ウィルス感染症のリポソーム処置
B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)および牛ウィルス性下痢症ウィルス(BVDV)感染症などのウィルス感染症は、小胞体(ER)膜中に直接、pH感受性リポソームを送達することにより処置することができる。例示的な2種のリポソーム製剤は、DOPE/CHEMS(DCリポソーム)およびDOPE/CHEMS/PEG−PE(DCPPリポソーム)である。DCおよびDCPPリポソームは、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)の細胞内送達を最適化し、その結果、このイミノ糖のインビボ活性を数桁増大させることができ、しかもインターフェロンおよび/またはリバビリンなどの他の治療剤と併用することができた。直接ER中へのNB−DNJの最適化放出は、NB−DNJが有効な抗ウィルス剤であることが知られている、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)などの他のウィルスの処置にも適用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、共にその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2006年8月2日出願のDwek他への米国仮出願第60/834797号および2006年9月22日出願のDwek他への同第60/846344号に対する優先権を主張する。
【0002】
本願は、一般に、ウィルス感染症を処置する方法および組成物、ならびにより具体的には、リポソームを利用してウィルス感染症を処置する方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
B型肝炎ウィルス。B型肝炎ウィルス(HBV、HepB)は、肝線維症、肝硬変、炎症性肝疾患、および一部の患者に死をもたらす恐れのある肝臓癌を含めた急性および慢性肝疾患の病原体である。例えば、Joklik, Wolfgang K., Virology, Third Edition, Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1988 (ISBN 0-8385-9462-X)を参照されたい。有効なワクチンは入手できるが、全世界で2億8千万強の人々、即ち世界人口の5%が、このウィルスになお慢性的に感染している。例えば、Locarnini, S. A., et. al., Antiviral Chemistry & Chemotherapy (1996) 7(2):53-64を参照されたい。このようなワクチンは、このウィルスに既に感染している人々には治療価値がない。欧州および北米では、人口の0.1%〜1%が感染している。感染している個人の15%〜20%が、HBV感染から肝硬変または原因の別の慢性障害を発症すると推定されている。肝硬変が一旦定着すると、罹患率および死亡率は多大であり、患者の存命期間は約5年である。例えば、Blume, H., E., et. al., Advanced Drug Delivery Reviews (1995) 17:321-331を参照されたい。
【0004】
C型肝炎ウィルス。全世界で約1億7千万の人々、即ち世界人口の3%(例えば、WHO, J. Viral. Hepat. 1999; 6: 35-47を参照されたい)、および米国内で約4百万の人々が、C型肝炎ウィルス(HCV、HepC)に感染している。HCVに急性感染している個人の約80%は、慢性感染症になる。したがって、HCVは慢性肝炎の主因である。一旦慢性感染症になると、処置せずにこのウィルスが一掃されることは殆どない。稀な症例では、HCV感染が、臨床的に急性の疾患および肝不全さえ起こす。慢性HCV感染症は個人間の差が激しいことがあり、一部の人々は、臨床的にさほどのことがない、または僅かな肝疾患に罹り、合併症を発現することはなかろうが、他の人々は、臨床的に明白な慢性肝炎に罹ると見込まれ、肝硬変の発現に進行する恐れがある。肝硬変を発症することが確かなHCV保有者の約20%は、末期の肝疾患を発症し、原発性肝臓癌発症の危険性が高まろう。
【0005】
単独使用またはリバビリンとの併用のインターフェロンなどの抗ウィルス薬は、患者の80%までに有効である(Di Bisceglie, A. M, and Hoofnagle, J. H. 2002, Hepatology 36, S121-S127)が、多くの患者はこの種の併用療法に耐えられない。
【0006】
牛ウィルス性下痢症ウィルス。牛ウィルス性下痢症ウィルス(BVDV)は、世界的に分布しており、大部分の畜牛集団に蔓延している。BVDVは、HCVの組織培養代用物としても汎用される。BVDVには2つのウィルスバイオタイプ、非細胞変性型(ncp)および細胞変性型(cp)が存在する。ウィルスバイオタイプの分類は、培養細胞における細胞変性作用に基づいており、病原性とは関係ない。ncp BVDVは畜牛において一般的であるが、cpバイオタイプは比較的稀であり、特定の変異事象がウィルスゲノム中に起こった後のncp株から生じる。組織培養におけるcp BVDV株による細胞の感染は、細胞単層上でのアポトーシス細胞集合体(プラーク)の形成を特徴とし、それは顕微鏡で容易にモニターすることができる。
【0007】
ヒト免疫不全ウィルス。ヒト免疫不全ウィルス(HIV)は、後天性免疫不全症候群(AIDS)および関連障害の病原体である。HIVには少なくとも2種の異なるタイプ、HIV−1およびHIV−2が存在する。更に、こうしたタイプ各々の集団内に遺伝的異質性が多量に存在する。AIDS流行の開始以来、およそ2千万人が死んでおり、現在4千万人がHIV−1/AIDSに罹って生活しており、世界全体で毎日1万4千人が感染すると推定されている。
【0008】
少なくとも利用可能な人たちにとって、生活の質、量共に大いに改善してきた多数の抗ウィルス治療剤および診断有効剤が、開発されてきた。こうした薬物の大部分は、逆転写、プロテアーゼ活性などのウィルスのタンパク質または過程を妨害する。遺憾ながら、こうした処置剤が感染を消失させることはなく、多くの治療剤の副作用は重く、薬物耐性HIV株が、現在使用されている抗ウィルス剤全種に対して存在する。
【0009】
治療剤としてのN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)。別名N−ブチル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトールのNB−DNJは、ERグルコシダーゼIおよびIIによるプロセシングを阻害し、とりわけ、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、およびB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスなどの肝炎ウィルス、牛ウィルス性下痢症ウィルスの糖タンパク質の異常折畳みおよび/またはER保持を起こすことにより、有効な抗ウィルス剤であることが示されている。NB−DNJおよび他のN置換デオキシノジリマイシン誘導体の合成法は、例えば、米国特許第5622972号、第4246345号、第4266025号、第4405714号および第4806650号に記載されている。NB−DNJの抗ウィルス作用は、例えば、肝炎ウィルスに対しては米国特許第6465487号、第6545021号、第6689759号、第6809083号に、HIVウィルスに対しては米国特許第4849430号に考察されている。
【0010】
NB−DNJなどのグルコシダーゼ阻害剤は、細胞培養においても、ウッドチャック動物モデルを使用してもHBV感染の処置に有効であることが示されている。例えば、T. Block, X. Lu, A. S. Mehta, B. S. Blumberg, B. Tennant, M. Ebling, B. Korba, D. M. Lansky, G. S. Jacob & R. A. Dwek, Nat. Med. 1998 May;4(5):610-4を参照されたい。NB−DNJは、HBV粒子の分泌を抑制し、HBV DNAの細胞内保持を起こす。
【0011】
NB−DNJは、HCVの細胞培養モデルであるBVDVに対する強力な抗ウィルス剤であることが示されている。例えば、Branza-Nichita N, Durantel D, Carrouee-Durantel S, Dwek RA, Zitzmann N., J. Virol., 2001 April; 75(8):3527-36; Durantel, D., et al, J. Virol., 2001, 75, 8987-8998; N. Zitzmann, et al, PNAS, 1999, 96, 11878-11882を参照されたい。NB−DNJによる処置は、ウィルス子孫の感染性を低下させるが、分泌ウィルスの実数にはそれほどの効果がない。
【0012】
NB−DNJは、HIVに対する抗ウィルス剤であることが示されており、処置によって、HIV感染細胞から放出されるウィルス粒子の個数に相対的に小さな作用を起こすが、感染性ウィルスの量を著しく減少させる。例えば、P.B. Fischer, M. Collin, et al (1995), J. Virol. 69(9): 5791-7; P.B. Fischer, G.B. Karlsson, T. Butters, R. Dwek and F. Platt, J. Virol. 70(1996a), pp. 7143-7152, P.B. Fischer, G.B. Karlsson, R. Dwek and F. Platt, J. Virol. 70(1996b), pp. 7153-7160を参照されたい。NB−DNJに関する臨床試験がHIV−1感染患者において行われ、その結果、抗ウィルス活性に必要な濃度が高過ぎて、患者に重度の副作用を起こすことが示された。例えば、Fischl M.A., Resnick L., Coombs R., Kremer A.B., Pottage J.C.Jr, Fass R.J., Fife K.H., Powderly W.G., Collier A.C., Aspinall R.L., et. al., J. Acquir. Immune. Defic. Syndr. 1994 Feb; 7(2):139-47を参照されたい。NB−DNJ処置に対して耐性な変異HIV株は、現在のところ存在しない。
【0013】
ERタンパク質折畳みならびにグルコシダーゼIおよびII。グルコシダーゼ阻害により示される抗ウィルス作用は、主にカルネキシン/カルレチキュリンサイクルへの進入を遮断することによる、ER内でのウィルス糖タンパク質の異常折畳みまたは保持の結果であると考えられている。成長ポリペプチド鎖中のAsn−X−Ser/Thrコンセンサス配列へトリグルコシル化オリゴ糖(Glc3Man9GlcNAc2)が移行した後、成熟糖鎖単位への更なるプロセシングが起こり得る前に、α連結グルコース残基3個を放出することが必要である。その上、カルネキシン/カルレチキュリンサイクルへ進入できるように、外側2個のグルコース残基が、適切に折り畳めるように切り取られなければならない。例えば、Bergeron, J.J. et. al., Trends Biochem. Sci., 1994, 19, 124-128; Peterson, J. R. et. al., Mol. Biol. Cell, 1995, 6, 1173-1184を参照されたい。開始プロセシングは、内腔状配向の触媒ドメインを有し、α1−2連結グルコース残基を特異的に切断するER配置内在性膜酵素(グルコシダーゼI)に作用され、この後、α1−3連結グルコース成分の両者を放出するグルコシダーゼIIの作用を受ける。
【0014】
リポソーム。リポソームは、分子障壁として作用する細胞膜を迂回することにより、細胞内へ直接水溶性化合物を送達することができる。pH感受性リポソーム製剤は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)またはその誘導体(例えば、DOPE)と、中性pHで安定剤として作用できる酸性基含有化合物との組合せを含むことができる。コレステリルヘミスクシネート(CHEMS)は、そのコレステロール基が、他の両親媒性安定剤と比較して、インビボでPE含有小胞に高い安定性を付与するので、良好な安定化分子となり得る。リポソーム媒介送達のインビボ効果は、薬物動態および生体内分布に影響し得る血清成分(オプソニン)との相互作用に強く依存することができる。pH感受性リポソームは、血液循環系から急速に除去され、肝臓および脾臓中に蓄積できるが、共役結合したポリエチレングリコール(PEG)を有する脂質を包含すると、DOPE:CHEMSリポソーム上の正味負電荷を安定化させることにより、細網内皮系(RES)による除去を克服し、長い循環時間に至ることができる。DOPE−CHEMSおよびDOPE−CHEMS−PEG−PEの各リポソームおよびそれらの調製法は、例えば、共にその全体が参照により本明細書に組み込まれるV.A. Slepushkin, S. Simoes, P. Dazin, M.S. Newman, L.S. Guo and M.C.P. de Lima, J. Biol. Chem. 272(1997) 2382-2388およびS. Simoes, V. Slepushkin, N. Duzgunes and M.C. Pedroso de Lima, Biomembranes 1515 (2001) 23-37に記載されている。
【0015】
DOPE−CHEMS(モル比6:4)中に封入されたNB−DNJの送達は、米国特許出願第US2003/0124160号に開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)DOPEおよびCHEMSの各脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された1種または複数の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、ウィルス感染症が、ER膜出芽ウィルス感染症または原形質膜出芽ウィルス感染症であり、1種または複数の治療剤がN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含み、前記投与が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、1種または複数の治療剤を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法を提供する。
【0017】
本発明の別の実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された1種または複数の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法を提供する。1種または複数の治療剤は、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含むことができる。
【0018】
更に別の実施形態は、(a)pH感受性リポソームと、(b)リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物を投与することを、それを必要とする宿主に含み、前記投与が、抗原提示細胞の主要組織適合性分子クラス1による抗原提示を増加させる方法を提供する。
【0019】
更に別の実施形態は、HIV感染症を処置する方法であって、gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法を提供する。
【0020】
また更に別の実施形態は、DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入されたN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)などの少なくとも1種の治療剤とを含む組成物である。
【0021】
また更に別の実施形態は、pH感受性リポソームと、リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物である。
【0022】
また更に別の実施形態は、gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物である。
【0023】
また更に、別の実施形態によれば、ウィルス感染症を処置または予防する方法は、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与し、前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞のER内腔中に、少なくとも1種の該治療剤を送達し、細胞のER膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込むことを含む。
【0024】
また更に、別の実施形態によれば、ある組成物が、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の抗ウィルス治療剤とを含む。
【0025】
また更に別の実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体膜中に、リポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法である。
【0026】
また更に別の実施形態は、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質とを含む組成物である。
【0027】
また更に別の実施形態は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物である。
【0028】
また更に別の実施形態は、生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法である。
【0029】
また更に別の実施形態は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物である。
【0030】
また更に別の実施形態は、生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】DCPP−Rhリポソームを介した送達後の脱消光カルセインおよび蛍光標識脂質(Rh−PE)の小胞体(ER)局在性を示す図である。
【図2】CHOおよびMDBK細胞におけるDCPPリポソームの毒性を示す図である。PBSを封入したDCPPリポソームを、0〜500μMの範囲の最終脂質濃度にしてCHO細胞に添加し、0〜150μMの範囲の濃度にしてMDBK細胞に添加した。細胞およびリポソームを5日間インキュベートしておいた後、細胞生存率をトリパンブルー染色で測定した。その結果は、非処理対照と比較した生存細胞の比率(%)として提示している。
【図3】デオキシノジリマイシン(DNJ)、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)およびN−ノニルデオキシノジリマイシン(NN−DNJ)の各化合物を封入した場合の、CHO細胞におけるDCPP−Rhリポソームの取込みおよび細胞内カルセインの脱消光を示すプロットである。DCPP−Rhリポソームは、2段階の濃度で各化合物を封入して調製した。細胞膜中へのRh−PEの組込みで測定したリポソーム取込み、および細胞内放出の測定値であるカルセイン脱消光は、新鮮培地におけるリポソームの5分間パルスおよび30分間追跡の後に決定した。
【図4】各種DNJ分子を含有するDCPPリポソームのpH感受性を示す図である。
【図5】NB−DNJによる処理:遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達の後のBVDV分泌を示すプロットである。培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度50μMのリポソームを介して添加したNB−DNJによる処理中における、感染MDBK細胞からのBVDV粒子の分泌を、3日間のインキュベーション後にリアルタイムPCRで決定した。その結果は、リアルタイムPCRで検出し、非処理対照と比較したRNAコピー数の比率(%)として提示してある。
【図6】ncp BVDV感染性に対するNB−DNJの効果を遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達として示す図である。培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度50μMのリポソームを介して添加したNB−DNJの存在下、感染MDBK細胞が産生したncp BVDV粒子の感染性を、ナイーブMDBK細胞との3日間のインキュベーションにより測定した。感染細胞は、対照としてDAPI逆染色を用いて、MDBK細胞中に存在するBVDV非構造タンパク質の免疫蛍光染色により検出した。BVDV分泌のデータ(図2)を用いて最終的感染率(%)の計算を規格化した。
【図7】cp BVDVに対するNB−DNJの抗ウィルス作用を遊離状態送達対DCリポソーム媒介送達として示す図である。遊離した、またはDCリポソームに封入したNB−DNJの存在下、cp BVDVで感染したMDBK細胞を3日間増殖させた。分泌ウィルスを含有する上清を用いてナイーブMDBKを感染させた。3日後、生成したプラークを顕微鏡下で計数した(収率アッセイ)。
【図8】NB−DNJ存在下における、発現したHIVエンベロープタンパク質gp120に関するグリカンプロセシングの阻害を、遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達として示す図である。可溶型gp120を発現するCHO細胞を、培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度100μMのリポソームを介して添加したNB−DNJと共にインキュベートした。ERグルコシダーゼによるグルコース切取りの阻害で決定したNB−DNJ活性は、捕捉ELISAにおけるNB−DNJ処理gp120へのモノクローナル抗体2G12およびb12の結合により測定した。
【図9】(A〜C)8種の異なるHIV−1初代分離株に対する遊離NB−DNJの抗ウィルス作用を示す図である。図9Aは、様々な濃度のNB−DNJで4週間に亘り処理した8種の分離株のp24分泌平均値を示す。エラーバーは、各処理に対する分離株間の標準偏差を示す。図9Bは、0〜1mMの濃度範囲の遊離NB−DNJで当初処理した後の各初代分離株の分泌を示す。図9Cは、3週間処理した後のNB−DNJに対する個々の初代分離株の感受性を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、独立した2回の実験の3重試料から得た平均値を表す。各処理に対する近似的なIC50およびIC90は、グラフを横切る灰色(点)直線で示す。
【図10】(A〜H)8種のHIV−1初代分離株に対して、リポソームがNB−DNJの抗ウィルス活性を高める様子を示すデータを表す図である。各分離株で感染した(グラフA〜Hで表した)PBMCを、様々な濃度でNB−DNJを封入するリポソーム(L)で4週間に亘り処理した。培地中に遊離するNB−DNJ500μMによる処理(F)を、抗ウィルス活性の基準として示す。説明書きは、各処理のNB−DNJの最終濃度を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、独立した2回の実験の3重試料から得た平均値を表す。
【図11】広範囲のHIV−1分離株に感染した細胞による、sCD4−リポソームおよび免疫リポソームの取込みを示す図である。sCD4−リポソームおよびMAb−リポソーム各結合体(conjugate)を、異なる9種の初代分離株(括弧内はクレイド)に感染したPBMCと共にインキュベートする。取込みの増加は、インキュベーション後の細胞内蛍光脂質の増加により測定される。全ての値は、「非感染、リポソーム単独」対照に規格化したものであり、データは、1回の実験の3重試料から得た平均値±標準誤差を表す。相対的取込みデータは、一連の一元配置分散分析の後、事後テューキー検定を用いて各感染について個別に検定することにより、異なる標的指向分子間の有効性の差異を検定した。リポソーム結合体とリポソーム単独対照との取込み有意差(P<0.0001)は、星印で示す。
【図12】(A〜H)NB−DNJを封入したsCD4−リポソームの強力な相乗的抗ウィルス活性を示す図である。各分離株で感染した(グラフA〜Hで表した)PBMCを、様々な濃度でNB−DNJを封入するsCD4−リポソーム(CD4−L)で4週間に亘り処理した。培地中に遊離するNB−DNJ500μMによる処理(F)を、抗ウィルス活性の基準として示す。説明書きは、各処理のNB−DNJの最終濃度を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、1回の実験の3重試料から得た平均値を表す。
【図13−1】(A〜E)様々なリポソーム調製物による15分間パルス後のMDBK細胞内部にあるローダミン標識PEの代表的蛍光画像を示す図である。詳細には、図13AはDOPE:CHEMS:Rh−PE(6:4:0.1)、図13BはDOPC:CHEMS:Rh−PE(6:4:0.1)、図13CはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:1:0.1)、図13DはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:2:0.1)、および図13EはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:3:0.1)のデータを示す。Rh−PEの細胞内局在性は、各リポソーム調製物について0、1、2、5、24および48時間の各時点で観察した。全細胞を可視化するために、DAPI逆染色を使用した。
【図13−2】(図13−1の続き)
【図13−3】(図13−2の続き)
【図14】Rh標識PEを含有する様々なリポソーム調製物でcp−BVDV感染および非感染MDBK細胞を処理し、インキュベーション3日間後のRh−PE脂質の分泌を測定した結果を示す図である。同じリポソーム組成物で処理した感染細胞と非感染細胞との間のRh−PE分泌の増加は、ER膜から出芽した、Rh−PE脂質を含有するウィルス粒子の分泌に因るものであった。
【発明を実施するための形態】
【0032】
別途明記しない限り、「a」または「an」は「1つまたは複数」を意味する。
【0033】
用語の定義:
本明細書で使用する場合、用語「ウィルス感染」とは、ウィルスが健常な細胞に侵入し、細胞の繁殖機構を用いて増殖または複製し、最終的に細胞を溶解する結果、細胞死、ウィルス粒子の放出、および新生される子孫ウィルスによる他細胞の感染を起こす病的状態を表示する。特定のウィルスによる潜伏感染も、ウィルス感染の考え得る結果である。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「ウィルス感染の処置または予防」とは、特定ウィルスの複製を阻害すること、ウィルス伝染を阻害することまたはウィルスが宿主中に定着するのを予防すること、およびウィルス感染が起こす疾患の症状を改善もしくは緩和することを意味する。ウィルス負荷の低下、致死率および/または罹患率の減少が起これば、その処置は治療的と見なされる。
【0035】
用語「治療剤」とは、ウィルス感染またはそれが原因の疾患などの生理的病状の処置を補助することができる、分子または化合物などの任意の作用剤を指す。
【0036】
本明細書で使用する場合の用語「相乗的」とは、2種以上の任意の個別治療剤の相加的作用より有効である組合せを指す。本明細書で使用する場合の相乗的作用とは、ウィルス感染またはそれが原因の疾患などの生理的病状を処置または予防するために、いずれの個別治療剤もより少ない量(用量)で使用する能力を指す。このより少ない用量によって、処置の効力を低下させずに毒性を低下させることができる。それに加え、相乗的作用は、効力の改善、例えば抗ウィルス活性の改善をもたらすことができる。最後に、ウィルス感染については、相乗作用は、個別治療剤または個別治療法に対するウィルス耐性の回避または低下を改善し得る。
【0037】
リポソームは、球状二重層構成中に脂質を含む有機化合物と定義することができる。本明細書で考察するリポソームは、以下の略語で表現される1種または複数の脂質を含み得る。
CHEMSは、コレステリルヘミスクシネートの脂質を表す。
DOPEは、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
DOPCは、ジオレオイルホスファチジルコリンの脂質を表す。
PEは、ホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
PEG−PEは、ポリエチレングリコール(2000)−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
Rh−PEは、リサミンローダミンB−ホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
MCC−PEは、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[4−(p−マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキサミド]の脂質を表す。
PIは、ホスファチジルイノシトールの脂質を表す。
細胞内送達とは、リポソームから任意の細胞内区画への封入物質の送達を指す。
IC50またはIC90(阻害濃度50または90)は、ウィルス感染のそれぞれ50%または90%低下を実現するために使用される治療剤の濃度である。
DCリポソームは、DOPEおよびCHEMS脂質を6:3のモル比で含むリポソームを指定する。
DCPPリポソームは、DOPE、CHEMSおよびPEG−PE脂質を6:4:0.3のモル比で含むリポソームを指定する。
PBMCは、末梢血単核細胞を表す。
sCD4は、可溶性CD4分子を表す。「可溶性CD4」または「sCD4」またはD1D2」とは、水溶液中にあり、当業者に理解されるように、HIV Envのコンホメーションを変えることにより、膜固定天然CD4の活性を模倣できるCD4分子またはその断片を意味する。可溶性CD4の一例は、例えばSalzwedel et al. J. Virol. 74:326-333, 2000に記載される2ドメイン可溶性CD4(sCD4またはD1D2)である。
MAbは、モノクローナル抗体を表す。
DNJは、デオキシノジリマイシンを示す。
NB−DNJは、N−ブチルデオキシノジリマイシンを示す。
NN−DNJは、N−ノニルデオキシノジリマイシンを示す。
BVDVは、牛ウィルス性下痢症ウィルスを表す。
HBVは、B型肝炎ウィルスを表す。
HCVは、C型肝炎ウィルスを表す。
HIVは、ヒト免疫不全ウィルスを表す。
ncpは、非細胞変性を表す。
cpは、細胞変性を表す。
ERは、小胞体を表す。
CHOは、チャイニーズハムスター卵巣細胞を表す。
