説明

エアバッグ装置

【課題】乗員の着座体勢等に応じて細かな出力調節ができるエアバッグ装置の提供。
【解決手段】ガス発生器10とエアバッグが収容されたモジュールケース30と制御回路70を備えている。ガス発生器10は開口面積の異なる複数のガス排出口21a等を有し、モジュールケース30は周方向に移動可能なクーラント46a、46bを有している。制御回路70の指示により、ガス排出口21a等とクーラント46a、46bの位置が調節され、エアバッグ内に流入するガス温度が調節される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席用に適したエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の安全確保のために自動車両に搭載されるエアバッグ装置では、エアバッグの最大膨張圧力の調節が重要である。例えば、車両衝突時の衝撃が小さなときにはエアバッグ膨張時の圧力(エアバッグの内部圧力)を抑制し、過度のエアバッグの膨張によって乗員を傷つけることがないように、エアバッグの最大膨張圧力を調節することが望ましい。一方、大きな衝撃の場合は、十分な乗員拘束力を発現させるため、エアバッグの内部圧力は高くしておく必要がある。
【0003】
このようなエアバッグの最大膨張圧力(エアバッグ展開時のエアバッグ内部の圧力の強弱)の調節は、インフレータの出力の調節により行われている。例えば、2つの点火器、2つの燃焼室を有するデュアルインフレータでは、衝突時の衝撃(即ち乗員に加えられる衝撃の強弱)に応じて、1つの点火器のみを作動させたり、2つの点火器を同時に作動させたり、2つの点火器の作動タイミングをずらして作動させたりして、インフレータの出力を調節している。しかし、デュアルインフレータのみでは、エアバッグ内部の圧力や最大圧力を細かく調節することは困難である。
【0004】
一方、エアバッグ展開時のエアバッグ内部圧力及び最大圧力を細かく調節する発明として、特許文献1が知られている。この発明では、乗員の着座状態等の様々な要因に応じて、エアバッグ膨張時の最大圧力を微調節することができるよう、例えば図4において、制御回路からの指令によりピニオン40を円運動させ、ラック34を所望方向に直線運動させる。この操作により、ガス排出口26を覆うクーラント51の量を変化させ、エアバッグ14内に流入するガスの温度を調節している。
【特許文献1】特開2004−82995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1においては、ガス発生器自体が長尺形状であり、運転席用のエアバッグ装置に適したガス発生器ではない。また、クーラントの移動方向もハウジングの軸に沿った方向であり、運転席用エアバッグ装置としては嵩張り、応用するのが難しい構造である。
【0006】
本発明は、運転席用のエアバッグ装置に好適であり、エアバッグ内部の圧力及び最大圧力の調節ができるエアバッグ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔請求項1〕
本発明は、課題の解決手段として、
ガス発生器とエアバッグが収容されたモジュールケースと制御回路を備えたエアバッグ装置であり、
前記ガス発生器が、ハウジング内にガス発生剤が収容されたものであり、
前記ハウジングが、その周壁に分離配置された開口面積の異なる複数のガス排出口を有しており、
前記モジュールケース内には、周方向に移動可能なクーラントが配置されており、
前記クーラントが、前記制御回路の指示により、少なくとも前記複数のガス排出口の一部のみと対向するように位置が調節できるものである、エアバッグ装置を提供する。
【0008】
本発明のガス発生器は、燃焼によってガスを発生させるガス発生剤を利用するガス発生器であり、ハウジング形状が、軸方向の厚みに比べて直径の長さの方が大きいものである。本発明のガス発生器は、ガス排出口の形状や配置以外は、例えば特開平10−181516号公報の図1に示す点火器を1つ使用した(シングルガス発生器の)ものを使用することができ、その他、公知の点火器が2つのガス発生器(デュアルガス発生器)も使用できる。ガス発生器内部には、クーラント部材が配置されていてもよいし、配置されていなくてもよい。
【0009】
本発明のモジュールケースとしては、上記のガス発生器とエアバッグが収容されたもので、例えば、特開平10−95302号公報の図6に示すものを用いることができる。
【0010】
本発明において、「複数のガス排出口」が分離配置されているとは、1つのガス排出口又は同じ場所に固まって配置された複数のガス排出口をいずれも1群として、複数群が分離配置されていることを意味する。
【0011】
