説明

オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体を含有する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物

本発明は、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体を有効成分として含有する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物に関し、より詳細には、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を含有することによって、Wnt信号伝達を適宜制御するDKK3タンパク質及びFZD1タンパク質の発現を向上させて表皮の過度な増殖を抑制し、且つ表皮の過増殖による炎症性皮膚疾患を改善する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体を有効成分として含有する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物に関し、より詳細には、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4’,6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を含有することによって、Wnt信号伝達(Wnt signaling)を適宜制御するDKK3タンパク質及びFZD1タンパク質の発現を向上させて表皮の過度な増殖を抑制し、表皮の過増殖による炎症性皮膚疾患を改善する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚角質細胞(keratinocyte)は、適切な増殖と分化を通じて、皮膚保湿を維持し、皮膚障壁としての機能をする。しかし、皮膚角質細胞の増殖と分化に変異が生じれば、結局、皮膚障壁に損傷(impairment)を誘発し、多様な皮膚疾患が現れるようになる。
【0003】
例えば、乾癬(psoriasis)は、不適切な皮膚角質細胞の増殖と分化によって現れる炎症性皮膚疾患であって、乾癬の原因の1つは、ベータ−カテニンというタンパク質で問題が起こった時に現れると知られている。ベータ−カテニンは、大きく2つの機能をするが、細胞と隣接細胞間の付着(cell−cell adhesion)に寄与し、また、Wnt信号伝達の媒介体である。Wntリガンドは、正常な皮膚で発現され、一般的に皮膚細胞が成長と分化をする間に皮膚角質細胞の多くの世代にわたった増殖調節に利用される。しかし、Wntリガンドが過多発現されるか、存在しない場合には、皮膚の恒常性調節に深刻な変異を起こすようになる。
【0004】
臨床的実験において正常人及び乾癬患者から分離した皮膚細胞から、乾癬患者の場合には、Wnt信号伝達体系の媒介体であるベータ−カテニンの発現が相当に大きく現れることが観察され、ベータ−カテニンによって調節される酵素にも影響を与えるものと観察された。したがって、不適切な皮膚分化が起きた場合に、その原因の1つとしてWnt信号伝達体系が連関していて、これを調節することによって、皮膚障壁を保護し、保湿を維持するのに寄与するものと予測することができる。Wnt信号伝達を抑制するものと知られたDKK3(Dickkopf homolog 3)及びFZD1(Frizzled homolog 1)の発現を向上させる方法を考慮すれば、Wnt信号伝達の機能を適宜制御する機能をするので、窮極的には、皮膚保湿を維持し、皮膚障壁を保護するものと期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、皮膚角質細胞の過度な増殖と分化によって現れる炎症性皮膚疾患の原因であるWnt信号伝達を適宜調節する素材を探すために研究した結果、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンまたは3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンが、Wnt信号伝達の抑制剤であるDKK3タンパク質及びFZD1タンパク質の発現を向上させることによって、Wnt信号伝達の調節効果に優れていることを知見し、本発明を完成した。
【0006】
したがって、本発明の目的は、Wnt信号伝達を調節するDKK3タンパク質及びFZD1タンパク質の発現を向上させて表皮の過増殖を抑制し、且つ表皮の過増殖による炎症性皮膚疾患を改善する皮膚外用剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を有効成分として含有する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患の改善用の皮膚外用剤組成物を提供する。
【0008】
また、本発明では、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を有効成分として含有する抗炎症治療剤を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による皮膚外用剤組成物は、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体を有効成分として含有し、皮膚角質細胞の過増殖の原因となるWnt信号伝達を適宜に調節するDKK3タンパク質及びFZD1タンパク質の発現を向上させることによって、皮膚角質細胞の過度な増殖を抑制し、正常な角質細胞分化を誘導した。
【0010】
また、本発明による皮膚外用剤組成物は、表皮過増殖に伴う炎症性皮膚疾患を改善及び治療する効果に優れていて、優れた皮膚改善効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体による角質細胞分裂の抑制能を測定した結果である。
【図2】図2は、本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体によるDKK3の発現変化を測定した結果である。
【図3】図3は、本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体によるFZD1の発現変化を測定した結果である。
