説明

オイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置

【課題】ロータリ圧縮機の運転中に軸部材、カーボンシール、およびカーボンシールを保持する保持部材等の温度が上昇しても、摺接部との最適なクリアランスを保持してシール部から漏れる圧縮ガスを極力抑えるとともに、潤滑油が圧縮室内へ流入することを防止して、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても漏れが少なく、清浄な圧縮ガスを吐出するオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置を提供すること。
【解決手段】エアシール71がロータ軸スリーブ75の外周に摺接するカーボンリング83と、該カーボンリング83の外周に嵌合するアウターリング85とからなり、カーボンリング83とアウターリング85とは使用時最大温度において締代がゼロにならないような締りばめによって嵌合されるとともに、アウターリング85がロータ軸スリーブ75と同等の線膨張係数の材料によって形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置に関し、より詳細には、ロータリ圧縮機の回転軸周囲からの圧縮空気の漏洩防止、もしくは圧縮機の外部からの潤滑油や空気等の流入防止のための封止シールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転軸の軸封装置として軸周囲にカーボン部材を摺接してシールするカーボンシールが知られており、例えば、特開平11−294599号公報(特許文献1)には、図5に示すようにハウジング01と該ハウジング01内で軸受02に支持された回転軸03との間を密封する回転軸の密封構造が示されている。
回転軸03の周囲を取り囲んだ状態でハウジング01にはブラケット04を介して環状のカーボンシール05が保持され、そのカーボンシール05は、軸受02の内輪06の端面07と一周にわたって当接しかつ端面07に対して摺動可能に配置されている。
【0003】
また、特開2005−54614号公報(特許文献2)には、カーボンシールをスクリュー圧縮機の軸封措置に適用した構造が示されている。
図6に示すように、雄ロータ010と雌ロータ011とが共に噛み合った状態でケーシング012内に収納され、雄ロータ010と雌ロータ011との各ロータの吐出側軸部は吐出側軸受013、013によってそれぞれ支持され、吸入側軸部は吸入側軸受014、014によってそれぞれ支持されている。そして吐出側軸受013と圧縮室015との間にはオイルシール016、およびカーボンシール017が設けられて圧縮室の圧縮空気の漏れ、および吐出側軸受013からの潤滑油の浸入を防止している。
【0004】
【特許文献1】特開平11−294599号公報
【特許文献2】特開2005−54614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カーボンシールはカーボン材料の靭性不足および形状保持のためにバックメタル、もしはアウターリング等の保持部材によってカーボン材料を外周から支持して、摺動面に適切な圧力、または微小隙間を形成するようにしなければならない。また、圧縮機の軸部においては、運転中の圧縮熱とシール部の摺動熱によって、シール部は高温になり、軸およびカーボンシールはともに熱膨張を生じる。
この熱膨張が生じるため、軸材料と、バックメタルやアウターリング等の保持部材との線膨張係数が大きく異なる材質で形成されていると、運転中のカーボンシールの摺接圧や隙間が適切な範囲に保持されず、カーボンシールの性能が十分に発揮されない問題が生じる。
【0006】
例えば、図5に示すようなカーボンシール05、それ支持するブラケット04、さらにカーボンシール05が摺接する軸受02の内輪06との線膨張係数が大きく異なる材質の場合には、温度変化によって軸受02の内輪06の端面への当接圧力が変化し、カーボンシール05の性能が十分に発揮されないおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、ロータリ圧縮機の運転中に軸部材、カーボンシール、およびカーボンシールを保持する保持部材等の温度が上昇しても、摺接部との最適なクリアランスを保持してシール部から漏れる圧縮ガスを極力抑えるとともに、潤滑油が圧縮室内へ流入することを防止して、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても漏れが少なく、清浄な圧縮ガスを吐出するオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、請求項1記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置にかかる発明は、オイルフリーロータリ圧縮機のロータ軸またはロータ軸スリーブの外周とロータ軸が挿入される軸孔の内周との間に介装される軸封装置において、
