説明

カプセル化物及びその製造方法

【課題】 様々な産業・技術分野において、様々な機能を高く発揮することができるマイクロカプセル化物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 表面に電荷を有する芯物質が、少なくとも、(1)芯物質表面の電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤から誘導された繰り返し構造単位とを有するポリマーからなる第1の被覆層で被覆され、さらに、前記と同様の繰り返し構造単位を有するポリマーからなる第2以降の被覆層で被覆されたことを特徴とし、イオン性基を表面に有する芯物質の水分散液に前記の繰り返し構造単位を加え乳化後、重合開始剤を加えて乳化重合する工程を繰り返すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカプセル化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多くの産業・技術分野で各種物質のカプセル化が行なわれている。印刷、塗料、インク業界では、顔料や色素等のカプセル化が数多く実用化されている。また、医薬や農薬分野においても効果の遅延化や毒性の軽減などを目的に薬物のカプセル化が多用されている。カプセル化法としては、一般に相分離法(コアセルベーション法)、液中乾燥法(界面沈澱法)、スプレードライイング法、パンコーティング法、液中硬化被覆法、界面重合法、界面無機反応法、In-situ重合法等が知られている。しかしながら、これらの方法では、芯物質が限定される、シェル層(芯物質の被覆層)の厚みを自由に設計しにくい、芯物質一個をカプセル化することが難しい、カプセル表面の官能基を自由に設計することが難しい、均一な表面状態を有する粒子を製造することが容易でない、ナノオーダーでのカプセル化が容易でない等の問題があった。
【0003】
また、微細なノズルヘッドからインク液滴を吐出して、文字や図形を紙などの記録媒体の表面に記録するインクジェット記録方法において、最近では、耐水性や耐光性に優れるという理由から顔料を水中に分散させた水系顔料インクが使用されてきている。このような水系顔料インクには、一般的には界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を水性分散媒中に分散させたものが使用されることが多い。このように顔料を分散剤で分散したような場合は、分散剤が顔料粒子表面に単に吸着しているだけであるため、強い剪断力が顔料粒子に加わるようなインクジェット記録方法では、顔料粒子表面に吸着した分散剤が離脱してしまうことがある。これによって、顔料インクの分散性が劣化し、吐出安定性(記録ヘッドから一定方向に安定して吐出される特性)が悪化することがある。また、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤で分散した顔料を用いた顔料インクは、これらの分散剤の吸脱着が起こりやすく、長期間保存しておいた場合には分散が不安定になりやすい。
【0004】
一方、顔料系インクジェットインクに含まれる顔料の記録媒体に対する定着性を向上させる目的で、着色剤粒子がポリマーで被覆されたカプセル化顔料を使用する技術が知られている。
顔料粒子をカプセル化したもの(例えば、特許文献1、2、3参照)や、顔料粒子の表面にポリマーをグラフト重合したもの(例えば、特許文献4〜7参照)が提案されている。また、両親媒性グラフトポリマーを用いて疎水性粉体をカプセル化する方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)が、マイクロカプセル化にあたり、予め重合したポリマーを用いるとカプセル化後の粒子径が大きくなりすぎるという問題があった。
【0005】
前記の提案の他に、転相乳化法によって室温で皮膜形成可能な樹脂を被覆した顔料を用いたインク(例えば、特許文献9〜17参照)や、酸析法によってアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆した顔料を用いたインク(例えば、特許文献18〜27参照)が提案されている。
さらに、転相乳化法によってポリマー微粒子と色材を含浸させてなるポリマーエマルションを用いたインクが提案されている(例えば、特許文献28〜33参照)。しかしながら、転相乳化法や酸析法によって得られた着色剤においても、インクに用いられる浸透剤等の有機溶媒の種類によっては、顔料粒子に吸着されたポリマーの脱離が起きてインク中に溶解することもあり、インクの分散安定性や吐出安定性、画像品質等が十分でない場合があった。
【0006】
【特許文献1】特公平7−94634号公報
【特許文献2】特開平8−59715号公報
【特許文献3】特開2003−306661号公報
【特許文献4】特開平5−339516号公報
【特許文献5】特開平8−302227号公報
【特許文献6】特開平8−302228号公報
【特許文献7】特開平8−81647号公報
【特許文献8】特開平5−320276号公報
【特許文献9】特開平8−218015号公報
【特許文献10】特開平8−295837号公報
【特許文献11】特開平9−3376号公報
【特許文献12】特開平8−183920号公報
【特許文献13】特開平10−46075号公報
【特許文献14】特開平10−292143号公報
【特許文献15】特開平11−80633号公報
【特許文献16】特開平11−349870号公報
【特許文献17】特開2000−7961号公報
【特許文献18】特開平9−31360号公報
【特許文献19】特開平9−217019号公報
【特許文献20】特開平9−316353号公報
【特許文献21】特開平9−104834号公報
【特許文献22】特開平9−151342号公報
【特許文献23】特開平10−140065号公報
【特許文献24】特開平11−152424号公報
【特許文献25】特開平11−166145号公報
【特許文献26】特開平11−199783号公報
【特許文献27】特開平11−209672号公報
【特許文献28】特開平9−286939号公報
【特許文献29】特開2000−44852号公報
【特許文献30】特開2000−53897号公報
【特許文献31】特開2000−53898号公報
【特許文献32】特開2000−53899号公報
【特許文献33】特開2000−53900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、様々な産業・技術分野において、様々な機能を高く発揮することができるカプセル化物及びその製造方法を提供することである。
【0008】
また、本発明は、インクジェット記録用顔料インクにおいては、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、
(1)分散安定性に優れる、
(2)記録ヘッドからの吐出安定性に優れる、
(3)画像の堅牢性に優れる記録物を得ることができる、
(4)画像の印字濃度が高い記録物を得ることができる、
(5)画像の耐擦性に優れる記録物を得ることができる、
(6)記録媒体として普通紙を使用する場合においても、画像が滲みにくく、また画像の発色性が高い記録物を得ることができる、の前記(1)〜(6)の全てを満足するばかりでなく、その他の様々な機能を高く発揮することができる、インクジェット記録用インクを作製可能なカプセル化顔料及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、以下の通りの技術的構成を見出し、本発明を完成したものである。(1)表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆された、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物であって、芯物質と接する第1の被覆層を構成するポリマーが、(I)芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(II)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有し、第1の被覆層の外側に接する第2の被覆層を構成するポリマーが、(III)第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(IV)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有する、カプセル化物。
(2) 第3の被覆層以降の被覆層を有し、該被覆層を構成するポリマーが(I)直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(II)直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有する、(1)に記載のカプセル化物。
(3) 前記イオン性重合性界面活性剤B又は前記イオン性重合性界面活性剤Dと共にそれぞれのイオン性重合性界面活性剤と同種の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする(1)又は(2)に記載のカプセル化物。
(4) 前記各被覆層の少なくともいずれかのポリマーが疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のカプセル化物。
(5) 表面に電荷を有する芯物質を、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆する、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物の製造方法であって、(I)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(II)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(III)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(IV)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層を形成することを特徴とするカプセル化物の製造方法。
(6) (I)少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層を形成したカプセル化物の水性分散液に当該カプセル化物の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(II)当該カプセル化物の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第3の被覆層以降の被覆層を形成することを特徴とする(5)に記載のカプセル化物の製造方法。
(7) 表面に電荷を有する芯物質を、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆する、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物の製造方法であって、(I)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(II)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び当該イオン性重合性界面活性剤Bと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(III)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(IV)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D及び当該イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層を形成することを特徴とするカプセル化物の製造方法。
(8) (I)少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層を形成したカプセル化物の水性分散液に当該カプセル化物の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(II)当該カプセル化物の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D及び当該イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第3の被覆層以降の被覆層を形成することを特徴とする(7)に記載のカプセル化物の製造方法。
(9) 各被覆層の少なくともいずれかを形成する際に、各イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーと共に疎水性モノマーを加えることを特徴とする(5)〜(8)のいずれかに記載のカプセル化物の製造方法。
(10) イオン性重合性界面活性剤B又はイオン性重合性界面活性剤Dを加える前に疎水性モノマーを加えて混合することを特徴とする(9)に記載のカプセル化物の製造方法。
(11) イオン性重合性界面活性剤B又はイオン性重合性界面活性剤Dを加え混合後に疎水性モノマーを加えて混合することを特徴とする(9)に記載のカプセル化物の製造方法。
(12) 芯物質が顔料粒子であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のカプセル化顔料。
(10) 前記カプセル化顔料を含有する顔料分散液。
(11) 前記カプセル化顔料を含有する顔料インク。
【0010】
本発明に係るカプセル化物及びその製造方法によれば、(1)本発明においては芯物質を被覆するポリマー層を幾層も重ねることができ、その各ポリマー層に異なる機能を付与することも可能であることから、カプセル化物の高機能化、高性能化が容易である。また、(2)芯物質を被覆するポリマー層を幾層も重ねることによって被覆層を厚くすることができる。(3)単層のカプセル化物においてはポリマー層に必要な諸特性を所持させるためには、構成成分の調製に工夫が必要であるが、本発明においては各ポリマー層に異なる機能をもたせることで、容易に目的とする特性を持ったカプセル化物を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明のカプセル化物及びその製造方法について詳細に説明する。 本発明に係るカプセル化物は、表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆されたカプセル化物であって、芯物質と接する第1の被覆層を構成するポリマーが、(1)芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有し、第1の被覆層の外側に接する第2の被覆層又は更なる被覆層を構成するポリマーが、(3)第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(4)第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有することを特徴としている。
前記の被覆層は少なくとも2層あれば良く、必要に応じて3層以上あっても良い。
【0012】
このようなカプセル化物は、(1)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(3)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(4)第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層又は更なる被覆層を形成することにより、好適に製造できる。
もしくは、(1)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び当該イオン性重合性界面活性剤Bと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(3)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(4)第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D及び当該イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層又は更なる被覆層を形成することによって好適に製造できる。
【0013】
このような重合法によれば、(1)芯物質の表面のイオン性基と芯物質の表面のイオン性基と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基がイオン的に結合し、(2)イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーの疎水性基と芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bの疎水性基が向き合い、疎水性基同士の間に第1の被覆層が形成され、ついで、(3)第1の被覆層表面又は直下の被覆層表面のイオン性基と第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーのイオン性基がイオン的に結合し、(4)イオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーの疎水性基と第1の被覆層又は直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dの疎水性基が向き合い、疎水性基同士の間に第2のあるいはそれ以上の被覆層が形成され、(5)イオン性重合性界面活性剤Dのイオン性基が水相側に向いて配向した構造が形成される。
【0014】
すなわち、重合反応前での芯物質の周囲に存在するイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーの配置形態が極めて高度に制御され、最外殻では水相に向かってイオン性基が配向した状態が形成される。そして、重合反応によって、この高度に制御された形態のまま、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性親水性モノマーがポリマーに転化される。さらに、該ポリマー層(被覆層)表面の周囲に、前記と同様に、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーの配置形態が極めて高度に制御され、最外殻では水相に向かってイオン性基が配向した状態が形成される。そして、重合反応によって、この高度に制御された形態のまま、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーがポリマーに転化され、さらに2層目以降のポリマー層が形成される。したがって、本発明のマイクロカプセル化物は極めて高精度に構造が制御されたものとなる。
【0015】
本発明のカプセル化物の構造について、以下、図面を用いて説明する。
図1は、親水性基としてアニオン性基14を表面に有する芯物質1が、水を主成分とする溶媒(以下、水性溶媒ともいう)に分散するとともに、カチオン性基11と疎水性基12と重合性基13とを有するカチオン性重合性界面活性剤2(イオン性重合性界面活性剤A。以下、単にAとも示す。)と、アニオン性基14'と疎水性基12'と重合性基13'とを有するアニオン性重合性界面活性剤3(イオン性重合性界面活性剤B。以下、単にBとも示す。)とに対して、共存している状態を示す図である。カチオン性重合性界面活性剤Aは、そのカチオン性基11が芯物質1のアニオン性基14に向くように配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤2(A)の疎水性基12と重合性基13に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤3(B)の疎水性基12'と重合性基13'が向き、他のアニオン性重合性界面活性剤3(B)のアニオン性基14'は水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1から離れる方向に向いている。
【0016】
このような水性分散液に例えば重合開始剤を添加するなどしてカチオン性重合性界面活性剤2(A)の重合性基13ならびにアニオン性重合性界面活性剤3(B)の重合性基13'を重合させることによって、図2に示すように、芯物質1が第1の被覆層であるポリマー層60'で被覆される。第1の被覆層であるポリマー層60'で被覆された粒子は、ポリマー層60'の表面にアニオン性基14'を有するので、水性溶媒に分散可能である。
【0017】
