説明

カーテンエアバッグ

【課題】乗員を早期に拘束可能であって、高い乗員拘束性能を有するカーテンエアバッグを提供することを目的としている。
【解決手段】車両室内の側面部上方に収納され、側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグ100であって、当該カーテンエアバッグ100のうちガスが流入して膨張する膨張領域124の車両前後方向の少なくとも一方の端部に非膨張領域によって区画された端部チャンバ124bと、当該カーテンエアバッグの車内側において、端部チャンバ上および周囲の膨張領域上の位置に、非膨張領域を跨いで結合される姿勢保持部130と、を備え、姿勢保持部130が結合する位置間の距離は、姿勢保持部130なしに当該カーテンエアバッグ100が膨張展開した場合に、姿勢保持部130の長さより長いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車両室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には高い安全性が求められている。この傾向は世界各国に共通していて、現在では車両の安全装置としてエアバッグが世界各国でほぼ標準装備されている。そして、車両開発に関係する事業者ではさらなる安全性向上が重要な開発テーマとして掲げられていて、これに伴って日々新たなエアバッグが開発されている。
【0003】
車両の安全性の評価基準は各国において異なっていて、各事業者は製造品が多国の評価基準に対応し得るよう開発を行っている。例えば世界最大の自動車保有台数をほこる米国では、NHTSA(米国高速道路交通安全局)によってFMVSS(米国連邦自動車安全基準)が制定されている。そして現在、NHTSAが今後定める予定のFMVSSの規則策定の通知(NPRM;Notice of Proposed Rule Making:Docket Number;NHTSA-2009-0183)には「側突時・ロールオーバ(横転)時において、放出緩和システムによりサイドウィンドウを通した乗員の車外放出の見込みを減少させる」という要件が提案されている。この要件は、放出緩和システムを成す車外放出軽減対策装置としてカーテンエアバッグを備えることで達成可能である。
【0004】
カーテンエアバッグは、ドア上方に設置されていて、衝撃発生時に車両のサイドウィンドウに沿って膨張展開するエアバッグである。カーテンエアバッグの膨張領域は、ガスの流れやすさ等を考慮して複数の小部屋(チャンバ)に区画されている。例えば、特許文献1には、端部側膨張部(端部チャンバ)が他のチャンバよりも車内側に膨張展開する頭部保護エアバッグ装置(カーテンエアバッグ)が開示されている。特許文献1では、車両前後方向の中央側の膨張領域から、端部チャンバの車外側を通ってフロントピラーへテンションクロスが差し渡されている。テンションクロスは、カーテンエアバッグの膨張展開時に緊張し、端部チャンバを車内側に押し出すように移動させる。特許文献1によれば、車内側へ移動した端部チャンバによって、衝撃によって乗員が車両斜め前方へ移動した場合にも的確な保護が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−6895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、カーテンエアバッグに対して、乗員の車外放出防止性能のさらなる向上が要請されている。車外放出防止性能の向上には、乗員と早期に接触してこれを拘束することが有効である。拘束が早期であれば、その分の乗員の車外方向への移動量は減少するからである。その点、特許文献1に記載のカーテンエアバッグは端部チャンバが従来よりも乗員に近い位置(車内側に偏った姿勢)で膨張展開するため、乗員と早期に接触できる。しかし、例えば乗員が大柄である場合、乗員との接触時に端部チャンバが受ける荷重は増大する。