説明

ウエハ製造装置

【課題】研磨砥液の吐出位置を容易に変更でき、かつ全ての原石の切断面に研磨砥液を十分に行き渡らせて、各原石を精度良く切断することができるウエハ製造装置を提供する。
【解決手段】吐出手段5は、各原石10の上方で研磨砥液35を貯留する貯留部40と、貯留部40を開口しワイヤ22に研磨砥液35を吐出するスリット42(吐出部)と、を備え、第1方向に沿って複数のスリット42が形成され、少なくとも一部のスリット42が閉塞部材50により閉塞されることで、各原石10の第1方向の両外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出しうるようになっていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯情報端末機器には、時刻源や制御信号のタイミング源、リファレンス信号源として水晶等を利用した圧電振動子が用いられている。この種の圧電振動子は、例えば音叉型の圧電振動片を有するものや、厚み滑り振動するATカット圧電振動片を有するもの等が知られている。
【0003】
上述した圧電振動片の元となるウエハは、円柱形状や直方体形状の水晶等の原石を、薄く平板状に切断することにより形成される。一つの原石から複数枚のウエハを切り出して形成するが、ウエハを切り出す方法として、ワイヤを利用して原石を薄く切り出す方法が知られている。
【0004】
ワイヤを利用した方法では、スライス台に単一または複数個の原石を並列に載置した後、ローラ間に螺旋状に巻回されたワイヤを走行させつつ、単一または複数個の原石をワイヤに押圧する。なお、ワイヤを一方向にのみ走行させると、ワイヤの磨耗に偏りが生じて早期のワイヤ断線の原因となるため、一般にワイヤを往復に走行させる。
【0005】
原石の切断は、原石とワイヤとの接触部(切断面)に研磨砥液を供給しながら行う。ここで、切断面に研磨砥液を供給する方法として、具体的には以下のような方法がある。
例えば、特許文献1では、外周に複数の吐出孔を有する配管部を、原石の中央部の真上に配置し、原石に研磨砥液を吐出している。これにより、切断面に研磨砥液を直接供給することができる。
また、特許文献2では、先端に吐出孔を有する配管部を、原石の両外側に配置し、原石とワイヤとの境界付近で、ワイヤに研磨砥液を吐出している。ワイヤの走行とともに研磨砥液も移動するので、切断面に研磨砥液を供給することができる。なお、前述の通りワイヤを往復に走行させる場合でも、原石の両外側からワイヤに研磨砥液を吐出することにより、切断面に常に研磨砥液を供給することができる。
このように、切断面に研磨砥液を供給することにより、切断面に研磨砥液中の砥粒が入り込んで、砥粒が原石を研削する。これにより、高い加工精度で原石を薄いウエハ状に切り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−82173号公報
【特許文献2】特開平5−220731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述の通り特許文献1では、原石の中央部の真上から研磨砥液を供給している。この場合、原石の中央部には研磨砥液を十分に供給できるが、原石の端部には研磨砥液を十分に供給できない。特に、複数の原石を配置した場合には、中央部に配置された原石には研磨砥液を十分に供給できるが、端部に配置された原石には研磨砥液を十分に供給できない。したがって、原石の位置によって研磨砥液の供給量にバラつきが生じてしまい、切断面に研磨砥液が十分に行き渡らず、切断面に入り込む砥粒の量にもバラつきが生じてしまう。これにより、切断面の加工精度が低下し、切り出された各ウエハの厚みにバラつきが生じる虞がある。また特許文献1では、切断面に研磨砥液を直接供給しているので、極度に薄いウエハを切り出す場合には、吐出圧によって切り出したウエハが割れる虞がある。
【0008】
一方、前述の通り特許文献2では、原石の両外側でワイヤに研磨砥液を吐出し、ワイヤの走行とともに研磨砥液を移動させることにより、切断面に研磨砥液を供給している。しかし、ワイヤ走行方向に沿って複数の原石を配置した場合、研磨砥液は両端に配置された原石に多く供給される。このため、中央部に配置された原石まで研磨砥液が移動しきれず、中央付近に配置された原石に研磨砥液を十分に供給できない。したがって、特許文献1の場合と同様に、切断面の加工精度が低下し、切り出された各ウエハの厚みにバラつきが生じる虞がある。
