説明

エンジンの燃料噴射装置

【課題】エンジンのクランキング後、きわめて短時間でエンジンを始動できるようにする。
【解決手段】第2のパルス信号S2によって、第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40Bのいずれかが燃料圧送行程に入ることを判別し、第2のパルス信号と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角で燃料圧送指令信号i1、i2を出力し、以後、第2のパルス信号が得られる毎に、第1の高圧ポンプおよび第2の高圧ポンプに対して燃料圧送指令信号を出力する(第1の始動時制御M1)。第1の始動時制御後に、第2の基準パルス信号を得ることによって、燃料圧送行程に入る高圧ポンプを判別し、第2のパルス信号が得られる毎に、第2の高圧ポンプ、第1の高圧ポンプに対して交互に、燃料圧送指令信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃料噴射装置に関し、特に、コモンレール式燃料噴射システムによってディーゼルエンジンの各シリンダに燃料を噴射する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃料噴射装置は、エンジンの圧縮行程の適正な時期に適正な量の燃料を適正な期間の間、シリンダの燃焼室内に高圧に微細化して噴射するものであり、燃費を向上させたり、排出ガス中の有害な成分を除去できるなど、ディーゼルエンジンの性能を支配する重要な役割を果たしている。コモンレール式燃料噴射システムは、燃料を高圧に微粒化した噴霧が得られる点で優れている。
【0003】
図1は、コモンレール式燃料噴射システム200によってディーゼルエンジン10の各シリンダ1〜6に燃料を噴射する装置を示している。図1は、現在実施されている技術を示している。
【0004】
同図1に示すように、燃料タンク20から燃料がフィードポンプ30によって吸引されて低圧の燃料が高圧ポンプ40に供給され、高圧ポンプ40から高圧の燃料がコモンレール(蓄圧室)50に供給され、コモンレール50に蓄圧された高圧燃料が、各シリンダ1〜6毎に設けられたインジェクタ61〜66に供給される。そして、インジェクタ61〜66はそれぞれ、エンジン10の各シリンダ1〜6が圧縮行程から膨張行程に移行する上死点前の適正なタイミングで適正な期間、各シリンダ1〜6内に燃料を噴射する。これにより各シリンダ1〜6内で自己着火燃焼によりピストンが押し下げられる。
【0005】
たとえば4サイクルの直列6気筒のエンジン10の場合、直列にシリンダ1、2、3、4、5、6の順番で各シリンダ1〜6が配置されている。各シリンダ1〜6は、クランクシャフト11の角度で120゜ずつ位相がずれて、吸気、圧縮、膨張、排気の行程を繰り返す。各シリンダ1〜6は、エンジン10のクランクシャフト11が2回転する間に、等間隔で、シリンダ1、シリンダ5、シリンダ3、シリンダ6、シリンダ2、シリンダ4の順序で自己着火燃焼する。
【0006】
多気筒エンジンの場合、高圧ポンプ40として、2つの高圧ポンプが設けられる。高圧ポンプ40の構成例を、図2(a)に示す。図2(a)は、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の圧縮行程中に燃料圧送動作を行う第1の高圧ポンプ40Aと、シリンダ5、シリンダ6、シリンダ4の圧縮行程中に燃料圧送動作を行う第2の高圧ポンプ40Bを示している。第1の高圧ポンプ40Aは、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Aがストロークし、燃料を吸入する行程(図中、プランジャ41Aが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図中、プランジャ41Aが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i1に応じて、燃料をコモンレール50に圧送するものである。第2の高圧ポンプ40Bは、第1の高圧ポンプ40Aと同様に、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Bがストロークし、燃料を吸入する行程(図中、プランジャ41Bが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図中、プランジャ41Bが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i2に応じて、燃料がコモンレール50に圧送される高圧ポンプであって、第1の高圧ポンプ40Aが燃料吸入行程に入るときには燃料圧送行程に入り、第1の高圧ポンプ40Aが燃料圧送行程に入るときには燃料吸入行程に入るように位相がずれてプランジャ41Bがストロークする高圧ポンプである。すなわち、第1の高圧ポンプ40Aと第2の高圧ポンプ40Bは、燃料圧送動作を交互に行う。
【0007】
図3(c)、(d)はそれぞれ、第1の高圧ポンプ40Aに与えられる燃料圧送指令信号i1、第2の高圧ポンプ40Bに与えられる燃料圧送指令信号i2をタイムチャートで示している。
【0008】
図2(a)に示すように、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bは、カムシャフト70の回転に応じて駆動される。カムシャフト70は、エンジン10のクランクシャフト11の1/2の速度で回転するように、減速機構を介してクランクシャフト11に連結されている。
【0009】
エンジン10のクランクシャフト11には、エンジン10のクランクシャフト11の角度(クランク角)を検出する第1のセンサ80が設けられている。図3(a)は、第1のセンサ80から出力されるパルス信号S1を示している。パルス信号S1は、クランク角が所定量変化する毎に、1パルスを出力する信号のことである。また第1のセンサ80は、クランクシャフト11が1回転しクランク角Cが基準のクランク角に達する毎に、第1の基準クランク角であることを示す特徴のある第1の基準パルス信号(2歯パルスが欠けた信号)S11を出力する。
【0010】
