説明

エンジンの始動制御装置

【課題】ラッシュアジャスタを備えるエンジンにおいて、圧縮時の圧抜けが生じた場合に、エンジンの始動性を維持する。
【解決手段】クランキングの開始後、圧縮時の圧抜けによるエンジン1の始動不良を検出する(S202)。圧抜けによる始動不良は、クランキング時の回転数(クランキング回転数Nc)に基づいて検出することが可能である。始動要求の検知に応答して、吸気弁17の閉時期を通常時における始動のための第1の時期に設定する一方、前記圧抜けによる始動不良を検出したときは、吸気弁17の作動角(VEL作動角θiv)を変更するためのバルブタイミング指令信号を出力し、吸気弁17の閉時期を第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動制御装置に関し、詳細には、弁クリアランスを減少させるためのラッシュアジャスタを備えるエンジンにおいて、弁シート上でのディポジットの形成により圧縮時の圧抜けが生じた場合に、エンジンの始動性を維持するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気弁又は排気弁(以下、吸気弁を例に説明する。)と、これを駆動するためのカムとの間には、エンジンの暖機状態に応じた吸気弁及びその関連部品の膨張分を考慮した隙間(以下「弁クリアランス」という。)が設けられている。ここで、弁クリアランスは、騒音の原因となるものであることから、一般的なエンジンにおいては、弁クリアランスを減少させるためのラッシュアジャスタが設置されている。ロッカーアームを備えるエンジンにおいて、ラッシュアジャスタは、ロッカーアームの一方の端部に対してその揺動支点を形成するものであり、カムが回転するのに従ってロッカーアームが揺動し、その他方の端部により吸気弁が押し下げられることで、吸気ポートが開放される。低温での始動時に弁クリアランスが存在する場合は、ラッシュアジャスタにおいて、高圧室の圧力によりプランジャが押し上げられて、弁クリアランスが解消される。このプランジャの上昇に応じ、プランジャの内部に供給されたエンジンオイルがチェックボールにより開閉される連通孔を介して高圧室に流入し、高圧室の圧力が確保される。
【特許文献1】特開2007−138787号公報(段落番号0043〜0045)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ラッシュアジャスタを備えるエンジンについては、次のような問題がある。
吸気弁の傘裏又は弁シート上にディポジットが形成されると、このディポジットにより吸気弁の閉動作が阻害されて、吸気弁が完全に閉じ切らなくなり、弁クリアランスが増大する。ここで、ラッシュアジャスタを備えるエンジンにおいては、ラッシュアジャスタがこの弁クリアランスの増大に追従して機能することにより、弁クリアランスを減少させることとなるが、ラッシュアジャスタにより吸気弁の閉方向に働く弁スプリングの力が減殺されることから、弁シート上のディポジットは、押し潰されることなく残存する。そして、ディポジットの介在により吸気弁とその弁シートとの間に形成された隙間が解消されず、圧縮時にこの隙間を介する圧抜け(以下、「圧抜け」又は「圧縮時の圧抜け」という。)が生じて、充分な筒内圧力の上昇が得られず、エンジンの始動が良好に達成されないことである。ディポジットを押し潰すために弁スプリングのセット荷重を増大させることとすると、動弁システムのフリクションが増大するとともに、反力の増大により騒音を悪化させるという弊害がある。
【0004】
本発明は、ラッシュアジャスタを備えるエンジンにおいて、圧縮時の圧抜けが生じた場合であっても、圧縮時の筒内圧力を確保して、エンジンの始動性を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、弁クリアランスを減少させるラッシュアジャスタを備えるエンジンを始動させるための始動制御装置に関するものである。本発明においては、エンジンの始動要求を検知し、この始動要求に対するクランキングの開始後、圧縮時の圧抜けによるエンジンの始動不良を検出する。始動要求の検知に応答して、吸気弁の閉時期を通常時における始動のための第1の時期に設定する一方、前記圧抜けによる始動不良を検出したときは、バルブタイミング指令信号を出力し、吸気弁の閉時期を前記第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、エンジンの始動に際し、圧縮時の圧抜けによる始動不良を検出したときに、吸気弁の閉時期を通常時における第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させることとしたので、吸入空気量の増大により圧縮時の筒内圧力を確保し、圧抜けに拘わらずエンジンの始動を達成することができる。なお、圧抜けによる始動不良は、クランキング時の回転数に基づいて検出することが可能であり、このクランキング回転数の変動が小さいことや、クランキング回転数が過度に上昇したことにより、良好に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る始動制御装置を備えるエンジン1の全体的な構成を示している。