MDBKは、Madin−Darbyウシ腎細胞を表す。
PCRは、ポリメラーゼ連鎖反応を表す。
FOSは、遊離オリゴ糖を表す。
HPLCは、高速液体クロマトグラフィーを表す。
PHAは、フィトヘマグルチニンを表す。
FBSは、ウシ胎児血清を表す。
TCID50は、50%組織培養感染用量を表す。
ELISAは、酵素免疫吸着アッセイを表す。
IgGは、免疫グロブリンを表す。
DAPIは、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを表す。
PBSは、リン酸緩衝塩水を表す。
【0038】
ウィルス感染症のリポソーム処置
本発明者等は、細胞と接触した際、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PEの各脂質を含む、DCリポソームまたはDCPPリポソームなどのpH感受性リポソームが、エンドサイトーシスに従う細胞のエンドソーム経路を迂回し、細胞の小胞体(ER)中に、即ちER内腔中に直接、リポソーム中に封入した物質を送達できることを発見した。リポソームの1種または複数の脂質は、細胞のER膜中に一体化することもできる。ウィルスに感染した細胞のER膜とのリポソーム脂質の合体は、出芽ウィルス粒子のエンベロープを変化させ、したがって感染性を低下させることができるので、この発見は、ER膜からのウィルスの出芽を要する、HBV、HCVおよびBVDV感染などのウィルス感染の処置に主要な意味合いをもつことができる。
【0039】
本発明者等は、DCPPリポソーム中にN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を封入することにより、デオキシノジリマイシン(DNJ)、N−ノニルデオキシノジリマイシン(NN−DNJ)などの他のデオキシノジリマイシン化合物のDCPP封入と比較して、細胞内送達を増加させることができることも発見した。NB−DNJの細胞内送達のこのような増加により、NB−DNJのインビボ活性を高めることができる。
【0040】
更に本発明者等は、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PEの各脂質を含む、DCPPリポソームなどのリポソームが、独自の、即ちリポソーム内部に封入された任意の治療剤と関係のない抗ウィルス活性を有することができること、ならびにDCPPリポソームおよびそのリポソーム内部に封入されているNB−DNJなどの治療剤が、ウィルスに対して相乗的に作用することができることも発見した。
【0041】
したがって、一実施形態は、ER膜ウィルス出芽感染、即ち、ウィルスの出芽がER膜で起きることができる、HBV、HCVまたはBVDV感染などのウィルス感染を処置する方法である。この方法は、感染症の原因であるウィルスに感染した細胞を、DOPEおよびCHEMSの各脂質を含むリポソーム中にNB−DNJを封入した組成物と接触させることを含むことができる。このような接触によって、接触細胞のER膜へ1種または複数のリポソームの脂質を送達し、その膜を変化させ、その結果子孫ウィルスの感染性を低下させ、しかも封入NB−DNJを直接、細胞のER内腔中に放出することにより、感染性を低下させる相乗的治療をもたらすことができる。
【0042】
別の実施形態は、感染症の原因であるウィルスに感染した細胞を、1)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含有するリポソームと、2)リポソーム内部に封入した治療剤とを含有する組成物と接触させることにより、ウィルス感染を処置する方法である。該ウィルス感染は、例えば、HCV、HBV、BVDV、HIV、モロニーマウス白血病ウィルス、マウス肝炎ウィルス、単純疱疹ウィルス1型および2型、サイトメガロウィルス、シンドビスウィルス、セムリキ森林熱ウィルス、水疱性口内炎ウィルス、A型インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、デング熱ウィルス、または日本脳炎ウィルスの場合があり、そうしたウィルスは、R. A. Dwek, et al, Nat. Rev. Drug Discov. 2002 Jan; 1(1):65-75に記載されている。
【0043】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入した治療剤は、α−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。幾つかの実施形態では、α−グルコシダーゼ阻害剤はER α−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。一般に、ウィルスエンベロープ糖タンパク質の適正な折畳みのために、カルネキシンおよび/またはカルレチキュリンとの相互作用に依存するウィルスはいずれも、ER α−グルコシダーゼ阻害剤の標的とすることができる。
【0044】
該α−グルコシダーゼ阻害剤には、作用剤の非存在下での宿主α−グルコシダーゼの酵素活性と比較して、そのα−グルコシダーゼの酵素活性を少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%、またはそれを超えて阻害する作用剤がなり得る。用語「α−グルコシダーゼ阻害剤」は、宿主α−グルコシダーゼ活性を阻害する天然、合成双方の作用剤を包含する。
【0045】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、それだけに限らないが、デオキシノジリマイシン、ならびに式IIの化合物および医薬として許容可能なその塩などのN−置換デオキシノジリマイシンが含まれ、
【化1】
【0046】
式中、R1は、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換シクロアルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換オキサアルキル基から選択され、それだけに限らないが、アリールアルキル、シクロアルキルアルキル、分枝または直鎖アルキル基、およびオキサアルキル基から選択され、W、X、YおよびZは、各々独立に水素、アルカノイル基、アロイル基およびハロアルカノイル基から選択される。
【0047】
このような実施形態の幾つかでは、R1が、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、−(CH2)2O(CH2)5CH3、−(CH2)2O(CH2)6CH3、−(CH2)6OCH2CH3、および−(CH2)2OCH2CH2CH3から選択される。他のこのような実施形態では、R1がブチルであり、W、X、YおよびZは全て水素である。
【0048】
幾つかの実施形態では、式IIの化合物は、それだけに限らないが、N−(n−ヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ヘプチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−オクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−オクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ドデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(2−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(4−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(5−メチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−プロピルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−ペンチルペンチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−ブチルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(7−メチルオクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(8−メチルノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(9−メチルデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(10−メチルウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(6−シクロヘキシルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(4−シクロヘキシルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(2−シクロヘキシルエチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−シクロヘキシルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−フェニルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−(4−メチル)フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(6−フェニルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ドデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(2−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(4−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(5−メチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−プロピルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−ペンチルペンチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−ブチルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(7−メチルオクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(8−メチルノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(9−メチルデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(10−メチルウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(6−シクロヘキシルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(4−シクロヘキシルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(2−シクロヘキシルエチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−シクロヘキシルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−フェニルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−(4−メチル)フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(6−フェニルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、医薬として許容可能なそれらの塩、およびそれらの任意の2種以上の混合物から選択される。
【0049】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、米国特許第4639436号に記載のN−ヒドロキシエチルDNJ(MiglitolまたはGlyset(登録商標))などのN−オキサアルキル化デオキシノジリマイシンも含まれる。
【0050】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、米国特許出願第2006/0194835号に開示されている式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩などの、6−O−ブタノイルカスタノスペルミン(セルゴシビル)を含めたカスタノスペルミンおよびカスタノスペルミン誘導体、ならびにPCT公開第WO01054692号に開示されている式IIの化合物および医薬として許容可能なそれらの塩も含まれる。
【0051】
幾つかの実施形態では、該α−グルコシダーゼ阻害剤には、アカルボース(O−4,6−ジデオキシ−4−[[(1S,4R,5S,6S)−4,5,6−トリヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−2−シクロヘキセン−1−イル]アミノ]−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−O−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコース)、またはPrecose(登録商標)がなり得る。アカルボースは、米国特許第4904769号に開示されている。幾つかの実施形態では、該α−グルコシダーゼ阻害剤には、アカルボースの高純度型がなり得る(例えば、米国特許第4904769号を参照されたい)。
【0052】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤には、イオンチャンネル阻害剤がなり得る。幾つかの実施形態では、イオンチャンネル阻害剤は、HCV p7タンパク質の活性を阻害する作用剤でもよい。イオンチャンネル阻害剤およびそれらを同定する方法は、米国特許出願第2004/0110795号に詳述されている。適切なイオンチャンネル阻害剤には、式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩が含まれ、その中にはN−(7−オキサノニル)−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−7−オキサノニル6−MeDGJまたはUT231B)およびN−10−オキサウンデクル−6−MeDGJを含む。適切なイオンチャンネル阻害剤には、それだけに限らないが、N−ノニルデオキシノジリマイシン、N−ノニルデオキシノガラクトノジリマイシン、およびN−オキサノニルデオキシノガラクトノジリマイシンも含まれる。
【0053】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤は、イミノ糖を含むことができる。適切なイミノ糖には、天然イミノ糖および合成イミノ糖の双方が含まれる。
【0054】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖には、デオキシノジリマイシンまたはN置換デオキシノジリマイシン誘導体がなり得る。適切なN置換デオキシノジリマイシン誘導体の例には、それだけに限らないが、本願の式IIの化合物、米国特許第6545021号の式Iの化合物、および米国特許第4639436号に記載のN−ヒドロキシエチルDNJ(MiglitolまたはGlyset(登録商標))などのN−オキサアルキル化デオキシノジリマイシンが挙げられる。
【0055】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、カスタノスペルミンおよびカスタノスペルミン誘導体でもよい。適切なカスタノスペルミン誘導体には、それだけに限らないが、米国特許出願第2006/0194835号に開示されている式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩、ならびにPCT公開第WO01054692号に開示されている式IIの化合物および医薬として許容可能なそれらの塩が含まれる。
【0056】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、PCT公開第WO99/24401号および第WO01/10429号に開示されているようなデオキシノガラクトジリマイシンまたはそれらのN置換誘導体でもよい。適切なN置換デオキシノガラクトジリマイシン誘導体の例には、それだけに限らないが、N−ノニルデオキシノガラクトジリマイシンなどのN−アルキル化デオキシノガラクトジリマイシン(N−アルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール)、およびN−7−オキサノニルデオキシノガラクトジリマイシンなどのN−オキサアルキル化デオキシノガラクトジリマイシン(N−オキサアルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール)が挙げられる。
【0057】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、それだけに限らないが、式Iの化合物を含めたN置換1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N置換MeDGJ)でもよい:
【化2】
【0058】
式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換シクロアルキル基、置換もしくは非置換ヘテロシクリル基、または置換もしくは非置換オキサアルキル基から選択される。幾つかの実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜16個の炭素原子、または4〜12個の炭素原子、または8〜10個の炭素原子を含む。幾つかの実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜4個の酸素原子を含み、他の実施形態では、1〜2個の酸素原子を含む。他の実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜16個の炭素原子および1〜4個の酸素原子を含む。したがって幾つかの実施形態では、Rは、それだけに限らないが、−(CH2)6OCH3、−(CH2)6OCH2CH3、−(CH2)6O(CH2)2CH3、−(CH2)6O(CH2)3CH3、−(CH2)2O(CH2)5CH3、−(CH2)2O(CH2)6CH3、および−(CH2)2O(CH2)7CH3から選択される。N置換MeDGJは、例えばPCT公開第WO01/10429号に開示されている。
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤は、式VIIIを有する含窒素化合物または医薬として許容可能なその塩を含むことができ、
【化3】
式中、R12は、C1〜C20、またはC1〜C6もしくはC7〜C12もしくはC8〜C16などのアルキル基であり、1〜5個または1〜3個または1〜2個の酸素も含有することができ、R12は、オキサ置換アルキル誘導体でもよい。オキサ置換アルキル誘導体である場合の例には、3−オキサノニル、3−オキサデシル、7−オキサノニルおよび7−オキサデシルが挙げられる。
R2は水素であり、R3はカルボキシもしくはC1〜C4アルコキシカルボニルであり、またはR2およびR3が一緒になって、
【化4】
であり、式中、nは3もしくは4であり、各Xは、独立に水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C6アシルオキシ、もしくはアロイルオキシであり、各Yは、独立に水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C6アシルオキシ、もしくはアロイルオキシであり、または欠失しており(即ち、存在しない)、
R4は、水素または欠失しており(即ち、存在しない)、
R5は、水素、ヒドロキシ、アミノ、置換アミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アシルオキシ、またはアロイルオキシであり、あるいはR3およびR5が一緒になってフェニルを形成し、R4が欠失している(即ち、存在しない)。
幾つかの実施形態では、該含窒素化合物は以下の式を有し、
【化5】
式中、R6〜R10は、各々独立に、水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C4アシルオキシ、およびアロイルオキシからなる群から選択され、R11は、水素またはC1〜C6アルキルである。該含窒素化合物は、N−アルキル化ピペリジン、N−オキサアルキル化ピペリジン、N−アルキル化ピロリジン、N−オキサアルキル化ピロリジン、N−アルキル化フェニルアミン、N−オキサアルキル化フェニルアミン、N−アルキル化ピリジン、N−オキサアルキル化ピリジン、N−アルキル化ピロ−ル、N−オキサアルキル化ピロ−ル、N−アルキル化アミノ酸またはN−オキサアルキル化アミノ酸でもよい。ある種の実施形態では、N−アルキル化ピペリジン、N−オキサアルキル化ピペリジン、N−アルキル化ピロリジンまたはN−オキサアルキル化ピロリジン化合物には、イミノ糖がなり得る。例えば、幾つかの実施形態では、該含窒素化合物は、以下の式:
【化6】
を有するN−アルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−アルキル−DGJ)もしくはN−オキサアルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−オキサアルキル−DGJ)、または以下の式:
【化7】
を有するN−アルキル−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−アルキル−MeDGJ)もしくはN−オキサアルキル−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−オキサアルキル−MeDGJ)でもよい。
【0059】
本明細書で使用する場合、当該の各基は、炭素原子数を別途明示しない限り以下の特性を有する。アルキル基は、1〜20個の炭素原子を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルコキシ基は、1〜16個の炭素原子を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルコキシカルボニル基は、2〜16個の炭素原子を有するエステル基である。アルケニルオキシ基は、2〜16個の炭素原子、1〜6個の二重結合を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルキニルオキシ基は、2〜16個の炭素原子、1〜3個の三重結合を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アリール基は、6〜14個の炭素原子を有し(例えば、フェニル基)、置換または非置換である。アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基)およびアロイルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基)は、7〜15個の炭素原子を有し、置換または非置換である。アミノ基は、一級、二級、三級または四級アミノ基でもよい(即ち、置換アミノ基)。アミノカルボニル基は、1〜32個の炭素原子を有するアミド基(例えば、置換アミド基)である。置換基は、ハロゲン、ヒドロキシ、C1〜10アルキル、C2〜10アルケニル、C1〜10アシル、またはC1〜10アルコキシからなる群から選択される置換基を含めることができる。
【0060】
N−アルキル化アミノ酸には、N−アルキル化a−アミノ酸などのN−アルキル化天然アミノ酸がなり得る。天然アミノ酸は、一般的な20種のα−アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Asp、Asn、Lys、Glu、Gln、Arg、His、Phe、Cys、Trp、Tyr、MetおよびPro)、ならびに天然産物であり、ノルロイシン、エチルグリシン、オルニチン、メチルブテニルメチルスレオニンおよびフェニルグリシンなどの他のアミノ酸のうち、1種である。アミノ酸側鎖(例えばR5)の例には、H(グリシン)、メチル(アラニン)、−CH2C(O)NH2(アスパラギン)、−CH2−SH(システイン)および−CH(OH)CH3(スレオニン)が含まれる。
【0061】
N−アルキル化化合物は、アミノ(またはイミノ)化合物の還元的アルキル化により調製することができる。例えば、アミノまたはイミノ化合物は、そのアミンをN−アルキル化するために、還元剤(例えば、水素化シアノホウ素ナトリウム)と共にアルデヒドに曝すことができる。同様に、N−オキサアルキル化化合物は、アミノ(またはイミノ)化合物の還元的アルキル化により調製することができる。例えば、アミノまたはイミノ化合物は、そのアミンをN−オキサアルキル化するために、還元剤(例えば、水素化シアノホウ素ナトリウム)と共にオキサアルデヒドに曝すことができる。
【0062】
当含窒素化合物は、1個または複数の保護基を含むことができる。多種の保護基が知られている。一般に、保護基の化学種は、該化合物の他の位置における任意の後続反応(複数も)の条件に安定であり、かつその分子の残部に悪影響を及ぼさずに適当な時点で除くことができる限り、決定的に重要ではない。それに加え、実質的な合成的変換が完了した後、1種の保護基で別種を置き換えてもよい。明らかなことであるが、ある化合物が、本明細書に開示した化合物の1個または複数の保護基を異なる保護基で置き換えたという点だけで、その開示化合物と異なる場合、その化合物は本発明内に入る。更なる例および条件は、Greene, Protective Groups in Organic Chemistry, (1st Ed., 1981, Greene & Wuts, 2nd Ed., 1991) に見出される。
【0063】
該含窒素化合物は、例えば、結晶化またはクロマトグラフィー法により精製することができる。この化合物は、出発物質として立体特異的なアミノまたはイミノ化合物を用いて立体特異的に調製することができる。
【0064】
長鎖N−アルキル化化合物の調製に出発物質として使用されるアミノおよびイミノ化合物は、商業的に入手することができ(Sigma、St.Louis、MO;Cambridge Research Biochemicals、Norwich、Cheshir、英国;Toronto Rrsearch Chemicals、Ontario、カナダ)、または既知の合成法で調製することができる。例えば、該化合物は、N−アルキル化イミノ糖化合物またはそれらのオキサ置換誘導体でもよい。そのイミノ糖は、例えば、デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)、1−メチルデオキシガラクトノジリマイシン(MeDGJ)、デオキシノジリマイシン(DNJ)、アルトロスタチン、2R,5R−ジヒドロキシメチル−3R,4R−ジヒドロキシピロリジン(DMDP)、またはそれらの誘導体、鏡像異性体もしくは立体異性体でもよい。
【0065】
多様なイミノ糖化合物の合成が、これまで記載されている。例えば、DNJ誘導体の合成法が知られており、例えば、米国特許第5622972号、第5401645号、第5200523号、第5043273号、第4994572号、第4246345号、第4266025号、第4405714号および第4806650号に記載されている。他のイミノ糖誘導体の合成法が知られており、例えば、米国特許第4861892号、第4894388号、第4910310号、第4996329号、第5011929号、第5013842号、第5017704号、第5580884号、第5286877号および第5100797号、ならびにPCT公開第WO01/10429号に記載されている。2R,5R−ジヒドロキシメチル−3R,4R−ジヒドロキシピロリジン(DMDP)の鏡像異性特異的合成は、FleetおよびSmith(Tetrahedron Lett. 26: 1469-1472, 1985)により記載されている。
【0066】
接触細胞には、人間などの哺乳動物の細胞がなり得る。幾つかの例では、感染細胞のリポソーム組成物との接触は、感染細胞を含んだ対象へその組成物を投与することにより、行うことができる。該対象には人間などの哺乳動物がなり得る。幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は静脈注射で投与することができる。更に幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は、腹腔内、皮下、皮内、表皮内、筋肉内または経皮経路などの、静脈注射以外の非経口経路を介して投与することができる。更に幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は、粘膜表面、例えば、眼球、鼻腔内、肺、腸、直腸および尿管の表面を介して投与することができる。リポソーム組成物の投与経路は、例えば、A. S. Ulrich, Biophysical Aspects of Using Liposomes as Delivery Vehicles, Bioscience Reports, Volume 22, Issue 2, April 2002, 129-150 に開示されている。
【0067】
リポソームを介したER内腔中へのNB−DNJなどの治療剤の送達は、非リポソーム法と比較して、ERグルコシダーゼの阻害に必要な治療剤の有効量を低下させることができる。例えばNB−DNJについては、IC90を、少なくとも100倍、または少なくとも500倍、または少なくとも1000倍、または少なくとも5000倍、または少なくとも10000倍、または少なくとも50000倍、または少なくとも100000倍低下させることができる。NB−DNJの抗ウィルス有効量のこのような低下によって、投与NB−DNJの最終濃度を、哺乳動物、特に人間における毒性レベルより1桁または複数桁低くすることができる。
【0068】
幾つかの例では、NB−DNJなどの治療剤を含むリポソーム組成物を、抗ウィルス剤などの1種または複数の追加の治療剤と併用して、感染細胞に接触させることができる。幾つかの例では、このような追加の治療剤は、リポソーム中にNB−DNJと共に同時封入することができる。更に幾つかの例では、感染細胞のこのような追加の治療剤との接触は、その細胞を含む対象へ追加の該治療剤を投与した結果でもよい。追加の該治療剤の投与は、その組成物へ該治療剤を添加することにより実施することができる。更に幾つかの例では、追加の該治療剤の投与は、NB−DNJを含有するリポソーム組成物の投与とは別に、実施することができる。このような別の投与は、リポソーム組成物に使用する投与経路と同じでも、異なってもよい投与経路を介して実施することができる。
