説明

インバータ誤動作停止システム

【課題】過去の鉄道事故において、インバータの論理部の誤動作が原因で、論理部が減速指令を受け取れない状態になり、その前に受けていた加速指令を保持し、列車としては減速しようとしているのに、当該インバータが加速を継続し、所望の減速度を得られず事故に至った例があり、インバータ論理部の信頼性向上が必要である。
【解決手段】インバータとは別にインバータ監視装置を設置し、インバータの誤動作を検知したときには、高速度遮断器などの装置を動作させ、主回路を切離すことでインバータの動作を強制的に停止したり、インバータの論理部にリセットをかける等の処理を行うことにより、インバータの誤動作による危険を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータを有する鉄道車両における車上制御システムに係わり、特にインバータが誤動作した際に、誤動作を検知して、インバータの動作を停止させる鉄道車両の車上制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にインバータが故障した場合は、正常にモータを回すことができない故障モードになるとされており、インバータの故障により脱線、衝突等の危険事象は起きないとされていた。これは正しい制御を行わないとモータが回らないため、インバータが故障し、出力がおかしくなった場合、モータは回らないからである。
【0003】
一方、インバータの主回路の故障については、様々な安全対策が取られている。例えば、主回路が短絡故障した場合、最悪の場合には架線からレールまで短絡されることになり、大電流が流れて危険な状態となる可能性がある。そのため、故障を検知した場合には高速度遮断器等、電流を遮断できる装置を使って、主回路を切離す等の対策が取られるのが一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、交流回転機、電力変換器、及び電力変換器と交流回転機とを電気的に接続する接続手段(三相出力線)の少なくとも1つの異常を検知する異常検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−50059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、インバータの主回路の故障については従来から対策が講じられており、さらにインバータの故障は列車が止まる側であり、脱線、衝突等の危険事象は起きないとされていた。しかしながら、過去の鉄道事故において、インバータの誤動作により、インバータが減速指令を無視して、加速を続けたことによって発生した事故がある。
【0007】
事故の原因はインバータの論理部の誤動作であり、論理部が減速指令を受け取れない状態になり、その前に受けていた加速指令を保持したままとなって、列車としては減速しようとしているのに、当該インバータが加速を継続し、所望の減速度を得られず事故にいたったと分析された。
【0008】
このような事故を防止するためには、インバータ論理部の信頼性向上が必要であると考えられるが、そのためにはハードウェア構成の見直し、ソフトウェア作成工程の増加等イバータ作成のコスト増が問題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、インバータとは別にインバータの動作を監視して、インバータの異常を検知したときにはインバータの動作を停止させることで問題の解決を図る。
【0010】
具体的には、列車にインバータ監視装置を設置し、インバータが正常に加減速の制御を行っていることを監視する。インバータ監視装置がインバータの誤動作を検知したときには、高速度遮断器などの装置を動作させ、主回路を切離すことでインバータの動作を強制的に停止したり、インバータの論理部にリセットをかける等の処理を行うことにより、インバータの誤動作による危険を防止する。
【0011】
インバータ監視装置はインバータを監視して、異常時にインバータを停止する機能しかない単純な装置であり、ハードウェア、ソフトウェア共に作成が容易であり、コスト増の影響は少ない。また、既に列車に設置されている信号制御装置等の装置に組込むことも可能で、その場合は装置の追加も必要がない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータの信頼性は従来と同等のまま、インバータの誤動作による危険事象を防止することが可能となる。また、その対策に必要なコスト増も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるインバータ誤動作停止システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図2は本発明の実施例1におけるインバータ状態を監視できる場合のインバータ監視装置101の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は本発明の実施例1における減速度の監視でインバータ102の誤動作を検知する場合のインバータ監視装置101の構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は本発明の実施例2におけるインバータ状態を監視できる場合のインバータ監視装置101の構成例を示すブロック図である。
【図5】図5は本発明の実施例2における加速度の監視でインバータ102の誤動作を検知する場合のインバータ監視装置101の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、インバータの信頼性は従来と同等のまま、インバータが誤動作したときに安全を確保するという目的を、単純なシステム構成で実現した。以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1に、本発明の実施例1におけるインバータ誤動作停止システムのシステム構成を示す。本発明においては、インバータ論理部103および主回路104を合わせてインバータ102と呼ぶことにする。
【0016】
