説明

エンジンのオイル分離装置

【課題】オイル分離性能を高める場合でもオイルドレーン通路の下端の開口から気液分離室内にブローバイガスが吸い込まれるのを有効に抑制でき、スラッジの発生を有効に抑制できるエンジンのオイル分離装置を提供する。
【解決手段】エンジン内部で発生するブローバイガスを吸気通路に還流させる経路に設けられ、ブローバイガスを気液分離室51に通してそのオイル成分を回収可能に分離するエンジンのオイル分離装置であって、気液分離室51で分離されたオイルを回収するよう気液分離室51の内底壁面51aを形成する底壁部材61と、底壁部材61から鉛直方向下方側に突出し気液分離室51に通じるドレーン通路65を形成する筒状のドレーン通路形成部材62と、を備え、ドレーン通路形成部材62は、ドレーン通路65内のオイルによってドレーン通路65の一部65aが閉塞されるよう、ドレーン通路65の一部65aを残部65bより絞る絞り部63を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのオイル分離装置、特にエンジンの吸気系へのブローバイガスの還流経路上に配されるオイル分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のエンジン(内燃機関)においては、燃焼室からシリンダとピストンの間の隙間を通ってクランクケース内に未燃ガスや排気ガスを含むブローバイガスが漏れ出ることから、大気汚染防止やエンジンオイルの劣化防止等のために、クランクケース内を換気するブローバイガス還元装置が装備されている。
【0003】
このブローバイガス還元装置においては、エンジンのクランクケース内から吸気通路内に還流させる高温のブローバイガスからオイルミスト等の液体分を捕捉し回収するオイル分離装置を備えたものが多用されている。
【0004】
従来のこの種のエンジンのオイル分離装置としては、例えばヘッドカバーとその内下方に配されたバッフルプレートとの間に吸気通路に連通する気液分離室を形成し、バッフルプレートの長手方向(気筒配列方向)の一端側にバッフルプレートに沿った横向き通路およびこれと直交する縦向き通路からなるドレーン部を設けるとともに、バッフルプレートの長手方向の他端側に開口面積の大きいブローバイガス入口部を設けたものがある。この装置では、ドレーン部の近傍の気液分離室内の縦壁部を気液分離用の邪魔板に兼用することで、ドレーン通路を通して気液分離室内に入るブローバイガスからオイルミストを分離するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4075772号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来のエンジンのオイル分離装置にあっては、ドレーン部に形成されるオイルドレーン通路が近接する壁面で囲まれるとともに互い直交する横向き通路および下向き通路を有していたため、両通路の交差部でオイルの流下抵抗が大きくなってしまい、そのオイルの流下抵抗を抑える程度の通路断面積を設定すると、ドレーン部の下端の開口から気液分離室にブローバイガスが吸い込まれ易く、オイル分離性能が低下し吸気系へオイルが持ち去られ、デポジットとなり易い、また、横向き通路および下向き通路の交差部付近にスラッジが生成され易いという問題があった。
【0007】
特に、オイル分離性能の高い気液分離室構造を採用する場合、ドレーン部の下端の開口から気液分離室へのブローバイガスの吸い込み量が多くなるとオイル分離性能が顕著に低下してしまうため、上述のような従来のエンジンのオイル分離装置にあっては、オイルドレーン通路を狭くする必要が生じ、ドレーン通路がスラッジにより閉塞されてしまうおそれがあった。
