮径して軸方向に関するばね定数が大きくなる。このため、積層体101が伸長するほど、積層体101の伸長に対するベローズ104の抵抗が大きくなってしまい、積層体101の伸長力が伝達されにくくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−202023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ピエゾインジェクタにおいて、圧電素子の積層体が伸長しても、ベローズが積層体の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載のインジェクタは、圧電素子の積層体に電圧を印加して積層体を軸方向に伸長させることで、弁体を駆動して噴孔を開放するものである。
また、インジェクタは、互いに異径の2つのベローズを同軸的に配するとともに、2つのベローズの間を環状の連結部材により連結してなるベローズ組立体を備える。そして、2つのベローズは、径方向に関して外周側と内周側との間で流体の流出入が遮断されるように連結部材により連結され、積層体は、ベローズ組立体の内周側にベローズ組立体と同軸的に収容されている。
【0009】
さらに、ベローズ組立体の軸方向一端および他端は、それぞれ、積層体の軸方向一端および他端を支持する一端側部材および他端側部材により封鎖されて流体の流出入が遮断されている。
そして、2つのベローズは、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低い。
【0010】
これにより、積層体が軸方向にどのように伸縮しても、ベローズ組立体の内部容積は変わらない。すなわち、2つのベローズは、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低いため、積層体の伸縮に応じて軸方向に伸縮しても径方向の伸縮量が小さい。このため、積層体が伸長してベローズ組立体が軸方向に長くなれば、径小のベローズが軸方向に伸長し、径小のベローズが伸長することにより径小のベローズに囲われた領域の容積が増加する。そして、径小のベローズに囲われた領域の容積増加分は、径大のベローズが軸方向に短縮することで吸収される。
【0011】
つまり、積層体が伸長すると、ベローズ組立体において、径小のベローズが伸長するとともに径大のベローズが短縮する。この結果、径小のベローズが伸長することで積層体の伸長に対する抵抗を増しても、径大のベローズが軸方向に短縮することで積層体の伸長に対する抵抗を減ずるので、ベローズ組立体によれば、単一のベローズに比べて、積層体の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制することができる。
以上により、ピエゾインジェクタにおいて、圧電素子の積層体が伸長しても、ベローズが積層体の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制することができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載のインジェクタによれば、2つのベローズの内周側には、それぞれ環状体が装着されて径方向の剛性が高められている。
これにより、2つのベローズは、さらに径を可変しにくくなるので、積層体の伸長に応じて、径小、径大のベローズは、それぞれ、確実に径を変えることなく、伸長したり短縮したりするようになる。
【0013】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載のインジェクタによれば、連結部材は、所定の支持部材により軸方向に摺動自在に支持されている。
これにより、各ベローズの伸縮動作を軸方向に関して安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】インジェクタの全体構成図である(実施例1)。
【図2】(a)は伸長前のピエゾアクチュエータを示す説明図であり、(b)は伸長後のピエゾアクチュエータを示す説明図である(実施例1)。
【図3】ピエゾアクチュエータを示す説明図である(実施例2)。
【図4】(a)は伸長前のピエゾインジェクタの要部を示す説明図であり、(b)は伸長後のピエゾインジェクタの要部を示す説明図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態1のインジェクタは、圧電素子の積層体に電圧を印加して積層体を軸方向に伸長させることで、弁体を駆動して噴孔を開放するものである。
また、インジェクタは、互いに異径の2つのベローズを同軸的に配するとともに、2つのベローズの間を環状の連結部材により連結してなるベローズ組立体を備える。そして、2つのベローズは、径方向に関して外周側と内周側との間で流体の流出入が遮断されるように連結部材により連結され、積層体は、ベローズ組立体の内周側にベローズ組立体と同軸的に収容されている。
