説明

エンジンの振動解析装置

【課題】エンジンへの検出器の取付け作業を省略したうえで、エンジンの振動解析を実施可能として、汎用小型エンジンのような量産エンジンの振動解析に適合したエンジンの振動解析装置を提供する。
【解決手段】エンジンの振動を検知、解析するエンジンの振動解析装置において、エンジンを着脱自在に載置するエンジンベッドと該エンジンベッドの下部を支持する複数の防振ゴムと該防振ゴムが固定される架台とをそなえ、エンジンベッドの振動加速度を検出する振動検出器と振動解析装置とを設けるとともに、振動検出器をふくむ振動検出手段は前記エンジンとは非接触で設置され、振動解析装置は、振動検出器による振動加速度の検出値が入力され、該振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいときエンジンの異常振動を判定するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として汎用小型エンジンの振動を測定し、かかる振動によるエンジンの耐久性を検知、解析するエンジンの振動解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用小型エンジンの振動について、装置が簡単なため、通常は、作業員が直接にエンジンの騒音を聞いて良否を判定するケースが多いが、たとえば特許文献1(特公平6−21844号公報)に示されているように、自動的にエンジンの振動を検出してエンジンの耐久性を検知、解析するエンジンの振動解析装置も多く提供されている。
【0003】
前記特許文献1においては、エンジンの作動音を検出して得られた信号を、所定の周波数帯域の信号に分離し、各分離した信号に基づき異音の有無を判別する装置において、エンジンの回転数を検出する回転速度検出手段と、分離後に整流された所定周波数帯域の信号を所定時間毎に平均化して瞬時的な信号電圧を得る平均値算出手段等を備えて、異音発生の有無を波形レベルの変動率によって判別するようにしたことにより、検出器の取付け状態や、検出系の経時変化等の影響を受けることが少なくなり、判別精度を向上させることができるように構成されている。
【0004】
【特許文献1】特公平6−21844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、汎用小型エンジンの振動について、装置が簡単なため、通常は、作業員が直接にエンジンの騒音を聞いて良否を判定するケースがあるが、この場合は官能評価であるため、個人差によって振動の評価にバラツキが生ずる。
また、特許文献1に記載されたエンジンの振動解析装置は、汎用小型エンジンに直接検出器を取り付けて、エンジン本体の振動を検出し、該エンジンの異音発生の有無を波形レベルの変動率によって判別するようにしたことにより、検出器の取付け状態や、検出系の経時変化等の影響を受けることが少なくなり、判別精度を向上させるようになっている。
【0006】
従って、特許文献1に記載された従来技術にあっては、エンジンの振動解析装置は高精度で行うことができるが、エンジンに直接検出器を取り付けて、エンジン本体の振動を検出しているため、エンジンが変わるごとに検出器を取り付け直さねばならず、汎用小型エンジンのように量産エンジンの振動解析装置には不向きである。
【0007】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、エンジンへの検出器の取付け作業を省略したうえで、エンジンの振動解析を実施可能として、汎用小型エンジンのような量産エンジンの振動解析に適合したエンジンの振動解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる目的を達成するもので、エンジンの振動を検知、解析するエンジンの振動解析装置において、前記エンジンを着脱自在に載置するエンジンベッドと該エンジンベッドの下部を支持する複数の防振ゴムと該防振ゴムが固定される架台とをそなえ、前記エンジンベッドの振動加速度を検出する振動検出器と振動解析装置とを設けるとともに、前記振動検出器をふくむ振動検出手段は前記エンジンとは非接触で設置され、前記振動解析装置は、前記振動検出器による振動加速度の検出値が入力され、該振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいときエンジンの異常振動を判定するように構成されたことを特徴とする(請求項1)。
【0009】
前記エンジンの振動あるいは騒音の検出手段は次のように配置するのがよい。
(1)前記エンジンの直上部または直下部のいずれか一方または双方に集音マイクをエンジンとは非接触で取り付け、該集音マイクで検出した音を前記振動解析装置に入力するように構成される(請求項2)。
