説明

エルビウムスパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングターゲット提供する。
【解決手段】平均結晶粒径が3〜15mm、酸素含有量100ppm以下、炭素含有量150ppm以下、タングステンおよびタンタル含有量がそれぞれ100ppm以下であるエルビウムスパッタリングターゲットであって、真空鋳造した純度が3N5以上のインゴットを、1100〜1200°Cの範囲の温度で恒温鍛造し、次にこの鍛造したターゲット素材を800〜1200°Cの温度で熱処理して、ターゲットの純度が3N5以上であり、当該ターゲット組織における平均結晶粒径を1〜20mmに調整し、これを切り出してターゲットとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エルビウム(Er)は希土類元素の中に含まれるものであるが、鉱物資源としては混合複合酸化物の形で地殻に存在する。希土類元素は比較的希(まれ)に存在する鉱物から分離されたので、このような名称がついたが、地殻全体からみると決して希少ではない。
エルビウムの原子番号は68、原子量167.3の灰色の金属であり、六方細密構造を備えている。融点は1530°C、沸点2860°C、密度9.07g/cmである。空気中では表面が酸化され、水には徐々にとける。また、酸に可溶である。耐食性及び耐磨耗性に優れており、高い常磁性を示す。高温で酸化物(Er)を生成する。希土類元素は、一般に酸化数3の化合物が安定であるが、エルビウム(Er)も3価である。
【0003】
最近では、LSIの微細化が進み、45nm以下の細線化のプロセスでは、ゲート絶縁膜にはHigh−K材が、またゲート電極にはメタルゲートの導入が検討されている。しかし、メタルゲートの候補材の中には仕事関数が適さないという問題があるものが多い。ここで、メタルゲートにErやYb、Dyなどの希土類金属を添加することにより、仕事関数を制御できるという報告があり、注目されている材料である。
【0004】
希土類金属を添加する方法としてスパッタリングが挙げられる。スパッタリングを行うためにはターゲットが必要となるが、エルビウム(Er)は室温では脆弱な材料であることから、室温で塑性加工を行ってターゲットを製造することができないという問題がある。また、エルビウムは化学的に活性な材料で大気中の酸素、水分、炭酸ガスとの反応が顕著であることから熱間での塑性加工も困難であった。
【0005】
このようなことから、スパッタリング用エルビウムターゲットを作製するには、溶解法で作製したインゴットから円板状に切り出すか、あるいは溶湯を円板状に直接鋳込む方法がなされてきた。しかし、上述のように室温で脆弱な材料であるため、φ200mm以上の材料を作製することが困難であった。
さらに、溶解インゴットから切り出したターゲットあるいは円板状に鋳込んだターゲットの場合、冷却時の温度勾配により、外周と中心近傍での結晶粒径に大きな差異が生じるため、スパッタリング膜のユニフォーミティが悪いという問題があった。
【0006】
しかし、電子部品として利用するというようなことは、最近の考えであり、従来はそれほど着目されてきた金属とは言えない。したがって、エルビウムの実用化に向けた文献は多くはない。電子部品として使用する以上、エルビウムターゲットの高純度化も当然必要となるが、ターゲットの製造工程で酸素等の不純物が混入するという問題があることから、本格的にターゲットの製造工程を含めて対策が採られた例がない。
また、エルビウムターゲットに含有される不純物の中で、特に問題となる元素について検討され又は調査された例もない。
希土類金属の抽出という中で、その一部にエルビウムが挙げられている程度であるが、参考となる文献を次に紹介する。
【0007】
Sm、Eu、Ybの酸化物粉末とミッシュメタルとを混合後ブリケット状とし、真空熱還元法によりミッシュメタルを還元材としてSm、Eu、Ybの希土類元素を製造する方法で、ミッシュメタルを予め水素化処理して粒粉状の水素化ミッシュメタルとし、これを混合してブリケット状にして、ミッシュメタルの粒粉状化工程の酸化燃焼を防止するという技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、還元材であるミッシュメタルの利用に工夫があるが、さらに高純度化を達成しようとするものではなく、高純度化に制限があるという問題がある。
【0008】