【0009】
さらに、原石の大きさや配置する原石の個数等を変更した場合には、研磨砥液の吐出位置を変更する必要がある。しかし、特許文献1および特許文献2において研磨砥液の吐出位置を変更するためには、配管部の位置や本数等を変更して再度配管部を配策しなければならず、段取りに手間がかかる。また、原石の個数が特に多い場合等、配管部の位置や本数等の変更により対応できない場合には、ウエハ製造装置自体を変更しなければならない虞もある。
【0010】
そこで本発明は、研磨砥液の吐出位置を容易に変更でき、かつ全ての原石の切断面に研磨砥液を十分に行き渡らせて、各原石を精度良く切断することができるウエハ製造装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明のウエハ製造装置は、第1方向に並んだ複数の原石を、前記第1方向に走行するワイヤで切断することにより、前記各原石から同時にウエハを切り出すウエハ製造装置であって、前記ワイヤに研磨砥液を吐出する吐出手段を備え、前記吐出手段は、前記各原石の上方で前記研磨砥液を貯留する貯留部と、前記貯留部を開口し前記ワイヤに前記研磨砥液を吐出する吐出部と、を備え、前記第1方向に沿って複数の前記吐出部が形成され、少なくとも一部の前記吐出部が閉塞部材により閉塞されることで、前記各原石の前記第1方向の両外側において前記ワイヤに前記研磨砥液を吐出しうるようになっていることを特徴とする。
本発明によれば、吐出手段には第1方向に沿って複数の吐出部が形成され、少なくとも一部の吐出部が閉塞部材により閉塞されている。この構成によれば、複数の吐出部のうち、一部を閉塞部材により閉塞し、残部を開口することで、研磨砥液の吐出位置を選択することができる。したがって、原石の大きさや配置する原石の個数等の変更があっても、研磨砥液の吐出位置を容易に変更することができる。また、各原石の第1方向の両外側において、ワイヤに研磨砥液を吐出している。これにより、第1方向に走行するワイヤとともに研磨砥液が移動して、各原石の切断面に到達するので、全ての原石の切断面に研磨砥液を十分行き渡らせることができる。したがって、各原石を精度良く切断することができる。また、各原石の第1方向の両外側においてワイヤに研磨砥液を吐出することにより、ワイヤを往復に走行させて各原石を切断する場合でも、常に各原石の切断面に研磨砥液を供給することができる。また、各原石に研磨砥液を直接吐出しないので、薄いウエハを切り出すときでも、吐出圧によりウエハが割れるのを防止することができる。以上のように、研磨砥液の吐出位置を容易に変更でき、かつ全ての原石の切断面に研磨砥液を十分に行き渡らせて、各原石を精度良く切断することができる。
【0012】
また、前記第1方向と交差する方向に、複数本の前記ワイヤが並んで配置され、前記吐出手段は、前記各原石の前記第1方向の両外側において全ての前記ワイヤに研磨砥液を吐出することが望ましい。
本発明によれば、全てのワイヤに研磨砥液を吐出するので、全ての原石の切断面に研磨砥液を十分行き渡らせつつ、各原石から複数のウエハを同時に切り出すことができる。
【0013】
また、前記吐出手段は、前記各原石の前記第1方向の両外側において全ての前記ワイヤに研磨砥液を吐出し、前記貯留部の底部にはフィルタ部材が配置されていることが望ましい。
フィルタ部材は、研磨砥液が吐出される際に流路抵抗として作用するため、貯留部に貯留される研磨砥液の量を調整することができ、吐出部から吐出される研磨砥液の吐出圧を調整することができる。本発明によれば、研磨砥液の吐出圧を高くすることで、研磨砥液の界面張力により研磨砥液の吐出位置が狭小になるのを抑制することができる。これにより、広範囲に渡って研磨砥液を吐出することができるので、全てのワイヤに研磨砥液を吐出することができ、全ての原石の切断面に研磨砥液を十分行き渡らせることができる。また、研磨砥液を循環させて使用する場合には、研磨砥液の内部に混入した塵埃をフィルタ部材で捕捉することができる。