このような場合、端部チャンバの上記車内側に偏った姿勢が崩れてしまい、乗員の移動量の減少が僅かなものとなるおそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、乗員を早期に拘束可能であって、高い乗員拘束性能を有するカーテンエアバッグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるカーテンエアバッグの代表的な構成は、車両室内の側面部上方に収納され、側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグであって、当該カーテンエアバッグのうちガスが流入して膨張する膨張領域の車両前後方向の少なくとも一方の端部に非膨張領域によって区画された端部チャンバと、当該カーテンエアバッグの車内側において、端部チャンバ上および周囲の膨張領域上の位置に、非膨張領域を跨いで結合される姿勢保持部と、を備え、姿勢保持部が結合する位置間の距離は、姿勢保持部なしに当該カーテンエアバッグが膨張展開した場合に、姿勢保持部の長さより長いことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、端部チャンバは膨張すると姿勢保持部によって車内側へ引っ張られ、車内側に偏った姿勢となる。これにより、端部チャンバと乗員との距離が近くなるため、端部チャンバは乗員と早期に接触可能となる。また、端部チャンバには姿勢保持部からの張力が常に加えられるため、端部チャンバは乗員から受ける荷重が大きい場合にも姿勢を崩すことなく乗員を拘束可能である。なお、姿勢保持部が結合する位置間の距離とは、当該カーテンエアバッグの外表面上での位置間の立体的な経路であり、位置間を直線的に結んだ距離ではない。
【0010】
またさらに、姿勢保持部は端部チャンバを区画する非膨張領域(シーム部)を覆っている。シーム部は膨張しないため、周囲のチャンバが膨張するとシーム部付近には谷間が形成される。すなわち、シーム部付近は周囲のチャンバよりも車外側へ奥まってしまう。そのため、シーム部付近では乗員との早期接触は難しい。そこで上記構成では、姿勢保持部によってシーム部付近の谷間を埋めることで、本来は谷間となる領域であっても乗員との早期接触が可能となっている。これらのように、上記構成によれば、乗員を早期かつ高い乗員拘束性能で拘束可能である。
【0011】
当該カーテンエアバッグは、当該カーテンエアバッグの車外側であって当該カーテンエアバッグの端部チャンバ側の末端よりも中央側の領域と、末端よりもさらに当該カーテンエアバッグから離れた位置であってサイドウィンドウよりも車内側に突出するピラーとに連結されるストラップをさらに備え、ストラップは、膨張展開後の当該カーテンエアバッグによって車両前後方向に緊張する形状を有するとよい。
【0012】
端部チャンバは上記のストラップに重畳して膨張展開することで、車外側への膨張展開および移動が妨げられる。これにより、より車内側への膨張展開が可能となり、かつ乗員との接触時の車外側への移動量が減少する。したがって、前述の姿勢保持部と組み合わせることで、乗員の車外放出防止性能を向上させることが可能となる。
【0013】
上記のストラップの当該カーテンエアバッグへの取付位置は、上記の非膨張領域であるとよい。非膨張領域(シーム部)は、当該カーテンエアバッグの表裏の基布が接合していて、膨張領域よりも強度が高い。したがって、ストラップを好適に取り付けることが可能である。
【0014】
上記の姿勢保持部は幅広な形状であって、車外放出防止性能評価試験において乗員を模擬したインパクタの衝突目標となる衝突想定領域を覆って取り付けられてもよい。
【0015】
上記の姿勢保持部は、車両幅方向において当該カーテンエアバッグ上で最も車内側に位置する部位である。そのため、姿勢保持部で乗員と接触すれば、乗員の早期拘束が可能になる。特に上記構成では、チャンバのうちの衝突想定領域を覆う位置に姿勢保持部を取り付けている。これにより、車外放出防止性能評価試験においてインパクタとの早期接触が可能であり、実際の衝撃発生時においても乗員の早期拘束をより迅速に行うことが可能となる。
【0016】
上記の姿勢保持部は帯形状であって、車外放出防止性能評価試験において乗員を模擬したインパクタの衝突目標となる衝突想定領域に対し、衝突想定領域の中心を通過するように設置されてもよい。
【0017】
上記の姿勢保持部は、帯形状とすることで材料の使用量を抑えた簡潔な構成となっている。したがって、製造コストの低下に資することが可能である。そして、衝突想定領域の中心を通過するよう取り付けることで、乗員の早期拘束をより効率よく迅速に行うことが可能である。
【0018】
当該カーテンエアバッグは、姿勢保持部上の所定の位置と、姿勢保持部から離れた位置とに結合される第2姿勢保持部をさらに備え、第2姿勢保持部は、第2姿勢保持部の長さ分よりも離れた位置間に結合されてもよい。
