説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】一端を起点として突出し自動車の乗員の側方を覆うエアバッグを安定して展開する。
【解決手段】自動車の座席5に備えるエアバッグ装置11のエアバッグ14を、3枚の基布41,42,43を縫合して構成する。第3の基布43は、第1の基布41と第2の基布42との周縁部47を互いに連結する。開口部45の部分を除き、第3の基布43の周縁部47を、第1の基布41と第2の基布42との周縁部47の全長にわたり縫い合わせる。リテーナ25をエアバッグ14の内側のインフレータ配置部51に配置する。インフレータ配置部51の後側の部分を折り返して反転固定部52とする。エアバッグ14が所定の厚さ寸法の箱状に安定して迅速に展開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の座席の側部から乗員の側部に沿って展開するエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の乗員の側方にエアバッグを展開し、側面衝突時に乗員を保護するエアバッグ装置について、座席の側部に折り畳んで収納されたエアバッグを乗員とドアとの間に展開して、乗員の側部を保護するサイドエアバッグと呼ばれるエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置は、袋状をなすエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータとを備え、エアバッグは、一対の基布を重ね合わせ、外周部同士を縫い合わせて、扁平な袋状に形成されている。しかしながら、このような構造のエアバッグでは、ガスが供給されて展開した状態で、エアバッグの中央部で厚さ寸法が最大になる一方、外周部では厚さ寸法が小さい断面紡錘状となる。そして、このように位置により厚さ寸法が変化する構成では、一端のみを座席に支持されて展開するサイドエアバッグについて、エアバッグを所定の位置に安定して展開させることが必ずしも容易でないとともに、乗員に対して所定の厚さ寸法すなわち所定の衝撃吸収ストロークを確保した保護領域を形成するためには、エアバッグを構成する基布の面積を大きくし、側面視で大きな形状のエアバッグを構成する必要が生じる。
【0003】
この点、例えば、自動車のドア側から展開するエアバッグについて、U字状に湾曲した複数の基布を位置をずらして互いに縫着し、開いた一端部を縫着して筒状とするとともに、上下の開口部分に基布を縫着して多気室の袋状とした構成が知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、U字状の基布を重ねて形成した部分の上下に基布を縫着する縫製作業は煩雑で、製造コストの低減が容易ではない。また、このようにドアから展開するエアバッグは、側面の平面部分にガス噴出用開口を設けてドアパネル側に固定されるもので、展開時に一端のみを支持されるものではなく、平面状のドアパネルに沿って容易に安定して展開させることが可能であり、展開姿勢の安定化の必要性、課題を有しない。
【0004】
また、例えば、1枚の矩形状の基布を中央線で折り返して重ね合わせ、周縁部を縫合して袋状とするとともに、四隅の角部の基布を縫い合わせてタックを形成し、エアバッグを直方体箱状に展開させる構成が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この構成では、エアバッグの角部分がタックにより硬くなり、また、周面の中央部が周縁部の縫合線に沿って硬くなりやすい一方、周面と側面との角部は単なる折線で比較的柔らかいため、断面略紡錘状の円形状に展開しやすい傾向がある。また、この特許文献2のエアバッグも、特許文献1のエアバッグの構成と同様に、側面の平面部分にガス導入口が設けられ、展開姿勢の安定化の必要性、課題を有しない。この点、この特許文献2には、エアバッグの一つの角部にガス導入部を設けた構成が示されているが、この構成の詳細は明らかではなく、タックを設けないとの記載からは、単に縫合線が延長されて周面の中央部を通る構成であると考えられ、展開姿勢を安定化する構造を示唆するものではない。
【0005】
さらに、例えば、両側に対をなすメイン基布と、これらメイン基布の外周縁同士を連結する側面基布とを用いたエアバッグを用いる構成が知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、この構成についても、特許文献1の構成と同様に、一方の側面基布にガス発生器用の開口が形成されて、ドアパネルに取り付けられるもので、展開姿勢の安定化の必要性、課題を有するものではない。
