説明

エーテル脂質シグナル伝達経路を制御する酵素

侵襲性癌細胞において高度に増加している、以前に特徴付けられていない酵素である活性タンパク質が、血小板活性化因子とリゾリン脂質とをつなぐエーテル脂質シグナル伝達ネットワークにおける中心ノードとして役立つことを決定するために、活性に基づくプロテオミクスとメタボロミクスとを組み合わせる多次元プロファイリング戦略を使用した。生化学的研究により、活性タンパク質が、代謝中間体2-アセチルモノアルキルグリセロールを加水分解することによってこの経路を制御することが確認された。活性タンパク質の不活性化は、癌細胞におけるエーテル脂質代謝を乱し、かつインビボで細胞移動および腫瘍成長を妨げた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、概して、プロテオーム解析および腫瘍性(neoplasticity)、ならびにより具体的には、腫瘍および腫瘍進行を同定するためのセリンヒドロラーゼKIAA1363の使用ならびにこのセリンヒドロラーゼの阻害による癌の処置の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
様々なプロトコルを使用して細胞内事象を追跡する能力により、例えば、過形成および腫瘍性、例えば薬物およびその他の処置などの環境に対する応答などの病変細胞に関連する事象を同定すること、ならびに多くの異なる状態に対応した細胞経路およびそれらの混交のより良い理解に対する機会がもたらされた。正常細胞を病変細胞または試験環境と比べて標準的な環境に供された細胞と比較することによって、転写プロファイルまたはプロテオームプロファイルがどのように変化したかを決定し得る。
【0003】
細胞のプロテオームの解析において、測定できる細胞成分の多くの異なるカテゴリーがある:mRNA、タンパク質、タンパク質位置、タンパク質複合体、修飾タンパク質など。これらの各々は、個体、測定する特定の時間、摂食、サーカディアンリズム、増殖におけるステージなどの様々な変化に対する応答、または対象となる状態と関係がない場合があるが細胞組成物に影響を及ぼす場合があるその他の事象に応じて変化し得る。どのタンパク質が細胞状態に関連性があるのかを発見することは、重大な企てである。二次元ゲル電気泳動に依存している従来的なプロテオミクスアプローチは、膜関連および少量タンパク質の解析において困難に直面する。さらに、多くのプロテオミクス技術は、タンパク質存在量における変化を検出することに制限されており、それ故に、タンパク質活性におけるダイナミクスの間接的な読み出しのみを提供する。タンパク質-タンパク質相互作用によって支配されているものを含むタンパク質制御の多くの翻訳後型は、依然として検出されていない。これらの翻訳後修飾の各々は、細胞の状態に対する顕著な効果を有し得、タンパク質の存在のみを決定することは、誤解を招く可能性がある。細胞に存在する多数のタンパク質、細胞の状態および環境における変化に対するそれらの動的応答、ならびにタンパク質における変化により、プロテオームプロファイルの部分と疾患状態に関する有用な情報との間の相関、薬物および問題となっている有用な治療的体制に対する応答が見出される。したがって、特定の生体分子が細胞生理学および病理学において果たす役割の完全な理解は、とりわけ未知の生化学機能または細胞機能のタンパク質に対して、いまだに課題を提示している。
【0004】
アダプタータンパク質または足場タンパク質などの特定のタンパク質の機能は、酵母ツーハイブリッド、タンパク質マイクロアレイ、および免疫沈降タンパク質複合体のMS解析などの技術によって生成された大規模タンパク質相互作用マップから集められ得る。対照的に、酵素は、主に触媒を介する生物学的プロセスに寄与する。したがって、真核生物および原核生物のゲノムによってコードされる何千もの酵素の活性の解明は、それらの内因性基質および産物の知識を必要とする。原核生物システムにおける酵素の機能注釈は、同じ代謝カスケードに関与している酵素をコードするゲノムに隣接して位置している遺伝子のセットに対応する遺伝子クラスターまたはオペロンの解析によって容易になった。しかしながら、代謝経路への真核生物酵素の集合は、それらの対応する遺伝子が概してオペロンへ物理的に組織されておらず、むしろゲノム全体にランダムに散在しているため、より不確定である。
【0005】
真核生物ゲノムとプロテオームとを接続する機能的構築物の非存在を前提として、それらの酵素構成要素の活性は、典型的には、候補基質およびタンパク質の精製調製物を使用してインビトロで実験的様式で評価される。これらの「試験管」生化学研究の結果を解釈して、これらのタンパク質が翻訳後制御に供され、典型的には、より大きな代謝ネットワークの一部として稼働する生物系において酵素が果たす役割を明快に理解するのは難しい場合がある。
【0006】
新しい標的、生物学的経路、および治療的薬剤の開発は、様々な病状と闘うことにおいて非常に有用であると考えられる。これらの開発に対して不可欠なのは、ヒトゲノムによってコードされる特徴付けられたまたは特徴付けられていない酵素のフルコンプリメント(full complement)を、癌などの複雑な病状に寄与する代謝およびシグナル伝達ネットワークへ構築するための試みである。
【0007】
以上を考慮して、例えば酵素プロテオームおよびその主要な生化学的アウトプットの両方を調査する包括的なプロファイリング技術の統合された適用によって、特徴付けられていない酵素の内因性触媒活性の決定を生物系において直接的に遂行することができることの至急の必要性が存在する。本発明の態様は、そのような特徴付けられていない酵素およびそれらの内因性触媒活性の決定に対して計算された方法を提供する。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明の態様に従って、癌細胞の存在に関連するタンパク質を同定するための方法であって、阻害剤を同定する段階、およびタンパク質によって制御される内因性分子の正体を決定するために、阻害剤を該タンパク質に結合させるのに適した条件下で、阻害剤を癌細胞と接触させる段階を含む方法が提供される。一つの局面において、阻害剤は、タンパク質に対する阻害剤としての役目を果たすことが可能である化合物を決定するために、天然プロテオームまたは基質に基づくアッセイにおいて競合的な活性に基づくタンパク質プロファイリングを使用する段階を含むがそれらに限定されない方法によって同定される。
【0009】
一つの態様において、タンパク質は、アミノ酸配列SEQ ID NO:2を有し、阻害剤は、構造:

を有する化合物などのカルバメート部分を含む。
【0010】
本発明の別の態様に従って、それを必要としている患者において癌を処置するための方法であって、癌関連タンパク質を同定するために活性に基づくタンパク質プロファイリングを使用する段階、タンパク質に対する阻害剤としての役目を果たすことが可能である化合物を決定するために、天然プロテオームにおいて競合的な活性に基づくタンパク質プロファイリングを使用する段階、および癌を処置するために阻害剤をタンパク質に結合させるのに適した条件下で、阻害剤と転移性癌細胞を含む癌細胞とを接触させる段階を含む方法が提供される。
【0011】
一つの態様において、細胞における脂質シグナル伝達経路を調節することによって癌を処置するための方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤と被験体とを接触させる段階、ならびに細胞移動および/または細胞成長、癌細胞の増殖、および/または発癌性転写因子Fra-1の発現に対する薬剤の効果を判定する段階を含む方法が開示され、ここで、KIAA1363および/または少なくとも一種類のリゾリン脂質が細胞において増加している場合、KIAA1363の活性または発現を負に調節することが、細胞移動および/もしくは脂質シグナル伝達に関連する細胞成長の低下、ならびに/または癌細胞成長の低下、ならびに/またはFra-1の発現の低下と相関する。
【0012】
一つの局面において、薬剤は、一般式:

を有するAS115である。
【0013】
一つの態様において、癌を処置する方法であって、それを必要としている被験体にSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の阻害剤の治療的有効量を投与する段階を含む方法が開示される。
【0014】
別の態様において、KIAA1363の阻害剤を同定する方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列をコードする核酸と細胞とを接触させる段階、第一の薬剤と細胞とを接触させる段階、薬剤の存在下で各々の細胞に対して2-アセチルモノアルキルグリセロール(MAGE)またはその誘導体の加水分解の速度を決定する段階を含む方法が開示され、ここで、2-アセチルMAGE加水分解の速度が、第一の薬剤の存在下で低下する場合、その低下は、第一の薬剤の阻害効果を示す。いくつかの局面において、モック核酸を有する少なくとも一種類の対照細胞も、本方法において使用される。特定の局面において、本方法は、基質に基づくアッセイを含んでもよい。例えば、そのようなアッセイは、FLAGタグおよび6×hisなどのN末端タグを含むがそれらに限定されないKIAA1363をタグ付けする(例えば、標識する)ベクターをトランスフェクトされた一つまたは複数の細胞を含み得る。さらに、そのような細胞は、安定な形質転換体を決定するための一つまたは複数の選択可能なマーカー(例えば、抗生物質選択マーカーを含むがそれらに限定されない)を含み得る。さらに、そのようなアッセイは、トランスフェクト細胞の膜または膜画分の単離を含み得る。そのようなアッセイは、成分が、当技術分野において周知である一つまたは複数の界面活性剤(例えば、CHAPSなど)を含むアッセイバッファーに含まれる一つもしくは複数のプロテアーゼ阻害剤(例えば、PMSF)および/または-SH基修飾因子(例えば、DTNB)および/またはDMSOとともに(阻害剤と接触する前および/または後に)、膜または細胞をインキュベートする段階を含み得る。
【0015】
さらに別の態様において、KIAA1363の阻害剤を同定するためのさらなる方法であって、KIAA1363を発現する細胞から膜プロテオームを単離する段階、KIAA1363による2-チオアセチルMAGEの加水分解を可能にする条件下で、試験薬剤の存在下および非存在下で、膜プロテオームをチオール反応性蛍光試薬および2-チオアセチルモノアルキルグリセロール(2-チオアセチルMAGE)と接触させる段階、ならびに吸光度を決定する段階を含む方法が提供され、ここで、試験薬剤の非存在下での吸光度と比較して試験化合物の存在下での吸収の低下が、試験薬剤の阻害効果を示す。一つの局面において、チオール反応性蛍光試薬は、5,5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)であり、吸光度は、約405nmで決定される。いくつかの局面において、KIAA1363を発現する細胞は、KIAA1363をコードする発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞である。そのような細胞を、一過性トランスフェクトしてもよく、または安定的にトランスフェクトしてもよい。さらに、そのような発現ベクターは、安定な形質転換体を決定するための一つまたは複数の選択可能なマーカー(例えば、抗生物質選択マーカーを含むがそれらに限定されない)を含み得る。そのようなアッセイは、成分が、当技術分野において周知である一つまたは複数の界面活性剤(例えば、CHAPSなど)を含むアッセイバッファーに含まれる一つもしくは複数のプロテアーゼ阻害剤(例えば、PMSF)および/またはDMSOとともに膜をインキュベートする段階を含み得る。
【0016】
一つの態様において、細胞におけるSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の存在を決定するための診断的方法であって、SEQ ID NO:2をコードするヌクレオチドと特異的に相互作用する薬剤またはSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質と特異的に相互作用する薬剤を試料と接触させる段階、および薬剤と核酸またはペプチドとの間の相互作用を検出する段階を含む方法が開示され、ここで、相互作用の検出が、試料におけるKIAA1363の存在を示す。
【0017】
別の態様において、SEQ ID NO:2をコードするヌクレオチドと特異的に相互作用する一つもしくは複数の薬剤またはSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質と特異的に相互作用する一つもしくは複数の薬剤と生物学的試料とを接触させるためのデバイス、一つまたは複数の薬剤の使用に対する手順を提供する取扱説明書、ならびに一つまたは複数の薬剤および取扱説明書を収納する容器を含むキットが開示される。
【0018】
一つの態様において、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含む単離ポリペプチドが開示される。
【0019】
別の態様において、SEQ ID NO:2をコードする配列を含む単離核酸が開示される。
【0020】
一つの態様において、それを必要としている被験体においてエーテル脂質シグナル伝達を調節することによって癌を処置するための方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤の治療的有効量を該被験体に投与する段階、ならびに腫瘍サイズ、腫瘍進行、および/または平均余命に対する該薬剤の効果を判定する段階を含む方法が開示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】AS115阻害剤の活性を示す。
【図2】図2Aは、AS115または賦形剤(DMSO)で処理されたSKOV-3細胞の包括的な代謝産物プロファイルを示す。図2Bは、m/z 317親油性代謝産物の高解像度質量スペクトルを示す。
【図3】図3Aは、タンデムMS断片化内因性および合成C16:0 MAGEの比較を示す。図3Bは、内因性および合成C16:0 MAGEのLC移動パターンを示す。
【図4】癌細胞における活性タンパク質およびMAGEレベルに対するAS115および対照カルバメートURB597の効果の比較を示す。
【図5】2-アセチルMAGEヒドロラーゼとしての活性タンパク質の決定を示す。(A)KIAA1363トランスフェクトCOS7細胞抽出物およびモックトランスフェクト細胞抽出物における2-アセチルMAGE加水分解活性。KIAA1363トランスフェクト細胞抽出物は、AS115でも処理された。(B)モックまたはAS115で処理された卵巣癌細胞系OVCAR-3およびSKOV-3の抽出物における2-アセチルMAGE加水分解活性。
【図6】活性タンパク質の生化学的特徴付けを示す。(A)MAG(左)、PAF(左-中)、2-オレオイルMAGE(右-中)、およびPC(右)の加水分解が欠如したKIAA1363トランスフェクトCOS7細胞抽出物。(B)2-アセチルMAGE加水分解活性は、可溶性細胞抽出物に対してSKOV-3膜において優勢である。(C)2-アセチルMAGE加水分解活性は、SKOV-3細胞抽出物のQ-セファロース分画におけるKIAA1363 ABPP標識化と相関する。
【図7】活性タンパク質が、PAFとシグナル伝達脂質のリゾリン脂質ファミリーとを接続する代謝ネットワークにおいてどのように酵素的ノード(enzymatic node)としての役目を果たすのかを示す。(A)代謝産物および酵素成分を示すネットワーク図。(B)処理されたSKOV-3細胞抽出物における内因性MAGE、アルキル-LPC、およびアルキルLPAレベルは、AS115で低下する。(C)SKOV-3細胞への13C-MAGEの添加によるLPCおよびLPAの蓄積。(D)AS115および13C-MAGEで処理されたSKOV-3細胞におけるPAFの蓄積。(E)MAGE、LPC、およびLPAレベルは、OVCAR-3細胞抽出物と比較してSKOV-3細胞抽出物において上昇する。
【図8】ヒト癌細胞における活性タンパク質の安定なshRNA媒介ノックダウンの代謝効果を示す。(A)ABPPによって実証されたKIAA1363のshRNA媒介ノックダウン。(B)KIAA1363ノックダウン細胞抽出物における低下した2-アセチルMAGE加水分解活性。(C)KIAA1363ノックダウン細胞におけるMAGE、LPC、およびLPAの内因性レベルの低下。
【図9】卵巣腫瘍成長および癌細胞移動への活性タンパク質の寄与を示す。(A)KIAA1363ノックダウン細胞は、インビボで腫瘍成長の低下を示す。(B)KIAA1363ノックダウン細胞は、移動可能性の低下を示し、LPAの添加によって救出される。
【図10】shRNAによる活性タンパク質のノックダウンが、乳癌細胞におけるアルキルグリセロール脂質代謝を乱し、インビボで腫瘍成長を妨げることを示す。(A)KIAA1363ノックダウン細胞におけるMAGE、LPC、およびLPAの内因性レベルの低下。(B)KIAA1363ノックダウン細胞は、インビボで腫瘍成長の低下を示す。
【図11】shRNAによる活性タンパク質のノックダウンが、対照細胞と比較してSKOV3細胞の増殖速度を変化させないことを示す。
【図12】膜関連ヒドロラーゼKIAA1363の活性とヒト癌細胞系の浸潤性との間の相関を示す。(A〜C)ABPPによって測定される癌細胞膜プロテオームに存在する活性KIAA1363のレベル(左)、およびマトリゲル浸潤アッセイによって測定される癌細胞浸潤性(右)。浸潤細胞の数として表現される結果は、カウントされた8つのフィールドあたりの浸潤細胞の平均数を指す(各々の細胞系に対してn=3〜4)。(A)乳癌系。(B)メラノーマ系。(C)卵巣癌系。
【図13】Flag-KIAA1363/293T細胞膜プロテオームを使用した2-チオアセチルMAGE加水分解を図示する。
【図14】膜プロテオームにおけるバックグラウンド2-チオアセチルMAGE加水分解活性を図示する。
【図15】Flag-KIAA1363/293T細胞膜プロテオームを用いた2-チオアセチルMAGE基質に基づくアッセイを使用したAS-115のIC50を図示する。IC50値は270 nM〜620 nMの範囲であった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明の目的に対して、以下の用語、定義、および略語が適用される。
【0023】
一つまたは複数の活性メンバーの存在の検出および定量のために、一つまたは複数の標的酵素の活性部位との特異的な反応に対して、活性に基づくプローブ(ABP)が提供され、ここで、標的タンパク質は、タンパク質、特に酵素のクラスのメンバーである。単一のABP(例えば、蛍光標識化ABPまたはfABPであるが、それに限定されない)またはABPの混合物が使用され得、ここで、異なるプロファイルを提供するために、任意の付着標識が異なる可能性があることを含めて、求電子剤が異なる可能性があり、環境が異なる可能性がある。プローブは、同じ成分が2つの機能を果たす場合もあり、2つ以上の成分が単一または複数の機能を一緒に果たす場合もある4つの特徴へ分けられてもよい:(1)タンパク質の活性部位に特異的に共有結合する官能基(F);(2)蛍光標識(Fl)(3)FlとFとの間のリンカーL;および(4)リンカー領域および/または官能基(R)に関連するか、またはその一部であり得、かつセリンヒドロラーゼに関連し得る結合部分または親和性部分もしくは標識、官能基の結合親和性は、リンカーの性質によって影響される。FおよびLは、親和性標識、ならびに反応性官能性およびリンカーを提供するために組み合わせられてもよい。
【0024】
ABPは、酵素活性部位に対する親和性を有し、それは特定の酵素の活性部位に対して特異的であり得るが、通常は複数の関連酵素によって共有されると考えられる。
【0025】
ABPにおいて使用される例示的なFは、アルキル化剤、アシル化剤、ケトン、アルデヒド、スルホン酸塩、光親和性またはリン酸化剤を含む。特定のFの例は、フルオロホスホニル、フルオロホスホリル、フルオロスルホニル、α-ハロケトンもしくはアルデヒド、またはそれぞれそれらのケタールもしくはアセタール、α-ハロアシルおよびニトリル、スルホン酸化アルキルもしくはアリールチオール、ヨードアセチルアミド基、マレイミド、スルホニルハロゲン化物およびエステル、イソシアネート、イソチオシアネート、テトラフルオロフェニルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、酸ハロゲン化物、酸無水物、イミノエーテル、不飽和カルボニルもしくはシアノ、アルキン、ヒドロキサメート、ヘミアセタール、α-ハロメチルヒドロキサメート、アジリジン、エポキシド、特にスピロエポキシド、アジド、またはアルセネートおよびそれらの酸化物を含むが、それらに限定されない。スルホニル基は、スルホン酸塩、硫酸塩、スルフィン酸塩、スルファミン酸塩など、2つの酸素原子に結合した硫黄基を有する任意の反応性官能性を実際には含み得る。エポキシドは、後者がメタロプロテアーゼに対して特異的であるフマギリンによって例示される、脂肪族、アラルキル、脂環式、およびスピロエポキシドを含み得る。
【0026】
特異性は、例えば、スルホン酸または硫酸エステル、フルオロホスホン酸塩、置換スピロエポキシドなどの活性官能性の一部としての基を有することによって達成され得、置換基は、脂肪族飽和または不飽和で、通常3部位未満の不飽和を有する、脂肪族、脂環式、芳香族、または複素環式、またはその組み合わせであり得る。例示的な基は、アルキル、ピリジル、置換ピリジル、イミダゾール、ピロール、チオフェン、フラン、アゾール、オキサゾール、アジリジンなどの複素環式、アリール、置換アリール、アミノ酸またはペプチジル、オリゴヌクレオチドまたは炭水化物基を含む。フルオロホスホン酸塩、スピロエポキシド、スルホン酸塩、オレフィン、およびカルボニルなどの官能性の多くが、文献において見出されている。
【0027】
ABPは、以下の式によって図示され得る:
FPO2--L--FL
式中、記号は、
FPO2は、フルオロホスホニルを意味し、
Lは、2〜20個、通常は2〜16個の炭素原子のリンカーであり、脂肪族、芳香族、脂環式、複素環式、またはその組み合わせ、特にアラルキルであり得、フェニルアルキレン、フェニルポリ(オキシアルキレン)、アルキレン、ポリ(オキシアルキレン)などの、例えば、O、S、N、およびPなどの約0〜6個のヘテロ原子を鎖に含み得、オキシアルキレンは、通常2〜3個の炭素原子のものであると考えられ、かつ
Flは、任意の蛍光部分である。
【0028】
リンカー基は、潜在的に結合であり得るが、結合以外である場合もある。多くの場合において、合成戦略が連結のための官能化部位を含むことができると考えられるので、連結基を選ぶことにおいて官能性が活用され得る。一つの局面において、当業者は、特定の酵素または酵素クラスに対するABPのさらなる特異性を提供するためにABPのリンカー部分を選択し得る。例えば、アルキレンリンカーおよびポリエチレングリコール(「PEG」)を含むリンカーは、特徴的な特異性を有し、特徴的なタンパク質プロファイルを提供する。
【0029】
リンカー基は、数ある中でも、0〜3部位の脂肪族不飽和を有する、エーテル、ポリエーテル、ジアミン、エーテルジアミン、ポリエーテルジアミン、アミド、ポリアミド、ポリチオエーテル、ジスルフィド、シリルエーテル、アルキルまたはアルケニル鎖(直鎖または分岐、および環式であり得るものの部分)アリール、ジアリール、またはアルキル-アリール基を含む。普通は、アミノ酸およびオリゴペプチドは好ましくないが、使用される場合、それらは、普通は、炭素原子2〜3個アミノ酸、すなわちグリシンおよびアラニンを採用すると考えられる。リンカーにおけるアリール基は、一つまたは複数のヘテロ原子(例えば、N、O、またはS原子)を含み得る。リンカーは、結合以外の場合、約1〜60個の原子、通常は1〜30個の原子を有すると考えられ、原子は、C、N、O、S、Pなど、特にC、N、およびOを含み、概して、約1〜12個の炭素原子および約0〜8個、通常は0〜6個のヘテロ原子を有すると考えられる。特記されない限り、基における原子の数を言及する場合において、水素は原子から除外される。
【0030】
リンカーは、それらの機能に応じて幅広く変動し得、アルキレンが炭素原子2〜3個のものであるアルキレンオキシおよびポリアルキレンオキシ基、個々のモノマーが、概して、1〜6個、より通常には1〜4個の炭素原子のものであると考えられるメチレンおよびポリメチレン、ポリアミド、ポリエステルなどを含む。オリゴマーは、概して、約1〜10個、より通常には1〜8個のモノマー単位を有すると考えられる。モノマー単位は、天然および合成の両方のアミノ酸、天然および合成の両方のオリゴヌクレオチド、縮合ポリマーモノマー単位、ならびにその組み合わせであり得る。
【0031】
蛍光物質は、使用されるプロトコル、もしあるとすれば、プローブの特異性に対するそれらの効果、同じアッセイにおいて採用される異なるプローブの数、電気泳動において単一のまたは複数のレーンが使用されるかどうか、励起および検出デバイスの利用可能性などに応じて幅広く変動し得る。多くの部分に対して、採用される蛍光物質は、紫外範囲および可視範囲において吸収し、可視範囲および赤外範囲において発光すると考えられ、特に発光は可視範囲である。吸収は、概して、約350〜750 nmの範囲であると考えられ、発光は、概して、約400〜900 nmの範囲であると考えられる。例示的なフルオロフォアは、フルオレセイン、ローダミン、ローザミン、BODIPY、ダンシル、ランタニドクリプテート、例えばスクアレートなどの、エルビウム、テルビウム、およびルテニウムキレートなどの、キサンテン色素、ナフチルアミン色素、クマリン、シアニン色素、および金属キレート色素を含む。文献は、多種多様な官能基を介して蛍光物質をその他の基に連結するための方法を十分に記載している。蛍光物質は、連結のための部位として使用され得る官能基を有する。使用される蛍光物質は、普通は、2 kダルトン以下、通常は1 kダルトン以下であると考えられる。
【0032】
いくつかの例において、結合または非結合ABPのすべてが、反応混合物のその他の成分を含まないように捕捉されかつ洗浄されるように、ABPに結合したリガンドを有することが望ましい場合がある。これは特に関心対象となり得、ABPに結合したタンパク質が、該タンパク質に対して特異的であるオリゴヌクレオチドを残して部分的に分解され、質量分析計で解析され得る。質量分析法のために、またはその他の目的のために、蛍光物質が存在するまたは存在しない場合、ABPを、放射性または非放射性の少量アイソトープで標識してもよい。同様に、リガンドは、捕捉、洗浄、および放出によって、より清浄な試料が電気泳動分離に対して使用されることを可能にする。リガンドは、概して、約1 kダルトン以下であると考えられ、ビオチン、特にビオチンによってストレプトアビジンから容易に置き換えられ得るデチオビオチンおよびイミノビオチンなどの類似体が、従来的なリガンドである。しかしながら、都合の良い条件下で捕捉されかつ放出され得る任意の小分子で十分であると考えられる。リガンドは、概して、少なくとも約3原子、通常は少なくとも約4原子の鎖によって、官能基から離れて配置されると考えられる。
【0033】
本発明の重要な局面は、プローブが、活性酵素と反応することである。「活性酵素」は、例えば不活性状態とは対照的に触媒活性状態にある、正常野生型立体構造の酵素を意味する。活性状態は、酵素を正常に機能させる。不活性状態は、変性、共有結合または非共有結合による阻害剤結合、突然変異、例えばリン酸化または脱リン酸化などの二次プロセシング、別のタンパク質への結合の非存在などの結果であり得る。本明細書において記載される酵素の機能状態は、多くの同じ酵素のレベルとは異なる可能性がある。活性部位は、酵素の触媒部位もしくは補因子結合部位、または触媒活性を提供するために別の実体の結合を必要とするその他の部位などの、生物学的活性を有する部位における利用可能な野生型立体構造である。多くの例において、そのような部位の利用可能性のレベルを知ることは興味深い。
【0034】
「タンパク質」という用語は、ペプチド結合を介して連結されるアミノ酸に由来する単位を含む生物学的ポリマーとして定義され;タンパク質は、二つ以上の鎖から成る場合がある。
【0035】
「プロテオーム」という用語は、所与の条件下で所与の時間に所与の生物体、生物学的システム、組織、または細胞によって発現されるすべてのタンパク質の集合として定義される。「膜プロテオーム」という用語は、細胞の膜に関連するタンパク質の集合を指す。
【0036】
「カルバメート部分」という用語は、下記の構造(I)を有する部分として定義される。

