説明

エレベータの綱車摩耗量測定装置

【課題】簡単な構成でシーブ溝の摩耗量を正確に計測することができるエレベータの綱車摩耗量測定装置を提供する。
【解決手段】かご8を懸架する巻上ロープ6が巻掛けられる溝部を有する綱車4及び綱車4を回転させるモータ2を有する巻上機と、綱車4の回転量を検知しこの回転量によりかご位置を検知するかご位置検知手段18aと、かご8に設けられた着床検知装置9と、着床検知装置9によって参照される昇降路7内の被参照手段11と、被参照手段11の昇降路位置を記憶する記憶手段17と、昇降路位置及びかご位置により、かご8が予め定められた基準距離を移動したことを検出し、かご8がこの基準距離を走行している間に発生した綱車4の回転量を検知する綱車回転量検知手段19と、この綱車4の回転量により綱車4の溝部の摩耗量を推定演算する算出手段18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータの綱車摩耗量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータは、駆動元である巻上機および綱車(シーブ)と、エレベータかご室と、カウンタウェイト(C/W)と、かごおよびカウンタウェイト両者を繋ぐ複数本のロープとから構成され、各ロープはシーブにより吊持され、シーブの回転運動により乗りかごは上下に走行する。またシーブの外周表面にはロープとシーブ間に摩擦力を発揮させるためのシーブ溝が設けられている。
【0003】
しかしこのシーブに設けられたシーブ溝部は長年に渡るロープとの接触によりだんだんと摩耗していく。摩耗が進むと、ロープとシーブとの摩擦力は低下し、乗りかごとカウンタウェイトとの重量差をシーブ溝部が吸収できなくなる。そうすると、ロープにすべりが生じてしまうため、シーブ溝部の管理は重要な点検項目の1つとなっている。
【0004】
従来、綱車の溝の微細な摩耗量の測定を可能にした綱車の摩耗量測定装置が知られている(特許文献1参照)。図9に示す従来の摩耗量測定装置は、竣工時、特定の階床間をエレベータが走行し、この時の綱車の回転値及びエレベータの累積稼動時間を記憶手段に記憶し、1年後同様の測定を行って回転値を記憶する。演算手段は各回転値から綱車の各直径(有効径)を演算し、摩耗量算出手段が溝の摩耗量を算出し、寿命推定手段が寿命を推定し、有効径からシーブ溝部の残り量が算出される(図9参照)。また、経年変化でシーブの回転半径が小さくなっても、シーブ1回転当たりの走行距離を修正可能なエレベータの位置検出ファクター自動調節装置が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
ところでエレベータの運転においては、エレベータ走行時の加減速度を決められた基準以下とするために、目標階床に到着する前の最終減速時において、減速度が一定値以下になった時点で運転を停止させるといった制御が行われることが多い。
【0006】
この制御においては、制御の目標値が加速度であるため、高さ方向のかご位置は目標位置より毎回多少のずれが生じる。このずれの大きさの度合いは、通常、ホール側の各階床床面の高さに対して、エレベータのかご位置が±数10mm程度である。原理上予め定められた距離を、エレベータが走行したときの巻上モータのモータ軸の回転角から算出し、この距離を用いてシーブ溝の計測(=シーブ有効径の計測)が行われるため、このずれは即計測上の誤差となる。エレベータがある程度長距離を走行する場合、このずれは小さいものと考えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−139644号公報
【特許文献2】特開2004−168531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、1つめの問題点として、従来技術では、エレベータが短距離走行を行う場合、例えば駅舎や低階層の建物にエレベータが裾付けられた場合、シーブ溝の計測値の誤差は無視できないほど大きい。例えば、シーブ径を200mm、乗りかごの移動距離を3m、エレベータ停止時の誤差を50mmと仮定し、人が携帯する測定機器を用いるなどして診断したときの溝部の摩耗量の診断結果では、シーブ溝部が摩耗していなくても1.5mm以上の誤差が生じてしまう。通常、シーブ溝の溝深さ、あるいはアンダーカット付きのシーブ溝での溝底及びロープ外周部間の距離のオーダーは数mm程度(2〜3mm程度)である。このため、シーブ溝の計測値に1.5mm以上の誤差が存在することは致命的である。
【0009】
2つめの問題点として、従来技術では、ロープの経年変化、特に初期伸びの問題が存在する。初期伸びとはエレベータが設置された後、数ヶ月間〜数年に渡ってロープの全長が伸びていく状態を指す。このロープ伸びが生じている間は、ロープの直径は次第に細くなっていく。
【0010】
図10(a)に初期状態のシーブとロープの断面図を示す。図10(b)に経時による変化後の状態の同シーブ及び同ロープの断面図を示す。同図ではシーブの外周面101に形成された溝部102にロープ103が係合している。図10(a)のように、新品時のロープ103の多くは、定格のロープ径より若干太く作られている。そのためシーブ101の外周面に形成されたロープ溝102の溝面から浮いた状態となっている。この状態からエレベータをしばらく運用していくにつれて、乗りかごやカウンタウェイトの積載荷重により張力がロープに掛かり、ロープの直径は次第に細くなっていく。初期伸び状態が終わった時点では、図10(b)のように、ロープ103は、ロープ溝102に正規の位置に収まる。この後ロープの寿命が到来するまでに若干のロープ径の変化(細径化)が引き続き生じるが、この細径化によるロープ径の変化量は同じロープの初期変化時の変化量に比べて小さい。
【0011】
