説明

カラーマッチング方法および画像処理装置

【課題】複数種の画像出力機器により構成される画像処理システムにおいて、比較的安価な色彩測定装置を用いて低コスト化を図りつつ、画像出力機器間の出力特性(色再現特性)について測色時の環境条件(環境光)を前提とするマッチングを実現することのできるカラーマッチング方法および画像処理装置を提供する。
【解決手段】デバイス間での画像出力の整合をとるために用いられるカラーマッチング方法として、モニタMTおよびプリンタPTに共通の色票(カラーチャート)を出力させる。そうして、これら出力された共通の色票について、それぞれ単一のデジタルスチルカメラ10により測色を行い、該測色の結果として得られる各装置(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性を比較することにより、両者の色再現特性を整合(マッチング)すべく、適宜の色変換テーブル(LUT)を通じて、上記モニタMTの色再現特性を調整(出力補正)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばモニタや、プリンタ、スキャナ等の各種の画像出力機器において、これらデバイス間(2種類の画像出力機器間)で、色再現特性、ひいては画像出力の整合(マッチング)をとるために用いられるカラーマッチング方法および画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、画像出力機器においては、その出力(厳密にいえば出力の色彩値)を標準化(適正化)するためにキャリブレーション(色補正)という処理が行われる。そして、このキャリブレーションは、通常、補正対象となる画像出力機器(例えばプリンタやモニタなど)に予め三刺激値(例えばXYZ表色系やLab表色系などの表色系により数値として表現されたもの)の知れた色票(カラーパッチ)を出力させて、所定の色彩測定装置により該画像出力機器の色再現特性を測定し、この測定された画像出力機器の色再現特性と上記色票の三刺激値とを比較することによって、両者(画像出力機器の色再現特性と色票の三刺激値)の整合をとる、という手順で行われる。
【0003】
ここで、上記補正対象となる画像出力機器の色再現特性を測定する色彩測定装置としては、例えば特許文献1に記載のように、RGB(赤緑青)について、それぞれフィルタと光検出素子を備えるRGBカラーセンサが知られている。このセンサは、いわゆる接触型の色彩測定装置であり、詳しくは、例えば吸盤等の固定手段で補正対象の画像出力機器(例えばモニタの画面)に取り付けられて、測色を行うものである。また、より高精度の測色を必要とする一部のユーザの間では、複数(例えば40個)のセンサで物体からの光(可視光領域の波長成分)を分光、検出する接触型の分光測色器なども用いられている。
【0004】
さらに、印刷分野や写真分野においては、環境条件(環境光)の影響を測定値へ反映させることができる、いわゆる非接触型の色彩測定装置が用いられている(例えば特許文献2に記載されるリモート操作装置など)。
【特許文献1】特開2002−209230号公報
【特許文献2】特開2005−236469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載される接触型の色彩測定装置は、環境光(例えば蛍光灯等による外光)の影響を測定値(ひいては色補正)に反映させることが難しく、測定精度に劣る。また、上記分光測色器などの高機能の色彩測定装置は、価格が高価であるため、一般にはあまり用いられていない。
【0006】
一方、非接触型の色彩測定装置は、環境条件(環境光)の影響を測定値へ反映させることができるとはいえ、この環境条件を厳密に理想の条件に設定する(理想的には人間の視野環境と同じ条件に設定する)ことができる色彩測定装置、例えば非接触型の分光測色器のような高機能の装置になると、上記接触型の分光測色器よりも、さらに高価なものとならざるを得ず、やはり普及していない。
【0007】
しかしながら、例えばモニタやプリンタ等の複数種の画像出力機器により構成される画像処理システムにおいて、これら各画像出力機器についてそれぞれ前述のキャリブレーション(色補正)を精度よく実行しようとすれば、上記分光測色器などの高価な色彩測定装置がどうしても必要になる。
