カムシャフト検査装置及びカムシャフト検査方法
【課題】製品対象のカムシャフトを組み付けたエンジンの発生音からカムシャフトの加工時に発生するびびりを精度良く検出する。
【解決手段】取得部21は、検査対象のカムシャフトが組み付けられたエンジンが発する音の異音テスター15による測定データを取得する。判定部22は、取得部21により取得された測定データのうち特定の周波数帯域の測定データの振幅の変化量、測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数及びスペクトルのピーク値の各特性値に基づき判別分析又はマハラノビスータグチ(MT)システムを用いて当該検査対象のカムシャフトに対するびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの加工状態の合否を判定する。
【解決手段】取得部21は、検査対象のカムシャフトが組み付けられたエンジンが発する音の異音テスター15による測定データを取得する。判定部22は、取得部21により取得された測定データのうち特定の周波数帯域の測定データの振幅の変化量、測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数及びスペクトルのピーク値の各特性値に基づき判別分析又はマハラノビスータグチ(MT)システムを用いて当該検査対象のカムシャフトに対するびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの加工状態の合否を判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフト検査装置及びカムシャフト検査方法、特にエンジンに組み付けるカムシャフトのびびりの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の一部品であるカムシャフトは、次のような工程を経て製造され、エンジンに組み付けられる。すなわち、粗材として投入されると、カムシャフトは、カムシャフト鋳造工程後にカムシャフト加工工程へ搬送される。この加工工程の中のカム切削加工工程において、ある程度の形状に切削された後、カムシャフトは、カム研磨工程で精度高く研磨される。さらに、その後、エンジンの製品として完成させるために、エンジンの組付工程へ搬送され、ここで他の加工工程を経て搬送されてきたクランク、シリンダブロック、シリンダヘッド、ピストン、コンロッド等の部品と共にエンジンの組付が行われる。なお、この組付工程の中に、異音テスター測定工程がある。そして、組付工程でエンジンの組付が完了すると、エンジンは、テストベンチへ搬送され、そこで官能監査が行われる。このテストベンチにおいて異常無しと判定されれば、エンジンは、製品として後工程の車両組付工程へ搬送される。
【0003】
ところで、加工工程の切削・研磨工程において、カムシャフトのカムの研磨面には「びびり」が発生する場合がある。カムシャフトにびびりが発生すると、エンジンに異音が発生することが経験的に判明している。従って、従来においては、異音テスター測定工程において異音テスターを用いて収集した測定値を解析することによってびびりの発生の有無を検査している。なお、異音テスター測定工程では、カムシャフトの「びびり」以外の異常の判定も行われ、異常の判定が必ずしもカムシャフトの「びびり」が原因とは特定されない。また、異音テスターの異常の原因としては、約30項目ある。
【0004】
なお、従来において、製造される順番が連続するm(mは自然数)個の半導体製品について、当該各製品の管理特性値とその直前に製造される製品の管理特性値との差の絶対値が所定の定数以下である場合に、管理特性値が異常であると判定する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−188405号公報
【特許文献2】特開2006−161677号公報
【特許文献3】特開2005−208186号公報
【特許文献4】特開2006−106017号公報
【特許文献5】特開2002−323370号公報
【特許文献6】特開2006−023214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
異音テスターを用いてカムシャフトのびびりによる異音発生の検査を精度良く行うためには、数多くの測定項目に対する測定を行い、合否判定の閾値として規格値を数多くの車種毎に精度良く設定する必要がある。しかしながら、従来においては、この規格値が精度良く設定されていないために、異音テスターによる測定値を用いた検査だけでは不十分であった。このため、組み付け工程後に別途テストベンチにて官能検査を行う必要があった。
【0007】
本発明は、製品対象のカムシャフトを組み付けたエンジンの発生音からカムシャフトの加工時に発生するびびりを精度良く検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカムシャフト検査装置は、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された測定データを記憶する記憶手段と、検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定手段と、を有し、前記判定手段は、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とする。
【0009】
また、前記判定手段は、当該検査対象のカムシャフトの合否判定に、前記測定データのうち、検査時に音を発するエンジンの回転数に依存した周波数帯域に該当する測定データのみを用いることを特徴とする。
【0010】
また、前記判定手段は、前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格したカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された合格検証値及び前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格しなかったカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された不合格検証値を出力する手段と、合格検証値及び不合格検証値を参照したユーザによる入力値を合否判定閾値として受け付ける手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記判定手段は、前記統計的手法として判別分析またはマハラノビスータグチシステムを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【0012】
本発明に係るカムシャフト検査方法は、コンピュータにより実施され、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得ステップと、取得された測定データを記憶した記憶手段から検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データを抽出する抽出ステップと、抽出された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定ステップと、を含み、前記判定ステップは、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データのうちびびりの発生に対し寄与率が高くなる周波数帯域及び3つの測定項目に着目し、そしてカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を利用するようにしたので、前記音の測定データからカムシャフトのびびりの発生を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態における品質履歴情報管理システムの全体構成図である。図1には、エンジンの生産ラインを構成する鋳造ライン12、加工ライン13及び組付ライン14が示されている。鋳造ライン12では、搬送されてきた各素材を鋳造または鍛造するなどしてカムシャフトをはじめ、エンジンに組み付けるクランク、シリンダブロック等の各部品が製造される。鋳造工程管理サーバ16は、鋳造・鍛造工程において製造された各部品の品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。加工ライン13では、鋳造ライン12から搬送されてきた各部品の加工が行われる。加工工程管理サーバ17は、加工工程において加工された各部品の品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。
【0016】
組付ライン14では、加工ライン13から搬送されてきた各部品をエンジンに組み付けることによってエンジンが車両の一部品として製造される。組付ライン14には、異音テスター測定工程が含まれている。この工程におけるエンジン完成品の検査では、異音テスター15を用いてエンジン駆動による発生音を測定する。組付工程管理サーバ20は、組付工程において製造された各部品及びエンジンの品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。本実施の形態における組付工程管理サーバ20は、本発明に係るカムシャフト検査装置に相当する装置であり、異音テスターによる測定データを収集する。
