説明

ウエハ帯電抑制装置及びこれを備えたイオン注入装置

【課題】 イオンビームのスキャン位置によらず、ビームポテンシャルによって自律的に電子を引き出すことができるような帯電抑制装置により、イオン注入によるウエハへの正帯電を抑制できるようにする。
【解決手段】 本帯電抑制装置30は、イオンビームを特定範囲にわたって往復スキャンさせながらウエハに照射して処理を行うに際し、ウエハへの帯電を抑制するためのものである。帯電抑制装置は、第1引出孔33を有する第1アーク室34と、第1引出孔と連通し、イオンビームのスキャン範囲に望ませた第2引出孔36を有する第2アーク室35とを備える。第1アーク室に第1アーク電圧を印加して第1アーク室にプラズマを生成し、そこから電子を引き出して第2のアーク室に導入し、第2アーク室で再びプラズマを生成してイオンビームとの間にプラズマブリッジを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電場、磁場の少なくとも一方によりイオンビームをスキャンする機構を持つイオン注入装置及びそれに適用されるのに適したウエハ帯電抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造工程において、イオン注入装置は、表面の微細な領域に精度良く不純物を導入することができるために広く用いられている。イオン注入装置では電荷を持ったイオンを処理対象ウエハに打ち込むので、ウエハ上への電荷の蓄積(チャージアップ)が問題になる。
【0003】
注入されるイオンは通常正の電荷を持っているので、チャージアップの緩和のためには、負の電荷(電子)を供給することが行われる。例としては、イオンがイオンビームライン壁面に衝突することによって発生する電子を積極的に供給する方法や、ウエハ近傍で電子銃を使用して二次電子を発生させて供給する方法などがある。その中で、プラズマシャワー(またはプラズマフラッドガン)は、比較的低エネルギーの電子を供給できる方法として広く用いられている。
【0004】
バッチ式のイオン注入装置では、直線往復移動が可能な回転ディスク上にウエハを設置することにより、ウエハ全面へのイオン注入を可能にしている。この時、イオンビーム軌道はイオンビームラインに対して固定されており、プラズマシャワーはイオンビーム近傍に設置されてイオンビームのポテンシャルによってプラズマシャワーから電子が引き出される。
【0005】
ここで、一例として、図6にバッチ式イオン注入装置で使用される従来のプラズマシャワーの模式図を示す。
【0006】
アークチャンバー115にプラズマ形成用ガス116を導入し、フィラメント117を電源118で加熱して、アークチャンバー115との間にアーク電圧119を印加することにより、プラズマが形成される。アークチャンバー115の近傍にイオンビーム128が位置するように設定すると、イオンビーム128によって形成されるポテンシャルによって電子が引き出され、イオンビームによるチャージアップが抑制される。シャワーチューブ137を配置し、これに電位138を印加することにより、アークチャンバー115からイオンビームへの電子の供給を促進させることもできる。
【0007】
これに対して、イオンビーム自体を直線的に往復運動させることによってスキャンする機構を持つイオン注入装置では、イオンビームとプラズマシャワーの相対的位置が常に変化することになり、安定した電子の供給が困難になる。このため、プラズマシャワーから引き出される電子をスキャンされるイオンビ−ムに供給するために様々な方法が考えられている。
【0008】
例として、イオンビームの電荷中和装置において広範囲のイオンビームに対して電子供給を促進するために、イオンビームのスキャン領域に磁場を印加する方法が提案されている。特許文献1では、プラズマアークチャンバーをビームスキャン領域の中央にビームと直交するように取り付け、中心からビームスキャン領域全体に拡がる磁場をコイルで印加している。
【0009】
しかしながら、1箇所から引き出した電子を磁場によりイオンビームのスキャン領域に広げる方式では、イオンビームライン中に漏れ磁場が存在するため、イオンビームが曲げられて、イオンビームの分布や注入角度に悪影響を与える。
【0010】
また、イオンビームのスキャン領域をカバーするような大きなアークチャンバー内部にフィラメントを設置する方式では、フィラメント材料(タングステン等)による金属汚染の懸念がある。
