インプリント用モールド
【課題】継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドを提供する。
【解決手段】表面に凹凸パターンと端面に整合部2とを有する複数のモールド部材3,4を該整合部2を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体5とを備えることを特徴とするインプリント用モールド1である。また、前記整合部2は、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されるか又は前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることが好ましい。
【解決手段】表面に凹凸パターンと端面に整合部2とを有する複数のモールド部材3,4を該整合部2を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体5とを備えることを特徴とするインプリント用モールド1である。また、前記整合部2は、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されるか又は前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用モールドに関し、特には、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モールドに形成された微細な凹凸(高低差が通常0.01〜1000μm)を成形材料に押し付けることにより、該凹凸構造を成形材料に転写する技術(インプリント技術)が注目されており、ディスプレイ、光学フィルム、光学部品、半導体素子、医療用途の検査デバイス等への応用を目指す研究がなされている。
【0003】
インプリント技術は、成形時に用いるエネルギー源の違いにより、様々な方式が知られており、例えば、熱インプリント方式、UVインプリント方式、超音波インプリント方式等が挙げられる。例えば、UVインプリント方式による代表的なプロセスは、基板上にUV硬化性樹脂をスピンコート等の手法で成膜し、その形成された膜上に凹凸パターンを有する透明なモールド(モールド材料:石英等)を押し付け、その後、透明なモールドを透過するUV光を膜に照射することにより、モールドの凹凸パターンの反転パターンを膜に形成させるものである。インプリント技術によれば、1回のプロセスで3次元形状を成形できるため、インプリント技術は、同程度の解像度を実現可能な従来技術(露光、現像、エッチングを繰り返し行うプロセス)に比べてプロセス数が少なく、使用する材料の無駄も少ない。従って、インプリント技術は、低コストでのパターン形成が可能である。
【0004】
インプリント技術に用いられるモールドには、主に平板形状のものとロール形状のものがある。平板形状のモールドは、製造される成形体に求めるアスペクト比が高く、また得られた成形体に高精度な位置合わせを必要とする場合に使用されることが多い。一方、ロール形状のモールドは、長尺物に単純な繰り返し構造を大面積に亘って形成させることが求められる場合に使用されることが多い。以上のように、成形体の形状等に応じて、モールド形状の使い分けが必要となる。しかしながら、いずれのモールドを用いる場合にも、インプリント技術により低コストで大量に製品を製造するためには、生産性の向上が必要であり、大面積のモールドを製造する必要性が増加している。製造する上で大面積のモールドが必要となる製品の代表的な例としては、近年のディスプレイが挙げられる。近年のディスプレイには、サイズが1m2を超えるものも多く、このような大面積の製品に対して継ぎ目のない高品質な成形加工を行うニーズが増加している。
【0005】
インプリント技術に用いる高精細なモールドの製造方法においては、必要とされる解像度、面積、形状に応じて機械加工、レーザ加工、電子線描画、フォトリソグラフィなどが選定される。特に、ナノインプリント技術に用いられるモールドには、ナノレベルの高解像度の凹凸パターンが求められる場合が多い。ナノレベルの高解像度を実現する手法として電子線描画法が用いられる。電子線描画法は、集光したレーザビームを用いてシリコンやレジストに凹凸パターンを形成する手法である。しかしながら、この手法は、一筆書きによるパターニングを必要とするため、生産性が悪いという欠点がある。従って、メートルサイズを超える面積に亘ってナノ構造を持つ型(モールド)を製造することは、事実上困難であった。
【0006】
大面積化と高解像度の両立を実現するため、Roll to Rollインプリント方式と呼ばれる方式を利用した工法が開発されている。この工法によれば、例えばロール形状の芯の周りに固定しロール形状となった、微細パターンを有するモールドを回転させながら成形基材に押し当てる工程を経て、該微細パターンに由来する凹凸パターンが連続的に形成された成形体を製造することができる。
【0007】
インプリント用モールドにおける凹凸パターンの面積を拡大する手法として、例えば、特許文献1には、大型ロール上に塗布された紫外線硬化樹脂層に対して凹凸パターンを有する小型ロールを押圧しながら回転させることにより、該凹凸パターンを該紫外線硬化樹脂層に転写する転写操作を繰り返すことによって、大型ロール上に大面積の凹凸パターンを形成させる方法が開示されている。しかしながら、この方法は、小型ロールによる転写操作の繰り返しを幅方向にずらして行っており、形成される凹凸パターンは継ぎ目による段差を有するものとなるため、小型ロールより広い幅の大型ロールに対しナノ構造を大面積に亘って形成させる手法としては適していない。
【0008】
また、ロール形状モールドの製造方法として、凹凸パターンを有する部材をロールに取り付けてロール形状モールドを製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2においては、凹凸パターンを有する部材をロールに取り付ける方法として、凹凸パターンを有する薄いシートをロールに巻き付ける手法が開示されるものの、実際には、ナノレベルの微細構造を有するシートをロールの外周に一周させ、該シートの両端部をつなぎ合わせてロール上に固定することは難しく、シートの継ぎ目による段差をなくすことも困難である。
【0009】
一方、ナノ構造を有する光学材料の製造技術の分野においては、陽極酸化により表面にナノサイズの穴が形成されたアルミニウム基板をモールドとして用いる方法が知られている(例えば、特許文献3〜6参照)。この陽極酸化を用いる方法によれば、基板表面にナノメートルサイズの窪みをランダムに又はほぼ均一に形成することが可能であり、円柱状又は円筒状のモールドの表面に、継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−203576号公報
【特許文献2】特開2007−281099号公報
【特許文献3】特表2003−531962号公報
【特許文献4】特開2003−43203号公報
【特許文献5】特開2005−156695号公報
【特許文献6】国際公開第2006/059686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、陽極酸化法によれば、ピラー形状の凹凸パターンを形成させることは可能であるものの、例えば半導体などに必要となる複雑な回路パターンを製造することは困難である。従って、陽極酸化法により得た凹凸パターンを有するモールドを用いた場合、凹凸パターンの形状自由度を確保した上で継ぎ目による段差のない凹凸パターンを成形することが課題となる。また、上述のように、インプリント技術により大面積かつ高精細なパターンを形成させるためには、ロール形状のモールドを用いた場合であっても、凹凸パターンに継ぎ目による段差が発生するという課題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせることにより、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明のインプリント用モールドは、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明において、モールド部材及びモールド組立体の表面とは、凹凸パターンが形成されている面を指し、モールド部材及びモールド組立体の裏面とは、凹凸パターンが形成されている面(表面)と反対側の面を指し、モールド部材及びモールド組立体の端面とは、表面及び裏面以外の面を指す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のインプリント用モールドの一例の断面図である。
【図2】本発明のインプリント用モールドを構成するモールド組立体の一例の断面図である。
【図3】モールド部材の整合部の一例を示す断面図である。
【図4】モールド部材の整合部の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図6】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図7】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図8】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図9】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図10】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図11】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図12】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図13】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<インプリント用モールド>