【0017】
図2は、本実施の形態における組付工程管理サーバ20のハードウェア構成図である。本実施の形態における組付工程管理サーバ20は、従前から存在する汎用的なサーバコンピュータのハードウェア構成で実現できる。すなわち、コンピュータは、図2に示したようにCPU1、ROM2、RAM3、ハードディスクドライブ(HDD)4を接続したHDDコントローラ5、入力手段として設けられたマウス6とキーボード7、及び表示装置として設けられたディスプレイ8をそれぞれ接続する入出力コントローラ9、通信手段として設けられたネットワークコントローラ10を内部バス11に接続して構成される。なお、性能的に差異はあるかもしれないが、他の管理サーバ16,17,18もコンピュータであることから、そのハードウェア構成は、図2と同じように図示することができる。
【0018】
図1には、更に組付工程管理サーバ20のブロック構成が示されている。組付工程管理サーバ20は、取得部21、判定部22、情報管理部23及ぶ検査情報記憶部24を有している。異音テスター15は、製品対象のカムシャフトが組み付けられたエンジンから発生された音を測定データとして収集するが、取得部21は、その異音テスター15による測定データを取得する。判定部22は、詳細は後述するように取得部21により取得された測定データに基づき統計的手法を用いて当該検査対象のカムシャフトに対するびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの加工状態の合否を判定する。本実施の形態では、統計的手法として、測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な判別分析又はマハラノビスータグチ(MT)システムを用いる。情報管理部23は、検査対象となったカムシャフトの品質に関する情報を検査情報記憶部24に登録すると共に、品質履歴情報管理サーバ18にアップロードする。検査情報記憶部24に登録されるカムシャフトの品質に関する情報には、検査対象となったカムシャフトの製造番号、製造日、規格、判定部22による判定結果(合格または不合格)、検査日等が含まれる。
【0019】
組付工程管理サーバ20における各構成要素21〜23は、組付工程管理サーバ20を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU1で動作するプログラムとの協調動作により実現される。取得部21は、特に異音テスター15と共に音収集手段を形成する。また、検査情報記憶部24は、コンピュータに搭載されたHDD4にて実現される。
【0020】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROMやDVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPU1がインストールプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0021】
本実施の形態は、エンジン生産ラインの後工程の組付工程で実施されている異音テスターによる測定データに基づき加工工程の切削・研磨工程で発生するカムシャフトのびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの正常・異常の判定を行うものである。本実施の形態における具体的なデータ解析手法について以下に示す。
【0022】
(管理図を利用した評価)
異音テスターの測定データの表示方法には管理図がある。(管理図に関しては、JISZ9020,9021参照)。管理図は、各ワークの測定結果を時系列的に示すツールである。従来においては、管理図を利用することによって、母集団による平均値と管理限界(規格値)との関係を示して、製造される部品の正常・異常を評価した。なお、十有りにおいては、正常であれば検査に合格し、異常であれば検査に不合格となる。しかし、この考え方は必ずしも正解とはいえない。それは、管理限界が一般的に母集団の3σ(σ:標準偏差、3σ:99.7%)とみなして設定しているからである。しかし、この限界は、ある期間には当てはまらない場合がある。その一例を、図3を用いて説明する。
【0023】
異音テスターの測定周波数帯域は、0〜20kHzであり、たとえば図4のように、16の周波数帯域に区分して測定している。なお、0〜20kHzを分割する周波数帯域及び分割数は、測定装置である異音テスターの設定に依存する。ここで、振幅の変化量(An,n=1〜16)、振幅のしきい値超え発生回数(Pn,n=1〜16)、スペクトルのピーク値(Fn,n=1〜16)(10点平均値)の3特性を測定している。これらの3特性のうち、図5Aには振幅の変化量Anとしきい値Tを超えた振幅の発生回数Pnに関して該当する部分のピーク値を、図5Bにはスペクトルのピーク値Fnを、それぞれ示した。しきい値は、過去の実績に基づき得られている。なお、本実施の形態では、エンジンの回転数を、たとえば1000rpmと設定して測定を行うことにする。
【0024】
図3は、たとえば、周波数帯域が1.5kHz以上2kHz未満のスペクトルのピーク値(F3)について示した管理図である。この図3において+3σのラインは直前に計算したカムシャフト50点の測定データに基づき算出した3σの値を示している。そして、図3において点Aは管理限界(規格値)を超えたカムシャフトの計算値であるが、このカムシャフトは直前50点の測定データの傾向から3σを超えているので異常と判定できる。しかし、点Bのように管理限界(規格値)に達していなくても、直前50点のカムシャフトの測定データの傾向から3σを超えてしまっている場合が発生する。本実施の形態では、このようなカムシャフトも異常とみなすこととした。なお、3σを計算する直前の測定点数は、図3の例では50点だが、一般的にはk(整数)点として、状況に応じて決定する。このような考え方は、カムシャフトのびびりの発生が、周期的に発生するのではなく、一時期に集中的に発生する現象であり、これを統計的に処理するための方法として生じてきた。
【0025】
(前後工程の関連付け)
本実施の形態では、前述したように、加工工程においてカムシャフトに発生しうるびびりと組付工程において異音テスターにより収集される測定データとの関連付けを検討している。加工工程においてカムシャフトに発生しうるびびり33は、図6に示したようにノーズ部分31や揚程部分32で発生する。図7は、びびり33が発生したカムの研磨面の一部分を拡大した図である。びびりは、ピークとピッチを実際に測定すれば判定できるが、本実施の形態では、組付工程で用いる異音テスターの測定データを解析することによってびびりの発生の有無を精度良く判定する。
【0026】
(評価方法確立のための事前解析)
本実施の形態では、異音テスターの測定データを利用した評価方法を体系化するために、事前に解析を行った。カムシャフトのびびりは、加工工程のカムシャフトの研磨工程で発生するが、その発生形態は、1日、または1週間で周期的に発生するわけではない。加工ラインでのびびりの発生の原因としては、一般的には、設備とワークの相対的な動きで発生すると考えられている。この場合は理論的にも発生メカニズムは解明されているのでこのメカニズムに対する対策、たとえば、オートバランサーによる修正等の対策を講じることによって発生は回避できる。しかし、発生の原因はこればかりではなく、研磨工程で用いられる設備の砥石交換時での作業者による砥石設定不良も原因となりうる。これは、人的な原因なので、確実に回避できるとは言い難い。そして、この場合は、砥石交換後に集中的にびびりが発生する。結果的に、びびりの発生は、「異音」という現象として把握することが必要となる。こうした状況から発生するカムシャフトのびびりに対して、本実施の形態では、組付工程で実施する異音テスターによる測定データを利用して解析を行うようにした。
【0027】
図8A及び図8Bは、びびりの発生が確認できているワーク(カムシャフト)に対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図である。図8A,図8Bでは、8時から1時30分まで10分刻みで1つのカムシャフトに対してびびりの発生の有無を解析した結果が示されている。つまり、1つのカムシャフトの検査の所要時間は10分である。図8A,図8Bにおける種類NO.は、エンジンの型式を示す番号である。また、カムシャフトに対する測定項目としては、図4に示したように振幅の変化量An、振幅のしきい値超え発生回数Pn、スペクトルのピーク値Fn(nは共にn=1〜16)を用いている。但し、図8A,図8Bでは、便宜的にn=10以降の高周波帯域については、得られる解析結果を左右しない測定値であったために図から省略した。そして、16区分した各周波数帯域について、
(1)管理限界(規格値)を外れた場合
(2)管理限界(規格値)に達していなくても、直前50点の測定値の傾向から3σを超えてしまっている場合
(3)(1)かつ(2)を満たす場合
について調べたものである。図8A,図8Bにおいて、(1)に該当する枠には縦線を、(2)に該当する枠には横線を、(3)に該当する枠には黒塗りを、それぞれ施した。なお、びびりが検出できたカムシャフトに該当するデータには、表の左欄に示したように“*”を付加した。図9は、図8A,図8Bに示した測定結果のうちびびりが発生した場合のみ抽出して示した図である。この解析結果より、以下のことが判明した。