希土類のハロゲン化物をカルシウム又は水素化カルシウムにより還元し、得られた希土類金属とスラグを分離する際に、スラグ分離治具を溶融したスラグ中に入れ、スラグを凝固させて、この治具と共にスラグを除去する技術が提案されている。また、この希土類としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウムが選択されている(例えば、特許文献2参照)。この技術は、スラグの除去が十分でないので、高純度化を達成することが難しいという問題がある。
【0009】
希土類金属のフッ化物原料に還元剤を添加して高温加熱する熱還元法により希土類金属の製造方法であり、原料として希土類金属のフッ化物とフッ化リチウムの混合組成物又はこれにフッ化バリウム、フッ化カルシウムの1種以上を添加する提案がある。この場合、溶融塩電解浴を使用することができるという提案があり、これによって酸素含有量が1000ppmとなるということが開示されている(例えば、特許文献3参照)。この技術は溶融塩電解浴の利用を基本とするものであり、複雑な工程が必要であり、また酸素除去の効果も十分ではないという問題がある。また、使用するリチウム、バリウム、カルシウム等が不純物として随伴する問題もある。
【0010】
希土類金属のフッ化物、フッ化リチウムの混合組成物又はこれにフッ化バリウム、フッ化カルシウムの1種以上を添加した混合組成物と、希土類金属を混合し、加熱溶融して希土類を取り出すもので、希土類には熱還元した市販のものを使用し、混合組成物としては、希土類金属と鉄族遷移金属との合金製造用の溶融塩電解溶媒浴を使用する提案がある。
これによって酸素含有量が300ppm以下であり、カルシウム、リチウム、フッ素などの不純物が少ない高純度希土類金属を得ることが開示されている(例えば、特許文献4参照)。この技術も、上記と同様に溶融塩電解浴の利用を基本とするものであり、複雑な工程が必要であり、また酸素除去の効果も十分ではないという問題がある。また、使用するリチウム、バリウム、カルシウム等が不純物として随伴する問題もある。
【0011】
不純物であるTa含有希土類金属にMg又はZnを加えて、るつぼ内で溶解し、凝固させた後、るつぼ底部に存在する高Ta含有部分を除去し、低Ta含有部分を真空蒸留して高純度希土類を得る精製方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、これは、添加する金属が不純物として随伴する問題があり、またTaの除去も十分でないので、高純度化のレベルは低いという問題がある。
【0012】
上記の文献に示すように、エルビウムの精製効果は必ずしも十分ではなく、特に酸素の低減化を図るものは少なく、低減化を図っても十分ではないという問題がある。また、溶融塩電解を使用するものは工程が複雑となり、また精製効果が十分でないという問題がある。このように、高融点金属であり、蒸気圧が高く金属溶融状態での精製が難しいエルビウムを高純度化する技術については、効率的かつ安定した生産方法がないというのが現状である。
【0013】
【特許文献1】特開昭61−9533号公報
【特許文献2】特開昭63−11628号公報
【特許文献3】特開平7−90410号公報
【特許文献4】特表平7−90411号公報
【特許文献5】特開平8−85833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングを効率的かつ安定して提供できる技術及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングを得るためには、従来の鋳造品を原材料として、切り出したターゲットを使用することでは限界があることが分かった。
そして、溶解したインゴットを、さらに鍛造加工して得たターゲットが、品質に優れたターゲットとすることができるとの知見を得た。これが本願発明の基本であり、ターゲットに必要とされる条件については、優先順位があり、ターゲットの具体的用途から、その最適条件を適宜選択することができる。
【0016】
1)エルビウムスパッタリングターゲットは、鍛造及び熱処理を施して作製したエルビウムスパッタリングターゲットである。このエルビウムスパッタリングターゲットで、ユニフォーミティが良好であるスパッタリング膜を得るためには、エルビウムターゲットの純度が3N5以上で、かつターゲットの組織において観察される結晶の平均結晶粒径を1〜20mmに調整することが重要である。なお、この場合、エルビウムターゲットの純度3N5以上については、ガス成分である酸素及び炭素を除く純度である。
【0017】
