説明

カルボキシル基への糖転移方法

【課題】カルボン酸配糖体およびカルボン酸を配糖化する方法を提供すること。
【解決手段】カルボン酸の配糖化方法であって、カルボン酸と、グルコースドナーとに水溶液中のスクロースホスホリラーゼを作用させて、カルボン酸配糖体を得る工程を包含し、作用開始時の該水溶液のpHが、該スクロースホスホリラーゼがハイドロキノンにグルコースを結合させる反応における至適pHよりも酸性側のpHである、方法が提供される。カルボン酸のカルボキシル基と、グルコースの1位、2位、3位または4位のOH基とがエステル結合したカルボン酸配糖体であって、ただし、1位にβ結合した化合物ではない配糖体もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸配糖体およびカルボン酸を配糖化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の化合物を配糖化して得られた配糖化合物は、配糖化前の化合物よりも安定性および溶解性が高いことが多い。そのため、種々の化合物の配糖化が行われている。これまでに知られている配糖化反応の例としては、以下の反応が挙げられる:
i:糖または糖残基にさらに糖を転移させる反応(例えば、CGTaseによる配糖化(例えば、酵素処理ヘスペリジン));
ii:アルコール性のOHに糖を転移させる反応(例えば、α−グルコシダーゼによる配糖化(例えば、α−エチルグルコサイド));
iii:フェノール性のOHに糖を転移させる反応(例えば、転移型α−アミラーゼまたはスクロースホスホリラーゼによる配糖化(例えば、α−アルブチン))。
【0003】
これらはいずれも、OH基(水酸基)を配糖化する方法である。
【0004】
さらに、水酸基以外の官能基を配糖化する反応としては、iv:チオール基(−SH)へ糖を転移させる反応(例えば、β−フラクトフラノシダーゼによる配糖化(例えば、S−フラクトフラノシド))などが知られている。
【0005】
しかし、糖転移酵素を用いてカルボキシル基(−COOH)に糖転移する方法は知られていない。
【0006】
糖転移酵素以外の酵素を用いて、カルボキシル基を配糖化する方法としては、リパーゼによるグルコースとオクタン酸とのエステル化についての報文(非特許文献1:「LIPASE CATALYZED ACYLATION OF GLUCOSE」,Gudrun Ljunger,Patrick Adlereutz and Bo Mattiasson,BIOTECHNOLOGY LETTERS.,Vol.16 No.11(1994)1167−1172)が公知である。非特許文献1によれば、リパーゼを用いることにより、オクタン酸のカルボキシル基とグルコースの6位のOH基とを結合することができる。この反応は、リパーゼの縮合反応を利用しており、脂肪酸のカルボキシル基にしか糖残基を結合できない。それゆえ、汎用性が低い。また、グルコースの6位以外の位置で配糖化することはできない。
【0007】
さらに別の方法として、植物細胞を用いてカルボキシル基へ糖が結合した配糖体を製造する方法が公知である。特許文献1(特開平10−175989;「パラアミノ安息香酸配糖体、その製造方法およびそれを有効成分とする製剤」村田允)は、ユーカリ属植物の細胞培養を行い、そこヘパラアミノ安息香酸を投与してパラアミノ安息香酸のカルボキシル基にグルコースが結合した配糖体を製造する方法を開示する。特許文献1は、植物内の配糖化酵素の働きにより、パラアミノ安息香酸のカルボキシル基にグルコース1位のOH基がエステル結合した化合物が得られると記載する。しかし、特許文献1は、この配糖化酵素が具体的にどのような酵素であるかについて記載していない。この方法では、細胞培養を用いるので、この方法により得られる配糖体は、β型の配糖体である。特許文献1は、この方法により得られた配糖体が、紫外線防御剤として有効であると記載している。
【0008】
酵素を用いた方法でカルボン酸を配糖化する方法は、この方法以外には公知ではない。一方、化学的方法を用いてカルボン酸を配糖化する方法は公知である。
【0009】
特許文献2(特開平6−293789号公報;「多価不飽和脂肪酸類配糖体およびその製造法」帝人株式会社)は、多価不飽和脂肪酸類配糖体およびその製造法を開示する。この方法は、多価不飽和脂肪酸をまず誘導体化し、その後化学的に糖を結合させて配糖体を得る方法である。具体的には、ドコサヘキサエン酸などの多価不飽和脂肪酸と糖類とが糖エステルを形成したものが記載されており、糖がその中に1級アルコールを有する場合はその部位で、それ以外の場合は1位でカルボン酸と縮合し、糖エステルを形成する。グルコースの場合は6位で糖エステルを形成する。化学的合成方法では、煩雑な反応ステップが何段階も必要であり、製造コストが非常に高価になるという欠点がある。また、グルコースの6位以外の位置で結合することはできない。
【0010】
ところで、スクロースホスホリラーゼ(EC2.4.1.7)は、ショ糖を加リン酸分解して、α−D−グルコース1−リン酸(G1P)とフラクトースとを生成する反応を触媒する公知の酵素であり、例えば、Streptococcus mutans、Leuconostoc mesenteroides、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonas purtrefaciens、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullularia pullulansなどの微生物を使用して容易に得ることができる。
【0011】
スクロースホスホリラーゼは、次の2種の糖転移反応を触媒することが知られている:(1)G1P + Acp = Glc − Acp + Pi ;および
(2)スクロース + Acp = Glc − Acp + Fru
(G1P:グルコース−1−リン酸;Acp:水酸基を有するアクセプター;Glc:グルコース;Pi:無機リン酸:Fru:フルクトース)。
【0012】
スクロースホスホリラーゼは、上記2つの反応においてアクセプター(Acp)の水酸基(−OH)にグルコースの1位の水酸基をグルコシド結合させる酵素である。
【0013】
これらの反応を利用した配糖体の製造方法は公知である。例えば、非特許文献2(「α−D−Glucosyl Transfer to Phenolic Compounds by Sucrose Phosphorylase from Leuconostoc mesenteroides and Production of α−Arubutin」,Satoshi Kitao,Hiroshi Sekine,Biosci.Biotech.Biochem.,Vol.58 No.1(1994)38−42)は、スクロースホスホリラーゼを利用した水酸基への糖転移反応を開示する。非特許文献2は、フェノール性OH基を有する化合物にスクロースなどの存在下でスクロースホスホリラーゼを作用させ、フェノール配糖体を得る方法を開示する。非特許文献2は、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼを使用している。非特許文献2は、このスクロースホスホリラーゼが、フェノール性のOH基およびアルコール性のOH基にグルコースを1位で転移できるが、カルボキシル基には糖転移できないと記載している(要約部分)。
【0014】
特許文献3(特開平5−176786号公報;「カテキン類配糖体の製造法」キッコーマン株式会社)は、カテキン類とグルコース−1−リン酸またはスクロースとの混合溶液にスクロースホスホリラーゼを作用させ、カテキン類配糖体を得る方法を記載する。特許文献3は、従来の技術として、カテキンと澱粉にサイクロデキストリン合成酵素を作用させてカテキン類グルコシドを生成させる方法(農芸化学会会誌65巻、3号、第5頁)について言及している。いずれもカテキンの水酸基にグルコースがα結合した形である。特許文献3は、スクロースホスホリラーゼを用いることにより、カルボン酸のカルボキシル基にグルコースを結合させることができることについては全く記載していない。
【0015】
特許文献4(特開平6−135987号公報;「フラノン配糖体及びその製造法」キッコーマン株式会社)は、ハイドロキシフラノンに糖供与体存在下、スクロースホスホリラーゼを作用させることによりフラノン配糖体を得る方法を開示する。特許文献4は、糖供与体として、グルコース−1−リン酸またはスクロースを挙げている。特許文献4に開示されるフラノン配糖体は、ハイドロキシフラノンの水酸基にグルコースがα結合した形である。特許文献4は、スクロースホスホリラーゼを用いることにより、カルボン酸のカルボキシル基にグルコースを結合させることができることについては全く記載していない。
【0016】
特許文献5(特開平6−56872号公報;「コウジ酸配糖体およびその製造法」キッコーマン株式会社)は、コウジ酸にグルコース−1−リン酸またはスクロースの存在下でスクロースホスホリラーゼを作用させ、コウジ酸配糖体を得る方法を開示する。特許文献5に開示される配糖体は、コウジ酸の水酸基にグルコースがα結合した形である。特許文献5は、スクロースホスホリラーゼを用いることにより、カルボン酸のカルボキシル基にグルコースを結合させることができることについては全く記載していない。
【0017】
特許文献6(特開平6−153976号公報;「フェノール配糖体の製造法」キッコーマン株式会社)は、フェノール化合物にグルコース−1−リン酸またはスクロースなどの存在下でスクロースホスホリラーゼを作用させ、フェノール配糖体を得る方法を開示する。特許文献6に開示される配糖体は、フェノール性水酸基にグルコースなどの糖類が結合した形である。特許文献6は、スクロースホスホリラーゼを用いることにより、カルボン酸のカルボキシル基にグルコースを結合させることができることについては全く記載していない。
【0018】
スクロースホスホリラーゼについての文献は多数ある(例えば、非特許文献3〜5)。しかし、これらの文献には、スクロースホスホリラーゼがカルボキシル基に糖転移できるか否かについては全く記載がない。
【0019】
このように、スクロースホスホリラーゼは従来、水酸基以外の官能基に糖転移を行うという報告はなく、カルボキシル基には糖転移できないと考えられていた。
【特許文献1】特開平10−175989号公報(第1〜3頁)
【特許文献2】特開平6−293789号公報(第1頁)
【特許文献3】特開平5−176786号公報(第1頁)
【特許文献4】特開平6−135987号公報(第1頁)
【特許文献5】特開平6−56872号公報(第1頁)
【特許文献6】特開平6−153976号公報(第1頁)
【非特許文献1】「LIPASE CATALYZED ACYLATION OF GLUCOSE」,Gudrun Ljunger,Patrick Adlereutz and Bo Mattiasson,BIOTECHNOLOGY LETTERS.,Vol.16 No.11(1994)1167−1172
【非特許文献2】「α−D−Glucosyl Transfer to Phenolic Compounds by Sucrose Phosphorylase from Leuconostoc mesenteroides and Production of α−Arubutin」,Satoshi Kitao,Hiroshi Sekine,Biosci.Biotech.Biochem.,Vol.58 No.1(1994)38−42
【非特許文献3】「Mechanism of Action of Sucrose Phosphorylase」,JOHN J.Mieyal,Marcia Simon,and Robert H.Abeles,The Journal of Biological Chemistry Vol.247,No2,Issue of January 25(1972)532−542
【非特許文献4】「Sequence Analysis of the Glucosyltransferase A Gene(gtfA) from Streptococcus mutans Ingbritt」,JOSEPH J.FERRETTI ,TING−TING HUANG,and ROY R.B.RUSSELLInfection and Immunity,June(1988)1585−1588
【非特許文献5】「Streptococcus mutans gtfA Gene Specifies Sucrose Phosphorylase」,ROY R.B.RUSSELL,HIDEHIKO MUKASA,ATSUNARI SHIMAMURA,and JOSEPH J.FERRETTI,Infection and Immunity.,June(1988)2763−2765
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、カルボン酸配糖体およびカルボン酸を配糖化する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酸性から弱アルカリ性の条件下でスクロースホスホリラーゼを用いることにより、スクロースホスホリラーゼ(SP)が新規の糖転移反応を触媒し、カルボン酸を配糖化できることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0022】
今回、本発明者らは、スクロースホスホリラーゼを用いた糖転移反応の検討を行い、転移酵素であるスクロースホスホリラーゼがカルボキシル基(−COOH)を有する各種物質にグルコースを転移することを初めて明らかにした。
【0023】
本発明の方法は、カルボン酸の配糖化方法であって、カルボン酸と、グルコースドナーとに水溶液中のスクロースホスホリラーゼを作用させて、カルボン酸配糖体を得る工程を包含し、作用開始時の該水溶液のpHが、該スクロースホスホリラーゼがハイドロキノンにグルコースを結合させる反応における至適pHよりも酸性側のpHである。
【0024】
1つの実施形態では、上記pHは、1.0〜7.4であり得る。
【0025】
1つの実施形態では、上記pHは、3.0〜7.0であり得る。
【0026】
1つの実施形態では、上記作用開始時のpHと上記至適pHとの差は0.3〜6.0の範囲内であり得る。
【0027】
1つの実施形態では、上記作用開始時のpHと上記至適pHとの差は1.0〜3.0の範囲内であり得る。
【0028】
1つの実施形態では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus属、Leuconostoc属、Oenococcus属、Bifidobacterium属、Agrobacterium属、Pseudomonas属、Escherichia属、Listeria属、Clostridium属、Acetobacter属、Pullularia属およびLactobacillus属からなる群より選択される属に属する細菌由来であり得る。
【0029】
1つの実施形態では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus
mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus mitis、Leuconostoc mesenteroides、Oenococcus oeni、Bifidobacterium longum、Agrobacterium vitis、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonas putrefaciens、Escherichia coli、Listeria innocua、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullularia pullulans、Lactobacillus acidophilusおよびListeria monocytogenesからなる群より選択される細菌由来であり得る。
【0030】
1つの実施形態では、上記スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus
mutansまたはLeuconostoc mesenteroidesに由来し得る。
【0031】
1つの実施形態では、上記カルボン酸の分子量は、46〜870であり得る。
【0032】
1つの実施形態では、上記カルボン酸はモノカルボン酸であり得る。
【0033】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、アルコール性OH基およびフェノール性OH基のいずれも有さない。
【0034】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は水溶性であり得る。
【0035】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は水に難溶性または不溶性であり得る。
【0036】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は植物抽出液中に存在する化合物であり得る。
【0037】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、かつ水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択され得る。
【0038】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、R−C(=O)OHにより表され得、ここで、Rは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される炭素数0〜20の基であって、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0039】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、センノシドA、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択され得る。
【0040】
1つの実施形態では、上記グルコースドナーは、スクロース、グルコース−1−リン酸またはグルコース−1−フルオリドであり得る。
【0041】
1つの実施形態では、本発明の方法はさらに、反応開始後の前記水溶液中に前記カルボン酸または酸性物質を添加して、pHがアルカリ側に変化することを抑制する工程を包含し得る。
【0042】
1つの実施形態では、反応終了時のpHは3.0〜7.0であり得る。
【0043】
本発明のカルボン酸配糖体は、カルボン酸のカルボキシル基と、グルコースの1位、2位、3位または4位のOH基とがエステル結合したカルボン酸配糖体であって、ただし、1位にβ結合した化合物ではない。
【0044】
1つの実施形態では、上記カルボキシル基と、上記OH基とはα結合し得る。
【0045】
1つの実施形態では、本発明のカルボン酸配糖体の分子量は、208〜1032であり得る。
【0046】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、モノカルボン酸であり得る。
【0047】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、アルコール性OH基およびフェノール性OH基のいずれも有さない。
【0048】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は水溶性であり得る。
【0049】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は水に難溶性または不溶性であり得る。
【0050】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は植物抽出液中に存在する化合物であり得る。
【0051】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、かつ水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択され得る。
【0052】
1つの実施形態では、上記配糖体は、構造R−C(=O)O−Glcを有し得、ここで、Rは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される炭素数0〜20の基であって、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0053】
1つの実施形態では、上記カルボン酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、センノシドA、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択され得る。
【0054】
1つの実施形態では、上記カルボキシル基は、グルコースの1位のOH基とエステル結合し得る。
【0055】
本発明の食品および食品添加物は、上記カルボン酸配糖体を含む。
【0056】
本発明の医薬品および医薬部外品は、上記のカルボン酸配糖体を含む。
【0057】
本発明の化粧品は、上記のカルボン酸配糖体を含む。
【発明の効果】
【0058】
本発明により、カルボン酸配糖体およびその製造方法が提供される。分子内にカルボキシル基を有する化合物は多数存在しており、その中には生理活性を有する物質が多く含まれている(例えば、脂肪酸、アミノ酸、有機酸、漢方成分等)。これらの物質を配糖化することによって次のような効果およびメリットが得られる:
(1)安定性を向上させる;
(2)溶解性を向上させることにより、生体吸収性を向上できる;
(3)味およびにおいがマイルドになる;
(4)配糖体が共存することによってアクセプターおよびアクセプターと構造が類似の化合物の溶解度も向上するという、可溶化効果が得られる;
(5)刺激性および毒性を低下させる。
【0059】
本発明の製造方法は、カルボン酸配糖体を酵素的に合成できるため、以下のようなメリットが得られる:
(1)化学合成のような繁雑なステップを踏まずに簡便に合成できるため、製造が容易である。製造が容易であることから、コストメリットも得られる;
(2)揮発性の高い有機溶媒を使用せずに製造可能であるので、安全面およびコスト面で有利である;
(3)有機溶媒を使用せずに合成できるので、食品に使用できる可能性がある;ならびに
(4)陰イオン交換樹脂を用いることにより、煩雑なステップを踏まずに1ステップでカルボン酸配糖体とカルボン酸とを容易に分離できるため、精製のコストが安い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0061】