【特許文献1】特開平8−2364号公報 (第3頁、図3−図5)
【特許文献2】特開平8−192712号公報 (図1−図4)
【特許文献3】特開平8−225054号公報 (図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のように、一端部を起点に扁平に展開するエアバッグについて、容易に展開姿勢を安定化できるとともに所定の面積の保護領域を形成できる構成が求められている。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、一端部を起点に扁平に展開し、容易に展開姿勢を安定化できるとともに所定の面積の保護領域を形成できるエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のエアバッグは、一端部を起点に乗員に沿って扁平に展開するエアバッグであって、乗員に対向する第1のパネル部と、この第1のパネル部の反乗員側に位置し前記第1のパネル部に対向する第2のパネル部と、これら第1のパネル部と第2のパネル部との周縁部を互いに連結する第3のパネル部とを備え、前記第3のパネル部は、前記起点近傍に設けられた開口部を除き、前記第1のパネル部及び前記第2のパネル部の全周縁部にわたり連結されたものである。
【0009】
そして、この構成では、起点側から連続した箱状に展開するため、所定の厚さ寸法の保護領域が確保されるとともに、展開時の揺れを抑制し、一端部を起点に扁平に展開しかつ所望の位置に安定して展開する展開姿勢が安定して実現される。また、厚さ寸法の小さい部分が小さく、ガスが効率良く利用され、迅速な展開及びエアバッグ装置の小型化が容易になる。
【0010】
請求項2記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、第1及び第2のパネル部は互いに略同形状の基布で構成され、第3のパネル部は1枚の帯状の基布で構成され、これら第1のパネル部と第3のパネル部、及び第2のパネル部と第3のパネル部は、互いに重ねた周縁部を縫合線で縫い合わせて連結されたものである。
【0011】
そして、この構成では、第3のパネル部を第1及び第2のパネル部に一連の縫合線で縫い合わせて接合することにより、3枚の基布を用いた簡略な構成及び製造工程が可能となり、製造コストが容易に低減される。
【0012】
請求項3記載のエアバッグは、請求項2記載のエアバッグにおいて、第3のパネル部に、開口部の反対側である他端部に位置して、この第3のパネル部が第1のパネル部及び第2のパネル部に重ねられた周縁部を除く部分の幅寸法に略等しい直径寸法の円形状の排気口が設けられたものである。
【0013】
そして、この構成では、排気口の直径寸法を、重ねられた周縁部を除く部分の幅寸法に略等しくしたため、周縁部及び縫合線の連続性を確保して箱形状が維持される。また、排気口を開口部の反対側である他端部に位置して第3のパネル部に円形状に設けたため、エアバッグが他端側に引き延ばされるように展開する際に、排気口の面積が安定し、排気特性が安定する。
【0014】
請求項4記載のエアバッグ装置は、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータとを具備して車両の車室に備えられるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、前記車両の乗員の背側に折り畳んで収納され、ガスが供給されて乗員と前記車室の側部の内面との間に乗員の側部を覆うように展開するものである。
【0015】
そして、この構成では、請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグを用いたため、自動車の乗員の側部を覆うように展開するいわゆるサイドエアバッグとして好ましい特性を容易に実現できる。
【0016】