【図4】図4は、本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体による抗炎症効果を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明は、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン(ortho−dihydroxyisoflavone、ODI)誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン(4',6,7−trihydroxyisoflavone)、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン(3',4',7−trihydroxyisoflavone)またはこれらの混合物を有効成分として含有する皮膚角質細胞の過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患の改善用の皮膚外用剤組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を有効成分として含有する抗炎症治療剤を提供する。
【0014】
本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体は、抗酸化効果が他のイソフラボンに比べて高い。イソフラボンは、主に豆に含有された植物性化合物であって、イソフラボンをアグリコン(aglycon)とする配糖体で存在し、発酵過程中に微生物の代謝によって非糖質形態に転換される。
【0015】
本発明において有効成分として使用するオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体は、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン(下記化学式1)または3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン(下記化学式2)であり、Wnt信号伝達の抑制剤であるDKK3(Dickkopf homolog 3)及びFZD1(Frizzled homolog 1)の発現を効果的に向上させて、皮膚角質細胞の過増殖を抑制し、正常な分化を誘導し、且つ皮膚角質細胞の過増殖に伴う炎症性皮膚疾患を改善及び治療する効果を示す。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン及び3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンは、当業界によく知られた公知の方法でダイドゼイン(daidzein)を生変換して製造することができるが、これに限定されず、通常的な任意の方法によって生産が可能である。
【0019】
上記オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体は、組成物全体重量に対して0.001〜30重量%の量で含有されることが好ましい。その含量が0.001重量%未満なら、表皮過増殖抑制及び炎症性皮膚疾患の改善効果を得ることができず、30重量%を超過すれば、効果の増加が大きくないため、非効率的であり、剤形安定性に問題が生じることができるからである。
【0020】
本発明による皮膚外用剤組成物は、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物をその有効量で含む医薬組成物の形態で製造されることができ、当業界で通常的に使用する1つ以上の無毒性で、薬剤学的に許容可能な運搬体、補助剤、希釈液または他の活性成分を含むことができる。本発明による皮膚外用剤組成物は、薬剤学的に許容可能な運搬体及び賦形剤を利用して公知の方法で製剤化されることができる。
【0021】
具体的な例として、軟膏、ゲル、クリーム、パッチまたは噴霧剤などの外用剤などをはじめとして薬剤学的製剤に適したいずれの形態でも剤形化して使用することができ、これらの各剤形は、その剤形の製剤化に必要であり、適切な各種の基剤と添加剤を含有することができ、これら成分の種類と量は、当業者によって容易に選定されることができる。
【0022】
また、本発明による皮膚外用剤組成物は、油性または水性媒質で溶液、懸濁液または乳化液の形態になるか、または使用する前に、無菌であり発熱物質が除去された水に溶解して使用する乾燥粉末の形態に剤形化されることができ、油中水型エマルションの形態とされることもできる。油相としては、オリーブ油のような植物性油または流動パラフィンのような鉱物性油であり、乳化剤としては、大豆レシチンなどの自然産リン脂質や、ソルビタンモノオレエートのように、ヘキシトール無水物や脂肪酸来由のエステルまたは部分エステルや、またはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートのように、前述の部分エステルをエチレンオキシドと縮合した化合物を使用することができる。
【0023】
本発明による皮膚外用剤組成物が化粧料に剤形化される場合、その剤形において特に限定されるわけではないが、柔軟化粧水、収斂化粧水、栄養化粧水、アイクリーム、栄養クリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パウダー、エッセンスまたはパックなどの剤形を有することができる。
【実施例】
【0024】
以下、製造例、実施例及び試験例により本発明をさらに具体的に説明する。これら実施例は、本発明の内容を理解するために提示されるものに過ぎず、本発明の権利範囲がこれら実施例に限定されるものではなく、当業界で通常的に周知された変形、置換及び挿入などを行うことができ、これも本発明の範囲に含まれる。
【0025】
[製造例1]大豆抽出物の製造
大豆2kgにヘキサン6Lを入れ、常温で3回撹拌抽出して脱脂させた後、脱脂された大豆1kgに80%メタノール4Lを入れて3回還流抽出し、15℃で1日間浸漬した。次いで、濾過布を用いた濾過と遠心分離を通じて残渣と濾液を分離し、分離した濾液を減圧濃縮した。得られた抽出物を水に懸濁した後、エーテル1Lで5回抽出して色素を除去し、水層を1−ブタノール500mLで3回抽出した。これにより得られた1−ブタノール層を減圧濃縮して1−ブタノール抽出物を得、これを少量のメタノールに溶解した後、大量のエチルアセテートを追加して生成された沈殿物を乾燥し、大豆抽出物300gを得た。
【0026】
[実施例1]大豆抽出物を利用した4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
上記製造例1で収得した大豆抽出物10gを100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養されたアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)KCCM11885を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。次いで、37℃で7日間培養させた後、薄層クロマトグラフィーで基質の消去率(depletion rate)を確認し、基質が完全に消失すれば反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を、濾過を通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮して粗生成物を収得した。上記収得された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン0.23gを得た。
