説明

エンジン制御装置

【課題】性能パラメータの相互干渉による制御性悪化の回避を図るとともに、エンジン性能を好適に制御する。
【解決手段】性能パラメータ算出部31は、複数の性能パラメータの目標値をエンジン運転状態に基づいて設定する。また、目標燃費操作部40は、各性能パラメータの実値が目標値に制御されている状態で、燃費の目標値をエミッション排出量の変化量に基づいて性能良化側に操作する。目標燃費操作部40は、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した相関データを用い、燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて各性能パラメータの変化量を算出する性能パラメータ変化量算出部43と、エミッション排出量の変化量が所定の許容範囲にある場合に、燃費の変化量を燃費操作量として設定する燃費操作量設定部44とを有する。燃焼パラメータ算出部32は、各性能パラメータの目標値に基づいて複数の燃焼パラメータの目標値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁やEGRバルブ等のアクチュエータの作動を制御することで、エンジンの燃焼状態を制御し、ひいてはエンジンの性能を制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所望とするエンジン性能を満たすよう、燃料噴射量、噴射時期、EGR量、過給圧、吸気量、点火時期、吸排気バルブの開閉時期等の各制御パラメータを制御するエンジン制御装置が知られている。エンジン性能を表す性能パラメータとしては、例えばNOx量、CO量等の排気エミッションに関する値や、出力トルク、燃料消費率(燃費)等が挙げられる。
【0003】
また一般には、これらエンジン性能に対する燃料噴射量等、上記制御パラメータの指令値は、適合試験により作成された制御マップを用いて設定されるものとなっている。この場合、複数の制御パラメータ(燃料噴射量、噴射時期等)の指令値を設定するための制御マップは各々独立して設けられており、それらの各制御マップにより設定された制御パラメータの指令値に基づいて、性能パラメータが目標値になるよう各種の制御が行われる。こうして各制御パラメータの指令値が各々独立して設定される場合、ある性能パラメータが目標値になると別の性能パラメータが目標値からずれ、その別の性能パラメータが目標値になると前記ある性能パラメータが目標値からずれてしまうといった、複数の制御パラメータが相互干渉する状況に陥りやすい。よって、複数の性能パラメータを同時に目標値に一致させることは困難であるのが現状である。
【0004】
また、先行技術として、燃焼パラメータの目標値をエンジン運転状態から算出し、目標値に対して実際にセンサ等で検出した実燃焼パラメータを一致させるようにフィードバック制御を実施するもの(特許文献1)や、目標値に対してシミュレーションモデルによる予測値と一致させるようにフィードバック制御を実施するもの(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223643号公報
【特許文献2】特開2007−77935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2を含む従来技術では、燃焼パラメータの目標値を、排気エミッションや出力トルク、燃費などのうちいずれかの性能パラメータに対して、個々に適合や演算により設定するようにしている。そのため、やはり燃焼パラメータの目標値と実値とのずれをフィードバック制御により一致させた場合に、その燃焼パラメータに対応付けられた性能パラメータについては目標値に追従できていても、それ以外の性能パラメータについては目標値に追従できていないという事態が生じるおそれがあった。つまり、燃焼パラメータのフィードバック制御を実施する際に、複数の性能パラメータについて相互干渉が生じ、結果としてこれら複数の性能パラメータを同時に目標値に一致させることができないという不都合があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、性能パラメータの相互干渉による制御性悪化の回避を図るとともに、エンジン性能を好適に制御することができるエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0009】
請求項1に記載の発明は、アクチュエータの作動を制御することで、エンジンの燃焼状態を制御し、ひいてはエンジン性能を制御するエンジン制御装置に関するものである。そして、前記エンジン性能を表す複数の性能パラメータについて各性能パラメータの目標値をエンジン運転状態に基づいて設定する性能目標設定手段と、前記複数の性能パラメータと、前記燃焼状態を表す複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第1相関データ(燃焼パラメータ演算式)を用い、前記性能目標設定手段により設定した各性能パラメータの目標値に基づいて前記複数の燃焼パラメータの目標値を設定する燃焼目標設定手段と、前記燃焼目標設定手段により設定した各燃焼パラメータの目標値に基づいて、前記アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する制御指令値算出手段と、を備える。また、前記性能目標設定手段は、前記性能パラメータの実値が前記性能目標設定手段により設定した目標値に制御されている状態で、前記複数の性能パラメータのうちいずれかを操作対象とし、該操作対象とした性能パラメータの目標値を、前記複数の性能パラメータのうち前記操作対象でない性能パラメータの情報に基づいて性能良化側に操作する目標操作手段を備えることを特徴とする。
【0010】
上記発明において、第1相関データは、複数の性能パラメータ(例えばNOx量やPM量、出力トルク、燃費等)と複数の燃焼パラメータ(例えば着火時期や着火開始遅れ時間、熱発生率等)との相関を定義したものであり、その相関は、性能パラメータと燃焼パラメータとが1対1で関連付けされるものではなく、複数対複数で関連付けされるものとなっている。例えば、単に燃費と熱発生率との相関が1対1で定義されるものではなく、NOx量やPM量、燃費等の各性能パラメータの全てについて、各性能パラメータの目標値を同時に満たすための着火時期や着火開始遅れ時間、熱発生率等の組み合わせが定義されている。
【0011】
したがって、複数の性能パラメータの個々について独立して燃焼パラメータの目標値が設定される既存の技術とは異なり、複数の性能パラメータが相互干渉することを抑制でき、その相互干渉による制御性悪化を回避できる。つまり、上記の第1相関データを用いることにより、複数の性能パラメータを同時に目標値にすることに対する制御性向上を図ることができる。なお、請求項1の発明では、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関をエンジンシステムの逆モデルで表したパラメータ演算式が、第1相関データとして用いられるとよい。
【0012】
ただし、複数の性能パラメータが同時に目標値になっている状態において、それら複数の性能パラメータには、現状よりも更に良化側に移行できるもの(良化余裕があるもの)が含まれていることがあると考えられる。例えば、NOx量をA値又はA値以下にする、燃費をB値又はB値以下にする等の各性能目標が同時に達成できている状況下で、NOx量をA値又はA値以下にしたまま、燃費を現状値から更に「α」だけ低減できる場合があると考えられる。
【0013】
この観点から本発明では、性能パラメータの実値が目標値(都度のエンジン運転状態に基づいて設定された目標値)に制御されている状態で、複数の性能パラメータのうちいずれかを操作対象とし、該操作対象とした性能パラメータの目標値を、複数の性能パラメータのうち操作対象でない性能パラメータの情報に基づいて性能良化側に操作することとしている。この場合、上記の相関データ(第1相関データ)を用いた本制御では、1の性能パラメータ(操作対象の性能パラメータ)が操作された場合に、複数の燃焼パラメータについてそれらがどのように変化したかを把握でき、さらには複数の燃焼パラメータの変化に基づいて、操作対象以外の性能パラメータの変化の状況も容易に把握できる。したがって、複数の性能パラメータについての変化を把握しつつ、操作対象の性能パラメータについての性能良化側への操作が可能となる。このとき、エンジンの燃焼状態(燃焼パラメータ)とアクチュエータの制御パラメータとについても所定の相関があることから、複数の性能パラメータの変化を把握した上で、アクチュエータの制御を実施できる。以上により、性能パラメータの相互干渉による制御性悪化の回避を図るとともに、エンジン性能の制御の更なる好適化を図ることができることとなる。
【0014】