【0069】
併用療法は、抗ウィルス活性に必要な作用剤の有効量を低下させ、それによりその毒性を低下させ得るだけでなく、多重の機構によりウィルスを攻撃する結果、絶対的な抗ウィルス作用も改善し得る。例えば、DCPPリポソームの脂質およびNB−DNJは、1)NB−DNJ含有リポソームによる処置が、外来脂質の付加でエンベロープ組成を変え得る場である、ウィルスのエンベロープに対して、および2)ウィルス糖タンパク質の異常折畳みを介して、作用することにより、感染性を低下させることができる。したがって、NB−DNJと異なる標的または作用機構を有する1種または複数の作用剤と併用される、NB−DNJを封入するリポソームは、相加的または相乗的効果をもたらすことができる。
【0070】
それに加え、併用療法は、ウィルス耐性の発現を回避する、またはその発現確率を減少させる手段をもたらすことができる。
【0071】
NB−DNJ含有リポソームと併用できる特定の追加治療剤(複数も)は、処置するウィルス感染症に依存することができる。例えば、HBV、HCVまたはBVDV感染症などの肝炎感染症については、そのような治療剤(複数も)には、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド抗ウィルス剤、および/または免疫賦活/免疫調節剤がなり得る。肝炎処置のためにNB−DNJと併用できる、多様なヌクレオシド剤、ヌクレオチド剤および免疫賦活/免疫調節剤が、2004年2月10日にJacob他に交付された米国特許第6689759号に例示されている。例えば、C型肝炎感染症の処置については、NB−DNJを、ヌクレオチド剤としての1−b−D−リボフラノシル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキサミド(リバビリン)および免疫賦活/免疫調節剤としてのインターフェロンαなどのインターフェロンと組み合わせて、リポソーム中に封入することができる。リバビリンおよび/またはインターフェロンによる肝炎感染症の処置は、例えば、米国特許第6172046号、第6177074号、第6299872号、第6387365号、第6472373号、第6524570号および第6824768号で考察されている。
【0072】
HIV感染症の処置のために、NB−DNJ含有リポソームと併用できる治療剤は、抗HIV剤でもよく、例えば、ヌクレオシド系逆転写酵素(RT)阻害剤として(−)−2’−デオキシ−3’−チオシチジン−5’−三リン酸(3TC)、(−)−cis−5−フルオロ−1−[2−(ヒドロキシメチル)−[1,3−オキサチオラン−5−イル]シトシン(FTC)、3’−アジド−3’−デオキシチミジン(AZT)およびジデオキシイノシン(ddI)など、非ヌクレオシドRT阻害剤としてN11−シクロプロピル−4−メチル−5,11−ジヒドロ−6H−ジピリド[3,2−b:2’,3’−e]−[1,4]ジアゼピン−6−オン(ネビパリン)など、プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合せでもよい。抗HIV治療剤は、AZT、DDIおよびネビラピンの組合せなどの二重または三重の組合せで使用することができる。
【0073】
gp120/gp41標的指向部と結合したリポソーム
本発明は、gp120/gp41標的指向部と結合したリポソームを含む組成物、およびHIV感染症に感染した細胞をそのような組成物と接触させることにより、該感染症を処置する方法も提供する。gp120/gp41標的指向部は、sCD4分子、またはIgG 2F5もしくはIgG b12などのモノクローナル抗体を含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはDOPEおよびCHEMSの各脂質を含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはPEG−PE脂質を更に含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはMCC−PE脂質を更に含むことができる。HIV感染症の処置のために、該組成物は、リポソーム内部に封入されるNB−DNJなどの追加治療剤を更に含むことができる。
【0074】
PI脂質を含むリポソーム
本発明者等は、ホスファチジルイノシトール(PI)脂質を含むpH感受性リポソームなどのリポソームが、PI脂質を含有しないリポソームより、細胞のER膜を効果的に標的とすることができることも発見した。更に、PI脂質を含むリポソームは、リポソームを介して送達される1種または複数の脂質の細胞における寿命を延ばすことができる。
したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された、抗ウィルス治療剤などの少なくとも1種の治療剤とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。このような標的送達法は、ウィルス感染症などの生理的病状、またはその病状に侵された対象においてそれを原因とする疾患の処置または予防に使用することができる。
【0075】
発明者等は更に、ER標的リポソーム中に少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質を組み込むと、1)ウィルスエンベロープ中に組み込まれたときに、ウィルス感染性を低減できるリポソーム脂質のER膜中への直接送達、および2)出芽粒子のウィルスエンベロープ中に合体し、独自に感染性を低減できる少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質のER膜中への直接送達により、ウィルス感染性が相乗的に低減し得ると考えている。抗ウィルス治療剤などの少なくとも1種の治療剤をリポソーム中に封入することによって、3)治療剤のER内腔などの細胞内区画中への直接送達により、付加的な相乗効果を得ることができる。
【0076】
したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された、抗ウィルスタンパク質などの少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。このような標的送達法は、ウィルス感染症などの生理的病状、またはその病状に侵された対象においてそれを原因とする疾患の処置または予防に使用することができる。
【0077】
更に幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された、抗ウィルス組成物などの少なくとも1種の治療剤と、リポソームの脂質二重層中に挿入された、抗ウィルスタンパク質などの少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。
【0078】
該ウィルス感染症は、例えば、ER膜出芽ウィルス感染症、即ちER膜でウィルスの出芽が起こるHBV、HCVもしくはBVDV感染症などのウィルス感染症、または原形質膜出芽ウィルス感染症、即ち原形質膜でウィルスの出芽が起こるHIV感染症などのウィルス感染症でもよい。
【0079】
PI脂質を含んだリポソームは、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PE脂質などの1種または複数の脂質を更に含有することができる。リポソーム中のPI脂質のモル濃度は、約3%〜約60%まで、または約5%〜約50%まで、または約10%〜約30%まで変化することができる。
【0080】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したα−グルコシダーゼ阻害剤のいずれかなどのα−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。
【0081】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したイオンチャンネル活性阻害剤でもよい。
【0082】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したイミノ糖のいずれかなどのイミノ糖でもよい。
【0083】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、式VIIIの含窒素化合物でもよい。
【0084】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム中に挿入されるタンパク質は、抗ウィルスタンパク質でもよい。適切な抗ウィルスタンパク質には、それだけに限らないが、ウィルスエンベロープタンパク質に結合することが知られているウィルス受容体、および/または変異型ウィルスエンベロープタンパク質、および/またはウィルスエンベロープの相互作用を妨害することが知られているタンパク質が挙げられる。例えば、HIV感染症については、抗ウィルスタンパク質にはCD4タンパク質がなり得る。HCV、BVDVまたはHBV感染症については、抗ウィルスタンパク質には、HCV/BVDVのE1またはE2タンパク質などの各ウィルスエンベロープタンパク質の1種の変異型がなり得る。
【0085】
以下の実施例に決して限定するわけではないが、それらによって本発明を更に例示する。
【0086】
リポソームの調製
全ての実験に使用したリポソームは、以下の通り調製した。即ち、脂質のクロロホルム溶液をガラス管中に入れ、窒素気流下で溶媒を蒸発させた後、減圧下で真空遠心分離を行った。脂質膜(全脂質10μmol)を、PBS緩衝液1ml、pH7.4(薬物入りもしくはなし、および/またはPBS中に80mMカルセイン含有)中、室温で1時間、渦流撹拌することにより水和した。生成した多重膜小胞を浴槽型超音波発生器中で15分間、超音波処理した後、孔径80nmのポリカーボネートフィルターから21回押し出した。
【0087】
封入剤濃度の最適化
蛍光分子のカルセインを、その蛍光が自己消光される濃度の80mMでDCPPリポソーム内部に封入した。リポソームからのカルセインの漏出、および周囲媒体中へのその希釈によって、脱消光が起こり、測定/観察可能な蛍光が増大する。封入率(%)は、カルセインを含有する最終的リポソーム調製物をMES緩衝塩水中で最終リン脂質濃度0.5μMに希釈することにより、決定し、Triton X−100を最終濃度0.1%まで添加する前後に、カルセインをλex=490およびλem=520nmで測定した。界面活性剤添加後の蛍光差をリポソーム内封入率(%)とし、各実験におけるDNJ化合物の最終濃度を決定するためのその化合物量の推算に使用する。
【0088】
ER膜中への脂質封入
リポソームは、ER内腔中に直接、封入物質を送達すると同時に、脂質をER膜中に組み込むことができる。最初の証拠は、蛍光標識によるリポソームのタグ付けにより得られるが、そのタグ付けでは、脂質含量がDOPE:CHEMS:PEG−PE:Rh−PE(DCPP−Rh)のモル比6:4:0.3:0.1となるように、PEに結合したローダミン(Rh−PE)をDCPPリポソーム中に組み込んだ(モル含量1%)。MDBK細胞を、Rh−PEで標識され、カルセインを含有するpH感受性リポソームで30分間パルス処理した。非吸着リポソームを除去し、その細胞を3時間更に追跡した。追跡期間の終りに、ERマーカーであるER−Trackerと30分間細胞をインキュベートし、洗浄し、可視化した。図1に示したマージ図は、カルセイン、Rh標識脂質およびERトラッカーが共局在していることを明示している。これに基づけば、リポソームは、ER膜内に合体する色素であるERトラッカーとのリポソーム脂質の共局在で示される、ER膜との初期融合段階の後、ERへその水性含有物を送達するとの結論を得ることができる。
【0089】
リポソームの毒性
リポソームの毒性は、異なる2種の細胞系、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞およびMadin−Darbyウシ腎(MDBK)細胞において測定した。
【0090】
集密度80%を超えるまで6ウェルプレート中に細胞を播種し、PBSを封入したDCPPリポソームを、脂質最終濃度がCHO細胞に対しては0〜500μM、MDBK細胞に対しては0〜150μMの範囲となるように、培地に添加した。細胞およびリポソームを37℃、5日間インキュベートしたままとした後、細胞を採集し、トリパンブルーで染色後、計数した。その結果は、非処理対照(x軸上100%)と比較した際に、処理試料中に存在する生存細胞の比率(%)として表し、3回の個別実験からの二重試料の平均値±S.D.である。
【0091】
結果は図2に示してあり、CHO細胞における細胞毒性が、脂質濃度150μMの存在下でインキュベーション後に徐々に現れた。MDBK細胞の方が、DCPPリポソームに対する感受性が高いようであり、75μMを超える脂質濃度で重度の細胞毒性を示した。
【0092】
DCPPリポソームからのイミノ糖放出
CHOおよびMDBK細胞を用いた全ての実験において、脂質最終濃度が各々100μMおよび50μMとなるまでDCPPリポソームを添加した(両者の細胞生存率は>95%)。
【0093】
次の実施例では、NB−DNJのブチル鎖が、封入物質のDCPPリポソームからの細胞内放出量増加を直接担っていることが示される。
【0094】
DCPPリポソーム内部に封入した際の異なるDNJ化合物が、細胞取込みおよび細胞内放出に及ぼす効果を、既述のように化合物を80mMカルセイン中に希釈し、Rh−PEをリポソーム膜中に組み込み、最終リポソーム組成をDOPE:CHEMS:PEG−PE:Rh−PE(DCPP−Rh、6:4:0.3:0.1)とすることにより、決定した。カルセイン単独、10μM DNJ、1mM DNJ、10μM NB−DNJ、1mM NB−DNJ、10μM NN−DNJまたは1mM NN−DNJを封入したリポソームをCHO細胞と45分間インキュベートした後、リポソームを除き、細胞を1×PBS中で2回洗浄した。次いで、細胞を蛍光光度計中で分析し、カルセインの脱消光(λex=490およびλem=520nm)ならびにローダミンの蛍光(λex=584およびλem=612nm)を測定した。データは、独立した4実験の三重試料から得た平均値±S.D.を表しており、ローダミン蛍光の平均値はリポソームの結合および取込みを反映し、カルセイン蛍光の平均はこの色素の細胞内脱消光を反映する(即ち、リポソームから細胞内区画中に放出された色素)。結果は、カルセイン/PBS単独リポソーム対照(x軸上100%)と比較した、DNJ含有リポソームとのインキュベーション後に測定された蛍光率(%)として表示されている。
【0095】
図3に示すように、DNJおよびNN−DNJは共に、カルセインの脱消光量、したがって細胞内放出には全く効果がなかった。しかし、NB−DNJは、脱消光カルセインの濃度依存的増加を示し、10μMおよび1mMの製剤が、各々約1.8倍および2.3倍の増加を起こす。
【0096】
カルセイン対ローダミンの蛍光比計算値は、細胞結合リポソーム当たりの放出された水性マーカー量の尺度と見なされ、細胞内送達の効率を表す。各封入物質について計算した効率を表1に列挙してある。結果は、10μMおよび1mMのNB−DNJ含有リポソームが、DCPPリポソームからの細胞内送達の効率を各々約2倍および3倍増加させたことを示す。
【0097】
【表1】
【0098】
本発明はその作動理論に縛られることはないが、NB−DNJのブチル鎖が、DCPPリポソームからの封入物質の細胞内送達増大を促進する機構は、脂質二重層内へのブチル鎖の挿入によるリポソームの不安定化を介する可能性が高い。NN−DNJの9炭素アルキル鎖も、リポソームの脂質二重層中に挿入されることができる。しかし、この長さでは、提示した結果が示唆するように、その分子は、実際には二重層の形成を安定化させ得る。NN−DNJリポソームは細胞取込みを増加させるが、カルセインの放出量は、対照と同等に留まり、細胞内でのリポソーム安定性の増加を示している。
【0099】
DCPPリポソームの安定性
次の実施例では、NB−DNJ、NN−DNJ双方のアルキル鎖が、pHを下げるとDCPPリポソームの安定性を高めることにより、その性質を変化させることが示されている。
【0100】
80mMカルセイン緩衝液中の1mMのDNJ、NB−DNJまたはNN−DNJを封入したDCPPリポソームを、空(カルセイン単独)のリポソームと比較することにより、NB−DNJおよびNN−DNJのアルキル鎖がpH感受性に及ぼす効果を決定した。カルセイン担持DCPPリポソーム(最終リン脂質濃度5μM)10μlを、5.0〜7.4の範囲の様々なpH値でMES緩衝塩水2mlに添加し、37℃、15分間振とうしながらインキュベートするがままにした。インキュベーション後、Tritonを最終濃度0.1%まで添加する前後にカルセイン蛍光を測定した。pHのカルセイン蛍光に対する若干の効果について、酸性pH値で得られた蛍光強度を補正した。各pHでのカルセイン放出率(%)は次式を用いて計算したが、その式は、%漏出=((In−I0)/(I100−I0))x100であり、式中I0は中性pHでの蛍光、InはTriton添加前の酸性pHでの補正強度、I100は中性pHでの脱消光全カルセインである。
【0101】
結果は図4に示してあり、カルセイン単独およびDNJ封入型のリポソーム間の安定性に差異は認められなかった。しかし、pH感受性の有意な減少が、NB−DNJおよびNN−DNJリポソームで認められ、アルキル鎖の結果として低いpHで安定性の増加を示した。NB−DNJ、NN−DNJの双方は、インビトロでより大きな安定性をDCPPリポソームに付与したが、インビボではNN−DNJだけが、実際にはカルセイン送達を阻害しており(図4および表1)、細胞内積荷(cargo)放出の過程に影響する、またはそれを制御する、pH感受性以外の要因の存在を浮き彫りにした。
【0102】
図3、図4および表1からの知見に基づけば、DNJ分子上のアルキル鎖の存在だけでなく長さも、内部に封入した際、リポソームの性質に影響し得ると結論することができる。こうした観察は、アルキル鎖がリポソームの脂質二重層に挿入され、脂質組成を効果的に変化させた結果であることは、ほぼ間違いない。以上の研究では4炭素鎖(NB−DNJ)および9炭素鎖(NN−DNJ)だけが使用されたが、短鎖は、インビボでリポソームを不安定化させ、荷役分子の細胞内放出を増加させ得るのに対して、長鎖は、同じ脂質組成物を安定化させ、放出を阻害するかのように思われる。
【0103】
DCPPリポソーム中に封入されたNB−DNJによるBVDV分泌の減少
次の実施例では、DCPPリポソーム中に封入されたNB−DNJが、MDBK細胞からのBVDV粒子の分泌を減少させることが示される。
【0104】
DCおよびDCPPリポソーム中に組み込まれたNB−DNJの複合抗ウィルス作用が、BVDVのcp株、ncp株のいずれかに感染したMDBK細胞において示された。
【0105】
BVDVのncp株を用いた第1の研究では、NB−DNJを遊離状態で培地へ添加し、最終濃度を0〜750nMの間の範囲にした。別のインキュベーションでは、NB−DNJ DCPPリポソームの添加により、最終脂質濃度を50μMとし、NB−DNJの最終濃度を0〜750nMの間の範囲とした。実験は、6ウェルプレート中で二重に実施した。分泌BVDVウィルス粒子の量は、3日間のインキュベーション後に測定した。ウィルス分泌の分析は、上清500μlから抽出したウィルスRNAに関する定量的PCR(リアルタイムPCR)により行った。リアルタイムPCRでは、ncp BVDV RNAを対象としたプライマーを使用し、順方向プライマー配列はTAGGGCAAACCATCTGGAAGであり、逆方向プライマー配列はACTTGGAGCTACAGGCCTCAであった。結果は、非処理対照(x軸上100%)と比較した際の処理試料中に存在するRNAコピー数の比率(%)として表示される。
【0106】
図5は、ncp BVDVの分泌に対する遊離状態、DCPP中双方のNB−DNJの効果に関する結果を表す。NB−DNJの最終濃度750nMを使用した場合、リポソーム媒介送達では分泌ウィルス粒子数が1/2に減少し、遊離送達では無効である。リポソーム、封入NB−DNJのいずれかの濃度を増加させることにより、アッセイを更に最適化させると、ウィルス分泌を更に一層減少させることができる。
【0107】
本発明はその作動理論に制限されることはないが、BVDV分泌を阻害することができた機構は、グルコシダーゼ阻害の結果、E1、E2などのウィルス糖タンパク質をER内に保持したことにより得る。
【0108】
BVDVの感染性
次の実施例では、空およびNB−DNJ封入双方のDCPPリポソームが、MDBK細胞から分泌されるBVDV粒子の感染性を低減することが示される。DCPPリポソームおよびNB−DNJが、相乗的に作用することも示される。
【0109】
前の実験から採集したBVDVウィルス粒子(分泌BVDVを含有する上清500μl)を用いて、NB−DNJ処理分泌BVDVの感染性を、ナイーブMDBK細胞との3日間のインキュベーション後、免疫蛍光染色により感染細胞中のBVDVタンパク質を同定することによって、決定した。細胞は、抗BVDV NS2−NS3モノクローナル抗体、続いてFITC標識二次抗体を用いて感染後に染色した。実験は、6ウェルプレートを用いて二重に行った。ウィルス感染性(%)は、BVDV非構造タンパク質の存在で特定した感染細胞数を細胞核のDAPI染色で決定した全細胞数で割ることにより、計算した。各試料中のウィルス価の増減を考慮するために、結果の規格化も行った(BVDV分泌実験の結果)。
【0110】
図6は、ncp BVDVの感染性に対する遊離状態、DCPPリポソーム中双方のNB−DNJの効果に関する結果を表す。こうした結果は、非処理BVDV、ならびに最終濃度750nMまでの遊離NB−DNJで処理したBVDVも、ナイーブMDBK細胞の約20%に感染できるウィルス子孫を産生したことを示している。しかし、DCPPリポソームにより送達される750nMのNB−DNJとインキュベートした感染細胞は、ウィルス子孫の感染性を有意に低下させた(ナイーブ細胞の1%未満が感染した)。驚くべきことに、封入NB−DNJを有する、または有していない、いずれのDCPPリポソームで処理された全ての感染MDBK細胞も、ウィルス子孫に感染した細胞数を約7%へ低下させた。したがって、1×PBSだけを封入したDCPPリポソームは、非処理ウィルスと比較してBVDV感染性をほぼ1/3に低下させたが、750nMのNB−DNJと併用すると、抗ウィルス作用は対照の20倍強に増加した。同じ濃度の750nMを培地に遊離状態で添加したNB−DNJは、殆どないし全く効果を示さなかった。リポソーム、封入NB−DNJのいずれかの濃度を増加させることにより、アッセイを更に最適化させると、ウィルス感染性を完全に排除することができる。
【0111】
本発明はその作動理論に制限されることはないが、NB−DNJ封入DCPPリポソームによる処理がウィルス感染性に作用する機構は、DCPP脂質のER膜中への合体と、更に、活性の向上およびウィルス糖タンパク質の異常折畳みを起こす、抗ウィルス剤NB−DNJの作用部位直接の標的送達との複合効果とし得る。その結果、こうしたリポソームで処理したウィルス子孫は、ER中でのグリカンプロセシングの欠如により欠損しているウィルス糖タンパク質に加え、ウィルスエンベロープ中に存在するDCPP脂質を有し得る。
【0112】
リポソーム封入NB−DNJの抗ウィルス作用
cp BVDVに対するリポソーム封入NB−DNJの抗ウィルス作用も、感染細胞の単層上にプラークを形成できるcp株を利用する方法である、収率低下アッセイを用いて試験した。
【0113】
図7は、感染性cp BVDVの分泌に対する、遊離状態対DCリポソーム封入型のNB−DNJの効果を表す。cp BVDVに感染したMDBK細胞を、最終NB−DNJ濃度が0〜500μMの間の範囲にあり、全脂質濃度が100μMとなるように、遊離型またはDCリポソーム型のNB−DNJで3日間処理した。次いで上清を取り出し、それを用いて6ウェルプレート中で新たなMDBK単層を感染させた。3日後、プラークを顕微鏡下で計数し(プラークアッセイ)、その結果を薬物無添加上清による感染で生じたプラーク数(=100%)(x軸)に対する比率(%)として表示した。y軸は、プラークアッセイに使用した遊離状態またはDCリポソーム封入型のNB−DNJ濃度を示す。IC50は、グラフの下端部に示してある。その結果は、DCリポソーム中へのNB−DNJ封入型の方が、感染性BVDVの分泌を8倍良好に阻害した(IC50が、遊離薬物の175μMに比較して20μM)。cp BVDVに関するアッセイは、NB−DNJをDCPPリポソーム中に組み込むことにより最適化することができ、その場合に細胞培養培地中で安定性が高まり、そのため改善された抗ウィルス作用を有することができる。
【0114】
遊離オリゴ糖分析で測定したDCPP封入NB−DNJの活性増加
遊離状態またはDCPPリポソーム封入型のNB−DNJ存在下で産生される遊離オリゴ糖(FOS)の特性を決定し、細胞内送達による薬物活性の増強を測定するために、グルコシダーゼ阻害に対する細胞マーカーとして使用する。FOSは、ER膜にあるSec61含有チャンネルを通じて、プロテアソーム分解のためにERから移出される異常折畳み糖タンパク質に対する、サイトゾルペプチドのN−グリカナーゼ(PNGase)の作用を介して生成することが示されてきた。FOS中に存在するグリカンの同定によって、タンパク質の折畳みがどの段階で妨害されたかが明らかとなる。この実験では、グルコシル化FOSの分布をNB−DNJによるグルコシダーゼ阻害の尺度として使用するが、その場合、Glc1Mann−FOSおよびGlc2Mann−FOSはグルコシダーゼII阻害の結果であり、Glc3Mann−FOSはグルコシダーゼI阻害の結果である。
【0115】
CHO細胞を、抗ウィルス濃度0.5mMの遊離NB−DNJの存在下で、または最終濃度範囲0〜75nMのNB−DNJを封入したDCPPリポソーム100μMと共にインキュベートした。細胞を5日間インキュベートするがままにし、FOSの単離は、Mellor et al (2004). Biochem. J. 2004 August 1; 381(Pt 3): 861-866 が記載するように、全タンパク質を500μgに標準化した細胞ホモジェネートを用いて行った。FOSの検出は、オリゴ糖を2−アミノベンズアミドで標識した後、順相HPLCにより行った。FOSの組成は、エンドグリコシダーゼH、タチナタマメα−マンノシダーゼ、ならびにα−グルコシダーゼIおよびIIを含めたグリコシダーゼによる消化によって、更に特性決定し、判定した。非グルコシル化およびグルコシル化オリゴマンノースFOS(Mann−FOS、Glc1Mann−FOS、Glc2Mann−FOSおよびGlc3Mann−FOSで表される)の比率(%)を各試料について計算し、その結果を表2に表してある。結果は、別々の4実験の平均値±S.D.を表す。
【0116】
【表2】
【0117】
抗ウィルス濃度0.5mMの遊離NB−DNJの存在下でインキュベートしたCHO細胞は、主にFOSのトリグルコシル化種を産生し、この濃度でグルコシダーゼIの阻害を示した。これは、グルコシダーゼIの阻害が、HIVについて以前に報告されたNB−DNJの抗ウィルス作用を担っていると示唆することができる。増加させていくNB−DNJ濃度でリポソーム処理した試料から単離したFOSは、グルコシル化FOSの分布が、各々グルコシダーゼIIおよびIの阻害による、主としてGlc1Man−FOSからGlc3Man−FOSへ徐々に移行することを明らかにした。DCPPリポソームを介して送達した場合、NB−DNJ最終濃度750nMで処理した試料は、0.5mMの遊離状態インキュベーションについて見られたレベルと同等レベルのグルコシダーゼIの阻害を示し、細胞内送達の結果、抗ウィルス活性が約600〜700倍増強したことを示唆した。
【0118】
本発明はその作動理論に縛られることはないが、NB−DNJ活性の増加を実現する機構は、この抗ウィルス剤の作用部位(即ち、ER内腔)への直接送達を介したものとし得る。ER直接送達は、NB−DNJを遊離状態で周囲培地へ添加した場合には障壁として恐らく作用できる原形質膜およびER膜双方を、抗ウィルス剤が迂回することを可能にし得る。NB−DNJを用いて封入した場合に認められる細胞内送達量の増加は、他の化合物に比較してNB−DNJのER内腔内での高い濃度の結果、活性の増強にも寄与し得る。
【0119】
2G12抗体結合で決定したDCPP封入NB−DNJの活性増加
次の実施例では、HIVエンベロープタンパク質gp120上でのグリカンプロセシングの阻害で測定した場合のNB−DNJの活性が、遊離またはDCPPリポソーム封入NB−DNJの存在下、CHO細胞中での発現後に決定される。
【0120】
可溶型HIV gp120を発現するCHO細胞を、濃度範囲0〜5mMの遊離NB−DNJの存在下で、または培地中の最終濃度範囲が0〜750nMの間のNB−DNJを封入したリポソームと共にインキュヘートした。細胞を5日間インキュヘートするがままにまかせた後、処理gp120を含有する細胞上清を採集した。NB−DNJの存在下(遊離状態、リポソーム中のいずれか)で、発現したgp120上でのグリカンプロセシングの阻害を測定するために、MAb 2G12の結合を捕捉ELISAで決定した。2G12は、gp120の糖鎖豊富な表面上にあるマンノース残基集合体を認識し、NB−DNJ存在下での結合の減失が、エピトープを形成するオリゴマンノースグリカン上でのグルコースの保持から生じる。しかし、結合親和性の減失は、該タンパク質の異常折畳みからも生じ得るので、こうした2通りの可能性を識別するために、中和用MAb、b12に対する全試料の親和性も測定する。b12抗体は、CD4結合部位であるコンホメーション感受性エピトープを認識し、その部位は2G12の結合部位と重複していない。細胞上清中にある可溶性gp120は、D7324抗体(gp120のC5領域に結合する)を用いてELISAプレート中で捕捉し、2G12、b12いずれかの10μg/mlで処理した。両抗体のNB−DNJ処理試料への結合を非処理gp120に対する結合と関連付け、データは、結合率(%)として表示し、個別の4実験からの三重結果の平均値±S.D.を表す。
【0121】
図8は、培地中に遊離している0.5mM NB−DNJで処理した後の2G12に対するgp120結合の減失(1.2±0.1%の結合)と、一方b12に対する100%の結合維持とを示している。NB−DNJ最終濃度7.5nMによるリポソーム媒介送達は、2G12に対する9.8±4.8%の結合と、b12結合に対する効果が有意でない(96.3±3.2%)結果とを生じ、細胞内送達の結果としてIC90が60000〜70000倍増強されたことを示している。
【0122】
免疫増強ペプチドのリポソーム送達
本発明者等は、抗原提示細胞を、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PE脂質を含むリポソームなどのpH感受性リポソームと、リポソーム中に封入された免疫増強ペプチドなどの抗原とを含有する組成物に接触させることによって、主要組織適合性分子クラスIによる提示を増加させることができることも発見した。このような接触は、抗原提示細胞を含む対象に該組成物を投与した結果とし得る。対象に対する該組成物の投与は、対象のワクチン接種に使用することができる。