前記ロータ軸またはロータ軸スリーブの外周に摺接するカーボンリングと、該カーボンリングの外周に嵌合するアウターリングとからなり、前記カーボンリングと前記アウターリングとは使用時最大温度において締代がゼロにならないような締りばめによって嵌合されるとともに、前記アウターリングが前記ロータ軸またはロータ軸スリーブと同等の線膨張係数の材料によって形成されていることを特徴とする。
【0009】
カーボンリングの線膨張係数αcは、約7.0×10−6/℃であり、金属材料(鋼の線膨張係数αsは、約11.7×10−6/℃)よりも小さいため、温度上昇時に軸とカーボンリングとの隙間が著しく減少してしまい、ロータ軸またはロータ軸スリーブの外周に摺接するカーボンリングが割れる等の不具合が生じるおそれがあるため、アウターリングを使用してカーボンリングの膨張を制御する必要がある。
【0010】
そこで、カーボンリングを、アウターリングの内周に締りばめによって嵌合し、使用時最大温度(約250℃)においても締め代がゼロにならないように嵌合しているため、熱時、冷時ともにカーボンリングは常にアウターリングの熱膨張、収縮に伴って拡径、縮径することとなる。
【0011】
しかし、アウターリングを使用した場合でも、アウターリングの材料を軸材料よりも線膨張係数が大きい材質を採用すると、熱時にカーボンリングはアウターリングの膨張とともに拡大して軸との隙間が大きくなりシール性が確保されなくなる。
【0012】
従って、請求項1記載の発明によれば、アウターリングがロータ軸またはロータ軸スリーブと同等の線膨張係数の材料によって形成されているので、熱時、冷時ともにアウターリングとロータ軸またはロータ軸スリーブとの径方向の変位が同等となり、ロータ軸またはロータ軸スリーブとカーボンリングとの隙間が一定に保持され、カーボンリングが割れたり、隙間が大きくなって圧縮ガスの漏れ量が増大したり、潤滑油が圧縮室内へ流入することが防止される。その結果、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても、常に最適な隙間が保たれて、カーボンリングのシール部からの漏れの少ないオイルフリーのロータリ圧縮機を得ることができる。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記カーボンリングは、前記ロータ軸を支承する給油式の軸受と圧縮機の圧縮室との間に配置されるとともに、前記給油式の軸受と圧縮室との間に配置されて潤滑油の流入を封止するオイルシールよりもさらに圧縮室側に配置されることを特徴とする。
【0014】
かかる請求項2記載の発明によれば、圧縮機のロータ軸を支持する軸受と該圧縮機の圧縮室との間に、軸受側にはオイルシールが設けられ、圧縮室側にはカーボンリングが設けられるので、軸受側から圧縮室への潤滑油の侵入をオイルシールによって防止すると共に、圧縮室から外部への圧縮ガスの流出をカーボンリングによって防止することができ、圧縮効率が良く圧縮ガスに油分を含まない清浄な圧縮ガスを吐出することができる。
【0015】
また、好ましくは、前記圧縮機がツース形のオイルフリーロータリ圧縮機であることを特徴とし、ツース形のような容積式の圧縮機であっても、ロータ軸またはロータ軸スリーブとカーボンリングとの隙間が一定に保持されるため、圧縮室からの圧縮ガス漏れを確実に防止できる。さらに、前記アウターリングが前記ロータ軸またはロータ軸スリーブと同一材料によって形成されていることを特徴とし、例えば両方ともSUS材(ステンレス鋼材)によって形成することで、アウターリングとロータ軸またはロータ軸スリーブとは同一の熱膨張率であるため、運転中に温度上昇があっても常に、ロータ軸またはロータ軸スリーブとカーボンリングとの隙間が一定に保持され、シール性が確保される。
【0016】
また、前記アウターリングの軸方向幅が前記カーボンリングの軸方向幅の0.7〜1.0の範囲に形成されていること、またはアウターリングの厚さが前記カーボンリングの厚さの0.7〜1.0の範囲に形成されていることを特徴とする。
このように、アウターリングの軸方向幅、厚さがそれぞれカーボンリングの0.7〜1.0の範囲にあることによって、アウターリングとしての機能として要求されるアウターリングの熱膨張によってカーボンリングの内径を膨張させたり、収縮させたりするための剛性が確保される。アウターリングをあまり細くしたり、薄くしたりすると、剛性が不足して、カーボンリングの剛性に負けてしまい前記のアウターリングの機能が発揮されないおそれがある。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロータリ圧縮機の運転中に軸部材、カーボンシール、およびカーボンシールを保持する保持部材等の温度が上昇しても、摺接部との最適なクリアランスを保持してシール部から漏れる圧縮ガスを極力抑えるとともに、潤滑油が圧縮室内へ流入することを防止して、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても漏れが少なく、清浄な圧縮ガスを吐出するオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0019】
