説明

エポキシ樹脂組成物

【課題】可視光透過性を満足しつつ高耐熱耐黄変性に優れた封止材および保護膜形成用組成物を提供。
【解決手段】エポキシ当量が500〜1,000g/eqであるエポキシ樹脂(D)と硬化剤として酸無水物を含有するエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂(D)は分子構造中に、(A)2官能芳香族エポキシ類の骨格、(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール骨格、及び(C)酸無水物の開環反応に由来するに骨格を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ樹脂の特定の骨格を導入することで熱時変色を抑えることが出来、電子材料用途で特に高温に曝される部位に使用されるエポキシ樹脂硬化物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では樹脂自体に着色剤を添加し、レーザー印字の際にかかる熱により印字をはっきりさせるとあるが、エポキシ樹脂の改良による根本的な変色防止が望まれていた。
【0003】
特許文献2、3では特定のエポキシ樹脂を用い、テルペン骨格を硬化剤に導入することにより、耐熱性、密着性、熱時黄変性などが改良できるとある。しかし、硬化剤、エポキシ樹脂ともに特定の骨格を必須とするものであり、硬化促進剤についても限定されるものであった。
【0004】
特許文献4ではガラスとの密着性が良く、高い透明性、耐熱信頼性(熱変色耐性、耐熱収縮性)を有する光学部品用樹脂組成物が示されているが、特定の光酸発生剤を用いることにより着色を抑えるものである。
【0005】
また、特許文献4にはフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂を含有すると高屈折率(1.58以上)にすることが可能になり、また十分なガラス転移温度が得られるようになるとの記載があるが、その導入方法は樹脂ブレンドを行った後にカチオン重合による硬化により高屈折率とするものであり、酸無水物など公知慣用のエポキシ樹脂硬化剤を使用する場合の熱重合には向かない組成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−025513号公報
【特許文献2】特開2002−12819号公報
【特許文献3】特許第3948980号公報
【特許文献4】特開2010−265360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来からの要求性能である可視光透過性を満足しつつ高耐熱耐黄変性に優れた封止材および保護膜形成用組成物を提供できる電子材料用エポキシ樹脂硬化物を提供することにある。
【0008】
また、光導波路などのように屈折率を調節することが重要な用途の場合、コアとクラッドでのエポキシ樹脂の組成を変化させることで屈折率を調整でき、更にコア/クラッド間での熱時接着力を保持できるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の骨格を含有させるエポキシ樹脂を使用することにより可視光透過率を満足しつつ、高耐熱黄変性に効果のある成分を加えることを見いだし、反応性に関してはエポキシ樹脂の末端はビスフェノールA(BPA)型のジグリシジルエーテルとなるように工夫することにより、硬化性はBPA型エポキシ樹脂と同等でありながら可視光透過率を満足しつつ、高耐熱黄変性に優れるエポキシ樹脂(D)と酸無水物硬化剤を使用することにより目的を達成できることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0010】
本発明の要旨は、エポキシ当量が500〜1,000g/eqであるエポキシ樹脂(D)と硬化剤として酸無水物を含有するエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂(D)は分子構造中に、(A)2官能芳香族エポキシ類の骨格、(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール骨格、及び(C)酸無水物の開環反応を由来とする骨格を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。そして、エポキシ樹脂(D)に含有される各骨格の割合は、(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール骨格は、(A)2官能芳香族エポキシ類1モルに対してリン含有フェノール化合物及び/又はフルオレン環含有フェノールを0.2モル〜0.7モル反応して得るものであり、(C)酸無水物の開環反応を由来とする骨格は、(A)2官能芳香族エポキシ類1モルに対して酸無水物の開環反応物を0.2モル〜0.7モル反応して得ることを特徴とする上記記載のエポキシ樹脂組成物である。
そして、本発明は上記記載の樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物、上記記載の樹脂組成物を用いて得られるカラーフィルター用保護膜、上記記載の樹脂組成物を用いて得られる光半導体用封止材、上記記載の樹脂組成物を用いて得られる光半導体用基板及び光半導体基板用表面保護膜である。
【発明の効果】
【0011】
本発明で用いるエポキシ樹脂(D)は通常使用されている硬化剤である酸無水物を使用することにより、透明性、耐熱信頼性(高耐熱黄変性)の問題を解決することができる。さらには上記性能を維持しつつも屈折率を調整することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明において、特に電子材料用途で用いられ、高温に曝される部位に使用されるエポキシ樹脂硬化物を提供できるエポキシ樹脂(D)は、分子構造中に、(A)2官能芳香族エポキシ樹脂類の骨格、(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール化合物骨格を代表とする耐熱性を付与することの出来る剛直骨格を有する構造であり、且つ(C)酸無水物の開環反応を由来とする骨格を含有させることにより、屈折率を調節しながらも透明性、耐熱信頼性(熱変色耐性)を発現し、性能を維持できることを特徴とする。エポキシ樹脂(D)を得る方法としては、予め過剰モルの(C)酸無水物と過小モルの水酸基含有化合物とを反応させ、エステル結合とカルボキシル基を有する反応物を生成させ、(A)2官能芳香族エポキシ樹脂類および剛直骨格を含有する(B)リン含有フェノール化合物及び/又はフルオレン環含有フェノール化合物を加えて再び反応させることにより得ることができる。酸無水物の開環反応物のモル数は、反応に用いた酸無水物のモル数に等しい数値を示す。また、(C)酸無水物と水酸基含有化合物との反応においては、(C)酸無水物を完全に開環させ、未反応酸無水物として残存させないことが必要であり、さらに水酸基含有化合物が単独で残らないことが必要である。
【0014】
上記( A )2官能芳香族エポキシ樹脂類のエポキシ樹脂としては、2官能芳香族フェノールをグリシジルエーテル化物である2官能芳香族エポキシ樹脂であり、2官能芳香族フェノールとしてはビスフェノールA(BPA)、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’−ビフェノール、テトラメチルビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、ジメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、ビフェニル、テトラメチルビフェニルテトラメチル−4,4’−ビフェノール、ジメチル−4,4’−ビフェノール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−[4−(1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、レゾルシノール、ハイドロキノン、1,1−ジ−4−ヒドロキシフェニルフルオレン等の2官能芳香族フェノールが挙げられる。これらは単独であるいは2種以上あわせて用いられる。
【0015】
上記( B )成分のリン含有フェノール化合物としては、一般式(1)に示される化合物である。
【0016】
【化1】