シーブ溝の摩耗診断は、シーブの有効径の計測を元に行われる。シーブの有効径は、シーブ外周面及びロープ外周面の接触部分のうち、シーブ外周方向両端部分に掛かったロープの中心位置間の距離である。初期状態のロープ103が巻掛けられたシーブの状態を初期シーブ状態とすると、この初期シーブ状態においてシーブ溝の摩耗量が0であるにも関わらず、シーブ溝の摩耗が進展していると判断され、図13(b)のようにロープ中心がシーブ中心軸側に変位した状態でロープ103がシーブに巻掛けられていると診断されてしまう。これは診断の誤差の要因となる。
【0012】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑み、簡単な構成でシーブ溝の摩耗量を正確に計測することができるエレベータの綱車摩耗量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を解決するため、本発明の一態様によれば、エレベータの昇降路を昇降するかごと、このかごを懸架する巻上ロープが巻掛けられる溝部を有する綱車、およびこの綱車を回転させるモータを有する巻上機と、この巻上機の前記綱車の回転量を検知し、この回転量により前記かごのかご位置を検知するかご位置検知手段と、前記かごに設けられた着床検知装置と、それぞれこの着床検知装置と対向したときに、前記着床検知装置によって参照される前記昇降路内の複数の被参照手段と、これらの被参照手段の前記昇降路における昇降路位置を記憶する記憶手段と、この記憶手段の前記昇降路位置、および前記かご位置検知手段からの前記かご位置により、前記かごが予め定められた基準距離を移動したことを検出し、前記かごがこの基準距離を走行している間に発生した前記綱車の回転量を検知する綱車回転量検知手段と、この綱車回転量検知手段からの前記綱車の回転量により前記綱車の溝部の摩耗量を推定演算する算出手段と、を備えたことを特徴とするエレベータの綱車摩耗量測定装置が提供される。
【0014】
また、本発明の別の一態様によれば、エレベータの昇降路を昇降するかごと、このかごを懸架する巻上ロープが巻掛けられる溝部を有する綱車、およびこの綱車を回転させるモータを有する巻上機と、この巻上機の前記綱車の回転数に応じたパルス信号を出力する巻上機回転量検知手段と、前記巻上機による駆動とは独立して前記かごの昇降動作に連動して移動するガバナロープ、およびこのガバナロープが巻掛けられるガバナシーブを有するガバナ装置と、このガバナ装置の前記ガバナシーブの回転数に応じたパルス信号を出力するガバナ回転量検知手段と、このガバナ回転量検知手段からの前記パルス信号のパルス数、および前記巻上機回転量検知手段からの前記パルス信号のパルス数の比を計算し、この比から前記巻上機の綱車の溝部の摩耗量を推定演算する算出手段と、を備えたことを特徴とするエレベータの綱車摩耗量測定装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な構成でシーブ溝の摩耗量を正確に計測することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の全体概要図である。
【図2】乗りかごの走行距離の検知方法を説明するための図である。
【図3】図1の算出手段の機能ブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の要部構成図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の全体概要図である。
【図6】図5の算出手段の機能ブロック図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の算出手段の機能ブロック図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置における綱車の有効径の経時的な値の推移を示す線図である。
【図9】従来例の綱車摩耗量測定装置のブロック図である。
【図10】(a)は初期状態のシーブとロープの断面図であり、(b)は経時による変化後の状態の同シーブ及び同ロープの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置について図1乃至図8を参照して説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0018】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置は、予め計測対象として選ばれた二つの階床間を乗りかごに走行させ、これらの階床の乗場床面の間の距離を乗りかごが走行している間のシーブの回転量を検知し、シーブ溝の摩耗量を推定演算する装置である。綱車摩耗量測定装置は、この回転量を用いて巻上ロープが巻掛けられたシーブの有効径を測定し、この有効径により、巻上ロープが嵌合されるシーブ溝の溝面の摩耗量を測定する。
【0019】
シーブ溝の摩耗量とは巻上ロープのロープ径中心がシーブ径方向中心に向かって変位する距離を指す。例えば丸溝あるいはV溝を持つ一本のシーブ溝の摩耗とは、この一本の溝を構成する溝面やこの溝面の底部あるいは溝壁が削られること、及びこれらの丸溝あるいはV溝の一本の溝の両岸部が削られることを指す。アンダーカット付きの一本のシーブ溝では、溝面や溝壁と、この溝面や溝壁の下方に形成されたアンダーカット底部との間を連続させる溝エッジが削られること等を指す。
【0020】
図1は綱車摩耗量測定装置の全体概要図である。図2は乗りかごの走行距離の検知方法を説明するための図である。図3はシーブ溝の摩耗量の算出手段の機能ブロック図である。これらの図中、同じ符号どうしは同じ要素を表す。
【0021】
綱車摩耗量測定装置1は、モータ2のモータ軸3に直結された巻上シーブ4(綱車)と、モータ軸3の回転数や回転角度に応じたパルス信号を出力するパルス発生器5と、それぞれ巻上シーブ4に巻掛けられる複数本(図中1本だけが示されている)の巻上ロープ6と、昇降路7を昇降する乗りかご8と、この乗りかご8に取付けられた着床検知センサ9(着床検知装置)と、乗りかご8が停止する二箇所の階床の各乗場10と、それぞれ昇降路7の側壁に乗りかご8の着床位置に設けられた検出板11とを備えている。
【0022】
乗りかご8のかご室の前面には出入口を開閉するかごドア12が設けられており、かごドア12の前方且つ下方に設けられたかごドア敷居13の下方に着床検知センサ9が取付けられている。
