説明

エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質、そのDNA、及びそれらの利用

【課題】安全性等の面から使用しやすい、食用キノコが分類される担子菌から、エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質を見出し、該タンパク質をコードする新規DNA、該DNAを有するベクター、該ベクターを有する形質転換体、及び、該形質転換体を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法、並びに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質及び担子菌の少なくともいずれかを用いた糖の製造方法、該糖の製造方法により得られた糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含有する食品、飼料、洗剤、及びエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いたセルロース含有織物の処理方法の提供。
【解決手段】本発明のタンパク質は、担子菌由来のタンパク質であって、SDS−PAGEで測定した分子量が18kDaであり、かつ、エンドグルカナーゼ活性を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質、該タンパク質をコードする新規DNA、該DNAを有するベクター、該ベクターを有する形質転換体、及び、該形質転換体を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法、並びに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質及び担子菌の少なくともいずれかを用いた糖の製造方法、該糖の製造方法により得られた糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含有する食品、飼料、洗剤、及びエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いたセルロース含有織物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドグルカナーゼ(EGs;EC 3.2.1.4)は、セルロースを加水分解する酵素の1種である。セルロースを加水分解する酵素には、セロビオヒドロラーゼ(CBHs;EC 3.4.1.91)、β−グルコシダーゼ(BGLs;EC 3.2.1.21)もあり、これらの酵素は、アミノ酸配列の相同性に基づいて、グリコシドヒドロラーゼファミリー(以下、「GHファミリー」と称することがある。)に分類されている。分類の詳細は、Carbohydrate−Active enZymes(CAZy)web server(http://www.cazy.org/)で確認することができる。
【0003】
セルロースは、グルコース分子がβ−1,4結合でつながっている直鎖上の高分子である。セルロースは、植物細胞壁の主要な構成成分であり、地球上で最も多く存在するバイオポリマーである。したがって、そのセルロースを分子内部から切断するエンドグルカナーゼは、バイオマス原料の処理、洗剤などの分野で利用され、研究がなされてきた(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
これまでに、子嚢菌のカビの一種であるヒポクレア ジェコリナ(Hypocrea jecorina(不完全世代:トリコデルマ リーセイ(Trichoderma reesei)))についてはよく研究されており、GHファミリー6とGHファミリー7に属する2種のセロビロヒドロラーゼ(Cel6A(CBHI)、Cel7A(CBHII))と、少なくとも5つのエンドグルカナーゼ(Cel7B(EGI)、Cel5A(EGII)、Cel12A(EGIII)、Cel61A(EGIV)、Cel45A(EGV))が生産されること、及びこれらの酵素は、協調して、又は相乗的にセルロースを加水分解するために作用することが知られている。
また、子嚢菌がセルロースを分解した培地の濾液は、セルラーゼ混合物として市販されてもいる。
【0005】
一方、食用キノコが含まれる担子菌では、木材腐朽菌であるファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)が、効率的にリグノセルロースを分解することができ、セルロースとヘミセルロースの分解に関連する一連のヒドロラーゼを生産することが知られており、また、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の全ゲノム配列も解明されている。
しかしながら、これまでにGHファミリー6と7に属するセロビオヒドロラーゼと(例えば、非特許文献1参照)、GHファミリー5と12に属する4つのエンドグルカナーゼ(例えば、非特許文献2、3参照)が生産されることが知られているに過ぎず、GHファミリー45に属するエンドグルカナーゼは見つかっておらず、また、詳細なセルロース分解の仕組みも判明していない。
【0006】
カビが含まれる子嚢菌と異なり、担子菌には食用キノコが含まれている。そのため、バイオマス原料の処理などにおけるエンドグルカナーゼは、安全性等を考慮すると、担子菌由来のエンドグルカナーゼのほうが使用しやすいという利点がある。したがって、担子菌由来のエンドグルカナーゼの取得が期待されているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特許第3874409号公報
【特許文献2】特表2004−519212号公報
【非特許文献1】Uzcategui, E., A. Ruiz, R. Montesino, G. Johansson, and G. Pettersson. 1991. The 1,4−β−D−glucan cellobiohydrolases from Phanerochaete chrysosporium. I. A system of synergistically acting enzymes homologous to Trichoderma reesei. J. Biotechnol. 19:271−285.
【非特許文献2】Henriksson, G., A. Nutt, H. Henriksson, B. Pettersson, J. Stahlberg, G. Johansson, and G. Pettersson. 1999. Endoglucanase 28 (Cel12A), a new Phanerochaete chrysosporium cellulase. Eur. J. Biochem. 259:88−95.
【非特許文献3】Uzcategui, E., G. Johansson, B. Ek, and G. Pettersson. 1991. The 1,4−β−D−glucan glucanohydrolases from Phanerochaete chrysosporium. Re−assessment of their significance in cellulose degradation mechanisms. J. Biotechnol. 21:143−159.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性等の面から使用しやすい、食用キノコが分類される担子菌から、エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質を見出し、該タンパク質をコードする新規DNA、該DNAを有するベクター、該ベクターを有する形質転換体、及び、該形質転換体を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法、並びに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質及び担子菌の少なくともいずれかを用いた糖の製造方法、該糖の製造方法により得られた糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含有する食品、飼料、洗剤、及びエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いたセルロース含有織物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、安全性等の面から使用しやすいという利点がある、食用キノコが分類される担子菌の一種であるファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)が、既知のエンドグルカナーゼとは、アミノ酸配列の同一性が低く、触媒残基が異なるにもかかわらず、エンドグルカナーゼ活性を有する新規かつ有用なタンパク質を生産することを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 担子菌由来のタンパク質であって、SDS−PAGEで測定した分子量が18kDaであり、かつ、エンドグルカナーゼ活性を有することを特徴とするタンパク質である。
<2> 担子菌が、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)である前記<1>に記載のタンパク質である。
<3> エンドグルカナーゼ活性を有することを特徴とする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のタンパク質である。
(a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質
(d)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質
<4> エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする、下記(a)から(f)のいずれかに記載のDNAである。
(a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA
(f)配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(g)配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNA
(h)配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
<5> 前記<4>に記載のDNAを含有することを特徴とする組換えベクターである。
<6> 前記<5>に記載の組換えベクターにより形質転換されたことを特徴とする形質転換体である。
<7> 前記<6>に記載の形質転換体を培養する工程と、前記培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程とを含むことを特徴とするエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法である。
<8> 前記<1>〜<3>のいずれかに記載のタンパク質、及び、担子菌の少なくともいずれかを用いて、バイオマス原料から糖を得ることを特徴とする糖の製造方法である。
<9> さらに前記<1>〜<3>のいずれかに記載のタンパク質以外のセルラーゼを用いる、前記<8>に記載の糖の製造方法である。
<10> 前記<8>〜<9>のいずれかに記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法である。
<11> 前記<1>〜<3>に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする食品である。
<12> 前記<1>〜<3>に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする飼料である。
<13> 前記<1>〜<3>に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする洗剤である。
