説明

オイルポンプ

【課題】部品点数を削減できるオイルポンプを提供することを課題とする。
【解決手段】潤滑装置30では、オイルポンプ40は、導入口51及び吐出口52が設けられ、ロータ42、43を塞ぐように配置されると共に、導入口51にポンプ内部へ異物が侵入することを防止する導入側フィルタ65が設けられている、前蓋41を備える。
【効果】導入側フィルタ65がオイルポンプ40と一体化するので、油導入口51に配管や接続部品を取付ける必要がない。したがって、オイルポンプ40に取付けられる部品点数を削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン内に配置されて、エンジン各部へ潤滑油を送るオイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、潤滑対象部に潤滑油を供給する機能を備えたエンジンとして、オイルポンプ内蔵型のエンジンが各種提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図8は従来の技術の基本構成を説明する図であり、エンジン100では、クランクケース101内に配置されるクランク軸102、リンク103、ピボット軸104、バランスウエイト105、ガイド軸106の各々の内部に、潤滑油が通る油路が設けられている。この油路に続くようにガイド軸106にオイルパイプ107が接続され、このオイルパイプ107にオイルポンプ108が接続され、このオイルポンプ108の吸込口にオイルストレーナ109が接続されている。
【0004】
エンジン100の運転を開始すると、オイルポンプ108は、クランク軸102に機械的に連結されているので、クランク軸102の回転と同時に運転状態になる。したがって、潤滑油は、オイル溜まり部111からオイルストレーナ109及び吸込口を通じてオイルポンプ108内に吸込まれ、吐出口から吐出される。吐出された潤滑油は、オイルパイプ107から油路を通じてエンジン100の潤滑対象部へ送られる。
【0005】
ところで、エンジン100では、オイルポンプ108とオイルストレーナ109を接続するために配管や接続部品が必要になるので、部品点数が増加する。部品点数の増加は、エンジン100の製造コストの増加に繋がる。
【0006】
そのため、部品点数を削減できるオイルポンプが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−120222公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、部品点数を削減できるオイルポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、エンジン内に配置され、前記エンジンの動力で駆動され、前記エンジンの各部へ潤滑油を送るオイルポンプにおいて、このオイルポンプは、前記エンジンの動力で駆動されるロータと、このロータへ潤滑油を導入する油導入口及び潤滑油を吐出する油吐出口が設けられ前記ロータを塞ぐように配置される前蓋とを備え、前記油導入口にフィルタを渡すことで、前記オイルポンプの内部へ異物が侵入することを防止する前記フィルタが前記前蓋に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、前蓋は、円板であって、ロータを駆動するポンプ軸の一端を支持する貫通穴を有し、この貫通穴は、前記円板の中心からオフセットした位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、油吐出口にフィルタが渡されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、オイルポンプは、油導入口及び油吐出口が設けられ、ロータを塞ぐように配置されると共に、油導入口にポンプ内部へ異物が侵入することを防止するフィルタが設けられている、前蓋を備えるので、フィルタがオイルポンプと一体化する。すなわち、油導入口に配管や接続部品を取付ける必要がないので、オイルポンプに取付けられる部品点数を削減することができる。請求項1によれば、部品点数を削減できるオイルポンプを提供することができる。
【0013】
また、フィルタをオイルポンプから離したエンジン内に配置させる必要がないため、エンジンの小型化を実現することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、前蓋は、円板であると共にポンプ軸の一端を支持する貫通穴を有し、貫通穴は、円板の中心からオフセットした位置に設けられているので、貫通穴が円板の中心に設けられる場合に比べて、エンジン内に前蓋を取付けるときに前蓋の回転方向の取付間違いを防止することができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、油吐出口にフィルタが渡されているので、オイルポンプの内部に異物が存在しても、この異物を吐出側のフィルタで捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るエンジンの要部断面図である。