【0011】
【特許文献1】特開平9−147785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、イオンビームのスキャン位置によらず、ビームポテンシャルによって自律的に電子を引き出すことができるような帯電抑制装置(プラズマシャワー)により、イオン注入によるウエハへの正帯電を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、イオンビームを含む荷電粒子ビームを特定範囲にわたって往復スキャンさせながらウエハに照射して処理を行うに際し、前記ウエハへの帯電を抑制するための帯電抑制装置において、少なくとも1つの第1引出孔を有する少なくとも1つの第1アーク室と、前記第1引出孔と連通し、前記荷電粒子ビームのスキャン範囲に望ませた少なくとも1つの第2引出孔を有する第2アーク室とを備え、前記第1アーク室に第1アーク電圧を印加して該第1アーク室にプラズマを生成し、そこから電子を引き出して前記第2のアーク室に導入し、該第2アーク室で再びプラズマを生成して前記荷電粒子ビームとの間にプラズマブリッジを形成するようにしたことを特徴とする。
【0014】
本帯電抑制装置においては、前記第1アーク室と前記第2アーク室との間に該第2アーク室内でプラズマを生成するための第2アーク電圧が印加される。
【0015】
本帯電抑制装置においてはまた、前記第2引出孔は、前記荷電粒子ビームのスキャン範囲にわたって延在する1つのスリットあるいは前記荷電粒子ビームのスキャン範囲にわたって間隔をおいて配設された複数の孔で実現される。
【0016】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2引出孔の開口形状あるいは開口分布が、前記第2アーク室内のプラズマ密度分布に対応させて、プラズマが薄い部分の開口は密になるようにされ、濃い部分の開口は疎になるようにされる。
【0017】
本帯電抑制装置においては更に、前記往復スキャンにより荷電粒子ビーム位置が移動しても、常に荷電粒子ビームと前記第2引出孔との間にプラズマブリッジが形成され、自律的電子供給が行なわれるようにされる。
【0018】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2アーク室は、前記第2引出孔以外からガスが漏れないような構造にされる。
【0019】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2アーク室には前記第1アーク室と前記第2引出孔以外の領域に永久磁石を設置してコンファインメント磁場を形成し、該第2アーク室にプラズマを閉じ込めて、前記往復スキャン範囲でのプラズマ均一性を高めるようにされる。
【0020】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2アーク室には、前記荷電粒子ビームに電子を効率良く供給するための第2引出電圧が印加される。
【0021】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2引出孔とその周辺の前記往復スキャン範囲は、筒体で覆われることが好ましい。この場合、前記荷電粒子ビームの進行方向に関して前記筒体の上流側にバイアス電極を設けることにより、前記筒体の上流方向への電子の飛散を防止して電子を効率良くウエハ側へ輸送することができる。また、前記筒体は、前記第2アーク室と別電位に設定できる構造としても良い。更に、前記筒体の内壁をギザギザにして、該内壁のすべての面に絶縁性の汚れが付着することを防止できる構造としても良い。
【0022】
本帯電抑制装置においては更に、アーク電流を計測してフィードバックすることにより前記第2アーク室内のプラズマ電子の量あるいはアーク電流が一定になるように制御される。
【0023】
本帯電抑制装置においては更に、前記第1アーク室を前記往復スキャン範囲で間隔をおいて複数配置することにより、前記第2アーク室内のプラズマ密度増加とプラズマ均一性向上がなされる。
【0024】
本帯電抑制装置においては更に、前記第1アーク室と前記第2アーク室との間に、前記第1アーク室から電子を引き出すための引出電極を設けても良い。この場合、前記引出電極と前記第1アーク室との間に、電子を引き出すための第1引出電圧が印加される。また、前記引出電極と前記第2アーク室との間には、該第2アーク室内でプラズマを生成するための第2アーク電圧が印加される。
