説明

インピーダンスセンサ

【課題】インピーダンスセンサの検出感度のばらつきを小さくして、検出精度を向上させる。
【解決手段】本発明のインピーダンスセンサは、液体や気体の中に入れて液体や気体の混合比率等を検出するものにおいて、基板と、基板の表面に設けられた一対の櫛歯状電極と、基板の表面に櫛歯状電極を覆うように設けられた保護膜とを備え、保護膜として比誘電率が6以上の材料を使用するように構成した。この構成によれば、検出感度のばらつきを小さくすることができて、検出精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体や気体の混合比率等として、例えばガソリンなどの液体燃料の中に含まれるアルコールの混合比率等を検出するインピーダンスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインピーダンスセンサの一例として、特許文献1に記載されたアルコール濃度センサが知られている。このセンサは、測定対象物の比誘電率に応じた静電容量を検出することより、アルコール濃度を測定するものである。上記センサは、絶縁基板上に一対の薄膜電極を設け、この一対の薄膜電極を覆う絶縁保護膜を設けて構成されており、絶縁保護膜と絶縁基板は比誘電率が5以下の材料で形成されている。上記特許文献1には、このような構成のアルコール濃度センサによって、アルコール濃度を高感度に測定できると記載されている。
【特許文献1】特開2005−201670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、本発明者らはシミュレーションにより、絶縁保護膜の比誘電率が5以下で構成される上記構成のアルコール濃度センサでは、絶縁保護膜の比誘電率がより大きなものと比較して、絶縁保護膜の比誘電率のばらつきに対し検出感度のばらつきが大きくなり、かつ検出感度も低くなることがわかった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、検出感度のばらつきを小さくすることができて、検出感度を向上させることが可能なインピーダンスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によれば、基板の表面に櫛歯状電極を覆うように設けられた保護膜として、比誘電率が6以上の材料を使用したので、検出感度のばらつきを小さくすることができて、検出感度を向上させることができる。また、保護膜の比誘電率が高いほど、より高感度に測定できる。さらに、保護膜の比誘電率が±0.5程度ばらついても、検出感度ばらつきを0.5%以内に抑えることができる。
【0006】
請求項2の発明によれば、前記一対の櫛歯状電極の電極間隔が5μm以下となるように構成したので、検出感度を高くすることができる。
請求項3の発明によれば、前記一対の櫛歯状電極の電極間隔が1μm以下となるように構成したので、電極間に作用する電界を強めることができ、検出感度をより高くすることができる。
【0007】
請求項4の発明によれば、前記保護膜の厚さを、0.6μm以上となるように構成したので、検出感度は低下するが、検出感度のばらつきを小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。まず、図1は本実施例のインピーダンスセンサ1の全体構成を概略的(模式的)に示す縦断面図であり、図2は同上面図である。本実施例のインピーダンスセンサ1は、車両の液体燃料例えばガソリンに含まれるアルコールの混合比率を検出するものであり、半導体センサで構成されている。
【0009】
上記インピーダンスセンサ1は、図1に示すように、例えばSi基板からなる半導体基板2と、この半導体基板2の表面における図1中の左部に設けられた一対の櫛歯状電極3、4と、同右部に設けられた信号処理回路5とを備えている。上記一対の櫛歯状電極3、4は、半導体基板2の表面に形成された絶縁層6の上に設けられている。絶縁層6は、例えばシリコン酸化膜で形成されている。
【0010】
上記櫛歯状電極3、4は、図2に示すような櫛歯状に形成されており、一対の共通部3a、4aと、これら共通部3a、4aから突設された多数の櫛歯部3b、4bとを有している。この場合、各櫛歯部3b、4bを所定間隔をあけて互い違いに嵌合させている。このように互い違いに並ぶように配列することにより、櫛歯状電極3、4のサイズを小さく抑えながら、櫛歯状電極3、4間の対向面積を大きくすることができる。
【0011】