【0008】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、オイル分離性能を高める場合でもオイルドレーン通路の下端の開口から気液分離室内にブローバイガスが吸い込まれるのを有効に抑制することができ、スラッジの発生を有効に抑制することができるエンジンのオイル分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエンジンのオイル分離装置は、上記目的達成のため、(1)エンジンの内部で発生するブローバイガスを前記エンジンの吸気通路に還流させる経路に設けられ、前記ブローバイガスを気液分離室に通して前記ブローバイガスに含まれるオイル成分を回収可能に分離するエンジンのオイル分離装置であって、前記気液分離室で分離されたオイルを回収するよう前記気液分離室の内底壁面を形成する底壁部材と、前記底壁部材から鉛直方向下方側に突出して前記気液分離室に通じるドレーン通路を形成する筒状のドレーン通路形成部材と、を備え、前記ドレーン通路形成部材は、前記ドレーン通路内のオイルによって前記ドレーン通路の一部が閉塞されるよう、前記ドレーン通路の一部を前記ドレーン通路の残部より絞る絞り部を有することを特徴とするものである。
【0010】
この構成により、ドレーン通路の一部が絞り部によってドレーン通路の残部より絞られていることに加えて、気液分離室でブローバイガスから分離されドレーン通路内に流下するオイルによってドレーン通路の一部が閉塞されることで、ブローバイガスがドレーン通路を通って気液分離室内に流入することが有効に抑制される。したがって、オイル分離性能を高める場合でも、ドレーン通路の残部の通路断面積を十分に大きくすることができ、スラッジの発生を有効に抑制することができる。なお、ここでの絞り部の通路断面積や長さは、ドレーン通路の一部を閉塞するオイルに加えて気液分離室からさらにオイルが流下してくるとき、オイルの自重の増加や気液分離室の圧力とエンジンの内部圧力との差圧の低下等に応じて、ドレーン通路の一部が閉塞される状態でドレーン通路の一部より下方側にオイルがドレーンされるように設定される。
【0011】
上記(1)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(2)前記ドレーン通路の一部が、前記ドレーン通路の下端側に位置する絞り穴を含んで構成され、前記ドレーン通路の残部が、前記絞り穴より上方側に位置する上方側の通路部分を含んで構成されていることが好ましい。
【0012】
この構成により、ドレーン通路の一部より上方側の通路部分の容積を十分に大きくすることができ、ブローバイガスの気液分離室内への流入を有効に抑制するとともに、ドレーン通路がスラッジにより閉塞されることを防止できる。なお、ここにいう上方側の通路部分は、絞り穴の直径の5倍以上の貯留高さまでオイルを貯留可能であるのがよく、ドレーン通路の一部に対し2倍以上大きい通路断面積を有しているのが好ましい。また、絞り穴は、1つの穴でなく、複数の穴で構成されていてもよい。
【0013】
上記(2)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(3)前記気液分離室内の圧力が前記エンジンの内部の圧力より相対的に低くなるとき、前記エンジンの内部の圧力と前記気液分離室内の圧力との予め設定された範囲内の差圧に対して、前記ドレーン通路の一部を閉塞するオイルの表面張力および前記上方側の通路部分内のオイルの自重によって前記ドレーン通路の一部の閉塞状態が維持されるようにすることが好ましい。
【0014】
この構成により、気液分離室内の圧力がエンジンの内部の圧力より相対的に低くなるときの両圧力の差圧がある程度大きくなっても、ドレーン通路の一部を閉塞するオイルの表面張力およびその表面より上方側に存在するオイルの自重が、前記差圧に対抗してブローバイガスの気液分離室内への流入を抑制する方向に作用することで、予め設定された差圧の範囲内でドレーン通路の一部の閉塞状態が確実に維持されることになる。
【0015】
また、上記(3)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(4)前記ドレーン通路形成部材の前記絞り部が、前記上方側の通路部分と前記絞り穴との間に、前記絞り穴に近付くほど前記ドレーン通路の通路断面積を狭める先細り穴を形成しているのがより好ましい。
【0016】