【0028】
第一に、びびりが発生した場合は、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目で、上記(1)〜(3)のいずれかが発生している。
【0029】
第二に、びびりが発生しない場合は、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目で、(1)〜(3)の状況はほとんど発生せず、反対に、別の項目(P2,P4,P6等)で(1)〜(3)の状況が発生している。
【0030】
以上のことから、びびりの発生に対し、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目の寄与率が高いと判断できる。本実施の形態では、これらの測定項目に基づき統計的手法を適用して、びびりの判定の定量化が可能か検討を行った。本実施の形態では、適用する統計的手法として、多変量解析の手法の判別分析およびマハラノビスータグチ(MT)システムを採用した。それぞれの手法の解析結果を以下に示す。
【0031】
1.判別分析
判別分析の一般的解法については、文献:「多変量解析の実践」(菅民郎、現代数学社)等を参照することができる。本実施の形態では、びびりが発生した異常データ、びびりが発生しなかった正常データを使用して、以下の判別関数zを求めた。
z=a1×A2+a2×F2+a3×A3+a4×P3+a5×F3+b (1)
但し、a1〜a5はシステムが計算により予め求めている係数、bは定数である。本実施の形態では、さらに、カムシャフトの規格毎に係数を設定し、上記式(1)の判別関数zの係数を検査対象とするカムシャフトに応じて切り替えながら検査を行うことにした。
【0032】
2.マハラノビスータグチ(MT)システム
第2の方法として、以下にMTシステムについて説明する。図10は、MTシステムの概要を説明するために用いる図である。MTシステムは、検査に合格したカムシャフトの測定データ群(=基準空間(単位空間とも言う))34と検査対象のカムシャフトの測定データ35とのかけ離れ具合を1次元の統計的距離(「マハラノビスの距離」)36に置き換えて、検査対象のカムシャフトの合否判定を行う方法である。この方法は、多変量解析の手法の複数の母集団のどれに属するかを調べる判別分析と異なり、1つの正常な母集団にどのくらい近いかを調べる方法で、不合格のカムシャフトのデータが少なくても解析が可能である点に特徴がある。
【0033】
次に、MTシステムを用いた場合において合否判定の閾値とする合否判定値Sの設定手順について図11に示したフローチャートを用いて説明する。
【0034】
情報管理部23は、検査情報記憶部24から検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査済みのカムシャフトのうち検査により合格と判定されたカムシャフトの測定データを抽出する(ステップ101)。ここで抽出するのは、びびりの発生に対して寄与率が高いと判断したA2,F2,A3,P3,F3の5測定項目の各測定値とする。なお、抽出するデータ数は、多いほど精度が高くなるので該当するカムシャフト全てのデータを用いることが好適であるが、計算量との兼ね合いから必ずしも全てのデータを用いなくてもよい。
【0035】
続いて、情報管理部23は、抽出したデータ(以下、「基準データ」)に基づき合格したカムシャフトに対する基準空間を定義する(ステップ102)。具体的には、次の手順で計算を行う。まず、情報管理部23は、測定項目(x1,x2,x3,・・・・,xn)について平均及び分散を求める。本実施の形態では、A2,F2,A3,P3,F3の5測定項目について求めるのでn=5であり、図12に示したように、1x=A2,2x=F2,3x=A3,4x=P3,5x=F3として、平均及び分散を次の式(2),(3)でそれぞれ求める。
【数1】
【数2】
【0036】
これにより、標準偏差は式(4)で表すことができる。
【数3】
【0037】
次に、これらの数値の正規化を行う。ここでは、図13に示したように、正規化されたT1,T2,T3,T4,T5の5個の測定項目に対して式(5)を用いて算出する。
【数4】
【0038】
このとき、すべての項目で、平均=0、標準偏差=1となる。続いて、正規化データの相関行列を求める。これは、相関係数を一般的に
【数5】
とすると、相関行列Rは、一般的に
【数6】
となる。更に、相関行列の逆行列を式(8)を用いて求める。これは一般的に
【数7】
となる。なお、ここではk=5である。以上のように、相関行列の逆行列によって単位空間を定義する。
【0039】
そして、情報管理部23は、ステップ101において抽出した基準データを使用してマハラノビスの距離を算出する(ステップ103)。図14に示したように、基準データを1x′=A2,2x′=F2,3x′=A3,4x′=P3,5x′=F3とすると、正規化されたデータは、式(5)と同様に考えて、T′1,T′2,T′3,T′4,T′5の5個となる(図15)。そして、これよりマハラノビスの距離D2は、一般的には
【数8】
となる。なお、ここではk=5である。
【0040】
以上のようにして、情報管理部23は、検査により合格と判定されたカムシャフトの測定データに基づきマハラノビスの距離D2を求める。情報管理部23は、更にステップ101において、検査により不合格と判定されたカムシャフトの測定データを抽出し、ステップ102,103を実施してマハラノビスの距離D2を求める。更に、以上の処理をカムシャフトの規格毎に行う。
【0041】
このようにして、合格したカムシャフトと不合格のカムシャフトそれぞれについてマハラノビスの距離を求めると、情報管理部23は、検査対象とするカムシャフトの合否判定値Sを設定する(ステップ104)。具体的には、情報管理部23は、算出したマハラノビスの距離をディスプレイに表示するなどして検査員若しくは管理者等に提示する。表示されたマハラノビスの距離を参照することによって検査員等が合否判定値Sを入力すると、情報管理部23は、その入力値を受け付け、保持する。なお、例えば合格及び不合格それぞれのマハラノビスの距離の平均値を合否判定値Sとするなど予め決められた計算式を用いて合否判定値Sを求めるようにすれば、情報管理部23が合否判定値Sを自動的に算出することは可能である。
【0042】
なお、合否判定値Sは、以降に説明する判定処理が実施される前に求められていればよい。本実施の形態では、上記のように情報管理部23が合否判定値Sを設定するように説明したが、情報管理部23とは別の手段あるいは組付工程管理サーバ20以外のコンピュータで合否判定値Sを求めさせるようにしてもよい。
【0043】
続いて、検査対象のカムシャフトに対して合否判定を行う処理について説明する。本実施の形態では、判別分析及びMTシステムという解析手法を採用しているので、それぞれについてフローチャートを用いて説明する。最初に判別分析を用いた合否判定処理について図16に示したフローチャートを用いて説明する。
【0044】
異音テスターが検査対象となるカムシャフトが組み付けられたエンジンを駆動することによって得た測定データを、取得部21が取得すると、判定部22は、その測定データのうち前述したA2,F2,A3,P3,F3の測定データを抽出することによって取得する(ステップ111)。そして、判定部22は、検査対象のカムシャフトの規格に対応した係数を式(1)に当てはめると共に抽出した測定値を代入することによって判別関数を算出する(ステップ112)。そして、算出した判別関数zが0以下の場合(ステップ113でN)、判定部22は、正常と判定し、そのカムシャフトを後工程に送る(ステップ114)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されなかったために合格品と判定されたことになる。一方、算出した判別関数zが0より大きい場合(ステップ113でY)、判定部22は、異常と判定し、そのカムシャフトを生産ラインから除く(ステップ115)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されたために不合格品と判定されたことになる。以上説明した処理(ステップ111〜115)を検査対象のカムシャフトがなくなるまで繰り返し行う(ステップ116)。
【0045】
次に、MTシステムを用いた合否判定処理について図17に示したフローチャートを用いて説明する。
【0046】
異音テスターが検査対象となるカムシャフトが組み付けられたエンジンを駆動することによって得た測定データを、取得部21が取得すると、判定部22は、その測定データのうち前述したA2,F2,A3,P3,F3の測定データを抽出することによって取得する(ステップ121)。そして、判定部22は、取得した各測定データと前述した式(2)〜(9)を用いてマハラノビスの距離DXを計算する(ステップ122)。そして、算出したマハラノビスの距離DXが合否判定値S以下の場合(ステップ123でN)、判定部22は、正常と判定し、そのカムシャフトを後工程に送る(ステップ124)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されなかったために合格品と判定されたことになる。一方、算出したマハラノビスの距離DXが合否判定値Sより大きい場合(ステップ123でY)、判定部22は、異常と判定し、そのカムシャフトを生産ラインから除く(ステップ125)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されたために不合格品と判定されたことになる。以上説明した処理(ステップ121〜125)を検査対象のカムシャフトがなくなるまで繰り返し行う(ステップ126)。
