カフ部材及びカフ部材ユニット
【課題】生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御し、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないと共に、皮膚の縮退が抑制されたカフ部材及びカフ部材ユニットを提供する。
【解決手段】カフ部材2は、フランジ部3と筒状部4とを有する。カフ部材2は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状材料よりなる。フランジ部3の上面の外周縁と内周縁との間に凸条3tが周設されている。フランジ部3の周縁部に開口10が設けられている。凸条3tの内側領域に対しパッド5が重ね合わされ、チューブ6が挿通される。
【解決手段】カフ部材2は、フランジ部3と筒状部4とを有する。カフ部材2は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状材料よりなる。フランジ部3の上面の外周縁と内周縁との間に凸条3tが周設されている。フランジ部3の周縁部に開口10が設けられている。凸条3tの内側領域に対しパッド5が重ね合わされ、チューブ6が挿通される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織からの細胞の侵入が可能で、生体組織と頑強な癒着が得られるカフ部材に係り、特に、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、膀胱ろうカテーテル、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に有用なカフ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
なお、本出願人は、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材であって、補助人工心臓療法などにおいても皮下組織と外界との隔絶性を向上させ、患者がシャワーを浴びることも可能となるカフ部材をWO2005/084742にて提案している。第7図(a),(b)はこのWO2005/084742のFig.10a,10bのカフ部材を示すものである。このカフ部材2Bは、第1フランジ部3と、この第1フランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bと、第2フランジ部4と、パッド5とを有する。第1フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形のチューブ挿通孔3aが筒状部3bと同軸に設けられている。第2フランジ部4及びパッド5にもチューブ挿通孔3aと同軸かつ同径の開口4a,5aが設けられている。従って、チューブ挿通孔3a,4a,5aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0004】
これらのチューブ挿通孔3a〜5a及び筒状部3bにチューブ6が挿通される。
【0005】
第1フランジ部3及び筒状部3b並びに第2フランジ部4は、生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料にて構成されている。この多孔性樹脂は、三次元網状構造の多孔構造を有している。筒状部3bと第1フランジ部3とは一体に設けられている。
【0006】
第2フランジ部4は第1フランジ部3よりも若干小さい大きさであり、通常は第1フランジ部3の外縁が第2フランジ部4の外縁よりも10〜20mm程度張り出すものとなっている。
【0007】
第2フランジ部4には凹所4bが設けられ、この凹所4にパッド5が嵌合配置される。
【0008】
チューブ6はチューブ挿通孔5a、4a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤7等により水密的に接着される。
【0009】
このカフ部材2Bを用いてチューブ6を生体に刺入するには、第8図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させる。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、第1フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部3bはチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、該露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。
【0010】
このようにカフ部材2を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、第8図の通り矢印Dのように第1フランジ部3の下側に向って進行する。このため、ダウングロースが筒状部3bに達するまでの時間がかなり長いものとなる。
【特許文献1】WO2005/084742
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記WO2005/084742のカフ部材では、皮膚と生体組織とがフランジ部3の周縁部によって隔てられているため、皮膚が徐々にフランジ部3上から退こうとする。即ち、皮膚の第2フランジ部4側の端縁が該第2フランジ部4から放射方向に離れる方向に縮退しようとする。そのため、長年が経過すると、フランジ部3の中央側が露呈してくるおそれがある。
【0012】
本発明は、このような皮膚の縮退を遅延させることができるカフ部材と、このカフ部材を用いたカフ部材ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)のカフ部材は、生体の外面に重なるフランジ部と、該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、を有し、多孔性三次元網状構造材料よりなるカフ部材であって、該筒状部に生体から引き出されたチューブが挿通されるカフ部材において、該フランジ部に開口又は切欠部を設けたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のカフ部材は、請求項1において、該カフ部材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造材料よりなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3のカフ部材は、請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が100〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4のカフ部材は、請求項2又は3において、多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することを特徴とするものである。
【0017】
請求項5のカフ部材は、請求項2ないし4のいずれか1項において、該フランジ部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6のカフ部材は、請求項2ないし5のいずれか1項において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項7のカフ部材は、請求項6において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8のカフ部材は、請求項7において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9のカフ部材は、請求項1ないし8のいずれか1項において、該フランジ部の他方の面に、該フランジ部の外周縁と内周縁との間を周回している凸条が設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
請求項10のカフ部材は、請求項9において、該凸条部分にのみ硬化性化合物を含浸させてあることを特徴とするものである。
【0023】
請求項11のカフ部材は、請求項10において、該硬化性化合物がキチン、キトサン及びケラチンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0024】
請求項12のカフ部材は、請求項1ないし11のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に間隔をあけて複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0025】
請求項13のカフ部材は、請求項1ないし12のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に延在していることを特徴とするものである。
【0026】
請求項14のカフ部材ユニットは、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のカフ部材と、該カフ部材の前記フランジ部の他方の面の中央領域に重なる高分子材料製パッドと
を備えてなることを特徴とするものである。
【0027】
請求項15のカフ部材ユニットは、請求項14において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするものである。
【0028】
請求項16のカフ部材ユニットは、請求項15において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットにあっては、カフ部材にフランジ部が存在するため、皮膚のダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかる。また、水がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することを防ぐことも可能となる。
【0030】
このフランジ部は、その外周縁側が皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。
【0031】
この結果、長期にわたり、ダウングロースの影響を受けることなく生体に対しカフ部材ユニットを装着しておくことができ、刺入カニューレを濡らすこともなく補助人工心臓療法において患者がシャワーを浴びることも可能となる。