この構成により、ドレーン通路内に流入したオイルが絞り穴まで確実に流下でき、絞り穴がオイルにより閉塞され易くなるとともに、ドレーン通路内にスラッジが形成され難くなる。また、低差圧から高差圧になったときに、オイルが十分溜まるまでは、ドレーン通路の一部を閉塞するオイルの表面張力およびオイルの自重に打ち勝ってブローバイガスがドレーン通路の一部より上方側に流入し得るが、そのような場合に、絞り部の近傍でブローバイガスの剥離が生じ難くなることで、笛吹き音のようなノイズが生じることもない。
【0017】
上記(1)〜(4)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(5)前記底壁部材が、前記エンジンのヘッドカバーに支持されているのがよい。
【0018】
この構成により、オイル分離装置の装着が容易であるとともに、ドレーン通路形成部材を容易に長くして、ブローバイガスに対するドレーン通路の一部のオイルによる閉塞性能を高めることができる。
【0019】
上記(5)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(6)前記絞り部が、前記エンジンに設けられるカムシャフトの回転中心より下方側に位置しているのが好ましい。
【0020】
この構成により、ドレーン通路形成部材をより上下方向に長くでき、ドレーン通路の容積を大きくできる。
【0021】
上記(1)〜(6)の構成を有するエンジンのオイル分離装置においては、(7)前記底壁部材および前記ドレーン通路形成部材がそれぞれ同一の樹脂からなるのが好ましい。
【0022】
この構成により、比較的長いドレーン通路形成部材を有するオイル分離装置を樹脂成型により容易にかつ低コストに製造可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ドレーン通路の一部を絞り部によってドレーン通路の残部より絞り、気液分離室でブローバイガスから分離されドレーン通路内に流下したオイルによってそのドレーン通路の一部を閉塞させるようにしているので、オイル分離性能を高める場合でもドレーン通路の下端の開口から気液分離室内にブローバイガスが吸い込まれることを有効に抑制することができ、スラッジの発生を有効に抑制することのできるエンジンのオイル分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンのオイル分離装置の要部断面図である。
【図2】図1に示す一実施形態のオイル分離装置におけるドレーン通路形成部材の下端部の部分断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るエンジンのオイル分離装置を装備したエンジンの断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るエンジンのオイル分離装置の模式断面図である。
【図5】(a)は本発明の一実施形態に係るエンジンのオイル分離装置におけるドレーン通路形成部材の下端部の変形態様を示すその部分断面図、(b)は同下端部の他の変形態様を示すその部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜図4は、本発明の一実施形態に係るエンジンのオイル分離装置を示している。
【0027】
まず、構成について説明すると、図1〜図4に示す本実施形態のエンジンのオイル分離装置は、図3に示す直列の多気筒内燃機関、例えば4サイクルのガソリンエンジン(以下、単にエンジンという)10に装備されている。
【0028】
このエンジン10は、図3中の上方から順にヘッドカバー11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13、クランクケース14を有しており、シリンダヘッド12とシリンダブロック13の複数のシリンダ13a(図3中には1つのみ図示している)によって、複数の気筒15が形成されている。ここで、ヘッドカバー11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13およびクランクケース14は、エンジン10の外壁をなすブロック(エンジンブロック)を構成するものである。
【0029】