【0025】
本帯電抑制装置においては更に、前記第2アーク室における前記荷電粒子ビームの進行方向に直角な方向の2つの端面においては、多角形の枠状または環状の複数の前記永久磁石を同心状に配置して前記コンファインメント磁場を生成するように構成されても良い。
【0026】
本発明によればまた、電場、磁場の少なくとも一方によりイオンビームを含む荷電粒子ビームを特定範囲にわたって往復スキャンするスキャン機構と、該スキャン機構の下流側に配置され前記荷電粒子ビームから必要なエネルギー種のイオンのみを選択するための角度エネルギーフィルターとを備えたイオン注入装置において、前記角度エネルギーフィルターの下流側に、上記記載のいずれかによる帯電抑制装置を配置したことを特徴とするイオン注入装置が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ビームのスキャン位置によらず、ビームポテンシャルによって自律的に電子を引き出すことができるような帯電抑制装置(プラズマシャワー)により、イオン注入によるウエハへの正帯電を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
はじめに、図5(a),(b)を参照して、本発明が適用されるイオン注入装置について説明する。図5(a),(b)は、本発明を、イオンビームを含む荷電粒子ビームによるビーム処理装置のうち、特に枚葉式イオン注入装置に適用した例である。図5(a)は枚葉式イオン注入装置の概略構成を平面図にて示し、図5(b)は図5(a)の側面図である。
【0029】
図5(a),(b)において、イオンソース11で発生されたイオンは、図示しない引出電極によりイオンビーム(以下、ビームと呼ぶ)として引き出される。引き出されたビームは、質量分析磁石装置12により質量分析されて必要なイオン種のみが選択される。必要なイオン種のみから成るビームは、ビーム整形装置13により所望の断面形状に整形される。ビーム整形装置13は、Q(Quadrant)−レンズ等により構成される。整形された断面形状を持つビームは、偏向走査装置20により図5(a)の面に平行な方向にスキャンされる。偏向走査装置20はその上流側、下流側にそれぞれ配置された遮蔽電極25、26を有する。
【0030】
スキャンされたビームは、P−レンズ14により再平行化され、偏向角0度の軸に平行にされる。図5(a)では、偏向走査装置20によるビーム10のスキャン範囲を黒の太い線と破線とで示している。P−レンズ14からのビームは、1つ以上の加速/減速電極15を経由して角度エネルギーフィルター16に送られる。角度エネルギーフィルター16では、ビームのエネルギーに関する分析が行われ、必要なエネルギー種のイオンのみが選択される。図5(b)に示されるように、角度エネルギーフィルター16においては選択されたイオン種のみがやや下方に偏向される。このようにして選択されたイオン種のみから成るビームが被照射物である半導体ウエハ17に照射される。半導体ウエハ17に照射されなかったビームは、ビームストッパ18に入射してエネルギーが消費される。通常、イオンソース11から半導体ウエハ17が収容されている真空処理室までの間の構成はイオンビームラインと呼ばれる。
【0031】
なお、図5(a)において半導体ウエハ17に隣接して示した矢印はビームがこれらの矢印の方向にスキャンされることを示す。一方、図5(b)において半導体ウエハ17に隣接して示した矢印は、半導体ウエハ17が真空処理室に設置されたプラテン装置によりこれらの矢印の方向に往復移動、すなわち機械走査されることを示している。つまり、ビームが、例えば一軸方向に往復スキャンされるものとすると、半導体ウエハ17は、プラテン装置により上記一軸方向に直角な方向に往復するように移動する。
【0032】
また、ビームの経路はすべて高真空状態に維持されて外気とは遮断され、半導体ウエハ17は真空処理室に収容される。
【0033】
偏向走査装置20の下流側、ここでは角度エネルギーフィルター16の下流側、特に真空処理室内に本発明による帯電抑制装置30が設置されている。帯電抑制装置はプラズマシャワーとも呼ばれる。
【0034】