【0008】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、複数種の画像出力機器により構成される画像処理システムにおいて、比較的安価な色彩測定装置を用いて低コスト化を図りつつ、デバイス間(2種類の画像出力機器間)の出力特性(色再現特性)についてその設置環境下におけるマッチングを実現することのできるカラーマッチング方法および画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、デバイス間(2種類の画像出力機器間)で、色再現特性、ひいては画像出力の整合(マッチング)をとるために用いられるカラーマッチング方法として、2種類の画像出力機器である第1および第2の画像出力機器に共通の色票(カラーパッチ)を出力させるとともに、これら出力された共通の色票について、それぞれ例えばCCDセンサやCMOSセンサなどの光電変換素子を通じて撮像された画像をデジタルデータとして取得するデジタルカメラ(デジタルスチルカメラもしくはデジタルビデオカメラ)により測色を行い、該測色の結果として得られる前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の色再現特性を比較することにより、両者の色再現特性を整合すべく、前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の少なくとも一方の色再現特性を調整するようにする。
【0010】
上記のように、この発明では、例えばモニタやプリンタ等の複数種の画像出力機器により構成される画像処理システムにおいて、比較的安価なデジタルカメラを色彩測定装置として用いることにより、低コスト化を図りつつ、これら画像出力機器の出力特性(色再現特性)について測色時の環境条件(環境光)下でのマッチングを実現することとする。
【0011】
詳しくは、前述のキャリブレーションのように、画像出力機器の色再現特性と色票の色彩値(標準の光源(例えばD65)における色彩値)とを整合(マッチング)させる場合には、環境条件(環境光)の影響が大きいため、標準の光源を有する上記非接触型の分光測色器(例えば物体に標準光を照らして、複数のセンサで物体からの反射光を分光、検出する分光測色器)のような高機能の色彩測定装置を用いなければ、十分に高い精度で整合(マッチング)を行うことは難しい。しかしながら、上記のように、デバイス間(2種類の画像出力機器間)の相対的な整合(マッチング)だけを考えれば、色票の色彩値(標準の光源における色彩値)に合わせる必要はないため、測色時の環境条件(環境光)を前提とはするものの、一般に普及している汎用のデジタルカメラの機能だけで、整合(マッチング)を行うことが可能になる。
【0012】
しかも、本発明に係る上記方法であれば、撮像装置として広く一般に用いられているデジタルカメラを、色彩測定装置(非接触型の色彩測定装置)として流用することが可能になるため、共通の装置(デジタルカメラ)を2つの用途(撮像および測色)に用いることで、特別な色彩測定装置を購入する必要がなくなり、実質的にさらなるコストダウンが図られることにもなる。
【0013】
また、この請求項1に記載のカラーマッチング方法において、前記第1の画像出力機器が、各画素を適宜に発光させて画面上に画像を表示するモニタであるとともに、前記第2の画像出力機器が、所定の色材(例えばインク、色素、染料、顔料等)により印刷媒体に画像を転写するカラープリンタである場合は、請求項2に記載の発明によるように、両者の色再現特性を整合する際に、前記モニタの画面に表示される画像の色彩を、前記カラープリンタの印刷媒体に転写される画像の色彩に対して整合させるべく、前記モニタの色再現特性を調整することが有効である。
【0014】
カラープリンタの場合、通常、出力(印刷)が、別媒体(印刷媒体)になされる(例えば印刷用紙上に印刷される)ため、カラープリンタの出力(厳密には出力画像の色彩)は、印刷媒体(メディア)の種類や状態によっても影響を受ける。したがって、カラープリンタの色再現特性を調整しても、正確にモニタとの整合をとることは困難である。この点、上記請求項2に記載の発明によれば、モニタの色再現特性を調整することで、同モニタの画面に表示される画像の色彩を、カラープリンタの印刷媒体に転写された画像の色彩に対して正確に整合(マッチング)させることができるようになる。すなわち、印刷用紙の紙質等も考慮された、より厳密な整合(マッチング)が実現するようになる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明では、上記請求項1または2に記載のカラーマッチング方法において、前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の各出力について行われる前記デジタルカメラによる各測色を、同一の視野環境にて行うようにする。こうすることで、上記環境条件(環境光)の影響を測定値へ正確に反映させることができないデジタルカメラを用いた場合であれ、上記第1および第2の画像出力機器について高い精度で、上述の色再現特性の整合(マッチング)が行われることになる。