参照する図面において、図1は本発明の軸封装置を備えたオイルフリーツース圧縮機の要部断面図を示す。図2は図1のA−A線断面図を概略的に示したオイルフリーツース圧縮機の作動説明図である。図3は図1のB部拡大図である。図4は本発明の軸封装置を示し、(a)は全体外観図を示し、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【0020】
図1を参照して、オイルフリーツース圧縮機1の全体構成について説明する。オイルフリーツース圧縮機1は容積形のロータリ圧縮機であり、ロータを構成する雄ツース3と雌ツース5とが圧縮室ケーシング7(圧縮室)内にて互いに噛み合うように収納されている。雄ツース3は雄ロータ軸9に、また雌ツース5は雌ロータ軸11にそれぞれスプライン嵌合、螺子結合等によって固定されている。
【0021】
雄ロータ軸9の一端部側は、一端部側ハウジング13内に配設されたコロ軸受15によって回転可能に支持され、他端部側は、他端部側ハウジング17内に配設された2列のアンギュラ玉軸受19、19によって回転可能に支持されている。
同様に、雌ロータ軸11の一端部側は、一端部側ハウジング13内に配設されたコロ軸受15によって回転可能に支持され、他端部側は、他端部側ハウジング17内に配設された2列のアンギュラ玉軸受19、19によって回転可能に支持されている。
【0022】
雄ロータ軸9の一端部には、入力ギヤ21がボルト23にて固定され、さらにその入力ギヤ21には図示されないモータからの駆動力を伝達するための駆動ギヤ25が噛み合っている。
また、雄ロータ軸9の他端部には、雄タイミングギヤ27がボルト29によって取り付けられ、雄タイミングギヤ27は、雌ロータ軸11の他端部にボルト31によって取り付けられた雌タイミングギヤ33と噛み合っており、一定の回転タイミングで雄ツース3と雌ツース5とが噛み合って回転するようになっている。
【0023】
一端部側ハウジング13と他端部側ハウジング17とはスペーサ35を挟むように介在させて図示しないボルトによってお互いが結合されて、そのスペーサ35と一端部側ハウジング13と他端部側ハウジング17とによって圧縮室ケーシング7を形成している。
一端部側ハウジング13の外周にはフランジ37が形成され、そのフランジ37にはギヤハウジング39がボルト40によって取り付けられている。また、他端部側ハウジング17の外側端部には、雄タイミングギヤ27と雌タイミングギヤ33を覆うようにカバー43が取り付けられている。
【0024】
ギヤハウジング39内には、潤滑油噴出口41、43が設けられ、該潤滑油噴出口41、43から噴射された潤滑油が入力ギヤ21と駆動ギヤ25との噛み合い部の潤滑や、ギヤハウジング39に内部に面して設置されているコロ軸受15の潤滑を行って、ギヤハウジング39の底に溜まるようになっていて、溜まった潤滑油は図示しない潤滑油ポンプによって循環されるように構成されている。
【0025】
さらに、その潤滑油は、油路45によって雄タイミングギヤ27および雄ロータ軸9の2列のアンギュラ玉軸受19、19に供給され、また油路45によって雌タイミングギヤ33および雌ロータ軸11の2列のアンギュラ玉軸受19、19に供給されるように構成されている。
【0026】
ここで、図1のA−A線断面図を概略的に示した図2を参照して、ツース圧縮機1の作動を説明する。
このツース圧縮機1は、容積形圧縮機であり、密閉された空間にガスを閉じ込めてその容積を減少させていくことによって圧縮するものである。
図2に示すように、向かい合うかぎ形の雄ロータ3と雌ロータ5とが高速で、それぞれ矢印で示す方向に回転すると、吸込口47から流入されたガスが、雄ロータ3によって空間49に閉じ込められ、雌ロータ5によって空間51にそれぞれ閉じ込められる。そして、さらに矢印方向に回転すると雄ロータ3のかぎ形部53が、雌ロータ5の凹部55に噛み合うようにして、空間57内のガスが容積減少して圧縮されて吐出口59から吐出される。
【0027】
このツース圧縮機1は、シンプルなツース形状(かぎ形状)からなるロータ形状のため、圧縮室ケーシング7とのクリアランスの維持が容易であり高効率のオイルフリーのロータリ圧縮機を構成することができる。
【0028】
次に、軸封装置の部分について説明する。図1に示すB部分には、一端部側ハウジング13の圧縮室側には、エアシール71(軸封装置)が、そのエアシール71の外側でコロ軸受15との間にはオイルシール73が設けられている。
エアシール71は、雄ロータ軸9に嵌合されたロータ軸スリーブ75の外周面に摺接するようにエアシール室77の内部に設けられ、またオイルシール73も、雄ロータ軸9のロータ軸スリーブ75の外周面に摺接するようにオイルシール室79の内部に配設されている。
【0029】
このようにコロ軸受15と圧縮室ケーシング7との間には、エアシール71とオイルシール73との複数のシール部材が介在され、コロ軸受15側から圧縮室ケーシング7に向って侵入する潤滑油を封止している。
また、エアシール71によって、圧縮室ケーシング7内からの加圧ガスの流出、さらに、圧縮室ケーシング7内の作用空間が特に吸込口付近の強い負圧によって、作用空間内に潤滑油が吸い込まれるのを防止して、圧縮ガス中に潤滑油分が含まれることを防止している。