【0032】
また、パッドが生体の外面に重なるように配置されるので、チューブの脈動などの振動がパッドを介しても生体に伝達されるようになり、チューブから生体に加えられる応力が広い範囲に分散される。
【0033】
本発明のカフ部材は、フランジ部に開口又は切欠部が設けられており、この開口又は切欠部を介して皮膚と該皮膚の下の生体組織とが直に接触している。これにより、フランジ部上の皮膚の縮退が抑制される。特に、開口又は切欠部をフランジ部の周方向に間隔をおいて複数個設けたり、開口又は切欠部をフランジ部の周方向に延在させると、効果的である。
【0034】
なお、本発明では、カフ部材を上記請求項2又は3の平均孔径及び見掛け密度を有する、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有する材料にて構成した場合、この多孔性三次元網状構造材料の空孔部分へ細胞が容易に侵入して生着し、生体組織と頑強な癒着が得られる。
【0035】
この材料よりなるカフ部材によれば、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材が提供される。
【0036】
請求項4の通り、この多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することが好ましい。このような空孔部は、骨格表面を複雑な凹凸面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持に有効となり、細胞の正着性が向上する。
【0037】
本発明のカフ部材は、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に好適に使用することができる。
【0038】
請求項9のように凸条を設けたカフ部材の場合、この凸条よりも外周縁側の上に存在する表皮の末端が該フランジ部の凸条で止まり、皮膚は凸条を乗り越えないようにする。これにより、皮膚がフランジ部と高分子樹脂製パッドの接着面を剥がすように潜り込む現象や、高分子樹脂製パッド上に這い上がる現象を防ぐことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットの実施の形態を詳細に説明する。
【0040】
第1図(a)は実施の形態に係るカフ部材を用いたカフ部材ユニットの分解斜視図、第1図(b)はこのカフ部材ユニットの縦断面図、第2図はこのカフ部材ユニットの使用例を示す断面図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は皮膚の縮退が抑制される作用の説明図である。
【0041】
このカフ部材2は前記第7,8図のカフ部材2Bにおいて第2フランジ部4を省略し、第1フランジ部3に凸条3tと開口10を設けたものである。
【0042】
即ち、第1図の通り、カフ部材2は、フランジ部3と、このフランジ部3の一方の面から立設された筒状部4とを有する。フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形のチューブ挿通孔3aが筒状部4と同軸に設けられている。このチューブ挿通孔3aの直径は筒状部4の内径(直径)と同一となっている。
【0043】
フランジ部3の内周縁と外周縁との間には、凸条3tが周回して設けられている。この凸条3tの内側領域にチューブ挿通孔5aを有したパッド5が嵌合されるようにして重ね合わされる。
【0044】
この実施の形態では、フランジ部3の周縁部すなわち凸条3tよりも外周側に複数個の開口10が周方向に所定間隔をおいて6個設けられている。この実施の形態では、開口10は円形であるが、後述の通り、その形状はこれに限定されず、開口10の個数も6個に限定されない。
【0045】
なお、複数個の開口10の合計の開口面積は、凸条3tよりも外周側のフランジ部3の面積(開口10の面積も含む)の5〜95%、特に10〜60%程度が好適である。1個の開口10の面積は1〜2500mm2、特に20〜200mm2程度が好適である。
【0046】
このカフ部材2は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料よりなり、筒状部4とフランジ部2とが一体に設けられたものである。
【0047】
フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能である。フランジ部3の厚さは該フランジ部3の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。フランジ3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0048】
凸条3tの基底部のフランジ部半径方向の幅は0.5〜5.0mm程度が好適である。凸条3tのフランジ部半径方向に沿う断面形状は、方形、台形又は三角形が好適である。凸条3tの高さは0.5〜5.0mm程度が好適であり、パッド5の厚み以上であることが好ましい。
【0049】
凸条3tからフランジ部3の外周縁までの距離は1〜100mm、特に5〜50mm程度が好適である。筒状部4の長さは10〜500mm程度が好適である。筒状部4の肉厚は該筒状部4の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部4は直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0050】
カフ部材ユニット1は、該カフ部材2の凸条3tよりも内側領域にパッド5を重ね合わせ、接着等によって一体化したものである。このパッド5は、凸条3tの内周にぴったりと嵌る大きさであることが好ましい。このパッド5には、フランジ部3のチューブ挿通孔3aと同軸に且つ該チューブ挿通孔3aと同一大きさにてチューブ挿通孔5aが設けられている。
【0051】
このパッド5は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、キチン、キトサン、ケラチン、ヒアルロン酸、フィブロイン並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上などの高分子材料よりなる。
【0052】
パッド5の厚みは高分子材料の柔軟性とも関連するが、0.1〜100mm程度が好適である。刺入する部位によって当業者によって適宜選択すれば良い。例えば、体側面であれば曲面に追随するためにやや柔軟なパッドを使用し、胸部中央付近の肋骨上であれば体表はほぼ平らであるため、やや硬めのパッドを使用するなどである。このカフ部材ユニット1は、生体外面からチューブ6を生体内に刺入する用途に好適に用いられる。
【0053】
パッド5の厚みは凸条3tの高さよりも小さくても大きくてもよい。パッド5の厚さが凸条3tの高さよりも大きいときは、パッド5の周縁が面取(chamfer)されることが好ましい。
【0054】
チューブ6はチューブ挿通孔5a、3a及び筒状部4に挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着される。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0055】
このカフ部材ユニット1を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第2図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させる。また、生体組織を切開してカフ部材ユニット1のチューブ6を生体組織に刺入し、フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部4はチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。
【0056】
このフランジ3の周縁部(凸条3tよりも外周側)に皮膚が重ね合わされる。皮膚は、その縁部が凸条3tの外周縁に接するようにフランジ3の周縁部に被せられる。
【0057】
パッド5の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着されてもよい。これにより、パッド5の下側への水等の浸入を防止することができる。
【0058】
この実施の形態では、フランジ3の周縁部に開口10を設けているので、フランジ部3上の皮膚とフランジ部3の下側の生体組織とが開口10を通して直に接触する。
【0059】
一般にフランジ部3上の皮膚3は、第4図の矢印Rのように、凸条部3tから離れる放射方向に縮退しようとする。この実施の形態では、開口10においてフランジ部3上下の皮膚と生体組織とが直に接しており、この開口10部分の皮膚が生体組織に密着ないし親和している。そのため、皮膚が生体組織にアンカー留めされた如き状態となり、皮膚の上記縮退が抑制される。また、開口10よりも外周側のフランジ部3上の最外周側上の皮膚が矢印Sのように開口10に向って動こうとする作用が奏され、これによっても矢印R方向への皮膚の縮退が抑制される。
【0060】
なお、この実施の形態に係るカフ部材ユニット1を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合も、皮膚のダウングロースは、前記第7図の矢印Dのようにフランジ部3の下側に向って進行しようとするが、ダウングロースが筒状部4に達するまでの時間がかなり長いものとなる。また、フランジ部3はその凸条3tよりも外周縁側が皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。この凸条3tよりも外周縁側の上に存在する皮膚の末端が該凸条3t、特にその外周側の側面止まり、皮膚は凸条3tを乗り越えてはいない。このため、皮膚が高分子樹脂製パッド5を異物として認識することがない。この結果、皮膚が、高分子樹脂製パッド5とフランジ部3の接着を剥がすようにして隙間に潜り込む現象や、高分子樹脂製パッド5上に這い上がる現象を防ぐことができる。
【0061】
また、チューブ6の脈動等によりチューブ6から生体に加えられる応力がパッド5を介しても生体に伝わるようになり、応力が広い範囲に分散する。このため、チューブ6の周囲の生体組織に加えられる刺激が緩和される。
【0062】
上記実施の形態では、開口10は円形であるが、第5図(a)〜(d)のフランジ部3A〜3Dのように円形以外の形状の開口や切欠部を設けてもよい。なお、第5図(a)〜(d)では凸条3tの図示を省略している。