これにより、切断面に塵埃が入り込むのを防止して、各原石を精度良く切断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吐出手段には第1方向に沿って複数の吐出部が形成され、少なくとも一部の吐出部が閉塞部材により閉塞されている。この構成によれば、複数の吐出部のうち、一部を閉塞部材により閉塞し、残部を開口することで、研磨砥液の吐出位置を選択することができる。したがって、原石の大きさや配置する原石の個数等の変更があっても、研磨砥液の吐出位置を容易に変更することができる。また、各原石の第1方向の両外側において、ワイヤに研磨砥液を吐出している。これにより、第1方向に走行するワイヤとともに研磨砥液が移動して、各原石の切断面に到達するので、全ての原石の切断面に研磨砥液を十分行き渡らせることができる。したがって、各原石を精度良く切断することができる。また、各原石の第1方向の両外側においてワイヤに研磨砥液を吐出することにより、ワイヤを往復に走行させて各原石を切断する場合でも、常に各原石の切断面に研磨砥液を供給することができる。また、各原石に研磨砥液を直接吐出しないので、薄いウエハを切り出すときでも、吐出圧によりウエハが割れるのを防止することができる。以上のように、研磨砥液の吐出位置を容易に変更でき、かつ全ての原石の切断面に研磨砥液を十分に行き渡らせて、各原石を精度良く切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ウエハ製造装置の斜視図である。
【図2】貯留部の平面図である。
【図3】図1のA−A線における断面図である。
【図4】研磨砥液の吐出位置を変更したときの説明図である。
【図5】変形例のB−B線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(ウエハ製造装置)
以下に、本発明の実施形態のウエハ製造装置につき図面を参照して説明する。
なお、以下の説明ではワイヤの走行方向をX方向とし、水平面内でX方向に直交する方向をY方向としている。また、配置される原石の長手方向をR方向とし、配置される原石の幅方向であって水平面内でR方向と直交する方向をS方向とする。さらに、図面をわかりやすくするために、各部材の縮尺を異ならせている。
図1はウエハ製造装置の斜視図である。
図1に示すように、実施形態のウエハ製造装置1は、X方向に並んだ複数の原石10を、X方向に走行するワイヤ22で切断することにより、各原石10から同時にウエハを切り出す装置である。
本実施形態のウエハ製造装置1は、ワイヤソー式の切断装置であって、複数個(本実施形態では3個)の原石10をセットする原石貼付板12と、原石10の上方に配置された回転可能な複数のローラ20(20a,20b,20c)と、各ローラ20間に巻回された切断用のワイヤ22とを備えている。
【0017】
ウエハ製造装置1には原石10が配置される。原石10は、水晶等からなる棒状部材である。原石10は、後に圧電振動片となった際に動作に最も適した方向、いわゆる面内結晶方位を有しているので、面内結晶方位に沿って切断する必要がある。したがって、原石10は、原石10の長手方向(R方向)をY方向に対して所定の角度だけ傾けた状態で、X方向に並べて配置される。さらに、原石10は、X方向における両外側に一定間隔を空けた状態で、原石貼付板12上に複数個セットされる。原石貼付板12は平坦部を有するワークテーブルであり、後述のとおり原石10を切断する際には上下方向に移動する。
【0018】
ローラ20は、Y方向に延びる略円柱形状のものである。本実施形態の切断装置では、3本のローラ20a,20b,20cを備えている。原石貼付板12の上方には、複数の原石10が配置される幅よりも広い幅で離間して、X方向に2本のローラ20a,20bが配置されている。この2本のローラ20a,20b間で、ワイヤ22と原石10とが接触し、原石10が切断される。また、2本のローラ20a,20bの略中央における上方には1本のローラ20cが配置されている。
【0019】
各ローラ20間には、切断用のワイヤ22が巻回されている。ワイヤ22は、X方向に沿って各ローラ20間に架け渡されており、ワイヤ22はX方向に走行する。