さらに第1の被覆層であるポリマー層60'で被覆された粒子の水性分散液に前記と同様に、カチオン性重合性界面活性剤2(イオン性重合性界面活性剤C。以下、単にCとも示す。)と、アニオン性重合性界面活性剤3(イオン性重合性界面活性剤D。以下、単にDとも示す。)とを共存させると、図3に示すように、カチオン性重合性界面活性剤2(C)は、そのカチオン性基11がポリマー層60'の表面のアニオン性基14’に向くように配置され、イオン性の強い結合で吸着する。そして、このカチオン性重合性界面活性剤2(C)の疎水性基12と重合性基13に対しては、疎水性相互作用によって、アニオン性重合性界面活性剤Dの疎水性基12'と重合性基13'が向き、他のアニオン性重合性界面活性剤3(D)のアニオン性基14'は水性溶媒の存在する方向、すなわち芯物質1から離れる方向に向いている。そして、このような水性分散液に、前記と同様の方法により、例えば重合開始剤を添加するなどしてカチオン性重合性界面活性剤2(C)の重合性基13ならびにアニオン性重合性界面活性剤3(D)の重合性基13'を重合させることによって、図4に示すように、芯物質1が第1の被覆層(ポリマー層60')及び第2の被覆層(ポリマー層60")の2層で被覆された本発明のマイクロカプセル化物100が作製される。ここで、ポリマー層60”の表面はアニオン性基14”を有するので、マイクロカプセル化物100は、水性溶媒に分散可能である。
【0018】
以上、図面を用いて分散状態を挙げたが、先ず、芯物質1が、その表面にアニオン性基を有することによって、水性溶媒に分散した状態となっている。このような本発明のカプセル化物によれば、図4に示すように、カプセル化物の表面のアニオン性基が水性溶媒の存在する方向に向いて規則正しく密に配向していることから、カプセル化物の水性溶媒に対する分散安定性を向上できる。
【0019】
本発明のカプセル化物においては、上述したように、イオン性基が水性溶媒側に向かって規則正しく密に配向しているものと考えられるので、カプセル化物の間に、効果的な静電的な反発力が生じているものと考えられる。また、このような静電的な反発力に加えて、芯物質を被覆しているポリマーに起因する立体障害による効果(高分子効果)も、本発明のカプセル化物が水性媒体中で優れた分散安定性を有する一因となっているものと考えられる。
【0020】
上記図面で挙げた芯物質1は正電荷もしくは負電荷のいずれかを有する。イオン性重合性界面活性剤Aは、芯物質1の表面電荷と反対電荷を有し、イオン性重合性界面活性剤Bは芯物質1の表面電荷と同種又は反対の電荷を有する。イオン性重合性界面活性剤Cは、カプセル化物が2層の膜で被覆されている場合には、第1の被覆層の表面電荷と反対の電荷を有し、カプセル化物が3層以上の膜で被覆されている場合には、直下の被覆層の表面電荷と反対の電荷を有する。イオン性重合性界面活性剤Dは、カプセル化物が2層の膜で被覆されている場合には、第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有し、カプセル化物が3層以上の膜で被覆されている場合には、直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有する。
【0021】
また、イオン性重合性界面活性剤A及びCの代わりにイオン性モノマーを用いることが可能である。さらに、イオン性重合成界面活性剤B及びDと共にそれぞれのイオン性重合性界面活性剤と同種の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することも可能である。
【0022】
本発明のカプセル化物のアスペクト比(長短度)は1.0〜1.3であり、かつ、Zingg指数は、1.0〜1.3(より好ましくは1.0〜1.2)であることが好ましい。
ある粒子の短径をb、長径をl、厚みをt(l≧b≧t>0)とした場合、アスペクト比(長短度)はl/b(≧1)、扁平度はb/t(≧1)であり、Zingg指数=長短度/扁平度=(l・t)/b2である。すなわち、真球は、アスペクト比が1であり、かつ、Zingg指数が1となる。
Zingg指数が1.3より大きくなると、カプセル化物がより扁平形状となって等方性が低くなる。アスペクト比ならびにZingg指数を上記範囲内とする方法としては特に限定されないが、イオン性基を表面に有する芯物質が前記した乳化重合法によりポリマーで被覆されたカプセル化物は、この条件を容易に満たし得る。
【0023】
なお、酸析法や転相乳化法等の乳化重合法以外の方法によって作製されたカプセル化物では、アスペクト比ならびにZingg指数が上記範囲内になり難い。
芯物質が顔料である本発明のカプセル化顔料はアスペクト比ならびにZingg指数が上記の範囲となり、真球状となるが、これによって、インクの流動特性がニュートニアンとなりやすく、吐出安定性に優れたものとなる。また、真球状であることから、紙等の記録媒体に着弾した場合にカプセル化顔料が記録媒体上に高密度で配置され、印刷濃度や発色を高効率で発現することができる。また、真球状であることから、分散性や分散安定性にも優れる。
【0024】
次に、本発明に係るカプセル化物の構成成分について詳細に説明する。
〔芯物質〕
本発明のカプセル化物の芯物質としては、表面に電荷を持つもの、或は化学的処理などにより電荷を持つ官能基をその表面に導入したものである。具体的には、色材、無機物、有機物、無機有機複合粒子、無機コロイド粒子、ポリマー粒子、金属酸化物(シリカ、チタニア等)等が挙げられる。
本発明の方法によって有機物をカプセル化する場合、例えば、危険な薬品等の取り扱い性を良くする等の効果を奏することができる。また、本発明の方法によって無機有機複合粒子を製造する場合は、樹脂成形体等の充填材として利用することができ、特性を向上させることができる。また、本発明の方法によって無機コロイド粒子をカプセル化する場合は、透明性の高いハードコート材として使用することができる。また、本発明の方法によって色材をカプセル化する場合は、塗料や顔料インク、トナー等の着色剤として使用することができる。
本発明に係るカプセル化物においては、前記の芯物質を1種又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0025】
以下に、本発明に使用することができる色材について、さらに詳細に説明する。
無機顔料としては、ファーネスブラック,ランブブラック,アセチレンブラック,チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.l.ピグメントブラック7)類、あるいは、酸化鉄顔料等を挙げることができる。有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、及びキレートアゾ顔料などを含む。)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、又はキノフラノン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート又は酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、又はアニリンブラックなどを使用することができる。
【0026】
本発明に用いることができる顔料について以下に詳しく述べる。
ブラック用として使用される無機顔料として、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、又はMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、又はSpecial Black 4等を使用することができる。また、ブラック用の有機顔料としては、アニリンブラック(C.l.ピグメントブラック1)等の黒色有機顔料を用いることができる。
【0027】
イエロー有機顔料としては、C.I.Pigment Yellow 1, C.I.Pigment Yellow 2, C.I.Pigment Yellow 3, C.I.Pigment Yellow 4, C.I.Pigment Yellow 5, C.I.Pigment Yellow 6, C.I.Pigment Yellow 7, C.I.Pigment Yellow 10, C.I.Pigment Yellow 11,C.I.Pigment Yellow 12, C.I.Pigment Yellow 13, C.I.Pigment Yellow 14, C.I.Pigment Yellow 16, C.I.Pigment Yellow 17, C.I.Pigment Yellow 24, C.I.Pigment Yellow 34, C.I.Pigment Yellow 35, C.I.Pigment Yellow 37, C.I.Pigment Yellow 53, C.I.Pigment Yellow 55, C.I.Pigment Yellow 65,C.I.Pigment Yellow 73, C.I.Pigment Yellow 74, C.I.Pigment Yellow 75, C.I.Pigment Yellow 81, C.I.Pigment Yellow 83, C.I.Pigment Yellow 93, C.I.Pigment Yellow 94, C.I.Pigment Yellow 95, C.I.Pigment Yellow 97, C.I.Pigment Yellow 98, C.I.Pigment Yellow 99, C.I.Pigment Yellow 108, C.I.Pigment Yellow 109, C.I.Pigment Yellow 110, C.I.Pigment Yellow 113, C.I.Pigment Yellow 114, C.I.Pigment Yellow 117, C.I.Pigment Yellow 120, C.I.Pigment Yellow 124, C.I.Pigment Yellow 128, C.I.Pigment Yellow 129, C.I.Pigment Yellow 133, C.I.Pigment Yellow 138, C.I.Pigment Yellow 139, C.I.Pigment Yellow 147, C.I.Pigment Yellow 151, C.I.Pigment Yellow 153, C.I.Pigment Yellow 154, C.I.Pigment Yellow 167, C.I.Pigment Yellow 172,C.I.Pigment Yellow 180等が挙げられる。
【0028】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.Pigment Red 1, C.I.Pigment Red 2, C.I.Pigment Red 3, C.I.Pigment Red 4, C.I.Pigment Red 5, C.I.Pigment Red 6, C.I.Pigment Red 7, C.I.Pigment Red 8, C.I.Pigment Red 9, C.I.Pigment Red 10, C.I.Pigment Red 11, C.I.Pigment Red 12, C.I.Pigment Red 14, C.I.Pigment Red 15, C.I.Pigment Red 16, C.I.Pigment Red 17, C.I.Pigment Red 18, C.I.Pigment Red 19, C.I.Pigment Red 21, C.I.Pigment Red 22, C.I.Pigment Red 23, C.I.Pigment Red 30, C.I.Pigment Red 31, C.I.Pigment Red 32, C.I.Pigment Red 37, C.I.Pigment Red 38, C.I.Pigment Red 40, C.I.Pigment Red 41, C.I.Pigment Red 42, C.I.Pigment Red 48(Ca), C.I.Pigment Red 48(Mn), C.I.Pigment Red 57(Ca), C.I.Pigment Red 57:1, C.I.Pigment Red 88, C.I.Pigment Red 112, C.I.Pigment Red 114, C.I.Pigment Red 122, C.I.Pigment Red 123, C.I.Pigment Red 144, C.I.Pigment Red 146, C.I.Pigment Red 149, C.I.Pigment Red 150, C.I.Pigment Red 166, C.I.Pigment Red 168, C.I.Pigment Red 170, C.I.Pigment Red 171, C.I.Pigment Red 175, C.I.Pigment Red 176, C.I.Pigment Red 177, C.I.Pigment Red 178, C.I.Pigment Red 179, C.I.Pigment Red 184, C.I.Pigment Red 185, C.I.Pigment Red 187, C.I.Pigment Red 202 ,C.I.Pigment Red 209, C.I.Pigment Red 219, C.I.Pigment Red 224, C.I.Pigment Red 245,又はC.I.Pigment Violet 19, C.I.Pigment Violet 23, C.I.Pigment Violet 32, C.I.Pigment Violet 33, C.I.Pigment Violet 36, C.I.Pigment Violet 38, C.I.Pigment Violet 43, C.I.Pigment Violet 50等が挙げられる。
【0029】
シアン有機顔料としては、C.I.Pigment Blue 1, C.I.Pigment Blue 2, C.I.Pigment Blue 3, C.I.Pigment Blue 15, C.I.Pigment Blue 15:3, C.I.Pigment Blue 15:34, C.I.Pigment Blue 15:4, C.I.Pigment Blue 16, C.I.Pigment Blue 18, C.I.Pigment Blue 22, C.I.Pigment Blue 25, C.I.Pigment Blue 60,C.I.Pigment Blue 65, C.I.Pigment Blue 66, C.I.Vat Blue 4, C.I.Vat Blue 60 等が挙げられる。シアンインクの色材として用いられる。
【0030】
また、マゼンタ、シアン、イエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7, C.I.Pigment Green 10, C.I.Pigment Brawn 3, C.I.Pigment Brawn 5, C.I.Pigment Brawn 25, C.I.Pigment Brawn 26, C.I.Pigment Orange 1, C.I.Pigment Orange 2, C.I.Pigment Orange 5, C.I.Pigment Orange 7, C.I.Pigment Orange 13, C.I.Pigment Orange 14, C.I.Pigment Orange 15, C.I.Pigment Orange 16, C.I.Pigment Orange 24, C.I.Pigment Orange 34, C.I.Pigment Orange 36, C.I.Pigment Orange 38, C.I.Pigment Orange 40, C.I.Pigment Orange 43, C.I.Pigment Orange 63, 等が挙げられる。これらも、インクの色材として用いられる。
【0031】
本発明においては、上記に挙げた有機顔料以外にも分散染料や油溶性染料等の水に不溶もしくは難溶の染料も好適に使用することができる。
【0032】
上記の芯物質として用いる顔料は、以下に例示する方法等によって、電荷を有する官能基を芯物質表面に化学結合によって導入することができる。ただし、本発明に用いる表面に電荷を有する芯物質は少なくとも表面に電荷を有していれば良く、したがって、少なくとも電荷を有する官能基が芯物質表面に存在していれば良いことから、以下に例示する方法に限定されるものではない。
【0033】
電荷を有する官能基を顔料(芯物質)表面に化学結合によって導入する方法としては、イオン性基(以下の方法では、アニオン性基)を顔料粒子表面に化学処理によって導入する方法がある。その一例を以下に示す。先ず、顔料粒子をスルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、キノリン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、液体二酸化硫黄、二硫化炭素、トリクロロフルオロメタンなどの溶剤に分散させ、この分散液に硫酸,発煙硫酸,三酸化硫黄,クロロ硫酸,フルオロ硫酸,アミド硫酸,スルホン化ピリジン塩,スルファミン酸等の硫黄を含有する化合物を添加し、60〜200℃に加熱して3〜10時間攪拌しながら、反応させることにより顔料粒子表面にスルホン基を導入することができる。この後、水洗、限外濾過、逆浸透、遠心分離等を行い、溶剤および未反応物を取り除くことによって表面にスルホン基(イオン性基)を有する顔料粒子を得ることができる。
【0034】
〔イオン性重合性界面活性剤〕
本発明に用いられるイオン性重合性界面活性剤は、カチオン性でもアニオン性でもよく、芯物質表面の電荷によって適宜選択される。例えば、芯物質の表面の電荷が負の電荷であるときは、イオン性重合性界面活性剤はカチオン性重合性界面活性剤が選択される。
イオン性重合性界面活性剤は、イオン性基と疎水性基とさらに重合性基を有するイオン性界面活性剤である。重合性基としては、ラジカル重合が可能な不飽和炭化水素基が好ましく、具体的には、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロペニル基、ビニリデン基、及びビニレン基からなる群から選択された基であることが好ましい。このなかでも特にアリル基、メタクリロイル基、アクリロイル基が好ましい。イオン性重合性界面活性剤は、イオン性基として、アニオン性基、カチオン性基のいずれを有するかによって、それぞれアニオン性重合性界面活性剤、カチオン性重合性界面活性剤と称される。
【0035】
〔カチオン性重合性界面活性剤〕
カチオン性基としては、一級アンモニウムカチオン、二級アンモニウムカチオン、三級アンモニウムカチオン、及び第四級アンモニウムカチオンからなる群から選択されたカチオン性基が好ましい。一級アンモニウムカチオンとしてはモノアルキルアンモニウムカチオン(RNH3+)等を、二級アンモニウムカチオンとしてはジアルキルアンモニウムカチオン(RNH2+)等を、三級アンモニウムカチオンとしてはトリアルキルアンモニウムカチオン(RNH)等を、第四級アンモニウムカチオンとしては(R)等を挙げることができる。ここで、Rは、疎水性基及び重合性基であり、以下に示すものを挙げることができる。疎水性基としては、炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基からなる群から選ばれる一種又は二種以上であることが好ましく、分子中にアルキル基及びアリール基の両者を有することもできる。また、上記カチオン性基の対アニオンとしては、Cl、Br、I、CHOSO、COSOなどを挙げることができる。
【0036】
カチオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式R[4−(l+m+n)]・Xで表される化合物を挙げることができる(前記一般式中、Rは重合性基であり、R、R、Rはそれぞれ炭素数が8〜16のアルキル基及びフェニル基、フェニレン基等のアリール基であり、XはCl、Br、I、CHOSO、COSOであり、l 、m 及びnはそれぞれ1又は0である)。ここで、前記重合性基としては、前記したものを挙げることができる。
【0037】
カチオン性重合性界面活性剤の具体例としては、メタクリル酸ジメチルアミノエチルオクチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルセチルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルテトラデシルクロライド塩、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩、等を挙げることができる。以上例示したカチオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0038】
〔アニオン性重合性界面活性剤〕
アニオン性重合性界面活性剤は、前記のアニオン性基と前記の疎水性基とさらに前記の重合性基を有するアニオン性界面活性剤である。
アニオン性重合性界面活性剤の具体例としては、特公昭49−46291号公報、特公平1−24142号公報、又は特開昭62−104802号公報に記載されているようなアニオン性のアリル誘導体、特開昭62−221431号公報に記載されているようなアニオン性のプロペニル誘導体、特開昭62−34947号公報又は特開昭55−11525号公報に記載されているようなアニオン性のアクリル酸誘導体、特公昭46−34898号公報又は特開昭51−30284号公報に記載されているようなアニオン性のイタコン酸誘導体などを挙げることができる。
【0039】
本発明において使用するアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(31):
【0040】
【化1】