【0023】
巻上シーブ4は巻上ロープ6が巻掛けられる溝部を有する。巻上シーブ4及びモータ2は巻上機を構成する。パルス発生器5にはパルスジェネレータが用いられパルス信号を発生させる。着床検知センサ9は、乗りかご8が乗場10に着床したときに着床検出信号を出力する。着床検知センサ9が着床検知装置として機能する。
【0024】
各検出板11は被参照手段として機能する着床検出板である。各検出板11の板長さは各階床の乗場10の着床ゾーンを表す。これらの検出板11は着床検知センサ9と対向したときに、着床検知センサ9によって参照される。
【0025】
図2(a)に、着床検知センサ9が検出板11と対向したときの昇降路側壁側から見たこれらの着床検知センサ9及び検出板11の側面図を示す。着床検知センサ9は、投光部9a、受光部9b、及びこれらの投光部9a、受光部9bを保持するハウジング9cからなる。投光部9aは例えば蛍光灯や発光ダイオードである。受光部9bは例えば光電管やフォトダイオードである。検出板11は上下方向に板長さを持つ。
【0026】
着床検知センサ9の垂直方向の高さ位置が検出板11の板長さの範囲内である場合、投光部9aが放射する光は検出板11の面にて反射し反射光が受光部9bに入射する。着床検知センサ9の垂直方向の位置が検出板11の板長さの範囲内からずれている位置である場合、投光部9aが放射した光は反射せず反射光が受光部9bに入射しない。
【0027】
着床検知センサ9の対向位置に検出板11が存在する場合、投光部9aから出た光が反射し、反射光が受光部9bに届くため、センサが反応する(オン状態)ようになっている。
【0028】
本実施形態では、シーブ溝の計測時、乗りかご8は第1及び第2の二箇所の停止階床の間を走行している最中のパルス発生器5からのパルス数を綱車摩耗量測定装置1は計測するようにしている。二つの停止階床間で受光部9bがオフの状態である最中のパルス数が計測される。
【0029】
更に綱車摩耗量測定装置1は演算装置14(図1)を有する。演算装置14は例えば制御盤に設けられ、パルス発生器5との間で配線15を介して情報を収受し、乗りかご8との間でテールコード16を介して信号を伝送する。演算装置14は、記憶手段17、算出手段18、かご位置検知手段18a、及び綱車回転量検知手段19を備える。これらの各手段はCPU、ROM、RAMにより実現される。
【0030】
記憶手段17は各検出板11の昇降路7における昇降路位置情報を記憶する。昇降路位置情報は例えば検出板11の識別データである。記憶手段17はシーブ特性データや特定階床間の距離データも記憶する。シーブ特性データとは、シーブ溝部の残り溝が0になった場合の巻上シーブ4のシーブ径を指す。特定階床間の距離データとは、計測に使う二つの階床分の階間距離を指す。
【0031】
かご位置検知手段18aはパルス数をカウントしパルス数を積算することによりかご位置を検知する。かご位置検知手段18aは、モータ2を回転駆動するための制御信号を、エレベータ全体を運行制御する図示しないエレベータ制御装置より取得し、乗りかご8の走行方向に基づいてパルス発生器5からのパルス信号をアップカウント又はダウンカウントし、積算値から乗りかご8のかご位置を検出する。
【0032】
綱車回転量検知手段19は、かご位置情報、及び記憶手段17が記憶する昇降路位置情報や階床距離データにより、乗りかご8が予め定められた距離(基準距離)を移動したことを検出し、乗りかご8が基準距離を走行している間に発生した巻上シーブ4の回転量を計算して出力する。
【0033】
算出手段18は、巻上シーブ4の回転量により巻上シーブ4のシーブ溝部の摩耗量を推定演算する。図3に示すように、算出手段18は、パルス発生器5からのパルス信号のパルス数をカウントするパルス計数器21と、このパルス計数器21からのパルス計数値から、有効径を算出するシーブ有効径算出器22と、このシーブ有効径算出器22による算出結果から巻上シーブ4の残り溝の量を算出するシーブ残り溝算出器23とを備える。
【0034】
一例として、パルス計数器21は、かご位置検知手段18aが有するパルス数のカウント手段と同じか、あるいはこのカウント手段とは別異のカウント手段により実現される。シーブ有効径とは、シーブ溝に一本の巻上ロープ6が巻掛けられた状態において溝及びロープが接触する接触部分のうち、ロープ長方向で両端に位置する部分のロープ径方向中心位置どうしの距離を表す。シーブ残り溝算出器23は巻上シーブ4の新品時の大径φDと、同巻上シーブ4の摩耗後の小径φD′とから算出を行う。
【0035】
このような構成の綱車摩耗量測定装置1によるシーブ溝の摩耗量の計測演算に先立って、エレベータ制御装置は、エレベータの運転モードを、通常モードとは異なる計測用のモードにする。乗りかご8は上側の出発階に動かされ、この出発階から下側の目標階まで、基準距離を下降するように測定準備が行われる。
【0036】
乗りかご8が上側の階床から下側の階床へ移動する場合を考える。エレベータ制御装置は巻上機のモータ2へ指令を出力し、巻上機が動作を開始する。乗りかご8は下降方向に移動を開始する。
【0037】
図2(b)は基準距離を示す図である。同図には、出発階乗場10aから移動し始めた直後の乗りかご8のかご位置と、目標階乗場10bへ着床する直前の乗りかご8のかご位置と、これらの二箇所のかご位置の間の距離Lとが示されている。この距離Lが基準距離である。距離Lは、目標階の検出板11の下端部から出発階の検出板11の上端部に至る間の建物固有の長さである。
【0038】
着床検知センサ9の高さ位置が検出板11の板長さ区間に入っている間、着床検知センサ9はオンを出力し続ける。出発階乗場10a近くの検出板11の下端部を着床検知センサ9が通過した瞬間にこの着床検知センサ9の状態はオフ状態に移行する。
【0039】
その後、乗りかご8は目標階乗場10bの近くまで移動する。今度は乗りかご8は目標階の検出板11の上端部を通過する。この瞬間に着床検知センサ9の状態はオン状態に変化する。距離Lはエレベータの制御などの影響を受ける値ではない。