カムシャフト70には、カムシャフト70が1回転する度に、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41A、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bがそれぞれ3回往復動するように、カム山71A、71Bが形成されている。カムシャフト70には、エンジン10の各シリンダ1〜6の上死点前所定クランク角を検出する第2のセンサ90が設けられている。図3(b)は、第2のセンサ90から出力されるパルス信号S2を示している。パルス信号S2は、各シリンダ1〜6の上死点前所定クランク角を検出する毎に、1パルスを出力する信号のことである。また第2のセンサ90は、カムシャフト70が1回転し、特定のシリンダ(シリンダ1)の上死点前所定クランク角に達する毎に、第2の基準クランク角であることを示す特徴のある第2の基準パルス信号(2歯パルスが連続した信号)S22を出力する。
【0011】
ここで、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aの下死点は、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されているとともに、プランジャ41Aの上死点は、シリンダ6、シリンダ5、シリンダ4の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されている。また、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bの下死点は、シリンダ6、シリンダ5、シリンダ4の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されているともに、プランジャ41Bの上死点は、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されている。
【0012】
このため、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られていれば、第1のセンサ80のパルス信号S1と、第2のセンサ90のパルス信号S2から、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうちいずれの高圧ポンプが燃料圧送行程に入るかを判別でき、かつ燃料圧送行程に入る高圧ポンプに対して、燃料圧送指令信号を所望する時期に与えることができる。
【0013】
図1に示す制御部100は、第1のセンサ80、第2のセンサ90を含む各センサの検出信号を入力し、高圧ポンプ40(第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40B)、インジェクタ61〜66を制御するものである。
【0014】
すなわち、制御部100は、図3にM3′にて示すように、カムシャフト70が1回転(クランクシャフト11が2回転)する間に、シリンダ1の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し( 第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ5の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力し(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ3の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し(第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ6の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力し(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ2の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し( 第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ4の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力する(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))。
【0015】
制御部100は、現在のエンジン回転数、エンジン負荷に応じて最適な時期に高圧ポンプ40に対して燃料圧送指令信号i1、i2を最適な時間だけ出力する(通常制御M3′)。具体的には、図2(a)において、燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aに対して、電磁弁42Aを閉じるための燃料圧送指令信号i1を加える。電磁弁42Aが閉じるとプランジャ室43A内の燃圧が高められ、逆止弁44Aが開き、燃料が燃料通路120を介してコモンレール50に圧送される。
【0016】
ここで、高圧ポンプ40に対して燃料圧送指令信号i1、i2を出力するタイミングは、コモンレール50に圧送される燃料量を規定しコモンレール圧を規定し、燃料圧力を規定する。これを図4を用いて説明する。
【0017】
図4(a)〜(e)は、第2のセンサ90から出力されるパルス信号S2と、燃料圧送指令信号i1、i2と、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aのリフト位置、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bのリフト位置との対応関係を示している。
【0018】
パルス信号S2が得られてから所定時間Tf経過後に、燃料圧送指令信号i1が出力され始め、プランジャ41Aが上死点に達した時点で燃料圧送指令信号i1がオフされる。時間Tfを長くして、燃料圧送指令信号i1を出力するタイミングを遅くすれば、燃料圧送動作がされている時間が短くなり燃料圧送量が減少するため、コモンレール圧が低下する。また、時間Tfを短くして、燃料圧送指令信号i1を出力するタイミングを早くすれば、燃料圧送動作がされている時間が長くなり燃料圧送量が増加するため、コモンレール圧が上昇する。
【0019】
しかし、エンジン10をスタータによってクランキングした直後は、そもそもコモンレール圧は、燃料を霧化して自己着火燃焼させるに十分な圧力にまで上昇していない。このためエンジン10のクランキングをした直後に、上述の通常制御M3′を行っていたのでは、コモンレール圧の上昇に時間がかかり、エンジン10が始動しないことになる。ここで、エンジン10の始動とは、インジェクタ61〜66から噴射した燃料が霧化することで自己着火燃焼することと同義である。
【0020】
そこで、エンジン10のクランキング直後の始動性を高めるために、エンジンクランキング直後は、通常制御M3′とは別の特別な制御を行うという発明が下記特許文献1、2に記載されている。