【図2】オイルポンプの分解斜視図である。
【図3】オイルポンプの構造及び作用を説明する図である。
【図4】図1の4部拡大図である。
【図5】前蓋の回転方向の取付け間違いの形態を説明する図である。
【図6】図4の変更例を説明する図である。
【図7】前蓋の表裏の取付け間違いの形態を説明する図である。
【図8】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。また、以下ではオイルポンプに連結された軸は、バランサ軸を例にして説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、エンジン10のクランクケース11に、クランク軸12とバランサ軸13とが互いに平行となるようにして設けられている。なお、エンジン10は、OHV型の汎用エンジンである。
【0019】
クランク軸12は、クランクケース11を閉じるケースリッド14に設けられている玉軸受15と、クランクケース11に設けられている平軸受16とで、両端支持されている。玉軸受は、ころがり軸受であればよく、ころ軸受であってもよい。
【0020】
また、バランサ軸13は、クランク軸12のアンバランス要素を相殺することができるように想像線で示すようなアンバランスな形状とされた回転部品であり、ケースリッド14に設けられている玉軸受17と、クランクケース11に設けられている玉軸受18とで、両端支持されている。ケースリッド14は、ボルト19を緩めることでクランクケース11から外すことができる。
【0021】
クランク軸12には、玉軸受15の近傍に、大径の第1駆動ギヤ21と小径の第2駆動ギヤ22とが一体形成されている。
また、バランサ軸13に第1従動ギヤ23が一体形成されており、この第1従動ギヤ23が第1駆動ギヤ21により駆動される。
【0022】
そして、クランクケース11の側壁24に、潤滑装置30(詳細後述)が設けられ、この潤滑装置30には、バランサ軸13の一端(ケースリッド14から遠い方の端)に連結されエンジン10の各部へ潤滑油を送るオイルポンプ40(詳細後述)が設けられている。
【0023】
クランク軸12とクランクケース11はオイルシール81でシールされ、クランク軸12とケースリッド14はオイルシール82でシールされているため、潤滑油が外へ漏れる心配はない。
【0024】
クランク軸12の一端にフライホイール83が取付けられ、バランサ軸13と共にフライホイール83によりクランク軸12の円滑回転を図ることができる。次にオイルポンプ40の構成を説明する。
【0025】
図2に示されるように、オイルポンプ40は、クランクケース(図1の符号11)側から軸受(図1の符号18)側へ配置される順番に、前蓋41、インナーロータ42、アウターロータ43、後蓋44の4つからなる。
【0026】
なお、軸線45は、バランサ軸(図1の符号13)の軸中心線に一致する線で、且つポンプ軸46の軸中心線である。また、軸線47は、アウターロータ43の中心線である。
【0027】
加えて、前蓋41は、円板であって、インナーロータ42を駆動するポンプ軸46の一端48を支持する貫通穴49を有し、この貫通穴49は、円板の中心Pから高さHだけオフセットした位置に設けられている。
【0028】
また、前蓋41には、図右側に油導入口51が設けられ、左側に油吐出口52が設けられている。さらに、後蓋44には、ポンプ軸46の中間部を支持する貫通穴53が設けられている。次にオイルポンプ40の構造及び作用を詳細に説明する。
【0029】
図3(a)に示されるように、オイルポンプ40は、バランサ軸(図1の符号13)の一端に連結されるポンプ軸46と、このポンプ軸46の中間部54に取付けられポンプ軸46で図反時計方向に回され複数(この例では4個)の歯55を有するインナーロータ42と、このインナーロータ42より多い複数(この例では5個)の内歯56を有し内歯56にインナーロータ42を収納させると共にインナーロータ42で回されるアウターロータ43と、このアウターロータ43を回転自在に収納しクランクケース(図1の符号11)の一部であるポンプハウジング部57とからなる、トロコイドポンプである。
【0030】
インナーロータ42とアウターロータ43とで歯数が異なるため、(a)に斜線で示すようなポンプ空間58ができる。このポンプ空間58は(b)では、増大する。この容積増大により、吸引作用が起こり、油導入部59を介して潤滑油がポンプ空間58に導かれる。