(1.カルボン酸配糖体)
本明細書中では、カルボン酸配糖体とは、カルボン酸のカルボキシル基と、グルコースの1位、2位、3位または4位のOH基とがエステル結合した化合物をいう。本発明のカルボン酸配糖体においては、好ましくはグルコースがα結合しており、より好ましくはグルコースの1位でα結合している。本発明のカルボン酸配糖体は、1位にβ結合した化合物ではない。本発明のカルボン酸配糖体においては、カルボキシル基は、グルコース中の1位、2位、3位および4位のうちの任意の位置のOH基とエステル結合している。好ましくは、1位においてエステル結合している。
【0062】
本発明の方法で用いられるカルボン酸がモノカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシドである。本発明の方法で用いられるカルボン酸がジカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシド、2つのグルコースによって配糖化されたジグルコシドまたはそれらの混合物である。本発明の方法で用いられるカルボン酸がトリカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシド、2つのグルコースによって配糖化されたジグルコシド、3つのグルコースによって配糖化されたトリグルコシドまたはそれらの混合物である。4つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸を用いた場合についても同様である。本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、単一のカルボン酸配糖体であっても、種々のカルボン酸配糖体の混合物であってもよい。カルボン酸配糖体は、純粋な化合物であっても、純度の低い混合物であってもよい。
【0063】
1つの分子中に複数のカルボキシル基を有する化合物を用いた場合に、配糖化されるカルボキシル基の数は、主に、反応時間および酵素量を調節することにより制御され得る。
【0064】
本発明のカルボン酸配糖体においては、カルボン酸のカルボキシル基と、グルコースのOH基とがエステル結合しているため、体内に投与した場合に体内環境(例えば、酵素、pHの変化など)によってこのエステル結合が分解されて、カルボン酸とグルコースとが生成され得る。そのため、カルボン酸が人体に対して有意な生理活性を有する場合、生体内でその効果を発揮し得る。
【0065】
本発明のカルボン酸配糖体は、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、かつ水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択されるカルボン酸と、グルコース残基とが結合したカルボン酸配糖体であり得る。
【0066】
本発明のカルボン酸配糖体は、特定の場合には、構造R−C(=O)O−Glcによって示すことができる。ここで、Rは、任意のカルボン酸残基であり得る。本明細書中では、「カルボン酸残基」とは、カルボン酸から、1つの−COOHを除いて残る部分をいう。
【0067】
本発明のカルボン酸配糖体が構造R−C(=O)O−Glcによって示される場合、Rは、好ましくは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される基であり、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されている。
【0068】
1つの化合物内に、ある基(例えば、アルキル、アリールなど)が2つ以上存在する場合、それぞれの出現箇所での定義は、それ以外の出現箇所での定義とは無関係である。置換基の組み合わせは、そのような組み合わせが安定な化合物を生じる場合にのみ許容される。
【0069】
本明細書中では、「アルキル基」とは、直鎖状、分枝鎖状または環状の、飽和炭化水素鎖から1個の水素原子を除いて誘導された一価基を意味する。アルキル基の炭素数は、任意の数であり得るが、好ましくは1個〜20個であり、より好ましくは1個〜15個であり、さらに好ましくは1個〜10個であり、さらにより好ましくは1個〜8個であり、最も好ましくは、1個〜6個である。アルキル基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0070】
本明細書中では、「アシル基」とは、H−C(O)−基、アルキル−C(O)−基、アルケニル−C(O)−基、アルキニル−C(O)−基、シクロアルキル−C(O)−基、シクロアルケニル−C(O)−基またはシクロアルキニル−C(O)−基を意味し、ここで、種々の基は、上記の通りである。親部分に対する結合は、カルボニルを介する。好ましいアシルは、低級アルキルを含む。適切なアシル基の非限定的な例としては、ホルミル、アセチル、プロパノイル、2−メチルプロパノイルおよびシクロヘキサノイルが挙げられる。アシル基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0071】
本明細書中では、「アルケニル基」とは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む、直鎖状または分枝鎖状の、脂肪族炭化水素基から1個の水素原子を除いて誘導された基を意味する。アルケニル基の炭素数は、2以上の任意の数であり得るが、好ましくは2個〜20個であり、より好ましくは2個〜15個であり、さらに好ましくは2個〜10個であり、さらにより好ましくは2個〜8個であり、最も好ましくは、2個〜6個である。分枝鎖とは、1つ以上の低級アルキル基(例えば、メチル、エチル、またはプロピル)が、直鎖アルケニル鎖に結合していることを意味する。「低級アルケニル」とは、鎖中の約2〜約6個の炭素原子を意味し、この鎖は、直鎖であっても分枝鎖であってもよい。用語「置換アルケニル」とは、アルケニル基が1つ以上の置換基によって置換され得ることを意味し、これらの置換基は、同じであっても異なっていてもよい。アルケニル基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。適切なアルケニル基の非限定的な例としては、エテニル、プロペニル、n−ブテニル、および3−メチルブト−2−エニルが挙げられる。
【0072】
本明細書中では、「アリール基」とは、6個〜14個の炭素原子を有し少なくとも1個のベンゼノイド環を有する炭素環式基から1個の水素原子を除いて誘導された基を意味する。アリール基の例としては、フェニル、ナフチル、インデニル、テトラヒドロナフチル、インダニル、アントラセニル、フルオレニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基においては、炭素環式基の全ての利用できる置換可能な芳香族炭素原子は、任意の基によって置換され得る。アリール基は、好ましくは、1個、2個または3個の置換基で置換される。アリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0073】
本明細書中では、「ヘテロアリール基」とは、−O−、−S−および−N=からなる群から独立して選択される1個〜3個のヘテロ原子を含有する、5員または10員の単一またはベンゾ縮合芳香環から1個の水素原子を除いて誘導された基を意味するが、但し、これらの環は、隣接酸素および/またはイオウ原子を含まない。このヘテロアリール基は、好ましくは、1個、2個または3個の置換基で置換される。ヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0074】
上記で置換が行われ、置換基がアリール基Rである場合、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換され得る。
【0075】
本発明のカルボン酸配糖体は、特定の場合には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸(例えば、o−クマル酸、p−クマル酸、またはm−クマル酸、より好ましくはo−クマル酸またはp−クマル酸)、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸(例えば、o−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸またはm−アミノ安息香酸、より好ましくはo−アミノ安息香酸またはp−アミノ安息香酸)、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸(例えば、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸または3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸ともいう)、好ましくは、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸(例えば、3−メチルサリチル酸、4−メチルサリチル酸、5−メチルサリチル酸または6−メチルサリチル酸、好ましくは4−メチルサリチル酸)、ヒドロキシ安息香酸(例えば、2−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸ともいう)、3−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸、好ましくは2−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸)、センノシドA、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択されるカルボン酸と、グルコース残基とが結合したカルボン酸配糖体であり得る。
【0076】
(2.カルボン酸)
本発明のカルボン酸配糖体を作製するために用いられるカルボン酸は、任意のカルボン酸であり得る。
【0077】
本発明の方法で用いられるカルボン酸は、1以上のカルボキシル基を有する。カルボキシル基の数は、構造的に安定な限り、1、2、3またはそれより多数の任意の整数であり得る。カルボキシル基の数が1個である場合、そのカルボン酸をモノカルボン酸という。カルボキシル基の数が2個である場合、そのカルボン酸をジカルボン酸という。カルボキシル基の数が3個である場合、そのカルボン酸をトリカルボン酸という。カルボキシル基の数が4個以上の場合も同様にテトラカルボン酸などという。本発明の方法で用いられるカルボン酸は、好ましくは、モノカルボン酸またはジカルボン酸であり、より好ましくはモノカルボン酸である。
【0078】
本発明の方法で用いられるカルボン酸は、カルボキシル基以外に、スクロースホスホリラーゼの作用によって配糖化され得る官能基を有してもよく、有さなくてもよい。例えば、カルボン酸は、アルコール性OH基またはフェノール性OH基を有し得る。特定の場合には、カルボン酸は、カルボキシル基以外に配糖化され得る官能基を有さない化合物(例えば、アルコール性OH基およびフェノール性OH基のいずれも有さないカルボン酸)であり得る。このような化合物の配糖化は困難であると従来考えられていたので、本発明をこれらの化合物に応用することは特に有効である。
【0079】
本発明のカルボン酸配糖体は、好ましくは、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数であり、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、かつ水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数であり、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜5である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択されるカルボン酸であり得る。
【0080】
(1)のカルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、ピルビン酸およびクロトン酸が挙げられる。
【0081】
(2)のヒドロキシ酸は、αヒドロキシ酸、βヒドロキシ酸、γヒドロキシ酸などの任意のヒドロキシ酸であり得る。ヒドロキシ酸は好ましくは、αヒドロキシ酸であり、より好ましくは水酸基を1つ有するαヒドロキシ酸である。水酸基を1つ有するαヒドロキシ酸は、一般式R−CHOH−COOHで表され、ここで、Rは、アルキル基である。水酸基を1つ有するαヒドロキシ酸の例としては、乳酸およびグリコール酸が挙げられる。カルボキシル基を1つ、ヒドロキシル基を3つ有するヒドロキシ酸としては、例えば、シキミ酸が挙げられる。カルボキシル基を2つ、ヒドロキシル基を1つ有するヒドロキシ酸としては、例えば、リンゴ酸が挙げられる。カルボキシル基を2つ、ヒドロキシル基を4つ有するヒドロキシ酸としては、例えば、粘液酸が挙げられる。カルボキシル基を3つ、ヒドロキシル基を1つ有するヒドロキシ酸としては、例えば、クエン酸が挙げられる。他のヒドロキシ酸の例としては、キナ酸、コーヒー酸、没食子酸およびフェルラ酸が挙げられる。
【0082】
(3)のカルボン酸の例としては、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸およびピメリン酸が挙げられる。
【0083】
(4)のアミノ酸の例としては、葉酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグリシンおよびL−ドーパが挙げられる。
【0084】
(5)のカルボン酸の例としては、L−ドーパ、クマル酸(例えば、o−クマル酸、p−クマル酸またはm−クマル酸、より好ましくはo−クマル酸またはp−クマル酸)、フェニルグリシン、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、フェルラ酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸(例えば、o−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸またはm−アミノ安息香酸、より好ましくはo−アミノ安息香酸またはp−アミノ安息香酸)、ジヒドロキシ安息香酸(例えば、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(β−レゾルシル酸ともいう)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸ともいう)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸(γ−レゾルシル酸ともいう)、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸(α−レゾルシル酸ともいう)、より好ましくは2,4−ジヒドロキシ安息香酸または2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、トリヒドロキシ安息香酸(例えば、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸または3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸ともいう)、好ましくは、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸(例えば、3−メチルサリチル酸、4−メチルサリチル酸、5−メチルサリチル酸または6−メチルサリチル酸、好ましくは4−メチルサリチル酸)、ヒドロキシ安息香酸(例えば、2−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸ともいう)、3−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸、好ましくは2−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸)、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびセンノシドAが挙げられる。
【0085】
(6)のカルボン酸の例としては、ニコチン酸および葉酸が挙げられる。
【0086】
その他のカルボン酸も利用され得る。例えば、以下のカルボン酸が挙げられる:一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n−3であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸(例えば、ソルビン酸);カルボキシル基を1つ、アルコキシ基を1つ有するカルボン酸(例えば、レブリン酸);カルボキシル基を有する、ペプチドおよびタンパク質;ならびに芳香族以外の多環式カルボン酸(例えば、ウルソール酸、オレアノール酸、ベツリン酸)。
【0087】
本発明の方法で用いられるカルボン酸はまた、構造R−C(=O)OHによって表され得る。Rは、好ましくは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される基であり、Rの炭素数は好ましくは0〜20であり、より好ましくは0〜10であり、さらに好ましくは0〜5であり、特に好ましくは0〜3であり、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されている。
【0088】
「アルキル基」、「アシル基」、「アルケニル基」、「アリール基」、「ヘテロアリール基」などの定義および好ましい範囲は、上記のカルボン酸配糖体についての定義部分に記載したものと同様である。
【0089】
本発明の方法で用いられるカルボン酸の分子量に特に限定はない。分子量の上限は、好ましくは約10,000であり、より好ましくは約5,000であり、さらにより好ましくは約3,000であり、なおより好ましくは約1,000であり、最も好ましくは約870である。分子量の下限は特になく、最も小さなカルボン酸はギ酸(分子量46)であるので、それ以上の分子量であればよい。
【0090】
本発明の方法で用いられるカルボン酸は、好ましくは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸(例えば、o−クマル酸、p−クマル酸またはm−クマル酸、より好ましくはo−クマル酸またはp−クマル酸)、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸(例えば、o−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸またはm−アミノ安息香酸、より好ましくはo−アミノ安息香酸またはp−アミノ安息香酸)、ジヒドロキシ安息香酸(例えば、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(β−レゾルシル酸ともいう)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸ともいう)、2,6−ジヒドロキシ安息香酸(γ−レゾルシル酸ともいう)、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸(α−レゾルシル酸ともいう)、より好ましくは2,4−ジヒドロキシ安息香酸または2,5−ジヒドロキシ安息香酸)、トリヒドロキシ安息香酸(例えば、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸(没食子酸ともいう)好ましくは、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸)、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸(例えば、3−メチルサリチル酸、4−メチルサリチル酸、5−メチルサリチル酸または6−メチルサリチル酸、好ましくは4−メチルサリチル酸)、ヒドロキシ安息香酸(例えば、2−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸ともいう)、3−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸、好ましくは2−ヒドロキシ安息香酸または4−ヒドロキシ安息香酸)、センノシド、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択される。
【0091】
カルボン酸は1つの好ましい実施形態では、水溶性カルボン酸である。水溶性とは、室温(約20℃)で水1リットルに好ましくは約10g以上、より好ましくは約50g以上、さらに好ましくは約100g以上溶けることをいう。水溶性であれば、一相で反応させることができる。
【0092】
別の実施形態では、カルボン酸は水に難溶性または不溶性である。水に難溶性または不溶性とは、室温(約20℃)で水1リットルに、例えば、約10g未満または約1.0g未満しか溶けないことをいう。水に難溶性または不溶性であって、かつ有機溶媒には可溶性のカルボン酸については、有機溶媒に溶かして有機相を形成することができるので、反応容器中にその有機溶媒溶液と、グルコースドナーおよびスクロースホスホリラーゼを含む水溶液とを入れて有機相/水相の2相状態を形成してその界面付近でカルボン酸配糖体を形成させることができる。
【0093】
本発明の方法で用いられるカルボン酸は、純粋な物質であっても、他の物質との混合物であってもよい。本発明の方法においては、試薬のように純度の高い物質だけでなく、抽出物、培養液などのような純度の低い混合物中に存在するカルボン酸に対しても配糖化が可能である。抽出物は、固体、液体またはペースト状であり得る。抽出物は、カルボン酸を含みさえすれば、任意の抽出物であり得る。抽出物の例としては、植物抽出物および動物抽出物が挙げられる。植物抽出物は、任意の植物の一部または全体を水、有機溶媒などにより抽出して得られる物質である。植物抽出物は、好ましくは、薬用植物の抽出液であり、より好ましくはサンザシ抽出液、ナツメ抽出液またはサンシュユ抽出液である。動物抽出物は、任意の動物の一部または全体を水、有機溶媒などにより抽出して得られる物質である。動物抽出物の例としては、ビーフエキスおよびポークエキスが挙げられる。培養液の例としては、微生物培養液が挙げられる。培養液は好ましくは、乳酸発酵液またはクエン酸発酵液である。
【0094】
カルボン酸は好ましくは、天然に地球上に存在する化合物から選択される。
【0095】