【0037】
「ローダミン部分」という用語は、下記の構造(II)を有する部分として定義され、場合によっては「Rh」と略される。

【0038】
「IC50」という用語は、「阻害性濃度」を意味し、試料における酵素の50%の活性を阻害するのに必要とされる化合物の濃度として定義される。
【0039】
以下の略語は、本出願において以下で記載されるNMRスペクトルにおける多重度を説明するために使用される:s=一重項、d=二重項、t=三重項、q=四重項、m=多重項、b=ブロード。
【0040】
細胞、特に腫瘍細胞の酵素プロファイルに関する方法および組成物が提供され、ここで、解析される試料は、通常、単一の供給源に由来すると考えられる。細胞試料における活性酵素について解析することによって、多くの方式において適用され得る有用な情報が導き出される可能性があることが示される。細胞は、それらが腫瘍性であるかどうかに関して解析され得、腫瘍性である場合、腫瘍細胞は、それらの起源、浸潤性または侵襲性、ステロイド応答性腫瘍に対してはホルモン状態、ならびに治療に対する応答に関して評価され得る。分画されかつ脱グリコシル化され得る細胞内容物は、酵素の活性部位と選択的に反応する活性に基づくプローブと反応する。プローブは、複合体の酵素の決定および定量のために、結果として生じたコンジュゲートの操作を可能にするリガンドを有する。
【0041】
本明細書において記載される方法は、細胞をそれらの腫瘍性状態に関して解析する方式を提供する。本方法は、細胞の性質および環境に基づいて活性型において上方制御または下方制御されることが見出されている酵素のクラスの特定のメンバーに対して特異的である単一の活性に基づくプローブまたはプローブの群を採用する。活性に基づくタンパク質プロファイリング(ABPP)を使用して、起源となる腫瘍および浸潤性の状態を含む生物学的特性に基づいてヒト癌細胞を識別する酵素活性シグニチャーが同定された。したがって、これらのシグニチャーの主要な成分は、本明細書において「KIAA1363」と呼ばれる活性タンパク質(酵素)として同定された。一つの態様において、KIAA1363は、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸を含む。
【0042】
一つの態様において、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の細胞における存在を同定する方法であって、細胞から可溶性および膜性の画分を獲得する段階、膜画分を一般式:

を有する第一の薬剤と接触させる段階、膜画分におけるタンパク質と薬剤との間のコンジュゲートの存在または非存在を決定する段階を含む方法が開示され、ここで、コンジュゲートの存在の決定は、KIAA1363の存在と相関する。
【0043】
KIAA1363は、腫瘍性細胞に対する異なる特異性を有する少なくとも二つの異なるグリコシル化型を有する膜タンパク質として特徴付けられ、腫瘍性細胞において上方制御される。KIAA1363は、乳癌およびメラノーマ癌細胞系の両方において見出され、特にMUM-2Bにおいて豊富である。タンパク質は、膜関連であり、グリコシル化されており、高度にグリコシル化されている場合、浸潤性マーカーである。それは、グリコシル化のレベルに関わらず、活性型において特異的にフルオロホスホン酸塩と反応する。タンパク質は、その発現プロファイルにおいて胚細胞、癌細胞、および神経系に限定されていると考えられる。このように、体内の多くの細胞に存在しないという点で、および血液脳関門を越えられない薬物により神経系においてその機能が妨害されないという点で、それは望ましいマーカーである。
【0044】
当業者は、上述のABPPを実施するために使用される特定の手順を決定し得る。一つの態様において、例えば、ABPPを実施するために、対象となる天然プロテオーム(例えば、癌細胞プロテオーム)は、単離され得、付加物を形成するために活性に基づくプローブ(ABP)プローブと組み合わせられ得る。対象となる活性タンパク質が、最初に単離され得る、または必要に応じて、プローブが、解析およびプロファイリングの対象である関心対象の活性タンパク質を含む全プロテオーム試料と組み合わせられ得る。任意の適した方法が、プロファイリングおよび解析のために使用され得る。使用される特定の方法は、当業者によって選択され得る。使用され得るいくつかの解析またはプロファイリング技術の例は、蛍光、標識化およびスキャニング、ゲル内可視化、IC50値の測定、ならびに質量分析法を含む。質量分析は、マイクロキャピラリー液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレー法と並行して使用され得る。
【0045】
ABPは、プロテオームにおける一つまたは複数の標的タンパク質の活性部位との特異的な反応に対して提供される。ABPは、少なくとも反応性官能性およびリガンドを含み得、関連するタンパク質群に対する親和性を有し得、それによってABPは、標的タンパク質に結合し得、タンパク質を実質的に不活性化し得、リガンドが、検出および/または単離を可能にし得、したがって対象となるタンパク質をプロファイリングし得る。使用され得るABPの例は、FP-ローダミンである。当業者は、必要に応じて、その他の適切なABPを選択し得る。プロファイリング手順は、本出願において後により詳しく記載されている(実施例を参照されたい)。
【0046】
反応が完了した後に、プローブとタンパク質標的とのコンジュゲートが解析される。プローブは、コンジュゲートの操作、コンジュゲートを隔離するまたはコンジュゲートを検出するまたは両方を可能にするリガンドを有する。プローブは、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、もしくはマイクロ流体電気泳動を使用する電気泳動、例えばMALDI-TOFなどの質量分析法、マイクロキャピラリー液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレータンデムMS、またはその他の技術によって解析され得る。
【0047】
癌細胞代謝およびシグナル伝達において活性タンパク質が果たす役割を決定するために、活性タンパク質の選択的阻害剤を生成するために、競合的ABPPの方法が使用され得る。競合的ABPP手順における阻害剤は、多くの酵素に対して並行してスクリーニングされるので、効能および選択性因子の両方が、同時に決められ得る。
【0048】
競合的ABPPを実施するために、多くの技術が採用され得る。使用され得る一つの方法は、問題になっている活性タンパク質に対する阻害剤の効能の決定に向けられ得る。この方法に従って、例えば、活性に基づくプローブは、コンジュゲートを形成するのに適した条件下で、KIAA1363および阻害剤と組み合わせられ得る。試料に存在するコンジュゲートの量が測定され得る。
【0049】
次いで、対照試料は、活性化合物-KIAA1363を形成するのに適した条件下で、阻害剤をともなわずにKIAA1363と活性に基づくプローブ化合物とを組み合わせることによって作ることができ、対照試料において獲得されるKIAA1363の量も、測定することができる。次いで、第一試料および対照試料において獲得されたKIAA1363の量が、比較され得る。
【0050】
第一試料において、阻害剤は、問題になっている活性タンパク質の部分に結合し、この部分がプローブの活性化合物と反応することを不可能にすることが予期される。それ故に、対照試料におけるシグナル強度と比較して、第一試料におけるレポーター基からのシグナル強度の低下が予期される。阻害剤がより強力であればあるほど、低下のより高い程度が予期される。したがって、阻害剤の効能は、使用される阻害剤の量に比例して、獲得される付加物の量を示す、シグナル強度の低下によって決定され得る。
【0051】
競合的ABPPは、候補となる阻害剤のライブラリを用いてスクリーニングし、セリンヒドロラーゼスーパーファミリーを標的にするフルオロホスホン酸塩(FP)活性に基づくプローブは、KIAA1363に対する活性を示すトリフルオロメチルケトン(TFMK)阻害剤のセットを同定した。KIAA1363の阻害剤のインサイチュー活性を強化するために、阻害剤におけるTFMK部分は、スキーム(III)によって示されるように、共有結合メカニズムによってセリンヒドロラーゼを不活性化するカルバメート部分(I)で置き換えられ得る。

【0052】
そのような強化されたインサイチュー活性を有する有用な阻害剤の例は、式(IV)を有する阻害剤AS115である。当業者は、必要に応じて、カルバメート部分も有するその他の阻害剤を選択してもよい。