【0047】
図18Aは、判別分析を用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図、図18Bは、MTシステムを用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。なお、図18Bにおいて“30”が合否判定値S、“10”“合格品のみから求めたマハラノビスの距離に相当する。いずれの手法についても、びびりの発生があった場合とびびりの発生がなかった場合の判別率は1であり、常に正しく判別することができた。
【0048】
なお、本実施の形態では、2つの手法を別個に説明したが、合否判定処理の手法をユーザに選択させる処理を含めることで所望の手法に切り替えられるようにしてもよい。
【0049】
(びびりの数と周波数帯域との関係)
ところで、本実施の形態においては、カムシャフトの加工工程の中の研磨工程のびびりの発生を組付工程の異音テスターの測定データを使用して判定を行った。この結果、3つの特性の測定項目、すなわち(a)振幅の変化量(An,n=1〜16)、(b)振幅のしきい値超え発生回数(Pn)、(c)スペクトルのピーク値(Fn)(10点平均値)において、特に1−2kHzの周波数帯域の測定値の寄与率が高いことが判明した。その原因は次のようであると考えられる。
【0050】
それは、カムシャフトを組み付けるエンジンはV型6気筒の種類であった。V型6気筒エンジンは、ダブルカムシャフトの構造なので、それぞれのカムシャフトには3種類の異なった位相で2個ずつのカム(図6に示したカムを1個と数える)が配置されている。そこで、異音テスターで測定の際に、測定対象のエンジンを600rpmで回転させて測定を行うと、異音の発生回数は
600rpm/60×6×N=60N(回)
ここで、Nはびびりの山数である。そして、これまでのびびりの解析研究から、びびりはカム1個当たり、20〜30山程度であると考えられている。これより、平均を取ってカムの山数を25山とすると、
60×25=1500回=1500Hz
と計算される。
【0051】
一方、異音テスターでは、1〜2kHzの異音として測定されるので、1kHzの場合、びびりの山数は、1000/60=16個程度と計算される。また、2kHzの場合、びびりの山数は、2000/60=33個程度と計算される。つまり、びびりの山数は、異音テスターの測定結果から、1個のカムについて、16個から33個と考えられる。
【0052】
そして、以上の計算式から、エンジンの回転数によって寄与率が高くなる周波数帯域が決まってくると考えられる。
【0053】
本実施の形態によれば、異音テスターにより収集された測定データのうちびびりの発生に対し寄与率が高くなる周波数帯域及び3つの測定項目に着目し、そして判別分析又はマハラノビス一夕グチシステムの統計的手法を利用するようにしたので、テストベンチにおいて検査結果に個人差が発生する官能検査を実施しなくてもカムシャフトのびびりの発生を定量的に精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態における品質履歴情報管理システムの全体構成図である。
【図2】本実施の形態における組付工程管理サーバのハードウェア構成図である。
【図3】本実施の形態において異音テスターの測定データを表示する管理図を示した図である。
【図4】本実施の形態において分割した測定周波数帯域と測定項目との関係を示した図である。
【図5A】本実施の形態において振幅の変化量としきい値を超えた振幅の発生回数に関して該当する部分のピーク値を示した図である。
【図5B】本実施の形態においてスペクトルのピーク値を示した図である。
【図6】カムシャフトのカムの部分を示した図である。
【図7】カムの研磨面の一部分を拡大した図である。
【図8A】本実施の形態においてびびりの発生が確認できているカムシャフトに対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図である。
【図8B】本実施の形態においてびびりの発生が確認できているカムシャフトに対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図であり、図8Aに続く図である。
【図9】図8A,図8Bに示した測定結果のうちびびりが発生した場合のみ抽出して示した図である。
【図10】MTシステムの概要を説明するために用いる図である。
【図11】本実施の形態においてMTシステムを用いた場合の合否判定値の設定手順を示したフローチャートである。
【図12】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと異音テスターによる測定値との関係を示した図である。
【図13】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと正規化された測定値との関係を示した図である。
【図14】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと基準データとの関係を示した図である。
【図15】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと正規化された基準データとの関係を示した図である。
【図16】本実施の形態において判別分析を用いた合否判定処理を示したフローチャートである。
【図17】本実施の形態においてMTシステムを用いた合否判定処理を示したフローチャートである。
【図18A】本実施の形態において判別分析を用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。
【図18B】本実施の形態においてMTシステムを用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 CPU、2 ROM、3 RAM、4 ハードディスクドライブ(HDD)、5 HDDコントローラ、6 マウス、7 キーボード、8 ディスプレイ、9 入出力コントローラ、10 ネットワークコントローラ、11 内部バス、12 鋳造ライン、13 加工ライン、14 組付ライン、15 異音テスター、16 鋳造工程管理サーバ、17 加工工程管理サーバ、18 品質履歴情報管理サーバ、19 ネットワーク、20 組付工程管理サーバ、21 取得部、22 判定部、23 情報管理部、24 検査情報記憶部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カムシャフト検査装置及びカムシャフト検査方法、特にエンジンに組み付けるカムシャフトのびびりの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の一部品であるカムシャフトは、次のような工程を経て製造され、エンジンに組み付けられる。すなわち、粗材として投入されると、カムシャフトは、カムシャフト鋳造工程後にカムシャフト加工工程へ搬送される。この加工工程の中のカム切削加工工程において、ある程度の形状に切削された後、カムシャフトは、カム研磨工程で精度高く研磨される。さらに、その後、エンジンの製品として完成させるために、エンジンの組付工程へ搬送され、ここで他の加工工程を経て搬送されてきたクランク、シリンダブロック、シリンダヘッド、ピストン、コンロッド等の部品と共にエンジンの組付が行われる。なお、この組付工程の中に、異音テスター測定工程がある。そして、組付工程でエンジンの組付が完了すると、エンジンは、テストベンチへ搬送され、そこで官能監査が行われる。このテストベンチにおいて異常無しと判定されれば、エンジンは、製品として後工程の車両組付工程へ搬送される。
【0003】
ところで、加工工程の切削・研磨工程において、カムシャフトのカムの研磨面には「びびり」が発生する場合がある。カムシャフトにびびりが発生すると、エンジンに異音が発生することが経験的に判明している。従って、従来においては、異音テスター測定工程において異音テスターを用いて収集した測定値を解析することによってびびりの発生の有無を検査している。なお、異音テスター測定工程では、カムシャフトの「びびり」以外の異常の判定も行われ、異常の判定が必ずしもカムシャフトの「びびり」が原因とは特定されない。また、異音テスターの異常の原因としては、約30項目ある。
【0004】
なお、従来において、製造される順番が連続するm(mは自然数)個の半導体製品について、当該各製品の管理特性値とその直前に製造される製品の管理特性値との差の絶対値が所定の定数以下である場合に、管理特性値が異常であると判定する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−188405号公報
【特許文献2】特開2006−161677号公報