<14> 前記<1>〜<3>に記載のタンパク質の少なくともいずれかを用いて、セルロース含有織物を処理することを特徴とするセルロース含有織物の処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記目的を達成することができ、安全性等の面から使用しやすい、食用キノコが分類される担子菌から、エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質を見出し、該タンパク質をコードする新規DNA、該DNAを有するベクター、該ベクターを有する形質転換体、及び、該形質転換体を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法、並びに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質及び担子菌の少なくともいずれかを用いた糖の製造方法、該糖の製造方法により得られた糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含有する食品、飼料、洗剤、及びエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いたセルロース含有織物の処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質)
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、担子菌由来のタンパク質であって、SDS−PAGEで測定した分子量が18kDaである。
また、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質には、配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質も含まれる。
そして、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質には、配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質や、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質も含まれる。
ここで、「数個のアミノ酸」とは、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、アミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加される領域としては、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
なお、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、配列番号:1で示されるアミノ酸配列や、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列と配列同一性を有するものであってもよい。前記配列同一性としては、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0013】
前記アミノ酸配列の同一性は、KarlinおよびAltschulのアルゴリズム(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264−2268, 1990、及びProc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873−5877, 1993)により決定することができる。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムがAltschulらによって開発されている(J. Mol. Biol. 215:403−410, 1990)。これらは、例えば、NCBIタンパク質データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)で利用することができる。 前記アミノ酸配列の同一性を分析するBLASTプログラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、blastpプログラムが挙げられる。前記プログラムを用いて配列同一性を分析のする際のパラメーターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デフォルト値を用いることができる。 なお、塩基配列における同一性についても、同様にして配列同一性を決定することができる。
【0014】
−分子量の測定−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の分子量は、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)により測定することができる。
前記SDS−PAGEの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法を用いることができる。
前記SDS−PAGEに用いるポリアクリルアミドゲルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、12%ポリアクリルアミドゲルなどが挙げられる。
前記電気泳動に用いる装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Mini−Protein II(Bio−Rad社製)などが挙げられる。
【0015】
−エンドグルカナーゼ活性の測定−
本発明のタンパク質がエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質であることは、前記タンパク質のエンドグルカナーゼ活性を測定することにより確認することができる。
前記エンドグルカナーゼ活性を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試料と基質を反応させ、得られた生成物を検出することにより、測定することができる。
前記基質としては、エンドグルカナーゼが分解することができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、非晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、リケナン、大麦β−グルカン、グルコマンナンなどが挙げられる。
前記反応の温度としては、エンドグルカナーゼが活性を有する温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、30℃などが挙げられる。
前記生成物としては、前記基質の分解物であり、例えば、還元糖などが挙げられる。
前記検出の方法としては、前記生成物を検出することができれば、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、例えば、p−hydroxybenzoic acid hydrazide(PHBAH)法による検出、薄層クロマトグラフィー(TLC)による検出、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による検出などが挙げられる。
【0016】
−アミノ酸配列の決定−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列は、公知の方法により決定することができ、例えば、プロテインシーケンサー(Model 491 cLc;Applied Biosystems社製)を用いて決定することができる。
【0017】
−基質−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の基質としては、例えば、非晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、リケナン、大麦β−グルカン、グルコマンナンなどが挙げられ、中でもリケナン、大麦β−グルカンが好適である。
前記基質の分解物としては、例えば、単糖から7糖の還元糖が挙げられ、中でも3糖〜5糖の還元糖を好適に得ることができる。
【0018】
−至適温度−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃〜70℃が好ましく、20℃〜60℃がより好ましく、30℃〜50℃が特に好ましい。前記温度が10℃未満であると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が機能しないことがあり、70℃を超えると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が失活することがある。一方、前記温度が前記特に好ましい範囲内であると、効率的に基質を分解することができる点で有利である。
【0019】
−至適pH−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を用いるpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.0〜8.0が好ましく、3.0〜7.0がより好ましく、4.0〜6.0が特に好ましい。前記pHが2.0未満、又は8.0を超えると、酵素が失活することがある。一方、前記pHが前記特に好ましい範囲内であると、効率的に基質を分解することができる点で有利である。
【0020】
−併用−
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、他のセルラーゼと共に用いると、相乗作用により、基質を効率的に分解することができる。前記他のセルラーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)のCel6Aなどが挙げられる。
併用する場合の本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質:前記他のセルラーゼのモル比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、75:25〜25:75が好ましく、75:25がより好ましい。
【0021】
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、以下に記載する製造方法により製造することができ、後述する糖の製造方法、該糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、食品、飼料、洗剤、及びセルロース含有織物の処理方法に好適に用いることができる。
【0022】
(エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法)
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、担子菌の培養物から得ることができ、また、本発明の形質転換体を用いた方法により、好適に製造することもできる。
【0023】
<担子菌を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法>
前記担子菌を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法は、担子菌を培養する工程(培養工程)と、前記培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程(採取工程)とを少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の工程を含む。この前記製造方法は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を製造する第1の形態である。
【0024】
−培養工程−
前記培養工程は、担子菌を培養する工程である。
前記担子菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、担子菌門 ハラタケ亜門に属する担子菌が好ましく、担子菌門 ハラタケ亜門 ハラタケ綱に属する担子菌がより好ましく、担子菌門 ハラタケ亜門 ハラタケ綱 コウヤクタケ目に属する担子菌が更に好ましく、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)が特に好ましい。
【0025】
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地を用いた固体培養方法、液体培地を用いた液体培養方法などが挙げられる。中でも、液体培養方法が、タンパク質を多く製造できる点で、好ましい。