各気筒15にはピストン16がそれぞれ収納されており、詳細は図示しないが、各ピストン16には、クランクケース14内のクランクシャフト17がコネクティングロッド18を介して連結されている。また、クランクケース14の下部にはオイルパン19が設けられており、そこに図示しない潤滑・冷却用のエンジンオイル(以下、単にオイルという)が収容されている。
【0030】
ヘッドカバー11およびシリンダヘッド12の内方には、公知の動弁機構20や点火装置23が収納されており、動弁機構20はクランクシャフト17からの動力を基に駆動されるようになっている。また、エンジン10にはクランクシャフト17の動力を基に駆動される図示しないオイルポンプが設けられており、このオイルポンプによりオイルパン19内からオイルを汲み上げ、動弁機構20のカムシャフト21,22等、あるいはクランクシャフト17の軸受部等の各回転・摺動部を潤滑・冷却するようになっている。
【0031】
各気筒15内でピストン16の図中上方に形成される燃焼室10aには、ピストン16のストロークに応じ、吸気通路31および吸気ポート10bを通して空気が吸入され、燃焼室10a内での燃焼後の排気ガスは、排気ポート10cおよび図示しない排気通路を通してエンジン10の外部に排気されるようになっている。
【0032】
図3に示すように、エンジン10の吸気通路31は、スロットルバルブ32を開閉動作可能に収納するスロットルボデー33と、そのスロットルボデー33の吸気方向両側に設けられた上流側の吸気管34および下流側の吸気管35と、によって形成されている。また、上流側の吸気管34の上流側にはフィルタエレメント36fを有するエアクリーナ36が設けられており、このエアクリーナ36で粉塵等を除去した空気が、上流側の吸気管34内に取り込まれるようになっている。下流側の吸気管35は、サージタンク37と一体に形成され、エンジン10の吸気ポート10bを形成するシリンダヘッド12に締結・固定されている。また、下流側の吸気管35が固定されたシリンダヘッド12の吸気ポート10b付近には、燃料噴射弁24が装着されている。
【0033】
一方、エンジン10の運転中には、燃焼室10aからシリンダ13aとピストン16の間の隙間を通ってクランクケース14の内部空間に未燃焼ガスおよび排気ガスを含むブローバイガスが漏れ出る。そこで、エンジン10には、大気汚染防止、エンジン10の内部でのオイル劣化防止および腐食防止等のために、クランクケース14内を強制的に換気するPCV方式のブローバイガス還元装置が装備されており、そのブローバイガス還流経路中に本実施形態のオイル分離装置50が設けられている。
【0034】
具体的には、エンジン10には、動弁機構20を収納するヘッドカバー11およびシリンダヘッド12の内方空間とクランクケース14の内部空間とを連通させる少なくとも1つの換気通路10vが形成されている。さらに、エンジン10と上流側の吸気管34との間には、スロットルバルブ32より上流側の吸気通路31aからの新気、すなわち新しい空気をエンジン10の内部に直接的に導入する空気導入管41が介装されており、エンジン10と下流側の吸気管35との間には、シリンダブロック13およびクランクケース14の内部で発生するブローバイガスをスロットルバルブ32より下流側の吸気通路31bに還流させるブローバイガス還流管42と、ブローバイガス還流管42内の還流通路を開閉することができるPCVバルブ43と、ブローバイガス還流管42を介したブローバイガス還流経路44の途中に位置するオイル分離装置50と、が介装されている。
【0035】
オイル分離装置50は、ブローバイガス還流管42を介したブローバイガス還流経路44の一部に気液分離室51を形成し、その気液分離室51内でブローバイガス中に含まれるミスト状のオイルを回収可能に捕捉することでブローバイガスからオイル成分を分離するようになっている。
【0036】
このオイル分離装置50の気液分離室51の内部構成自体は、公知の邪魔板を複数設けた屈曲通路構造(例えば、特開2008−121474号公報参照)、あるいは、遠心分離方式の通路構造(例えば、特開2009−68429号公報参照)と同様なものであってよいが、例えば図4に模式的に示すように邪魔板52を有するその通路構造をある程度複雑にしたり遠心分離方式のオイル分離部を複数並列に設けたりしたものである。このオイル分離装置50は、エンジン10の内部で発生するブローバイガスをヘッドカバー11の長手方向の一端側(図4中の右端側)のガス導入口53から気液分離室51に導入し、長手方向の他端側からPCVバルブ43を通してブローバイガス還流管42内に還流させるようになっている。