ワイヤ22は、線径が例えば160μm程度の高張力線等からなる。本実施形態では、1本のワイヤ22が不図示のワイヤ供給源から供給され、所定間隔を空けながら複数列にわたって各ローラ20に巻回されている。具体的には、ワイヤ22は、ローラ20a,20b間で原石10の上面と略平行に架け渡されている。さらに、各ワイヤ22は、各ローラ20a,20b,20c間でY方向に沿って、等間隔かつ平行に配列されている。ワイヤ供給源を駆動することにより、各ワイヤ22がX方向に走行する。この状態で原石貼付板を上昇させ、ローラ20a,20b間に架け渡された各ワイヤ22に原石10を押圧することにより、原石10を切断する。詳細は後述するが、ワイヤの両端部に配置された一対のワイヤ供給源を交互に駆動することにより、X方向にワイヤ22を往復走行させて原石10を切断している。
【0020】
(貯留部)
図2は貯留部の平面図である。
図3は図1のA−A線における断面図である。
図1から図3に示すように、本発明の実施形態のウエハ製造装置1は、各原石10の上方で研磨砥液35を貯留する貯留部40と、貯留部40を開口しワイヤ22に研磨砥液35を吐出するスリット(吐出部)42と、を備えている。なお、貯留部40の上方には、研磨砥液35の供給配管部46が配置されており、不図示の研磨砥液供給部から供給配管部46に研磨砥液35が供給される。その後、供給配管部46に設けられた研磨砥液吐出孔から研磨砥液35が吐出され、貯留部40に一時的に研磨砥液35が貯留される。
研磨砥液35は、炭化珪素等の砥粒にラッピングオイルを適量配合した切削液である。
【0021】
貯留部40は、底部40aと側壁部40bとを有するアルミ等の金属からなる容器である。図1に示すように、底部40aのX方向の長さは、各原石10の配置されている領域のX方向における長さよりも長く形成されている。また、底部40aは、R方向においてワイヤ22が架け渡されている領域よりも長く形成されている。これにより、後述のようにスリット42を形成することで、各原石10のX方向の両外側において、全てのワイヤ22に研磨砥液35を吐出しうるようになっている。また、スリット42から吐出される研磨砥液35の吐出圧は、研磨砥液35の粘度、スリット42の幅および貯留部40に貯留する研磨砥液35の貯留量に依存する。したがって、側壁部40bの高さを適宜設定することにより研磨砥液35の貯留量を変更して、研磨砥液35の吐出圧を調整することができる。
【0022】
(吐出部、スリット)
図2に示すように、貯留部40の底部40aに、研磨砥液35を吐出する吐出部が形成されている。本実施形態では、吐出部として、貯留部40の底部40aにスリット42が形成されている。
スリット42は、各原石10の上方において複数本(本実施形態では21本)並んで形成されている。
前述のとおり、原石は面内結晶方位を有しているため、原石の長手方向(R方向)をY方向に対して所定の角度だけ傾けた状態でX方向に並べて配置される。各原石に研磨砥液を直接吐出することなく、各原石のX方向の両外側においてワイヤに研磨砥液を吐出しうるようにするためには、各原石10のX方向の上方において、R方向に沿ってスリット42を形成する必要がある。このようにスリット42を形成することで、研磨砥液35は各原石10のX方向の両外側において、R方向に沿って吐出しうるようになる。
スリット42は、R方向でワイヤ22が架け渡されている領域よりも長く形成されている。したがって、全てのワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができる。なお、本実施形態のスリット42のS方向の幅は、例えば3mm程度である。スリット42の幅を適宜変更することにより、研磨砥液35の吐出圧を調整することができる。
【0023】
図2および図3に示すように、本実施形態におけるウエハ製造装置1の吐出手段5は、少なくとも一部のスリット42が閉塞部材50により閉塞されている。