【0040】
図3を参照してシーブ溝の摩耗量の計算方法を説明すると、エレベータの運転中、パルス発生器5は巻上シーブ4の回転量に応じたパルス信号を発生し続ける。パルス発生器5は一回転当たり所定パルス数のパルス信号を常時発生させている。
【0041】
パルス計数器21は、上側の検出板11の下端と、下側の検出板11の上端との間を乗りかご8が走行している最中のパルス信号列のパルス数をカウントしていく。パルス計数器21は、出発階の検出板11を着床検知センサ9が通過したときに出力されるオフ信号をカウント開始のトリガとする。パルス計数器21は、目標階の検出板11を着床検知センサ9が通過したときに出力されるオン信号をカウント終了のトリガとする。パルス計数器21は、これらのトリガがかかる間のパルス数をカウントする。
【0042】
その後シーブ有効径算出器22は、距離Lを元にシーブ有効径を算出する。シーブ有効径算出器22は停止階床間の距離データを記憶手段17から読出す。
【0043】
シーブ残り溝算出器23はこのシーブ有効径と、記憶手段17から読出したシーブ特性データとから、巻上シーブ4の残り溝の値を算出する。シーブ有効径Dとシーブの残り溝△との計算方法は例えば、以下の計算例により算出できる。
【0044】
シーブ有効径(D)=L/{π×パルスカウント(P)×計数(R)}
残り溝Δ={D−残り溝が0の場合のシーブ径(D')}/2
計数(R)は実質的に巻上シーブ4の一回転当たりのパルス数の逆数を表す値である。
【0045】
巻上シーブ4が摩耗すると、有効なシーブ径が小さくなるため、乗りかご8を一定距離進めるための巻上シーブ4の回転量が増える。巻上シーブ4が新品であるときの巻上シーブ4の回転量よりも、摩耗が生じたときの同巻上シーブ4の回転量が大きい。巻上シーブ4の回転軸に直交する面内で巻上シーブ4を切断したときの横断面円周はシーブ外周である。断面円周の円周長さはシーブ径に円周率を乗じて得られる値に等しい。巻上シーブ4が新品であるときのこの巻上シーブ4のシーブ径よりも、摩耗が生じた後の同巻上シーブ4のシーブ径は小さい。これらのシーブ径の差分をとって2で除することにより残り溝Δが求められる。
【0046】
このようにして算出手段18は残り溝Δを算出し、巻上シーブ4の溝部の摩耗量を得ることができるようになる。従来例による摩耗診断では、シーブ溝の摩耗量が0であるにも関わらずシーブ溝の摩耗を誤検知する場合が存在していたが、綱車摩耗量測定装置1によれば、巻上シーブ4の摩耗量をシーブ回転量で判定するため、簡単な構成でシーブ溝の摩耗量を正確に計測することができるようになる。
【0047】
巻上シーブ4及び従来例によるシーブのいずれも、シーブ外周部にロープ案内用の溝が彫られており、長期間の運転により次第に溝面が摩耗していき、ある程度摩耗が進むと、シーブの交換が必要となる。この判断を行うためには従来例では保守員によるシーブ溝部の定期的な監視が必要であった。本実施形態による綱車摩耗量測定装置1によれば、このシーブ溝部の摩耗量を機械的に推定するための手段が設けられているため、シーブ溝部の摩耗量を常時監視することができるようになる。
【0048】
このように、本実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置によれば、従来例による綱車摩耗量測定装置では実現できない高精度なシーブ残り溝の測定を安価に実現することができるようになる。
【0049】
また、本実施形態では積載率は固定値を用いて計測する。乗りかご8を無積載にした状態で計測を行うことが好ましい。積載率とは、乗りかご8への積載可能な荷重の最大値を100%としたときのこの最大値に対する割合を指す。積載率50%とはこの最大値の半分を、積載率0%とは積載なしを表す。互いに積載条件が異なる複数の状況下で残り溝の計測演算を行うと、積載率が互いに異なる状態の乗りかご8を用いて演算を実行することとなる。積載条件が異なる条件下では、各条件により、巻上シーブ4及び巻上ロープ6間の摩擦条件が変わるため、計測値にばらつきが生じる。このばらつきが生じることを防ぐため、積載を確認するためには乗りかご8に備えられた図示しない荷量検知装置などを利用することが好ましい。
【0050】
また、本実施形態では乗りかご8の下降運転の例を用いて説明したが、測定の原理上、乗りかご8の上昇運転時でも綱車摩耗量測定装置1は乗りかご8を上昇させた計測によって下降運転時に得られた効果と同等の効果を得られる。
【0051】
(変形例)
巻上シーブ4の摩耗量を巻上シーブ4の回転量により判定する場合の基準距離の求め方として、乗りかご8の過巻カムと昇降路側の行過ぎ防止スイッチとが接触するタイミングをパルスカウントのトリガとして用いてもよい。
【0052】
図4は本発明の第1の実施形態の変形例に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の要部構成図である。同図中、既述の符号は上述の要素と同じ要素を表す。ガイドレール24の最上部には行過ぎ防止スイッチ25が設けられており、行過ぎ防止スイッチ25の検出信号は配線27により、制御盤内の演算装置34へ伝送されるようになっている。行過ぎ防止スイッチ25は、乗りかご8のかご枠等に支持された過巻カム26と接触している場合、オン状態となり、過巻カム26と接触しない場合、オフ状態となる。
【0053】
このような構成の綱車摩耗量測定装置1Aにおいて、上昇中の乗りかご8が、最上階の乗場10の着床位置を通り過ぎて昇降路上端部へ向かって移動しようとすると、過巻カム26の上端部が行過ぎ防止スイッチ25に接触し、行過ぎ防止スイッチ25はオン状態にされる。この行過ぎ防止スイッチ25から行過ぎ検出信号が出力され、演算装置34に送出される。計算では、最上階の乗場10の着床位置から行過ぎ防止スイッチ25の高さ位置までの距離は固有であるものとする。
【0054】