【0008】
本実施形態において、始動制御装置(又は「コントロールユニット」)としての機能は、後述するエンジンコントロールユニット101に兼ね備えさせている。
エンジン1の本体(シリンダ)は、シリンダブロック11上にシリンダヘッド12を載置するとともに、このシリンダブロック11に対し、シリンダヘッド12を図示しないヘッドボルトにより固定して構成される。シリンダブロック11には、ピストン13が上下に往復自在に挿入されており、このピストン13の冠面とシリンダヘッド12の下面とに挟まれた空間として燃焼室14が形成される。シリンダヘッド12には、燃焼室14に連通させて吸気及び排気のための各ポート(吸気ポート、排気ポート)15,16が形成されており、吸気ポート15には、吸気弁17が、排気ポート16には、排気弁18が夫々設置されている。吸気弁17は、弁スプリング33(図2)により閉方向に付勢されるとともに、動弁装置(以下「吸気動弁装置」という。)19により開方向に駆動されることで、吸気ポート15を開閉する。排気弁18は、図示しない弁スプリングにより閉方向に付勢されるとともに、動弁装置(以下「排気動弁装置」という。)20により開方向に駆動されることで、排気ポート16を開閉する。本実施形態では、吸気弁17のバルブタイミングを可変とする一方、排気弁18のバルブタイミングを一定としており、吸気動弁装置19として吸気弁17の作動角及びリフト量を連続的に変更可能に構成された可変型の動弁装置(VEL:Continuous Variable Event and Lift)を採用することで、吸気弁17の閉時期を変更可能としている。以上に加え、シリンダヘッド12には、吸気ポート15内に噴孔が位置するように燃料噴射弁21が設置されるとともに、燃焼室14の上部略中央にプラグギャップが位置するように点火プラグ22が設置されている。
【0009】
このような構成のエンジン1において、図示しないエアクリーナを介して吸入された空気は、燃料噴射弁21により吸気ポート15内に噴射された燃料とともに、吸気弁17の開期間中に吸気ポート15を介して燃焼室14に導入される。エンジン1の運転状態に応じた所定の時期に点火プラグ22が作動し、燃焼室14内に形成された均質な混合気に対して点火が行われ、燃焼が生じる。燃焼後の排気は、排気弁20の開期間中に排気ポート16を介して排気通路に排出され、図示しない排気処理装置により浄化された後、大気中に放出される。
【0010】
図2は、本実施形態に係る吸気弁17及びその駆動系の構成を示している。
本実施形態において、シリンダヘッド12には、管状の軸ガイド31が埋め込まれており、吸気弁17は、この軸ガイド31に軸部が挿入されることにより、吸気ポート15に設置されている。吸気弁17の軸端には、リテーナ32が取り付けられており、このリテーナ32と、シリンダヘッド12に形成されたスプリングシートとの間に、弁スプリング33が圧縮された状態で装着されている。吸気弁17と、これを駆動する吸気動弁装置19の揺動カム191との間には、ロッカーアーム34が介装されており、このロッカーアーム34は、基端部でラッシュアジャスタ35により支持される一方、先端部で吸気弁17の軸部に当接している。
【0011】
ラッシュアジャスタ35は、吸気弁17とロッカーアー34との間に形成される隙間(弁クリアランス)を減少させるためのものであり、ロッカーアーム34の基端側にその揺動支点を形成する。ラッシュアジャスタ35には、公知のいかなるラッシュアジャスタが採用されてもよく、本実施形態では、エンジンオイルの油圧によりプランジャ351を上下させて弁クリアランスを減少させるラッシュアジャスタ35を採用している。揺動カム191の運動に従ってロッカーアーム34が揺動し、その先端部により吸気弁17が押し下げられることで、吸気ポート15が開放される。ここで、弁クリアランスが存在する場合は、ラッシュアジャスタ35において、その内部に形成された高圧室の圧力によりプランジャ351がラッシュアジャスタ35の本体から押し出され、弁クリアランスが解消される。プランジャ351の上昇に応じ、プランジャ351の内部に供給されたエンジンオイルが高圧室に流入し、高圧室の圧力が確保される。これに対し、弁クリアランスが解消され、吸気弁17がロッカーアーム34の先端部を押し上げることにより、プランジャ351に下向きの負荷がかかる場合は、ラッシュアジャスタ35の本体とプランジャ351との間からエンジンオイルが漏出し、プランジャ351が本体の内部に押し込まれる。
