説明

カフ部材及びカフ部材ユニット

【課題】生体の外面に重なるフランジ部を有し、このフランジ部に生体刺入管が挿通されるカフ部材において、生体刺入管からフランジ部に力が加えられても生体組織とフランジ部との界面に応力が殆ど生じないカフ部材及びカフ部材ユニットを提供する。
【解決手段】カフ部材3は、第1のフランジ部1と、第1のフランジ部1に重なる第2のフランジ部2と、フランジ部2を覆うカバー6とを有する。フランジ部1,2には開口1a,2aがフランジ部1,2を厚み方向に貫通するように同軸状に設けられている。開口1a,2aは、同一直径を有する。カバー6の開口6aの内径は、チューブ4の外径よりも大きい。第1のフランジ部1は連通孔を有した通気性の多孔質合成樹脂よりなり、生体組織との癒着性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カニューレやカテーテル類を皮下刺入する療法である補助人工心臓による血液循環法、腹膜透析療法、中心静脈栄養法、経カニューレDDS及び経カテーテルDDSなどの生体皮膚刺入部に有用なカフ部材とカフ部材ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年発達した補助人工心臓や腹膜透析などの療法で使用されるカニューレやカテーテルは、外界へ開放された脈管へ挿入・留置される尿道カテーテル、経消化管的栄養法及び気道確保術などと異なり、皮下組織を切開した上で刺入を行って生体内に留置する必要がある。生体内への留置が長期間に及ぶ場合、生体内と外界を隔て、生体内への細菌の侵入や体液水分の揮発を防止するためにカフ部材(スキンカフなどともいう)を利用して疑似的に刺入部を密閉することが行われている。従来、補助人工心臓による血液循環法では、主としてポリエステル繊維からなるファブリックベロアを刺入カニューレに巻き付け、刺入部において該ファブリックベロアと皮下組織を縫合することで固定し、カニューレを留置している。腹膜透析療法においても、ポリエステル繊維からなるファブッリクベロアなどをカフ部材としてカテーテルの皮膚刺入位置に固定し、このカフ部材を圧迫するように皮下組織を縫合することでカテーテルを留置している。これらファブリックベロアにはコラーゲンなどを含浸させ、より頑強な癒着を狙ったものもある。また、生体適合性に優れる部材からなるカフ部材を刺入部の皮下組織に固定させる方法もある。
【0003】
しかしながら、補助人工心臓による血液循環法は、患者体外に設置された脈動ポンプによって血液循環を補助する療法であるため、約1.5Hzに相当する脈動ポンプの振動がカニューレに伝達している。即ち、カニューレの刺入部は、常時、振動による力学的負荷を受けている。更に、患者自身の体位の変化、刺入部の消毒作業時などにカニューレが動くことによっても皮下組織とカフ部材の接着界面にはこれを剥離しようとする応力が生じている。これらの応力負荷によってカフ部材と皮下組織の癒着性が低下することが要因と判断されるトラブルの代表例に、トンネル感染などの感染トラブルがあり、補助人工心臓療法の症例の中でも、これら感染トラブルの経験数は非常に多くなっている。細菌感染による合併症や心不全への影響を考慮すれば、本療法においては感染を防止できるカフ部材の開発が急務であるといえる。
【0004】
同様に、皮下刺入を行ってカテーテルを長期間留置する腹膜透析療法においても、カフ部材に大きな課題がある。即ち、この療法では、透析液を注排液するためにカテーテルを腹腔内に留置するが、生体がカテーテルを異物と認識することによりカテーテルを排除しようとする作用が働き、皮下組織とカテーテルが癒着せず、表皮がカテーテルに沿って腹腔内へ入り込むダウングロース現象が生じてしまう。このダウングロースのポケットは、消毒液の到達を困難なものとし、表皮炎症やトンネル感染の要因となり、最終的には腹膜炎の誘発にも繋がっている。緑膿菌性の腹膜炎を頻繁に経験した患者においてSEP(硬化性被繭性腹膜炎)の発症率が高いという報告もあることを考慮すれば、カフ部材の改良による感染防止は腹膜透析療法の大きな課題であるといえる。
【0005】
このようなことから、上述の如く、コラーゲンを主成分とするカフ部材などが開発されているが、このようなカフ部材の場合、生理食塩水、アルコール、イソジン、血液、体液など液体を吸収することで体積が減少し、カテーテル刺入部に皮下組織を増殖させることが困難であり、その結果、ダウングロースの抑制効果は得られていない。
【0006】
WO 2005/084742 A1号公報(特許文献1)には、生体外面に重なるフランジ部と、該フランジ部の一方の面から立設された筒状部と、該フランジ部の他方の面に被さるパッドとを備えてなり、フランジ部及び筒状部が、連通性のある多孔性三次元網状構造を有しているカフ部材が記載されている。
【0007】
