説明

ウェット処理装置

【課題】 設備費用、環境負荷などが少なく、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する除去対象物質を剥離除去する能力、すなわち洗浄力および洗浄速度の高いウェット処理装置を提供する。
【解決手段】 スリット状開口部17を有するノズル本体4とラジカル生成手段5とからなるノズル2、基板搬送手段3、第1純水供給手段7および第2純水供給手段8を含むウェット処理装置1であって、ノズル本体4の外部にラジカル生成手段5が設けられ、スリット状開口部17から吐出される純水の水流と、ラジカル生成手段5において生成するラジカルなどの活性種を含有する純水とを混合して洗浄液10とし、この洗浄液10を基板9の被洗浄面9aに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェット処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの洗浄には、RCA洗浄法が採用される。RCA洗浄法は、ベースになる、過酸化水素の高濃度水溶液中に、さらに硫酸、塩酸などの酸またはアンモニアなどのアルカリを高濃度で添加溶解し、高温に加熱した濃厚薬液に基板を浸漬することにより、基板に付着するパーティクル、有機物、金属、酸化膜などの除去対象物質を除去する方法である。この方法では、除去対象物質の除去後に、基板に付着する薬液を洗い流すために用いるリンス水の排水が発生する。この排水の中には、薬液中に含まれる酸、アルカリ、基板表面から除去される汚染物などが含まれる。また、RCA洗浄法を実行する洗浄装置中では、揮発成分、酸性ガスなどが発生する。これらはそのまま外部環境に廃棄できないので、これらを処理するための設備が必要になる。さらに、リンス水の排水は大量に発生するので、処理設備は大規模なものになる。このような設備は、排水などの処理および保守点検に費用を要する。
【0003】
最近では、半導体ウェハおよび液晶パネルのマザー基板の大型化が進み、それにともなってリンス水の排水の発生量が著しく増加し、これに関わる処理費用の高騰および環境負荷の増大が問題となっている。その一方で、半導体および液晶における回路のデザインルールは微細化の一途をたどり、半導体においては0.1μm以下のレベル、液晶においてもサブミクロンレベルまで実用化がなされている。回路のデザインルールが微細化されている半導体および液晶において、その歩留りを向上させるには、洗浄工程における洗浄力の向上が必要とされる。
【0004】
さらに、高圧の水を基板の被洗浄面に吐出し、物理的な力によって被洗浄面に付着する種々の除去対象物質を除去することも実施される。しかしながら、その洗浄力は充分満足できるものではなく、さらなる向上が望まれる。
【0005】
このような従来技術の問題点を解決する手段として、水分子を構成する酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を用いる方法が挙げられる。この方法は、洗浄水中でラジカル種を発生させ、ラジカル種を含む洗浄水を基板の被洗浄面に吐出して、基板の洗浄を実施するものである。酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種としては、水素ラジカル、酸素ラジカル(原子状酸素)、水酸基ラジカル、スーパーオキサイドラジカルなどが挙げられる。これらのラジカルの特徴は、反応性が非常に高いことである。すなわち、ラジカル同士が瞬時に反応し、水、水素、酸素などに変化するため、環境への負荷がほとんどない。また、反応性が非常に高いことから、10ppm程度の濃度でも充分な洗浄力を有する。さらに、このようなラジカルは、主に、水を電気分解することによって得られるので、薬液を使用する必要がなく、特別な処理を要する排水および有害ガスが発生せず、これらを処理する設備を要しない。したがって、ラジカル種を用いる方法は、全般的に、クリーンでかつコストが低いという利点を有する。
【0006】
酸素原子および水素原子から導かれるラジカル種を利用する洗浄技術は、種々提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図7は、特許文献1の基板洗浄装置100の構成を概略的に示す断面図である。洗浄装置100は、円筒体101と、円筒体101の内部に設けられる電解イオン発生部102および超音波印加手段103と、洗浄液吐出手段104とを含んで構成される。電解イオン発生部102は、純水中にラジカルおよびイオンを含む洗浄水を生成させるものであり、電解イオン発生部102を2つの区画、すなわち第1空間106と第2空間107とに2分するHイオン交換膜105と、純水を貯留する第1、第2空間106,107と、Hイオン交換膜105の第1空間106側の面に密着するように設けられる第1電極108と、Hイオン交換膜105の第2空間107側の面に密着するように設けられる第2電極109と、円筒体101の外部から円筒体101の上部101aを貫いて第1、第2空間106,107に接続され、純水を供給する送液管110と、円筒体101の外部から円筒体101の側部101bを貫いて第1空間106に接続され、電気分解後の純水を円筒体101の外部に排出する排液管111と、第1電極108に電気的に接続され、正の電圧を印加するプラス電極112と、第2電極109に電気的に接続され、負の電圧を印加するマイナス電極113とを含んで形成される。超音波印加手段103は、電解イオン発生部102において得られる、ラジカルおよび/またはイオンを含む洗浄水に超音波を印加してラジカル濃度を増加させる超音波発生手段103と、円筒体101の外部から超音波発生手段103に電気的に接続され、超音波発生手段103に電圧を印加する給電ケーブル115とを含んで構成される。洗浄液吐出手段104は、円筒体101の内部から外方に向けて突出するように形成され、洗浄液116を外方へ向けて吐出するノズル117を含んで構成される。
【0007】
洗浄装置100によれば、まず、送液管110から第1、第2空間106,107に純水が供給され、それとともに、第1電極108にはプラス電極112から正の電圧が、第2電極109にはマイナス電極113から負の電圧がそれぞれ印加され、第1、第2空間106,107において電気分解が起こる。第1空間106では不図示の水酸基ラジカルが発生し、第2空間107では不図示の水素ラジカルが発生する。水素ラジカルは非常に反応性に富み、純水中で他の水素ラジカルと反応して安定な水素ガスとなって純水中に溶存するので、水素水が得られる。第2空間107で生成する水素水は矢符118の方向に流過し、超音波印加手段103から超音波の印加を受ける。水素水中の水素は超音波の印加により再び水素ラジカルとなり、ノズル117から吐出される。その一方で、第1空間106で生成する、水酸基ラジカルを含む純水は排液管111から外部に排出される。
【0008】