【0012】
図1に戻り、吸気動弁装置19、燃料噴射弁21及び点火プラグ22、ならびにスタータ25の動作は、マイクロコンピュータを備える電子制御ユニットとして構成されるエンジンコントロールユニット(以下「ECU」という。)101からの指令信号により制御される。スタータ25は、電動モータを内蔵しており、エンジン1の始動時において、この電動モータの動力をフライホイールの外周に形成されたギアを介してクランクシャフトに伝達させることで、エンジン1のクランキングを行う。ECU101には、エンジン1の運転条件を示す信号として、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するためのアクセルセンサ151からの信号、ならびにクランク角センサ152からの単位クランク角毎及び基準クランク角毎の信号が入力されるほか、エンジン冷却水の温度を検出するための冷却水温度センサ153からの信号、電源スイッチ(イグニッションスイッチ)154からのオン信号及び始動スイッチ155からのオン信号等が入力される。始動スイッチ155は、エンジン1に対する始動要求を発生させるためのものであり、本実施形態では、キースイッチとして構成している。
【0013】
次に、本実施形態に係るエンジン1の始動制御について、フローチャートにより説明する。
図3は、ECU101により本実施形態に係る始動制御として実行されるバルブタイミング制御の内容を示すフローチャートである。このルーチンは、電源スイッチ154からのオン信号に応答して開始され、所定の時間毎に繰り返し実行される。
【0014】
S101では、始動要求があるか否かを判定する。この始動要求の有無の判定は、始動スイッチ155からのオン信号に基づいて行う。始動スイッチ155からのオン信号を入力しており、始動要求があると判定したときは、S102へ進み、始動要求がないと判定したときは、このルーチンを終了する。なお、図示しない処理により、始動スイッチ155からのオン信号に応答してスタータ25に対する通電の開始信号が出力され、エンジン1のクランキングが開始される。
【0015】
S102では、完爆判定を行う。完爆判定は、クランキングの開始後、エンジン回転数NEが上昇して、エンジン1が自律回転可能となるエンジン回転数に達したか否かを判定することにより行う。エンジン回転数NEがそのようなエンジン回転数として設定された所定の回転数(「第1の回転数」に相当する。)N1以上であるときは、完爆が生じ、エンジン1の始動が完了したとしてこのルーチンを終了する一方、エンジン回転数NEがこの所定の回転数N1未満であるときは、S103へ進む。なお、始動を完了したときは、通常時におけるバルブタイミング制御に移行する。
【0016】
S103では、スタータ25に対する通電の継続時間(「クランキングの継続時間」に相当し、以下「通電時間」という。)Tcを検出する。
S104では、検出した通電時間Tcが所定の時間T1を経過していないか否かを判定する。経過していないときは、S105へ進み、経過したときは、S106へ進む。
【0017】
S105では、吸気動弁装置19に対し、吸気弁17の作動角θivをアイドル時における作動角(以下「アイドル設定作動角」という。)θidleに設定するための指令信号を出力する。
【0018】
S106では、図4にその詳細を示す内容の処理を実行する。
図4は、図3に示すフローチャートのS106で実行される処理の詳細な内容を示している。
【0019】
クランキングの開始後、相当の時間(=T1)が経過しているにも拘わらず始動が完了していないことから、図4に示す処理では、この始動不良が圧縮時の圧抜けによるものである場合に、吸気弁17の閉時期を下死点に近付けることにより圧縮時の筒内圧力を確保して、始動を達成させる。
【0020】
S201では、クランキング時の回転数(以下「クランキング回転数」という。)Ncを検出する。
S202では、検出したクランキング回転数Ncが所定の回転数N2に達したか否かを判定する。所定の回転数N2に達したときは、S203へ進み、達していないときは、このルーチンをリターンする。なお、所定の回転数(「第2の回転数」に相当する。)N2は、エンジン1が自律回転可能となる回転数として設定された第1の回転数N1よりも小さな値に設定される。
【0021】