【0031】
(c)でポンプ空間58が油導入部59から油吐出部61へ移り、(d)でポンプ空間58から潤滑油が油吐出部61へ吐出される。
すなわち、ポンプ空間58が容積変化し、容積が増大する過程では潤滑油が吸引され、容積が減少する過程では潤滑油が吐出される。潤滑装置(図1の符号30)の構造を次に説明する。
【0032】
図4に示されるように、潤滑装置30は、バランサ軸13の一端部62を支える玉軸受18に隣接して設けられているオイルポンプ40を備える。オイルポンプ40のポンプ軸46の他端63が、バランサ軸13の一端の穴64に強固に嵌合している。
【0033】
オイルポンプ40は、エンジン(図1の符号10)運転時にクランク軸(図1の符号12)の駆動力がバランサ軸13に伝達されて駆動されるインナーロータ42及びアウターロータ43と、これらのロータ42、43へ潤滑油を導入する油導入口51及び潤滑油を吐出する油吐出口52が設けられロータ42、43を塞ぐように配置される前蓋41とを備え、油導入口51に網目状の導入側フィルタ65を渡すことで、潤滑油が矢印(1)のように流れるときにオイルポンプ40の内部へ異物が侵入することを防止する導入側フィルタ65が前蓋41に設けられている。
【0034】
加えて、油吐出口52に網目状の吐出側フィルタ66が渡されている。この吐出側フィルタ66によって、潤滑油が矢印(2)のように流れるときにオイルポンプ40の内部に異物が存在しても、この異物を吐出側フィルタ66で捕捉することができる。
【0035】
また、後蓋44は、オイルポンプ40と玉軸受18との間に設けられて、オイルポンプ40をシールする部材である。
【0036】
クランクケース11の側壁24には、エンジン運転時にオイル溜まり部(図1の符号71)から吸込まれた潤滑油が通る吸入油路67と、この吸入油路67と油導入口51を結ぶ油導入部59と、油吐出口52に接続される油吐出部61と、この油吐出部61に接続されオイルポンプ40から吐出された潤滑油が通る吐出油路68とが形成されている。
【0037】
そのため、潤滑油は、エンジン運転時にオイルポンプ40から吐出油路68を通じて、平軸受(図1の符号16)に設けた環状溝(図1の符号72)及びコンロッド(図1の符号73)の大端部が連結されるクランク軸受(図1の符号74)に強制的に供給される。
【0038】
潤滑装置30では、オイルポンプ40は、油導入口51及び油吐出口52が設けられ、インナーロータ42及びアウターロータ43を塞ぐように配置されると共に、油導入口51にポンプ内部へ異物が侵入することを防止する導入側フィルタ65が設けられている、前蓋41を備えるので、導入側フィルタ65がオイルポンプ40と一体化する。すなわち、油導入口51に配管や接続部品を取付ける必要がないので、オイルポンプ40に取付けられる部品点数を削減することができる。したがって、部品点数を削減できるオイルポンプ40を提供することができる。
【0039】
また、導入側フィルタ65をオイルポンプ40から離したエンジン(図1の符号10)内に配置させる必要がないため、エンジンの小型化を実現することができる。次に前蓋41の回転方向の取付け間違いの形態を説明する。
【0040】
図5(a)に示されるように、前蓋41が、180°ずれた状態でクランクケース11の側壁24に取付けられている。側壁24に設けたポンプ軸(図4の符号46)の軸受部75と、前蓋41の貫通穴49が一致していないため、ポンプ軸を取付けることができない。
【0041】
(b)において、前蓋41が、90°ずれた状態でクランクケース11の側壁24に取付けられている。側壁24に設けたポンプ軸(図4の符号46)の軸受部75と、前蓋41の貫通穴49が一致していないため、ポンプ軸を取付けることができない。
【0042】
(c)において、前蓋41が、正常な状態でクランクケース11の側壁24に取付けられている。側壁24に設けたポンプ軸(図4の符号46)の軸受部75と、前蓋41の貫通穴49が一致するため、ポンプ軸を取付けることができる。
【0043】
前蓋41は、円板であると共にポンプ軸(図4の符号46)の一端(図4の符号48)を支持する貫通穴49を有し、貫通穴49は、円板の中心PからHだけオフセットした位置に設けられているので、貫通穴49が円板の中心に設けられる場合に比べて、エンジン(図1の符号10)内に前蓋41を取付けるときに前蓋41の回転方向の取付け間違いを防止することができる。
【0044】
これまでに説明した前蓋41は、円板の回転方向の取付間違いを防止する構造を有するものであったが、前蓋を表裏逆に取付けてしまうことも想定される。そこで、次に前蓋を表裏逆に取付けることを防止できる例を説明する。
【0045】
