説明

エンジンの2次空気供給装置とこれを備えた自動二輪車

【課題】設置スペースを大きくすることなく、排気ガスの浄化に必要な量の2次空気を確保することができるエンジンの2次空気供給装置とこれを備えた自動二輪車を提供する。
【解決手段】車両のエンジンEの排気通路19に2次空気aを供給する装置であって、2次空気aの供給通路Pの少なくとも一部が、車体のメインフレーム1の構成部分2の内部空間により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるエンジンの2次空気供給装置とこれを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車に搭載されるエンジンには、排気通路に2次空気を供給して、下流の触媒による排気ガスの浄化を促進する2次空気供給装置が取り付けられたものがある。この2次空気供給装置は、例えば、エアクリーナからの空気の一部を2次空気として利用するもので、エアクリーナの2次空気取出口とエンジンの排気通路の2次空気取入口との間が2次空気供給管で接続され、この2次空気供給管に設けられてエンジンの吸気通路の排気脈動により作動するポンプにより、2次空気を排気通路に送給している(特許文献1参照)。
【0003】
この2次空気供給装置では、エンジンの吸気通路の排気脈動によりポンプが作動して、エアクリーナから取り出した清浄な2次空気を間欠的にエンジンの排気通路に供給し、排気ガス中のCOやHCを再燃焼させて排気ガスを浄化する。
【特許文献1】第2868468号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記2次空気供給装置の場合、エアクリーナの2次空気取出口からエンジンの排気通路の2次空気取入口までの間を接続する2次空気供給管が長尺となるので、2次空気供給管内を流れる2次空気に大きな通路抵抗が作用し、2次空気吸気吸引力のロスにより、排気ガスの十分な浄化に必要な量の2次空気を排気通路に供給することが難しい。そこで、例えば2次空気供給管の内径を大きくする方法も考えられるが、車体での設置スペース上好ましくない。また、吸気通路の排気脈動により動作するポンプが、吸引動作時に一気に吸い込むのに十分な量の2次空気を貯留する空気タンクを2次空気供給管の中途に設けることも考えられるが、その場合、空気タンクが容量500cc以上の大形となるので、特に自動二輪車では設置スペースが少なく、設置が難しい。
【0005】
そこで、本発明は、設置スペースを大きくすることなく、排気ガスの浄化に必要な量の2次空気を確保することができるエンジンの2次空気供給装置とこれを備えた自動二輪車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明にかかるエンジンの2次空気供給装置は、自動二輪車のエンジンの排気通路に2次空気を供給する装置であって、前記2次空気の供給通路の少なくとも一部が車体のメインフレームの構成部分の内部空間により形成されている。ここで、メインフレームの構成部分には、車体上部のメインパイプ、ダウンチューブ、ロワーチューブおよびリアパイプが含まれる。
【0007】
この構成によれば、元々車体の骨組みとなるメインフレームの構成部分が2次空気の供給通路の少なくとも一部としてそのまま有効利用されるので、設置スペースを圧迫することがなく、しかも、装置の構造の簡素化と部品点数の削減が図れる。また、メインフレームは、通常、大きな内径を有するものであるから、2次空気の供給に必要な十分な貯留量を確保することができるとともに、吸気消音効果も得ることができる。
【0008】
前記メインフレームの構成部分は、例えば、前端部にヘッドパイプが接続されたメインパイプである。メインパイプは、その内部空間である中空部の容量が大きいので、2次空気の十分な貯留量を確保できるとともに、中空部の内径が大きいので、2次空気の通路抵抗が少なくなる。その結果、エンジンの排気通路に2次空気を効率的に供給できるとともに、大きな吸気消音効果が得られる。
【0009】
また、前記メインフレームの構成部分における2次空気の取入口に、空気浄化用のフィルタを配置するのが好ましい。メインフレームの構成部分における2次空気の取入口から取り入れられる2次空気中、つまり、外気中に含まれる粉塵や異物が空気浄化用のフィルタにより取り除かれるので、清浄な2次空気としてエンジンの排気通路へ供給することができる。
