説明

エステル架橋ゴム及びその製造方法、エステル架橋ゴムを製造するための硬化性ゴム組成物及びヒドロキシル変性共重合体、エステル架橋ゴムを含有する成形体。

【課題】加工性に優れた硬化性ゴム組成物から得られ、架橋性に優れ、耐熱性にも優れた架橋ゴムを提供する。
【解決手段】本発明の架橋ゴムは、イソモノオレフィンと脂肪族ジエンとを共重合させたゴム状共重合体がエステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムであり、上記ゴム状共重合体を溶媒に溶解し、ヒドロホウ素化し、さらに酸化、加水分解することによって上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体を得、このヒドロキシル変性共重合体とヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを混合することによって硬化性ゴム組成物を得、この硬化性ゴム組成物中のヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基と架橋剤の官能基とをエステル化反応させることによって得ることができる。本発明のエステル架橋ゴムは、150℃の温度下でも安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィンと4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエンとを共重合させたゴム状共重合体がエステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴム及びその製造方法に関する。本発明はさらに、上記エステル架橋ゴムを製造するために使用可能な硬化性ゴム組成物及びヒドロキシル変性共重合体、さらには上記エステル架橋ゴムを含有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
イソブテン、イソペンテンなどの4〜7個の炭素原子を有するイソモノオレフィンと少量のイソプレン、ブタジエンなどの4〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジエンとを共重合させたゴム状共重合体(以下、単に「ゴム状共重合体」と表す。)は、「ブチルゴム類」とも言われ、その架橋ゴムは、衝撃吸収能が高く、気体透過性が極めて低く、酸、アルカリ、オゾンなどにも安定であるため、防振材、自動車のタイヤのチューブ、医薬用ゴム製品、コンデンサや電池の封口体、ベルト、ホース等の幅広い用途に使用されている。
【0003】
このゴム状共重合体の架橋方法として、従来からイオウ架橋、キノイド架橋、樹脂架橋が知られている。
【0004】
イオウ架橋は、イオウ或いはイオウ供与体をチアゾール類、ジチオカーバメート類、チウラム類などの架橋促進剤と併用することにより行われる。しかしながら、高温で長時間の加熱が必要であるため生産効率の点から好ましくなく、ブリードやブルームが生じやすいという問題も有している。p−キノンジオキシム、p,p´−ジベンゾイルキノンジオキシムのようなキノンジオキシム類を用いたキノイド架橋では、キノイドを活性化させるための酸化剤として鉛丹や二酸化鉛が用いられるが、これらの鉛化合物は人体に有害であるため、環境衛生上の問題がある。また、キノイド架橋により得られた架橋ゴムは十分な耐熱性を有していない。さらに、ハロゲン化したアルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、或いはフェノール・ホルムアルデヒド樹脂と二塩化スズのような無機ハロゲン化物、クロロプレンのようなハロゲン含有エラストマーとを使用した樹脂架橋は、架橋速度が著しく遅く、高温で長時間の加熱が必要であるため、生産効率の点から好ましくない。また、樹脂架橋により得られるゴム製品は架橋が完了していない状態で製品化されるため、ゴム製品の使用中に架橋反応が進行してその物性が大きく変化するという問題もある。
【0005】
一方、ジエン系ゴム等の架橋方法として好適であるベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物を用いた架橋は、ゴム状共重合体の架橋のためには通常用いられない。ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合に起因する脱水素反応が生じるため、共重合体が分解、低分子化してしまい、架橋が進行しないからである。しかしながら、有機過酸化物による架橋は、架橋速度が非常に速く、得られる架橋ゴムがイオウのような不純物を含まない点で有利であるため、有機過酸化物単独での架橋が可能な特殊なゴム状共重合体が検討されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1(米国特許明細書第3584080号)は、イソブテンのような4〜7個の炭素原子を有するイソモノオレフィンと、イソプレンのような4〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジエンと、ジビニルベンゼンのような芳香族ジビニル化合物とを共重合させた、有機過酸化物単独での架橋が可能な部分架橋ゴムを記載している。また、このような部分架橋ゴムとして、イソブテン97モル%−イソプレン1.7モル%−ジビニルベンゼン1.3モル%の部分架橋ゴムが、バイエル社から「XL−10000」の名称で市販されている。これらの部分架橋ゴムにおけるビニル基が有機過酸化物により架橋される。
【0007】
この部分架橋ゴムの有機過酸化物による架橋は迅速に進行し、得られた架橋ゴムは耐熱性の点で上述のイオウ架橋等による架橋ゴムより優れている。例えば、特許文献2(特開2003−109880号公報)は、電解コンデンサにおいて、XL−10000にジクミルパーオキサイド、充填材、加工助剤、老化防止剤及び架橋助剤を添加した硬化性ゴム組成物を硬化させた架橋ゴムを封口体として使用し、さらにスルホラン、γ−ブチルラクトン、フタル酸1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリニウムを含む電解液を駆動用電解液として使用することにより、電解コンデンサの150℃の使用温度においても封口体の劣化が抑制されることを開示している。
【0008】
【特許文献1】米国特許明細書第3584080号
【特許文献2】特開2003−109880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の部分架橋ブチルゴムは、ムーニー粘度が高く、かつゲル含有量が非常に高いので、加工性に極めて乏しい。また、有機過酸化物架橋により得られた架橋ゴムの硬度及び引裂強度が十分であるとはいえず、架橋ゴム製品が変形或いは割れてしまうことがある。
