説明

カムフォロア

【課題】カムフォロアの組立工程におけるリップシールの捲れの問題を解消し、スタッドと軸受組立体との間に一定量のずれがあっても、リップシールに捲れが生じることがなく、確実なシールが行えるカムフォロアを提供することである。
【解決手段】軸受組立体32の外輪43とスタットつば部33の間に装着されたリップシール46のリップ部58が軸方向外向きに屈曲され、前記スタッドつば部33の内側コーナ部に内側R形状部54が形成され、前記リップ部58が前記コーナ部を越えてスタッドつば部33の外径面に接触する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、カムフォロアに関し、特に、リップシールの捲(まく)れ防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、カムフォロアは、カムフォロアスタッド(以下、単に「スタッド」という。)の一端部に転動体を介して肉厚の外輪を回転自在に嵌合したものである。前記スタッドによって片持ち式に支持された外輪が軌道(トラック)上を転がり運動するものであり、トラックローラとも呼ばれる(特許文献1)。
【0003】
従来のカムフォロアは、図9に示したように、スタッド1と、そのスタッド1の一端部に回転自在に組み付けられた軸受組立体2とからなる。スタッド1は、その一端部に前記の軸受組立体2が回転自在に嵌合された軸受支持部3、他端部に取付部4が設けられる。軸受支持部3の前記取付部4と反対側の端部、即ち、外端部に軸受組立体2の外端規制部となるスタッドつば部5が設けられる。
【0004】
また、その軸受支持部3の取付部4側の端部、即ち、内端部に段差部6によって小径となった圧入部7が設けられる。その圧入部7から軸方向に見て、これより若干小径の前記の取付部4が設けられ、その取付部4の先端にネジ部8が設けられる。前記スタッド1の内部に潤滑剤供給孔10が設けられる。
【0005】
前記軸受組立体2は、前記軸受支持部3の外径面を軌道面として、保持器11によって保持されたころ9、及びそのころ9を介して回転自在に嵌合された外輪12とにより構成される。前記圧入部7に軸受組立体2の内端規制部となる環状の内側板13が圧入固定される。内側板13は、スタッドつば部5と同一外径を有する。
【0006】
前記外輪12の両端面において、それぞれ環状の外端凹部14及び内端凹部15が同芯状に設けられる。外端凹部14に径方向及び軸方向に僅かの隙間をおいてスタッドつば部5が嵌入され、他方の内端凹部15に径方向及び軸方向に僅かの隙間をおいて内側板13が嵌入される。スタッドつば部5と内側板13は、軸受組立体2の軸方向の動きを規制する。
【0007】
また、前記各凹部14、15にそれぞれシール溝16、17が設けられ、これらのシール溝16、17にそれぞれ外端リップシール18及び内端リップシール19が装着される。各リップシール18、19のリップ部21(図10(a)参照)は、それぞれ外向き(軸受組立体2の内部から軸方向両側に離れる向き)となるよう屈曲しており、その屈曲したリップ部21がスタッドつば部5及び内側板13の外径面に接触され、シールを行う。
【0008】
前記のスタッドつば部5及び内側板13の各外径面とそれぞれの軸方向の両端面とのコーナ部は、図示のように、面取り部22が形成され、コーナ部における欠け等の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−42809号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図9に示した従来のカムフォロアにおいて、スタッド1と軸受組立体2を組み合わせる際に、両者の軸心にずれがあると、軸受組立体2の外輪12に装着された外端リップシール18とスタッドつば部5の外径面が偏心した状態で接触する。このため、図10(b)に示したように、外端リップシール18のリップ部21に捲れ(外向きのリップ部21が内側に押し込まれる変形。同図実線参照)が生じるおそれがある。リップ部21に捲れが生じると、リップ部21の先端部がスタッドつば部5の外径面の正常な位置に接触することができず、シール作用が不完全となる。
【0011】
リップ部21の捲れについて、さらに述べると、図10(a)に示したように、スタッド1と軸受組立体2の軸心が一致した正確な状態で組み合わされる場合(ずれ量δがゼロの場合)は、スタッドつば部5の外径面は外端リップシール18のリップ部21の内側にスムーズに嵌入され(一点鎖線参照)、リップ部21は外向きに屈曲した当初の状態でスタッドつば部5の外径面に密着され、正規の装着状態となる。