S203では、吸気動弁装置19に対し、吸気弁17の作動角θivをアイドル設定作動角θidleよりも増大させるための指令信号(「バルブタイミング指令信号」に相当する。)を出力する。吸気動弁装置19がこの指令信号に応答して作動し、吸気弁17の作動角を拡大させることで、吸気弁17の閉時期がアイドル設定作動角θidleによる場合の時期(「第1の時期」に相当する。)よりも下死点に近い第2の時期に変更される。
【0022】
なお、本実施形態では、バルブタイミング指令信号により吸気弁17の閉時期を第1の時期よりも下死点に近い時期(第1の時期が下死点よりも早い時期に設定される場合は、第1の時期よりも遅い時期)としたが、バルブタイミング指令信号による変更後の閉時期(第2の時期)は、下死点であってもよい。また、第1の時期が下死点よりも遅い時期に設定される場合に、第2の時期は、第1の時期よりも早い時期(下死点を含む。)に設定される。
【0023】
図7は、本実施形態に係る始動制御により設定される吸気弁17の作動角(図7には、「VEL作動角」として示す。)θiv及びエンジン回転数NEの変化を示すタイムチャートである。
【0024】
時刻t0において、始動スイッチ155がオンされると、これに応答してスタータ25が作動し、エンジン1のクランキングが開始される。通常時においては、クランキングの開始後速やかに完爆が生じ、エンジン1の始動が達成される(時刻t1)。
【0025】
これに対し、クランキングの開始後、所定の時間T1が経過してもなお始動が達成されないときは(時刻t2)、クランキング時の回転数NE(クランキング回転数)が所定の回転数N2に達していることを条件にVEL作動角θivが拡大され、吸気弁17の閉時期がアイドル設定作動角θidleによる場合よりも下死点に近い第2の時期に変更される。これにより、圧抜けに拘わらず圧縮時の筒内圧力が確保され、完爆が生じてエンジン回転数NEが所定の回転数N1に達すると(時刻t3)、エンジン1の始動が完了したとしてVEL作動角θivを通常時におけるアイドル設定作動角θidleに復帰させる。
【0026】
本実施形態については、図3に示すフローチャートのS101の処理により「始動要求検知手段」としての機能が実現される。また、図4に示すフローチャートのS202の処理により「始動不良検出手段」としての機能が、図3に示すフローチャートのS103〜105及び図4に示すフローチャートのS203の処理により「指令信号出力手段」としての機能が、図4に示すフローチャートのS201の処理により「クランキング回転数検出手段」としての機能が実現される。
【0027】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
本実施形態では、始動不良が圧縮時の圧抜けによる場合において、VEL作動角θivを拡大させ、吸気弁17の閉時期を通常時のアイドル設定作動角θidleによる時期よりも下死点に近い第2の時期に変更することとしたので、圧抜けに拘わらず吸入空気量の増大により圧縮時の筒内圧力を確保し、エンジンの始動を達成することができる。また、圧縮時の筒内圧力が確保されることで、クランキング回転数Ncの上昇が抑制され、クランキング時における騒音の悪化を回避することができる。
【0028】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。
図5は、本発明の第2の実施形態に係る始動制御として実行されるバルブタイミング制御の内容を示すフローチャートである。
【0029】
S211では、クランキング回転数Ncを検出する。
S212では、検出したクランキング回転数Ncの単位時間当たりの変化量(以下「回転数変化率」という。)dNcを算出する。回転数変化率dNcは、クランキング回転数Ncの変動の大きさを示す指標となるものである。
【0030】
S213では、圧抜けによる始動不良が生じている気筒(以下「異常気筒」という。)があるか否かを判定する。この異常気筒の有無の判定は、圧縮時における回転数変化率dNcを各気筒について算出し、クランキング回転数Ncの変動が通常時の圧縮により得られる変動よりも小さくなっているか否かを、気筒毎に判定することにより行う。具体的には、圧縮時における気筒毎の回転数変化率dNcが通常時の圧縮により得られる回転数変動率の下限に相当する所定の値以下であるか否かを判定することによる。異常気筒があるときは、S214へ進み、それ以外のときは、このルーチンをリターンする。
【0031】
S214では、異常気筒Ciを特定する。
S215では、特定した異常気筒Ciに設けられる吸気動弁装置19のみに対してバルブタイミング指令信号を出力し、吸気弁17の作動角θiviを通常時よりも拡大させることで、吸気弁17の閉時期を通常時における第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させる。
【0032】