以下に、図を参照しながら、本発明のインプリント用モールドを詳細に説明する。図1は、本発明のインプリント用モールドの一例の断面図である。図1に示すインプリント用モールド1は、表面に凹凸パターンと端面に整合部2とを有する複数のモールド部材3,4を該整合部2を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体5とを備えることを特徴とする。なお、図1に示すインプリント用モールド1では、2個のモールド部材3,4を組み合わせてモールド組立体を形成しているが、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド組立体を構成するモールド部材の数は2個以上であればよく、例えば、図2に示されるように3個のモールド部材を組み合わせてモールド組立体6を形成することもできる。図2は、本発明のインプリント用モールドを構成するモールド組立体の一例の断面図であり、モールド組立体6の中央に位置するモールド部材7は、2個の整合部2を有する。
【0019】
本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、モールド組立体を構成するものである。また、モールド部材は、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有することを要し、該整合部を介して隣接するモールド部材と組み合わせてモールド組立体を形成することになる。従って、複数のモールド部材を組み合わせることにより、大面積の凹凸パターンを有するモールド組立体を作ることができ、また、凹凸パターンの無い端面(整合部)を介してモールド部材同士を整合させるため、凹凸パターンが形成された表面には継ぎ目による段差が生じるおそれもない。更に、本発明のインプリント用モールドは、複数のモールド部材を組み合わせて大面積の凹凸パターンを達成するため、各モールド部材には、比較的小さいサイズの凹凸パターンを使用でき、また、整合部が表面ではなく端面にあり、更には、凹凸パターンの形成方法に特別な制限もないため、凹凸パターンの形状自由度が高い。なお、整合部とは、隣接するモールド部材と整合させる端面を指す。
【0020】
また、上記モールド部材は、その形状に特に制限はないものの、モールド組立体の製造を容易にする観点から、平板形状のモールド部材であることが好ましい。また、上記モールド部材には、ニッケル、シリコン、石英、アルミニウム、クロム等の各種材料を用いることができるが、モールド部材の材料には、ニッケル、シリコン又は石英を用いることが好ましい。なお、上記モールド部材は、電子線描画法等により凹凸パターンを基板等に直接形成することにより製造できる他、フォトリソグラフィ技術等により基板上に凹凸パターンを設けることによって製造することもできる。このように、凹凸パターンを基板上に設ける場合には、上述の材料を基板として用いる他、例えば、SU8、KMPRシリーズ(エポキシ樹脂系,日本化薬社製);NR−006Bシリーズ(ノボラック・ナフトキノン系,東京応化工業社製);TMMRシリーズ(エポキシ樹脂系,東京応化工業社製)等のレジスト材料を使用することになる。
【0021】
更に、インプリントプロセスにおいては、成形材料がモールドの凹凸パターンに固着して硬化する場合や、モールドへ埃が付着する場合や、モールドの凹凸パターンが欠ける場合等の問題が起こる可能性もあるため、モールドは低コストで製造されるのが好ましい。従って、モールド部材の材料としては、コストの面から、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂、シリコーン等の樹脂材料を用いるのが好ましい。また、かかる樹脂材料を用いて得た樹脂モールドは、低コストに加えて、柔軟性に優れており、成形体のそりやうねり等に追従した成形が可能となる。また、UVインプリント方式を採用する際には、紫外線照射の効率化の観点から、モールド自体に紫外線透過性が求められる場合が多い。この場合、樹脂モールドであれば、材料の選定を容易に行うことができる。具体的には、モールド部材の材料として、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の紫外線透過性樹脂を用いた場合、モールドの両面からのUV照射が可能となるため、成形材料側からのUV照射が困難である場合、例えば紫外線非透過性の基板上に成形材料がある場合であっても、モールド側からのUV照射により成形体を作ることが可能である。なお、このような樹脂モールドの他の利用方法としては、実験用レプリカとしての利用方法が挙げられる。具体的には、モールドに起因する問題がある場合、該モールドの凹凸パターンを転写した一次樹脂モールドを製造し、更に該一次樹脂モールドの凹凸パターンを転写した二次樹脂モールドを製造し、この二次樹脂モールドを実験用レプリカとして用いることで、コストを抑えた検討が可能となる。
【0022】
また、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、表面に凹凸パターンを有するが、該凹凸パターンは、図1に示されるように、モールド部材表面の突起した部分を表す凸部8と、モールド部材表面の窪んだ部分を表す凹部9とから形成されている。なお、本発明において、凸部の最も高い位置と凹部の最も低い位置との高低差を凹凸パターンの高さHとして定義するが(図1参照)、この凹凸パターンの高さHは、0.1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。更に、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることが好ましいが、ここで、モールド部材の厚みTとは、モールド部材の裏面から凸部の最も高い位置までの高さを指す。
【0023】
更に、上記モールド部材は、端面に整合部を有することを要する。ここで、図3は、モールド部材の整合部の一例を示す断面図であり、図4は、モールド部材の整合部の他の例を示す断面図である。図3に示されるように、整合部は、モールド部材3,4の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることが好ましく、具体的には段状であることが好ましい。モールド部材同士をきちんと合わせて組み合わせるため、整合部には平滑性が求められるが、図3に示されるような形状(段状)の整合部2であれば、平滑性を確保した上で、整合後のモールド部材の位置がずれることをより確実に抑制することも可能である。また、図3に示されるように、モールド部材の裏面に対して平行な面と垂直な面から形成される形状は、加工が容易である。なお、本発明において、平行とは、平行又は略平行を意味し、ここで、略平行な面とは、平行な面に対して±1度の範囲の角度で傾斜した面を指す。また、本発明において、垂直とは、垂直又は略垂直を意味し、ここで、略垂直な面とは、垂直な面に対して±1度の範囲の角度で傾斜した面を指す。一方、図4に示されるように、整合部は、モールド部材3,4の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えてもよい。図1及び図4に示されるように、整合部2がモールド部材の裏面に対して傾斜した面を備える場合、モールド部材を滑らせながら整合させることができ、より正確な位置合わせが可能となる。そして、その傾斜角度が45度及び135度に近い程、すべり摩擦力が小さくなり、整合させる際の位置合わせが容易になるため、30度〜60度又は150度〜120度の傾斜角度が特に好ましい。
【0024】
本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド組立体は、複数のモールド部材を該モールド部材の整合部を介して組み合わせることにより形成される。従って、モールド組立体の表面には、大面積の凹凸パターンを形成することができ、例えば、モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積を1000cm2以上にすることができる。
【0025】
本発明のインプリント用モールドは、モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面(モールド組立体の裏面)に固定した弾性体を備えることを要する。モールド組立体に弾性体を固定することで、該モールド組立体を構成するモールド部材がずれて、モールド組立体の凹凸パターンを有する表面に継ぎ目による段差が発生することを防止することができる。また、モールドが弾性体を備えることで、インプリントプロセスの際に均一な押圧を行うことができ、被成形基材の表面粗さにばらつきが生じていた場合であっても、インプリントプロセスを効果的に行うことができる。なお、弾性体とは、モールド組立体の弾性率より低い弾性率を有するものを意味し、その形状は、例えば図1に示されるように、モールド組立体の裏面を覆う膜状の弾性体5であることが好ましく、また、弾性体の材料としては、例えば、ポリイソプレン、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム等のゴム、シリコーン等を用いることができる。
【0026】