【0016】
さらに、ベローズ組立体の軸方向一端および他端は、それぞれ、積層体の軸方向一端および他端を支持する一端側部材および他端側部材により封鎖されて流体の流出入が遮断されている。
そして、2つのベローズは、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低い。
【0017】
実施形態2のインジェクタによれば、2つのベローズの内周側には、それぞれ環状体が装着されて径方向の剛性が高められている。
また、連結部材は、所定の支持部材により軸方向に摺動自在に支持されている。
【実施例】
【0018】
〔実施例1の構成〕
実施例1のインジェクタ1の構成を、図1を用いて説明する。
インジェクタ1は、例えば、エンジン(図示せず)の各気筒に搭載されて、燃焼室(図示せず)に直接的に燃料を噴射するものであり、圧電素子の積層体2に電圧を印加して積層体2を軸方向に伸長させることで、弁体3を駆動して噴孔4を開放する。
【0019】
インジェクタ1は、燃料を噴射するノズル部6と、積層体2を有してノズル部6の弁体3を駆動するピエゾアクチュエータ7と、ピエゾアクチュエータ7で発生した駆動力をノズル部6に伝達する駆動力伝達部8とを備え、例えば、コモンレールから高圧の燃料を受け入れるとともに、受け入れた燃料を内部に形成される燃料流路を介して先端の噴孔4に導き、弁体3を駆動することにより噴孔4を通じて噴射する。
【0020】
ノズル部6は、噴孔4を開閉する弁体3と、先端に噴孔4を有する弁ボディ9と、弁体3の摺動軸部10を軸方向に摺動自在に支持する円筒状の第1内部ボディ11と、弁体3を閉弁側に付勢するスプリング12と、第1内部ボディ11の後端側を封鎖してスプリング12を収容するスプリング室13を形成する第2内部ボディ14とを有する。
【0021】
ここで、弁ボディ9は、弁体3の先端部を軸方向に摺動自在に収容することで、弁体3との間に噴孔4に燃料を導くためのノズル室18を形成する。また、スプリング室13は、コモンレールから受け入れた高圧の燃料を噴孔4の方に導くための燃料流路の一部をなし、スプリング室13は、第2内部ボディ14に設けられた燃料通路19を介して高圧の燃料を受け入れる。そして、スプリング室13とノズル室18とは弁体3に設けられる燃料通路20を介して連通している。
以上の構成により、コモンレールから受け入れた高圧の燃料が噴孔4まで導かれる。
【0022】
また、第1内部ボディ11は、弁体3に対し開弁側に燃料圧を作用させるための制御室23を弁体3との間に形成する。そして、制御室23の燃料圧がピエゾアクチュエータ7の動作に応じて増減することで、弁体3が開弁したり閉弁したりする。
【0023】
ピエゾアクチュエータ7は、圧電素子の積層体2と、積層体2を収容するベローズ組立体24とを有する。
ベローズ組立体24は、互いに異径の2つのベローズ(以下、径が大きい方を大径ベローズ26、径が小さい方を小径ベローズ27と呼ぶ。)を同軸的に配するとともに、大径、小径ベローズ26、27の間を環状の連結部材28により連結してなるものである。
【0024】
大径、小径ベローズ26、27は、径方向に関して外周側と内周側との間で燃料の流出入が遮断されるように連結部材28により連結され、積層体2は、ベローズ組立体24の内周側にベローズ組立体24と同軸的に収容されている。さらに、ベローズ組立体24の先端および後端は、それぞれ、積層体2の先端および後端を支持する先端側部材29および後端側部材30により封鎖されて燃料の流出入が遮断されている。そして、大径、小径ベローズ26、27は、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低い。
【0025】
駆動力伝達部8は、ピエゾアクチュエータ7の先端により当接されて先端側に移動するピストン33と、ピストン33を摺動自在に支持して第2内部ボディ14との間に圧力室34を形成する円筒状の第3内部ボディ35と、ピストン33を後端側に付勢するスプリング36とを有する。ここで、圧力室34には、逆止弁37を介して、コモンレールから受け入れた高圧の燃料が供給され、圧力室34と制御室23とは第1、第2内部ボディ11、14を通る燃料通路38により連通している。
【0026】
これにより、積層体2が伸長してピストン33を先端側に移動させると、圧力室34が圧縮されて制御室23の燃料圧が上昇する。このため、弁体3が開弁側に駆動されて噴孔4が開放され、燃料の噴射が開始する。また、積層体2が短縮してピストン33が後端側に移動すると、圧力室34が膨張されて制御室23の燃料圧が低下する。このため、弁体3が閉弁側に駆動されて噴孔4が閉鎖され、燃料の噴射が停止する。
なお、積層体2に対する電圧印加開始および電圧印加停止は、車両に搭載された所定の電子制御装置からの指令に応じて行われる。