このような観点で、エルビウムターゲットの組織の調整を図ったものは、従来技術では存在しない。平均結晶粒径1mm未満の調整は非常に難しいので、下限値を1mmとした。また平均結晶粒径が20mmを超えると、ユニフォーミティを良好にするという目的を達成できないので、上限値を20mmとした。なお、この鍛造エルビウムターゲットは、後述する製造条件において達成できるものである。
【0018】
2)前記エルビウムスパッタリングターゲットの平均結晶粒径については、さらに3〜15mmとすることが望ましい。これによって、スパッタ膜のユニフォーミティをさらに良好とする効果がある。
3)また、前記エルビウムスパッタリングターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性が、±70%以内であることが望ましい。鍛造品であっても、ターゲットの中心部と周辺部では結晶粒径の大小に分布があり、この分布に一定の範囲に収めることが、スパッタ膜のユニフォーミティをさらに高めることが可能となる。
4)前記エルビウムスパッタリングターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性を±50%以内とすることが望ましい。これも上記3)と同様の理由によるものであり、さらに品質を向上させることができる。
【0019】
5)さらに、本願発明のエルビウムスパッタリングターゲットは、ターゲット中の酸素含有量を100wtppm以下、炭素含有量を150wtppm以下とすることが望ましい。
ターゲット中に含有されるガスで成分としての酸素及び炭素は、スパッタリング成膜時にスプラッシュ又はパーティクルを発生させる原因となるからである。
【0020】
6)エルビウムスパッタリングターゲットは、ターゲット中のタングステン及びタンタルの含有量をそれぞれ100wtppm以下とするのが望ましい。
7)さらに、好ましくはタングステン及びタンタルの含有量をそれぞれ20wtppm以下とすることである。
【0021】
8)本願発明のエルビウムスパッタリングターゲットは、ターゲットの径をφ300mm以上とすることが可能であることが、特徴の一つである。
【0022】
9)本願のエルビウムスパッタリングターゲットの製造に際しては、真空鋳造したインゴットを、1100〜1200°Cの範囲の温度で恒温鍛造し、次にこの鍛造したターゲット素材を800〜1200°Cの温度で熱処理して、ターゲット組織における平均結晶粒径を1〜20mmに調整し、これを切り出してターゲットとすることができる。
【0023】
10)さらに、前記ターゲットの原料となる純度3N5の高純度エルビウムインゴットは、粗原料である純度3N以下の酸化エルビウムと還元金属を混合し、1500〜2500°Cの温度に加熱エルビウムの還元と蒸留を行うことにより製造することができる。
以上の製造方法により、すなわち、高純度のインゴットを製造し、そのインゴットの鍛造条件及び熱処理条件を目的とするターゲットの組織を得るように、任意に変えることにより、前記ターゲットの全てが製造可能である。本願発明は、これらを全て包含する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングを効率的かつ安定して提供できるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、高純度化用のエルビウム原料として、純度3N以下の粗エルビウム酸化物の原料を使用することができる。これらの原料は、希土類元素を除き、主な不純物として、Na、K、Ca、Mg、Fe、Cr、Ni、O、C、N等が含有されている。
粗酸化エルビウムを還元性の金属と混合し、真空中1500〜2500°Cに加熱し還元する。還元性の金属としては、蒸気圧が低く還元力が高いイットリウム(Y)金属が有効であるが、これ以外にランタン(La)等の還元性金属を使用することも可能である。蒸気圧が低く還元力が高い金属であれば、その使用に特に制限はない。
【0026】
酸化エルビウムの還元の進行と共に、エルビウムが蒸留され純度が向上したエルビウムがコンデンサ部に貯留する。この蒸留物を坩堝で溶解し、凝固させてインゴットとする。この溶解及び凝固の操作は、不活性雰囲気中で行うのが良い。これによって、酸素含有率の上昇を抑制することができる。真空中で溶解・凝固の操作を行うこともできるが、歩留まりが悪くなる傾向があるので、上記の通り不活性雰囲気で行うのが望ましいと言える。しかし、真空中での操作を否定するものではない。
【0027】