【0037】
また、オイル分離装置50は、気液分離室51で分離されたオイルを回収するよう気液分離室51の内底壁面51aを形成する底壁部材61と、その底壁部材61から鉛直方向下方側(斜め方向でもよい)に突出して気液分離室51に通じる円形断面のドレーン通路65を形成する略有底円筒状のドレーン通路形成部材62と、を備えている。
【0038】
底壁部材61は、エンジン10のヘッドカバー11により支持されており、例えばヘッドカバー11の一部としてヘッドカバー11に装着されることで、動弁機構20側の空間と気液分離室51とを区画している。あるいは、底壁部材61は、ヘッドカバー11の内方側に位置するようヘッドカバー11に支持されることで、動弁機構20側からのオイルの飛散を制限するバッフルプレートの役割をなすものであってもよいし、ヘッドカバー11の外方側に位置するようヘッドカバー11に支持され、ドレーン通路形成部材62がヘッドカバー11の一部を貫通するものであってもよい。この底壁部材61は、気液分離室51内でのブローバイガスの気液分離によって気液分離室51の内底壁面51a上に流下したオイルを後述するドレーン通路65内に導くように少なくとも内底壁面51aを形成するその上面側が水平面に対し傾斜している。
【0039】
図1および図2に示すように、ドレーン通路形成部材62は、ドレーン通路65内のオイルによってドレーン通路65の一部65aが閉塞されるよう、ドレーン通路65の一部65aをドレーン通路65の残部65bより小径に絞る絞り部63を有している。すなわち、ドレーン通路形成部材62は、ドレーン通路65の主要部となるドレーン通路65の残部65bを形成する略円筒状の筒状部62aと、この筒状部62aより内径が小さくなるように形成された略環状の絞り部63とによって構成されている。
【0040】
より詳細には、ドレーン通路65の一部65aは、ドレーン通路65の下端側に位置する絞り穴65hを含んで構成されており、ドレーン通路65の残部65bは、絞り穴65hより上方側に位置する上方側の通路部分65uを含んで構成されている。また、図2に示すように、上方側の通路部分65uは、絞り穴65hと共に、ドレーン通路形成部材62の下端面62eを基準として絞り穴65hの直径(内径)dの5倍以上のオイル貯留高さhsまで、例えば図1に示すように15〜17倍程度の貯留高さhsまでオイルを貯留可能である。さらに、上方側の通路部分65uは、ドレーン通路65の絞り穴65hの開口面積S1に対し2倍以上、例えば4、5倍程度に大きい通路断面積S2を有している。ここで、絞り穴65hの長さLdは、絞り穴65hの直径dより小さくなっている。また、絞り穴65hの直径dは、例えば3mm程度である。
【0041】
絞り部63は、エンジン10に設けられるカムシャフト21,22の回転中心より下方側に位置しており、この絞り部63によって形成される絞り穴65hの開口面積S1や長さLdは、気液分離室51内でブローバイガス中に含まれるミスト状のオイルがブローバイガスから分離・回収されるときに、底壁部材61に沿ってドレーン通路65内に流下し絞り穴65h内に入るオイルによって絞り穴65hが閉塞され、そのオイルの表面張力により絞り穴65hの閉塞状態が保持されるように設定されている。
【0042】
また、絞り穴65hの開口面積S1や長さLdは、ドレーン通路65の絞り穴65hを閉塞するオイルに加えて気液分離室51からさらにオイルが流下してくるときに、そのオイルの自重の増加や気液分離室51とエンジン10の内部との差圧の変化等に応じて、上方側の通路部分65u内のオイルが徐々に増加する状態と、ドレーン通路65の絞り穴65hより下方側にオイルがドレーンされる状態とが成立するように設定されている。
【0043】