【0019】
上記構成によれば、第2姿勢保持部を備えることで、より広い領域において乗員との早期接触が可能となる。これにより、乗員の車外放出防止性能をさらに向上可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、乗員を早期に拘束可能であって、高い乗員拘束性能を有するカーテンエアバッグを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。
【図2】図1(b)の展開状態のカーテンエアバッグを各方向から例示する図である。
【図3】図1(b)のA−A断面図である。
【図4】図1(b)の部分拡大図である。
【図5】車外放出性能評価試験を例示する図である。
【図6】本発明の第2実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。
【図7】図6の姿勢保持部の他の取り付け例を例示する図である。
【図8】第1実施形態の変形例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。図1(a)は第1実施形態にかかるカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ100」と記載する。)の非展開時、図1(b)はエアバッグ100の展開時をそれぞれ例示する。以下すべての実施形態を、図1のように車両102の右側面用のカーテンエアバッグとして説明するが、左側面用のカーテンエアバッグも同様の対称な構造を有する。
【0024】
エアバッグ100は、図1(a)のように巻回された状態で、または折り畳まれた状態(図示省略)で、車両室内の側面部上方のルーフサイドレール104(図中、仮想線で例示する。)に取り付けられて収納される。通常、ルーフサイドレール104はルーフトリムで覆われ、車両室内からは視認不能である。ルーフサイドレール104には、ルーフ(屋根)を支える複数のピラーが接続している。これらは車両102の前方から、フロントピラー106、センタピラー108、リアピラー110と呼ばれる。
【0025】
エアバッグ100は、例えば、その表面を構成する基布を表裏で縫製したり、OPW(One-Piece Woven)を用いて紡織したりすることにより袋状に形成される。
【0026】
エアバッグ100には、ガス発生装置であるインフレータ112が備えられている。車両102に側面衝突時やロールオーバ(横転)等が発生すると、まず車両102に備えられたセンサ(図示省略)による衝撃の感知に起因して、インフレータ112へ発火信号が発信される。すると、インフレータ112の火薬が燃焼し、発生したガスがエアバッグ100へ供給される。
【0027】
エアバッグ100は、インフレータ112からのガスを受給すると、図1(b)に例示するように、車室の側面部(サイドウィンドウ114a等)に沿うように下方へ膨張展開し、乗員の保護を行う。かかるエアバッグ100によれば、前部座席116および後部座席118の乗員を同時に保護可能である。
【0028】
図2は、図1(b)の展開状態のカーテンエアバッグを各方向から例示する図である。図2(a)はエアバッグ100を車内側から見た状態で例示していて、図2(b)はエアバッグ100を車外側から見た状態で例示している。
【0029】
図2(a)に例示するように、エアバッグ100の上縁には、取付部材としてタブ120が設けられている。タブ120はエアバッグ100を車両102に取り付ける際に用いる帯状の部材である。タブ120には、車両102への締結用のボルトを通すボルト穴122が設けられている。
【0030】
膨張領域124は、ガスが流入して膨張する領域である。衝突等の非常事態時において、乗員は膨張領域124によって受け止められて拘束され、車両側面部への激突や車外への飛び出し等から保護される。膨張領域124は、非膨張領域によって複数の小部屋(チャンバ)に区画されている。非膨張領域は膨張しない領域であり、当該エアバッグ100の表裏の基布を接合するなどして構成されている。
【0031】
複数のチャンバのうち、膨張領域124の車両前後方向の中央付近のやや前方にはメインチャンバ124aが設置されている。メインチャンバ124aは、図1(b)に例示するように前部座席116の略真横において膨張展開する。メインチャンバ124aは前部座席116の乗員に対して最も近い位置に膨張展開するため、通常の側面衝突によって衝撃を受けた乗員は大抵メインチャンバ124aによって保護される。