このようにして、ガス成分を除いた純度が3N5以上の高純度エルビウムを製造することができる。なお、上記において固有の精製方法を示したが、本願発明においては、純度が3N5以上の高純度エルビウムであれば、特に精製方法に制限を有するものではない。
また、ガス成分を除いた純度が3N5以上とするのは、ガス成分は除去が難しく、これをカウントすると純度の向上の目安とならないからである。また、一般に他の不純物元素に比べ、多少の存在は無害である場合が多いからである。
【0028】
本願のエルビウムスパッタリングターゲットの製造に際しては、原料となる純度が3N5以上の高純度エルビウムを真空鋳造し、この鋳造インゴットを、1100〜1200°Cの範囲の温度で恒温鍛造する。次にこの恒温鍛造したターゲット素材を800〜1200°Cの温度で熱処理して、鍛造組織の平均結晶粒径を1〜20mmに調整する。
この鍛造品をさらに切削・仕上げ加工(研磨)等の加工を行い、当該ターゲット組織において観察される結晶の平均結晶粒径が1〜20mmであるエルビウムスパッタリングターゲットを得る。
【0029】
従来の鋳造ターゲットでは、結晶粒径がターゲットの周辺と中心部で大きく異なるため、スパッタ膜のユニフォーミティが著しく悪いという問題があったが、本願発明の鍛造品はこれを解決するものである。
ターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性についても、スパッタ膜のユニフォーミティに影響を与える。ターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性については、±70%以内であること、さらにはターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性が、±50%以内であることが望ましい。
ターゲットは、その目的に応じて、酸素や炭素等ガス成分又は不純物レベルを調整することも重要である。しかし、従来の大きな欠点であったスパッタ膜のユニフォーミティを解決する観点から、これらに共通して必要とされるのはターゲットの結晶粒径の調整である。すなわち、酸素や炭素等ガス成分又は不純物レベルを犠牲にしても、大きな欠点であったスパッタ膜のユニフォーミティを優先させることが必要であったからである。したがって、ターゲットの結晶粒径の調整は、第一義的なものであることを知るべきである。
【0030】
本願発明のエルビウムスパッタリングターゲットは、ガス成分、特に酸素及び炭素が混入し易く、ターゲット中に、酸素が100wtppm、炭素が150wtppmを超えるような場合には、スパッタリング中に酸素及び炭素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなるからである。また、酸化物又は炭化物は、微量でもスパッタリング成膜時にパーティクルを発生させる原因となる。
このパーティクル発生は、その量が少ない段階では品質に大きく影響を与えるものではないが、その量が多くなると、同様にスパッタ膜の品質を悪化させる原因となる。前記結晶粒径の調整とこのガス成分の制限により、さらに良好な成膜が可能となる。また、エルビウムをメタルゲート膜に利用する場合には、成膜後の性質に影響を少なからず与えるので、酸素及び炭素については、極力制御することが望ましいことは言うまでもない。
ターゲット中の酸素含有量を調整する場合には、100wtppm以下とすることが望ましい。また、炭素含有量を調整する場合には、150wtppm以下とすることが望ましい。いずれも、上記数値を超える場合には、調整の効果が現れないからである。
【0031】
エルビウムスパッタリングターゲット中のタングステン及びタンタルの含有量をそれぞれ100wtppm以下とするのが望ましく、さらに好ましくはタングステン及びタンタルの含有量をそれぞれ20wtppm以下とすることである。
タングステン及びタンタルは、一般にるつぼ材料として使用されるものである。このため、希土類の材料の溶解において、無意識に混入を認めてしまうケースが多い。しかし、タングステン及びタンタルの過剰な混入は、パーティクル発生の原因となり、また場合によっては、膜の抵抗値が変わってしまうということすらある。
これを防止するためには、タングステン及びタンタルの含有量をそれぞれ100wtppm以下とするのが望ましい。
【0032】
本願発明のエルビウムスパッタリングターゲットは、ターゲットの径をφ300mm以上とする。この要件は、一見普通の条件に見えるかも知れない。しかし、従来のエルビウムスパッタリングターゲットは鋳造でしか製造できず、またこの鋳造品は上記に述べた通り、粒径のばらつきが大きく、またポアが形成され、その弊害がターゲットの径大きくなるに従って顕著になるため、事実上使用及び製造不能であった。