しかしながら、超音波により水素ラジカルに変換されるのは、水素水の水素濃度が1.2ppmである場合、水素濃度の1/10程度に過ぎない。この水素ラジカル濃度では、充分な洗浄能力を有しない。さらに、大気圧下での水に対する水素の飽和溶解濃度は1.6ppm程度であること、水素水中の水素濃度を高くすると、超音波の伝播効率が悪くなり、水素ラジカル濃度が低下することなどを加味すると、水素水に超音波を印加して用いる洗浄方法では、洗浄能力に限界がある。
【0009】
さらに、特許文献1においては、基板洗浄装置100を、そのノズル117が基板の被洗浄面に対して鉛直方向の真上から洗浄液を吐出するように配置する。その結果、吐出される洗浄液は被洗浄面に滞留し、被洗浄面から除去できないので、新たに供給される、水素ラジカルを多く含む洗浄液が被洗浄面に付着する汚染物に直に接する割合が減少し、洗浄効率が低下する。
【0010】
また、純水から水素および酸素を発生させる水電解セルにおいて、陰極側給電体にシリコン基板を用い、純水の電気分解の際に発生する水素ラジカルにより基板の被洗浄面を水素終端化(不活性化)し、被洗浄面に自然酸化膜が形成されるのを防止する方法が提案される(たとえば、特許文献2参照)。図8は、特許文献2において用いる水電解セル120の構成を概略的に示す側面図である。水電解セル120は、水電解セル120を陽極122と陰極123とに分離する隔膜である固体電解質膜121と、固体電解質膜121の一方の面に接するように設けられる陽極側電極124、陽極側電極124に接するように設けられる陽極側給電体125および純水の供給を受ける陽極室126からなる陽極122と、固体電解質膜121の他方の面に接するように設けられる陰極側電極127、陰極側電極127に接するように設けられる陰極側給電体であるシリコン基板128および陰極室129からなる陰極123とを含んで構成される。このうち、固体電解質膜121、陽極側電極124および陰極側電極127はいずれも通水性材料によって構成される。この3部材は、純水のイオン解離を促進する通水性の触媒部材130として作用する。また、陽極側給電体125および陰極側給電体128は電気的に接続され、それぞれ、正の電圧および負の電圧が印加される。この水電解セル120では、陽極室126に純水を供給しながら、陽極側給電体125および陰極側給電体127に正および負の電圧を印加すると、触媒部材130内に純水の流れが生じ、陽極側電極124の表面では酸素と水素イオンとが発生し、水素イオンは触媒部材130内を流過して陰極側電極127とシリコン基板128との界面に達して電子の授受をうけ、陰極側電極127とシリコン基板128との隙間127aから水素ガスが発生する。そして、水素イオンが電子を与えられる際に、水素ガスとともに水素ラジカルが生成し、この水素ラジカルの作用により、シリコン基板128の表面が終端化される。
【0011】
この方法は、シリコン基板128表面を不活性化することを目的とするものであり、各種基板の洗浄を行おうとするものではないけれども、基板の洗浄に用いると仮定すると、特許文献1の方法に比べて100倍以上の洗浄能力を有すると考えられる。なぜならば、この方法では、水中での溶解性が水素よりも100倍以上高い水素イオンを原料として水素ラジカルを発生させるので、特許文献1の方法のように水素水から水素ラジカルを発生させる場合に比べて、理論上、水素ラジカルを100倍以上の濃度で生成させることができるからである。しかしながら、この方法においては、給電体の一方が被洗浄物で構成されるため、被洗浄物が金属の場合には有用であるけれども、被洗浄物が半導体基板、液晶パネルなどの場合には、被洗浄物が電気的に破壊されてしまうといった問題がある。
【0012】
また、この方法では、被洗浄物が導電体かまたは半導体であることが必要であるけれども、基板の被洗浄面に付着するパーティクル、レジスト残渣などの有機物の中には非導電性のものがあり、半導体および液晶パネルの製造工程における基板は必ずしも導電体または半導体ではなく、さらには、半導体基板の電極部分には、フォトリソグラフィーにより金属、半導体、絶縁体などが複雑に入り混じったパターンが形成されるので、これらを洗浄するのは困難である。
【0013】
さらに、気相中で生成させるラジカルなどの活性種を、基板などの被洗浄面に供給して被洗浄面のエッチング、被洗浄面に付着する有機物除去などを行うエッチング装置が開示される(たとえば、特許文献3参照)。この装置は、気相として酸素、窒素、ヘリウム、ネオンなどのエッチングガスを使用し、エッチングガスをプラズマ室に充填し、これに直流、交流またはパルス状電界を印加してアーク放電、グロー放電などを起こし、プラズマ状態を現出させ、プラズマ状態のエッチングガス中での電子と原子の衝突などにより発生するラジカル化またはイオン化した活性な原子を用いて、金属膜、絶縁膜などのエッチング、これらの膜の表面に付着する有機物の除去などを行うものである。しかしながら、ラジカルなどの活性種の発生過程が、特許文献1および2の電気化学反応とは大きく異なるので、活性種の挙動にも大きな違いがあり、同様の作用を示すわけではない。
【0014】
また、エッチングを行うと、レジストと反応して不揮発油分が生成し、レジスト剥離、アッシングなどを行うと不揮発油分が残留する。このため、半導体基板の洗浄工程として許容される水準まで洗浄を行うには、別途、洗浄液を用いるウェット処理を行う必要がある。また、この装置では、活性種を含むエッチングガスを被洗浄物に吹き付けることによりエッチングなどを行うけれども、このようなエッチングガスの密度は液体に比べて著しく低いため、直径100μm以下の比較的小さな微粒子を除去できない。したがって、この装置を用いてプラズマエッチングまたはプラズマ洗浄を行う場合は、ウェット処理による洗浄、剥離工程などが必要である。一方、純水をプラズマ媒体とする場合には、純水に数百ボルト以上の高電圧を印加しなければ電気化学反応は起こらない。加えて、この装置のように、気相中でプラズマを生成させる装置では、電界を印加するためのノズルの電極表面に絶縁処理を施されるので、印加電圧を高めても電気化学反応が起こらない。
【0015】
【特許文献1】特開平10−128249号公報
【特許文献2】特開平9−186133号公報
【特許文献3】特開昭59−151428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、設備費用、環境負荷などを低減することができ、被洗浄物の電気的特性が限定されず、被洗浄物に付着する除去対象物質を剥離除去する能力の高いウェット処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、被洗浄物の上方に、被洗浄物の被洗浄面を臨むように配置されるノズルから洗浄液を供給して被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
ノズルが、
スリット状開口部を有するノズル本体と、