【0010】
また、最近では、自動車部品、電気部品などの分野で用いられる架橋ゴムには、さらに高い耐熱性が要求されるようになってきた。したがって、上述の部分架橋ゴムの有機過酸化物架橋によって得られた架橋ゴムを超える耐熱性を有する架橋ゴムの開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の課題は、加工性に優れた硬化性ゴム組成物から得ることができ、架橋性に優れ、その上耐熱性にも優れた架橋ゴム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題は、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体が、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とのエステル化反応により架橋された、エステル結合を介して架橋されたエステル架橋ゴムによって達成される。
【0013】
上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体は、エステル化反応のための官能基となるヒドロキシル基を有し、また炭素炭素二重結合が飽和化しているため耐熱性に優れる。そして、上記ヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基と上記架橋剤の官能基とのエステル化反応により、エステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムが得られるが、架橋前の上記ヒドロキシル変性共重合体と上記架橋剤との混合物は加工性に優れ、架橋後のエステル架橋ゴムは、従来の部分架橋ゴムを架橋したゴムより架橋性に優れ、耐熱性においても優れている。
【0014】
本発明のエステル架橋ゴムにおいて、上記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量は、一般的には0.5〜10.0モル%の範囲である。結合脂肪族ジエン量が10.0モル%より多いと、エステル架橋ゴムのゴム弾性が低下し、0.5モル%未満であると十分な本発明の効果が得られにくい。上記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量は、0.6〜2.5モル%の範囲であるのが特に好ましい。
【0015】
気体透過性が極めて低く、耐薬品性にも優れた望ましい架橋ゴムはブチルゴム、すなわち、イソブテン−イソプレン共重合体を架橋した架橋ゴムである。本発明においても、上記ゴム状共重合体におけるイソモノオレフィンをイソブテンとし、脂肪族ジエンをイソプレンとすることによって、気体透過性が極めて低く、耐薬品性にも優れた望ましいエステル架橋ゴムを得ることができる。
【0016】
炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体が架橋されていると、得られたエステル架橋ゴムの主鎖に炭素炭素二重結合が存在せず、耐熱性に優れるため、特に好ましい。しかしながら、ヒドロキシル変性共重合体に炭素炭素二重結合が一部残っていても本発明の効果を得ることができる。
【0017】
なお、「炭素炭素二重結合が実質的に存在しない」とは、ヒドロキシル変性共重合体のH−NMR測定において、炭素炭素二重結合由来のシグナルが消失していることを意味する。
【0018】
例えば、以下の式(I)
【化1】

で表されるイソブテン−イソプレン共重合体(未架橋ブチルゴム)の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基を導入すると、有利には、以下の式(II)
【化2】

で表される反マルコフニコフ水和化物がヒドロキシル変性共重合体として得られるが、この場合には、式(I)のHで示す水素のH−NMRのシグナルが消失しているかどうかにより、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないかどうかを判断することができる(図1参照)。
【0019】
本発明のエステル架橋ゴムは、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体を溶媒に溶解し、ヒドロホウ素化し、さらに酸化、加水分解することによって、上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体を得る変性工程、上記ヒドロキシル変性共重合体と、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを混合することによって、硬化性ゴム組成物を得る調製工程、及び、上記硬化性ゴム組成物中の上記ヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基と上記架橋剤の官能基とをエステル化反応させることによって、エステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムを得る架橋工程を含むことを特徴とするエステル架橋ゴムの製造方法によって、好適に得ることができる。したがって、本発明はまた、このエステル架橋ゴムの製造方法に関する。
【0020】
上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基を付加することによって、炭素炭素二重結合が飽和化すると共に、エステル化反応のための官能基が導入される。炭素炭素二重結合が飽和化するため、耐熱性が向上する。また、このヒドロキシル変性共重合体は架橋構造を有していないため、このヒドロキシル変性共重合体をヒドロキシル基と反応してエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤と混合した硬化性ゴム組成物を所望の形状に成形する際にも、良好な加工性を示す。そして、上記ヒドロキシル変性共重合体の官能基としてのヒドロキシル基と上記架橋剤の官能基とのエステル化反応によりエステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムが得られるが、得られたエステル架橋ゴムは、従来の部分架橋ゴムを架橋したゴムより架橋性に優れ、耐熱性においても優れている。
【0021】
本発明のエステル架橋ゴムの製造方法において、上記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量は、0.6〜2.5モル%であるのが特に好ましい。また、上記イソモノオレフィンがイソブテンであり、上記脂肪族ジエンがイソプレンであるのが好ましい。