【0016】
また一方、上記方法の実現のためには、例えば請求項4に記載の発明によるように、共通の色票を第1の画像出力機器および第2の画像出力機器に出力させるとともに、これら出力された共通の色票に係る測色の結果をそれぞれ取得し、該測色の結果として得られる前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の色再現特性の比較に基づいて、両者の色再現特性を整合すべく、前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の少なくとも一方に対して色再現特性の調整を実行する画像処理装置を用いることが有効である。こうした装置を用いることで、上述の方法がより容易且つ的確に実現されることになる。
【0017】
また、この画像処理装置を、請求項5に記載の発明によるように、前記第1の画像出力機器の出力と前記第2の画像出力機器の出力とを関連付ける色変換テーブル(LUT:ルックアップテーブル)を作成、保存し、このテーブルを参照しながら、前記色再現特性の調整を行うものとすれば、該調整に係る色変換の際、上記作成された色変換テーブル(予め算出された変換前後の値が格納されたテーブル)を参照するだけで(特別な演算を要することなく)色変換を行うことが可能になる。すなわち、このような構成によれば、上述の色再現特性の整合(マッチング)に際して大量の数値変換を行わなければならない場合であれ、極めて高速な色変換が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜図6を参照して、この発明に係るカラーマッチング方法および画像処理装置を具体化した一実施の形態について説明する。
【0019】
はじめに、図1を参照して、この方法および装置に係る画像処理システムの概要(概略構成)について説明する。なお、この図1は、該システムの概略構成を示すブロック図である。
【0020】
同図1に示されるように、このシステムは、大きくは、例えばコンピュータ(ここではコンピュータ20)の表示装置として用いられるモニタMT(第1の画像出力機器)と、例えばインクジェット式のカラープリンタPT(第2の画像出力機器)と、これら画像出力機器の各出力について所定の画像処理を行うコンピュータ20(画像処理装置)とを有して構成されている。また、デジタルスチルカメラ10(非接触型の色彩測定装置)は、適宜の記憶媒体を有して、所定の光電変換素子を通じて撮像された静止画をデジタルデータとして記録(保存)するものであり、この実施の形態にあっては、上記モニタMTおよびプリンタPTの各出力について、それぞれ色再現特性を測定(測色)するために用いられる。すなわち、このシステムにおいては、上記カメラ10により測色を行い、該測色の結果として得られるモニタMTの色再現特性とプリンタPTの色再現特性とを比較することにより、これら画像出力機器の少なくとも一方の色再現特性を調整し、もって両者(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性が整合(マッチング)されるようになっている。ちなみに、この実施の形態においては、上記プリンタPTの色再現特性は調整することなく、モニタMTの画面に表示される画像の色彩を、プリンタPTの印刷媒体に転写される画像の色彩に対して整合させるべく、上記モニタMTの色再現特性を調整する(プリンタPTの色再現特性に合わせる)ようにしている。
【0021】
詳しくは、上記モニタMTおよびプリンタPTと通信可能に接続される上記コンピュータ20(画像処理装置)は、例えばCPU(基本処理装置)およびRAM(ランダムアクセスメモリ)等からなる演算処理部21と、例えばハードディスクおよびROM(リードオンリーメモリ)等からなる記憶部22と、そして適宜の回路からなるモニタ駆動部(ドライバ回路)23、およびプリンタ駆動部(ドライバ回路)24とを有し、これらの構成要素を通じて、上記モニタMTおよびプリンタPTを制御することができるように構成されている。そうして、上記カメラ10の測色結果は、適宜のインターフェースを介して、上記記憶部22に取り込まれるようになっている。
【0022】
すなわち、このコンピュータ20においては、上記記憶部22に上記カメラ10の測色結果が取り込まれると、上記演算処理部21を通じて、上記画像出力機器(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性の比較(詳しくは後述)が行われる。そして、この比較に基づいて、これら画像出力機器の色再現特性を整合(マッチング)させるべく、上記モニタMTの色再現特性が調整(出力補正)されることになる。
【0023】