スリット状開口部の近傍に設けられ、スリット状開口部から吐出される純水にラジカルを供給してラジカル含有水である洗浄液を得るラジカル生成手段と、
ノズル本体に純水を供給する第1純水供給手段と、
ラジカル生成手段に純水を供給する第2純水供給手段とを含むことを特徴とするウェット処理装置である。
【0018】
また本発明のウェット処理装置は、ノズル本体が、ノズル容器とノズル壁体とを含み、
ノズル本体のスリット状開口部が、ノズル容器とノズル壁体とを装着することにより形成されることを特徴とする。
【0019】
さらに本発明のウェット処理装置は、ラジカル生成手段が、
一対の陽極と陰極とからなる少なくとも1つの電極と、
陽極および陰極に電圧を印加する電源と、
陽極と陰極との間に互いに間隙を有するように挟持される触媒層および絶縁層とを含み、
触媒層が絶縁層よりもスリット状開口部寄りの位置に配置されることを特徴とする。
【0020】
さらに本発明のウェット処理装置は、陽極および陰極の一方がノズル容器であり、
他方が、ノズル容器のスリット状開口部側の側面に、互いに間隙を有するように配置される触媒層および絶縁層を介して設けられ、かつその内部に純水供給管を有する筺体部材であることを特徴とする。
【0021】
さらに本発明のウェット処理装置は、被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部における洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする。
【0022】
さらに本発明のウェット処理装置は、被洗浄物を搬送する搬送手段を含むことを特徴とする。
【0023】
さらに本発明のウェット処理装置は、触媒層が、酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質を含むことを特徴とする。
【0024】
さらに本発明のウェット処理装置は、陰極および陽極が金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、被洗浄物の上方に配置され、スリット状開口部を有し、スリット状開口部から洗浄液を吐出して被洗浄物を洗浄するノズルを含むウェット処理装置において、スリット状開口部の近傍にラジカル生成手段を設け、スリット状開口部から吐出される純水に、ラジカル生成手段において生成する水素ラジカル、水酸基ラジカルなどの純水由来の活性種を混合することによって、簡単にラジカル含有水である洗浄水を得ることができ、しかもその際に純水の流速を低下させることがないので、洗浄水を被洗浄物の被洗浄面に速やかに供給できる。また、ノズルの各部位の中でも、被洗浄物の被洗浄面に最も近接するスリット状開口部の近傍に、ラジカル生成手段が設けられる。その結果、反応性が高い一方で寿命も短いラジカルなどの活性種を、被洗浄面に対してほぼ最短距離で供給できるので、洗浄液が被洗浄面に到達する前に消失する活性種量が減少し、活性種を高濃度で含む洗浄液を被洗浄面に供給できる。
【0026】
したがって、本発明のウェット処理装置は、洗浄能力および洗浄速度が高く、被洗浄面に付着する微粒子由来のパーティクル、レジスト残渣などの有機物といった除去対象物質を容易に除去できる。
【0027】
また本発明のウェット処理装置は、純水を電気分解して活性種を含む洗浄液を調製する方法を採るので、特別な薬液を使用する必要がない。したがって、薬液に掛かるコスト、生成する排液、排ガスなどを処理する設備を必要とせず、環境負荷も非常に小さい。
【0028】
また本発明のウェット処理装置は、被洗浄物の電気的特性を問わず、被洗浄物が導電体、半導体、絶縁体などのいずれであっても、被洗浄物を電気的に破壊することがない。
【0029】
また本発明のウェット処理装置は、ラジカル生成手段がノズル外部に設けられるので、電気分解手段がノズル内部に内蔵される場合よりも、メンテナンスが簡便になる。
【0030】
本発明によれば、ノズル本体をノズル容器とノズル壁体とから構成し、ノズル本体のスリット状開口部を、ノズル容器とノズル壁体との装着により形成することによって、ノズル本体の構造が簡単になって剛性が高くなり、高圧の水流を吐出しても、吐出時の振動などが少なく、振動による位置ずれも起こり難い。その結果、被洗浄面に対してスリット状開口部を近接できるので、洗浄能力が向上する。また、ノズル本体の耐用期間が長いという利点もある。
【0031】
本発明によれば、ラジカル生成手段として、一対の陽極および陰極からなる電極と、陽極および陰極に電圧を印加する電源と、陽極と陰極との間に互いに間隙を有するように挟持される触媒層および絶縁層とを含み、触媒層が絶縁層よりもスリット状開口部寄りに位置するラジカル生成手段を用いることによって、純水の中に水素ラジカル、水酸基ラジカルなどが高濃度で含まれるラジカル含有水が得られ、このラジカル含有水は水を主成分とするものなので、そのまま、スリット状開口部から吐出される純水の水流に混合できる。したがって、ラジカルなどの活性種を高濃度で含む洗浄水を瞬時にかつ容易に調製できる。
【0032】
本発明によれば、ラジカル生成手段において、ノズル本体を構成するノズル容器を陽極および陰極の一方として兼用し、さらにノズル容器のスリット状開口部側の側面に、触媒層および絶縁層を介して、その内部に純水供給管を有する筺体部材を設け、この筺体部材を陽極および陰極の他方として用いることによって、ノズル全体としての構造が簡単で強固になり、取り扱い性、メンテナンス性などが向上し、製造コストなども低下する。
【0033】
本発明によれば、被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部において、その内部の洗浄液流路の延長線と被洗浄物の被洗浄面とがなす角θ1の角度を90°未満とすることによって、ノズルから吐出供給される洗浄液が被洗浄面に滞留するのを防止される。したがって、汚染物との反応によってラジカルなどの活性種が消失した洗浄液は、被洗浄面に滞留することなく、被洗浄面の外に排出されるので、洗浄効率がさらに向上する。なお、角度θ1は、被洗浄物の搬送方向の下流側から上流側に向かって延びる洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とがなす角であることが好ましい。
【0034】
本発明によれば、本発明のウェット処理装置において、被洗浄物を搬送する搬送手段を設けることによって、被洗浄物を連続的に洗浄することができ、被洗浄物が、たとえば、1辺1m程度の大型物(大型基板など)であっても、速やかに効率良く洗浄を実施できる。
【0035】
本発明によれば、電極における陽極と陰極との間に、水の電離を促進し、イオン濃度を増加させる触媒(好ましくは酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質)を挟持させ、この電極に電界を印加して電気分解を行うことによって、ラジカルなどの活性種の生成量をさらに増加させ、洗浄能力の一層の向上を図ることができる。