(3.グルコースドナー)
本明細書において、グルコースドナーとは、スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応においてカルボン酸にグルコースを供与し得る化合物をいう。グルコースドナーの例としては、スクロース、グルコース−1−リン酸およびグルコース−1−フルオリドが挙げられる。
【0096】
スクロースは、C122211で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
【0097】
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)の任意の金属塩であり、より好ましくは狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C13P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C13P)およびその塩を示す。
【0098】
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されていてもよい。
【0099】
グルコース−1−フルオリドは、市販のものを使用し得る。
【0100】
(4.スクロースホスホリラーゼ)
本明細書において「スクロースホスホリラーゼ」および「SP」は特に示さない限り互換可能に用いられ、スクロースホスホリラーゼ活性を有する酵素を意味する。スクロースホスホリラーゼは、EC.2.4.1.7に分類される。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
(1)G1P + Acp = Glc−Acp + Pi ;および
(2)スクロース + Acp = Glc−Acp + Fru
(G1P:グルコース−1−リン酸;Acp:水酸基を有するアクセプター)。
【0101】
スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Streptococcus属、Leuconostoc属、Oenococcus属、Bifidobacterium属、Agrobacterium属、Pseudomonas属、Escherichia属、Listeria属、Clostridium属、Acetobacter属、Pullularia属、Lactobacillus属、Synecococcus属、Aspergillus属、Sclerotinea属およびChlamydomonas属からなる群より選択される属に属する細菌が挙げられる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物は、より好ましくは、Streptococcus属、Leuconostoc属、Oenococcus属、Bifidobacterium属、Agrobacterium属、Pseudomonas属、Escherichia属、Listeria属、Clostridium属、Acetobacter属、Pullularia属およびLactobacillus属からなる群より選択される属に属する。
【0102】
Streptococcus属に属する細菌の例としては、例えば、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus thermophilusおよびStreptococcus mitisが挙げられる。
【0103】
Leuconostoc属に属する細菌の例としては、例えば、Leuconostoc mesenteroidesが挙げられる。
【0104】
Oenococcus属に属する細菌の例としては、例えば、Oenococcus oeniが挙げられる。
【0105】
Bifidobacterium属に属する細菌の例としては、例えば、Bifidobacterium longumおよびBifidobacterium adolescentisが挙げられる。
【0106】
Agrobacterium属に属する細菌の例としては、例えば、Agrobacterium vitisが挙げられる。
【0107】
Pseudomonas属に属する細菌の例としては、例えば、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonas putrefaciensが挙げられる。
【0108】
Escherichia属に属する細菌の例としては、例えば、Escherichia coliが挙げられる。
【0109】
Listeria属に属する細菌の例としては、例えば、Listeria innocuaおよびListeria monocytogenesが挙げられる。
【0110】
Clostridium属に属する細菌の例としては、例えば、Clostridium pasteurianumが挙げられる。
【0111】
Acetobacter属に属する細菌の例としては、例えば、Acetobacter xylinumが挙げられる。
【0112】
Pullularia属に属する細菌の例としては、例えば、Pullularia pullulansが挙げられる。
【0113】
Lactobacillus属に属する細菌の例としては、例えば、Lactobacillus acidophilusが挙げられる。
【0114】
Aspergillus属に属する細菌の例としては、例えば、Aspergillus nigerが挙げられる。
【0115】
Sclerotinea属に属する細菌の例としては、例えば、Sclerotinea escerotiorumが挙げられる。
【0116】
Chlamydomonas属に属する細菌の例としては、例えば、Chlamydomonas sp.が挙げられる。
【0117】
スクロースホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
【0118】
本発明の方法に用いられるスクロースホスホリラーゼは、細菌由来であることが好ましい。スクロースホスホリラーゼは、低温菌由来であっても、中温菌由来であっても、高温菌由来であってもよい。スクロースホスホリラーゼは、中温菌由来であることがより好ましい。反応系が高温であるほど反応速度が早くなると考えられるからである。
【0119】
本発明の方法に用いられるスクロースホスホリラーゼは、pH約7.4以下の条件下でグルコース転移反応を触媒する能力を有することが好ましく、より好ましくは、pH約1.0〜約7.4の条件下でグルコース転移反応を触媒する能力を有することが好ましい。スクロースホスホリラーゼがグルコース転移反応を触媒する能力を有するpHの上限は、好ましくは約7.4であり、より好ましくは約7であり、さらに好ましくは約6.5であり、さらにより好ましくは約6.0である。スクロースホスホリラーゼがグルコース転移反応を触媒する能力を有するpHの下限は、好ましくは約1.0であり、より好ましくは約2.0であり、さらにより好ましくは約3.0であり、さらにより好ましくは約3.5である。
【0120】
このような能力を有するスクロースホスホリラーゼとしては、上記に列挙した細菌由来のスクロースホスホリラーゼが挙げられる。本発明の方法に用いられるスクロースホスホリラーゼは、好ましくは、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus mitis、Leuconostoc mesenteroides、Oenococcus oeni、Bifidobacterium longum、Agrobacterium vitis、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonas putrefaciens、Escherichia coli、Listeria innocua、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullularia pullulans、Lactobacillus acidophilusおよびListeria monocytogenesからなる群より選択される細菌由来であり、より好ましくはStreptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus mitisであり、より好ましくはStreptococcus mutansまたはLeuconostoc mesenteroides由来であり、最も好ましくはStreptococcus mutans由来である。Streptococcus mutansは、特に、酸性条件下でグルコース転移反応を触媒する能力が高い。
【0121】
これらの天然のスクロースホスホリラーゼの塩基配列およびアミノ酸配列は公知である。これらの配列は例示であって、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明の方法においては、例示した配列を有するスクロースホスホリラーゼ以外にも、スクロースホスホリラーゼとしての活性を有する限り、このような、天然に存在する改変体も用い得る。
【0122】
スクロースホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。スクロースホスホリラーゼは、天然のスクロースホスホリラーゼであっても、天然のスクロースホスホリラーゼに対して何らかの変異を導入した変異スクロースホスホリラーゼ(例えば、耐熱性を向上させた耐熱化スクロースホスホリラーゼ)であってもよい。
【0123】
本発明で用いられるスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列は、天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列と比較してある一定の数までアミノ酸が変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のアミノ酸の欠失、保存および非保存置換を含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。アミノ酸残基の変化は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。このようなアミノ酸の変化は、好ましくは保存的変化であり、より好ましくは保存的置換である。また、天然のスクロースホスホリラーゼのN末端またはC末端へのアミノ酸の付加または欠失は、他の部分への置換、付加または欠失に比較して、スクロースホスホリラーゼの酵素活性に対する影響が少ないと考えられる。それゆえ、アミノ酸の置換、付加または欠失は、N末端またはC末端で行われることが好ましい。そのような1もしくは数個またはそれを超えるアミノ酸の置換、付加または欠失を含むスクロースホスホリラーゼは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,John Wiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0124】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte,J.およびDoolittle,R.F.,J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0125】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0126】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
【0127】
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
【0128】
本発明の方法は、Streptococcus mutans由来のSPを用いた場合に非常に高い配糖化率が達成されるが、Streptococcus mutans由来のSPのみに有効というわけではなく、Streptococcus mutans由来のSPのアミノ酸構造に対して高い相同性を示す他のSPを用いても好適に実施できる。
【0129】
本発明の方法においては、pH7.4以下でグルコース転移反応を触媒し得る限り、任意のスクロースホスホリラーゼが用いられる。好ましくは、スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans由来のSPのアミノ酸配列(Ferretti,J.Jら、Ingbritt.Infect.Immun.56:1585−88に記載される)に対して約20%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するスクロースホスホリラーゼである。同一性は好ましくは、約25%以上、より好ましくは約30%以上、さらにより好ましくは約35%以上、さらにより好ましくは約40%以上、さらにより好ましくは約50%以上、さらにより好ましくは約60%以上、さらにより好ましくは約70%以上、さらにより好ましくは約80%以上、最も好ましくは約90%以上である。
【0130】
本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマキシマムマッチングを用いて算出される。このプログラムは、解析対象となる配列データに対して、比較対照となる配列データを、置き換えおよび欠損を考慮しながら、配列間で一致するアミノ酸対が最大になるように並べ替え、その際、一致(Matches)、不一致(Mismatches)、ギャップ(Gaps)についてそれぞれ得点を与え合計を算出して最小となるアライメントを出力しその際の同一性を算出する(参考文献:Takashi,K.,およびGotoh,O.1984.Sequence Relationships among Various 4.5 S RNA
Spacies J.Biochem.92:1173−1177)。本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングをMatches=−1;Mismatches=1;Gaps=1;*N+=2の条件で用いて算出される。
【0131】
本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、当該分野で公知の方法により入手され得る。スクロースホスホリラーゼを元々発現する細菌から直接入手してもよく、スクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子を宿主に導入し、宿主においてスクロースホスホリラーゼを発現させることにより得てもよく、市販の酵素を購入してもよい。
【0132】
本発明の方法で用いられるスクロースホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、スクロースホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でスクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からスクロースホスホリラーゼを得てもよい。あるいは、得られた遺伝子を、特定のアミノ酸位置での改変を含むように改変した後、スクロースホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物から耐熱化スクロースホスホリラーゼを得てもよい。
【0133】
スクロースホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。スクロースホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるスクロースホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
【0134】
スクロースホスホリラーゼをコードする遺伝子は、天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む第一の核酸分子を得て、この第一の核酸を改変した改変塩基配列を含む第二の核酸分子であってもよい。
【0135】
改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。部位特異的変異誘発の手法は、当該分野では周知である。例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)を参照のこと。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
【0136】
スクロースホスホリラーゼの遺伝子は、既知のスクロースホスホリラーゼの配列を参考にしてプライマーを設計し、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を得ようとするゲノムライブラリーを鋳型としてPCRを行うことによって得ることができる。あるいは、既知の種のスクロースホスホリラーゼの塩基配列に対する相同性に基づいて、この塩基配列の少なくとも一部を含む核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションによってスクリーニングして、別種のスクロースホスホリラーゼの塩基配列を含む核酸分子を獲得することもできる。このような方法は当該分野で公知である。あるいは、既知のSP遺伝子配列情報をもとに、ゲノムライブラリー作製をへることなく、化学合成により直接SP遺伝子を作製することも可能である。遺伝子の合成方法は、例えばTe’oら(FEMS Microbiological Letters、190巻、13−19頁、2000年)などに記載されている。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。
【0137】
得られた天然のSP遺伝子または上記のようにして改変された塩基配列を含む核酸分子は、当業者に周知の方法で、適切なベクターに挿入できる。例えば、大腸菌用のベクターであれば、pMW118(日本ジーン株式会社製)、pUC18(タカラバイオ(株)製)、pKK233−2(Amersham−Pharmacia−Biotech製)などが使用でき、枯草菌用のベクターであれば、pUB110(American Type Culture Collectionから購入可能)、pHY300PLK(タカラバイオ(株)製)などが使用できる。特定の核酸配列を用いて発現ベクターを作製する方法は、当業者に周知である。
【0138】
本明細書において核酸分子について言及する場合、「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0139】
本明細書において酵素の「発現」とは、その酵素をコードする塩基配列が、インビボまたはインビトロで転写および翻訳されて、コードされる酵素が生産されることをいう。
【0140】
発現ベクターを導入する細胞(宿主ともいう)としては、原核生物および真核生物が挙げられる。発現ベクターを導入する細胞は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。例えば、スクロースホスホリラーゼを高分子量のアミロースの合成に用いる場合、スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない細胞を用いることが好ましい。このような細胞の例としては、細菌、真菌などの微生物が挙げられる。より好ましい細胞の例としては、中温菌(例えば、大腸菌、枯草菌)が挙げられる。本明細書において、「中温菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物のことであり、特に生育至適温度が20℃〜40℃である微生物をいう。細胞は、微生物細胞であってもよいが、植物、動物などの細胞であってもよい。
【0141】
本発明の方法において、発現ベクターを細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd
Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0142】
発現ベクターが導入されてスクロースホスホリラーゼを発現する能力を獲得した細胞(形質転換細胞ともいう)を培養することにより、スクロースホスホリラーゼを細胞に発現させることができる。形質転換細胞の培養条件は、使用する宿主細胞の種類、発現ベクター内の発現調節因子の種類などに応じて、適切に選択される。例えば、通常の振盪培養方法が用いられ得る。
【0143】
形質転換細胞の培養に用いる培地は、使用する細胞が増殖して目的のスクロースホスホリラーゼを発現し得るものであれば特に限定されない。培地には、炭素源、窒素源の他、無機塩、例えば、リン酸、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Co2+、Ni2+、Na、Kなどの塩が必要に応じて、適宜混合して、または単独で用いられ得る。また、必要に応じて形質転換細胞の増殖、目的のスクロースホスホリラーゼの発現に必要な各種無機物または有機物が添加され得る。
【0144】
形質転換細胞を培養する温度は、用いる形質転換細胞の増殖に適するように選択され得る。通常15℃〜60℃である。形質転換細胞の培養は、スクロースホスホリラーゼの発現のために十分な時間続行される。
【0145】
誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合、誘導物質の添加、培養温度の変更、培地成分の調整などにより発現が制御され得る。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。例えば、ラクトース誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより発現が誘導され得る。
【0146】
クローン化した遺伝子について、生産されるスクロースホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドをコードする塩基配列をこの遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。
【0147】