パルス計数器21は、最上階の着床位置と、行過ぎ防止スイッチ25の位置との間を乗りかご8が行過ぎ走行している最中に発生するパルス信号列のパルス数をカウントする。シーブ有効径算出器22は、最上階の着床位置と、行過ぎ防止スイッチ25の位置との間の距離を元にシーブ有効径を算出する。シーブ残り溝算出器23はシーブ有効径と、シーブ特性データとから、巻上シーブ4の残り溝の値を算出する。第1の実施形態の計算例と同様の計算例により残り溝Δが算出される。
【0055】
行過ぎ防止スイッチ25は、昇降路7の下方終端部にも設けられており、過巻カム26の下端部が行過ぎ防止スイッチ25に接触すると、モータ2に対して乗りかご8が行過ぎたことが演算装置34に送出される。下側の行過ぎ防止スイッチ25を使ってもよい。
【0056】
この変形例では、上下終端部の二つの行過ぎ防止スイッチ25がそれぞれ位置参照用の被参照手段として機能している。過巻カム26は乗りかご8が最上階又は最下階を行き過ぎたときに行過ぎ防止スイッチ25と接触する着床検知装置として機能している。
【0057】
この変形例に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置によれば、短い距離により摩耗量を計算できる。
【0058】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置も、巻上シーブ4の有効径を測定し、巻上ロープ6が嵌合されるシーブ溝面の摩耗量を測定する。
【0059】
図5は本実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置の全体概要図である。図6はシーブ溝の摩耗量の算出手段の機能ブロック図である。これらの図中、既出の符号と同じ符号はそれらと同じ要素を表す。
【0060】
エレベータの綱車摩耗量測定装置30は、巻上機のモータ2のモータ軸3に直結された巻上シーブ4と、パルス発生器5と、複数本(1本が表示されている)の巻上ロープ6と、乗りかご8と、エレベータの過速度を防止するためのガバナ装置31とを備えている。このガバナ装置31は、乗りかご8の移動速度が予め設定された速度よりも速くなった場合、乗りかご8の過速度を検出しエレベータを非常停止させる。
【0061】
ガバナ装置31は、ガバナシーブ32、パルス発生器35、ガバナロープ36からなり、ガバナロープ36の一端部は乗りかご8に設けられたロープヒッチ37で固定されている。ガバナシーブ32にガバナロープ36が巻掛けられる。パルス発生器35にはパルスジェネレータが用いられる。ガバナロープ36は、巻上シーブ4及びモータ2による駆動とは独立して乗りかご8の昇降動作に連動して移動する。
【0062】
ガバナ装置31は、乗りかご8の過速度を検出するために、ガバナシーブ32の回転速度を監視し、この回転速度が定格速度以上になるとエレベータの運転を停止させるための図示しない装置に接続されている。そのため、ガバナシーブ32に対しては、ガバナロープ36によりシーブ溝(図示せず)が摩耗しないような対策と、定期的なエレベータ移動速度、及び回転速度の校正作業とが行われている。
【0063】
更に綱車摩耗量測定装置30は制御盤内に演算装置38を設けている。演算装置38は、記憶手段39、巻上機回転量検知手段40a、ガバナ回転量検知手段40b、及び算出手段40を備える。
【0064】
記憶手段39は巻上シーブ4のシーブ特性データと、ガバナシーブ32のシーブ特性データとを記憶する。巻上シーブ4のシーブ特性データとは、巻上シーブ4のシーブ溝部の残り溝が0になった場合の巻上シーブ4のシーブ径を指す。ガバナシーブ32のシーブ特性データとは、ガバナシーブ32のシーブ溝部の残り溝が0になった場合のガバナシーブ32のシーブ径を指す。
【0065】
巻上機回転量検知手段40aはパルス発生器5からのパルス信号をカウントしパルス数を出力する。
【0066】
ガバナ回転量検知手段40bは、パルス発生器35からのパルス信号をカウントしパルス数を出力する。パルス発生器35からはガバナシーブ32の回転量に応じたパルス信号が出力され続ける。
【0067】
算出手段40は、乗りかご8が一定距離を走行している間のこれら両者のパルス数の比を計算し、この比から巻上シーブ4の溝部の摩耗量を推定演算する。
【0068】
図6に算出手段40の機能ブロックの一例を示す。算出手段40は、パルス計数器21と、パルス発生器35からのパルス信号のパルス数をカウントするパルス計数器42と、これらのパルス計数器21及びパルス計数器42からの各パルス計数値から、巻上シーブ4の有効径を算出するシーブ有効径算出器43と、このシーブ有効径算出器43による算出結果から巻上シーブ4の残り溝の量を算出するシーブ残り溝算出器44とを備える。これら以外の構成は第1の実施形態の例と実質同じである。
【0069】
このような構成の綱車摩耗量測定装置30が計測演算に先立ち、乗りかご8が上階まで移動する。乗りかご8が、上側の階床の出発階乗場10aから下側の階床の目標階乗場10bへ移動する場合を考える。エレベータ制御装置41の指令により巻上機のモータ2が動作を開始する。
【0070】
パルス発生器5、35内に示すように、乗りかご8が上側の乗場10aから下側の目標階乗場10bまで移動する間、モータ2のモータ軸3に取付けられたパルス発生器5と、ガバナ装置31のパルス発生器35とからそれぞれパルス信号を個別に発生させる。
【0071】
綱車摩耗量測定装置30は、演算装置38が一定時間内の両者のパルス発生量の比をとることにより巻上シーブ4の摩耗量を計算する。具体的な手段としては、パルス計数器21及びパルス計数器42がともにエレベータ制御装置41から発せられる制御信号をトリガにする。パルス計数器21、42は、エレベータ運行開始のタイミングと、目標階乗場10bに乗りかご8が到着する直前に巻上機ブレーキ(図示せず)を掛けたタイミングとの二つをトリガにする。パルス計数器21、42はそれぞれこれらの各トリガがかかる間のパルス数をカウントする。
【0072】
その後シーブ有効径算出器43は、二種類両者のパルス計数値と、記憶手段39からのガバナシーブデータとを元にシーブ有効径を算出する。
【0073】
シーブ残り溝算出器44はこのシーブ有効径と、記憶手段39からのシーブ特性データとから、巻上シーブ4の残り溝を算出する。シーブ有効径Dとシーブの残り溝Δとの計算方法は例えば、以下の計算例を用いて算出できる。