なお、複数の性能パラメータには、排気エミッションに関する物理量、出力トルクに関する物理量、燃料消費率(燃費)に関する物理量、及び燃焼音に関する物理量の少なくとも2つが含まれているとよい。そして、排気エミッションに関する物理量の具体例としてはNOx量、PM量、CO量、HC量等が挙げられる。出力トルクに関する物理量の具体例としては出力トルクそのものの他にエンジン回転速度等が挙げられる。燃焼音に関する物理量の具体例としては燃焼音そのものの他にエンジンの振動等が挙げられる。このように性能パラメータには多種多様の種類が具体例として挙げられ、これらには相互干渉に陥りやすいパラメータが含まれる(例えば、出力トルクを上げると燃費が低下する等)。この点、上記発明によれば、相互干渉抑制の効果が得られる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、前記目標操作手段は、前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に伴い生じる、前記操作対象でない性能パラメータの変化量を取得し、該取得した変化量に基づいて、前記操作対象の性能パラメータの目標値を操作する。
【0016】
複数の性能パラメータのうちいずれかを操作すれば、それ以外の性能パラメータも変化する。この場合、操作対象でない性能パラメータが過剰変化しないように、換言すれば目標値を満たさなくなることがないように、操作対象の性能パラメータの目標値を操作することが望ましい。
【0017】
請求項3に記載の発明では、前記目標操作手段は、前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に際し、前記複数の燃焼パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する燃焼パラメータ範囲算出手段と、前記第1相関データを用い、前記燃焼パラメータ範囲算出手段により算出した燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて、その動作可能範囲に対する前記複数の性能パラメータの変化量を算出するパラメータ変化量算出手段と、を備える。そして、前記パラメータ変化量算出手段により算出した前記複数の性能パラメータの変化量を用い、そのうち前記操作対象でない性能パラメータの変化量が所定の許容範囲にある場合に、前記操作対象とした性能パラメータの変化量を、当該性能パラメータの目標値の操作量として設定する(目標操作量設定手段)。なお、請求項3の発明では、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関をエンジンシステムの順モデルで表したパラメータ演算式が、第1相関データとして用いられるとよい。
【0018】
要するに、第1相関データを用いれば、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関が把握できることから、燃焼パラメータの動作可能範囲からその動作可能範囲に対応する複数の性能パラメータの変化量を容易に算出できる。この場合、複数の性能パラメータの変化量はパラメータごとに大小異なることが考えられるが、操作対象でない性能パラメータの変化量が所定の許容範囲にあることを条件に、操作対象とした性能パラメータの変化量が、当該性能パラメータの目標値の操作量として設定されるため、操作対象の性能パラメータを操作した場合においてそれ以外の性能パラメータが目標値を満たす状態に維持できる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、前記目標操作手段は、前記目標操作量設定手段により設定した前記性能パラメータの目標値の操作量を最大許容操作量として、前記操作対象とした性能パラメータの目標値を徐々に性能良化側に操作する。
【0020】
上記構成によれば、各燃焼パラメータの動作可能範囲と第1相関データとに基づいて算出された性能パラメータの変化量(特に、操作対象でない性能パラメータの変化量が所定の許容範囲にあることを条件とする、操作対象の性能パラメータの変化量)を最大許容操作量として(性能良化側のガード値として)、ある性能パラメータの目標値が徐々に性能良化側に操作される。この場合、急激な燃焼状態の変化を抑制しつつ、性能パラメータの良化操作を実施できる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、前記目標操作手段による前記目標値の操作開始後における前記燃焼パラメータの変化量が所定以上であるか否かを判定する判定手段を備え、前記目標操作手段は、前記判定手段により前記燃焼パラメータの変化量が所定以上であると判定された場合に、更なる前記目標値の操作を中止する。
【0022】
複数の性能パラメータのうちいずれかを操作すれば、複数の燃焼パラメータが変化する。この場合、複数の燃焼パラメータの変化は燃焼状態の変化に相当し、その燃焼状態の変化を監視しながら、性能パラメータの操作を実施できる。
【0023】
なお、燃焼パラメータの変化量が所定以上か否かの判定は、複数の燃焼パラメータのうち特定のものを対象に実施してもよいし、全ての燃焼パラメータを対象に実施して、そのうち最大変化を呈する燃焼パラメータの変化量が所定以上であるか否かを判定してもよい。
【0024】
請求項6に記載の発明では、前記判定手段は、前記複数の燃焼パラメータのうち、前記操作対象とした性能パラメータに最も相関の強い燃焼パラメータについて、当該燃焼パラメータの変化量を判定するものである。
【0025】
各性能パラメータと各燃焼パラメータとは相関の度合い(相関強さ)が個々に相違し、操作対象となっている性能パラメータについて言っても、複数の燃焼パラメータには相関が強いものと弱いものとが含まれる。この点、相関の強さに応じて燃焼パラメータの監視を実施することで、性能パラメータの操作の適否を適正に判断できる。つまり、操作対象の性能パラメータに最も相関の強い燃焼パラメータを監視対象とすることで、燃焼状態の変化を敏感に監視した上で、性能パラメータの操作を実施できる。
【0026】
請求項7に記載の発明では、前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に際し、前記制御パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する制御パラメータ範囲算出手段を備える。そして、前記燃焼パラメータ範囲算出手段は、前記複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第2相関データを用い、前記算出した前記制御パラメータの動作可能範囲に基づいて、前記燃焼パラメータの動作可能範囲を算出する。なお、請求項7の発明では、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関をエンジンシステムの順モデルで表したパラメータ演算式が、第2相関データとして用いられるとよい。
【0027】
複数の燃焼パラメータと制御パラメータとの相関を定義した第2相関データを用いれば、制御パラメータの動作可能範囲から燃焼パラメータの動作可能範囲を容易に算出できる。しかもこの場合、複数の燃焼パラメータについて同時に動作可能範囲を算出できる。したがって、性能パラメータの目標値の操作に際し、複数の燃焼パラメータの動作可能範囲を算出する上で好都合な構成を実現できる。
【0028】
請求項8に記載したように、前記目標操作手段は、エンジンの燃料消費率(燃費)を前記操作対象の性能パラメータとし、エンジンの排気エミッションの所定成分の排出量を前記操作対象でない性能パラメータとし、前記燃料消費率の目標値を、前記排気エミッションの所定成分の排出量に基づいて性能良化側に操作するものであるとよい。
【0029】
上記構成によれば、排気エミッションの悪化を監視しつつ、エンジンの燃費の更なる向上を実現できる。この場合、燃費をリアルタイムで最適値に制御することが可能となる。
【0030】
請求項9に記載の発明では、前記制御指令値算出手段は、前記複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第2相関データ(制御パラメータ演算式)を用い、前記燃焼目標設定手段により設定した各燃焼パラメータの目標値に基づいて前記複数の制御パラメータの指令値を算出する。
【0031】
第2相関データは、複数の燃焼パラメータ(例えば着火時期、着火開始遅れ時間、熱発生率等)と複数の制御パラメータ(例えば燃料噴射量、EGR量、過給圧)との相関を定義したものであり、その相関は、燃焼パラメータと制御パラメータとが1対1で関連付けされるものではなく、複数対複数で関連付けされるものとなっている。例えば、単に着火時期と燃料噴射量との相関が1対1で定義されるものではなく、着火時期や着火開始遅れ時間等の各燃焼パラメータの全てについて、目標値を同時に満たすための燃料噴射量やEGR量、過給圧等の組み合わせが定義されている。
【0032】
したがって、複数の燃焼パラメータの個々について独立して制御パラメータの指令値が設定される既存の技術とは異なり、複数の制御パラメータが相互干渉することを抑制でき、その相互干渉による制御性悪化を回避できる。つまり、上記の第2相関データを用いることにより、複数の燃焼パラメータを同時に目標値にすることに対する制御性向上を図ることができる。なお、請求項9の発明では、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関をエンジンシステムの逆モデルで表したパラメータ演算式が、第2相関データとして用いられるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に関し、(a)はエンジン制御装置のブロック図、(b)は燃焼パラメータ演算式を示す図、(c)は制御パラメータ演算式を示す図。
