説明

エンジンの排気処理装置

【課題】排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができるエンジンの排気処理装置を提供することにある。
【解決手段】冷却空気供給通路7に冷却空気弁8を配置し、冷却空気供給通路8の終端の冷却空気供給口9を尿素還元触媒3の上流で排気通路7に配置し、尿素還元触媒3の上流で排気通路1に排気温度センサ10を配置し、この排気温度センサ10は制御手段11を介して冷却空気弁8に連携させ、尿素還元触媒3の上流の排気温度が所定温度よりも高い冷却要求温度領域に入ったことを排気温度センサ10で検出したことに基づいて、制御手段11が冷却空気弁8を開弁させ、吸気通路6中の吸気12の一部を冷却空気13として冷却空気供給通路7に分流させ、この冷却空気13を尿素還元触媒3の上流の排気2中に混入させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気処理装置に関し、詳しくは、排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができるエンジンの排気処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排気処理装置として、排気通路に排気中の窒素酸化物を還元浄化する尿素還元触媒を設けたものがある。
この種の排気処理装置によれば、排気中の窒素酸化物の低減を図ることができる利点がある。
しかし、この従来技術では、尿素還元触媒の上流の排気温度を自由に調節することができないため、問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−156229号公報(図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題》 排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができない。
尿素還元触媒の上流の排気温度を自由に調節することができないため、排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができない。
【0005】
本発明の課題は、排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができるエンジンの排気処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1に例示するように、排気通路(1)に排気(2)中の窒素酸化物を還元浄化する尿素還元触媒(3)を設けたエンジンの排気処理装置において、
過給機(4)のコンプレッサ(5)下流の位置で、吸気通路(6)から冷却空気供給通路(7)を分岐させ、この冷却空気供給通路(7)に冷却空気弁(8)を配置し、冷却空気供給通路(8)の終端の冷却空気供給口(9)を尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(7)に配置し、尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(1)に排気温度センサ(10)を配置し、この排気温度センサ(10)は制御手段(11)を介して冷却空気弁(8)に連携させ、
尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が所定温度よりも高い冷却要求温度領域に入ったことを排気温度センサ(10)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を開弁させ、吸気通路(6)中の吸気(12)の一部を冷却空気(13)として冷却空気供給通路(7)に分流させ、この冷却空気(13)を尿素還元触媒(3)の上流の排気(2)中に混入させるようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【発明の効果】
【0007】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒の還元効率を改善することができる。
図1に例示するように、尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が所定温度よりも高い冷却要求温度域に入ったことを排気温度センサ(10)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を開弁させ、吸気通路(6)中の吸気(12)の一部を冷却空気(13)として冷却空気供給通路(7)に分流させ、この冷却空気(13)を尿素還元触媒(3)の上流の排気(2)中に混入させるようにしたので、尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が低下し、排気温度が高い場合に低下する尿素還元触媒(3)の還元効率を改善することができる。
【0008】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 排気の冷却でエンジンの運転に支障が生じることはない。
図1に例示するように、燃焼室(14)への吸気量が所定量よりも少ない回復要求吸気量領域に入ったことを吸気量センサ(15)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を閉弁させ、燃焼室(14)への必要吸気量を確保できるようにしたので、排気(2)の冷却でエンジンの運転に支障が生じることはない。
【0009】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 尿素還元触媒の上流の排気温度を触媒反応に最適な温度に管理することができる。
図1に例示するように、排気温度センサ(10)で検出した排気温度に基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)の開度を調節して、排気通路(1)に供給する冷却空気量を調節するようにしたので、尿素還元触媒(3)の上流の排気温度を触媒反応に最適な温度に管理することができる。
【0010】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 尿素還元触媒の上流の排気温度を迅速に調節することができる。
図1に例示する排気温度センサ(10)で検出した排気温度と冷却空気量センサ(16)で検出した冷却空気量とに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)の開度を調節して、排気通路(1)に供給する冷却空気量を調節するようにしたので、尿素還元触媒(3)の上流の排気温度を迅速に調節することができる。