図1、図2を参照して、帯電抑制装置30について説明する。本帯電抑制装置30は、フィラメント31、ガス導入口32、及び1個以上の第1引出孔33を備えた第1アーク室34と、第2アーク室35とを有する。第2アーク室35は第2引出孔36を有し、第2引出孔36が筒体40の内部空間を望むように筒体40に設置されている。筒体40は真空処理室の入り口側の一部であっても良いし、真空処理室内に配置されても良い。いずれにしても、第2アーク室35は筒体40の全幅にわたる程度の長さを有する。
【0035】
図2には、筒体40内部でのビームのスキャン範囲がSAで示されている。本形態では、第2引出孔36は、スキャン範囲SA内で第2アーク室35の長さ方向に間隔をおいて設けられた複数の孔によって実現されている。
【0036】
なお、第2引出孔36は、スキャン範囲SAにわたって延在する1つのスリットで実現されても良い。複数の孔、1つのスリットのいずれであっても、第2引出孔36の開口形状あるいは開口分布は、第2アーク室35内のプラズマ密度分布に対応させて、プラズマが薄い部分の開口は密になるようにし、濃い部分の開口は疎になるようにすることが望ましい。具体的には、第2引出孔36が複数の孔で実現される場合、プラズマが薄い部分については間隔を短くし、濃い部分は間隔を長くする。一方、第2引出孔36を1つのスリットで実現する場合、プラズマが薄い部分については開口の幅を大きくし、濃い部分は開口の幅を小さくする。
【0037】
第1アーク室34は、第2アーク室35の長さ方向の中間部に近い位置において第1引出孔33が第2アーク室35を望むように第2アーク室35の壁体に設置されている。なお、第1アーク室34と第2アーク室35との境界部分には第1引出孔33と対応する箇所に孔を持つ第1引出電極37が設置されるが、これは省略されても良い。この場合、第1アーク室34と第2アーク室35との間に、第2アーク室35でプラズマを生成するための第2アーク電圧(後述する)が印加される。
【0038】
第1アーク室34の設置領域及び複数の第2引出孔36の設置領域を除く第2アーク室35の壁面には複数の永久磁石38が設置されている。つまり、第2アーク室35の上下壁面、左右壁面、両側の端壁面にそれぞれ永久磁石38が間隔をおいて設置されている。永久磁石38は、第2アーク室35内にコンファインメント磁場を形成するためのものである。このために、すべての永久磁石38は磁極を第2アーク室38内に向け、しかも隣り合う永久磁石38の磁極は互いに反対になるようにしている。図2に、コンファインメント磁場を形成している磁束の一部を矢印で示す。
【0039】
図3は、第2アーク室35の両側の端壁面における永久磁石38の配置形態を示す。ここでは、端壁面の形状が四角形であることから、大きさの異なる複数の四角形の枠状永久磁石38を同心状に配置している。最内側の永久磁石38内にも矩形状の永久磁石38が配置される。そして、これらの永久磁石38も磁極をすべて第2アーク室38内に向け、しかも隣り合う永久磁石38の磁極は互いに反対になるようにしている。永久磁石38の形状は、三角形以上の多角形であれば良く、端壁面の形状が円形であれば、環状の永久磁石で実現されても良い。
【0040】
第1アーク室34、第2アーク室35はアーク室サポート39で支持されている。フィラメント31には、アーク室サポート39に設置されたフィラメントフィード41を経由して電源が供給される。
【0041】
なお、図5では、帯電抑制装置30は、ビームがやや下方に向けて偏向されている箇所に設置されている。一方、図1では筒体40が水平状態に描かれているが、図5のように設置するためには、装置全体をビームの偏向角度に合わせて傾けるようにする。
【0042】
以下に、上記構造を詳細に説明する。
【0043】
第1アーク室34内にはガス導入口32からAr等のガスが導入される。第1アーク室34内に設置したフィラメント31にフィラメント電源42から電流を流して高温にすることにより熱電子を発生させる。熱電子は、フィラメント31と第1アーク室34との間に印加された第1アーク電源43の第1アーク電圧によって加速され、導入されたガスと衝突して第1アーク室34内でプラズマを生成する。第1アーク室34には、1個以上の第1引出孔33が設けられており、その外側に第1引出電極37が設置されている。第1引出電極37と第1アーク室34の間に第1引出電源44の第1引出電圧を印加して第1アーク室34から電子を引き出す。
【0044】