しかし、本願発明は、鍛造ターゲットとすることにより、ターゲットの径をφ300mm以上とすることが可能となったのであり、従来では存在しなかったターゲット技術である。決して軽んずべき問題ではない。また、本願発明のターゲット径の上限に制限はない。スパッタリング装置に適合するサイズの要求があれば、その製造は容易である。本願発明はこれを包含するものである。
【0033】
さらに、この高純度ターゲットを用いてスパッタリングすることにより高純度エルビウムを、基板上に成膜することができる。基板上の膜はターゲットの組成が反映され、高純度のエルビウム膜を形成できる。そして、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングを効率的かつ安定して提供できるという効果を有する。
【0034】
メタルゲート膜としての使用は、上記高純度エルビウムの組成そのものとして使用することができるが、他のゲート材と混合又は合金若しくは化合物としても形成可能である。この場合は、他のゲート材のターゲットとの同時スパッタ又はモザイクターゲットを使用してスパッタすることにより達成できる。本願発明はこれらを包含するものである。不純物の含有量は、原材料に含まれる不純物量によって変動するが、上記の方法を採用することにより、それぞれの不純物を上記数値の範囲に調節が可能である。
【実施例】
【0035】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
【0036】
(実施例1−10)
本発明は、エルビウム原料として、2Nの粗酸化エルビウム(Er)を使用した。この原料に含まれる不純物を、表1に示す。次に、これを還元性の金属であるイットリウム(Y)と混合し、真空蒸留装置を使用して、真空中1600°Cに加熱し還元した。酸化エルビウムの還元の進行と共に、エルビウムが蒸留され純度が向上し、エルビウムがコンデンサ部に貯留した。
蒸留熱還元反応は、次の通りである。
Er(固体)+2Y(固体)→2Er(気体)+3Y(固体)
上記コンデンサに貯留したエルビウム蒸留物から10kgを取り出し、CaO坩堝を使用し、Ar雰囲気中で溶解し、凝固させてインゴットとした。この結果、4Nの純度のインゴットを得た。
【0037】
次に、このインゴットを1150°Cの恒温下で鍛造した(90%のアプセット鍛造)。次に、このインゴットを800〜1200°Cで熱処理を行った。
そして、このインゴットを切り出し、かつ研磨処理して、500mmφのターゲットを、平均結晶粒径は1〜20mmの範囲で、1、3、5、・・17、20mmまでの10ランクの種類のターゲットを製造した。
この場合、いずれのターゲットも粒径の面内均一性は±70%以内にあったが、この区別は特にしなかった。なお、参考のために平均結晶粒径25mmのターゲットを作製した。
また、この場合のターゲット純度は4Nであり、酸素含有量が70wtppm、炭素含有量が20wtppm、タングステン含有量が10wtppm、タンタル含有量が5wtppmであった。この結果を表1に示す。
【0038】
次に、このターゲットをSi基板上にスパッタすることにより、スパッタリング時のパーティクルの発生量及びスパッタリング膜のユニフォーミティを調べた。この結果を同様に、表1に示す。なお、パーティクルの発生量及びユニフォーミティは次のようにして求めた。まず、約10kwhのプレスパッタを行った後、スパッタ成膜を開始し、5kwh毎に5000Åの成膜を行い、ユニフォーミティとパーティクル数を調べた。パーティクルは0.25μm以上のサイズのカウント数である。
ユニフォーミティは膜のシート抵抗の標準偏差σとして評価し、KLA-Tencor社製、OMNIMAP RS75により行った。なお、ユニフォーミティは3σを平均値に対する%で表した値で示す。また、パーティクル数の測定は、KLA-Tencor社製、Surfscan 6420により行った。以下のパーティクルの発生量及びユニフォーミティの調査は、同様に行った。
【0039】
この結果、スパッタリング時のパーティクルの発生量については大差ないが、スパッタリング膜のユニフォーミティは、10.9〜14.5の範囲にあり、良好な結果が得られた。上記のエルビウムターゲットの条件は、平均結晶粒径の差異は別にして、本願発明において最も普通に得られる条件である。なお、平均結晶粒径が25mmである参考例1については、スパッタリング膜のユニフォーミティが18.3と悪い結果となった。