(式中Aは炭素数6から20のアリーレン基及び/またはトリイル基を表し、nは0または1を表す。また、式中Ar1及びAr2は炭素数1から6の炭化水素基を表し、同一であっても異なっていてもよく、リン原子と共に環状になっていてもよい。)
【0017】
この化合物に該当する具体的な例として、例えば、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ)、10−(1,4−ジオキシナフタレン)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、ジフェニルホスフィニルヒドロキノン(北興化学工業株式会社製 商品名PPQ)、ジフェニルホスフェニル−1,4−ジオキシナフタリン、1,4−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO−HQ)、1,5−シクロオクチレンホスフィニル−1,4−フェニルジオール(日本化学工業株式会社製 商品名CPHO−HQ)等のリン含有フェノール類を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。
また、これらのリン含有フェノール化合物は2種類以上を併用して使用する事もできる。これらリン化合物のうち一般式(1)で示されるAがベンゼン環であるものが硬化物の色の面から特に好ましい。
【0018】
上記( B )成分のフルオレン環含有フェノール化合物としては一般式(2)に示される化合物であり、ビスフェノールフルオレン(BPFL)または、ビスクレゾールフルオレン(BCFL)が好ましい。
【0019】
【化2】

R1〜4は水素原子あるいは、炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるものであり、同一でも異なっていても良い。
【0020】
上記( C )酸無水物の開環反応を由来とする骨格とは、酸無水物基と水酸基含有化合物との反応により形成されたエステル結合(カルボニル基)および開環反応時に同時に形成されるカルボキシル基とエポキシ基との反応により形成されるエステル結合の両者を示すものである。酸無水物としては、メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルナジック酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の脂環族及び芳香族多価カルボン酸類の無水物が挙げられ、単独あるいは2種以上の混合物として使うことができる。
また、水酸基含有化合物としては2価アルコールに代表され、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール類、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水添ビスフェノールA)、1,4シクロヘキサンジメタノール、ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)メタン、スピログリコール、2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オール等の脂環族グリコール類が挙げられ、単独あるいは2種以上の混合物として使うことができる。
【0021】
(B)リン含有フェノール化合物及び/又はフルオレン環含有フェノール化合物は(A)2官能芳香族エポキシ樹脂類1molに対して0.2mol〜0.7mol用いることができ、0.2mol以下では耐熱性に劣り、含有量を増やすことにより、屈折率および耐熱黄変性は高くなるが、0.7mol以上ではエポキシ樹脂(D)の軟化点が高くなり実用性に劣るものとなる。
【0022】
また、(C)酸無水物の開環反応物は2官能芳香族エポキシ樹脂類1molに対して0.2mol〜0.7mol用いることができ、この場合には含有量を増やすことにより、屈折率は小さくなる傾向となる。(B)リン含有フェノール化合物及び/又はフルオレン環含有フェノール化合物の含有量を(A)2官能芳香族エポキシ樹脂類1molに対して0.2mol〜0.7molとすること、および(C)酸無水物の開環反応物を(A)2官能芳香族エポキシ樹脂類1molに対して0.2mol〜0.7molとすることにより、高屈折率と高耐熱黄変性とを具備するエポキシ樹脂(D)を得ることができる。
【0023】
(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール化合物と(C)酸無水物と水酸基との反応を由来とする骨格の成分をそれぞれ0.2molの配合量とした場合、エポキシ当量は500g/eq程度となり、この配合量を下回る場合は高屈折率と高耐熱黄変性の効果が見込めない。逆にエポキシ当量が1,000g/eqを超える場合は得られるエポキシ樹脂の軟化点が高くなってしまい成形、塗工が困難となる。エポキシ樹脂(D)の好ましいエポキシ当量の範囲は500g/eq〜1,000g/eqであり、より好ましくは800g/eq〜1,000g/eqであり、更に好ましくは850g/eq〜950g/eqである。
【実施例】
【0024】
実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に説明するが本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。以下の合成例、実施例及び比較例に於いて、「部」は「重量部」を示す。さらに本発明では以下の試験方法を使用した。
エポキシ当量 :JIS K−7236により測定した。
軟化点:JIS K−7234により測定した。
屈折率: ERMA社製アッベ屈折計ER−7MWを使用し、シクロヘキサノンに固形分30重量%となるように溶解し、測定を行い、計算により固形分100%の屈折率を求めた。