図2および図3に示すように、閉塞部材50は、アルミ等の金属からなる円柱状部材である。閉塞部材50は、棒状部材を切断することにより形成される。閉塞部材50の長さは、スリット42のR方向における長さと略同一に形成される。また、閉塞部材50の直径は、スリット42のS方向における幅よりも大きく形成される。本実施形態では、スリット42の幅が例えば3mm程度に形成されるのに対して、閉塞部材50の直径は例えば5mm程度で形成される。このように閉塞部材50は、スリット42の長さと略同一の長さを有し、スリット42の幅よりも大きな直径を有するので、閉塞部材50の下部がスリット42の上部に嵌り込んで、スリット42を閉塞することができる。
【0024】
図1および図3に示すように、本実施形態におけるウエハ製造装置1の吐出手段5は、原石10のX方向の両外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出しうるようになっている。
具体的には、図3に示すように、各原石10の真上のスリット42に閉塞部材50を嵌め込むことにより、各原石10の真上のスリット42を閉塞する。これにより、各原石10の真上の閉塞したスリット42からは研磨砥液35が吐出されないため、各原石10に研磨砥液35が直接吐出しない。一方、閉塞されていないスリット42からは、研磨砥液35が、各原石10のX方向の両外側において、R方向に沿って、ローラ20a,20b間のワイヤ22に吐出される。したがって、吐出圧によりウエハが割れるのを防止しつつ、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分に行き渡らせて、各原石10を精度良く切断することができる。
【0025】
ところで、原石10の大きさや配置する原石10の個数等を変更した場合には、吐出圧によりウエハが割れるのを防止しつつ、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分に行き渡らせるため、研磨砥液35の吐出位置を変更する必要がある。特許文献1や特許文献2等に記載の配管部を有する吐出手段では、配管部の位置や本数等の変更やウエハ製造装置自体の変更等が必要となっていた。
しかし、本実施形態のウエハ製造装置1の吐出手段では、閉塞部材50で閉塞するスリット42を変更することにより、研磨砥液35の吐出位置を容易に変更することができる。以下に、研磨砥液の吐出位置の変更について詳細を説明する。
【0026】
図4は研磨砥液の吐出位置を変更したときの説明図である。
図3では、X方向に沿って原石を3個配置していたが、図4では、原石10を配置している領域のX方向における両端に原石10a,10bを追加することにより原石を5個配置している。
図3のように、X方向における両端のスリット42a,42bを閉塞したまま、両端に原石10a,10bを追加した場合には、両端のスリット42a,42bから研磨砥液が吐出されない。したがって、原石10a,10bの外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができない。そこで、図4に示すように、X方向における両端のスリット42a,42bを閉塞している閉塞部材50を外し、スリット42a,42bを開口して、スリット42a,42bから研磨砥液35を吐出する。これにより、原石10a,10bの両外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができる。したがって、全ての原石10のX方向の両外側において、ワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができるので、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分行き渡らせることができる。
【0027】
なお、原石10の個数が増加した場合について説明したが、原石10の大きさの変更があった場合でも、上述と同様に閉塞部材50の配置を変更して、閉塞部材50で閉塞および開口するスリット42を適宜選択することにより対応ができる。このように、研磨砥液の吐出位置を容易に変更することができる。
【0028】
(ウエハ製造方法)
次にウエハ製造方法について説明する。
本実施形態のウエハ製造方法は、上述のウエハ製造装置1を使用し、X方向にワイヤ22を走行させて原石10を切断することにより、X方向に並んだ複数の原石10から、複数枚のウエハを同時に切り出すものである。
【0029】