本実施形態においては、図5に示すフローチャートのS212及び213の処理により「始動不良検出手段」としての機能が、同フローチャートのS214の処理が「気筒特定手段」としての機能が実現される。
【0033】
本実施形態によれば、特に、始動不良が圧縮時の圧抜けによるものである場合に、圧抜けが生じている気筒(異常気筒)を特定し、その気筒のみについて吸気弁17の閉時期を下死点に近い第2の時期に変更することとしたので、圧抜けが生じていない気筒について吸気弁17の閉時期が変更され、吸入空気量の増大により過早点火(プレイグニション)が発生するのを回避することができる。
【0034】
図6は、本発明の第3の実施形態に係る始動制御として実行されるバルブタイミング制御の内容を示すフローチャートである。
本実施形態に係る始動制御は、Vバンク型のエンジンを始動させる際に行われる制御として実行される。
【0035】
S221では、クランキング回転数Ncを検出する。
S222では、検出したクランキング回転数Ncに基づいて回転数変動率dNcを算出する。
【0036】
S223では、算出した回転数変動率dNcに基づいて圧抜けによる始動不良が生じている異常気筒があるか否かを判定する。異常気筒があるときは、S224へ進み、それ以外のときは、このルーチンを終了する。
【0037】
S224では、異常気筒Ciを特定する。
S225では、各バンクに設けられた全ての気筒で圧抜けが生じているか否かを、左バンク及び右バンクのそれぞれについて判定する。片バンクの全ての気筒で圧抜けが生じているときは、S226へ進み、圧抜けが生じていても片バンクの一部の気筒のみについてであるときは、このルーチンをリターンする。
【0038】
S226では、圧抜けが生じているとした片バンクの全ての気筒に設けられる吸気動弁装置19に対してバルブタイミング指令信号を出力し、吸気弁17の作動角θiviを通常時よりも拡大させることで、吸気弁17の閉時期を通常時における第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させる。
【0039】
本実施形態においては、図6に示すフローチャートのS222及び223の処理により「始動不良検出手段」としての機能が、同フローチャートのS224の処理により「気筒特定手段」としての機能が、図3に示すフローチャートのS103〜105及び図6に示すフローチャートのS225及び226の処理により「指令信号出力手段」としての機能が実現される。
【0040】
本実施形態によれば、特に、Vバンク型のエンジンにおいて、片バンクに設けられる全ての気筒で圧抜けが生じている場合に、そのバンクの気筒のみについて吸気弁17の閉時期を下死点に近い第2の時期に変更することとしたので、吸気弁17の閉時期を気筒毎に変更する場合と比較して吸気動弁装置19の構成を簡単なものとしながら、吸入空気量の増大による過早点火を回避することができる。
【0041】
なお、以上では、吸気弁17の弁シート上にディポジットが形成されることにより圧縮時の圧抜けが生じる場合について説明したが、本発明は、排気弁18に対してその弁クリアランスを減少させるためのラッシュアジャスタが設けられたエンジンにおいて、排気弁18の弁シート上にディポジットが形成されることにより圧縮時の圧抜けが生じた場合についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る始動制御装置を備えるエンジンの構成
【図2】同上実施形態に係る吸気弁及びその駆動系の構成
【図3】同上実施形態に係る始動制御としてのバルブタイミング制御の内容を示すフローチャート
【図4】同上始動制御におけるバルブタイミング変更処理の詳細な内容を示すフローチャート
【図5】本発明の第2の実施形態に係る始動制御におけるバルブタイミング変更処理の内容を示すフローチャート
【図6】本発明の第3の実施形態に係る始動制御におけるバルブタイミング変更処理の内容を示すフローチャート
【図7】本発明の第1の実施形態に係る始動制御により設定されるVEL作動角θiv及びエンジン回転数NEの変化を示すタイムチャート
【符号の説明】
【0043】
1…エンジン、11…シリンダブロック、12…シリンダヘッド、13…ピストン、14…燃焼室、15…吸気ポート、16…排気ポート、17…吸気弁、18…排気弁、19…「可変動弁装置」としての吸気動弁装置、20…排気動弁装置、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、25…スタータ、31…軸ガイド、32…リテーナ、33…弁スプリング、34…ロッカーアーム、35…「ラッシュアジャスタ」としての油圧ラッシュアジャスタ、101…「コントロールユニット」としてのエンジンコントロールユニット、151…アクセルセンサ、152…クランク角センサ、153…冷却水温度センサ、154…電源スイッチ、155…始動スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁クリアランスを減少させるラッシュアジャスタを備えるエンジンを始動させるための制御装置であって、