【0123】
免疫増強ペプチドは、チロシナーゼペプチドYMDGTMSQVにより例示することができ、そのペプチドは、全長チロシナーゼを発現する細胞上に主要組織適合性分子1のHLA−A0201により提示されることが判明した。これは、チロシナーゼアミノ酸369〜377位に相当するチロシナーゼペプチドYMNGTMSQVから生じ、N連結糖鎖付加部位6を含む変換ペプチドである。本発明はその作動理論により制限されることはないが、該変換ペプチドは、酵素ペプチドであるN−グリカナーゼによるサイトゾル中での脱グリコシル化の結果、生じることができる。N−グリカナーゼペプチドは、抗原プロセシングに関連する輸送体(TAP)に結合し、これがそのペプチドをER中に輸送する。YMDGTMSQVペプチドのDCPPリポソーム中への封入は、そのペプチドのER送達を1桁低下させる。
【0124】
遊離およびリポソーム封入NB−DNJによるHIV−1感染PBMCの処理
感染ヒト細胞由来のHIV−1初代分離株のNB−DNJによる消失を、指標細胞としてフィトヘマグルチニン(PHA)活性化末梢血単核細胞(PBMC)、および評価項目としてp24抗原産生の決定を使用して評価した。
【0125】
健常(感染していない)供与者4名からのPBMCを分離し、プールし、更に、10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン1ml当たり100U、ストレプトマイシン1ml当たり100μgおよび2mM L−グルタミンを含有するRPMI1640培地中で、PHA(5μg/ml)で48時間、続いてPHA+インターロイキン−2(40U/ml)で72時間刺激した。全ての実験は、96ウェルマイクロタイタープレート中で行った。細胞を感染させるために、PHA活性化PBMC100μl(5×105/ml)を各ウェルに添加し、その後、初代分離株ストックの50%組織培養感染用量(TCID50)100倍分を含有する等容量を添加した。終夜のインキュベーション後、細胞を組織培養培地で3回洗浄し、最後に、リポソーム処理した、または遊離の適当なNB−DNJを含有する培地中に再浮遊させた。7日目に、分泌されたHIV−1ビリオンを含有する培養容量の約10〜30%を用いて、2回目の感染および処理のためにナイーブPBMCを感染させた(移し取った容量は、その分離株の非処理対照がTCID50=100でナイーブ細胞を感染させるのに必要な容量として計算した)。ナイーブ細胞の処理および感染の回数を4週間に亘って重ね、各時点で分泌ビリオンを含有する細胞上清を分離し、捕捉ELISAに用いてp24濃度(分泌の尺度)を決定した。それに加え、処理全体を通して各時点で分離した上清を用いて、ナイーブPBMCを2週間感染させた(TCID50=100)が、それ以上の処理を加えず、それによりウィルス活性のリバウンドの観察が可能となった。
【0126】
8種の初代分離株(表3に列挙)に感染したPBMCを、遊離NB−DNJ(濃度範囲0〜1mM)またはリポソーム封入NB−DNJ(0〜3.75μM、最終脂質濃度50μM)の存在下でインキュベートした。
【0127】
【表3】
【0128】
遊離NB−DNJで処理したPBMCの結果から、HIV−1に対する抗ウィルス濃度は500μMであることが確認された。これは、全ての分離株において、4週間の処理をかけてウィルス活性を消失させる最低の濃度であった(図9a)。全ての分離株が、ウィルス活性の少なくとも90%低下(IC90)を示し、NB−DNJが、広範囲のHIV−1を効果的に標的とすることができることを示唆した。
【0129】
遊離NB−DNJのウィルス分泌に対する効果は、処理の第1週後に得たp24測定値から決定することができる。培地中に遊離しているNB−DNJの最高濃度1mMでは、大部分の分離株がウィルス分泌の約30〜40%の低下で反応した(図9b)。特に注目すべきは、3種のクレイドb分離株の89.6、JR−FLおよび92HT599であり、その場合、分泌が50%低下し、89.6の場合には75%低下した。クレイドc分離株の93IN101も、分泌が50%減少した。
【0130】
異なる初代分離株に対するNB−DNJの抗ウィルス活性の程度(薬物感受性)は、処理3回後に得たp24測定値から推算した。この時点では、p24分泌の完全な曲線が各分離株に対して観察され、したがってIC50およびIC90を共に計算することができた。試験した8種の分離株のデータを図9cに示してあり、6株はそれぞれ400μMおよび500μM、2株はそれぞれ250μMおよび375μMのIC50およびIC90を有すると計算される。NB−DNJ処理に最も感受性が高いことが示された2株、89.6および93BR3020は、これらの実験に含められ、二重向性を示すことが知られている唯一の分離株でもあるのに対し、その他の6種の分離株は、R5、X4のいずれかに(単)向性である。
【0131】
DOPE:CHEMS:PEG−PEリポソーム内に封入した際のNB−DNJの抗ウィルス活性を同じ8種の分離株で測定することにより、細胞内送達活性の増強を決定した。図10は、NB−DNJの最終濃度範囲を0〜3.75μMとして、試験した8種の分離株(グラフA〜H)における4週間の処理をかけたp24分泌量を示す。500μM遊離NB−DNJを用いた結果とウィルス減少を比較すると、全ての分離株が、NB−DNJの濃度範囲3.75〜37.5nMで、抗ウィルス活性の類似パターンを示し、増強は約104〜105倍である。薬物感受性の他に、リポソームの取込み速度および細胞内送達の効率などの新たな変数が存在するので、NB−DNJリポソームによる処理に対する異なる分離株の感受性には、やはり変動があった。
【0132】
sCD4リポソームおよび免疫リポソームによるHIV−1感染PBMCのターゲッティング
HIV−1感染細胞の表面上に発現したgp120/gp41複合体をリポソームの標的とすることによる細胞取込みの増加を、異なる9種の初代分離株において、可溶性CD4分子(sCD4)、およびこの複合体に結合することが知られている数種のモノクローナル抗体を用いて評価した。
【0133】
sCD4リポソーム結合体は、最初にsCD4の一級アミンをN−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオネートと化学的に反応させて、保護スルフヒドリル基を創製し、次いでその基をヒドロキシルアミンHClで脱アセチル化することにより脱保護することによって、創製した。免疫リポソームは、最初に、IgG分子を、2本の重鎖間にあるヒンジ領域のジスルフィド結合を特異的に還元する作用剤の2−メルカプトエタノールアミンで還元し、遊離スルフヒドリル基を各々含有する2本の半IgG分子を創製することにより、調製した。リポソームは、既述のように調製したが、マレイミド基を含有するPE脂質(MCC−PE)を二重層中に組み込むことにより、最終的リポソーム組成をDOPE:CHEMS:PEG−PE:MCC−PE:Rh−PE(モル比6:4:0.3:0.3:0.1)とした。非保護sCD4分子および還元IgG分子は、室温で終夜、リポソームと共にインキュベートするがままにした。リポソームは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて遊離のsCD4またはIgGから精製した。
【0134】
蛍光標識脂質(Rh−PE)をリポソーム二重層中に組み込み、エンドサイトーシスの増加を、インキュベーション後に細胞中に検出される蛍光の増加から計算した。PBMCは、既述のように96ウェルマイクロタイタープレート中で精製し、培養し、感染させた。PBMCは、初代分離株(TCIC50=100)と5日間インキュベートするがままにした後、細胞を組織培養培地で3回洗浄し、最後に適当なリポソーム処理剤を含有する培地中に再浮遊させた(最終脂質濃度50μM)。24時間のインキュベーション後、PBMCを分離し、200μlのPBSで2回洗浄し、1%(vol/vol)Empigen入りPBS50μl中に再浮遊させた。蛍光をλex=520nmおよびλem=590nmで測定した。
【0135】
異なる6種のモノクローナル抗体IgGのb6、b12、2G12、2F5、X5および4E10を試験に含めたが、b6および4E10は、共に脂質の凝集を起こしたので、リポソームに結合することができなかった。
【0136】
図11は、1mM NB−DNJを封入した、sCD4リポソーム、ならびにb12、2G12、2F5およびX5の各免疫リポソームを用いて得られ、対象に対するリポソーム取込み率(%)として表示した結果を表す。各感染について、標的指向分子とリポソーム単独対象との間には取込み量に有意差がある(P<0.0001)。sCD4に連結したリポソームは、試験した分離株全9種を標的とすることができ、リポソーム単独対象に比して細胞取込み量の有意な増加を示した。2F5およびb12免疫リポソームは、各々5種および6種の初代分離株に感染したPBMCにおけるリポソーム取込み量を増加させることができた。2G12およびX5免疫リポソームは、試験した初代分離株のいずれをも標的とせず、該標的指向分子はいずれも、非特異的相互作用による有意なリポソーム取込みを起こさなかった。
【0137】
したがって、sCD4リポソームが、HIV感染細胞をリポソームの標的とするための最良分子になり得る。sCD4は、広範囲のHIV−1初代分離株を首尾よく標的とするだけでなく、受容体媒介エンドサイトーシスを介した感染細胞におけるリポソーム取込みの増加も可能とする。
【0138】
sCD4リポソーム封入NB−DNJによるHIV−1 PBMCの処理
sCD4リポソームが最も広範な標的指向能力を有することが示されたので、このリポソーム調製物をp24分泌アッセイに用いて、NB−DNJの抗ウィルス活性を裸リポソームまたは遊離状態送達で認めたその活性と比較した。8種の初代分離株からなる同一群を含むアッセイを、NB−DNJの最終濃度範囲0〜375nMを用いて行った。結果は図12に提示してあり、sCD4リポソームは追加の中和能をもたらすことにより、全てのsCD4リポソーム処理剤が、NB−DNJを全く含有しない処理剤でさえも、各初代分離株を完全に中和することが示された(グラフA〜H)。
【0139】
HIV−1ウィルス活性のリバウンド
表4は、全てのNB−DNJ処理剤を除去した後のウィルス活性のリバウンドを表すデータを要約している。全ての例において、ウィルス活性が一旦ゼロに(またはゼロ近くまで)低下すると、処理を2週間解除した直後にリバウンドがなかった。
【0140】
【表4】
【0141】
ホスファチジルイノシトールのDOPE:CHEMSリポソーム中への組込み
ウシ肝細胞から精製したホスファチジルイノシトール(PI)を、最終モル濃度10〜30%でアッセイ済みのリポソーム組成物DOPE:CHEMS:Rh−PE中に組み込んだ。陰性対照としてDOPC:CHEMS:Rh−PEリポソームを試験の中に含めた。リポソームは既述のように調製した。MDBK細胞を集密度50%まで増殖させた後、培地を交換し、最終脂質濃度100μMのリポソームを含有する新鮮培地に取り替えた。15分間のインキュベーション後、リポソームを除き、細胞をPBS中で2回洗浄した。細胞を新鮮培地中で0、1、2、5、24または48時間インキュベートした後、細胞を2.5%パラホルムアルデヒド中で固定し、蛍光顕微鏡下で可視化した。細胞をDAPIで染色した後、目視分析を行った。
【0142】
図13は、各リポソーム調製物のMDBK細胞との15分間パルス後、0、1、2、5、24および48時間の各時点で撮った代表的蛍光画像を示す。結果より、最終濃度10〜30%の間でPI脂質を含有するリポソームは、細胞内の寿命が増加しており、それは、この方法で送達した脂質が、より効率的に細胞内に保持されている、あるいはより非効率的に分解されることを意味し得ることが示される。DOPE:CHEMS:Rh−PEリポソームのMDBK細胞とのインキュベーション後に撮った蛍光画像は、これらの脂質が、5時間と24時間との間のある時間に主に分解し、48時間までに完全に分解することを示している。48時間後、PI含有リポソームは、処理細胞内になお非常に明瞭に認められており、Rh−PEの拡散が進んだパターンが観察される。この結果は、この時点で大部分の脂質が、細胞膜中に合体してしまい、小胞にはもはや濃縮されていないことを示すことができる(点状蛍光パターン)。
【0143】
ER出芽ウィルス粒子のエンベロープ中へのDOPE:CHEMSリポソームの合体
リポソームが、ERなどの細胞膜と融合できるか否かを調べるために、Rh−PEを含有するリポソームを用いて、ER膜から出芽しているウィルス粒子中への取込みをモニターした。細胞変性BVDV(NADL、MOI=0.01)に持続的に感染させたMDBK細胞、およびナイーブ(感染していない)MDBKを、最終脂質濃度50μMのDOPE:CHEMS:Rh−PE、DOPE:CHEMS:PI:Rh−PEまたはDOPC:CHEMS:Rh−PEリポソームの存在下、2日間インキュベートする。インキュベーション後、リポソームを含有する培地を除き、細胞をPBS中で2回洗浄した後、新鮮培地を加え、細胞を更に3日間インキュベートした。3日後、処理細胞各組(感染済み、非感染の双方)からの上清試料を採り、λex=550nmおよびλem=590nmに設定した分光蛍光計を用いた蛍光測定のために使用する。実験は三重に実施して、その結果は読取値3回の平均を表す。
【0144】
同じリポソーム調製物で処理した非感染細胞と比較した、感染細胞の上清における蛍光のいずれの増加も、エンベロープ中にRh−PE脂質を含有するウィルス粒子の分泌に起因する。図14は、異なる3種の脂質組成物を用いて得た結果を示し、これらのデータは、DOPE(PE)を含有するリポソームが、ER膜中に、続いて出芽ウィルスのエンベロープ中に合体することができることを示している。DOPEリポソームで処理した感染細胞からの上清は全て、非感染試料と比較して蛍光の有意な増加を示した。陰性対照(ER標的指向性がない)として用いたDOPC(PC)含有リポソームは、感染、非感染試料間に蛍光の差を示さなかった。驚くべきことに、図13に提示したデータと一致して、脂質組成物の一部として10〜30%のPIを含有するリポソームは、PIがないリポソームのほぼ5倍効率的にウィルスエンベロープ中に合体することができた。このことは、PIが、ER膜中へのリポソームの取込み増加を担っていることを示す。この結果は、ERから出芽するBVDV、HCVおよびHBVなどのウィルスの処置に関わり合いを有し得る。
【0145】
ER標的リポソームを用いた抗ウィルス治療剤の開発における次の段階には、ER膜中へ送達することを目的とした、リポソームの脂質二重層内への抗ウィルスタンパク質の組込みがなり得る。抗ウィルスタンパク質には、それだけに限らないが、ウィルスエンベロープタンパク質に結合することが知られているウィルス受容体、および/またはウィルスエンベロープタンパク質の変異型、および/またはウィルスエンベロープの相互作用を妨害することが知られているタンパク質を含むことができる。
【0146】
抗ウィルス薬物を封入したER標的リポソーム調製物中に抗ウィルスタンパク質を組み込むことにより、相乗的に作用してウィルス感染性を低下させ得る3種の異なる戦略を併用することができる。即ち、そうした戦略は、1:ウィルスエンベロープ中に組み込んだ際に、ウィルス感染性を低下させると見込まれる、ER膜中への脂質の直接送達、2:出芽粒子のウィルスエンベロープ中に合体し、感染性を低下させると見込まれる、ER膜中へのタンパク質の直接送達、および3:細胞内区画中への抗ウィルス剤の直接送達である。
【0147】
以上では特定の好ましい実施形態に言及しているが、本発明がそのように制限されないことは理解されよう。開示した実施形態に多様な改変を加え得ること、およびそのような改変が本発明の範囲内に入ることを意図していることは、当業者には想いつかれよう。
【0148】
この明細書に引用した刊行物、特許出願および特許は全て、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本願は、共にその全体が参照により本明細書に組み込まれる、2006年8月2日出願のDwek他への米国仮出願第60/834797号および2006年9月22日出願のDwek他への同第60/846344号に対する優先権を主張する。
【0002】
本願は、一般に、ウィルス感染症を処置する方法および組成物、ならびにより具体的には、リポソームを利用してウィルス感染症を処置する方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
B型肝炎ウィルス。B型肝炎ウィルス(HBV、HepB)は、肝線維症、肝硬変、炎症性肝疾患、および一部の患者に死をもたらす恐れのある肝臓癌を含めた急性および慢性肝疾患の病原体である。例えば、Joklik, Wolfgang K., Virology, Third Edition, Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1988 (ISBN 0-8385-9462-X)を参照されたい。有効なワクチンは入手できるが、全世界で2億8千万強の人々、即ち世界人口の5%が、このウィルスになお慢性的に感染している。例えば、Locarnini, S. A., et. al., Antiviral Chemistry & Chemotherapy (1996) 7(2):53-64を参照されたい。このようなワクチンは、このウィルスに既に感染している人々には治療価値がない。欧州および北米では、人口の0.1%〜1%が感染している。感染している個人の15%〜20%が、HBV感染から肝硬変または原因の別の慢性障害を発症すると推定されている。肝硬変が一旦定着すると、罹患率および死亡率は多大であり、患者の存命期間は約5年である。例えば、Blume, H., E., et. al., Advanced Drug Delivery Reviews (1995) 17:321-331を参照されたい。
【0004】
C型肝炎ウィルス。全世界で約1億7千万の人々、即ち世界人口の3%(例えば、WHO, J. Viral. Hepat. 1999; 6: 35-47を参照されたい)、および米国内で約4百万の人々が、C型肝炎ウィルス(HCV、HepC)に感染している。HCVに急性感染している個人の約80%は、慢性感染症になる。したがって、HCVは慢性肝炎の主因である。一旦慢性感染症になると、処置せずにこのウィルスが一掃されることは殆どない。稀な症例では、HCV感染が、臨床的に急性の疾患および肝不全さえ起こす。慢性HCV感染症は個人間の差が激しいことがあり、一部の人々は、臨床的にさほどのことがない、または僅かな肝疾患に罹り、合併症を発現することはなかろうが、他の人々は、臨床的に明白な慢性肝炎に罹ると見込まれ、肝硬変の発現に進行する恐れがある。肝硬変を発症することが確かなHCV保有者の約20%は、末期の肝疾患を発症し、原発性肝臓癌発症の危険性が高まろう。
【0005】
単独使用またはリバビリンとの併用のインターフェロンなどの抗ウィルス薬は、患者の80%までに有効である(Di Bisceglie, A. M, and Hoofnagle, J. H. 2002, Hepatology 36, S121-S127)が、多くの患者はこの種の併用療法に耐えられない。
【0006】
牛ウィルス性下痢症ウィルス。牛ウィルス性下痢症ウィルス(BVDV)は、世界的に分布しており、大部分の畜牛集団に蔓延している。BVDVは、HCVの組織培養代用物としても汎用される。BVDVには2つのウィルスバイオタイプ、非細胞変性型(ncp)および細胞変性型(cp)が存在する。ウィルスバイオタイプの分類は、培養細胞における細胞変性作用に基づいており、病原性とは関係ない。ncp BVDVは畜牛において一般的であるが、cpバイオタイプは比較的稀であり、特定の変異事象がウィルスゲノム中に起こった後のncp株から生じる。組織培養におけるcp BVDV株による細胞の感染は、細胞単層上でのアポトーシス細胞集合体(プラーク)の形成を特徴とし、それは顕微鏡で容易にモニターすることができる。
【0007】
ヒト免疫不全ウィルス。ヒト免疫不全ウィルス(HIV)は、後天性免疫不全症候群(AIDS)および関連障害の病原体である。HIVには少なくとも2種の異なるタイプ、HIV−1およびHIV−2が存在する。更に、こうしたタイプ各々の集団内に遺伝的異質性が多量に存在する。AIDS流行の開始以来、およそ2千万人が死んでおり、現在4千万人がHIV−1/AIDSに罹って生活しており、世界全体で毎日1万4千人が感染すると推定されている。
【0008】
少なくとも利用可能な人たちにとって、生活の質、量共に大いに改善してきた多数の抗ウィルス治療剤および診断有効剤が、開発されてきた。こうした薬物の大部分は、逆転写、プロテアーゼ活性などのウィルスのタンパク質または過程を妨害する。遺憾ながら、こうした処置剤が感染を消失させることはなく、多くの治療剤の副作用は重く、薬物耐性HIV株が、現在使用されている抗ウィルス剤全種に対して存在する。
【0009】
治療剤としてのN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)。別名N−ブチル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトールのNB−DNJは、ERグルコシダーゼIおよびIIによるプロセシングを阻害し、とりわけ、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、およびB型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルスなどの肝炎ウィルス、牛ウィルス性下痢症ウィルスの糖タンパク質の異常折畳みおよび/またはER保持を起こすことにより、有効な抗ウィルス剤であることが示されている。NB−DNJおよび他のN置換デオキシノジリマイシン誘導体の合成法は、例えば、米国特許第5622972号、第4246345号、第4266025号、第4405714号および第4806650号に記載されている。NB−DNJの抗ウィルス作用は、例えば、肝炎ウィルスに対しては米国特許第6465487号、第6545021号、第6689759号、第6809083号に、HIVウィルスに対しては米国特許第4849430号に考察されている。
【0010】
NB−DNJなどのグルコシダーゼ阻害剤は、細胞培養においても、ウッドチャック動物モデルを使用してもHBV感染の処置に有効であることが示されている。例えば、T. Block, X. Lu, A. S. Mehta, B. S. Blumberg, B. Tennant, M. Ebling, B. Korba, D. M. Lansky, G. S. Jacob & R. A. Dwek, Nat. Med. 1998 May;4(5):610-4を参照されたい。NB−DNJは、HBV粒子の分泌を抑制し、HBV DNAの細胞内保持を起こす。
【0011】
NB−DNJは、HCVの細胞培養モデルであるBVDVに対する強力な抗ウィルス剤であることが示されている。例えば、Branza-Nichita N, Durantel D, Carrouee-Durantel S, Dwek RA, Zitzmann N., J. Virol., 2001 April; 75(8):3527-36; Durantel, D., et al, J. Virol., 2001, 75, 8987-8998; N. Zitzmann, et al, PNAS, 1999, 96, 11878-11882を参照されたい。NB−DNJによる処置は、ウィルス子孫の感染性を低下させるが、分泌ウィルスの実数にはそれほどの効果がない。
【0012】
NB−DNJは、HIVに対する抗ウィルス剤であることが示されており、処置によって、HIV感染細胞から放出されるウィルス粒子の個数に相対的に小さな作用を起こすが、感染性ウィルスの量を著しく減少させる。例えば、P.B. Fischer, M. Collin, et al (1995), J. Virol. 69(9): 5791-7; P.B. Fischer, G.B. Karlsson, T. Butters, R. Dwek and F. Platt, J. Virol. 70(1996a), pp. 7143-7152, P.B. Fischer, G.B. Karlsson, R. Dwek and F. Platt, J. Virol. 70(1996b), pp. 7153-7160を参照されたい。NB−DNJに関する臨床試験がHIV−1感染患者において行われ、その結果、抗ウィルス活性に必要な濃度が高過ぎて、患者に重度の副作用を起こすことが示された。例えば、Fischl M.A., Resnick L., Coombs R., Kremer A.B., Pottage J.C.Jr, Fass R.J., Fife K.H., Powderly W.G., Collier A.C., Aspinall R.L., et. al., J. Acquir. Immune. Defic. Syndr. 1994 Feb; 7(2):139-47を参照されたい。NB−DNJ処置に対して耐性な変異HIV株は、現在のところ存在しない。
【0013】
ERタンパク質折畳みならびにグルコシダーゼIおよびII。グルコシダーゼ阻害により示される抗ウィルス作用は、主にカルネキシン/カルレチキュリンサイクルへの進入を遮断することによる、ER内でのウィルス糖タンパク質の異常折畳みまたは保持の結果であると考えられている。成長ポリペプチド鎖中のAsn−X−Ser/Thrコンセンサス配列へトリグルコシル化オリゴ糖(Glc3Man9GlcNAc2)が移行した後、成熟糖鎖単位への更なるプロセシングが起こり得る前に、α連結グルコース残基3個を放出することが必要である。その上、カルネキシン/カルレチキュリンサイクルへ進入できるように、外側2個のグルコース残基が、適切に折り畳めるように切り取られなければならない。例えば、Bergeron, J.J. et. al., Trends Biochem. Sci., 1994, 19, 124-128; Peterson, J. R. et. al., Mol. Biol. Cell, 1995, 6, 1173-1184を参照されたい。開始プロセシングは、内腔状配向の触媒ドメインを有し、α1−2連結グルコース残基を特異的に切断するER配置内在性膜酵素(グルコシダーゼI)に作用され、この後、α1−3連結グルコース成分の両者を放出するグルコシダーゼIIの作用を受ける。
【0014】
リポソーム。リポソームは、分子障壁として作用する細胞膜を迂回することにより、細胞内へ直接水溶性化合物を送達することができる。pH感受性リポソーム製剤は、ホスファチジルエタノールアミン(PE)またはその誘導体(例えば、DOPE)と、中性pHで安定剤として作用できる酸性基含有化合物との組合せを含むことができる。コレステリルヘミスクシネート(CHEMS)は、そのコレステロール基が、他の両親媒性安定剤と比較して、インビボでPE含有小胞に高い安定性を付与するので、良好な安定化分子となり得る。リポソーム媒介送達のインビボ効果は、薬物動態および生体内分布に影響し得る血清成分(オプソニン)との相互作用に強く依存することができる。pH感受性リポソームは、血液循環系から急速に除去され、肝臓および脾臓中に蓄積できるが、共役結合したポリエチレングリコール(PEG)を有する脂質を包含すると、DOPE:CHEMSリポソーム上の正味負電荷を安定化させることにより、細網内皮系(RES)による除去を克服し、長い循環時間に至ることができる。DOPE−CHEMSおよびDOPE−CHEMS−PEG−PEの各リポソームおよびそれらの調製法は、例えば、共にその全体が参照により本明細書に組み込まれるV.A. Slepushkin, S. Simoes, P. Dazin, M.S. Newman, L.S. Guo and M.C.P. de Lima, J. Biol. Chem. 272(1997) 2382-2388およびS. Simoes, V. Slepushkin, N. Duzgunes and M.C. Pedroso de Lima, Biomembranes 1515 (2001) 23-37に記載されている。
【0015】
DOPE−CHEMS(モル比6:4)中に封入されたNB−DNJの送達は、米国特許出願第US2003/0124160号に開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
一実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)DOPEおよびCHEMSの各脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された1種または複数の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、ウィルス感染症が、ER膜出芽ウィルス感染症または原形質膜出芽ウィルス感染症であり、1種または複数の治療剤がN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含み、前記投与が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、1種または複数の治療剤を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法を提供する。
【0017】
本発明の別の実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された1種または複数の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法を提供する。1種または複数の治療剤は、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含むことができる。
【0018】
更に別の実施形態は、(a)pH感受性リポソームと、(b)リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物を投与することを、それを必要とする宿主に含み、前記投与が、抗原提示細胞の主要組織適合性分子クラス1による抗原提示を増加させる方法を提供する。
【0019】
更に別の実施形態は、HIV感染症を処置する方法であって、gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法を提供する。
【0020】
また更に別の実施形態は、DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入されたN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)などの少なくとも1種の治療剤とを含む組成物である。
【0021】
また更に別の実施形態は、pH感受性リポソームと、リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物である。
【0022】
また更に別の実施形態は、gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物である。