【0012】
しかし、スタッド1と軸受組立体2の軸心に一定のずれ量δがある場合は(図10(a)の二点鎖線参照)、リップ部21の先端部が面取り部22に当たるため、そのまま押し込むとリップ部21に捲れが生じ、図10(b)に示したように、リップ部21がスタッドつば部5の外径面に接触しない不完全な装着状態となる。前記のずれ量δの最大量は、軸受組立体2におけるラジアル隙間分であり、0.06mm程度である。
【0013】
なお、内側板13と軸受組立体2との組み合わせ時における内端リップシール19においても同様の問題が発生する。その他、図9において、Mはスタッドつば部5の外端面に施された品番のマーキングであり、後述の実施形態との対比との便宜上ここに示す。
【0014】
以上の先行技術にかんがみ、この発明は、カムフォロアの組立工程におけるリップシールの捲れの問題を解消し、スタッドと軸受組立体との間に一定量のずれがあっても、リップシールに捲れが生じることがなく、確実なシールが行えるカムフォロアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明に係るカムフォロアは、スタッドと、そのスタッドに回転自在に組み付けられた軸受組立体とからなり、前記スタッドは、その一端部に前記軸受組立体が回転自在に嵌合された軸受支持部、他端部に取付部が設けられ、前記軸受組立体の外輪の外端面に設けられた外端凹部と内端面に設けられた内端凹部に前記軸受支持部の軸方向両端部に設けられた外端規制部と内端規制部がそれぞれ嵌入され、各凹部と前記外端及び内端規制部との間にそれぞれ外端シール及び内端シールが装着されたカムフォロアにおいて、前記外端シールが前記外端凹部に装着された外端リップシールにより形成され、その外端リップシールのリップ部が軸方向外向きに屈曲された構成としたものである。
【0016】
前記のスタッドと軸受組立体とを組み合わせる際に、両者の間の径方向のずれ量がゼロである場合は、リップ部は外向きに屈曲された正規の状態で外端規制部の外径面に接触し、シール機能を発揮する。
【0017】
両者の間に径方向の一定のずれがあると、リップ部の先端がR形状部に接触する。接触位置における接線の傾斜角の大きさは前記のずれ量に依存する。ずれ量が一定以下である場合は、接線の傾斜角は従来の面取りの傾斜角より小さくなるので、リップ部に作用する摩擦も低下する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明においては、従来面取りが施されていた外端規制部の内側コーナに、前記面取りに代えてR形状部を設けたことにより、スタッドと軸受組立体を軸方向に組み合わせる際に、径方向のずれがあっても、そのずれ量が軸受組立体のラジアル隙間程度の小さいずれ量の範囲内では、カムフォロアの構造上、リップ部に作用する摩擦は面取りの場合に比べ小さくなり、リップ部の捲れが生じ難い。このためシールリップが正規の姿勢で装着され、確実なシール作用が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】は、第一実施形態のカムフォロアの断面図である。
【図2】は、図1の一部拡大断面図である。
【図3】は、第一実施形態の組立工程の一部を示す断面図
【図4】(a)図は、第一実施形態の場合の説明図、(b)図は従来例の場合の説明図である。
【図5】(a)図は、第二実施形態の一部断面図、(b)図は、(a)図の場合の使用状態の一部断面図である。
【図6】(a)から(d)図は、第三実施形態の諸例を示す一部断面図である。
【図7】は、図6(a)の正面図である。
【図8】は、第三実施形態の他の例を示す断面図である。
【図9】は、従来例の断面図である。
【図10】(a)(b)は、それぞれ従来例の作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0021】
[第一実施形態]
図1に示した第一実施形態のカムフォロアは、従来の場合と同様に、スタッド31と、そのスタッド31に回転自在に組み付けられた軸受組立体32とからなる。
【0022】
スタッド31は、その一端部に外端規制部となるスタッドつば部33が設けられ、そのスタッドつば部33から軸方向に順に軸受支持部34、段差部35を介して圧入部36、微小な段差部37を介して取付部38が設けられる。取付部38の先端部にネジ部39が設けられる。前記の軸受支持部34の外径面は研削加工が施され軌道面となっている。