【0030】
さらに、オイルシール73とエアシール71との間にはオイル側のシールとエア側のシールとを隔てるようにバッファ空間81が形成されている。漏出してきた潤滑油または圧縮ガスは、一時的にこのバッファ空間81内に溜められることで、圧縮ガスが直接的に外部へ流出したり、潤滑油分が圧縮室ケーシング7内に流入することを防止している。
また、バッファ空間81は雌ロータ軸11側にも同様に設けられ、夫々が連通するとともに、細孔によって外部と連通している。
【0031】
エアシール71は、図4(b)に示すように2重リング構造になっていて、内周側が雄ロータ軸9のロータ軸スリーブ75の外周に摺接するカーボンリング83と、該カーボンリング83の外周に嵌合するアウターリング85とから構成されている。
カーボンリング83とアウターリング85とは所定の締め代を付けて嵌合されており、使用時最大温度(約250℃)においても締代がゼロにならないような締りばめによって嵌合されている。
さらに、アウターリング85はロータ軸スリーブ75と同等の線膨張係数の材料によって形成されている。例えば、アウターリング85をSUS材(ステンレス鋼材)で形成すると共に、ロータ軸スリーブ75もSUS材によって形成されている。
【0032】
オイルシール73については、金属材料によって形成され、その外周部にはゴム製のOリング87が嵌合されている。オイルシール73の内周面またはロータ軸スリーブ75の外周面のいずれかには軸方向に螺旋溝が形成され、その溝の螺旋方向は、ロータ軸スリーブ75の回転方向に対して、ロータ軸スリーブ75の外周とオイルシール73の内周との間に入り込んだ潤滑油を外部に排出する方向に形成されている。
【0033】
アウターリング85とロータ軸スリーブ75とは、同等の線膨張係数を有する材料によって形成されることが好ましく、前記のようにともに同一材料でない場合には次の表に示される材料の組み合わせが線膨張係数が近いため望ましい。
【0034】
【表1】

【0035】
カーボンリング83の線膨張係数αcは、約7.0×10−6/℃であり、金属材料(鋼の線膨張係数αsは、約11.7×10−6/℃)よりも小さいため、温度上昇時にロータ軸スリーブ75とカーボンリング83との隙間が著しく減少してしまい、ロータ軸スリーブ75の外周に摺接するカーボンリング83が割れる等の不具合が生じるおそれがあるため、アウターリング85を使用してカーボンリング83の膨張を制御している。
【0036】
すなわち、カーボンリング83を、アウターリング85の内周に締りばめによって嵌合し、使用時最大温度(約250℃)においても締め代がゼロにならないように嵌合しているため、熱時、冷時ともにカーボンリング83は常にアウターリング85の熱膨張、収縮に伴って拡径、縮径することとなる。
【0037】
しかし、アウターリング85を使用した場合でも、アウターリング85の材料をロータ軸スリーブ75の材料よりも線膨張係数が大きい材質を採用すると、熱時にカーボンリング83はアウターリング85の膨張とともに拡大してロータ軸スリーブ75との隙間が大きくなりシール性が確保されない。
【0038】
そこで、本実施形態のように、アウターリング85とロータ軸スリーブ75とを、同等の線膨張係数を有する材料によって形成されることによって、熱時、冷時ともにアウターリング85とロータ軸スリーブ75との径方向の変位が同等となり、そして、アウターリング85に沿って拡径、縮径されるカーボンリング83とロータ軸スリーブ75との隙間が一定に保持されるため、カーボンリング83が割れたり、隙間が大きくなって圧縮ガスや潤滑油の漏れ量が増大することが防止される。
その結果、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても、常に最適な隙間が保たれて、カーボンリング83のシール部からの漏洩の少ないオイルフリーのツース圧縮機1を得ることができる。
【0039】
次に、カーボンリング83とアウターリング85との寸法関係について図4(a)のC−C線断面図を示す図4(b)を参照して説明する。
アウターリング85の幅W1と、カーボンリング83の幅W2との関係は、カーボンリング83の動きを保持するバックメタルしての機能を発揮するために、W2=(0.7〜1.0)×W1であることが望ましい。アウターリング85の熱膨張によってカーボンリング83の内径を膨張させたり、収縮させたりするための剛性が確保される必要があるため、アウターリング85の幅W2をあまり細くすると、剛性が不足して、カーボンリング83の剛性に負けてしまい前記のアウターリング85の機能が確保されないおそれがある。
【0040】
また、同様に、アウターリング85の厚さt2=(d3−d2)/2は、カーボンリング83の厚さt1=(d2−d1)/2に対して、t2=(0.7〜1.0)×t1の関係を満足することが望ましい。アウターリング85の厚さt2をあまり薄くすると、剛性が不足して、カーボンリング83の剛性に負けてしまい前記のアウターリング85の機能が発揮されないおそれがある。
【0041】