特許文献1のカフ部材にあっては、この網状構造の内部に生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることにより、該カフ部材と皮下組織とが頑強に癒着する。また、この際、フランジ部が筒状部の周囲の広い範囲にわたって皮下組織と癒着するため、表皮のダウングロース作用が筒状部に及びにくく、効果的にダウングロースを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO 2005/084742 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のカフ部材は、生体刺入管が揺動した場合、該生体刺入管からフランジ部に加えられる力がパッドを介してフランジ部に広く伝達され、フランジ部と生体組織との界面には、この力によって応力が生じる。本発明は、生体刺入管が揺動してもフランジ部と生体組織との界面に応力が殆ど生じないカフ部材及びカフ部材ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のカフ部材は、生体の外面に装着されるカフ部材において、連通孔を有した通気性の多孔質合成樹脂よりなる第1のフランジ部と、多孔質合成樹脂よりなり、該第1のフランジ部に重ね合わされた第2のフランジ部と、該第2のフランジ部に重ね合わされたカバーと、該第1のフランジ部、第2のフランジ部及びカバーを貫通する生体刺入管挿通用の開口とを備えてなり、該カバーの開口の径が該第1及び第2のフランジ部の開口の径よりも大きいことを特徴とするものである。
【0011】
請求項2のカフ部材は、請求項1において、第2のフランジ部の外径が第1のフランジ部の外径よりも小さく、カバーの外径は、第2のフランジ部の外径よりも大きく第1のフランジ部の外径よりも小さいことを特徴とするものである。
【0012】
請求項3のカフ部材は、請求項1又は2において、第1のフランジ部の気孔率が80〜99%であり、第2のフランジ部の気孔率が50〜90%であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4のカフ部材は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記合成樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項5のカフ部材は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記カバーの開口の直径が生体刺入管の外径の1.05〜3倍であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項6のカフ部材は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記第2のフランジ部が、独立気孔を有した非通気性の多孔質合成樹脂よりなることを特徴とするものである。
【0016】
請求項7のカフ部材ユニットは、請求項1ないし6のいずれか1項のカフ部材と、該カフ部材の前記開口に挿通された生体刺入管とを備えてなるものである。
【0017】
請求項8のカフ部材ユニットは、請求項7において、生体刺入管のうち第1のフランジ部の近傍部位に、連通孔を有した多孔質合成樹脂よりなる筒体が装着されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカフ部材及びカフ部材ユニットにあっては、軟質な多孔質合成樹脂よりなる第1及び第2のフランジ部に対して開口径が大きいカバーを重ねており、生体刺入管は、カバーは当たることなく首振り状に揺動する。フランジ部は自在に変形するので、フランジ部と皮下組織との界面に応力が殆ど生じない。
【0019】
本発明のカフ部材は、第1のフランジ部が生体に重なるように用いられる。第1のフランジ部は、連通孔を有した多孔質合成樹脂よりなるため、連通孔の内部に生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることにより、該カフ部材と皮下組織とが頑強に癒着する。
【0020】
第2のフランジ部は独立気孔を有した非通気性多孔質合成樹脂よりなることが好ましい。第2のフランジ部を独立気孔を有した非通気性多孔質合成樹脂で構成した場合、菌や水などが侵入しにくくなる。第2のフランジ部の開口の内周面と生体刺入管とを接着することにより、開口内周面と生体刺入管との間に菌や水が侵入することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態に係るカフ部材の構成図である。
【図2】図1のカフ部材の使用例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
第1図(a)は実施の形態に係るカフ部材の分解斜視図、第1図(b)はこのカフ部材の縦断面図、第2図はこのカフ部材の使用例を示す断面図である。