【0041】
[式中、R21及びR31は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、
は、炭素−炭素単結合又は式:
−CH−O−CH
で表される基であり、mは2〜20の整数であり、Xは式−SOで表される基であり、Mはアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物、又は、例えば、下記一般式(32):
【0042】
【化2】

【0043】
[式中、R22及びR32は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Zは、炭素−炭素単結合又は式:
−CH−O−CH
で表される基であり、nは2〜20の整数であり、Yは式−SOで表される基であり、Mはアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。
【0044】
前記式(31)で表されるアニオン性重合性界面活性剤としては、特開平5−320276号公報、又は特開平10−316909号公報に記載されている化合物を挙げることができる。式(31)におけるmの値を適宜調整することによって、色材粒子をカプセル化して得られるカプセル化色材粒子表面の親水性を調整することが可能である。式(31)で表される好ましい重合性界面活性剤としては、下記の式(310)で表される化合物を挙げることができ、さらに具体的には、下記の式(31a)〜(31d)で表される化合物を挙げることができる。
【0045】
【化3】

【0046】
[式中、R31、m、及びMは式(31)で表される化合物と同様である。]
【0047】
【化4】

【0048】
【化5】

【0049】

【化6】

【0050】

【化7】

【0051】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−10Nは、式(310)で表される化合物において、MがNH、R31がC19、m=10とされる化合物である。旭電化工業株式会社のアデカリアソープSE−20Nは、式(310)で表される化合物において、MがNH、R31がC19、m=20とされる化合物である。
【0052】
また、本発明において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(33):
【0053】
【化8】

【0054】
[式中、pは9又は11であり、qは2〜20の整数であり、Aは−SOで表わされる基であり、Mはアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。]
で表される化合物が好ましい。式(33)で表される好ましいアニオン性重合性界面活性剤としては、以下の化合物を挙げることができる。
【0055】
【化9】

【0056】
[式中、rは9又は11、sは5又は10である。]
【0057】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンKHシリーズ(アクアロンKH−5、及びアクアロンKH−10)(以上、商品名)などを挙げることができる。アクアロンKH−5は、上記式(33)で示される化合物において、rが9及びsが5である化合物と、rが11及びsが5である化合物との混合物である。アクアロンKH−10は、上記式で示される化合物において、rが9及びsが10である化合物と、rが11及びsが10である化合物との混合物である。
【0058】
また、本発明に用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、下記の式(34)で表される化合物が好ましい。
【0059】
【化10】


【0060】
〔式中、Rは炭素数8〜15のアルキル基であり、nは2〜20の整数であり、Xは−SO3Bで表わされる基であり、Bはアルカリ金属、アンモニウム塩又はアルカノールアミンである。〕
上記アニオン性重合性界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭電化工業株式会社製のアデカリアソープSRシリーズ(アデカリアソープSR−10、SR−20、SR−1025)(以上、商品名)などを挙げることができる。アデカリアソープSRシリーズは、上記一般式(34)において、BがNHで表される化合物であって、SR−10はn=10、SR−20はn=20である化合物である。
【0061】
また、本発明に用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、下記の式(A)で表される化合物も使用できる。
【0062】
【化11】

【0063】
[上記式(A)中、R4は水素原子又は炭素数1から12の炭化水素基を表し、lは2〜20の数を表し、Mはアルカリ金属、アンモニウム塩、又はアルカノールアミンを表す。]
【0064】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製のアクアロンHSシリーズ(アクアロンHS−10、HS−20、及びHS−1025)(以上、商品名)が挙げられる。
また、本発明において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(35)で表されるアルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩を挙げることができる。
【0065】

【化12】

【0066】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール JS−2を挙げることができ、上記一般式(35)において、m=12で表される化合物である。
【0067】

また、本発明において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(36)で表されるメタクリロイルオキシポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム塩を挙げることができる。下記式で、nは1〜20である。
【0068】

【化13】

【0069】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、三洋化成工業株式会社のエレミノール RS−30を挙げることができ、上記一般式(36)において、n=9で表される化合物である。
【0070】
また、本発明において用いるアニオン性重合性界面活性剤としては、例えば、一般式(37)で表される化合物を用いることができる。
【0071】
【化14】