以上のような、エアシール71およびオイルシール73が、圧縮室ケーシング7を挟んで反対側の雄ロータ軸9の外周にも、2列のアンギュラ玉軸受19、19と圧縮室との間に設けられ、さらに雌ロータ軸11においても同様に、圧縮室ケーシング7を挟んで両側にそれぞれ設けられている。
【0042】
そして、本実施の形態によれば、オイルフリーツース圧縮機1の運転中に雄ロータ軸9、雌ロータ軸11、ロータ軸スリーブ75、カーボンリング83、およびカーボンリング83を外周側から保持するアウターリング85の温度上昇、下降の変化があっても、カーボンリング83の内周部とロータ軸スリーブ75の外周部との摺接部の最適なクリアランスが保持されてロータ軸スリーブ75とカーボンリング83とのシール部から漏れる圧縮ガスを極力抑えるとともに、潤滑油が圧縮室内へ流入することを防止するエアシール(軸封装置)71が得られる。そして清浄な圧縮ガスを吐出するオイルフリーロータリ圧縮機を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ロータリ圧縮機の運転中に軸部材、カーボンシール、およびカーボンシールを保持する保持部材等の温度が上昇しても、摺接部との最適なクリアランスを保持してシール部から漏れる圧縮ガスを極力抑えるとともに、潤滑油が圧縮室内へ流入することを防止して、運転中に温度上昇、下降の温度変化があっても漏れが少なく、清浄な圧縮ガスを吐出することができるエアシール(軸封装置)が得られるので、オイルフリーロータリ圧縮機への適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の軸封装置を備えたオイルフリーツース圧縮機の要部断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図を概略的に示したツース形圧縮機の作動説明図である。
【図3】図1のB部拡大図である。
【図4】本発明の軸封装置を示し、(a)は全体外観図を示し、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【図6】従来技術の説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 オイルフリーツース圧縮機
3 雄ツース
5 雌ツース
7 圧縮室ケーシング(圧縮室)
9 雄ロータ軸
11 雌ロータ軸
21 入力ギヤ
71 エアシール(軸封装置)
73 オイルシール
75 ロータリ軸スリーブ
83 アウターリング
85 カーボンリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルフリーロータリ圧縮機のロータ軸またはロータ軸スリーブの外周とロータ軸が挿入される軸孔の内周との間に介装される軸封装置において、
前記ロータ軸またはロータ軸スリーブの外周に摺接するカーボンリングと、該カーボンリングの外周に嵌合するアウターリングとからなり、前記カーボンリングと前記アウターリングとは使用時最大温度において締代がゼロにならないような締りばめによって嵌合されるとともに、前記アウターリングが前記ロータ軸またはロータ軸スリーブと同等の線膨張係数の材料によって形成されていることを特徴とするオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。
【請求項2】
前記カーボンリングは、前記ロータ軸を支承する給油式の軸受と圧縮機の圧縮室との間に配置されるとともに、前記給油式の軸受と圧縮室との間に配置されて潤滑油の流入を封止するオイルシールよりもさらに圧縮室側に配置されることを特徴とする請求項1に記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。
【請求項3】
前記圧縮機がツース形のオイルフリーロータリ圧縮機であることを特徴とする請求項1または2に記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。
【請求項4】
前記アウターリングが前記ロータ軸またはロータ軸スリーブと同一材料によって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。
【請求項5】
前記アウターリングの軸方向幅が前記カーボンリングの軸方向幅の0.7〜1.0の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。
【請求項6】
前記アウターリングの厚さが前記カーボンリングの厚さの0.7〜1.0の範囲に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオイルフリーロータリ圧縮機の軸封装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−255796(P2008−255796A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95581(P2007−95581)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】