【0022】
上記ヒドロキシル変性共重合体において、上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合の全てにヒドロキシル基が付加されていると、最終的に得られるエステル架橋ゴムの主鎖に炭素炭素二重結合が存在せず、耐熱性に優れたエステル架橋ゴムが得られるため好ましい。しかしながら、ヒドロキシル変性共重合体に炭素炭素二重結合が一部残っていても本発明の効果を得ることができる。炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体は、上記変性工程において、ヒドロホウ素化を結合脂肪族ジエン1当量あたり3〜15当量のヒドロホウ素化剤を用いて行うことによって得られる。ここで、結合脂肪族ジエンにおける炭素炭素二重結合1個に対して1個のB−H基が反応する場合を1当量とする。ヒドロホウ素化剤の量が3当量未満であると、ヒドロホウ素化が十分に進まず、15当量を超えると、ヒドロキシル変性共重合体を回収する際の洗浄等の後処理が面倒になり、経済的に不利になる。
【0023】
上記変性工程に置いて、2個以上のB−H基を有するヒドロホウ素化剤を使用すると、同じ当量のB−H基を1個しか有していないヒドロホウ素化剤を使用するよりも、ヒドロホウ素化が進行しやすくなるが、同時に架橋反応により溶液のゲル化が生じやすくなり、ヒドロホウ素化反応が抑制され、結果的にヒドロキシル基の付加が抑制される。そのため、上記変性工程において2個以上のB−H結合を有するヒドロホウ素化剤を使用する場合には、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体を得るために、上記ゴム状共重合体の濃度が1w/v%以下の溶液中でヒドロホウ素化を行うのが好ましい。
【0024】
本発明のエステル架橋ゴムにおいて使用する架橋剤としては、ヒドロキシル基と反応してエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する化合物であれば、特に制限無く使用することができるが、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸ハロゲン化物及びジカルボン酸エステルの中から架橋剤を選択すると、架橋が効率的に進むため好ましい。このような架橋剤は、前記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン1当量あたり(したがって、ヒドロキシル基1当量あたり)1〜3当量の量を使用すると、ヒドロキシル変性共重合体のほとんどのヒドロキシル基がエステル結合するため好ましい。
【0025】
上述の本発明のエステル架橋ゴムの製造方法における調製工程において得ることができる硬化性ゴム組成物は、予め架橋構造を有する共重合体を含有しないため、架橋ゴム製品を得るために所望の形状に成形する際には良好な加工性を示し、引裂強度に優れた架橋ゴムを与えることができる。したがって、本発明はさらに、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体と、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを含有する硬化性ゴム組成物に関する。
【0026】
上述の本発明のエステル架橋ゴムの製造方法における変性工程において得ることができる炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体は、耐熱性が高く、官能基としてのヒドロキシル基が導入されているため、耐熱性を有するエステル架橋ゴムを製造するために特に好適である。したがって、本発明はさらに、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されており、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体に関する。
【0027】
上記エステル架橋ゴムは、架橋性に優れる上に耐熱性にも優れ、このエステル架橋ゴムを製造するための組成物は加工性に優れるため、本発明のエステル架橋ゴムはさまざまな形状及び用途の成形体、特に耐熱老化性や長寿命性が要求される成形体を得るために好適に使用することができる。したがって、本発明はさらに、上記エステル架橋ゴムを含有する成形体に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明のエステル架橋ゴムの製造方法によると、上記変性工程において、炭素炭素二重結合が飽和化すると共に、ヒドロキシル基が導入される。炭素炭素二重結合が飽和化するため、耐熱性が向上し、ヒドロキシル基はエステル化反応のための官能基となる。また、このヒドロキシル変性共重合体は架橋構造を有していないため、上記ヒドロキシル変性共重合体を上記架橋剤と混合した硬化性ゴム組成物を所望の形状に成形する際に、良好な加工性を示す。そして、上記ヒドロキシル変性共重合体の官能基としてのヒドロキシル基と上記架橋剤の官能基とのエステル化反応によりエステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムを得ることができるが、得られた本発明のエステル架橋ゴムは、従来の部分架橋ゴムを架橋したゴムより、架橋性に優れ、耐熱性においても優れている。したがって、所望形状を有する極めて安定な成形体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の架橋ゴムは、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体(該ゴム状共重合体におけるイソモノオレフィンと脂肪族ジエンとの合計量は100モル%である。)の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体が、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とのエステル化反応により架橋されていることを特徴とし、エステル結合を介して架橋されたエステル架橋ゴムである。このエステル架橋ゴムは、上記ゴム状共重合体を溶媒に溶解し、ヒドロホウ素化し、さらに酸化、加水分解することによって上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体を得る変性工程、上記ヒドロキシル変性共重合体と、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを混合することによって硬化性ゴム組成物を得る調製工程、及び、上記硬化性ゴム組成物中の上記ヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基と上記架橋剤の官能基とをエステル化反応させることによって、エステル結合を介して架橋されたエステル架橋ゴムを得る架橋工程により、好適に得ることができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0030】