【0011】
(請求項5に係る発明)
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 排気の冷却を少ない冷却空気で行うことができる。
図1に例示するように、冷却空気供給通路(7)にクーラ(17)を配置し、このクーラ(17)で冷却空気(13)の温度を低下させるようにしたので、排気(2)の冷却を少ない冷却空気(13)で行うことができる。
【0012】
(請求項6に係る発明)
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 排気脈動による吸気通路への排気の流入を防止することができる。
図1に例示するように、冷却空気供給通路(7)に逆止弁(18)を配置し、この逆止弁(18)で排気通路(1)から吸気通路(6)への排気(2)の流入を阻止するようにしたので、排気脈動による吸気通路(6)への排気(2)の流入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る排気処理装置を備えたエンジンの機能ブロック図である。
【図2】図1のエンジンの制御手段による冷却空気弁の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、図2は本発明の実施形態に係る排気処理装置を備えたエンジンを説明する図であり、この実施形態では、ディーゼルエンジンについて説明する。
【0015】
図1に示すように、このエンジンは、コモンレール式ディーゼルエンジンで、燃焼室(14)に燃料インジェクタ(20)が取り付けられ、この燃料インジェクタ(20)にコモンレール(21)が接続され、コモンレール(21)に燃料サプライポンプ(22)が接続され、燃料タンク(23)の燃料が燃料サプライポンプ(22)でコモンレール(21)に圧送され、コモンレール(21)で蓄圧された燃料が燃料インジェクタ(20)から燃焼室(14)に噴射されるようになっている。
エンジンの目標回転数設定手段(24)と実回転数検出手段(25)とは、制御手段(11)を介して燃料インジェクタ(20)の電磁バルブに連携させている。制御手段(11)は、エンジンECUである。エンジンECUとは、エンジン電子制御ユニットの略称である。
エンジンの目標回転数と実回転数とに基づいて、制御手段(11)は、燃料インジェクタ(20)の電磁バルブの開弁時期と開弁期間とを制御し、所定のタイミングと量で燃料インジェクタ(20)から燃料噴射を行わせる。
【0016】
燃焼室(14)から導出される排気通路(1)に、上流から順に、過給機(4)の排気タービン(19)、DOC(26)、DPF(27)、尿素還元触媒(3)を配置している。排気タービン(19)にはウェイストゲートバルブ(19a)が設けられている。
DOCはディーゼル酸化触媒の略称、DPFはディーゼル・パティキュレート・フィルタの略称である。
【0017】
DOC(26)の上流にDOC入口排気温度センサ(28)を設け、DOC(26)とDPF(27)との間にDPF入口排気温度センサ(29)を設け、DPF(27)の入口と出口の差圧を検出する差圧センサ(30)を設け、これら各センサ(28)(29)(30)は制御手段(11)に連携させている。燃焼室(14)から導出される吸気通路(6)には吸気絞り弁(31)を設けている。吸気絞り弁(31)は制御手段(11)に連携させている。
DPF(27)で排気(2)中のPMを捕捉し、差圧センサ(30)で検出したDPF(27)の入口と出口の差圧等に基づいて、制御手段(11)はDPF(27)のPM堆積推定値を推定する。DPF(27)に堆積するPMの堆積推定値が所定のDPF再生要求値に至ると、DPF(27)の再生処理が実施される。PMは排気中の粒子状物質の略称である。
【0018】
DOC入口側排気温度がDOC活性化温度に達していない場合には、これをDOC入口排気センサ(28)で検出したことに基づいて、制御手段(11)は吸気絞り弁(31)の開度を小さくし、必要に応じて、燃料インジェクタ(20)からメイン噴射後のアフター噴射を行わせて、排気(2)を昇温させる。
DOC入口側排気温度がDOC活性化温度に達すると、制御手段(11)が燃料インジェクタ(20)からメイン噴射後のボスト噴射を行わせ、排気(2)中に未燃燃料を混入させ、この未燃燃料をDOC(26)で触媒燃焼させ、排気(2)を昇温させ、DPF(27)に堆積したPMを焼却除去する。DPF入口排気温度センサで検出したDPF入口排気温度に基づいて、制御手段(11)はポスト噴射量を調節する。
【0019】
尿素還元触媒(3)の上流で、排気通路(1)に尿素水供給通路(32)の尿素水噴射口(33)を設け、尿素水供給通路(32)の途中に尿素水供給ポンプ(35)を配置している。尿素水タンク(36)の尿素水噴射口(33)から排気通路(1)内に尿素水(34)を噴射させ、アンモニアと炭酸ガスに熱分解させ、生成されたアンモニアを還元剤として尿素還元触媒(3)で排気(2)中の窒素酸化物を還元浄化する。
【0020】
過給機(4)のコンプレッサ(5)下流の位置で、吸気通路(6)から冷却空気供給通路(7)を分岐させ、この冷却空気供給通路(7)に冷却空気弁(8)を配置し、冷却空気供給通路(8)の終端の冷却空気供給口(9)を尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(7)に配置し、尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(1)に排気温度センサ(10)を配置し、この排気温度センサ(10)は制御手段(11)を介して冷却空気弁(8)に連携させている。過給機(4)のコンプレッサ(5)の上流にはエアクリーナ(37)が配置されている。
【0021】
尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が所定温度よりも高い冷却要求温度領域に入ったことを排気温度センサ(10)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を開弁させ、吸気通路(6)中の吸気(12)の一部を冷却空気(13)として冷却空気供給通路(7)に分流させ、この冷却空気(13)を尿素還元触媒(3)の上流の排気(2)中に混入させるようにしている。冷却要求温度領域は、尿素還元触媒(3)の還元効率が低下する高温領域に設定されている。
【0022】