(2)前記エンジンベッドの前記エンジンのクランクケースに近接した部位にエンジンとは非接触でレーザ変位計を取付け、該レーザ変位計で検出した振動加速度を前記振動解析装置に入力するように構成される(請求項3)。
【0010】
また、前記振動解析装置は、好ましくは次の処理を行う。
(1)前記振動解析装置は、前記振動加速度が一定の周波数帯域で予め設定された許容振動加速度と比較して、該振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいときに当該エンジンの異常振動を判定するように構成される(請求項4)。
(2)前記振動解析装置は、前記振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいとき当該エンジンの異常振動を判定し、さらに前記振動加速度が前記エンジンの回転パルスに同期した振動ピークと一致するときエンジンの異常振動を判定するように構成される(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エンジンを着脱自在に載置するエンジンベッドと該エンジンベッドの下部を支持する複数の防振ゴムと該防振ゴムが固定される架台とをそなえ、前記エンジンベッドの振動加速度を検出する振動検出器と振動解析装置とを設けるとともに、前記振動検出器をふくむ振動検出手段は前記エンジンとは非接触で設置され、前記振動解析装置は、前記振動検出器による振動加速度の検出値が入力され、該振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいときエンジンの異常振動を判定するように構成したので(請求項1)、
エンジンをエンジンベッド上に着脱自在に載置して、振動検出器をふくむ振動検出手段をエンジンとは非接触にして、エンジンベッドでの振動加速度を検出し振動解析装置に入力することとなり、エンジンが変わっても振動検出器を取り付け直しあるいは再調整をする必要はなく、エンジンを逐次搬送しながら振動加速度の検出ができ、汎用小型エンジンのような量産エンジンの振動解析装置に好適である。すなわち、エンジン生産ラインを流れるエンジンに対して検査対象エンジンを振動解析装置のエンジンベッド上に載せ変えることで検査を行なうことができるため、生産ラインにおける検査工程に用いて好適である。
さらには、エンジンベッドの下部を支持する複数の防振ゴムで支持しているので、外乱ノイズが混入し難く、高精度の振動加速度の検出データが得られる。
【0012】
また、エンジンの直上部または直下部のいずれか一方または双方に集音マイクをエンジンとは非接触で取り付け(請求項2)、あるいはエンジンベッドのエンジンのクランクケースに近接した部位にエンジンとは非接触でレーザ変位計を取付け(請求項3)、等によりエンジンとは非接触で振動加速度の計測ができ、エンジンが変わっても振動検出器を取り付け直しあるいは再調整をする必要はない。
また、エンジンの直上部または直下部で集音マイクにより騒音計測を行うので、外乱ノイズが混入し難く、高精度の騒音計測検出データが得られる。
また、エンジンベッドのエンジンのクランクケースに近接した部位にレーザ変位計を取付けたので、エンジンベッドでの計測位置を固定でき、エンジン毎に計測位置を変える必要がなく、安定した振動加速度の検出データが得られる。
【0013】
また、前記振動解析装置は、振動加速度が一定の周波数帯域で予め設定された許容振動加速度と比較して、該振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいときに当該エンジンの異常振動を判定し(請求項4)、あるいは振動解析装置は、振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいとき当該エンジンの異常振動を判定し、さらに前記振動加速度がエンジンの回転パルスに同期した振動ピークと一致するときエンジンの異常振動を判定するので(請求項5)、
振動加速度の検出値が、許容振動加速度よりも大きいとき、およびエンジンの回転パルスに同期した振動ピークと一致するときの、2回に分けてエンジンの異常振動を判定するので、エンジンのバックラッシュによる振動を異常振動として精緻に計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
図1は本発明の実施例を示す汎用小型エンジンの振動計測、解析装置の要部側面図である。
図1において、1はエンジン(汎用小型エンジン)で、エンジンベッド6上に着脱自在に載置されている。該エンジン1は前記エンジンベッド6上に簡単な止め具等によって支持され、組立てラインを流れるエンジン1を簡単にエンジンベッド6上に装着でき、またエンジンベッド6から取り外して、元の組立てラインに戻すことができるようになっている。