スキャン幅SAに対応した長さを持つ第2アーク室35には、第1アーク室34内でイオン化されずに第1引出孔33から噴出する中性ガスと、第1アーク室34から引き出された電子が導入される。万一、蒸発等によりフィラメント34の材料が飛散しても、第1引出孔33のサイズが小さいので第1アーク室34内にとどまり、第2アーク室35には導入されない。
【0045】
第2アーク室35内に導入された電子は、第2アーク室35と第1引出電極37との間に印加された第2アーク電源45の第2アーク電圧によって加速され、第1アーク室34から導入されたガスと衝突して第2アーク室35内で濃いプラズマを生成する。
【0046】
第2アーク室35の壁面には複数の永久磁石38が設置されてコンファインメント磁場(閉じ込め用のカスプ磁場)が形成されるので、壁面への電子の消失を抑制すると共に、第2アーク室35内のスキャン方向のプラズマ均一性を向上させる。
【0047】
永久磁石38の熱減磁を防ぐために、第2アーク室35は水冷等により冷却される。第2アーク室35においてビームの通過領域に面する場所には、ビームのスキャン幅SAに対応させて複数個の第2引出孔36が設けられている。なお、第2引出孔36は、1つのスリット状の開口で実現されても良い。第2アーク室35は、第2引出孔36以外からガスが漏れない構造にして、第2アーク室35内のガス圧の低下を防ぎ、プラズマ生成効率を高めている。
【0048】
ビームが第2引出孔36の近くを通過すると、ビームが持つ正のポテンシャルによって第2アーク室35から電子が引き出される。引き出された電子は、第1アーク室34や第2アーク室35でイオン化されずに第2引出孔36から噴出する中性ガスと衝突し、ビームと第2アーク室35(厳密には第2引出孔36)との間にプラズマ(プラズマブリッジ)が形成される。第2アーク室35内の電子は、プラズマブリッジを通してビームに対し自律的に供給される。第2引出孔36はスキャン幅SAに対応した領域に存在しているので、スキャンによりビームの位置が移動しても、常にビームと第2アーク室35との間にプラズマブリッジが形成され、自律的電子供給が行なわれる。第2アーク室35は、接地電位との間に第2引出電源46の第2引出電圧を印加できる構造になっており、これによりビームへの電子供給量や供給される電子のエネルギーを調整することができる。
【0049】
なお、第2アーク電源45と第2引出電源46の間の電流値(アーク電流)を計測してフィードバックすることでアーク電流が一定になるように電源を制御するようにしても良い。
【0050】
第2引出孔36とその周辺のビームスキャン範囲は、筒体(フラッドボックス)40で覆われている。筒体40の電位は、第2アーク室35から引き出されてウエハに供給される電子量を調整できるように、第2アーク室35とは別電位を印加しても良いし、第2アーク室35と同電位にして構成を簡単にしても良い。
【0051】
筒体40の内壁(ビームが接する面)はギザギザに形成され、内壁の全面に絶縁性の汚れが付着してしまうのを防止できる構造にしている。また、筒体40のビーム上流側にはバイアス電源47による負電圧を印加できるバイアス電極48が設置されている。これにより、ビーム上流方向への電子の飛散を防止するとともに、電子を効率良く下流(ウエハ方向)に輸送できるようにしている。筒体40には更に、磁気シールドが施されており、外部磁場、例えば角度エネルギーフィルター16からの磁場を遮断できるようにしている。これは、外部磁場が強いとその磁力線に電子が巻き付いてしまい、電子がウエハに到達するまえに失われてしまうからである。
【0052】
以上のような構成により、第2アーク室34内でプラズマが生成されると、第2引出孔36がスキャン幅SAに対応した領域に存在しているので、スキャンによりビームの位置が移動しても、常にビームと第2アーク室35との間にプラズマブリッジが形成され、自律的電子供給が行なわれる。加えて、第2アーク室35の内部にはコンファインメント磁場が形成されているので、第2アーク室35の内壁面での電子の消失が抑制されることによってプラズマ生成効率が向上するとともに、第2アーク室35内のプラズマを均一にすることが可能になり、スキャン位置によらず十分な量の電子を供給することができる。
【0053】
以上のように、ビームのスキャン位置によらず、ビームポテンシャルによって自律的に電子を引き出すことができるような帯電抑制装置(プラズマシャワー)により、イオン注入によるウエハへの正帯電を抑制することができる。