【0063】
第5図(a)のフランジ部3Aは、周方向に延在する長孔状の開口11を設けたものである。なお、開口11は略楕円形のものであってもよい。
【0064】
第5図(b)〜(d)のフランジ部3B,3C,3Dは、複数個の切欠部12,13又は14を設けたものである。第5図(b)の切欠部12は、フランジ部3Aの外方に連なる入口側が狭く、奥側が広くなった形状である。切欠部12の奥側は略円形となっているが、これに限定されず、例えば第5図(a)のような長孔状や、略楕円形状であってもよい。
【0065】
第5図(c)の切欠部13は、周方向(径方向と斜交方向)に延在している。第5図(d)の切欠部13は、フランジ部3Dの径方向に延在している。
【0066】
第5図(a)〜(d)では、開口又は切欠部が4個ずつ設けられているが、これに限定されない。開口11又は切欠部12〜14の開口面積の面積比の好適な範囲は、前記開口10の場合と同様である。
【0067】
本発明では、フランジ部3から凸条3tを省略してもよい。
【0068】
また、本発明では前記第7図のように第1フランジ部3と第2フランジ部8とを設けたカフ部材2Bにおいて、第1フランジ部3に開口又は切欠部を設けてもよい。
【0069】
第6図(a),(b)はその態様に係るカフ部材2Aを示す第7図と同様部分の斜視図と断面図であり、第1フランジ部3の周縁部に開口10が設けられている。開口10の代わりに長孔状の開口や、各種形状の切欠部を設けてもよい。
【0070】
第6図のその他の構成はそれぞれ第7図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0071】
本発明では、凸条3t部分にのみ硬化性化合物を含浸させ強度を高めるようにしてもよい。硬化性化合物としては、キチン、キトサン、ケラチンなどを用いることができる。
【0072】
なお、本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットには複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合には、パッド5に2個のチューブ挿通孔5aを設け、フランジ部3に2個のチューブ挿通孔3aと2本の筒状部4を設ける。これにより、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットにて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減することも可能である。
【0073】
送血管と脱血管をそれぞれ独立に2個カフ部材又はカフ部材ユニットにて刺入した方が良いか、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットで送血管及び脱血管を同時に刺入する方が良いか、臨床学的意義、患者の状態、侵襲程度を考慮して当業者によって適宜使い分ければ良い。なお、送血管及び脱血管をこれらよりも太い1本のチューブ内へ挿入し、当該1本のチューブをカフ部材又はカフ部材ユニットを介して生体へ刺入する、いわゆるダブルルーメン式でチューブを挿入することも可能である。もちろん、補助人工心臓療法以外でも1本のチューブ内に人工心臓のポンプ用の電源コード、制御用コード、測定用コード、DDS用の細チューブなど複数の線状構造体を一本のチューブ内にまとめてカフ部材又はカフ部材ユニットを介して刺入することも可能である。
【0074】
次に、カフ部材の好適な材料について説明する。
【0075】
本発明のカフ部材を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある三次元網状構造部は、平均孔径が50〜1,000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の多孔性三次元網状構造であれば良く、厚み方向の切断断面において、その全面が類似の構造を有してもいても、一方の面側と他方の面側において異なる構造を有していても良い。また、部分的に平均孔径や見掛け密度が変化するものであっても良く、例えば、一方の面側から他方の面側に向けて平均孔径や見掛け密度が徐々に変化する、所謂、異方性を有していても良い。厚み方向に平均孔径が同一でないカフ部材を使用する場合には、生体組織との接触面側を大きくし深部において小さい孔径とすることが好ましい。この理由としては、生体組織との接触面から浸潤した組織は、通常厚み方向へ10mm程度の深度までは安定して到達するが、多孔体内に形成される新生血管が成熟していても深部の細胞は壊死したり分化が不十分となる危険性があるため、10mm程度よりも深い部分では孔径を小さくして組織の浸潤を抑制することが好ましいのである。
【0076】
また、生体組織との接触面側には平均孔径を大きく外れる大孔径の孔が存在しても構わない。このような孔としては500〜2,000μm程度の孔が好ましく、これらが生体組織側の表層近くに存在することでコラーゲンなどの細胞外マトリックスを深部まで均質に含浸させること容易となり、また、組織からの細胞の侵入や毛細血管の構築などに有利に働くこととなる。ただし、このような大孔径の孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0077】
多孔性三次元網状構造の平均孔径は、通常は10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であるが、好ましい平均孔径は100〜500μm、より好ましくは200〜500μmである。見掛け密度としては0.01〜0.5g/cm3範囲内であれば、細胞生着性が良好で、優れた物理的強度を維持し、細胞が侵入、生着し、組織化した際に皮下組織と近似した弾性特性が得られるが、好ましくは0.05〜0.3g/cm3、より好ましくは0.05〜0.2g/cm3である。
【0078】
また、平均孔径が同一であっても孔径の分布としては、細胞の侵入に重要な孔径サイズである10〜300μmの孔の寄与率が高いことが望ましく、孔径10〜300μmの孔の寄与率が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であると、細胞が侵入し易く、また、侵入した細胞が接着、成長しやすいため、好ましい。
【0079】
なお、多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径10〜300μmの孔の寄与率とは、全孔の数に対する孔径10〜300μmの孔の数の割合を指す。
【0080】
このような平均孔径、見掛け密度及び孔径分布の多孔性三次元網状構造であれば、細胞が容易に空孔部分へ浸透し、多孔性三次元網状構造部へ細胞が接着、成長し易く、毛細血管の構築がなされ、刺入部において皮下組織とカテーテルやカニューレとの癒着が頑強で良好なカフ部材を得ることができる。
【0081】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0082】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚を動かした場合に皮下組織とカフ部材の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0083】
本発明のカフ部材には、上記特定の多孔性三次元網状構造を形成した層を第1の層とし、この第1の層に更に異なる構造の第2の層を積層することも可能である。この第2の層としては、繊維集合体や可撓性フィルム、更には、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層が使用可能である。
【0084】
不織布又は織布の有孔性としては100〜5,000cc/cm2/minの範囲のものであれば可撓性、皮下組織との縫合強度など点で好ましい。なお、この有孔性は、JIS L 1004により測定される値で、通気性や通気量ということもある。
【0085】
繊維集合体としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上からなる合成樹脂製であっても良く、また、フィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上のような天然物由来の繊維からなるものも使用可能である。合成繊維と天然物由来の繊維とを併用したものであっても良い。
【0086】
また、可撓性フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルム、具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムが例示でき、好ましくは、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムである。
【0087】
可撓性フィルムとしては中実フィルムのみならず多孔膜や発泡体も使用可能である。中実の可撓性フィルムと積層した場合には、細菌バリア性が大きく、感染管理に有利なカフ部材が得られる。
【0088】
平均孔径や見掛け密度が第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる多孔性三次元網状構造を第2の層とする場合、この多孔性三次元網状構造としては、平均孔径0.1〜200μmで見掛け密度0.01〜1.0g/cm3程度の多孔性三次元網状構造を用いることができる。
【0089】
これらの第2の層を多孔性三次元網状構造層に積層する方法としては、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層の場合には、粘着剤を使用して接着する方法、特にホットメルト不織布を第1の層と第2の層との間に挟みこんで積層し、加熱下で圧着する方法などが挙げられる。このようなホットメルト不織布としては、例えば、日東紡社製PA1001のようなポリアミド型熱粘着シートなどが使用可能である。他にも、溶剤を使用して接触表面の表層部を溶解して接着する方法、熱によって表層部を溶融して接着する方法、超音波や高周波を利用する方法などが例示できる。また、第1の層の製造時に、ポリマードープと繊維集合体や可撓性フィルムを積層して成形するなど、連続的に積層形成することができる。
【0090】
なお、第2の層としては、繊維集合体、可撓性フィルム、多孔性三次元網状構造層が2層以上設けられていても良く、また、第2の層を介して第1の層の多孔性三次元網状構造層が積層された3層構造であっても良い。