【0023】
また更に、別の実施形態によれば、ウィルス感染症を処置または予防する方法は、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス治療剤とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与し、前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞のER内腔中に、少なくとも1種の該治療剤を送達し、細胞のER膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込むことを含む。
【0024】
また更に、別の実施形態によれば、ある組成物が、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の抗ウィルス治療剤とを含む。
【0025】
また更に別の実施形態は、ウィルス感染症を処置する方法であって、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体膜中に、リポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法である。
【0026】
また更に別の実施形態は、(a)PI脂質を含んだリポソームと、(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質とを含む組成物である。
【0027】
また更に別の実施形態は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物である。
【0028】
また更に別の実施形態は、生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法である。
【0029】
また更に別の実施形態は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物である。
【0030】
また更に別の実施形態は、生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】DCPP−Rhリポソームを介した送達後の脱消光カルセインおよび蛍光標識脂質(Rh−PE)の小胞体(ER)局在性を示す図である。
【図2】CHOおよびMDBK細胞におけるDCPPリポソームの毒性を示す図である。PBSを封入したDCPPリポソームを、0〜500μMの範囲の最終脂質濃度にしてCHO細胞に添加し、0〜150μMの範囲の濃度にしてMDBK細胞に添加した。細胞およびリポソームを5日間インキュベートしておいた後、細胞生存率をトリパンブルー染色で測定した。その結果は、非処理対照と比較した生存細胞の比率(%)として提示している。
【図3】デオキシノジリマイシン(DNJ)、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)およびN−ノニルデオキシノジリマイシン(NN−DNJ)の各化合物を封入した場合の、CHO細胞におけるDCPP−Rhリポソームの取込みおよび細胞内カルセインの脱消光を示すプロットである。DCPP−Rhリポソームは、2段階の濃度で各化合物を封入して調製した。細胞膜中へのRh−PEの組込みで測定したリポソーム取込み、および細胞内放出の測定値であるカルセイン脱消光は、新鮮培地におけるリポソームの5分間パルスおよび30分間追跡の後に決定した。
【図4】各種DNJ分子を含有するDCPPリポソームのpH感受性を示す図である。
【図5】NB−DNJによる処理:遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達の後のBVDV分泌を示すプロットである。培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度50μMのリポソームを介して添加したNB−DNJによる処理中における、感染MDBK細胞からのBVDV粒子の分泌を、3日間のインキュベーション後にリアルタイムPCRで決定した。その結果は、リアルタイムPCRで検出し、非処理対照と比較したRNAコピー数の比率(%)として提示してある。
【図6】ncp BVDV感染性に対するNB−DNJの効果を遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達として示す図である。培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度50μMのリポソームを介して添加したNB−DNJの存在下、感染MDBK細胞が産生したncp BVDV粒子の感染性を、ナイーブMDBK細胞との3日間のインキュベーションにより測定した。感染細胞は、対照としてDAPI逆染色を用いて、MDBK細胞中に存在するBVDV非構造タンパク質の免疫蛍光染色により検出した。BVDV分泌のデータ(図2)を用いて最終的感染率(%)の計算を規格化した。
【図7】cp BVDVに対するNB−DNJの抗ウィルス作用を遊離状態送達対DCリポソーム媒介送達として示す図である。遊離した、またはDCリポソームに封入したNB−DNJの存在下、cp BVDVで感染したMDBK細胞を3日間増殖させた。分泌ウィルスを含有する上清を用いてナイーブMDBKを感染させた。3日後、生成したプラークを顕微鏡下で計数した(収率アッセイ)。
【図8】NB−DNJ存在下における、発現したHIVエンベロープタンパク質gp120に関するグリカンプロセシングの阻害を、遊離状態送達対DCPPリポソーム媒介送達として示す図である。可溶型gp120を発現するCHO細胞を、培地中に遊離状態で、または最終脂質濃度100μMのリポソームを介して添加したNB−DNJと共にインキュベートした。ERグルコシダーゼによるグルコース切取りの阻害で決定したNB−DNJ活性は、捕捉ELISAにおけるNB−DNJ処理gp120へのモノクローナル抗体2G12およびb12の結合により測定した。
【図9】(A〜C)8種の異なるHIV−1初代分離株に対する遊離NB−DNJの抗ウィルス作用を示す図である。図9Aは、様々な濃度のNB−DNJで4週間に亘り処理した8種の分離株のp24分泌平均値を示す。エラーバーは、各処理に対する分離株間の標準偏差を示す。図9Bは、0〜1mMの濃度範囲の遊離NB−DNJで当初処理した後の各初代分離株の分泌を示す。図9Cは、3週間処理した後のNB−DNJに対する個々の初代分離株の感受性を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、独立した2回の実験の3重試料から得た平均値を表す。各処理に対する近似的なIC50およびIC90は、グラフを横切る灰色(点)直線で示す。
【図10】(A〜H)8種のHIV−1初代分離株に対して、リポソームがNB−DNJの抗ウィルス活性を高める様子を示すデータを表す図である。各分離株で感染した(グラフA〜Hで表した)PBMCを、様々な濃度でNB−DNJを封入するリポソーム(L)で4週間に亘り処理した。培地中に遊離するNB−DNJ500μMによる処理(F)を、抗ウィルス活性の基準として示す。説明書きは、各処理のNB−DNJの最終濃度を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、独立した2回の実験の3重試料から得た平均値を表す。
【図11】広範囲のHIV−1分離株に感染した細胞による、sCD4−リポソームおよび免疫リポソームの取込みを示す図である。sCD4−リポソームおよびMAb−リポソーム各結合体(conjugate)を、異なる9種の初代分離株(括弧内はクレイド)に感染したPBMCと共にインキュベートする。取込みの増加は、インキュベーション後の細胞内蛍光脂質の増加により測定される。全ての値は、「非感染、リポソーム単独」対照に規格化したものであり、データは、1回の実験の3重試料から得た平均値±標準誤差を表す。相対的取込みデータは、一連の一元配置分散分析の後、事後テューキー検定を用いて各感染について個別に検定することにより、異なる標的指向分子間の有効性の差異を検定した。リポソーム結合体とリポソーム単独対照との取込み有意差(P<0.0001)は、星印で示す。
【図12】(A〜H)NB−DNJを封入したsCD4−リポソームの強力な相乗的抗ウィルス活性を示す図である。各分離株で感染した(グラフA〜Hで表した)PBMCを、様々な濃度でNB−DNJを封入するsCD4−リポソーム(CD4−L)で4週間に亘り処理した。培地中に遊離するNB−DNJ500μMによる処理(F)を、抗ウィルス活性の基準として示す。説明書きは、各処理のNB−DNJの最終濃度を示す。全ての値は非処理対照に対する比率(%)として表示し、データは、1回の実験の3重試料から得た平均値を表す。
【図13−1】(A〜E)様々なリポソーム調製物による15分間パルス後のMDBK細胞内部にあるローダミン標識PEの代表的蛍光画像を示す図である。詳細には、図13AはDOPE:CHEMS:Rh−PE(6:4:0.1)、図13BはDOPC:CHEMS:Rh−PE(6:4:0.1)、図13CはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:1:0.1)、図13DはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:2:0.1)、および図13EはDOPE:CHEMS:PI:Rh−PE(6:4:3:0.1)のデータを示す。Rh−PEの細胞内局在性は、各リポソーム調製物について0、1、2、5、24および48時間の各時点で観察した。全細胞を可視化するために、DAPI逆染色を使用した。
【図13−2】(図13−1の続き)
【図13−3】(図13−2の続き)
【図14】Rh標識PEを含有する様々なリポソーム調製物でcp−BVDV感染および非感染MDBK細胞を処理し、インキュベーション3日間後のRh−PE脂質の分泌を測定した結果を示す図である。同じリポソーム組成物で処理した感染細胞と非感染細胞との間のRh−PE分泌の増加は、ER膜から出芽した、Rh−PE脂質を含有するウィルス粒子の分泌に因るものであった。
【発明を実施するための形態】
【0032】
別途明記しない限り、「a」または「an」は「1つまたは複数」を意味する。
【0033】
用語の定義:
本明細書で使用する場合、用語「ウィルス感染」とは、ウィルスが健常な細胞に侵入し、細胞の繁殖機構を用いて増殖または複製し、最終的に細胞を溶解する結果、細胞死、ウィルス粒子の放出、および新生される子孫ウィルスによる他細胞の感染を起こす病的状態を表示する。特定のウィルスによる潜伏感染も、ウィルス感染の考え得る結果である。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「ウィルス感染の処置または予防」とは、特定ウィルスの複製を阻害すること、ウィルス伝染を阻害することまたはウィルスが宿主中に定着するのを予防すること、およびウィルス感染が起こす疾患の症状を改善もしくは緩和することを意味する。ウィルス負荷の低下、致死率および/または罹患率の減少が起これば、その処置は治療的と見なされる。
【0035】
用語「治療剤」とは、ウィルス感染またはそれが原因の疾患などの生理的病状の処置を補助することができる、分子または化合物などの任意の作用剤を指す。
【0036】
本明細書で使用する場合の用語「相乗的」とは、2種以上の任意の個別治療剤の相加的作用より有効である組合せを指す。本明細書で使用する場合の相乗的作用とは、ウィルス感染またはそれが原因の疾患などの生理的病状を処置または予防するために、いずれの個別治療剤もより少ない量(用量)で使用する能力を指す。このより少ない用量によって、処置の効力を低下させずに毒性を低下させることができる。それに加え、相乗的作用は、効力の改善、例えば抗ウィルス活性の改善をもたらすことができる。最後に、ウィルス感染については、相乗作用は、個別治療剤または個別治療法に対するウィルス耐性の回避または低下を改善し得る。
【0037】
リポソームは、球状二重層構成中に脂質を含む有機化合物と定義することができる。本明細書で考察するリポソームは、以下の略語で表現される1種または複数の脂質を含み得る。
CHEMSは、コレステリルヘミスクシネートの脂質を表す。
DOPEは、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
DOPCは、ジオレオイルホスファチジルコリンの脂質を表す。
PEは、ホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
PEG−PEは、ポリエチレングリコール(2000)−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
Rh−PEは、リサミンローダミンB−ホスファチジルエタノールアミンの脂質を表す。
MCC−PEは、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[4−(p−マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボキサミド]の脂質を表す。
PIは、ホスファチジルイノシトールの脂質を表す。
細胞内送達とは、リポソームから任意の細胞内区画への封入物質の送達を指す。
IC50またはIC90(阻害濃度50または90)は、ウィルス感染のそれぞれ50%または90%低下を実現するために使用される治療剤の濃度である。
DCリポソームは、DOPEおよびCHEMS脂質を6:3のモル比で含むリポソームを指定する。
DCPPリポソームは、DOPE、CHEMSおよびPEG−PE脂質を6:4:0.3のモル比で含むリポソームを指定する。
PBMCは、末梢血単核細胞を表す。
sCD4は、可溶性CD4分子を表す。「可溶性CD4」または「sCD4」またはD1D2」とは、水溶液中にあり、当業者に理解されるように、HIV Envのコンホメーションを変えることにより、膜固定天然CD4の活性を模倣できるCD4分子またはその断片を意味する。可溶性CD4の一例は、例えばSalzwedel et al. J. Virol. 74:326-333, 2000に記載される2ドメイン可溶性CD4(sCD4またはD1D2)である。
MAbは、モノクローナル抗体を表す。
DNJは、デオキシノジリマイシンを示す。
NB−DNJは、N−ブチルデオキシノジリマイシンを示す。
NN−DNJは、N−ノニルデオキシノジリマイシンを示す。
BVDVは、牛ウィルス性下痢症ウィルスを表す。
HBVは、B型肝炎ウィルスを表す。
HCVは、C型肝炎ウィルスを表す。
HIVは、ヒト免疫不全ウィルスを表す。
ncpは、非細胞変性を表す。
cpは、細胞変性を表す。
ERは、小胞体を表す。
CHOは、チャイニーズハムスター卵巣細胞を表す。
MDBKは、Madin−Darbyウシ腎細胞を表す。
PCRは、ポリメラーゼ連鎖反応を表す。
FOSは、遊離オリゴ糖を表す。
HPLCは、高速液体クロマトグラフィーを表す。
PHAは、フィトヘマグルチニンを表す。
FBSは、ウシ胎児血清を表す。
TCID50は、50%組織培養感染用量を表す。
ELISAは、酵素免疫吸着アッセイを表す。
IgGは、免疫グロブリンを表す。
DAPIは、4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドールを表す。
PBSは、リン酸緩衝塩水を表す。
【0038】
ウィルス感染症のリポソーム処置
本発明者等は、細胞と接触した際、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PEの各脂質を含む、DCリポソームまたはDCPPリポソームなどのpH感受性リポソームが、エンドサイトーシスに従う細胞のエンドソーム経路を迂回し、細胞の小胞体(ER)中に、即ちER内腔中に直接、リポソーム中に封入した物質を送達できることを発見した。リポソームの1種または複数の脂質は、細胞のER膜中に一体化することもできる。ウィルスに感染した細胞のER膜とのリポソーム脂質の合体は、出芽ウィルス粒子のエンベロープを変化させ、したがって感染性を低下させることができるので、この発見は、ER膜からのウィルスの出芽を要する、HBV、HCVおよびBVDV感染などのウィルス感染の処置に主要な意味合いをもつことができる。
【0039】
本発明者等は、DCPPリポソーム中にN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を封入することにより、デオキシノジリマイシン(DNJ)、N−ノニルデオキシノジリマイシン(NN−DNJ)などの他のデオキシノジリマイシン化合物のDCPP封入と比較して、細胞内送達を増加させることができることも発見した。NB−DNJの細胞内送達のこのような増加により、NB−DNJのインビボ活性を高めることができる。
【0040】
更に本発明者等は、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PEの各脂質を含む、DCPPリポソームなどのリポソームが、独自の、即ちリポソーム内部に封入された任意の治療剤と関係のない抗ウィルス活性を有することができること、ならびにDCPPリポソームおよびそのリポソーム内部に封入されているNB−DNJなどの治療剤が、ウィルスに対して相乗的に作用することができることも発見した。
【0041】
したがって、一実施形態は、ER膜ウィルス出芽感染、即ち、ウィルスの出芽がER膜で起きることができる、HBV、HCVまたはBVDV感染などのウィルス感染を処置する方法である。この方法は、感染症の原因であるウィルスに感染した細胞を、DOPEおよびCHEMSの各脂質を含むリポソーム中にNB−DNJを封入した組成物と接触させることを含むことができる。このような接触によって、接触細胞のER膜へ1種または複数のリポソームの脂質を送達し、その膜を変化させ、その結果子孫ウィルスの感染性を低下させ、しかも封入NB−DNJを直接、細胞のER内腔中に放出することにより、感染性を低下させる相乗的治療をもたらすことができる。
【0042】
別の実施形態は、感染症の原因であるウィルスに感染した細胞を、1)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの各脂質を含有するリポソームと、2)リポソーム内部に封入した治療剤とを含有する組成物と接触させることにより、ウィルス感染を処置する方法である。該ウィルス感染は、例えば、HCV、HBV、BVDV、HIV、モロニーマウス白血病ウィルス、マウス肝炎ウィルス、単純疱疹ウィルス1型および2型、サイトメガロウィルス、シンドビスウィルス、セムリキ森林熱ウィルス、水疱性口内炎ウィルス、A型インフルエンザウィルス、麻疹ウィルス、デング熱ウィルス、または日本脳炎ウィルスの場合があり、そうしたウィルスは、R. A. Dwek, et al, Nat. Rev. Drug Discov. 2002 Jan; 1(1):65-75に記載されている。
【0043】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入した治療剤は、α−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。幾つかの実施形態では、α−グルコシダーゼ阻害剤はER α−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。一般に、ウィルスエンベロープ糖タンパク質の適正な折畳みのために、カルネキシンおよび/またはカルレチキュリンとの相互作用に依存するウィルスはいずれも、ER α−グルコシダーゼ阻害剤の標的とすることができる。
【0044】
該α−グルコシダーゼ阻害剤には、作用剤の非存在下での宿主α−グルコシダーゼの酵素活性と比較して、そのα−グルコシダーゼの酵素活性を少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%、またはそれを超えて阻害する作用剤がなり得る。用語「α−グルコシダーゼ阻害剤」は、宿主α−グルコシダーゼ活性を阻害する天然、合成双方の作用剤を包含する。
【0045】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、それだけに限らないが、デオキシノジリマイシン、ならびに式IIの化合物および医薬として許容可能なその塩などのN−置換デオキシノジリマイシンが含まれ、
【化1】
【0046】
式中、R1は、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換シクロアルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換オキサアルキル基から選択され、それだけに限らないが、アリールアルキル、シクロアルキルアルキル、分枝または直鎖アルキル基、およびオキサアルキル基から選択され、W、X、YおよびZは、各々独立に水素、アルカノイル基、アロイル基およびハロアルカノイル基から選択される。
【0047】
このような実施形態の幾つかでは、R1が、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、−(CH2)2O(CH2)5CH3、−(CH2)2O(CH2)6CH3、−(CH2)6OCH2CH3、および−(CH2)2OCH2CH2CH3から選択される。他のこのような実施形態では、R1がブチルであり、W、X、YおよびZは全て水素である。
【0048】
幾つかの実施形態では、式IIの化合物は、それだけに限らないが、N−(n−ヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ヘプチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−オクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−オクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ドデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(2−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(4−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(5−メチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−プロピルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−ペンチルペンチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−ブチルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(7−メチルオクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(8−メチルノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(9−メチルデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(10−メチルウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(6−シクロヘキシルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(4−シクロヘキシルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(2−シクロヘキシルエチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−シクロヘキシルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(1−フェニルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(3−(4−メチル)フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(6−フェニルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール、N−(n−ノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−デシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(n−ドデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(2−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(4−エチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(5−メチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−プロピルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−ペンチルペンチルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−ブチルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(7−メチルオクチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(8−メチルノニル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(9−メチルデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(10−メチルウンデシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(6−シクロヘキシルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(4−シクロヘキシルブチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(2−シクロヘキシルエチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−シクロヘキシルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(1−フェニルメチル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(3−(4−メチル)フェニルプロピル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、N−(6−フェニルヘキシル)−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−グルシトール四酪酸、医薬として許容可能なそれらの塩、およびそれらの任意の2種以上の混合物から選択される。
【0049】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、米国特許第4639436号に記載のN−ヒドロキシエチルDNJ(MiglitolまたはGlyset(登録商標))などのN−オキサアルキル化デオキシノジリマイシンも含まれる。
【0050】
適切なα−グルコシダーゼ阻害剤には、米国特許出願第2006/0194835号に開示されている式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩などの、6−O−ブタノイルカスタノスペルミン(セルゴシビル)を含めたカスタノスペルミンおよびカスタノスペルミン誘導体、ならびにPCT公開第WO01054692号に開示されている式IIの化合物および医薬として許容可能なそれらの塩も含まれる。
【0051】
幾つかの実施形態では、該α−グルコシダーゼ阻害剤には、アカルボース(O−4,6−ジデオキシ−4−[[(1S,4R,5S,6S)−4,5,6−トリヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−2−シクロヘキセン−1−イル]アミノ]−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−O−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコース)、またはPrecose(登録商標)がなり得る。アカルボースは、米国特許第4904769号に開示されている。幾つかの実施形態では、該α−グルコシダーゼ阻害剤には、アカルボースの高純度型がなり得る(例えば、米国特許第4904769号を参照されたい)。
【0052】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤には、イオンチャンネル阻害剤がなり得る。幾つかの実施形態では、イオンチャンネル阻害剤は、HCV p7タンパク質の活性を阻害する作用剤でもよい。イオンチャンネル阻害剤およびそれらを同定する方法は、米国特許出願第2004/0110795号に詳述されている。適切なイオンチャンネル阻害剤には、式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩が含まれ、その中にはN−(7−オキサノニル)−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−7−オキサノニル6−MeDGJまたはUT231B)およびN−10−オキサウンデクル−6−MeDGJを含む。適切なイオンチャンネル阻害剤には、それだけに限らないが、N−ノニルデオキシノジリマイシン、N−ノニルデオキシノガラクトノジリマイシン、およびN−オキサノニルデオキシノガラクトノジリマイシンも含まれる。
【0053】
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤は、イミノ糖を含むことができる。適切なイミノ糖には、天然イミノ糖および合成イミノ糖の双方が含まれる。
【0054】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖には、デオキシノジリマイシンまたはN置換デオキシノジリマイシン誘導体がなり得る。適切なN置換デオキシノジリマイシン誘導体の例には、それだけに限らないが、本願の式IIの化合物、米国特許第6545021号の式Iの化合物、および米国特許第4639436号に記載のN−ヒドロキシエチルDNJ(MiglitolまたはGlyset(登録商標))などのN−オキサアルキル化デオキシノジリマイシンが挙げられる。
【0055】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、カスタノスペルミンおよびカスタノスペルミン誘導体でもよい。適切なカスタノスペルミン誘導体には、それだけに限らないが、米国特許出願第2006/0194835号に開示されている式(I)の化合物および医薬として許容可能なそれらの塩、ならびにPCT公開第WO01054692号に開示されている式IIの化合物および医薬として許容可能なそれらの塩が含まれる。