また、上記弾性体は、本発明のインプリント用モールドをUVインプリントプロセスで使用することを想定した場合、紫外線透過率が80%以上であることが好ましい。更に、上記弾性体の線膨張係数が高いと、インプリントプロセスの際に熱を印加した場合、モールドに反りを生じさせる可能性があるため、上記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることが好ましい。また更に、上記弾性体は、耐久性の観点から、ゴム硬度が10以上であることが好ましい。なお、紫外線透過率は、365nmの波長における透過率を分光光度計[例えば、日立分光光度計U−4100]を用いて測定することにより得られる。線膨張係数は、長さ10mmの角柱サンプルを昇温速度5℃/minにて20℃から200℃まで昇温させ、該サンプルの熱膨張による伸び(変化量)を測定し、算出される。ゴム硬度は、JIS K6253:2006に準拠して、デュロメータ硬さを測定することにより求められる。
【0027】
本発明のインプリント用モールドは、各種インプリント方式に利用できるが、その形状は、平板状モールドであることが好ましい。また、本発明のインプリント用モールドが平板状モールドである場合、例えば、平板状モールド上の凹凸パターンをロールに転写し、該ロールをモールドとして使用することで、より大面積の凹凸パターンを成形体に形成させることができる。更に、凹凸パターンの形状自由度も高いため、本発明のインプリント用モールドは、大面積への微細成形の実現による成形体の高機能化、及び成形体の生産性向上による低コスト化をも実現することが可能である。なお、成形体の材料(成形材料)は、本発明のインプリント用モールドに使用する上で特に制限されるものではなく、モールドの凹凸パターンの反転形状のパターンを成形できる各種成形材料を使用することができる。但し、本発明のインプリント用モールドがUV光に対して不透過である場合、UVインプリントプロセスにおいては、成形材料に紫外線透過性が要求される。また、成形時における成形材料の流動性を確保するため、未硬化又は半硬化の樹脂材料を成形材料として使用することが好ましく、この場合、例えば、該樹脂材料にモールドを押し付けた後に、樹脂材料の硬化処理を行うことになる。
【0028】
更に、本発明のインプリント用モールドは、少なくとも凹凸パターンを有する表面に離型処理が施されていることが好ましい。例えば、インプリントプロセスにおいては、モールドの凹凸パターン上に成形材料を流し、固化させることで成形を完了することになるが、成形体をモールドから取り出す際に、成形体の凹凸パターンが破壊される場合もある。従って、フッ素系樹脂等のフッ素成分を含有する材料の塗布による離型処理を行うことで、成形体がモールドに付着することを防止し、成形体の凹凸パターンが破壊されることを抑制することができる。なお、フッ素成分を含有する材料の塗布方法としては、ディップ工法、スプレー塗布、スピンコート法などが知られているが、離型処理を施す面にプラズマ処理などの工法により該面を清浄にし、該面を例えばフッ素系樹脂を含む液に浸漬させることで、フッ素系樹脂の単分子膜を形成させることもできる。
【0029】
<インプリント用モールドの製造方法>
以下に、図を参照しながら、本発明のインプリント用モールドの製造方法を詳細に説明する。図5〜図13は、本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【0030】
まず、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、モールド部材の表面に凹凸パターンを形成させるためのモールド(以下、パターン形成用モールドともいう)を準備する。ここで、パターン形成用モールドは、必要とされる凹凸パターンの微細度に応じて材料の選定が行われており、シリコン、アルミニウム、石英、クロム等の基板を用いることが好ましく、シリコンウェハーを用いることが好ましい。シリコンは、加工性に優れ、またシリコンの加工に要する装置の入手が容易である。そして、電子ビーム等により基板に直接凹凸パターンを描画する方法や、フォトリソグラフィ技術等により基板上に凹凸パターンを設ける方法により、パターン形成用モールドを作製することができる。図5〜7は、基板上に凹凸パターンを形成する工程の一例を示す。具体的には、まず、基板10上にUV感光性レジストを塗布し、均一な膜厚のレジスト層11を形成させる(図5)。ここで、UV感光性レジストの基板への塗布方法としては、スピンコート、スプレーコート、カーテンコート等の各種方法を適用できる。なお、UV感光性レジストは、例えば紫外線照射による光反応によって硬化する材料であり、具体的には、SU8、KMPRシリーズ(エポキシ樹脂系,日本化薬社製);NR−006Bシリーズ(ノボラック・ナフトキノン系,東京応化工業社製);TMMRシリーズ(エポキシ樹脂系,東京応化工業社製)等が挙げられる。次に、露光装置等を用いて、基板10上のレジスト層11に対してマスク12(例えば、ガラスマスク)越しにUV光13を照射し、露光を行うが(図6)、通常、露光処理前のレジスト層11に対してオーブン等による熱処理(一次熱処理)を行ってもよい。なお、他の露光方法として、上述の電子ビーム等による描画方法を利用してもよい。次いで、例えば浴槽14内の現像液15中に、マスクによる遮蔽によりUV光が照射されていない部分のレジスト層を溶解し、パターンニングを行い、UV光の照射により硬化した部分のレジスト層と基板とを備えるパターン形成モールド16を得ることができる(図7)。ここで、現像液は、レジスト材料に応じて選択されるが、例えば、PGMEA(ポリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)等を使用できる。なお、パターンニング(例えば、現像処理)前に、露光処理後のレジスト層11に対してオーブン等による熱処理(二次熱処理)を行ってもよい。また、必要に応じて、ドライエッチング、ウェットエッチングといったエッチング処理を行ってもよく、ドライエッチングを行う場合のエッチングガスとしては、CF4、CHF3などのフッ素系ガス、Cl2などの塩素系ガス、HBrなどの臭素系ガスを使用でき、ウェットエッチングを行う場合のエッチング溶液としては、KOH水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液などを使用できる。
【0031】
次に、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、パターン形成用モールドの凹凸パターンが転写された一次加工モールド部材を準備し、次いで、該一次加工モールドの端面を切削して整合部を形成させ、モールド部材を準備する。図8〜11は、モールド部材の凹凸パターン及び整合部を形成する工程の一例を示す。
【0032】
具体的には、図8に示されるように、めっき液17にパターン形成モールド16を浸漬させて電鋳めっき処理を行うことで、パターン形成モールド16の凹凸パターンが転写され、その反転パターンを有する一次加工モールド部材18を準備することができる。なお、めっき液としては、ニッケル系めっき液、シアン化銅めっき液、硫酸銅めっき液、スルファミン酸ニッケルめっき液、クロムめっき液、シアン化亜鉛めっき液、錫めっき液、銀めっき液、シアン化金めっき液等を使用できる。図9には、パターン形成モールド16からはがされた一次加工モールド部材18が示されているが、パターン形成面以外の面をダイシング等の切削加工により平滑面とすることが好ましい。なお、電鋳めっき処理を採用する場合、めっきの成長スピードはめっき液の流れの差異により影響を受けるため、複雑な凹凸パターンの場合、めっき厚み、即ちモールド部材の厚みにばらつきが生じ、モールド部材の裏面側に凹凸パターンが裏移りする現象や、モールド部材に反りを生じる現象が見られることがある。従って、かかる不具合を極小化するため、モールド部材の厚みを、凹凸パターンのサイズ(高さ)に対して10倍以上にすることが好ましい。一方、電鋳めっき処理のコストはめっきの成長に要する時間に依存しており、不具合のない範囲で可能な限り短い時間で電鋳めっき処理を行うことが望ましいため、モールド部材の厚みは、凹凸パターンのサイズ(高さ)に対して10倍〜50倍であることが更に好ましい。
【0033】
次に、図10に示されるように、ダイシングブレード19を用いた切削加工により、一次加工モールド部材18の端面を切断し、整合部2を形成することで、第一モールド部材20を準備する。なお、切削加工には、各種ダイシング技術が適用でき、レーザダイシング等を利用してもよい。また、図11に示されるように、第一モールド部材の整合部と整合させることが可能な整合部2を有する第二モールド部材21を準備する。
【0034】
最後に、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、複数のモールド部材を整合部を介して組み合わせてモールド組立体を形成し、該モールド組立体の裏面に弾性体を固定することで、本発明のインプリント用モールドが得られる。図12は、モールド組立体を形成する工程の一例を示し、図13は、弾性体を固定する工程の一例を示す。複数のモールド部材は凹凸パターンを有する面を同じ側に向けて整合させることになるため、例えば図12に示されるように、平滑な面を有する板22を準備し、該平滑な面上で第一及び第二モールド部材20,21を組み合わせるのが好ましい。なお、モールド部材の整合部での密着性を高めるため、真空吸着手段を用いてもよい。また、図12では、2個のモールド部材を組み合わせてモールド組立体を製造しているが、3個以上のモールド部材を組み合わせてモールド組立体を製造することもできる。次に、図13に示されるように、モールド組立体23の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に、硬化性樹脂等を塗布して硬化させ、弾性体5を形成することにより、インプリント用モールド1を得ることができる。また、接着剤等を用いて、弾性体5をモールド組立体の裏面に固定してもよい。