前記液体培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セルロースを含有するKremer and Wood培地(Kremer, S. M., and P. M. Wood. 1992. Evidence that cellobiose oxidase from Phanerochaete chrysosporium is primarily an Fe(III) reductase. Kinetic comparison with neutrophil NADPH oxidase and yeast flavocytochrome b. Eur. J. Biochem. 205:133−138.)が挙げられる。
前記培養の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃〜45℃が好ましく、30℃〜40℃がより好ましく、37℃が特に好ましい。前記培養の温度が20℃未満であると、担子菌の生育が遅くなることがあり、45℃を超えると担子菌が成育しないことがある。一方、前記培養の温度が前記特に好ましい範囲であると、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を効率よく製造できる点で有利である。
前記培養の日数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1日〜30日が好ましく、2日〜14日がより好ましく、3日〜7日が特に好ましい。前記培養の日数が1日未満であると、担子菌数が少なく、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造量が少ないことがあり、30日を超えると、死菌となる担子菌数が多くなったり、製造されたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が分解されてしまうことがある。一方、前記培養の日数が前記特に好ましい範囲であると、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を効率よく製造できる点で有利である。
【0026】
−採取工程−
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程である。
前記採取の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が、菌体内または菌体表面に生産された場合は、培養物から菌体を分離し、その菌体を超音波破砕などの公知の処理をすることにより、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取することができる。また、例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が、培養液中に生産された場合は、遠心分離・ろ過等により菌体を除去することにより、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取することができる。
上記採取したエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、精製することが好ましい。前記精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫安分画、各種クロマトグラフィー、アルコール沈殿、限外ろ過などの方法が挙げられる。
【0027】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を保存するために凍結乾燥する工程、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の濃度を上げるために濃縮する工程などが挙げられる。
【0028】
<形質転換体を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法>
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法は、後述する本発明の形質転換体を培養する工程(培養工程)と、前記培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程(採取工程)とを少なくとも含み、必要に応じてさらにその他の工程を含む。この前記製造方法は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を製造する第2の形態である。
【0029】
−培養工程−
前記培養工程は、後述する本発明の形質転換体を培養する工程である。
前記培養の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、寒天培地を用いた固体培養方法、液体培地を用いた液体培養方法などが挙げられる。中でも、液体培養方法が、タンパク質を多く製造できる点で、好ましい。
【0030】
前記形質転換体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セルビシエなどの酵母や、大腸菌などが挙げられる。中でも、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)が活性を有する酵素の生産量が多い点で好ましい。
前記培地としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、用いる形質転換体に応じて選択することが好ましい。例えば、前記形質転換体として、組換えベクター中の発現制御配列がアルコール酸化酵素プロモータであるピキア・パストリス(Pichia pastoris)を用いる場合、前記培地としては、例えば、酵母エキスとペプトンとメタノールを含む培地を用いることが好ましい。また、例えば、形質転換体として、組換えベクター中の発現制御配列がGAL1プロモータであるサッカロミセス・セルビシエ用いる場合、前記培地としては、例えば、ラフィノースを炭素源とする液体最少培地を前培養の培地として用い、その後の培養の培地としては、ガラクトースとラフィノースを炭素源とする液体最少培地を用いることが好ましい。また、例えば、形質転換体として、組換えベクター中の発現制御配列がlacプロモータである大腸菌を用いる場合、前記培地としては、例えば、IPTGを含有する液体培地を用いることが好ましい。
【0031】
−採取工程−
前記採取工程は、前記培養工程で得られた培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程である。
前記採取の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が、菌体内または菌体表面に生産された場合は、培養物から菌体を分離し、その菌体を超音波破砕などの公知の処理をすることにより、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取することができる。また、例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が、培養液中に生産された場合は、遠心分離・ろ過等により菌体を除去することにより、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取することができる。
上記採取したエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、精製することが好ましい。前記精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫安分画、各種クロマトグラフィー、アルコール沈殿、限外ろ過などの方法が挙げられ、また、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質に精製用のタグ配列が付加してある場合には、付加されたタグに対応する精製の方法を用いることもできる。前記付加されたタグに対応する精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、付加されたタグが、ヒスチジン6残基の配列の場合、ニッケルカラムを用いた精製の方法を用いることができる。
【0032】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、本発明の効果を害しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、上述の<担子菌を用いたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法>に記載した工程などが挙げられる。
【0033】
(エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA)
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAは、配列番号:1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA、配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA、配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNAである。
また、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAには、配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAや、配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAも含まれる。ここで、「数個のアミノ酸」とは、上述と同様に、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、アミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加される領域としては、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
さらに、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAには、配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAや、配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAも含まれる。
なお、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAは、配列番号:2で示される塩基配列を含むDNAや、配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNAと配列同一性を有するものであってもよい。前記塩基配列の同一性としては、エンドグルカナーゼ活性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
前記塩基配列の同一性は、上述したアミノ酸配列の同一性と同様にして決定することができる。前記塩基配列の同一性を分析するプログラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、blastnプログラムが挙げられる。前記プログラムを用いて配列同一性を分析のする際のパラメーターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デフォルト値を用いることができる。
【0034】
前記DNAの調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern,EM.,J Mol Biol,1975,98,503.)を用いる方法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki,RK.et al.,Science,1985,230,1350.、Saiki,RK.et al.,Science,1988,239,487.)を用いる方法、前記DNAに対し、site−directed mutagenesis法(Kramer,W.&Fritz,HJ.,Methods Enzymol,1987,154,350.)により変異を導入する方法などが挙げられる。