また、櫛歯状電極3、4は、例えばアルミ、銅、チタン、白金、金、タングステン等の金属材料を絶縁層6の上にスパッタリング等の方法によって付着させた後、フォトリソグラフィ工程によってパターニングすることにより形成されている。尚、櫛歯状電極3、4の材料としては、上記金属材料に限られるものではなく、例えばシリコンやポリシリコン等の導電性の非金属材料を用いるように構成しても良い。
【0012】
そして、半導体基板2の表面には、絶縁材料からなる保護膜7が上記櫛歯状電極3、4並びに信号処理回路5を覆うように設けられている。この保護膜7は、比誘電率が6以上の材料、例えば、シリコン窒化膜や、高誘電率のHfO系材料を用いて形成されている。上記保護膜7は、例えばプラズマCVDやスパッタリング等によって、半導体基板2上にほぼ同じ厚さを持つように堆積形成されている。保護膜7は、例えば液体燃料等の腐食性の強い環境においても良好な耐性を有すると共に、通常の半導体製造技術を用いて容易に形成可能な膜である。
【0013】
上記構成の場合、半導体基板2のうちの櫛歯状電極3、4に対応する部分を、測定したい液体燃料の中に浸漬させて検出するように構成されている。このとき、櫛歯状電極3、4の櫛歯部3b、4bの間に測定したい対象物である液体燃料の比誘電率に準じた静電容量が蓄積され、対象物の比誘電率に準じた静電容量変化を検出できる構成となっている。
【0014】
また、半導体基板2の表面における図2中の下部(図1中の右端部)には、例えば3個のパッド8が形成されている。これら3個のパッド8及び櫛歯状電極3、4は、信号処理回路5に接続されている。信号処理回路5は、例えばCMOSトランジスタやコンデンサなどの素子で構成されている。そして、信号処理回路5は、それらの素子によって、静電容量値を電圧値に変換するCV変換回路、ノイズ成分を除去するフィルタ回路、電圧値を所定の周期でサンプルホールドするサンプルホールド回路、及びサンプルホールド回路から出力された電圧値を増幅する増幅回路などで構成されている。また、信号処理回路5は、測定対象(液体燃料等)の温度を検出し、その温度に応じて混合比率と静電容量値との間の関係を補正する処理回路を備えている。信号処理回路5の出力信号は、3個のパッド8のうちの1つのパッド8を介して外部へ出力される。残り2個のパッド8のうちの1つがグランド用パッドであり、他の1つが電源用パッドである。尚、図1に示すように、信号処理回路5は、絶縁層6、配線層9、保護膜7等を有している。
【0015】
上記した構成のインピーダンスセンサ1を用いて車両の液体燃料(例えばガソリン)に含まれるアルコールの混合比率を検出する場合、上記インピーダンスセンサ1を専用のセンサケース内に収容し、インピーダンスセンサ1の櫛歯状電極3、4部分をセンサケースから外部へ突出させておく。これにより、櫛歯状電極3、4が測定したい液体燃料の中に浸漬されて曝され、インピーダンスセンサ1の他の部分は液体燃料と接触しない構成となっている。
【0016】
そして、櫛歯状電極3、4の櫛歯部3b、4bの間の静電容量値(液体燃料の誘電率に準じた静電容量値)から、液体燃料に含まれるアルコールの混合比率を検出するに当たっては、予め、図3に示すような液体燃料(ガソリンとアルコール)の混合比率と静電容量値との間の関係を示すグラフ(データ)を求めて記憶しておく。このグラフに基づいて測定(検出)した静電容量値に対応する混合比率を求めることができる。但し、液体燃料(ガソリンとアルコール)の比誘電率は温度に応じて変化するので、予め各温度における混合比率と静電容量との関係をそれぞれ記憶しておき、検出した液体燃料の温度に応じて補正を加える。
【0017】
また、静電容量だけでなく、誘電損失等を含めたインピーダンスの形で測定しても良い。複数の物理量を同時測定することで、測定精度の向上や、異物混入の判定や、誤差補正等が可能となる。
【0018】
さて、上記構成のインピーダンスセンサ1の検出感度は、複数のパラメータ、即ち、保護膜7の厚さ、保護膜7の比誘電率、絶縁層6の厚さ、絶縁層6の比誘電率、櫛歯状電極3、4の厚さ、櫛歯状電極3、4の電極間隔、半導体基板2の比誘電率等のパラメータに影響されることがわかっている。ここで、本発明者らは、検出感度に大きな影響を与えるパラメータ(因子)の1つである保護膜7の比誘電率に着目した。この比誘電率が6以上の材料(例えばシリコン窒化膜やシリコン酸化膜等)を用いた保護膜7を形成すると、検出感度が高くなることを、本発明者らは試作やシミュレーションで確認した。この場合、保護膜7の比誘電率が6以上であると、電場の広がりを半導体基板2側ではなく、より測定対象側に集約させることができる。というのは、そもそも誘電率とは、ガウスの定理▽・E = ρ/ε(E:電界、ρ:体積電荷密度、ε:誘電体の誘電率) で説明されるように、(誘電体の分極による)電場の弱まり具合をあらわした指標である。従って、電場が弱まった結果、単位電荷当たりの電極間電圧が下がり、同じ電圧をかけた際に、より多くの電荷を電極間にためることができる。つまり、電極間の比誘電率が高くなると、静電容量が大きくなる。この結果、測定対象物の静電容量値を精度良く検出することができる。