【0023】
前記ネジ部39の端面中心に潤滑剤供給孔41が設けられる。この潤滑剤供給孔41は、軸受支持部34まで達して径方向に屈曲され、軸受支持部34の外径面に開放される。スタッドつば部33側の端面中心にはレンチ穴42が設けられる。前記のスタッド31は、冷間鍛造又は切削加工によって製作される。
【0024】
前記の軸受組立体32は、外輪43と、その外輪43と軸受支持体34の軌道面との間に介在されたころ44、各ころ44を案内する保持器45、外輪43の外端面に装着された外端リップシール46及び内端面に装着された内端リップシール47によって構成される。
【0025】
前記外輪43の外端面には、環状の外端凹部48、内端部に同様の内端凹部49が同軸状に設けられ、各凹部48、49に設けられたシール溝51、52に前記の外端リップシール46及び内端リップシール47が装着される。
【0026】
前記スタッドつば部33は外輪43の外端凹部48に嵌入される。また、内端凹部49には、前記圧入部36に圧入固定され内側規制部となる環状の内側板53が嵌入される。この内側板53は、スタッドつば部33と同径であり、両者によって軸受組立体32の軸方向の動きが規制される。
【0027】
前記スタッドつば部33と内側板53の外径面の両側コーナ部はR形状となっている。即ち、図2に示したように、スタッドつば部33においては、その内側面(軸受組立体32側の面)と外径面とが作る内側コーナ部が一定の曲率半径及び90度の中心角を有する内側R形状部54が形成される(図4(a)参照)。反対側の外側面と外径面とが作る外側コーナ部にも同じ曲率半径、同じ中心角の外側R形状部55が形成される。
【0028】
同様に、内側板53の内側面(軸受組立体32側の面)と外径面とが作る内側コーナ部、反対側の外側面と外径面とが作る外側コーナ部にそれぞれ同様の内側R形状部56及び外側R形状部57が形成される。
【0029】
スタッドつば部33の内側R形状部54及び内側板53の内側R形状部56がそれぞれ外端凹部48及び内端凹部49に嵌入される。嵌入されたスタッドつば部33及び内側板53の各外径面にそれぞれ外端リップシール46及び内端リップシール47の各リップ部58、59が接触される。各リップ部58、59は、自由な状態において、それぞれ外向きに屈曲され、その屈曲部分の内径面が相手の外径面に接触し、シール作用を行う。
【0030】
第一実施形態のカムフォロアは以上のようなものであり、従来の場合と同様に、取付部41を機器側の取付部に挿入しネジ部39をネジ結合することにより、軸受組立体32の部分を片持ち式に支持し、外輪43を軌道に接触させ回転させる。
【0031】
前記カムフォロアの組立時において、スタッド31と軸受組立体32とが同心状態の場合は、ずれ量δ(図3参照)はゼロであるので、リップシール46のリップ部58は、捲れを生じることなく円滑にスタッドつば部33の外径面に接触し、正規の装着状態となる(一点鎖線参照)。
【0032】
一方、スタッド31と軸受組立体32の軸心の間に軸受組立体32の最大ラジアル隙間に相当するずれ量δがある場合(二点鎖線参照)は、リップ部58が内側R形状部54に接触する。
【0033】
前述のように、従来の場合は、コーナ部が面取り部となっていた関係でリップ部58に捲れが生じ易かったが、この発明の場合は、R形状部54となっているため、次に述べる理由により捲れが生じ難い。
【0034】
図4(a)はスタッドつば部33の内側コーナ部に内側R形状部54を形成した本実施形態の場合を示している。内側R形状54の中心角は90度であり、曲率半径はaである。リップ部58の先端が、ずれ量δの位置に接触している。リップ部58の接触位置から外径面までの円弧部の中心角をθとする。前記接触位置に引いた接線Aの傾斜角は、幾何学的にθとなる。
【0035】
図4(b)は同じ部分に面取り部61を形成した従来の場合を示している。面取り部61の傾斜角をαとし、面取り部61の軸方向長さを前記の曲率半径と同じaとする。傾斜角αが小さ過ぎると、リップ部58が接触してシールを行うスタッドつば部33の外径面の幅が減少するので、αは30度以上に設定される。リップ部58の先端は前記の場合と同様に、ずれ量δの位置に接触している。
【0036】
図4(a)(b)において、内側R形状部54と面取り部61の摩擦係数、リップシール46に加えられる押し込み力Fはそれぞれ等しいとすると、前記の角度θとαの間にθ<αの関係があるとき、面取り部61のリップ部58の接触点に作用する摩擦に比べ、内側R形状部54のリップ部58の接触点に作用する摩擦の方が小さくなる。接触点における摩擦が相対的に小さい場合の方が押し込み方向に滑り易く、従って捲れが生じ難い。これに対し、摩擦が相対的に大きい場合は、滑り難いので捲れが生じ易い。