このようにして発現されたスクロースホスホリラーゼは、適切な時間の培養後、次いで回収され得る。例えば、発現されたスクロースホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合、形質転換細胞を適切な条件下で培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を回収し、次いで適切な緩衝液に懸濁する。次いで超音波処理などにより細胞を破砕した後、遠心分離もしくは濾過することによって上清を得る。あるいは、発現されたスクロースホスホリラーゼが形質転換細胞外に分泌される場合、このようにして形質転換細胞を培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を分離して上清を得る。スクロースホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合も、形質転換細胞外に分泌される場合も、このようにして得られたスクロースホスホリラーゼ含有上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、限外濾過)を用いて濃縮し、スクロースホスホリラーゼを含む画分を入手し得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を入手し得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性が向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られ得る。
【0148】
上述のようにしてスクロースホスホリラーゼを生産することが可能となる。また、発現させたスクロースホスホリラーゼは、耐熱性を有する場合、その耐熱性を利用して簡便に精製され得る。簡単に述べると、耐熱化スクロースホスホリラーゼを含む細胞抽出液を60℃程度で加熱処理することにより、夾雑酵素が不溶化する。この不溶化物を遠心分離などで除去して透析処理を行うことにより、精製された耐熱化スクロースホスホリラーゼが得られる。
【0149】
好ましい実施態様では、スクロースホスホリラーゼは、精製段階の任意の段階でスクロース(代表的には約4%〜約30%、好ましくは約8%〜約30%、より好ましくは約8%〜約25%)の存在下で加熱され得る。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約70℃であり、より好ましくは約55℃〜約65℃である。
【0150】
加熱が行われる場合、加熱時間は、反応温度を考慮して、スクロースホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には約10分間〜約90分間、より好ましくは約30分間〜約60分間である。
【0151】
(5.カルボン酸の配糖化方法)
本発明の方法は、カルボン酸の配糖化方法(すなわち、カルボン酸配糖体の製造方法)である。本発明の方法は、カルボン酸と、グルコースドナーとに水溶液中のスクロースホスホリラーゼを作用させて、カルボン酸配糖体を得る工程を包含し、作用開始時の該水溶液のpHは、このスクロースホスホリラーゼがハイドロキノンにグルコースを結合させる反応における至適pHよりも酸性側のpHであり、好ましくは1.0〜7.4であり、より好ましくは3.0〜7.0である。
【0152】
本明細書においてスクロースホスホリラーゼの至適pHおよび至適温度とは、非特許文献2に記載されたような、スクロースホスホリラーゼがハイドロキノンにグルコースを結合させる反応における至適pHおよび至適温度をいう。
【0153】
本明細書中では、「至適温度」とは、糖転移活性測定を温度のみ変化させて行い、最も糖転移活性が高い温度をいう。糖転移活性は、ドナーからアクセプターへの糖転移率を測定することにより決定され得る。好ましくは、至適温度は、以下のようにして決定される。50mgのスクロース、1mgのハイドロキノン、5単位のスクロースホスホリラーゼ(SP活性1単位は25℃、1分間当り1μモルのスクロースをグルコース−1−リン酸へ変換する酵素量)を含む0.1mlの混合液(100mM HEPESでpH 7.5に調整)を各種温度にて、15時間反応させる。反応後の溶液をHPLCにより分析し配糖化率(ハイドロキノンからα−アルブチンへの変換率)を測定する。ここで、配糖化率が最も高い温度が至適温度である。なお、糖転移活性とは、スクロースホスホリラーゼがドナー(例えば、スクロース)からアクセプター(例えば、フェノール化合物)に糖を転移させる活性であり、SP活性とは、スクロースホスホリラーゼがスクロースなどを加リン酸分解する活性である。
【0154】
本明細書中では、「至適pH」とは、スクロースホスホリラーゼの糖転移活性測定を特定の温度(例えば、至適温度付近)にてpHのみ変化させて行い、最も糖転移活性が高いpHをいう。好ましくは、至適pHは、至適温度付近での至適pHである。1つの実施形態では、至適pHは、以下のようにして決定される。50mgのスクロース、1mgのハイドロキノン、5単位のスクロースホスホリラーゼ(SP活性1単位は25℃、1分間当り1μモルのスクロースをグルコース−1−リン酸へ変換する酵素量)を含む0.1mlの混合液(100mM MESあるいは100mM HEPESで各種pHに調整)を42℃にて、15時間反応させる。反応後の溶液をHPLCにより分析し配糖化率(ハイドロキノンからα−アルブチンへの変換率)を測定する。ここで、配糖化率が最も高いpHが至適pHである。
【0155】
作用開始時のpHは、至適pHよりも低いpH(酸性側のpH)である。作用開始時のpHと至適pHとの差は、好ましくは約0.3以上であり、より好ましくは約0.5以上であり、さらに好ましくは約1.0以上である。作用開始時のpHと至適pHとの差は、好ましくは約6.0以下であり、より好ましくは約4.0以下であり、さらに好ましくは約3.0以下である。
【0156】
作用開始時のpHは、具体的には、例えば、約7.4以下であり、好ましくは約7.2以下であり、さらに好ましくは約7.0以下である。作用開始時のpHは、具体的には、例えば、約2.0以上であり、好ましくは約3.0以上であり、さらに好ましくは約3.5以上である。
【0157】
作用終了時のpHは、好ましくは至適pHよりも低いpHである。作用終了時のpHと至適pHとの差は、好ましくは約0.1以上であり、より好ましくは約0.3以上であり、さらに好ましくは約0.5以上である。作用終了時のpHと至適pHとの差は、好ましくは約5.0以下であり、より好ましくは約3.0以下であり、さらに好ましくは約2.5以下である。
【0158】
作用終了時のpHは、具体的には、例えば、約7.5以下であり、好ましくは約7.4以下であり、より好ましくは約7.2以下であり、さらに好ましくは約7.0以下である。作用終了時のpHは、具体的には、例えば、約3.0以上であり、より好ましくは約4.0以上であり、さらに好ましくは約5.0以上である。
【0159】
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のα−グルカンが得られることを容易に理解する。
【0160】
本発明の配糖化方法では、例えば、カルボン酸と、グルコースドナーと、スクロースホスホリラーゼと、これらを溶かしている溶媒とを主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加して添加してもよい。
【0161】
反応開始時の溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、ドナーとしてスクロースを用いる場合、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜10,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜5,000U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜1,000U/gスクロースである。ドナーとしてグルコース−1−リン酸またはグルコース−1−フルオリドを用いる場合、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜10,000U/gグルコースドナー、好ましくは約0.1〜5,000U/gグルコースドナー、より好ましくは約0.5〜1,000U/gグルコースドナーである。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、カルボン酸配糖体の収率が低下する場合がある。
【0162】
本発明の配糖化方法に用いられるスクロースホスホリラーゼは、精製酵素または粗酵素を問わず、固定化されたものでも反応に使用し得、反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法、(例えば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)が使用され得る。
【0163】
本発明の配糖化方法に用いる溶媒は、スクロースホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
【0164】
なお、カルボン酸を配糖化する反応が進行し得る限り、本発明の配糖化方法に用いる材料を溶媒が完全に溶解する必要はない。例えば、カルボン酸の水溶性が低い場合、カルボン酸の全てが水に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、スクロースなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
【0165】
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記スクロースホスホリラーゼを調製する際にスクロースホスホリラーゼに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。溶媒は1種の溶媒を用いてもよく、あるいは2種以上の混和性溶媒を用いてもよく、あるいは、2種以上の非混和性溶媒を用いてもよい。例えば、カルボン酸の水溶性が高い場合、溶媒は、水であることが好ましい。カルボン酸の水溶性が低い場合、主要量のカルボン酸を溶解する有機溶媒と、少量のカルボン酸を溶解する水との2相系で反応を進行させ得る。
【0166】
カルボン酸と、グルコースドナーと、スクロースホスホリラーゼとを含む反応溶液中には、スクロースホスホリラーゼとカルボン酸およびグルコースドナーとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、酸性物質、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
【0167】
これらの材料の使用量は、公知であり、当業者によって適切に設定され得る。
【0168】
本発明の配糖化方法においては、代表的には、まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、カルボン酸と、グルコースドナーと、スクロースホスホリラーゼとを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、カルボン酸を含む溶液と、グルコースドナーを含む溶液と、スクロースホスホリラーゼを含む溶液とを混合することによって調製され得る。あるいは、反応溶液は、カルボン酸と、グルコースドナーと、スクロースホスホリラーゼとのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。
【0169】
用いるカルボン酸の種類によっては、溶媒にカルボン酸を溶解するだけで上述した適切な範囲内のpHが達成され得る。溶媒にカルボン酸を溶解してもこの範囲内のpHが達成されない場合、この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意のpH調整剤または緩衝剤を加えてもよい。pH調整剤の例としては、酸性物質(例えば、塩酸、硝酸、硫酸など)が挙げられるがこれらに限定されない。緩衝剤は、スクロースホスホリラーゼの基質として作用しない物質であることが好ましい。カルボン酸が配糖化すると酸が減少してpHが上昇し、配糖化効率が下がる場合があるので、このような場合は、反応開始後の任意の時点でまたは連続的にpH調整剤を添加して、pHがアルカリ側に変化することを抑制することが好ましい。
【0170】
1つの実施形態においては、反応開始後にカルボン酸を追加することにより、その水溶液中のpHを調整することもできる。
【0171】
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のスクロース濃度が約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約0℃〜約70℃の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約20℃〜約60℃であり、より好ましくは約25℃〜約50℃、さらにより好ましくは約30℃〜約50℃であり、最も好ましくは約40℃である。もちろん、用いるスクロースホスホリラーゼによって反応至適温度が異なるので、スクロースホスホリラーゼの作用を発揮し得る温度であれば、任意の温度であり得る。
【0172】
反応時間は、反応温度、反応により生産されるカルボン酸配糖体の量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約30分間以上であり、より好ましくは約1時間以上であり、さらに好ましくは約2時間以上であり、最も好ましくは約3時間以上である。反応時間に特に上限はないが、例えば、約100時間以下、約72時間以下、約48時間以下、約36時間以下、約24時間以下などであり得る。下記に説明するようなカルボン酸残基の転位を防ぎたい場合には、反応時間を長くしすぎないことが好ましい。カルボン酸残基の転位を防ぎたい場合、反応時間は、約36時間以下であることが好ましく、約24時間以下であることがさらに好ましく、約12時間以下であることが最も好ましい。カルボン酸残基の転位が望ましい場合には、反応時間が長いことが好ましい。
【0173】
本発明の方法で用いられるカルボン酸がモノカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシドである。本発明の方法で用いられるカルボン酸がジカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシド、2つのグルコースによって配糖化されたジグルコシドまたはそれらの混合物である。本発明の方法で用いられるカルボン酸がトリカルボン酸である場合、本発明の方法によって得られるカルボン酸配糖体は、1つのグルコースによって配糖化されたモノグルコシド、2つのグルコースによって配糖化されたジグルコシド、3つのグルコースによって配糖化されたトリグルコシドまたはそれらの混合物である。4つ以上のカルボキシル基を有するカルボン酸を用いた場合についても同様である。
【0174】
カルボン酸がアルコール性OH基、フェノール性OH基またはその両方を有する場合、本発明の方法においてスクロースホスホリラーゼを作用させると、まず、カルボキシル基、アルコール性OH基またはフェノール性OH基のいずれか1つにグルコース残基が結合し、次に、別の基にグルコース残基が結合し、続いてさらに別の基にグルコース残基が結合する。このような場合、反応後の溶液中には、カルボキシル基、アルコール性OH基およびフェノール性OH基から選択される1以上の基が配糖化された配糖体が形成され得る。1つの化合物中にカルボキシル基およびアルコール性OH基が存在すると、この溶液中には、カルボキシル基のみが配糖化された配糖体、アルコール性OH基のみが配糖化された配糖体およびカルボキシル基とアルコール性OH基とが配糖化された配糖体が混在し得る。1つの化合物中にカルボキシル基およびフェノール性OH基が存在すると、この溶液中には、カルボキシル基のみが配糖化された配糖体、フェノール性OH基のみが配糖化された配糖体、およびカルボキシル基とフェノール性OH基とが配糖化された配糖体が混在し得る。1つの化合物中にカルボキシル基、アルコール性OH基およびフェノール性OH基が存在すると、この溶液中には、カルボキシル基のみが配糖化された配糖体、アルコール性OH基のみが配糖化された配糖体、フェノール性OH基のみが配糖化された配糖体、カルボキシル基とアルコール性OH基とが配糖化された配糖体、カルボキシル基とフェノール性OH基とが配糖化された配糖体、アルコール性OH基とフェノール性OH基とが配糖化された配糖体、およびカルボキシル基とアルコール性OH基とフェノール性OH基とが配糖化された配糖体が混在し得る。反応後の溶液中にアルコール性OH基のみが配糖化された配糖体、フェノール性OH基のみが配糖化された配糖体またはアルコール性OH基とフェノール性OH基とが配糖化された配糖体が混入しても、このような溶液もまた有用である。
【0175】
1つの分子中に複数のカルボキシル基を有する化合物を用いた場合に、配糖化されるカルボキシル基の数は、主に、反応時間および酵素量を調節することにより制御され得る。
【0176】
このようにして、カルボン酸配糖体を含有する溶液が生産される。
【0177】
このようにして生成されるカルボン酸配糖体は、グルコースの1位の水酸基にカルボキシル基がエステル結合した物質である。反応終了後、短時間(例えば、1〜6時間)のうちに溶媒の水の除去および精製を行うことにより、グルコースの1位の水酸基がカルボン酸に結合した化合物が得られる。
【0178】
pH、温度条件によっては上記反応中に、または上記反応終了後の水溶液を長期(例えば、約1日〜3日)にわたって放置すると、グルコースの2位の水酸基にカルボン酸残基がエステル結合した化合物が得られる。水溶液(特に中性からアルカリ領域の水溶液)中で放置すると、カルボン酸残基が、グルコースの1位から2位に転位するからである。この溶液をさらに放置(例えば、約1〜3日)することにより、カルボン酸残基がグルコースの3位に転位したカルボン酸配糖体が得られる。グルコースの3位に転位した生成物を含む溶液をさらに放置(例えば、約1〜3日)することにより、カルボン酸残基がグルコースの4位に転位した化合物が得られる。カルボン酸残基の転位を防ぎたい場合は、反応終了後速やかに生成物を精製し、水分の少ない状態(例えば、乾燥状態)で保存すること、溶液中で低温に保つこと、または溶液中で低pHに保つことが好ましい。
【0179】
また、使用するカルボン酸の種類および反応条件によっては、カルボン酸残基がグルコースの1位に結合したもの、2位に結合したもの、3位に結合したもの、および4位に結合したもののうちの2種類以上が混合物として得られることがあり得る。このような場合には、公知の分離方法(HPLCなど)により容易にそれらを分離すれば目的の化合物を単離することができる。得られたカルボン酸配糖体は、純粋な1種類のカルボン酸配糖体になるまで単離して用いてもよく、複数種のカルボン酸配糖体の混合物であるが他の夾雑物をほとんど含まない混合物になるまで単離して用いてもよく、または反応後の溶液のままほとんどもしくは全く精製を行わずに使用してもよい。
【0180】
(6.カルボキシル基にグルコースが転移していることの確認方法)
カルボン酸が配糖化されたことは、当該分野で公知の方法により確認され得る。反応後の溶液中に、カルボン酸およびグルコースと異なる生成物が生成していることは、例えば、基質のカルボン酸、グルコースおよび反応後の溶液をHPLCまたは薄層クロマトグラフィーによって分析し、基質のカルボン酸のピークおよびグルコースのピークとは異なるピークが出現したことを確認することにより、簡便に確認され得る。
【0181】
反応生成物の構造をより詳細に確認するためには、反応生成物を精製した後、NMRおよびMSを行うことにより、構造が確認され得る。
【0182】
カルボン酸のカルボキシル基とグルコースの1位、2位、3位または4位のOH基とがエステル結合していることは、公知の分析方法により確認され得る。例えば、HPLC、薄層クロマトグラフィー、NMRまたはMSによる分析は、当業者に周知の方法に従って行われ得る。例えば、実施例3に記載のように、得られた配糖体または得られた配糖体のアセチル化物をNMRで分析することにより、カルボキシル基とグルコースのOH基との結合位置がグルコースの1位であることが確認され得る。カルボキシル基とグルコースのOH基との結合位置がグルコースの2位または3位、4位であることも同様の方法によって確認され得る。また、カルボキシル基とグルコースのOH基とがα結合しているかまたはβ結合しているかは、例えば、H−NMRにおけるアノメリックプロトンの結合定数の違いによって確認され得る。
【0183】
(7.カルボン酸配糖体を含む食品および食品添加物)
本発明の食品および食品添加物は、本発明のカルボン酸配糖体を含む。この配糖体は、体内に入ると消化酵素(例えば、グルコシダーゼなど)などの働きにより糖の部分が脱離した化合物(すなわち、基質として用いたカルボン酸)に戻り、体内で所定の作用を奏する。食品は、任意の食品であり得る。食品添加物は任意の食品添加物であり得る。食品および食品添加物は、固体であっても、半固体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。食品は、好ましくは、健康食品であり、より好ましくは健康飲料であるが、これらに限定されず、冷菓(例えば、アイスクリーム、アイスミルク、氷菓など)、嗜好性飲料(例えば、清涼飲料、炭酸飲料(サイダー、ラムネ等)、薬味飲料、アルコール性飲料、粉末ジュースなど)、乳製品(牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム、バター、マーガリン、チーズ、ホイップクリーム等)、菓子類(例えば、洋菓子、和菓子、スナック菓子等、例えば、あんこ、羊羹、饅頭、チョコレート、ガム、ゼリー、寒天、杏仁豆腐、ケーキ、カステラ、クッキー、煎餅、スナック菓子等)、パン、餅、水産煉製品(蒲鉾、ちくわ等)、畜肉加工品(ソーセージ、ハム等)、果実加工品(ジャム、マーマレード、果実ソース等)、調味料(ドレッシング、マヨネーズ、味噌等)、麺類(うどん、そば等)、漬物、および蓄肉、魚肉、果実の瓶詰、缶詰類などであり得る。食品添加物とは、食品の製造の過程においてまたは食品の加工もしくは保存の目的で、食品に添加、混和、浸潤その他の方法によって使用する物をいう。食品添加物は好ましくは、保存料、酸化防止剤、着色料、調味料、強化剤、製造用剤、増粘安定剤、苦味料、酸味料、光沢剤などとして添加される食品添加剤である。
【0184】
本発明のカルボン酸配糖体を食品または食品添加物に添加するには特別な工程を必要とせず、食品または食品添加物の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を食品または食品添加物の種類および性状に応じて選択する。本発明の食品および食品添加物は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0185】