【0024】
第1図の通り、カフ部材3は、第1のフランジ部1と、第1のフランジ部1に重なる第2のフランジ部2と、第2のフランジ部2に重なるカバー6とを有する。第2のフランジ部2の外径は、第1のフランジ部1の外径よりも小さい。カバー6の外径は、第2のフランジ部2の外径よりも大きく、第1のフランジ部1の外径よりも小さい。即ち、カバー6の周縁部は第1のフランジ部1の周縁部と第2のフランジ部2の周縁部との間に位置している。
【0025】
フランジ部1,2には直径が5〜100mm程度の円形の開口1a,2aがフランジ部1,2を厚み方向に貫通するように同軸状に設けられている。開口1a,2aは、この実施の形態では同一直径を有する。開口1a,2aは、フランジ部1,2の中心に設けられてもよく、中心からずれて設けられてもよい。カバー6には、開口1a,2aよりも径が大きい開口6aが設けられている。開口6aは円形であることが好ましい。開口6aの直径は、後述のチューブ4の外径の1.05〜3倍特に1.05〜1.50倍程度が好適である。
【0026】
第1のフランジ部1は、連通孔を有した通気性の多孔質合成樹脂よりなり、生体組織との癒着性に優れる。この実施の形態において、第2のフランジ部2は、独立気孔を有した非通気性の多孔質合成樹脂よりなる。フランジ部1,2同士は、接着剤によって接着されるのが好ましい。この接着は、カフ部材3を生体に装着する前に行ってもよく、第1のフランジ部1を生体に装着した後、第2のフランジ部2を第1のフランジ部1に接着するようにしてもよい。
【0027】
第1のフランジ部1は円形、楕円形、レンズ形、涙滴形等の平面視形状を有するものが使用可能であるが、通常、皮膚をメスで直線に切開した場合には、楕円形に生体組織が露出されるので、該露出部位を効率良く被覆できる楕円形であることが好ましい。第1のフランジ部1には、第2のフランジ部2が係合する凹所1bが設けられているが、凹所1bは省略されてもよい。
【0028】
第1のフランジ部1の厚さは、該フランジ部1の物理的強度以外に、後述する多孔性樹脂材料の平均孔径など複雑な因子が関連するが、通常は0.05〜20mm程度が好適である。
【0029】
フランジ部1が円形の場合、その直径は10〜200mm程度が好適である。フランジ部1が楕円形、レンズ形、涙滴形等の場合、長径が10〜200mmであり、短径が長径の5〜80%程度であることが好ましい。
【0030】
第2のフランジ部2の厚さは第1のフランジ部1の厚みの20〜80%特に20〜60%とりわけ30〜50%程度が好ましい。第2のフランジ部2の平均直径は、フランジ部1の平均直径(フランジ部1が円形の場合はその直径、フランジ部1が楕円形又はそれに近似する形状の場合、長径と短径との平均)の20〜80%、特に30〜60%程度が好ましい。
【0031】
カバー6は、非透水性の合成樹脂よりなる。カバー6の厚さは0.5〜2.0mm特に0.5〜1.0mm程度が好適である。
【0032】
このカフ部材1と生体刺入管としてのチューブ4とによりカフ部材ユニットが構成される。チューブ4のうち、フランジ部1の直下において生体中に埋入される部分に、フランジ部1と同様の連通孔を有した多孔質合成樹脂よりなる筒体5が装着されることが好ましい。筒体5の長さは、10〜100mm特に10〜50mm程度が好適である。
【0033】
このカフ部材1を用いてチューブ4を生体に刺入するには、第2図の通り、皮膚を切開して生体組織を露出させる。また、生体組織を切開し、予め筒体5を装着したチューブ4を生体組織に刺入し、次いで、フランジ部1,2及びカバー6を生体組織の外面に重ね合わせる。チューブ4の周囲の生体組織切開部は必要に応じ縫合される。次いで、フランジ部1を患者体表へ固定するための縫合を行う。なお、フランジ部1の周縁部に数個の孔を予め設けておくと、縫合針でフランジ部1を貫通穿孔させる必要がなく楽に縫合が行える。さらに、フランジ部2の開口2aの内周面とその周囲のチューブ4の外周面とを耐水性及び遮水性を有した接着剤によって接着し、水等の浸入を防止する。
【0034】
カバー6は、その開口6aの内周縁がチューブ4から十分に離隔するように、チューブ4と開口6aとが同軸状となるように配置され、接着剤又は粘着剤によってフランジ部1,2の上面に付着される。カバー6は、フランジ部1を患者体表に縫合した後にフランジ部1,2に対し付着されるのが好ましいが、縫合前に付着してもよい。
【0035】
このカフ部材3にあっては、連通孔を有したフランジ部1の網状構造内部に生体皮下組織から細胞が容易に侵入、生着し、毛細血管が構築されることで皮下組織との癒着が頑強に得られる。
【0036】