【図2】制御指令値算出処理を示すフローチャート。
【図3】燃焼パラメータ演算式及び制御パラメータ演算式で定義される相関の具体例を説明する図。
【図4】燃焼パラメータによる性能パラメータの影響を説明する図。
【図5】目標燃費操作部の構成を示すブロック図。
【図6】相関演算式を示す図。
【図7】目標燃費の操作処理を示すフローチャート。
【図8】本発明の第2実施形態にかかる目標燃費の操作処理を示すフローチャート。
【図9】本発明の第3実施形態にかかるエンジン制御装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0035】
(第1実施形態)
本実施形態にかかるエンジン制御装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0036】
図1(a)は、エンジン制御装置のブロック図である。エンジン10には、複数種類のアクチュエータ11が搭載されており、これらのアクチュエータ11の作動が電子制御ユニット(ECU20)により制御されることで、エンジン10の燃焼状態が制御され、ひいてはエンジン性能が制御される。
【0037】
燃料系に関するアクチュエータ11の具体例としては、燃焼に供する燃料を噴射する燃料噴射弁、及び燃料噴射弁へ供給する燃料の圧力を制御する高圧ポンプ等が挙げられる。ECU20は、高圧ポンプが吸入して吐出する燃料量(制御パラメータ)の指令値を高圧ポンプへ出力することで、噴射燃料の圧力を制御する。また、ECU20は、燃料噴射弁による燃料の噴射量(噴射時間)、噴射時期、1燃焼あたりに噴射する多段噴射回数等の制御パラメータの指令値を燃料噴射弁へ出力する。
【0038】
吸気系に関するアクチュエータ11の具体例としては、排気の一部をEGRガスとして吸気に循環させるEGR量を制御するEGRバルブ、過給圧を可変制御する可変型過給器、気筒内への新気流入量を制御するスロットルバルブ、吸気バルブ又は排気バルブの開閉時期やリフト量を可変制御するバルブ制御機構等が挙げられる。ECU20は、EGR量、過給圧、新気流入量、機関バルブ開閉時期及びリフト量等の制御パラメータを指令する指令値を、EGRバルブ、可変型過給器、スロットルバルブ、バルブ制御機構の各々へ出力する。以上のようにECU20が出力した各種指令値に基づきアクチュエータ11が作動することで、エンジン燃焼状態が制御され、ひいてはエンジン性能が制御される。
【0039】
「エンジン燃焼状態」は複数の燃焼パラメータにより表されており、これらの燃焼パラメータの具体例としては、着火時期、着火開始遅れ時間(燃料噴射を開始してから着火するまでの時間)、熱発生率等が挙げられる。これらの燃焼パラメータ(着火時期、着火開始遅れ時間、熱発生率)は、例えば筒内圧センサの出力信号により検出可能な物理量である。
【0040】
「エンジン性能」は複数の性能パラメータにより表されており、これらの性能パラメータの具体例としては、排気エミッションに関する物理量(例えばNOx量、PM量、CO量、HC量等)、出力トルクに関する物理量(例えばエンジン出力軸の回転トルク、エンジン回転速度等)、燃費に関する物理量(例えば消費燃料容積当たりの走行距離、運転時間当たりの燃料消費量等であって、モード試験等により計測される量)、及び燃焼音に関する物理量(例えばエンジン振動、エンジン騒音等)が挙げられる。
【0041】
ECU20はマイクロコンピュータを有し、そのマイコンは、各種の演算を行うCPU、その演算途中のデータや演算結果等を一時的に記憶するメインメモリとしてのRAM、プログラムメモリとしてのROM、データ保存用メモリとしてのEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、バックアップRAM(ECU20の主電源停止後も車載バッテリ等のバックアップ電源により常時給電されているメモリ)等を備えて構成されている。
【0042】
また、エンジン10に搭載された各種センサ12,13の検出値はECU20に入力される。エンジン出力センサ12は、上述した性能パラメータの実際の値を検出するセンサであり、例えば、排気中の特定成分量(NOx量等)を検出するセンサ、トルクを検出するセンサ、燃焼音を検出するセンサ等が挙げられる。
【0043】
燃焼状態量センサ13は、上述した燃焼パラメータの実際の値を検出するセンサであり、例えば燃焼室内(筒内)の圧力を検出する筒内圧センサ、燃焼に伴い生じるイオンの量を検出するイオンセンサ等が挙げられる。例えば、筒内圧センサにより検出された筒内圧力の変化に基づけば、着火時期、着火開始遅れ時間等を取得できる。
【0044】
ECU20は、エンジン制御に関する基本機能の構成として、複数の性能パラメータについて目標値を算出する性能パラメータ算出部31(性能目標設定手段)と、実際の性能パラメータを目標値にするにはどのような燃焼状態(燃焼パラメータ)にすればよいのかを算出する燃焼パラメータ算出部32(燃焼目標設定手段)と、目標とする燃焼状態となるようにアクチュエータ11の作動(制御パラメータ)を制御するアクチュエータ制御部33(制御指令値算出手段)と、性能パラメータの目標値と実値(エンジン出力センサ12の検出値)との偏差を算出する性能パラメータ偏差算出部34(性能フィードバック手段)と、燃焼パラメータの目標値と実値(燃焼状態量センサ13の検出値)との偏差を算出する燃焼パラメータ偏差算出部35(燃焼フィードバック手段)と、を備えている。これら各々の機能ブロック31〜35はマイコンの制御プログラムにより実現される。
【0045】
燃焼パラメータ算出部32は、性能パラメータ偏差算出部34により算出された性能パラメータ偏差を加算していく積分器32aと、ECU20が有するROM等のメモリ(記憶手段)に記憶された第1相関データとしての燃焼パラメータ演算式32bとを備えて構成されている。
【0046】
燃焼パラメータ演算式32bは、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義したものであり、例えば図1(a)に示すモデルや、図1(b)に示す行列式により定義される。これは、「どのような燃焼状態(燃焼パラメータ)にすればどのようなエンジン性能(性能パラメータ)になるのか」換言すれば「要求される性能パラメータにするには燃焼状態をどのようにすればよいのか」を定義した演算式であると言える。したがって、性能パラメータの目標値(又は性能パラメータの変化量)を燃焼パラメータ演算式32bに代入すれば、燃焼パラメータの目標値(又は燃焼パラメータの変化量)を得ることができる。図1(a)に示す例では、複数の性能パラメータ変化量(偏差)を燃焼パラメータ演算式32bに代入することで、複数の燃焼パラメータについて現状の値からどれだけ変化させたらよいかの燃焼パラメータの変化量を算出している。
【0047】
なお、積分器32aにより偏差を積分し、その積分値を燃焼パラメータ演算式32bに代入することで、性能パラメータの実値が目標値に対して定常的にずれてしまうといった定常偏差発生の抑制を図っている。そして、積分器32aにより算出された偏差積分値がゼロになると、燃焼パラメータ演算式32bにより算出される値(目標値の変化量)はゼロとなり、燃焼パラメータの目標値は現状の燃焼状態を維持させる値となるよう算出されることとなる。
【0048】
アクチュエータ制御部33は、燃焼パラメータ偏差算出部35により算出された燃焼パラメータ偏差を加算していく積分器33aと、ECU20が有するROM等のメモリ(記憶手段)に記憶された第2相関データとしての制御パラメータ演算式33bとを備えて構成されている。
【0049】
制御パラメータ演算式33bは、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義したものであり、例えば図1(a)に示すモデルや、図1(c)に示す行列式により定義される。これは、「どのような制御パラメータにすればどのような燃焼状態(燃焼パラメータ)になるのか」換言すれば「目標とする燃焼状態にするには制御パラメータをどのようにすればよいのか」を定義した演算式であると言える。したがって、燃焼パラメータの目標値(又は燃焼パラメータの変化量)を制御パラメータ演算式33bに代入すれば、制御パラメータの指令値(又は制御パラメータの変化量)を得ることができる。図1(a)に示す例では、複数の燃焼パラメータ変化量(偏差)を制御パラメータ演算式33bに代入することで、複数の制御パラメータについて現状の値からどれだけ変化させたらよいかの指令値の変化量を算出している。
【0050】
なお、積分器33aにより偏差を積分し、その積分値を制御パラメータ演算式33bに代入することで、燃焼パラメータの実値が目標値に対して定常的にずれてしまうといった定常偏差発生の抑制を図っている。そして、積分器33aにより算出された偏差積分値がゼロになると、制御パラメータ演算式33bにより算出される値(制御パラメータの変化量)はゼロとなり、制御パラメータの指令値は現状の指令値を維持させる値となるよう算出されることとなる。
