説明

エレベーターの薄型巻上機

【課題】ブレーキドラムの高剛性化を図ると共に、特別なものを要することなく制動力の向上を図ることのできるエレベーターの薄型巻上機の提供。
【解決手段】電磁ブレーキ10のブレーキライニング11をブレーキドラム9の外周制動面12に圧接させ、ブレーキドラム及び綱車8の回転を制動するエレベーターの薄型巻上機6において、ブレーキドラムの外周制動面の軸回転方向と直交する幅寸法を、ブレーキドラムの最小厚さ寸法よりも大きくすると共に、ブレーキドラム最小厚さ部位を外周制動面の軸回転方向と直交した投影面内に設け、ブレーキドラムの周縁部19を略T字状断面とし、また、略T字状断面となるブレーキドラムの綱車側突合せ部20の開口角を略鋭角にし、ブレーキドラムの側面から伝う油を溜める油溝とし、さらに、略T字状断面となるブレーキドラムの反綱車側突合せ部22に、モータ回転子21を固定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械室を設けない機械室レスエレベーターに係り、特に、その薄型巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターにあっては、一般に、乗りかごを上下に昇降させるための巻上機やモータの制御装置、或いは乗りかごが過速した際の非常制動に使われる調速機等を、建物最上部に形成した機械室に設置している。しかし、近年、乗りかごの昇降速度が比較的遅いエレベーターにおいては、機械室レスエレベーターと呼ばれる機械室を設けないものが主流となっている。このようなエレベーターの場合、従来は機械室に設置していたもの全てを昇降路内に設置し、巻上機も昇降路内に設置しなくてはならない。そして、このような機械室レスエレベーターの巻上機の形状や設置形態は種々あり、例えば、巻上機を昇降路の最下部、又は最上部で乗りかごの投影面に一部が重なるように設置するもの、或いは昇降路の高さ方向の中間部で、乗りかごと昇降路壁の隙間に設置するもの等がある。また、通常、乗りかごと昇降路壁の隙間は数百mm程度であるため、その隙間に巻上機を設置することを考慮し、扁平形状の巻上機が必要であり、いわゆる薄型巻上機が使用されている。
【0003】
このような薄型巻上機にあって、従来、ブレーキドラムの外周制動面を電磁ブレーキのブレーキライニングで押圧することにより巻上機を制動する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、従来のものにあっては、ブレーキドラムの周縁部が、略L字状断面となっていた。
【0004】
また、機械室レスエレベーターの薄型巻上機は、昇降路と乗りかごの間にある数百mm程度の隙間に、昇降路壁に対面する形で設置されるのが一般的であることから、巻上機をより薄くすることができれば、昇降路断面を縮小することが可能となったり、昇降路内機器のレイアウト自由度を拡大することができる。したがって、薄型巻上機の小型化、特に、巻上機全体の厚さ寸法縮小は、機械室レスエレベーターの価値を高める上で非常に重要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−35121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した特許文献1に挙げられる薄型巻上機では、巻上機の制動力を保障するために必要となるブレーキライニングの押付力に対するブレーキドラムの形状についての検討が十分になされておらず、このため、ブレーキドラムに求められる剛性を確保するため、その厚さ寸法の拡大、ひいてはブレーキの大型化を招いていた。また、乗りかごを駆動する主索や、その主索を駆動する綱車などからブレーキドラム側面へ付着した油等が、回転運動に起因する遠心力によりブレーキドラムの側面を伝って、ブレーキドラムとブレーキライニングの接触面、即ち制動面へ付着するのを防止する構造に関する十分な考慮がなされておらず、このため、巻上機として必要な制動力を確保するため、ブレーキの大型化を図ったり、制動面への油付着防止構造の追加等を行う必要が生じていた。したがって、従来の構造では、薄型巻上機の価値を高める上で重要とされる厚さ寸法の縮小を効果的に行うことができないという課題があった。
【0007】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、ブレーキドラムの高剛性化を図ると共に、特別なものを要することなく制動力の向上を図ることのできるエレベーターの薄型巻上機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、懸垂荷重を支持する筐体と、この筐体に片持ち固定支持された主軸と、この主軸の他端に固定された軸受を介して可回転的に支持されたブレーキドラムと、このブレーキドラムと一体的に回転する綱車と、前記ブレーキドラムの外側に配置される電磁ブレーキとを備え、前記電磁ブレーキのブレーキライニングを前記ブレーキドラムの外周制動面に圧接させ、前記ブレーキドラム及び前記綱車の回転を制動するエレベーターの薄型巻上機において、前記ブレーキドラムの外周制動面の軸回転方向と直交する幅寸法を、前記ブレーキドラムの最小厚さ寸法よりも大きくすると共に、ブレーキドラム最小厚さ部位を前記外周制動面の軸回転方向と直交した投影面内に設け、前記ブレーキドラムの周縁部を略T字状断面としたことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明では、ブレーキドラムの周縁部を略T字状断面とすることで、ブレーキライニングの押付け力を効率良く受け、周縁部の体積及び厚さ寸法が等しい従来のものと比較して、ブレーキドラムを高剛性とすることができる。