請求項5記載のエアバッグ装置は、請求項4記載のエアバッグ装置において、インフレータを固定するインフレータ固定部、エアバッグの内面に対向するエアバッグ対向部、及びこのエアバッグ対向部から突設され車両側の車体部材に固定される車両側固定部を備えた固定部材を具備し、前記エアバッグは、起点に位置し収納したインフレータが配置されるインフレータ配置部と、このインフレータ配置部から反展開方向に延設され先端部に開口部を設けた部分が展開方向に折り返された反転固定部とを備え、前記車両側固定部は、インフレータ配置部に位置する第1のパネル部及び反転固定部に位置する第1及び第2のパネル部を貫通して前記車体部材に固定され、前記エアバッグ対向部と前記車体部材との間に挟持してエアバッグが固定されるとともに、前記エアバッグ対向部と前記車体部材との間に挟持されていない部分が、第3のパネル部の内面に沿ってエアバッグに導入したガスが開口部から排気可能な排気可能部を構成するものである。
【0017】
そして、この構成では、折り返された反転固定部の第3のパネル部に沿った部分が排気可能部として機能し、エアバッグの展開が障害物により妨げられた場合などに、排気可能部からガスを排気して、障害物に対する荷重を抑制できる。
【0018】
請求項6記載のエアバッグ装置は、請求項5記載のエアバッグ装置において、反転固定部に位置する第3のパネル部は、開口部に向けて基布の幅寸法が漸減するものである。
【0019】
そして、この構成では、第3のパネル部の基布の幅寸法を開口部に向けて漸減させることにより、この第3のパネル部に沿って排気する排気可能部の排気特性が容易に調整される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、一端部を起点に乗員に沿って扁平に展開するエアバッグについて、容易に展開姿勢を安定化できるとともに所定の面積の保護領域を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0022】
図1及び図2において、1は車両としての自動車の車体で、この車体1の車室2には、対向面である側部のドア部3に面して、被取付部材である座席5が設けられている。そして、この座席5の背部に、車両衝突時に座席5に着座した乗員Aと車体1のドア部3の下側部との間に膨張展開して乗員の腰部から胸部を保護するいわゆるサイドエアバッグを構成するエアバッグ装置11が備えられている。また、車室2には、サイドエアバッグを構成するエアバッグ装置11に加え、ステアリングホイールから展開するエアバッグ装置、インストルメントパネルから展開する助手席乗員用のエアバッグ装置、ルーフサイド部から下方に展開してドア部3の上側を覆うカーテンエアバッグとなどが備えられている。
【0023】
そして、このサイドエアバッグを構成するエアバッグ装置11は、ガスを発生させ噴射するインフレータ12と、このインフレータ12が供給するガスにより膨張展開する袋状のエアバッグ14と、これらインフレータ12とエアバッグ14とを連結して座席に固定する固定部材16と、これら部材を収納するカバーである樹脂製などのケース体17となどを備えている。
【0024】
そして、インフレータ12は、図1及び図3に示すように、略円柱状の本体部21と、この本体部21の一端部から突設されたガス供給部22とを備えている。また、本体部21の他端部には、このインフレータ12を動作させるための端子部23が設けられ、ハーネス23aが接続されている。そして、ガス供給部22は、ガスを供給するディフューザーであり、本体部21の一端部から、本体部21より径寸法の小さいあるいは本体部21と略同じ径寸法の円柱状に突設され、周面には、ガス吐出口となる複数の円孔22aが形成されている。さらに、ガス供給部22の先端部には、円盤状の天板部24が配置されている。また、このインフレータ12は、いわゆるハイブリッドタイプで、本体部21の内部に充填した推進薬を反応させるとともに、本体部21の内部のボンベに貯留したガスを開放して、ガス供給部22から比較的低い温度のガスを噴射する。
【0025】
また、固定部材16は、内側固定具としてのリテーナ25を備えている。そして、このリテーナ25は、板金を折曲形成したリテーナ本体部31と、このリテーナ本体部31に溶接などして固着された車両側固定部としてのボルト32,32とを備えている。そして、リテーナ本体部31は、略平板状の基板部33と、この基板部33から一体に略円筒状に延設された一対の保持部34と、同じく基板部33から一体に略円筒状に延設された案内部35とを備えている。そして、基板部33はエアバッグ対向部を構成し、基板部33及び保持部34はインフレータ固定部を構成する。さらに、基板部33の端部からは、インフレータ12の先端部に当接して位置決めするストッパ36が突設されている。そして、保持部34は、インフレータ12の本体部21が挿入可能な略円筒状に湾曲され、先端側に設けた固定部が溶接あるいはリベットなどにより基板部33に固定されて、インフレータ12に弾性的に当接して、基板部33との間でインフレータ12を挟持して位置決め保持する。