絞り部63は、さらに、上方側の通路部分65uと絞り穴65hとの間に、絞り穴65hに近付くほどドレーン通路65の通路断面積を狭めるロート(漏斗)状の先細り穴65j(先細り絞り穴)を形成しており、先細り穴65jは、絞り穴65hと共にドレーン通路65の一部65aを構成している。そして、少なくともこの先細り穴65jと上方側の通路部分65uとは比較的大きな曲率半径(隅R)を持つ環状湾曲面65kで接続されている。
【0044】
先細り穴65jを形成する絞り部63の内壁面63aは略円錐面状に形成されており、ドレーン通路65の中心軸線65cに対して内壁面63aのなす傾斜角度θは、45度以下に設定されている。すなわち、上端側の環状湾曲面65kの部分を除き、絞り部63の内壁面63aの傾斜角度θは中心軸線65cの方向の各位置で一定である。なお、先細り穴65jを形成する絞り部63の内壁面63aがドレーン通路65の中心軸線65cに対してなす傾斜角度θは、45度以下であるのが好ましいが、それよりわずかに大きくてもよいし、中心軸線65cの方向の各位置で一定でなく変化していてもよい。
【0045】
いずれにしても、絞り穴65hおよび先細り穴65jは、エンジン10の部分負荷運転時のように気液分離室51内の圧力がエンジン10の内部の圧力に対して比較的大きく低下するとき、エンジン10の内部の圧力と気液分離室51内の圧力との予め設定された範囲内の差圧に対して、ドレーン通路65の一部65aを閉塞するオイルの表面張力と上方側の通路部分65u内に流下し貯留されるオイルの自重とによって、ドレーン通路65の一部65aの閉塞状態が有効に維持されるよう形状設定されている。
【0046】
ところで、底壁部材61およびドレーン通路形成部材62は、それぞれ例えば耐熱性および成形精度に優れた同一の樹脂からなり、成型によりあるいは成型後の部分溶着により一体化されている。また、ドレーン通路形成部材62の内部のドレーン通路65は、ドレーン通路形成部材62を例えば射出成形するための型抜き勾配程度のゆるいテーパ形状をなしている。
【0047】
次に、作用について説明する。
【0048】
上述のように構成された本実施形態のエンジンのオイル分離装置においては、ドレーン通路65の一部65aが絞り部63によってドレーン通路65の残部65bより絞られていることに加えて、気液分離室51でブローバイガスから分離されドレーン通路65内に流下するオイルによってドレーン通路65の一部65aの少なくとも絞り穴65hが閉塞されることで、ブローバイガスがドレーン通路65を通って気液分離室51内に流入することが、絞り穴65h内で栓状をなすオイルによって有効に抑制される。したがって、オイル分離装置50のオイル分離性能を高める場合であっても、ドレーン通路65の通路断面積を十分に大きくすることができる。
【0049】
しかも、本実施形態では、ドレーン通路65の残部65bが絞り穴65hより上方側に位置する上方側の通路部分65uをその主要部としているので、ドレーン通路65の一部65aより上方側の通路部分65uの容積を十分に大きくすることができ、ブローバイガスの気液分離室51内への流入を有効に抑制するとともに、ドレーン通路65がスラッジにより閉塞されることを有効に防止することができる。
【0050】
また、絞り部63には、絞り穴65hに近付くほどドレーン通路65の通路断面積を狭める先細り穴65jが形成されているので、ドレーン通路65内に流入したオイルが確実に絞り穴65hまで流下でき、ドレーン通路65内にスラッジが形成され難くなる。
【0051】
さらに、エンジン10の運転状態に応じて、気液分離室51内の圧力がエンジン10の内部の圧力より相対的に低くなるとともに両圧力の差圧がある程度大きくなっても、ドレーン通路65の一部65aの絞り穴65hを閉塞するオイルの表面張力およびその表面より上方側に存在するオイルの自重が、前記差圧に対抗してブローバイガスの気液分離室51内への流入を抑制する方向に作用することで、予め設定された差圧の範囲内で絞り穴65hの閉塞状態が確実に維持されることになる。そして、前記差圧が増加するとき、オイルによって絞り穴65hが閉塞された状態で、絞り穴65hを閉塞するオイルの上方にさらにオイルが貯留され、増量したオイルの自重によってブローバイガスの気液分離室51内への流入が有効に抑制されることになる。
【0052】