まず、図1に示すように、原石のX方向における両外側に一定間隔を空けた状態で、原石貼付板12上に複数の原石10をセットする。本実施形態では、接着剤を用いて原石貼付板12上に原石10を固定することによりセットしている。
具体的には、まず、ダミーガラス11を用意し、ダミーガラス11上に原石10を接着する。ダミーガラス11を有しているので、後述のように原石10を切断する際に、ダミーガラス11にワイヤ22を食い込ませて、ダミーガラス11ごと原石10を切断することができる。これにより、原石10を確実に切断することができる。
続いて、ダミーガラス11を下にして、ダミーガラス11を原石貼付板12に接着することにより、ダミーガラス11を介して原石貼付板12に原石10を固定する。ここで、前述のとおり、原石10は面内結晶方位を有しているので、原石10の角度調整を行った後、原石貼付板12に原石10を接着固定する必要がある。本実施形態では、X線回析法等により原石10の切断角度の測定を行いながら、指定の切断角度になるように原石10の位置を微調整する。
【0030】
次に、貯留部40の底部40aに形成されたスリット42のうち、各原石10の真上のスリット42に閉塞部材50を嵌め込む。これにより、各原石10の真上のスリット42を閉塞することができる。各原石10のX方向の両外側の上方におけるスリット42は開口されているので、各原石10のX方向の両外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができる。
【0031】
次に、不図示のワイヤ供給源を駆動させて、ワイヤ22を走行させる。ワイヤの両端部に配置された一対のワイヤ供給源を交互に駆動することにより、ワイヤ22の走行方向を切り替えて、X方向にワイヤ22を往復走行させることができる。
【0032】
次に、図1および図3に示すように、原石10のX方向の両外側においてワイヤ22に研磨砥液35を吐出する。具体的には、貯留部40の底部40aに形成された、閉塞部材50が配置されていないスリット42から、ローラ20a,20b間のワイヤ22に対し研磨砥液35が吐出される。前述の通り、スリット42は各原石10の上方においてR方向に沿って形成されており、各原石10の真上のスリット42には閉塞部材50が嵌め込まれている。これにより、各原石10のX方向の両外側において、全てのワイヤ22に研磨砥液35を吐出しつつ、各原石10に研磨砥液35が直接吐出しない。したがって、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分に行き渡らせることができ、各原石10を精度良く切断することができる。さらに、吐出圧によりウエハが割れるのを防止することができる。
【0033】
次に、原石貼付板12を上昇させ、ローラ20a,20b間に架け渡されたワイヤ22に各原石10を押圧して切断する。各原石10のX方向の両外側に吐出される研磨砥液35は、ワイヤ22の走行とともに移動して、各原石10の切断面に供給される。
切断面に供給される研磨砥液35には、前述のとおり砥粒が含有されており、原石10の切断面にワイヤ22とともに砥粒が入り込んで、砥粒が原石を研削することで原石10が切断される。
【0034】
本実施形態では、各原石10の切断は、ワイヤ22をX方向に往復走行させることにより行う。具体的には、約10秒程度ワイヤ22を正方向に走行させた後、ワイヤ22を逆方向に走行させて各原石10を切断する。前述の通り、各原石10のX方向の両外側からワイヤ22に研磨砥液35を吐出しているので、ワイヤ22をX方向に往復走行させることにより、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を行き渡らせることができる。ここで、前述の通りワイヤ22は、Y方向に沿って略等間隔かつ平行に配列されている。したがって、各原石10から複数のウエハを同時に切り出すことができる。
【0035】