【0036】
本発明によれば、陰極および陽極を、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料で構成することによって、純水の電気分解効率がさらに向上し、ラジカルなどの活性種の生成量が一層増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
図1(a)は、本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置1の構成を模式的に示す側面図である。図1(b)は、図1(a)に示すウェット処理装置1の構成を模式的に示す上面図である。図2は、図1(b)内の矢符13の方向からみたノズル2の構成を概略的に示す断面図である。図3は、図2に示すノズル2の要部を拡大して示す断面図である。
【0038】
ウェット処理装置1は、枚葉方式で基板9を洗浄する装置であり、スリット状開口部17を有するノズル本体4とラジカル生成手段5とを含み、基板9の上方に、基板9の被洗浄面9aを臨み、被洗浄面9aに、基板9の搬送方向である矢符11の方向の下流側から上流側に向けて矢符11の方向に洗浄液10を供給するノズル2と、基板9を載置し、矢符11の方向に搬送する基板搬送手段3、ノズル本体4に純水を供給する第1純水供給手段7と、ラジカル生成手段5に含まれる筺体部材6に純水を供給する第2純水供給手段8とを含んで構成される。
【0039】
ウェット処理装置1は、ノズル2において、ノズル2の一部を構成するラジカル生成手段5によりラジカルなどの活性種を含むラジカル含有水を発生させ、このラジカル含有水を、ノズル2から矢符11の方向に吐出される純水の水流に混合して洗浄液10とし、この洗浄液10を基板9の被洗浄面9aに供給し、被洗浄面9aの一部または全面に付着、固着または堆積する除去対象物質にラジカルなどの活性種を接触させて洗浄を行う、洗浄流体供給手段である。
【0040】
ここで、ラジカル生成手段とは、ラジカルなどの活性種を発生または生成する単一の物体またはその複合体の全てを意味する。
【0041】
また、除去対象物質とは、従来からこの分野で除去対象になる有機物および無機物であって、純水中に生成するラジカルなどの活性種によって除去または溶解あるいは剥離または分解が可能な物質である。また、除去対象物質は、液体、ゲル状物、粘着物、固形物などの、いずれの形態のものでもよい。有機物の具体例としては、たとえば、レジスト残渣、その他の有機物由来の付着汚染物などが挙げられる。無機物の具体例としては、たとえば、金属、金属酸化物、その他の無機物を含む微粒子(パーティクル)などが挙げられる。
【0042】
また、洗浄とは、洗浄液などの流体中において、基板9の被洗浄面9aに存在する除去対象物質を除去または溶解あるいは剥離または分解し、被洗浄面9aを清浄化することである。また、流体中において被洗浄面9a上のパーティクルを除去することをも包含する。さらに流体とは、液状であるものまたは気体と液体とが共存する形態のものである。本発明で用いられる流体は、それ自体がラジカル発生種であるか、またはラジカル発生種を含む。流体としては、純水が好ましく、超純水がさらに好ましい。
【0043】
本発明で使用する純水および超純水は、紫外線照射で微生物類を滅菌し、メンブランフィルターで有機物および無機物を極限まで除去することによって得られる精製水である。そして、比抵抗値が10MΩ・cm以下の精製水を純水、比抵抗値が10MΩ・mを超え、18.3MΩ・cmまでの精製水を超純水という。純水または超純水を用いることにより、液晶パネル、半導体の製造工程などの、清浄な環境を必要とする精密洗浄分野において、特に効果を発揮する。なお、純水純度が低下すると、ラジカルなどの活性種の生成効率が低下するので、純水純度の指標になる比抵抗値が1MΩ・cm以上の精製水が純水として好ましい。
【0044】
本発明のウェット処理装置1の洗浄対象になる被洗浄物は、図1においては基板9として示される。基板9は、洗浄中に洗浄性能に悪影響を及ぼさない程度に、洗浄液10と反応を起こさない金属または非導電性物質を含んで構成される。すなわち本発明では、特許文献2のような、被洗浄物を給電体として用いる従来技術ではなし得ない、非導電体の洗浄をも行うことができ、しかも被洗浄物が非導電体であっても、洗浄中に電気的破壊が生じることなく、効率的かつ安定的に短時間で洗浄を実施できる。具体例としては、たとえば、半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などが挙げられる。
【0045】
ウェット処理装置1において、ノズル2は、基板9に対してラジカル供給が可能な位置に配置される。ラジカル供給可能な位置とは、洗浄を実施するのに有効な量および流速で、ノズル2から基板9へのラジカルなどの活性種の供給または送達が可能になる位置である。この時、ノズル2は、基板9に対して傾斜するように配置されるのが一般的である。ノズル2の傾斜の度合いは特に制限はないけれども、好ましくは、スリット状開口部17における純水流路の延長線25と、基板9の被洗浄面9aとがなす角θ1の角度が90°未満、さらに好ましくは30°を超え90°未満になるようにノズル2を傾斜させればよい。
【0046】
なお、角θ1は、基板9の搬送方向(矢符12の方向)の下流側から上流側に向かって延びる純水流路の延長線25と、基板9の被洗浄面9aとがなす角であることが好ましい。この時、ノズル2からの洗浄液10の吐出方向である矢符11の方向は、被洗浄物である基板9の被洗浄面9aに対して角θ1だけ傾斜し、基板9の搬送方向である矢符12の方向に対して逆方向になる。
【0047】
また、ノズル2は、ノズル本体4の外部にラジカル生成手段5が設けられる単純な構造であり、高い剛性を有し、純水吐出時の振動による位置ぶれなどが少ないので、被洗浄物である基板9の被洗浄面9aに近接させて配置することができる。ノズル2と被洗浄面9aとの距離は特に制限はないけれども、吐出速度を10〜100m/秒に設定する場合、ノズル2に純水を供給するポンプなどのユーティリティー、基板9の反り、歪みなどを考慮すると、基板9とスリット状開口部17との離隔距離として、5〜10mm程度が好ましい。
【0048】
このように傾斜角度および離隔距離を設定すれば、基板9の洗浄された部分に除去対象物質が再付着するのが防止され、洗浄された部分が清浄に保持される。すなわち、洗浄に用いられた洗浄液中には、たとえば、微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれる。このような洗浄液が被洗浄面9aの洗浄された部分を流過すると、除去対象物質の再付着が起こり易い。しかしながら、本構成を採用することによって、除去対象物質を含む洗浄液の洗浄された部分への流過が防止される。また、洗浄液10の吐出方向である矢符11の方向が、基板9の被洗浄面9aに対して角θ1だけ傾斜しているので、ノズル2からの洗浄液10の吐出速度が被洗浄面9aに平行方向に作用し、被洗浄面9aに付着する除去対象物質に洗浄液10の液流により発生する物理的なせん断力を効果的に作用させることができ、除去対象物質の除去が容易になる。