(a)変性工程
本発明の製造方法では、4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィンと4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエンとを共重合させたゴム状共重合体を出発材料とする。
【0031】
4〜7個の炭素原子を有するイソモノオレフィンの例としては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン及びそれらの混合物が挙げられる。イソモノオレフィンとしては、イソブテンが好ましい。
【0032】
4〜14個の炭素原子を有する脂肪族ジエンの例としては、イソプレン、ブタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエンのような共役ジエン、1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエンのような非共役ジエンが挙げられる。これらの2種以上を使用しても良い。脂肪族ジエンとしては、イソプレンが好ましい。
【0033】
これらのゴム状共重合体は、公知の溶液重合及び懸濁重合によって製造可能である。不活性溶媒中のモノマー混合物を、フリーデルクラフツ触媒の存在下、低温で重合させることにより製造することができ、例えば、好適なイソブテン−イソプレン共重合体(未架橋ブチルゴム)は、塩化メチル中、無水塩化アルミニウム触媒の存在下で、モノマー混合物を−100℃程度の低温で重合させることにより得ることができる。また、市販のゴム状共重合体、例えば市販の未架橋ブチルゴムを使用することもできる。これらのゴム状共重合体の重合度には厳密な制限が無いが、分子量が50000〜1000000の範囲が好ましい。
【0034】
本発明において使用するゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量は、一般的には0.5〜10.0モル%の範囲である。結合脂肪族ジエン量が10.0モル%より多いと、最終的に得られるエステル架橋ゴムのゴム弾性が低下し、0.5モル%未満であると十分な本発明の効果が得られにくい。上記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量は、0.5〜4.0モル%の範囲であるのが好ましく、0.6〜2.5モル%の範囲であるのが特に好ましい。
【0035】
本発明では、出発材料の上記ゴム状共重合体を、必要に応じて加熱しながら溶媒に溶解させた後、ヒドロホウ素化と、これに続く酸化、加水分解により、炭素炭素二重結合にヒドロキシル基を付加する。なお、ヒドロホウ素化と、これに続く酸化、加水分解により炭素炭素二重結合にヒドロキシル基を導入する反応自体は公知である。
【0036】
上記ゴム状共重合体の溶解のために使用可能な溶媒には、反応を損なわない不活性溶媒であれば特に限定は無いが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、或いはこれらの混合溶媒が挙げられる。特に、テトラヒドロフラン又はテトラヒドロフランを含む混合溶媒は、ヒドロホウ素化を促進させるため好ましい。
【0037】
得られたゴム状共重合体の溶液にヒドロホウ素化剤を作用させ、ヒドロホウ素化を行う。使用可能なヒドロホウ素化剤の例としては、ボラン及びそのオリゴマー、メチルボラン、ジメチルボラン、エチルボラン、ジエチルボラン、ジシアミルボラン、テキシルボラン、カテコールボラン、ジシクロヘキシルボラン、9−ボラビシクロ[3,3,1]−ノナン、ジイソピノカンフェニルボラン、フェニルボラン、塩化ボラン、臭化ボラン、メトキシボラン、エトキシボラン、フェノキシボラン、ボラン・テトラヒドロフラン錯体、ボラン・ジエチルエーテル錯体、ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・トリエチルアミン錯体が挙げられる。溶媒としてテトラヒドロフラン又はテトラヒドロフラン混合溶媒を使用する場合には、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を使用するのが好ましい。ヒドロホウ素化反応は、一般的には0〜100℃の温度で行われる。反応時間は、通常は1時間以上、好適には5時間以上である。
【0038】
例えば、以下の式(III)
【化3】

で表されるブチルゴムを出発材料とし、ボラン・テトラヒドロフラン錯体をヒドロホウ素化剤とした場合には、有利には炭素炭素二重結合に対する反マルコフニコフ付加により、以下の式(IV)
【化4】

で表されるヒドロホウ素化物が得られるが、マルコフニコフ付加によるヒドロホウ素化部分も混在する。
【0039】
上記ヒドロホウ素化剤の添加量は、基本的には、上記ゴム状共重合体中の全ての炭素炭素二重結合がヒドロホウ素化するように選択される。全ての炭素炭素二重結合がヒドロホウ素化すれば、次の酸化、加水分解において、全ての炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が導入される。しかしながら、ヒドロキシル変性共重合体に炭素炭素二重結合が残るようにヒドロホウ素化剤の量を選択しても良い。特に、上記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量が比較的多くなると、炭素炭素二重結合の全てにヒドロキシル基が導入されると、最終的に得られるエステル架橋ゴムのゴム弾性が低下する傾向があるため、耐熱性の点ではわずかに不利になるものの、炭素炭素二重結合が残るようにヒドロホウ素化剤の量を選択しても良い。ヒドロキシル変性共重合体における残留炭素炭素二重結合量は、一般的には上記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合量の80%以下、好ましくは70%以下である。炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体を得るためには、上記ゴム状共重合体の結合脂肪族ジエン1当量あたり、3〜15当量のヒドロホウ素化剤を使用するのが好ましい。ヒドロホウ素化剤の量が3当量未満であると、ヒドロホウ素化が十分に進行せず、15当量を超えると、ヒドロキシル変性共重合体を回収する際の洗浄等の後処理が面倒になり、経済的に不利である。