エンジンの始動要求を検知する始動要求検知手段と、
前記始動要求に対するクランキングの開始後、圧縮時の圧抜けによるエンジンの始動不良を検出する始動不良検出手段と、
前記始動要求検知手段による始動要求の検知に応答して、吸気弁の閉時期を通常時における始動のための第1の時期に設定する一方、前記始動不良検出手段により前記圧抜けによる始動不良を検出したときに、吸気弁の閉時期を前記第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させるためのバルブタイミング指令信号を出力する指令信号出力手段と、を含んで構成されるエンジンの始動制御装置。
【請求項2】
前記圧縮時の圧抜けが発生した気筒を特定する気筒特定手段を更に含んで構成され、
前記指令信号出力手段は、前記気筒特定手段により特定した気筒のみについて前記バルブタイミング指令信号を出力する請求項1に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項3】
前記エンジンは、Vバンク型のエンジンであり、
前記指令信号出力手段は、前記気筒特定手段により一方のバンクの全ての気筒について前記特定がなされた場合に、その一方のバンクの気筒のみについて前記バルブタイミング指令信号を出力する請求項2に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項4】
クランキング時の回転数をクランキング回転数として検出するクランキング回転数検出手段を更に含んで構成され、
前記始動不良検出手段は、前記クランキング回転数検出手段により検出したクランキング回転数に基づいて前記圧抜けによる始動不良を検出する請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項5】
前記始動不良検出手段は、前記検出したクランキング回転数の変動が通常時の圧縮による変動よりも小さいときに、前記圧抜けによる始動不良を検出する請求項4に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項6】
前記始動不良検出手段は、クランキングの開始後、クランキング回転数が上昇し、前記検出したクランキング回転数が自律回転可能となるエンジン回転数に相当する第1の回転数よりも低い第2の回転数に達しているときに、前記圧抜けによる始動不良を検出する請求項4に記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項7】
前記始動不良検出手段は、クランキングの継続時間が所定の時間に達しているか否かを判定し、この所定の時間に達している場合に、前記検出したクランキング回転数に基づいて前記圧抜けによる始動不良を検出する請求項4〜6のいずれかに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項8】
前記指令信号出力手段は、前記バルブタイミング指令信号として、吸気弁の閉時期を下死点に設定するための信号を出力する請求項1〜7のいずれかに記載のエンジンの始動制御装置。
【請求項9】
弁クリアランスを減少させるラッシュアジャスタと、
エンジンのクランキングを行うスタータと、
吸気弁を、そのバルブタイミングを可変に開閉させる可変動弁装置と、
前記可変動弁装置に対し、吸気弁のバルブタイミングを変化させるためのバルブタイミング指令信号を出力するコントロールユニットであって、エンジンの始動に際し、始動要求に対するクランキングの開始後、圧縮時の圧抜けによるエンジンの始動不良を検出するとともに、この始動要求に対して吸気弁の閉時期を通常時における始動のための第1の時期に設定する一方、前記圧抜けによる始動不良を検出したときは、前記バルブタイミング指令信号として、吸気弁の閉時期を前記第1の時期よりも下死点に近い第2の時期に変化させるための信号を出力するコントロールユニットと、を含んで構成されるエンジンの可変動弁システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−203917(P2009−203917A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47777(P2008−47777)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】