【0056】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、PCT公開第WO99/24401号および第WO01/10429号に開示されているようなデオキシノガラクトジリマイシンまたはそれらのN置換誘導体でもよい。適切なN置換デオキシノガラクトジリマイシン誘導体の例には、それだけに限らないが、N−ノニルデオキシノガラクトジリマイシンなどのN−アルキル化デオキシノガラクトジリマイシン(N−アルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール)、およびN−7−オキサノニルデオキシノガラクトジリマイシンなどのN−オキサアルキル化デオキシノガラクトジリマイシン(N−オキサアルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール)が挙げられる。
【0057】
幾つかの実施形態では、該イミノ糖は、それだけに限らないが、式Iの化合物を含めたN置換1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N置換MeDGJ)でもよい:
【化2】
【0058】
式中、Rは、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換シクロアルキル基、置換もしくは非置換ヘテロシクリル基、または置換もしくは非置換オキサアルキル基から選択される。幾つかの実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜16個の炭素原子、または4〜12個の炭素原子、または8〜10個の炭素原子を含む。幾つかの実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜4個の酸素原子を含み、他の実施形態では、1〜2個の酸素原子を含む。他の実施形態では、置換もしくは非置換アルキル基、および/または置換もしくは非置換オキサアルキル基は、1〜16個の炭素原子および1〜4個の酸素原子を含む。したがって幾つかの実施形態では、Rは、それだけに限らないが、−(CH2)6OCH3、−(CH2)6OCH2CH3、−(CH2)6O(CH2)2CH3、−(CH2)6O(CH2)3CH3、−(CH2)2O(CH2)5CH3、−(CH2)2O(CH2)6CH3、および−(CH2)2O(CH2)7CH3から選択される。N置換MeDGJは、例えばPCT公開第WO01/10429号に開示されている。
幾つかの実施形態では、リポソーム内部に封入される治療剤は、式VIIIを有する含窒素化合物または医薬として許容可能なその塩を含むことができ、
【化3】
式中、R12は、C1〜C20、またはC1〜C6もしくはC7〜C12もしくはC8〜C16などのアルキル基であり、1〜5個または1〜3個または1〜2個の酸素も含有することができ、R12は、オキサ置換アルキル誘導体でもよい。オキサ置換アルキル誘導体である場合の例には、3−オキサノニル、3−オキサデシル、7−オキサノニルおよび7−オキサデシルが挙げられる。
R2は水素であり、R3はカルボキシもしくはC1〜C4アルコキシカルボニルであり、またはR2およびR3が一緒になって、
【化4】
であり、式中、nは3もしくは4であり、各Xは、独立に水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C6アシルオキシ、もしくはアロイルオキシであり、各Yは、独立に水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C6アシルオキシ、もしくはアロイルオキシであり、または欠失しており(即ち、存在しない)、
R4は、水素または欠失しており(即ち、存在しない)、
R5は、水素、ヒドロキシ、アミノ、置換アミノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシ、ヒドロキシアルキル、アシルオキシ、またはアロイルオキシであり、あるいはR3およびR5が一緒になってフェニルを形成し、R4が欠失している(即ち、存在しない)。
幾つかの実施形態では、該含窒素化合物は以下の式を有し、
【化5】
式中、R6〜R10は、各々独立に、水素、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシ、C1〜C4アルキルカルボキシ、C1〜C4アルキル、C1〜C4アルコキシ、C1〜C4ヒドロキシアルキル、C1〜C4アシルオキシ、およびアロイルオキシからなる群から選択され、R11は、水素またはC1〜C6アルキルである。該含窒素化合物は、N−アルキル化ピペリジン、N−オキサアルキル化ピペリジン、N−アルキル化ピロリジン、N−オキサアルキル化ピロリジン、N−アルキル化フェニルアミン、N−オキサアルキル化フェニルアミン、N−アルキル化ピリジン、N−オキサアルキル化ピリジン、N−アルキル化ピロ−ル、N−オキサアルキル化ピロ−ル、N−アルキル化アミノ酸またはN−オキサアルキル化アミノ酸でもよい。ある種の実施形態では、N−アルキル化ピペリジン、N−オキサアルキル化ピペリジン、N−アルキル化ピロリジンまたはN−オキサアルキル化ピロリジン化合物には、イミノ糖がなり得る。例えば、幾つかの実施形態では、該含窒素化合物は、以下の式:
【化6】
を有するN−アルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−アルキル−DGJ)もしくはN−オキサアルキル−1,5−ジデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−オキサアルキル−DGJ)、または以下の式:
【化7】
を有するN−アルキル−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−アルキル−MeDGJ)もしくはN−オキサアルキル−1,5,6−トリデオキシ−1,5−イミノ−D−ガラクチトール(N−オキサアルキル−MeDGJ)でもよい。
【0059】
本明細書で使用する場合、当該の各基は、炭素原子数を別途明示しない限り以下の特性を有する。アルキル基は、1〜20個の炭素原子を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルコキシ基は、1〜16個の炭素原子を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルコキシカルボニル基は、2〜16個の炭素原子を有するエステル基である。アルケニルオキシ基は、2〜16個の炭素原子、1〜6個の二重結合を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アルキニルオキシ基は、2〜16個の炭素原子、1〜3個の三重結合を有し、直鎖または分枝、置換または非置換である。アリール基は、6〜14個の炭素原子を有し(例えば、フェニル基)、置換または非置換である。アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基)およびアロイルオキシ基(例えば、ベンゾイルオキシ基)は、7〜15個の炭素原子を有し、置換または非置換である。アミノ基は、一級、二級、三級または四級アミノ基でもよい(即ち、置換アミノ基)。アミノカルボニル基は、1〜32個の炭素原子を有するアミド基(例えば、置換アミド基)である。置換基は、ハロゲン、ヒドロキシ、C1〜10アルキル、C2〜10アルケニル、C1〜10アシル、またはC1〜10アルコキシからなる群から選択される置換基を含めることができる。
【0060】
N−アルキル化アミノ酸には、N−アルキル化a−アミノ酸などのN−アルキル化天然アミノ酸がなり得る。天然アミノ酸は、一般的な20種のα−アミノ酸(Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Ser、Thr、Asp、Asn、Lys、Glu、Gln、Arg、His、Phe、Cys、Trp、Tyr、MetおよびPro)、ならびに天然産物であり、ノルロイシン、エチルグリシン、オルニチン、メチルブテニルメチルスレオニンおよびフェニルグリシンなどの他のアミノ酸のうち、1種である。アミノ酸側鎖(例えばR5)の例には、H(グリシン)、メチル(アラニン)、−CH2C(O)NH2(アスパラギン)、−CH2−SH(システイン)および−CH(OH)CH3(スレオニン)が含まれる。
【0061】
N−アルキル化化合物は、アミノ(またはイミノ)化合物の還元的アルキル化により調製することができる。例えば、アミノまたはイミノ化合物は、そのアミンをN−アルキル化するために、還元剤(例えば、水素化シアノホウ素ナトリウム)と共にアルデヒドに曝すことができる。同様に、N−オキサアルキル化化合物は、アミノ(またはイミノ)化合物の還元的アルキル化により調製することができる。例えば、アミノまたはイミノ化合物は、そのアミンをN−オキサアルキル化するために、還元剤(例えば、水素化シアノホウ素ナトリウム)と共にオキサアルデヒドに曝すことができる。
【0062】
当含窒素化合物は、1個または複数の保護基を含むことができる。多種の保護基が知られている。一般に、保護基の化学種は、該化合物の他の位置における任意の後続反応(複数も)の条件に安定であり、かつその分子の残部に悪影響を及ぼさずに適当な時点で除くことができる限り、決定的に重要ではない。それに加え、実質的な合成的変換が完了した後、1種の保護基で別種を置き換えてもよい。明らかなことであるが、ある化合物が、本明細書に開示した化合物の1個または複数の保護基を異なる保護基で置き換えたという点だけで、その開示化合物と異なる場合、その化合物は本発明内に入る。更なる例および条件は、Greene, Protective Groups in Organic Chemistry, (1st Ed., 1981, Greene & Wuts, 2nd Ed., 1991) に見出される。
【0063】
該含窒素化合物は、例えば、結晶化またはクロマトグラフィー法により精製することができる。この化合物は、出発物質として立体特異的なアミノまたはイミノ化合物を用いて立体特異的に調製することができる。
【0064】
長鎖N−アルキル化化合物の調製に出発物質として使用されるアミノおよびイミノ化合物は、商業的に入手することができ(Sigma、St.Louis、MO;Cambridge Research Biochemicals、Norwich、Cheshir、英国;Toronto Rrsearch Chemicals、Ontario、カナダ)、または既知の合成法で調製することができる。例えば、該化合物は、N−アルキル化イミノ糖化合物またはそれらのオキサ置換誘導体でもよい。そのイミノ糖は、例えば、デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)、1−メチルデオキシガラクトノジリマイシン(MeDGJ)、デオキシノジリマイシン(DNJ)、アルトロスタチン、2R,5R−ジヒドロキシメチル−3R,4R−ジヒドロキシピロリジン(DMDP)、またはそれらの誘導体、鏡像異性体もしくは立体異性体でもよい。
【0065】
多様なイミノ糖化合物の合成が、これまで記載されている。例えば、DNJ誘導体の合成法が知られており、例えば、米国特許第5622972号、第5401645号、第5200523号、第5043273号、第4994572号、第4246345号、第4266025号、第4405714号および第4806650号に記載されている。他のイミノ糖誘導体の合成法が知られており、例えば、米国特許第4861892号、第4894388号、第4910310号、第4996329号、第5011929号、第5013842号、第5017704号、第5580884号、第5286877号および第5100797号、ならびにPCT公開第WO01/10429号に記載されている。2R,5R−ジヒドロキシメチル−3R,4R−ジヒドロキシピロリジン(DMDP)の鏡像異性特異的合成は、FleetおよびSmith(Tetrahedron Lett. 26: 1469-1472, 1985)により記載されている。
【0066】
接触細胞には、人間などの哺乳動物の細胞がなり得る。幾つかの例では、感染細胞のリポソーム組成物との接触は、感染細胞を含んだ対象へその組成物を投与することにより、行うことができる。該対象には人間などの哺乳動物がなり得る。幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は静脈注射で投与することができる。更に幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は、腹腔内、皮下、皮内、表皮内、筋肉内または経皮経路などの、静脈注射以外の非経口経路を介して投与することができる。更に幾つかの実施形態では、リポソーム組成物は、粘膜表面、例えば、眼球、鼻腔内、肺、腸、直腸および尿管の表面を介して投与することができる。リポソーム組成物の投与経路は、例えば、A. S. Ulrich, Biophysical Aspects of Using Liposomes as Delivery Vehicles, Bioscience Reports, Volume 22, Issue 2, April 2002, 129-150 に開示されている。
【0067】
リポソームを介したER内腔中へのNB−DNJなどの治療剤の送達は、非リポソーム法と比較して、ERグルコシダーゼの阻害に必要な治療剤の有効量を低下させることができる。例えばNB−DNJについては、IC90を、少なくとも100倍、または少なくとも500倍、または少なくとも1000倍、または少なくとも5000倍、または少なくとも10000倍、または少なくとも50000倍、または少なくとも100000倍低下させることができる。NB−DNJの抗ウィルス有効量のこのような低下によって、投与NB−DNJの最終濃度を、哺乳動物、特に人間における毒性レベルより1桁または複数桁低くすることができる。
【0068】
幾つかの例では、NB−DNJなどの治療剤を含むリポソーム組成物を、抗ウィルス剤などの1種または複数の追加の治療剤と併用して、感染細胞に接触させることができる。幾つかの例では、このような追加の治療剤は、リポソーム中にNB−DNJと共に同時封入することができる。更に幾つかの例では、感染細胞のこのような追加の治療剤との接触は、その細胞を含む対象へ追加の該治療剤を投与した結果でもよい。追加の該治療剤の投与は、その組成物へ該治療剤を添加することにより実施することができる。更に幾つかの例では、追加の該治療剤の投与は、NB−DNJを含有するリポソーム組成物の投与とは別に、実施することができる。このような別の投与は、リポソーム組成物に使用する投与経路と同じでも、異なってもよい投与経路を介して実施することができる。
【0069】
併用療法は、抗ウィルス活性に必要な作用剤の有効量を低下させ、それによりその毒性を低下させ得るだけでなく、多重の機構によりウィルスを攻撃する結果、絶対的な抗ウィルス作用も改善し得る。例えば、DCPPリポソームの脂質およびNB−DNJは、1)NB−DNJ含有リポソームによる処置が、外来脂質の付加でエンベロープ組成を変え得る場である、ウィルスのエンベロープに対して、および2)ウィルス糖タンパク質の異常折畳みを介して、作用することにより、感染性を低下させることができる。したがって、NB−DNJと異なる標的または作用機構を有する1種または複数の作用剤と併用される、NB−DNJを封入するリポソームは、相加的または相乗的効果をもたらすことができる。
【0070】
それに加え、併用療法は、ウィルス耐性の発現を回避する、またはその発現確率を減少させる手段をもたらすことができる。
【0071】
NB−DNJ含有リポソームと併用できる特定の追加治療剤(複数も)は、処置するウィルス感染症に依存することができる。例えば、HBV、HCVまたはBVDV感染症などの肝炎感染症については、そのような治療剤(複数も)には、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド抗ウィルス剤、および/または免疫賦活/免疫調節剤がなり得る。肝炎処置のためにNB−DNJと併用できる、多様なヌクレオシド剤、ヌクレオチド剤および免疫賦活/免疫調節剤が、2004年2月10日にJacob他に交付された米国特許第6689759号に例示されている。例えば、C型肝炎感染症の処置については、NB−DNJを、ヌクレオチド剤としての1−b−D−リボフラノシル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキサミド(リバビリン)および免疫賦活/免疫調節剤としてのインターフェロンαなどのインターフェロンと組み合わせて、リポソーム中に封入することができる。リバビリンおよび/またはインターフェロンによる肝炎感染症の処置は、例えば、米国特許第6172046号、第6177074号、第6299872号、第6387365号、第6472373号、第6524570号および第6824768号で考察されている。
【0072】
HIV感染症の処置のために、NB−DNJ含有リポソームと併用できる治療剤は、抗HIV剤でもよく、例えば、ヌクレオシド系逆転写酵素(RT)阻害剤として(−)−2’−デオキシ−3’−チオシチジン−5’−三リン酸(3TC)、(−)−cis−5−フルオロ−1−[2−(ヒドロキシメチル)−[1,3−オキサチオラン−5−イル]シトシン(FTC)、3’−アジド−3’−デオキシチミジン(AZT)およびジデオキシイノシン(ddI)など、非ヌクレオシドRT阻害剤としてN11−シクロプロピル−4−メチル−5,11−ジヒドロ−6H−ジピリド[3,2−b:2’,3’−e]−[1,4]ジアゼピン−6−オン(ネビパリン)など、プロテアーゼ阻害剤、またはそれらの組合せでもよい。抗HIV治療剤は、AZT、DDIおよびネビラピンの組合せなどの二重または三重の組合せで使用することができる。
【0073】
gp120/gp41標的指向部と結合したリポソーム
本発明は、gp120/gp41標的指向部と結合したリポソームを含む組成物、およびHIV感染症に感染した細胞をそのような組成物と接触させることにより、該感染症を処置する方法も提供する。gp120/gp41標的指向部は、sCD4分子、またはIgG 2F5もしくはIgG b12などのモノクローナル抗体を含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはDOPEおよびCHEMSの各脂質を含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはPEG−PE脂質を更に含むことができる。幾つかの実施形態では、リポソームはMCC−PE脂質を更に含むことができる。HIV感染症の処置のために、該組成物は、リポソーム内部に封入されるNB−DNJなどの追加治療剤を更に含むことができる。
【0074】
PI脂質を含むリポソーム
本発明者等は、ホスファチジルイノシトール(PI)脂質を含むpH感受性リポソームなどのリポソームが、PI脂質を含有しないリポソームより、細胞のER膜を効果的に標的とすることができることも発見した。更に、PI脂質を含むリポソームは、リポソームを介して送達される1種または複数の脂質の細胞における寿命を延ばすことができる。
したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された、抗ウィルス治療剤などの少なくとも1種の治療剤とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。このような標的送達法は、ウィルス感染症などの生理的病状、またはその病状に侵された対象においてそれを原因とする疾患の処置または予防に使用することができる。
【0075】
発明者等は更に、ER標的リポソーム中に少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質を組み込むと、1)ウィルスエンベロープ中に組み込まれたときに、ウィルス感染性を低減できるリポソーム脂質のER膜中への直接送達、および2)出芽粒子のウィルスエンベロープ中に合体し、独自に感染性を低減できる少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質のER膜中への直接送達により、ウィルス感染性が相乗的に低減し得ると考えている。抗ウィルス治療剤などの少なくとも1種の治療剤をリポソーム中に封入することによって、3)治療剤のER内腔などの細胞内区画中への直接送達により、付加的な相乗効果を得ることができる。
【0076】
したがって、幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された、抗ウィルスタンパク質などの少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。このような標的送達法は、ウィルス感染症などの生理的病状、またはその病状に侵された対象においてそれを原因とする疾患の処置または予防に使用することができる。
【0077】
更に幾つかの実施形態では、本発明は、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された、抗ウィルス組成物などの少なくとも1種の治療剤と、リポソームの脂質二重層中に挿入された、抗ウィルスタンパク質などの少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物、および人間などの哺乳動物がなり得る対象に、そのような組成物を投与することを含む標的送達法を提供する。
【0078】
該ウィルス感染症は、例えば、ER膜出芽ウィルス感染症、即ちER膜でウィルスの出芽が起こるHBV、HCVもしくはBVDV感染症などのウィルス感染症、または原形質膜出芽ウィルス感染症、即ち原形質膜でウィルスの出芽が起こるHIV感染症などのウィルス感染症でもよい。
【0079】
PI脂質を含んだリポソームは、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PE脂質などの1種または複数の脂質を更に含有することができる。リポソーム中のPI脂質のモル濃度は、約3%〜約60%まで、または約5%〜約50%まで、または約10%〜約30%まで変化することができる。
【0080】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したα−グルコシダーゼ阻害剤のいずれかなどのα−グルコシダーゼ阻害剤でもよい。
【0081】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したイオンチャンネル活性阻害剤でもよい。
【0082】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、上記に考察したイミノ糖のいずれかなどのイミノ糖でもよい。
【0083】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム内部に封入される治療剤は、式VIIIの含窒素化合物でもよい。
【0084】
幾つかの実施形態では、PI脂質を含んだリポソーム中に挿入されるタンパク質は、抗ウィルスタンパク質でもよい。適切な抗ウィルスタンパク質には、それだけに限らないが、ウィルスエンベロープタンパク質に結合することが知られているウィルス受容体、および/または変異型ウィルスエンベロープタンパク質、および/またはウィルスエンベロープの相互作用を妨害することが知られているタンパク質が挙げられる。例えば、HIV感染症については、抗ウィルスタンパク質にはCD4タンパク質がなり得る。HCV、BVDVまたはHBV感染症については、抗ウィルスタンパク質には、HCV/BVDVのE1またはE2タンパク質などの各ウィルスエンベロープタンパク質の1種の変異型がなり得る。
【0085】
以下の実施例に決して限定するわけではないが、それらによって本発明を更に例示する。
【0086】
リポソームの調製
全ての実験に使用したリポソームは、以下の通り調製した。即ち、脂質のクロロホルム溶液をガラス管中に入れ、窒素気流下で溶媒を蒸発させた後、減圧下で真空遠心分離を行った。脂質膜(全脂質10μmol)を、PBS緩衝液1ml、pH7.4(薬物入りもしくはなし、および/またはPBS中に80mMカルセイン含有)中、室温で1時間、渦流撹拌することにより水和した。生成した多重膜小胞を浴槽型超音波発生器中で15分間、超音波処理した後、孔径80nmのポリカーボネートフィルターから21回押し出した。
【0087】
封入剤濃度の最適化
蛍光分子のカルセインを、その蛍光が自己消光される濃度の80mMでDCPPリポソーム内部に封入した。リポソームからのカルセインの漏出、および周囲媒体中へのその希釈によって、脱消光が起こり、測定/観察可能な蛍光が増大する。封入率(%)は、カルセインを含有する最終的リポソーム調製物をMES緩衝塩水中で最終リン脂質濃度0.5μMに希釈することにより、決定し、Triton X−100を最終濃度0.1%まで添加する前後に、カルセインをλex=490およびλem=520nmで測定した。界面活性剤添加後の蛍光差をリポソーム内封入率(%)とし、各実験におけるDNJ化合物の最終濃度を決定するためのその化合物量の推算に使用する。
【0088】
ER膜中への脂質封入
リポソームは、ER内腔中に直接、封入物質を送達すると同時に、脂質をER膜中に組み込むことができる。最初の証拠は、蛍光標識によるリポソームのタグ付けにより得られるが、そのタグ付けでは、脂質含量がDOPE:CHEMS:PEG−PE:Rh−PE(DCPP−Rh)のモル比6:4:0.3:0.1となるように、PEに結合したローダミン(Rh−PE)をDCPPリポソーム中に組み込んだ(モル含量1%)。MDBK細胞を、Rh−PEで標識され、カルセインを含有するpH感受性リポソームで30分間パルス処理した。非吸着リポソームを除去し、その細胞を3時間更に追跡した。追跡期間の終りに、ERマーカーであるER−Trackerと30分間細胞をインキュベートし、洗浄し、可視化した。図1に示したマージ図は、カルセイン、Rh標識脂質およびERトラッカーが共局在していることを明示している。これに基づけば、リポソームは、ER膜内に合体する色素であるERトラッカーとのリポソーム脂質の共局在で示される、ER膜との初期融合段階の後、ERへその水性含有物を送達するとの結論を得ることができる。
【0089】
リポソームの毒性
リポソームの毒性は、異なる2種の細胞系、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞およびMadin−Darbyウシ腎(MDBK)細胞において測定した。
【0090】
集密度80%を超えるまで6ウェルプレート中に細胞を播種し、PBSを封入したDCPPリポソームを、脂質最終濃度がCHO細胞に対しては0〜500μM、MDBK細胞に対しては0〜150μMの範囲となるように、培地に添加した。細胞およびリポソームを37℃、5日間インキュベートしたままとした後、細胞を採集し、トリパンブルーで染色後、計数した。その結果は、非処理対照(x軸上100%)と比較した際に、処理試料中に存在する生存細胞の比率(%)として表し、3回の個別実験からの二重試料の平均値±S.D.である。
【0091】
結果は図2に示してあり、CHO細胞における細胞毒性が、脂質濃度150μMの存在下でインキュベーション後に徐々に現れた。MDBK細胞の方が、DCPPリポソームに対する感受性が高いようであり、75μMを超える脂質濃度で重度の細胞毒性を示した。
【0092】
DCPPリポソームからのイミノ糖放出
CHOおよびMDBK細胞を用いた全ての実験において、脂質最終濃度が各々100μMおよび50μMとなるまでDCPPリポソームを添加した(両者の細胞生存率は>95%)。
【0093】
次の実施例では、NB−DNJのブチル鎖が、封入物質のDCPPリポソームからの細胞内放出量増加を直接担っていることが示される。
【0094】
DCPPリポソーム内部に封入した際の異なるDNJ化合物が、細胞取込みおよび細胞内放出に及ぼす効果を、既述のように化合物を80mMカルセイン中に希釈し、Rh−PEをリポソーム膜中に組み込み、最終リポソーム組成をDOPE:CHEMS:PEG−PE:Rh−PE(DCPP−Rh、6:4:0.3:0.1)とすることにより、決定した。カルセイン単独、10μM DNJ、1mM DNJ、10μM NB−DNJ、1mM NB−DNJ、10μM NN−DNJまたは1mM NN−DNJを封入したリポソームをCHO細胞と45分間インキュベートした後、リポソームを除き、細胞を1×PBS中で2回洗浄した。次いで、細胞を蛍光光度計中で分析し、カルセインの脱消光(λex=490およびλem=520nm)ならびにローダミンの蛍光(λex=584およびλem=612nm)を測定した。データは、独立した4実験の三重試料から得た平均値±S.D.を表しており、ローダミン蛍光の平均値はリポソームの結合および取込みを反映し、カルセイン蛍光の平均はこの色素の細胞内脱消光を反映する(即ち、リポソームから細胞内区画中に放出された色素)。結果は、カルセイン/PBS単独リポソーム対照(x軸上100%)と比較した、DNJ含有リポソームとのインキュベーション後に測定された蛍光率(%)として表示されている。
【0095】
図3に示すように、DNJおよびNN−DNJは共に、カルセインの脱消光量、したがって細胞内放出には全く効果がなかった。しかし、NB−DNJは、脱消光カルセインの濃度依存的増加を示し、10μMおよび1mMの製剤が、各々約1.8倍および2.3倍の増加を起こす。
【0096】
カルセイン対ローダミンの蛍光比計算値は、細胞結合リポソーム当たりの放出された水性マーカー量の尺度と見なされ、細胞内送達の効率を表す。各封入物質について計算した効率を表1に列挙してある。結果は、10μMおよび1mMのNB−DNJ含有リポソームが、DCPPリポソームからの細胞内送達の効率を各々約2倍および3倍増加させたことを示す。
【0097】
【表1】
【0098】
本発明はその作動理論に縛られることはないが、NB−DNJのブチル鎖が、DCPPリポソームからの封入物質の細胞内送達増大を促進する機構は、脂質二重層内へのブチル鎖の挿入によるリポソームの不安定化を介する可能性が高い。NN−DNJの9炭素アルキル鎖も、リポソームの脂質二重層中に挿入されることができる。しかし、この長さでは、提示した結果が示唆するように、その分子は、実際には二重層の形成を安定化させ得る。NN−DNJリポソームは細胞取込みを増加させるが、カルセインの放出量は、対照と同等に留まり、細胞内でのリポソーム安定性の増加を示している。
【0099】
DCPPリポソームの安定性
次の実施例では、NB−DNJ、NN−DNJ双方のアルキル鎖が、pHを下げるとDCPPリポソームの安定性を高めることにより、その性質を変化させることが示されている。
【0100】