【0051】
次に、アクチュエータ11に対して出力される制御パラメータの指令値を上述の如く算出する手順(制御指令値算出処理)について、図2のフローチャートを用いて説明する。この制御指令値算出処理は、ECU20のマイコンにより、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期又は所定のクランク角度毎)で繰り返し実行される。
【0052】
先ず、ステップS11において、エンジン回転速度や、運転者によるアクセル操作量(負荷)等のエンジン運転状態に基づき、複数の性能パラメータの各々について目標値を算出する。この処理が性能パラメータ算出部31により実行される処理に相当する。例えば、エンジン回転速度やアクセル操作量に対する性能パラメータの最適値が記憶されたマップを適合試験により予め作成しておき、当該マップを用いて目標性能パラメータを算出すればよい。
【0053】
続くステップS12では、エンジン出力センサ12の検出値に基づき、複数の性能パラメータの実値を取得する。なお、モデル等の算出手段を用いた推定により性能パラメータの実値を取得するようにしてもよい。特に、複数の性能パラメータのうちエンジン出力センサ12が備えられていない性能パラメータについては、推定値を性能パラメータの実値として代用することが有効である。
【0054】
続くステップS13では、ステップS11で算出した各性能パラメータの目標値と、ステップS12で取得した各性能パラメータの実値との偏差(性能パラメータ偏差)を算出する。この処理が性能パラメータ偏差算出部34により実行される処理に相当する。
【0055】
続くステップS14では、ステップS13で算出した各々の偏差の積分値x(i)を算出する。具体的には、前回の積分値x(i-1)に今回の性能パラメータ偏差を加算することで、複数の性能パラメータの各々に対する今回の積分値x(i)を算出する。この処理が積分器32aにより実行される処理に相当する。
【0056】
続くステップS15では、複数の燃焼パラメータの各々について目標値を算出する。詳しくは、ステップS13で算出した偏差の積分値x(i)を、燃焼パラメータ演算式32bに代入し、当該代入により得られた解を、複数の燃焼パラメータの変化量として算出する。例えば、図1(b)に示す燃焼パラメータ演算式32bは、複数の性能パラメータの偏差を変数としたr次元の列ベクトルA1と、q行r列の係数a11〜aqrを表す行列A2との積を、複数の燃焼パラメータの変化量を変数としたq次元の列ベクトルA3として表している。そして、列ベクトルA1を構成する各々の変数に偏差の積分値x(i)を代入することで、列ベクトルA3を構成する各々の変数の解を算出する。これにより得られる解が、燃焼パラメータ変化量(現状値からの変化量)である。また、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転条件に基づいて、例えばマップや数式により燃焼パラメータの基準値を算出するとともに、その基準値に燃焼パラメータ変化量を加算し、その和を、新たな燃焼パラメータの目標値とする(燃焼パラメータの目標値=基準値+燃焼パラメータ変化量)。
【0057】
続くステップS16では、燃焼状態量センサ13の検出値に基づき、複数の燃焼パラメータの実値を取得する。なお、モデル等の算出手段を用いた推定により燃焼パラメータの実値を取得するようにしてもよい。特に、複数の燃焼パラメータのうち燃焼状態量センサ13が備えられていないパラメータについては、推定値を燃焼パラメータの実値として代用することが有効である。
【0058】
続くステップS17では、ステップS15で算出した各燃焼パラメータの目標値と、ステップS16で取得した各燃焼パラメータの実値との偏差(燃焼パラメータ偏差)を算出する。この処理が燃焼パラメータ偏差算出部35により実行される処理に相当する。
【0059】
続くステップS18では、ステップS17で算出した各々の偏差の積分値y(i)を算出する。具体的には、前回の積分値y(i-1)に今回の燃焼パラメータ偏差を加算することで、複数の燃焼パラメータの各々に対する今回の積分値y(i)を算出する。この処理が積分器33aにより実行される処理に相当する。
【0060】
続くステップS19では、複数の制御パラメータの各々について指令値(制御パラメータ指令値)を算出する。詳しくは、ステップS18で算出した偏差の積分値y(i)を制御パラメータ演算式33bに代入し、当該代入により得られた解を、複数の制御パラメータの変化量として算出する。例えば、図1(c)に示す制御パラメータ演算式33bは、複数の燃焼パラメータの偏差を変数としたq次元の列ベクトルA4と、p行q列の係数b11〜bpqを表す行列A5との積を、複数の制御パラメータの変化量を変数としたp次元の列ベクトルA6として表している。そして、列ベクトルA4を構成する各々の変数に偏差の積分値y(i)を代入することで、列ベクトルA6を構成する各々の変数の解を算出する。これにより得られる解が、各制御パラメータの変化量(現状値からの変化量)である。また、エンジン回転速度や負荷等のエンジン運転条件に基づいて、例えばマップや数式により制御パラメータの基準指令値を算出するとともに、その基準指令値に制御パラメータの変化量を加算し、その和を、新たな制御パラメータ指令値とする(制御パラメータ指令値=基準指令値+制御パラメータの変化量)。この制御パラメータ指令値が、最終的に各種アクチュエータ11へ出力されるアクチュエータ制御量である。
【0061】
次に、燃焼パラメータ演算式32b及び制御パラメータ演算式33bで定義される「相関」の具体例について、図3を用いて説明する。
【0062】
図3(a)は、上記相関を順モデルで模式的に示した図であり、アクチュエータ11の制御パラメータを噴射量、噴射時期、EGR量とし、性能パラメータをNOx量、CO量、燃費として例示している。なお、図中の符号A,B,Cは複数の燃焼パラメータの各々を示すものであり、例えば符号Aは着火時期を例示している。
【0063】
図3(a)中の符号Sa1は、噴射量と燃焼パラメータAとの相関(回帰直線X1)を示す図であり、回帰直線X1は例えば重回帰分析等の手法を用いて設定されている。なお、符号Sa2は噴射量と燃焼パラメータB、符号Sa3は噴射量と燃焼パラメータCについての相関を示すものである。このようにして設定した複数の回帰直線により、噴射量、噴射時期及びEGR量と、各種燃焼パラメータA,B,Cとの相関を図3(b)の如くモデルや行列式で定義でき、当該定義に基づけば、噴射量、噴射時期及びEGR量の組み合わせが決まれば、その組み合わせに対応する複数の燃焼パラメータA,B,Cを特定できる。つまり、「どのような制御パラメータにすればどのような燃焼状態(燃焼パラメータ)になるのか」を特定できる。
【0064】
また、図3(a)中の符号Sb1は、燃焼パラメータAとNOx量との相関(回帰直線X2)を示す図であり、回帰直線X2は例えば重回帰分析等の手法を用いて設定されている。なお、符号Sb2は燃焼パラメータAとCO量、符号Sb3は燃焼パラメータAと燃費についての相関を示すものである。このようにして設定した複数の回帰直線により、複数の燃焼パラメータA,B,Cと、NOx量、CO量及び燃費との相関を図3(c)の如くモデルや行列式で定義でき、当該定義に基づけば、複数の燃焼パラメータA,B,Cの組み合わせが決まれば、その組み合わせに対応するNOx量、CO量及び燃費を特定できる。つまり、「どのような燃焼状態(燃焼パラメータ)にすればどのようなエンジン性能(性能パラメータ)になるのか」を特定できる。
【0065】
そして、例えば、着火時期Aの目標値と実際の着火時期Aとが不一致になる場合には、その偏差(燃焼パラメータ偏差)が燃焼パラメータ偏差算出部35により算出される。そして、その着火時期Aの偏差を図3(b)で表すモデル又は行列式に代入することで、着火時期Aを目標値にするのに必要となる噴射量、噴射時期及びEGR量の変化量(補正量)を算出することができる。
【0066】
例えば、燃焼パラメータと制御パラメータとの相関として、着火時期Aの偏差ΔAxと噴射量の変化量ΔQとに着目した場合、図3(a)中の回帰直線X1に基づき着火時期Aの偏差ΔAxに対応する噴射量の変化量ΔQを算出できる。但し、図3(b)の制御パラメータ演算式33bでは、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの組み合わせを定義しているので、1つの燃焼パラメータが目標値からずれた場合であっても、全ての制御パラメータが同時に協調して変更される。
【0067】
同様にして、例えば、NOx量の目標値とNOx量の実値とが不一致になる場合には、その偏差(性能パラメータ偏差)が性能パラメータ偏差算出部34により算出される。そして、そのNOx量の偏差を図3(c)で表すモデル又は行列式に代入することで、NOx量を目標値にするのに必要となる燃焼パラメータA,B,Cの変化量(補正量)を算出することができる。
【0068】