本発明において、複数のガス排出口の「開口面積が異なる」とは、
(i)各群のガス排出口の数が同じで、各群ごとに径が異なるもの、
(ii)各群ごとにガス排出口の数が異なり、各群ごとに径が同じであるもの、
(iii)各群ごとにガス排出口の数が異なり、各群ごとに径が異なるもの、
(iv)各群のガス排出口の数が同じで、各群内の複数のガス排出口の径が異なるもの、
(v)各群のガス排出口の数が異なり、各群内の複数のガス排出口の径が異なるもの、
等であることを意味する。
【0012】
本発明で用いるクーラントは、燃焼ガスと接触して温度を低下できるものであればよく、例えば、燃焼ガスを通過させることで冷却するもの、燃焼ガスを衝突させることで冷却するものを挙げることができ、公知のエアバッグ用ガス発生器で使用されているクーラントフィルタ、熱伝導度の高い金属板等を使用することができる。
【0013】
本発明で用いる制御回路は、車両に取り付けられた様々なセンサからの情報を解析して、エアバッグの内圧を最適に調節するためのもので、クーラントをハウジングの円周方向に移動させるための駆動装置にエネルギー(例えば電流など)を供給することも兼ねる。各センサーからの情報で乗員が受ける衝撃を推測し、その状況に応じて最適なエアバッグ内圧となるよう、クーラントを最適な位置に移動させる。
【0014】
このような調節機構を備えていることにより、ガス排出口以外のガス発生器の内部構造は、既存のものを使用したまま、エアバッグの最大膨張圧力(エアバッグ内に流入するガスの温度)をより細かく調節できるため、状況に応じた最適な乗員拘束性能を得ることができる。特に点火器が一つのシングルタイプのガス発生器であっても、作動状況に応じてエアバッグ内部の圧力(又は最大圧力)を細かく調節できる。
【0015】
本発明のエアバッグ装置では、制御回路の指示により、クーラントが、少なくとも複数のガス排出口の一部のみと対向するように(好ましくは正対できるように)位置が調節できる。このため、ガス排出口から排出された燃焼ガスとクーラントを接触させることで(クーラントを通過する場合と、クーラントに当たって向きを変える場合を含む)、燃焼ガスの温度を低下した後にエアバッグに流入させることができる。このとき、発生した燃焼ガスの全量中、クーラントと接触するガス量を増減させることで、エアバッグに流れ込む燃焼ガスの温度を調節すれば、エアバッグの最大内圧を変化させることができる。
【0016】
よって、クーラントが開口面積の大きなガス排出口に対向していると、クーラントと接触するガス量が多くなり、冷却の程度が高くなる。このため、エアバッグにはより冷やされた燃焼ガスが送り込まれることになり、エアバッグ内部の圧力上昇が抑制される。
【0017】
一方、クーラントが開口面積の小さなガス排出口に対向していると、クーラントと接触するガス量が少なくなり、冷却の程度が低下する。このため、エアバッグにはより高温の燃焼ガスが送り込まれることになり、エアバッグ内部の圧力下降が抑制される。
【0018】
クーラントが、最大開口面積と最小開口面積の中間のガス排出口に対向していると、燃焼ガスの冷却の程度も中程度となる。
【0019】
エアバッグの圧力を最大限に上昇させたい場合は、クーラントが複数のガス排出口のいずれにも対向せず、燃焼ガスの全てがクーラントと接触することなく、直接エアバッグに送り込まれるようにしてもよい。
【0020】
〔請求項2〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記モジュールケース内には、環状支持部材が複数のガス排出口を有する前記ガス発生器の周壁に対向しかつ回転自在に配置されており、
前記環状支持部材が、前記ガス発生器の周壁に対向する面の一部に1又は2以上のクーラントを有しており、
前記環状支持部材が、前記制御回路の指示により周方向に回転され、前記クーラントが前記複数のガス排出口の一部のみと対向するように位置が調節される、請求項1記載のエアバッグ装置を提供する。
【0021】
このような環状支持部材を有するモジュールケースを用いることにより、クーラントの固定と位置調節が容易になる。
【0022】
〔請求項3〕
本発明は、課題の他の解決手段として、
前記環状支持部材が、その周縁部にギアが形成されており、前記ギアと、前記制御回路からの指示で駆動するモーターに取り付けられたピニオンギアが噛み合わされており、前記ピニオンギアと前記ギアが連動することで前記環状支持部材が回転される、請求項2記載のエアバッグ装置を提供する。
【0023】
環状支持部材の周縁部自体にギアを形成し、モーターに取り付けられたピニオンギアと噛み合わせることにより、環状支持部材に取り付けられたクーラントの位置調節が容易になる。
【0024】