また、上記記憶部22には、RGBの各階調に対してそれぞれ同一色を再現するようなCMYKの階調が関連付けられた色変換テーブル(LUT:ルックアップテーブル)等も記憶されており、上記プリンタPTにより印刷が行われる際には、このテーブル(LUT)を参照して、RGB色空間からCMY(CMYK)色空間への色変換処理が行われるようになっている。
【0024】
図2は、上記デジタルスチルカメラ10の構成をより詳細に示すブロック図である。
同図2に示されるように、このカメラ10は、大きくは、例えばCCDセンサやCMOSセンサ等からなる撮像素子11(光電変換素子)や、適宜の表示装置(ディスプレイDP)、並びに、例えばメモリカード等からなる記憶装置(記憶媒体MC)、そして例えばプロセッサやASIC等からなる制御部12および信号処理回路(撮像信号処理回路13および画像圧縮回路14)等を有して構成されている。
【0025】
すなわち、このカメラ10においては、上記撮像素子11により、適宜の光電変換を経て画像情報が取得(撮像)される。そして、上記制御部12の制御のもと、この取得される画像情報に対して、上記撮像信号処理回路13や画像圧縮回路14にて適宜の画像処理(撮像信号処理および画像圧縮処理)が施された後、その画像処理の施された画像情報(画像データ)が、上記記憶媒体MCへ格納されることになる。
【0026】
また、このカメラ10は、上記ディスプレイDPと共に操作部OP(例えばボタンやレバー等)も備えているため、ディスプレイ(例えば液晶モニタ)DPを見ながら操作部OPを操作する(なおこのとき、ディスプレイDPの画面表示は、上記制御部12により、操作部OPの操作(動作や状態)に応じて制御される)ことにより、ユーザは、自らの嗜好を、上記画像処理等へ反映させる(例えばカラーバランスやアンシャープマスク等の画像補正を行う)ことができる。
【0027】
より詳しくは、このデジタルスチルカメラ10は、内部の信号処理回路(撮像信号処理回路13や画像圧縮回路14等)により、次のような処理を行っている。
(イ)撮像素子11で発生したノイズを除去・軽減して撮像信号を取り出した後、レベル補正をかける(A−D変換の前処理)。
(ロ)撮像素子11から読み出されたアナログの電気信号をデジタル信号に変換(A−D変換)する(量子化)。
(ハ)電気信号からRGB各色の電気信号を取り出して画像を形成する(色分解)。
(ニ)白の基準値を決める(ホワイトバランス)。
(ホ)上記画像の各階調がモニタ(ディスプレイDP)上に正しく再現されるように補正する(ガンマ変換)。
(ヘ)RGB信号から輝度信号と色差信号の画像を生成し、圧縮の前処理を行う(輝度・色差マトリクス)。
(ト)信号変化の大きい部分を取り出して強調するシャープネス処理を行う(アパチャー補正)。
(チ)画像圧縮処理。
(リ)記録(記憶媒体MCへデータを格納)。
【0028】
次に、図3を参照して、上記システムによるカラーマッチング方法、すなわち、この実施の形態に係るカラーマッチング方法について説明する。なお、図3は、この方法の基本的な処理手順を示すフローチャートである。
【0029】
同図3に示されるように、この方法に際しては、まず、ステップS1において、共通の色票(カラーパッチ)を、より厳密にいえば、互いに同一の色票によって構成される共通のカラーチャートを、上記モニタMTおよびカラープリンタPTに出力させる。具体的には、例えば上記記憶部22にこのカラーチャート(色票)を記憶させ、上記コンピュータ20(詳しくは演算処理部21)の指令のもとに、上記モニタMTの画面上に上記カラーチャートを表示(各画素の発光により表示)させる。また一方、上記プリンタPTには、所定の色材(ここではインク)により、所定の印刷媒体(ここでは印刷用紙)へ上記カラーチャートを転写させるようにする。なおここで、上記カラーチャート(色票)に係る色彩値(例えばRGB値)は既知である(例えば上記記憶部22に保存されている)ものとする。
【0030】
図4および図5に、この方法において用いられる上記カラーチャート(色票)の一例を示す。
同図4に示されるように、このカラーチャートは、所定のパッチ領域Rに、正方形の色票(カラーパッチ)Pが130個(X:10列、Y:13行)設けられて形成されている。詳しくは、これらの色票は、RGB(赤・緑・青)の階調(白色、グレー、黒色も含む)が、例えば8ビットで表現されたものである。そして、図5に、各色票Pの階調値(XとYは色票Pのアドレスに相当)の一例が図表(マップ)として示されるように、上記130個の色票Pの各々は、異なる階調値を示すことによって、互いに異なる色(色彩)を表現している。
【0031】