なお、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。一方、塩基配列が変異していても、その変異がタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合もある。本発明のDNAには、このような人工的に調製されたDNA、又は天然の変異DNAが含まれる。
【0035】
前記DNAの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゲノムDNA、cDNA、化学合成DNAなどが挙げられる。
前記ゲノムDNAの調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の遺伝子を有する生物からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PAC等が利用できる)を作成し、これを展開して、配列番号:2に記載の塩基配列やゲノム上のその近傍の塩基配列を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製する方法が挙げられる。また、配列番号:2に記載の塩基配列やゲノム上のその近傍の塩基配列に特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。
前記cDNAの調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の遺伝子を有する生物から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、配列番号:2に記載の塩基配列情報を基に作成したプローブやプライマーを用いて、コロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより、また、PCRを行うことにより調製する方法が挙げられる。
このように、ハイブリダイゼーション技術やPCR技術によって単離し得る、配列番号:2に示される塩基配列を含むDNA、あるいは前記DNA、及び、前記DNAの相補鎖とハイブリダイズするDNAもまた、エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードしている限り、本発明のDNAに含まれる。
【0036】
前記ハイブリダイゼーション技術を用いる場合の反応条件としては、上記のDNAを単離することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ストリンジェントな条件が好ましい。
前記ストリンジェントな条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ナトリウム濃度が25mM〜500mMが好ましく、25mM〜300mMがより好ましく、温度が42℃〜68℃が好ましく、42〜65℃がより好ましい。例えば、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃が挙げられる。
こうして単離されたDNAは、配列番号2に記載の塩基配列又は、配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列と高い配列同一性を有すると考えられる。高い配列同一性とは、塩基配列全体で、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。このような塩基配列は、本発明のエンドグルカナーゼと実質的に同等の活性を有するタンパク質をコードしていると考えられる。
【0037】
なお、上記のような塩基配列の配列同一性や、コードするタンパク質のアミノ酸配列の配列同一性を示すようなDNAは、上述のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもできるが、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群や公共データベースの中から、例えば、前述のBLASTプログラムを用いた検索により発見することも容易である。このような検索は、本技術分野の研究者が通常用いている方法である。
【0038】
このようにして得られたDNAがエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードしていることは、後述のように、適当なベクターに組み込み、適当な宿主を形質転換し、形質転換体を培養し、得られたタンパク質について、上述したようにエンドグルカナーゼ活性を測定することにより確認することができる。
【0039】
(組換えベクター)
本発明の組換えベクターは、本発明のDNAを少なくとも含有し、必要に応じてさらにその他のDNAを含有する。
【0040】
前記ベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどが挙げられる。これらの具体的な例としては、酵母由来のプラスミド、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、λファージ、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターが挙げられる。
また、前記ベクターは、本発明のDNAを発現可能な発現ベクターであることが好ましい。
【0041】
前記その他のDNAとしては、本発明の効果を害しない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マーカー遺伝子、制御配列、精製用配列などが挙げられる。
前記マーカー遺伝子としては、例えば、URA3、niaDのように宿主の栄養要求性を相補する遺伝子や、アンピシリン、カナマイシンなどの薬剤に対する抵抗遺伝子などが挙げられる。
前記制御配列としては、例えば、プロモータ配列、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列などが挙げられる。前記プロモータ配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、天然状態において本発明のDNAの発現を制御している固有のプロモータ以外のプロモータも用いることができる。
前記精製用配列としては、例えば、ヒスチジンをコードする塩基配列などが挙げられる。
【0042】
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに本発明のDNAや、必要に応じてさらにその他のDNAを連結(挿入)することにより得ることができる。
ベクターに上記DNAを挿入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが挙げられる。
【0043】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、本発明のベクター(発現ベクター)を宿主中に導入することにより得ることができる。
【0044】
前記宿主としては、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を発現しうるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、又はシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属に属する細菌、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、Sf9等の昆虫細胞などが挙げられる。中でも、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)が活性型の酵素を大量に生産する点で好ましい。
【0045】
前記ベクターを宿主中に導入する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
酵母へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法などが挙げられる。
細菌へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
動物細胞へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法などが挙げられる。
昆虫細胞へ組換えベクターを導入する方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
【0046】
本発明の組換えベクターが宿主に導入されたか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などが挙げられる。
前記PCR法としては、例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行い、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、組換えベクターが宿主に導入されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認することもできる。
【0047】
前記形質転換体は、上述したように本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造に用いることができ、得られたエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、以下の糖の製造方法、該糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、食品、飼料、洗剤、及びセルロース含有織物の処理方法に好適に用いることができる。
【0048】
(糖の製造方法)
本発明の糖の製造方法は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質、及び担子菌の少なくともいずれかを用いて、バイオマス原料から糖を得ること(糖取得工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0049】
−糖取得工程−
前記糖取得工程は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質、及び担子菌の少なくともいずれかを用いて、バイオマス原料から糖を得る工程であり、必要に応じて更に本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質以外のセルラーゼを用いることができる。
【0050】
前記バイオマス原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、農業や林業等の生産活動に伴う残渣として得られる「廃棄物系バイオマス」や、エネルギー等を得る目的で意図的に栽培して得られる「資源作物系バイオマス」などを使用することができる。前記「廃棄物系バイオマス」としては、例えば、廃建材、間伐材、稲わら、麦わら、もみ殻、バガス、サトウキビ搾りかすなどが挙げられ、また、前記「資源作物系バイオマス」としては、例えば、サトウキビ、トウモロコシ等の糖質系作物などが挙げられる。また、バイオマス原料は、木を原料とした「木質バイオマス」、草を原料とした「草本バイオマス」などにも分類される。
また、前記バイオマス原料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
前記担子菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、担子菌門 ハラタケ亜門に属する担子菌が好ましく、担子菌門 ハラタケ亜門 ハラタケ綱に属する担子菌がより好ましく、担子菌門 ハラタケ亜門 ハラタケ綱 コウヤクタケ目に属する担子菌が更に好ましく、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)が特に好ましい。
【0052】
前記セルラーゼとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)のCel6Aなどが挙げられる。
【0053】