【0074】
シーブ有効径(D)={ガバナ側のパルス計数値(P1)−巻上機側のパルス計数値(P)}×ガバナの直径(D1)
残り溝(Δ)={D−残り溝が0の場合のシーブ径(D')}/2}
このように、本実施形態による綱車摩耗量測定装置の計測方法では、巻上シーブ4のシーブ有効径の計算は二つのパルス発生器5、35の各出力値の比により求められる。第1の実施形態で行われているような二つの階床間の距離Lを厳密に求めずに、シーブ有効径を算出できる。
【0075】
また、本実施形態では例えば第2階を出発階としこの階をスタートしたときから下階床の乗場10への到着時までの間に発生したパルスをカウントしていたが、二つのパルス発生器5、35の各出力値の比により巻上シーブ4のシーブ有効径を計算するので、どのタイミングでパルスの計数を開始してもシーブ有効径を求められる。異なるタイミングでパルス計数をカウントした場合、異なるタイミングで得られた計測結果の間で値に違いはない。
【0076】
尚、記憶手段39に記憶されるガバナシーブデータは、定期点検等でガバナシーブ32の直径がすり減っていることが判明した場合、このガバナシーブ32の経時後の直径を再度記憶手段39に書込むことによって修正することができる。
【0077】
また、本実施形態では乗りかご8の積載率は固定値(無積載時の積載率は0%など)を用いて計測する。互いに積載条件が異なる複数の状況下で残り溝の演算を行うと、巻上シーブ4及び巻上ロープ6間の摩擦条件が変わる。このため、計測値にばらつきが生じることを防ぐため積載条件は同じであることが好ましい。積載率を確認するためには乗りかご8に備えられた荷量検知装置などを利用することができる。
【0078】
また、本実施形態では乗りかご8の下降運転の例を用いて説明したが、測定の原理上、乗りかご8の上昇運転時でも綱車摩耗量測定装置30は下降運転時に得られた効果と同様の効果を得られる。
【0079】
本実施形態では、第1の実施形態で必要な二箇所の乗場床面の間の正確な距離を予め測定する必要がない。このため、距離Lを測定し、この距離Lのデータを演算用のメモリに登録するといった第1の実施形態の例で必要な作業が不要となる。
【0080】
本発明のこの実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置によれば、作業員への負担を少なくすることができ、かつ精度の劣化を招かずに摩耗量を測定できるようになる。
【0081】
(第3の実施形態)
上記第1の実施形態、変形例、及び第2の実施形態において、綱車摩耗量測定装置1、30に、有効径のデータを補正する機能を設けてもよい。本発明の第3の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置は、巻上シーブ4の有効径を測定し、巻上ロープ6が嵌合されるシーブ溝面の摩耗量を測定する。
【0082】
図7は本実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置におけるシーブ溝の摩耗量の算出手段の機能ブロック図である。制御盤内には図示しない演算装置が設けられ、この演算装置は、巻上ロープ6のロープ径を記憶する機能と、パルス発生器5、35の一方又は両方からのパルス信号列によりパルス数を計測する機能と、巻上シーブ4の溝部の摩耗量を推定演算する機能とを有する。図7の算出手段45は、巻上シーブ4の回転量によりこの摩耗量の推定演算を行う。
【0083】
算出手段45は、パルス計数値から、巻上シーブ4の有効径を算出するシーブ有効径算出器46と、このシーブ有効径算出器46により算出された有効径を補正するシーブ有効径補正器47と、シーブ有効径算出器46による算出結果から巻上シーブ4の残り溝の量を算出するシーブ残り溝算出器48とを備える。記憶手段39aは定期点検時のデータなど点検員による測定器具類を用いて計測した巻上ロープ6のロープ径を記憶する直径保存手段である。
【0084】
これら以外の構成は第1の実施形態の例、第2の実施形態の例と実質同じである。
【0085】
このような構成の本実施形態に係る綱車摩耗量測定装置において、シーブ有効径算出器46は、予め、第1又は第2の実施形態の綱車摩耗量測定装置による算出方法、もしくはその他の方法により、巻上シーブ4の有効径を計算し、記憶手段39などのRAMに書込みむ。この時点でのシーブ有効径のデータはロープ径の変化分を反映したものとはなっていない。
【0086】
各エレベータは保守員によって定期的に点検を受けている。本実施形態では、綱車摩耗量測定装置の摩耗量の演算に先立って、保守員の点検の際、巻上ロープ6のロープ直径を計測し、このロープ直径の計測結果をロープ径データとして記憶手段39aに格納しておくようにする。記憶手段39aはこれから実行しようとする摩耗量の演算よりも以前の過去に、点検員が点検すること等により計測された巻上ロープ6のロープ直径データを保存する。算出手段45はこのロープ直径データにより摩耗量を補正するようにする。
【0087】
シーブ有効径補正器47は、前述の綱車摩耗量測定装置1、30あるいはその他の方法により計算された巻上シーブ4のシーブ有効径に対し、記憶手段39aに記憶された点検時のロープ径のデータを加味してシーブ有効径を補正する。補正後のシーブ有効径D'の計算方法は例えば、以下の計算例を用いて算出される。この計算はシーブ有効径補正器47により行われる。
【0088】
補正後のシーブ有効径D'=補正前のシーブ有効径(D)−{初期ロープ径(d)−現在のロープ径(d')}×2
以上のように、本発明のこの実施形態に係る綱車摩耗量測定装置によれば、巻上ロープ6の太さの変化に起因するシーブ残り溝の算出値の誤差をなくすことができる。
【0089】
(第4の実施形態)