前記エンジンベッド6は、アルミニウム板、鋼板、硬質プラスチック板等からなり、その固有振動数等の振動要素が与えられている。
前記エンジンベッド6は、該エンジンベッド6の下部を支持する複数の防振ゴム7と、該防振ゴム7が固定される金属製の架台8とをそなえ、地面9に固定されている。前記複数の防振ゴム7は少なくとも、前記エンジンベッド6の下部4箇所を支持し、固有振動数等の振動要素が設定されている。
【0016】
2はエンジンの回転数を計測する回転数パルス計、5はエンジンベッド6の振動加速度を検出する振動検出器、3はエンジン1の直上部に設置されたマイクロフォン、4はエンジン1の直下部に設置されたマイクロフォン、11は前記エンジンベッド6の前記エンジン1のクランクケースに近接した部位にレーザ変位計である。
前記回転数パルス計2、振動検出器5、マイクロフォン3、マイクロフォン4、及びレーザ変位計11は、いずれも前記エンジン1とは非接触で設置されている。
そして、前記振動検出器5からのエンジンベッド6の振動加速度の検出値、前記レーザ変位計11からのエンジンベッド6の振動加速度の検出値は振動解析装置10に入力される。また、前記マイクロフォン3及びマイクロフォン4からの音声入力も前記振動解析装置に入力される。
【0017】
前記のように、汎用小型エンジンの振動計測、解析装置は、1つのエンジン1の振動計測、解析が終えると、エンジン1を簡単な止め具等を取り外すのみで、振動検出器5を取り付け直しあるいは再調整をする必要がなく、エンジン1の組み換えが可能である。
従って、エンジン1を逐次搬送しながら振動加速度の検出ができ、汎用小型エンジンのような量産エンジンの振動解析装置に好適となる。すなわち、エンジン生産ラインを流れるエンジンに対して検査対象エンジンを振動解析装置のエンジンベッド上に載せ変えることで検査を行なうことができるため、生産ラインにおける検査工程に用いて好適である。
【0018】
前記エンジンベッド6の下部を複数の防振ゴム7で支持しているので、外乱ノイズが混入し難く、高精度の振動加速度の検出データが得られる。
図2は、汎用小型エンジン1における振動周波数と振幅の実測線図である。図2のように、エンジン1の振動周波数は1KHz以上(例えば1〜8KHz)の高周波数帯域になると、暗騒音によらず図のX印に示すように、振動異常機は振動正常機に比べて10db程度の振動加速度が大きくなる。
【0019】
図3は、汎用小型エンジンにおける振動解析装置の解析フローチャートである。
図3において、振動解析装置10は、まずエンジンベッド6の振動(エンジン無負荷で1700rpm近傍の定常運転を一定時間行う)を受けると(ステップ(1))、4〜7KHzのバンドパスフィルタを通し(ステップ(2))、ステップ1の検出加速度が3m/s超えない振動の場合は正常機とし、3m/s以上の場合は次に進む(ステップ(3))。
そして、ステップ2において、回転パルスと同期しない場合は正常機とし、回転パルスと同期する場合は異常機として抽出する(ステップ(4)、(5))。
【0020】
このように、エンジンベッド6をエンジンの一定回転(1700rpm近傍)で振動させて、4〜7KHzの周波数帯域での加速度を検出、その検出加速度を許容振動加速度:3m/sと比較して、該検出した振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいときに当該エンジン1の異常振動を判定する(ステップ1の判定)。
あるいは振動加速度が予め設定された許容振動加速度と:3m/s比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいとき当該エンジン1の異常振動を判定し、さらに前記振動加速度がエンジンの回転パルスに同期した振動ピークと一致するとき(ステップ2の判定)エンジン1の異常振動を判定する。
【0021】
このように、振動加速度の検出値が、許容振動加速度:3m/sよりも大きいとき、およびエンジンの回転パルスに同期した振動ピーク(4〜7KHzの帯域)と一致するときの、2回に分けてエンジンの異常振動を判定するので、エンジン1のバックラッシュによる振動を異常振動として精緻に計測できる。
【0022】
すなわち、異常機は4〜7KHzの帯域で2回転に1回振動ピーク(3m/sよりも大)を発生するように同期していれば、バックラッシュ音の発生タイミングと一致していると判定する。4〜7KHzの高周波帯域フィルタを通した振動時刻歴波形からバックラッシュ音を検知可能になる。なお、この高周波帯域の設定については予め台上での単体試験に基づいて設定される。
【0023】
また、エンジン1の直上部または直下部に設けた(いずれか一方または双方に設ける)マイクロフォン3、あるいはマイクロフォン4をエンジン1とは非接触で取り付け、