【0053】
式(IV)を有する阻害剤AS115を合成し、上で示される部分(II)を含むRh-タグFPプローブを用いる競合的ABPPによって、浸潤性卵巣癌細胞系SKOV-3に対するその効果に関して試験した。AS115が、問題になっている活性タンパク質を、この酵素を高レベルで保有する卵巣癌系SKOV-3ならびにメラノーマ系C8161およびMUM-2Bを含む侵襲性癌細胞系において、選択的に阻害することが判定された。この結果は、本出願の「実施例」のセクションにおいてより詳細に考察されている。
【0054】
次いで、AS115または賦形剤(DMSO)で処理されたSKOV-3細胞の包括的な代謝産物プロファイルを、活性タンパク質によって制御される内因性小分子を同定するために比較した。結果は、本出願の「実施例」のセクションにおいてより詳細に考察されている。
【0055】
活性タンパク質によって制御される内因性小分子の同定に基づいて、次いで、活性タンパク質は、2-アセチルMAGEのMAGEへの加水分解を触媒する2-アセチルMAGEヒドロラーゼとして生化学的に特徴付けられた。この決定は、部分的に本出願の「実施例」のセクションにおいて提供されているデータに基づいてなされた。
【0056】
活性タンパク質が癌細胞内の主要な2-アセチルMAGEヒドロラーゼであるという結論は、さらに確認されている。第一に、2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性は、図6Bにおいて示されているように、主にSKOV-3膜に関連しており、p<0.01であり、示される結果は、3つの独立な実験に対する平均値±標準誤差を示す。さらに、QクロマトグラフィーによるSKOV-3膜プロテオームの分画は、活性タンパク質と2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性のレベル間の密接な関係を明らかにした(図6C、白丸および黒丸は、AS115での前処理をともなうまたはともなわない試料を示す)。第三に、SKOV-3細胞は、非浸潤性卵巣癌系OVCAR-3と比較して、より高い2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性を保有し(図5B)、問題になっている活性タンパク質のそれぞれのレベルとよく相関した。
【0057】
従って、活性タンパク質が、血小板活性化因子(PAF)とリゾリン脂質とをつなぐエーテル脂質シグナル伝達ネットワークを制御することが決定されている。先述を考慮して、当業者は、図7Aによって示されるように、活性タンパク質-MAGE経路が、癌細胞においてPAFとリゾリン脂質シグナル伝達系とを連結する代謝ノードとしての役目を果たす可能性があることを理解すると考えられる。この前提は、さらに試験され得る。試験するために、この小分子ネットワークの主要な成分を、AS115および賦形剤で処理したSKOV-3細胞における標的LC-MS解析によって測定した。AS115は、MAGEのみではなく、アルキル-LPCおよびアルキル-LPAのレベルも低下させることが見出された(図7B)。MAGEからこれらのリゾリン脂質へ導く直接的な経路と一致して、SKOV-3細胞への13C-MAGEの添加は、13C-標識化アルキル-LPCおよびアルキル-LPAの形成を引き起こした(図7C)。
【0058】
逆に、代謝標識化実験によって判断されるように、SKOV-3細胞における2-アセチルMAGEのレベルは、AS115での処理によって有意に安定化され、今度はPAFの蓄積をもたらした(図4D)。2-アセチルMAGEおよびPAFの基本レベルは、AS115によって有意に変化しなかった。最後に、SKOV-3およびOVCAR-3細胞の代謝プロファイルの比較により、前者の系におけるMAGE、アルキル-LPC、およびアルキル-LPAの有意により高いレベルが明らかになった(図4E)。これらのデータは、MAGEネットワークのリゾリン脂質分岐が、侵襲性癌細胞において増加し、この代謝シフトが、活性タンパク質によって制御されることを示す。
【0059】
まとめると、これらの結果は、KIAA1363が、おそらく生物活性脂質LPAのレベルを制御することを介して、インビトロおよびインビボで癌細胞の病原性特性に寄与することを示す。
【0060】
KIAA1363は、癌の処置に対する標的として使用され得る。一つの態様において、細胞におけるエーテル脂質シグナル伝達経路を調節することによって癌を処置するための方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤と被験体を接触させる段階、ならびに少なくとも一種類のリゾリン脂質の合成、細胞移動、および/または細胞成長、癌細胞の増殖、および/または転写因子Fra-1の発現に対する薬剤の効果を判定する段階を含む方法が開示され、ここで、KIAA1363および/または少なくとも一種類のリゾリン脂質が細胞において増加している場合、KIAA1363の活性または発現を負に調節することが、リゾリン脂質、細胞移動、および/もしくはエーテル脂質シグナル伝達に関連する細胞成長のレベルの低下、ならびに/または癌細胞成長の低下、ならびに/またはFra-1の発現の低下と相関する。
【0061】
関連する局面において、「調節する」は、その文法的なバリエーションを含めて、幅、頻度、程度、または活性の調整または制御を意味する。関連する別の局面において、そのような調節は、正に調節され得る(例えば、幅、頻度、程度、または活性における増加)または負に調節され得る(例えば、幅、頻度、程度、または活性の低下)。
【0062】
KIAA1363を、従来的な手順に従って、抗血清およびモノクローナル抗体の両方の抗体の調製に対して使用してもよい。哺乳類宿主が、通常はアジュバントの存在下で、注入による従来的な処方計画を採用し、2〜4週間待ち、力価を決定するために採血して、酵素で免疫化され得、高力価抗血清を獲得するために、さらなる免疫化が続く。モノクローナル抗体に関して、マウスまたはその他の都合の良い哺乳類宿主を免疫化するためにタンパク質が使用され得、脾細胞を単離しかつ不死化し、結果として生じたハイブリドーマをタンパク質に対する親和性についてスクリーニングする。これらの技術は、周知であり、文献に記載されている。例えば、Antibodies: A laboratory manual, eds. David Lane and Ed Harlow, Cold Spring Harbor Laboratories, Cold Spring Harbor, N.Y.を参照されたい。
【0063】
KIAA1363を、グリコシル化および脱グリコシル化されたフラグメントおよび無傷タンパク質の両方の標識化誘導体を調製するために使用してもよい。蛍光物質、放射性標識、酵素フラグメント、粒子、分子ドットなどの様々な標識が使用され得る。標識をKIAA1363に結合させるための方法は、文献において周知であり、本明細書において記載される必要はない。
【0064】
これらのタンパク質は、SDS-PAGE、液体クロマトグラフィー、特にHPLC、またはキャピラリー電気泳動などの、タンパク質精製のための一つまたは複数の従来的な方法を使用して、少なくとも約50%純度(全タンパク質に基づいて)、通常は少なくとも約75%純度、および望ましくは少なくとも約90%純度〜完全純度に容易に精製される。
【0065】
本発明のタンパク質は、KIAA1363に対する阻害性活性を保有する候補化合物を決定するための標的としての役目を果たす。候補化合物を評価するために、様々な技術が使用され得る。一つの局面において、酵素の活性部位に結合するための候補化合物に対する競合物質としてプローブを使用し得る。適切に緩衝された溶媒中で酵素、プローブ、および候補化合物を組み合わせることによって、候補化合物の存在下および非存在下でのコンジュゲートの形成における変化を決定する。あるいは、候補化合物および酵素基質を酵素と組み合わせて、候補化合物の存在下および非存在下での代謝回転における変化を決定してもよい。
【0066】
一つの態様において、KIAA1363の阻害剤を同定する方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列をコードする核酸と細胞を接触させ、かつモック核酸と少なくとも一種類の対照細胞を接触させる段階、第一の薬剤と細胞を接触させる段階、薬剤の存在下で各々の細胞に対して2-アセチルモノアルキルグリセロール(MAGE)またはその誘導体の加水分解の速度を決定する段階を含む方法が開示され、ここで、2-アセチルMAGE加水分解の速度が、第一の薬剤の存在下で低下する場合、その低下は、第一の薬剤の阻害効果を示す。必要に応じて、その他の技術を使用してもよい。一つの局面において、方法は、基質に基づくアッセイを含み得る。例えば、そのようなアッセイは、FLAGタグおよび6×hisなどのN末端タグを含むがそれらに限定されないKIAA1363をタグ付けする(すなわち、標識する)ベクターをトランスフェクトされた一つまたは複数の細胞を含み得る。さらに、そのような細胞は、安定な形質転換体を決定するための一つまたは複数の選択可能なマーカー(例えば、抗生物質選択マーカーを含むがそれらに限定されない)を含み得る。さらに、そのようなアッセイは、トランスフェクト細胞の膜または膜画分の単離を含み得る。そのようなアッセイは、膜または細胞を一つもしくは複数のプロテアーゼ阻害剤(例えば、PMSF)および/または-SH基修飾因子(例えば、DTNB)および/またはDMSOとともに(阻害剤接触前および/または後に)インキュベートする段階を含み得、その成分は、一つまたは複数の界面活性剤を含むアッセイバッファーに含まれ、そのような界面活性剤は、当技術分野において周知である(例えば、CHAPSなど)。
【0067】
別の局面において、KIAA1363の阻害剤を同定するためのさらなる方法であって、KIAA1363を発現する細胞から膜プロテオームを単離する段階、KIAA1363による2-チオアセチルMAGEの加水分解を可能にする条件下で、試験薬剤の存在下および非存在下で、膜プロテオームをチオール反応性蛍光試薬および2-チオアセチルモノアルキルグリセロール(2-チオアセチルMAGE)と接触させる段階、ならびに吸光度を決定する段階を含む方法が提供され、ここで、試験薬剤の非存在下での吸光度と比較して試験化合物の存在下での吸収の低下が、試験薬剤の阻害効果を示す。
【0068】
本明細書において使用される「チオール反応性蛍光試薬」という用語は、チオールと反応して蛍光を発生させる化合物を指す。そのような試薬は、本明細書において開示される方法におけるKIAA1363基質の加水分解をモニターするために使用され得る。これらの試薬の例は、当技術分野において周知であり(例えば、The Handbook - A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies, 10th Edition, Chapter 2, Web Edition, hosted by Invitrogen, Inc., Carlsbad, CAを参照されたい)、ヨードアセトアミド、マレイミド、クマリン誘導体、およびビマン(bimane)を含む。特定の例は、モノブロモビマン、モノクロロビマン、7-ジエチルアミノ-3-(4'-マレイミジルフェニル)-4-メチルクマリン(CPM)、Hg-連結Alexa Flour 350フェニル水銀試薬(Invitrogen, Inc.)、および5-(ブロモメチル)フルオレセインを含む。好ましい態様において、チオール反応性蛍光試薬は、5,5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)であり、吸光度は、約405nmで決定される。
【0069】
いくつかの局面において、KIAA1363を発現する細胞は、KIAA1363をコードする発現ベクターをトランスフェクトされた宿主細胞である。そのような細胞を、一過性トランスフェクトしてもよく、または安定的にトランスフェクトしてもよい。さらに、そのような発現ベクターは、安定な形質転換体を決定するための一つまたは複数の選択可能なマーカー(例えば、抗生物質選択マーカーを含むが、それらに限定されない)を含み得る。発現ベクターは、KIAA1363タンパク質のN末端またはC末端をタグ付けするためのアミノ酸配列(例えば、6×HisタグまたはFLAGタグ)をコードする核酸配列をさらに含み得る。好ましい態様において、宿主細胞は、293T細胞またはCOS-7細胞であり得る。そのようなアッセイは、一つもしくは複数のプロテアーゼ阻害剤(例えば、PMSF)および/またはDMSOとともに膜をインキュベートする段階を含み得、その成分は、一つまたは複数の界面活性剤を含むアッセイバッファーに含まれ、そのような界面活性剤は、当技術分野において周知である(例えば、CHAPSなど)。
【0070】
別の態様において、癌を処置する方法であって、被験体にKIAA1363の阻害剤の治療的有効量を投与する段階を含む方法が開示される。そのような阻害剤は、抗体、核酸、および小分子を含むが、それらに限定されない。
【0071】
一つの局面において、核酸は、アンチセンス核酸、低分子ヘアピンRNA、siRNA、およびリボザイムを含む。核酸分子を合成する方法は、当技術分野において公知である。一つの局面において、例えば、そのような核酸は、Verma and Eckstein (1998)において記載されている方法によって産生され得る。
【0072】
核酸を、合成DNAテンプレートからまたは組換え細菌から単離されたDNAプラスミドから酵素転写によって調製してもよい。典型的には、RNAに関して、T7、T3、またはSP6 RNAポリメラーゼなどのファージRNAポリメラーゼが使用される(Milligan and Uhlenbeck (1989))。
【0073】
本発明のさらなる局面は、例えばRNA干渉による、標的特異的KIAA1363調節を媒介する方法に関する。
【0074】
関連する局面において、RNA分子は、例えば、例えば細胞培養における単離標的細胞、単細胞微生物などの標的細胞、または多細胞生物体内の標的細胞もしくは複数の標的細胞へ形質導入される。別の局面において、形質導入は、例えばリポソーム担体によるまたは注入による、担体によって媒介される送達を含み得る。
【0075】
本発明の核酸は、細胞または生物体における遺伝子の機能を調節することを含む、細胞または生物体における遺伝子の機能の決定のために使用され得る。一つの局面において、細胞は、例えば、例えばメラノーマ細胞、乳癌細胞などの腫瘍細胞、および膵臓細胞を含むがそれらに限定されない動物細胞などの真核細胞または細胞系である。別の局面において、生物体は、例えばヒトを含む哺乳類などの動物などの真核生物体である。
【0076】
一つの態様において、本発明の核酸は、病的状態(例えば、癌)に関連するKIAA1363を調節することに向けられる。KIAA1363を調節することによって、特に、KIAA1363の機能を阻害することによって、治療的利益が獲得される可能性がある。
【0077】
本発明の核酸は、薬学的組成物として投与され得る。投与は、公知の方法によって実行され得、核酸は、インビトロまたはインビボで所望の標的細胞へ導入される。一般的に使用される遺伝子移入技術は、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、電気穿孔法およびマイクロインジェクション、ならびにウィルス法を含む(Graham, F. L. and van der Eb, A. J. (1973) Virol. 52, 456; McCutchan, J. H. and Pagano, J. S. (1968), J. Natl. Cancer Inst. 41, 351; Chu, G. et al (1987), Nucl. Acids Res. 15, 1311; Fraley, R. et al. (1980), J. Biol. Chem. 255, 10431; Capecchi, M. R. (1980), Cell 22, 479)。細胞への核酸の導入に対するさらなる技術は、陽イオン性リポソームの使用である(Feigner, P. L. et al. (1987), Proc. Natl. Acad. Sci USA 84, 7413)。市販されている陽イオン性脂質製剤は、例えば、Tfx 50(Promega)またはLipofectamin2000(Life Technologies)である。一つの局面において、複数の核酸を、同じ標的に対して生成してもよい。
【0078】
したがって、本発明は、活性薬剤として上で記載される少なくとも一種類の核酸分子、抗体、および/または小分子、ならびに薬学的担体を含む薬学的組成物にも関する。組成物は、ヒトにおける診断的および治療的適用に対して使用され得る。
【0079】
診断的または治療的適用に対して、治療的薬剤/組成物は、例えば注射可能な溶液などの溶液、クリーム、軟膏、錠剤、および懸濁剤などの形式であり得る。組成物は、例えば、注射によって、経口、局所、鼻、および直腸適用などによって、任意の適した方式で投与され得る。担体は、任意の適した薬学的担体であり得る。一つの局面において、標的細胞に入る薬剤/組成物の効力を増加させることが可能である担体が使用される。そのような担体の適した例は、陽イオン性リポソームを含むリポソームである。別の局面において、投与は、注射によって実行される。
【0080】
一つの態様において、細胞におけるSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の存在を決定するための診断的方法であって、SEQ ID NO:2をコードするヌクレオチドと特異的に相互作用する薬剤またはSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質と特異的に相互作用する薬剤を試料と接触させる段階、および薬剤と核酸またはペプチドとの間の相互作用を検出する段階を含む方法が開示され、ここで、相互作用の検出が、試料におけるKIAA1363の存在を示す。一つの局面において、薬剤は、抗体である。薬剤相互作用は、抗体に共有結合または非共有結合している部分を認識するリガンドをさらに含む。例えば、抗体は、ビオチン部分で標識され得、次いで、試薬は、ストレプトアビジンを含むと考えられる。この目的に対して有用なその他のリガンドが、当技術分野において公知である。
【0081】
本発明の抗体に対して適した標識が、以下で提供される。適した酵素標識の例は、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、δ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母-アルコールデヒドロゲナーゼ、α-グリセロールリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼを含む。
【0082】
適したラジオアイソトープ標識の例は、3H、111In、125I、131I、32P、35S、14C、51Cr、57To、58Co、59Fe、75Se、152Eu、90Y、67Cu、217Ci、211At、212Pb、47Sc、および109Pdなどを含む。
【0083】
適した非放射性アイソトープ標識の例は、157Gd、55Mn、162Dy、52Tr、および56Feを含む。
【0084】
適した蛍光標識の例は、152Eu標識、フルオレセイン標識、イソチオシアネート標識、ローダミン標識、フィコエリスリン標識、フィコシアニン標識、アロフィコシアニン標識、o-フタアルデヒド標識、およびフルオレサミン標識を含む。
【0085】
適した毒素標識の例は、ジフテリア毒素、リシン、およびコレラ毒素を含む。
【0086】
化学発光標識の例は、ルミナル標識、イソルミナル標識、芳香族アクリジニウムエステル標識、イミダゾール標識、アクリジニウム塩標識、シュウ酸エステル標識、ルシフェリン標識、ルシフェラーゼ標識、およびエクオリン標識を含む。
【0087】
核磁気共鳴造影剤の例は、Gd、Mn、および鉄などの重金属核を含む。
【0088】
上記標識を抗体に連結するための典型的な技術は、当技術分野において公知であるグルタルアルデヒド、過ヨウ素酸塩、ジマレイミド、m-マレイミドベンジル-N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルの使用を含む。
【0089】
一つの局面において、診断は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)、または免疫蛍光アッセイ(IFA)などの免疫診断法を含み得る。
【0090】
ELISAに対して、標識としてポリペプチドに連結される典型的に使用される酵素は、ホースラディッシュペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼなどを含む。これらの酵素の各々は、発色試薬またはそれぞれ過酸化水素およびo-フェニレンジアミン;およびp-ニトロフェニルリン酸などの試薬(基質)とともに使用される。あるいは、ポリペプチドに連結されたビオチンを、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどのシグナル伝達手段に連結されているアビジンと連動して免疫反応物の存在をシグナル伝達するための標識として利用してもよい。
【0091】
別の態様において、SEQ ID NO:2をコードするヌクレオチドと特異的に相互作用する一つもしくは複数の薬剤またはSEQ ID NO:2に示されるアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質と特異的に相互作用する一つもしくは複数の薬剤と生物学的試料とを接触させるためのデバイス、一つまたは複数の薬剤の使用に対する手順を提供する取扱説明書、ならびに一つまたは複数の薬剤および取扱説明書を収納する容器を含むキットが開示される。一つの局面において、デバイスは、芯、スワブ、多孔性媒体、毛細管、シリンジ、およびピペットを含むが、それらに限定されない。関連する局面において、デバイスは、固定相を含み得、試料は、そのようなデバイスを介して浸透する移動相としての役目を果たす。
【0092】
別の局面において、薬剤は、タンパク質、核酸、または小分子である。関連する局面において、小分子は、一般式:

のものである。
【0093】
上に列挙された、可能性のある診断的キットの構成要素に加えて、キットは、必要に応じて、陽性標準試料、陰性標準試料、希釈剤、洗浄溶液、およびバッファーを含み得る。
【0094】
ここで、本発明は、非限定的な以下の実施例への参照により、より詳細に記載される。
【0095】
実施例
一般的な手順および方法
FP-KIAA1363の単離は、以前に記載されているように、ビオチン化FPおよびアビジンに基づく親和性精製手順を使用して達成された(Kidd, et al., Biochemistry 40, 4005-15, 2000)。アビジン濃縮FP標識化タンパク質を、SDS-PAGEによって分離し、タンパク質バンドを切り取り、トリプシンで分解し、結果として生じたペプチドを、マトリクス支援レーザー離脱質量分析法(MS) [Voyager-Elite time-of-flight MS instrument (PerSeptive Biosystems)]とマイクロキャピラリー液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレータンデムMS(Finnigan LCQ MSと組み合わせられたAgilent 1100 HPLC)との組み合わせによって解析した。
【0096】
タンパク質バンドのゲル片を、いくつかの小さな片に切り、MeOHで脱色し、30%アセトニトリルにおける100 mM重炭酸アンモニウムで数回洗浄し、次いで、pH 8、37℃で一晩、3 mMトリス-HClにおけるトリプシン(100 ng)で分解した。トリプシンペプチドを、50%アセトニトリル/0.1%TFAを使用してゲルから抽出し、10μlに濃縮し、Nano-LCMSに供して解析した。
【0097】
ナノ-キャピラリーHPLC-タンデム質量分析法(MS/MS)
ナノ-LCMS/MS実験は、Agilent 1100キャピラリーHPLC/Micro Auto-sampler(Agilent Technologies, Palo Alto, Calif.)とFinnigan LCQ DecaXPイオントラップ質量分析計(Finnigan, San Jose, Calif.)との組み合わせシステム上で行われた。
【0098】
LC分離
3μlの分解試料を、3μlの5%酢酸と混合し、100μm融合シリカキャピラリーC18カラムにロードした。分解試料におけるトリプシンペプチドを分離するために、5〜95%溶媒Bの60分勾配(A:H2O/0.1%ギ酸、B:MeCN/0.08%ギ酸)および500 nl/分カラム流速を使用した。カラムから溶出したペプチドを、解析するためにLCQ DecaXP質量分析計へ直接注入した。
【0099】
質量分析法
質量分析計中の加熱された脱溶媒和キャピラリーを、200℃に保持し、スプレー電圧を、2.0 kVにセットし、キャピラリー電圧を、30 Vにセットした。実験の間、質量分析計をMSとMS/MSモードとを交互に行うようにセットした。MSに対するスキャン範囲を、m/z 400〜1600にセットした。MS/MSスペクトルを、初期最小MSシグナル2×105カウントでのおよび標準化衝突エネルギー35%で依存スキャンモードにおいて取得した。MS/MSに対するスキャン範囲は、前駆イオンに応じて、80〜2000で変化する。
【0100】
タンパク質の同定
ナノ-LCMS/MS実験によって生成されたイオン質量および断片化情報を、タンパク質同定ソフトウェアであるTurboSEQUESTを用いて解析しかつペプチド質量および配列情報へ変換した。このプログラムを用いて、スペクトルからのその情報を用いてタンパク質について検索し、次いで、タンパク質を同定した。
【0101】
癌細胞浸潤性に対するマーカーとしての膜関連セリンヒドロラーゼKIAA1363の特徴付け
浸潤性癌系におけるKIAA1363の上方制御は、この酵素が、腫瘍進行の新しいマーカーならびに治療様式に対する標的を示す可能性があることを示唆した。これらの概念と一致して、データベース検索から、KIAA1363をコードする遺伝子が、進行期卵巣腫瘍のほぼ50%を含む様々な悪性癌において高度に増幅された染色体領域である3q26に局在していることが明らかになった。KIAA1363活性と癌細胞浸潤性との間の関係をさらに探索するために、この酵素の活性のレベルを、ヒト卵巣癌系のパネル全体にわたって決定し、これらの値を浸潤性の測定値と相関させた。
【0102】
包括的な遺伝子発現プロファイルに基づいて別個のクラスタ−を形成するにもかかわらず、浸潤性を含むそれらの細胞生物学的特性の観点から相対的に特徴付けられていない4つの卵巣癌系の群を選択した。乳癌(図12A)およびメラノーマ(図12B)系において活性KIAA1363のレベルと細胞浸潤性のレベルとの間で観察された強い正の相関は、卵巣癌系(図12C)に直接的に広がった。具体的に、高浸潤性を示した2つの卵巣癌系(OVCAR-5、SKOV-3)は、2つの非浸潤性卵巣癌系(OVCAR-3、OVCAR-4)より5〜25倍高いレベルの活性KIAA1363を示すことが見出された。したがって、膜関連酵素KIAA1363の活性レベルは、この細胞表現型が包括的な遺伝子発現プロファイルのレベルで反映されなかったケースにおいてさえも、3つの違ったタイプの癌に由来する細胞系の浸潤性における顕著な差と相関した。
【0103】
SAEのFP-ローダミンとの反応性は、エステル化シアル酸基を加水分解する酵素の能力と合わせて、KIAA1363が、セリンヒドロラーゼスーパーファミリーのメンバーであることを示唆した。
【0104】
C17:0リゾホスファチジン酸(LPA)、C16:0 2-アセチルMAGE、PAF、およびホスファチジルコリンを、Avanti Lipidsから購入した。C15:0モノアシルグリセロール(MAG)を、Larodan(Sweden)から購入した。FP-ローダミンを、公知の手順に従って合成した。13C-C16:0 MAGEの合成および13C-C16:0 2-アセチルMAGEを生成するための標的アセチル化も、公知なように実行した。問題になっている活性タンパク質のヒト構築物を、以下のプライマーを使用してPCRによって生成した。