【0035】
本発明のインプリント用モールドの第二の製造方法は、第一の製造方法にて得られたパターン形成用モールドに対し、第一の製造方法と同様な切削加工を行うことにより、パターン形成用モールドに整合部を形成させ、これをモールド部材として使用する。従って、その後に続くモールド部材を組み合わせてモールド組立体を形成する工程及びモールド組立体の裏面に弾性体を固定する工程は、第一の製造方法と同じである。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
直径300mmφ、厚さ0.725mmの単結晶シリコン基板を4枚準備した。準備した単結晶シリコン基板をメチルエチルケトンで洗浄した後、スピンコート法により単結晶シリコン基板上に、レジスト(SU8−50、日本化薬社製)を約30μmの膜厚で塗布し、オーブン中で一次ベーク処理を行った。一次ベーク済みレジスト層を備えるシリコン基板上にガラスマスクを設置し、マスク越しに365nm付近の波長による露光を行った。露光処理後のレジスト層付きシリコン基板に対してオーブン中で二次ベーク処理を行い、その後、上記レジスト用の現像液[PGMEA(ポリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート),日本化薬社製]中で、レジスト層付きシリコン基板を揺動させることにより、レジスト層においてガラスマスクによりUV光が遮蔽されていた部分を溶解し、表面に凹凸パターンを有するシリコン基板を得た。得られたシリコン基板の凹凸パターンの形状をエリプソメーターで測定したところ、ライン幅(凸部及び凹部の幅)10μm、ライン高さ(凹凸パターンの高さ)10μmのストライプ構造であった。他の3枚のシリコン基板に対しても同様に処理し、同一の凹凸パターンを有する4枚のシリコン基板を製造した。次に、凹凸パターン上に保護膜として切断加工用のテープを貼り、パターン面を保護した。シリコン基板の中心と凹凸パターンの中心の位置を確認した後、ダイシングソーを用いたダイシングによりシリコン基板の裏面に対して傾斜した端面を有する200mm□のシリコン基板を切り出し、モールド部材を得た。他の3枚のシリコン基板に対しても同様に処理を行い、4枚のモールド部材を準備した。なお、モールド部材の整合部は、モールド部材の裏面に対し30度又は150度の角度で傾斜した面であった。次いで、真空吸着機能を備えた平滑な板[シグマ光機社製平滑ガラス(オプティカルフラット)]の水平面に、凹凸パターンを有する表面側が接するように4枚のモールド部材を設置し、これらモールド部材の整合部を介して位置合わせした状態で、真空吸着処理を行い、モールド部材を仮固定し、モールド組立体を得た。なお、真空吸着機能を備えた平滑な板とは、穴加工が施された板であって、該穴を通して吸引を行うことができる板を指す。次いで、モールド組立体の裏面に、ポリジメチルシロキサン(Dow Corning社製Sylgard 184)を塗布し、常温(約25℃)で48時間放置することで、ポリジメチルシロキサンの硬化により弾性体を形成させ、インプリント用モールドを製造することができた。なお、ポリジメチルシロキサンの硬化による弾性体は、紫外線透過率が90%以上で、線膨張係数が300ppmで、ゴム硬度(ショアA)が48であった。また、インプリント用モールドの凹凸パターン上には、プラズマ処理後、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリクロロシランを塗布することで、その単分子膜を形成させた。
【0038】
(実施例2)
実施例1で得られた表面に凹凸パターンを有するシリコン基板を用いて、実施例1とは異なる方法(電鋳めっき処理を利用する方法)で、インプリント用モールドを製造した。具体的には、実施例1で得た凹凸パターンを有するシリコン基板をニッケル系めっき液(日本カニゼン株式会社製、カニフロンSEF−150−S)に浸漬させNi電鋳めっき処理を施し、該シリコン基板上の凹凸パターンが転写された一次加工モールド部材を製造した。なお、Ni電鋳めっき処理を繰り返し行うことで、4枚の一次加工モールド部材を準備した。なお、その他の工程、即ち整合部の形成、モールド組立体の製造、弾性体の形成等は、実施例1と同様に行われた。
【0039】
(実施例3)
実施例1及び実施例2で得たインプリント用モールドを用い、インプリントプロセスを行った。具体的には、インプリント用モールドの凹凸パターンの凹部にUV硬化性の樹脂(東洋合成社製、PAK−01)を充填し、減圧処理を行うことで、UV硬化性樹脂の脱泡を行った。次に、UV光を透過するアクリルフィルムを、UV硬化性樹脂が凹部に充填された凹凸パターンを有するモールドの表面上に常温で張り合わせた。次いで、LEDランプにより365nmの波長のUV光(10mmJ/cm2)をアクリルフィルム側から照射し、UV硬化性樹脂を硬化させた。UV硬化性樹脂の硬化後、アクリルフィルムを反らせながらモールドから取り外した。アクリルフィルム及びモールドは、一定の可とう性を有していたため、モールドの表面とアクリルフィルムの界面剥離は、面剥離ではなく線剥離となり、高い歩留まりで離型を行うことができた。アクリルフィルム上に形成された凹凸パターンには、モールド部材の継ぎ目による段差が観察されず、大面積に亘って高品質なインプリント成形が実現できたことが分かる。
【0040】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0041】
(付記1)
表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とするインプリント用モールド。
【0042】
(付記2)
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0043】
(付記3)
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0044】
(付記4)
前記モールド部材は、凹凸パターンの高さが0.1μm〜100μmの範囲であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0045】
(付記5)
前記モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0046】
(付記6)
前記モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積が1000cm2以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0047】
(付記7)
前記弾性体は、紫外線透過率が80%以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0048】
(付記8)
前記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0049】
(付記9)
前記弾性体は、ゴム硬度が10以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0050】
(付記10)
前記モールド部材の材料に、ニッケル、シリコン又は石英を用いたことを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【符号の説明】
【0051】
1 インプリント用モールド
2 整合部
3 モールド部材
4 モールド部材
5 弾性体
6 モールド組立体
7 モールド部材
8 凸部
9 凹部
10 基板
11 レジスト層
12 マスク
13 UV光
14 浴槽
15 現像液
16 パターン形成用モールド
17 めっき液
18 一次加工モールド部材
19 ダイシングブレード
20 第一モールド部材
21 第二モールド部材
22 板
23 モールド組立体
H 凹凸パターンの高さ
T モールド部材の厚み
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント用モールドに関し、特には、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モールドに形成された微細な凹凸(高低差が通常0.01〜1000μm)を成形材料に押し付けることにより、該凹凸構造を成形材料に転写する技術(インプリント技術)が注目されており、ディスプレイ、光学フィルム、光学部品、半導体素子、医療用途の検査デバイス等への応用を目指す研究がなされている。
【0003】
インプリント技術は、成形時に用いるエネルギー源の違いにより、様々な方式が知られており、例えば、熱インプリント方式、UVインプリント方式、超音波インプリント方式等が挙げられる。例えば、UVインプリント方式による代表的なプロセスは、基板上にUV硬化性樹脂をスピンコート等の手法で成膜し、その形成された膜上に凹凸パターンを有する透明なモールド(モールド材料:石英等)を押し付け、その後、透明なモールドを透過するUV光を膜に照射することにより、モールドの凹凸パターンの反転パターンを膜に形成させるものである。インプリント技術によれば、1回のプロセスで3次元形状を成形できるため、インプリント技術は、同程度の解像度を実現可能な従来技術(露光、現像、エッチングを繰り返し行うプロセス)に比べてプロセス数が少なく、使用する材料の無駄も少ない。従って、インプリント技術は、低コストでのパターン形成が可能である。
【0004】