【0010】
また、本発明は、略T字状断面となる前記ブレーキドラムの綱車側突合せ部の開口角を略鋭角にし、前記ブレーキドラムの側面から伝わる油を溜める油溝としたことを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明では、ブレーキドラムの側面を伝う油は、ブレーキドラムの回転遠心力により外周制動面方向へと向かうが、巻上機回転時はその遠心力により略T字状構造の綱車側突合せ部に溜まる。一方、停止時、油はブレーキドラム側面、或いは油溝となる綱車側突合せ部内を伝い、綱車側突合せ部下部に溜まるため、部品を新たに追加することなくブレーキドラム側面に付着した油が外周制動面へ到達するのを防止する機能を備え、これによって、制動力の向上を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明は、略T字状断面となる前記ブレーキドラムの反綱車側突合せ部に、モータ回転子を固定したことを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明では、略T字状構造の反綱車側突合せ部の空間に、モータ回転子を配置することによって、筐体とブレーキドラムに囲まれた空間内のデッドスペース縮小が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブレーキドラムの剛性確保を目的とした厚さ寸法拡大や、制動力確保のためのブレーキの大型化が不要になると共に、ブレーキドラムの綱車側の側面を伝わる油が制動面へ付着するのを防止する油受機能を部品追加することなく備えることができ、かつ巻上機内部のデッドスペース縮小を可能とすることができ、これによって、巻上機の効果的な小型化・薄型化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の薄型巻上機が適用されるエレベーター装置の平面図である。
【図2】薄型巻上機の正面図である。
【図3】薄型巻上機の側面図である。
【図4】本発明に係るエレベーターの薄型巻上機の一実施例を示す縦断面図である。
【図5】本実施例におけるブレーキドラム周縁部の拡大図である。
【図6】本実施例におけるブレーキドラムの外周制動面周辺構造の拡大図である。
【図7】本実施例における巻上機回転時の油の動きを説明する正面図である。
【図8】本実施例における巻上機停止時の油の動きを説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るエレベーターの薄型巻上機の実施例を図に基づき説明する。
【0017】
エレベーター装置は、図1に示すように、昇降路1内に、一対のガイドレール2に沿って昇降可能な乗りかご3と、図示しない主索によって乗りかご3に連結されて一対のガイドレール4に沿って昇降可能なつり合いおもり5と、昇降路1と乗りかご3の間にある隙間に設置した薄型巻上機6とが設けられている。この薄型巻上機6は、その詳細構成について後述するが、乗りかご3側に固定側の筐体7を位置させ、この筐体7に対して可回転的な綱車8は昇降路壁側に位置させている。
【0018】
薄型巻上機6は、乗りかご3とつり合いおもり5の間を連結した複数本の図示しない主索が、綱車8に形成した複数の溝部にそれぞれ合致するように巻き掛けられ、綱車8の回転によって主索が駆動されると、乗りかご3とつり合いおもり5がそれぞれのガイドレール2、4に沿って逆方向に昇降するように構成されている。
【0019】
綱車8の乗りかご3側外周部には、図2及び図3に示すように、ブレーキドラム9が一体的に結合され、このブレーキドラム9の乗りかご3側には筐体7が配置されており、筐体7に対してブレーキドラム9は綱車8と同様、可回転的に支持されている。
【0020】
ブレーキドラム9と筐体7との嵌合対向部にはアウタロータ型モータが構成され、その詳細構成について後述するが、このアウタロータ型モータの回転子がブレーキドラム9の周縁部に配置されると共に、アウタロータ型モータの固定子が筐体7の対向位置に配置されている。そして、アウタロータ型モータへの通電によって綱車8及びブレーキドラム9で代表される可動部は一体的に回転駆動されるが、通電が遮断され、筐体7の上下部にそれぞれ配置した同一構成の電磁ブレーキ10のブレーキライニング11をブレーキドラム9の外周制動面12に押圧すると制動する構成となっている。
【0021】
筐体7は、図4に示すように、その中心部に形成したボス部に主軸13を嵌合しており、この主軸13の挿入側に、軸受14を介して綱車8及びブレーキドラム9が一体的に構成される可動側ハウジング15を片持ち支持している。軸受14の端部にはシール材16が配置されて、軸受14の潤滑油が可動側ハウジング15の外部へ漏洩するのを防止している。筐体7の綱車8側には円環状凹部17が形成されており、この円環状凹部17内には環状のモータ固定子18が嵌合固定されている。
【0022】
ブレーキドラム9は、図5にも示すように、その外周制動面12の軸回転方向と直交する幅寸法を、最小厚さ部位23の寸法よりも大きくすると共に、ブレーキドラム最小厚さ部位23を外周制動面12の軸回転方向と直交した投影面内に設け、その周縁部19が略T字状断面となっている。また、略T字状断面となる周縁部19の綱車側突合せ部20の開口角を略鋭角にし、ブレーキドラム9の側面から伝わる油を溜める油溝としている。
【0023】