および

。PCR産物を、BamHIおよびEcoRI制限部位を使用してpcDNA3.1+ベクター(Invitrogen)へサブクローニングした。
【0105】
癌細胞メタボロームの解析に対して、以下のLC-MS条件を使用した。細胞ペレットを擦り取りによって採取し、1,400×gでの遠心分離によって単離し、4 mLのクロロホルム:メタノール:トリスバッファー(50 mMトリス・HCl、pH 8.0)の2:1:1混合物中でダウンスホモジナイザーにかけた。標的LC-MSによって解析された試料を、以下の合成標準の存在下でホモジナイズした:C15:0 MAG(50 pmol)、C17:0 LPA(50 pmol)、および13C-C16:0 MAGE(25 pmol)。有機層および水層を、5分間1,260×gで遠心分離によって分離した。次いで、有機層を除去し、N2のストリーム下で乾燥し、100μLのクロロホルムに再可溶化し、そのうちの30μLを、LC-MSによって解析した。LPAの抽出は、残っている水層を5%ギ酸の最終濃度に酸性化し、続いて2 mLのクロロホルムを添加することによって行われた。混合物をボルテックスし、有機層を除去し、乾燥まで濃縮し、100μLのクロロホルムに溶解し、そのうちの30μLを、LC-MSによって解析した。
【0106】
LC-MS解析は、Agilent 1100 LC-MSD SL機器を使用して行われた。LC-分離は、プレカラム(C18、3.5μm、2 mm×20 mm)と一緒にPhenomonexからのGemini逆相C18カラム(5μm、4.6 mm×50 mm)を用いて達成された。移動相Aは、水:メタノールの95:5比から構成され、移動相Bは、60:35:5比における2-プロパノール、メタノール、および水からなった。それぞれ正および負イオン化モードの両方において、イオン形成を支援しならびにLC解像度を改善するために、0.1%ギ酸および0.1%水酸化アンモニウムなどの溶媒修飾因子を使用した。各々の実行に対する流速は、クロロホルムを注射することに関連する背圧を緩和するために、5分間0.1 mL/分で開始した。勾配は、0% Bで開始し、0.4 mL/分の流速で40分のコースにわたって100% Bまで直線的に増加し、0.5 mL/分の流速で0% Bで8分間平衡を保つ前に7分間100% Bのアイソクラティック勾配が続いた。
【0107】
MS解析は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を用いて行われた。キャピラリー電圧を3.0 kVにセットし、フラグメンター電圧を100Vにセットした。乾燥ガス温度は350℃であり、乾燥ガス流速は10 L/分であり、ネブライザー圧は35 psiであった。200〜1000 Daの質量範囲を使用して、非標的データを収集し、コンピューター解析のために一般的なデータフォーマット(.CDF)ファイルとしてエクスポートした。試料ペア間で異なって発現された代謝産物を、2つのLC-MSトレースから質量ピークを整列させ、包括的な代謝産物の相対強度を定量化するXCMS検体プロファイリングソフトウェア(http://metlin/download)を使用して同定した(5)。有意な阻害剤感受性ピーク変化は、全イオン電流に対して標準化されたピーク下のエリアを使用して手動の定量化によって確認された。標的LC-MS測定は、選択イオンモニタリング(SIM)を使用してなされた。ピーク下のエリアを測定することによって、ピークを定量化し、内部標準(C15:0 MAG)または内因性脂質(パルミチン酸)に対して標準化した。13C-MAGE標準との比較によって、絶対的MAGEレベルを推定した。
【0108】
実施例1.AS115の合成
本実施例は、以下に示される合成スキーム(V)に従って、阻害剤AS115を調製する一つの方式を示す。

【0109】
5 mLのCH2Cl2におけるアルコール1(200 mg、1 mmol、1当量)に、塩化トシル(285 mg、1.5 mmol、1.5当量)およびトリエチルアミン(287 mL、2 mmol、2当量)を添加した。反応を4℃で一晩攪拌し、次いで、飽和塩化アンモニウム、水、およびブラインで順次洗浄した。次いで、有機層を単離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。スキーム(V)で示される中間体2を、シリカゲルでのクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン、5:95 v/v)の後に透明な油として単離した(100 mg、28%収率)。
【0110】
次に、トシラート中間体2(100 mg、0.28 mmol、1当量)、BOC-エタノールアミン(137 mg、0.85 mmol、3当量)、およびCsCO3(299 mg、0.85 mmol、3当量)を、CH2Cl2(5 mL)において一晩還流した。反応物を、EtOAc(20 mL)で希釈し、水(20 mL)で洗浄した。次いで、有機層を単離し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。中間体3を、シリカゲルでのクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン、10:90 v/v)の後に透明な油として単離した(56 mg、60%収率)。
【0111】
次いで、最終産物AS115を、以下のように獲得した。メタノール(2 mL)におけるBOC-保護中間体3を、ジオキサン(2 mL)における4 M HCl溶液で2時間処理した。次いで、反応物を濃縮し、さらに1時間高真空下に置いた。次いで、アミンを飽和重炭酸ナトリウム(2 mL)およびCH2Cl2(2 mL)で溶解し、0℃に冷却しながら、激しく攪拌した。冷却したら、トルエン(250 mL)中の20%溶液としてのホスゲンを、有機層に添加し、溶液を、さらに15分間激しく攪拌した。混合物をCH2Cl2および水(それぞれ5 mL)で希釈し、水層から有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥した。次いで、イソシアネートを含む有機層を濃縮し、次の反応に進めた。トルエン(3 mL)における新鮮に調製されたイソシアネートに、2-フルオロフェノール(9.3 mL、0.10 mmol、0.95 eq)およびトリエチルアミン(30 mL、0.22 mmol、2 eq)を添加した。混合物を、80℃で一晩攪拌した。次いで、反応を濃縮し、フラッシュクロマトグラフィー(EtOAc:ヘキサン、15:85 v/v)によって直接的に精製し、無色油としてAS115を得た(26 mg、すべての段階に対して69%)。
【0112】
最終産物AS115は、以下のように特徴付けられた。

【0113】
実施例2.癌細胞における活性タンパク質のインサイチュー阻害
ヒト卵巣癌細胞系を、National Cancer Institute's Developmental Therapeutics Programから獲得した。メラノーマ系C8161およびMUM-2Bを、Mary Hendrixから獲得した。細胞を、5%CO2/95%空気の加湿雰囲気中で37℃で、10%(v/v)ウシ胎仔血清を含むRPMI培地1640において維持した。およそ80%コンフルエントになったところで、細胞をトリプシン処理し、血球計によりカウントし、2.5×106細胞を、6 cmディッシュにプレーティングした。プレーティングした20時間後に、細胞をPBSで2回洗浄し、0.1%でAS115(0.01〜10μM)または賦形剤(DMSO)をともなう0.5%BSAを含む無血清RPMI(Sigma)(BSA-RPMI)で補給した。4時間のインキュベーションの後に、細胞を採取し、ABPPまたはLC-MSによって解析した。
【0114】
培養物においてAS115(0〜10μM)で処理されたSKOV-3細胞に由来するFP-標識化プロテオームのゲル内蛍光スキャニングは、PNGアーゼFでの処理の際に単一の40 kDaタンパク質へ変換される43および45 kDaグリコシル化二重項としてSDS-PAGEによって移動する活性タンパク質の選択的不活性化を明らかにした。図1によって示されるように、阻害剤AS115は、150 nMのIC50値を示し、その他のセリンヒドロラーゼ活性は、この薬剤によって影響を受けなかった(IC50値>10μM)。阻害剤AS115は、活性タンパク質を、この酵素を高いレベルで保有するメラノーマ系C8161およびMUM-2Bを含むその他の侵襲性癌細胞系においても、選択的に阻害した。
【0115】
実施例3.活性タンパク質によって制御される内因性小分子の同定
これらの実験は、比較メタボロミクスのための非標的液体クロマトグラフィー-質量分析法(LC-MS)の方法を使用して行われた。細胞を、AS115(10μM)またはDMSOで4時間処理し、非標的LC-MS法によって解析した。AS115は、図2Aによって示されるように、SKOV-3細胞における親油性代謝産物の特定のセット(m/z 317、345、および347)のレベルにおける実質的な低下を引き起こすことが見出された。相対質量シグナルは、表1において示され、3つの独立の実験に対する平均値および標準誤差として示される。AS115処理の結果として、MAGEのみが、レベルにおいて有意に変化することが見出された(p<0.001)。
【0116】
(表1)DMSOおよびAS115で処理したSKOV-3細胞における、代表的な脂質代謝産物に対する相対質量シグナル



【0117】
活性タンパク質によって制御される、上記で考察されたm/z 317、345、および347代謝産物は、遊離脂肪酸、リン脂質、セラミド、およびモノアシルグリセリドを含む細胞において見出された典型的な脂質種のいずれにも対応せず、そのいずれも、AS115処理によって有意に変化しなかった。
【0118】
m/z 317代謝産物の高精度MSは、図2Bによって示されるように、分子式C19H40O3を提供し、この化合物が、C16:0アルキル鎖を有するモノアルキルグリセロールエーテル(C16:0 MAGE)を示す可能性があることを示唆した。この構造帰属は、タンデムMSおよびLC解析によって裏付けられ、図3Aおよび3Bによって示されるように、内因性m/z 317産物および合成C16:0 MAGEは、それぞれ同等の断片化および移動パターンを示した。図3Aおよび3Bによって示されるデータは、SKOV-3細胞抽出物から精製された内因性C16:0 MAGEに対するものである。内因性および合成C16:0 MAGE試料は、(断片化を強化するために硫酸誘導体化産物を用いて生成された)同等のMS断片化パターンを示し、LCによって共に移動した。
【0119】
伸長により、m/z 345および347代謝産物は、それぞれC18:1およびC18:0 MAGEを示すと解釈された。表2において示されるように、標的LC-MS解析は、SKOV-3細胞におけるMAGEの絶対的レベルの推定値を提供し、C16:0種が、この脂質ファミリーの最も豊富なメンバーであることを明らかにした。13C-C16:0 MAGE内部標準を使用してAS115(5μM)またはDMSOで4時間処理されたSKOV-3細胞の標的LC-MS解析によって、MAGEレベルを測定した。値は、pmol/106細胞として示される。結果は、3つの独立した実験に対する平均値および標準誤差を示す。
【0120】
(表2)SKOV-3細胞におけるMAGE脂質の絶対的レベル