【0049】
ノズル2において、ノズル本体4は、ノズル容器14とノズル壁体15とを含み、ノズル容器14とノズル壁体15とがねじ19によって装着される。ノズル容器14のノズル壁体15に対する装着面側に凹所が形成され、ノズル容器14とノズル壁体15とが装着されるとき、該凹所が圧力空間16を形成する。
【0050】
この圧力空間16は、搬送される基板9を臨み外部空間に連通するスリット状開口部17を有し、ノズル容器14の圧力空間16に臨む内壁面と、ノズル壁体15の圧力空間16を臨む内壁面とによって形成される間隙は、圧力空間16の中央部からスリット状開口部17へ近接するのに伴って狭くなるように構成され、スリット状開口部17においては数十〜数百μmの間隔を有する。
【0051】
また、圧力空間16は、ノズル本体4の外方に向けて延びる第1純水供給手段7に接続され、純水の供給を受ける。第1純水供給手段7は、たとえば、ノズル容器14表面の圧力空間16の開口部に接続される第1の耐圧配管と、第1の耐圧配管に接続されて純水を加圧する加圧ポンプと、第2の耐圧配管を介して加圧ポンプに接続される純水貯留槽とを含んで構成される。純水貯留槽に貯留される純水は、加圧ポンプにより加圧された後、第1の耐圧配管を流過して圧力空間16に供給され、さらに圧力空間16内を矢符18の方向に流過し、スリット状開口部17から矢符11の方向に、基板9の被処理面9aに吐出される。このとき、純水は、数MPa〜10MPa程度に加圧されて圧力空間16に供給され、スリット状開口部17の間隔が数10μmの場合は、10〜100m/s程度の流速で吐出される。
【0052】
なお、ノズル容器14は、ノズル本体4を構成する部材として用いられるとともに、電源24に電気的に接続され、後述するノズル生成手段5において陰極として兼用される。ノズル容器14のスリット状開口部17側の表面は、電圧印加時に、反応性の高いラジカルなどの活性種に晒される。したがって、ノズル容器14を構成する材料は、化学的酸化還元反応に対して高い耐久性を有する導電性材料であることが好ましく、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料であることがさらに好ましい。さらには、ノズル2全体としての耐久性を高めることなどを考慮すると、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる材料を2種以上含む複合材料、たとえば、ニッケルまたはタングステンを5重量%程度ドープしてなる白金などが特に好ましい。また、ステンレス鋼を母材とし、これに金、白金などをめっきしたものを用いることができる。
【0053】
ラジカル生成手段5は、純水の電気分解によりラジカルなどの活性種を生成させるものであり、電源24と、電源24の陰極に電気的に接続されるノズル容器(陰極)14と、電源24の陽極に電気的に接続される筺体部材(陽極)6と、ノズル容器14と筺体部材6とによって互いに間隙を有するように挟持される触媒層20および絶縁体層21と、筺体部材6と触媒層20および絶縁体層21との間に形成される絶縁皮膜27と、ノズル容器14と触媒層20および絶縁体層21との間に形成される絶縁皮膜26とを含んで構成される。
【0054】
ラジカル生成手段5においては、触媒層20が絶縁体層21よりもスリット状開口部17寄りに配置され、触媒層20の大部分が絶縁皮膜26,27により筺体部材6およびノズル容器14から絶縁され、スリット状開口部17寄りの電気分解部28のみで、触媒層20が筺体部材6およびノズル容器14に直接接触する構造を採る。このような構造では、電気分解部28で生成するラジカルなどの活性種が、瞬時にスリット状開口部17から吐出される純水の水流に混合され、基板9の被洗浄面9aに供給される。したがって、活性種の消失が少なくなり、被洗浄面9aに供給される洗浄液10は活性種を高濃度で含む。一方、スリット状開口部17から離反する部分では、ラジカルなどの活性種が生成しても、スリット状開口部17の近傍に至るまでに消失することが多い。したがって、絶縁体層21および絶縁皮膜26,27を形成することによって、筺体部材6とノズル容器14とを絶縁し、余分な電気分解反応の生起を防止し、副生するガス量を減らし、エネルギ消費量(消費電力)を削減するように構成される。
【0055】
筺体部材6は、ノズル容器14のスリット状開口部17側の側面に、触媒層20および絶縁体層21ならびに絶縁皮膜26,27を介し、ねじ19により装着される。筺体部材6は、スリット状開口部17から矢符11の方向に吐出される純水の水流を妨げない形状に形成され、その内部に純水供給管22と導水管23とを有する。純水供給管22は、筺体部材6の表面における純水供給管22の開口部において、筺体部材6の外方に向けて延びる第2純水供給手段8と接続される。第2純水供給手段8は、たとえば、第1配管と、第1配管に接続される純水供給ポンプと、第2配管を介して純水供給ポンプに接続される純水貯留槽とを含んで構成される。純水貯留槽に貯留される純水は、純水供給ポンプによって第1配管を経由して純水供給管22に供給される。なお、第2純水供給手段8は、第1純水供給手段7と同一の構成を有してもよい。導水管23は、純水供給管22と、触媒層20および絶縁体層21の間隙とを連通し、純水を矢符30の方向に流過させるために設けられる。第2純水供給手段8により供給される純水は、純水供給管22から矢符30の方向、すなわち導水管23から触媒層20と絶縁体層21との間隙を経由して触媒層20内を流過して電気分解部28に至る方向に流過し、電気分解される。
【0056】
筺体部材6は、電源24から正の電圧の印加を受け、その表面6aが活性種に晒されるので、化学的酸化還元反応に高い耐久性を有する導電性材料を含んで構成するのが好ましい。導電性材料としては、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料が好ましく、ノズル2全体のとしての耐久性を高めることなどを考慮すると、前記導電性材料の2種以上含む複合材料、たとえば、ニッケルまたはタングステンを5重量%程度ドープしてなる白金などがさらに好ましい。また、ステンレス鋼を母材とし、これに金、白金などをめっきしたものを用いることができる。
【0057】
ノズル容器(陰極)14および筺体部材(陰極)6に電圧を印加する時に流れる電流値は、実際に生成するラジカルなどの活性種の濃度に影響を及ぼす。ノズル2からノズル容器14および筺体部材6に供給される純水流量をQ(リットル/分)、ノズル容器14と筺体部材6とを介して流れる電流値をI(A)とすると、生成するラジカル含有水中の水素ラジカルと水酸基ラジカルとの合計濃度C(mol/リットル)は、下記式で表される。
C=60I/96500Q
【0058】