インバータ監視装置101は、インバータ102が正しく動作しているか否かを監視する。正しく動作しているか否かをどのように判定するかその方法の詳細については後述する。インバータ監視装置101はインバータ102の誤動作を検知したとき、インバータ102の動作を強制的に停止する。
【0017】
インバータ102の停止手段としては、遮断指令107を出力し、パンタグラフ106から主回路104に給電される電流を遮断する方法と、インバータ論理部103にリセット信号108を出力しインバータ論理部103をリセットする、あるいはリセット信号108を継続して出力し、インバータ論理部の動作を止める方法が考えられる。
【0018】
主回路104への電流の遮断方法については、従来から主回路保護のために電流を遮断する機構は既に設置されており、その機構をそのまま用いればよい。例えば、高速度遮断器105は外部からの遮断指令に対応する端子を備えているので、その端子に対して、遮断指令107を入力すればよい。あるいは、断流器を用いて遮断することも可能である。
【0019】
インバータ論理部103のリセットはインバータ論理部103にリセット信号108を入力できるインターフェースを追加することで実現できる。従来からインバータ論理部103は、例えば、ウオッチドックタイマーで異常を検知したときには、自身でリセットをかけたり、停止したりする機能を有しており、そうした機能の一条件として外部からのリセット信号108を追加するのみで容易にリセット信号108に対する処理を実現できる。
【0020】
また、インバータ論理部103の電源を切ることで、前記インバータ論理部103の動作を停止することも可能である。前記リセット信号108をリセット状態で保持することで、インバータ論理部103を停止状態にすることもできる。インバータ論理部103に対してどのように処理を実施するかはインバータ論理部に合わせて適切に決めればよい。
【0021】
インバータ監視装置101においてインバータ102が正しく動作しているか判定する方法についてであるが、インバータ監視装置101がインバータ102の動作状態を監視する方法と、列車の減速度を監視する方法が考えられる。
【0022】
インバータ102の動作状態を監視する場合は、加速、減速、惰行といったインバータ102の動作モード、あるいは当該インバータ102が駆動している回転機の電流状態を当該インバータの動作状態とし、接点情報、または、車上ネットワークを介した伝送でインバータ監視装置101に入力し、インバータ監視装置101は加減速の指令情報とインバータ102の動作状態や回転機電流状態を照合し、不一致があれば、インバータ102の誤動作と判定する。このときの前記インバータ監視装置101の構成を図2に示す。
【0023】
図2において、減速指令入力201は外部からの減速指令を受信する。インバータ状態入力202にはインバータ102の動作状態を入力する。減速指令入力201で受信した減速指令とインバータ状態入力202で受信したインバータ102の動作状態を状態比較処理203で比較し、不一致を検知した場合には、その結果をインバータ停止処理204に出力し、インバータ停止処理204は主回路の遮断や、インバータ論理部103のリセット等の処理によりインバータ102を停止させる。
【0024】
鉄道車両である列車の減速度を監視する場合は、インバータ監視装置101に列車速度と減速の指令情報を入力し、列車の減速性能を予め保持しておいて、減速指令時に列車の減速度を算出し、列車の減速性能と比較して、減速度が不十分である場合にインバータ102が誤動作であると判定する。
【0025】
減速度不足の要因としては、インバータの誤動作以外の要因も考えられるが、インバータ102による電気ブレーキで減速度が不十分である場合には空気ブレーキを動作させて減速するため、そのときにインバータ102による電気ブレーキが停止しても安全上問題になることはない。このときのインバータ監視装置101の構成を図3に示す。
【0026】
図3は、図2においてインバータ状態を減速状態に置き換えただけである。状態比較処理303は予め設定された所望の減速度と、減速状態を比較し、減速度が不足していれば、インバータ102の誤動作であると判断する。
【0027】
それ以外の処理は図2と同様である。インバータ監視装置101は編成に1つでも良いし、車両毎に設置してもよい。前記インバータ102の数や配置、あるいは高速度遮断器105の設置位置等を考慮して適切に設置すればよい。例えば、インバータ102単位で主回路の遮断が可能な構成であれば、インバータ102に対応した数のインバータ監視装置101を設置してもよい。
【0028】
あるいは、複数のインバータ102に対して主回路の遮断が可能な構成であれば、その遮断の単位に対応した数のインバータ監視装置101を設置してもよい。インバータ監視装置101がインバータ論理部103にリセットをかける場合は、インバータ論理部103に対応した数のインバータ監視装置101を設置してもよい。
【0029】
インバータ監視装置101は独立した装置として設置せず、車上信号制御装置やブレーキ制御装置内に機能として実装してもよい。その場合も機能ブロックは図2および図3と同じである。
【0030】
車上信号装置は列車走行の安全性を確保する重要装置であるため、従来から高い安全性を確保して設計されており、インバータの監視機能も高い安全性を持って実現できる。
【0031】
また、前記車上信号装置は列車の速度を監視して減速状態を把握しているため、上記の列車の減速度を監視する図3の構成であれば、特別な信号を追加することなく、車上信号装置が出力した減速指令を減速指令入力301への入力とし、減速状態を減速状態入力302への入力とすることで、インバータ102が正しく減速動作を行っていることを監視することができる。
【0032】
また、インバータ102の動作状態を監視する図2の構成であっても、前記車上信号装置の減速指令を減速指令入力201の入力とし、インバータ102を伝送線に接続して、情報を監視することは容易である。
【0033】
ブレーキ制御装置は従来から減速指令にしたがって、電気ブレーキと空気ブレーキの出力を調整する電空ブレンディングという機能を持っている。図2の構成において、減速指令を減速指令201への入力とし、電気ブレーキの出力状態をインバータ状態入力への入力とすることで、減速指令に対して、インバータ102が正しく減速動作を行っているか容易に監視することができる。また、ブレーキ制御装置が列車速度を認識できる構成であれば、図3の構成をとることも可能である。