【0054】
本発明を好ましい実施の形態について説明したが、本発明は図1〜図3の形態に限定されるものでは無い。例えば、第1アーク室34は、1個に限らず、第2アーク室35の長さ方向に間隔をおいて複数個設置されても良い。勿論、第2アーク室35の1つの壁面のみならず、別の壁面に設置されても良い。また、プラズマ形成用のガスは、第1アーク室34だけでなく、第2アーク室35にも導入されても良い。更に、上記形態では、コンファインメント磁場を形成するための永久磁石38を、図1で言えば、上下の永久磁石38はビームの進行方向に延び、左右の永久磁石38は上下方向に延びるように設置している。これに対し、図4に示すように、上下、左右のいずれの永久磁石38もビームの進行方向に対して直角に延びるように設置しても良い。勿論、この場合も、永久磁石38は磁極をすべて第2アーク室35内に向け、しかも隣り合う永久磁石38の磁極は互いに反対になるように設置される。第2アーク室35の両端面については図3と同様で良い。
【0055】
本発明は、ビームの断面形状が円形、長円形、楕円形等のいずれにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、本発明による帯電抑制装置の構成を説明するための縦断面図である。
【図2】図2は、図1の線Aによる横断面図である。
【図3】図3は、図2に示された第2アーク室の両端面に設置されるコンファインメント磁場形成用の永久磁石の設置形態を示した図である。
【図4】図4は、図1に示された第2アーク室の上下、左右の壁面に設置されるコンファインメント磁場形成用の永久磁石の他の設置形態を示した図である。
【図5】図5は、本発明が適用されるイオン注入装置の概略構成を平面図(図a)、側面図(図b)で示す。
【図6】図6は、バッチ式イオン注入装置で使用される従来のプラズマシャワーの模式図である。
【符号の説明】
【0057】
30 帯電抑制装置
31 フィラメント
32 ガス導入口
33 第1引出孔
34 第1アーク室
35 第2アーク室
36 第2引出孔
37 第1引出電極
38 永久磁石
39 アーク室サポート
40 筒体
41 フィラメントフィード
42 フィラメント電源
43 第1アーク電源
44 第1引出電源
45 第2アーク電源
46 第2引出電源
47 バイアス電源
48 バイアス電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを含む荷電粒子ビームを特定範囲にわたって往復スキャンさせながらウエハに照射して処理を行うに際し、前記ウエハへの帯電を抑制するための帯電抑制装置において、
少なくとも1つの第1引出孔を有する少なくとも1つの第1アーク室と、
前記第1引出孔と連通し、前記荷電粒子ビームのスキャン範囲に望ませた少なくとも1つの第2引出孔を有する第2アーク室とを備え、
前記第1アーク室に第1アーク電圧を印加して該第1アーク室にプラズマを生成し、そこから電子を引き出して前記第2のアーク室に導入し、該第2アーク室で再びプラズマを生成して前記荷電粒子ビームとの間にプラズマブリッジを形成するようにしたことを特徴とする帯電抑制装置。
【請求項2】
前記第1アーク室と前記第2アーク室との間に該第2アーク室内でプラズマを生成するための第2アーク電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載の帯電抑制装置。
【請求項3】
前記第2引出孔は、前記荷電粒子ビームのスキャン範囲にわたって延在する1つのスリットあるいは前記荷電粒子ビームのスキャン範囲にわたって間隔をおいて配設された複数の孔で実現されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の帯電抑制装置。
【請求項4】
前記第2引出孔の開口形状あるいは開口分布を、前記第2アーク室内のプラズマ密度分布に対応させて、プラズマが薄い部分の開口は密になるようにし、濃い部分の開口は疎になるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の帯電抑制装置。
【請求項5】
前記往復スキャンにより荷電粒子ビーム位置が移動しても、常に荷電粒子ビームと前記第2引出孔との間にプラズマブリッジが形成され、自律的電子供給が行なわれるようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項6】