【0021】
特許文献1、2には、図3のM2′にて示すように、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られた時点で、図5に示すように、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうち燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ40A)に対して、燃料圧送指令信号i1を、燃焼圧送行程でプランジャ41Aが下死点から上昇を開始した時点から所定期間T1だけ与えるという発明が記載されている。ここで、所定期間T1は、エンジン1の始動時の最低回転数(クランキング回転数)などによって定められる時間(32.8msec)に設定されている。
【0022】
図3にM2′にて示すように、第2の基準パルス信号S22を得ることによって、燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ)を判別し、その燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し、以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第2の高圧ポンプ40B、第1の高圧ポンプ40Aに対して交互に、燃料圧送指令信号i2、i1を出力する(始動時制御M2′)。
【特許文献1】特開平2−146256号公報
【特許文献2】特開平6−207548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
特許文献1、2記載の発明にあっては、高圧ポンプ40で燃料圧送動作を開始させるには、第2の基準パルス信号S22を得ることが前提となっている。第2の基準パルス信号S22を得ることによって、第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40Bのうち、燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(他方の高圧ポンプは燃料吸入行程に入る)が判別され、燃料圧送動作を行うべき高圧ポンプが特定される。
【0024】
しかし、上述したように、クランクシャフト11が2回転する間に、カムシャフト70が1回転することで第2の基準パルス信号S22が発生するため、エンジン10をスタータによりクランキングした後クランクシャフト11が最大時でも2回転しないと、高圧ポンプ40で燃料圧送動作が開始されずコモンレール圧は上昇しないことになる。
【0025】
ディーゼルエンジンのスタータによるクランキング回転数は、エンジン機種や、バッテリの状態、オイル粘度等の各種条件にもよるが、60rpm程度にまで低下することがある。このためスタータを操作しても、約2秒間は、エンジン10が始動しないことがある。
【0026】
本発明は、こうした実状になされたものであり、エンジンのクランキング後、きわめて短時間でエンジンを始動できるようにすることを解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
第1発明は、
エンジンの各シリンダ内に燃料を噴射するエンジンの燃料噴射装置であって、
高圧燃料を蓄えるコモンレールと、
コモンレールに蓄圧された高圧燃料をエンジンの各シリンダに噴射するインジェクタと、
エンジンの回転に応じてプランジャがストロークし、燃料を吸入する行程と燃料をコモンレールに圧送する行程とを繰り返し、燃料圧送指令信号に応じて、燃料がコモンレールに圧送される第1の高圧ポンプと、
エンジンの回転に応じてプランジャがストロークし、燃料を吸入する行程と燃料をコモンレールに圧送する行程とを繰り返し、燃料圧送指令信号に応じて、燃料がコモンレールに圧送される高圧ポンプであって、第1の高圧ポンプが燃料吸入行程に入るときには燃料圧送行程に入り、第1の高圧ポンプが燃料圧送行程に入るときには燃料吸入行程に入るように位相がずれてプランジャがストロークする第2の高圧ポンプと、
第1および第2の高圧ポンプのいずれか一方が燃料圧送行程に入ったことを判別する第1の判別手段と、
第1および第2の高圧ポンプのうち、燃料圧送行程に入った高圧ポンプを判別する第2の判別手段と、
第2の判別手段によっては、燃料圧送行程に入った高圧ポンプが判定されておらず、第1の判別手段によって、第1および第2の高圧ポンプのいずれか一方が燃料圧送行程に入ったことが判別されている場合には、
当該燃料圧送行程の期間内に燃料をコモンレールに圧送させるための燃料圧送指令信号を、第1および第2の高圧ポンプの両方に与える始動時制御を実行し、
第2の判別手段によって、燃料圧送行程に入った高圧ポンプが判定された場合には、
当該燃料圧送行程の期間内に燃料をコモンレールに圧送させるための燃料圧送指令信号を、燃料圧送行程に入ったと判定された高圧ポンプに対して与える通常制御を実行する、
制御手段と
を備えたことを特徴とする。
【0028】
第2発明は、第1発明において、
始動時制御は、エンジンのクランキングを開始してから、コモンレールに蓄圧された圧力が所定の圧力に達するまで行われ、
コモンレールに蓄圧された圧力が前記所定圧力を超えると、通常制御が行われること
を特徴とする。
【0029】
図1、図2(a)に示すように、第1の高圧ポンプ40Aは、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Aがストロークし、燃料を吸入する行程(図2(a)中、プランジャ41Aが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図2(a)中、プランジャ41Aが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i1に応じて、燃料をコモンレール50に圧送するものである。第2の高圧ポンプ40Bは、第1の高圧ポンプ40Aと同様に、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Bがストロークし、燃料を吸入する行程(図2(a)中、プランジャ41Bが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図2(a)中、プランジャ41Bが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i2に応じて、燃料がコモンレール50に圧送される高圧ポンプであって、第1の高圧ポンプ40Aが燃料吸入行程に入るときには燃料圧送行程に入り、第1の高圧ポンプ40Aが燃料圧送行程に入るときには燃料吸入行程に入るように位相がずれてプランジャ41Bがストロークするものである。このように、第1の高圧ポンプ40Aと第2の高圧ポンプ40Bは、燃料圧送動作を交互に行うものである。