【0027】
〔実施例1の作用効果〕
実施例1のインジェクタ1の作用効果を、図2を用いて説明する。
積層体2が電圧印加により軸方向に伸長すると、ベローズ組立体24では、ベローズ組立体24の内部容積が変化しないように、大径ベローズ26が短縮するとともに、小径ベローズ27が伸長する。すなわち、大径、小径ベローズ26、27は、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低いため、積層体2の伸縮に応じて軸方向に伸縮しても径方向の伸縮量が小さい。
【0028】
このため、積層体2が伸長してベローズ組立体24が軸方向に長くなれば、小径ベローズ27が軸方向に伸長し、小径ベローズ27が伸長することにより小径ベローズ27に囲われた領域の容積が増加する。そして、小径ベローズ27に囲われた領域の容積増加分は、大径ベローズ26が軸方向に短縮することで吸収される。
【0029】
つまり、積層体2が伸長すると、ベローズ組立体24において、小径ベローズ27が伸長するとともに大径ベローズ26が短縮する。この結果、小径ベローズ27が伸長することで積層体2の伸長に対する抵抗を増しても、大径ベローズ26が軸方向に短縮することで積層体2の伸長に対する抵抗を減ずるので、ベローズ組立体24によれば、単一のベローズに比べて、積層体2の伸長に対し抵抗として作用するのを抑制することができる。
以上により、インジェクタ1においてベローズ組立体24を採用することにより、単一のベローズを使用する場合に比べて、積層体2の伸長に対する抵抗を抑制することができる。
【0030】
実施例2のインジェクタ1によれば、図3に示すように、大径、小径ベローズ26、27の内周側には、それぞれ環状体41が装着されて径方向の剛性が高められている。
これにより、大径、小径ベローズ26、27は、さらに径を可変しにくくなるので、積層体2の伸長に応じて、大径、小径ベローズ26、27は、それぞれ、確実に径を変えることなく、伸長したり短縮したりするようになる。
また、連結部材28は、ピストン33の内周側で軸方向に摺動自在に支持されている。これにより、大径、小径ベローズ26、27の伸縮動作を軸方向に関して安定させることができる。
【0031】
〔変形例〕
インジェクタ1の態様は、実施例1、2に限定されず種々の変形例を考えることができる。例えば、実施例1、2のインジェクタ1は燃焼室に燃料を直接的に噴射するものであったが、インジェクタ1をインテークマニホールドに装着して吸気ポートに燃料を噴射するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 インジェクタ
2 積層体
3 弁体
4 噴孔
24 ベローズ組立体
26 大径ベローズ(2つのベローズ)
27 小径ベローズ(2つのベローズ)
28 連結部材
29 先端側部材(一端側部材)
30 後端側部材(他端側部材)
41 環状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子の積層体に電圧を印加して前記積層体を軸方向に伸長させることで、弁体を駆動して噴孔を開放するインジェクタにおいて、
互いに異径の2つのベローズを同軸的に配するとともに、前記2つのベローズの間を環状の連結部材により連結してなるベローズ組立体を備え、
前記2つのベローズは、径方向に関して外周側と内周側との間で流体の流出入が遮断されるように前記連結部材により連結され、
前記積層体は、前記ベローズ組立体の内周側に前記ベローズ組立体と同軸的に収容され、
前記ベローズ組立体の軸方向一端および他端は、それぞれ、前記積層体の軸方向一端および他端を支持する一端側部材および他端側部材により封鎖されて流体の流出入が遮断され、
前記2つのベローズは、両方とも径方向よりも軸方向に剛性が低いことを特徴とするインジェクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のインジェクタにおいて、
前記2つのベローズの内周側には、それぞれ環状体が装着されて径方向の剛性が高められていることを特徴とするインジェクタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のインジェクタにおいて、
前記連結部材は、所定の支持部材により軸方向に摺動自在に支持されていることを特徴とするインジェクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−122467(P2011−122467A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278443(P2009−278443)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】