【0010】
さらに、前記2次空気の供給通路に、エンジンの吸気通路の脈動圧力により駆動されて2次空気を送給する2次空気ポンプを設けるのが好ましい。エンジンの吸気通路の脈動圧力を利用するので、2次空気ポンプとして、ダイヤフラムとリード弁を組み合わせた小形で簡単な構造の弁装置を使用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、元々車体の骨組みとなるメインフレームの構成部分が2次空気の供給通路の少なくとも一部としてそのまま有効利用されるので、設置スペースを圧迫することがなく、しかも、装置の構造の簡素化と部品点数の削減が図れる。また、メインフレームは、通常、大きな内径を有するものであるから、2次空気の十分な供給に必要な貯留量を確保することができるとともに、吸気消音効果も得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる4サイクル単気筒エンジンの2次空気供給装置を備えた自動二輪車の要部を示す側面図である。同図において、車体フレームFRはいわゆるクレードル型であって、車体フレームFRの前半部であるメインフレーム1が1本の円筒状のほぼ真直なパイプからなるメインパイプ2、メインパイプ2の前端部に連なる1本のダウンチューブ3、メインパイプ2の後端部近傍から下方に延びる左右1対のリヤパイプ4、およびダウンチューブ3とリヤパイプ4の下端部同士を連結する左右1対のロワチューブ5を有する。メインパイプ2の前端部にヘッドパイプ7が接続され、このヘッドパイプ7の上下側に、ヘッドパイプ7内に挿通したステアリング軸(図示せず)に固定されたアッパブラケット8とロワブラケット9が配置され、これら両ブラケット8,9によりフロントフォーク5が支持され、アッパブラケット8にハンドル10が取り付けられている。
【0013】
メインフレーム1の後部を構成するリヤパイプ4には、後輪(図示せず)を支持するスイングアーム(図示せず)の前端部が、ピボット軸12を介して上下揺動自在に軸支されている。前記メインパイプ2の後端にはシートレール15が連結され、リヤパイプ4にはシートレール15を補強するためのサポートチューブ16が連結されており、これらシートレール15とサポートチューブ16により、車体フレームFRの後半部であるリアフレーム17が構成されている。
【0014】
メインパイプ2の下方において、メインフレーム1にエンジンEが取り付けられている。エンジンEの吸気系は、リアフレーム17に支持されたエアクリーナ21、このエアクリーナ21にフレキシブルな吸気ダクト22を介して接続された燃料供給装置であるキャブレタ23、およびキャブレタ23とシリンダヘッド18の間に介装されたスロットルボデイ24を有している。前記燃料供給装置としては、キャブレタ23のほか、燃料噴射弁を用いてもよい。
【0015】
エンジンEのシリンダヘッド18における排気通路19には、2次空気供給装置30によって2次空気aが供給される。2次空気aの供給通路Pの一部である上流側部分P1が、車体のメインパイプ2の内部空間(中空部)を利用して形成されている。このメインパイプ2は、その後端2aが開口して、2次空気aの取入口P2となっており、この取入口P2に空気浄化用のフィルタ32が装填されている。
【0016】
フィルタ32を配置する位置は、取入口P2に限られるものではなく、供給通路Pの中途のいずれの場所、特にメインパイプ2のいずれの場所としてもよい。例えば、メインパイプ2の中間部に、二点鎖線で示すようにフィルタ32Aを配置することもできる。その場合、フィルタ32Aを収納するメインパイプ2の周壁の一部分を開閉可能とすることにより、フィルタ32Aの点検や交換を容易化できる。また、2次空気aの取入口P2は、メインパイプ2の後端2aの開口に限られるものではなく、メインパイプ2の長手方向中間部に横孔をあけて、その横孔を取入口としてもよい。
【0017】