【0072】
上記アニオン性重合性界面活性剤としては市販品を用いることもでき、日本乳化剤株式会社のAntox MS−60がこれに当たる。
以上に例示したアニオン性重合性界面活性剤は、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0073】
[イオン性モノマー]
本発明で用いるイオン性モノマーは、イオン性基および重合性基を有する化合物で、水溶性のものである。上記のイオン性基および重合性基としては、前述したものと同様である。イオン性基として、アニオン性基、カチオン性基のいずれを有するかによって、それぞれアニオン性モノマー(アニオン性水溶性モノマー)、カチオン性モノマー(カチオン性水溶性モノマー)と称される。
【0074】
本発明で使用できるカチオン性モノマーの好ましい具体例としては、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノメチルアクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、ジイソプロピルアミノメチルアクリルアミド、ジイソプロピルアミノエチルアクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジエチルアミノメチルメタクリルアミド、ジエチルアミノエチルメタクリルアミド、ジエチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジイソプロピルアミノメチルメタクリルアミド、ジイソプロピルアミノエチルメタクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピルメタクリルアミド、等のハロゲン化水素、硫酸、硝酸、有機酸等の中和塩、ハロゲン化アルキル、ベンジルハライド、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等による四級化物が挙げられる。これらの中でもメタクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド塩、及び2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド塩が好ましく用いられる。上記のカチオン性モノマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、アクリエステルDMC(三菱レイヨン(株))、アクリエステルDML60(三菱レイヨン(株))、及びC−1615(第一工業製薬(株))などを挙げることができる。以上例示したカチオン性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0075】
本発明において使用できるアニオン性モノマーとしてはカルボキシル基を有するモノマー、スルホン酸基を有するモノマー、ホスホン基を有するモノマー等がある。具体例としては、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等、およびこれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸及びメタクリル酸およびこれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属塩またはアンモニウム塩が好ましい。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、4−スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホアルキルアクリレート、スルホアルキルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホアリールアクリレート、スルホアリールメタクリレート、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、ブチルアクリルアミドスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、2−アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4−アクリロイルオキシブタンスルホン酸、2−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、4−メタクリロイルオキシエタンスルホン酸等、およびこれらのアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属塩またはアンモニウム塩等が挙げられる。また、ホスホン基を有するモノマーとしては、ホスホエチルメタクリレート等のリン酸基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。以上例示したアニオン性モノマーは、単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0076】
表面に電荷を有する芯物質の表面電荷とは反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤及び/又は表面に電荷を有する芯物質の表面電荷とは反対の電荷を有するイオン性親水性モノマーの添加量は、表面に電荷を有する芯物質の表面のイオン性基と使用量とから求めたイオン性基の総モル数(=使用した芯物質の重量(g)×芯物質表面のイオン性基(mol/g))に対して、0.5〜2倍モルの範囲が好ましく、より好ましくは、0.8〜1.2倍モルの範囲である。0.5倍モル以上の添加量とすることによって、芯物質粒子に静電的に強く吸着し、容易にカプセル化が可能となる。2倍モル以下の添加量とすることで、芯物質粒子に未吸着の第一のイオン性重合性界面活性剤及び/又は第一のイオン性モノマーの発生を低減することができ、コアに芯物質を持たないポリマー粒子(ポリマーのみからなる粒子)の発生を防止することができる。
【0077】
〔疎水性モノマー〕
本発明でいう疎水性モノマーとは、その構造中に少なくとも疎水性基及び重合性基を有する重合性モノマーをいい、疎水性基が脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の群から選択されたものを例示できる。上記の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、及びプロピル基等を、脂環式炭化水素基としてはシクロヘキシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、及びイソボルニル基等を、芳香族炭化水素基としてはベンジル基、フェニル基、及びナフチル基等を挙げることができる。上記疎水性モノマーの重合性基は、前述のイオン性重合性界面活性剤の項目で記載のものと同じものを用いることができる。
【0078】
疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、t−ブチルスチレン、ブロムスチレン、p−クロルメチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、イソプロピルアクリレート、アクリル酸n−ブチル、ブトキシエチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、フェノキシエチルアクリレート、アクリル酸シクロヘキシル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、及びイソボルニルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシルジグリコールアクリレート、等の単官能アクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、イソプロピルメタクリレート、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソデシル、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、及びイソボルニルメタクリレート、等の単官能メタクリル酸エステル類;アリルベンゼン、アリル−3−シクロヘキサンプロピオネート、1−アリル−3,4−ジメトキシベンゼン、アリルフェノキシアセテート、アリルフェニルアセテート、アリルシクロヘキサン、及び多価カルボン酸アリル等のアリル化合物;フマル酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和エステル類;N−置換マレイミド、環状オレフィンなどのラジカル重合性基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0079】
本発明のカプセル化物の成膜性、被覆膜の強度、耐薬品性、耐水性、耐光性、耐侯性、光学特性の他、物理特性や化学特性は疎水性モノマーの構造、および疎水性モノマーからなる共重合体の構造等により決定される。したがって、カプセル化物に要求される性能に応じて、疎水性モノマーを選択することが可能である。例えば、芯物質に色材を用いた本発明のカプセル化物を記録材として用いた場合に求められる記録物の定着性や耐擦性は、色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)のガラス転移点(Tg)を制御することによって可能である。一般に、高分子固体、特に無定形高分子固体において、温度を低温から高温へ上げていくと、わずかな変形に非常に大きな力の要る状態(ガラス状態)から小さな力で大きな変形が起こる状態へと急変する現象が起こるが、この現象の起こる温度をガラス転移点(またはガラス転移温度)という。一般には、熱走査型熱量計(Differential scanning calorimeter)による昇温測定によって得られた示差熱曲線において、吸熱ピークの底部から吸熱の開始点に向かって接線を引いたときのベースラインとの交点の温度がガラス転移点とされる。また、ガラス転移点では弾性率、比熱、屈折率などの他の物性も急激に変化することが知られており、これらの物性を測定することによってもガラス転移点が決定されることが知られている。さらに共重合体を合成する際に使用したモノマーの重量分率と当該モノマーを単独重合して得られるホモポリマーのガラス転移点とからFoxの式によりガラス転移点を計算することができる。(本発明においては、Foxの式により得られるガラス転移点を用いた。)すなわち、本発明のカプセル化物の置かれた温度環境が本発明のカプセル化物の芯物質を被覆している共重合体のガラス転移点よりも高い場合には、この共重合体は小さな力で大きな変形が起こる状態となり、さらに融点に達すると溶融する。このとき、近傍に他のカプセル化物が存在するとカプセル化物同士が融着して成膜する。また、融点まで環境温度が達しない場合であっても、カプセル化物同士が強い力によって接触するような場合は、各カプセル化物を被覆している共重合体分子同士が絡み合うことが可能となるような条件が整えば、カプセル化物を覆う共重合体(コポリマー)同士は融着することもある。
【0080】
芯物質に色材を用いた本発明のカプセル化物をインクジェット用インクとして用いた場合に、このインクで普通紙やインクジェット記録用専用記録媒体等の記録媒体に印字すると、本発明のカプセル化物粒子の周囲にある水および/または水溶性有機溶媒からなる水性媒体が普通紙やインクジェット記録用専用記録媒体中に浸透していくことによってカプセル化物粒子の近傍から消失し、カプセル化物粒子同士が近接するようになる。その際に、カプセル化物粒子の芯物質である色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点(Tg)が室温以下である場合には、カプセル化物粒子間の間隙に生じる毛細管圧によって、色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)が融着して色材を内部に包み込んだ(包含した)状態で成膜する。これによって、色材の記録媒体への定着性と耐擦性を得ることができる。この場合、本発明のカプセル化物の色材粒子を被覆している共重合体のガラス転移点が、好ましくは30℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下であると、カプセル化物は室温でより好ましく成膜する。したがって、芯物質に色材を用いた本発明のカプセル化物をインクジェット用インクとして用いる場合には、カプセル化物の色材粒子を被覆している共重合体(コポリマー)のガラス転移点を30℃以下になるように設計することが好ましく、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下に設計するのが好ましい。ただし、ガラス転移点を−20℃より低くした場合は、耐溶剤性が低下する傾向となるため注意を要する。疎水性モノマーは、上記に記載したそれぞれの要求特性を満足させるものが適宜、選択され、その添加量は任意に決定される。
【0081】
〔その他の重合成分〕
本発明のカプセル化物は、コア材をポリマーで被覆したものであり、上述したものの他に、本発明の効果を損ねない範囲でその他の重合性モノマー成分を用いることができる。本発明に用いるその他の重合性モノマーとしては、例えば架橋性モノマーを挙げることができる。架橋性モノマーと疎水性モノマーと共重合させることによって、ポリマーの機械的強度や耐熱性を高めることができ、カプセル壁材の形態維持性が向上する。また、有機溶剤によるポリマーの膨潤や有機溶剤のポリマー内部への浸透を抑制することができ、カプセル壁材の耐溶剤性を高めることができる。これによって、例えば、水溶性有機溶剤が共存するインクジェット記録用インク組成物においては、色材粒子の分散性や、インク組成物の保存安定性、さらにインクジェットヘッドからのインク組成物の吐出性をも高めることができる。本発明において用いる架橋性モノマーとしては、ビニル基,アリル基,アクリロイル基,メタクリロイル基,プロペニル基,ビニリデン基,及びビニレン基から選ばれる1種以上の不飽和炭化水素基を2個以上有する化合物を有するものが挙げられる。架橋性モノマーの具体例としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、アリルアクリレート、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(アクリロキシネオペンチルグリコール)アジペート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジアクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(アクリロキシエトキシ・ポリエトキシ)フェニル〕プロパン、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラブロモビスフェノールAジアクリレート、トリグリセロールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシジエトキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタクリロキシエトキシポリエトキシ)フェニル〕プロパン、テトラブロモビスフェノールAジメタクリレート、ジシクロペンタニルジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、ヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジぺンタエリスリトールモノヒドロキシペンタメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、トリグリセーロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルイソフタレート、及びジエチレングリコールビスアリルカーボネート等が挙げられる。
【0082】
上記の架橋性モノマーを用いた場合、上述した利点が得られる反面、使用量が多いとカプセル壁材ポリマーの可塑性が低くなり、記録媒体等の媒体に密着しにくくなることがある。この場合、例えば、インクジェット記録用インクに用いた場合は、紙やインクジェット専用メディア等の記録媒体に定着しにくくなる場合があり、画像の耐擦性が低下するといった問題が生じることもある。したがって、架橋性モノマーの使用量はカプセル化物に要求される特性を鑑み適宜調整することが好ましい。
【0083】
また、本発明に用いるその他の重合性モノマーとして電荷を有しない親水性モノマーを使用することもできる。電荷を有しない親水性モノマーを用いることによって、理由は定かではないが、カプセル化壁が厚くなる傾向がある。また、カプセル化をより安定な状態で行なうことができ、且つ、カプセル化物の水中での分散安定性がより良好となる傾向がある。親水性基として水酸基、エチレンオキサイド基等、を有するものが挙げられる。これらの親水性基は、カプセル表面で水相側に配向して存在すると考えられる。電荷を有しない親水性モノマーとしては、OH基を有する2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0084】
〔重合開始剤〕
本発明のカプセル化物のカプセル壁材を構成するポリマーは、上述したように、イオン性重合性界面活性剤、イオン性モノマー、疎水性モノマーを重合して得られる。この重合反応は公知の重合開始剤を用いて行うことができ、特にラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。本発明においては、カプセル化物を製造するに当たり採用した重合方法に適した重合開始剤を使用することが好ましい。乳化重合法及びミニエマルション重合法を用いる場合においては、重合開始剤としては水溶性の重合開始剤が好ましく、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、2,2−アゾビス−(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、4,4−アゾビス−(4−シアノ吉草酸)等の水溶性アゾ化合物系開始剤、などが挙げられる。また、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素等の酸化剤と、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硝酸第一鉄、チオ尿素等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤を用いることもできる。また、懸濁重合法及びミニエマルション重合法を用いる場合においては、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、等の油溶性のアゾ化合物系開始剤、ジラウロイルパーオキサイド、ジサクシニックアシドパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチル(パーオキシ−2−エチルヘキサノエート)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エタヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン等の過酸化物等の油溶性重合開始剤を用いるのが好ましい。
【0085】
〔その他の成分〕
本発明のカプセル化物は、ポリマーを主成分とする材料で芯物質を被覆したものであり、原料として上述したものに加えて、本発明の効果を損ねない範囲で、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、ワックス等のその他の成分をポリマー中に含有させることができる。
【0086】
〔製造方法〕
本発明の実施形態に係るカプセル化物は、具体的には、以下の手順によって好適に製造される。
(1)表面に電荷を有する芯物質が水に分散された分散液に、表面に電荷を有する芯物質の表面電荷とは反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合する。ここでは、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基が、表面に電荷を有する芯物質に静電的に吸着し、固定化される。(2)前記(1)の工程の後に疎水性モノマーを加えて混合する。(3)前記(2)の工程の後に前記表面に電荷を有する芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bと、イオン性重合性界面活性剤Bと同種の電荷を有するイオン性親水性モノマーを加えて混合する。(4)前記(3)の工程に続いて、これに重合開始剤を加えて重合する。こうして、一次カプセル化粒子(ポリマー層が1層被覆されたカプセル化粒子)が得られる。次いで、(5)得られた一次カプセル化粒子の表面のイオン性基と反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加えて混合する。ここで、イオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーのイオン性基が、表面に電荷を有する一次カプセル粒子に静電的に吸着し、固定化される。(6)前記(5)の工程の後に疎水性モノマーを加えて混合する。(7)前記(6)の工程の後に前記の得られたカプセル化粒子の表面のイオン性基と同種または反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤Dと、イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性親水性モノマーを加えて混合する。(8)前記(7)の工程に続いて、これに重合開始剤を加えて重合する。こうして、二次カプセル化粒子(ポリマー層が2層被覆されたカプセル化粒子)が得られる。同様にして、ポリマー層の3層目以降も形成することができる。
【0087】
また、別の方法としては、(1)表面に電荷を有する芯物質が水に分散された分散液に、表面に電荷を有する芯物質の表面電荷とは反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合する。ここでは、イオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーのイオン性基が、表面に電荷を有する芯物質に静電的に吸着し、固定化される。(2’)前記(1)の工程の後に前記表面に電荷を有する芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bと、イオン性重合性界面活性剤Bと同種の電荷を有するイオン性親水性モノマーを加えて混合する。(3’)前記(2’)の工程の後に疎水性モノマーを加えて混合する。(4)前記(3’)の工程に続いて、これに重合開始剤を加えて重合する。こうして、一次カプセル化粒子(ポリマー層が1層被覆されたカプセル化粒子)が得られる。次いで、(5)得られた一次カプセル化粒子の表面のイオン性基と反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加えて混合する。ここで、イオン性重合性界面活性剤C及び/又は第三のイオン性モノマーのイオン性基が、表面に電荷を有する一次カプセル化粒子に静電的に吸着し、固定化される。(6’)前記(5)の工程の後に前記の得られた一次カプセル化粒子の表面のイオン性基と同種または反対の電荷を有するイオン性基、疎水性基及び重合性基を有するイオン性重合性界面活性剤Dと、第四のイオン性重合性界面活性剤と同種の電荷を有するイオン性親水性モノマーを加えて混合する。(7’)前記(6’)の工程の後に疎水性モノマーを加えて混合する。(8)前記(7’)の工程に続いて、これに重合開始剤を加えて重合する。こうして、二次カプセル化粒子(ポリマー層が2層被覆されたカプセル化粒子)が得られる。同様にして、ポリマー層の3層目以降も形成することができる。
【0088】
このような手順により、2層以上のポリマー層で被覆されたカプセル化物を好適に製造することができるが、重合の反応効率を考慮すれば、ポリマー層を1層形成する毎に生成物を精製し、不純物を除去した後に次層を形成することが望ましい。しかし工程設計上は煩雑となるため、連続して次層を形成しても構わない。或いは、任意の層の形成前にのみ精製を実施しても良い。
【0089】
具体例を以下に示す。
イオン性基としてアニオン性基を表面に有する芯物質の水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性親水性モノマーを加え、必要に応じて、水もしくは水と水性溶媒を加えて混合し、超音波を所定時間照射した後、アニオン性重合性界面活性剤及び/又はアニオン性基を有する親水性モノマー、疎水性モノマーを加えて混合し、必要に応じて、さらに水を加えて再び超音波を所定時間照射し、必要に応じて、超音波照射と攪拌を行いながら、所定の温度(重合開始剤の活性化する温度)まで昇温して、重合開始剤を加えて重合開始剤を活性化させて重合することによって第1の被覆層を形成する。次いで、得られた一次カプセル化粒子(ポリマー層が1層被覆されたカプセル化粒子)の水性分散液に、前記と同様の方法により、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性親水性モノマーを加えて混合後、アニオン性重合性界面活性剤及び/又はアニオン性基を有する親水性モノマーを加え、重合開始剤を加えて重合して第2の被覆層を形成する。上記手順により、カチオン性重合性界面活性剤及び/又はカチオン性親水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、アニオン性重合性界面活性剤及び/又はアニオン性基を有する親水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有するポリマーで2層被覆したカプセル化物を得ることができる。
【0090】
本発明において、重合反応には、水を溶媒として使用し、カプセル化物の用途に応じて、イオン交換水を用いることがある。水の他に、任意成分として、例えば、グリセリン類やグリコール類のような水溶性有機溶媒等を含んでいても構わない。
表面に電荷を有する芯物質が水に分散されていない場合は、カプセル化前の処理として、ボールミル、ロールミル、アイガーミル、ジェットミル等の一般的な分散機を用いて芯物質を水中に分散してから、前述の工程を実施することが好ましい。
【0091】