本実施形態によれば、図2に示すように、吐出手段5にはX方向に沿って複数のスリット42が形成され、少なくとも一部のスリット42が閉塞部材50により閉塞されている。この構成によれば、複数のスリット42のうち、一部を閉塞部材50により閉塞し、残部を開口することで、研磨砥液35の吐出位置を選択することができる。したがって、原石10の大きさや配置する原石10の個数等の変更があっても、研磨砥液35の吐出位置を容易に変更することができる。また、図1および図3に示すように、各原石10のX方向の両外側において、ワイヤ22に研磨砥液35を吐出している。これにより、X方向に走行するワイヤ22とともに研磨砥液35が移動して、各原石10の切断面に到達するので、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分行き渡らせることができる。したがって、各原石10を精度良く切断することができる。また、各原石10のX方向の両外側においてワイヤ22に研磨砥液を吐出することにより、ワイヤ22を往復に走行させて各原石10を切断する場合でも、常に各原石10の切断面に研磨砥液を供給することができる。また、各原石10に研磨砥液35を直接吐出しないので、薄いウエハを切り出すときでも、吐出圧によりウエハが割れるのを防止することができる。以上のように、研磨砥液35の吐出位置を容易に変更でき、かつ全ての原石10の切断面に研磨砥液を十分に行き渡らせて、各原石10を精度良く切断することができる。
【0036】
以下に、本実施形態の変形例を説明する。
図5は変形例のB−B線における断面図である。
本実施形態の変形例におけるウエハ製造装置1の吐出手段5は、貯留部40の底部40aにフィルタ部材44が配置されている点で、本実施形態のウエハ製造装置の吐出手段と異なっている。
【0037】
フィルタ部材44は、金属ワイヤ等により網目が形成されたメッシュシート状の部材である。本実施形態のフィルタ部材44は、例えば0.12mmの直径を有するワイヤにより、例えば0.20mm四方の網目が形成されている。フィルタ部材44は、研磨砥液が吐出される際に流路抵抗として作用する。したがって、フィルタ部材44の網目の大きさは、研磨砥液35の粘度や必要な吐出圧等に伴って適宜選択される。また、フィルタ部材44のX方向およびY方向における長さは、貯留部40の底部40aのX方向およびY方向における長さと略同一か、若干短く形成されている。これにより、貯留部40の底部40aの全面にわたってフィルタ部材44を配置することができる。
【0038】
フィルタ部材44は、スリット42に閉塞部材50を嵌め込んだ後に配置される。したがって、フィルタ部材44は閉塞部材50の上に配置されている。また、前述の実施形態と同様に、複数のスリット42のうち一部を閉塞部材50により閉塞し、残部を開口することで、研磨砥液35の吐出位置を選択している。そして、貯留部40に貯留された研磨砥液35は、フィルタ部材44を介してスリットから、各原石10のX方向の両外側に吐出される。
一般に、研磨砥液35を吐出すると、吐出中の研磨砥液35の表面積を小さくしようとする力、いわゆる界面張力が働く。したがって、フィルタ部材が存在しない場合には、R方向に吐出位置L2を有するスリット42から研磨砥液35を吐出すると、下方にいくにつれて研磨砥液35の吐出位置は狭小になる。この傾向は、研磨砥液35の吐出圧が低いほど顕著である。研磨砥液35のR方向における吐出位置が狭小になりすぎると、両端に配置されたワイヤ22に研磨砥液35を吐出できなくなり、各原石10のR方向の端部における切断面に研磨砥液35を供給することができなくなる虞がある。
【0039】
しかし、本実施形態の変形例では、図5に示すように、貯留部40の底部40aにフィルタ部材44が配置されている。このフィルタ部材44は、研磨砥液35が吐出される際に、流路抵抗として作用する。したがって、フィルタ部材44を貯留部40の底部40aに配置することにより、貯留部に貯留される研磨砥液35の量を調整することができ、スリット42から吐出される研磨砥液35の吐出圧を高くすることができる。これにより、界面張力により研磨砥液35の吐出位置が狭小になるのを抑制することができる。具体的には、図5に示すように、吐出された研磨砥液35が原石貼付板12に到達した際に、例えばワイヤ22の配置される範囲よりも広い吐出位置L1を有するように、研磨砥液35の吐出圧を高くする。これにより、全てのワイヤ22に研磨砥液35を吐出することができるので、全ての原石10の切断面に研磨砥液35を十分行き渡らせることができる。