【0091】
本発明のカフ部材の多孔性三次元網状構造部には、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に、胚性幹細胞(分化されていても良い。)、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞、及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上の細胞が接着されていても良い。
【0092】
また、本発明のカフ部材は、その多孔性三次元網状構造層を構築する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる骨格自体にも微細な孔を設けることが可能である。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造層の平均孔径の計算の概念へ導入されるものではない。
【0093】
以下に、本発明のカフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を挙げるが、本発明のカフ部材の製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0094】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0095】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0096】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【0097】
さらに多孔質体は、その多孔構造を構築している骨格基材自体にも微細な孔を設けていることが好ましい。特に、平均孔径が100〜650μm、乾燥状態における見かけ密度が0.10g/cm3以下の連通性の三次元網状構造を形成しており、かつ、該多孔性三次元網状構造層を構築するポリウレタン樹脂からなる骨格自体が空隙率70%以上の多孔質体であり、かつ、該骨格自体の表層は微細孔が点在する緻密な層であることが好ましい。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造部の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0098】
第9図は、上記のように骨格基材自体にも微細な孔を設けたポリウレタン製多孔体の断面のSEM像であり、第10図Aはこのポリウレタン製多孔体の表層のSEM写真、図7Bはその部分拡大像である。第9図、第10図A,Bより、多孔体を形成する骨格部分に微細孔が点在することが分かる。
【0099】
第10図B中の大きい円で囲んだ部分をフェザーカッターで切断し、その断面を観察した写真と同等の条件で撮影されたものが第11図である(理解しやすくするために大きい円で囲まれた部分を切断したと記述したが、実際にはランダムに存在する切断面から同等の条件に相当する視野を選択した)。
【0100】
第11図より、ポリウレタン製多孔体の骨格の内部は高空隙率の多孔質となっているものの、その表層は緻密層で被覆されており、かつ、点在的に細胞が浸潤し得ない大きさの微細孔(第11図の小さい円で囲まれた箇所)を介して骨格の外部と連通していることがわかる。
【0101】
ポリウレタン多孔体の構造的特徴、すなわち『三次元網状構造を構築する骨格自体が高空隙率の多孔質であって、かつ、その骨格自体の表層は緻密層で被覆されており、点在的に穿孔する微細孔を介して外界と連通されている』は、以下のような効果を発現する。即ち、ポリウレタン多孔体の骨格自体が多孔質であるために、ここへコラーゲンなどの細胞外マトリックス、アルブミン、酸素、老廃物、水、電解質などが浸潤し、生体組織との間で拡散・交換がされる。一方、細胞成分は骨格内部には存在せず、つまり、細胞の浸潤は骨格表層の緻密層でバリアされる。このようにして、多孔体の骨格部分もが多孔質であって、かつ、細胞(有形成分)が浸潤し得ないために、骨格内部は目詰まりすることなく、多孔体全体へ酸素、栄養分を補給する機能を維持することができ、この結果、良好な組織の浸潤、生着、成熟、血管新生という組織工学上有用な機能が発現される。
【0102】
このポリウレタン多孔体の骨格部分の空隙率を求めるには、まず、平均孔径の測定を前記の通り行う。即ち、多孔体写真の樹脂部分を白とし、空隙(空気部分)を黒として画像処理法により白部分の面積と黒部分の面積を計算する。画像処理により得られた測定視野総面積と、空隙部分総面積と、JIS K7311によるポリウレタン樹脂の比重より計算上の見掛け密度を求める。この見掛け密度は、一般に実測値よりも約10倍以上大きな値となる。これは骨格部分がポリウレタン樹脂からなる中実構造であると仮定したことにより生じた結果である。そこで、計算上の見掛け密度Aと実測値の見掛け密度Bとを計算式(A−B)/A×100(%)に代入して計算することにより、多孔体の骨格自体の空隙率を求めることが可能となる。計算上の見掛け密度が0.91g/cm3であり、実測値の見掛け密度が0.077g/cm3の場合、空隙率91.5%の多孔質であると計算される。
【0103】
このポリウレタン多孔体では、骨格の表面に微細孔は存在しているが、これは細胞が浸潤し得るサイズではなく、あくまで細胞の生着の助けになる凹凸程度のものであることは前述の通りである。この骨格の微細孔は、結果的に生着を補助することを目的とした凹凸の意味合い合わせて持つものの、本質的には、細胞の浸潤後に多孔体全体が、所謂、『目詰まり状態』となった後に、高空隙率の、多孔体の、骨格を栄養分、酸素、水の拡散・交換に最大限に寄与させるための出入口として機能するものである。
【0104】
このようにして製造されたカフ部材のフランジ部への補強部材としての線状体の取付方法は、特定の方法に限定されるものではなく、フランジ部中への挿入や接着材による接着など、種々の方法を採用することができる。
【0105】
上記実施の形態は、本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図2】図1のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図3】別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図4】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図5】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図6】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図7】従来例の説明図である。
【図8】図7のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図9】ポリウレタン多孔体の断面のSEM写真である。
【図10】ポリウレタン多孔体の表層のSEM写真である。
【図11】ポリウレタン多孔体の断面のSEM写真である。
【符号の説明】
【0107】
1 カフ部材ユニット
2,2A,2B カフ部材
3,3A,3B,3C,3D フランジ部
3t 凸条
4 筒状部
5 パッド
6 チューブ
7 接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織からの細胞の侵入が可能で、生体組織と頑強な癒着が得られるカフ部材に係り、特に、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経胃ろう栄養法、膀胱ろうカテーテル、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に有用なカフ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間へ及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
なお、本出願人は、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材であって、補助人工心臓療法などにおいても皮下組織と外界との隔絶性を向上させ、患者がシャワーを浴びることも可能となるカフ部材をWO2005/084742にて提案している。第7図(a),(b)はこのWO2005/084742のFig.10a,10bのカフ部材を示すものである。このカフ部材2Bは、第1フランジ部3と、この第1フランジ部3の一方の面から立設された筒状部3bと、第2フランジ部4と、パッド5とを有する。第1フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形のチューブ挿通孔3aが筒状部3bと同軸に設けられている。第2フランジ部4及びパッド5にもチューブ挿通孔3aと同軸かつ同径の開口4a,5aが設けられている。従って、チューブ挿通孔3a,4a,5aの直径は筒状部3bの内径(直径)と同一となっている。
【0004】
これらのチューブ挿通孔3a〜5a及び筒状部3bにチューブ6が挿通される。
【0005】
第1フランジ部3及び筒状部3b並びに第2フランジ部4は、生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料にて構成されている。この多孔性樹脂は、三次元網状構造の多孔構造を有している。筒状部3bと第1フランジ部3とは一体に設けられている。
【0006】
第2フランジ部4は第1フランジ部3よりも若干小さい大きさであり、通常は第1フランジ部3の外縁が第2フランジ部4の外縁よりも10〜20mm程度張り出すものとなっている。
【0007】
第2フランジ部4には凹所4bが設けられ、この凹所4にパッド5が嵌合配置される。
【0008】
チューブ6はチューブ挿通孔5a、4a、3a及び筒状部3bに挿通され、パッド5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤7等により水密的に接着される。
【0009】
このカフ部材2Bを用いてチューブ6を生体に刺入するには、第8図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させる。また、生体組織を切開してチューブ6を生体組織に刺入し、第1フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部3bはチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。第1フランジ部3は生体組織の露出面に被さると共に、該露出面の周囲の皮膚の縁部に重ね合わされる。