例えば、性能パラメータと燃焼パラメータとの相関として、NOx量の偏差ΔNOxと着火時期Aの変化量ΔAyとに着目した場合、図3(a)中の回帰直線X2に基づきNOx量の偏差ΔNOxに対応する着火時期Aの変化量ΔAyを算出できる。但し、図3(c)の燃焼パラメータ演算式32bでは、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの組み合わせを定義しているので、1つの性能パラメータが目標値からずれた場合であっても、全ての燃焼パラメータの目標値が同時に協調して変更される。
【0069】
さらに、燃焼パラメータ演算式32bは、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの組み合わせを定義しているので、1つの燃焼パラメータを変化させた場合の、複数の性能パラメータの変化を把握できる。例えば、図4に示すように、NOx量及びPM量の現在値が目標値からずれている場合において、着火時期Aの現在値A1をA2に変化させれば、NOx量及びPM量の両方を目標値にすることができる。なお、NOx量及びPM量の両方を目標値にする着火時期Aの値を見出すことができない場合でも、NOx量及びPM量の両方が最も目標値に近づくのに最適な着火時期Aを見出すことができる。
【0070】
但し、図4は、燃焼パラメータとして着火時期Aのみに着目して模式化した図であり、実際には、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの組み合わせを燃焼パラメータ演算式32bは定義しているので、複数の性能パラメータに生じている偏差に対して、複数の燃焼パラメータの目標値が同時に協調して変更される。
【0071】
同様にして、制御パラメータ演算式33bは、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義しているので、複数の燃焼パラメータに生じている偏差に対して、複数の制御パラメータの指令値が同時に協調して変更される。
【0072】
本実施形態によるエンジン制御を実施した場合の具体的態様を説明する。ここでは、エンジンの定常運転時にエンジン水温(環境条件)が変化する場合を想定する。例えば、エンジン水温が徐々に上昇すると、制御パラメータ指令値が同じであっても燃焼状態が変化する。又は、燃焼状態が同じであっても性能パラメータが変化する。
【0073】
かかる場合、性能パラメータ偏差算出部34により算出された複数の性能パラメータ偏差に基づき、それらの偏差をゼロにするよう複数の燃焼パラメータがフィードバック制御される。このとき、燃焼パラメータ演算式32bによれば、複数の性能パラメータ偏差を総合的に小さくするよう複数の燃焼パラメータの目標値が同時に設定される。そして、燃焼パラメータ偏差算出部35により算出された複数の燃焼パラメータ偏差に基づき、それらの偏差をゼロにするよう複数の制御パラメータがフィードバック制御される。このとき、制御パラメータ演算式33bによれば、複数の燃焼パラメータ偏差を総合的に小さくするよう複数種類のアクチュエータ11が協調制御される。こうして複数の制御パラメータが同時に協調しながらフィードバック制御されることにより、種々のエンジン性能について所望の状態を維持できる。
【0074】
ところで、複数の性能パラメータが同時に目標値になっている状態において、それら複数の性能パラメータには、現状よりも更に良化側に移行できるもの(良化余裕があるもの)が含まれていることがあると考えられる。そこで本実施形態では、性能パラメータの実値が目標値に制御されている状態で、複数の性能パラメータのうちいずれかを操作対象とし、該操作対象とした性能パラメータの目標値を、複数の性能パラメータのうち操作対象でない性能パラメータの情報に基づいて性能良化側に操作することとしている。
【0075】
本実施形態では特に、エンジンの燃費を「操作対象の性能パラメータ」とし、エンジンの排気エミッションの所定成分の排出量であるエミッション排出量(NOx量、HC量、CO量)を「操作対象でない性能パラメータ」とし、燃費目標値を、エミッション排出量に基づいて性能良化側に操作することとしている。以下、その詳細を説明する。
【0076】
図5は、目標燃費の操作を実施する目標燃費操作部40の構成を示すブロック図である。この目標燃費操作部40は、性能パラメータ算出部31と燃焼パラメータ算出部32との間において図示のように設けられるものである。目標燃費操作部40は、図1(a)に示す性能パラメータ算出部31と共に性能目標設定手段に相当する。目標燃費操作部40は、図1(a)に示す各機能ブロック31〜35と同様、ECU20内のマイコンの制御プログラムにより実現される。
【0077】
図5において、制御パラメータ範囲算出部41(制御パラメータ範囲算出手段)は、制御パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する。具体的には、各制御パラメータについて、都度のエンジン運転状態に基づいて算出される制限値(ガード値)と現状値との差を、制御パラメータ動作可能範囲として算出する。
【0078】
また、燃焼パラメータ範囲算出部42(燃焼パラメータ範囲算出手段)は、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した相関データを用い、制御パラメータ範囲算出部41で算出した制御パラメータの動作可能範囲に基づいて、複数の燃焼パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する。具体的には、ECU20が有するROM等のメモリ(記憶手段)には第2相関データとしての相関演算式42aが記憶されている。この相関演算式42aは、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を順モデルで定義したものであり、図6(a)に示す行列式により定義されている。すなわち、相関演算式42aは、複数の制御パラメータの変化量を変数とした列ベクトルB1と、相関付けの係数(c11〜cqp)が付与された行列B2との積を、複数の燃焼パラメータの変化量を変数とした列ベクトルB3として表したものである。そして、列ベクトルB1を構成する各々の変数に、複数の制御パラメータの動作可能範囲(制御パラメータ範囲算出部41の算出値)を代入することで、列ベクトルB3を構成する各々の変数の解として、複数の燃焼パラメータの動作可能範囲を算出する。
【0079】
また、性能パラメータ変化量算出部43(パラメータ変化量算出手段)は、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した相関データを用い、燃焼パラメータ範囲算出部42で算出した燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて、その動作可能範囲に対する複数の性能パラメータの変化量を算出する。具体的には、ECU20が有するROM等のメモリ(記憶手段)には第1相関データとしての相関演算式43aが記憶されている。この相関演算式43aは、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を順モデルで定義したものであり、図6(b)に示す行列式により定義されている。すなわち、相関演算式43aは、複数の燃焼パラメータの変化量を変数とした列ベクトルB4と、相関付けの係数(d11〜drq)が付与された行列B5との積を、複数の性能パラメータの変化量を変数とした列ベクトルB6として表したものである。そして、列ベクトルB4を構成する各々の変数に、複数の燃焼パラメータの動作可能範囲(燃焼パラメータ範囲算出部42の算出値)を代入することで、列ベクトルB6を構成する各々の変数の解として、複数の性能パラメータの変化量を算出する。
【0080】
燃費操作量設定部44(目標操作量設定手段)は、性能パラメータ変化量算出部43で算出した複数の性能パラメータの変化量を用い、そのうちNOx量、HC量、CO量(操作対象でない性能パラメータ)の変化量が所定の許容範囲にある場合に、燃費(操作対象の性能パラメータ)の変化量を、燃費操作量として設定する。このとき、燃費操作量は、燃費を良化側(低減側)に操作するための燃費下げ幅として設定される。NOx量、HC量、CO量の変化量が所定の許容範囲になければ、燃費操作量を設定しない。
【0081】
性能パラメータ変化量算出部43と燃費操作量設定部44とによれば、目標燃費の操作に伴い生じるエミッション排出量の変化量が取得され、該取得された変化量に基づいて目標燃費の操作量が決定されることとなる。
【0082】
なお、NOx量、HC量、CO量の変化量が所定の許容範囲にあるか否かの判定は、例えば、それらNOx量、HC量、CO量の各変化量と現状値との加算結果が、目標値を満たしているか否かにより判定される。
【0083】
目標更新部45は、性能パラメータ算出部31で算出した目標燃費から、燃費操作量設定部44で算出した燃費操作量を減算することにより、目標燃費を更新する。
【0084】
偏差算出部46は、目標更新部45で算出した新たな目標燃費と実燃費との偏差を算出する。この偏差は、燃焼パラメータ算出部32に取り込まれる。なお、燃費偏差は、性能パラメータ偏差算出部34の算出値よりも、偏差算出部46の算出値が優先される。そして、上述したとおり燃焼パラメータ算出部32やアクチュエータ制御部33により、各制御パラメータの指令値が適宜算出される。
【0085】