*) AS115で処理した試料対DMSOで処理した試料に対してp<0.01
【0121】
MAGE脂質は、図4によって示されるように、AS115での処理に続いて、C8161およびMUM-2Bメラノーマ細胞においても有意に低下した。対照的に、その他の加水分解酵素を標的にするが活性タンパク質を標的にしない対照カルバメート阻害剤URB597は、癌細胞におけるMAGEレベルに影響を及ぼさなかった(図4)。図4において、白い棒は、阻害剤で処理した試料を表し、黒い棒は、DMSOで処理した試料を表し、p<0.01である。この結果は、3つの独立した実験に対する平均値および標準誤差を示す。図4から見ることができるように、AS115は、DMSO対照と比較して、卵巣(SKOV-3)およびメラノーマ(MUM-2B、C8161)癌系の両方においてMAGE脂質のレベルを有意に下げたが、URB597は下げなかった。
【0122】
実施例4.癌細胞プロテオームのABPP解析
細胞を、2回洗浄し、氷冷PBSにおいて擦り取った。1,400×gで3分間遠心分離することによって細胞ペレットを単離し、トリスバッファーにおいてダウンスホモジナイザーにかけた。膜プロテオームを、100,000×gで4℃で遠心分離によって単離し、可溶性画分および粒子画分(ペレット)を提供した。ペレットを洗浄し、超音波処理によってトリスバッファーに再懸濁し、膜画分を提供した。プロテオームタンパク質濃度を、タンパク質アッセイキット(Bio-Rad)によって決定し、トリスバッファーにおいて1 mg/mLの最終濃度に調整し、2μM FP-ローダミンで室温で30分間処理した(50μL全反応容積)。標識化の後、各々の試料の一部を、PNGアーゼF(New England Biolabs)で処理し、脱グリコシル化プロテオームを提供した。反応を1容量の標準2×SDS/PAGEローディングバッファー(還元)でクエンチさせ、SDS/PAGE(10%アクリルアミド)によって分離し、Hitachi FMBio IIeフラットベッド蛍光スキャナー(MiraiBio)を用いてゲル内で可視化した。総バンド強度を、標識化タンパク質について計算し、3つの独立した細胞試料から平均化し、各々の酵素活性のレベルを決定した。IC50値を、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用して各々の阻害剤濃度での3つのトライアルからの用量応答曲線から決定し、95%信頼区間を有する値を獲得した。
【0123】
実施例5.2-アセチルMAGEヒドロラーゼとしての活性タンパク質の特徴付け
問題になっている酵素を、COS7細胞へ一過性トランスフェクトし、そのようにトランスフェクトされた細胞は、図5Aによって示されるように、モックトランスフェクト細胞と比較して、有意に高い2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性を保有し、この活性の増加は、AS115による処理によってブロックされた(p<0.01)。図5Aから見られるように、pcDNA3発現ベクターにおける活性タンパク質のcDNAを一過性トランスフェクトされたCOS7細胞は、モックトランスフェクト(空のpcDNA3ベクターをトランスフェクトされた)細胞と比較して、有意に大きい2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性を示した。AS115(10μM)での前処理は、活性タンパク質-トランスフェクト細胞の加水分解活性をブロックした。対照的に、活性タンパク質-およびモック-トランスフェクト細胞は、2-オレオイルMAGE、モノアシルグリセロール、またはリン脂質(例えば、血小板活性化因子(PAF)、ホスファチジルコリン)に対するそれらのそれぞれの加水分解活性における差を示さなかった(図6Aを参照されたい)。
【0124】
実施例6.C16:0 MAGEの予備HPLC精製
培養SKOV-3細胞(〜4×107細胞)の大規模調製物を、10×15 cmディッシュにプレーティングし、無血清培地において48時間インキュベートした。細胞ペレットを、上で記載されるように単離し、8 mLのクロロホルム:メタノール:トリスバッファーの2:1:1混合物においてホモジナイズした。有機層を除去し、N2のストリーム下で乾燥し、200μLのクロロホルムにおいて再可溶化した。Phenomonexからのセミ調製C18逆相カラム(5μm、10 mm×50 mm)を備えたHitachi L-7150 HPLCシステムを使用して、代謝産物抽出物をLC精製した。
【0125】
Gilson FC 203Bフラクションコレクターを使用して、1分あたり1つ、画分を収集した。317代謝産物を含む画分を、MS解析によって同定し、収集し、クロロホルムで抽出し、乾燥まで濃縮し、次いで、正確な質量解析のために、残留物を最小量の溶媒B(200〜300μL)に溶解した。
【0126】
実施例7.13C-2-アセチルMAGEおよび13C-MAGEによるSKOV-3細胞の代謝標識
上で記載されるように、細胞を培養し、維持した。13C-2-アセチルMAGE実験に対して使用された細胞を、阻害剤または賦形剤を含むBSA-RPMI中で30分間インキュベートした。次いで、BSA-RPMI培地を除去し、10μM 13C-2-アセチルMAGEまたはDMSOを添加し、細胞に再び適用した。1時間のインキュベーションの後、細胞を採取し、メタボロームをLC-MSによって解析した。13C-MAGE実験は、PBSでの洗浄の直後に、BSA-RPMIを含む13C-MAGEまたはDMSOを添加することによって実施された。次いで、細胞を4時間インキュベートし、採取し、LC-MSによって解析した。
【0127】
実施例8.フーリエ変換質量分析法(FTMS)実験
Apolloエレクトロスプレー源を備えたBruker(Billerica, MA)APEX III(4.7 T)FTMS機器を使用して、陽イオンモードで高精度測定を行った。収集されたLC画分を、小分子標準の収集物と混合し、Harvard Apparatus(Holliston, MA)シリンジポンプを使用して3μL/分で直接注入した。最適な流速の加熱向流乾燥ガス(300℃)とともに、背圧60 psiの空気式アシストを使用した。イオン蓄積は、パルスガストラッピングをともなわないSideKickを使用して行われた。およそ17分のデータ取得時間が使用され、200〜2200のm/z範囲における広帯域においてm/z 446で約130000の分解能を生じた。小分子標準の混合物によって生成されたイオンについて計算された分子質量を、データを内部でキャリブレートするために使用した。
【0128】
実施例9.C16:0 MAGEのスルホン化
磁気攪拌棒を有する4 mLバイアルに、4:1ジメチルホルムアミドおよびピリジン中の内因性HPLC精製C16:0 MAGEまたは合成標準(Sigma)および1%(w/v)三酸化硫黄を添加した。この混合物を、2時間70℃で攪拌した。次いで、反応混合物を、窒素のストリーム下で乾燥まで濃縮し、その後真空下に1時間置き、次いで、MS/MS解析のために、残留物を最小量のメタノールに溶解した。
【0129】
実施例10.タンデムMS実験
Z-スプレーエレクトロスプレー源およびロックマススプレーヤー(lockmass sprayer)を備えたMicromass QTof-Micro(商標)(Manchester, U.K.)機器を使用して、陰イオンモードでMS/MS実験を行った。源の温度を、150 L/時間のコーンガス流により110℃に、脱溶媒和ガス温度を365℃に、かつ噴霧化ガス流速を350 L/時間に設定した。キャピラリー電圧を、3.2 kVに、コーン電圧を30 Vにセットした。衝突エネルギーを、15〜35 Vにセットした。試料を、Harvard Apparatusシリンジポンプを使用して4μL/分で直接注入した。2分の取得時間の間、m/z 70〜450のスキャン範囲にわたってセントロイドモードでMS/MSデータを収集した。
【0130】
実施例11.脂質基質を用いた酵素活性アッセイ
膜および可溶性プロテオームを、トリスバッファー中0.25 mg/mLに調整し、AS115(10μM)またはDMSOと共に15分間プレインキュベートした。脂質基質(2-アセチルMAGE、2-オレオイルMAGE、ホスファチジルコリン、PAF)を、様々な量の時間(5〜40分間)、100μLのプロテオーム中、室温で100μMでアッセイし、その後、200μLのクロロホルムおよび50μLメタノールによって反応をクエンチさせた。脂質基質および産物を、有機層へ抽出し、乾燥まで濃縮し、LC-MS解析の前に300μLのクロロホルムに再可溶化した。MS設定、カラム、および移動相は、上で記載されているものと同様であった。加水分解産物を、精製産物を用いて生成された標準曲線と比較して、ピーク下のエリアを測定することによって定量化した。特定の活性を、酵素反応の直線相(すなわち、20%未満の観察された産物)の間に決定した。薄層クロマトグラフィーアッセイを使用して、14C-オレイン酸への変換に続く14C-標識化2-オレオイルグリセロール基質を使用して、モノアシルグリセロール加水分解を測定した。組換えKIAA1363を用いて行われる酵素アッセイのために、公知の方法に従って、COS7細胞に、哺乳類発現ベクターpcDNA3におけるヒトKIAA1363 cDNAを一過性トランスフェクトした。
【0131】
実施例12.活性タンパク質のQクロマトグラフィー濃縮
上で記載されるように細胞膜を単離し、1%Triton X-100を含むトリスバッファー中、4℃で1時間回転させることによって可溶化した。100,000×gで45分間遠心分離することによって、界面活性剤に不溶なタンパク質を除去した。Triton-可溶化プロテオームを、最終タンパク質濃度1 mg/mLに調整し、0.5 mL/分の流速で0〜1 M NaClの10分直線勾配を使用するQ セファロース HPカラム(Amersham Pharmacia Biotech)で0.1%Triton X-100をともなうトリスバッファー中で陰イオン-交換クロマトグラフィーに供した。上で記載されるように、画分をプールし、2-アセチルMAGE加水分解活性に対して試験し、FP-ローダミンによって解析した。
【0132】
実施例13.抗活性タンパク質ポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロット法
BamHIおよびEcoRI制限部位を使用してpGEX4T-3融合ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)へヒト活性タンパク質をサブクローニングすることによって、KIAA1363-GST融合タンパク質を生成した。製造業者の推奨(Amersham Pharmacia Biotech)に従って大腸菌(E. coli)BL21株において発現され、RIBIアジュバント(Corixa)と共に投与されたKIAA1363-GST融合タンパク質に対して、ウサギポリクローナル抗体を産生した。以前に記載されているように(7)、第一にウサギ抗血清からGST-交差反応性抗体を枯渇させ、続いて残っている血清からのKIAA1363-GST反応性抗体の単離によって、抗KIAA1363抗体の親和性精製を実施した。公知の抗KIAA1363ポリクローナル抗体を用いて、ウェスタンブロット解析を行った。
【0133】
実施例14.異種移植片腫瘍由来SKOV-3系の調製
公知の手順に従って、インビボ由来SKOV-3系を確立した。手短に言うと、マウス側腹において成長した十分に確立されたSKOV-3異種移植片腫瘍を、無菌的に取り出し、剃刀刃で細かく刻んだ;完全培地を有する組織培養フラスコへ腫瘍片を移した。4日間の培養後に、豊富な接着性腫瘍細胞が可視になった時、浮遊している腫瘍細片を除去した。次いで、接着細胞を、増殖可能な細胞集団を構成するために増殖させた。
【0134】
実施例15.ヒト癌細胞系におけるRNA干渉の研究
免疫不全マウスにおけるインビボ継代によって単離されたSKOV3系の変異体を使用して、RNA干渉研究を実施した。このインビボ由来SKOV3系は、当業者に公知であるように、親系と比較してインビボで強化された腫瘍形成能を示した。低分子ヘアピンRNA構築物を、pLP-RetroQアクセプターシステムへサブクローニングし、AmphoPackTM - 293細胞系(Clontech)を使用してレトロウィルスを生成した。利用されたヘアピンオリゴヌクレオチドは、
KIAA1363に対して、