このカフ部材3にあっては、フランジ部1,2が共に多孔質合成樹脂よりなり、軟質である。また、カバー6の開口6aの内周縁がチューブ4から十分に離隔している。そのため、チューブ4が第2図の矢印θのように首振り状に揺動した場合、フランジ部1,2はそれに追随して柔軟に変形する。そのため、フランジ部1,2と生体組織や皮膚との界面に応力が殆ど生じない。皮膚とフランジ部1,2(特にフランジ部1)との界面に応力が生じないことにより、皮膚の縮退の防止ないし抑制が期待できる。
【0037】
このカフ部材3にあっては、連通孔を有した通気性のフランジ部1を独立気孔を有した非通気性のフランジ部2で覆っており、フランジ部1,2を非透水性のカバー6で覆っており、また、フランジ部2の開口2aとチューブ4とが遮水性の接着剤で接着されているので、フランジ部1及び開口2aに水や菌が侵入することが防止される。なお、本発明者の研究によると、施術後、経時的に(例えば年単位で)皮膚が縮退し、フランジ部1が部分的に露出してきても、それまでにフランジ部1に皮下組織が浸潤してきているために、感染は防止される。
【0038】
本発明のカフ部材には複数のチューブ4を通すことも可能である。例えば、補助人工心臓療法では送血管及び脱血管の2本のチューブ4(カニューレ)を患者へ刺入するが、この場合には2個の開口を設け、1個のカフ部材ユニットにて2本のチューブを刺入することができ、患者への侵襲を低減できる可能性もある。送血管と脱血管をそれぞれ独立に2個のカフ部材にて刺入した方が良いか、1個のカフ部材で送血管及び脱血管を同時に刺入する方が良いかは、臨床学的意義、患者の状態、侵襲程度を考慮して当業者によって適宜使い分ければ良いし、あるいは、送血管及び脱血管をこれらよりも太い1本のチューブ内へ挿入し、当該1本のチューブをカフ部材又はカフ部材ユニットを介して生体へ刺入する、いわゆるダブルルーメン式でチューブを挿入することも可能である。もちろん、補助人工心臓療法以外でも1本のチューブ内に人工心臓のポンプ用の電源コード、制御用コード、測定用コード、DDS用の細チューブなど複数の線状構造体を一本のチューブ内にまとめてカフ部材又はカフ部材ユニットを介して刺入することも可能である。
【0039】
上記実施の形態では、第2のフランジ部2は、第1のフランジ部1の凹所1bに嵌合し、フランジ部1,2の上面が面一状となっているが、凹所1bは省略されてもよい。また、凹所1bを浅くして第2のフランジ部2を凹所1b周囲の第1のフランジ部1の上面から若干突出するようにしてもよい。また、第1のフランジ部1の上面にカバー6を取り囲むように凸条を周設してもよい。
【0040】
次に、フランジ部1,2及び筒体5並びにカバー6の好適な材料について説明する。
【0041】
第1のフランジ部1及び筒体5は、連通孔(開気孔)を有した通気性の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなり、具体的には、連通性のある三次元網状構造を有することが好ましく、特に平均孔径が50〜1,000μm、見掛け密度が0.01〜0.5g/cm、気孔率が80〜99%特に90〜99%程度の多孔性三次元網状構造を有することが好ましい。なお、部分的に平均孔径や見掛け密度が変化するものであっても良く、例えば、一方の面側から他方の面側に向けて平均孔径や見掛け密度が徐々に変化する、所謂、異方性を有していても良い。厚み方向に平均孔径が同一でないカフ部材を使用する場合には、生体組織との接触面側の孔径を大きくし、深部や外面側において小さい孔径とすることが好ましい。この理由としては、生体組織との接触面から浸潤した組織は、通常厚み方向へ10mm程度の深度までは安定して到達するが、多孔体内に形成される新生血管が成熟していても深部の細胞は壊死したり分化が不十分となる危険性があるため、10mm程度よりも深い部分や、外面側では孔径を小さくして組織の浸潤を抑制することが好ましいのである。
【0042】
また、生体組織との接触面側には平均孔径を大きく外れる大孔径の孔が存在しても構わない。このような孔としては500〜2,000μm程度の孔が好ましく、これらが生体組織側の表層近くに存在することでコラーゲンなどの細胞外マトリックスを深部まで均質に含浸させること容易となり、また、組織からの細胞の侵入や毛細血管の構築などに有利に働くこととなる。ただし、このような大孔径の孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0043】
多孔性三次元網状構造を有した多孔質体の平均孔径は50〜1,000μmで、乾燥状態における見掛け密度が0.01〜0.5g/cmであるが、好ましい平均孔径は200〜600μm、より好ましくは200〜500μmである。見掛け密度としては0.01〜0.5g/cm範囲内であれば、細胞生着性が良好で、優れた物理的強度を維持し、細胞が侵入、生着し、組織化した際に皮下組織と近似した弾性特性が得られるが、好ましくは0.05〜0.3g/cm、より好ましくは0.05〜0.2g/cmである。
【0044】