【0040】
また、一般にウエハ製造装置では、吐出した研磨砥液35を循環させて再使用する。このとき、再使用する研磨砥液35の内部には、原石10をワイヤ22で切断した時のワイヤ22の磨耗粉や原石10の破片等の塵埃が混入している。しかし、本実施形態の変形例では、フィルタ部材44を介して研磨砥液35を吐出しているので、循環する研磨砥液35の内部に混入した塵埃をフィルタ部材で捕捉することができる。これにより、研磨砥液35を循環させて再使用しても、原石10の切断面に塵埃が入り込むのを防止することができる。したがって、原石10を精度良く切断することができる。
【0041】
なお、この発明は上述した実施の形態に限られるものではない。
本実施形態では、アルミ等の金属からなる円柱状部材でスリット(吐出部)を閉塞している。しかし、例えば平板部材や直方体の部材でスリットを閉塞してもよい。また、閉塞部材を樹脂等で成型してもよい。
【0042】
本実施形態の変形例では、閉塞部材の上にフィルタ部材を配置しているため、貯留部の底部とフィルタ部材との間に隙間が若干生じている。ここで、例えば、平板部材のように、スリット上方への突出量が小さくなるような閉塞部材を使用することにより、貯留部の底部とフィルタ部材との間に隙間をさらに減らしつつ、スリットを覆うようにフィルタ部材を配置できる。これにより、スリットから吐出される研磨砥液の吐出圧をさらに高くすることができるので、研磨砥液の吐出範囲が狭小になるのをさらに抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、1本の閉塞部材により1本のスリットを閉塞している。しかし、例えば、平板部材を用いることにより、1個の閉塞部材により複数のスリットを閉塞してもよい。これにより、複数のスリットを極めて簡単に閉塞することができる。ただし、スリットの閉塞および開口を多様に組み合わせることができ、様々な原石の配置形態に対応できる点で本実施形態に優位性がある。
【符号の説明】
【0044】
1・・・ウエハ製造装置 5・・・吐出手段 10・・・原石 22・・・ワイヤ 35・・・研磨砥液 40・・・貯留部 40a・・・底部 42・・・スリット(吐出部) 44・・・フィルタ部材 50・・・閉塞部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に並んだ複数の原石を、前記第1方向に走行するワイヤで切断することにより、前記各原石から同時にウエハを切り出すウエハ製造装置であって、
前記ワイヤに研磨砥液を吐出する吐出手段を備え、
前記吐出手段は、前記各原石の上方で前記研磨砥液を貯留する貯留部と、前記貯留部を開口し前記ワイヤに前記研磨砥液を吐出する吐出部と、を備え、
前記第1方向に沿って複数の前記吐出部が形成され、少なくとも一部の前記吐出部が閉塞部材により閉塞されることで、前記各原石の前記第1方向の両外側において前記ワイヤに前記研磨砥液を吐出しうるようになっていることを特徴とするウエハ製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウエハ製造装置であって、
前記第1方向と交差する方向に、複数本の前記ワイヤが並んで配置され、
前記吐出手段は、前記各原石の前記第1方向の両外側において全ての前記ワイヤに研磨砥液を吐出する、
ことを特徴とするウエハ製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載のウエハ製造装置であって、
前記吐出手段は、前記各原石の前記第1方向の両外側において全ての前記ワイヤに研磨砥液を吐出し、
前記貯留部の底部にはフィルタ部材が配置されている、
ことを特徴とするウエハ製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−200980(P2011−200980A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71077(P2010−71077)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】