(8.カルボン酸配糖体を含む医薬品および医薬部外品)
本発明の医薬品および医薬部外品は、本発明のカルボン酸配糖体を含む。医薬品および医薬部外品は、薬理作用が公知であってカルボキシル基を有する化合物を原料として、本発明の方法により合成され得る。この配糖体は、体内に入ると消化酵素(例えば、グルコシダーゼなど)などの働きにより糖の部分が脱離した化合物に戻り、体内で所定の薬理作用を奏する。医薬品は、固体であっても、半固体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。
【0186】
本発明のカルボン酸配糖体を医薬品または医薬部外品に添加するには特別な工程を必要とせず、医薬品または医薬部外品の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を医薬品の種類および性状に応じて選択する。本発明の医薬品および医薬部外品は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0187】
(9.カルボン酸配糖体を含む化粧品)
本発明の化粧品は、本発明のカルボン酸配糖体を含む。化粧品に含まれるカルボン酸配糖体は、化粧品の成分として有効な作用を有することが公知であってカルボキシル基を有する化合物を原料として、本発明の方法により合成され得る。この配糖体は、配糖体の形態で作用するか、または皮膚表面から吸収された後もしくは皮膚表面で糖の部分が脱離した化合物に戻った形態で作用するかのいずれかにより、身体に対して所定の作用を奏する。化粧品の例としては、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック、口紅、リップクリーム、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム、ファンデーション、アイカラー、チークカラーが挙げられる。化粧品は、固体であっても、半固体であっても、液体であってもよいが、好ましくは液体である。
【0188】
本発明のカルボン酸配糖体を化粧品に添加するには特別な工程を必要とせず、化粧品の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を化粧品の種類および性状に応じて選択する。本発明の化粧品は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0189】
(10.カルボン酸配糖体の他の用途)
本発明のカルボン酸配糖体は、他の種々の用途に用いられ得る。このような用途の例としては、化粧品以外の皮膚外用剤が挙げられる。このような皮膚外用剤の例としては、例えば、養毛剤、育毛剤、シャンプー、リンス、ヘアーリキッド、ヘアートニック、パーマネントウェーブ剤、ヘアカラー、トリートメント、浴用剤、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローションなどが挙げられる。本発明のカルボン酸配糖体を含む皮膚外用剤は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0190】
本発明のカルボン酸配糖体を皮膚外用剤に添加するには特別な工程を必要とせず、皮膚外用剤の製造工程の初期において原料と共に添加するか、製造工程中に添加するか、あるいは製造工程の終期に添加する。添加方式は混和、混練、溶解、浸漬、散布、噴霧、塗布等通常の方法を皮膚外用剤の種類および性状に応じて選択する。本発明の皮膚外用剤は、当業者に公知の方法に従って調製され得る。
【0191】
本明細書中で記述した反応の種々の生成物は、当業者に周知であるように、通常の技術(例えば、濾過、再結晶、溶媒抽出、蒸留、沈殿、昇華、カラムクロマトグラフィーなど)により、単離され、精製され得る。それらの生成物は、当業者に周知の従来の方法(例えば、薄層クロマトグラフィー(TLC)、NMR(核磁気共鳴スペクトル)、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、融点、質量分析(MS)、元素分析など)により、純度について分析および/または検査され得る。特に、陰イオン交換樹脂を用いることにより、煩雑なステップを踏まずに1ステップでカルボン酸配糖体とカルボン酸とを容易に分離できる。
【0192】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0193】
(実施例1:酢酸配糖体の合成)
スクロース200mgと酢酸10μlを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ50単位(1単位は25℃、1分間当り1μモルのスクロースをグルコース−1−リン酸へ変換する酵素量)を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。
【0194】
反応後の混合液(レーン4)を以下の条件で薄層クロマトグラフィー(TLC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。TLCにおいては、対照として、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液(レーン5)、酢酸を含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液(レーン6)、ならびに2%(重量/容積%)スクロース水溶液(レーン1)、2%(重量/容積%)グルコース水溶液(レーン2)、2%(重量/容積%)フルクトース水溶液(レーン3)を用いた。HPLCにおいては、対象として、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液を用いた。
【0195】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60
移動相:アセトニトリル/水=85/15
検出:硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0196】
図1にTLCの結果を示す。この結果、反応後の混合液中に、対照のものと比較して移動の早い生成物(酢酸反応液において中央付近に見えるスポット)が存在することが確認された(レーン4)。このことから、反応後の混合液中に、スクロース、グルコース、およびフラクトースとは異なる糖が生成されたことが確認された。
【0197】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=80/20/0.3
検出波長:215nm。
【0198】
図2にHPLCの結果を示す。この結果、酢酸(対照;図2(a))と反応後の混合液(図2(b))との比較から、酢酸が減少し、反応後の混合液中に酢酸よりも早く流出する生成物が出現したことが確認された。このことから、反応後の混合液中に、酢酸よりも極性が高い生成物が生成されたことが確認された。すなわち、酢酸に糖が転移して酢酸配糖体が形成された。
【0199】
(実施例1−2:酢酸配糖体の合成および構造確認)
1M 酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.0)12ml、40%スクロース溶液15ml、水3mlを混合した溶液にSP活性1500単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液0.6mlを加え、この混合液を37℃で10時間反応させた。
【0200】
反応終了後、5N HClでpH3.0に調整し、反応終了液とした。
【0201】
反応終了液を実施例1と同じ方法でTLCおよびHPLCによって分析した。その結果、酢酸配糖体が生成したことが確認された。
【0202】
得られた酢酸配糖体の構造をより詳細に確認するために、反応終了液に9倍量のアセトンを添加してスクロース、フラクトースなどの糖の一部を沈殿させた。沈殿を除去後、上清に1gのワコーゲルC200を加えて減圧乾燥し、酢酸配糖体をワコーゲルC200に吸着させた。酢酸配糖体が吸着されたワコーゲルC200を、アセトニトリルで平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、アセトニトリルにより溶出した。
【0203】
このカラムクロマトグラフィーにより得られた配糖体を含む画分を減圧乾燥することにより、酢酸配糖体(精製標品)を約28mg得ることができた。この精製標品の構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)およびMSにより確認した。NMRは、DMSO−d6中でのH−NMRおよび13C−NMRであった。
【0204】
MSの結果より、得られた配糖体の分子量は222であり、1分子の酢酸が1分子のグルコースと結合していることが示唆された。
【0205】
次に、13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナルが60.5ppmから92.0ppmの間に確認された。また、酢酸のメチル基由来のシグナルが20ppm付近に、酢酸のカルボニル基由来のシグナルが170ppm付近に確認されたが、酢酸のカルボキシル基由来のシグナルは確認されなかった。これらの結果より、得られた精製標品は、酢酸のカルボキシル基にグルコースが結合した物質であることが確認できた。H−NMRにおけるグルコースのアノメリックプロトンのシグナル(5.92ppm、J=3.6Hz)の結合定数がα結合であることを示していることから、酢酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合していることが確認された。
【0206】
上記分析の結果より、得られた配糖体は酢酸がグルコースの1位の水酸基にα結合した配糖体、すなわち、1−O−acetyl−α−D−Glucoseであることがわかった。
【0207】
(実施例2:安息香酸配糖体の調製および構造確認1)
安息香酸0.4gおよびスクロース20gを90mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHでpH4.2に調整した。この溶液にSP活性100単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液10mlを添加した後、上記溶液を37℃において6時間反応させた。
【0208】
TLCについては実施例1と同じ条件で、HPLCについては検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で反応液の分析を行った結果、安息香酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0209】
安息香酸配糖体の構造をより詳細に確認するために、反応液を、蒸留水で平衡化したアンバーライトXAD−7カラムに吸着させた。次いで蒸留水でカラムに吸着している未反応の糖を溶出した後、100%メタノールにより配糖体および未反応の安息香酸を溶出した。100%メタノール画分に1gのワコーゲルC200を加え減圧乾燥した後、100%アセトニトリルで平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、100%アセトニトリルにより溶出した。主成分として配糖体を含む画分を再度1gのワコーゲルC200を加え減圧乾燥した後、100%アセトニトリルで平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、100%アセトニトリルにより溶出した。このカラムクロマトグラフィーにより得られた配糖体を含む画分を減圧乾燥することにより安息香酸配糖体(精製標品)を約10mg得ることができた。この精製標品の構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)およびMSにより確認した。
【0210】
得られた安息香酸配糖体のDMSO−d6中でのH−NMR分析の結果を図3に、13C−NMRの結果を図4に示す。13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(92.90、75.60、73.07、70.68、69.46、60.57(ppm))及び安息香酸由来のシグナル(164.46、133.51、129.52、129.27、128.67(ppm))が検出された。164.46ppmのシグナルがエステル結合のカルボニル炭素のシグナルであることおよび、H−NMRにおけるグルコースのアノメリックプロトンのシグナル(6.19ppm、J=3.6Hz)の結合定数がα結合であることを示していることから、安息香酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合していることが確認された。
【0211】
MSおよびNMRの結果より得られた配糖体は分子量が284であり、安息香酸が1分子のグルコースの1位の水酸基にα結合した配糖体であることがわかった。
【0212】
(実施例2−2:安息香酸配糖体のベンゾイル基転位物の調製および構造確認1)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース6gを19mlの蒸留水に溶解し、5N HClでpH4.6に調整した。この溶液にSP活性3000単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液1mlを添加した後、上記溶液を37℃において48時間反応させた。なお反応の進行に伴いpHの上昇が起きることから、5N HClを用いて反応液のpHが4.8を超えないように調整を行った。
【0213】
反応終了後の溶液を実施例2と同じ条件でHPLCにより分析した結果、3種類の安息香酸配糖体が生成されたことが確認された。このうちの1種類は、実施例2に記載の安息香酸配糖体(安息香酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合した配糖体)であった。他の2種類の安息香酸配糖体は、ベンゾイル基がグルコースの1位以外の水酸基に転位した安息香酸配糖体であると考えられた。
【0214】
これらの2種類の安息香酸配糖体の構造をより詳細に確認するために、反応液を、蒸留水で平衡化したワコーゲル100C18カラムに吸着させた。次いで蒸留水でカラムに残留している未反応の糖を完全に洗浄した後、100%メタノールにより、配糖体および未反応の安息香酸を溶出した。100%メタノール画分に1gのワコーゲルC200を加え減圧乾燥した後、酢酸エチル/メタノール=100/5の混合溶媒で平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、同混合溶媒により溶出した。これらの2種類の安息香酸配糖体を主成分として含む画分を酢酸エチル/メタノール=100/5の混合溶媒で平衡化したMightysil Si 60カラムに供し、同じ溶媒により溶出した。このカラムクロマトグラフィーにより、これらの2種類の安息香酸配糖体のうちの1種類を含む画分が得られた。この画分を減圧乾燥することにより、ベンゾイル基がグルコースの1位以外の水酸基に転位した安息香酸配糖体と考えられる1種類の安息香酸配糖体(精製標品)を約10mg得ることができた。この精製標品の構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)およびMSにより確認した。NMRは、DMSO−d6中でのH−NMRおよび13C−NMRであった。
【0215】
13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(90.0、75.9、72.9、71.3、71.0、61.7(ppm))および安息香酸由来のシグナル(166.6、134.2、130.7、130.2、129.5(ppm))が検出された。グルコースの1位の水酸基のシグナル(d、6.44ppm)がH−H COSYスペクトルにおいてグルコースのアノメリックプロトンであると同定されるシグナル(dd、5.21ppm)と相関関係があること、およびグルコースの1位と2位のプロトンの結合定数がJ=3.6(Hz)であることから、グルコースの1位の水酸基はフリーなα-型の水酸基であることが示された。また、H−H COSYスペクトルにおいてグルコースの2位のプロトンと同定されるシグナル(dd、4.58ppm)がカルボニル炭素のシグナル164.46ppmとHMBCスペクトルにおける相関関係にあることから安息香酸はグルコースの2位にエステル結合していることが確認された。
【0216】
MSの結果より、分析した配糖体は分子量が284であり、1分子の安息香酸が1分子のグルコースと結合していることが確認された。
【0217】
上記分析の結果より、分析した配糖体は、安息香酸がグルコースの2位の水酸基に結合した配糖体、2−O−Benzoyl α−D−Glucoseであることがわかった。
【0218】
(実施例2−4:安息香酸配糖体の作製)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース6gを19mlの蒸留水に溶解し、5N HClでpH4.0に調整した。この溶液にSP活性3000単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液1mlを添加した後、上記溶液を37℃において24時間反応させた。なお反応が進行することによってpHの上昇が起き、それに伴い配糖化効率が減少することから、5N HClを用いて反応液のpHが4.5を超えないように調整を行った。その結果、配糖化率約70%の高効率で安息香酸配糖体を作製することができた。それゆえ、反応液のpHを低く維持することにより、高い配糖化率を得ることができることが確認された。
【0219】
(実施例3:安息香酸配糖体の合成および構造確認2)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース4gを20mlの蒸留水に溶解し、1N
HClでpH4.8に調整した。この溶液にSP活性2700単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液0.8mlを添加した。上記溶液を40℃において1時間反応させた。反応液の分析はTLCについては実施例1と同じ条件で、HPLCについては検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で分析を行った結果、安息香酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0220】
この安息香酸配糖体の構造をより詳細に確認するために、反応液を蒸留水で平衡化したダイヤイオンPA−412カラムに通し、未反応の安息香酸を除いた。次いでその流出液を蒸留水で平衡化したワコーゲルC18カラムに吸着させた。さらに蒸留水でカラムを洗浄し、未反応の糖を除いた後、100%メタノールで配糖体を溶出した。得られた配糖体を含む画分を減圧乾燥することにより安息香酸配糖体20mgを得ることができた。その後、精製した安息香酸配糖体約15mgを常法に従い、無水酢酸−ピリジンによるアセチル化を行った。このアセチル化した安息香酸配糖体をシリカゲルカラムで精製した後、構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)により確認した。
【0221】
得られたアセチル化安息香酸配糖体のCDCl中でのH−NMR分析の結果を図5に、13C−NMRの結果を図6に示す。13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(89.63、69.37、70.00、67.93、70.00、61.42(ppm))および安息香酸由来のシグナル(164.21、128.66、129.88、128.66、133.84(ppm))が検出された。164.21ppmのシグナルがエステル結合のカルボニル炭素のシグナルであること、および、H−NMRにおけるグルコースのアノメリックプロトンのシグナル(6.59ppm、J=3.6Hz)の結合定数がα結合であることを示していることから、安息香酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合していることが確認された。
【0222】
以上の結果より、安息香酸配糖体は、安息香酸のカルボキシル基と1分子のグルコースの1位の水酸基とがα結合した配糖体であることがわかった。
【0223】
(実施例3−2:安息香酸配糖体のベンゾイル基転位物のアセチル化物の調製および構造確認2)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース6gを20mlの蒸留水に溶解し、5N HClでpH4.6に調整した。この溶液にSP活性2700単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液0.8mlを添加した後、上記溶液を37℃において25時間反応させた。なお反応の進行に伴いpHの上昇が起きることから、5N HClを用いて反応液のpHが5.0を超えないように調整を行った。
【0224】
反応終了後の溶液を実施例2と同じ条件でHPLCにより分析した。その結果、3種類の安息香酸配糖体が生成されたことが確認された。このうちの1種類は、実施例2に記載の安息香酸配糖体(安息香酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合した配糖体)であった。他の2種類の安息香酸配糖体は、ベンゾイル基がグルコースの1位以外の水酸基に転位した安息香酸配糖体であると考えられた。
【0225】
次に、反応終了後の溶液のpHを1N HClで2.5に調整し、反応液20mLに対して40mLのジエチルエーテルを用いて未反応の安息香酸を抽出除去した。抽出後の水層を1N HClを用いてpH2.5に調整したのちワコーゲル100C18カラムに供した。蒸留水で未反応の糖を完全に洗浄した後、メタノールで溶出した。メタノール溶出液を速やかにロータリーエバポレーターで溶媒除去した後、凍結乾燥して白色の粉末を得、実施例3と同様の方法でアセチル化した。HPLCでアセチル化後の溶液のサンプルを分析した結果、3種類のピークが認められた。
【0226】
〔HPLCによる分析条件〕
カラム:Mightysil Si 60、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.8ml/分
移動相:ヘキサン/酢酸エチル=7/3
検出波長:280nm。
【0227】