インプリント技術に用いられるモールドには、主に平板形状のものとロール形状のものがある。平板形状のモールドは、製造される成形体に求めるアスペクト比が高く、また得られた成形体に高精度な位置合わせを必要とする場合に使用されることが多い。一方、ロール形状のモールドは、長尺物に単純な繰り返し構造を大面積に亘って形成させることが求められる場合に使用されることが多い。以上のように、成形体の形状等に応じて、モールド形状の使い分けが必要となる。しかしながら、いずれのモールドを用いる場合にも、インプリント技術により低コストで大量に製品を製造するためには、生産性の向上が必要であり、大面積のモールドを製造する必要性が増加している。製造する上で大面積のモールドが必要となる製品の代表的な例としては、近年のディスプレイが挙げられる。近年のディスプレイには、サイズが1m2を超えるものも多く、このような大面積の製品に対して継ぎ目のない高品質な成形加工を行うニーズが増加している。
【0005】
インプリント技術に用いる高精細なモールドの製造方法においては、必要とされる解像度、面積、形状に応じて機械加工、レーザ加工、電子線描画、フォトリソグラフィなどが選定される。特に、ナノインプリント技術に用いられるモールドには、ナノレベルの高解像度の凹凸パターンが求められる場合が多い。ナノレベルの高解像度を実現する手法として電子線描画法が用いられる。電子線描画法は、集光したレーザビームを用いてシリコンやレジストに凹凸パターンを形成する手法である。しかしながら、この手法は、一筆書きによるパターニングを必要とするため、生産性が悪いという欠点がある。従って、メートルサイズを超える面積に亘ってナノ構造を持つ型(モールド)を製造することは、事実上困難であった。
【0006】
大面積化と高解像度の両立を実現するため、Roll to Rollインプリント方式と呼ばれる方式を利用した工法が開発されている。この工法によれば、例えばロール形状の芯の周りに固定しロール形状となった、微細パターンを有するモールドを回転させながら成形基材に押し当てる工程を経て、該微細パターンに由来する凹凸パターンが連続的に形成された成形体を製造することができる。
【0007】
インプリント用モールドにおける凹凸パターンの面積を拡大する手法として、例えば、特許文献1には、大型ロール上に塗布された紫外線硬化樹脂層に対して凹凸パターンを有する小型ロールを押圧しながら回転させることにより、該凹凸パターンを該紫外線硬化樹脂層に転写する転写操作を繰り返すことによって、大型ロール上に大面積の凹凸パターンを形成させる方法が開示されている。しかしながら、この方法は、小型ロールによる転写操作の繰り返しを幅方向にずらして行っており、形成される凹凸パターンは継ぎ目による段差を有するものとなるため、小型ロールより広い幅の大型ロールに対しナノ構造を大面積に亘って形成させる手法としては適していない。
【0008】
また、ロール形状モールドの製造方法として、凹凸パターンを有する部材をロールに取り付けてロール形状モールドを製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2においては、凹凸パターンを有する部材をロールに取り付ける方法として、凹凸パターンを有する薄いシートをロールに巻き付ける手法が開示されるものの、実際には、ナノレベルの微細構造を有するシートをロールの外周に一周させ、該シートの両端部をつなぎ合わせてロール上に固定することは難しく、シートの継ぎ目による段差をなくすことも困難である。
【0009】
一方、ナノ構造を有する光学材料の製造技術の分野においては、陽極酸化により表面にナノサイズの穴が形成されたアルミニウム基板をモールドとして用いる方法が知られている(例えば、特許文献3〜6参照)。この陽極酸化を用いる方法によれば、基板表面にナノメートルサイズの窪みをランダムに又はほぼ均一に形成することが可能であり、円柱状又は円筒状のモールドの表面に、継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−203576号公報
【特許文献2】特開2007−281099号公報
【特許文献3】特表2003−531962号公報
【特許文献4】特開2003−43203号公報
【特許文献5】特開2005−156695号公報
【特許文献6】国際公開第2006/059686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、陽極酸化法によれば、ピラー形状の凹凸パターンを形成させることは可能であるものの、例えば半導体などに必要となる複雑な回路パターンを製造することは困難である。従って、陽極酸化法により得た凹凸パターンを有するモールドを用いた場合、凹凸パターンの形状自由度を確保した上で継ぎ目による段差のない凹凸パターンを成形することが課題となる。また、上述のように、インプリント技術により大面積かつ高精細なパターンを形成させるためには、ロール形状のモールドを用いた場合であっても、凹凸パターンに継ぎ目による段差が発生するという課題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせることにより、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明のインプリント用モールドは、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明において、モールド部材及びモールド組立体の表面とは、凹凸パターンが形成されている面を指し、モールド部材及びモールド組立体の裏面とは、凹凸パターンが形成されている面(表面)と反対側の面を指し、モールド部材及びモールド組立体の端面とは、表面及び裏面以外の面を指す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、継ぎ目による段差がなく形状自由度に優れた凹凸パターンを大面積に亘って形成することが可能なインプリント用モールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のインプリント用モールドの一例の断面図である。
【図2】本発明のインプリント用モールドを構成するモールド組立体の一例の断面図である。
【図3】モールド部材の整合部の一例を示す断面図である。
【図4】モールド部材の整合部の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図6】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図7】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図8】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図9】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図10】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図11】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図12】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【図13】本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<インプリント用モールド>
以下に、図を参照しながら、本発明のインプリント用モールドを詳細に説明する。図1は、本発明のインプリント用モールドの一例の断面図である。図1に示すインプリント用モールド1は、表面に凹凸パターンと端面に整合部2とを有する複数のモールド部材3,4を該整合部2を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体5とを備えることを特徴とする。なお、図1に示すインプリント用モールド1では、2個のモールド部材3,4を組み合わせてモールド組立体を形成しているが、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド組立体を構成するモールド部材の数は2個以上であればよく、例えば、図2に示されるように3個のモールド部材を組み合わせてモールド組立体6を形成することもできる。図2は、本発明のインプリント用モールドを構成するモールド組立体の一例の断面図であり、モールド組立体6の中央に位置するモールド部材7は、2個の整合部2を有する。
【0019】
本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、モールド組立体を構成するものである。また、モールド部材は、表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有することを要し、該整合部を介して隣接するモールド部材と組み合わせてモールド組立体を形成することになる。従って、複数のモールド部材を組み合わせることにより、大面積の凹凸パターンを有するモールド組立体を作ることができ、また、凹凸パターンの無い端面(整合部)を介してモールド部材同士を整合させるため、凹凸パターンが形成された表面には継ぎ目による段差が生じるおそれもない。更に、本発明のインプリント用モールドは、複数のモールド部材を組み合わせて大面積の凹凸パターンを達成するため、各モールド部材には、比較的小さいサイズの凹凸パターンを使用でき、また、整合部が表面ではなく端面にあり、更には、凹凸パターンの形成方法に特別な制限もないため、凹凸パターンの形状自由度が高い。なお、整合部とは、隣接するモールド部材と整合させる端面を指す。
【0020】