【0030】
図7のM1にて示すように、制御部100は、第1の基準パルス信号S11が得られていれば第2のパルス信号S2によって、第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40Bのいずれかが燃料圧送行程に入ることを判別し、図8に示すように、第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bの両方に対して、第2のパルス信号S2と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角のタイミングで燃料圧送指令信号i1、i2を出力する。以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bの両方に対して燃料圧送指令信号i1、i2を出力する。なお、上述の説明では、第1のパルス信号S1と第1の基準パルス信号S11と第2のパルス信号S2とに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出しているが、第1のパルス信号S1と第1の基準パルス信号11のみに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出してもよく、また、第1のパルス信号S1と第2のパルス信号S2のみに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出してもよい(第1の始動時制御M1)。
【0031】
この第1の始動時制御M1後に、制御部100は、図7のM2あるいはM3にて示すように、第2の基準パルス信号S22を得ることによって、燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ)を判別し、図8あるい図4に示すように、その燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aに対して、第2のパルス信号S2と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角のタイミングで燃料圧送指令信号i1を出力し、以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第2の高圧ポンプ40B、第1の高圧ポンプ40Aに対して交互に、燃料圧送指令信号i2、i1を出力する。
【0032】
図7に示すように、第1の基準パルス信号S11は、クランクシャフト11が1回転する間に発生するため、エンジン10をスタータによりクランキングした後クランクシャフト11が少なくとも1回転すれば、始動時制御M1が始まり、それにより高圧ポンプ40からコモンレール50に燃料が圧送されはじめコモンレール圧が高められる。燃圧が高められた燃料がインジェクタ61〜66から噴射されてエンジン10が始動する。このためエンジン10のクランキング回転数が60rpm程度まで低下したとしても、約1秒程度でエンジン10が始動することになる。すなわち本発明によれば、エンジンのクランキング後、きわめて短時間でエンジンを始動することができ、始動性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1は、実施例のエンジンの燃料噴射装置の構成を示している。図1は、コモンレール式燃料噴射システム200によってディーゼルエンジン10の各シリンダ1〜6に燃料を噴射する装置である。
【0034】
同図1に示すように、燃料タンク20には、ディーゼルエンジン用の燃料(軽油)が貯留されている。燃料タンク20は、フィードポンプ30の吸込口に連通している。フィードポンプ30の駆動軸は、エンジン10の出力軸に連結されている。フィードポンプ30の吐出口は、低圧燃料通路110を介して高圧ポンプ40に連通されている。高圧ポンプ40の駆動軸としてのカムシャフト70は、エンジン10の出力軸であるクランクシャフト11に連結されている。高圧ポンプ40の構成は、図2にて後述する。高圧ポンプ40の吐出口は、高圧燃料通路120を介してコモンレール(蓄圧室)50に連通している。コモンレール50は、各インジェクタ61、62、63、64、65、66の入口に連通している。各インジェクタ61、62、63、64、65、66はそれぞれ、エンジン10の各シリンダ1、2、3、4、5、6に対応して設けられている。各インジェクタ61〜66のノズル先端の噴孔は、各シリンダ1〜6の燃焼室に向けて配置されている。
【0035】
エンジン10のクランクシャフト11には、エンジン10のクランクシャフト11の角度(クランク角)を検出する第1のセンサ80が設けられている。
【0036】
カムシャフト70には、カムシャフト70の角度を検出する第2のセンサ90が設けられている。
【0037】
コモンレール50には、コモンレール50に蓄圧された燃料の圧力(コモンレール圧)を検出する圧力センサ95が設けられている。
【0038】
制御部100は、CPU、メモリからなるコントローラであり、第1のセンサ80、第2のセンサ90、圧力センサ95を含む各センサの検出信号を入力し、高圧ポンプ40(第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40B)、インジェクタ61〜66を制御するものである。
【0039】
エンジン10が稼動すると、エンジン10のクランクシャフト11の回転に応じて、フィードポンプ30、高圧ポンプ40が駆動される。これにより燃料タンク20から燃料がフィードポンプ30によって吸引され、フィードポンプ30から低圧の燃料が低圧燃料通路110を介して高圧ポンプ40に供給され、高圧ポンプ40から高圧の燃料が高圧燃料通路120を介してコモンレール50に供給され、コモンレール50に蓄圧された高圧燃料が、各インジェクタ61〜66に供給される。制御部100は、各シリンダ1〜6が圧縮行程から膨張行程に移行する上死点前の適正なタイミングで適正な期間、各シリンダ1〜6内に燃料が噴射されるように、燃料噴射指令信号を各インジェクタ61〜66に与える。これにより各インジェクタ61〜66から燃料が噴射され各シリンダ1〜6内で自己着火燃焼によりピストンが押し下げられる。
【0040】