【0032】
実施形態における端部チャンバとして、膨張領域124の車両前後方向の前側の端部にはフロントチャンバ124bが設置されている。フロントチャンバ124bは、図1(b)に例示するように前部座席空間の前側において膨張展開する。フロントチャンバ124bは、特にロールオーバ時において着座姿勢を大きく崩した前部座席116の乗員を保護する。フロントチャンバ124bは、非膨張領域であるシーム部126によって周囲の膨張領域124から区画されている。
【0033】
図2(b)に例示するように、フロントチャンバ124bは、メインチャンバ124aとガス流入口128によって繋がっている。ガス流入口128には、メインチャンバ124aからフロントチャンバ124bへ向かってガスが通過する。フロントチャンバ124bへのガスの流路はガス流入口128のみに限定されているため、フロントチャンバ124bはガスの単位時間当たりの受給量が制限されている。そのためフロントチャンバ124bは、膨張展開が他のチャンバに遅れて完了する、いわゆるディレーチャンバとなっている。
【0034】
フロントチャンバ124bは、ディレーチャンバであることでロールオーバにより対応しやすくなっている。フロントチャンバ124bは主に、ロールオーバ時に姿勢を大きく崩した乗員を拘束する。ロールオーバは側面衝突等の発生に続いて起こるため、センサによる衝突感知からフロントチャンバ124bが必要となる時点までには相応の時差が生じる。そのためエアバッグ100では、フロントチャンバ124bへのガスの供給を遅らせてロールオーバ時に最も圧力が高まるようその膨張を制御している。
【0035】
図2(a)に例示するように、フロントチャンバ124bおよびメインチャンバ124aの車内側には姿勢保持部130が設けられている。姿勢保持部130は、フロントチャンバ124bと乗員との距離が近接するよう、フロントチャンバ124bの膨張展開後の姿勢を変更させる(図3参照)。本実施形態では、姿勢保持部130はエアバッグ100のフロントチャンバ124b側(車両前方側)の末端の縁部132と、メインチャンバ124aの車両後方のシーム部134とに結合されている。なお本実施形態では、姿勢保持部130は幅広な形状であって、周囲の膨張領域等と同様の布材で構成されている。
【0036】
図3は、図1(b)のA−A断面図である。図3の姿勢保持部130が結合する縁部132からシーム部134までの距離は、姿勢保持部130なしにエアバッグ100が膨張した場合、姿勢保持部130の長さよりも長い。ここで、縁部132からシーム部134までの距離とは、エアバッグ100の外表面上における縁部132とシーム134との間の立体的な経路である。すなわち、縁部132とシーム部134とを直線で結ぶ距離ではない。これによって、姿勢保持部130が結合していることで、膨張展開時にフロントチャンバ124bは車内側に引っ張られ、シーム部126で折れ曲がったような姿勢となる。これにより、フロントチャンバ124bと乗員との距離が近接することとなる。また、姿勢保持部130からの張力が常に加えられることで、フロントチャンバ124bは乗員から受ける荷重が大きい場合にも姿勢を崩すことなく乗員を拘束することが可能となる。また、姿勢保持部130から張力を受けることで、膨張展開時においてフロントチャンバ124bの展開挙動も安定する。
【0037】
図1(b)に例示するように、姿勢保持部130はシーム部126を車両前後方向に跨いで結合されている。図3に例示するように、シーム部126は膨張しないため、周囲のフロントチャンバ124bおよびメインチャンバ124aが膨張するとシーム部126付近には谷間が形成される。すなわち、シーム部126付近は周囲のチャンバよりも車外側へ奥まってしまう。そのため、シーム部126付近では乗員との早期接触は難しい。そこで姿勢保持部130によってシーム部126付近の谷間を埋めることで、本来は谷間となる領域であっても早期との早期接触が可能となっている。
【0038】
図4は、図1(b)の部分拡大図であって、特に姿勢保持部130を拡大して例示している。図4に例示する衝突想定領域Eは、NPRM(NHTSA-2009-0183)に基づく車外放出防止性能評価試験においてインパクタ160(図5参照)の衝突目標として窓枠を基準に定められる領域である。インパクタ160とは、試験対象のエアバッグに車内側から衝突する、乗員を模擬した試験装置である。