この平均孔径及び見掛け密度の測定方法は次の通りである。
【0045】
[平均孔径の測定]
両刃カミソリで切断した試料の平面(切断面)を電子顕微鏡(トプコン社製、SM200)にて撮影した写真を使用して、同一平面上の個々の孔を三次元網状構造の骨格から包囲された図形として画像処理(画像処理装置はニレコ社のLUZEX APを使用し、画像取り込みCCDカメラはソニー株式会社のLE N50を使用。)し、個々の図形の面積を測定する。これを真円面積とし、対応する円の直径を求め孔径とする。ただし、多孔体形成時の相分離の効果によって、多孔体の骨格部分に穿孔されている微細孔は無視して同一平面上の連通孔のみを測定する。
【0046】
[見掛け密度の測定]
多孔質構造体を約10mm×10mm×3mmの直方体に両刃カミソリで切断し、投影機(Nikon,V−12)にて測定して得た寸法より体積を求め、その重量を体積で除した値から見かけ密度を求める。
【0047】
また、平均孔径が同一であっても孔径の分布としては、細胞の侵入に重要な孔径サイズである150〜400μmの孔の寄与率が高いことが望ましく、孔径150〜400μmの孔の寄与率が10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上であると、細胞が侵入し易く、また、侵入した細胞が接着、成長しやすいため、好ましい。
【0048】
なお、多孔性三次元網状構造の平均孔径における孔径150〜400μmの孔の寄与率とは、上述の平均孔径の測定方法における、全孔の数に対する孔径150〜400μmの孔の数の割合を指す。
【0049】
このような平均孔径、見掛け密度及び孔径分布の多孔性三次元網状構造であれば、細胞が容易に空孔部分へ浸透し、多孔性三次元網状構造部へ細胞が接着、成長し易く、毛細血管の構築がなされ、刺入部において皮下組織とカテーテルやカニューレとの癒着が頑強で良好なカフ部材を得ることができる。
【0050】
第2のフランジ部2は、前述の連通孔(開気孔)を有した通気性の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなってもよいが、独立気孔(閉気孔)を有した多孔質合成樹脂よりなることが好ましい。連通孔の場合の平均孔径は、0.1〜100μm程度、特に1〜10μm程度が好ましい。独立気孔の場合の平均孔径は5〜500μm特に30〜50μm程度が好ましい。第2のフランジ部2の気孔率は30〜90%特に50〜70%程度が好ましい。第1のフランジ1と第2のフランジ2のJIS K6767の50%厚み圧縮硬度(シートを10mm/分の速度で面で押して、厚みが半分になった時の荷重)は、第1のフランジは0.1〜10kPa、第2のフランジは1〜100kPa程度が好ましい。
【0051】
フランジ部1,2及び筒体5を構成する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体の1種又は2種以上が例示できるが、好ましくはポリウレタン樹脂であり、中でもセグメント化ポリウレタン樹脂が好適である。
【0052】
セグメント化ポリウレタン樹脂は、ポリオール、ジイソシアネート及び鎖延長剤の3成分から合成され、いわゆるハードセグメント部分とソフトセグメント部分を分子内に有するブロックポリマー構造によるエラストマー特性を有するため、このようなセグメント化ポリウレタン樹脂を使用した場合に得られる弾性特性は、患者やカテーテル又はカニューレが動いた場合や、消毒作業時等に刺入部周辺の皮膚を動かした場合に皮下組織とカフ部材の界面に生じる応力を減衰させる効果が期待できる。
【0053】
本発明では、フランジ部1,2及び筒体5は、別材料であってもよいが、生体に対する安全性の試験の手間を軽減するために、同一材料とするのが好ましい。
【0054】
カバー6の構成材料としては、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びメタクリル樹脂並びにそれらの誘導体などの合成樹脂が例示される。これらの合成樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