この結果から明らかなように、平均結晶粒径が本願発明の条件を外れた場合には、ユニフォーミティが悪くなるという欠陥を持つことが分かった。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例11〜20)
次に、実施例5の条件、すなわち平均結晶粒径を10mmとし、ターゲット粒径の面内均一性を±70%の範囲で変化させたターゲットについて、同様にSi基板上にスパッタすることにより、スパッタリング時のパーティクルの発生量及びスパッタリング膜のユニフォーミティを調べた。この結果を表2に示す。なお、実施例5のターゲットの粒径の面内均一性は±20%であった。なお、参考例2として、ターゲット粒径の面内均一性が±100%であるものについて調べた。
この結果、ターゲット粒径の面内均一性を±70%の範囲にある実施例11−20のユニフォーミティは10.5〜13.8となり、いずれも良好なスパッタリング膜のユニフォーミティを示した。面内均一性が±50%の範囲、特に±30%の範囲にあるターゲットについては、特に良好な結果を示した。
参考例2については、ターゲット粒径の面内均一性が±100%と、本願発明の条件を外れているが、この場合は、スパッタリング膜のユニフォーミティが20.8となり、実施例11−20に比べてやや悪い結果となった。
【0042】
【表2】

【0043】
(実施例21〜30)
次に、実施例5の条件、すなわち平均結晶粒径を10mmとし、ターゲット粒径の面内均一性が±20%の範囲にあるターゲットについて、酸素含有量が100wtppm以下、炭素含有量が150wtppm以下で展開した場合の、スパッタリング時のパーティクルの発生量及びスパッタリング膜のユニフォーミティを調べた。この結果を表3に示す。なお、参考例3として、酸素含有量が100wtppmを越えるもの、参考例4として、炭素含有量が150wtppmターゲットを超えるものについて調べた。
この結果、酸素含有量が100wtppm以下、炭素含有量が150wtppm以下である実施例21−30は、いずれもスパッタリング時のパーティクルの発生量が0.14〜0.40個/cm2と少なく、また良好なスパッタリング膜のユニフォーミティを示した。
参考例3及び4については、酸素含有量がそれぞれ110、150wtppm、炭素含有量が170、200wtppmと、本願発明の条件を外れているが、この場合は、スパッタリング時のパーティクルの発生量が0.48〜0.75個/cmとなり、実施例21−30に比べてやや多く、悪い結果となった。
【0044】
【表3】

【0045】
(実施例31〜40)
次に、実施例5の条件、すなわち平均結晶粒径を10mmとし、ターゲット粒径の面内均一性が±20%の範囲にあり、酸素含有量が70wtppm、炭素含有量が20wtppm、タングステン含有量が10wtppm、タンタル含有量が5wtppmであるターゲットについて、タングステン含有量を100wtppm以下、タンタル含有量が100wtppm以下で展開した場合の、スパッタリング時のパーティクルの発生量及びスパッタリング膜のユニフォーミティを調べた。この結果を表4に示す。なお、参考例5として、タングステン含有量が100wtppmを越えるもの、参考例6として、タンタル含有量が100wtppmターゲットを超えるものについて調べた。
【0046】
この結果、タングステン含有量が100wtppm以下、タンタル含有量が100wtppm以下である実施例31−40は、いずれもスパッタリング時のパーティクルの発生量が0.14〜0.41個/cmと少なく、また良好なスパッタリング膜のユニフォーミティを示した。
参考例5及び6については、タングステン含有量がそれぞれ110、150wtppm、タンタル含有量が110、150wtppmと、本願発明の条件を外れているが、この場合は、スパッタリング時のパーティクルの発生量が0.50〜0.75個/cmと、実施例31−40に比べてやや多く、悪い結果となった。
【0047】
【表4】

【0048】
(比較例)
従来の鋳造によって、φ250mmのエルビウム板を作製し、これを切削してターゲットとした。炭素含有量:50wtppm、酸素含有量:300wtppm、タングステン含有量:4000wtppm、タンタル:5wtppmであった。ターゲットの径が300φのものは、切削中に亀裂が入るという問題があった。