次に、続くステップS2(図3)では、上記ステップS1で出力された共通のカラーチャート(色票)について、それぞれ上記カメラ10により測色(撮影)を行う。詳しくは、該カラーチャートの表示されたモニタMTの画面、および同カラーチャートの転写(印刷)された印刷用紙を、上記カメラ10にて撮影(測色)することにより、両装置(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性に相当する色彩値(例えばRGB値等の三刺激値)を、該測色の結果としてそれぞれ取得(例えば記憶媒体MCに保存)する。そしてこのとき、上記モニタMTおよびプリンタPTに対して各々なされる上記カメラ10の測色(撮影)は、例えば上記カラーチャートの表示されたモニタMTの画面と、同カラーチャートの印刷されたプリンタPTの印刷用紙とを隣り合うように並べて、同一の視野環境(光源の種類等が同一の環境)で行うようにする。
【0032】
次いで、続くステップS3では、上記ステップS2にてそれぞれ測定された上記モニタMTおよびプリンタPTの色再現特性、すなわちこれら各装置によってそれぞれ出力された上記カラーチャートの色彩値(測色値)を比較することにより、これら両装置の色再現特性の対応関係(互いに同一色を再現するような関係)を示す色変換テーブル(LUT)を作成する。
【0033】
次に、図6を参照しつつ、具体的な一例を挙げて、この色変換テーブル(LUT)の作成処理(ステップS3)についてさらに詳しく説明する。
図6(a)は、この色変換テーブルの作成に用いられる各データの色彩値を示す図、図6(b)は、調整前における各データの関係を示す図、図6(c)は、調整後における各データの関係を示す図である。なお、図中、f1〜f4は、各データ間の変換プロファイル(関係式)を示すものである。
【0034】
すなわちここでは、同図6(a)に示されるように、前述のカラーチャートに示されたRGB階調の代表点(色票の色彩値)をDT0(R0、G0、B0)、上記カメラ10により撮影されたプリンタPTの色再現特性(撮影値)をDT1(R1、G1、B1)、上記カメラ10により撮影されたモニタMTの色再現特性(撮影値)をDT2(R2、G2、B2)、調整後のモニタMTの色再現特性(出力値)をDT2’(R2’、G2’、B2’)、とした場合を例にとって考える。
【0035】
そして、調整前に図6(b)のような関係、すなわちプリンタPTの色再現特性(撮影値DT1)とモニタMTの色再現特性(撮影値DT2)との間に関係式f1だけのずれがある関係を、図6(c)のような関係、すなわち、これらの色再現特性の間にずれのない関係(出力値DT2’=撮影値DT1)となるように、上記モニタMTの色再現特性(出力値)を調整すべく、色票の色彩値DT0と調整前の撮影値DT2との間の関係式f4に対応するものとして、色票の色彩値DT0と調整後のモニタMTの出力値DT2’との間の関係式「f4・f3」を求めることとする。
【0036】
すなわち、色票の色彩値DT0と撮影値DT1との間の関係式f2から、
f4(f3(DT0))=f2(DT0)
f3(DT0)=f4−1(f2(DT0))
の関係が導かれるため、結局のところ、上記関係式「f4・f3」を得るためには、「f4−1・f2」という関係式を求めればよいことになる。
【0037】
そして、この関係式「f4−1・f2」を求めるためには、まず、上記色票の色彩値DT0と撮影値DT1との間の対応関係から、「f2(DT0)(=DT2)」を導出するための色変換テーブルL1を作成する。なお、このテーブルL1は、例えば四面体補間により、上記カラーチャート(色票)の色空間を基準とした「17:17:17」の格子点を有するものとする。
【0038】
次に、上記色票の色彩値DT0と撮影値DT2との間の対応関係から、「f4(DT0)(=DT2)」を導出するための色変換テーブルL2を作成する。なお、このテーブルL2は、上記モニタMTの色空間を基準として上記カラーチャート(色票)の色空間へ変換するものであり、例えば四面体補間により、「17:17:17」の格子点を有するものとする。
【0039】
すなわち、これら色変換テーブルL1およびL2により、上記関係式「f4−1(f2(DT0))」は、
f4−1(f2(DT0)=L1・L2
のように表すことができる。また、これを色変換テーブルL3(=L1・L2)とすれば、このテーブルL3は、上記テーブルL1による色変換の後、さらに上記テーブルL2により色変換を行うものとして、作成することができることになる。そして、この色変換テーブルL3をもって上記モニタMTの色再現特性(出力値)を調整するように設定すれば、これが実質的に上記関係式「f4・f3」の変換になり、上記プリンタPTの色再現特性とモニタMTの色再現特性との間にずれのない関係を実現することができるようになる。
【0040】