環状のモータ回転子21は、図6にも示すように、略T字状断面となる周縁部19の反綱車側突合せ部22に固定され、所定の間隙を介して前述したモータ固定子18と対向している。
【0024】
本実施例にあっては、モータ固定子18に交流電流を流すと、周方向に回転変化する磁界が発生するため、モータ回転子21に電磁力が作用し、ブレーキドラム9、可動側ハウジング15及び綱車8は一体的に回転し、綱車8に巻き掛けられた主索を介して乗りかご3及びつり合いおもり5が昇降駆動される。一方、乗りかご3の停止時にはモータ固定子18への通電を遮断すると共に、電磁ブレーキ10を作動してそのブレーキライニング11をブレーキドラム9の外周制動面12へ押圧することにより、ブレーキドラム9、可動側ハウジング15及び綱車8を制動する。このとき、ブレーキライニング11をブレーキドラム9に押圧することによって、ブレーキドラム9の周縁部19には撓みが生じるが、周縁部19の断面を略T字状に形成することで押付力に対する高剛性化が図られており、剛性確保を目的としたブレーキドラム9の厚さ寸法拡大を回避している。
【0025】
また、薄型巻上機6の回転時、ブレーキドラム9の綱車8側の側面に主索や綱車8からの油が付着した場合、図7に示すように、油は回転時の遠心力によりブレーキドラム9側面を外周方向へ伝い、外周制動面12へと向かうが、周縁部19の綱車側突合せ部20の開口角が略鋭角に形成されており、油溝として作用し、油は、薄型巻上機6回転時はその遠心力によりこの綱車側突合せ部20に溜まる。一方、薄型巻上機6が停止すると、綱車側突合せ部20内の油は、図8に示すように、ブレーキドラム9側面、或いは綱車側突合せ部20を伝って下方へ向かい、最終的に綱車側突合せ部20下部に溜まる。この綱車側突合せ部20は外部からの目視が可能であるため、定期点検時などに必要に応じて溜まった油を取り除くことができる。
【0026】
本実施例によれば、ブレーキドラム9の周縁部19を略T字状断面とすることで、ブレーキライニング11の押付け力を効率良く受け、ブレーキドラム9を高剛性とすることができる。また、部品を新たに追加することなくブレーキドラム側面に付着した油が外周制動面12へ到達するのを防止し、制動力の向上を図ることができる。特に、油溝機能を有する部位は綱車8と外周制動面12の間に存在することで効果があるが、その部位より内側に付着した油に対して油溝としての機能を発揮するため、その位置が外周制動面12に近いほどより大きな効果が得られる。本実施例のものは、油溝となる綱車側突合せ部20は必然的に外周制動面12に近接した位置となるため、外周制動面12の油付着防止構造として非常に効果的である。さらに、略T字状構造の反綱車側突合せ部22の空間に、モータ回転子21を配置することによって、筐体7とブレーキドラム9に囲まれた空間内のデッドスペース縮小が可能となる。したがって、薄型巻上機6の効果的な小型化・薄型化を実現することができる。
【0027】
なお、前述した実施例では、アウタロータ型モータを採用した薄型巻上機6を例として説明したが、本発明はこれに限らず、インナロータ型モータを採用した薄型巻上機にも適用することができる。この場合、反綱車側突合せ部の空間に、筐体に支持されたモータ固定子を配置することで、効果的な厚さ寸法縮小が可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 昇降路
2 ガイドレール
3 乗りかご
4 ガイドレール
5 つり合いおもり
6 薄型巻上機
7 筐体
8 綱車
9 ブレーキドラム
10 電磁ブレーキ
11 ブレーキライニング
12 外周制動面
13 主軸
14 軸受
15 可動側ハウジング
16 シール材
17 円環状凹部
18 モータ固定子
19 周縁部
20 綱車側突合せ部
21 モータ回転子
22 反綱車側突合せ部
23 ブレーキドラム最少厚さ部位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸垂荷重を支持する筐体と、この筐体に片持ち固定支持された主軸と、この主軸の他端に固定された軸受を介して可回転的に支持されたブレーキドラムと、このブレーキドラムと一体的に回転する綱車と、前記ブレーキドラムの外側に配置される電磁ブレーキとを備え、前記電磁ブレーキのブレーキライニングを前記ブレーキドラムの外周制動面に圧接させ、前記ブレーキドラム及び前記綱車の回転を制動するエレベーターの薄型巻上機において、
前記ブレーキドラムの外周制動面の軸回転方向と直交する幅寸法を、前記ブレーキドラムの最小厚さ寸法よりも大きくすると共に、ブレーキドラム最小厚さ部位を前記外周制動面の軸回転方向と直交した投影面内に設け、前記ブレーキドラムの周縁部を略T字状断面としたことを特徴とするエレベーターの薄型巻上機。
【請求項2】
略T字状断面となる前記ブレーキドラムの綱車側突合せ部の開口角を略鋭角にし、前記ブレーキドラムの側面から伝わる油を溜める油溝としたことを特徴とする請求項1記載のエレベーターの薄型巻上機。
【請求項3】
略T字状断面となる前記ブレーキドラムの反綱車側突合せ部に、モータ回転子を固定したことを特徴とする請求項1記載のエレベーターの薄型巻上機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100175(P2013−100175A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245647(P2011−245647)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】