【0026】
また、案内部35は、スカート部とも呼ばれるもので、インフレータ12の軸方向に対して一方向に向かって拡開する略円錐台状をなし、内周面が、保持部34に保持されたインフレータ12のガス供給部22に対して、所定の寸法の間隔だけ離間して対向するガス案内部となるように湾曲されている。すなわち、案内部35は、ガス供給部22に対して傾斜した傾斜面として形成され、所定の分配率で他方向に対してよりも一方向に対してガスを多く分配するようになっている。そして、本実施の形態では、案内部35は、インフレータ12の先端側となる一方に向かって拡開し、一方向方に向かってガスを多く分配するように形成されている。
【0027】
また、リテーナ本体部31の基板部33には、保持部34の突設方向と反対方向に向かい、矩形状に突出する一対の突設部38が形成され、これら突設部38にそれぞれボルト32の頭部が固着されている。
【0028】
また、エアバッグ14は、主として3枚のパネルとも呼ばれる基布を縫い合わせて構成され、図1ないし図6に示すように、互いに略同型の第1及び第2のパネル部としての第1及び第2の基布41,42と、これら基布41,42を連結する第3の基布43とを開口部45の部分を除いて縫い合わせることにより、偏平な箱状の袋体の外殻が構成されている。すなわち、第1及び第2の基布41,42は、平面上に広げた状態で略多角形状をなし、第3の基布43は、所定の幅寸法の帯状に形成されている。そして、これら基布41,42,43の縫い合わせは、第1の基布41の周縁部47と第3の基布43の一側周縁部47とを重ね合わせた状態で、開口部45の部分を除いてこの周縁部47同士を糸を用いた2列の縫合線48に沿って縫い合わせ、また、第2の基布42の周縁部47と第3の基布43の周縁部47とを重ね合わせた状態で、開口部45の部分を除いてこの周縁部47同士を糸を用いて縫合線48に沿って縫い合わせた後、開口部45の部分から反転させることにより、第3の基布43がまちとなり所定の厚さ寸法で展開する箱状の袋体であるエアバッグ14が構成される。そして、このエアバッグ14の内側には、開口部45から若干離間した位置に、インフレータ12が配置され起点となるインフレータ配置部51が設けられ、このインフレータ配置部51より開口部45側すなわち後側の部分は、反開口部45側すなわち前側に折り返されて第1の基布41に重ねられ、反転固定部52が設けられている。また、このインフレータ配置部51及び反転固定部52には、各ボルト32,32が挿通可能な取付孔54,54,55,55,56,56が形成されている。すなわち、第1の基布41には、起点すなわちインフレータ配置部51に臨み、一対の第1の取付孔(起点通孔)54,54が形成されているとともに、反転固定部52に、基布上では第1の取付孔54,54から離間し、かつ、反転固定部52を折り返した状態で第1の取付孔54,54に重なり連通する第2の取付孔(第1パネル反転固定通孔)55,55が形成されている。さらに、第2の基布42の反転固定部52には、第2の取付孔55,55に対向し、すなわち、反転固定部52を折り返した状態でこれら取付孔54,54,55,55に重なる第3の取付孔(第2パネル反転固定通孔)56,56が形成されている。なお、第1の基布41の反転固定部52に位置する第2の取付孔55,55は、他の取付孔54,54,56,56よりも径寸法が大きく形成されている。また、第2の基布42には、ハーネスが23aが挿通する通孔57が形成されている。
【0029】
なお、各基布41,42,43には、必要に応じて、袋体の内側に位置し、補強や耐熱性の向上を図り防炎布などととも呼ばれる補強布が配置される。この実施の形態では、第1の基布41の内面には、インフレータ配置部51に位置し、矩形状の基布を3枚重ねた補強布が配置され、2列の縫合線58で縫い合わされて配置されている。また、第2の基布42の内面には、インフレータ配置部51から反転固定部52にかかる位置に、矩形状の基布を3枚重ねた補強布が配置され、2列の縫合線59で縫い合わされて配置されている。また、各基布41,42,43についても、複数枚の基布を重ねて構成することができ、例えば、第1及び第2の基布41,42について、2枚の基布を重ねて構成することができる。
【0030】
次に、このエアバッグ装置11の組立工程を説明する。
【0031】