続くステップS4では、こうして作成された色変換テーブルL3が、上記モニタMTのカラーマッチングを行うことができるように設定(参照設定)される(通常は、予め設定されていた参照設定済みの上記モニタMTに係る色変換テーブルを、上記ステップS3で求められた相関関係に更新するだけで足りる)。そしてこれにより、以後、上記モニタMTの色再現特性は、この色変換テーブルL3を通じて調整(出力補正)されるようになり、ひいては上記プリンタPTから出力される色と同一の色が、上記モニタMTの画面上に再現(表示)されるようになる。
【0041】
以上説明したこの実施の形態に係るカラーマッチング方法および画像処理装置によれば、以下のような優れた効果が得られるようになる。
【0042】
(1)デバイス間(2種類の画像出力機器間)で、色再現特性、ひいては画像出力の整合(マッチング)をとるために用いられるカラーマッチング方法として、上記モニタMTおよびプリンタPTに共通の色票(カラーチャート)を出力させる。そうして、これら出力された共通の色票について、それぞれ単一のデジタルスチルカメラ10により測色を行い、該測色の結果として得られる各装置(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性を比較することにより、両者の色再現特性を整合(マッチング)すべく、上記モニタMTの色再現特性を調整(出力補正)するようにした。こうすることで、比較的安価な色彩測定装置であるデジタルスチルカメラ10を用いて低コスト化を図りながら、上記モニタMTおよび上記プリンタPT間の出力特性(色再現特性)について測色時の環境条件(環境光)を前提とするマッチングを実現することができるようになる。
【0043】
(2)撮像装置として広く一般に用いられているデジタルカメラを、色彩測定装置(非接触型の色彩測定装置)として流用した。このように、共通の装置(デジタルスチルカメラ10)を2つの用途(撮像および測色)に用いることで、特別な色彩測定装置を購入する必要がなくなり、実質的にさらなるコストダウンが図られることにもなる。
【0044】
(3)また、上記2つの画像出力機器(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性を整合する際に、上記モニタMTの画面に表示される画像の色彩を、プリンタPTの印刷媒体(印刷用紙)に転写される画像の色彩に対して整合させるべく、上記モニタMTの色再現特性を調整(出力補正)するようにした。これにより、印刷媒体(メディア)の種類や状態(例えば印刷用紙の紙質等)も考慮された、より厳密な整合(マッチング)が実現するようになる。
【0045】
(4)上記モニタMTおよびプリンタPTの各出力について行われる上記デジタルスチルカメラ10による各測色を、同一の視野環境にて行うようにした。こうすることで、環境条件(環境光)の影響を測定値へ正確に反映させることができないカメラ(色彩測定装置)を用いた場合であれ、上記2つの画像出力機器(モニタMTおよびプリンタPT)については、より高い精度をもって、上述の色再現特性の整合(マッチング)が行われることになる。
【0046】
(5)また一方、上記カラーマッチング方法の実現にあたっては、共通の色票(カラーチャート)を上記モニタMTおよびプリンタPTに出力させるとともに、これら出力された共通の色票に係る測色の結果をそれぞれ取得し、該測色の結果として得られる各装置(モニタMTおよびプリンタPT)の色再現特性の比較に基づいて、両者の色再現特性を整合(マッチング)すべく、上記モニタMTに対して色再現特性の調整(出力補正)を実行するコンピュータ20(画像処理装置)を用いるようにした。こうした装置を用いることで、上述の方法がより容易且つ的確に実現されることになる。
【0047】
(6)また、このコンピュータ20(画像処理装置)を、上記モニタMTの出力(画面表示)と上記プリンタPTの出力(印刷物への転写)とを関連付ける色変換テーブル(LUT:ルックアップテーブル)を作成、保存(記憶部22に保存)し、このテーブルを参照しながら、上記モニタMTの色再現特性を調整(出力補正)するものとした。こうすることで、該調整に係る色変換の際、上記作成された色変換テーブル(予め算出された変換前後の値が格納されたテーブル)を参照するだけで(特別な演算を要することなく)色変換を行うことが可能になる。すなわち、このような構成によれば、上述の色再現特性の整合(マッチング)に際して大量の数値変換を行わなければならない場合であれ、極めて高速な色変換が可能になる。
【0048】
なお、上記実施の形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0049】