また、上記モールド部材は、その形状に特に制限はないものの、モールド組立体の製造を容易にする観点から、平板形状のモールド部材であることが好ましい。また、上記モールド部材には、ニッケル、シリコン、石英、アルミニウム、クロム等の各種材料を用いることができるが、モールド部材の材料には、ニッケル、シリコン又は石英を用いることが好ましい。なお、上記モールド部材は、電子線描画法等により凹凸パターンを基板等に直接形成することにより製造できる他、フォトリソグラフィ技術等により基板上に凹凸パターンを設けることによって製造することもできる。このように、凹凸パターンを基板上に設ける場合には、上述の材料を基板として用いる他、例えば、SU8、KMPRシリーズ(エポキシ樹脂系,日本化薬社製);NR−006Bシリーズ(ノボラック・ナフトキノン系,東京応化工業社製);TMMRシリーズ(エポキシ樹脂系,東京応化工業社製)等のレジスト材料を使用することになる。
【0021】
更に、インプリントプロセスにおいては、成形材料がモールドの凹凸パターンに固着して硬化する場合や、モールドへ埃が付着する場合や、モールドの凹凸パターンが欠ける場合等の問題が起こる可能性もあるため、モールドは低コストで製造されるのが好ましい。従って、モールド部材の材料としては、コストの面から、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル樹脂、シリコーン等の樹脂材料を用いるのが好ましい。また、かかる樹脂材料を用いて得た樹脂モールドは、低コストに加えて、柔軟性に優れており、成形体のそりやうねり等に追従した成形が可能となる。また、UVインプリント方式を採用する際には、紫外線照射の効率化の観点から、モールド自体に紫外線透過性が求められる場合が多い。この場合、樹脂モールドであれば、材料の選定を容易に行うことができる。具体的には、モールド部材の材料として、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の紫外線透過性樹脂を用いた場合、モールドの両面からのUV照射が可能となるため、成形材料側からのUV照射が困難である場合、例えば紫外線非透過性の基板上に成形材料がある場合であっても、モールド側からのUV照射により成形体を作ることが可能である。なお、このような樹脂モールドの他の利用方法としては、実験用レプリカとしての利用方法が挙げられる。具体的には、モールドに起因する問題がある場合、該モールドの凹凸パターンを転写した一次樹脂モールドを製造し、更に該一次樹脂モールドの凹凸パターンを転写した二次樹脂モールドを製造し、この二次樹脂モールドを実験用レプリカとして用いることで、コストを抑えた検討が可能となる。
【0022】
また、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、表面に凹凸パターンを有するが、該凹凸パターンは、図1に示されるように、モールド部材表面の突起した部分を表す凸部8と、モールド部材表面の窪んだ部分を表す凹部9とから形成されている。なお、本発明において、凸部の最も高い位置と凹部の最も低い位置との高低差を凹凸パターンの高さHとして定義するが(図1参照)、この凹凸パターンの高さHは、0.1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。更に、本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることが好ましいが、ここで、モールド部材の厚みTとは、モールド部材の裏面から凸部の最も高い位置までの高さを指す。
【0023】
更に、上記モールド部材は、端面に整合部を有することを要する。ここで、図3は、モールド部材の整合部の一例を示す断面図であり、図4は、モールド部材の整合部の他の例を示す断面図である。図3に示されるように、整合部は、モールド部材3,4の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることが好ましく、具体的には段状であることが好ましい。モールド部材同士をきちんと合わせて組み合わせるため、整合部には平滑性が求められるが、図3に示されるような形状(段状)の整合部2であれば、平滑性を確保した上で、整合後のモールド部材の位置がずれることをより確実に抑制することも可能である。また、図3に示されるように、モールド部材の裏面に対して平行な面と垂直な面から形成される形状は、加工が容易である。なお、本発明において、平行とは、平行又は略平行を意味し、ここで、略平行な面とは、平行な面に対して±1度の範囲の角度で傾斜した面を指す。また、本発明において、垂直とは、垂直又は略垂直を意味し、ここで、略垂直な面とは、垂直な面に対して±1度の範囲の角度で傾斜した面を指す。一方、図4に示されるように、整合部は、モールド部材3,4の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えてもよい。図1及び図4に示されるように、整合部2がモールド部材の裏面に対して傾斜した面を備える場合、モールド部材を滑らせながら整合させることができ、より正確な位置合わせが可能となる。そして、その傾斜角度が45度及び135度に近い程、すべり摩擦力が小さくなり、整合させる際の位置合わせが容易になるため、30度〜60度又は150度〜120度の傾斜角度が特に好ましい。
【0024】
本発明のインプリント用モールドにおいて、モールド組立体は、複数のモールド部材を該モールド部材の整合部を介して組み合わせることにより形成される。従って、モールド組立体の表面には、大面積の凹凸パターンを形成することができ、例えば、モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積を1000cm2以上にすることができる。
【0025】
本発明のインプリント用モールドは、モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面(モールド組立体の裏面)に固定した弾性体を備えることを要する。モールド組立体に弾性体を固定することで、該モールド組立体を構成するモールド部材がずれて、モールド組立体の凹凸パターンを有する表面に継ぎ目による段差が発生することを防止することができる。また、モールドが弾性体を備えることで、インプリントプロセスの際に均一な押圧を行うことができ、被成形基材の表面粗さにばらつきが生じていた場合であっても、インプリントプロセスを効果的に行うことができる。なお、弾性体とは、モールド組立体の弾性率より低い弾性率を有するものを意味し、その形状は、例えば図1に示されるように、モールド組立体の裏面を覆う膜状の弾性体5であることが好ましく、また、弾性体の材料としては、例えば、ポリイソプレン、ポリウレタンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム等のゴム、シリコーン等を用いることができる。
【0026】
また、上記弾性体は、本発明のインプリント用モールドをUVインプリントプロセスで使用することを想定した場合、紫外線透過率が80%以上であることが好ましい。更に、上記弾性体の線膨張係数が高いと、インプリントプロセスの際に熱を印加した場合、モールドに反りを生じさせる可能性があるため、上記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることが好ましい。また更に、上記弾性体は、耐久性の観点から、ゴム硬度が10以上であることが好ましい。なお、紫外線透過率は、365nmの波長における透過率を分光光度計[例えば、日立分光光度計U−4100]を用いて測定することにより得られる。線膨張係数は、長さ10mmの角柱サンプルを昇温速度5℃/minにて20℃から200℃まで昇温させ、該サンプルの熱膨張による伸び(変化量)を測定し、算出される。ゴム硬度は、JIS K6253:2006に準拠して、デュロメータ硬さを測定することにより求められる。
【0027】
本発明のインプリント用モールドは、各種インプリント方式に利用できるが、その形状は、平板状モールドであることが好ましい。また、本発明のインプリント用モールドが平板状モールドである場合、例えば、平板状モールド上の凹凸パターンをロールに転写し、該ロールをモールドとして使用することで、より大面積の凹凸パターンを成形体に形成させることができる。更に、凹凸パターンの形状自由度も高いため、本発明のインプリント用モールドは、大面積への微細成形の実現による成形体の高機能化、及び成形体の生産性向上による低コスト化をも実現することが可能である。なお、成形体の材料(成形材料)は、本発明のインプリント用モールドに使用する上で特に制限されるものではなく、モールドの凹凸パターンの反転形状のパターンを成形できる各種成形材料を使用することができる。但し、本発明のインプリント用モールドがUV光に対して不透過である場合、UVインプリントプロセスにおいては、成形材料に紫外線透過性が要求される。また、成形時における成形材料の流動性を確保するため、未硬化又は半硬化の樹脂材料を成形材料として使用することが好ましく、この場合、例えば、該樹脂材料にモールドを押し付けた後に、樹脂材料の硬化処理を行うことになる。
【0028】
更に、本発明のインプリント用モールドは、少なくとも凹凸パターンを有する表面に離型処理が施されていることが好ましい。例えば、インプリントプロセスにおいては、モールドの凹凸パターン上に成形材料を流し、固化させることで成形を完了することになるが、成形体をモールドから取り出す際に、成形体の凹凸パターンが破壊される場合もある。従って、フッ素系樹脂等のフッ素成分を含有する材料の塗布による離型処理を行うことで、成形体がモールドに付着することを防止し、成形体の凹凸パターンが破壊されることを抑制することができる。なお、フッ素成分を含有する材料の塗布方法としては、ディップ工法、スプレー塗布、スピンコート法などが知られているが、離型処理を施す面にプラズマ処理などの工法により該面を清浄にし、該面を例えばフッ素系樹脂を含む液に浸漬させることで、フッ素系樹脂の単分子膜を形成させることもできる。