本発明の構成では、スリット状開口部17の近傍にラジカル生成手段5を設置してラジカルなどの活性種を含むラジカル含有水を生成させ、これをスリット状開口部17から吐出される純水の水流に混合することにより、スリット状開口部17からの100m/秒という高速の水流にのせて、ラジカルなどの活性種を被洗浄面9aに高速で供給でき、かつ、ノズル2のうちで、被洗浄面9aに最も近接するスリット状開口部17の近傍にラジカル生成手段5を設けるので、ラジカルなどの活性種を高濃度で被洗浄面9aに供給できる。
【0059】
触媒層20は、純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有する。触媒層20を設け、たとえば、比抵抗値18.2MΩ・cmの純水中で50Vの電圧を印加すると、水酸基イオンおよび水素イオンの濃度が明らかに増加し、10A/cm程度の電流が得られる。これに対し、触媒層20を設けないこと以外は同じ条件の場合には、10−2mA/cm程度の電流値しか観測されない。すなわち、触媒層20を設けることによって、触媒層20を設けない場合に比べて、10倍の電流値が得られる。さらに、この電流値は、純水中におけるラジカルなどの活性種の生成量に直接影響するので、純水を単に電気分解するのに比べて、10倍の活性種濃度を有するラジカル含有水を得ることができ、高い洗浄性能を得ることができる。
【0060】
触媒層20を構成する材料としては、純水中でのイオン交換反応を促進し、純水のイオン積を増大させる機能を有し、それ自体はイオン交換反応の前後で同じ状態で存在する物質であれば特に制限されず使用できる。その中でも、たとえば、イオン交換樹脂が好ましい。イオン交換樹脂は、イオン交換できる酸性基または塩基性基を持つ水不溶性の合成樹脂である。イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂および両性交換樹脂の3種に大別される。このようなイオン交換樹脂の中でも、純水のイオン積を増加させる機能が大きい酸性カチオン基または塩基性アニオン基を導入してなる樹脂が好ましく、スルホン酸基導入樹脂、四級アンモニウム基導入樹脂などがさらに好ましく、流体のイオン積Kwを14≧−logKwの範囲で増大させるイオン交換樹脂などが特に好ましい。
【0061】
触媒層20は、好ましくは、多孔質状、網目状、繊維状、粒子状または不織布状の基体にイオン交換能を付与したものである。その中でも、イオン交換能を付与してなる不織布は、ノズル組み立て時の扱い易さ、使用中の安全性などから最も好ましい。このような触媒層20は、たとえば、放射線グラフト重合法により製造できる。ここで、イオン交換基の種類または量を適宜変更することによって、ラジカルなどの活性種の生成濃度を制御できる。
【0062】
触媒層20の具体例としては、たとえば、フッ素樹脂からなる直径0.1mmの繊維を作製し、これにスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなる繊維を不織布状に形成した厚さ0.5〜1.0mmのシートが挙げられる。このシートは0.1〜1.0mmの空孔径の網目状構造を有し、純水を容易に透過させることができる。
【0063】
絶縁体層21は、筺体部材6とノズル容器14との間に配置され、筺体部材6とノズル容器14とを絶縁するとともに、純水供給管22から導水管23を介して供給される純水を矢符30の方向に送給するように機能する。絶縁体層21を構成する材料は、絶縁体層21が電圧印加時に反応性の高いラジカルなどの活性種に常時晒されることから、化学的酸化還元反応に対して高い耐久性を持つ材料が好ましい。このような材料の具体例としては、たとえば、テフロン(商標名、デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、バイトン(商標名、デュポン社製)などのフッ素樹脂、熱硬化性ポリイミドなどが挙げられる。絶縁体層21用の材料は、1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0064】
絶縁皮膜26,27にも、絶縁体層21を構成する材料と同様に、化学的酸化還元反応に高い耐久性を持つ材料を使用でき、たとえば、前記と同様のフッ素樹脂、熱硬化性ポリイミドなどが挙げられる。絶縁皮膜26,27の材料は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
電源24には、たとえば、直流電圧電源が用いられる。
【0065】
前述のような構成を有するノズル2において、特に好ましい形態として、たとえば、ノズル本体4およびラジカル生成手段5に供給される純水は比抵抗値が10〜18.3MΩ・cmの純度であり、筺体部材6およびノズル容器14には、ステンレス鋼(SUS316L)を母材とし、これに厚さ2μmの白金めっきを施したものを用い、絶縁皮膜26,27には、フッ素樹脂と熱硬化性ポリイミドの共重合体とを含む熱硬化性樹脂組成物からなる厚さ10μmの樹脂膜を用い、スリット状開口部17の開口間隔は15μmに形成する。さらに、筺体部材6とノズル容器14との間隔を0.5mmとし、その間に挿入する触媒層20には、フッ素樹脂からなる直径0.1mmの繊維にスルホン酸基を導入した強酸性カチオン交換樹脂からなる繊維を用いて作製される厚さ0.5mmの不織布を用いる。
【0066】
図4は、ラジカル生成手段5においてイオンが生成する機構を示す断面図である。図示しない第2純水供給手段8から純水供給管22および導水管23を介して、純水が触媒層20に供給される。一方、筺体部材6およびノズル容器14には、電源24から2〜50V程度の直流電圧が印加され、それにより電界が形成される。触媒層20中の純水は、この電界により電気分解を受け、水素イオン31および水酸基イオン32が生成する。このとき、触媒層20が純水の電気分解反応を促進し、水素イオン31および水酸基イオン32のイオン積を増大させる。生成する水素イオン31は、陰極であるノズル容器14に引き寄せられ、一方水酸基イオン32は、陽極である筺体部材6に引き寄せられ、各電極の近傍に移動する。次に、筺体部材6およびノズル容器14上にて、電気化学的反応によりラジカルなどの活性種が生成する。
【0067】
図5(a)は、ノズル容器(陰極)14上において水素ラジカル(・H)が生成する機構を示す断面図である。図5(b)は、筺体部材(陽極)6上において水酸基ラジカル(・OH)が生成する機構を示す断面図である。図5(a)および図5(b)により、主要なラジカルの生成機構を説明する。図5(a)に示すように、純水の電気分解により生成する水素イオン31は、電界の作用により、ノズル容器14近傍に引き寄せられる。さらにこの水素イオン31は、ノズル容器14ら電子33を受け取って還元され、水素ラジカル(・H)34が生成する。この水素ラジカル34を含む純水であるラジカル含有水と、スリット状開口部17から吐出される純水の水流とが混合され、水素ラジカル34を含む洗浄水10となって被洗浄面9a上に供給されることによって、水素ラジカル34が被洗浄面9a上に供給される。一方、図5(b)に示すように、純水の電気分解により生成する水酸基イオン32は、電界の作用により、筺体部材6近傍に引き寄せられ、筺体部材6により電子33を奪われて酸化され、水酸基ラジカル(・OH)35が生成する。この水酸基ラジカル35を含む純水であるラジカル含有水と、スリット状開口部17から吐出される純水の水流とが混合され、水酸基ラジカル35を含む洗浄水10となって被洗浄面9a上に供給されることによって、水酸基ラジカル35が被洗浄面9a上に供給される。