巻上ロープ6のロープ径の細径化の変化の度合いは、エレベータの据付け直後の状態と、据付け後に各エレベータ機器が馴染んだ状態とで異なる。一般に、エレベータの据付け直後には巻上ロープ6に初期伸びが生じる。乗りかご8やウエイトの荷重に対して巻上ロープ6の初期伸びが収束して静定するまで時間を要する。本発明の第4の実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置は、巻上ロープ6のロープ径の細径化の変化によって生じる誤差を少なくするものである。
【0090】
この綱車摩耗量測定装置の構成は第1の実施形態の例、第2の実施形態の例と実質同じである。巻上シーブ4の有効径の計測データは、図7の例の記憶手段39a(直径保存手段)に記憶される。この記憶手段39aは巻上ロープ6の経時的なロープ直径データを保存する。
【0091】
エレベータが設置された後のエレベータ初期状態におけるシーブ有効径の決定方法を図8を参照して説明する。
【0092】
図8は巻上シーブ4の有効径の経時的な値の推移を示す線図である。同図の複数個のプロット点(白丸で示されるもの)はいずれも点検によって計測された巻上シーブ4の有効径を表す。これらのプロット点は、第1、第2の各実施形態での綱車摩耗量測定装置による算出方法、もしくはその他の方法により、エレベータ据付け直後の巻上シーブ4の有効径Dを時系列でプロットして得たデータである。新規のロープが取付けられた時点にて一番左のプロット点が得られたとすると、この時点後はある程度の期間に渡って急激なロープ径の細径化の変化が見られる。そのため、シーブ有効径の値は変化していき、短期間内では溝部が摩耗していないときの巻上シーブ4の直径DSに近づく。
【0093】
本実施形態による綱車摩耗量測定装置は、ロープの初期伸びが終了したと判断する条件を決めておき、この条件が成立した時点でのシーブ径Dを初期値として直径保存手段に書込むようにする。条件とは、(1)エレベータを据付けてから、予め定めた運転回数をエレベータが運行した時点、又は据付け後所定年数が経過する時点までの間のシーブ有効径Dの時間変化率が一定値以下となったこと。(2)シーブ有効径Dと直径DSとの差が一定値以下となったこと。(3)(1)及び(2)の両方であること。
【0094】
本実施形態では、綱車摩耗量測定装置が、これらの(1)、(2)、(3)の各条件のいずれかが成立した場合、巻上ロープ6の初期伸びが終了したと判断し、その時点のDを初期値とするようにしている。
【0095】
換言すれば、記憶手段39aは巻上ロープ6の以前のロープ直径データの計測結果を保存しておく。算出手段18、40、45は、新規の巻上ロープが巻上シーブ4に取付けられた後、定期的な計測により時系列に記憶されたロープ直径の計測結果の中から、隣接するロープ直径計測結果の間の変化量が一定値以下になった時点を検出し、この時点でのロープ直径データを巻上ロープ6のロープ径の初期値とする。算出手段18、40、45は、このロープ直径データによりロープ直径の変化に起因する計測値の誤差を測定する。
【0096】
これら以外の構成は第1の実施形態の例、第2の実施形態の例と実質同じである。
【0097】
このような構成の綱車摩耗量測定装置に対して、上記の(1)、(2)、(3)のいずれかの条件を予め決める。ここで条件が成立したかどうかを判定する条件判定手段が綱車摩耗量測定装置内には設けられている。例えば条件(1)を直径保存手段に設定した場合、エレベータが据付けられてから、決まった運行回数をエレベータが運行した時点が到来したときに、据付け後、この時点が到来するまでの間に、シーブ有効径Dの時間変化率が一定値以下となったかどうかを図示しない条件判定手段は判定する。条件判定手段はCPU等からなる。あるいは据付け後所定年数や稼動時間が経過した時点が到来したときに、据付け後、この時点が到来するまでの間に、時間変化率が一定値以下となったかどうかを条件判定手段は判定する。この条件判定手段は、シーブ有効径Dの時間変化率が一定値以下となったと判定すると、ロープの初期伸びが終了したと判断し、条件(1)が成立した時点でのシーブ径Dを初期値として直径保存手段に書込む。この後、綱車摩耗量測定装置は、上記第1、第2の各実施形態の例により摩耗量の推定演算を行う。
【0098】
条件(2)や条件(3)を直径保存手段に設定した場合の綱車摩耗量測定装置の動作も条件(1)の例と実質同じである。
【0099】
以上のように、本発明のこの実施形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置では、図10で説明した従来例のエレベータの据付け直後に見られるロープが正常にシーブ溝に掛かっていない状態を初期値とした場合に生じるシーブ残り溝の算出値の誤差をなくすことができる。
【0100】
(他の実施例)
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0101】
図3、図6の算出手段の機能ブロックの構成は一例であり、算出機能を実現するための構成は種々変更可能である。各演算機能の構成の仕方は変更可能なものであり、この点を変えて実施したに過ぎない発明に対しても本発明の優位性は何ら損なわれるものではない。
【0102】
上記の実施形態では、シーブ溝の溝形状は、U字状の横断面を持つ丸溝や、溝がV字状に切込まれて成るV溝、及びU字状断面の溝の曲面の底部にアンダーカットを設けた溝のいずれでもよい。本発明の実施の形態に係るエレベータの綱車摩耗量測定装置は、いずれの形状の溝の摩耗量も測定することができる。
【0103】
上記実施形態では、有効径は、シーブ溝及び巻上ロープの接触部分のうち、ロープ長方向で両端に位置する部分のロープ中心間の距離であったが、丸溝やV溝では、有効径としてあるいは有効径に代わる径として、巻上ロープが巻掛けられる溝面の底部を周回経路とする一周長を用いてもよい。アンダーカットを有する溝では、有効径としてあるいは有効径に代わる径として、アンダーカットの溝底を周回経路とする一周長を用いてもよい。
【0104】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0105】