たとえば4サイクルの直列6気筒のエンジン10の場合、直列にシリンダ1、2、3、4、5、6の順番で各シリンダ1〜6が配置されている。各シリンダ1〜6は、クランクシャフト11の角度で120゜ずつ位相がずれて、吸気、圧縮、膨張、排気の行程を繰り返す。各シリンダ1〜6は、エンジン10のクランクシャフト11が2回転する間に、等間隔で、シリンダ1、シリンダ5、シリンダ3、シリンダ6、シリンダ2、シリンダ4の順序で自己着火燃焼する。
【0041】
図2(a)は、高圧ポンプ40の構成例を示している。本実施例では、高圧ポンプ40として、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の圧縮行程中に燃料圧送動作を行う第1の高圧ポンプ40Aと、シリンダ5、シリンダ6、シリンダ4の圧縮行程中に燃料圧送動作を行う第2の高圧ポンプ40Bの2つが設けられる。
【0042】
第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bは、カムシャフト70の回転に応じて駆動される。カムシャフト70は、エンジン10のクランクシャフト11の1/2の速度で回転するように、減速機構を介してクランクシャフト11に連結されている。
【0043】
カムシャフト70には、カム山71A、71Bが設けられている。カム山71A、71Bにはそれぞれ、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41A、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bが当接している。
【0044】
図2(b)は、カム山71A、71Bのカムプロフィールの一例を示している。カム山71A、71Bは、カムシャフト70が1回転する度に、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41A、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bをそれぞれ3回往復動させるカムプロフィールに形成されている。プランジャ41A、41Bは、カムシャフト70の回転角度で互いに60゜位相がずれて往復動するように、カム山71A、71Bに当接している。
【0045】
第1の高圧ポンプ40Aは、カム山71A、71Bによって押動されることによって図2(a)中上方向、下方向に作動するプランジャ41Aと、プランジャ41Aが同図中上方に作動することで容積が小さくなるプランジャ室43Aと、燃料圧送指令信号i1のオフ、オンに応じて、開閉され、低圧燃料通路110とプランジャ室43Aの間を連通、遮断する電磁弁42Aと、プランジャ室43Aの出口に設けられ、プランジャ室43Aから高圧燃料通路120への流れのみを許容する逆止弁44Aとを中心に構成されている。
【0046】
第2の高圧ポンプ40Bの構成は、上述した第1の高圧ポンプ40Aと同様である。ただし、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bは、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aとは、カムシャフト70の角度で60゜位相がずれて往復動する。すなわち、第1の高圧ポンプ40Aと第2の高圧ポンプ40Bは、燃料圧送動作を交互に行う。
【0047】
第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aが図2(a)中上方向に移動する行程が、燃料圧送行程に対応し、プランジャ41Aが図2(a)中下方向に移動する行程が燃料吸入行程に対応する。第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bについても同様である。
【0048】
燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aの電磁弁42Aのソレノイドに対して、電磁弁42Aを閉じるための燃料圧送指令信号i1を加えると、電磁弁42Aが閉じられ、プランジャ室43A内の燃圧が高められ、逆止弁44Aが開かれる。これにより第1の高圧ポンプ40Aから燃料が高圧燃料通路120を介してコモンレール50に圧送される。第2の高圧ポンプ40Bについても同様である。
【0049】
このようにして第1の高圧ポンプ40Aは、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Aがストロークし、燃料を吸入する行程(図中、プランジャ41Aが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図中、プランジャ41Aが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i1に応じて、燃料をコモンレール50に圧送する。また第2の高圧ポンプ40Bは、第1の高圧ポンプ40Aと同様に、エンジン10の回転に応じてプランジャ41Bがストロークし、燃料を吸入する行程(図中、プランジャ41Bが下降する行程)と燃料をコモンレール50に圧送する行程(図中、プランジャ41Bが上昇する行程)とを繰り返し、燃料圧送指令信号i2に応じて、燃料をコモンレール50に圧送する。ただし第1の高圧ポンプ40Aが燃料吸入行程に入るときには燃料圧送行程に入り、第1の高圧ポンプ40Aが燃料圧送行程に入るときには燃料吸入行程に入るように位相がずれてプランジャ41Bがストロークする。このように、第1の高圧ポンプ40Aと第2の高圧ポンプ40Bは、燃料圧送動作を交互に行う。
【0050】
図7(c)、(d)はそれぞれ、第1の高圧ポンプ40Aに与えられる燃料圧送指令信号i1、第2の高圧ポンプ40Bに与えられる燃料圧送指令信号i2をタイムチャートで示している。
【0051】
また、図7(e)は、制御部100からインジェクタ61〜66に対して与えられる燃料噴射指令信号をタイムチャートで示している。インジェクタ61〜66に燃料噴射指令信号が加えられると、インジェクタ61〜66のノズルの噴孔から燃料が噴射される。
【0052】
図7(a)は、第1のセンサ80から出力されるパルス信号S1をタイムチャートで示している。パルス信号S1は、クランク角が所定量(たとえば6゜)変化する毎に、1パルスを出力する信号のことである。また第1のセンサ80は、クランクシャフト11が1回転しクランク角が基準のクランク角に達する毎に、第1の基準クランク角であることを示す特徴のある第1の基準パルス信号(2歯パルスが欠けた信号)S11を出力する。
【0053】