【0068】
下記に示す化学反応式は、図5に示す機構により生成するラジカルなどの活性種、この活性種と純水との反応により派生する、純水由来の活性種の生成機構を示すものである。反応式(1)〜(3)は、ラジカルなどの活性種の生成機構を示す。詳しくは、反応式(1)は、ラジカル生成機構の第1段階である水素イオン31および水酸基イオン32の生成機構を示す。反応式(2)は、電解酸化における水酸基ラジカル35の生成機構を示す。反応式(3)は、電解還元における水素ラジカル34の生成機構を示す。反応式(4)〜(8)は、ラジカルなどの活性種同士または活性種と純水との反応により派生する、純水由来の活性種の生成機構を示す。すなわち、ラジカルがラジカル同士または純水との反応により消滅または変化する反応を示す。純水由来の活性種としては、水素ラジカル34、水酸基ラジカル35以外に、酸素ラジカル、スーパーオキサイドアニオンラジカル、HOラジカル、HOラジカル、オゾン、過酸化水素などがある。また、水中に含まれる酸素、水素、窒素、二酸化炭素などのガスにより、その他の活性種を生成させることも可能であり、本発明の活性種生成手段は、ここに記載する活性種の生成のみに限定されない。
O ⇔OH+H …(1)
OH ⇔・OH+e …(2)
+e ⇔・H …(3)
・OH+・OH ⇔H …(4)
O+・OH ⇔・OH+H …(5)
O+・H ⇔H+・OH …(6)
・H+・H ⇒H …(7)
・OH+・H ⇒H …(8)
【0069】
純水から生成する活性種は、反応性が高いため、たとえば、微粒子表面とシリコン基板またはガラス基板の表面との間に形成されるシラノール結合を切断すること、シリコン基板上などの微粒子結合活性サイトである、ダングリングボンドを不活性化することにより、微粒子と基板との付着力を低減し、微粒子の除去力を向上させることなどが可能である。また、レジスト残渣、工程内由来の有機成分などによる汚染の除去に対しても効果的であり、この場合、有機物中の炭素−炭素、炭素−水素などの共有結合などの強い結合を切断して酸化することにより、低分子の有機分子または二酸化炭素と水とに分解され、除去される。
【0070】
前述のような構成を有するノズル2を、基板9の被処理面9aに対して近接させかつ傾斜保持することにより、高濃度の活性種を被処理面9aの全面にわたり均一に供給でき、被処理面9aのウェット処理(洗浄)を行うことができる。すなわち、第1純水供給手段7からノズル本体4に供給される加圧状態にある純水は、圧力空間16を満たした後、スリット状開口部17から矢符11の方向に吐出される。ラジカル生成手段5では、第2純水供給手段8から供給される純水を電気分解することにより、ラジカルなどの活性種を含むラジカル含有水が生成する。このラジカル含有水は、スリット状開口部17から吐出される純水の水流と混合されて洗浄液10になり、基板9の被洗浄面9aに供給される。
【0071】
図1に戻り、基板搬送手段3は、図示しない駆動手段により、軸線回り(時計回り)に回転駆動可能に設けられる複数の搬送ローラを含んで構成される。複数の搬送ローラは、その軸線が同一平面上に位置するように、一列に配列される。また、複数の搬送ローラの一部は、駆動手段を持たない従動ローラであってもよい。搬送ローラの回転駆動により、搬送ローラ上に載置される基板9は、矢符12の方向に搬送される。これにより、枚葉方式の洗浄が可能になる。基板9は、基板搬送手段3によって矢符12の方向に搬送されながら、洗浄液10が供給されるので、被洗浄面9aの全面が均一に洗浄される。
【0072】
ウェット処理装置1によれば、基板9の被洗浄面9aに、ノズル2によって矢符11の方向からラジカルなどの活性種を含む洗浄液10が供給されるとともに、基板搬送手段3によって、基板9が矢符12の方向に搬送する。これにより、基板9の被洗浄面9aの全面に、搬送方向の上流側から下流側に順次洗浄液10が供給され、被洗浄面9a上の除去対象物質が除去、分離、剥離または分解され、被洗浄面9aが洗浄される。
【0073】
図6(a)は、本発明の実施の第2形態であるウェット処理装置40の構成を模式的に示す側面図である。図6(b)は、図6(a)に示すウェット処理装置40の構成を模式的に示す正面図である。ウェット処理装置40は、ウェット処理装置1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0074】
ウェット処理装置40は、基板9が水平面42に対して角度θ3の傾斜を有して、搬送、洗浄されることを特徴とする。
【0075】
ウェット処理装置40も、ウェット処理装置1と同様に、枚葉方式で基板4を洗浄する装置であり、基板9の被処理面8aに洗浄液10を供給するノズル2と、載置される基板9を矢符12の方向に搬送する基板搬送手段3aと、基板9を下端部で保持し、基板9が落下するのを防止する基板保持手段41とを含んで構成される。
【0076】
ノズル2は、基板9の上方に、図示しないスリット状開口部が被洗浄面9aを臨み、被洗浄面9aに対して平行に配置される。これによって、被洗浄面9aの全面にわたって均一に洗浄を実施できる。
【0077】
図6(a)に示すように、基板搬送手段3aは、複数の搬送ローラの軸線が同一平面内に位置するように一列に配置され、前記平面と水平面42とがなす角の角度θ3が30°を超え、90°以下になるように設けられる。この結果、搬送ローラ上に載置される基板9も、上記のように、水平面42に対して角度θ3すなわち30°を超え、90°以下で傾斜保持されて搬送される。図6(a)での搬送方向は紙面に垂直な方向である。これによって、基板9が水平状態で搬送される場合に比べて、被洗浄面9a上での洗浄液10の滞留を防ぐことができる。洗浄液10の置換効率、ラジカルなどの活性種の被洗浄面9aへの供給速度、洗浄液10の液流による物理的洗浄力の伝達効率などが向上する。特に置換効率の向上が顕著である。置換効率は、洗浄工程において、清浄度を得るための重要な要素である。すなわち、本発明では、寿命の短いラジカルなどの活性種を洗浄に用いるため、ノズル2内で生成する活性種を速やかに基板9の被洗浄面9aに供給する必要がある。基板9を水平面42に対して傾斜保持することにより、被洗浄面9a上で洗浄液10が滞留し、洗浄液溜りの発生を抑制する。洗浄液溜りは、被洗浄面9aに引き続き供給される洗浄液10の流速を低下させ、洗浄液10中に含まれる活性種の被洗浄面9aへの到達時間を遅延させる。したがって、洗浄液溜りの発生を抑制することによって、活性種の被洗浄面9a上への到達時間が短くなり、活性種濃度の高い洗浄液10を被洗浄面9aに供給できる。これによって、洗浄能力を向上させることができる。