【特許文献3】特開2005−208186号公報
【特許文献4】特開2006−106017号公報
【特許文献5】特開2002−323370号公報
【特許文献6】特開2006−023214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
異音テスターを用いてカムシャフトのびびりによる異音発生の検査を精度良く行うためには、数多くの測定項目に対する測定を行い、合否判定の閾値として規格値を数多くの車種毎に精度良く設定する必要がある。しかしながら、従来においては、この規格値が精度良く設定されていないために、異音テスターによる測定値を用いた検査だけでは不十分であった。このため、組み付け工程後に別途テストベンチにて官能検査を行う必要があった。
【0007】
本発明は、製品対象のカムシャフトを組み付けたエンジンの発生音からカムシャフトの加工時に発生するびびりを精度良く検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るカムシャフト検査装置は、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得手段と、前記取得手段により取得された測定データを記憶する記憶手段と、検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定手段と、を有し、前記判定手段は、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とする。
【0009】
また、前記判定手段は、当該検査対象のカムシャフトの合否判定に、前記測定データのうち、検査時に音を発するエンジンの回転数に依存した周波数帯域に該当する測定データのみを用いることを特徴とする。
【0010】
また、前記判定手段は、前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格したカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された合格検証値及び前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格しなかったカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された不合格検証値を出力する手段と、合格検証値及び不合格検証値を参照したユーザによる入力値を合否判定閾値として受け付ける手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記判定手段は、前記統計的手法として判別分析またはマハラノビスータグチシステムを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【0012】
本発明に係るカムシャフト検査方法は、コンピュータにより実施され、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得ステップと、取得された測定データを記憶した記憶手段から検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データを抽出する抽出ステップと、抽出された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定ステップと、を含み、前記判定ステップは、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データのうちびびりの発生に対し寄与率が高くなる周波数帯域及び3つの測定項目に着目し、そしてカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を利用するようにしたので、前記音の測定データからカムシャフトのびびりの発生を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態における品質履歴情報管理システムの全体構成図である。図1には、エンジンの生産ラインを構成する鋳造ライン12、加工ライン13及び組付ライン14が示されている。鋳造ライン12では、搬送されてきた各素材を鋳造または鍛造するなどしてカムシャフトをはじめ、エンジンに組み付けるクランク、シリンダブロック等の各部品が製造される。鋳造工程管理サーバ16は、鋳造・鍛造工程において製造された各部品の品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。加工ライン13では、鋳造ライン12から搬送されてきた各部品の加工が行われる。加工工程管理サーバ17は、加工工程において加工された各部品の品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。
【0016】
組付ライン14では、加工ライン13から搬送されてきた各部品をエンジンに組み付けることによってエンジンが車両の一部品として製造される。組付ライン14には、異音テスター測定工程が含まれている。この工程におけるエンジン完成品の検査では、異音テスター15を用いてエンジン駆動による発生音を測定する。組付工程管理サーバ20は、組付工程において製造された各部品及びエンジンの品質に関連する情報を、図示しないコントローラを介して収集し、その収集した情報を内部のデータベースにて管理すると共に上位の品質履歴情報管理サーバ18にネットワーク19を介してアップロードする。本実施の形態における組付工程管理サーバ20は、本発明に係るカムシャフト検査装置に相当する装置であり、異音テスターによる測定データを収集する。
【0017】
図2は、本実施の形態における組付工程管理サーバ20のハードウェア構成図である。本実施の形態における組付工程管理サーバ20は、従前から存在する汎用的なサーバコンピュータのハードウェア構成で実現できる。すなわち、コンピュータは、図2に示したようにCPU1、ROM2、RAM3、ハードディスクドライブ(HDD)4を接続したHDDコントローラ5、入力手段として設けられたマウス6とキーボード7、及び表示装置として設けられたディスプレイ8をそれぞれ接続する入出力コントローラ9、通信手段として設けられたネットワークコントローラ10を内部バス11に接続して構成される。なお、性能的に差異はあるかもしれないが、他の管理サーバ16,17,18もコンピュータであることから、そのハードウェア構成は、図2と同じように図示することができる。
【0018】
図1には、更に組付工程管理サーバ20のブロック構成が示されている。組付工程管理サーバ20は、取得部21、判定部22、情報管理部23及ぶ検査情報記憶部24を有している。異音テスター15は、製品対象のカムシャフトが組み付けられたエンジンから発生された音を測定データとして収集するが、取得部21は、その異音テスター15による測定データを取得する。判定部22は、詳細は後述するように取得部21により取得された測定データに基づき統計的手法を用いて当該検査対象のカムシャフトに対するびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの加工状態の合否を判定する。本実施の形態では、統計的手法として、測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な判別分析又はマハラノビスータグチ(MT)システムを用いる。情報管理部23は、検査対象となったカムシャフトの品質に関する情報を検査情報記憶部24に登録すると共に、品質履歴情報管理サーバ18にアップロードする。検査情報記憶部24に登録されるカムシャフトの品質に関する情報には、検査対象となったカムシャフトの製造番号、製造日、規格、判定部22による判定結果(合格または不合格)、検査日等が含まれる。
【0019】
組付工程管理サーバ20における各構成要素21〜23は、組付工程管理サーバ20を形成するコンピュータと、コンピュータに搭載されたCPU1で動作するプログラムとの協調動作により実現される。取得部21は、特に異音テスター15と共に音収集手段を形成する。また、検査情報記憶部24は、コンピュータに搭載されたHDD4にて実現される。
【0020】
また、本実施の形態で用いるプログラムは、通信手段により提供することはもちろん、CD−ROMやDVD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。通信手段や記録媒体から提供されたプログラムはコンピュータにインストールされ、コンピュータのCPU1がインストールプログラムを順次実行することで各種処理が実現される。
【0021】
本実施の形態は、エンジン生産ラインの後工程の組付工程で実施されている異音テスターによる測定データに基づき加工工程の切削・研磨工程で発生するカムシャフトのびびりの発生の有無を検査し、カムシャフトの正常・異常の判定を行うものである。本実施の形態における具体的なデータ解析手法について以下に示す。
【0022】
(管理図を利用した評価)