第2のセンサ90は、エンジン10の各シリンダ1〜6の上死点前所定クランク角を検出するごとに、0から1に変化するパルス信号S2を出力する。図7(b)は、第2のセンサ90から出力されるパルス信号S2をタイムチャートで示している。パルス信号S2は、各シリンダ1〜6の上死点前所定クランク角を検出する毎に、1パルスを出力する信号のことである。また第2のセンサ90は、カムシャフト70が1回転し、特定のシリンダ(シリンダ1)の上死点前所定クランク角に達する毎に、第2の基準クランク角であることを示す特徴のある第2の基準パルス信号(2歯パルスが連続した信号)S22を出力する。
【0054】
ここで、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aの下死点は、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されているとともに、プランジャ41Aの上死点は、シリンダ6、シリンダ5、シリンダ4の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されている。また、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bの下死点は、シリンダ6、シリンダ5、シリンダ4の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されているともに、プランジャ41Bの上死点は、シリンダ1、シリンダ3、シリンダ2の上死点から所定クランク角遅れた時期に設定されている。
【0055】
このため、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られていれば、第1のセンサ80のパルス信号S1と、第2のセンサ90のパルス信号S2から、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうちいずれの高圧ポンプが燃料圧送行程に入るかを判別でき、かつ燃料圧送行程に入る高圧ポンプに対して、燃料圧送指令信号を所望する時期に与えることができる。
【0056】
ここで、高圧ポンプ40に対して燃料圧送指令信号i1、i2を出力するタイミングは、コモンレール50に圧送される燃料量を規定しコモンレール圧を規定し、燃料圧力を規定する。これを図4を用いて説明する。
【0057】
図4(a)〜(e)は、第2のセンサ90から出力されるパルス信号S2と、燃料圧送指令信号i1、i2と、第1の高圧ポンプ40Aのプランジャ41Aのリフト位置、第2の高圧ポンプ40Bのプランジャ41Bのリフト位置との対応関係を示している。
【0058】
パルス信号S2が得られてから所定の時間Tf経過後に、燃料圧送指令信号i1が出力され始め、プランジャ41Aが上死点に達した時点で燃料圧送指令信号i1がオフされる。時間Tfを長くして、燃料圧送指令信号i1を出力するタイミングを遅くすれば、燃料圧送動作されている時間が短くなり燃料圧送量げ減少するため、コモンレール圧が低下する。また、時間Tfを短くして、燃料圧送指令信号i1を出力するタイミングを早くすれば、燃料圧送動作されている時間が長くなり燃料圧送量が増加するため、コモンレール圧が上昇する。
【0059】
制御部100では、以下に示す3つのモードの制御を行う。
【0060】
1)通常制御M3
通常制御M3は、圧力センサ95で検出されるコモンレール圧が所定圧(250bar)を超えた場合に実行される。また、通常制御M3は、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られており、それによって、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうちいずれの高圧ポンプが燃料圧送行程に入るかを判別できる時期にあることを前提とする。
【0061】
制御部100は、現在のエンジン回転数、エンジン負荷に応じて最適な時期に高圧ポンプ40に対して燃料圧送指令信号i1、i2を最適な時間だけ出力する(通常制御M3)。
【0062】
通常制御M3は、図7にM3にて示すように、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られている期間において、第2のパルス信号S2が検出される毎に、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうち燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ40A)に対して、燃料圧送指令信号(i1)を、エンジン回転数やエンジン負荷によって定まる燃料圧送行程の所望時期に所望期間だけ与えるというものである。
【0063】
図7にM3にて示すように、制御部100は、第2の基準パルス信号S22を得ることによって、燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ)を判別し、その燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aに対して、第2のパルス信号S2と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角のタイミングで燃料圧送指令信号i1を出力し、以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第2の高圧ポンプ40B、第1の高圧ポンプ40Aに対して交互に、燃料圧送指令信号i2、i1を出力する。
【0064】
図7にM3にて示すように、カムシャフト70が1回転(クランクシャフト11が2回転)する間に、シリンダ1の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し( 第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ5の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力し(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ3の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し(第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ6の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力し(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ2の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aに対して燃料圧送指令信号i1を出力し( 第1の高圧ポンプ40Aの燃料圧送行程(第2の高圧ポンプ40Bの燃料吸入行程))、つぎにシリンダ4の上死点前所定クランク角のタイミングで第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i2を出力する(第2の高圧ポンプ40Bの燃料圧送行程(第1の高圧ポンプ40Aの燃料吸入行程))。