前記糖取得工程における、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記バイオマス原料1gに対して、0.001mg〜100mgが好ましく、0.01mg〜10mgがより好ましく、0.1mg〜1mgが特に好ましい。前記タンパク質の使用量が、前記バイオマス原料1gに対して、0.001mg未満であると、糖化が不十分となることがあり、100mgを超えると、糖化阻害が起こることがある。一方、前記タンパク質の使用量が、前記特に好ましい範囲内であると、酵素添加量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
また、前記担子菌の使用量としては、特に制限はなく、担子菌が生産するエンドグルカナーゼの量などを考慮して適宜選択することができる。
なお、前記セルラーゼをさらに使用する場合、該セルラーゼの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができるが、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質:前記セルラーゼのモル比が、75:25〜25:75が好ましく、75:25がより好ましい。
【0054】
前記糖取得工程における温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、10℃〜70℃が好ましく、20℃〜60℃がより好ましく、30℃〜50℃が特に好ましい。前記温度が、10℃未満であると、糖化ができないことがあり、70℃を超えると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が失活することがある。一方、前記温度が、前記特に好ましい範囲内であると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の使用量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
【0055】
前記糖取得工程におけるpHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2.0〜8.0が好ましく、3.0〜7.0がより好ましく、4.0〜6.0が特に好ましい。前記pHが、2.0未満、又は8.0を超えると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質が失活することがある。一方、前記pHが、前記特に好ましい範囲内であると、前記エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の使用量に対して得られる糖の量が多い点で、有利である。
【0056】
前記糖取得工程により、例えば、セルロース由来の糖であるグルコースを含む糖液を得ることができる。また、前記糖取得工程により得られた糖液は、好ましくは、ヘミセルロース由来の糖をも含む。へミセルロース由来の糖としては、例えば、キシロース、アラビノースといった五炭糖や、グルコース、ガラクトース、マンノースといった六炭糖が挙げられる。
前記糖液は、例えば、そのまま後述する本発明のエタノールの製造方法に供してもよいし、以下のようなその他の工程を経て、後述する本発明のエタノールの製造方法に供してもよい。
【0057】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記糖液を、後述する発酵工程に適切となるようなpHに調整する工程などが挙げられる。
【0058】
(エタノールの製造方法)
本発明のエタノールの製造方法は、前記糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ること(発酵工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0059】
−発酵工程−
前記糖を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記糖を含む溶液に酵母等のアルコール発酵微生物を添加して、アルコール発酵を行わせる方法が、特に好ましい。前記酵母としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属酵母などが挙げられる。なお、前記酵母は、天然酵母であってもよいし、遺伝子組み換え酵母であってもよい。
【0060】
前記発酵の際の、前記酵母の使用量、発酵温度、pH、発酵時間等については、特に制限はなく、例えば、アルコール発酵に供する糖の量、使用する酵母の種類等に応じて、適宜選択することができる。
【0061】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記発酵工程により得られたエタノールを分離精製する工程などが挙げられる。前記分離精製の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留などが挙げられる。
【0062】
前記エタノールの製造方法により得られたエタノールは、例えば、燃料用エタノール、工業用エタノールなどとして好適に利用可能である。前記エタノールはバイオマス原料から得ることができるので、バイオマス原料がある限りは再生産が可能であり、また、バイオマス原料となる植物は栽培時に大気中の二酸化炭素を吸収するため、前記エタノールを燃焼させて二酸化炭素が発生したとしても、大気中の二酸化炭素濃度を増加させることにはならない。したがって、前記エタノールは、地球温暖化防止に望ましいエネルギー源ということができる。また、このようなエタノールは、近年特に、ガソリンに混合し、環境に優しい自動車燃料として使用することが期待されている。
【0063】
(食品、及び飼料)
本発明の食品、及び飼料は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含んでなる。
前記食品、及び飼料における、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記食品、及び飼料の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記食品、及び飼料は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含むため、例えば、食品、及び飼料に含まれるセルロースなどを分解することができ、消化を効率よくすることができる。
【0064】
(洗剤)
本発明の洗剤は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含んでなる。
前記洗剤における、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、前記洗剤の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記洗剤は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を含むため、例えば、洗浄対象物のセルロース繊維に詰まった汚れを効率よく取り除くことができる。
【0065】
(セルロース含有織物の処理方法)
本発明のセルロース含有織物の処理方法は、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の少なくともいずれかを用いて、セルロース含有織物を処理すること(処理工程)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記セルロース含有織物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジーンズが挙げられる。
また、前記処理工程における、本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の使用量、温度、時間などは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、本発明のセルロース含有織物の処理方法で、前記ジーンズを処理することで、例えば、ストーンウォッシング加工などを行うことができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
(エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質の遺伝子の探索)
エンドグルカナーゼ活性を有する新規タンパク質の遺伝子を得るために、まず、担子菌のファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium) K−3株(Johnsrud, S. C., and K. E. Eriksson. 1985. Cross breeding of selected and mutated homokaryotic strains of Phanerochaete chrysosporium K−3 − New cellulase deficient strains with increased ability to degrade lignin. Appl. Microbiol. Biotechnol. 21:320−327.)が生産するタンパク質を、以下のようにして調べた。
上記ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium) K−3株を、2%セルロース(CF11;Whatman社製)を含有するKremer and Wood培地(Kremer, S. M., and P. M. Wood. 1992. Evidence that cellobiose oxidase from Phanerochaete chrysosporium is primarily an Fe(III) reductase. Kinetic comparison with neutrophil NADPH oxidase and yeast flavocytochrome b. Eur. J. Biochem. 205:134)で、Habu, N., K. Igarashi, M. Samejima, B. Pettersson, and K. E. Eriksson. 1997. Enhanced production of cellobiose dehydrogenase in cultures of Phanerochaete chrysosporium supplemented with bovine calf serum. Biotechnol. Appl. Biochem. 26:98の記載に基づいて、3日間培養した。
前記培養後の培養液をろ過し、ガラス繊維濾紙(ADVANTEC(登録商標) GA−100;東洋濾紙(株)製)を用いて菌糸体を分離した。そして、分離した菌糸体は液体窒素で凍結し、後述する全RNAの抽出に用いた。
培養液のろ液500μLを遠心ろ過装置(Ultrafree(登録商標)−0.5 Centrifugal Filter Device、Millipore社製)で濃縮し、その濃縮液(未精製のタンパク質約100μg)を、Bio−Rad社製の装置(Mini−Protean II)を用いて、12%ポリアクリルアミドゲルのSDS−PAGEを行った。その結果、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium) K−3株は、図1に示すようなタンパク質を生産していることがわかった。なお、図1において、「矢印」は、後述するN末端アミノ酸配列の決定を行ったタンパク質を示す。
【0068】
上記SDS−PAGE後、Bio−Rad社製の装置(Trans−Blot SD Cell)を用いて、18kDaのタンパク質(図1の矢印、以下、「PcCel45A」と称することがある。)をPVDF膜(Millipore社製)に転写した。
その後、前記転写したPcCel45AのN末端のアミノ酸配列を、プロテインシーケンサー(Model 491 cLc;Applied Biosystems社製)により、決定した。その結果、PcCel45AのN末端アミノ酸配列は、ATGGYVQQATであった。
【0069】
前記PcCel45AのN末端アミノ酸配列の配列同一性検索行うことにより、前記PcCel45Aの配列と同一性を有する配列を調べた。