重合開始剤の添加は、重合開始剤が活性化される温度で、一括もしくは分割して添加しても、又は連続的に添加しても良い。また、重合開始剤を添加した後に、重合開始剤が活性化される温度まで水性分散液を加熱しても良い。本発明においては、乳化重合及びミニエマルション重合では、水溶性重合開始剤をイオン交換水に溶解して得た水溶液を反応容器内の水性分散液に所定の滴下速度で滴下することにより好適に実施することができる。また、懸濁重合やミニエマルション重合において油溶性重合開始剤を使用する場合は、そのまま添加するか、疎水性モノマーに溶解して添加することによって好適に実施することができる。重合開始剤の活性化は、重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生する温度まで昇温することにより好適に実施できる。添加した重合開始剤が開裂して開始剤ラジカルが発生し、これがイオン性重合性界面活性剤の重合性基や、イオン性親水性モノマー及び疎水性モノマーの重合性基を攻撃することによって重合反応が起こる。重合温度及び重合反応時間は、用いる重合開始剤の種類及び上記の重合性化合物の種類によって異なるが、適宜好ましい重合条件を設定することは容易である。一般に重合温度は、40℃〜90℃の範囲とするのが好ましく、重合時間は3時間〜12時間とするのが好ましい。
【0092】
重合反応は、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度計、温度調節器、窒素導入管、場合によっては超音波発生器、を備えた反応容器を使用するのが好ましい。
重合終了後には、用途に応じて、pH7.0〜9.0の範囲に調整し、濾過を行なうことが好ましい。
【0093】
本発明のカプセル化物の粒子径は特に限定されない。
本発明のカプセル化物をインクジェット用顔料インクとして用いる場合においては、本発明のカプセル化物の粒子径は400nm以下が好ましく、更に好ましくは300nm以下、特に好ましくは20〜200nmである。
【0094】
本発明のカプセル化物においては、芯物質を被覆する少なくとも2つの被覆層の各層を形成するポリマーのガラス転移点をそれぞれ異なる温度に設計することができる。例えば、最外殻層を低ガラス転移点のポリマーとし、内層を高ガラス転移点のポリマーとすることでカプセル化物の成膜性とともに被覆膜の強度、耐薬品性等の性能を高いレベルで両立することができる。また、本発明のカプセル化物においては、例えば、内層のポリマー中に架橋性モノマーを用いて架橋構造を導入し、最外殻層を低ガラス転移点のポリマーとすることでも、カプセル化物の成膜性とともに被覆膜の強度、耐薬品性等の性能を高いレベルで両立することができる。また、各ポリマー層間の屈折率の差を小さくすることで透明度の高い多層のポリマー層を有するカプセル化物を得ることができる。また、内層形成時に重合開始剤の添加量を調整することにより内層ポリマーの平均分子量を大きくするか、或は最外殻層を形成する際にメルカプタン類などの連鎖移動剤を用いて重合連鎖長を短めに調整することにより、強度の高い内層と内層に対して柔軟な表層を形成することができる。
【0095】
[水性分散液]
本発明の実施形態に係る水性分散液は、本発明の実施形態に係るカプセル化物を含むものである。本発明の水性分散液は、カプセル化物の芯物質を用途に応じて選択することによって、インクジェット記録用インク、水性印刷インク、水性塗料、水性コート液、水性ハードコート液、水性磁性インク、水性磁性塗料、水性導電性インク、水性導電性塗料等に使用することができる。特に、この水性分散液をインクジェット記録用インクに用いる場合には、インクジェット記録用インクとするための他の配合成分を常法によって添加することで、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを製造することができる。
【0096】
特に、本発明の実施形態に係る水性分散液をインクジェット記録用インクに用いる場合は、精製処理して用いることが好ましい。この水性分散液には、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマーに由来する未反応物が含まれていることがある。これらの未反応物を限外濾過や遠心分離濾過等によって除去あるいは低減することにより、記録媒体に普通紙を使用した場合には、画像の滲みを抑制でき、良好な彩度を有した上で印刷濃度を高くすることができる。また、インクジェット記録用専用メディア、特にインクジェット用光沢メディアを使用した場合には良好な光沢性も得られる。精製処理後において、水性分散液中のイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマー等の含有濃度は、水性成分に対して、50,000ppm以下であることが好ましく、10,000ppm以下であることがより好ましい。ここで、「水性成分」とは、水性分散液中に含まれる水、水溶性有機溶媒を指す。また、「イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマー等とは、本発明においてカプセル化に使用したイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマーのうち、カプセル化顔料の被覆ポリマーの形成に寄与しなかったものを指し、これには、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマーのみでなくこれらが重合反応して形成される水性媒体中に存在するオリゴマーやポリマーも含む。
【0097】
水性分散液中のイオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマー等の含有濃度は、液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いて定量分析することによって求めることができる。イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーとこれらが重合反応して形成される水性媒体中に存在するオリゴマーやポリマーの含有量は液体クロマトグラフィーで定量分析し、疎水性モノマーの含有量はガスクロマトグラフィーで定量分析することで求めることができる。分析条件等によっては、イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマー並びに疎水性モノマーとこれらが重合反応して形成される水性媒体中に存在するオリゴマーやポリマーの含有量を液体クロマトグラフィーで定量分析を行なうことも可能である。
【0098】
[インクジェット記録用インク]
本発明におけるインクジェット記録用インクとは、モノクロ印字を行う場合にはブラックインクを意味し、さらにカラー印字を行う場合にはカラーインク、具体的にはイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、グリーンインク、レッドインク、オレンジインク、バイオレットインク、更に場合によってブラックインクを意味するものとする。これらの他に、ホワイトインク、蛍光インク、磁性インク、フォトクロミックインク、導電性インク等も含まれる。
【0099】
本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、前述したように、本発明の水性分散液を含んでなる。本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、本発明の実施形態に係るカプセル化物と水とを少なくとも含んでなる。また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクの溶媒は、水及び水溶性有機溶媒を基本溶媒として含むのが好ましく、また必要に応じて任意の他の成分を含むことができる。前記カプセル化物の芯物質は、カーボンブラック、無機顔料、有機顔料、分散染料や油溶性染料等の水に不溶もしくは難溶の染料である。また、蛍光顔料や蛍光染料等の蛍光物質や磁性体粒子、フォトクロミック物質、金属微粒子等も含まれる。
【0100】
特に、カプセル化物の芯物質にカーボンブラック、有機顔料、無機顔料、分散染料や油溶性染料等の水に不溶もしくは難溶の染料等の色材を用いた場合、インク中のカプセル化物(カプセル化色材)の含有量は、インクの全重量に対して、1重量%〜20重量%が好ましく、より好ましくは、3重量%〜20重量%である。特に高い印刷濃度と高発色性を得るには、5重量%〜20重量%が好ましい。本発明のカプセル化色材を用いると色材濃度が高濃度であっても、低粘度、高い分散安定性、安定な吐出性を得ることができる。
【0101】
本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、水溶性有機溶媒として、インクジェット記録用インクの保水性と湿潤性をもたらす目的で、高沸点水溶性有機溶媒からなる湿潤剤を含有するのが好ましい。このような高沸点水溶性有機溶媒としては、沸点が180℃以上の高沸点水溶性有機溶媒を例示できる。沸点が180℃以上の水溶性有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルグリコール、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトールを挙げられる。沸点が200℃以上である有機溶媒が特に好ましい。これらは単独又は2種以上の混合物として使用することができる。これにより、開放状態(室温で空気に触れている状態)で放置しても流動性と再分散性とを長時間で維持するインクジェット記録用インクを提供することができる。更に、印字中もしくは印字中断後の再起動時にノズルの目詰まりが生じ難くなり、高い吐出安定性が得られる。特に、本発明のインクジェット記録用インクの実施形態においては、グリセリンを含むことによって、インクの目詰まり信頼性と保存安定性を十分に確保することができる。これらの水溶性有機溶媒の含有量は、インクジェット記録用インクの全重量に対して、好ましくは10〜50重量%程度であり、より好ましくは10〜30重量%である。
【0102】
さらに、2−ピロリドン,N−メチルピロリドン,ε−カプロラクタム,ジメチルスルホキシド,スルホラン,モルホリン,N−エチルモルホリン,1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性溶媒を挙げることができ、これらから一種以上選択して用いてもよい。これら極性溶媒の添加はカプセル化顔料の分散安定性をより高める効果があり、インクの吐出安定性がさらに向上する。これらの極性溶媒の含有量は、インクジェット記録用インクの全重量に対して、好ましくは0.1重量%〜20重量%であり、より好ましくは1重量%〜10重量%である。
【0103】
本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、インク中の水性溶媒の記録媒体に対する浸透を促進することを目的に浸透剤を含有するのが好ましい。水性溶媒が記録媒体に素早く浸透することによって、滲みの少ない画像を記録媒体に記録することができる。このような目的に使用する溶剤(浸透剤)としては、多価アルコールのアルキルエーテル(グリコールエーテル類ともいう)、1,2−アルキルジオールが好ましく用いられる。具体的には、多価アルコールのアルキルエーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等が挙げられる。1,2−アルキルジオールとしては、具体的には、例えば1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0104】
特に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクにおいては、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが好ましく用いられる。これらの含有量は、インクジェット記録用インクの全重量に対して、総量で、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。浸透剤の含有量が1重量%より少ないと浸透性に効果がなく、20重量%を超えると滲みが発生しやすくなり印字品質の低下等の不具合が生じるため好ましくない。また、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等の1,2−アルキルジオールを用いることで、印刷物の乾燥性や印刷画像の滲みが格段に改善される。インク成分に多価アルコールのアルキルエーテル及び1,2−アルキルジオールからなる群から選択された1種以上の化合物を含むことによって、インク溶媒が記録媒体に浸透する速度が速くなることから、本発明の実施形態であるカプセル化顔料そのものの効果と相俟って、普通紙や再生紙等への印刷においても滲みの非常に少ない画像を得ることができ、格段に印字品質を向上させることができる。
【0105】
また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、界面活性剤を含んでなることが好ましい。本発明の実施形態に係るカプセル化色材の表面にアニオン性基及び/又はノニオン性基がある場合は、アニオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を含んでなることが好ましい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、アルカンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸、アシルメチルタウリン酸、ジアルキルスルホ琥珀酸、アルキル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;脂肪酸塩、アルキルザルコシン塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、モノグリセライトリン酸エステル塩等が挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセリンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、シュガーアルキルエステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルカノールアミン脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0106】
より具体的には、アニオン性界面活性剤としてはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩などが挙げられ、ノニオン性界面活性剤の具体例としてはポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系等を挙げることができる。また、本発明の実施形態に係るカプセル化色材の表面がカチオン性基及び/又はノニオン性基である場合は、カチオン性界面活性剤および/またはノニオン性界面活性剤を含んでなることが好ましい。カチオン性界面活性剤としては、4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0107】
特に、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、界面活性剤として、アセチレングリコール系界面活性剤および/またはアセチレンアルコール系界面活性剤を含んでなることが望ましい。これにより、インクを構成する水性溶媒の記録媒体への浸透性をさらに高めることができ、種々の記録媒体において滲みの少ない印刷を可能とする。アセチレングリコール系界面活性剤として市販されている市販品を利用することが可能であり、その具体例としては、サーフィノール104、82、465、485またはTG(いずれもAir Products and Chemicals. Inc.より入手可能)、オルフィンSTG、オルフィンE1010(以上、日信化学社製 商品名)が挙げられる。アセチレンアルコール系界面活性剤としては、サーフィノール61(Air Products and Chemicals. Inc.より入手可能)等が挙げられる。これらの界面活性剤の含有量は、インクジェット記録用インクの全重量に対して、好ましくは0.01〜10重量%の範囲であり、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0108】
また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、本発明の実施形態に係るカプセル化色材の表面にアニオン性基を有する場合は、pHを7〜11の範囲、より好ましくは、8〜9の範囲に調整することが好ましく、pH調整剤としては塩基性化合物を用いることが好ましい。また、本発明の実施形態に係るカプセル化色材の表面にカチオン性基を有する場合は、pHを5〜7の範囲、より好ましくは、6〜7の範囲に調整することが好ましく、pH調整剤としては酸性化合物を用いることが好ましい。pH調整剤として好ましい塩基性化合物は、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、フタル酸水素カリウム、酒石酸水素カリウムなどのアルカリ金属類;アンモニア;並びに、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロペノールアミン、ブチルジエタノールアミン、モルホリン、及びプロパノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。pH調整剤として好ましい酸性化合物は、具体的には硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウムなどの硫酸塩などが挙げられる。
【0109】
また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、防カビ剤、防腐、防錆の目的で、安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ベンチアゾリン−3−オン〔製品名:プロキセルXL(アビシア製)〕、3,4−イソチアゾリン−3−オン、4,4−ジメチルオキサゾリジン等を含むことができる。また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、記録ヘッドのノズルが乾燥するのを防止する目的で、尿素、チオ尿素、及び/又はエチレン尿素等を含むことができる。
【0110】
本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、
(1)本発明の実施形態に係るカプセル化色材、
(4)グリセリン、
(5)水、
を少なくとも含む。このようなインクジェット記録用インクは、特に、分散安定性及び吐出安定性に優れ、更に、長期にわたって、ノズルの目詰まりもなく、安定した印字が可能である。また、普通紙や再生紙及びコート紙等の記録媒体において、高い印刷濃度を有し、発色性に優れた高品位の画像を得ることができる。また、ブロンジング等の不正反射の無い、写像性や鮮鋭性に優れた光沢のある画像を得ることができる。さらに、定着性にも優れたものとなる。
【0111】
好ましい本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、
(1)本発明の実施形態に係るカプセル化色材、
(2)ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及び/又は炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールからなる群から選択される1種以上の化合物(浸透剤)、
(4)グリセリン、
(5)水、
を少なくとも含む。このようなインクジェット記録用インクは、特に、分散安定性及び吐出安定性に優れ、更に、長期にわたって、ノズルの目詰まりもなく、安定した印字が可能である。また、普通紙や再生紙及びコート紙等の記録媒体において、印字後の乾燥性が良好で、滲みがなく、高い印刷濃度を有し、発色性に優れた高品位の画像を得ることができる。また、均一に成膜し、平滑な膜表面が得られる。したがって、ブロンジング等の不正反射の無い、写像性や鮮鋭性に優れた光沢のある画像を得ることができる。さらに、定着性にも優れたものとなる。
【0112】
特に好ましい本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクの別の態様は、
(1)本発明の実施形態に係るカプセル化色材、
(2)ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及び/又は炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールからなる群から選択される1種以上の化合物(浸透剤)、
(3)アセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤、
(4)グリセリン、
(5)水、
を少なくとも含む。
【0113】
この実施形態において、前記(2)の浸透剤としてのジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルの添加量はインク組成物の全重量に対して、好ましくは10重量%以下、より好ましくは0.5〜5重量%である。ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを添加すると、浸透性の向上に顕著な効果を示し、印字品質も向上する。また、ジエチレングリコールモノブチルエーテル及び/又はトリエチレングリコールモノブチルエーテルの添加によって、アセチレングリコール系の界面活性剤の溶解性が高まる。また、前記(2)の浸透剤としての炭素数4〜10の1,2−アルキルジオールの添加量はインク組成物の全重量に対して、好ましくは15重量%以下である。1,2−アルキルジオールとしては、具体的には1,2−ペンタンジオール又は1,2−ヘキサンジオールが好ましく、単独又は両者を一緒に用いる。1,2−ペンタンジオールは、3〜15重量%の範囲で添加するのが好まく、3重量%未満では良好な浸透性が得られない。1,2−ヘキサンジオールは、0.5〜10重量%の範囲で添加するのが好ましく、0.5重量%未満では良好な浸透性が得られない。
【0114】
このようなインクジェット記録用インクは、特に、分散安定性及び吐出安定性に優れ、更に、長期にわたって、ノズルの目詰まりもなく、安定した印字が可能である。また、普通紙や再生紙及びコート紙等の記録媒体において、印字後の乾燥性が特に良好で、滲みがほとんどなく、高い印刷濃度を有した発色性に優れた高品位の画像を得ることができる。また、より均一に成膜し、平滑な膜表面が得られる。したがって、ブロンジング等の不正反射の無い、写像性や鮮鋭性に特に優れた光沢のある画像を得ることができる。さらに、定着性にも優れたものとなる。前記(3)のアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤の添加量はインクの全重量に対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0115】
従来のインクジェット記録用顔料インクに用いられた色材は、一般に、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いてインク中に分散されていた。また、転相乳化法や酸析法によるカプセル化顔料は溶液重合によって製造されたカルボキシル基を有するランダム重合体を各々の方法で顔料表面に吸着させてカプセル化したもので、これがインクジェット記録用顔料インクの色材として使用された。しかしながら、前者の分散剤や後者の溶液重合によって製造されたカルボキシル基を有するランダム重合体は顔料粒子表面に単に吸着しているのみであるので、何らかの環境要因によって分散剤や重合体が顔料粒子表面から脱離しやすい傾向にあった。これに対して、本発明の実施形態に係るカプセル化色材においては、前述したように、ポリマー又は架橋化ポリマーからなるカプセル化壁で色材粒子表面を欠陥無く完全に包み込んで、しかも非常に強固に粒子表面に固着していることから、これらのポリマー又は架橋化ポリマーが色材粒子表面から脱離しにくくなっているものと考えられる。更に詳しくは、顔料を界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて分散した顔料分散液と前記のアセチレングリコール系界面活性剤及び/又はアセチレンアルコール系界面活性剤とジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、又は1,2−アルキルジオール等の浸透剤とから製造されたインクは、吐出が不安定となる傾向がある。これは、インクがインクジェットプリンタのヘッドの細いノズルを通って吐出される際にはインクに強い剪断力が加わることから、吸着していた分散剤が顔料表面から容易に脱離してしまい顔料粒子のインク中での分散性を低下させてしまうことによる。これに対して、本発明の実施形態に係るカプセル化色材を用いたインクジェット記録用インクでは、こうした現象が全く認められず、安定に吐出される。また、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤を用いて顔料を分散した顔料分散液を用い、且つ、浸透性を向上したインク組成物では、顔料表面に吸着しないで液中に溶解している分散剤によってインク組成物の粘度が高くなりやすく、また、時間の経過とともに顔料表面から脱離した分散剤によってもインク組成物の粘度が高くなる傾向にある。このため、インク中の顔料の含有量が制限されることが多い。これは、特に普通紙や再生紙において充分な印刷濃度を得ることができない要因となる。これに対して、本発明の実施形態に係るカプセル化色材を用いたインク組成物では、前述したのと同じ理由でインク組成物の粘度増加は全く起こらない。したがって、インク組成物の低粘度化が容易に行えることから色材粒子をより多く含有でき、普通紙や再生紙上でも充分な印刷濃度を得ることができる。
【0116】