図7は、目標燃費の操作処理を示すフローチャートであり、本処理は、ECU20のマイコンにより、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期又は所定のクランク角度毎)で繰り返し実行される。本処理は、図2に示す制御指令値算出処理において、ステップS12とS13との間、すなわち性能パラメータの実値取得処理の後で、かつ性能パラメータの偏差算出処理の前に実行されるものである。
【0086】
図7において、ステップS21では、目標燃費の操作に関する実行条件が成立しているか否かを判定する。この実行条件には、エンジン運転状態が定常であること、車両運転モードが「エコノミーモード」になっていること等が含まれる。車両運転モードとしては、例えば燃費性能の異なる複数のモード(通常モード/スポーツモード/エコノミーモード)が用意されており、そのうち「エコノミーモード」は最も低燃費なモードとなっている。その他、エンジンがアイドル状態であることを前記実行条件に含めてもよい。
【0087】
また、ステップS22では、複数の性能パラメータについて全てが目標値に制御されている状態であるか否かを判定する。そして、ステップS21,S22のいずれかがNOである場合、そのまま本処理を終了し(すなわち、目標燃費を操作することなくそのまま図2のステップS13に進み)、ステップS21,S22が共にYESである場合、ステップS23に進む。
【0088】
ステップS23では、燃費操作量である燃費下げ幅を設定する。このとき、図5で説明したとおり、
・複数の制御パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出し(制御パラメータ範囲算出部41)、
・複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した相関データ(相関演算式42a)を用い、制御パラメータの動作可能範囲に基づいて、複数の燃焼パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出し(燃焼パラメータ範囲算出部42)、
・複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した相関データ(相関演算式43a)を用い、燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて、その動作可能範囲に対する複数の性能パラメータの変化量を算出し(性能パラメータ変化量算出部43)、
・その性能パラメータの変化量を用い、そのうちNOx量、HC量、CO量の変化量が所定の許容範囲にあれば、燃費の変化量を燃費下げ幅(燃費操作量)として設定する(燃費操作量設定部44)。なお、NOx量、HC量、CO量の変化量が所定の許容範囲になければ、燃費下げ幅を設定しない。
【0089】
その後、ステップS24では、例えば図2のステップS11で算出した目標燃費を、ステップS24で算出した燃費下げ幅により更新する(目標更新部45)。
【0090】
こうして目標燃費が更新されて算出されると、図2のステップS13では、その新たな目標燃費と、図2のステップS12で取得した実燃費とにより燃費偏差が算出される(偏差算出部46)。そして、上述したとおり、図2において、燃費偏差とその他の性能パラメータの偏差とに基づいて、燃焼パラメータの算出や制御パラメータ指令値の算出等が実施される。
【0091】
上記のごとく目標燃費が操作されることにより、燃費やエミッション排出量の各性能パラメータが目標値に制御されている状態で、さらに燃費を下げることができる。このとき、性能パラメータ同士の干渉に起因して、燃費向上に伴いエミッション排出量の悪化が懸念されるが、こうしたエミッション排出量の悪化を回避した上での燃費向上が可能となる。
【0092】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0093】
複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した燃焼パラメータ演算式32b(第1相関データ)を用い、各性能パラメータの目標値に基づいて複数の燃焼パラメータの目標値を算出するとともに、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した制御パラメータ演算式33b(第2相関データ)を用い、各燃焼パラメータの目標値に基づいて複数の制御パラメータの指令値を算出する構成とした。
【0094】
燃焼パラメータ演算式32bは、複数対複数の関係で、性能パラメータと燃焼パラメータとの相関を定義したものであり、制御パラメータ演算式33bも同様に、複数対複数の関係で、燃焼パラメータと制御パラメータとの相関を定義したものである。したがって、複数の性能パラメータや複数の制御パラメータの個々について独立してそれらに対応するパラメータ目標値(又は指令値)を設定する既存の技術とは異なり、複数の性能パラメータや複数の制御パラメータの協調を図ることができる。この場合、複数の性能パラメータや複数の制御パラメータが相互干渉することを抑制でき、その相互干渉による制御性悪化を回避できる。つまり、複数の性能パラメータや複数の制御パラメータを同時に目標値(又は指令値)にすることに対する制御性向上を図ることができる。
【0095】
また、各性能パラメータの実値が目標値(都度のエンジン運転状態に基づいて設定された目標値)に制御されている状態で、燃費を操作対象とし、目標燃費を、エミッション排出量(NOx量、HC量、CO量等)に基づいて性能良化側に操作する構成とした。この場合、上記の相関データ(第1相関データ)を用いた本エンジン制御では、1の性能パラメータ(ここでは燃費)が操作された場合に、複数の燃焼パラメータについてそれらがどのように変化したかを把握でき、さらには複数の燃焼パラメータの変化に基づいて、操作対象以外の性能パラメータの変化の状況も容易に把握できる。したがって、複数の性能パラメータについての変化を把握しつつ、その1つである燃費についての性能良化側への操作が可能となる。このとき、エンジンの燃焼状態(燃焼パラメータ)とアクチュエータの制御パラメータとについても所定の相関があることから、複数の性能パラメータの変化を把握した上で、アクチュエータの制御を実施できる。
【0096】
以上により本実施形態では、性能パラメータの相互干渉による制御性悪化の回避を図るとともに、エンジン性能の制御の更なる好適化を図ることができることとなる。
【0097】
目標燃費の操作に伴い生じるエミッション排出量の変化量を取得し、該取得した変化量に基づいて目標燃費を操作する構成とした。具体的には、相関演算式43a(第1相関データ)を用い、燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて、その動作可能範囲に対する複数の性能パラメータの変化量を算出するとともに、その複数の性能パラメータの変化量を用い、そのうちエミッション排出量の変化量が所定の許容範囲にある場合に、燃費の変化量を、目標燃費の操作量として設定する構成とした。
【0098】
相関演算式43aを用いることにより、燃焼パラメータの動作可能範囲からその動作可能範囲に対応する複数の性能パラメータの変化量を容易に算出できる。この場合、複数の性能パラメータの変化量はパラメータごとに大小異なることが考えられるが、エミッション排出量の変化量が所定の許容範囲にあることを条件に、燃費の変化量(相関演算式43aによる解)が、目標燃費の操作量として設定されるため、燃費を操作した場合においてそれ以外の性能パラメータが目標値を満たす状態に維持できる。
【0099】
相関演算式43aによる性能パラメータの変化量の演算で用いる燃焼パラメータの動作可能範囲を、複数の燃焼パラメータと制御パラメータとの相関を定義した相関演算式42a(第2相関データ)を用いて、制御パラメータの動作可能範囲に基づいて算出する構成とした。この構成では、複数の燃焼パラメータと制御パラメータとの相関を定義した相関演算式42aを用いることで、制御パラメータの動作可能範囲から燃焼パラメータの動作可能範囲を容易に算出できる。しかもこの場合、複数の燃焼パラメータについて同時に動作可能範囲を算出できる。したがって、性能パラメータの目標値の操作に際し、複数の燃焼パラメータの動作可能範囲を算出する上で好都合な構成を実現できる。
【0100】
本実施形態では特に、エンジンの燃費を操作対象の性能パラメータとし、エミッション排出量を操作対象でない性能パラメータとし、目標燃費を、エミッション排出量に基づいて性能良化側に操作する構成とした。これにより、排気エミッションの悪化を監視しつつ、エンジンの燃費の更なる向上を実現できる。この場合、燃費をリアルタイムで最適値に制御することが可能となる。
【0101】
また、性能パラメータについて実値を目標値に一致させようフィードバック制御を実施するとともに、燃焼パラメータについて実値を目標値に一致させるようフィードバック制御を実施する構成とした。これにより、エンジン水温等の環境条件に起因して実値の変化が生じても、それを目標値に追従させることができる。したがって、環境条件の変化に対するロバスト性を向上できる。