〔請求項4〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記環状支持部材が、開口部と非開口部とを有しており、前記開口部の一部を塞いだ状態で1又は2以上のクーラントが固定されている、請求項2又は3記載のエアバッグ装置を提供する。
【0025】
ガス発生器から排出された燃焼ガスは、クーラントを通過した後にエアバッグ内に流入する。このため、冷却効果の高いクーラントを使用することで、冷却の程度を高めることができ、ガス発生器内のクーラントフィルタを不要にすることもできる。
【0026】
〔請求項5〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記クーラントが金属板である、請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ装置を提供する。
【0027】
ガス発生器から排出された燃焼ガスは、クーラントに衝突して向きを変えた後にエアバッグ内に流入する。金属板は、アルミニウム、鉄、銅等からなる金属板が、軽量化、コストの抑制、組立作業性の点で有利である。
【0028】
〔請求項6〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記クーラントが金属板であり、前記ガス排出口に対向する面に凹凸を有している、請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ装置を提供する。
【0029】
ガス発生器から排出された燃焼ガスは、クーラントに衝突して向きを変えた後にエアバッグ内に流入する。このように金属板の表面に凹凸(例えば、波形状の凹凸)を設けることで、金属板とガスとの接触面積が向上され、冷却効果が高められる。金属板は、アルミニウム、鉄、銅等からなる金属板が、軽量化、コストの抑制、組立作業性の点で有利である。
【0030】
〔請求項7〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記ガス排出口と前記クーラントが対向したとき、それらが接触しておらず、それらの間に間隔が存在している、請求項1〜6のいずれかに記載のエアバッグ装置を提供する。。
【0031】
このようにすることで、ガス排出口から排出された燃焼ガスが、クーラントの一部のみに集中することがなくなるため、冷却効率が向上され、クーラントの損傷も防止される。
【0032】
〔請求項8〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記複数のガス排出口が、半径方向に対向する2箇所のガス排出口同士が同じ開口面積を有している、請求項1〜7のいずれかに記載のエアバッグ装置を提供する。
【0033】
互いに対向する2箇所のガス排出口から排出されるガスの量が同一となり、エアバッグの展開形状が対称となる。また、誤着火した場合でも推力が相殺させるため、運搬途中等のガス発生器が飛翔することがない。
【0034】
〔請求項9〕
本発明は、課題の他の解決手段として、前記クーラントの位置調節が、乗員の着座状態、乗員のシートベルト着用の有無、乗員の座席位置の状態、乗員の体重、環境温度及び車両速度から選ばれる1又は2以上の要因に応じて行われる、2〜8のずれかに記載のエアバッグ装置を提供する。
【0035】
上記した要因の内、例えば、乗員の体格等に応じて、座席での着座状態は様々で、座席に浅く座ったり、深く座ったりするが、いずれの場合にも全く同一の膨張圧力でエアバッグを展開させた場合、浅く座った乗員の方がエアバッグ展開時に受ける圧力が大きくなる。また、車両が衝突したときに受ける衝撃が小さい場合には、エアバッグを最大限に膨張展開させる必要は低く、返って、エアバッグの膨張展開による衝撃を受け、乗員、特に女性等の身体の小さな乗員に過剰な衝撃を与えるという事態も考えられる。
【0036】
そこで、上記したような様々な要因を考慮し、これらを検知するセンサを前記制御回路に接続させ、状況に応じてクーラントが対向するガス排出口の位置を調節する(対向するガス排出口の開口面積を調節する)ことで、乗員の保護性能を高める。よって、通常走行中であっても、車速、環境温度、着座位置等によって、クーラントの位置が調節され、そのときの最適なガス温度でエアバッグ内部に排出できるようにされている。
【0037】
上記のような諸条件において、クーラントは以下の位置に移動して、エアバッグに排出されるガス温度を調節することになる。
(I)体格が大きい乗員の場合、乗員がシートに深く着座している場合、乗員がシートベルトを装着していない場合、乗員の体重が重い場合、環境温度が低い場合、車速が速い場合等には、クーラントは開口面積が小さいガス排出口に対向する位置に移動され、エアバッグに排出されるガスの温度を高くする。