【0065】
2)第2の始動時制御M2
この第2の始動時制御M2は、従来技術で行われていたクランキング直後の始動時制御M2′に相当し、上述した通常制御M3の前に行われる。
【0066】
第2の始動時制御M2は、圧力センサ95によって検出されるコモンレール圧が所定圧(250bar)に達していない場合に実行され、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られており、それによって、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうちいずれの高圧ポンプが燃料圧送行程に入るかを判別できる時期にあることを前提とする。
【0067】
この第2の始動時制御M2は、図7にM2にて示すように、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られ、かつ第2のセンサ90から第2の基準パルス信号S22が得られている期間において、図6に示すように、第2のパルス信号S2が検出される毎に、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのうち燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ40A)に対して、燃料圧送指令信号(i1)を、プランジャ41Aが下死点から上昇を開始して燃料圧送行程に入る時点から所定期間T2だけ与えるというものである。本実施例では、所定期間T2は、エンジン1の始動時の最低回転数(クランキング回転数)などによって定められる時間(64msec)に設定されている。
【0068】
図7にM2にて示すように、制御部100は、第2の基準パルス信号S22を得ることによって、燃料圧送行程に入る高圧ポンプ(たとえば第1の高圧ポンプ)を判別し、その燃料圧送行程に入る第1の高圧ポンプ40Aに対して、第2のパルス信号S2と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角で燃料圧送指令信号i1を出力し、以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第2の高圧ポンプ40B、第1の高圧ポンプ40Aに対して交互に、燃料圧送指令信号i2、i1を出力する。
【0069】
3)第1の始動時制御M1
この第1の始動時制御M1は、上述した第2の始動時制御M2の前に行われる。
【0070】
第1の始動時制御M1は、圧力センサ95によって検出されるコモンレール圧が所定圧(250bar)に達していない場合に実行され、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られており、第2のセンサ90からは第2の基準パルス信号S22が得られていない時期にあることを前提とする。
【0071】
この第1の始動時制御M1は、図7にM1にて示すように、第1のセンサ80から第1の基準パルス信号S11が得られると(第2のセンサ90からは第2の基準パルス信号S22が得られていない)、図8に示すように、第2のパルス信号S2が検出される毎に、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bのいずれが燃料圧送行程に入るかにかかわらず、第1および第2の高圧ポンプ40A、40Bの両方に対して、燃料圧送指令信号i1、i2を、プランジャ41A、41Bが下死点から上昇を開始した時点から、あるいは上死点から下降を開始した時点から、所定期間T3だけ与えるというものである。本実施例では、所定期間T3は、エンジン1の始動時の最低回転数(クランキング回転数)などによって定められる時間(64msec)に設定されている。
【0072】
図7にM1にて示すように、制御部100は、第2の基準パルス信号S22が得られていない時期であっても、第2のパルス信号S2と、第1の基準パルス信号S11と第1のパルス信号S1によって、第1の高圧ポンプ40A、第2の高圧ポンプ40Bのいずれかが燃料圧送行程に入ることを判別し、図8に示すように、第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bの両方に対して、第2のパルス信号S2と第1のパルス信号S1によって定まる所定クランク角びタイミングで燃料圧送指令信号i1、i2を出力し、以後、第2のパルス信号S2が得られる毎に、第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bの両方に対して燃料圧送指令信号i1、i2を出力する。
【0073】
なお、上述の説明では、第1のパルス信号S1と第1の基準パルス信号S11と第2のパルス信号S2とに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出しているが、第1のパルス信号S1と第1の基準パルス信号11のみに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出してもよい。すなわち、予め、2歯パルスが欠けている位置とリフト位置の関係(この関係は機械的に決定)が判明していれば、2歯パルスが欠けている位置から後のパルス数をカウントすることで、燃料を圧送するタイミング(ポンプの上死点位置手前)を特定することができる。
【0074】
また、第1のパルス信号S1と第2のパルス信号S2のみに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出してもよい。すなわち、予め2歯パルスが連続した位置とリフト位置の関係が判明していれば、2歯パルスが連続している位置から後のパルス数をカウントすることで、燃料を圧送するタイミング(ポンプの上死点位置手前)を特定することができる。
【0075】