【0102】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、図5に示す性能パラメータ変化量算出部43において、相関演算式43aを用いて複数の性能パラメータの変化量を算出し、燃費操作量設定部44において、性能パラメータ変化量算出部43で算出した複数の性能パラメータの変化量を用い、そのうちNOx量、HC量、CO量の変化量が所定の許容範囲にあれば、燃費の変化量を燃費操作量として設定する構成とした。第2実施形態では、これの一部を変更し、相関演算式43aを用いて算出した燃費の変化量(燃費操作量)を、燃費操作時の最大許容操作量(ガード値)として定め、目標燃費の操作量がその最大許容操作量になるまで、当該目標燃費を徐々に燃費良化側に操作する。また、目標燃費の下げ操作開始後において燃焼パラメータの変化量が所定以上であるか否かを判定し、燃焼パラメータの変化量が所定以上であると判定された場合に、更なる目標値の操作を中止する。
【0103】
具体的には、図8に示す目標燃費の操作処理が実行される。これは、上述した図7のフローチャートの一部を変更したものであり、図7と同一のステップについては同じステップ番号を付している。本処理は、ECU20のマイコンにより、所定周期(例えば先述のCPUが行う演算周期又は所定のクランク角度毎)で繰り返し実行される。
【0104】
図8では、目標燃費の操作に関する実行条件が成立しており、かつ複数の性能パラメータについて全てが目標値に制御されている状態である場合(ステップS21,S22が共にYESである場合)に、ステップS31に進む。
【0105】
ステップS31では、目標燃費の操作について、多段階で実施される繰り返しの操作のうち今回が初回操作であるか否かを判定する。この場合、ステップS21,S22が新たに成立した直後であれば、初回操作であると判定される。初回操作であれば、ステップS32に進み、目標燃費を下げ操作する際の最大許容操作量を算出する。
【0106】
ステップS32について詳しくは、図7のステップS23と同様に、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した相関データ(相関演算式42a)を用いて、複数の燃焼パラメータの動作可能範囲を算出するとともに、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した相関データ(相関演算式43a)を用いて、複数の性能パラメータの変化量を算出し、その性能パラメータの変化量から燃費下げ幅(燃費操作量)を設定する。そして、その燃費下げ幅を最大許容操作量とする。
【0107】
ステップS32を実施した後、ステップS33に進む。なお、ステップS31がNOであれば、ステップS31を飛ばしてステップS33に進む。
【0108】
ステップS33では、目標燃費を、現状値から所定量αだけ下げ操作した場合を想定し、かかる想定において、燃焼パラメータの変化量が所定値K以下であるか否かを判定する(判定手段に相当)。このとき、所定量αは、目標燃費を小刻みに(徐々に)下げ操作するためにあらかじめ定められた操作幅である。ステップS33の判定は、例えば、性能パラメータ(この場合特に燃費)と燃焼パラメータとの相関データ(逆モデルの相関データ)を用いて燃焼パラメータの変化量を算出し、その算出値が所定値K以下であるか否かを判定することで行われるとよい。
【0109】
ステップS33において、燃焼パラメータの変化量が所定値K以下か否かの判定は、複数の燃焼パラメータのうち特定のものを対象に実施してもよいし、全ての燃焼パラメータを対象に実施して、そのうち最大変化を呈する燃焼パラメータの変化量が所定値K以下であるか否かを判定してもよい。本実施形態では特に、複数の燃焼パラメータのうち、燃費に最も相関の強い燃焼パラメータをあらかじめ定めておき、その燃焼パラメータの変化量を判定する。燃費に最も相関の強い燃焼パラメータは、例えば燃料の燃焼量である。
【0110】
また、ステップS34では、目標燃費を、現状値から所定量αだけ下げ操作した場合を想定し、かかる想定において、目標燃費が、ステップS32で算出した最大許容操作量を超えないか否かを判定する。
【0111】
そして、ステップS33,S34が共にYESであれば、ステップS35に進み、目標燃費を所定量αだけ下げる操作を実施する。ステップS33,S34のいずれかがNOであれば、目標燃費の下げ操作は実施されない。
【0112】
上記図8の処理によれば、目標燃費の下げ操作が実施される場合に、その開始当初に最大許容操作量が設定され、その最大許容操作量をガード値として目標燃費が徐々に下げ操作される。このとき、目標燃費の下げ操作開始後における燃焼パラメータの変化量が所定以下でなければ(ステップS33がNO)、それ以降の目標燃費の更なる下げ操作が中止される。またこれ以外に、目標燃費を下げ操作することに伴い複数の性能パラメータのいずれかが目標値から外れた場合にも(ステップS22がNO)、目標燃費の更なる下げ操作が中止される。
【0113】
以上第2の実施形態によれば、最大許容操作量を定めて目標燃費が徐々に下げ操作されるため、急激な燃焼状態の変化を抑制しながら燃費の下げ操作を実施できる。このとき、最大許容操作量は、各燃焼パラメータの動作可能範囲と第1相関データとに基づいて算出された燃費操作量(特に、排気エミッションに関する性能パラメータの変化量が所定の許容範囲にあることを条件とする、燃費操作量)であり、排気エミッションについても良好な性能を維持できる。
【0114】
目標燃費の下げ操作に伴い燃焼パラメータが過剰変化しないことを監視しつつ、目標燃費の下げ操作を実施する構成としたため、燃焼状態の過度な変化を抑制できる。つまり、燃焼状態の安定化を図ることができる。
【0115】
燃費に最も相関の強い燃焼パラメータについて、燃焼パラメータの変化を監視する構成としたため、燃焼状態の変化を敏感に監視した上で、燃費の下げ操作を実施できる。
【0116】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、第1相関データとしての燃焼パラメータ演算式32bに「複数の性能パラメータ偏差」を代入し、その解として「複数の燃焼パラメータの変化量」を算出するとともに、第2相関データとしての制御パラメータ演算式33bに「複数の燃焼パラメータ偏差」を代入し、その解として「複数の制御パラメータの変化量」を算出する構成としたが(図1参照)、これを変更する。
【0117】
すなわち本実施形態では、図9に示すように、第1相関データとしての燃焼パラメータ演算式32bに「複数の性能パラメータの目標値」を代入し、その解として「複数の燃焼パラメータの目標値」を算出するとともに、第2相関データとしての制御パラメータ演算式33bに「複数の燃焼パラメータの目標値」を代入し、その解として「複数の制御パラメータの指令値」を算出する構成としている。
【0118】
また、図9では、燃焼パラメータの目標値の算出に関して、フィードバック制御部51と補正部52とを備えており、燃焼パラメータ演算式32bにより算出した複数の性能パラメータの目標値を、フィードバック制御部51で算出したフィードバック補正量により補正する構成としている。さらに、制御パラメータの指令値の算出に関して、フィードバック制御部53と補正部54とを備えており、制御パラメータ演算式33bにより算出した複数の制御パラメータの指令値を、フィードバック制御部53で算出したフィードバック補正量により補正する構成としている。
【0119】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の協調制御が実施されるとともに、燃焼パラメータ及び性能パラメータの実値又は推定値をフィードバックさせるので、上記第1実施形態と同様の効果が発揮される。そして、図9の構成において、第1実施形態や第2実施形態で説明した構成を組み合わせ、各性能パラメータの実値が目標値(都度のエンジン運転状態に基づいて設定された目標値)に制御されている状態で、燃費を操作対象とし、目標燃費を、エミッション排出量(NOx量、HC量、CO量等)に基づいて性能良化側に操作する構成とする。
【0120】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0121】
・上記各実施形態では、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した相関演算式42a(第2相関データ)を用いて、燃焼パラメータの動作可能範囲を算出するとともに、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した相関演算式43a(第1相関データ)を用いて燃費の下げ幅を算出する構成としたが(図5参照)、これを変更してもよい。例えば、燃焼パラメータの動作可能範囲を、都度のエンジン運転状態に基づいて算出する構成としてもよい。
【0122】
また、燃費の下げ幅をあらかじめ定めた所定量とし、その所定量ずつ目標燃費を下げ操作する構成としてもよい。この場合、エミッション排出量の変化量が許容値を超えた時点で目標燃費の下げ操作を中止する。
【0123】