(II)体格が小さい乗員の場合、乗員がシートに浅く着座している場合、乗員がシートベルトを装着している場合、乗員の体重が軽い場合、環境温度が高い場合、車速が遅い場合等には、クーラントは開口面積が大きいガス排出口に対向する位置に移動され、エアバッグに排出されるガスの温度を低くする。
【0038】
本発明のエアバッグ装置は、運転席のエアバッグ装置に適しているが、助手席のエアバッグ装置、サイドエアバッグ装置、カーテン用エアバッグ装置等にも適用できる。本発明のエアバッグ装置に用いるガス発生器としては、ガス発生剤のみをガス発生源とするパイロインフレータが適しているが、ガス発生源としてガス発生剤と加圧ガスを併用するハイブリッドインフレータも使用できる。
【発明の効果】
【0039】
本発明のエアバッグ装置によれば、乗員の体格や体重、着座状態、シートベルトの着用の有無、環状温度、走行状態等に応じて、エアバッグの膨張の程度(エアバッグに排出されるガスの温度)を微調節することができるため、乗員に対して、より高い保護性能を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
<エアバッグ装置で用いるガス発生器>
図1、図2により、本発明のエアバッグ装置で用いるガス発生器について説明する。図1(a)は、本発明のエアバッグ装置で用いるガス発生器の斜視図、図1(b)は、図1(a)のガス排出口の配置状態を説明するための部分展開図、図2は、図1(a)のガス発生器の縦断面図である。なお、図2では、ガス排出口は、簡略化して1つの開口として表示している。
【0041】
ガス発生器10は、ガス排出口の形成状態を除いて公知のものであり、例えば、特開平10−181516号公報の図1に示すものとほぼ同じである。
【0042】
ガス発生器10は、ディフューザシェル11とクロージャシェル12とが接合一体化されたハウジング13により、外殻が形成されている。図2に示すとおり、ディフューザシェル11の周壁には、分離配置された開口面積の異なる複数のガス排出口群(1つのガス排出口と複数のガス排出口からなるガス排出口群を含む)21が形成されている。ガス排出口群21は、図1に示すとおり、ガス排出口群21a〜21d、21a’〜21d’の計8群からなるものである。
【0043】
ガス排出口群21aは直径3mmのガス排出口が1つ、ガス排出口群21bは直径3mmのガス排出口が2つ、ガス排出口群21cは直径3mmのガス排出口が3つ、ガス排出口群21dは直径3mmのガス排出口が4つ形成されている。そして、ガス排出口群21a〜21dのそれぞれとハウジング11の対向する位置において、ガス排出口群21a〜21dに対応する同径で同数のガス排出口群21a’〜21d’が形成されている。全てのガス排出口群は、内側からアルミニウム製の厚さ約50μmのシールテープ23で閉塞されている。
【0044】
<エアバッグ装置−1>
図3(a)はモジュールケースとガス発生器を組み合わせたエアバッグ装置(エアバッグの表示は略している)の平面図、図3(b)は(a)の正面図である。但し、制御回路部分は概念図であり、図3(a)では矢印にてガス排出口群の位置を示している。図4は、図3のエアバッグ装置の組立方法を説明するための斜視図である。
【0045】
図3に示すように、エアバッグ装置1は、モジュールケース30にガス発生器10が取り付けられ、更にガス発生器10のガス排出口21にエアバッグ(図示せず)が取り付けられ、更に制御回路70が取り付けられている。
【0046】
図4(a)に示すように、モジュールケース30は、金属のベース31の中央部にガス発生器10のディフューザ部11が取り付けられる孔32を有している。
【0047】
ベース31上には、環状支持部材40が回転自在に配置されている。環状支持部材40は、上環状部41と下環状部42が等間隔で配置された複数の接続部43で接続されており、接続部43を除いた残部には複数の開口部44が形成されているベース31の孔32の周囲には、図5で示すように環状溝(又は環状溝レール)33が形成されており、環状支持部材40は、下環状部42の下部が環状溝(又は環状溝レール)33に嵌め込まれることで、全体が回転自在に支持されている。なお、ベース31に対して環状支持部材40が円滑に回転できるのであれば、図5のような構造に限定されない。
【0048】
開口部44の一部には、上環状部41と下環状部42に溶接固定されてクーラント46a、46bが取り付けられている。クーラント46a、46bは、接続部43にも溶接固定されるようにしてもよい。クーラント46a、46bは、互いに半径方向に対向する位置にある。
【0049】
クーラント46a、46bは、ステンレス鋼製金網を波型に変形させ、型に押し込んで圧縮成型したものを用い、線材の線径は0.3〜0.5mmであり、嵩密度は2〜4g/cmである。