【0010】
このようにカフ部材2を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合、皮膚のダウングロースは、第8図の通り矢印Dのように第1フランジ部3の下側に向って進行する。このため、ダウングロースが筒状部3bに達するまでの時間がかなり長いものとなる。
【特許文献1】WO2005/084742
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記WO2005/084742のカフ部材では、皮膚と生体組織とがフランジ部3の周縁部によって隔てられているため、皮膚が徐々にフランジ部3上から退こうとする。即ち、皮膚の第2フランジ部4側の端縁が該第2フランジ部4から放射方向に離れる方向に縮退しようとする。そのため、長年が経過すると、フランジ部3の中央側が露呈してくるおそれがある。
【0012】
本発明は、このような皮膚の縮退を遅延させることができるカフ部材と、このカフ部材を用いたカフ部材ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)のカフ部材は、生体の外面に重なるフランジ部と、該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、を有し、多孔性三次元網状構造材料よりなるカフ部材であって、該筒状部に生体から引き出されたチューブが挿通されるカフ部材において、該フランジ部に開口又は切欠部を設けたことを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のカフ部材は、請求項1において、該カフ部材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造材料よりなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3のカフ部材は、請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が100〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4のカフ部材は、請求項2又は3において、多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することを特徴とするものである。
【0017】
請求項5のカフ部材は、請求項2ないし4のいずれか1項において、該フランジ部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6のカフ部材は、請求項2ないし5のいずれか1項において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項7のカフ部材は、請求項6において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8のカフ部材は、請求項7において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9のカフ部材は、請求項1ないし8のいずれか1項において、該フランジ部の他方の面に、該フランジ部の外周縁と内周縁との間を周回している凸条が設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
請求項10のカフ部材は、請求項9において、該凸条部分にのみ硬化性化合物を含浸させてあることを特徴とするものである。
【0023】
請求項11のカフ部材は、請求項10において、該硬化性化合物がキチン、キトサン及びケラチンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0024】
請求項12のカフ部材は、請求項1ないし11のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に間隔をあけて複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0025】
請求項13のカフ部材は、請求項1ないし12のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に延在していることを特徴とするものである。
【0026】
請求項14のカフ部材ユニットは、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のカフ部材と、該カフ部材の前記フランジ部の他方の面の中央領域に重なる高分子材料製パッドと
を備えてなることを特徴とするものである。
【0027】
請求項15のカフ部材ユニットは、請求項14において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするものである。
【0028】
請求項16のカフ部材ユニットは、請求項15において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットにあっては、カフ部材にフランジ部が存在するため、皮膚のダウングロース作用が筒状部にまで及ぶのに時間がかかる。また、水がカニューレに沿って皮下組織へ浸入することを防ぐことも可能となる。
【0030】
このフランジ部は、その外周縁側が皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。
【0031】
この結果、長期にわたり、ダウングロースの影響を受けることなく生体に対しカフ部材ユニットを装着しておくことができ、刺入カニューレを濡らすこともなく補助人工心臓療法において患者がシャワーを浴びることも可能となる。
【0032】
また、パッドが生体の外面に重なるように配置されるので、チューブの脈動などの振動がパッドを介しても生体に伝達されるようになり、チューブから生体に加えられる応力が広い範囲に分散される。
【0033】
本発明のカフ部材は、フランジ部に開口又は切欠部が設けられており、この開口又は切欠部を介して皮膚と該皮膚の下の生体組織とが直に接触している。これにより、フランジ部上の皮膚の縮退が抑制される。特に、開口又は切欠部をフランジ部の周方向に間隔をおいて複数個設けたり、開口又は切欠部をフランジ部の周方向に延在させると、効果的である。
【0034】
なお、本発明では、カフ部材を上記請求項2又は3の平均孔径及び見掛け密度を有する、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある多孔性三次元網状構造部を有する材料にて構成した場合、この多孔性三次元網状構造材料の空孔部分へ細胞が容易に侵入して生着し、生体組織と頑強な癒着が得られる。
【0035】
この材料よりなるカフ部材によれば、生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られ、その結果、創傷部を外界と隔絶し、治癒機転における細菌感染等の増悪因子を防御ダウングロースの進行を抑制し、トンネル感染を始めとする各種の感染トラブルの少ないカフ部材が提供される。
【0036】
請求項4の通り、この多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することが好ましい。このような空孔部は、骨格表面を複雑な凹凸面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持に有効となり、細胞の正着性が向上する。
【0037】
本発明のカフ部材は、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に好適に使用することができる。
【0038】
請求項9のように凸条を設けたカフ部材の場合、この凸条よりも外周縁側の上に存在する表皮の末端が該フランジ部の凸条で止まり、皮膚は凸条を乗り越えないようにする。これにより、皮膚がフランジ部と高分子樹脂製パッドの接着面を剥がすように潜り込む現象や、高分子樹脂製パッド上に這い上がる現象を防ぐことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットの実施の形態を詳細に説明する。
【0040】
第1図(a)は実施の形態に係るカフ部材を用いたカフ部材ユニットの分解斜視図、第1図(b)はこのカフ部材ユニットの縦断面図、第2図はこのカフ部材ユニットの使用例を示す断面図、第3図は第2図のIII−III線に沿う断面図、第4図は皮膚の縮退が抑制される作用の説明図である。
【0041】
このカフ部材2は前記第7,8図のカフ部材2Bにおいて第2フランジ部4を省略し、第1フランジ部3に凸条3tと開口10を設けたものである。
【0042】
即ち、第1図の通り、カフ部材2は、フランジ部3と、このフランジ部3の一方の面から立設された筒状部4とを有する。フランジ部3の中央には直径が5〜100mm程度の円形のチューブ挿通孔3aが筒状部4と同軸に設けられている。このチューブ挿通孔3aの直径は筒状部4の内径(直径)と同一となっている。
【0043】
フランジ部3の内周縁と外周縁との間には、凸条3tが周回して設けられている。この凸条3tの内側領域にチューブ挿通孔5aを有したパッド5が嵌合されるようにして重ね合わされる。
【0044】
この実施の形態では、フランジ部3の周縁部すなわち凸条3tよりも外周側に複数個の開口10が周方向に所定間隔をおいて6個設けられている。この実施の形態では、開口10は円形であるが、後述の通り、その形状はこれに限定されず、開口10の個数も6個に限定されない。
【0045】
なお、複数個の開口10の合計の開口面積は、凸条3tよりも外周側のフランジ部3の面積(開口10の面積も含む)の5〜95%、特に10〜60%程度が好適である。1個の開口10の面積は1〜2500mm2、特に20〜200mm2程度が好適である。
【0046】
このカフ部材2は、後述する生体組織との癒着性に優れた多孔性樹脂材料よりなり、筒状部4とフランジ部2とが一体に設けられたものである。
【0047】