前記配列同一性検索は、BLASTプログラムとして、tblastnを用い、データベースとして、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)のゲノムデータベースv2.0(http://genome.jgi−psf.org/Phchr1/Phchr1.home.html)を用いて行った。tblastnの設定は、「expect value」を「1e−1」、「scoring matrix」を「PAM30」とした以外は、デフォルト値とした。
その結果、前記PcCel45AのN末端アミノ酸配列は、機能が知られていないファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の「Scaffold 6、1798263−1798234」と一致することがわかった。
【0070】
(PcCel45AのcDNAのクローニング)
次に、前記PcCel45AのcDNAのクローニングを以下のようにして行った。
まず、上述した、凍結した菌糸体から、ISOGEN((株)ニッポンジーン製)を用いて、製造者のマニュアルに基づいて、全RNAを約200mg抽出した。
前記抽出された全RNA1μgからOligotex(TM)−dT30<Super>(タカラバイオ(株)製)を用いてmRNAを精製した。
そして、前記mRNAから、逆転写酵素(ReverTraAce;東洋紡績(株)製)と、3’RACEアダプタープライマー(Invitrogen社製)とを用いて、製造者のマニュアルに基づいて、First−strand cDNAを合成した。
その後、前記First−strand cDNAを用いて、前記PcCel45Aをコードする領域と3’非翻訳領域をPCRによって増幅した(94℃2分を1サイクル、98℃10秒・68℃30秒を25サイクル、4℃で終了)。PCRは、ポリメラーゼとしてKOD−Plus(version2;東洋紡績(株)製)を用い、プライマーとして、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)のゲノム配列に基づいて設計したプライマー(Pccel45A−F1、Pccel45A−F2)と、リバースプライマー(Invitrogen社製)とを用いて、製造者のマニュアルに基づいて行った。
プライマー:
Pccel45A−F1:ATGGCGAAGCTGTCGATGTTCTTGGG
Pccel45A−F2:CTGACCGTCTCCGAGAAGCGTG
リバースプライマー:Abridged Universal Amplification Primer(Invitrogen社製)
【0071】
また、5’非翻訳領域の塩基配列は、GneneRacer(トレードマーク) Kit(Invitrogen社製)と、SuperScript(登録商標)III RT(Invitrogen社製)と、以下の遺伝子特異的プライマーを用いて増幅した(94℃2分を1サイクル、98℃10秒・70℃30秒を5サイクル、98℃10秒・68℃30秒を5サイクル、98℃10秒・66℃30秒・68℃30秒を20サイクル、4℃で終了)。
プライマー:
Pccel45A−5’−R1:CAGCCTTGCCGCAAGCAGGAGAGCCGC
Pccel45A−5’−R2:CGCAAGCAGGAGAGCCGCAGCCCGAAT
上記で得られたPCR産物は、Zero Blunt(登録商標) TOPO(登録商標) PCR cloning kit(Invitrogen社製)と大腸菌E.coli JM109株(タカラバイオ(株)製)を用いてクローン化した。
そして、前記PCR産物の塩基配列を、Thermo Sequence Primer Cycle Sequencing Kit(GE Healthcare社製)と、DNA sequencer SQ5500E((株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて調べた。
【0072】
その結果、前記cDNAは718bpからなり、ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)のゲノム上では、2つのイントロンで3つのエキソンに分けられている206アミノ酸をコードする翻訳領域を含むことがわかった。結果を図2、及び図3に示す。
なお、図2中、灰色の反転表示(KR)は、Kex2プロテアーゼのプロセシング部位を示し、これまでのセクレトーム研究で見つかっている配列は、ボールド文字で示す。
【0073】
(PcCel45Aのアミノ酸配列分析)
−シグナルペプチド分析−
シグナルペプチドについては、the Center for Biological Sequence AnalysisのSignalP 3.0サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いて調べた。
その結果、上述のPcCel45AのN末端アミノ酸配列(図2の二重下線部で示す。)と異なる最初の19アミノ酸(図2の一重下線部で示す。)がシグナルペプチドであることが示唆された。
【0074】
−糖鎖付加部位分析−
N型糖鎖付加部位については、the Center for Biological Sequence AnalysisのNetNGlyc 1.0サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetNGlyc/)を用いて調べた。
その結果、1つのN型糖鎖付加部位が予測された(図2の反転表示部(NYT)で示す)。
【0075】
O型糖鎖付加部位については、the Center for Biological Sequence AnalysisのNetOGlyc 3.1サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetOGlyc/)を用いて調べた。
その結果、4つのO型糖鎖付加部位が予測された(図2の囲み部で示す)。
【0076】
−配列同一性分析−
前記PcCel45Aのアミノ酸配列について、BLASTプログラムとして、blastpを用い、データベースとして、NCBIタンパク質データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi)を用いて、配列同一性検索を行った。なお、blastpの設定は、デフォルト値とした。
その結果、前記PcCel45Aのアミノ酸配列は、真菌のGHファミリー45(EGV)に属するエンドグルカナーゼに対して、低い配列同一性を有しているのみであり、前記PcCel45Aは、新規のタンパク質であることがわかった。
前記PcCel45Aと最も配列同一性が高かったのは、仮説のタンパク質を除くと、ヒポクレア ジェコリナ(H.jecorina(T.reesei))のEGVであり、22%だった。また、前記PcCel45Aには、真菌のGHファミリー45(EGV)に属するエンドグルカナーゼに保存されている推定ドメインが含まれていないこともわかった。
【0077】
次に前記PcCel45Aのアミノ酸配列と、BLAST検索の結果、配列の関連性が認められた以下の5つのタンパク質のアミノ酸配列とを、E−INS−iアルゴリズムのMAFFT(version 6;http://align.bmr.kyushu−u.ac.jp/mafft/online/server/)プログラムにより、マルチプルアライメントを行った。結果を図4に示す。なお、図4は、BOXSHADE(http://www.ch.embnet.org/software/BOX_form.html)を用いて作成した。
5つのタンパク質
・コプリノプシス シネレア(Coprinopsis cinerea)の仮説のタンパク質(以下、「CcHP」と称することがある。)。
・ウスティラゴ メイディス(Ustilago maydis)の仮説のタンパク質(以下、「UmHP」と称することがある。)。
・アスペルギルス ニヅランス(Aspergillus nidulans)の仮説のタンパク質(以下、「AnHP」と称することがある。)。
・アスペルギルス フミガツス(Aspergillus fumigatus)の仮説のタンパク質(以下、「AfHP」と称することがある。)。
・ヒポクレア ジェコリナ(Hypocrea jecorina)のCel45A(以下、「HjCel45A」と称することがある。)。なお、仮説のタンパク質を除くと、前記HjCel45Aが、上述の18kDaのタンパク質のアミノ酸配列と最も配列同一性が高かったものである。
【0078】
図4に示したPcCel45Aのアミノ酸配列と、HjCel45Aのアミノ酸配列との比較から、PcCel45Aのアミノ酸配列のAsp140(図4中の矢印部分)は、触媒残基のうちの1つであると考えられる。しかしながら、他の触媒残基の可能性があるアミノ酸(HjCel45AのAsp27)は、PcCel45Aのアミノ酸配列には見つからなかった。そのため、PcCel45Aは、既知の酵素とは反応の仕組みが異なることが考えられる。
【0079】
−系統学的分析−
次にPcCel45Aのアミノ酸配列と、blastp検索において関連性を示した、真菌GHファミリー45のエンドグルカナーゼのサブファミリーB(以下、「Cel45−subB」と称することがある。)に属する酵素と、植物のエクスパンシン(Expansin)と、CAZy server上で真菌GHファミリー45のサブファミリーA(以下、「Cel45−subA」と称することがある。)に属する酵素と、真菌のスウォレニン(Swollenin)とを系統学的に分析した結果を図5に示す。
図5の系統樹は、最小距離法(minimum linkage method)により、MAFFTサーバー上のマルチプルアライメントの結果から作成し、FigTree(version1.1.2; http://tree.bio.ed.ac.uk/software/figtree/)を用いて作成した。
【0080】
BLAST検索の結果から考えると、アミノ酸配列の点からは、PcCel45Aは、GHファミリー45のサブファミリーBとはやや似ているが、GHファミリー45のサブファミリーAとは、明らかに異なっていた。
また、図5に示すように、PcCel45Aが含まれる分岐群は、担子菌の中でコプリノプシス シネレア(Coprinopsis cinerea(EAU91056))、ウスティラゴ メイディス(Ustilago maydis(XP_761686))由来の仮説のタンパク質のみを含んでいた。
以上から、PcCel45Aは、GHファミリー45の新たなサブファミリーに分類される新規のタンパク質であることがわかった。以下に、PcCel45Aの製造方法の一例を挙げる。
【0081】
(酵母を用いたPcCel45Aの製造)
−組換えベクター(発現ベクター)の作製−
PcCel45Aの成熟体の塩基配列に基づいて、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを設計した。
オリゴヌクレオチドプライマー
Pccel45A−XhoI−F:TTTCTCGAGAAAAGACTGACCGTCTCCGAGAAGCGTG
Pccel45A−NotI−R:TTTTGCGGCCGCTCACGAAGGGGCAGTCCCCTTGTT
PcCel45A遺伝子を含むベクターを鋳型とし、上記オリゴヌクレオチドプライマーと、ポリメラーゼとしてKOD−Plus(version2;東洋紡績(株)製)を用いて、PCRを行い(94℃2分を1サイクル、98℃10秒・68℃30秒を20サイクル、4℃で終了)、発現ベクターに挿入するDNA断片を増幅した。
前記増幅したDNA断片を酵母(Pichia)の発現ベクターpPICZα(Invitrogen社製)のXhoIとNotI部位に挿入し、組換えベクター(発現ベクター)を得た。
【0082】
−形質転換体の作製−
上記で得られた発現ベクター約5μgをBpu1102I(タカラバイオ(株)製)を用いて、直鎖化した。そして、エレクトロポレーションにより、酵母(Pichia pastoris)KM71H株(Invitrogen社製)へ、前記直鎖化した組換えベクターを導入した後、形質転換体の選別を行った。前記エレクトロポレーション、及び形質転換体の選別は、EasySelect(トレードマーク) Pichia expression kit(version G;Invitrogen社製)のマニュアルに基づいて行った。これにより、前記発現ベクターにより形質転換された形質転換体を得た。
【0083】
−形質転換酵母の培養、及びPcCel45Aの製造及び精製−