・上記各実施形態では、エンジンの燃費を「操作対象の性能パラメータ」、エンジンのエミッション排出量(NOx量、HC量、CO量等)を「操作対象でない性能パラメータ」とし、燃費目標値を、エミッション排出量に基づいて性能良化側に操作する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、上記とは逆に、エミッション排出量(NOx量、HC量、CO量等)を「操作対象の性能パラメータ」、エンジンの燃費を「操作対象でない性能パラメータ」とし、例えばNOx量の目標値を、都度の燃費に基づいて性能良化側に操作する構成としてもよい。その他、エンジンの出力トルクを「操作対象の性能パラメータ」、エンジンの燃費と燃焼量とを「操作対象でない性能パラメータ」とし、出力トルクを、都度の燃費に基づいて、又は都度の燃費及び燃焼量に基づいて性能良化側に操作する構成等も可能であり、「操作対象の性能パラメータ」と「操作対象でない性能パラメータ」との組み合わせを適宜変更することが可能である。
【0124】
・上記各実施形態では、燃焼パラメータ及び性能パラメータの実値又は推定値をフィードバックさせているが、本発明の実施にあたり、これらのフィードバックの少なくとも一方を廃止して、オープン制御としてもよい。具体的には、図9に示すブロック図において、性能パラメータ偏差算出部34とフィードバック制御部51と補正部52とを廃止し、燃焼パラメータ演算式32bで算出した複数の燃焼パラメータの目標値を、フィードバック演算せずにアクチュエータ制御部33に出力してもよい。また、燃焼パラメータ偏差算出部35とフィードバック制御部53と補正部54とを廃止し、制御パラメータ演算式33bで算出した複数の制御パラメータの指令値を、フィードバック演算せずに各アクチュエータ11に出力してもよい。
【0125】
・上記各実施形態では、燃焼パラメータの目標値の算出に際し、複数の性能パラメータと複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第1相関データ(燃焼パラメータ演算式32b)を用い、制御パラメータの指令値の算出に際し、複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第2相関データ(制御パラメータ演算式33b)を用いる構成としたが、このうち制御パラメータの指令値の算出に関しては、第2相関データ(制御パラメータ演算式33b)を用いずに、適合マップを用いる構成としてもよい。
【0126】
また、第1相関データ及び第2相関データを、パラメータ演算式(行列式)でない形態で記憶する構成であってもよい。例えば、これらの各相関データをマップ形式で記憶する構成であってもよい。この場合、第1相関データに関して言えば、「複数の燃焼パラメータ」に含まれる燃焼パラメータごとに、複数の制御パラメータとの相関を表す定数値をマップ形式で記憶しておくとよい。また、第2相関データに関して言えば、「複数の制御パラメータ」に含まれる制御パラメータごとに、複数の燃焼パラメータとの相関を表す定数値をマップ形式で記憶しておくとよい。
【符号の説明】
【0127】
10…エンジン、11…アクチュエータ、20…ECU、31…性能パラメータ算出部(性能目標設定手段)、32…燃焼パラメータ算出部(燃焼目標設定手段)、32b…燃焼パラメータ演算式、33…アクチュエータ制御部(制御指令値算出手段)、33b…制御パラメータ演算式、34…性能パラメータ偏差算出部、35…燃焼パラメータ偏差算出部、40…目標燃費操作部(目標操作手段)、41…制御パラメータ範囲算出部(制御パラメータ範囲算出手段)、42…燃焼パラメータ範囲算出部(燃焼パラメータ範囲算出手段)、43…性能パラメータ変化量算出部(パラメータ変化量算出手段)、44…燃費操作量設定部(目標操作量設定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータの作動を制御することで、エンジンの燃焼状態を制御し、ひいてはエンジン性能を制御するエンジン制御装置であって、
前記エンジン性能を表す複数の性能パラメータについて各性能パラメータの目標値をエンジン運転状態に基づいて設定する性能目標設定手段と、
前記複数の性能パラメータと、前記燃焼状態を表す複数の燃焼パラメータとの相関を定義した第1相関データを用い、前記性能目標設定手段により設定した各性能パラメータの目標値に基づいて前記複数の燃焼パラメータの目標値を設定する燃焼目標設定手段と、
前記燃焼目標設定手段により設定した各燃焼パラメータの目標値に基づいて、前記アクチュエータに関する制御パラメータの指令値を算出する制御指令値算出手段と、
を備え、
前記性能目標設定手段は、
前記性能パラメータの実値が前記性能目標設定手段により設定した目標値に制御されている状態で、前記複数の性能パラメータのうちいずれかを操作対象とし、該操作対象とした性能パラメータの目標値を、前記複数の性能パラメータのうち前記操作対象でない性能パラメータの情報に基づいて性能良化側に操作する目標操作手段を備えることを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記目標操作手段は、前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に伴い生じる、前記操作対象でない性能パラメータの変化量を取得し、該取得した変化量に基づいて、前記操作対象の性能パラメータの目標値を操作する請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記目標操作手段は、
前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に際し、前記複数の燃焼パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する燃焼パラメータ範囲算出手段と、
前記第1相関データを用い、前記燃焼パラメータ範囲算出手段により算出した燃焼パラメータの動作可能範囲に基づいて、その動作可能範囲に対する前記複数の性能パラメータの変化量を算出するパラメータ変化量算出手段と、
前記パラメータ変化量算出手段により算出した前記複数の性能パラメータの変化量を用い、そのうち前記操作対象でない性能パラメータの変化量が所定の許容範囲にある場合に、前記操作対象とした性能パラメータの変化量を、当該性能パラメータの目標値の操作量として設定する目標操作量設定手段と、
を備える請求項1又は2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記目標操作手段は、前記目標操作量設定手段により設定した前記性能パラメータの目標値の操作量を最大許容操作量として、前記操作対象とした性能パラメータの目標値を徐々に性能良化側に操作する請求項3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記目標操作手段による前記目標値の操作開始後における前記燃焼パラメータの変化量が所定以上であるか否かを判定する判定手段を備え、
前記目標操作手段は、前記判定手段により前記燃焼パラメータの変化量が所定以上であると判定された場合に、更なる前記目標値の操作を中止する請求項4に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記複数の燃焼パラメータのうち、前記操作対象とした性能パラメータに最も相関の強い燃焼パラメータについて、当該燃焼パラメータの変化量を判定するものである請求項5に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記操作対象とした性能パラメータの目標値の操作に際し、前記制御パラメータについて現状値からの動作可能範囲を算出する制御パラメータ範囲算出手段を備え、
前記燃焼パラメータ範囲算出手段は、前記複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第2相関データを用い、前記算出した前記制御パラメータの動作可能範囲に基づいて、前記燃焼パラメータの動作可能範囲を算出する請求項3乃至6のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記目標操作手段は、エンジンの燃料消費率を前記操作対象の性能パラメータとし、エンジンの排気エミッションの所定成分の排出量を前記操作対象でない性能パラメータとし、前記燃料消費率の目標値を、前記排気エミッションの所定成分の排出量に基づいて性能良化側に操作する請求項1乃至7のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記制御指令値算出手段は、前記複数の燃焼パラメータと複数の制御パラメータとの相関を定義した第2相関データを用い、前記燃焼目標設定手段により設定した各燃焼パラメータの目標値に基づいて前記複数の制御パラメータの指令値を算出する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−189054(P2012−189054A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55646(P2011−55646)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】