【0019】
例えば、静電容量値から液体燃料に含まれるアルコールの混合比率を検出する場合、検出感度の指標として、ガソリン100%とアルコール100%それぞれの静電容量値の差を検出感度と定義する。この場合、ガソリン100%とアルコール100%それぞれの静電容量値の差が大きければ、より高感度の測定をすることができる。
【0020】
図4のグラフは、図5に示す静電容量解析モデルによって、ガソリン100%(比誘電率が2)とアルコール100%(比誘電率が24)をそれぞれ測定したときの、一対の櫛歯状電極3、4間における静電容量値の差分(即ち、検出感度)の関係をグラフ化したものである。このシミュレーションにおいては、図5(a)、(b)、(c)に示すように、長さ(Z方向の長さ)1mmの一対の櫛歯状電極3、4(図5(b)において中かっこで示す領域)だけを対象としている。尚、図5(c)において、符号10は、測定対象物(ガソリン、アルコール)を示す。そして、シミュレーションを実行するときの各パラメータは、表1に示す通りである。
【0021】
【表1】

この表1に示すように、保護膜7の比誘電率を、2、5、7、・・・、40と変化させた。基板は、半導体基板2であり、その比誘電率は、12で固定した。絶縁層6の比誘電率は、4で固定した。櫛歯状電極3、4の厚さは、0.7μm、絶縁層6の厚さは、0.8μmで固定した。保護膜7の厚さは、0.1、0.2、・・・、3μmと変化させた。櫛歯状電極3、4の電極幅(図5(b)にてD1で示す)は、1、3、・・、9μmと変化させた。櫛歯状電極3、4の電極間隔(図5(b)にてD2で示す)は、1、3、・・、9μmと変化させた。
【0022】
また、図4において、実線A1は、保護膜7の厚さが0.1μmの場合を示す。実線A2は、保護膜7の厚さが0.2μmの場合を示す。実線A3は、保護膜7の厚さが0.4μmの場合を示す。実線A4は、保護膜7の厚さが0.6μmの場合を示す。実線A5は、保護膜7の厚さが1.1μmの場合を示す。実線A6は、保護膜7の厚さが1.6μmの場合を示す。実線A7は、保護膜7の厚さが2.1μmの場合を示す。実線A8は、保護膜7の厚さが3μmの場合を示す。
【0023】
上記図4のグラフから、保護膜7の比誘電率を6以上とすれば、十分な検出感度を得ることができることがわかる。
また、図6に示すように、保護膜7の厚さに関係なく、保護膜7の比誘電率を6以上とすることで、保護膜7の比誘電率の製造上のばらつきが±0.5程度あったとしても、検出感度ばらつきを0.5%程度以内に抑制することができる。尚、図6は、保護膜の比誘電率が±0.5変動した場合の感度ばらつきを示すグラフである。この図6は、保護膜7の厚さが0.1μmの場合であるが、他の膜厚でも同様の傾向を示す。
【0024】
また、上記図4のグラフから、保護膜の比誘電率を高くすることで、高感度に測定でき、検出感度ばらつきを低減することができることがわかる。
また、保護膜7の厚さと、櫛歯状電極3、4の電極幅と、櫛歯状電極3、4の電極間隔と、検出感度との関係をシミュレーションしてグラフ化した結果を、図7に示す。このシミュレーションを実行するときの各パラメータは、表2に示す通りである。尚、シミュレーションモデルとしては、上記図5に示すモデルを用いた。
【0025】
【表2】

この表2に示すように、保護膜7の厚さは、0.1、0.2、・・・、1.6μmと変化させた。櫛歯状電極3、4の電極幅は、1、1、2、・・、9μmと変化させた。櫛歯状電極3、4の電極間隔は、1μmと固定した。基板は、半導体基板2であり、その比誘電率は、12で固定した。絶縁層6の比誘電率は、4で固定した。櫛歯状電極3、4の厚さは、0.7μmで固定した。絶縁層6の厚さは、0.8μmで固定した。
【0026】
また、図8のグラフから、櫛歯状電極3、4の電極間隔を5μm以下に設定すると、十分な検出感度を得ることができることがわかる。尚、図8は、電極間隔と感度との関係を示すグラフである。この場合、図8に示すように、上記電極間隔を1μmとすると、ガソリンとアルコールそれぞれの静電容量値の差分をより大きくとることができるので、検出感度を高めることができ、有利(効果的)である。そして、電極間隔をより狭くすると、電極間に作用する電界をより強めることができ、結果として大きな静電容量変化を検出することができる(ガウスの定理より、静電容量C=ε×ε×s/d、ここで、ε:測定対象の比誘電率、ε:真空の誘電率、s:電極面積、d:電極間距離)。従って、検出感度をより高くすることができる。