このターゲットの平均結晶粒径は、中心が2.1mm、R/2が1.3mm、外周が4.5mmで、微細な結晶を有していたが、内部に、大きなポアが確認された。このターゲットを用いてスパッタリングしたところ、スパッタリング時のパーティクルの発生量が1357であり、またスパッタリング膜のユニフォーミティ(3σ)は20.6と著しく悪い結果となった。
【0049】
(実施例の結果の総合評価)
上記実施例については、いずれもパーティクルの発生量が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるという結果になった。実施例については、いずれも径が500mmであるターゲットを用いて、スパッタリング時のパーティクルの発生量及びスパッタリング膜のユニフォーミティを調べたが、径が300mmのターゲット及び径が500mmを超えるターゲットでも同様であった。また、ターゲットの製作時に亀裂が入ることはなく、また鋳造品のようなポアの発生もなく、優れたターゲットが得られた。
また、上記実施例においては、総合的な純度が4Nのターゲットを用いたが、3N5〜5Nのターゲットでも同様の傾向があった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、スパッタリング時のパーティクルの発生が少なく、またスパッタリング膜のユニフォーミティが良好であるエルビウムスパッタリングを効率的かつ安定して提供できるという優れた効果を有し、電子部品材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造及び熱処理を施して作製したエルビウムスパッタリングターゲットであって、ターゲットの純度が3N5以上であり、当該ターゲット組織において観察される結晶の平均結晶粒径が1〜20mmであることを特徴とするエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項2】
平均結晶粒径が3〜15mmであることを特徴とする請求項1記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性が、±70%以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記ターゲットの結晶粒径のスパッタ面内の均一性が、±50%以内であることを特徴とする請求項1又は2記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項5】
上記ターゲット中の酸素含有量が100wtppm以下、炭素含有量が150wtppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項6】
上記ターゲット中のタングステン及びタンタルの含有量が、それぞれ100wtppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項7】
上記ターゲット中のタングステン及びタンタルの含有量が、それぞれ20wtppm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項8】
上記ターゲットの径がφ300mm以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエルビウムスパッタリングターゲット。
【請求項9】
真空鋳造した純度が3N5以上のインゴットを、1100〜1200°Cの範囲の温度で恒温鍛造し、次にこの鍛造したターゲット素材を800〜1200°Cの温度で熱処理して、ターゲットの純度が3N5以上であり、当該ターゲット組織における平均結晶粒径を1〜20mmに調整し、これを切り出してターゲットとすることを特徴とするエルビウムスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
原料である純度3N以下の酸化エルビウムと還元金属を混合し加熱してエルビウムの還元及び蒸留を行う際に、1500〜2500°Cの温度に加熱することにより、純度3N5の高純度エルビウムを製造し、これを真空鋳造したインゴットを用いることを特徴とする請求項9記載のエルビウムスパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2009−1866(P2009−1866A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164007(P2007−164007)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】