まず、インフレータ12をリテーナ25に組み合わせた組立体を構成し、この組立体を開口部45からエアバッグ14に挿入し、ボルト32,32を第1の取付孔54,54から外側に引き出す。さらに、エアバッグ14の反転固定部52を折り返し、ボルト32,32を他の取付孔55,55,56,56に挿入する。
【0032】
そして、適宜の状態にエアバッグ14を折り畳み、容易に破断可能なテープなどの保形手段でエアバッグ14の折り畳み形状を保持することにより、エアバッグ装置11が構成される。
【0033】
そして、このエアバッグ装置11を、図示しないケースに収納した上で、座席5の背部の側部に収納し、締付具であるナット61などを用いて、リテーナ25のボルト32,32を座席5の車体部材としてのフレーム63などに固定することにより、エアバッグ装置11が自動車の座席5に取り付けられる。この状態で、エアバッグ14の起点となるインフレータ配置部51及び反転固定部52の部分の基布が、リテーナ25の基板部33と座席5のフレーム63との間に挟持され、強固に支持される。なお、図1及び図3は、構造を説明するため、ボルト32,32及びナット61,61を完全に締め付けず、各部材が互いに離間した状態を示している。
【0034】
ここで、図3に示すように、リテーナ25の基板部33と座席5のフレーム63との間に挟持される挟持部分の長さ寸法は、この挟持部分のエアバッグ14の全体の長さ寸法よりも小さい。そこで、この挟持部分の上下には、エアバッグ14内側から外側に連通可能な排気可能部65,65が形成される。
【0035】
次に、エアバッグ装置11の展開時の動作を説明する。
【0036】
まず、車両が側面衝突などの衝撃を受けると、制御装置によりハーネス23aを介して電力が供給されてインフレータ12が起動し、ガス供給部22からガスを噴射する。すると、このガスの圧力により、エアバッグ14はカバーを開いて座席5から突出し、図1及び図2に示すように、乗員Aとドア部3との間に膨張展開する。この際、ガス供給部22から噴射されたガスは、リテーナ25の案内部35に案内されて所望の分配率で上下に分配される。
【0037】
そして、本実施の形態によれば、車両衝突時に乗員Aの背側を起点としてこの乗員Aの体側部を覆うように、乗員Aの体側部と車室2側部の内面との間に膨張展開するいわゆるサイドエアバッグについて、エアバッグ14は、乗員Aの体側部に対向する第1の基布41と、車室2の内面に対向する第2の基布42と、これら第1の基布41と第2の基布42との周縁部47を互いに連結する第3の基布43を備え、第3の基布43は、後端縁である起点から、第1の基布41及び第2の基布42の起点以前すなわち後端縁を除く前、上、及び下の全周縁にわたって連続して、一連のステッチすなわち縫合線48で連結している。このように、第1の基布41及び第2の基布42にそれぞれ起点側から一連の縫合線48で第3の基布43を結合して箱状としたため、展開形状が安定し、正面側すなわち乗員A側からみて、中央部などに極端に厚さ寸法が大きい箇所ができず、また、外周部分の厚さ寸法を確保でき周縁部に厚さ寸法が小さく面積ばかり占有する箇所が生じることがないため、狭い空間であっても迅速に展開できる。そして、起点から連続した直方体状の箱状の断面形状を有するため、展開時の揺動を抑制し、容易に所望の位置に展開させることができる。さらに、後側から前側に向かって単純な直方体状の箱状に展開するため、ガスの流路が展開初期に形成され、さらに流路が前方に向かって延びるように展開し、エアバッグ14の各基布41,42,43にかかる負荷を抑制することができる。このようにして、一端を起点に前方に扁平に展開するエアバッグ14において、所定の衝撃吸収ストロークを確保し、厚さ寸法が極大となる箇所の発生を防止でき、また、迅速に展開し、高出力のインフレータを使用しなくても1次圧を迅速に立ち上げ、全体としてエアバッグ14に加わる負荷を抑制でき、さらに、一端で支持されるエアバッグ14の安定した展開挙動及び展開姿勢を得ることができる。特に、カーテンエアバッグと併用する際には、例えば乗員の腰部と胸部の側方などの狭い領域を確実に保護することが求められるが、本実施の形態では、狭い領域に迅速に安定して展開させることが可能であり、カーテンエアバッグなど他のエアバッグ装置との併用に適したエアバッグ装置11を提供できる。
【0038】