80mMカルセイン緩衝液中の1mMのDNJ、NB−DNJまたはNN−DNJを封入したDCPPリポソームを、空(カルセイン単独)のリポソームと比較することにより、NB−DNJおよびNN−DNJのアルキル鎖がpH感受性に及ぼす効果を決定した。カルセイン担持DCPPリポソーム(最終リン脂質濃度5μM)10μlを、5.0〜7.4の範囲の様々なpH値でMES緩衝塩水2mlに添加し、37℃、15分間振とうしながらインキュベートするがままにした。インキュベーション後、Tritonを最終濃度0.1%まで添加する前後にカルセイン蛍光を測定した。pHのカルセイン蛍光に対する若干の効果について、酸性pH値で得られた蛍光強度を補正した。各pHでのカルセイン放出率(%)は次式を用いて計算したが、その式は、%漏出=((In−I0)/(I100−I0))x100であり、式中I0は中性pHでの蛍光、InはTriton添加前の酸性pHでの補正強度、I100は中性pHでの脱消光全カルセインである。
【0101】
結果は図4に示してあり、カルセイン単独およびDNJ封入型のリポソーム間の安定性に差異は認められなかった。しかし、pH感受性の有意な減少が、NB−DNJおよびNN−DNJリポソームで認められ、アルキル鎖の結果として低いpHで安定性の増加を示した。NB−DNJ、NN−DNJの双方は、インビトロでより大きな安定性をDCPPリポソームに付与したが、インビボではNN−DNJだけが、実際にはカルセイン送達を阻害しており(図4および表1)、細胞内積荷(cargo)放出の過程に影響する、またはそれを制御する、pH感受性以外の要因の存在を浮き彫りにした。
【0102】
図3、図4および表1からの知見に基づけば、DNJ分子上のアルキル鎖の存在だけでなく長さも、内部に封入した際、リポソームの性質に影響し得ると結論することができる。こうした観察は、アルキル鎖がリポソームの脂質二重層に挿入され、脂質組成を効果的に変化させた結果であることは、ほぼ間違いない。以上の研究では4炭素鎖(NB−DNJ)および9炭素鎖(NN−DNJ)だけが使用されたが、短鎖は、インビボでリポソームを不安定化させ、荷役分子の細胞内放出を増加させ得るのに対して、長鎖は、同じ脂質組成物を安定化させ、放出を阻害するかのように思われる。
【0103】
DCPPリポソーム中に封入されたNB−DNJによるBVDV分泌の減少
次の実施例では、DCPPリポソーム中に封入されたNB−DNJが、MDBK細胞からのBVDV粒子の分泌を減少させることが示される。
【0104】
DCおよびDCPPリポソーム中に組み込まれたNB−DNJの複合抗ウィルス作用が、BVDVのcp株、ncp株のいずれかに感染したMDBK細胞において示された。
【0105】
BVDVのncp株を用いた第1の研究では、NB−DNJを遊離状態で培地へ添加し、最終濃度を0〜750nMの間の範囲にした。別のインキュベーションでは、NB−DNJ DCPPリポソームの添加により、最終脂質濃度を50μMとし、NB−DNJの最終濃度を0〜750nMの間の範囲とした。実験は、6ウェルプレート中で二重に実施した。分泌BVDVウィルス粒子の量は、3日間のインキュベーション後に測定した。ウィルス分泌の分析は、上清500μlから抽出したウィルスRNAに関する定量的PCR(リアルタイムPCR)により行った。リアルタイムPCRでは、ncp BVDV RNAを対象としたプライマーを使用し、順方向プライマー配列はTAGGGCAAACCATCTGGAAGであり、逆方向プライマー配列はACTTGGAGCTACAGGCCTCAであった。結果は、非処理対照(x軸上100%)と比較した際の処理試料中に存在するRNAコピー数の比率(%)として表示される。
【0106】
図5は、ncp BVDVの分泌に対する遊離状態、DCPP中双方のNB−DNJの効果に関する結果を表す。NB−DNJの最終濃度750nMを使用した場合、リポソーム媒介送達では分泌ウィルス粒子数が1/2に減少し、遊離送達では無効である。リポソーム、封入NB−DNJのいずれかの濃度を増加させることにより、アッセイを更に最適化させると、ウィルス分泌を更に一層減少させることができる。
【0107】
本発明はその作動理論に制限されることはないが、BVDV分泌を阻害することができた機構は、グルコシダーゼ阻害の結果、E1、E2などのウィルス糖タンパク質をER内に保持したことにより得る。
【0108】
BVDVの感染性
次の実施例では、空およびNB−DNJ封入双方のDCPPリポソームが、MDBK細胞から分泌されるBVDV粒子の感染性を低減することが示される。DCPPリポソームおよびNB−DNJが、相乗的に作用することも示される。
【0109】
前の実験から採集したBVDVウィルス粒子(分泌BVDVを含有する上清500μl)を用いて、NB−DNJ処理分泌BVDVの感染性を、ナイーブMDBK細胞との3日間のインキュベーション後、免疫蛍光染色により感染細胞中のBVDVタンパク質を同定することによって、決定した。細胞は、抗BVDV NS2−NS3モノクローナル抗体、続いてFITC標識二次抗体を用いて感染後に染色した。実験は、6ウェルプレートを用いて二重に行った。ウィルス感染性(%)は、BVDV非構造タンパク質の存在で特定した感染細胞数を細胞核のDAPI染色で決定した全細胞数で割ることにより、計算した。各試料中のウィルス価の増減を考慮するために、結果の規格化も行った(BVDV分泌実験の結果)。
【0110】
図6は、ncp BVDVの感染性に対する遊離状態、DCPPリポソーム中双方のNB−DNJの効果に関する結果を表す。こうした結果は、非処理BVDV、ならびに最終濃度750nMまでの遊離NB−DNJで処理したBVDVも、ナイーブMDBK細胞の約20%に感染できるウィルス子孫を産生したことを示している。しかし、DCPPリポソームにより送達される750nMのNB−DNJとインキュベートした感染細胞は、ウィルス子孫の感染性を有意に低下させた(ナイーブ細胞の1%未満が感染した)。驚くべきことに、封入NB−DNJを有する、または有していない、いずれのDCPPリポソームで処理された全ての感染MDBK細胞も、ウィルス子孫に感染した細胞数を約7%へ低下させた。したがって、1×PBSだけを封入したDCPPリポソームは、非処理ウィルスと比較してBVDV感染性をほぼ1/3に低下させたが、750nMのNB−DNJと併用すると、抗ウィルス作用は対照の20倍強に増加した。同じ濃度の750nMを培地に遊離状態で添加したNB−DNJは、殆どないし全く効果を示さなかった。リポソーム、封入NB−DNJのいずれかの濃度を増加させることにより、アッセイを更に最適化させると、ウィルス感染性を完全に排除することができる。
【0111】
本発明はその作動理論に制限されることはないが、NB−DNJ封入DCPPリポソームによる処理がウィルス感染性に作用する機構は、DCPP脂質のER膜中への合体と、更に、活性の向上およびウィルス糖タンパク質の異常折畳みを起こす、抗ウィルス剤NB−DNJの作用部位直接の標的送達との複合効果とし得る。その結果、こうしたリポソームで処理したウィルス子孫は、ER中でのグリカンプロセシングの欠如により欠損しているウィルス糖タンパク質に加え、ウィルスエンベロープ中に存在するDCPP脂質を有し得る。
【0112】
リポソーム封入NB−DNJの抗ウィルス作用
cp BVDVに対するリポソーム封入NB−DNJの抗ウィルス作用も、感染細胞の単層上にプラークを形成できるcp株を利用する方法である、収率低下アッセイを用いて試験した。
【0113】
図7は、感染性cp BVDVの分泌に対する、遊離状態対DCリポソーム封入型のNB−DNJの効果を表す。cp BVDVに感染したMDBK細胞を、最終NB−DNJ濃度が0〜500μMの間の範囲にあり、全脂質濃度が100μMとなるように、遊離型またはDCリポソーム型のNB−DNJで3日間処理した。次いで上清を取り出し、それを用いて6ウェルプレート中で新たなMDBK単層を感染させた。3日後、プラークを顕微鏡下で計数し(プラークアッセイ)、その結果を薬物無添加上清による感染で生じたプラーク数(=100%)(x軸)に対する比率(%)として表示した。y軸は、プラークアッセイに使用した遊離状態またはDCリポソーム封入型のNB−DNJ濃度を示す。IC50は、グラフの下端部に示してある。その結果は、DCリポソーム中へのNB−DNJ封入型の方が、感染性BVDVの分泌を8倍良好に阻害した(IC50が、遊離薬物の175μMに比較して20μM)。cp BVDVに関するアッセイは、NB−DNJをDCPPリポソーム中に組み込むことにより最適化することができ、その場合に細胞培養培地中で安定性が高まり、そのため改善された抗ウィルス作用を有することができる。
【0114】
遊離オリゴ糖分析で測定したDCPP封入NB−DNJの活性増加
遊離状態またはDCPPリポソーム封入型のNB−DNJ存在下で産生される遊離オリゴ糖(FOS)の特性を決定し、細胞内送達による薬物活性の増強を測定するために、グルコシダーゼ阻害に対する細胞マーカーとして使用する。FOSは、ER膜にあるSec61含有チャンネルを通じて、プロテアソーム分解のためにERから移出される異常折畳み糖タンパク質に対する、サイトゾルペプチドのN−グリカナーゼ(PNGase)の作用を介して生成することが示されてきた。FOS中に存在するグリカンの同定によって、タンパク質の折畳みがどの段階で妨害されたかが明らかとなる。この実験では、グルコシル化FOSの分布をNB−DNJによるグルコシダーゼ阻害の尺度として使用するが、その場合、Glc1Mann−FOSおよびGlc2Mann−FOSはグルコシダーゼII阻害の結果であり、Glc3Mann−FOSはグルコシダーゼI阻害の結果である。
【0115】
CHO細胞を、抗ウィルス濃度0.5mMの遊離NB−DNJの存在下で、または最終濃度範囲0〜75nMのNB−DNJを封入したDCPPリポソーム100μMと共にインキュベートした。細胞を5日間インキュベートするがままにし、FOSの単離は、Mellor et al (2004). Biochem. J. 2004 August 1; 381(Pt 3): 861-866 が記載するように、全タンパク質を500μgに標準化した細胞ホモジェネートを用いて行った。FOSの検出は、オリゴ糖を2−アミノベンズアミドで標識した後、順相HPLCにより行った。FOSの組成は、エンドグリコシダーゼH、タチナタマメα−マンノシダーゼ、ならびにα−グルコシダーゼIおよびIIを含めたグリコシダーゼによる消化によって、更に特性決定し、判定した。非グルコシル化およびグルコシル化オリゴマンノースFOS(Mann−FOS、Glc1Mann−FOS、Glc2Mann−FOSおよびGlc3Mann−FOSで表される)の比率(%)を各試料について計算し、その結果を表2に表してある。結果は、別々の4実験の平均値±S.D.を表す。
【0116】
【表2】
【0117】
抗ウィルス濃度0.5mMの遊離NB−DNJの存在下でインキュベートしたCHO細胞は、主にFOSのトリグルコシル化種を産生し、この濃度でグルコシダーゼIの阻害を示した。これは、グルコシダーゼIの阻害が、HIVについて以前に報告されたNB−DNJの抗ウィルス作用を担っていると示唆することができる。増加させていくNB−DNJ濃度でリポソーム処理した試料から単離したFOSは、グルコシル化FOSの分布が、各々グルコシダーゼIIおよびIの阻害による、主としてGlc1Man−FOSからGlc3Man−FOSへ徐々に移行することを明らかにした。DCPPリポソームを介して送達した場合、NB−DNJ最終濃度750nMで処理した試料は、0.5mMの遊離状態インキュベーションについて見られたレベルと同等レベルのグルコシダーゼIの阻害を示し、細胞内送達の結果、抗ウィルス活性が約600〜700倍増強したことを示唆した。
【0118】
本発明はその作動理論に縛られることはないが、NB−DNJ活性の増加を実現する機構は、この抗ウィルス剤の作用部位(即ち、ER内腔)への直接送達を介したものとし得る。ER直接送達は、NB−DNJを遊離状態で周囲培地へ添加した場合には障壁として恐らく作用できる原形質膜およびER膜双方を、抗ウィルス剤が迂回することを可能にし得る。NB−DNJを用いて封入した場合に認められる細胞内送達量の増加は、他の化合物に比較してNB−DNJのER内腔内での高い濃度の結果、活性の増強にも寄与し得る。
【0119】
2G12抗体結合で決定したDCPP封入NB−DNJの活性増加
次の実施例では、HIVエンベロープタンパク質gp120上でのグリカンプロセシングの阻害で測定した場合のNB−DNJの活性が、遊離またはDCPPリポソーム封入NB−DNJの存在下、CHO細胞中での発現後に決定される。
【0120】
可溶型HIV gp120を発現するCHO細胞を、濃度範囲0〜5mMの遊離NB−DNJの存在下で、または培地中の最終濃度範囲が0〜750nMの間のNB−DNJを封入したリポソームと共にインキュヘートした。細胞を5日間インキュヘートするがままにまかせた後、処理gp120を含有する細胞上清を採集した。NB−DNJの存在下(遊離状態、リポソーム中のいずれか)で、発現したgp120上でのグリカンプロセシングの阻害を測定するために、MAb 2G12の結合を捕捉ELISAで決定した。2G12は、gp120の糖鎖豊富な表面上にあるマンノース残基集合体を認識し、NB−DNJ存在下での結合の減失が、エピトープを形成するオリゴマンノースグリカン上でのグルコースの保持から生じる。しかし、結合親和性の減失は、該タンパク質の異常折畳みからも生じ得るので、こうした2通りの可能性を識別するために、中和用MAb、b12に対する全試料の親和性も測定する。b12抗体は、CD4結合部位であるコンホメーション感受性エピトープを認識し、その部位は2G12の結合部位と重複していない。細胞上清中にある可溶性gp120は、D7324抗体(gp120のC5領域に結合する)を用いてELISAプレート中で捕捉し、2G12、b12いずれかの10μg/mlで処理した。両抗体のNB−DNJ処理試料への結合を非処理gp120に対する結合と関連付け、データは、結合率(%)として表示し、個別の4実験からの三重結果の平均値±S.D.を表す。
【0121】
図8は、培地中に遊離している0.5mM NB−DNJで処理した後の2G12に対するgp120結合の減失(1.2±0.1%の結合)と、一方b12に対する100%の結合維持とを示している。NB−DNJ最終濃度7.5nMによるリポソーム媒介送達は、2G12に対する9.8±4.8%の結合と、b12結合に対する効果が有意でない(96.3±3.2%)結果とを生じ、細胞内送達の結果としてIC90が60000〜70000倍増強されたことを示している。
【0122】
免疫増強ペプチドのリポソーム送達
本発明者等は、抗原提示細胞を、DOPE、CHEMSおよび/またはPEG−PE脂質を含むリポソームなどのpH感受性リポソームと、リポソーム中に封入された免疫増強ペプチドなどの抗原とを含有する組成物に接触させることによって、主要組織適合性分子クラスIによる提示を増加させることができることも発見した。このような接触は、抗原提示細胞を含む対象に該組成物を投与した結果とし得る。対象に対する該組成物の投与は、対象のワクチン接種に使用することができる。
【0123】
免疫増強ペプチドは、チロシナーゼペプチドYMDGTMSQVにより例示することができ、そのペプチドは、全長チロシナーゼを発現する細胞上に主要組織適合性分子1のHLA−A0201により提示されることが判明した。これは、チロシナーゼアミノ酸369〜377位に相当するチロシナーゼペプチドYMNGTMSQVから生じ、N連結糖鎖付加部位6を含む変換ペプチドである。本発明はその作動理論により制限されることはないが、該変換ペプチドは、酵素ペプチドであるN−グリカナーゼによるサイトゾル中での脱グリコシル化の結果、生じることができる。N−グリカナーゼペプチドは、抗原プロセシングに関連する輸送体(TAP)に結合し、これがそのペプチドをER中に輸送する。YMDGTMSQVペプチドのDCPPリポソーム中への封入は、そのペプチドのER送達を1桁低下させる。
【0124】
遊離およびリポソーム封入NB−DNJによるHIV−1感染PBMCの処理
感染ヒト細胞由来のHIV−1初代分離株のNB−DNJによる消失を、指標細胞としてフィトヘマグルチニン(PHA)活性化末梢血単核細胞(PBMC)、および評価項目としてp24抗原産生の決定を使用して評価した。
【0125】
健常(感染していない)供与者4名からのPBMCを分離し、プールし、更に、10%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリン1ml当たり100U、ストレプトマイシン1ml当たり100μgおよび2mM L−グルタミンを含有するRPMI1640培地中で、PHA(5μg/ml)で48時間、続いてPHA+インターロイキン−2(40U/ml)で72時間刺激した。全ての実験は、96ウェルマイクロタイタープレート中で行った。細胞を感染させるために、PHA活性化PBMC100μl(5×105/ml)を各ウェルに添加し、その後、初代分離株ストックの50%組織培養感染用量(TCID50)100倍分を含有する等容量を添加した。終夜のインキュベーション後、細胞を組織培養培地で3回洗浄し、最後に、リポソーム処理した、または遊離の適当なNB−DNJを含有する培地中に再浮遊させた。7日目に、分泌されたHIV−1ビリオンを含有する培養容量の約10〜30%を用いて、2回目の感染および処理のためにナイーブPBMCを感染させた(移し取った容量は、その分離株の非処理対照がTCID50=100でナイーブ細胞を感染させるのに必要な容量として計算した)。ナイーブ細胞の処理および感染の回数を4週間に亘って重ね、各時点で分泌ビリオンを含有する細胞上清を分離し、捕捉ELISAに用いてp24濃度(分泌の尺度)を決定した。それに加え、処理全体を通して各時点で分離した上清を用いて、ナイーブPBMCを2週間感染させた(TCID50=100)が、それ以上の処理を加えず、それによりウィルス活性のリバウンドの観察が可能となった。
【0126】
8種の初代分離株(表3に列挙)に感染したPBMCを、遊離NB−DNJ(濃度範囲0〜1mM)またはリポソーム封入NB−DNJ(0〜3.75μM、最終脂質濃度50μM)の存在下でインキュベートした。
【0127】
【表3】
【0128】
遊離NB−DNJで処理したPBMCの結果から、HIV−1に対する抗ウィルス濃度は500μMであることが確認された。これは、全ての分離株において、4週間の処理をかけてウィルス活性を消失させる最低の濃度であった(図9a)。全ての分離株が、ウィルス活性の少なくとも90%低下(IC90)を示し、NB−DNJが、広範囲のHIV−1を効果的に標的とすることができることを示唆した。
【0129】
遊離NB−DNJのウィルス分泌に対する効果は、処理の第1週後に得たp24測定値から決定することができる。培地中に遊離しているNB−DNJの最高濃度1mMでは、大部分の分離株がウィルス分泌の約30〜40%の低下で反応した(図9b)。特に注目すべきは、3種のクレイドb分離株の89.6、JR−FLおよび92HT599であり、その場合、分泌が50%低下し、89.6の場合には75%低下した。クレイドc分離株の93IN101も、分泌が50%減少した。
【0130】
異なる初代分離株に対するNB−DNJの抗ウィルス活性の程度(薬物感受性)は、処理3回後に得たp24測定値から推算した。この時点では、p24分泌の完全な曲線が各分離株に対して観察され、したがってIC50およびIC90を共に計算することができた。試験した8種の分離株のデータを図9cに示してあり、6株はそれぞれ400μMおよび500μM、2株はそれぞれ250μMおよび375μMのIC50およびIC90を有すると計算される。NB−DNJ処理に最も感受性が高いことが示された2株、89.6および93BR3020は、これらの実験に含められ、二重向性を示すことが知られている唯一の分離株でもあるのに対し、その他の6種の分離株は、R5、X4のいずれかに(単)向性である。
【0131】
DOPE:CHEMS:PEG−PEリポソーム内に封入した際のNB−DNJの抗ウィルス活性を同じ8種の分離株で測定することにより、細胞内送達活性の増強を決定した。図10は、NB−DNJの最終濃度範囲を0〜3.75μMとして、試験した8種の分離株(グラフA〜H)における4週間の処理をかけたp24分泌量を示す。500μM遊離NB−DNJを用いた結果とウィルス減少を比較すると、全ての分離株が、NB−DNJの濃度範囲3.75〜37.5nMで、抗ウィルス活性の類似パターンを示し、増強は約104〜105倍である。薬物感受性の他に、リポソームの取込み速度および細胞内送達の効率などの新たな変数が存在するので、NB−DNJリポソームによる処理に対する異なる分離株の感受性には、やはり変動があった。
【0132】
sCD4リポソームおよび免疫リポソームによるHIV−1感染PBMCのターゲッティング
HIV−1感染細胞の表面上に発現したgp120/gp41複合体をリポソームの標的とすることによる細胞取込みの増加を、異なる9種の初代分離株において、可溶性CD4分子(sCD4)、およびこの複合体に結合することが知られている数種のモノクローナル抗体を用いて評価した。
【0133】
sCD4リポソーム結合体は、最初にsCD4の一級アミンをN−スクシンイミジル−S−アセチルチオプロピオネートと化学的に反応させて、保護スルフヒドリル基を創製し、次いでその基をヒドロキシルアミンHClで脱アセチル化することにより脱保護することによって、創製した。免疫リポソームは、最初に、IgG分子を、2本の重鎖間にあるヒンジ領域のジスルフィド結合を特異的に還元する作用剤の2−メルカプトエタノールアミンで還元し、遊離スルフヒドリル基を各々含有する2本の半IgG分子を創製することにより、調製した。リポソームは、既述のように調製したが、マレイミド基を含有するPE脂質(MCC−PE)を二重層中に組み込むことにより、最終的リポソーム組成をDOPE:CHEMS:PEG−PE:MCC−PE:Rh−PE(モル比6:4:0.3:0.3:0.1)とした。非保護sCD4分子および還元IgG分子は、室温で終夜、リポソームと共にインキュベートするがままにした。リポソームは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて遊離のsCD4またはIgGから精製した。
【0134】
蛍光標識脂質(Rh−PE)をリポソーム二重層中に組み込み、エンドサイトーシスの増加を、インキュベーション後に細胞中に検出される蛍光の増加から計算した。PBMCは、既述のように96ウェルマイクロタイタープレート中で精製し、培養し、感染させた。PBMCは、初代分離株(TCIC50=100)と5日間インキュベートするがままにした後、細胞を組織培養培地で3回洗浄し、最後に適当なリポソーム処理剤を含有する培地中に再浮遊させた(最終脂質濃度50μM)。24時間のインキュベーション後、PBMCを分離し、200μlのPBSで2回洗浄し、1%(vol/vol)Empigen入りPBS50μl中に再浮遊させた。蛍光をλex=520nmおよびλem=590nmで測定した。
【0135】
異なる6種のモノクローナル抗体IgGのb6、b12、2G12、2F5、X5および4E10を試験に含めたが、b6および4E10は、共に脂質の凝集を起こしたので、リポソームに結合することができなかった。
【0136】
図11は、1mM NB−DNJを封入した、sCD4リポソーム、ならびにb12、2G12、2F5およびX5の各免疫リポソームを用いて得られ、対象に対するリポソーム取込み率(%)として表示した結果を表す。各感染について、標的指向分子とリポソーム単独対象との間には取込み量に有意差がある(P<0.0001)。sCD4に連結したリポソームは、試験した分離株全9種を標的とすることができ、リポソーム単独対象に比して細胞取込み量の有意な増加を示した。2F5およびb12免疫リポソームは、各々5種および6種の初代分離株に感染したPBMCにおけるリポソーム取込み量を増加させることができた。2G12およびX5免疫リポソームは、試験した初代分離株のいずれをも標的とせず、該標的指向分子はいずれも、非特異的相互作用による有意なリポソーム取込みを起こさなかった。
【0137】
したがって、sCD4リポソームが、HIV感染細胞をリポソームの標的とするための最良分子になり得る。sCD4は、広範囲のHIV−1初代分離株を首尾よく標的とするだけでなく、受容体媒介エンドサイトーシスを介した感染細胞におけるリポソーム取込みの増加も可能とする。
【0138】
sCD4リポソーム封入NB−DNJによるHIV−1 PBMCの処理
sCD4リポソームが最も広範な標的指向能力を有することが示されたので、このリポソーム調製物をp24分泌アッセイに用いて、NB−DNJの抗ウィルス活性を裸リポソームまたは遊離状態送達で認めたその活性と比較した。8種の初代分離株からなる同一群を含むアッセイを、NB−DNJの最終濃度範囲0〜375nMを用いて行った。結果は図12に提示してあり、sCD4リポソームは追加の中和能をもたらすことにより、全てのsCD4リポソーム処理剤が、NB−DNJを全く含有しない処理剤でさえも、各初代分離株を完全に中和することが示された(グラフA〜H)。
【0139】
HIV−1ウィルス活性のリバウンド
表4は、全てのNB−DNJ処理剤を除去した後のウィルス活性のリバウンドを表すデータを要約している。全ての例において、ウィルス活性が一旦ゼロに(またはゼロ近くまで)低下すると、処理を2週間解除した直後にリバウンドがなかった。
【0140】
【表4】
【0141】
ホスファチジルイノシトールのDOPE:CHEMSリポソーム中への組込み
ウシ肝細胞から精製したホスファチジルイノシトール(PI)を、最終モル濃度10〜30%でアッセイ済みのリポソーム組成物DOPE:CHEMS:Rh−PE中に組み込んだ。陰性対照としてDOPC:CHEMS:Rh−PEリポソームを試験の中に含めた。リポソームは既述のように調製した。MDBK細胞を集密度50%まで増殖させた後、培地を交換し、最終脂質濃度100μMのリポソームを含有する新鮮培地に取り替えた。15分間のインキュベーション後、リポソームを除き、細胞をPBS中で2回洗浄した。細胞を新鮮培地中で0、1、2、5、24または48時間インキュベートした後、細胞を2.5%パラホルムアルデヒド中で固定し、蛍光顕微鏡下で可視化した。細胞をDAPIで染色した後、目視分析を行った。
【0142】
図13は、各リポソーム調製物のMDBK細胞との15分間パルス後、0、1、2、5、24および48時間の各時点で撮った代表的蛍光画像を示す。結果より、最終濃度10〜30%の間でPI脂質を含有するリポソームは、細胞内の寿命が増加しており、それは、この方法で送達した脂質が、より効率的に細胞内に保持されている、あるいはより非効率的に分解されることを意味し得ることが示される。DOPE:CHEMS:Rh−PEリポソームのMDBK細胞とのインキュベーション後に撮った蛍光画像は、これらの脂質が、5時間と24時間との間のある時間に主に分解し、48時間までに完全に分解することを示している。48時間後、PI含有リポソームは、処理細胞内になお非常に明瞭に認められており、Rh−PEの拡散が進んだパターンが観察される。この結果は、この時点で大部分の脂質が、細胞膜中に合体してしまい、小胞にはもはや濃縮されていないことを示すことができる(点状蛍光パターン)。
【0143】
ER出芽ウィルス粒子のエンベロープ中へのDOPE:CHEMSリポソームの合体
リポソームが、ERなどの細胞膜と融合できるか否かを調べるために、Rh−PEを含有するリポソームを用いて、ER膜から出芽しているウィルス粒子中への取込みをモニターした。細胞変性BVDV(NADL、MOI=0.01)に持続的に感染させたMDBK細胞、およびナイーブ(感染していない)MDBKを、最終脂質濃度50μMのDOPE:CHEMS:Rh−PE、DOPE:CHEMS:PI:Rh−PEまたはDOPC:CHEMS:Rh−PEリポソームの存在下、2日間インキュベートする。インキュベーション後、リポソームを含有する培地を除き、細胞をPBS中で2回洗浄した後、新鮮培地を加え、細胞を更に3日間インキュベートした。3日後、処理細胞各組(感染済み、非感染の双方)からの上清試料を採り、λex=550nmおよびλem=590nmに設定した分光蛍光計を用いた蛍光測定のために使用する。実験は三重に実施して、その結果は読取値3回の平均を表す。
【0144】
同じリポソーム調製物で処理した非感染細胞と比較した、感染細胞の上清における蛍光のいずれの増加も、エンベロープ中にRh−PE脂質を含有するウィルス粒子の分泌に起因する。図14は、異なる3種の脂質組成物を用いて得た結果を示し、これらのデータは、DOPE(PE)を含有するリポソームが、ER膜中に、続いて出芽ウィルスのエンベロープ中に合体することができることを示している。DOPEリポソームで処理した感染細胞からの上清は全て、非感染試料と比較して蛍光の有意な増加を示した。陰性対照(ER標的指向性がない)として用いたDOPC(PC)含有リポソームは、感染、非感染試料間に蛍光の差を示さなかった。驚くべきことに、図13に提示したデータと一致して、脂質組成物の一部として10〜30%のPIを含有するリポソームは、PIがないリポソームのほぼ5倍効率的にウィルスエンベロープ中に合体することができた。このことは、PIが、ER膜中へのリポソームの取込み増加を担っていることを示す。この結果は、ERから出芽するBVDV、HCVおよびHBVなどのウィルスの処置に関わり合いを有し得る。
【0145】
ER標的リポソームを用いた抗ウィルス治療剤の開発における次の段階には、ER膜中へ送達することを目的とした、リポソームの脂質二重層内への抗ウィルスタンパク質の組込みがなり得る。抗ウィルスタンパク質には、それだけに限らないが、ウィルスエンベロープタンパク質に結合することが知られているウィルス受容体、および/またはウィルスエンベロープタンパク質の変異型、および/またはウィルスエンベロープの相互作用を妨害することが知られているタンパク質を含むことができる。
【0146】
抗ウィルス薬物を封入したER標的リポソーム調製物中に抗ウィルスタンパク質を組み込むことにより、相乗的に作用してウィルス感染性を低下させ得る3種の異なる戦略を併用することができる。即ち、そうした戦略は、1:ウィルスエンベロープ中に組み込んだ際に、ウィルス感染性を低下させると見込まれる、ER膜中への脂質の直接送達、2:出芽粒子のウィルスエンベロープ中に合体し、感染性を低下させると見込まれる、ER膜中へのタンパク質の直接送達、および3:細胞内区画中への抗ウィルス剤の直接送達である。
【0147】
以上では特定の好ましい実施形態に言及しているが、本発明がそのように制限されないことは理解されよう。開示した実施形態に多様な改変を加え得ること、およびそのような改変が本発明の範囲内に入ることを意図していることは、当業者には想いつかれよう。
【0148】
この明細書に引用した刊行物、特許出願および特許は全て、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)DOPEおよびCHEMSの脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された1種または複数の化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
ウィルス感染症が、ER膜出芽ウィルス感染症または原形質膜出芽ウィルス感染症であり、
1種または複数の化合物が、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含み、前記投与が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、1種または複数の化合物を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項2】
