説明

エポキシ樹脂複合材料、及びその製造方法

【課題】非石油原料であるエポキシ樹脂と没食子酸誘導体を原料としてTgが室温以上であり絶縁性能に優れた絶縁物を基材に含浸させたエポキシ樹脂複合材料を得る。
【解決手段】植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとを混合し、この混合物を所定の温度、圧力、時間、攪拌条件で処理することで、植物由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの一部とが架橋構造を形成した、液状の相溶物を得る。このようにして得られた相溶物を基材に含浸させ、加熱処理してポキシ樹脂複合材料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性能が要求される高分子材料に関するものであり、特に高電圧機器の絶縁構成に適用される熱硬化性樹脂に関するものである。具体的には、非石油由来材料から構成され、絶縁性能と耐熱性に優れたエポキシ樹脂を基材に含浸させてなるエポキシ樹脂複合材料(例えば、プリプレグ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器の絶縁材料及び構造材料は、石油を出発物質とした石油由来のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックスとした高分子複合硬化物が広く用いられている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
また、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維等を強化剤とし、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂をマトリックスとした複合材料が高電圧機器の分野で使用されている。
【0004】
このような複合材料は、繊維強化剤に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させた、いわゆるプリプレグを使用し、成形する方法が広く採用されている。
【0005】
しかし、石油資源の枯渇化が世界的に問題となってきており、さまざまな分野において石油資源から再生可能資源への転換が急がれている。電気絶縁複合材料も自然界の物質循環サイクルに適合した環境配慮型絶縁材料の開発が重要な課題となっている。
【0006】
これらの懸念に対して、プリプレグに含浸するマトリックス樹脂の硬化剤に植物由来物質を使用する技術が提案されている(例えば、特許文献3)。また、植物由来のエポキシ樹脂からなる絶縁組成物に関する技術も提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−137425号公報
【特許文献2】特開2006−137825号公報
【特許文献3】特開2002−53699号公報
【特許文献4】特開2007−35337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載の発明では、エポキシ樹脂が石油由来物質であるため、エポキシ樹脂の硬化剤として植物由来物質を用いても植物度が低く、従来樹脂の代替品となることは困難である。また、エポキシ化植物油の硬化剤としてリグニンをしているが、高温物性に対し配慮がなされていない組成となっているので高電圧機器への適用は困難である。
【0009】
また、特許文献4に記載の発明では、エポキシ化亜麻仁油の硬化剤に石油由来のフェノール樹脂を使用しており、植物度が低い。したがって、今後、長期的に既存の熱硬化性樹脂の完全代替品となることはできない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明のエポキシ樹脂複合材料は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させた相溶物を基材に含浸させ、該相溶物が含浸された基材を加熱処理してなることを特徴としている。
【0011】
そして、前記植物由来ポリフェノール誘導体としては、没食子酸誘導体が挙げられ、前記エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油が挙げられる。
【0012】
また、上記課題を解決する本発明のエポキシ樹脂複合材料の製造方法は、1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる相溶工程と、前記相溶工程で得られた相溶物を基材に含浸させる含浸工程と、前記含浸工程で得られた、前記相溶物が含浸された基材を加熱処理する加熱処理工程と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上の発明によれば、非石油原料であるエポキシ樹脂と没食子酸誘導体を原料としてTgが室温以上であり絶縁性能に優れた絶縁物を基材に含浸させたエポキシ樹脂複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂複合材料は、基材に含浸させる樹脂の原料に、天然原料を出発物質とするエポキシ樹脂を用い、さらに、該エポキシ樹脂の硬化剤として植物由来ポリフェノールを使用したものである。
【0015】
前記天然原料を出発原料とするエポキシ樹脂としては、エポキシ化できるものであればよく、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化大豆油等が例示される。
【0016】