また、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクは、目詰まりを発生しにくくする目的(目詰まり信頼性の向上)で、固体湿潤剤をインクの全重量に対して3重量%〜20重量%で含有するのが好ましい。本明細書において、固体湿潤剤とは保水機能を有する常温(25℃)で固体の水溶性物質を言う。好ましい固体湿潤剤は、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールである。糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)および多糖類があげられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式HOCH(CHOH)CHOH(ここで、n=2〜5の整数を表す)で表される)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ糖など)があげられる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(分子量350000)として市販されているものを使用することができる。これらの固体湿潤剤は単独あるいは2種以上を混合して使用する。特に好ましい固体湿潤剤は、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサトリオールである。固体湿潤剤を使用することによって、その保水機能によって水分の蒸発を抑えることができ、流路やノズル周辺でのインクの粘度が上昇しないので、インクが乾燥してできる皮膜が形成されにくくなり、目詰りが起こり難くなる。また、上記の固体湿潤剤は化学的に安定であるため、インク中で分解することもなく、長期にわたって性能を維持することができる。また、上記の固体湿潤剤を添加しても、インクはノズルプレートを濡らすことなく、安定した吐出を得ることができる。特に、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールを使用した場合に優れる。本発明においては、上記の固体湿潤剤の含有量は、単独で使用する場合には、インクジェット記録用インク組成物の全重量に対して3〜20重量%が好ましく、より好ましくは3〜10重量%であり、二種以上混合して使用する場合には、インクジェット記録用インクの全重量に対して、二種以上の総量が3〜20重量%であるのが好ましく、より好ましくは3〜10重量%である。二種以上混合して使用する場合の好ましい組み合わせは、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸塩のグループとトリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオールのグループとの組み合わせである。この組み合わせは、添加によるインクの粘度の上昇を抑えることが可能であることから好ましい。固体湿潤剤の含有量が3重量%未満では目詰まり性の改善に十分な効果が得られず、また20重量%を越えると粘度が上昇し安定な吐出が得られにくくなるという弊害が起こりやすい。
【0117】
以上、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを説明した。色材として含有される本発明の実施形態に係るカプセル化色材は、形状が真球状に近くなり、これは、芯物質を被覆するポリマー層が厚くなるほど、あるいは、ポリマー層の層数が増えるほどより真球に近くなる。また、表面のイオン性基が水性溶媒側に向かって規則正しく密に配向していて効果的な静電的な反発力を有する。これらによって、インクの流動性がニュートニアンとなりやすく、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インク、従来のカプセル化顔料と比較すると分散性および分散安定性が格段に優れ、より安定した吐出性を得ることができるものとなる。
【0118】
インクジェット記録は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを公知のインクジェットプリンタに搭載し、普通紙やインクジェット用記録媒体等の記録媒体に印刷することにより、好適に行われる。得られた画像は、堅牢性、耐擦性および発色性に優れ、印刷濃度も高く、滲みがほとんど見られない。記録媒体として普通紙を使用した場合は、滲みにくく、発色の高い記録物が得られる。また、インクジェット記録用専用メディア(例えば、光沢系メディア等)を使用した場合は、ブロンジング等の不正反射の無い、写像性や鮮鋭性に優れた光沢のある画像を得ることができる。さらに、定着性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「複層カプセル化無機コロイド粒子”DN1”の製造」
日産化学工業(株)製コロイダルシリカ(商品名:スノーテックス−O)100gにイオン交換水300gを加えて攪拌混合した後、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を12.5g加え混合後、超音波を15分間照射した。次いで、2−エチルヘキシルメタクリレート10gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)を47.0gと親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸1.0gを加えて混合し、再び超音波を30分間照射した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水50gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、単層カプセル化無機コロイド粒子の分散液を得た。得られた分散液85gをイオン交換水150gで希釈したものに、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を12.6g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ベンジルメタクリレート10gと1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート0.2gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を47.0gとアニオン性親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸1.0gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水50gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで粗大粒子を除去して目的の複層カプセル化無機コロイド粒子”DN1”分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒径を測定したところ、34nmであった。
【0120】
「複層カプセル化無機コロイド粒子”DN2”の製造」
日産化学工業(株)製コロイダルシリカ(商品名:スノーテックス−C)100gにイオン交換水300gを加えて攪拌混合した後、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を12.5g加え混合後、超音波を15分間照射した。次いで、ベンジルメタクリレート10gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)を47.0gと親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸1.0gを加えて混合し、再び超音波を30分間照射した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水50gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、単層カプセル化無機コロイド粒子の分散液を得た。得られた分散液85gをイオン交換水150gで希釈したものに、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライドを12.6g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、イソボルニルメタクリレート10gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を47.0gとアニオン性親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸1.0gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水50gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで粗大粒子を除去して目的の複層マクロカプセル化無機コロイド粒子”DN2”分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒径を測定したところ、35nmであった。また、1層目と2層目の各被覆層を構成する各ポリマーのガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、54℃と155℃であった。
【0121】
以下に、インクジェット記録用インクに使用する複層カプセル化顔料分散液の実施例と参考例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”の製造」
イソインドリノン顔料(C.I.ピグメントレッド122)20gをキノリン500gと混合し、アイガーモーターミルM250(アイガージャパン社製)でビーズ充填率70%及び回転数5000rpmの条件下で2時間分散し、これをエバポレーターに移し、30mmHg以下に減圧しながら120℃に加熱し、系内に含まれる水分をできるだけ留去した後、160℃に温度制御した。次いで、スルホン化ピリジン錯体20gを加えて8時間反応させ、反応終了後に過剰なキノリンで数回洗浄した後に水中に注ぎ、濾過を行なって、親水基(アニオン性基)を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”を得た。得られたマゼンタ顔料粒子”P1”のアニオン性基の導入量は、0.06mmol/gであった。また、得られたマゼンタ顔料粒子”P1” 100gをイオン交換水500gに分散した水性分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、80nmであった。
【0122】
単層カプセル化顔料分散液”M1”〜”M5”の製造
「単層カプセル化顔料分散液”M1”の製造」
アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”100gをイオン交換水500gに分散した水性分散液に、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を1.25g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート7g、ベンジルメタクリレート7g、イソボルニルメタクリレート6gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を3.9gとアニオン性親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸0.207gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15wt%として、目的の単層カプセル化顔料分散液”M1”を得た。 得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、88nmであった。。また、ガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、17℃であった。
【0123】
「単層マイクロカプセル化顔料分散液”M2”の製造」
アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”100gをイオン交換水500gに分散した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を3.0g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート20g、ベンジルメタクリレート35g、イソボルニルメタクリレート45gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた4.68gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を20wt%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の単層マクロカプセル化顔料分散液”M2”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、108nmであった。また、ガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、51℃であった。
【0124】
「単層カプセル化顔料分散液”M3”の製造」
アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”10gをイオン交換水50gに分散した水性分散液に、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を0.125g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ブチルメタクリレート5.5g、ベンジルメタクリレート4.0g、イソボルニルメタクリレート0.5gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水10gに溶解しておいた1.0gのアニオン性重合性界面活性剤 アデカリアソープSR−10(旭電化工業株式会社製)を添加し混合した。これにイオン交換水を310g添加して混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水50gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.22gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を15wt%として、目的の単層カプセル化顔料分散液”M3”を得た。 得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、105nmであった。また、ガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、35℃であった。
【0125】
「単層カプセル化顔料分散液”M4”の製造」
アニオン性基を表面に有するマゼンタ顔料粒子”P1”100gをイオン交換水500gに分散した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を3.0g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート20g、ベンジルメタクリレート35g、イソボルニルメタクリレート45gと1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート0.2gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた4.68gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム2.1gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いでこれを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、濃縮して固形分濃度を20wt%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の単層カプセル化顔料分散液”M4”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、108nmであった。
【0126】
複層カプセル化顔料分散液”D1”〜”D5”の製造
「複層カプセル化顔料分散液”D1”の製造」
前記単層カプセル化顔料分散液”M1”270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性親水性モノマーとしてメタクリル酸ジメチルアミノエチルクロライド塩を1.25g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、2−エチルヘキシルメタクリレート20gを混合して加え攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいたアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を1.35gとアニオン性親水性モノマーとして2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸0.04gを添加し、再び超音波を30分間照射して処理した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.45gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の複層カプセル化顔料分散液”D1”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、123nmであった。また、上層のポリマーのガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、−10℃であった。
【0127】
「複層カプセル化顔料分散液”D2”の製造」
前記単層カプセル化顔料分散液”M2”270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を0.78g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート15gとベンジルメタクリレート35gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた1.21gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水60gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.45gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を15%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の複層カプセル化顔料分散液”D2”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、129nmであった。また、上層のポリマーのガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、6℃であった。
【0128】
「複層カプセル化顔料分散液”D3”の製造」
前記単層カプセル化顔料分散液”M3”270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を0.78g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート15gとベンジルメタクリレート35gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた1.21gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水20gに重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を20%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化カリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の複層カプセル化顔料分散液”D3”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、120nmであった。また、上層のポリマーのガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、6℃であった。
【0129】
「複層カプセル化顔料分散液”D4”の製造」
前記単層カプセル化顔料分散液”M4”270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を0.79g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート15gとベンジルメタクリレート35gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた1.23gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水60gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.0gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を15%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の複層カプセル化顔料分散液”D4”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、127nmであった。
【0130】
「複層カプセル化顔料分散液”D5”の製造」
単層カプセル化顔料分散液”M4”270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を0.79g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ブチルメタクリレート27.5gとベンジルメタクリレート20gとイソボルニルメタクリレート2.5gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた1.23gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水60gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.0gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を15%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整して、複層カプセル化顔料分散液を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、127nmであった。また、ガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、35℃であった。この複層カプセル化顔料分散液270gをイオン交換水330gで希釈した水性分散液に、カチオン性重合性界面活性剤としてメタクリル酸ジメチルアミノエチルドデシルクロライド塩を0.79g添加して混合した後、超音波を15分間照射した。次いで、ラウリルメタクリレート15gとベンジルメタクリレート35gを混合して加え、攪拌混合し、予めイオン交換水50gに溶解しておいた1.23gのアニオン性重合性界面活性剤アクアロンKH−10を添加し、攪拌混合した。これを、攪拌機、還流冷却器、滴下漏斗、温度調節器、窒素導入管及び超音波発生器を備えた反応容器に投入した。反応容器の内温を80℃に昇温した後、イオン交換水60gに重合開始剤として過硫酸カリウム1.0gを溶解した過硫酸カリウム水溶液を滴下し、窒素を導入しながら、80℃で6時間重合した。重合終了後、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整し、孔径1μmのメンブレンフィルターで濾過し粗大粒子を除去した。次いで、これを限外濾過装置でクロスフロー法による限外濾過を行い、固形分濃度を15%にした。濾過後、再度1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液でpHを8に調整して、目的の複層カプセル化顔料分散液”D5”を得た。得られた分散液をリーズ&ノースロップ社製のレーザードップラー方式粒度分布測定機マイクロトラックUPA150を用いて体積平均粒子径を測定したところ、150nmであった。また、上層のポリマーのガラス転移点を、該ポリマーを構成するモノマー成分の種類とその割合からFoxの式により求めたところ、6℃であった。
【0131】
「カプセル化顔料分散液”M5”の製造」
フラスコにメチルエチルケトン250gを仕込み、窒素シール下に攪拌しながら75℃まで昇温させ、n−ブチルメタクリレート170g、n−ブチルアクリレート58g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35g、アクリル酸35g及び重合開始剤パーブチルO 20gから成る混合液を2時間かけて滴下し、更に15時間反応させてビニル系ポリマーの溶液を得た。上記のポリマー溶液15gを、ステンレス製ビーカーにジメチルエタノールアミン0.8gとマゼンタ顔料(C.I.ピグメントレッド122)15gと共に加え、更にイオン交換水を加えて総量が75gとなるようにし、平均粒径が0.5nmのジルコニアビーズ250gを加えて、サンドミルを用いて4時間混練を行った。混練終了後にジルコニアビーズを濾別して、塩基で中和されたカルボキシル基を有するポリマーと顔料から成る分散体を水に分散したものを得た。これを常温で攪拌しながら、1規定塩酸を樹脂が不溶化して顔料に固着するまで添加した。この時のpHは3〜5であった。ポリマーの固着した顔料を含有する水性媒体を吸引濾過し、水洗して含水ケーキを得た。この含水ケーキを分散機で攪拌しながら、分散体のpHが8.5〜9.5となるまで10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、1時間攪拌を続けた後にイオン交換水を加えて、固形分濃度が20%となるように調整して、C.I.ピグメントレッド122のマイクロカプセル化顔料分散液”M5”を得た。
【0132】
「インクジェット記録用インクの作製;実施例1〜5、参考例1〜3及び比較例1,2」
下記表1に示す組成に基いて、実施例1〜5、参考例1〜3及び比較例1,2のインクジェット記録用インクを調製した。
【0133】
【表1】