図7にM1にて示すように、シリンダ4の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i1、i2が出力されると、第2の高圧ポンプ40Bで燃料圧送動作が行われる(実線にて示す)。ただし、燃料吸入行程にある第1の高圧ポンプ40Aでは燃料圧送動作は行われない(破線にて示す)。つぎにシリンダ1の上死点前所定クランク角のタイミングで第1の高圧ポンプ40Aおよび第2の高圧ポンプ40Bに対して燃料圧送指令信号i1、i2が出力されると、第1の高圧ポンプ40Aで燃料圧送動作が行われる(実線にて示す)。ただし燃料吸入行程にある第2の高圧ポンプ40Bでは燃料圧送動作は行われない(破線にて示す)。
【0076】
なお、図7にM0にて示すように、第1のパルス信号S1と第2のパルス信号S2のみに基づいて燃料を圧送するタイミングを検出した場合には、より早い時期から燃料圧送動作を行うことができる。
【0077】
つぎに本実施例による効果について説明する。
【0078】
第1の基準パルス信号S11は、クランクシャフト11が1回転する間に発生する。このため、図7に示すように、エンジン10をスタータによりクランキングした後クランクシャフト11が少なくとも1回転すれば、第1の始動時制御M1が始まり、それにより高圧ポンプ40からコモンレール50に燃料が圧送されはじめコモンレール圧が高められる。燃圧が高められた燃料がインジェクタ61〜66から噴射されてエンジン10が始動する。このためエンジン10のクランキング回転数が60rpm程度まで低下したとしても、約1秒程度でエンジン10が始動することになる。
【0079】
これに対して従来技術の場合には、前述したように、スタータを操作しても、約2秒間は、エンジン10は始動しない。
【0080】
すなわち本実施例によれば、エンジンのクランキング後、きわめて短時間でエンジンを始動することができ、始動性が向上する。
【0081】
なお、実施例では、第1の始動時制御M1を実行した後、第2の始動時制御M2に移行し、第2の始動時制御M2を実行した後、通常制御M3に移行しているが、第2の始動時制御M2を省略し、第1の始動時制御M1を実行した直後に、通常制御M3に移行する実施も可能である。
【0082】
なお、実施例では、直列6気筒のディーゼルエンジンを想定して説明したが、位相がずれて作動する少なくとも2つの高圧ポンプが備えられたものであれば、エンジンのシリンダの配置、気筒数を問わず、本発明を適用することができる。また、本発明は、ディーゼルエンジンのみならず、ガソリンエンジンにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、コモンレール式燃料噴射システムによってディーゼルエンジンの各シリンダに燃料を噴射する装置を示す図である。
【図2】図2は、高圧ポンプの構成例を示す図である。
【図3】図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、従来技術の制御実行時のタイムチャートである。
【図4】図4(a)〜(e)は、第2のセンサから出力されるパルス信号と、燃料圧送指令信号と、第1および第2の高圧ポンプのプランジャのリフト位置との対応関係を示した図である。
【図5】図5(a)〜(e)は、従来の制御実行時に、第2のセンサから出力されるパルス信号と、燃料圧送指令信号と、第1および第2の高圧ポンプのプランジャのリフト位置との対応関係を示した図である。
【図6】図6(a)〜(e)は、第2の始動時制御実行時に、第2のセンサから出力されるパルス信号と、燃料圧送指令信号と、第1および第2の高圧ポンプのプランジャのリフト位置との対応関係を示した図である。
【図7】図7(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、実施例の制御実行時のタイムチャートである。
【図8】図8(a)〜(e)は、第1の始動時制御実行時に、第2のセンサから出力されるパルス信号と、燃料圧送指令信号と、第1および第2の高圧ポンプのプランジャのリフト位置との対応関係を示した図である。
【符号の説明】
【0084】
1〜6 シリンダ、 10 エンジン、 40A 第1の高圧ポンプ、40B 第2の高圧ポンプ、41A、41A プランジャ、50 コモンレール、80 第1のセンサ、90 第2のセンサ、100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの各シリンダ内に燃料を噴射するエンジンの燃料噴射装置であって、
高圧燃料を蓄えるコモンレールと、
コモンレールに蓄圧された高圧燃料をエンジンの各シリンダに噴射するインジェクタと、
エンジンの回転に応じてプランジャがストロークし、燃料を吸入する行程と燃料をコモンレールに圧送する行程とを繰り返し、燃料圧送指令信号に応じて、燃料がコモンレールに圧送される第1の高圧ポンプと、
エンジンの回転に応じてプランジャがストロークし、燃料を吸入する行程と燃料をコモンレールに圧送する行程とを繰り返し、燃料圧送指令信号に応じて、燃料がコモンレールに圧送される高圧ポンプであって、第1の高圧ポンプが燃料吸入行程に入るときには燃料圧送行程に入り、第1の高圧ポンプが燃料圧送行程に入るときには燃料吸入行程に入るように位相がずれてプランジャがストロークする第2の高圧ポンプと、
第1および第2の高圧ポンプのいずれか一方が燃料圧送行程に入ったことを判別する第1の判別手段と、
第1および第2の高圧ポンプのうち、燃料圧送行程に入った高圧ポンプを判別する第2の判別手段と、
第2の判別手段によっては、燃料圧送行程に入った高圧ポンプが判定されておらず、第1の判別手段によって、第1および第2の高圧ポンプのいずれか一方が燃料圧送行程に入ったことが判別されている場合には、
当該燃料圧送行程の期間内に燃料をコモンレールに圧送させるための燃料圧送指令信号を、第1および第2の高圧ポンプの両方に与える始動時制御を実行し、
第2の判別手段によって、燃料圧送行程に入った高圧ポンプが判定された場合には、
当該燃料圧送行程の期間内に燃料をコモンレールに圧送させるための燃料圧送指令信号を、燃料圧送行程に入ったと判定された高圧ポンプに対して与える通常制御を実行する、
制御手段と
を備えたことを特徴とするエンジンの燃料噴射装置。
【請求項2】
始動時制御は、エンジンのクランキングを開始してから、コモンレールに蓄圧された圧力が所定の圧力に達するまで行われ、
コモンレールに蓄圧された圧力が前記所定圧力を超えると、通常制御が行われること
を特徴とする請求項1記載のエンジンの燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−177715(P2007−177715A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377795(P2005−377795)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】