フランジ部3は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能である。フランジ部3の厚さは該フランジ部3の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。フランジ3が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。フランジ部3が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0048】
凸条3tの基底部のフランジ部半径方向の幅は0.5〜5.0mm程度が好適である。凸条3tのフランジ部半径方向に沿う断面形状は、方形、台形又は三角形が好適である。凸条3tの高さは0.5〜5.0mm程度が好適であり、パッド5の厚み以上であることが好ましい。
【0049】
凸条3tからフランジ部3の外周縁までの距離は1〜100mm、特に5〜50mm程度が好適である。筒状部4の長さは10〜500mm程度が好適である。筒状部4の肉厚は該筒状部4の物理的強度以外に、後述するカフ部材2の平均孔径やその傾斜性(これらは組織浸潤深度や分化程度へ影響する)など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。ここで筒状部4は直線状とは限らず、刺入部位からチューブに沿って自在に曲げて使用することが可能である。
【0050】
カフ部材ユニット1は、該カフ部材2の凸条3tよりも内側領域にパッド5を重ね合わせ、接着等によって一体化したものである。このパッド5は、凸条3tの内周にぴったりと嵌る大きさであることが好ましい。このパッド5には、フランジ部3のチューブ挿通孔3aと同軸に且つ該チューブ挿通孔3aと同一大きさにてチューブ挿通孔5aが設けられている。
【0051】
このパッド5は、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、キチン、キトサン、ケラチン、ヒアルロン酸、フィブロイン並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上などの高分子材料よりなる。
【0052】
パッド5の厚みは高分子材料の柔軟性とも関連するが、0.1〜100mm程度が好適である。刺入する部位によって当業者によって適宜選択すれば良い。例えば、体側面であれば曲面に追随するためにやや柔軟なパッドを使用し、胸部中央付近の肋骨上であれば体表はほぼ平らであるため、やや硬めのパッドを使用するなどである。このカフ部材ユニット1は、生体外面からチューブ6を生体内に刺入する用途に好適に用いられる。
【0053】
パッド5の厚みは凸条3tの高さよりも小さくても大きくてもよい。パッド5の厚さが凸条3tの高さよりも大きいときは、パッド5の周縁が面取(chamfer)されることが好ましい。
【0054】
チューブ6はチューブ挿通孔5a、3a及び筒状部4に挿通され、パッド部5に高周波融着、熱融着、レーザー融着、超音波融着、接着剤等により水密的に接着される。この実施の形態では、パッド5とチューブ6とを接着剤7によって固着している。
【0055】
このカフ部材ユニット1を用いてチューブ6を生体に刺入するには、第2図の通り皮膚を切開して生体組織を露出させる。また、生体組織を切開してカフ部材ユニット1のチューブ6を生体組織に刺入し、フランジ部3を生体組織の外面に重ね合わせる。筒状部4はチューブ6と共に生体組織内に埋め込まれる。チューブ6の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。
【0056】
このフランジ3の周縁部(凸条3tよりも外周側)に皮膚が重ね合わされる。皮膚は、その縁部が凸条3tの外周縁に接するようにフランジ3の周縁部に被せられる。
【0057】
パッド5の外縁とその周囲の皮膚に跨るようにして、通気性及び遮水性を有した粘着テープ(図示略)が貼着されてもよい。これにより、パッド5の下側への水等の浸入を防止することができる。
【0058】
この実施の形態では、フランジ3の周縁部に開口10を設けているので、フランジ部3上の皮膚とフランジ部3の下側の生体組織とが開口10を通して直に接触する。
【0059】
一般にフランジ部3上の皮膚3は、第4図の矢印Rのように、凸条部3tから離れる放射方向に縮退しようとする。この実施の形態では、開口10においてフランジ部3上下の皮膚と生体組織とが直に接しており、この開口10部分の皮膚が生体組織に密着ないし親和している。そのため、皮膚が生体組織にアンカー留めされた如き状態となり、皮膚の上記縮退が抑制される。また、開口10よりも外周側のフランジ部3上の最外周側上の皮膚が矢印Sのように開口10に向って動こうとする作用が奏され、これによっても矢印R方向への皮膚の縮退が抑制される。
【0060】
なお、この実施の形態に係るカフ部材ユニット1を用いてチューブ6を生体組織に刺入した場合も、皮膚のダウングロースは、前記第7図の矢印Dのようにフランジ部3の下側に向って進行しようとするが、ダウングロースが筒状部4に達するまでの時間がかなり長いものとなる。また、フランジ部3はその凸条3tよりも外周縁側が皮下へ埋入され、皮下組織の浸潤によって器質化される。この凸条3tよりも外周縁側の上に存在する皮膚の末端が該凸条3t、特にその外周側の側面止まり、皮膚は凸条3tを乗り越えてはいない。このため、皮膚が高分子樹脂製パッド5を異物として認識することがない。この結果、皮膚が、高分子樹脂製パッド5とフランジ部3の接着を剥がすようにして隙間に潜り込む現象や、高分子樹脂製パッド5上に這い上がる現象を防ぐことができる。
【0061】
また、チューブ6の脈動等によりチューブ6から生体に加えられる応力がパッド5を介しても生体に伝わるようになり、応力が広い範囲に分散する。このため、チューブ6の周囲の生体組織に加えられる刺激が緩和される。
【0062】
上記実施の形態では、開口10は円形であるが、第5図(a)〜(d)のフランジ部3A〜3Dのように円形以外の形状の開口や切欠部を設けてもよい。なお、第5図(a)〜(d)では凸条3tの図示を省略している。
【0063】
第5図(a)のフランジ部3Aは、周方向に延在する長孔状の開口11を設けたものである。なお、開口11は略楕円形のものであってもよい。
【0064】
第5図(b)〜(d)のフランジ部3B,3C,3Dは、複数個の切欠部12,13又は14を設けたものである。第5図(b)の切欠部12は、フランジ部3Aの外方に連なる入口側が狭く、奥側が広くなった形状である。切欠部12の奥側は略円形となっているが、これに限定されず、例えば第5図(a)のような長孔状や、略楕円形状であってもよい。
【0065】
第5図(c)の切欠部13は、周方向(径方向と斜交方向)に延在している。第5図(d)の切欠部13は、フランジ部3Dの径方向に延在している。
【0066】
第5図(a)〜(d)では、開口又は切欠部が4個ずつ設けられているが、これに限定されない。開口11又は切欠部12〜14の開口面積の面積比の好適な範囲は、前記開口10の場合と同様である。
【0067】
本発明では、フランジ部3から凸条3tを省略してもよい。
【0068】
また、本発明では前記第7図のように第1フランジ部3と第2フランジ部8とを設けたカフ部材2Bにおいて、第1フランジ部3に開口又は切欠部を設けてもよい。
【0069】
第6図(a),(b)はその態様に係るカフ部材2Aを示す第7図と同様部分の斜視図と断面図であり、第1フランジ部3の周縁部に開口10が設けられている。開口10の代わりに長孔状の開口や、各種形状の切欠部を設けてもよい。
【0070】
第6図のその他の構成はそれぞれ第7図と同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0071】
本発明では、凸条3t部分にのみ硬化性化合物を含浸させ強度を高めるようにしてもよい。硬化性化合物としては、キチン、キトサン、ケラチンなどを用いることができる。
【0072】
なお、本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットには複数のチューブ6を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ6(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合には、パッド5に2個のチューブ挿通孔5aを設け、フランジ部3に2個のチューブ挿通孔3aと2本の筒状部4を設ける。これにより、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットにて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減することも可能である。
【0073】
送血管と脱血管をそれぞれ独立に2個カフ部材又はカフ部材ユニットにて刺入した方が良いか、1個のカフ部材又はカフ部材ユニットで送血管及び脱血管を同時に刺入する方が良いか、臨床学的意義、患者の状態、侵襲程度を考慮して当業者によって適宜使い分ければ良い。なお、送血管及び脱血管をこれらよりも太い1本のチューブ内へ挿入し、当該1本のチューブをカフ部材又はカフ部材ユニットを介して生体へ刺入する、いわゆるダブルルーメン式でチューブを挿入することも可能である。もちろん、補助人工心臓療法以外でも1本のチューブ内に人工心臓のポンプ用の電源コード、制御用コード、測定用コード、DDS用の細チューブなど複数の線状構造体を一本のチューブ内にまとめてカフ部材又はカフ部材ユニットを介して刺入することも可能である。
【0074】
次に、カフ部材の好適な材料について説明する。
【0075】
本発明のカフ部材を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる、連通性のある三次元網状構造部は、平均孔径が50〜1,000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の多孔性三次元網状構造であれば良く、厚み方向の切断断面において、その全面が類似の構造を有してもいても、一方の面側と他方の面側において異なる構造を有していても良い。また、部分的に平均孔径や見掛け密度が変化するものであっても良く、例えば、一方の面側から他方の面側に向けて平均孔径や見掛け密度が徐々に変化する、所謂、異方性を有していても良い。厚み方向に平均孔径が同一でないカフ部材を使用する場合には、生体組織との接触面側を大きくし深部において小さい孔径とすることが好ましい。この理由としては、生体組織との接触面から浸潤した組織は、通常厚み方向へ10mm程度の深度までは安定して到達するが、多孔体内に形成される新生血管が成熟していても深部の細胞は壊死したり分化が不十分となる危険性があるため、10mm程度よりも深い部分では孔径を小さくして組織の浸潤を抑制することが好ましいのである。