前記エポキシ樹脂と反応する硬化剤として、これも天然原料である没食子酸及び没食子酸誘導体に着目した。没食子酸誘導体としては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸ブチル、没食子酸ペンチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソプロピル、没食子酸イソペンチル、没食子酸オクチル、没食子酸デシル、没食子酸ドデシル、没食子酸トリデシル、没食子酸テトラデシル、没食子酸ペンタデシル、没食子酸ヘキサデシル、没食子酸ヘプタデシル、没食子酸オクタデシル、ピロガロール等が挙げられる。これら没食子酸誘導体のなかでも、低分子で融点が低い没食子酸プロピル、ピロガロールが好ましい。
【0017】
植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来フェノール類の配合比は特に限定されないが、食物油由来のエポキシ樹脂100重量部に対して、植物由来フェノール類を10〜50重量部含んでいることが好ましい。また、硬化促進剤や充填剤の添加量についても特に限定せず、最終的に得られる硬化物の物性を鑑みて添加量を決定することが好ましい。
【0018】
硬化促進剤には、イミダゾール系、三級アミン、芳香族アミンなどが使用できる。充填剤には、シリカやアルミナを使用することができるが、充填剤と樹脂の界面を調整するため、シランカップリング剤を添加してもよい。
【0019】
植物油由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとを混合した状態では、植物由来ポリフェノールが植物油由来のエポキシ樹脂中に分散した状態である。この混合物を所定の温度、圧力、時間、攪拌条件で処理することで、植物由来のエポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールの一部とが架橋構造を形成した、液状の相溶物を得ることができる。
【0020】
この相溶物の粘度は、80℃で10000mPa・s以下であることが好ましい。さらに、80℃で1000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0021】
繊維材料(基材)には、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維等公知の繊維材料を用いることができる。低誘電性(低比誘電率、低誘電正接)を有するガラス繊維からなるガラスクロスが好ましい。繊維材料の厚みは、特に限定されるものではないが、10〜300μmが好ましく、20〜200μmがより好ましく、さらに50〜180μmが好ましい。
【0022】
ガラスクロス等の繊維材料には、糸束内部に含浸した樹脂とガラス繊維との接着性を向上させるために、予め表面処理が施されていることが好ましい。該表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、アミノシラン系化合物、ビニルシラン系化合物、スチレン系シラン化合物、メタクリルシラン系化合物等のシランカップリング剤を挙げることができる。特に、メタクリルシラン系、及びビニルシラン系がビニルベンジル化合物との組合せにおいて好適である。
【0023】
メタクリルシラン系化合物としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が例示される。
【0024】
以下、具体的に実施例を挙げて本発明の実施形態に係るエポキシ樹脂複合材料、及びその製造方法について説明する。なお、本発明に係るエポキシ樹脂複合材料は、下記実施例に限定されるものではなく、各工程での加熱温度や加熱時間等は、用いるエポキシ樹脂や植物由来ポリフェノール等の種類により適宜決定すればよい。
【実施例】
【0025】
エポキシ化亜麻仁油の硬化剤である没食子酸誘導体として、ピロガロール及び没食子酸プロピルを用いた。そして、硬化促進剤としてはイミダゾールを用いた。これらを混合したのち、得られた混合物を繊維材料(基材)に含浸させ、加熱処理を行うことでエポキシ樹脂複合材料(例えば、プリプレグ)を得た。そして、該エポキシ樹脂複合材料をさらに熱処理することにより該エポキシ樹脂複合材料の硬化物を得た。
【0026】
エポキシ化植物油としては、エポキシ化亜麻仁油((株)ADEKA、エポキシ化アマニ油(品名アデカサイザー O−180A))、硬化剤(ポリフェノール)としてピロガロール(富士化学工業株式会社製)、没食子酸プロピル(富士化学工業株式会社製)を用いた。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチル−イミダゾール(四国化成工業(株)、品名キュアゾール 2E4MZ)を用いた。
【0027】
また、繊維材料には、熱硬化性樹脂用ガラスクロスを使用した。本実施例では、熱硬化性樹脂用グラスファイバーシリーズ((株)日清紡)を用いた。
【0028】
まず、エポキシ化亜麻仁油100重量部に対して、ピロガロールまたは没食子酸プロピルを35重量部添加し、150℃で5分加熱処理し、エポキシ化亜麻仁油とピロガロール(または没食子酸プロピル)を相溶させた(相溶工程)。
【0029】
本発明でいう相溶とは、主剤(例えば、エポキシ化亜麻仁油)と硬化剤(例えば、ピロガロール)の混合物がクリアな外観を有するものを意味する。相溶させると、植物油由来エポキシ樹脂と植物由来ポリフェノールとの一部が架橋構造を形成した液状の相溶物が得られる。この相溶物の架橋の範囲は、1〜80%、好ましくは1〜50%、より好ましくは1〜20%である。前記架橋の範囲は、相溶物の温度、及び加熱時間により制御することができる。なお、相溶させる温度、及び加熱時間は、主剤と硬化剤により適宜決定すればよいが、硬化剤の融点以下の温度で相溶させると硬化剤の気化を抑制できるため好ましい。