【0037】
前記の中心角θは、ずれ量δの大きさによって決まるが、ずれ量δは軸受組立体32の最大ラジアル隙間分であり、通常その隙間は0.06mm程度の微小なものであるから、θは非常に小さいものである。それに比べ、面取り部61の場合はずれ量δの大きさにかかわらず傾斜角α(30度以上)の大きさは一定であるので、前記の関係θ<αが成立する。したがって、面取り形状とした場合に比べ、R形状とした本実施形態の場合の方が摩擦が小さく、従って捲れが生じ難いことがわかる。
【0038】
このため、本実施形態においては、スタッド31と軸受組立体32の組み合わせの際に、最大ラジアル隙間程度のずれ量δが存在しても、リップ部58の捲れを生じることなくR形状部54を越えてスムーズに接触面(スタッドつば部33の外径面)まで嵌入させることができる。
【0039】
軸受組立体32を圧入固定したのち、内側板53が圧入部36に圧入され、その内側板53が内端凹部49に嵌入される。この際、前記の場合と同様に一定のずれ量δが存在しても、内端リップシール47のリップ部59も前記の場合と同様に、内側R形状部56に接触し、捲れを生じることなく正規の状態に装着される。
【0040】
ところで、内側板53は、圧入部36に圧入固定されるものであるため、その内径孔にはスムーズに圧入するための面取りが、片面にのみ形成される。このため、その圧入時の内側板53の表裏の向きは一定でなければならない。組み付けの際にその向きに間違いが生じるのを防止すべく、適当なマーキングが施される。
【0041】
本実施形態の場合は、従来、スタッドつば部33の外側面に施されている製品の品番のマーキングM(図9参照)を、内側板53の外側面(表面)に施すようにしている(図1、図2参照)。これにより、品番の表示と同時に内側板53の方向性を併せて表示することができるので、マーキング箇所が減り、マーキング作業の短縮を図ることができる。
【0042】
また、スタッド31を鍛造によって製作する場合、従来は鍛造だけでは面取り部61(図4(b)参照)を作ることは困難であるので、鍛造後に切削により面取り部61を形成する工程が必要であった。しかし、本実施形態のようにR形状に形成する場合は、鍛造によってR形状を形成することができるので、その後の切削工程が不要となる。内側板53についても、打ち抜き加工後に熱処理を施し、その後に、打ち抜き時に生じたダレ又は破断面をバレル研磨することによりR形状とすることができる。従って、この場合も切削工程は不要である。
【0043】
なお、本実施形態においては、スタッドつば部33及び内側板53のいずれについても、内側と外側の両コーナ部をR形状としているが、内側コーナ部のみ、即ち、内側R形状部54、56のみをR形状とし、他の外側コーナ部は面取りを施した形状であってもよい。
【0044】
[第二実施形態]
図5に示した第二実施形態のカムフォロアは、基本的には前記第一実施形態の場合と同じ構成であるが、リップシールに関して相違がある。即ち、前記第一実施形態の場合は、図1に示したように、外輪43の外端面とスタッドつば部33との間には外端リップシール46が装着され、また、外輪43の内端面と内側板53の間には内端リップシール47が装着されていた。
【0045】
しかし、この第二実施形態の場合は、部品点数の削減を図るべく内端リップシール47を省略し、リップシールとしては外端リップシール46のみを装着している。スタッドつば部33側からグリースの漏れが生じた場合は、周辺機器等を汚すことが多いので、スタッドつば部33側からのグリースの漏れは確実に防止する必要があり、外端リップシール46を省略することはできない。
【0046】
省略した内端リップシール47に代わるシールとして部品点数の増加とならないように以下の手段を講じている
【0047】
即ち、内端リップシール47が無いことから、外輪43の内端凹部49の内径面と内側板53の外径面との間の隙間は、回転に必要な微小隙間(0.1〜0.2mm)となるよう狭く設定することができる。この微小隙間がラビリンスシール60となって、外部からのゴミの侵入や、内部のグリースの漏出をある程度阻止することができる。
【0048】