【0050】
環状支持部材40の下環状部42には、フランジ47が形成されており、フランジ47の全周縁部にはギア48が形成されている。フランジ47(ギア48)とベース31の上面は接触していてもよいし、環状支持部材40が回転し易いように、それらの間に僅かな隙間が形成されていてもよい。
【0051】
ベース31の下面側には、モーター60が取り付けられており、ベース31を貫通したモーター60の回転軸61には、ピニオンギア62が取り付けられている。そして、ピニオンギア62とギア48は連動できるように互いに噛み合わされている。
【0052】
モーター60は、リードワイヤ71を介して制御回路70に接続されており、制御回路70は、エアバッグ装置1を車両に搭載後、電源(自動車のバッテリー)、自動車の各所に配置された各種センサに接続される。これらのセンサの種類は、乗員の安全確保に寄与するものであれば特に制限されるものではないが、乗員の着座状態、乗員のシートベルト着用の有無、乗員の座席位置の状態、乗員の体重、環境温度及び車両速度、更に必要に応じて乗員の安全確保のために付加される他の要因から選ばれる1又は2以上を検知できるセンサであることが望ましい。
【0053】
次に、図面により、本発明のエアバッグ装置1の動作を説明する。本発明のエアバッグ装置1が搭載された自動車は、その走行中に各種センサによって乗員の着座状態等が検知され、乗員保護の観点から、エアバッグの展開モードが適切になるように制御回路70に情報を送る。
【0054】
各種センサからの情報を受けた制御回路70からの指令により、モーター60が作動され、ピニオンギア62の円運動及びそれに噛み合ったギア48の円運動により、環状支持部材材40(クーラント46a、46b)の位置が調節され、ガス排出口群21a〜21dのいずれか1つとクーラント46aが正対され、ガス排出口群21a’〜21d’のいずれか1つ(但し、ガス排出口群21a〜21dと半径方向に対向位置にあり、開口面積が同じもの)とクーラント46bが正対される。図3(a)では、ガス排出口群21dとクーラント46aが間隔をおいて正対され、ガス排出口群21d’とクーラント46bが間隔をおいて正対された状態が示されている。
【0055】
車両が衝突したとき、各種センサからの情報を受けた制御回路70からの指令により、環状支持部材材40(クーラント46a、46b)の位置は、ガス発生器10から燃焼ガスが排出される前に、以下の各形態に応じた最終的な調節がなされる。
【0056】
(1)乗員の着座状態(乗車位置センサ乃至は体重センサにより検知)
身体の小さな女性のように、座席に浅く座っているときには、エアバッグと乗員との間隔が比較的小さくなっているので、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。これによって、より多くの燃焼ガスがクーラント46a、46bを通過するため、冷却程度が向上し、エアバッグへ流れる燃焼ガス温度が下がる。この結果、エアバッグ内部の圧力上昇が抑制され、エアバッグの過剰な膨張が防止される。
【0057】
一方、身体の大きな男性のように、座席に深く座っているときは、エアバッグと乗員との間隔が比較的大きくなっているので、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。これによって、クーラント46a、46bを通過する燃焼ガスの量が抑制され、冷却程度が低下し、エアバッグへ流れる燃焼ガスの温度低下が抑制される。この結果、エアバッグ内部の圧力下降が防止されて、エアバッグの十分な膨張が達成できる。
【0058】
なお、必要であれば、クーラント46a、46bがいずれのガス排出口(群)21にも正対されない位置になるように移動させ、全ての燃焼ガスがクーラント46a、46b通過しないでエアバッグ内に流入されるようにして、エアバッグを最大膨張させることもできる。
【0059】
(2)乗員のシートベルト着用の有無(シートベルト着用センサにより検知)
乗員がシートベルトを着用しているときは、シートベルトの作用により、乗員がハンドル等に衝突することが回避されるか又はハンドルに衝突しても、衝突時の衝撃が弱められるので、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。
【0060】
一方、乗員がシートベルトを着用していないときは、より強い拘束力が求められるため、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。
【0061】
(3)乗員の座席位置の状態(乗車位置センサにより検知)