【0076】
また、生体組織との接触面側には平均孔径を大きく外れる大孔径の孔が存在しても構わない。このような孔としては500〜2,000μm程度の孔が好ましく、これらが生体組織側の表層近くに存在することでコラーゲンなどの細胞外マトリックスを深部まで均質に含浸させること容易となり、また、組織からの細胞の侵入や毛細血管の構築などに有利に働くこととなる。ただし、このような大孔径の孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0077】
多孔性三次元網状構造の平均孔径は、通常は10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であるが、好ましい平均孔径は100〜500μm、より好ましくは200〜500μmである。見掛け密度としては0.01〜0.5g/cm3範囲内であれば、細胞生着性が良好で、優れた物理的強度を維持し、細胞が侵入、生着し、組織化した際に皮下組織と近似した弾性特性が得られるが、好ましくは0.05〜0.3g/cm3、より好ましくは0.05〜0.2g/cm3である。
【0078】
また、平均孔径が同一であっても孔径の分布としては、細胞の侵入に重要な孔径サイズである10〜300μmの孔の寄与率が高いことが望ましく、孔径10〜300μmの孔の寄与率が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であると、細胞が侵入し易く、また、侵入した細胞が接着、成長しやすいため、好ましい。
【0079】
なお、多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径10〜300μmの孔の寄与率とは、全孔の数に対する孔径10〜300μmの孔の数の割合を指す。
【0080】
このような平均孔径、見掛け密度及び孔径分布の多孔性三次元網状構造であれば、細胞が容易に空孔部分へ浸透し、多孔性三次元網状構造部へ細胞が接着、成長し易く、毛細血管の構築がなされ、刺入部において皮下組織とカテーテルやカニューレとの癒着が頑強で良好なカフ部材を得ることができる。
【0081】
このような多孔性三次元網状構造部を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0082】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚を動かした場合に皮下組織とカフ部材の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0083】
本発明のカフ部材には、上記特定の多孔性三次元網状構造を形成した層を第1の層とし、この第1の層に更に異なる構造の第2の層を積層することも可能である。この第2の層としては、繊維集合体や可撓性フィルム、更には、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層が使用可能である。
【0084】
不織布又は織布の有孔性としては100〜5,000cc/cm2/minの範囲のものであれば可撓性、皮下組織との縫合強度など点で好ましい。なお、この有孔性は、JIS L 1004により測定される値で、通気性や通気量ということもある。
【0085】
繊維集合体としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上からなる合成樹脂製であっても良く、また、フィブロイン、キチン、キトサン及びセルロース並びにこれらの誘導体から選択される1種又は2種以上のような天然物由来の繊維からなるものも使用可能である。合成繊維と天然物由来の繊維とを併用したものであっても良い。
【0086】
また、可撓性フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルム、具体的には、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムが例示でき、好ましくは、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、フッ素樹脂及びシリコン樹脂よりなる群から選択される1種又は2種以上よりなるフィルムである。
【0087】
可撓性フィルムとしては中実フィルムのみならず多孔膜や発泡体も使用可能である。中実の可撓性フィルムと積層した場合には、細菌バリア性が大きく、感染管理に有利なカフ部材が得られる。
【0088】
平均孔径や見掛け密度が第1の層の多孔性三次元網状構造とは異なる多孔性三次元網状構造を第2の層とする場合、この多孔性三次元網状構造としては、平均孔径0.1〜200μmで見掛け密度0.01〜1.0g/cm3程度の多孔性三次元網状構造を用いることができる。
【0089】
これらの第2の層を多孔性三次元網状構造層に積層する方法としては、該第2の層が繊維集合体、可撓性フィルム、第1の層の多孔性三次元網状構造とは平均孔径や見掛け密度が異なる多孔性三次元網状構造層の場合には、粘着剤を使用して接着する方法、特にホットメルト不織布を第1の層と第2の層との間に挟みこんで積層し、加熱下で圧着する方法などが挙げられる。このようなホットメルト不織布としては、例えば、日東紡社製PA1001のようなポリアミド型熱粘着シートなどが使用可能である。他にも、溶剤を使用して接触表面の表層部を溶解して接着する方法、熱によって表層部を溶融して接着する方法、超音波や高周波を利用する方法などが例示できる。また、第1の層の製造時に、ポリマードープと繊維集合体や可撓性フィルムを積層して成形するなど、連続的に積層形成することができる。
【0090】
なお、第2の層としては、繊維集合体、可撓性フィルム、多孔性三次元網状構造層が2層以上設けられていても良く、また、第2の層を介して第1の層の多孔性三次元網状構造層が積層された3層構造であっても良い。
【0091】
本発明のカフ部材の多孔性三次元網状構造部には、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に、胚性幹細胞(分化されていても良い。)、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞、及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上の細胞が接着されていても良い。
【0092】
また、本発明のカフ部材は、その多孔性三次元網状構造層を構築する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる骨格自体にも微細な孔を設けることが可能である。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造層の平均孔径の計算の概念へ導入されるものではない。
【0093】
以下に、本発明のカフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を挙げるが、本発明のカフ部材の製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0094】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0095】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0096】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【0097】
さらに多孔質体は、その多孔構造を構築している骨格基材自体にも微細な孔を設けていることが好ましい。特に、平均孔径が100〜650μm、乾燥状態における見かけ密度が0.10g/cm3以下の連通性の三次元網状構造を形成しており、かつ、該多孔性三次元網状構造層を構築するポリウレタン樹脂からなる骨格自体が空隙率70%以上の多孔質体であり、かつ、該骨格自体の表層は微細孔が点在する緻密な層であることが好ましい。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造部の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0098】
第9図は、上記のように骨格基材自体にも微細な孔を設けたポリウレタン製多孔体の断面のSEM像であり、第10図Aはこのポリウレタン製多孔体の表層のSEM写真、図7Bはその部分拡大像である。第9図、第10図A,Bより、多孔体を形成する骨格部分に微細孔が点在することが分かる。
【0099】
第10図B中の大きい円で囲んだ部分をフェザーカッターで切断し、その断面を観察した写真と同等の条件で撮影されたものが第11図である(理解しやすくするために大きい円で囲まれた部分を切断したと記述したが、実際にはランダムに存在する切断面から同等の条件に相当する視野を選択した)。
【0100】
第11図より、ポリウレタン製多孔体の骨格の内部は高空隙率の多孔質となっているものの、その表層は緻密層で被覆されており、かつ、点在的に細胞が浸潤し得ない大きさの微細孔(第11図の小さい円で囲まれた箇所)を介して骨格の外部と連通していることがわかる。
【0101】
ポリウレタン多孔体の構造的特徴、すなわち『三次元網状構造を構築する骨格自体が高空隙率の多孔質であって、かつ、その骨格自体の表層は緻密層で被覆されており、点在的に穿孔する微細孔を介して外界と連通されている』は、以下のような効果を発現する。即ち、ポリウレタン多孔体の骨格自体が多孔質であるために、ここへコラーゲンなどの細胞外マトリックス、アルブミン、酸素、老廃物、水、電解質などが浸潤し、生体組織との間で拡散・交換がされる。一方、細胞成分は骨格内部には存在せず、つまり、細胞の浸潤は骨格表層の緻密層でバリアされる。このようにして、多孔体の骨格部分もが多孔質であって、かつ、細胞(有形成分)が浸潤し得ないために、骨格内部は目詰まりすることなく、多孔体全体へ酸素、栄養分を補給する機能を維持することができ、この結果、良好な組織の浸潤、生着、成熟、血管新生という組織工学上有用な機能が発現される。
【0102】