・上記実施の形態では、上記プリンタPTの色再現特性についてはこれを調整することなく、上記モニタMTの色再現特性を調整するようにした。しかし、このような調整方法に限定されることはない。
【0050】
例えば図7に示すように、上記プリンタPTの色再現特性を調整するようにしてもよい。なお、この図7は先の図6(c)に対応する図面であり、同図7中、「DT1’」は、調整後のプリンタPTの色再現特性(出力値)を、また「f2・f5」は、色票の色彩値DT0と調整後のプリンタPTの出力値DT1’との間の関係式を、それぞれ示すものである。
【0051】
あるいは図8に示すように、これらモニタMTおよびプリンタPTの両方の色再現特性を調整するようにしてもよい。なお、この図8は先の図6(c)に対応する図面であり、同図8中、「DT3」は、プリンタPTおよびモニタMTの調整後の色再現特性(出力値)を、「f2・f6」は、色票の色彩値DT0とプリンタPTの調整後の出力値DT3との間の関係式を、また「f4・f7」は、色票の色彩値DT0とモニタMTの調整後の出力値DT3との間の関係式を、それぞれ示すものである。
【0052】
・上記実施の形態では、上述のカラーマッチングを行う際の色変換において、上記モニタMTの出力と上記プリンタPTの出力とを関連付ける色変換テーブルを用いるようにした。しかし、こうしたテーブルは必須ではなく、例えば変換の都度、適宜の演算を実行したりすることによって、上述の色変換と同様の色変換を行うようにしてもよい。
【0053】
・図4および図5に示した色票(カラーチャート)は、あくまで一例であり、任意の色票を用いることができる。例えば精度の向上を図る場合においては、上記カラーチャートを構成する色票の数を増やすことが有効である。また、このカラーチャート(色票)に係る色彩値(例えば記憶部22に保存されている正規の値)、および上記デジタルカメラ(例えばデジタルスチルカメラ10)の測色値は、RGB値に限定されることなく、例えばCMY値や、XYZ値、あるいは均等色空間によって表現されたLab値等であってもよい。すなわち、例えば予めデジタルカメラの色再現特性を記録した色変換テーブル(デバイスプロファイルなど)を用意し、RGB値から三刺激値(XYZ値やLab値など)に変換した後、求められた三刺激値を用いて上記実施形態に即しカラーマッチングを行うこともできる。この場合、三刺激値はデバイス固有の色空間に依存しないことから、異なる色空間を持つデバイス同士のカラーマッチングにも同様に適用することができる。
【0054】
・また、上記デジタルスチルカメラ10が、撮影前に自動的に視野環境(環境光)を認識する機能(例えばホワイトバランスのオート機能として用いられる蛍光灯や白熱灯等の光源の種類を検出する機能、あるいは自動露出に用いられる測光機能など)を持っている場合などにおいては、測色(デジタルスチルカメラ10による撮影)の際の視野環境を検出することが可能になる。このため、こうしたカメラであれば、上記モニタMTおよびプリンタPTの各出力について、それぞれ異なる視野環境下で撮影(測色)を行った場合にあっても、上記検出(認識)したそれぞれの視野環境に基づいて、環境の相違を打ち消すような補正を適宜に行うことが可能になり、ひいては前記(4)の効果と同様の効果もしくはそれに準じた効果が得られるようになる。
【0055】
・上記実施の形態では、上記デジタルスチルカメラ10を色彩測定装置として用いることとしたが、動画をデジタルデータとして記録(保存)するデジタルビデオカメラなども、同様に用いることができる。
【0056】
・上記実施の形態では、上記カラープリンタPTとして、所定のインクを微小な粒で噴射することによって印刷媒体に所定の画像を印刷するインクジェットプリンタを採用することとしたが、これに限定されることなく、任意のカラープリンタを採用することができる。すなわち、例えば電子複写機等のように、レーザビームやLED等によるレーザ光を制御して感光ドラムに文字や図形を描かせ、電子複写によってこれを用紙に転写するレーザプリンタなども適宜に採用可能である。そして、このようなプリンタを採用した場合にあっても、この発明は同様に適用することができる。
【0057】