3種類のピークの物質のうちの1種は実施例3に示した1−O−Benzoyl α−D−Glucose(1α-BG)のアセチル化物(Ac−1α−BG)であった。Ac−1α−BGを除く安息香酸配糖体アセチル化物2種を、溶出時間の早い物質から物質1、物質2とし、これらのそれぞれに対して精製操作を行った。アセチル化物をヘキサン/酢酸エチル(1:1)混合溶液に溶解し、ヘキサン/酢酸エチル(6:4)の混合溶媒で平衡化したMightysil Si 60カラム(長さ250mm×内径20mm)に供し、同じ溶媒によって溶出した。このカラムクロマトグラフィーにより、物質1、物質2をそれぞれ単離することができた。これらの構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)により確認した。
【0228】
物質1は、13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(91.9、73.0、72.6、70.6、67.8、61.5(ppm))および安息香酸由来のシグナル(164.9、133.7、129.9、128.7、128.6(ppm))が検出された。H−H COSYにおいてグルコースのアノメリックプロトンと予測されるシグナル(d、5.9ppm)の結合定数がJ=7.2(Hz)であることから1位のアノマー型がβ-型であることが確認できた。H−H COSYスペクトルにおいてグルコースの2位のプロトンと同定されるシグナル(t、5.4ppm)が安息香酸中のカルボニル炭素のシグナル(164.9ppm)とHMBCスペクトルにおける相関関係にあることから、安息香酸はグルコースの2位にエステル結合していることが確認された。これより、物質1は1α-BGのベンゾイル基がグルコースの2位へ転位した、2−O−Benzoyl β−D−Glucose がアセチル化されたものであることが確認された。すなわち上記反応液中に生成した安息香酸配糖体のうちの1種は2−O−Benzoyl β−D−Glucoseであることが確認された。
【0229】
物質2は13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(89.1、70.0、69.8、69.8、67.9、61.4(ppm))および安息香酸由来のシグナル(165.2、133.7、129.8、128.7、128.6(ppm))が検出された。H−H COSYにおいてグルコースのアノメリックプロトンと予測されるシグナル(6.5ppm)の結合定数がJ=3.6(Hz)であることから1位のアノマー型がα-型であることが確認できた。H−H COSYスペクトルにおいてグルコースの2位のプロトンと同定されるシグナル(dd、5.3ppm)が安息香酸中のカルボニル炭素のシグナル(165.2ppm)とHMBCスペクトルにおける相関関係にあることから、グルコースの2位にベンゾイル基がエステル結合していることがわかり、物質2は2−O−Benzoyl α−D−Glucoseがアセチル化されたものであると確認された。すなわち、上記反応液中に生成した安息香酸配糖体のうちのもう1種は2−O−Benzoyl α−D−Glucoseであることが確認された。
【0230】
(実施例4:グルコース−1−リン酸を使用した、安息香酸配糖体の合成)
グルコース−1−リン酸2ナトリウム 200mgと安息香酸 1mgを1mlの水に溶解し、5N−HClでpH4.5に調整した。この溶液に特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ100単位を加え、この混合液を40℃にて、30分間反応させた。反応後の混合液を以下の条件でHPLCにより分析した。
【0231】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸水溶液 = 80/20/0.3
検出波長:280nm。
【0232】
その結果、安息香酸配糖体の生成が確認された。
【0233】
(実施例5〜6:ギ酸配糖体および乳酸配糖体の調製)
実施例5〜6として、酢酸の代わりに同じ容量のギ酸(実施例5)または乳酸(実施例6)を用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行い、TLCについては実施例1と同じ条件で、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0234】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:215nm。
【0235】
その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0236】
(実施例7:マレイン酸配糖体の調製)
酢酸の代わりにマレイン酸を10mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行い、TLCについては実施例1と同じ条件で、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0237】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:215nm。
【0238】
その結果、マレイン酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0239】
(実施例8:フェルラ酸配糖体の調製)
スクロース200mgとフェルラ酸5mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus
mutansスクロースホスホリラーゼ200単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。反応液の分析はTLCについては実施例1と同じ条件で、HPLCについては検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で分析を行った。その結果、フェルラ酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0240】
(実施例8−2:フェルラ酸配糖体の合成および構造確認)
フェルラ酸0.25mgおよびスクロース10gを50mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHで一旦pHを7.0に調整し、フェルラ酸を完全に溶解した後、5N HClでpH4.6に調整した。この溶液にSP活性4000単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液2.0mlを添加した。上記溶液を40℃において8時間反応させた。なお反応の進行に伴いpHの上昇が起きることから、5N HClを用いて反応液のpHが4.8を超えないように調整を行った。
【0241】
反応液の分析反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0242】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm
流速:0.8ml/分
移動相:水/MeOH/85%リン酸溶液(和光純薬)=15/85/0.3
検出波長:280nm。
【0243】
このHPLC分析の結果、フェルラ酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0244】
フェルラ酸配糖体の構造をより詳細に確認するために、反応液を5N HClでpH2.8に調整後、酢酸エチル抽出をおこなった。得られた酢酸エチル相に1gのワコーゲルC200を加え減圧乾燥した後、酢酸エチル/メタノール=100/5の混合溶媒で平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、同混合溶媒により溶出した。得られた配糖体を含む画分を無水硫酸Naで脱水後、減圧乾燥することにより、フェルラ酸配糖体(精製標品)14mgを得ることができた。この精製標品の構造をNMR(JNM−A500、JEOL社製)およびMSにより確認した。NMRは、DMSO−d6中でのH−NMRおよび13C−NMRであった。
【0245】
13C−NMRにおいてグルコース由来のシグナル(92.0、75.2、73.0、70.7、69.5、60.6(ppm))およびフェルラ酸由来のシグナル(165.6、149.5、148.0、145.7、125.5、123.4、115.5、114.4、111.1、55.7(ppm))が検出された。また、H−NMRにおけるグルコースのアノメリックプロトンのシグナル(6.05ppm、J=3.7Hz)の結合定数がα結合であることを示していることから、フェルラ酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合していることが確認された。
【0246】
MSの結果より、得られた配糖体は、分子量が356であり、1分子のフェルラ酸が1分子のグルコースと結合していることが確認された。
【0247】
上記分析の結果より、得られた配糖体は、フェルラ酸がグルコースの1位の水酸基にα結合した配糖体、1−O−Feruloyl α−D−Glucoseであることがわかった。
【0248】
(実施例9〜15:o−アミノ安息香酸配糖体、p−アミノ安息香酸配糖体、2,4−ジヒドロキシ安息香酸配糖体、ニコチン酸配糖体、没食子酸配糖体、バニリン酸配糖体、またはフタル酸配糖体の調製)
実施例9〜15として、酢酸の代わりにo−アミノ安息香酸(実施例9)、p−アミノ安息香酸(実施例10)、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(実施例11)、ニコチン酸(実施例12)、没食子酸(実施例13)、バニリン酸(実施例14)、またはフタル酸(実施例15)を10mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行い、HPLCにおいて検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で分析を行った。その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0249】
(実施例16〜17:葉酸配糖体およびL−ドーパ配糖体の調製)
実施例16〜17として、酢酸の代わりに葉酸(実施例16)またはL−ドーパ(実施例17)を2mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で分析を行った。その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0250】
(実施例16−2:葉酸配糖体の合成および構造確認)
スクロース6gを10mlの蒸留水に溶解し加温した後、葉酸0.05gを加えてよく混合する。この溶液にSP活性2700単位を含有するStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液0.35mlを添加した。上記溶液を40℃において22時間反応させた後、以下の条件によりHPLCでの分析を行った。
【0251】
[HPLC条件]
カラム:TSKGEL ODS-100V(トーソー製)
流速:0.5ml/分
移動相:水/アセトニトリル/85%リン酸溶液(和光純薬)=90/10/0.3
検出波長:280nm。
【0252】
HPLC分析の結果、未反応の葉酸以外に新たに葉酸配糖体のピークが確認された。反応液をメタノールと水でコンディショニングしたSep PakC18カラムに通し、葉酸および葉酸配糖体を吸着させた。さらに蒸留水でカラムを洗浄し、未反応の糖を除いた後、50%メタノールで配糖体と葉酸を溶出した。得られた配糖体を含む画分を減圧乾燥することにより葉酸配糖体と未反応の葉酸の混合物5mgを得ることができた。この操作によって得られた混合物のマススペクトル(compact−Maldiseq instrumemt,Kratos社製)を測定したところ、葉酸の分子量441のピーク以外に、602および764の分子量のピークが認められた。以上の結果より、葉酸配糖体は、葉酸にグルコースが1つ結合した配糖体および葉酸にグルコースが2つ結合した配糖体であることがわかった。
【0253】
(実施例18:p−クマル酸配糖体の調製)
酢酸の代わりにp−クマル酸を10mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては検出波長が280nmである以外は実施例1と同じ条件で分析を行った。その結果、p−クマル酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0254】
(実施例19:グルタル酸配糖体の調製)
酢酸の代わりにグルタル酸を10mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0255】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:215nm。
【0256】
その結果、グルタル酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0257】
(実施例20:クエン酸配糖体の調製)
酢酸の代わりにクエン酸を20mg用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行った。反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては実施例1と同じ条件で分析を行った。その結果、クエン酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0258】
(実施例21:ピルビン酸配糖体の調製)
スクロース200mgとピルビン酸6mgを0.6mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ25単位を加え、この混合液を40℃にて、16時間反応させた。反応液の分析については、TLCを行わず、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0259】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:215nm。
【0260】
その結果、ピルビン酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0261】
(実施例22:粘液酸配糖体の調製)
ピルビン酸の代わりに粘液酸を2mg用いたこと以外は実施例21と同じ条件で反応を行い、実施例18と同じ条件で分析を行った結果、粘液酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0262】
(実施例23:キナ酸配糖体の調製)
ピルビン酸の代わりに同じ重量のキナ酸を用いたこと以外は実施例21と同じ条件で反応を行い、反応液の分析については、TLCを行わず実施例1と同じ条件で分析を行った結果、キナ酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0263】
(実施例24〜25:アスパラギン酸配糖体およびグルタミン酸配糖体の調製)
実施例24〜25として、酢酸の代わりに5mgのアスパラギン酸(実施例24)またはグルタミン酸(実施例25)を用いたこと以外は実施例1と同じ条件で反応を行い、TLCについては行わず、HPLCについては以下の条件で分析を行った。
【0264】
[HPLCによる分析条件]
カラム:TSKgel G2500PW 内径7.5mm、長さ300mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:215nm。
【0265】
その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0266】
(実施例26:プロピオン酸配糖体の調製)
スクロース200mgとプロピオン酸10mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.2に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ100単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。反応後の混合液を実施例1と同じ条件でTLCおよびHPLCにより分析した。その結果、プロピオン酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0267】
(実施例27〜30:n−酪酸配糖体、イソ酪酸配糖体、n−吉草酸配糖体およびイソ吉草酸配糖体の調製)
実施例27〜30として、プロピオン酸の代わりに同じ重量のn−酪酸(実施例27)、イソ酪酸(実施例28)、n−吉草酸(実施例29)またはイソ吉草酸(実施例30)を用いたこと以外は実施例26と同じ条件で反応を行い、実施例1と同じ条件でTLC、HPLCにより分析を行った。その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0268】
(実施例31〜32:不飽和モノカルボン酸配糖体の調製)
実施例31〜32として、プロピオン酸の代わりに同じ重量のクロトン酸(実施例31)またはレブリン酸(実施例32)を用いたこと以外は実施例26と同じ条件で反応を行った。実施例1と同じ条件でTLC、HPLCにより分析を行った。その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0269】
(実施例33〜36:直鎖ジカルボン酸配糖体の調製)
実施例33〜36として、プロピオン酸の代わりに同じ重量のコハク酸(実施例33)、グルタル酸(実施例34)、アジピン酸(実施例35)またはピメリン酸(実施例36)を用いたこと以外は実施例26と同じ条件で反応を行った。反応液の分析を以下の条件で行った。
【0270】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60
移動相:アセトニトリル/酢酸/水=85/5/10
検出:硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0271】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=80/20/0.3
検出波長:215nm。
【0272】
これらの結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0273】
(実施例37:メタノール混合系を用いた、脂肪酸配糖体の調製)
スクロース200mgとn−ヘキサン酸5μl、メタノール0.2mlを0.8mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.2に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。反応液を実施例1と同じ条件で分析した。その結果、メタノールの配糖体とは異なる配糖体、すなわちn−ヘキサン酸配糖体が生成されたことが確認できた。
【0274】
(実施例38:二相系を用いた、不飽和モノカルボン酸の調製)
難水溶性物質については、以下に示すような水−有機溶媒の二相系での反応を行い、配糖体を得た。
【0275】
スクロース100mgを0.5mlの蒸留水に溶解し、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えた混合液に、ソルビン酸5μgをクロロホルム0.5mlに溶解した溶液を静かに加えた。水相、クロロホルム相の界面が乱れないように注意しながら、この混合液を40℃にて、16時間反応させた。
【0276】
反応後の混合液を以下の条件でTLCおよびHPLCにより分析した。反応混合液の水相、クロロホルム相の両方について分析を行った。TLCにおいては、対照として、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液、ならびに1%スクロース水溶液、1%フラクトース水溶液を用いた。HPLCにおいては、対照として、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液を用いた。
【0277】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60
移動相:アセトニトリル/酢酸/水=85/5/10
検出:硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0278】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=20/80/0.3
検出波長:265nm。
【0279】
TLCの結果より、反応後の混合液中に、対照のものと比較して移動の早い生成物が存在することが確認された。このことから、反応後の混合液の水相に、スクロース、およびフラクトースとは異なる糖が生成されたことが確認された。またクロロホルム相においては、反応液、対照、共にスポットが検出されず、スクロースおよびフラクトースまたはそれ以外の糖のいずれも存在しないことが確認された。
【0280】
HPLCの結果より、水相部分について、反応後の混合液中にソルビン酸よりも早く流出する生成物が出現したことが確認された。このことから、反応後の水相部分混合液中に、ソルビン酸よりも極性が高い生成物が生成されたことが確認された。また、反応後のクロロホルム相混合液中で、対照と比較しソルビン酸が減少していた。また、反応後の水相部分とクロロホルム部分のソルビン酸の合計は、対照と比較して減少していた。これらのことから、クロロホルム中のソルビン酸に糖が転移してソルビン酸配糖体が形成されたことが確認された。
【0281】
(実施例39〜41:易水溶性フェノール性物質の配糖体の調製)
実施例39〜41として、スクロース200mgと易水溶性フェノール性物質(例えば、ホモゲンチシン酸(実施例39)、クロロゲン酸(実施例40)または2,5−ジヒドロキシ安息香酸(ゲンチシン酸)(実施例41))5〜10mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ50単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。TLC、HPLCとも対照は実施例1と同様の方法で分析した。
【0282】
反応後の混合液を以下の条件でTLCおよびHPLCにより分析した。
【0283】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60 F254
移動相:アセトニトリル/水=85/15