上述の形質転換体を25μg/mLのZeocinを含むYPG培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、1%グリセロール)10mLで30℃、300rpmで往復振とう培養器で24時間培養し、200mLのYPG培地の入った三角フラスコに接種した後、回転振とう培養器(30℃、150rpm)でさらに24時間培養した。遠心分離(3,000g、10分)によって菌体を回収した後、50mLのYPM培地(1%酵母エキス、2%ポリペプトン、1%メタノール)に菌体を移し、24時間ごとに終濃度1%になるようにメタノールを加えながら、さらに回転振とう培養器(30℃、150rpm)で96時間培養した。
前記培養液を遠心分離(30分、5,000×g)し、得られた培養上清を粗酵素液とした。前記粗酵素液に、最終濃度が1Mとなるように硫酸アンモニウムと、最終濃度が20mMとなるように酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)とを加えた。
1Mの硫酸アンモニウムを含有する20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化したPhenyl−Toyopearl 650Sカラム(26mm×120mm、東ソー(株)製)を用いて、前記溶液を分画した。PcCel45Aは、300mLの逆勾配で、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)へ溶出した。
その後、前記PcCel45Aを含む分画を集め、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に対して平衡化した。そして、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化したSuperQ−Toyopearl 650S カラム(9mm×120mm、東ソー(株)製)に前記平衡化したPcCel45Aを含む溶液を加えた。PcCel45Aは、0M〜0.5Mの塩化ナトリウム100mLの直線勾配でカラムから溶出した。
得られたPcCel45Aの精製度は、SDS−PAGE(12%ポリアクリルアミドゲル)で分析した。また、得られたPcCel45AのN末端のアミノ酸配列は、プロテインシーケンサー(Model 491 cLc;Applied Biosystems社製)により確認した。その結果、形質転換酵母で得られたPcCel45AのN末端アミノ酸配列は、ATGGYVQQATであり、担子菌ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)で得られた天然のものと同じであることがわかった。
次に、上記で得られたPcCel45Aがエンドグルカナーゼ活性を有するか否かを以下の酵素試験により確認した。
【0084】
(酵素試験)
−各種基質に対する加水分解活性−
上記で得られたPcCel45A 1.0μMと、0.5%の以下の各基質とを50mM酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)250μL中、30℃で120時間まで反応させた。
基質:
・結晶性セルロース(Funacel II、フナコシ(株)製。以下、「MCC」と称することがある。)
・非晶性セルロース(リン酸膨潤セルロース、結晶性セルロースから、Wood,T.M.1988.Preparation of crystalline, amorphous, and dyed cellulase substrates.Methods Enzymol.160:19−25に記載の方法により調製した。以下、「PASC」と称することがある。)
・カルボキシメチルセルロース(7LFD、Hercules社製。以下、「CMC」と称することがある。)
・リケナン(Sigma−Aldrich社製)
・大麦β−グルカン(Sigma−Aldrich社製)
・グルコマンナン(和光純薬工業(株)製)
・キシラン(Sigma−Aldrich社製)
【0085】
−−生成した還元糖量の測定−−
前記反応を1時間行った後、等体積量の1.0M水酸化ナトリウム溶液を加え、反応を止めた。そして、p−hydroxybenzoic acid hydrazide(PHBAH)法(Lever, M. 1972. A new reaction for colorimetric determination of carbohydrates. Anal. Biochem. 47:273−279.)により、標準としてグルコース(和光純薬工業(株)製)を用いて還元糖量を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

表1中、「n.d.」は、反応を120時間行った後に還元糖の生成が検出されなかったことを示す。
【0087】
表1の結果から、PcCel45Aは、PASC、CMC、リケナン、大麦β−グルカン、及びグルコマンナンを加水分解することができ、エンドグルカナーゼ活性を有していることがわかった。
一方、PcCel45Aは、MCC、及びキシランに対しては、加水分解活性を有していないことがわかった。
また、PcCel45Aのβ−1,3/1,4−グルカン(リケナン、大麦β−グルカン)に対する初速度(活性)は、β−1,4−グルカン(PASC、カルボキシメチルセルロース)より高いことがわかった。
【0088】
−加水分解産物の分析−
−−薄層クロマトグラフィー(TLC)分析−−
PcCel45Aと、各基質とを以下のように反応させた後に得られるオリゴ糖(加水分解産物)について、TLCにより分析した。
PcCel45A 1.0μMと、0.5%の各基質(MCC、PASC、CMC、リケナン、大麦β−グルカン、グルコマンナン、キシラン)とを50mM酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)250μL中、30℃で1時間、又は120時間反応させた。
前記反応液を5分間煮沸することにより反応を止め、該反応液を遠心分離し(×15,000g)、得られた上澄みをpre−coated silica gel 60 TLC plate(Merck社製)にアプライした。展開溶媒として、EtOAc/CHCOOH/HO(3/2/1 体積比)を用いて展開した後、Kawai, R., K. Igarashi, M. Kitaoka, T. Ishii, and M. Samejima. 2004. Kinetics of substrate transglycosylation by glycoside hydrolase family 3 glucan (1−>3)−β−glucosidase from the white−rot fungus Phanerochaete chrysosporium. Carbohydr. Res. 339:2852−2853.に記載の方法でオルシノール試薬により還元糖を検出した。結果を図6、図7に示す。
【0089】
図6は、反応時間1時間の場合の加水分解産物における可溶性産物のTLC分析の結果を示し、図7は、反応時間120時間の場合の加水分解産物における可溶性産物のTLC分析の結果を示す。
図6、及び図7中、「1」は基質が「MCC」の場合を示し、「2」は基質が「PASC」の場合を示し、「3」は基質が「CMC」の場合を示し、「4」は基質が「リケナン」の場合を示し、「5」は基質が「大麦β−グルカン」の場合を示し、「6」は基質が「グルコマンナン」の場合を示し、「7」は基質が「キシラン」の場合を示す。また、「+」は、「PcCel45A有り」の場合を示し、「−」は、「PcCel45A無し」の場合を示す。
図6、及び図7から、PcCel45Aは、基質がβ−1,4−グルカン(PASC、CMC)の場合にオリゴ糖を生成することがわかった。
【0090】
−−高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析−−
PcCel45Aと、基質としてPASCとを以下のように反応させた後に得られる単糖〜7糖までのそれぞれの糖の量について、HPLCにより分析した。
PcCel45A 1.0μMと、0.5%のPASCとを50mM酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)250μL中、30℃で30分間、60分間、120分間、180分間、240分間のそれぞれの時間反応させた。そして、各反応液を5分間煮沸した後、遠心分離(×15,000g)した。得られた上澄みをアセトニトリル/HO(60/40から50/50、体積/体積)の直線勾配で、Shodex(登録商標) Asahipak NHP−50(昭和電工(株)製)で分離した。前記分離されたものの量は、ポリマー化度(DP)=2〜7のセロオリゴ糖(生化学工業(株))を標準として用いて定量した。
なお、HPLCの装置は、Corona(トレードマーク) Chaged Aerosol Detector(トレードマーク)(ESA Biosciences社製)を用いたLC−2000(日本分光(株)製)を使用した。結果を図8に示す。
【0091】
図8中、「■」は単糖を示し、「●」は2糖を示し、「▲」は3糖を示し、「◆」は4糖を示し、「□」は5糖を示し、「○」は6糖を示し、「△」は7糖を示す。
図8の結果から、PcCel45Aは、PASCを基質とした場合に、ポリマー化度(DP)=3〜5のセロオリゴ糖(3糖〜5糖)を多く生成することがわかった。一方、2糖(DP=2)や単糖(DP=1)はわずかしか生成されなかった。なお、DP=6〜7のセロオリゴ糖(6糖〜7糖)の生成も少なかったが、これらは可溶性が低かったためだと思われる。
【0092】
−PcCel45Aの相乗効果−
酵素として、PcCel45Aと、メタノール資化性酵母(Pichia pastoris)で発現させた組換えファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium) Cel6A(以下、「Cel6A」と称することがある。)とを用い、基質として、PASCを用いた場合の、基質の加水分解産物について調べ、PcCel45Aの相乗効果を以下のようにして試験した。
【0093】
−−組換えCel6Aの製造−−
−−−Cel6A遺伝子のクローニング−−−
NCBIデータベース上にあるファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)由来Cel6A遺伝子(AAB32942)をもとに、以下のプライマーを設計した。
プライマー:
PcCel6A−EcoRI−F:TTTGAATTCCAGGCGTCGGAGTGGGGACAG(配列中、「GAATTCC」は制限酵素EcoRI切断配列)
PcCel6A−NotI−R:TTTGCGGCCGCCTACAGCGGCGGGTTGGCAGC(配列中、「GCGGCCGC」は制限酵素NotI切断配列)
上記プライマーを用い、PcCel45Aと同様に調製したcDNAを鋳型にしてPCRを行い(94℃2分を1サイクル、98℃10秒・68℃1分30秒を25サイクル、4℃で終了)、PcCel6Aの成熟体タンパク質をコードする部分(21番アミノ酸以降)を得た。
上記で得られたPCR産物は、Zero Blunt(登録商標) TOPO(登録商標) PCR cloning kit(Invitrogen社製)と大腸菌E.coli JM109株(タカラバイオ(株)製)を用いてクローン化した。
【0094】
−−−組換えベクター(発現ベクター)の作製−−−
ミニプレップを行って調製されたPcCel6A遺伝子を含むベクター、及び酵母発現用ベクターpPICZαA(Invitrogen社製)を制限酵素EcoRI、及びNotI(タカラバイオ(株)製)によって切断し、得られたフラグメントをアガロース電気泳動で分離したのちゲル抽出によって得た。
制限酵素処理されたpPICZαAとPcCel6A遺伝子それぞれ20ngをDNA Ligation Kit<Mighty Mix>(タカラバイオ(株)製)によってライゲーションし、大腸菌E.coli JM109株(タカラバイオ(株)製)を用いてクローン化した。ミニプレップを行って調製されたPcCel6A遺伝子を含む酵母発現用ベクターpPICZαA(以下、「pPICZαA/PcCel6A」と称することがある。)からSte13シグナル切断サイトを切除するために、以下のプライマーを設計し、pPICZαA/PcCel6Aを鋳型としてPCRを行った(94℃2分を1サイクル、98℃10秒・68℃1分30秒を15サイクル、4℃で終了)。
プライマー:
PcCel6A−Kex2−F:GAAGGGGTATCTCTCGAGAAAAGACAGGCGTCGGAGTGGGGACAG