ドレーン通路65内で絞り穴65hを閉塞するオイルの自重が気液分離室51とエンジン10の内部の圧力に打ち勝つ程度にさらに増加すると、あるいは、差圧がある程度小さくなると、絞り穴65hのオイルの下面側の表面張力は絞り穴65h内にオイルを保持する方向に作用し、絞り穴65hより下方側にオイルがドレーンされるとともに、絞り穴65hが実質的に閉塞された状態になるようドレーン通路形成部材62の下端面62e側に新たなオイルの表面が形成されることになる。
【0053】
また、エンジン10の運転状態に応じ、低差圧から高差圧になったときには、オイルが十分に溜まるまでは、ドレーン通路65の一部65aを閉塞するオイルの表面張力およびその表面より上方側に存在するオイルの自重に打ち勝ってブローバイガスがドレーン通路65の一部65aより上方側に流入し得るが、その場合、絞り部63を通るブローバイガスに剥離が生じ難いことから、笛吹き音のようなノイズが生じることもない。
【0054】
一方、本実施形態では、底壁部材61が、エンジン10のヘッドカバー11に支持されているので、オイル分離装置50の装着が容易であるとともに、ドレーン通路形成部材62を容易に長くすることで、上述のようなブローバイガスに対するドレーン通路65の一部65aのオイルによる閉塞性能を高めることができる。
【0055】
また、絞り部63がエンジン10のカムシャフト21,22の回転中心より下方側に位置しているので、ドレーン通路形成部材62をより上下方向に長くでき、ドレーン通路65の容積を大きくできる。
【0056】
さらに、底壁部材61およびドレーン通路形成部材62がそれぞれ耐熱性および成形性に優れた同一の樹脂からなるので、比較的長いドレーン通路形成部材62を有するオイル分離装置50の主要部分を樹脂成型により容易にかつ低コストに製造することができる。
【0057】
このように、本実施形態のオイル分離装置によれば、ドレーン通路65の一部65aを絞り部63によってドレーン通路65の残部65bより絞り、気液分離室51でブローバイガスから分離されドレーン通路65内に流下したオイルによってそのドレーン通路65の一部65aを閉塞させるようにしているので、オイル分離性能を高める場合でもドレーン通路65の下端の開口である絞り穴65hから気液分離室51内にブローバイガスが吸い込まれることを有効に抑制することができ、ドレーン通路65内におけるスラッジの発生を有効に抑制することができるものである。
【0058】
なお、上述の一実施形態のオイル分離装置においては、ドレーン通路形成部材62の下端に絞り部63を配置していたが、絞り部63が必ずしもドレーン通路形成部材62の最下端に位置する必要がないことはいうまでもない。
【0059】
また、絞り部63は、図5(a)に示すように、肉厚が略一定になるように下端外周部を面取り形状としたものであってもよい。さらに、絞り部63は、円形の絞り穴65hおよび略円錐状の先細り穴65jを形成するものであったが、図5(b)に示すように、非円形の絞り穴、例えば小判形の絞り穴65mを形成するようなものであってもよい。
【0060】
さらに、絞り部63は、その中心に1つの絞り穴65hを形成していたが、1つの穴でなく、複数の半円形を対称に形成するもの、複数の扇形の穴を中心軸線65cの周りに等角度間隔に形成するもの、あるいは、中心軸線65cに略直交しつつ並列する複数の小判形の絞り穴を形成するものであってもよい。
【0061】
また、先細り穴65jを形成する絞り部63の内壁面63aがドレーン通路65の中心軸線65cに対してなす傾斜角度θは、45度以下であるのが好ましいが、その傾斜角度θは中心軸線65cの方向の各位置で一定であってもよいし変化していてもよい。すなわち、絞り部63の内壁面63aは母線が直線的な円錐面状でなく、母線が湾曲する環状傾斜面であってもよい。
【0062】
以上説明したように、本発明に係るエンジンのオイル分離装置は、ドレーン通路の一部を絞り部によってドレーン通路の残部より絞り、気液分離室でブローバイガスから分離されドレーン通路内に流下するオイルによってそのドレーン通路の一部を閉塞するようにしているので、オイル分離性能を高める場合でもドレーン通路の下端の開口から気液分離室内にブローバイガスが吸い込まれることを有効に抑制することができ、スラッジの発生を有効に抑制することができるという効果を奏するものであり、エンジンの吸気系へのブローバイガスの還流経路上に配されるオイル分離装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0063】