【0040】
2個以上のB−H結合を有するヒドロホウ素化剤を使用すると、同じ当量の9−ボラビシクロ[3,3,1]−ノナンのようなB−H結合を1個しか有していないヒドロホウ素化剤を使用するよりも、ヒドロホウ素化が進行しやすくなるが、同時に架橋反応により溶液のゲル化が生じやすくなる。このゲルは、次の酸化、加水分解反応の過程で溶解する傾向にあるため、ある程度ゲル化が進行しても良いが、ゲル化が急速に進行しすぎると、ヒドロホウ素化反応が抑制され、結果的にヒドロキシル基の導入が抑制されるため、また次の酸化、加水分解反応の後でもゲルが一部残存することがあるため、好ましくない。ゴム状共重合体溶液の濃度が濃いと、ゲル化が急速に進行するため、2個以上のB−H結合を有するヒドロホウ素化剤を使用する場合には、ゴム状共重合体の濃度を2w/v%(溶媒の体積に対するゴム状共重合体の重量%)以下、好ましくは1.5w/v%以下、特に好ましくは1.0w/v%以下とするのが、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体を得るために好ましい。1.0w/v%以下のゴム状共重合体溶液の濃度では、溶液のゲル化が認められなかった。
【0041】
次に、ヒドロホウ素化後の溶液を、アルカリ性過酸化水素により酸化、加水分解し、ヒドロキシル変性共重合体を得る。過酸化物として、過酸化水素のほか、過安息香酸、過酸化ベンゾイル等を使用することができるが、過酸化水素を使用するのが好ましい。この酸化、加水分解反応は、通常0〜60℃の温度で行われる。反応時間は、通常は1時間以上、好適には5時間以上である。
【0042】
この酸化、加水分解反応により、上の式(IV)で表される有利に生成するヒドロホウ素化物は、以下の式(V)
【化5】

で表される反マルコフニコフ水和化物に変化するが、マルコフニコフ水和部分も混在する。
【0043】
得られたヒドロキシル変性共重合体の回収は、メタノール等の貧溶媒に酸化、加水分解後の溶液を投入してヒドロキシル変性共重合体を析出させ、十分洗浄した後、ろ過することにより容易に行うことができる。乾燥して溶媒を除去後、以下に示す調製工程において使用する。ヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基導入度(したがって炭素炭素二重結合残留度)は、H−NMRにより確認することができる。
【0044】
この工程で得ることができる本発明の炭素炭素二重結合を実質的に有していないヒドロキシル変性共重合体は、二重結合の全てが実質的に飽和化されているため、極めて熱安定性に優れ、エステル架橋ゴムを製造するための材料として極めて好適である。
【0045】
(b)調製工程
次に、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤と上記ヒドロキシル変性共重合体とを混合し、硬化性ゴム組成物を得る。
【0046】
本発明では、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤であれば、特に制限無く使用することができる。ヒドロキシル基と反応してカルボン酸エステルを形成可能な架橋剤、例えば、ジカルボン酸、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、シクロヘキサ−4−エン−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、4,5−メトキシフタル酸、ビフェニル−2,2´−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸;トリカルボン酸、例えば、エタン−1,1,2−トリカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヘキサン−2,3,5−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,3−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸;テトラカルボン酸、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸;ペンタカルボン酸、例えばベンゼンペンタカルボン酸;ヘキサカルボン酸、例えば、ベンゼンヘキサカルボン酸、及び、これらの誘導体、例えば、これらの酸ハロゲン化物、酸無水物及びエステルを使用することができる。誘導体は、1分子中に例えばカルボキシル基と酸無水物基のように2種以上の異なる種類の官能基を有していても良い。これらの架橋剤は、単独で使用しても2種以上の架橋剤を混合して使用しても良い。ジカルボン酸及びその誘導体から選択された架橋剤を使用すると、架橋が効率的に進むため好ましい。また、脂肪族カルボン酸を使用する場合には、炭素炭素二重結合を含まないものを使用するのが好ましい。
【0047】
また、ヒドロキシル基と反応してリン酸エステルを形成可能な架橋剤、例えば、オキシ塩化リン、五酸化リン、三塩化リン、五塩化リン、オルトリン酸、リン酸エステル、及びこれらの混合物を使用することができる。
【0048】
架橋剤は、ヒドロキシル変性共重合体のほとんどのヒドロキシル基をエステル化するため、出発材料のゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン1当量(したがってヒドロキシル基1当量)あたり、1〜3当量の量で使用される。
【0049】
硬化性ゴム組成物は、溶媒を添加して液状組成物としても良く、溶媒を使用せずに固相組成物としても良い。成形体製造用の組成物は、固相組成物とするのが好ましい。
【0050】
液状組成物において使用可能な溶媒としては、反応を損なわない不活性溶媒であれば特に限定は無いが、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、或いはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0051】
硬化性ゴム組成物には、さらに、エステル化反応を促進するための塩酸、トルエンスルホン酸、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ヘテロポリ酸のようなプロトン酸触媒或いは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピリジン、ピペリジン、トリメチルアミン、トリブチルアミンのような塩基、珪酸塩化合物のような吸着剤の他、カーボンブラック、タルク、クレー、マイカのような充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、染料、顔料などの慣用の添加剤を必要に応じて添加しても良い。