【0078】
また、図6(b)は、図6(a)の矢符43の方向より基板9を見た図である。本図6(b)のノズル2は、傾斜して搬送される基板9に対して平行に配置され、矢符12に平行し、基板9に直交する平面44に対して角度θ2の角度をなすように配置される。角度θ2の大きさは特に制限されないけれども、15°を超え、80°以下の範囲が好ましい。これによって、ノズル2の幅方向において、被洗浄面9aの上部に吐出される洗浄液10が被洗浄面9aを流過して下部に到達し、その際に前記下部に吐出される洗浄液10の障害物になって、下部に吐出される洗浄液10が減速するのを抑制できる。このように、洗浄液10が減速されることなく被洗浄面9aに到達するので、洗浄液10中に含まれる活性種の反応による消失量が減り、活性種を高濃度で含有する洗浄液10を被洗浄面9aに供給できる。さらに、この構成を採ることによって、被洗浄面9aの洗浄終了部分に他の部分で除去される除去対象物質が再付着するのを防止し、洗浄終了部分の清浄性を保つことができる。すなわち、洗浄に用いられた後の洗浄液10の排水中には、たとえば、微粒子、有機物残渣などの除去対象物質が含まれる。このような排水が洗浄終了部分を流過するのを防止できる。したがって、角度θ2が15°未満では、特に大型基板を洗浄する場合に、ノズル2の幅が大きくなりすぎ、洗浄作業の効率を低下させる。80°を超えると、洗浄終了部分を清浄に保持できないおそれがある。
【0079】
ウェット処理装置40によれば、ノズル2に供給される純水は、活性種を含む純水である洗浄液10に変換され、ノズル2から傾斜保持される基板9の被洗浄面9aに吐出され、被洗浄面9aに付着する除去対象物質は洗浄液10に含まれる活性種により除去される。洗浄終了後の基板9は、矢符12の方向に搬送され、次の工程に供される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1(a)は、本発明の実施の第1形態であるウェット処理装置の構成を模式的に示す側面図である。図1(b)は、図1(a)に示すウェット処理装置の上面図である。
【図2】ノズルの構成を示す断面図である。
【図3】図2に示すノズルの要部を拡大して示す断面図である。
【図4】ラジカル生成手段においてイオンが生成する機構を示す断面図である。
【図5】図5(a)は、ノズル容器上において水素ラジカルが生成する機構を示す断面図である。図5(b)は、筺体部材上において水酸基ラジカルが生成する機構を示す断面図である。
【図6】図6(a)は、本発明の実施の第2形態であるウェット処理装置の構成を模式的に示す側面図である。図6(b)は、図6(a)に示すウェット処理装置の構成を模式的に示す正面図である。
【図7】従来技術の基板洗浄装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】従来技術の水電解セルの構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0081】
1,40 ウェット処理装置
2 ノズル
3,3a 基板搬送手段
4 ノズル本体
5 ラジカル生成手段
6 筺体部材
7 第1純水供給手段
8 第2純水供給手段
9 基板
9a 被洗浄面
10 洗浄液
11,12,13,17,29,30,43 矢符
14 ノズル容器
15 ノズル壁体
16 圧力空間
17 スリット状開口部
19 ねじ
20 触媒層
21 絶縁体層
22 純水供給管
23 導水管
24 電源
25 延長線
26,27 絶縁皮膜
28 電気分解部
31 水素イオン
32 水酸基イオン
33 電子
34 水素ラジカル
35 水酸基ラジカル
41 基板保持手段
42 水平面
44 基板9の搬送方向の垂直面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被洗浄物の上方に、被洗浄物の被洗浄面を臨むように配置されるノズルから洗浄液を供給して被洗浄面を洗浄するウェット処理装置において、
ノズルが、
スリット状開口部を有するノズル本体と、
スリット状開口部の近傍に設けられ、スリット状開口部から吐出される純水にラジカルを供給してラジカル含有水である洗浄液を得るラジカル生成手段と、
ノズル本体に純水を供給する第1純水供給手段と、
ラジカル生成手段に純水を供給する第2純水供給手段とを含むことを特徴とするウェット処理装置。
【請求項2】
ノズル本体が、ノズル容器とノズル壁体とを含み、
ノズル本体のスリット状開口部が、ノズル容器とノズル壁体とを装着することにより形成されることを特徴とする請求項1記載のウェット処理装置。
【請求項3】
ラジカル生成手段が、
一対の陽極と陰極とからなる少なくとも1つの電極と、
陽極および陰極に電圧を印加する電源と、
陽極と陰極との間に互いに間隙を有するように挟持される触媒層および絶縁層とを含み、
触媒層が絶縁層よりもスリット状開口部寄りの位置に配置されることを特徴とする請求項1または2記載のウェット処理装置。
【請求項4】
陽極および陰極の一方がノズル容器であり、
他方が、ノズル容器のスリット状開口部側の側面に、互いに間隙を有するように配置される触媒層および絶縁層を介して設けられ、かつその内部に純水供給管を有する筺体部材であることを特徴とする請求項3記載のウェット処理装置。
【請求項5】
被洗浄物の上方に配置されるノズルのスリット状開口部における洗浄液流路の延長線と、被洗浄物の被洗浄面とが成す角の角度が90°未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項6】
さらに、被洗浄物を搬送する搬送手段を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項7】
触媒層が、酸性カチオン交換能または塩基性アニオン交換能を有するイオン交換物質を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載のウェット処理装置。
【請求項8】
陰極および陽極が、金、白金、炭素、チタン、パラジウムおよびニッケルから選ばれる1種または2種以上の材料を含むことを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載のウェット処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−175416(P2006−175416A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374349(P2004−374349)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】