DPPIVに対して

であった。Clontechから購入した有効なオリゴヌクレオチド配列を使用して、tPaに対してpLP-RetroQベクターを作成した。24〜72時間からウィルス含有上清を収集し、超遠心分離によって、SKOV-3細胞に安定的に感染するために使用される10μg/mlポリブレンの存在下で48時間濃縮した。レトロウィルスベクターがこの選択マーカーを含むため、感染後、1μg/mlのピューロマイシンを含む培地における3日間の選択が続いた。感染SKOV-3細胞を増殖し、ABPPによって酵素活性の損失について試験した。
【0135】
実施例16.腫瘍の異種移植片の研究
癌細胞系をC.B17 SCIDマウス(Taconic Farms)の側腹(SKOV-3)または乳腺脂肪体(231mfp)へ異所的に移植することによって、ヒト癌異種移植片を確立した。手短に言うと、細胞をPBSで2回洗浄し、トリプシン処理し、血清を含む培地に再懸濁した。次に、採取された細胞を無血清培地で2回洗浄し、4.4×104細胞/μl(または231mfp細胞に対して1.0×104細胞/μL)の濃度で再懸濁し、100μlを注入した。キャリパーで3日おきに腫瘍の成長を測定した。
【0136】
実施例17.細胞移動アッセイ
移動アッセイは、10μg/mlコラーゲンでコーティングされた8μMポアサイズ膜を有するトランスウェルチャンバー(Corning)に中で4℃で一晩行われた。移動アッセイの開始の24時間前に、癌細胞系を10 cmディッシュあたり2.25×106細胞の濃度でプレーティングした。移動アッセイの開始の時に、PBSで2回洗浄することによって細胞を採取し、次いで、0.05%BSAを含む培地において4時間血清飢餓にした。血清飢餓細胞をトリプシン処理し、3分間1400 rpmでスピンし、再懸濁し、カウントした。0.05%BSAを含む培地において100,000細胞/mlの密度に細胞を希釈し、次いで、250μlをトランスウェルの上部チャンバーに置いた。0.05%BSAを含む培地におけるDMSO、アルキルLPA(10 nM)、アルキルLPC(10〜1000 nM)、またはMAGE(10〜1000 nM)を、下部チャンバーに添加し、細胞を18時間移動させた。次いで、フィルターを固定し、Diff-Quik(Dade Behring)で染色した。チャンバーを介して移動しなかった細胞を、コットンボールで除去した。移動した細胞を、40倍の倍率でカウントし、各々の移動チャンバーから、6つのフィールドを独立にカウントした。
【0137】
実施例18.細胞増殖アッセイ
癌細胞系を、10 cmディッシュあたり6.4×105、3.2×105、1.6×105、8×104細胞の濃度で3回プレーティングした。次いで、プレーティングした2、4、6、および8日後に、トリパンブルー(Sigma)でカウントした。
【0138】
実施例19.インビボでの腫瘍成長の障害の判定
活性タンパク質の安定なノックダウンがインビボで腫瘍成長を妨げるかどうかを判定するために、SKOV-3系が利用され得る。活性タンパク質の発現が低分子ヘアピンRNA(shRNA)媒介干渉ベクター(shKIAA1363細胞)によって選択的にかつ安定的に低下したSKOV-3系を生成した。独特の加水分解酵素[ジペプチジルペプチダーゼIV(DPPIV)]が特異的なshRNAプローブによってノックダウンされたさらなる対照系(sh対照)も生成した。
【0139】
shKIAA1363細胞は、対照細胞(sh対照または親SKOV-3細胞)と比較して、この酵素のおよそ70〜75%低下を示し(図8A)、2-アセチルMAGEヒドロラーゼ活性(図8B)ならびにMAGE、アルキル-LPC、およびアルキル-LPA脂質のレベル(図8C)における同様の規模の低下と相関した。ゲルに基づくABPPによって判断されるように、その他の加水分解酵素のレベルは、shKIAA1363細胞において影響を受けなかった。図8において、p<0.01であり、結果は、3つの独立した実験に対する平均値±標準誤差を示す。
【0140】
次に、shKIAA1363および対照SKOV-3細胞を、免疫不全マウスへの皮下注射によって、それらの腫瘍成長能について比較した。shKIAA1363 SKOV-3細胞は、sh対照細胞または親SKOV-3系と比較して、腫瘍成長速度の有意な低下を示した(図9A)。活性タンパク質のshRNA媒介ノックダウンは、侵襲性乳癌系MDA-MB-231においても行われ、これらの細胞におけるMAGEおよびリゾリン脂質レベルの低下ならびにインビボでの腫瘍成長の妨害を引き起こした(図10)。
【0141】
shKIAA1363細胞の腫瘍形成可能性の低下は、インビトロでの増殖可能性の変化に関連しなかった(図11)。しかしながら、shKIAA1363細胞は、対照細胞と比較して、それらのインビトロ移動能において妨げられた(図9B)。活性タンパク質によって制御される脂質のいずれかが、癌細胞移動に寄与する可能性があるかどうかを識別するために、shKIAA1363細胞に対するこれらの化合物の薬理学的効果を試験した。MAGEもアルキル-LPCも、1μMまでの濃度で癌細胞移動に影響を与えなかった(図9B)。対照的に、アルキル-LPA(10 nM)は、shKIAA1363細胞の移動活性の低下を完全に救出した。
【0142】
実施例20.基質に基づくアッセイ
ヒト胎児腎臓細胞(293T)またはサル腎臓(COS-7)細胞などのSV-40 T抗体を発現する宿主細胞系に、KIAA1363を含むpFLAG-CMV6c(Sigma)構築物を一過性トランスフェクトした。pFLAG-CMV4などのその他の構築物を使用してもよいことに注意されたい。これらは、KIAA1363のN末端FLAG標識をもたらす。6×hisなどの代わりのN末端タグを使用してもよい。同様に、トランスフェクト細胞の抗生物質選択によって安定な細胞系を確立してもよい。
【0143】
トランスフェクションの48時間後に、pFLAG-CMV6cにおけるKIAA1363をトランスフェクトされた293TまたはCOS-7細胞を採取し、ダウンスホモジナイゼーションおよび超音波処理によって50 mMトリスバッファーpH 7.4に細胞を溶解した。溶解物を、4℃で1時間、100,000×gで超遠心分離に供した。超音波処理によって50 mMトリスバッファーpH 7.4にペレットを再懸濁し、4℃で1時間、100,000×gで再度遠心することによって、膜画分を洗浄した。
【0144】
膜ペレットを、超音波処理によって50 mMトリスバッファーpH 7.4に再懸濁した。膜画分のタンパク質内容物を決定し、5 mM CHAPS界面活性剤を含む50 mMトリスバッファーpH 7.4中で0.5 mg/mlに調整した。
【0145】
基質に基づく酵素活性アッセイに対して、KIAA1363-トランスフェクト細胞系を使用した。膜プロテオームを、5 mM CHAPS界面活性剤を含む50 mMトリスpH 7.4バッファーにおいて0.5 mg/mlに調整した。アッセイの直前に、アッセイバッファーを調製するために、5,5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB、Sigma)を0.5 mMで膜プロテオームに添加した。阻害剤の解析に対して、DMSOにおける1μlの50×阻害剤溶液を、48μlのアッセイバッファーに添加し、室温で20分間プレインキュベートした。窒素下で元の溶媒を蒸発させ、残留物をDMSOに再溶解することによって、基質2-チオアセチルMAGE(Cayman Chemical)を調製した。アッセイを始めるために、1μlの5 mM 2-チオアセチルMAGEストックを、各々のアッセイウェルに添加した。吸光度は、A405nmで測定される。
【0146】
20μM AS-115でのプレインキュベーションは、非トランスフェクト293T細胞膜のレベルまでKIAA1363活性を完全に阻害する(図13)。AS-115によって阻害されない膜プロテオームにおけるバックグラウンド2-チオアセチルMAGE加水分解活性は、広範なセリンプロテアーゼ阻害剤PMSFによって阻害される(図14)。AS-115のIC50を、Flag-KIAA1363/293T細胞膜プロテオームを用いた2-チオアセチルMAGE基質に基づくアッセイを使用して測定した(図15)。
【0147】
本発明は、上記の実施例を参照して記載されているが、改変およびバリエーションが、本発明の精神および範囲内に包含されることが理解されると考えられる。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤と被験体とを接触させる段階;ならびに
(b)以下の一つまたは複数に対する薬剤の効果を判定する段階
(i)細胞移動、
(ii)細胞成長、
(iii)癌細胞増殖、
(iv)転写因子Fra-1の発現、および/または
(v)インビボでの腫瘍成長
を含む、細胞内の脂質シグナル伝達経路を調節することによって癌を処置するための方法であって、KIAA1363および/または少なくとも一種類のリゾリン脂質が細胞内で増加している場合、KIAA1363の活性または発現を負に調節することが、細胞移動および/もしくは細胞成長の低下、ならびに/または癌細胞増殖の低下、ならびに/または脂質シグナル伝達経路に関連するFra-1の発現の低下、ならびに/またはインビボでの腫瘍成長の低下と相関する、方法。
【請求項2】
脂質シグナル伝達経路が、少なくとも一種類のエーテル脂質に関与する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
PAFの合成に対する薬剤の効果を判定する段階をさらに含む方法であって、PAFの蓄積がエーテル脂質シグナル伝達経路に関連する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
少なくとも一種類のリゾリン脂質の合成に対する薬剤の効果を判定する段階をさらに含む方法であって、リゾリン脂質のレベルの低下が、エーテル脂質シグナル伝達経路に関連する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
薬剤が、KIAA1363活性の阻害剤であるか、または細胞におけるKIAA1363の発現を負に調節する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
薬剤がKIAA1363の阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
阻害剤がカルバメートである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
エーテル脂質が2-アセチルモノアルキルグリセロール(MAGE)である、請求項2記載の方法。
【請求項9】
リゾリン脂質がアルキル-LPCまたはアルキル-LPA脂質である、請求項3記載の方法。
【請求項10】
癌がメラノーマ、乳癌、および膵臓癌からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
(a)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤と細胞とを接触させる段階;および
(b)以下に対する薬剤の効果を判定する段階
(i)少なくとも一種類のエーテル脂質の合成、
(ii)細胞移動、
(iii)細胞成長
(iv)インビボでの腫瘍成長
を含む、細胞内の脂質シグナル伝達経路を調節する方法であって、KIAA1363および/または少なくとも一種類のエーテル脂質が細胞において増加している場合、KIAA1363の活性または発現を負に調節することが、脂質シグナル伝達経路に関連するリゾリン脂質、細胞移動、および/または細胞成長のレベルの低下と相関する、方法。
【請求項12】
阻害剤が、一般式:

を有するカルバメートである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
脂質シグナル伝達が、2-アセチルモノアルキルグリセロール(MAGE)である少なくとも一種類のエーテル脂質に関与する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
MAGEが、C16:0 MAGEである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
リゾリン脂質が、アルキル-LPCまたはアルキル-LPA脂質である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
(a)SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列をコードする核酸と細胞とを接触させる段階;
(b)第一の薬剤と段階(a)の細胞とを接触させる段階;
(c)該薬剤の存在下で各々の細胞について2-アセチルモノアルキルグリセロール(MAGE)またはその誘導体の加水分解の速度を決定する段階
を含む、KIAA1363の阻害剤を同定する方法であって、2-アセチルMAGE加水分解の速度が、第一の薬剤の存在下で低下する場合、その低下が、第一の薬剤の阻害効果を示す、方法。
【請求項17】
KIAA1363の発現を調節する第二の薬剤を細胞に形質導入する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
第二の薬剤を添加する段階をさらに含む方法であって、第一の薬剤がトリフルオロメチルケトン(TFMK)であり、かつ第二の薬剤がKIAA1363の活性部位へのアクセスに関して第一の薬剤と競合する、請求項16記載の方法。
【請求項19】
第二の薬剤が活性部位に共有結合する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
(a)KIAA1363を発現する細胞から膜プロテオームを単離する段階;
(b)KIAA1363による2-チオアセチルモノアルキルグリセロール(2-チオアセチルMAGE)の加水分解を可能にする条件下で、試験薬剤の存在下および非存在下で、膜プロテオームとチオール反応性蛍光試薬および2-チオアセチルMAGEとを接触させる段階;ならびに
(c)吸光度を決定する段階
を含む、KIAA1363の阻害剤を同定するための方法であって、試験薬剤の非存在下での吸光度と比較した、試験化合物の存在下での吸光の低下が、試験薬剤の阻害効果を示す方法。
【請求項21】
KIAA1363を発現する細胞が、KIAA1363をコードする核酸をトランスフェクトされた宿主細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
核酸が、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列をコードする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
チオール反応性蛍光試薬が、5,5'-ジチオビス-(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
それを必要としている被験体においてエーテル脂質シグナル伝達を調節することによって癌を処置するための方法であって、SEQ ID NO:2に示されるアミノ酸配列を含むKIAA1363の活性または発現を調節する薬剤の治療的有効量を該被験体に投与する段階、ならびに腫瘍サイズ、腫瘍進行、および/または平均余命に対する該薬剤の効果を判定する段階を含む、方法。
【請求項25】
被験体がヒトである、請求項25記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公表番号】特表2010−505868(P2010−505868A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531564(P2009−531564)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/080222
【国際公開番号】WO2008/063752
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(509093037)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (1)
【Fターム(参考)】