【0052】
変性工程において得られたヒドロキシル変性共重合体及び架橋剤の他、必要に応じて、溶媒、プロトン酸触媒或いは塩基、慣用の添加剤を、好適な混合手段を使用して混合することにより、硬化性ゴム組成物を得ることができる。固相組成物を得る場合には、混合手段として密閉式ミキサー、オープンロールミル等を好適に使用することができる。
【0053】
この工程で得ることができる本発明の硬化性ゴム組成物は、予め架橋構造を有する共重合体を含有していないため、所定形状に加工する際の加工性に優れ、良好な引裂強度を有するエステル架橋ゴムを得るために好適に使用することができる。
【0054】
(c)架橋工程
上述の調製工程で得られた硬化性ゴム組成物を加温することにより、上記ヒドロキシル変性共重合体と上記架橋剤とを反応させ、エステル結合を介して架橋したエステル架橋ゴムを得る。
【0055】
例えば、上の式(V)で表される有利に生成するヒドロキシル変性共重合体と、架橋剤としてのイソフタル酸或いはその誘導体とを含有する硬化性ゴム組成物を使用すると、架橋工程により、以下の式(VI)で表されるエステル架橋ゴムが得られる。
【化6】

【0056】
硬化性ゴム組成物が液状組成物の場合には、そのまま、或いは所定の基体上に塗布後、加温してエステル化反応を進める。溶媒量が多い組成物の場合には、一般的には還流下でエステル化反応を進める。反応時間は、一般には1時間、好適には5時間以上である。反応後の組成物をメタノールなどの貧溶媒に投入してエステル架橋ゴムを析出させ、十分洗浄した後、ろ過することにより容易にエステル架橋ゴムを得ることができる。
【0057】
固相組成物は、押出法、成型法等により所望の形状にした後、必要に応じて加圧しながら加温することによりエステル化反応を進める。温度、圧力、反応時間は、使用する架橋剤の種類、成形体の形状、使用金型等により異なり、厳密な制限は無いが、温度は、一般には50〜200℃、好適には150〜200℃の範囲であり、圧力は、一般的には0.1〜30Mpa、好ましくは3〜20Mpaの範囲であり、反応時間は、一般的には5分〜10時間、好ましくは5分〜1時間の範囲である。得られたエステル架橋ゴムは、必要に応じて二次加硫を行うことができる。また、得られたエステル架橋ゴムを、必要に応じて後加工し、所定形状の成形体を得ることができる。
【0058】
上述のエステル架橋ゴムによって製造することができる本発明のエステル架橋ゴムは、従来のXL−10000のような部分架橋ゴムを架橋したゴムより、架橋性に優れており、高硬度を示し、耐熱性においても優れている。また、低い気体透過性を有するブチルゴム類を出発材料としているため、同様に低い気体透過性を示す。さらに、硬化性ゴム組成物が予め架橋構造を有する共重合体を含有していないため、所定形状に加工する際の加工性に優れ、良好な引裂強度を有する架橋ゴムが得られる。したがって、自動車・自転車のタイヤのチューブ、自動車部品、キュアリングバック類、医薬用ゴム製品、電気部品、コンデンサや電池等の封口体、電線被覆、ベルト、ホース、制振材等の幅広い用途の製品を得るために好適に用いることができる。特に、本発明のエステル架橋ゴムは、気体遮断性が要求される成形体、或いは耐熱老化性、長寿命性が要求される成形体、特に150℃程度の高い温度での耐熱老化性が要求される用途の製品のために極めて好適である。
【実施例】
【0059】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0060】
1.ヒドロキシル変性共重合体の製造
実施例1
未架橋ブチルゴム(結合イソプレン含有量;2モル%、分子量;約400000)を細片にし、その3gを容量1000mLの三口フラスコに攪拌子と共に導入した。次にこのフラスコにテトラヒドロフラン400mLを導入し、フラスコ内の雰囲気を窒素置換した後、攪拌しながら未架橋ブチルゴムをテトラヒドロフランに溶解させた。
【0061】
次いで、フラスコ内にボラン・テトラヒドロフラン錯体(関東化学)の7.2mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基6.7当量)を添加した。温度90℃のオイルバスで加熱しながら、還流下で5時間、ヒドロホウ素化反応を行った。溶液はゲル化しなかった。
【0062】
次いで、フラスコを氷浴で冷却し、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液の11.8mLを攪拌しながら滴下した。さらに、過酸化水素水(過酸化水素31%、関東化学)の9.12mLを滴下した。滴下終了後、温度60℃のオイルバスで加熱し、攪拌しながら15時間、酸化、加水分解反応を行った。
【0063】
得られた反応液をメタノール中に攪拌しながら滴下した。沈殿を回収し、乾燥させて溶媒を除去し、ヒドロキシル変性共重合体を得た。
【0064】
実施例2
実施例1で使用した未架橋ブチルゴム3gを450mLのテトラヒドロフランが導入されたフラスコ内で溶解し、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を12mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基11当量)、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液20mL、過酸化水素水15.2mLを使用して実施例1の手順を繰り返した。ヒドロホウ素化後、溶液はゲル化しなかった。
【0065】
実施例3
実施例1で使用した未架橋ブチルゴム3gを400mLのテトラヒドロフランが導入されたフラスコ内で溶解し、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を3.6mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基3.3当量)、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液5.8mL、過酸化水素水4.56mLを使用して実施例1の手順を繰り返した。ヒドロホウ素化後、溶液はゲル化しなかった。
【0066】
実施例4
実施例1で使用した未架橋ブチルゴム6gを450mLのテトラヒドロフランが導入されたフラスコ内で溶解し、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を12mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基5.5当量)、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液20mL、過酸化水素水15.2mLを使用して実施例1の手順を繰り返した。ヒドロホウ素化後に溶液はゲル化したが、次の酸化、加水分解反応の過程で溶解し、反応終了後に粘性のある反応液が得られた。