【0029】
<インプリント用モールドの製造方法>
以下に、図を参照しながら、本発明のインプリント用モールドの製造方法を詳細に説明する。図5〜図13は、本発明のインプリント用モールドの製造方法の概略図である。
【0030】
まず、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、モールド部材の表面に凹凸パターンを形成させるためのモールド(以下、パターン形成用モールドともいう)を準備する。ここで、パターン形成用モールドは、必要とされる凹凸パターンの微細度に応じて材料の選定が行われており、シリコン、アルミニウム、石英、クロム等の基板を用いることが好ましく、シリコンウェハーを用いることが好ましい。シリコンは、加工性に優れ、またシリコンの加工に要する装置の入手が容易である。そして、電子ビーム等により基板に直接凹凸パターンを描画する方法や、フォトリソグラフィ技術等により基板上に凹凸パターンを設ける方法により、パターン形成用モールドを作製することができる。図5〜7は、基板上に凹凸パターンを形成する工程の一例を示す。具体的には、まず、基板10上にUV感光性レジストを塗布し、均一な膜厚のレジスト層11を形成させる(図5)。ここで、UV感光性レジストの基板への塗布方法としては、スピンコート、スプレーコート、カーテンコート等の各種方法を適用できる。なお、UV感光性レジストは、例えば紫外線照射による光反応によって硬化する材料であり、具体的には、SU8、KMPRシリーズ(エポキシ樹脂系,日本化薬社製);NR−006Bシリーズ(ノボラック・ナフトキノン系,東京応化工業社製);TMMRシリーズ(エポキシ樹脂系,東京応化工業社製)等が挙げられる。次に、露光装置等を用いて、基板10上のレジスト層11に対してマスク12(例えば、ガラスマスク)越しにUV光13を照射し、露光を行うが(図6)、通常、露光処理前のレジスト層11に対してオーブン等による熱処理(一次熱処理)を行ってもよい。なお、他の露光方法として、上述の電子ビーム等による描画方法を利用してもよい。次いで、例えば浴槽14内の現像液15中に、マスクによる遮蔽によりUV光が照射されていない部分のレジスト層を溶解し、パターンニングを行い、UV光の照射により硬化した部分のレジスト層と基板とを備えるパターン形成モールド16を得ることができる(図7)。ここで、現像液は、レジスト材料に応じて選択されるが、例えば、PGMEA(ポリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート)、TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)等を使用できる。なお、パターンニング(例えば、現像処理)前に、露光処理後のレジスト層11に対してオーブン等による熱処理(二次熱処理)を行ってもよい。また、必要に応じて、ドライエッチング、ウェットエッチングといったエッチング処理を行ってもよく、ドライエッチングを行う場合のエッチングガスとしては、CF4、CHF3などのフッ素系ガス、Cl2などの塩素系ガス、HBrなどの臭素系ガスを使用でき、ウェットエッチングを行う場合のエッチング溶液としては、KOH水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液などを使用できる。
【0031】
次に、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、パターン形成用モールドの凹凸パターンが転写された一次加工モールド部材を準備し、次いで、該一次加工モールドの端面を切削して整合部を形成させ、モールド部材を準備する。図8〜11は、モールド部材の凹凸パターン及び整合部を形成する工程の一例を示す。
【0032】
具体的には、図8に示されるように、めっき液17にパターン形成モールド16を浸漬させて電鋳めっき処理を行うことで、パターン形成モールド16の凹凸パターンが転写され、その反転パターンを有する一次加工モールド部材18を準備することができる。なお、めっき液としては、ニッケル系めっき液、シアン化銅めっき液、硫酸銅めっき液、スルファミン酸ニッケルめっき液、クロムめっき液、シアン化亜鉛めっき液、錫めっき液、銀めっき液、シアン化金めっき液等を使用できる。図9には、パターン形成モールド16からはがされた一次加工モールド部材18が示されているが、パターン形成面以外の面をダイシング等の切削加工により平滑面とすることが好ましい。なお、電鋳めっき処理を採用する場合、めっきの成長スピードはめっき液の流れの差異により影響を受けるため、複雑な凹凸パターンの場合、めっき厚み、即ちモールド部材の厚みにばらつきが生じ、モールド部材の裏面側に凹凸パターンが裏移りする現象や、モールド部材に反りを生じる現象が見られることがある。従って、かかる不具合を極小化するため、モールド部材の厚みを、凹凸パターンのサイズ(高さ)に対して10倍以上にすることが好ましい。一方、電鋳めっき処理のコストはめっきの成長に要する時間に依存しており、不具合のない範囲で可能な限り短い時間で電鋳めっき処理を行うことが望ましいため、モールド部材の厚みは、凹凸パターンのサイズ(高さ)に対して10倍〜50倍であることが更に好ましい。
【0033】
次に、図10に示されるように、ダイシングブレード19を用いた切削加工により、一次加工モールド部材18の端面を切断し、整合部2を形成することで、第一モールド部材20を準備する。なお、切削加工には、各種ダイシング技術が適用でき、レーザダイシング等を利用してもよい。また、図11に示されるように、第一モールド部材の整合部と整合させることが可能な整合部2を有する第二モールド部材21を準備する。
【0034】
最後に、本発明のインプリント用モールドの第一の製造方法においては、複数のモールド部材を整合部を介して組み合わせてモールド組立体を形成し、該モールド組立体の裏面に弾性体を固定することで、本発明のインプリント用モールドが得られる。図12は、モールド組立体を形成する工程の一例を示し、図13は、弾性体を固定する工程の一例を示す。複数のモールド部材は凹凸パターンを有する面を同じ側に向けて整合させることになるため、例えば図12に示されるように、平滑な面を有する板22を準備し、該平滑な面上で第一及び第二モールド部材20,21を組み合わせるのが好ましい。なお、モールド部材の整合部での密着性を高めるため、真空吸着手段を用いてもよい。また、図12では、2個のモールド部材を組み合わせてモールド組立体を製造しているが、3個以上のモールド部材を組み合わせてモールド組立体を製造することもできる。次に、図13に示されるように、モールド組立体23の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に、硬化性樹脂等を塗布して硬化させ、弾性体5を形成することにより、インプリント用モールド1を得ることができる。また、接着剤等を用いて、弾性体5をモールド組立体の裏面に固定してもよい。
【0035】
本発明のインプリント用モールドの第二の製造方法は、第一の製造方法にて得られたパターン形成用モールドに対し、第一の製造方法と同様な切削加工を行うことにより、パターン形成用モールドに整合部を形成させ、これをモールド部材として使用する。従って、その後に続くモールド部材を組み合わせてモールド組立体を形成する工程及びモールド組立体の裏面に弾性体を固定する工程は、第一の製造方法と同じである。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
直径300mmφ、厚さ0.725mmの単結晶シリコン基板を4枚準備した。準備した単結晶シリコン基板をメチルエチルケトンで洗浄した後、スピンコート法により単結晶シリコン基板上に、レジスト(SU8−50、日本化薬社製)を約30μmの膜厚で塗布し、オーブン中で一次ベーク処理を行った。一次ベーク済みレジスト層を備えるシリコン基板上にガラスマスクを設置し、マスク越しに365nm付近の波長による露光を行った。露光処理後のレジスト層付きシリコン基板に対してオーブン中で二次ベーク処理を行い、その後、上記レジスト用の現像液[PGMEA(ポリプロピレングリコールメチルエーテルアセテート),日本化薬社製]中で、レジスト層付きシリコン基板を揺動させることにより、レジスト層においてガラスマスクによりUV光が遮蔽されていた部分を溶解し、表面に凹凸パターンを有するシリコン基板を得た。得られたシリコン基板の凹凸パターンの形状をエリプソメーターで測定したところ、ライン幅(凸部及び凹部の幅)10μm、ライン高さ(凹凸パターンの高さ)10μmのストライプ構造であった。他の3枚のシリコン基板に対しても同様に処理し、同一の凹凸パターンを有する4枚のシリコン基板を製造した。次に、凹凸パターン上に保護膜として切断加工用のテープを貼り、パターン面を保護した。シリコン基板の中心と凹凸パターンの中心の位置を確認した後、ダイシングソーを用いたダイシングによりシリコン基板の裏面に対して傾斜した端面を有する200mm□のシリコン基板を切り出し、モールド部材を得た。他の3枚のシリコン基板に対しても同様に処理を行い、4枚のモールド部材を準備した。なお、モールド部材の整合部は、モールド部材の裏面に対し30度又は150度の角度で傾斜した面であった。次いで、真空吸着機能を備えた平滑な板[シグマ光機社製平滑ガラス(オプティカルフラット)]の水平面に、凹凸パターンを有する表面側が接するように4枚のモールド部材を設置し、これらモールド部材の整合部を介して位置合わせした状態で、真空吸着処理を行い、モールド部材を仮固定し、モールド組立体を得た。なお、真空吸着機能を備えた平滑な板とは、穴加工が施された板であって、該穴を通して吸引を行うことができる板を指す。次いで、モールド組立体の裏面に、ポリジメチルシロキサン(Dow Corning社製Sylgard 184)を塗布し、常温(約25℃)で48時間放置することで、ポリジメチルシロキサンの硬化により弾性体を形成させ、インプリント用モールドを製造することができた。なお、ポリジメチルシロキサンの硬化による弾性体は、紫外線透過率が90%以上で、線膨張係数が300ppmで、ゴム硬度(ショアA)が48であった。また、インプリント用モールドの凹凸パターン上には、プラズマ処理後、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリクロロシランを塗布することで、その単分子膜を形成させた。