前記感染症がER膜出芽ウィルス感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記感染症がHBV、HCVまたはBVDV感染症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記感染症が原形質膜出芽ウィルス感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記感染症がHIV感染症である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リポソームがDCリポソームである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リポソームがDCPPリポソームである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1種または複数の前記化合物が、ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンαである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1種または複数の前記化合物が、少なくとも1種の抗HIV化合物を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された1種または複数の化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
1種または複数の化合物が、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含む方法。
【請求項17】
前記ウィルスが肝炎ウィルスである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ウィルスがB型肝炎ウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ウィルスがC型肝炎ウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ウィルスがBVDVウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ウィルスがBVDVウィルスのncp株である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウィルスがBVDVウィルスのcp株である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
1種または複数の前記化合物が、ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ウィルスがHIVウィルスである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記HIVウィルスが、92UG037、92RW021、JR−FL、92HT599、89.6、93IN101、97USNG30、92UG021、92UG046および93BR020の初代HIV−1分離株からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1種または複数の前記化合物が、1種または複数の抗HIV剤を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
(a)pH感受性リポソームと、(b)リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、前記投与が、抗原提示細胞の主要組織適合性分子クラス1による抗原提示を増加させる方法。
【請求項30】
前記抗原が免疫増強ペプチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ペプチドがYMDGTMSQVペプチドである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMSを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記宿主がヒトである、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
HIV感染症を処置する方法であって、
gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法。
【請求項36】
前記標的指向部がsCD4分子を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標的指向部がモノクローナル抗体を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体がIgG 2F5またはIgG b12抗体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記HIV感染症が、92UG037、92RW021、JR−FL、92HT599、89.6、93IN101、97USNG30、92UG021、92UG046および93BR020の初代HIV−1分離株からなる群から選択される、HIV−1初代分離株により起こされる、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記リポソームがMCC−PE脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記組成物が、リポソーム内部に封入されたαグルコシダーゼ阻害剤を更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
前記阻害剤がNB−DNJを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記宿主がヒトである、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの脂質を含んだリポソームと、
リポソーム内部に封入されたN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)と
を含む組成物。
【請求項48】
前記リポソームがDCPPリポソームである、請求項47に記載の組成物。
【請求項49】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項47に記載の組成物。
【請求項50】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンである、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
1種または複数の抗HIV剤を更に含む、請求項47に記載の組成物。
【請求項52】
pH感受性リポソームと、リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物。
【請求項53】
前記抗原が免疫増強ペプチドを含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項55】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項54に記載の組成物。
【請求項57】
gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物。
【請求項58】
前記標的指向部がsCD4分子を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記標的指向部がモノクローナル抗体を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項60】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項61】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項62】
前記リポソームがMCC−PE脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項63】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項64】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が約10〜約30%である、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
リポソーム内部に封入されたαグルコシダーゼ阻害剤を更に含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項66】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項65に記載の組成物。
【請求項67】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
ウィルス感染症が、ER膜ウィルス出芽感染症であり、
前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、少なくとも1種の化合物を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項68】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項67に記載の方法。
【請求項72】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記宿主がヒトである、請求項67に記載の方法。
【請求項74】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物と
を含む組成物。
【請求項75】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項74に記載の組成物。
【請求項77】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項76に記載の組成物。
【請求項78】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項74に記載の組成物。
【請求項79】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項78に記載の組成物。
【請求項80】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項81】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項80に記載の方法。
【請求項84】
PI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記組成物が、(c)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物を更に含み、前記接触が、細胞の小胞体中に少なくとも1種の該化合物を送達する、請求項80に記載の方法。
【請求項86】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
少なくとも1種の前記抗ウィルスタンパク質が、ウィルス受容体、変異型ウィルスエンベロープタンパク質、およびウィルスエンベロープの相互作用を妨害するタンパク質からなる群から選択される、請求項80に記載の方法。
【請求項89】
前記ウィルス感染症がER膜出芽ウィルス感染症である、請求項80に記載の方法。
【請求項90】
ER膜出芽ウィルス感染症が、HBV、HCVまたはBVDV感染症である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記感染症が原形質膜出芽感染症である、請求項80に記載の方法。
【請求項92】
原形質膜出芽感染症がHIV感染症である、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記対象がヒトである、請求項80に記載の方法。
【請求項94】
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質と
を含む組成物。
【請求項95】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項94に記載の組成物。
【請求項96】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項95に記載の組成物。
【請求項97】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項94に記載の組成物。
【請求項98】
PI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項97に記載の組成物。
【請求項99】
(c)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物を更に含む、請求項94に記載の組成物。
【請求項100】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項99に記載の組成物。
【請求項101】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項100に記載の組成物。
【請求項102】
少なくとも1種の前記抗ウィルスタンパク質が、ウィルス受容体、変異型ウィルスエンベロープタンパク質、およびウィルスエンベロープの相互作用を妨害するタンパク質からなる群から選択される、請求項94に記載の組成物。
【請求項103】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤と
を含む組成物。
【請求項104】
生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項105】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質と
を含む組成物。
【請求項106】
生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項1】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)DOPEおよびCHEMSの脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された1種または複数の化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
ウィルス感染症が、ER膜出芽ウィルス感染症または原形質膜出芽ウィルス感染症であり、
1種または複数の化合物が、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含み、前記投与が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、1種または複数の化合物を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項2】
前記感染症がER膜出芽ウィルス感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記感染症がHBV、HCVまたはBVDV感染症である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記感染症が原形質膜出芽ウィルス感染症である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記感染症がHIV感染症である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リポソームがDCリポソームである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記リポソームがDCPPリポソームである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1種または複数の前記化合物が、ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンαである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1種または複数の前記化合物が、少なくとも1種の抗HIV化合物を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された1種または複数の化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
1種または複数の化合物が、N−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)を含む方法。
【請求項17】
前記ウィルスが肝炎ウィルスである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ウィルスがB型肝炎ウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ウィルスがC型肝炎ウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ウィルスがBVDVウィルスである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ウィルスがBVDVウィルスのncp株である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ウィルスがBVDVウィルスのcp株である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
1種または複数の前記化合物が、ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ウィルスがHIVウィルスである、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記HIVウィルスが、92UG037、92RW021、JR−FL、92HT599、89.6、93IN101、97USNG30、92UG021、92UG046および93BR020の初代HIV−1分離株からなる群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
1種または複数の前記化合物が、1種または複数の抗HIV剤を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
(a)pH感受性リポソームと、(b)リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、前記投与が、抗原提示細胞の主要組織適合性分子クラス1による抗原提示を増加させる方法。
【請求項30】
前記抗原が免疫増強ペプチドである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ペプチドがYMDGTMSQVペプチドである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMSを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記宿主がヒトである、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
HIV感染症を処置する方法であって、
gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む方法。
【請求項36】
前記標的指向部がsCD4分子を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記標的指向部がモノクローナル抗体を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体がIgG 2F5またはIgG b12抗体である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記HIV感染症が、92UG037、92RW021、JR−FL、92HT599、89.6、93IN101、97USNG30、92UG021、92UG046および93BR020の初代HIV−1分離株からなる群から選択される、HIV−1初代分離株により起こされる、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記リポソームがMCC−PE脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
前記組成物が、リポソーム内部に封入されたαグルコシダーゼ阻害剤を更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項45】
前記阻害剤がNB−DNJを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記宿主がヒトである、請求項35に記載の方法。
【請求項47】
DOPE、CHEMSおよびPEG−PEの脂質を含んだリポソームと、
リポソーム内部に封入されたN−ブチルデオキシノジリマイシン(NB−DNJ)と
を含む組成物。
【請求項48】
前記リポソームがDCPPリポソームである、請求項47に記載の組成物。
【請求項49】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤、免疫賦活/免疫調節剤、またはそれらの組合せを更に含む、請求項47に記載の組成物。
【請求項50】
ヌクレオシド/ヌクレオチド抗ウィルス剤がリバビリンであり、免疫賦活/免疫調節剤がインターフェロンである、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
1種または複数の抗HIV剤を更に含む、請求項47に記載の組成物。
【請求項52】
pH感受性リポソームと、リポソーム内部に封入された抗原とを含む組成物。
【請求項53】
前記抗原が免疫増強ペプチドを含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項55】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項54に記載の組成物。
【請求項57】
gp120/gp41複合体標的指向部と結合したリポソームを含む組成物。
【請求項58】
前記標的指向部がsCD4分子を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記標的指向部がモノクローナル抗体を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項60】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項61】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項62】
前記リポソームがMCC−PE脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項63】
前記リポソームがPI脂質を更に含む、請求項60に記載の組成物。
【請求項64】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が約10〜約30%である、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
リポソーム内部に封入されたαグルコシダーゼ阻害剤を更に含む、請求項57に記載の組成物。
【請求項66】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項65に記載の組成物。
【請求項67】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
ウィルス感染症が、ER膜ウィルス出芽感染症であり、
前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体中に、少なくとも1種の化合物を送達し、細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項68】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項67に記載の方法。
【請求項72】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記宿主がヒトである、請求項67に記載の方法。
【請求項74】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物と
を含む組成物。
【請求項75】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項74に記載の組成物。
【請求項77】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項76に記載の組成物。
【請求項78】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項74に記載の組成物。
【請求項79】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項78に記載の組成物。
【請求項80】
ウィルス感染症を処置する方法であって、
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質と
を含む組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含み、
前記接触が、該感染症を起こすウィルスに感染している細胞の小胞体膜中にリポソームの1種または複数の脂質を組み込む方法。
【請求項81】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項80に記載の方法。
【請求項84】
PI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記組成物が、(c)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物を更に含み、前記接触が、細胞の小胞体中に少なくとも1種の該化合物を送達する、請求項80に記載の方法。
【請求項86】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
少なくとも1種の前記抗ウィルスタンパク質が、ウィルス受容体、変異型ウィルスエンベロープタンパク質、およびウィルスエンベロープの相互作用を妨害するタンパク質からなる群から選択される、請求項80に記載の方法。
【請求項89】
前記ウィルス感染症がER膜出芽ウィルス感染症である、請求項80に記載の方法。
【請求項90】
ER膜出芽ウィルス感染症が、HBV、HCVまたはBVDV感染症である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記感染症が原形質膜出芽感染症である、請求項80に記載の方法。
【請求項92】
原形質膜出芽感染症がHIV感染症である、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記対象がヒトである、請求項80に記載の方法。
【請求項94】
(a)PI脂質を含んだリポソームと、
(b)リポソームの脂質層中に挿入された少なくとも1種の抗ウィルスタンパク質と
を含む組成物。
【請求項95】
前記リポソームがDOPEおよびCHEMS脂質を更に含む、請求項94に記載の組成物。
【請求項96】
前記リポソームがPEG−PE脂質を更に含む、請求項95に記載の組成物。
【請求項97】
前記リポソーム中のPI脂質のモル濃度が5〜50%である、請求項94に記載の組成物。
【請求項98】
PI脂質のモル濃度が10〜30%である、請求項97に記載の組成物。
【請求項99】
(c)リポソーム中に封入された少なくとも1種の抗ウィルス化合物を更に含む、請求項94に記載の組成物。
【請求項100】
少なくとも1種の前記抗ウィルス化合物がαグルコシダーゼ阻害剤を含む、請求項99に記載の組成物。
【請求項101】
αグルコシダーゼ阻害剤がNB−DNJを含む、請求項100に記載の組成物。
【請求項102】
少なくとも1種の前記抗ウィルスタンパク質が、ウィルス受容体、変異型ウィルスエンベロープタンパク質、およびウィルスエンベロープの相互作用を妨害するタンパク質からなる群から選択される、請求項94に記載の組成物。
【請求項103】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤と
を含む組成物。
【請求項104】
生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソーム内部に封入された少なくとも1種の治療剤とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【請求項105】
PI脂質を含んだリポソームと、
リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質と
を含む組成物。
【請求項106】
生理的病状を処置または予防する方法であって、PI脂質を含んだリポソームと、リポソームの脂質二重層中に挿入された少なくとも1種のタンパク質とを含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図1】
【図13−1】
【図13−2】
【図13−3】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図1】
【図13−1】
【図13−2】
【図13−3】
【公表番号】特表2009−545621(P2009−545621A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523055(P2009−523055)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/075080
【国際公開番号】WO2008/088581
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/075080
【国際公開番号】WO2008/088581
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(502278769)ユナイテッド セラピューティクス コーポレーション (10)
【Fターム(参考)】
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