【0134】
「評価」
実施例1〜5、参考例1〜3及び比較例1,2のインクジェット記録用インク、並びに、これらのインクを用いて印刷した記録物の評価を、下記に示す方法により行い、結果を表2に示す。
【0135】
評価1:耐擦性
実施例、参考例及び比較例のインクジェット記録用インクをインクカートリッジに充填し、これをインクジェトプリンタPM−720C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン社製 スーパーファイン専用光沢フィルムに10mm×10mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、上記印刷領域をゼブラ社製イエロー水性蛍光ペン ZEBRA PEN2(商標)を用いて、500g荷重で速度10mm/秒で擦り、汚れの発生の有無を観察した。その結果を以下の基準で評価した。
A:2回擦っても全く汚れが生じない。
B:1回の擦りでは汚れが生じないが、2回目の擦りで汚れが発生する。
C:1回の擦りで汚れが発生する。
【0136】
評価2:耐擦過性
実施例、参考例及び比較例のインクジェット記録用インクをインクカートリッジに充填し、これをインクジェトプリンタPM−720C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン社製 スーパーファイン専用光沢フィルムに10mm×10mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、上記印刷領域と非印刷領域の境界付近を、硬度HBの鉛筆にて擦り、顔料粒子の剥がれの程度を観察した。その結果を以下の基準で評価した。
AA:4回擦っても剥がれが生じない。
A:2回擦っても剥がれが生じない。
B:1回の擦りでは剥がれが生じないが、2回目の擦りで汚れが発生する。
C:1回の擦りで剥がれが発生する。
【0137】
評価3:定着性
実施例、参考例及び比較例のインクジェット記録用インクをインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPM−720C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン社製 スーパーファイン専用光沢フィルムに50mm×50mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、上記印刷領域にScotchメンディングテープ(住友スリーエム株式会社)18mm幅タイプを軽く貼り付け、その上に直径20mm、長さ810mm、重さ200gの円柱形の金属性ローラーをのせ、これを転がしてテープ貼り付け部分を一往復させた。
次いで貼り付けたテープを剥がして、剥がれの程度を目視で観察し、以下に示す基準により評価した。
A:全く剥がれが発生しない。
B:テープ貼り付け部分の全面積に対して、10%未満の領域に剥がれが発生した。
C:テープ貼り付け部分の全面積に対して、10%以上の領域に剥がれが発生した。
【0138】
評価4:光沢
実施例、参考例及び比較例のインクジェット記録用インクをインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPM−720C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン社製 スーパーファイン専用光沢フィルム及びPM写真用紙(光沢)に50mm×50mmの領域に100%dutyでベタ印刷し、25℃の温度で1時間放置した。その後、上記印刷領域の光沢の有無を目視で観察し、以下に示す基準により評価した。
A:非常に光沢がある(高光沢である。)。
B:光沢があるが、Aよりは劣る。
C:やや光沢がある。
D:光沢が全くない。
【0139】
評価5:吐出安定性
実施例、参考例及び比較例のインクジェット記録用インクをインクカートリッジに充填し、これをインクジェットプリンタPM−720C(セイコーエプソン株式会社製)に装填して、セイコーエプソン社製 スーパーファイン専用紙に、1mmの罫線を印刷して、ドット抜けやインク着弾位置ずれ等の印字の状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:印刷枚数を20000枚以上印刷しても、ドット抜けやインク着弾位置ずれがない。
B:印刷枚数が10000枚以上20000枚未満でドット抜けやインク着弾位置ずれが発生する。
C:印刷枚数が1000枚以上10000枚未満でドット抜けやインク着弾位置ずれが発生する。
D:印刷枚数が100枚以上1000枚未満でドット抜けやインク着弾位置ずれが発生する。
E:印刷枚数が100枚未満でドット抜けやインク着弾位置ずれが発生する。
【0140】
評価6:目詰まり信頼性
前記評価4で行った印刷の後、プリンタの電源をオフにして放置し、2週間後に同様な印字試験を行った。その時の”インクの吐出状況”を目視で観察し、以下に示す基準で評価した。
A:印刷信号をプリンタに送信すると同時に、クリーニング動作なしで正常な印刷を開始する。
B:クリーニング動作3回以内で正常な印刷を行う。
C:クリーニング動作6回以内で正常な印刷を行う。
D:クリーニング動作を7回以上繰り返しても、正常な印刷が行えない。
【0141】
【表2】