乗員の着座状態と同様の観点から、座席位置、即ち座席を後方に引いているか、前方に出しているかを検知して、調節するものである。
【0062】
座席を前に出しているときは、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。
【0063】
一方、座席を後方に引いているときは、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。
【0064】
(4)乗員の体重(体重センサにより検知)
乗員の体重が軽いとき(主として女性及び子供)は、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。
【0065】
一方、乗員の体重が重いとき(主として男性)は、十分な拘束力が必要となるため、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。
【0066】
(5)環境温度(車内温度センサにより検知)
夏期のように環境温度が高いときは、インフレータ内部の温度も高くなるため、冬期のように環境温度が低いときに比べるとガス発生剤の燃焼速度が早くなり、インフレータからのガスの噴出速度が早くなることが考えられる。よって、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。
【0067】
一方、環境温度が低いときは、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。
【0068】
(6)車両速度(スピードセンサにより検知)
自動車両の衝突時、車両速度が遅いほど受ける衝撃は小さくなるので、車両速度が遅いときには、エアバッグの膨張圧力を抑制するため、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最大のガス排出口群21d、21d’と正対するように調節される。
【0069】
一方、車両速度が速いほど受ける衝撃が大きくなるので、拘束性能を上げる必要がある。つまり車両速度が速いときには、十分な拘束力を得るため、クーラント46a、46dの位置は、開口面積が最小のガス排出口群21a、21a’と正対するように調節される。
【0070】
以上のようにして、乗員の着座状態等の各種要因に応じて、エアバッグに導入されるガスの温度を調節し、エアバッグ膨張時の最大圧力(エアバッグ内に流入するガスの温度)を微調節することができる。このため、車両の衝突時において、衝撃から乗員を適切に保護することができるほか、エアバッグの膨張自体により乗員が傷つけられることも防止できる。
【0071】
なお、上記(1)〜(6)の形態では、各センサからの情報が両極端の場合において、クーラント46a、46bの位置がガス排出口群21d、21d’かガス排出口群21a、21a’になる場合について説明したが、当然のように、状況によってクーラント46a、46bの位置がガス排出口群21b、21b’か、ガス排出口群21c、21c’になるようにすることもできる。
【0072】
<エアバッグ装置−2>
次に、図6に示すエアバッグ装置100(モジュールケース30、ガス発生器10、図示していないエアバッグ、制御回路70を組み合わせたもの)について説明する。図6は、図4と同様にエアバッグ装置の組立方法を説明するための斜視図である。図6で示すモジュールケース30は、環状支持部材を除いて、図4のものと同じである。
【0073】
ベース31上には、環状支持部材50が回転自在に配置されている。環状支持部材50は、環状部51と、その周囲に形成されたフランジ52を有しており、フランジ52の全周縁部にはギア53が形成されている。
【0074】
ベース31の孔32の周囲には、図5で示すように環状溝(又は環状レール)33が形成されており、環状支持部材50は、環状部51の下部が環状溝(又は環状レール)33に嵌め込まれることで、全体が回転自在に支持されている。フランジ52(ギア53)とベース31の上面は接触していてもよいし、環状支持部材50が回転し易いように、それらの間に僅かな隙間が形成されていてもよい。
【0075】
環状部51の一部には、環状部51と一体に形成されたクーラント56a、56bが取り付けられている。クーラント56a、56bは、互いに半径方向に対向する位置にあり、ガス発生器10のガス排出口群21と正対したとき、間隙が形成されるようになっている。
【0076】
クーラント56a、56bは、厚さ1mmの鉄製で、ガス発生器10と対向する内周面には、冷却効率を高めるための複数の縦方向への溝57(クーラント56bの溝57のみ表示している)が形成されている。
【0077】
図6に示すエアバッグ装置100では、エアバッグ装置1の上記各形態(1)〜(6)と同様にして、クーラント56a、56bの位置を調節することで、乗員の保護性能が高められる。