異音テスターの測定データの表示方法には管理図がある。(管理図に関しては、JISZ9020,9021参照)。管理図は、各ワークの測定結果を時系列的に示すツールである。従来においては、管理図を利用することによって、母集団による平均値と管理限界(規格値)との関係を示して、製造される部品の正常・異常を評価した。なお、十有りにおいては、正常であれば検査に合格し、異常であれば検査に不合格となる。しかし、この考え方は必ずしも正解とはいえない。それは、管理限界が一般的に母集団の3σ(σ:標準偏差、3σ:99.7%)とみなして設定しているからである。しかし、この限界は、ある期間には当てはまらない場合がある。その一例を、図3を用いて説明する。
【0023】
異音テスターの測定周波数帯域は、0〜20kHzであり、たとえば図4のように、16の周波数帯域に区分して測定している。なお、0〜20kHzを分割する周波数帯域及び分割数は、測定装置である異音テスターの設定に依存する。ここで、振幅の変化量(An,n=1〜16)、振幅のしきい値超え発生回数(Pn,n=1〜16)、スペクトルのピーク値(Fn,n=1〜16)(10点平均値)の3特性を測定している。これらの3特性のうち、図5Aには振幅の変化量Anとしきい値Tを超えた振幅の発生回数Pnに関して該当する部分のピーク値を、図5Bにはスペクトルのピーク値Fnを、それぞれ示した。しきい値は、過去の実績に基づき得られている。なお、本実施の形態では、エンジンの回転数を、たとえば1000rpmと設定して測定を行うことにする。
【0024】
図3は、たとえば、周波数帯域が1.5kHz以上2kHz未満のスペクトルのピーク値(F3)について示した管理図である。この図3において+3σのラインは直前に計算したカムシャフト50点の測定データに基づき算出した3σの値を示している。そして、図3において点Aは管理限界(規格値)を超えたカムシャフトの計算値であるが、このカムシャフトは直前50点の測定データの傾向から3σを超えているので異常と判定できる。しかし、点Bのように管理限界(規格値)に達していなくても、直前50点のカムシャフトの測定データの傾向から3σを超えてしまっている場合が発生する。本実施の形態では、このようなカムシャフトも異常とみなすこととした。なお、3σを計算する直前の測定点数は、図3の例では50点だが、一般的にはk(整数)点として、状況に応じて決定する。このような考え方は、カムシャフトのびびりの発生が、周期的に発生するのではなく、一時期に集中的に発生する現象であり、これを統計的に処理するための方法として生じてきた。
【0025】
(前後工程の関連付け)
本実施の形態では、前述したように、加工工程においてカムシャフトに発生しうるびびりと組付工程において異音テスターにより収集される測定データとの関連付けを検討している。加工工程においてカムシャフトに発生しうるびびり33は、図6に示したようにノーズ部分31や揚程部分32で発生する。図7は、びびり33が発生したカムの研磨面の一部分を拡大した図である。びびりは、ピークとピッチを実際に測定すれば判定できるが、本実施の形態では、組付工程で用いる異音テスターの測定データを解析することによってびびりの発生の有無を精度良く判定する。
【0026】
(評価方法確立のための事前解析)
本実施の形態では、異音テスターの測定データを利用した評価方法を体系化するために、事前に解析を行った。カムシャフトのびびりは、加工工程のカムシャフトの研磨工程で発生するが、その発生形態は、1日、または1週間で周期的に発生するわけではない。加工ラインでのびびりの発生の原因としては、一般的には、設備とワークの相対的な動きで発生すると考えられている。この場合は理論的にも発生メカニズムは解明されているのでこのメカニズムに対する対策、たとえば、オートバランサーによる修正等の対策を講じることによって発生は回避できる。しかし、発生の原因はこればかりではなく、研磨工程で用いられる設備の砥石交換時での作業者による砥石設定不良も原因となりうる。これは、人的な原因なので、確実に回避できるとは言い難い。そして、この場合は、砥石交換後に集中的にびびりが発生する。結果的に、びびりの発生は、「異音」という現象として把握することが必要となる。こうした状況から発生するカムシャフトのびびりに対して、本実施の形態では、組付工程で実施する異音テスターによる測定データを利用して解析を行うようにした。
【0027】
図8A及び図8Bは、びびりの発生が確認できているワーク(カムシャフト)に対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図である。図8A,図8Bでは、8時から1時30分まで10分刻みで1つのカムシャフトに対してびびりの発生の有無を解析した結果が示されている。つまり、1つのカムシャフトの検査の所要時間は10分である。図8A,図8Bにおける種類NO.は、エンジンの型式を示す番号である。また、カムシャフトに対する測定項目としては、図4に示したように振幅の変化量An、振幅のしきい値超え発生回数Pn、スペクトルのピーク値Fn(nは共にn=1〜16)を用いている。但し、図8A,図8Bでは、便宜的にn=10以降の高周波帯域については、得られる解析結果を左右しない測定値であったために図から省略した。そして、16区分した各周波数帯域について、
(1)管理限界(規格値)を外れた場合
(2)管理限界(規格値)に達していなくても、直前50点の測定値の傾向から3σを超えてしまっている場合
(3)(1)かつ(2)を満たす場合
について調べたものである。図8A,図8Bにおいて、(1)に該当する枠には縦線を、(2)に該当する枠には横線を、(3)に該当する枠には黒塗りを、それぞれ施した。なお、びびりが検出できたカムシャフトに該当するデータには、表の左欄に示したように“*”を付加した。図9は、図8A,図8Bに示した測定結果のうちびびりが発生した場合のみ抽出して示した図である。この解析結果より、以下のことが判明した。
【0028】
第一に、びびりが発生した場合は、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目で、上記(1)〜(3)のいずれかが発生している。
【0029】
第二に、びびりが発生しない場合は、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目で、(1)〜(3)の状況はほとんど発生せず、反対に、別の項目(P2,P4,P6等)で(1)〜(3)の状況が発生している。
【0030】
以上のことから、びびりの発生に対し、A2,F2,A3,P3,F3の各測定項目の寄与率が高いと判断できる。本実施の形態では、これらの測定項目に基づき統計的手法を適用して、びびりの判定の定量化が可能か検討を行った。本実施の形態では、適用する統計的手法として、多変量解析の手法の判別分析およびマハラノビスータグチ(MT)システムを採用した。それぞれの手法の解析結果を以下に示す。
【0031】
1.判別分析
判別分析の一般的解法については、文献:「多変量解析の実践」(菅民郎、現代数学社)等を参照することができる。本実施の形態では、びびりが発生した異常データ、びびりが発生しなかった正常データを使用して、以下の判別関数zを求めた。
z=a1×A2+a2×F2+a3×A3+a4×P3+a5×F3+b (1)
但し、a1〜a5はシステムが計算により予め求めている係数、bは定数である。本実施の形態では、さらに、カムシャフトの規格毎に係数を設定し、上記式(1)の判別関数zの係数を検査対象とするカムシャフトに応じて切り替えながら検査を行うことにした。
【0032】
2.マハラノビスータグチ(MT)システム
第2の方法として、以下にMTシステムについて説明する。図10は、MTシステムの概要を説明するために用いる図である。MTシステムは、検査に合格したカムシャフトの測定データ群(=基準空間(単位空間とも言う))34と検査対象のカムシャフトの測定データ35とのかけ離れ具合を1次元の統計的距離(「マハラノビスの距離」)36に置き換えて、検査対象のカムシャフトの合否判定を行う方法である。この方法は、多変量解析の手法の複数の母集団のどれに属するかを調べる判別分析と異なり、1つの正常な母集団にどのくらい近いかを調べる方法で、不合格のカムシャフトのデータが少なくても解析が可能である点に特徴がある。
【0033】
次に、MTシステムを用いた場合において合否判定の閾値とする合否判定値Sの設定手順について図11に示したフローチャートを用いて説明する。
【0034】
情報管理部23は、検査情報記憶部24から検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査済みのカムシャフトのうち検査により合格と判定されたカムシャフトの測定データを抽出する(ステップ101)。ここで抽出するのは、びびりの発生に対して寄与率が高いと判断したA2,F2,A3,P3,F3の5測定項目の各測定値とする。なお、抽出するデータ数は、多いほど精度が高くなるので該当するカムシャフト全てのデータを用いることが好適であるが、計算量との兼ね合いから必ずしも全てのデータを用いなくてもよい。
【0035】
続いて、情報管理部23は、抽出したデータ(以下、「基準データ」)に基づき合格したカムシャフトに対する基準空間を定義する(ステップ102)。具体的には、次の手順で計算を行う。まず、情報管理部23は、測定項目(x1,x2,x3,・・・・,xn)について平均及び分散を求める。本実施の形態では、A2,F2,A3,P3,F3の5測定項目について求めるのでn=5であり、図12に示したように、1x=A2,2x=F2,3x=A3,4x=P3,5x=F3として、平均及び分散を次の式(2),(3)でそれぞれ求める。