PcCel6A−Kex2−R:CTGTCCCCACTCCGACGCCTGTCTTTTCTCGAGAGATACCCCTTC
増幅された遺伝子断片を制限酵素DpnIによって処理し、大腸菌E.coli JM109株(タカラバイオ(株)製)を用いてクローン化した。
【0095】
−−−形質転換体の作製−−−
ミニプレップを行って得られた、Ste13シグナル切断サイトを切除したpPICZαA/PcCel6A−Ste(−)を制限酵素BstXI(タカラバイオ(株)製)によって直鎖化し、エレクトロポーレーション法によって酵母(Pichia pastoris) KM−71H株に導入した。形質転換体の選抜は抗生物質(Zeocin)耐性を指標に行った。
【0096】
−−−形質転換酵母の培養、及びCel6Aの製造及び精製−−−
上述の形質転換体を25μg/mLのZeocinを含むYPG培地(1%Yeast extract、2%Polypeptone、1%Glycerol)10mLで30℃、300rpmで往復振とう培養器で24時間培養し、200mLのYPG培地の入った三角フラスコに接種した後、回転振とう培養器(30℃、150rpm)でさらに24時間培養した。遠心分離(3,000g、10分)によって菌体を回収した後、50mLのYPM培地(1%Yeast extract、2%Polypeptone、1%Methanol)に菌体を移し、24時間ごとに終濃度1%になるようにMethanolを加えながら、さらに回転振とう培養器(30℃、150rpm)で96時間培養した。遠心分離(3,000g、10分)によって得られた培養上清を粗酵素液とした。
上述のようにして得られた粗酵素液に硫酸アンモニウムを70%飽和になるように加え、遠心分離(15,000g、30分)によって沈殿を回収した。前記沈殿を1M硫酸アンモニウムを含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)に溶解させた。
1Mの硫酸アンモニウムを含有する20mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)で平衡化したPhenyl−Toyopearl 650Sカラム(26mm×120mm、東ソー(株)製)を用いて、前記溶液を分画した。PcCel6Aは、300mLの逆勾配で、20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)へ溶出した。
その後、前記PcCel6Aを含む分画を集め、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に対して平衡化した。そして、20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したSuperQ−Toyopearl 650S カラム(9mm×120mm、東ソー(株)製)に前記平衡化したPcCel6Aを含む溶液を加えた。PcCel6Aは、0M〜0.5Mの塩化ナトリウム100mLの直線勾配でカラムから溶出した。
得られたPcCel6Aは、SDS−PAGE(12%ポリアクリルアミドゲル)で単一のバンドを与えた。また、得られたPcCel6AのN末端のアミノ酸配列は、プロテインシーケンサー(Model 491 cLc;Applied Biosystems社製)により確認した。その結果、形質転換酵母で得られたPcCel6AのN末端アミノ酸配列は、QASEWGQCGGIGであり、担子菌ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)由来のCel6Aと同じであることがわかった。
【0097】
−−相乗効果試験−−
PcCel45Aと、Cel6Aとの全酵素濃度を1.0μMとし、両者の割合をモル比100:0、75:25、50:50、25:75、0:100として、0.5%のPASCと、50mM酢酸ナトリウム溶液(pH5.0)250μL中、30℃で60分間、120分間、180分間、240分間の各時間反応させた。そして、反応液を5分間煮沸した後、遠心分離(×15,000g)した。
得られた上澄みに含まれるセロオリゴ糖を、上述のHPLC分析と同様にして分析した。結果を図9、及び図10に示す。
【0098】
図9中、実線は、PcCel45Aと、Cel6Aとのモル比が100:0の場合を示し、点線はPcCel45Aと、Cel6Aとのモル比が50:50の場合を示し、破線はPcCel45Aと、Cel6Aとのモル比が0:100の場合を示す。
図9の結果から、PcCel6Aによって、PASCから生成される主産物はセロビオース(DP=2)であることがわかった。また、PcCel45Aと、PcCel6Aとを共に用いた場合でも、PASCから生成される主産物は、同様にセロビオース(DP=2)であることがわかった。
【0099】
図10中、「■」は反応時間が60分の場合を示し、「●」は反応時間が120分の場合を示し、「▲」は反応時間が180分の場合を示し、「◆」は反応時間が240分の場合を示す。また、点線は、各酵素単独で基質と反応させた場合における加水分解産物の量を合計した値を示す。
図10の結果から、PcCel45Aと、PcCel6Aとを共に用いると、両者を単独で用いた場合の合計値よりも、加水分解産物(セロオリゴ糖)が多く得られることがわかった。反応時間120分、PcCel45Aと、PcCel6Aとのモル比が75:25では、加水分解産物の量は、計算値(図10の点線)より3.6倍高くなり、反応時間120分、PcCel45Aと、PcCel6Aとのモル比が50:50では、加水分解産物の量は、計算値(図10の点線)より2.7倍高くなっていた。
この結果から、PcCel45Aは、他のセルラーゼと併用すると相乗効果を有することがわかった。また、PcCel45Aは、PcCel6Aの活性を増強すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質は、例えば、バイオマス原料からの糖の製造方法、該糖を用いたエタノールの製造方法、さらに、食品、飼料、洗剤、及びセルロース含有織物の処理方法に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、ファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)を培養した後の培養液の濾過物のSDS−PAGEの結果を示す図である。
【図2】図2は、PcCel45AをコードするcDNAの塩基配列と前記cDNAがコードするアミノ酸配列を示す図である。
【図3】図3は、PcCel45Aのファネロケーテ クリソスポリウム(P.chrysosporium)のゲノム上での位置を示す図である。
【図4】図4は、PcCel45Aのアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列のマルチプルアライメントの結果を示す図である。
【図5】図5は、PcCel45Aの系統樹を示す図である。
【図6】図6は、PcCel45Aと各基質とを1時間反応させた後の反応液中の加水分解産物のTLC分析の結果を示す図である。
【図7】図7は、PcCel45Aと各基質とを120時間反応させた後の反応液中の加水分解産物のTLC分析の結果を示す図である。
【図8】図8は、PcCel45Aと、PASCとを反応させた後の反応液中のセロオリゴ糖の生成の経時変化を示した図である。
【図9】図9は、PcCel45Aと、PcCel6AとをPASCと反応させた場合に生成されたセロオリゴ糖をHPLCによって調べた図である。
【図10】図10は、PcCel45Aと、PcCel6Aとを、PASCと反応させた場合の相乗効果を調べた図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担子菌由来のタンパク質であって、SDS−PAGEで測定した分子量が18kDaであり、かつ、エンドグルカナーゼ活性を有することを特徴とするタンパク質。
【請求項2】
担子菌が、ファネロケーテ クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)である請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
エンドグルカナーゼ活性を有することを特徴とする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(c)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質
(d)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質
【請求項4】
エンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質をコードすることを特徴とする、下記(a)から(f)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:1で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号:1で示されるアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:1で示されるアミノ酸配列の27位〜206位のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA
(e)配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA
(f)配列番号:2で示される塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(g)配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNA
(h)配列番号:2で示される塩基配列の79位〜621位の塩基配列を含むDNA、及び、前記DNAの相補鎖のいずれかとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項5】
請求項4に記載のDNAを含有することを特徴とする組換えベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の組換えベクターにより形質転換されたことを特徴とする形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養する工程と、前記培養物からエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程とを含むことを特徴とするエンドグルカナーゼ活性を有するタンパク質の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質、及び、担子菌の少なくともいずれかを用いて、バイオマス原料から糖を得ることを特徴とする糖の製造方法。
【請求項9】
さらに請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質以外のセルラーゼを用いる、請求項8に記載の糖の製造方法。
【請求項10】
請求項8〜9のいずれかに記載の糖の製造方法により得られた糖を、発酵させて、エタノールを得ることを特徴とするエタノールの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜3に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする食品。
【請求項12】
請求項1〜3に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする飼料。
【請求項13】
請求項1〜3に記載のタンパク質の少なくともいずれかを含有することを特徴とする洗剤。
【請求項14】
請求項1〜3に記載のタンパク質の少なくともいずれかを用いて、セルロース含有織物を処理することを特徴とするセルロース含有織物の処理方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−22242(P2010−22242A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185219(P2008−185219)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】