【0142】
表2に示すように、複層マイクロカプセル化顔料から作製した実施例のインクジェット記録用インクは、耐擦過性、定着性、吐出安定性、目詰まり信頼性で特に優れた性能を示した。
一方、単層マイクロカプセル化顔料から作製した参考例及び比較例のインクジェット記録用インクは、参考例1〜参考例3が吐出安定性、目詰まり信頼性は実施例と同様な効果を示したが、耐擦性、耐擦過性、定着性、光沢性については実施例ほどの優れた効果は見られなかった。また、比較例1及び2については、全体的に実施例ほどの優れた効果は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】アニオン性基を表面に有する芯物質が、水性溶媒に分散するとともに、第1の被覆層の重合前のカチオン性重合性界面活性剤とアニオン性重合性界面活性剤とに対して、共存している状態を示す模式図である。
【図2】図1に示す分散状態においてカチオン性重合性界面活性剤とアニオン性重合性界面活性剤とが重合された状態を示す第1の被覆層の模式図である。
【図3】第1の被覆層で被覆された芯物質が、水性溶媒に分散するとともに、第2の被覆層の重合前のカチオン性重合性界面活性剤とアニオン性重合性界面活性剤とに対して、共存している状態を示す模式図である。
【図4】図3に示す分散状態においてカチオン性重合性界面活性剤とアニオン性重合性界面活性剤とが重合された状態を示す第1の被覆層および第2の被覆層の模式図である。
【符号の説明】
【0144】
1 芯物質、2 カチオン性重合性界面活性剤、3 アニオン性重合性界面活性剤、11 カチオン性基、12,12’疎水性基、13,13’重合性基、14,14’,14”アニオン性基、60’,60”ポリマー層(ポリマー)、100 マイクロカプセル化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に電荷を有する芯物質が、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆された、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物であって、芯物質と接する第1の被覆層を構成するポリマーが、(1)芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有し、第1の被覆層の外側に接する第2の被覆層を構成するポリマーが、(3)第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(4)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有する、カプセル化物。
【請求項2】
第3の被覆層以降の被覆層を有し、該被覆層を構成するポリマーが(1)直下の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位と、(2)直下の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dから誘導された繰り返し構造単位とを少なくとも有する、請求項1に記載のカプセル化物。
【請求項3】
前記イオン性重合性界面活性剤B又は前記イオン性重合性界面活性剤Dと共にそれぞれのイオン性重合性界面活性剤と同種の電荷を有するイオン性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のカプセル化物。
【請求項4】
前記各被覆層の少なくともいずれかのポリマーが疎水性モノマーから誘導された繰り返し構造単位を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のカプセル化物。
【請求項5】
表面に電荷を有する芯物質を、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆する、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物の製造方法であって、(1)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Bを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(3)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(4)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層を形成することを特徴とするカプセル化物の製造方法。
【請求項6】
(1)少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層を形成したカプセル化物の水性分散液に当該カプセル化物の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(2)当該カプセル化物の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤Dを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第3の被覆層以降の被覆層を形成することを特徴とする請求項5に記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項7】
表面に電荷を有する芯物質を、ポリマーを主成分とする複数の被覆層によって被覆する、少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層とを有するカプセル化物の製造方法であって、(1)当該表面に電荷を有する芯物質の水性分散液に芯物質の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤A及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(2)芯物質の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤B及び当該イオン性重合性界面活性剤Bと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第1の被覆層を形成し、ついで、(3)第1の被覆層を有した被覆物の水性分散液に第1の被覆層の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加えて混合後、(4)第1の被覆層の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D及び当該イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第2の被覆層を形成することを特徴とするカプセル化物の製造方法。
【請求項8】
(1)少なくとも第1の被覆層と第2の被覆層を形成したカプセル化物の水性分散液に当該カプセル化物の表面電荷と反対電荷を有するイオン性重合性界面活性剤C及び/又はイオン性モノマーを加え混合後、(2)当該カプセル化物の表面電荷と同種又は反対の電荷を有するイオン性重合性界面活性剤D及び当該イオン性重合性界面活性剤Dと同種の電荷を有するイオン性モノマーを加え、混合かつ乳化後、重合開始剤を加えて水中にて重合し、第3の被覆層以降の被覆層を形成することを特徴とする請求項7に記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項9】
各被覆層の少なくともいずれかを形成する際に、各イオン性重合性界面活性剤及び/又はイオン性モノマーと共に疎水性モノマーを加えることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項10】
イオン性重合性界面活性剤B又はイオン性重合性界面活性剤Dを加える前に疎水性モノマーを加えて混合することを特徴とする請求項9に記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項11】
イオン性重合性界面活性剤B又はイオン性重合性界面活性剤Dを加え混合後に疎水性モノマーを加えて混合することを特徴とする請求項9に記載のカプセル化物の製造方法。
【請求項12】
芯物質が顔料粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカプセル化顔料。
【請求項13】
請求項12に記載のカプセル化顔料を含有する顔料分散液。
【請求項14】
請求項12に記載のカプセル化顔料を含有する顔料インク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−122900(P2006−122900A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283044(P2005−283044)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】