本発明のカフ部材の多孔性三次元網状構造部には、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、コラーゲンタイプIV、アテロ型コラーゲン、フィブロネクチン、ゼラチン、ヒアルロン酸、ヘパリン、ケラタン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸B、エラスチン、ヘパラン硫酸、ラミニン、トロンボスポンジン、ビトロネクチン、オステオネクチン、エンタクチン、ヒドロキシエチルメタクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合体、ヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体、アルギン酸、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド及びポリビニルピロリドンよりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、形質転換増殖因子α、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合蛋白、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、アンジオポイエチン、神経増殖因子、脳由来神経栄養因子、毛様体神経栄養因子、形質転換増殖因子β、潜在型形質転換増殖因子β、アクチビン、骨形質タンパク、繊維芽細胞増殖因子、腫瘍増殖因子β、二倍体繊維芽細胞増殖因子、ヘパリン結合性上皮増殖因子様増殖因子、シュワノーマ由来増殖因子、アンフィレグリン、ベーターセルリン、エピグレリン、リンホトキシン、エリスロエポイエチン、腫瘍壊死因子α、インターロイキン−1β、インターロイキン−6、インターロイキン−8、インターロイキン−17、インターフェロン、抗ウイルス剤、抗菌剤及び抗生物質よりなる群から選択される1種又は2種以上が保持されていても良く、更に、胚性幹細胞(分化されていても良い。)、血管内皮細胞、中胚葉性細胞、平滑筋細胞、末梢血管細胞、及び中皮細胞よりなる群から選択される1種又は2種以上の細胞が接着されていても良い。
【0056】
また、本発明のカフ部材は、その多孔性三次元網状構造層を構築する熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる骨格自体にも微細な孔を設けることが可能である。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造層の平均孔径の計算の概念へ導入されるものではない。
【0057】
以下に、本発明のカフ部材を構成する熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体の製造方法の一例を挙げるが、本発明のカフ部材の製造方法は何ら以下の方法に限定されるものではない。
【0058】
熱可塑性ポリウレタン樹脂よりなる多孔性三次元網状構造体を製造するには、まず、ポリウレタン樹脂と、孔形成剤としての後述の水溶性高分子化合物と、ポリウレタン樹脂の良溶媒である有機溶媒とを混合してポリマードープを製造する。具体的には、ポリウレタン樹脂を有機溶媒に混合して均一溶液とした後、この溶液中に水溶性高分子化合物を混合分散させる。有機溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、テトラヒドロフランなどがあるが、熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解することができればこの限りではなく、また、有機溶媒を減量するか又は使用せずに熱の作用でポリウレタン樹脂を融解し、ここに孔形成剤を混合することも可能である。
【0059】
孔形成剤としての水溶性高分子化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースなどが挙げられるが、熱可塑性樹脂と均質に分散してポリマードープを形成するものであればこの限りではない。また、熱可塑性樹脂の種類によっては、水溶性高分子化合物でなく、フタル酸エステル、パラフィンなどの親油性化合物や塩化リチウム、炭酸カルシウムなどの無機塩類を使用することも可能である。また、高分子用の結晶核剤などを利用して凝固時の二次粒子の生成、即ち、多孔体の骨格形成を助長することも可能である。
【0060】
熱可塑性ポリウレタン樹脂、有機溶媒及び水溶性高分子化合物などより製造されたポリマードープは、次いで熱可塑性ポリウレタン樹脂の貧溶媒を含有する凝固浴中に浸漬し、凝固浴中に有機溶媒及び水溶性高分子化合物を抽出除去する。このように有機溶媒及び水溶性高分子化合物の一部又は全部を除去することにより、ポリウレタン樹脂からなる多孔性三次元網状構造材料を得ることができる。ここで用いる貧溶媒としては、水、低級アルコール、低炭素数のケトン類などが例示できる。凝固したポリウレタン樹脂は、最終的には、水などで洗浄して残留する有機溶媒や孔形成剤を除去すれば良い。
【0061】
さらに多孔質体は、好ましくは、その多孔構造を構築している骨格基材自体にも微細な孔を設けていることが好ましい。特に、平均孔径が100〜650μm、乾燥状態における見かけ密度が0.10g/cm以下の連通性の三次元網状構造を形成しており、かつ、該多孔性三次元網状構造層を構築するポリウレタン樹脂からなる骨格自体が空隙率70%以上の多孔質体であり、かつ、該骨格自体の表層は微細孔が点在する緻密な層であることが好ましい。このような微細孔は、骨格表面を平滑な表面でなく複雑な凹凸のある表面とし、コラーゲンや細胞増殖因子などの保持にも有効であり、結果として細胞の生着性を上げることが可能である。ただし、この場合の微細孔は、本発明でいう多孔性三次元網状構造部の平均孔径の計算の概念に導入されるものではない。