【0038】
(実施例2)
実施例1で得られた表面に凹凸パターンを有するシリコン基板を用いて、実施例1とは異なる方法(電鋳めっき処理を利用する方法)で、インプリント用モールドを製造した。具体的には、実施例1で得た凹凸パターンを有するシリコン基板をニッケル系めっき液(日本カニゼン株式会社製、カニフロンSEF−150−S)に浸漬させNi電鋳めっき処理を施し、該シリコン基板上の凹凸パターンが転写された一次加工モールド部材を製造した。なお、Ni電鋳めっき処理を繰り返し行うことで、4枚の一次加工モールド部材を準備した。なお、その他の工程、即ち整合部の形成、モールド組立体の製造、弾性体の形成等は、実施例1と同様に行われた。
【0039】
(実施例3)
実施例1及び実施例2で得たインプリント用モールドを用い、インプリントプロセスを行った。具体的には、インプリント用モールドの凹凸パターンの凹部にUV硬化性の樹脂(東洋合成社製、PAK−01)を充填し、減圧処理を行うことで、UV硬化性樹脂の脱泡を行った。次に、UV光を透過するアクリルフィルムを、UV硬化性樹脂が凹部に充填された凹凸パターンを有するモールドの表面上に常温で張り合わせた。次いで、LEDランプにより365nmの波長のUV光(10mmJ/cm2)をアクリルフィルム側から照射し、UV硬化性樹脂を硬化させた。UV硬化性樹脂の硬化後、アクリルフィルムを反らせながらモールドから取り外した。アクリルフィルム及びモールドは、一定の可とう性を有していたため、モールドの表面とアクリルフィルムの界面剥離は、面剥離ではなく線剥離となり、高い歩留まりで離型を行うことができた。アクリルフィルム上に形成された凹凸パターンには、モールド部材の継ぎ目による段差が観察されず、大面積に亘って高品質なインプリント成形が実現できたことが分かる。
【0040】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0041】
(付記1)
表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とするインプリント用モールド。
【0042】
(付記2)
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0043】
(付記3)
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0044】
(付記4)
前記モールド部材は、凹凸パターンの高さが0.1μm〜100μmの範囲であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0045】
(付記5)
前記モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0046】
(付記6)
前記モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積が1000cm2以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0047】
(付記7)
前記弾性体は、紫外線透過率が80%以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0048】
(付記8)
前記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0049】
(付記9)
前記弾性体は、ゴム硬度が10以上であることを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【0050】
(付記10)
前記モールド部材の材料に、ニッケル、シリコン又は石英を用いたことを特徴とする付記1に記載のインプリント用モールド。
【符号の説明】
【0051】
1 インプリント用モールド
2 整合部
3 モールド部材
4 モールド部材
5 弾性体
6 モールド組立体
7 モールド部材
8 凸部
9 凹部
10 基板
11 レジスト層
12 マスク
13 UV光
14 浴槽
15 現像液
16 パターン形成用モールド
17 めっき液
18 一次加工モールド部材
19 ダイシングブレード
20 第一モールド部材
21 第二モールド部材
22 板
23 モールド組立体
H 凹凸パターンの高さ
T モールド部材の厚み
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とするインプリント用モールド。
【請求項2】
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項3】
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項4】
前記モールド部材は、凹凸パターンの高さが0.1μm〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項5】
前記モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項6】
前記モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積が1000cm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項7】
前記弾性体は、紫外線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項8】
前記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項9】
前記弾性体は、ゴム硬度が10以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項10】
前記モールド部材の材料に、ニッケル、シリコン又は石英を用いたことを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項1】
表面に凹凸パターンと端面に整合部とを有する複数のモールド部材を該整合部を介して組み合わせてなるモールド組立体と、前記モールド組立体の凹凸パターンを有する表面と反対側の面に固定した弾性体とを備えることを特徴とするインプリント用モールド。
【請求項2】
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対して平行な面と該裏面に対して垂直な面とから形成されていることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項3】
前記整合部が、前記モールド部材の裏面に対し30度〜60度の角度又は150度〜120度の角度で傾斜した面を備えることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項4】
前記モールド部材は、凹凸パターンの高さが0.1μm〜100μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項5】
前記モールド部材は、厚みが1μm〜5mmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項6】
前記モールド組立体は、凹凸パターンを有する表面の面積が1000cm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項7】
前記弾性体は、紫外線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項8】
前記弾性体は、線膨張係数が300ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項9】
前記弾性体は、ゴム硬度が10以上であることを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【請求項10】
前記モールド部材の材料に、ニッケル、シリコン又は石英を用いたことを特徴とする請求項1に記載のインプリント用モールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−4858(P2013−4858A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136330(P2011−136330)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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