また、基本的には3枚のパネルである基布41,42,43を縫合する作業でエアバッグ14を形成できるため、基布41,42,43同士が複雑に重なり合うことがなく、また、既に立体的に構成された中間形状にさらに基布を取り付ける煩雑な作業の必要がなく、製造が容易な形状にできる。そして、箱状に膨張するため、内部形状を複雑に連結する必要がなく、あるいは必要が小さく、形状が単純で製造を容易にできるとともに、袋体を裏返して縫い代を内側に入れる反転作業も容易にできる。このように、複雑な製造工程の必要がなく、作業性を向上できるとともに、部品点数の削減も容易であり、製造コストを低減できる。
【0039】
また、本実施の形態では、エアバッグ14内のインフレータ配置部51である起点にインフレータ12を内挿して取り付け、この起点から第1ないし第3の基布41,42,43が反膨出方向である後側に延設され端末側を開口部45とした部分を折り返して反転固定部52を設け、これらインフレータ配置部51及び反転固定部52に設けた取付孔54,54,55,55,56,56に固定部材16であるリテーナ25のボルト32を挿通させ、ナット61などを用いて車体部材であるフレーム63に締め付け固定し、リテーナ25とフレーム63との間に挟持してエアバッグ14を取り付けているとともに、このリテーナ25とフレーム63との間に挟持された挟持部分の上下に、リテーナ25とフレーム63との間に挟持されていない部分が存在する。そして、通常、起点より後ろの部分は、単に折り返された余長部であり、180度の折り返しによりエアバッグ14の開口部45は略気密に閉塞される。本実施の形態においても、エアバッグ14の展開方向すなわち前方に何らの障害物がなく、エアバッグ14の内圧が過度に上昇しない場合は、開口部45は略気密に閉塞された状態で保持される。一方、エアバッグ14の展開方向すなわち前方に展開を妨げる何らかの障害物があり、エアバッグ14の内圧が過度に上昇した場合は、折り返した部分で閉塞されていた部分がエアバッグ14の内圧の上昇に伴い広げられ、挟持部分の上下に位置し、反転固定部52の全長に実質的にわたるように形成された第3の基布を含み開口部45まで延設された各基布41,42,43により、図3及び図4に示すように、断面三角状の排気ダクトである排気可能部71が形成され、これら排気可能部71を介してガスが排気されることにより、エアバッグ14の内圧の上昇を抑制し、障害物例えば乗員Aへの衝撃荷重を円滑に抑制することができる。なお、この構成において、反転固定部52に位置する第3の基布43の幅寸法を、端末側すなわち開口部45に向けて漸減させることにより、この第3の基布43に沿ってガスを排気する排気可能部71の排気特性を容易に調整できる。
【0040】
なお、上記の実施の形態において、図5に2点鎖線で示すように、第3の基布43に、開口部45の反対側である他端部すなわち前側部に位置して、この第3の基布43が第1の基布41及び第2の基布42に重ねられた周縁部47を除く部分の幅寸法Lに略等しい直径寸法の円形状の排気口73を設けることもできる。
【0041】
そして、この構成では、排気口73の直径寸法を、重ねられた周縁部47を除く部分の幅寸法Lに略等しくしたため、周縁部47及びこの周縁部47に設けられる縫合線48の連続性を確保して、エアバッグ14の展開時の箱形状を維持できる。また、排気口73を開口部45の反対側である他端部に位置して第3の基布43に円形状に設けたため、エアバッグ14が他端側すなわち前側に引き延ばされるように展開する際に、異形状に変形しにくく、排気口73の面積が安定し、排気特性が安定する。
【0042】
また、エアバッグ14の形状は、上記のものに限られず、乗員の頭部を保護するいわゆるカーテンエアバッグを用いない場合には、より容量が大きく上側にも展開して頭部を保護する構成とすることもできる。
【0043】
さらに、
また、インフレータ12及び固定部材16などの形状や構成は上記のものに限られず、種々の構成のものを用いることができる。例えば、インフレータ12は、燃焼によりガスを供給するいわゆるパイロ式の構成を採ることもできる。また、固定部材16のリテーナ25についても、インフレータ12から供給されるガスを冷却する冷却手段を備えることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、例えば、自動車の座席の側部に収納され、乗員とドアとの間に展開して、乗員の胸部と胴部とを保護するいわゆるサイドエアバッグとして用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のエアバッグを備えたエアバッグ装置の一実施の形態を示す展開した状態の図5のI−I断面相当位置の説明図である。
【図2】同上エアバッグ装置の展開した状態の図5のII−II断面相当位置の説明図である。