【数1】
【数2】
【0036】
これにより、標準偏差は式(4)で表すことができる。
【数3】
【0037】
次に、これらの数値の正規化を行う。ここでは、図13に示したように、正規化されたT1,T2,T3,T4,T5の5個の測定項目に対して式(5)を用いて算出する。
【数4】
【0038】
このとき、すべての項目で、平均=0、標準偏差=1となる。続いて、正規化データの相関行列を求める。これは、相関係数を一般的に
【数5】
とすると、相関行列Rは、一般的に
【数6】
となる。更に、相関行列の逆行列を式(8)を用いて求める。これは一般的に
【数7】
となる。なお、ここではk=5である。以上のように、相関行列の逆行列によって単位空間を定義する。
【0039】
そして、情報管理部23は、ステップ101において抽出した基準データを使用してマハラノビスの距離を算出する(ステップ103)。図14に示したように、基準データを1x′=A2,2x′=F2,3x′=A3,4x′=P3,5x′=F3とすると、正規化されたデータは、式(5)と同様に考えて、T′1,T′2,T′3,T′4,T′5の5個となる(図15)。そして、これよりマハラノビスの距離D2は、一般的には
【数8】
となる。なお、ここではk=5である。
【0040】
以上のようにして、情報管理部23は、検査により合格と判定されたカムシャフトの測定データに基づきマハラノビスの距離D2を求める。情報管理部23は、更にステップ101において、検査により不合格と判定されたカムシャフトの測定データを抽出し、ステップ102,103を実施してマハラノビスの距離D2を求める。更に、以上の処理をカムシャフトの規格毎に行う。
【0041】
このようにして、合格したカムシャフトと不合格のカムシャフトそれぞれについてマハラノビスの距離を求めると、情報管理部23は、検査対象とするカムシャフトの合否判定値Sを設定する(ステップ104)。具体的には、情報管理部23は、算出したマハラノビスの距離をディスプレイに表示するなどして検査員若しくは管理者等に提示する。表示されたマハラノビスの距離を参照することによって検査員等が合否判定値Sを入力すると、情報管理部23は、その入力値を受け付け、保持する。なお、例えば合格及び不合格それぞれのマハラノビスの距離の平均値を合否判定値Sとするなど予め決められた計算式を用いて合否判定値Sを求めるようにすれば、情報管理部23が合否判定値Sを自動的に算出することは可能である。
【0042】
なお、合否判定値Sは、以降に説明する判定処理が実施される前に求められていればよい。本実施の形態では、上記のように情報管理部23が合否判定値Sを設定するように説明したが、情報管理部23とは別の手段あるいは組付工程管理サーバ20以外のコンピュータで合否判定値Sを求めさせるようにしてもよい。
【0043】
続いて、検査対象のカムシャフトに対して合否判定を行う処理について説明する。本実施の形態では、判別分析及びMTシステムという解析手法を採用しているので、それぞれについてフローチャートを用いて説明する。最初に判別分析を用いた合否判定処理について図16に示したフローチャートを用いて説明する。
【0044】
異音テスターが検査対象となるカムシャフトが組み付けられたエンジンを駆動することによって得た測定データを、取得部21が取得すると、判定部22は、その測定データのうち前述したA2,F2,A3,P3,F3の測定データを抽出することによって取得する(ステップ111)。そして、判定部22は、検査対象のカムシャフトの規格に対応した係数を式(1)に当てはめると共に抽出した測定値を代入することによって判別関数を算出する(ステップ112)。そして、算出した判別関数zが0以下の場合(ステップ113でN)、判定部22は、正常と判定し、そのカムシャフトを後工程に送る(ステップ114)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されなかったために合格品と判定されたことになる。一方、算出した判別関数zが0より大きい場合(ステップ113でY)、判定部22は、異常と判定し、そのカムシャフトを生産ラインから除く(ステップ115)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されたために不合格品と判定されたことになる。以上説明した処理(ステップ111〜115)を検査対象のカムシャフトがなくなるまで繰り返し行う(ステップ116)。
【0045】
次に、MTシステムを用いた合否判定処理について図17に示したフローチャートを用いて説明する。
【0046】
異音テスターが検査対象となるカムシャフトが組み付けられたエンジンを駆動することによって得た測定データを、取得部21が取得すると、判定部22は、その測定データのうち前述したA2,F2,A3,P3,F3の測定データを抽出することによって取得する(ステップ121)。そして、判定部22は、取得した各測定データと前述した式(2)〜(9)を用いてマハラノビスの距離DXを計算する(ステップ122)。そして、算出したマハラノビスの距離DXが合否判定値S以下の場合(ステップ123でN)、判定部22は、正常と判定し、そのカムシャフトを後工程に送る(ステップ124)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されなかったために合格品と判定されたことになる。一方、算出したマハラノビスの距離DXが合否判定値Sより大きい場合(ステップ123でY)、判定部22は、異常と判定し、そのカムシャフトを生産ラインから除く(ステップ125)。つまり、そのカムシャフトは、びびりの発生が検出されたために不合格品と判定されたことになる。以上説明した処理(ステップ121〜125)を検査対象のカムシャフトがなくなるまで繰り返し行う(ステップ126)。
【0047】
図18Aは、判別分析を用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図、図18Bは、MTシステムを用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。なお、図18Bにおいて“30”が合否判定値S、“10”“合格品のみから求めたマハラノビスの距離に相当する。いずれの手法についても、びびりの発生があった場合とびびりの発生がなかった場合の判別率は1であり、常に正しく判別することができた。
【0048】
なお、本実施の形態では、2つの手法を別個に説明したが、合否判定処理の手法をユーザに選択させる処理を含めることで所望の手法に切り替えられるようにしてもよい。
【0049】
(びびりの数と周波数帯域との関係)
ところで、本実施の形態においては、カムシャフトの加工工程の中の研磨工程のびびりの発生を組付工程の異音テスターの測定データを使用して判定を行った。この結果、3つの特性の測定項目、すなわち(a)振幅の変化量(An,n=1〜16)、(b)振幅のしきい値超え発生回数(Pn)、(c)スペクトルのピーク値(Fn)(10点平均値)において、特に1−2kHzの周波数帯域の測定値の寄与率が高いことが判明した。その原因は次のようであると考えられる。
【0050】
それは、カムシャフトを組み付けるエンジンはV型6気筒の種類であった。V型6気筒エンジンは、ダブルカムシャフトの構造なので、それぞれのカムシャフトには3種類の異なった位相で2個ずつのカム(図6に示したカムを1個と数える)が配置されている。そこで、異音テスターで測定の際に、測定対象のエンジンを600rpmで回転させて測定を行うと、異音の発生回数は
600rpm/60×6×N=60N(回)
ここで、Nはびびりの山数である。そして、これまでのびびりの解析研究から、びびりはカム1個当たり、20〜30山程度であると考えられている。これより、平均を取ってカムの山数を25山とすると、
60×25=1500回=1500Hz
と計算される。
【0051】
一方、異音テスターでは、1〜2kHzの異音として測定されるので、1kHzの場合、びびりの山数は、1000/60=16個程度と計算される。また、2kHzの場合、びびりの山数は、2000/60=33個程度と計算される。つまり、びびりの山数は、異音テスターの測定結果から、1個のカムについて、16個から33個と考えられる。
【0052】
そして、以上の計算式から、エンジンの回転数によって寄与率が高くなる周波数帯域が決まってくると考えられる。
【0053】
本実施の形態によれば、異音テスターにより収集された測定データのうちびびりの発生に対し寄与率が高くなる周波数帯域及び3つの測定項目に着目し、そして判別分析又はマハラノビス一夕グチシステムの統計的手法を利用するようにしたので、テストベンチにおいて検査結果に個人差が発生する官能検査を実施しなくてもカムシャフトのびびりの発生を定量的に精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施の形態における品質履歴情報管理システムの全体構成図である。
【図2】本実施の形態における組付工程管理サーバのハードウェア構成図である。
【図3】本実施の形態において異音テスターの測定データを表示する管理図を示した図である。
【図4】本実施の形態において分割した測定周波数帯域と測定項目との関係を示した図である。