検出:紫外線を照射して、感光するスポットを確認後、硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0284】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=80/20/0.3
検出波長:280nm。
【0285】
その結果、それぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0286】
(実施例42〜57:難水溶性フェノール性物質の配糖体の調製)
実施例42〜57として、スクロース200mgと難水溶性フェノール性物質(例えば、o−トルイル酸(実施例42)、ベラトル酸(veratric acid)(実施例43)、フェニルグルタル酸(実施例44)、コーヒー酸(実施例45)、アセチルサリチル酸(実施例46)、アニス酸(実施例47)、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(実施例48)、2,4−ジヒドロキシ安息香酸(β−レゾルシル酸)(実施例49)、2−ヒドロキシ安息香酸(サリチル酸)(実施例50)、4−メチルサリチル酸(実施例51)、p−ヒドロキシ安息香酸(実施例52)、フェニル酪酸(実施例53)、フェニルマロン酸(実施例54)、フェニルコハク酸(実施例55)、フェニル乳酸(実施例56)、および桂皮酸(実施例57))5mgを20%メタノール溶液1mlに溶解させた。完全に溶解しない場合は遠心分離した後、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得て、実施例1に示す方法でスクロースホスホリラーゼを反応させた。
【0287】
反応後の混合液を以下の条件でTLCおよびHPLCにより分析した。
【0288】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60 F254
移動相:アセトニトリル/水=85/15
検出:紫外線を照射して、感光するスポットを確認後、硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0289】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=50/50/0.3
検出波長:280nm。
【0290】
その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体の生成が確認された。
【0291】
(実施例58:センノシドA配糖体の調製)
スクロース200mgとセンノシドA5mgを20%メタノール溶液1ml中でよく撹拌し遠心分離した後、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得て、実施例1に示す方法でスクロースホスホリラーゼを反応させた。反応後の混合液を以下の条件でTLCおよびHPLCにより分析した。
【0292】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60 F254
移動相:1−プロパノール/酢酸エチル/酢酸/水=1/1/1/1
検出:紫外線を照射して、感光するスポットを確認後、硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0293】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=50/50/0.3
検出波長:280nm。
【0294】
その結果、センノシドA配糖体の生成が確認された。
【0295】
(実施例59:クエン酸配糖体の調製)
スクロース 200mgとクエン酸 20mgを1mlの水に溶解し、5N−NaOHでpH4.7に調整した。特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えこの混合液を40℃にて、18時間反応させた。反応後の混合液を以下の条件でHPLCにより分析した。
【0296】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸水溶液 = 100/0.3
検出波長:215nm。
【0297】
その結果、クエン酸配糖体の生成が確認された。
【0298】
(実施例60:グリコール酸配糖体の調製)
スクロース200mgとグリコール酸10mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えこの混合液を40℃にて、18時間反応させた。
【0299】
反応後の混合液を以下の条件でHPLCにより分析した。
【0300】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸水溶液 =100/0.3
検出波長:215nm。
【0301】
その結果、グリコール酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0302】
(実施例61:リンゴ酸配糖体の調製)
スクロース100mgとリンゴ酸10mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus
mutansスクロースホスホリラーゼ100単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。
【0303】
反応後の混合液をTLCは行わずに以下の条件でHPLCにより分析した。
【0304】
[HPLCによる分析条件]
カラム:TSKgel G2500PW 内径7.5mm、長さ300mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=100/0.3
検出波長:210nm。
【0305】
その結果、リンゴ酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0306】
(実施例62:グリコール酸配糖体の調製)
リンゴ酸の代わりに同じ重量のグリコール酸を用いたこと以外は実施例61と同じ条件で反応を行った。分析はTLCを行わずに実施例27と同じ条件でHPLCを行った結果、グリコール酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0307】
(実施例63:o−クマル酸配糖体の調製)
リンゴ酸の代わりに同じ重量のo−クマル酸を用いたこと以外は実施例61と同じ条件で反応を行った。反応後の混合液をTLCは行わずに以下の条件でHPLCにより分析した。
【0308】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:メタノール/水/85%リン酸溶液(和光純薬)=80/20/0.3
検出波長:280nm。
【0309】
その結果、o−クマル酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0310】
(実施例64:キナ酸配糖体の調製)
スクロース200mgとキナ酸2mgを1mlの蒸留水に溶解し、1N NaOHまたは1N HClによってpHを4.0に調整して混合液を得た後、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus
mutansスクロースホスホリラーゼ100単位を加えこの混合液を40℃にて、16時間反応させた。
【0311】
分析については、TLCを行わずに実施例61と同じ条件でHPLCを行った。その結果、グリコール酸配糖体が生成されたことが確認された。
【0312】
(実施例65〜66:シキミ酸配糖体およびフェニルグリシン配糖体の調製)
実施例65〜66として、キナ酸の代わりに同じ重量のシキミ酸(実施例65)またはフェニルグリシン(実施例66)を用いたこと以外は実施例64と同じ条件で反応を行った。
【0313】
分析は、検出波長が254nmである以外は実施例61と同じ条件でHPLCを行った。その結果、それぞれの実施例においてそれぞれのカルボン酸に対応する配糖体が生成されたことが確認された。
【0314】
(実施例67:サンザシ抽出液に含まれるカルボン酸化合物の配糖化)
カルボン酸化合物としてウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸などを含有することで知られるサンザシ抽出液(サンザシ果実の20%エタノール抽出液の5倍濃縮液)の配糖化を行った。
【0315】
30%ショ糖水溶液500μlにサンザシ抽出液250μl、蒸留水250μlを加え1mlとした。この溶液に特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えこの混合液を40℃にて、18時間反応させた。
【0316】
反応後の混合液のpH変化を確認するとともに、以下の条件でHPLCにより分析を実施した。なおHPLCにおいては、対象として、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は混合液と同じ組成の溶液を上記と同様に反応させた溶液を用いた。
【0317】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrosorb NH、内径4.0mm、長さ250mm
流速:1.0ml/分
移動相:アセトニトリル/水/85%リン酸水溶液 = 75/25/0.3
検出波長:215nm。
【0318】
HPLCでの分析の結果、スクロースホスホリラーゼを添加し反応させた混合液では、対象との比較において配糖体合成による新たなピークが出現した。また反応開始時のpH4.1が反応終了後の混合液においてはpH4.3に上昇していたことからも抽出液に含まれるカルボン酸がエステル化されていることが確認された。
【0319】
(実施例68〜69:ナツメ抽出液およびサンシュユ抽出液に含まれるカルボン酸化合物の配糖化)
実施例68〜69として、サンザシ抽出液の代わりに同じ容量の下記の表1に示す植物抽出液を用いたこと、および酵素添加前の混合液のpHが5.2を超えるものについては、1N HClによりpH4.0から5.1の範囲に収まるように調整したこと以外は実施例67と同じ条件で反応および分析を行った結果、下記の表1に示す、サンザシ抽出液と同様の方法で調製した植物抽出液に含まれるカルボン酸化合物が配糖化されていることが確認できた。
【0320】
【表1】

(評価例1:配糖化によるにおい低減効果の確認)
(1)イソ吉草酸のにおい低減効果
スクロースホスホリラーゼによってカルボン酸を配糖化することにより得られた配糖体が、カルボン酸と比較して優れた効果を有することを確認するために、以下の官能評価を行った。生理活性物質にはカルボキシル基を含む物質が多く含まれるが、その中には独特のにおいを有しているために摂取しにくいものも多い。そこでカルボキシル基の配糖化によりにおい低減効果が得られるか否かを確認した。イソ吉草酸は、独特の不快臭を有する。そこで、イソ吉草酸にSPを反応させて配糖化した場合、イソ吉草酸独特のにおいに変化があるかどうかを確認した。
【0321】
サンプルを以下の通りに調製した。まず、イソ吉草酸0.5ml、水9mlおよび40%(重量/容積%)スクロース溶液10mlを混合し、混合液のpHをNaOHでpH4.2に調整した。次いで、このpH調整後の混合液19.4mlに、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ1600単位を含む水溶液または水0.6mlを添加し、40℃で16時間インキュベートし、配糖化を行った。配糖化後、この反応液の5倍希釈液を用いて官能評価を行った。
【0322】
官能評価を以下の手順で行った。まず、スクロースホスホリラーゼ(SP)入りまたはなしの各サンプルを蓋付チューブに入れ、周囲ににおいが散漫しないようにドラフト内に置き、パネラーが一人ずつにおい強度を評価した。パネラーは、熟練した研究者6名であった。パネラーにはサンプルの内容を知らせず、前半3名は、(i)SPなし混合液をコントロールとして(ii)SP反応混合液のにおい評価を行い、後半3名は(ii)SP反応混合液をコントロールとして(i)SPなし混合液のにおい評価を行った。
【0323】
この結果、6名のパネラー全員が、イソ吉草酸にSPを反応させた反応混合液は、SPの入らない混合液と比較して、においが減少していると答えた。結果を表2に示す。
【0324】
【表2】

(実施例70:配糖化によるソルビン酸の可溶化効果)
クロロホルムを用いて、ソルビン酸の二相系スクロースホスホリラーゼ配糖化反応を行った。難水溶性物質であるソルビン酸のSPによる配糖化を、クロロホルムを用いた二相系の反応で行ったところ、ソルビン酸配糖体が主に水相に生成していることが確認された。
【0325】
ソルビン酸配糖体の存在により、主にクロロホルム相に溶解していたソルビン酸が水相に移行した。すなわち、スクロースホスホリラーゼを含まない以外は反応液と同じ組成の溶液と比べて、水相のソルビン酸濃度が約10%上昇していた。これは、ソルビン酸配糖体の存在により、ソルビン酸の水への溶解性が向上したためと考えられる。
【0326】
スクロース100mgを0.5mlの蒸留水に溶解し、特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ80単位を加えた混合液に、ソルビン酸5μgをクロロホルム0.5mlに溶解した溶液を静かに加えた。水相、クロロホルム相の界面が乱れないように注意しながら、この混合液を40℃にて、16時間反応させた。この反応系の模式図を図8に示す。上層が水相であり、下層がクロロホルム層である。スクロースおよびスクロースホスホリラーゼは水溶性であるので主に上層に存在し、ソルビン酸は難水溶性でありクロロホルムには溶解するので主に下層に存在する。ソルビン酸配糖体は、これら2層の界面で形成されると考えられる。
【0327】
反応後の混合液を以下の条件でTLCおよびHPLCにより分析した。
【0328】
[薄層クロマトグラフィーによる分析の条件]
プレート:シリカゲル60
移動相:アセトニトリル/酢酸/水=85/5/10
検出:硫酸/メタノール=1/1をプレートに噴霧し、130℃で3分間加熱することにより、試料中の有機物を炭化して発色させた。
【0329】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=20/80/0.3
検出波長:265nm。
【0330】
TLCおよびHPLCの結果、反応後SP(+)において、ソルビン酸より極性の高い新しいピークが確認できた。反応後のSP(+)はSP(−)に比べて水相のソルビン酸が増加していた。ソルビン酸配糖体の出現により、ソルビン酸自体の溶解度が上昇したと考えられる。
【0331】
(評価例2:配糖化によるにおい低減効果の確認)
配糖化による酢酸のにおい低減効果を確認した。
【0332】
酢酸0.1mlおよびスクロース1gを5mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHでpH4.1に調整した。この溶液にSP活性500単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液0.1mlを添加した。上記溶液を37℃において24時間反応させた後、以下の条件でHPLCにより分析したところ、未反応の酢酸以外に新たに酢酸配糖体のピークを確認した。反応液に9倍量のアセトンを加え静置することにより大部分の糖類が液状の沈殿となり除去することができた。得られたアセトン抽出液に1gのワコーゲルC200を加え減圧乾燥した後、100%アセトニトリルで平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、100%アセトニトリルにより溶出した。この工程により未反応の酢酸およびスクロースやフラクトース等の糖類は全て除去することができた。このカラムクロマトグラフィーにより得られた配糖体を含む画分を減圧乾燥することにより酢酸配糖体を約100mg得ることができた。この酢酸配糖体は酢酸特有の匂いが酢酸と比較して顕著に低減していることが確認できた。
【0333】
[HPLCによる分析条件]
カラム:Lichrospher 100 RP18、内径4.0mm、長さ250mm流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=80/20/0.3
検出波長:210nm。
【0334】
(評価例3:配糖化による味質改善効果の確認)
(評価例3−1:配糖化による酢酸の味質改善効果の確認)
酢酸配糖体を評価例2と同様の方法で作製し、酢酸水溶液および酢酸配糖体水溶液について6名のパネラーによって官能評価を行った。
【0335】
酢酸および酢酸配糖体を用いて、それぞれ、濃度が0.2Mとなるように水溶液を調整してサンプルとした(酢酸水溶液の場合1.2% w/v)。6名のパネラー一人ずつに両方の水溶液を飲み比べてもらい、それぞれの水溶液の酸味の強さを評価した。パネラーにはサンプルの内容を知らせず、前半3名は(i)酢酸水溶液→(ii)酢酸配糖体水溶液の順に、後半3名は(ii)酢酸配糖体水溶液→(i)酢酸水溶液の順に評価を行った。その結果、6名のパネラー全員が(ii)酢酸配糖体水溶液の方が酸味が弱いと回答した。つまり、酢酸を配糖化することによって酢酸特有の酢角が取れマイルドな味質へと改善することができた。
【0336】
(評価例3−2:配糖化による穀物酢の味質改善効果の確認)
ミツカン穀物酢500μlと40%スクロース溶液500μlとを混合し、SP活性50単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液を20μl加え、37℃で反応を行った。反応の停止は5N HClを加えて反応液のpHを3.0に調整することにより行った。HPLCにより酢酸の配糖化率を測定し、配糖化率が15%あるいは60%となったところで反応を停止し、穀物酢配糖化液((i)酢酸配糖化率15%溶液、(ii)酢酸配糖化率60%溶液)のサンプルとした。
【0337】
サンプルの評価は(i)および(ii)のそれぞれの液と上記の反応液において酵素の代わりに水を添加したコントロール溶液との比較により行った。
【0338】
水溶液の官能評価は、上記と同様に6名のパネラーによって行った。サンプルとしては、コントロール溶液および穀物酢反応液を5N NaOHでpH4.0に調整した後、水で5倍希釈したものを用いた。6名のパネラー一人ずつに両方の水溶液を飲み比べてもらい酸味の強さを評価した。パネラーにはサンプルの内容を知らせず、前半3名は(i)コントロール溶液→(ii)穀物酢反応液の順に、後半3名は(ii)穀物酢反応液→(i)コントロール溶液の順に評価を行った。その結果、6名のパネラー全員が、配糖化率(i5%あるいは60%)の違いによらず、(ii)穀物酢反応液の方が酸味が弱いと回答した。つまり、穀物酢中の酢酸および有機酸を一部配糖化することによって穀物酢特有の酢角が取れマイルドな味質へと改善することができた。また、味質改善効果は、配糖化率が低くても得られることがわかった。
【0339】
(実施例71:スクロースホスホリラーゼの性能比較)
Streptococcus mutans由来の酵素だけでなくLeuconostoc mesenteroides(オリエンタル酵母社製)の酵素でも反応を行ったところ、Leuconostoc mesenteroides由来の酵素においても同様にカルボキシル基を配糖化した。
【0340】
【表3】

Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを用いた場合とLeuconostoc mesenteroides由来の酵素を用いた場合に配糖化率に差があるが、Leuconostoc由来の酵素においてもpH5〜6付近でカルボキシル基への糖転移は行われているようである。これまで知られているスクロースホスホリラーゼの反応の至適pHは中性域(7.5付近)であるが、カルボキシル基への糖転移反応は酸性域で良好に進行する。pHが高くなると、糖転移率が低下する。従って、配糖化反応をpH7.5で行ったキッコーマンの方法(非特許文献2)では配糖化が進行しなかったものと考えられる。また、Leuconostoc由来の酵素は酸性下(pH4付近)では酵素活性が低いために、反応開始時のpHが3.9の場合は配糖化反応が起こらなかったと考えられる。
【0341】
(実施例72:イオン交換樹脂を用いた安息香酸配糖体の部分精製)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース6gを19mlの蒸留水に溶解し、5N HClでpH4.6に調整した。この溶液にSP活性3000単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液1mlを添加した後、上記溶液を37℃において16時間反応させた。HPLCについて実施例2と同じ条件で反応後の溶液の分析を行った結果、3種類の安息香酸配糖体が生成されたことが確認された。この3種類の安息香酸配糖体は、実施例2−2と同じ位置にピークが得られたので、安息香酸がグルコースの1位にα結合でエステル結合した配糖体と、安息香酸がグルコースの2位にα結合でエステル結合した配糖体と、安息香酸がグルコースの3位にα結合でエステル結合した配糖体とであることが確認された。
【0342】
反応後の溶液中には安息香酸と安息香酸配糖体が混在しているが、両者にはカルボキシル基の有無という違いが生じているため、陰イオン交換樹脂を用いればこれらの混合物を分離できると考えた。
【0343】
反応後の溶液を、蒸留水で平衡化したダイヤイオンPA−412カラムに通したところ、未反応の安息香酸を除くことができた。すなわち、反応後の溶液を陰イオン交換カラムに通すことによって、カルボキシル基を有する安息香酸は吸着されるが、カルボキシル基がグルコースで配糖化されている安息香酸配糖体は吸着されなかった。このことから、陰イオン交換カラムに通すだけでカルボン酸とカルボン酸配糖体とを分離できることが明らかとなった。
【0344】
(評価例4:配糖化による酢酸の皮膚刺激性軽減効果の確認)
酢酸配糖体を評価例2と同様の方法で作製し、この酢酸配糖体の水溶液および酢酸水溶液の皮膚刺激性について6名のパネラーにより評価を行った。
【0345】
酢酸および酢酸配糖体のそれぞれについて2.0Mとなるように水溶液を調整してサンプルとした(酢酸水溶液の場合6.0% w/v)。6名のパネラー一人ずつの皮膚にそれぞれの水溶液を塗布することによって皮膚への刺激性の強さを評価した。パネラーにはサンプルの内容を知らせず、前半3名は(i)酢酸水溶液→(ii)酢酸配糖体水溶液の順に、後半3名は(ii)酢酸配糖体水溶液→(i)酢酸水溶液の順に水溶液を塗布して評価を行った。その結果、6名のパネラー全員が、(ii)酢酸配糖体水溶液の方が皮膚への刺激性が弱いと回答した。従って、酢酸を配糖化することによって酢酸の刺激性を改善することができたことが確認された。