【0027】
また、保護膜の厚さが0.05umばらついた場合の感度ばらつきを図9に示す。この図9から、保護膜7の厚さを0.6μm以上となるように構成することが好ましいことがわかる。このように構成すると、検出感度の絶対値は低下するが、検出感度のばらつきを±10%以下に抑えることができる。
【0028】
一方、図9から、保護膜7の厚さを0.6μmよりも小さくなるように構成することが好ましいことがわかる。このように構成すると、検出感度を大幅に高くすることができ、検出信号の信号処理が容易になる。また、検出素子サイズを小さくすることができるので有利である。
【0029】
このような構成の本実施例のインピーダンスセンサ1によれば、半導体基板2の表面に櫛歯状電極3、4を覆うように設けられた保護膜7として、比誘電率が6以上の材料を使用したので、検出感度のばらつきを小さくすることができて、検出精度を向上させることができる(図4参照)。更に、保護膜7として高誘電率の材料(例えば比誘電率が40の材料)を使用すると、検出感度をより一層高くすることができる(図4参照)。
【0030】
また、上記実施例においては、一対の櫛歯状電極3、4の電極間隔が1μm以下となるように構成したので、電極間に作用する電界を強めることができ、検出感度を高くすることができる(図8参照)。この場合、保護膜7の厚さを、0.6μm以上となるように構成すると、検出感度は低下するが、検出感度のばらつきを小さくすることができる(図7参照)。また、保護膜7の厚さを、0.6μmより小さくなるように構成すると、検出感度を大幅に高くすることができ、検出信号の処理が容易になる。
【0031】
尚、上記実施例において、保護膜7の比誘電率を設定するに際して、保護膜7を形成する材料(シリコン窒化膜やシリコン酸化膜等)に、例えばリンやボロン等の物質をイオン打ち込みによって添加することにより、保護膜7の比誘電率を高めるように構成しても良い。このように構成すると、所望の比誘電率を設定することが可能となる。この構成の場合、保護膜7を形成する材料としてシリコン窒化膜やシリコン酸化膜を用いることが可能となるので、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例を示すインピーダンスセンサの縦断面図
【図2】インピーダンスセンサの上面図
【図3】液体燃料の混合比率と静電容量との関係を示す図
【図4】保護膜の比誘電率と検出感度との関係を示す図
【図5】シミュレーション解析モデルを説明する図
【図6】保護膜の比誘電率が±0.5変動した場合の感度ばらつきを示す図
【図7】保護膜の厚さと櫛歯状電極の電極幅と電極間隔と検出感度との関係を示す図
【図8】櫛歯状電極の電極間隔と検出感度との関係を示す図
【図9】保護膜の厚さが±0.05μm変化した場合の感度ばらつきを示す図
【符号の説明】
【0033】
図面中、1はインピーダンスセンサ、2は半導体基板、3、4は櫛歯状電極、5は信号処理回路、6は絶縁層、7は保護膜、8はパッド、9は配線層、10は測定対象物を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体や気体の中に入れて前記液体や前記気体の混合比率等を検出するインピーダンスセンサにおいて、
基板と、
前記基板の表面に設けられた一対の櫛歯状電極と、
前記基板の表面に前記櫛歯状電極を覆うように設けられた保護膜とを備え、
前記保護膜として比誘電率が6以上の材料を使用したことを特徴とするインピーダンスセンサ。
【請求項2】
前記一対の櫛歯状電極の電極間隔が5μm以下となるように構成したことを特徴とする請求項1記載のインピーダンスセンサ。
【請求項3】
前記一対の櫛歯状電極の電極間隔が1μm以下となるように構成したことを特徴とする請求項1記載のインピーダンスセンサ。
【請求項4】
前記保護膜の厚さを、0.6μm以上となるように構成したことを特徴とする請求項2または3に記載のインピーダンスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−92633(P2009−92633A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266418(P2007−266418)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】