【図5A】本実施の形態において振幅の変化量としきい値を超えた振幅の発生回数に関して該当する部分のピーク値を示した図である。
【図5B】本実施の形態においてスペクトルのピーク値を示した図である。
【図6】カムシャフトのカムの部分を示した図である。
【図7】カムの研磨面の一部分を拡大した図である。
【図8A】本実施の形態においてびびりの発生が確認できているカムシャフトに対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図である。
【図8B】本実施の形態においてびびりの発生が確認できているカムシャフトに対して異音テスターによる測定データを解析した結果を表形式にて示した図であり、図8Aに続く図である。
【図9】図8A,図8Bに示した測定結果のうちびびりが発生した場合のみ抽出して示した図である。
【図10】MTシステムの概要を説明するために用いる図である。
【図11】本実施の形態においてMTシステムを用いた場合の合否判定値の設定手順を示したフローチャートである。
【図12】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと異音テスターによる測定値との関係を示した図である。
【図13】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと正規化された測定値との関係を示した図である。
【図14】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと基準データとの関係を示した図である。
【図15】本実施の形態においてカムシャフトが組み付けられたエンジンと正規化された基準データとの関係を示した図である。
【図16】本実施の形態において判別分析を用いた合否判定処理を示したフローチャートである。
【図17】本実施の形態においてMTシステムを用いた合否判定処理を示したフローチャートである。
【図18A】本実施の形態において判別分析を用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。
【図18B】本実施の形態においてMTシステムを用いた合否判定処理による合否判定の概念的に表現した図である。
【符号の説明】
【0055】
1 CPU、2 ROM、3 RAM、4 ハードディスクドライブ(HDD)、5 HDDコントローラ、6 マウス、7 キーボード、8 ディスプレイ、9 入出力コントローラ、10 ネットワークコントローラ、11 内部バス、12 鋳造ライン、13 加工ライン、14 組付ライン、15 異音テスター、16 鋳造工程管理サーバ、17 加工工程管理サーバ、18 品質履歴情報管理サーバ、19 ネットワーク、20 組付工程管理サーバ、21 取得部、22 判定部、23 情報管理部、24 検査情報記憶部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された測定データを記憶する記憶手段と、
検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定手段と、
を有し、
前記判定手段は、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項2】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、当該検査対象のカムシャフトの合否判定に、前記測定データのうち、検査時に音を発するエンジンの回転数に依存した周波数帯域に該当する測定データのみを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項3】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、
前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格したカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された合格検証値及び前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格しなかったカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された不合格検証値を出力する手段と、
合格検証値及び不合格検証値を参照したユーザによる入力値を合否判定閾値として受け付ける手段と、
を有することを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項4】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、前記統計的手法として判別分析またはマハラノビスータグチシステムを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項5】
コンピュータにより実施され、
カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得ステップと、
取得された測定データを記憶した記憶手段から検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データを抽出する抽出ステップと、
抽出された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定ステップと、
を含み、
前記判定ステップは、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とするカムシャフト検査方法。
【請求項1】
カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された測定データを記憶する記憶手段と、
検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定手段と、
を有し、
前記判定手段は、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項2】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、当該検査対象のカムシャフトの合否判定に、前記測定データのうち、検査時に音を発するエンジンの回転数に依存した周波数帯域に該当する測定データのみを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項3】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、
前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格したカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された合格検証値及び前記検査対象のカムシャフトと同一規格であって検査に合格しなかったカムシャフトを組み付けたエンジンから得られた測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された不合格検証値を出力する手段と、
合格検証値及び不合格検証値を参照したユーザによる入力値を合否判定閾値として受け付ける手段と、
を有することを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項4】
請求項1記載のカムシャフト検査装置において、
前記判定手段は、前記統計的手法として判別分析またはマハラノビスータグチシステムを用いることを特徴とするカムシャフト検査装置。
【請求項5】
コンピュータにより実施され、
カムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データを取得する取得ステップと、
取得された測定データを記憶した記憶手段から検査対象のカムシャフトと同一規格のカムシャフトの検査時に取得された測定データを抽出する抽出ステップと、
抽出された測定データに基づきカムシャフトの合否判定の定量化が可能な統計的手法を用いて設定された合否判定閾値と、前記検査対象のカムシャフトを組み付けたエンジンが発する音の測定データに基づき前記統計的手法を用いて算出された評価値とを比較し、その比較結果により当該検査対象のカムシャフトの合否を判定する判定ステップと、
を含み、
前記判定ステップは、前記測定データの振幅の変化量、前記測定データの振幅が予め設定された閾値を超えた回数、及びスペクトルのピーク値の各特性値を統計的手法の入力値として用いることを特徴とするカムシャフト検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【公開番号】特開2009−276146(P2009−276146A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126242(P2008−126242)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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