【0062】
ポリウレタン多孔体の構造的特徴、すなわち『三次元網状構造を構築する骨格自体が高空隙率の多孔質であって、かつ、その骨格自体の表層は緻密層で被覆されており、点在的に穿孔する微細孔を介して外界と連通されている』は、以下のような効果を発現する。即ち、ポリウレタン多孔体の骨格自体が多孔質であるために、ここへコラーゲンなどの細胞外マトリックス、アルブミン、酸素、老廃物、水、電解質などが浸潤し、生体組織との間で拡散・交換がされる。一方、細胞成分は骨格内部には存在せず、つまり、細胞の浸潤は骨格表層の緻密層でバリアされる。このようにして、多孔体の骨格部分もが多孔質であって、かつ、細胞(有形成分)が浸潤し得ないために、骨格内部は目詰まりすることなく、多孔体全体へ酸素、栄養分を補給する機能を維持することができ、この結果、良好な組織の浸潤、生着、成熟、血管新生という生体埋入材料として有用な機能が発現される。
【0063】
このポリウレタン多孔体では、骨格の表面に微細孔は存在しているが、これは細胞が浸潤し得るサイズではなく、あくまで細胞の生着の助けになる凹凸程度のものであることは前述の通りである。この骨格の微細孔は、結果的に生着を補助することを目的とした凹凸の意味合い合わせて持つものの、本質的には、細胞の浸潤後に多孔体全体が、所謂、『目詰まり状態』となった後に、高空隙率の、多孔体の、骨格を栄養分、酸素、水の拡散・交換に最大限に寄与させるための出入口として機能するものである。
【0064】
上記実施の形態は、本発明の一例であり、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。本発明では、第1のフランジ部1の開口1aは第2のフランジ部2の開口2aよりも若干大径であってもよい。また、筒体5をフランジ部1と一体に設けてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 第1のフランジ部
2 第2のフランジ部
3 カフ部材
4 チューブ
5 筒体
6 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の外面に装着されるカフ部材において、
連通孔を有した通気性の多孔質合成樹脂よりなる第1のフランジ部と、
多孔質合成樹脂よりなり、該第1のフランジ部に重ね合わされた第2のフランジ部と、
該第2のフランジ部に重ね合わされたカバーと、
該第1のフランジ部、第2のフランジ部及びカバーを貫通する生体刺入管挿通用の開口と
を備えてなり、
該カバーの開口の径が該第1及び第2のフランジ部の開口の径よりも大きいことを特徴とするカフ部材。
【請求項2】
請求項1において、第2のフランジ部の外径が第1のフランジ部の外径よりも小さく、カバーの外径は、第2のフランジ部の外径よりも大きく第1のフランジ部の外径よりも小さいことを特徴とするカフ部材。
【請求項3】
請求項1又は2において、第1のフランジ部の気孔率が80〜99%であり、第2のフランジ部の気孔率が30〜90%であることを特徴とするカフ部材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記合成樹脂がポリウレタン樹脂であることを特徴とするカフ部材。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記カバーの開口の直径が生体刺入管の外径の1.05〜3倍であることを特徴とするカフ部材。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記第2のフランジ部が、独立気孔を有した非通気性の多孔質合成樹脂よりなることを特徴とするカフ部材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項のカフ部材と、該カフ部材の前記開口に挿通された生体刺入管とを備えてなるカフ部材ユニット。
【請求項8】
請求項7において、生体刺入管のうち第1のフランジ部の近傍部位に、連通孔を有した多孔質合成樹脂よりなる筒体が装着されていることを特徴とするカフ部材ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−160826(P2011−160826A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23154(P2010−23154)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
【Fターム(参考)】