【0346】
(評価例5:配糖化によるリンゴ酸の味質改善効果の確認)
リンゴ酸0.2gおよびスクロース2gを10mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHでpH4.2に調整した。この溶液に活性2700単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ溶液0.4mlを添加して反応用混合液を得た。この反応用混合液を40℃において3時間反応させた後、以下の条件でHPLCにより分析したところ、未反応のリンゴ酸以外に新たにリンゴ酸配糖体のピークが確認された。反応液中の配糖体の転位反応を防ぐため、反応後の溶液のpHを1N HClでpH2.6に調整した。別にインベルターゼ(SIGMA社製、Bakers yeast 由来、355Units/mg)28mgを蒸留水10mLに溶解させた。このインベルターゼ溶液0.5mLを、pH2.6に調整した反応後の溶液に加え、40℃で3時間反応させ、未反応のスクロースを分解した。この溶液を、蒸留水で平衡化させたダイヤイオンWA20カラムに供し、未反応のリンゴ酸を吸着させ、溶出液を得た。続いてこの溶出液を、蒸留水で平衡化させた活性炭カラムに供し、リンゴ酸配糖体を吸着させた。このリンゴ酸配糖体を吸着した活性炭カラムを蒸留水および5%エタノールで洗浄した後、100%エタノールでリンゴ酸配糖体を溶出させ、溶出液中の溶媒を減圧乾燥させてリンゴ酸配糖体を得た。この工程により、未反応のグルコース、フラクトース等の糖類を除去することができた。
【0347】
[HPLCによる分析条件]
カラム:ODS−100V、内径4.6mm、長さ250mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/85%リン酸溶液(和光純薬)=1000/0.3
検出波長:210nm。
【0348】
このリンゴ酸配糖体およびリンゴ酸を用いて、それぞれ、リンゴ酸換算で0.5%(w/w)の水溶液を作成し、6人のパネラーの試飲し、どちらが酸味が少ないかをアンケートした。アンケートの結果、全員が、リンゴ配糖体の水溶液の方が酸味が少ないと答えた。このことから、リンゴ酸を配糖化することで酸味を低減できることが確認できた。
【0349】
(評価例6:配糖化によるリンゴ酸の皮膚刺激性軽減効果の確認)
リンゴ酸配糖体およびリンゴ酸を用いて、それぞれ、リンゴ酸換算で15%の水溶液を作製し、10人のパネラーの皮膚に塗布した。その結果、全員から、配糖体の水溶液の方が皮膚への刺激が少ないという結果が得られた。これによって、リンゴ酸を配糖化することで皮膚への刺激を抑えられることが確認できた。
【0350】
(評価例7:配糖化による安息香酸の極性上昇効果の確認)
安息香酸ナトリウム0.4gおよびスクロース4gを20mlの蒸留水に溶解し、1N HClでpH4.6に調整した。この溶液に活性2700単位を含有するStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ溶液0.8mlを添加した。上記溶液を40℃において1時間反応させた後、HPLCにより分析(ODSカラムRP−18を用い、メタノール20部と水80部とリン酸0.3部とから成る溶液により溶出し280nmにより検出した)したところ、未反応の安息香酸以外に新たに安息香酸配糖体のピークが確認された。
【0351】
図7および図8に示す疎水性カラムによるHPLC試験によってわかるように、安息香酸配糖体は安息香酸よりも保持時間が短くなっていることから、配糖化することによって極性が高くなっていることが確認できた。つまり、配糖化により溶解性が高くなっていることが示された。
【0352】
(評価例8:配糖化によるプロピオン酸のにおい軽減効果の確認)
プロピオン酸0.6gおよびスクロース6gを30mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHでpH3.9に調整した。この溶液に活性2700単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液1mlを添加した。上記溶液を40℃において30時間反応させた後、以下の条件でHPLCにより分析したところ、未反応のプロピオン酸以外に新たにプロピオン酸配糖体のピークが1つ確認された。
【0353】
[HPLCによる分析条件]
カラム:ODS−100V、内径4.6mm、長さ250mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=90/10/0.3
検出波長:210nm。
【0354】
プロピオン酸は、独特の不快臭を有する。そこで、プロピオン酸にSPを反応させて配糖化した場合、プロピオン酸独特のにおいに変化があるかどうかを確認した。
【0355】
配糖化後の反応液の5倍希釈液を用いて官能評価を行った。
【0356】
官能評価を以下の手順で行った。まず、スクロースホスホリラーゼ(SP)を添加して反応させた反応液のサンプルまたは無添加のサンプルの各々を蓋付チューブに入れ、周囲ににおいが散漫しないようにドラフト内に置き、パネラーが一人ずつにおい強度を評価した。
【0357】
この結果、12名のパネラー全員が、プロピオン酸にSPを添加して反応させた反応液のサンプルは、SP無添加のサンプルと比較して、においが減少していると答えた。これによって、プロピオン酸を配糖化することによりプロピオン酸の独特のにおいを低減させることができることが確認できた。
【0358】
(評価例9:プロピオン酸配糖体の安定性確認)
プロピオン酸0.6gおよびスクロース6gを30mlの蒸留水に溶解し、5N NaOHでpH3.9に調整した。この溶液に活性2700単位を含有する特開2002−345458の実施例1.1に記載の方法にて調製した組換えStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ溶液1mlを添加して反応用混合液を得た。この反応用混合液を40℃において30時間反応させた後、以下の条件でHPLCにより分析したところ、未反応のプロピオン酸以外に新たにプロピオン酸配糖体のピークが1つ確認された。
【0359】
グルコース内での転位反応を防ぐため、反応溶液を5N HClでpH2.1に調整し、この溶液にアセトニトリル60mLを加え、抽出操作を2回行った。アセトニトリル層は白濁していたため、遠心分離によって沈殿を除去した。アセトニトリル層にワコーゲルC200を1.5g加え、減圧乾燥させて樹脂に溶液中の成分を吸着させ、アセトニトリルで平衡化したワコーゲルC200カラムに供し、95%アセトニトリルで配糖体を溶出した。この溶出画分を減圧乾燥し、白色のプロピオン酸配糖体を得た。
【0360】
このプロピオン酸配糖体20mgを蒸留水20mLに溶かし、1N HClおよび1N NaOHでpH2.2、pH4.7、pH5.2、またはpH6.1に調整した。各pHの溶液5mLを40℃でインキュベートし、HPLCでの配糖体のピークによって安定性を考察した。
【0361】
[HPLCによる分析条件]
カラム:ODS−100V、内径4.6mm、長さ250mm
流速:0.5ml/分
移動相:水/メタノール/85%リン酸溶液(和光純薬)=90/10/0.3
検出波長:210nm。
【0362】
インキュベート開始1時間後、5時間後および24時間後の反応液のサンプルをHPLCで試験した結果、pH2.2の条件ではピークの形状に変化はなく、配糖体が安定な状態であることがわかった。pH5.2の条件およびpH6.1の条件では、インキュベート開始1時間後で速やかにピークの形状が変化し、5時間以降は一定の状態であった。pH4.6の条件ではゆっくりと変化がおこり、最終的にはpH5.2の場合およびpH6.1の場合と同じ状態になった。このことより、酵素反応によって最初に生成する配糖体は、溶液のpHがpH4付近よりも高い場合は構造が不安定で転位反応が起こりやすく、中性付近ではさらに転位速度が速くなり、別の安定な平衡状態に達するということが予測される。しかしながらpH4.6以下では、グルコース残基の1位での結合が安定であることも示された。
【0363】
(評価例10:安息香酸配糖体の安定性確認)
実施例3と同様に合成、精製した安息香酸配糖体5mgを蒸留水20mLに溶解し、0.1N NaOHおよび0.1N HClを用いてpH2.0、pH4.5、pH6.0またはpH8.7に調整した。各pHの溶液5mLを40℃でインキュベートし、HPLCでの配糖体のピークによって安定性を考察した。HPLCの操作条件は実施例1と同様であった。
【0364】
インキュベート開始後2時間、4時間、6時間および20時間後の反応液のサンプルをHPLCで試験した結果、pH2.0の条件ではピークの形状に変化はなく、配糖体が安定な状態であった。pH6.0の条件およびpH8.7の条件では、インキュベート開始2時間後で速やかにピークの形状が大きく変化し、4時間以降は一定の状態であった。pH4.5の条件ではゆっくりと変化がおこりpH2.0とのピークの違いは小さかった。このことより、酵素反応によって最初に生成する配糖体はpH4付近よりも高い場合は構造が不安定で転位反応が起こりやすく、中性付近ではさらに転位速度が速くなり、別の安定な平衡状態に達するということが予測される。しかしながらpH4.5以下では安定であることも示された。
【0365】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0366】
分子内にカルボキシル基を有する化合物は多数存在しており、その中には生理活性を有する物質が多く含まれている(例えば、脂肪酸、アミノ酸、有機酸、漢方成分等)。カルボン酸配糖体は、医薬品および食品の分野で広く利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0367】
【図1】図1は、実施例1における薄層クロマトグラフィーの結果を示す。レーン1は、2%(重量/容積%)スクロース水溶液を、レーン2は2%(重量/容積%)グルコース水溶液を、レーン3は2%(重量/容積%)フルクトース水溶液を、レーン4は、酢酸およびスクロースにスクロースホスホリラーゼを作用させた混合液を、レーン5は、スクロースホスホリラーゼを含まない以外はレーン4の混合液と同じ組成の溶液をレーン4の混合液と同様に反応させた溶液を、そしてレーン6は、酢酸を含まない以外はレーン4の混合液と同じ組成の溶液をレーン4の混合液と同様に反応させた後の溶液をロードした。
【図2】図2は、実施例1におけるHPLCの結果を示す。図2(a)は、酢酸をロードした場合を、図2(b)は酢酸およびスクロースにスクロースホスホリラーゼを作用させた後の混合液をロードした場合を示す。
【図3】図3は、実施例2の安息香酸配糖体のH−NMR分析の結果を示す。
【図4】図4は、実施例2の安息香酸配糖体の13C−NMR分析の結果を示す。
【図5】図5は、実施例3のアセチル化安息香酸配糖体のH−NMR分析の結果を示す。
【図6】図6は、実施例3のアセチル化安息香酸配糖体の13C−NMR分析の結果を示す。
【図7】図7は、評価例7における疎水性カラムでのHPLCの結果を示す。図7は、安息香酸をロードした場合を示す。
【図8】図8は、評価例7における疎水性カラムでのHPLCの結果を示す。図8は、安息香酸およびスクロースにスクロースホスホリラーゼを作用させた後の混合液をロードした場合を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸の配糖化方法であって、カルボン酸と、グルコースドナーとに水溶液中のスクロースホスホリラーゼを作用させて、カルボン酸配糖体を得る工程を包含し、作用開始時の該水溶液のpHが、該スクロースホスホリラーゼがハイドロキノンにグルコースを結合させる反応における至適pHよりも酸性側のpHである、方法。
【請求項2】
前記pHが、1.0〜7.4である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHが、3.0〜7.0である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記作用開始時のpHと前記至適pHとの差が0.3〜6.0の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記作用開始時のpHと前記至適pHとの差が1.0〜3.0の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記スクロースホスホリラーゼが、Streptococcus属、Leuconostoc属、Oenococcus属、Bifidobacterium属、Agrobacterium属、Pseudomonas属、Escherichia属、Listeria属、Clostridium属、Acetobacter属、Pullularia属およびLactobacillus属からなる群より選択される属に属する細菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スクロースホスホリラーゼが、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus mitis、Leuconostoc mesenteroides、Oenococcus oeni、Bifidobacterium longum、Agrobacterium vitis、Pseudomonas saccharophila、Pseudomonas putrefaciens、Escherichia coli、Listeria innocua、Clostridium pasteurianum、Acetobacter xylinum、Pullularia pullulans、Lactobacillus acidophilusおよびListeria monocytogenesからなる群より選択される細菌由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記スクロースホスホリラーゼが、Streptococcus mutansまたはLeuconostoc mesenteroidesに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記カルボン酸の分子量が、46〜870である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記カルボン酸がモノカルボン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記カルボン酸が、アルコール性OH基およびフェノール性OH基のいずれも有さない、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸が水溶性である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記カルボン酸が水に難溶性または不溶性である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記カルボン酸が植物抽出液中に存在する化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記カルボン酸が、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、かつ水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記カルボン酸が、R−C(=O)OHにより表され、ここで、Rは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される炭素数0〜20の基であって、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されている、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記カルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、センノシドA、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記グルコースドナーが、スクロース、グルコース−1−リン酸またはグルコース−1−フルオリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
反応開始後の前記水溶液中に前記カルボン酸または酸性物質を添加して、pHがアルカリ側に変化することを抑制する工程を包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
反応終了時のpHが3.0〜7.0である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
カルボン酸のカルボキシル基と、グルコースの1位、2位、3位または4位のOH基とがエステル結合したカルボン酸配糖体であって、ただし、1位にβ結合した化合物ではない、配糖体。
【請求項22】
前記カルボキシル基と、前記OH基とがα結合している、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項23】
分子量が208〜1032である、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項24】
前記カルボン酸がモノカルボン酸である、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項25】
前記カルボン酸が、アルコール性OH基およびフェノール性OH基のいずれも有さない、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項26】
前記カルボン酸が水溶性である、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項27】
前記カルボン酸が水に難溶性または不溶性である、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項28】
前記カルボン酸が植物抽出液中に存在する化合物である、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項29】
請求項21に記載のカルボン酸配糖体であって、該カルボン酸が、
(1)分子内にカルボキシル基を1つ含み、一般式R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2n+1またはC2n−1であり、nは、1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(2)分子内にカルボキシル基を1〜3つ含み、そして水酸基を1〜4つ含む、ヒドロキシ酸;
(3)分子内にカルボキシル基を2つ含み、一般式HOOC−R−COOHで表されるカルボン酸であって、ここで、R=C2nであり、nは1以上の任意の整数である、カルボン酸;
(4)アミノ酸;
(5)1つ以上のカルボキシル基で置換された芳香族炭化水素;ならびに
(6)分子中にヘテロ環を含むカルボン酸
からなる群より選択される、配糖体。
【請求項30】
請求項21に記載のカルボン酸配糖体であって、該配糖体が、構造R−C(=O)O−Glcを有し、ここで、Rは、H、アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選択される炭素数0〜20の基であって、ここで、アルキル基、アシル基、アルケニル基は、直鎖状、分枝鎖状または環状であり得、該アルキル基、アシル基、アルケニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、必要に応じて、−OH、−COOH、−NH、アリール基R、C〜Cのアルキル基、C〜Cのアルコキシ基およびC〜Cのアシル基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されており;ここで、アリール基Rは、必要に応じて、−OHおよびC〜Cのアルコキシ基からなる群より選択される1個以上の置換基で置換されている、配糖体。
【請求項31】
前記カルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸、n−ヘキサン酸、キナ酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、葉酸、L−ドーパ、クマル酸、クエン酸、粘液酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルグルタル酸、フェニル酪酸、フェニルマロン酸、フェニルコハク酸、フェニル乳酸、ケイ皮酸、グリコール酸、リンゴ酸、フェニルグリシン、ピルビン酸、ソルビン酸、シキミ酸、クロトン酸、フェルラ酸、マレイン酸、コーヒー酸、安息香酸、アミノ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、トリヒドロキシ安息香酸、バニリン酸、フタル酸、o−トルイル酸、ベラトル酸、アセチルサリチル酸、アニス酸、5−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、メチルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、センノシドA、ニコチン酸、レブリン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、クロロゲン酸、ホモゲンチシン酸およびベツリン酸からなる群より選択される、請求項21に記載の配糖体。
【請求項32】
前記カルボキシル基が、グルコースの1位のOH基とエステル結合している、請求項21に記載のカルボン酸配糖体。
【請求項33】
請求項21に記載のカルボン酸配糖体を含む、食品および食品添加物。
【請求項34】
請求項21に記載のカルボン酸配糖体を含む、医薬品および医薬部外品。
【請求項35】
請求項21に記載のカルボン酸配糖体を含む、化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−180875(P2006−180875A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348566(P2005−348566)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】