また、カムフォロアの取付構造の特徴として、スタッド31の一端部をネジ結合する機器側取付部62が外輪43の内端面に接近して必ず存在する。その機器側取付部62は、図示のように、内側板53に密着するので前記ラビリンスシール60に接近して存在する。このため、外輪43の外周面と機器側取付部62の間の隙間もラビリンスシールの機能をもち、ゴミの侵入、グリースの漏出を防止する。
【0049】
また、図5(b)に示したように、前記のラビリンスシール60からグリースGが漏出したとしても、そのグリースGは外輪43と機器側取付部62との隙間に詰まるので、これによって外部からのゴミの侵入を防止することができる。また、図示のように、外輪43の転動面まであふれた場合は、あふれた部分のグリースGが軌道との間の潤滑油となる。
【0050】
両側にリップシール46、47を設けた場合、軸受組立体32の内圧が一定以上に高くなると、両方のリップシール46、47からグリースが漏れ出す。これに対し、この実施形態のように、内端リップシール47に代えてラビリンスシール60が形成されている場合は、内圧が一定以上高くなる前にそのラビリンスシール60を通じてグリースが漏れるので、外端リップシール46からの漏れを確実に防止することができる。
【0051】
なお、図示の場合は、前記第一実施形態の場合と同様に、スタッドつば部33及び内側板53のコーナ部をR形状としたものを示しているが、この第二実施形態においては、必ずしもR形状にする必要はなく、これらのコーナ部は面取りを施した構造であってもよい。
【0052】
[第三実施形態]
図6から図8に示した第三実施形態は、スタッド31の改良に関するものである。前述の第一及び第二実施形態のスタッド31は、その一端部にスタッドつば部33が一体に設けられていた。このため、スタッド31を切削加工により製作する場合は、素材となる金属棒材の外径がスタッドつば部33の外径によって決定されるで、切削によって材料の多くを捨てることとなる。このため、材料コスト及び加工コストが高くなる要因となっていた。
【0053】
この問題を解消するために、前掲の特許文献1の図1においては、前記スタッドつば部33に代えて環状の外側板をスタッド先端部のネジ部にルーズに嵌め、ナットで締結固定するものが開示されている。しかし、この場合は、ナットが必要になるので、部品点数の増加を伴う不利がある。
【0054】
そこで、この第三実施形態の場合は、部品の増加なく、外側板63をスタッド31に固定できるようにしたものである。
【0055】
即ち、図6(a)〜(c)に示したものは、スタッド31の軸受支持部34の先端面に段差部64によって小径となった側板取付部65を設けている。外側板63は環状のものであり、前記スタッドつば部33(図1参照)と同じ外径及び厚さを有する。側板取付部65の外径を前記の圧入部36(図1参照)の外径と同一径に形成することにより、外側板63と内側板53を同一サイズの部品で兼用することができる。
【0056】
前記の外側板63を側板取付部65に固定すべく、図6(a)〜(c)のいずれの場合も、側板取付部65の周縁部の複数個所又は全周にカシメ67を施す構造をとっている。図7は3個所にカシメ67を施した場合を示す。
【0057】
なお、図6(d)に示したように、側板取付部にネジ68を切り、外側板63をネジ結合することにより固定してもよい。
【0058】
図8の場合は、外側板63は、前記のカシメ67(図6(a)〜(c)参照)、又はネジ結合(図6(d)参照)によって固定する場合において、取付部38を軸受支持部34に達するまで設け、その取付部38の全長にわたりネジ69を切ることにより、内側板53を取付部38の先端のネジ69に嵌め、ネジ回転させながら軸受支持部34の段差部に絞め付け固定したものである。
【0059】
なお、この第三実施形態の外側板63及び内側板53のいずれも、外径面のコーナ部がR形状のものを示しているが、面取りを施したものでもよい。
【0060】
[耐久試験例]
前記の外側板63をカシメ67によってスタッド31と固定した場合の耐久性を調べるために、以下の耐久試験を行った。その結果を次に示す。
【0061】
(表1)耐久試験の結果


※ 誘起スラスト力は通常ラジアル荷重の約5%とされるが、今回、耐スラスト力を調査するため、ラジアル荷重の10%相当のスラスト力を外側板63に負荷した。
ここに、Cは基本定格荷重、Pは動等価荷重であり、P/Cは軸受の負荷荷重を示す。
【0062】
この耐久試験結果から、カシメ67により外側板63を固定した場合でも現行品と同等の耐久性を持つことが判った。
【符号の説明】
【0063】
1 スタッド
2 軸受組立体
3 軸受支持部