1,1A,30…綱車摩耗量測定装置、2…モータ、3…モータ軸、4…巻上シーブ(綱車)、5,35…パルス発生器、6…巻上ロープ、7…昇降路、8…乗りかご(かご)、9…着床検知センサ(着床検知装置)9a…投光部、9b…受光部、9c…ハウジング、10…乗場、10a…出発階乗場、10b…目標階乗場、11…検出板(被参照手段)、12…かごドア、13…かごドア敷居、14,34,38…演算装置、15,27…配線、16…テールコード、17…記憶手段、18,40,45…算出手段、18a…かご位置検知手段、19…綱車回転量検知手段、21,42…パルス計数器、22,43,46…シーブ有効径算出器、23,44,48…シーブ残り溝算出器、24…ガイドレール、25…行過ぎ防止スイッチ(被参照手段)、26…過巻カム(着床検知装置)、31…ガバナ装置、32…ガバナシーブ、36…ガバナロープ、37…ロープヒッチ、39…記憶手段、39a…記憶手段(直径保存手段)、40a…巻上機回転量検知手段、40b…ガバナ回転量検知手段、41…エレベータ制御装置、47…シーブ有効径補正器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路を昇降するかごと、
このかごを懸架する巻上ロープが巻掛けられる溝部を有する綱車、およびこの綱車を回転させるモータを有する巻上機と、
この巻上機の前記綱車の回転量を検知し、この回転量により前記かごのかご位置を検知するかご位置検知手段と、
前記かごに設けられた着床検知装置と、
それぞれこの着床検知装置と対向したときに、前記着床検知装置によって参照される前記昇降路内の複数の被参照手段と、
これらの被参照手段の前記昇降路における昇降路位置を記憶する記憶手段と、
この記憶手段の前記昇降路位置、および前記かご位置検知手段からの前記かご位置により、前記かごが予め定められた基準距離を移動したことを検出し、前記かごがこの基準距離を走行している間に発生した前記綱車の回転量を検知する綱車回転量検知手段と、
この綱車回転量検知手段からの前記綱車の回転量により前記綱車の溝部の摩耗量を推定演算する算出手段と、を備えたことを特徴とするエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項2】
前記複数の被参照手段はそれぞれ前記階床ごとに設置され、前記乗場の着床ゾーンを示す着床検出板であり、
前記着床検知装置は前記着床検出板と対向したときに着床検出信号を出力することを特徴とする請求項1記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項3】
前記複数の被参照手段は前記昇降路内の上下終端部にそれぞれ設置され、前記巻上機に対して前記かごが行き過ぎたことを検出する過巻防止スイッチであり、
前記着床検知装置は前記かごが最上階又は最下階を行き過ぎたときに各過巻防止スイッチと接触する過巻カムであることを特徴とする請求項1記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項4】
前記かご位置検知手段は、前記モータのモータ軸の回転数に応じたパルス信号をエンコードして出力するパルス発生器と、このパルス信号のパルス数をカウントして得たカウント値により前記かご位置を検知する手段とを備えることを特徴とする請求項1記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項5】
エレベータの昇降路を昇降するかごと、
このかごを懸架する巻上ロープが巻掛けられる溝部を有する綱車、およびこの綱車を回転させるモータを有する巻上機と、
この巻上機の前記綱車の回転数に応じたパルス信号を出力する巻上機回転量検知手段と、
前記巻上機による駆動とは独立して前記かごの昇降動作に連動して移動するガバナロープ、およびこのガバナロープが巻掛けられるガバナシーブを有するガバナ装置と、
このガバナ装置の前記ガバナシーブの回転数に応じたパルス信号を出力するガバナ回転量検知手段と、
このガバナ回転量検知手段からの前記パルス信号のパルス数、および前記巻上機回転量検知手段からの前記パルス信号のパルス数の比を計算し、この比から前記巻上機の綱車の溝部の摩耗量を推定演算する算出手段と、を備えたことを特徴とするエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項6】
前記算出手段の推定演算よりも過去の点検によって計測された前記巻上ロープのロープ直径データを保存する直径保存手段を更に備え、
前記算出手段はこのロープ直径データにより前記摩耗量を補正することを特徴とする請求項5記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項7】
前記直径保存手段は過去に計測された前記ロープ直径データを保存し、
前記算出手段は、新規巻上ロープが前記綱車に取付けられた後、定期的な計測により時系列に記憶された前記ロープ直径データのうち、ロープ直径間の変化量が一定値以下になる前記ロープ直径データを抽出し、このロープ直径データを、前記巻上ロープのロープ径の初期値とすることを特徴とする請求項6記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項8】
前記巻上ロープの経時的な前記ロープ直径データを保存する直径保存手段を更に備え、
前記算出手段はこのロープ直径データにより前記ロープ直径の変化に起因する計測値の誤差を測定することを特徴とする請求項6記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。
【請求項9】
前記算出手段は、前記回転量を用いて前記綱車の有効径を算出し、この有効径により前記摩耗量を演算することを特徴とする請求項1又は請求項5記載のエレベータの綱車摩耗量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−195253(P2011−195253A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62859(P2010−62859)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】