図6は図4の変更例を示す図であり、7d部に変更を施した。その他は図4と同一であるため、図4の符号を流用して詳細な説明は省略する。
潤滑装置30Bでは、前蓋41Bのクランクケース11側に、ポンプ軸46Bの段部76が当たるように凹んだ段当て部77が設けられている。
【0046】
なお、前蓋41Bのクランクケース11側の面を前面78、オイルポンプ40側の面を後面79とし、後面79は凹みのない平面で形成される。次にポンプ軸46Bと前蓋41Bの取付け間違いの形態を説明する。
【0047】
図7(a)に示されるように、前蓋41Bを、クランクケース11の側壁24に取付けたポンプ軸46Bに向けて、矢印(3)のように移動させる。
(b)において、前蓋41Bがポンプ軸46Bに取付けられている。
【0048】
(c)は(b)のc部拡大図に相当し、前蓋41Bがポンプ軸46Bに取付けられているが、前蓋41Bの後面79がポンプ軸46Bの段部76に接触しているため、取付け間違いの状態である。
【0049】
(d)は図6の7d部拡大図に相当し、前蓋41Bの段当て部77がポンプ軸46Bの段部76に接触している。すなわち、正常な取付け状態である。
【0050】
前蓋41Bは、前面78に、ポンプ軸46Bの段部76が当たるように凹んだ段当て部77を備えているので、(c)に示すように前蓋41Bの後面79を誤ってポンプ軸46Bの段部76に当てたときに、前蓋41Bがポンプ軸46Bに完全に取付けられないことが分かる。したがって、前蓋41Bの前面78と後面79の取付け間違いを防止することができる。
【0051】
ところで、図6において、吐出側フィルタ66は、省くことができる。すなわち、オイルポンプ40の保護の観点からは、導入側フィルタ65は必須であるが、吐出側フィルタ66は必須ではない。吐出側フィルタ66を省くことで、前蓋41Bの製造コストの低減を図ることができる。
【0052】
しかし、導入側フィルタ65と共に吐出側フィルタ66を設けると、オイルポンプ40内部で発生した鉄粉などの異物を吐出側フィルタ66で除去させることができ、より好ましい。
【0053】
尚、本発明に係るオイルポンプは、実施の形態ではトロコイドポンプを適用したが、ギヤポンプやベーンポンプであってもよく、オイルポンプの形式は任意である。
また、本発明に係る潤滑装置は、エンジンに広く採用可能であるが、軽量化、小型化が厳しく求められる小型の汎用エンジンに好適である。
【0054】
加えて、本発明に係るオイルポンプに連結される軸は、実施の形態ではバランサ軸を適用したが、クランク軸を適用してもよい。
また、本発明に係るフィルタは、実施の形態では網目状のものを適用したが、パンチングメタルを適用してもよい。パンチングメタルの穴形状は、丸穴、角穴、長穴などを採用できるので任意である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のオイルポンプは、小型の汎用エンジンの潤滑用に好適である。
【符号の説明】
【0056】
10…エンジン、40…オイルポンプ、41、41B…前蓋、42…インナーロータ(ロータ)、43…アウターロータ(ロータ)、46、46B…ポンプ軸、48…一端、49…貫通穴、51…油導入口、52…油吐出口、65…導入側フィルタ(フィルタ)、66…吐出側フィルタ(フィルタ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン内に配置され、前記エンジンの動力で駆動され、前記エンジンの各部へ潤滑油を送るオイルポンプにおいて、
このオイルポンプは、前記エンジンの動力で駆動されるロータと、このロータへ潤滑油を導入する油導入口及び潤滑油を吐出する油吐出口が設けられ前記ロータを塞ぐように配置される前蓋とを備え、
前記油導入口にフィルタを渡すことで、前記オイルポンプの内部へ異物が侵入することを防止する前記フィルタが前記前蓋に設けられていることを特徴とするオイルポンプ。
【請求項2】
前記前蓋は、円板であって、前記ロータを駆動するポンプ軸の一端を支持する貫通穴を有し、この貫通穴は、前記円板の中心からオフセットした位置に設けられていることを特徴とする請求項1記載のオイルポンプ。
【請求項3】
前記油吐出口にフィルタが渡されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のオイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144705(P2011−144705A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4063(P2010−4063)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】