・また、上記実施の形態では、一例として、モニタとカラープリンタとの組み合わせで、カラーマッチングを行う場合について言及したが、この発明は、任意の組み合わせの画像出力機器(カラーデバイス)について、同様に適用することができる。すなわち、この発明によれば、例えばスキャナやプロジェクタ等の出力を、他の画像出力機器の出力に対して整合(カラーマッチング)させることもできる。また、同一の出力形態をとる画像出力機器同士のカラーマッチングであれ、例えば液晶モニタとCRTモニタのカラーマッチングについても、基本的には同様にして、この発明を適用することができる。ちなみにこの場合は、両者とも画面表示について上述の測色を行い、該測色の結果として得られる両者(各装置)の色再現特性の対応関係(相関関係)から、例えば上述と同様にして、色変換テーブル(LUT)を作成し、この色変換テーブルに基づいてカラーマッチングを行うようにする。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明に係るカラーマッチング方法および画像処理装置の一実施の形態について、同実施の形態の方法および装置に係る画像処理システムの概要(概略構成)を模式的に示すブロック図。
【図2】同実施の形態に係るカラーマッチング方法に用いられるデジタルスチルカメラの構成を詳細に示すブロック図。
【図3】同実施の形態に係るカラーマッチング方法の基本的な処理手順を示すフローチャート。
【図4】同実施の形態に係るカラーマッチング方法において用いられるカラーチャート(色票)の一例について、その概要を示す模式図。
【図5】同カラーチャートにおける各色票の階調値の一例を示す図表(マップ)。
【図6】(a)〜(c)は、図3における色変換テーブル(LUT)の作成処理(ステップS3)について、その処理態様を示す図。
【図7】同処理(図3のステップS3)について、別の処理態様を示す図。
【図8】同処理(図3のステップS3)について、さらに別の処理態様を示す図。
【符号の説明】
【0059】
10…デジタルスチルカメラ、11…撮像素子、12…制御部、13…撮像信号処理回路、14…画像圧縮回路、20…コンピュータ、21…演算処理部、22…記憶部、23…モニタ駆動部(ドライバ回路)、24…プリンタ駆動部(ドライバ回路)、DP…ディスプレイ、L1〜L3…色変換テーブル、MC…記憶媒体、MT…モニタ、OP…操作部、P…色票(カラーパッチ)、PT…カラープリンタ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の画像出力機器である第1および第2の画像出力機器に共通の色票を出力させるとともに、これら出力された共通の色票について、それぞれデジタルカメラにより測色を行い、該測色の結果として得られる前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の色再現特性を比較することにより、両者の色再現特性を整合すべく、前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の少なくとも一方の色再現特性を調整する
ことを特徴とするカラーマッチング方法。
【請求項2】
前記第1の画像出力機器は、各画素を適宜に発光させて画面上に画像を表示するモニタであるとともに、前記第2の画像出力機器は、所定の色材により印刷媒体に画像を転写するカラープリンタであり、両者の色再現特性を整合する際には、前記モニタの画面に表示される画像の色彩を、前記カラープリンタの印刷媒体に転写される画像の色彩に対して整合させるべく、前記モニタの色再現特性を調整する
請求項1に記載のカラーマッチング方法。
【請求項3】
前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の各出力について行われる前記デジタルカメラによる各測色を、同一の視野環境にて行う
請求項1または2に記載のカラーマッチング方法。
【請求項4】
共通の色票を第1の画像出力機器および第2の画像出力機器に出力させるとともに、これら出力された共通の色票に係る測色の結果をそれぞれ取得し、該測色の結果として得られる前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の色再現特性の比較に基づいて、両者の色再現特性を整合すべく、前記第1の画像出力機器および前記第2の画像出力機器の少なくとも一方に対して色再現特性の調整を実行する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
前記第1の画像出力機器の出力と前記第2の画像出力機器の出力とを関連付ける色変換テーブルを作成、保存し、このテーブルを参照しながら、前記色再現特性の調整を行う
請求項4に記載の画像処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−251237(P2007−251237A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67680(P2006−67680)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(500538173)シンボリック・コントロール株式会社 (3)
【Fターム(参考)】