【0027】
[実施例2]ダイドジン(daidzin)を利用した4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
ダイドジン5g(シグマ社)を100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養されたアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)KCCM11885を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。次いで、37℃で7日間培養させた後、薄層クロマトグラフィーで基質の消去率を確認し、基質が完全に消失すれば反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を、濾過を通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮して粗生成物を収得した。上記収得された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン0.34gを得た。
【0028】
[実施例3]ダイドゼイン(daidzein)を利用した4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
ダイドゼイン3g(シグマ社)を100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養されたアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)KCCM11885を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。次いで、37℃で7日間培養させた後、反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を、濾過を通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮して粗生成物を収得した。上記収得された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン0.45gを得た。
【0029】
[実施例4]大豆抽出物を利用した3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
上記製造例1で収得した大豆抽出物10gを100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養された枯草菌(Bacillus subtilis)KCCM11732を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。30℃で7日間培養させた後、薄層クロマトグラフィーで基質の消去率を確認し、基質が完全に消失すれば反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を、濾過を通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮して粗生成物を収得した。上記収得された粗生性物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン0.23gを得た
【0030】
[実施例5]ダイドジン(daidzin)を利用した3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
ダイドジン5g(シグマ社)を100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養された枯草菌(Bacillussubtilis)KCCM11732を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。37℃で7日間培養させた後、薄層クロマトグラフィーで基質の消去率を確認し、基質が完全に消失すれば反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を、濾過を通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮し、粗生成物を収得した。上記収得された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン0.44gを得た。
【0031】
[実施例6]ダイドゼイン(daidzein)を利用した3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンの製造
ダイドゼイン3g(シグマ社)を100mLのイオン水に溶解させ、121℃で30分間滅菌して30℃に冷却した後、あらかじめ培養された枯草菌(Bacillus subtilis)KCCM11732を、液体重量に対して5〜10重量%で接種した。37℃で7日間培養させた後、反応を終了させた。培養液を5,000〜10,000rpmで遠心分離して回収した沈殿物を蒸留水で3回洗浄し、さらに遠心分離して沈殿物を得た。その沈殿物にエタノール(200mL)を加えて撹拌し(3回)、沈殿された塩を濾過を、通じて除去した後、濾過された濾液を減圧濃縮して粗生成物を収得した。その後、上記収得された粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=8:1〜4:1)で分離し、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン0.45gを得た。
【0032】
[試験例1]オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体の角質細胞分裂の抑制効果
ヒト角質形成細胞株であるHaCaT細胞に10%牛胎児血清(fetal bovine serum)を含むDMEM培地(Dulbecco's modified Eagle's Medium、Gibco社1210−0038)を添加し、24孔平板培養器に70%の密度で培養した。上記HaCaT細胞に、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン及び3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンを、それぞれ1、10及び50μMの濃度で処理し、48時間が経過後、BrdU分析法を行った。BrdU分析法を行う12時間前にBrdU標識を行った。BrdU分析は、BrdU比色分析ELISAキット(BrdU colorimetric ELISA Kit、Roche社)を利用し、Roche社が提供する実験方法に従った。まず、培養液をBrdU溶液で12時間処理した後、培地を除去し、細胞を固定させ、ペルオキシダーゼが結合されたBrdU抗体を添加した後、基質溶液で処理して発色反応を誘導し、ELISAリーダーで発色程度を測定した。陽性対照群としては、皮膚角質分化に使用される公知の物質であるカルシウム及び細胞分裂を抑制し且つ分化を誘導すると報告されたトログリタゾン(troglitazone;TGZ)を使用した。