【0034】
以上のように、インバータ誤動作停止システムを構成することにより、インバータ102の誤動作で減速指令を無視して加速し続けた場合にもインバータ102の動作を停止させ、減速度不足が発生しないようにし、列車走行の安全性を高めることが可能となる。
【実施例2】
【0035】
実施例1においては、減速指令に対して、インバータ102が減速せず、列車の減速度が不足する場合にインバータ102を停止させているが、同じ装置構成で、インバータ102が誤動作し、加速指令に対して加速しない場合もその誤動作を検知することができる。
【0036】
考え方は実施例1と同じで、図4および図5においては、図2および図3において、減速指令を加速指令とすれば良い。つまり、前記インバータ監視装置101に加速指令を入力する。図4の構成をとる場合は、加速指令とインバータ102の動作状態に不一致があれば、インバータ102が誤動作していると判定する。
【0037】
あるいは、図5の構成をとる場合は、鉄道車両である列車の加速度を監視し、加速指令に対応した加速度が得られているか監視し、不足している場合にインバータ102が誤動作していると判定する。
【0038】
インバータ102の誤動作を検知した後の処理は運用と状況によって異なってくる。加速ができない誤動作であるので、安全上問題はないとして、そのまま運行を継続して、単なる保守情報として用いてもよく、誤動作を起こしたインバータ102を危険と判断し、切り離してもよい。あるいは、加速指令に対して減速を続けるときには、車輪等に悪影響を与える可能性があるため、切り離すことが重要である場合もある。
【0039】
このように、誤動作を起こし、加速しなくなったインバータ102に対してどのような処理を行うかは運用の範囲であって、本発明の範囲外である。つまり、図4および図5における、インバータ停止処理404およびインバータ停止処理504の動作は本実施例では特定しない。
【0040】
上記のようにインバータ誤動作停止システムを構成することにより、誤動作により加速しなくなったインバータ102を検知し、それに対して処理を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
101 インバータ監視装置
102 インバータ
103 インバータ論理部
104 主回路
105 高速度遮断器
106 パンタグラフ
107 遮断命令
108 リセット信号
201 減速指令入力
202 インバータ状態入力
203 状態比較処理
204 インバータ停止処理
301 減速指令入力
302 減速状態入力
303 状態比較処理
304 インバータ停止処理
401 加速指令入力
402 インバータ状態入力
403 状態比較処理
404 インバータ停止処理
501 加速指令入力
502 加速状態入力
503 状態比較処理
504 インバータ停止処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主回路とインバータ論理部からなるインバータを備え、減速時には前記インバータによる電気ブレーキを動作させる鉄道車両におけるインバータ誤動作停止システムにおいて、
前記インバータの動作を監視し、誤動作を検知したときに前記インバータを停止するインバータ監視装置を備えたことを特徴とするインバータ誤動作停止システム。
【請求項2】
前記インバータを停止する手段として、電力供給元から前記主回路を遮断することを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項3】
前記インバータを停止する手段として、前記インバータ論理部をリセットすることを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項4】
前記インバータを停止する手段として、前記インバータ論理部の電源を切ることを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項5】
インバータ動作状態と減速指令を前記インバータ監視装置に入力し、減速指令があるとき、前記インバータ動作状態が減速状態でない場合に、前記インバータが誤動作したと判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項6】
鉄道車両の減速状態と減速指令を前記インバータ監視装置に入力し、減速指令があるときに、予め設定された所望の減速度と比較して減速度が不十分であるときに、前記インバータが誤動作したと判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項7】
前記インバータ監視装置の機能を車上信号制御装置に備えることを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項8】
前記インバータ監視装置の機能をブレーキ制御装置に備えることを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項9】
インバータ動作状態と加速指令を前記インバータ監視装置に入力し、加速指令があるとき、前記インバータ動作状態が加速状態でない場合に、前記インバータが誤動作したと判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。
【請求項10】
鉄道車両の加速状態と加速指令を前記インバータ監視装置に入力し、加速指令があるときに、予め設定された所望の加速と比較して加速度が不十分であるときに、前記インバータが誤動作したと判定することを特徴とする請求項1記載のインバータ誤動作停止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−78161(P2011−78161A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224868(P2009−224868)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】