【0030】
この相溶物に対して、硬化促進剤を3重量部添加した。そして、硬化促進剤が添加された相溶物をガラスクロスに含浸させ(含浸工程)、130℃で2時間加熱処理し、プリプレグを得た(加熱処理工程)。
【0031】
加熱処理工程では、エポキシ化亜麻仁油とピロガロール(または、没食子酸プロピル)の相溶物が半硬化状(Bステージ)となるように処理する。加熱処理温度、及び加熱処理時間は、実施例に限定されるものではなく、使用環境や保存状態を鑑みて、加熱処理温度、及び加熱処理時間等の条件を決定するとよい。つまり、加熱温度や加熱時間を調節することにより、プリプレグの硬さを調整すればよい。
【0032】
なお、含浸工程において、前記相溶物を冷却した後に、硬化促進剤等を加えてガラスクロスに含浸させると、該相溶物の硬化速度を低下させることができる。すなわち、含浸作業時間を確保し、硬化促進剤等を均一に分散させることができる。すなわち、得られる硬化物の物性に対する信頼性が向上する。ここで、冷却温度は、70℃以下であればよい。
【0033】
また、含浸工程において、前記相溶物の温度を100℃以下に加熱し、前記相溶物を繊維材料に含浸することで、該相溶物の粘度を低下させ、該相溶物を繊維材料に隙間なく含浸させることができる。
【0034】
さらに、得られたプリプレグを150℃で10時間熱処理し、プリプレグを硬化させた(硬化工程)。なお、硬化工程における処理温度、及び処理時間により得られる硬化物の物性(Tg等)が変化する。したがって、処理温度、及び処理時間は、得られる硬化物の物性を鑑みて適宜決定するとよい。
【0035】
この硬化工程で熱処理することにより得られた硬化物の物性評価を行った。硬化物の評価方法は、耐熱性を示すTg、体積抵抗率で行った。
【0036】
Tgは加熱処理によって得られた硬化物(Tg測定ではプリプレグではなく、相溶物をそのまま加熱硬化したものを用いた)を4mmφ×15mmの円柱状に切り出し、TMA法によって線膨張率の変曲点から求めた。体積抵抗率はJIS K 6911に準拠し、1000Vの直流電圧印加で求めた。
【0037】
Tgの測定結果は、ピロガロールを用いた場合、及び没食子酸プロピルを用いた場合においても、約80℃であった。
【0038】
また、体積抵抗率の測定結果は、ピロガロールを用いた場合、及び没食子酸プロピルを用いた場合においても、55E+14Ω・cmであった。
【0039】
以上、Tg、及び体積抵抗率の測定結果より、本発明の実施例に係るエポキシ樹脂複合材料は、Tgが室温以上であり、絶縁性能に優れた絶縁物であることがわかる。したがって、電気絶縁材料として使用することが可能であり、例えば、回転機の巻き線部の絶縁補強や機械的物性の向上(回転機の導体絶縁等)に用いることができる。
【0040】
また、本発明に係るエポキシ樹脂複合材料の製造方法によれば、非石油原料であるエポキシ樹脂と没食子酸誘導体を原料として、Tgが室温以上であり絶縁性能に優れた絶縁物からなるエポキシ樹脂複合材料(例えば、プリプレグ)を得ることができる。
【0041】
したがって、本発明に係るエポキシ樹脂複合材料の製造方法は、例えば、回転機絶縁システムの製造方法におけるヒートプレスコイル成型方法に適用でき、コイル導体にプリプレグを巻きつけ、加熱加圧して所定の寸法に成型して仕上げることができる。そして、本発明に係るエポキシ樹脂複合材料の製造方法は、風力発電機、水力発電機、大型ディーゼル発電機の固定子の製造方法等に適用することができる。
【0042】
また、植物油由来のエポキシ樹脂と没食子酸誘導体を相溶させて得られる相溶体を繊維材料(基材)に含浸させることで、該相溶体に添加する硬化促進剤や充填剤、シランカップリング剤などの混合・分散が良好となり、均一な硬化物を得ることができ、硬化物の物性が均一になる。
【0043】
さらに、植物油由来のエポキシ樹脂と没食子酸誘導体を相溶させて得られる相溶体を冷却することにより、該相溶体を繊維材料(基材)に含浸させる時間を確保することができるので、相溶体とガラス繊維との接着性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させて得られる相溶物を基材に含浸させ、該相溶物が含浸された基材を加熱処理してなる
ことを特徴とするエポキシ樹脂複合材料。
【請求項2】
前記植物由来ポリフェノール誘導体は、没食子酸誘導体である
ことを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂複合材料。
【請求項3】
前記エポキシ化植物油は、エポキシ化亜麻仁油である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のエポキシ樹脂複合材料。
【請求項4】
1種類以上のエポキシ化植物油と1種類以上の植物由来ポリフェノール誘導体を相溶させる相溶工程と、
前記相溶工程で得られた相溶物を基材に含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程で得られた前記相溶物が含浸された基材を加熱処理する加熱処理工程と、
を備えた
ことを特徴とするエポキシ樹脂複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−74337(P2011−74337A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230266(P2009−230266)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】