【0067】
実施例5
実施例1で使用した未架橋ブチルゴム6gを450mLのテトラヒドロフランが導入されたフラスコ内で溶解し、9−ボラビシクロ[3,3,1]−ノナン(関東化学)を24mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基11当量)、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液20mL、過酸化水素水15.5mLを使用して実施例1の手順を繰り返した。ヒドロホウ素化後、溶液はゲル化しなかった。
【0068】
比較例1
実施例1で使用した未架橋ブチルゴム3gを400mLのテトラヒドロフランが導入されたフラスコ内で溶解し、ボラン・テトラヒドロフラン錯体を2.5mL(結合イソプレン1当量あたりB−H基2.3当量)、水酸化ナトリウム3.93gをメタノールに溶解させた液4.0mL、過酸化水素水3.18mLを使用して実施例1の手順を繰り返した。ヒドロホウ素化後、溶液はゲル化しなかった。
【0069】
図1に、実施例1で得られたヒドロキシル変性共重合体と出発材料の未架橋ブチルゴムのH−NMRデータを示す。日本電子(株)製AL−400MHz−NMRスペクトロメータを使用し、溶媒としての重クロロホルム1mLに10〜50mgのヒドロキシル変性共重合体又は出発材料を溶解し、24℃で測定した。ケミカルシフトδ5.05ppmのシグナルが式(I)の未架橋ブチルゴムにおけるHのシグナルに相当し、δ3.30ppmのシグナルが式(II)の反マルコフニコフ水和化物におけるHのシグナルに相当する。マルコフニコフ水和部分のシグナルは、他のシグナルと重なり、認めることができなかった。
【0070】
図1から明らかなように、実施例1のヒドロキシル変性共重合体においては、ケミカルシフトδ5.05ppmのシグナルが消失しており、ヒドロキシル変性共重合体が炭素炭素二重結合を実質的に有していないことが分かる。
【0071】
以下の表には、各実施例1〜5及び比較例1において、ケミカルシフトδ5.05ppmのシグナルとδ3.30ppmのシグナルの有無をまとめた。
【表1】

【0072】
以上の結果から、同じ当量数であれば、ボラン・テトラヒドロフラン錯体の方が9−ボラビシクロ[3,3,1]−ノナンより未架橋ブチルゴムのヒドロホウ素化のために好適であり、また、ボラン・テトラヒドロフラン錯体が2.3当量ではヒドロホウ素化が進行し難いことがわかる。
【0073】
図2は、実施例1で得られたヒドロキシル変性共重合体と出発材料の未架橋ブチルゴムの熱重量分析データを示す。セイコー電子工業(株)製TG/DTA6200熱重量分析計を使用し、窒素気流(100mL/分)中、昇温速度10℃/分の条件で測定した。ヒドロキシル変性共重合体の熱分解開始温度は約360℃であり、未架橋ブチルゴムの熱分解開始温度は約280℃であり、炭素炭素二重結合の飽和化により耐熱性が向上したことが分かる。
【0074】
2.硬化性ゴム組成物の調製と架橋
実施例6
実施例1で得られたヒドロキシル変性共重合体と、架橋剤としてのイソフタル酸塩化物、及びトリブチルアミンを2本ロールミルにより混練し、固相組成物を得た。ヒドロキシル変性共重合体におけるヒドロキシル基1当量あたり、イソフタル酸塩化物1当量、トリブチルアミン1当量とした。
【0075】
得られた固相組成物について、ALPHA TECHNOLOGIES製Rheometer MDR2000を使用し、195℃、測定圧力0.35MPaの条件下でレオメーター曲線(時間−トルク、時間−tanδ)の測定を行った。
【0076】
さらに、レオメーター曲線測定後のエステル架橋ゴム成形体について、Perkin−Elmer製1600−FT−IR赤外分光計を用いてフィルム法によりFT−IRスペクトルを測定した。また、成形体を150℃に保持し、ショアーA硬度(ピーク硬度)の変化及び重量損失を測定した。
【0077】
比較例2
バイエル社製部分架橋ゴムXL−10000の100gにジクミルパーオキサイド(40%希釈品)2gを添加し、混練して固相組成物を得た。実施例1と同様に、ALPHA TECHNOLOGIES製Rheometer MDR2000を使用し、得られた固相組成物について、170℃、測定圧力0.35MPaの条件下でレオメーター曲線(時間−トルク、時間−tanδ)の測定を行った。また、実施例6と同様に、レオメーター曲線測定後の架橋ゴム成形体を150℃に保持し、ショアーA硬度(ピーク硬度)の変化及び重量損失を測定した。
【0078】
図3には、実施例6のエステル架橋ゴムと出発材料の未架橋ブチルゴムのFT−IRスペクトルデータを示す。エステル架橋ゴムのスペクトルには、1720±10cm−1にエステル結合したイソフタル酸のC=O伸縮振動バンドが認められる。イソフタル酸塩化物におけるC=O伸縮振動バンドは1710±10cm−1及び1765±5cm−1に認められるが、これらのバンドがエステル架橋ゴムのFT−IRスペクトルには認められないため、イソフタル酸塩化物の全てが実質的に反応したことがわかる。
【0079】
図4には、実施例6及び比較例2におけるレオメーター曲線を示す。架橋が進行するほど、トルク値は大きくなり、tanδ値は小さくなる。架橋開始時には、実施例6におけるトルク値が比較例2におけるトルク値より小さく、本発明の硬化性ゴム組成物の加工性が従来の部分架橋ゴムを使用した硬化性ゴム組成物より良好であることが分かる。一方、比較例2においては、Maxトルク値が3.0dNmであるのに対し、実施例6においては、架橋終了までに約5分程度を要するものの、Maxトルク値が4.3dNmに達し、本発明のエステル架橋ゴムが従来の部分架橋ゴムを架橋したゴムより架橋性に優れていることが分かる。なお、tanδ値は、実施例6及び比較例2とも0.1以下であり、両者とも良好な値であった。
【0080】
図5は、実施例6の本発明のエステル架橋ゴムと比較例2の従来の架橋ゴムの150℃雰囲気中での老化試験における硬度変化を示す図である。初期のショアーA硬度は、実施例6において30Hs、比較例2において25Hsであり、実施例6の本発明のエステル架橋ゴムの方が比較例2の従来の架橋ゴムよりも大きな値を示した。この結果は、図4からも理解されるように、本発明のエステル架橋ゴムが従来の架橋ゴムより架橋性に優れていることを反映しているものと考えられる。
【0081】