【0033】
図1から分かるように、本発明の4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン及び3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンは、イソフラボンの一種であるダイドゼインと比べて有意に高い皮膚角質細胞の分裂抑制効果を示し、50μMの濃度で処理する場合には、陽性対照群であるカルシウム及びトログリタゾンと類似しているか、さらに優れた効果を示した。また、本発明の4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン及び3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンは、濃度依存的に皮膚角質細胞の分裂を抑制する効果を示した。
【0034】
[試験例2]オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体のDKK3及びFZD1の発現促進効果
ヒト新生児角質皮膚細胞(human neonatal keratinocyte cells)をウェルスキン(Welskin Co、ソウル、韓国)から購入し、25cm2 T−フラスコに継代培養し、CO2培養器(CO2 incubator)で37℃、5%CO2条件の下で培養を行った。通常、実験は、細胞の2〜3世代継代培養後に行われる。細胞培養液は、ロンザ社(Lonza、Inc. Walkersville、MD、USA)の方法によって、500mLのKBM−2(Clonetics CC−3103)培地に、KGM−2 Bullet kit(牛の脳下垂体抽出物(2mL)、ヒト上皮細胞成長因子(0.5mL)、インスリン(0.5mL)、ヒドロコルチゾン(0.5mL)、トランスフェリン(0.5mL)、エピネフリン(0.5mL)、ゲンタマイシンスルフェート+アムホテリシン−B(GA−1000、0.5mL))を入れて使用した。細胞継代培養をしてから2日が経過し、50%程度の細胞密度(confluency)を示す場合、血清を欠乏させた(serum starvation)。24時間後、陰性対照群、トウキ抽出物(Angelica gigas Nakai extract、陽性対照群)、ダイドゼイン及び上記実施例1〜6をそれぞれ10μMの濃度で用いて、細胞を24時間処理した。陰性対照群としては、非処理群を使用し、陽性対照群であるトウキ抽出物は、乾燥したトウキ(Angelica gigas Nakai)5kgを、メタノール50Lに24時間湧出させた後、残渣を分離濾過し、減圧濃縮乾燥して使用した。
【0035】
次いで、トリゾル試薬(Trizol reagent、Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を使用して細胞内のRNAを分離した。分離したRNAをキアゼン社のRNAキット(Qiagen RNeasy kit、Qiagen、Valencia、CA、USA)できれいに精製した後、アジラント社のバイオアナライザ2100機器(Agilent 2100 BioAnalyzer、Agilent Technologies、Santa Clara、CA、USA)を使用してRNAの質(quality)を確認した。インビトロゼン社の逆転写キット(Superscript Reverse Transcriptase(RT)kit、Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を利用して上記RNAからcDNAを合成し、これを実時間逆転写重合酵素連鎖反応(real time−reverse transcription polymerase chain reaction、Q−RT−PCR)を通じて定量的に分析した。皮膚角質幹細胞で遺伝子の発現パターン変化を、アプライドバイオシステム社のTaqMan遺伝子発現システム(TaqManR gene expression assay kit、AppliedBiosystems、FosterCity、CA、USA)、Dickkopf homolog 3(DKK3)−HS00247426_m1、及びFrizzled homolog 1(FZD1)−HS00268943_s1(TagMan primer catalog name)を利用して分析し、それによりDKK3及びFZD1の発現量を確認し、その結果を下記図2及び図3に示した。
【0036】
図2及び図3から分かるように、本発明のオルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体で処理した場合には、陰性対照群及びジヒドロキシイソフラボンであるダイドゼインの場合と比べて、DKK3及びFZD1の発現がさらに増加した。また、イソフラボンの一種であるダイドゼインで処理した群は、本発明によるオルソ−ジヒドロキシイソフラボンで処理した群に比べてDKK3及びFZD1の発現水準が顕著に低かった。したがって、本発明の4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンまたは3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンは、DKK3及びFZD1の発現を効果的に促進させた。
【0037】
[試験例3]オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体の抗炎症効果
ヒト角質形成細胞であるHaCaT細胞は、韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Bank、ソウル、韓国)から分譲されて使用した。HaCaT細胞を、10%(v/v)FBS、ペニシリン100U/mL及びストレプトマイシン100μg/mLを含むDMEM培地に注入し、37℃、5%CO2供給条件を備えた動物細胞培養器で培養した。孔(Well)当たり1.5×106の濃度で用意したHaCaT細胞を、FBSが含まれていない培地で3時間適応させた。
【0038】
4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボン、ダイドゼイン及びTGZをそれぞれ10μMの濃度で用いて、細胞の前処理を2時間行い、1μg/mL濃度の脂質多糖類(lipopolysaccharide、LPS)を添加し、8時間追加培養した。全RNAは、TRIzolTM(GIBCO BRL、MD、USA)を使用して抽出し、−80℃で保管した。