4 取付部
5 スタッドつば部
6 段差部
7 圧入部
8 ネジ部
9 ころ
10 潤滑剤供給孔
11 保持器
12 外輪
13 内側板
14 外端凹部
15 内端凹部
16、17 シール溝
18 外端リップシール
19 内端リップシール
21 リップ部
22 面取り部
31 スタッド
32 軸受組立体
33 スタッドつば部
34 軸受支持部
35 段差部
36 圧入部
37 段差部
38 取付部
39 ネジ部
41 潤滑剤供給孔
42 レンチ穴
43 外輪
44 ころ
45 保持器
46 外端リップシール
47 内端リップシール
48 外端凹部
49 内端凹部
51、52 シール溝
53 内側板
54 内側R形状部
55 外側R形状部
56 内側R形状部
57 外側R形状部
58、59 リップ部
60 ラビリンスシール
61 面取り部
62 機器側取付部
63 外側板
64 段差部
65 側板取付部
67 カシメ
68 ネジ
69 ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッドと、そのスタッドに回転自在に組み付けられた軸受組立体とからなり、前記スタッドは、その一端部に前記軸受組立体が回転自在に嵌合された軸受支持部、他端部に取付部が設けられ、前記軸受組立体の外輪の外端面に設けられた外端凹部と内端面に設けられた内端凹部に前記軸受支持部の軸方向両端部に設けられた外端規制部と内端規制部がそれぞれ嵌入され、各凹部と前記外端規制部及び内端規制部との間にそれぞれ外端シール及び内端シールが装着されたカムフォロアにおいて、
前記外端シールが前記外端凹部に装着された外端リップシールにより形成され、その外端リップシールのリップ部が軸方向外向きに屈曲され、前記外端規制部の内側コーナ部にR形状部が形成されていることを特徴とするカムフォロア。
【請求項2】
前記外端規制部が、前記スタッドの外径面に一体に設けられたスタッドつば部により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のカムフォロア。
【請求項3】
前記スタッドが冷間鍛造によって形成され、前記スタッドつば部の内側コーナ部のR形状が前記冷間鍛造の際に形成されたことを特徴とする請求項2に記載のカムフォロア。
【請求項4】
前記リップ部が、前記R形状部を越えて外端規制部の外径面に前記の屈曲状態で接触されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項5】
前記内端シールが、前記内端凹部に装着された内端リップシールにより形成され、その内端リップシールのリップ部が軸方向外向きに屈曲され、前記内端規制部の内側コーナ部がR形状に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項6】
前記内端規制部が、前記スタッドの外径面に圧入固定された内側板により形成されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項7】
前記内側板が打ち抜き加工により形成され、その内側板の内側コーナ部のR形状がバレル研磨によって形成されたことを特徴とする請求項6に記載のカムフォロア。
【請求項8】
前記内側板の外側面に当該カムフォロアの品番のマーキングを施したことを特徴とする請求項6又は7のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項9】
前記内端シールが、ラビリンスシールであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項10】
前記ラビリンスシールが、前記内端凹部の内径面と前記内端規制部の外径面との隙間によって形成されたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のカムフォロア。
【請求項11】
前記リップ部が、前記R形状部を越えて内端規制部の外径面に前記の屈曲状態で接触されたことを特徴とする請求項5から10のいずれかに記載のカムフォロア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−21715(P2011−21715A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168955(P2009−168955)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】