メインパイプ2の前端寄りの下部に取付孔35を設け、この取付孔35に2次空気aの供給通路Pの中間部P3となるフレキシブルな中間チューブ36の一端が、ニップル37を介して接続されている。ニップル37の空気入口となる先端部(上端部)はメインパイプ2の中心軸付近まで延びており、これによって、メインパイプ2内に水が入っても、この水がニップル37を通って中間チューブ36内に進入しないようになっている。ダウンチューブ3にはブラケット39を介して2次空気ポンプ40が取り付けられており、この2次空気ポンプ40の入口に中間チューブ36の他端部が接続されている。2次空気ポンプ40はダイヤフラムとリード弁を組み合わせた、簡単な構造の公知のポンプである。2次空気ポンプ40の出口には供給通路Pの下流部P4を形成する下流チューブ41が接続され、この下流チューブ41の下流端部41aが、シリンダヘッド18の排気通路19における排気バルブ(図示せず)の下流近傍に接続されている。
【0018】
吸気系を構成するエアクリーナ21、吸気ダクト22、キャブレタ23およびスロットルボデイ24の内部には、エンジンEに吸気を供給するための吸気通路43が形成されており、この吸気通路43と前記2次空気ポンプ40との間が、負圧チューブ44で接続されて、吸気通路43の負圧が前記2次空気ポンプ40に導入されている。負圧チューブ44は、メインパイプ2の外周に巻き付けたバンドからなる支持具45により、メインパイプ2に支持されている。この例では、負圧チューブ44の一端部がキャブレタ23内の吸気通路43に接続されている。2次空気ポンプ40は、吸気通路43の負圧時に、メインパイプ2および中間チューブ36を通って2次空気aを吸引し、正圧時に下流チューブ41に送出する。
【0019】
平面図である図2に示すように、メインフレーム2の後端2aがエアクリーナ21に近接して対向しており、この後端2aとエアクリーナ21との間の隙間Cから外気が2次空気aとしてメインフレーム2内に円滑に取り込まれる。また、2次空気ポンプ40から延びる下流チューブ41はエンジンEの上方でとぐろ状に蛇行しており、走行風による冷却によって下流チューブ41の過熱を防止している。
【0020】
空気浄化用のフィルタ32は、縦断面図である図3に示すように、樹脂製のケース51の内部に濾材(フィルタエレメント)52を収納し、ケース51をゴム製のダンパ53の内側に挿入したものである。ケース51は車体前方を向く後面が開放されており、前壁51aに、空気導入孔54と、フィルタ32をメインパイプ2の後端2aの開口に出し入れしやくするための取っ手55とが設けられている。ダンパ53は車体後方を向く前面が開放されており、後壁53aに、図4に示すように、格子状のリブ56が形成されて、リブ56,56の間が空気導出孔57となっている。ダンパ53の外周には、図3に示す複数
の環状溝58が形成されており、これによって、フィルタ32の外周面とメインパイプ2の内周面との間にラビンスシールを形成している。ケース51とダンパ53には、ねじ孔59とねじ挿通孔60がそれぞれ形成されており、メインパイプ2の外側から図示しないねじ体をねじ挿通孔60に挿通し、ねじ孔59にねじ込むことにより、フィルタ32がメインパイプ2に取り付けられる。
【0021】
上記構成の2次空気供給装置30の動作について説明する。図1のエンジンEが運転状態にあるとき、エンジンEの吸気通路43の吸気脈動の圧力が負圧チューブ44を介して2次空気ポンプ40に伝達されることにより、2次空気ポンプ40が駆動され、メインパイプ2の後端の取入口P2から外気を2次空気aとして取り込む。その際、空気浄化用のフィルタ32で外気中から粉塵や異物がろ過されて取り除かれるので、清浄な外気が2次空気aとして、メインパイプ2の内部空間である上流側部分P1に導入される。清浄な2次空気aは、メインパイプ2の内部空間を通過したのち、ニップル37、中間チューブ36および下流チューブ41を経てエンジンEの排気通路19に供給される。供給された2次空気aにより、排気ガス中の酸素濃度が上昇し、図示しない触媒により、排気ガスが浄化される。
【0022】
また、2次空気aの取入口P2は、メインパイプ2の後端2aに形成されて後方に向かって開口しているから、走行中に取入口P2から粉塵や異物が進入しにくい。しかも、前記後端2aがエアクリーナ21に近接して対向しているから、粉塵や異物の進入が一層抑制される。さらに、メインパイプ2の後端2aの取入口P2にフィルタ32が配置されているから、フィルタ32の点検および交換が容易である。
【0023】