【0039】
全RNA1μgを、50mMのトリス−HCl(Tris−HCl、pH8.3)、75mMのKCl、3mMのMgCl2、0.1MのDTT、10mMのdNTP及び40ユニット/μLのRNase阻害剤が含有された逆転写反応緩衝液25μLに入れた。0.5μg/μLのオリゴ(dT)16のプライマーと200ユニットスーパースクリプトII(SuperScript II、ギブコBRL(GiboBRL))の逆転写重合酵素とを添加し、42℃で1時間反応させた後、逆転写反応溶液2.5μLを、0.04Uのアムプリタック(AmpliTaq)DNA重合酵素(Perkin Elmer、Shelton、CT)、50mMのトリス(pH8.3)、0.25mg/mL牛血清アルブミン、3mMのMgCl2、0.25mMのdNTPs、及びSYBRグリーンIの1/50,000希釈液(Molecular Probes、Eugene、OR)が含有されたPCR反応緩衝液50Lに混合し、10μMのプライマーを添加し、PCR反応をPCR増幅にかけた。PCR反応は、94℃で30秒間の変性、53℃で30秒間のアニーリング及び72℃で1分間の伸長反応を30サイクルすることから成る。
【0040】
相対的なmRNAレベルは、アイサイクラ(ICycler)ソフトウェアを利用してSYBRグリーンIの蛍光変化を測定することによって分析した。内部標準物質としてGAPDH(glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase)を使用して、TNF−アルファ(TNF−alpha)遺伝子の定量的発現水準を補正し、図4に示した。
【0041】
TNF−アルファは、傷治療過程中の炎症期において重要な作用をする炎症関連因子であって、多数の実験論文でも炎症抑制の効能を確認するのに頻繁に使用されていて、脂質多糖類(LPS)で誘導された炎症反応で多様に発現する遺伝子である。
【0042】
図4の結果を見れば、本発明による4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンまたは3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンで処理した群では、TNF−アルファ遺伝子の発現が強く抑制された。また、イソフラボンの一種であるダイドゼインを処理した群でも、炎症関連遺伝子の発現が多少抑制されたが、本発明によるオルソ−ジヒドロキシイソフラボンを処理した群に比べてその効果が顕著に低かった。
【0043】
以上説明したように、本発明において有効成分として使用する4',6,7−トリヒドロキシイソフラボンまたは3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンは、角質細胞分裂を効果的に抑制し、Wnt信号伝達を適宜制御するDKK3タンパク質及びFZDタンパク質の発現を向上させることによって、表皮の過増殖を抑制し、表皮の過増殖による炎症性疾患を改善する効能を有した。これにより、本発明は、4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはそれらの混合物を有効成分として含有する表皮過増殖抑制剤または炎症性皮膚疾患改善剤を提供する。
【0044】
[剤形例1]栄養化粧水
下記表1に記載した組成によって通常的な方法で栄養化粧水を製造した。
【0045】
【表1】

【0046】
[剤形例2]栄養クリーム
下記表2に記載した組成によって通常的な方法で栄養クリームを製造した。
【0047】
【表2】

【0048】
[剤形例3]マッサージクリーム
下記表3に記載した組成によって通常的な方法でマッサージクリームを製造した。
【0049】
【表3】

【0050】
[剤形例4]パック
下記表4に記載した組成によって通常的な方法でパックを製造した。
【0051】
【表4】

【0052】
[剤形例5]軟膏
下記表5に記載した組成によって通常的な方法で軟膏を製造した。
【0053】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を、有効成分として含有する表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項2】
上記オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体が、組成物の全体重量に対して0.001〜30重量%の量で含有されることを特徴とする請求項1に記載の表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項3】
上記組成物が、柔軟化粧水、収斂化粧水、栄養化粧水、アイクリーム、栄養クリーム、マッサージクリーム、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、クレンジングウォーター、パウダー、エッセンスまたはパックの剤形を有する化粧料組成物であることを特徴とする請求項1に記載の表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項4】
上記組成物が、軟膏、ゲル、クリーム、パッチまたは噴霧剤の剤形を有する医薬組成物であることを特徴とする請求項1に記載の表皮過増殖抑制用及び炎症性皮膚疾患改善用の皮膚外用剤組成物。
【請求項5】
オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体である4',6,7−トリヒドロキシイソフラボン、3',4',7−トリヒドロキシイソフラボンまたはこれらの混合物を、有効成分として含有する抗炎症治療剤。
【請求項6】
上記オルソ−ジヒドロキシイソフラボン誘導体が、組成物の全体重量に対して0.001〜30重量%の量で含有されることを特徴とする請求項5に記載の抗炎症治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509254(P2012−509254A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536259(P2011−536259)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【国際出願番号】PCT/KR2009/006744
【国際公開番号】WO2010/058936
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(503327691)株式會社アモーレパシフィック (73)
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
【Fターム(参考)】