前記第2アーク室は、前記第2引出孔以外からガスが漏れないような構造にされていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項7】
前記第2アーク室には前記第1アーク室と前記第2引出孔以外の領域に永久磁石を設置してコンファインメント磁場を形成し、該第2アーク室にプラズマを閉じ込めて、前記往復スキャン範囲でのプラズマ均一性を高めることを特徴とする請求項請求項1〜6のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項8】
前記第2アーク室には、前記荷電粒子ビームに電子を効率良く供給するための第2引出電圧が印加されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項9】
前記第2引出孔とその周辺の前記往復スキャン範囲は、筒体で覆われていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項10】
前記荷電粒子ビームの進行方向に関して前記筒体の上流側にバイアス電極を設け、前記筒体の上流方向への電子の飛散を防止して電子を効率良くウエハ側へ輸送することを特徴とする請求項9に記載の帯電抑制装置。
【請求項11】
前記筒体を、前記第2アーク室と別電位に設定できる構造としたことを特徴とする請求項9または10に記載の帯電抑制装置。
【請求項12】
前記筒体の内壁をギザギザにして、該内壁のすべての面に絶縁性の汚れが付着することを防止できる構造としたことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項13】
アーク電流を計測してフィードバックすることにより前記第2アーク室内のプラズマ電子の量あるいはアーク電流が一定になるように制御することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項14】
前記第1アーク室を前記往復スキャン範囲で間隔をおいて複数配置することにより、前記第2アーク室内のプラズマ密度増加とプラズマ均一性向上がなされていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項15】
前記第1アーク室と前記第2アーク室との間に、前記第1アーク室から電子を引き出すための引出電極を設けたことを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項16】
前記引出電極と前記第1アーク室との間に、電子を引き出すための第1引出電圧を印加することを特徴とする請求項15に記載の帯電抑制装置。
【請求項17】
前記引出電極と前記第2アーク室との間に、該第2アーク室内でプラズマを生成するための第2アーク電圧を印加することを特徴とする請求項15又は16に記載の帯電抑制装置。
【請求項18】
前記第2アーク室における前記荷電粒子ビームの進行方向に直角な方向の2つの端面においては、多角形の枠状または環状の複数の前記永久磁石を同心状に配置して前記コンファインメント磁場を生成するように構成されていることを特徴とする請求項7〜17のいずれかに記載の帯電抑制装置。
【請求項19】
電場、磁場の少なくとも一方によりイオンビームを含む荷電粒子ビームを特定範囲にわたって往復スキャンするスキャン機構と、該スキャン機構の下流側に配置され前記荷電粒子ビームから必要なエネルギー種のイオンのみを選択するための角度エネルギーフィルターとを備えたイオン注入装置において、
前記角度エネルギーフィルターの下流側に、請求項1〜18のいずれかに記載の帯電抑制装置を配置したことを特徴とするイオン注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−156142(P2006−156142A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345230(P2004−345230)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000183196)住友イートンノバ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】