このポリウレタン多孔体の骨格部分の空隙率を求めるには、まず、平均孔径の測定を前記の通り行う。即ち、多孔体写真の樹脂部分を白とし、空隙(空気部分)を黒として画像処理法により白部分の面積と黒部分の面積を計算する。画像処理により得られた測定視野総面積と、空隙部分総面積と、JIS K7311によるポリウレタン樹脂の比重より計算上の見掛け密度を求める。この見掛け密度は、一般に実測値よりも約10倍以上大きな値となる。これは骨格部分がポリウレタン樹脂からなる中実構造であると仮定したことにより生じた結果である。そこで、計算上の見掛け密度Aと実測値の見掛け密度Bとを計算式(A−B)/A×100(%)に代入して計算することにより、多孔体の骨格自体の空隙率を求めることが可能となる。計算上の見掛け密度が0.91g/cm3であり、実測値の見掛け密度が0.077g/cm3の場合、空隙率91.5%の多孔質であると計算される。
【0103】
このポリウレタン多孔体では、骨格の表面に微細孔は存在しているが、これは細胞が浸潤し得るサイズではなく、あくまで細胞の生着の助けになる凹凸程度のものであることは前述の通りである。この骨格の微細孔は、結果的に生着を補助することを目的とした凹凸の意味合い合わせて持つものの、本質的には、細胞の浸潤後に多孔体全体が、所謂、『目詰まり状態』となった後に、高空隙率の、多孔体の、骨格を栄養分、酸素、水の拡散・交換に最大限に寄与させるための出入口として機能するものである。
【0104】
このようにして製造されたカフ部材のフランジ部への補強部材としての線状体の取付方法は、特定の方法に限定されるものではなく、フランジ部中への挿入や接着材による接着など、種々の方法を採用することができる。
【0105】
上記実施の形態は、本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図2】図1のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図3】別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図4】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図5】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図6】さらに別の実施の形態に係るカフ部材ユニットの構成図である。
【図7】従来例の説明図である。
【図8】図7のカフ部材ユニットの使用例を示す断面図である。
【図9】ポリウレタン多孔体の断面のSEM写真である。
【図10】ポリウレタン多孔体の表層のSEM写真である。
【図11】ポリウレタン多孔体の断面のSEM写真である。
【符号の説明】
【0107】
1 カフ部材ユニット
2,2A,2B カフ部材
3,3A,3B,3C,3D フランジ部
3t 凸条
4 筒状部
5 パッド
6 チューブ
7 接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の外面に重なるフランジ部と、
該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、
を有し、多孔性三次元網状構造材料よりなるカフ部材であって、
該筒状部に生体から引き出されたチューブが挿通されるカフ部材において、
該フランジ部に開口又は切欠部を設けたことを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、該カフ部材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造材料よりなることを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が100〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項2又は3において、多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、該フランジ部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項6において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項8】
請求項7において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、該フランジ部の他方の面に、該フランジ部の外周縁と内周縁との間を周回している凸条が設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項10】
請求項9において、該凸条部分にのみ硬化性化合物を含浸させてあることを特徴とするカフ部材。
【請求項11】
請求項10において、該硬化性化合物がキチン、キトサン及びケラチンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするカフ部材。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に間隔をあけて複数個設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に延在していることを特徴とするカフ部材。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のカフ部材と、
該カフ部材の前記フランジ部の他方の面の中央領域に重なる高分子材料製パッドと
を備えてなることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項15】
請求項14において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項16】
請求項15において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項1】
生体の外面に重なるフランジ部と、
該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、
を有し、多孔性三次元網状構造材料よりなるカフ部材であって、
該筒状部に生体から引き出されたチューブが挿通されるカフ部材において、
該フランジ部に開口又は切欠部を設けたことを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、該カフ部材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂よりなる基材樹脂で形成された、平均孔径10〜500μmで、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3の、連通性のある多孔性三次元網状構造材料よりなることを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項2において、該多孔性三次元網状構造の平均孔径が100〜500μmで、見掛け密度が0.05〜0.3g/cm3であることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項2又は3において、多孔性三次元網状構造材料の骨格部が空孔部を有することを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1項において、該フランジ部の厚みが0.2〜10mmであることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項において、該基材樹脂が、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポシキ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにこれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項6において、該基材樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項8】
請求項7において、該ポリウレタン樹脂がセグメント化ポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、該フランジ部の他方の面に、該フランジ部の外周縁と内周縁との間を周回している凸条が設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項10】
請求項9において、該凸条部分にのみ硬化性化合物を含浸させてあることを特徴とするカフ部材。
【請求項11】
請求項10において、該硬化性化合物がキチン、キトサン及びケラチンよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするカフ部材。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に間隔をあけて複数個設けられていることを特徴とするカフ部材。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項において、前記開口又は切欠部が前記フランジ部の周方向に延在していることを特徴とするカフ部材。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1項に記載のカフ部材と、
該カフ部材の前記フランジ部の他方の面の中央領域に重なる高分子材料製パッドと
を備えてなることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項15】
請求項14において、生体に対する流体の供給又は排出用のチューブが、該パッドと、カフ部材のフランジ部及び筒状部を貫通して挿通されていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【請求項16】
請求項15において、該チューブと該パッドとの界面が密封されていることを特徴とするカフ部材ユニット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−114041(P2008−114041A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162549(P2007−162549)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】
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