このように、本発明では、元々車体の構成部分として存在するメインフレーム1の構成部分であるメインパイプ2を2次空気aの供給通路Pの一部としてそのまま利用しているので、2次空気供給装置30の設置スペースが圧迫されることがない。しかも、空気タンクのような別部品を新たに設ける必要がないので、構造の簡素化と部品点数の削減が図れる。また、メインフレーム1の構成部分であるメインパイプ2は、通常、大きな内径を有するものであるから、2次空気aの十分な供給に必要な貯留量を確保できるとともに、大きな容積により吸気消音効果も大きくなる。しかも、メインパイプ2の内径が大きいことから、2次空気aの通路抵抗が極力抑えられる。このように、2次空気ポンプ40の上流側で2次空気ポンプ40による間欠的な吸込時に一気に吸い込むのに十分な量の2次空気aがメインパイプ2内に貯留されること、および通路抵抗が抑制されることにより、エンジンEの排気通路19に排気浄化に十分な量の2次空気aを効率的に供給することができる。
【0024】
つぎに、前記実施形態にかかるエンジンの2次空気供給装置と従来の2次空気供給装置との性能比較実験の結果について説明する。図5は2次空気aの供給量をL/min単位で示している。従来装置の配管と本発明装置の配管である図1の中間チューブ36および下流チューブ41の内径は、ともに10mmである。図5から明らかなように、自動二輪車の車速がアイドリング状態(ID)から20km/h、30km/h、40km/h、50km/h、60km/hのいずれの走行時においても、本発明に係るエンジンの2次空気供給装置のほうが多量の2次空気を供給できる。
【0025】
なお、本発明において、エンジンEと吸気系の配置によっては、2次空気の供給通路Pの一部を形成するメインフレーム1の構成部分として、前記メインパイプ2に代えて、ダウンチューブ4またはダウンチューブ4を利用することもできる。また、メインフレーム1の形状によっては、供給通路Pのすべてをメインフレーム1の構成部分によって形成することも可能である。また、本発明は、三輪車や不整地走行用の四輪車にも適用することができる。
【0026】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかるエンジンの2次空気供給装置を備えた自動二輪車の要部を示す側面図である。
【図2】同2次空気供給装置を備えた自動二輪車の要部を示す平面図である。
【図3】空気浄化用のフィルタの縦断面図である。
【図4】同フィルタの背面図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるエンジンの2次空気供給装置と従来の2次空気供給装置との性能比較実験の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0028】
1 メインフレーム
2 メインパイプ(構成部分)
7 ヘッドパイプ
19 排気通路
30 2次空気供給装置
32 フィルタ
36 中間チューブ
40 2次空気ポンプ
43 吸気通路
a 2次空気
E エンジン
FR 車体フレーム
P 2次空気の供給通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンの排気通路に2次空気を供給する装置であって、
前記2次空気の供給通路の少なくとも一部が車体のメインフレームの構成部分の内部空間により形成されているエンジンの2次空気供給装置。
【請求項2】
請求項1において、前記メインフレームの構成部分は、前端部にヘッドパイプが接続されたメインパイプであるエンジンの2次空気供給装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記メインフレームの構成部分における2次空気の取入口に、空気浄化用のフィルタが配置されているエンジンの2次空気供給装置。
【請求項4】
請求項1、2または3において、前記2次空気の供給通路に、エンジンの吸気通路の脈動圧力により駆動されて2次空気を送給する2次空気ポンプが設けられているエンジンの2次空気供給装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジンの2次空気供給装置を備えた自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−144606(P2008−144606A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329685(P2006−329685)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】