さらに、エンジンベッド6のエンジン1のクランクケースに近接した部位にエンジンとは非接触でレーザ変位計11を取付けることにより、エンジン6とは非接触で、騒音の計測あるいは振動加速度の計測ができ、エンジン1が変わっても振動検出器類を取り付け直しあるいは再調整をする必要はない。
【0024】
さらに、エンジン1の直上部または直下部でマイクロフォン3、あるいはマイクロフォン4により騒音計測を行うので、外乱ノイズが混入し難く、高精度の騒音計測検出データが得られる。
マイクロフォン3、4からの騒音信号についても、前記した振動加速度の処理と同様の解析を行って異常騒音を判定して異常機を判定することで判定精度を高めることができる。
【0025】
また、エンジンベッド6のエンジン1のクランクケースに近接した部位にレーザ変位計11を取付けたので、エンジンベッド6での計測位置を固定でき、エンジン1毎に計測位置を変える必要がなく、安定した振動加速度の検出データが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、エンジンへの検出器の取付け作業を省略したうえで、エンジンの振動解析を実施可能として、汎用小型エンジンのような量産エンジンの振動解析に適合したエンジンの振動解析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例の実施例を示す汎用小型エンジンの振動計測、解析装置の要部側面図である。
【図2】前記実施例における汎用小型エンジン1における振動周波数と振幅の実測線図である。
【図3】前記実施例における汎用小型エンジンにおける振動解析装置の解析フローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン
2 回転パルス計
3、4 マイクロフォン
5 振動検出器
6 エンジンベッド
7 防振ゴム
8 架台
10 振動解析装置
11 レーザ変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの振動を検知、解析するエンジンの振動解析装置において、前記エンジンを着脱自在に載置するエンジンベッドと該エンジンベッドの下部を支持する複数の防振ゴムと該防振ゴムが固定される架台とをそなえ、前記エンジンベッドの振動加速度を検出する振動検出器と振動解析装置とを設けるとともに、前記振動検出器をふくむ振動検出手段は前記エンジンとは非接触で設置され、前記振動解析装置は、前記振動検出器による振動加速度の検出値が入力され、該振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が許容振動加速度よりも大きいときエンジンの異常振動を判定するように構成されたことを特徴とするエンジンの振動解析装置。
【請求項2】
前記エンジンの直上部または直下部のいずれか一方または双方に集音マイクをエンジンとは非接触で取り付け、該集音マイクで検出した音を前記振動解析装置に入力するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの振動解析装置。
【請求項3】
前記エンジンベッドの前記エンジンのクランクケースに近接した部位にエンジンとは非接触でレーザ変位計を取付け、該レーザ変位計で検出した振動加速度を前記振動解析装置に入力するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの振動解析装置。
【請求項4】
前記振動解析装置は、前記振動加速度が一定の周波数帯域で予め設定された許容振動加速度と比較して、該振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいときに当該エンジンの異常振動を判定するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの振動解析装置。
【請求項5】
前記振動解析装置は、前記振動加速度が予め設定された許容振動加速度と比較して該振動加速度が前記許容振動加速度よりも大きいとき当該エンジンの異常振動を判定し、さらに前記振動加速度が前記エンジンの回転パルスに同期した振動ピークと一致するときエンジンの異常振動を判定するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの振動解析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−139343(P2009−139343A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319004(P2007−319004)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】