吸気通路(6)に燃焼室(14)への吸気量を計量する吸気量センサ(15)を配置し、この吸気量センサ(15)は制御手段(11)を介して冷却空気弁(8)に連携させ燃焼室(14)への吸気量が所定量よりも少ない回復要求吸気量領域に入ったことを吸気量センサ(15)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を閉弁させ、燃焼室(14)への必要吸気量を確保できるようにしている。回復要求吸気量領域は、その時に噴射される燃料の燃焼に必要な吸気量付近の領域に設定されている。
【0023】
冷却空気供給通路(7)に冷却空気量センサ(16)を配置し、この冷却空気量センサ(16)は制御手段(13)を介して冷却空気弁(8)に連携させ、排気温度センサ(10)で検出した排気温度と冷却空気量センサ(16)で検出した冷却空気量に基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)の開度を調節して、排気通路(1)に供給する冷却空気量を調節するようにしている。
【0024】
冷却空気供給通路(7)にクーラ(17)を配置し、このクーラ(17)で冷却空気(13)の温度を低下させるようにしている。
冷却空気供給通路(7)に逆止弁(18)を配置し、この逆止弁(18)で排気通路(1)から吸気通路(6)への排気(2)の流入を阻止するようにしている。
【0025】
制御手段(11)による冷却空気弁の制御のフローは次の通りである。
図2に示すように、ステップ(S1)で、尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が冷却要求温度領域に入ったか否かが判定される。ステップ(S1)での判定が否定の場合にはステップ(S1)が繰り返され、肯定の場合には、ステップ(S2)で冷却空気弁が開弁され、ステップ(S3)に進む。
ステップ(S3)では燃焼室(14)の吸気量が回復要求吸気量領域に入ったか否かが判定される。ステップ(S3)での判定が否定の場合には、ステップ(S4)に進み、ステップ(S4)では排気温度と冷却空気量とに基づいて冷却空気弁(8)の開度を調節し、ステップ(S3)に戻る。ステップ(S3)での判定が肯定の場合には、ステップ(S5)に進み、ステップ(S5)では冷却空気弁(8)を閉弁し、ステップ(S1)に戻る。
【符号の説明】
【0026】
(1) 排気通路
(2) 排気
(3) 尿素還元触媒
(4) 過給機
(5) コンプレッサ
(6) 吸気通路
(7) 冷却空気供給通路
(8) 冷却空気弁
(9) 冷却空気供給口
(10) 排気温度センサ
(11) 制御手段
(12) 吸気
(13) 冷却空気
(14) 燃焼室
(15) 吸気量センサ
(16) 冷却空気供給量センサ
(17) クーラ
(18) 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路(1)に排気(2)中の窒素酸化物を還元浄化する尿素還元触媒(3)を設けたエンジンの排気処理装置において、
過給機(4)のコンプレッサ(5)下流の位置で、吸気通路(6)から冷却空気供給通路(7)を分岐させ、この冷却空気供給通路(7)に冷却空気弁(8)を配置し、冷却空気供給通路(8)の終端の冷却空気供給口(9)を尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(7)に配置し、尿素還元触媒(3)の上流で排気通路(1)に排気温度センサ(10)を配置し、この排気温度センサ(10)は制御手段(11)を介して冷却空気弁(8)に連携させ、
尿素還元触媒(3)の上流の排気温度が所定温度よりも高い冷却要求温度領域に入ったことを排気温度センサ(10)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を開弁させ、吸気通路(6)中の吸気(12)の一部を冷却空気(13)として冷却空気供給通路(7)に分流させ、この冷却空気(13)を尿素還元触媒(3)の上流の排気(2)中に混入させるようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載したエンジンの排気処理装置において、
吸気通路(6)に燃焼室(14)への吸気量を計量する吸気量センサ(15)を配置し、この吸気量センサ(15)は制御手段(11)を介して冷却空気弁(8)に連携させ、
燃焼室(14)への吸気量が所定量よりも少ない回復要求吸気量領域に入ったことを吸気量センサ(15)で検出したことに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)を閉弁させ、燃焼室(14)への必要吸気量を確保できるようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したエンジンの排気処理装置において、
排気温度センサ(10)で検出した排気温度に基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)の開度を調節して、排気通路(1)に供給する冷却空気量を調節するようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載したエンジンの排気処理装置において、
冷却空気供給通路(7)に冷却空気量センサ(16)を配置し、この冷却空気量センサ(16)は制御手段(13)を介して冷却空気弁(8)に連携させ、
排気温度センサ(10)で検出した排気温度と冷却空気量センサ(16)で検出した冷却空気量とに基づいて、制御手段(11)が冷却空気弁(8)の開度を調節して、排気通路(1)に供給する冷却空気量を調節するようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載したエンジンの排気処理装置において、
冷却空気供給通路(7)にクーラ(17)を配置し、このクーラ(17)で冷却空気(13)の温度を低下させるようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載したエンジンの排気処理装置において、
冷却空気供給通路(7)に逆止弁(18)を配置し、この逆止弁(18)で排気通路(1)から吸気通路(6)への排気(2)の流入を阻止するようにした、ことを特徴とするエンジンの排気処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−69279(P2011−69279A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220399(P2009−220399)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】