実施例6の本発明のエステル架橋ゴムは、150℃で24時間経過しても、ショアーA硬度は低下せず、約33Hsを維持していた。これに対し、比較例2の従来の架橋ゴムは、150℃で1時間経過しただけでショアーA硬度が大幅に低下し、その後は測定不能であった。
【0082】
図6は、実施例6の本発明のエステル架橋ゴムと比較例2の従来の架橋ゴムの150℃雰囲気中での老化試験における重量変化を示す図である。150℃で24時間経過後に、比較例2の従来の架橋ゴムは実施例6の本発明のエステル架橋ゴムの約2倍の重量損失を示した。
【0083】
図5、図6から理解されるように、本発明のエステル架橋ゴムは、従来の部分架橋ゴムを有機過酸化物で架橋した架橋ゴムより耐熱性及び硬度において優れている。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】ヒドロキシル変性共重合体と出発材料の未架橋ブチルゴムのH−NMRデータを示す図である。
【図2】ヒドロキシル変性共重合体と出発材料の未架橋ブチルゴムの熱重量分析曲線を示す図であるである。
【図3】本発明のエステル架橋ゴムと出発材料の未架橋ブチルゴムのFT−IRスペクトルデータを示す図である。
【図4】本発明のエステル架橋ゴムと従来の部分架橋ゴムのレオメーター曲線を示す図である。
【図5】本発明のエステル架橋ゴムと従来の部分架橋ゴムの150℃雰囲気中での老化試験における硬度変化を示す図である。
【図6】本発明のエステル架橋ゴムと従来の部分架橋ゴムの150℃雰囲気中での老化試験における重量損失を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体が、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とのエステル化反応により架橋された、エステル結合を介して架橋されたエステル架橋ゴム。
【請求項2】
前記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量が0.6〜2.5モル%である、請求項1に記載のエステル架橋ゴム。
【請求項3】
前記イソモノオレフィンがイソブテンであり、前記脂肪族ジエンがイソプレンである、請求項1又は2に記載のエステル架橋ゴム。
【請求項4】
炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体が架橋されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル架橋ゴム。
【請求項5】
4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体を溶媒に溶解し、ヒドロホウ素化し、さらに酸化、加水分解することによって、前記ゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体を得る変性工程、
前記ヒドロキシル変性共重合体と、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを混合することによって、硬化性ゴム組成物を得る調製工程、及び、
前記硬化性ゴム組成物中の前記ヒドロキシル変性共重合体のヒドロキシル基と前記架橋剤の官能基とをエステル化反応させることによって、エステル結合を介して架橋されたエステル架橋ゴムを得る架橋工程
を含むことを特徴とするエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項6】
前記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン量が0.6〜2.5モル%である、請求項5に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項7】
前記イソモノオレフィンがイソブテンであり、前記脂肪族ジエンがイソプレンである、請求項5又は6に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項8】
前記変性工程において、前記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン1当量あたり3〜15当量のヒドロホウ素化剤を用いてヒドロホウ素化を行い、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体を得る、請求項5〜7のいずれか1項に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項9】
前記変性工程において、2個以上のB−H結合を有するヒドロホウ素化剤を使用し、前記ゴム状共重合体の濃度が1w/v%以下の溶液中でヒドロホウ素化を行う、請求項8に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項10】
前記調製工程において、前記架橋剤として、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、ジカルボン酸ハロゲン化物及びジカルボン酸エステルの中から選択された少なくとも1種の化合物を使用する、請求項5〜9のいずれか1項に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項11】
前記調製工程において、前記ゴム状共重合体における結合脂肪族ジエン1当量あたり1〜3当量の前記架橋剤を使用する、請求項10に記載のエステル架橋ゴムの製造方法。
【請求項12】
4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されたヒドロキシル変性共重合体と、ヒドロキシル基との反応によりエステル結合を形成可能な官能基を少なくとも2個有する架橋剤とを含有する硬化性ゴム組成物。
【請求項13】
4〜7個の炭素原子を有する少なくとも1種のイソモノオレフィン90〜99.5モル%と4〜14個の炭素原子を有する少なくとも1種の脂肪族ジエン0.5〜10モル%とを共重合させたゴム状共重合体の炭素炭素二重結合にヒドロキシル基が付加されており、炭素炭素二重結合が実質的に存在しないヒドロキシル変性共重合体。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のエステル架橋ゴムを含有する成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−143951(P2010−143951A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319342(P2008−319342)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】