【0078】
なお、上記の実施形態では、環状支持部材40、50の回転機構として、ギアの噛み合わせを利用したが、駆動方法についてはギアに限定されない。また上記実施形態は本発明を具体的に表したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】(a)は本発明のエアバッグ装置で使用するガス発生器の斜視図、(b)は(a)の部分展開図。
【図2】図1(a)の縦断面図。
【図3】(a)は本発明のエアバッグ装置の平面図、(b)は(a)の正面図。
【図4】本発明のエアバッグ装置の組立方法を説明するための斜視図。
【図5】本発明のエアバッグ装置の組立方法を説明するための部分断面図。
【図6】本発明の他実施形態のエアバッグ装置の組立方法を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0080】
1、100 エアバッグ装置
10 ガス発生器
21(21a〜21d、21a’〜21d’) ガス排出口群
30 モジュールケース
31 ベース
32 孔
40、50 環状支持部材
46a、46b、56a、56b クーラント
48 ギア
60 モーター
62 ピニオンギア
70 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生器とエアバッグが収容されたモジュールケースと制御回路を備えたエアバッグ装置であり、
前記ガス発生器が、ハウジング内にガス発生剤が収容されたものであり、
前記ハウジングが、その周壁に分離配置された開口面積の異なる複数のガス排出口を有しており、
前記モジュールケース内には、周方向に移動可能なクーラントが配置されており、
前記クーラントが、前記制御回路の指示により、少なくとも前記複数のガス排出口の一部のみと対向するように位置が調節できるものである、エアバッグ装置。
【請求項2】
前記モジュールケース内には、環状支持部材が複数のガス排出口を有する前記ガス発生器の周壁に対向しかつ回転自在に配置されており、
前記環状支持部材が、前記ガス発生器の周壁に対向する面の一部に1又は2以上のクーラントを有しており、
前記環状支持部材が、前記制御回路の指示により周方向に回転され、前記クーラントが前記複数のガス排出口の一部のみと対向するように位置が調節される、請求項1記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記環状支持部材が、その周縁部にギアが形成されており、前記ギアと、前記制御回路からの指示で駆動するモーターに取り付けられたピニオンギアが噛み合わされており、前記ピニオンギアと前記ギアが連動することで前記環状支持部材が回転される、請求項2記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記環状支持部材が、開口部と非開口部とを有しており、前記開口部の一部を塞いだ状態で1又は2以上のクーラントが固定されている、請求項2又は3記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記クーラントが金属板である、請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記クーラントが金属板であり、前記ガス排出口に対向する面に凹凸を有している、請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記ガス排出口と前記クーラントが対向したとき、それらが接触しておらず、それらの間に間隔が存在している、請求項1〜6のいずれかに記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記複数のガス排出口が、半径方向に対向する2箇所のガス排出口同士が同じ開口面積を有している、請求項1〜7のいずれかに記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記クーラントの位置調節が、乗員の着座状態、乗員のシートベルト着用の有無、乗員の座席位置の状態、乗員の体重、環境温度及び車両速度から選ばれる1又は2以上の要因に応じて行われる、1〜8のいずれかに記載のエアバッグ装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−238841(P2008−238841A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78166(P2007−78166)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】