10 エンジン(内燃機関)
10a 燃焼室
10v 換気通路
11 ヘッドカバー
14 クランクケース
15 気筒
16 ピストン
20 動弁機構
21,22 カムシャフト
31 吸気通路
32 スロットルバルブ
41 空気導入管
42 ブローバイガス還流管
43 PCVバルブ
44 ブローバイガス還流経路
50 オイル分離装置
51 気液分離室
51a 内底壁面
61 底壁部材
62 ドレーン通路形成部材
62a 筒状部
63 絞り部
63a 内壁面
65 ドレーン通路
65a ドレーン通路の一部
65b ドレーン通路の残部
65c 中心軸線
65h 絞り穴(先細り絞り穴)
65j 先細り穴
65m 絞り穴(非円形の絞り穴)
65u 上方側の通路部分
d 直径(内径)
S1 開口面積(通路断面積)
S2 通路断面積
θ 傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの内部で発生するブローバイガスを前記エンジンの吸気通路に還流させる経路に設けられ、前記ブローバイガスを気液分離室に通して前記ブローバイガスに含まれるオイル成分を回収可能に分離するエンジンのオイル分離装置であって、
前記気液分離室で分離されたオイルを回収するよう前記気液分離室の内底壁面を形成する底壁部材と、
前記底壁部材から鉛直方向下方側に突出して前記気液分離室に通じるドレーン通路を形成する筒状のドレーン通路形成部材と、を備え、
前記ドレーン通路形成部材は、前記ドレーン通路内のオイルによって前記ドレーン通路の一部が閉塞されるよう、前記ドレーン通路の一部を前記ドレーン通路の残部より絞る絞り部を有することを特徴とするエンジンのオイル分離装置。
【請求項2】
前記ドレーン通路の一部が、前記ドレーン通路の下端側に位置する絞り穴を含んで構成され、前記ドレーン通路の残部が、前記絞り穴より上方側に位置する上方側の通路部分を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンのオイル分離装置。
【請求項3】
前記気液分離室内の圧力が前記エンジンの内部の圧力より相対的に低くなるとき、前記エンジンの内部の圧力と前記気液分離室内の圧力との予め設定された範囲内の差圧に対して、前記ドレーン通路の一部を閉塞するオイルの表面張力および前記上方側の通路部分内のオイルの自重によって前記ドレーン通路の一部の閉塞状態が維持されるようにしたことを特徴とする請求項2に記載のエンジンのオイル分離装置。
【請求項4】
前記ドレーン通路形成部材の前記絞り部が、前記上方側の通路部分と前記絞り穴との間に、前記絞り穴に近付くほど前記ドレーン通路の通路断面積を狭める先細り穴を形成していることを特徴とする請求項3に記載のエンジンのオイル分離装置。
【請求項5】
前記底壁部材が、前記エンジンのヘッドカバーに支持されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1の請求項に記載のエンジンのオイル分離装置。
【請求項6】
前記絞り部が、前記エンジンに設けられるカムシャフトの回転中心より下方側に位置していることを特徴とする請求項5に記載のエンジンのオイル分離装置。
【請求項7】
前記底壁部材および前記ドレーン通路形成部材がそれぞれ同一の樹脂からなることを特徴とする請求項1ないし請求項6のうちいずれか1の請求項に記載のエンジンのオイル分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74900(P2011−74900A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230244(P2009−230244)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】