【図3】同上エアバッグ装置の断面図である。
【図4】同上エアバッグの反転固定部を折り返した状態の説明図である。
【図5】同上エアバッグの展開した状態の斜視図である。
【図6】同上エアバッグの反転固定部を折り返していない状態の説明図である。
【符号の説明】
【0046】
1 車両としての車体
2 車室
11 エアバッグ装置
12 インフレータ
14 エアバッグ
16 固定部材
32 車両側固定部としてのボルト
33 エアバッグ対向部を構成する基板部
34 インフレータ固定部を構成する保持部
41 第1のパネル部としての第1の基布
42 第2のパネル部としての第2の基布
43 第3のパネル部としての第3の基布
45 開口部
47 周縁部
48 縫合線
51 インフレータ配置部
52 反転固定部
63 車体部材としてのフレーム
71 排気可能部
73 排気口
A 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部を起点に乗員に沿って扁平に展開するエアバッグであって、
乗員に対向する第1のパネル部と、
この第1のパネル部の反乗員側に位置し前記第1のパネル部に対向する第2のパネル部と、
これら第1のパネル部と第2のパネル部との周縁部を互いに連結する第3のパネル部とを備え、
前記第3のパネル部は、前記起点近傍に設けられた開口部を除き、前記第1のパネル部及び前記第2のパネル部の全周縁部にわたり連結された
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
第1及び第2のパネル部は互いに略同形状の基布で構成され、
第3のパネル部は1枚の帯状の基布で構成され、
これら第1のパネル部と第3のパネル部、及び第2のパネル部と第3のパネル部は、互いに重ねた周縁部を縫合線で縫い合わせて連結された
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項3】
第3のパネル部に、開口部の反対側である他端部に位置して、この第3のパネル部が第1のパネル部及び第2のパネル部に重ねられた周縁部を除く部分の幅寸法に略等しい直径寸法の円形状の排気口が設けられた
ことを特徴とする請求項2記載のエアバッグ。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一記載のエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータとを具備して車両の車室に備えられるエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、前記車両の乗員の背側に折り畳んで収納され、ガスが供給されて乗員と前記車室の側部の内面との間に乗員の側部を覆うように展開する
ことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項5】
インフレータを固定するインフレータ固定部、エアバッグの内面に対向するエアバッグ対向部、及びこのエアバッグ対向部から突設され車両側の車体部材に固定される車両側固定部を備えた固定部材を具備し、
前記エアバッグは、起点に位置し収納したインフレータが配置されるインフレータ配置部と、このインフレータ配置部から反展開方向に延設され先端部に開口部を設けた部分が展開方向に折り返された反転固定部とを備え、
前記車両側固定部は、インフレータ配置部に位置する第1のパネル部及び反転固定部に位置する第1及び第2のパネル部を貫通して前記車体部材に固定され、前記エアバッグ対向部と前記車体部材との間に挟持してエアバッグが固定されるとともに、
前記エアバッグ対向部と前記車体部材との間に挟持されていない部分が、第3のパネル部の内面に沿ってエアバッグに導入したガスが開口部から排気可能な排気可能部を構成する
ことを特徴とする請求項4記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
反転固定部に位置する第3のパネル部は、開口部に向けて基布の幅寸法が漸減する
ことを特徴とする請求項5記載のエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−281968(P2006−281968A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104338(P2005−104338)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】