Tg(ガラス転移温度) :SII社製 EXTER DSC6200を使用して、20℃から10℃/分の昇温速度により測定した。
ΔYI値(イエローインデックス):東京電色社製測色色差計 TC-1500MC-88を使用して測定を行い、熱履歴を掛ける前のYI値をブランクとして所定熱履歴後のYI値との差を示した。
透過度:日本分光株式会社製 V−650を使用し、波長450nmでの透過率を記載した。
【0025】
合成例 1
攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、及び冷却管を備えた反応装置にリカシッドHH(ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA);新日本理化製)75.3部とリカビノールHB(水添ビスフェノールA(HBPA);新日本理化製)30.9部との混合物を窒素ガス雰囲気中で撹拌しながら130℃で2時間反応させて、次いでYD−128(2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのジグリシジルエーテル;新日鐵化学製、エポキシ当量187g/eq、粘度13,000mPs・s/25℃)374部及び10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(三光株式会社製 商品名HCA−HQ、融点256℃、リン含有量9.6%、水酸基当量162g/eq.)を111.4部及びトリフェニルフォスフェイト0.2重量部を仕込み150℃で4時間攪拌混合して軟化点107℃、エポキシ当量909g/eqの樹脂1を得た。
【0026】
合成例 2−16
実施例1で使用した装置を用い、表1に記載の割合で合成例1と同様の条件及び操作によって合成を行い、それぞれ樹脂2〜14を得た。なお、合成例11で使用したエポキシ樹脂YDF−170は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンのジグリシジルエーテル(新日鐵化学製、エポキシ当量170g/eq、粘度3,500mPs・s/25℃)である。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1
合成例1で得られた硬化剤として樹脂1を100部と硬化剤としてリカシッドHHを13部と溶剤であるテトラヒドロフラン75部に溶解した後、硬化触媒としてヒシコーリンPX−4ET(日本化学工業株式会社製 有機ホスホニウム塩化合物)0.25部を混合し、0.2mm厚のガラス板に乾燥後フィルムとして100μmとなるように塗布し、100℃の熱風循環オーブンに2時間により乾燥させた後に、140℃の熱風循環オーブンで10時間硬化させ、ガラス板付きの試験片を得た。得られたガラス板付きの試験片をそのまま利用してΔYI値と透過度を測定した。その結果を表2に示した。
【0029】
実施例2〜実施例9及び比較例1〜7
合成例2〜16で得られた樹脂2〜16を用い、実施例1と同様の硬化条件により試験片を作成し、評価を行った。その結果を表2に示した。
【0030】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、高温に曝される部位に使用される透明性、耐熱信頼性(高耐熱黄変性)を発現し、性能を維持できることを特徴としたエポキシ樹脂硬化物を提供し、特に電子材料用途に利用することが出来る。また、低軟化点であるエポキシ樹脂(D)を用いることによって、成形性、塗工性に優れるエポキシ樹脂組成物とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量が500〜1,000g/eqであるエポキシ樹脂(D)と硬化剤として酸無水物を含有するエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂(D)は分子構造中に、(A)2官能芳香族エポキシ類の骨格、(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール骨格、及び(C)酸無水物の開環反応を由来とする骨格を有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(B)リン含有フェノール化合物の骨格及び/又はフルオレン環含有フェノール骨格は、(A)2官能芳香族エポキシ類1モルに対してリン含有フェノール化合物及び/又はフルオレン環含有フェノールを0.2モル〜0.7モル反応して得た反応物であり、(C)酸無水物の開環反応を由来とする骨格は、(A)2官能芳香族エポキシ類1モルに対して酸無水物の開環反応物を0.2モル〜0.7モル反応して得た反応物であるエポキシ樹脂(D)を含有することを特徴とする、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られた請求項1又は2記載のエポキシ樹脂硬化物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて得られるカラーフィルター用保護膜
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて得られる光半導体用封止剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて得られる光半導体用基板又は光半導体基板用表面保護膜

【公開番号】特開2012−177038(P2012−177038A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40714(P2011−40714)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】