【0039】
より詳しく述べると、衝突想定領域Eは、NPRM(NHTSA-2009-0183)、V.「Proposed Ejection Mitigation Requirements and Test Procedures」、d.「Locations Where the Device Would Impact the Ejection Mitigation Countermeasure To Asses Efficacy」、4.「Method for Determining Impactor Target Locations」で定められるターゲットロケーション(Target locations)に向けて車外放出テストを行った時に、同NPRMのV.「Proposed Ejection Mitigation Requirements and Test Procedures」で規定されるインパクタが通過する可能性のある領域である。この衝突想定領域の打点中心は、同NPRMで記載されている各ターゲットの中心の打点位置、たとえばA1〜A4などに示されている各ポイントによって定義される。
【0040】
なお、本願明細書で示される規則策定通知(NPRM:Docket No. NHTSA-2009-0183)は、正式に制定されたFMVSS226の基になっている。
【0041】
NPRM(NHTSA-2009-0183)に基づく側面衝突試験時には、試験装置であるインパクタ160を、カーテンエアバッグ上に設定した所定の打点に衝突させてカーテンエアバッグの安全性を評価する(車外放出防止性能評価試験)。特に、サイドウィンドウ114aの最も前方における打点(衝突想定領域Eの中心)はA1打点と称される。姿勢保持部130は、衝突想定領域Eを覆う位置に取り付けられる。
【0042】
図3に例示するように、姿勢保持部130は、車両幅方向において最も車内側に位置する部位である。そのため、姿勢保持部130で乗員と接触すれば、乗員の早期拘束が可能になる。特に本実施形態では、フロントチャンバ124bのうち、衝突想定領域Eを覆う位置に姿勢保持部130を取り付けている。これにより、インパクタ160との早期接触、ひいては乗員の早期拘束を図っている。
【0043】
再び図2(b)を参照する。エアバッグ100の車両前方側にはストラップ136が設けられている。ストラップ136は、膨張展開したエアバッグ100の姿勢を車両側面部に沿わせるように保持する紐状の部材である。図1(b)に例示するように、ストラップ136は、フロントピラー106に連結される。
【0044】
図2(b)に例示するように、ストラップ136はエアバッグ100の車外側であって、エアバッグ100のフロントチャンバ124b側である車両前方の末端よりも中央側の領域に取り付けられる。本実施形態において、ストラップ136のエアバッグ100への取付位置はシーム部126である。シーム部126は、エアバッグ100の表裏の基布が接合していて、膨張領域124よりも強度が高くなっている。したがって、ストラップ136を好適に取り付けることが可能である。
【0045】
図3に例示するように、ストラップ136が取り付けられるフロントピラー106は、シーム部126から見て、エアバッグ100の末端よりもさらに離れた位置である。フロントピラー106は、サイドウィンドウ114aよりも車内側に突出している。ストラップ136は、膨張展開後のエアバッグ100によって車両前後方向に緊張する形状となっている。フロントチャンバ124bは、ストラップ136に重畳して膨張展開することで、より車内側へ膨張展開することが可能となっている。またフロントチャンバ124bは、ストラップ136によって車外側への移動が妨げられるため、乗員との接触時の車外側への移動量が減少している。したがって、前述の姿勢保持部130と組み合わせることで、乗員の車外放出防止性能を向上させることが可能となる。
【0046】
図5は、車外放出性能評価試験を例示する図である。図5は図3に対応していて、本実施形態にかかるエアバッグ100と、従来のカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ10」と記載する。)を比較して例示している。なお、車両放出性能評価試験はサイドウィンドウを開口または取り払った状態で行われるため、図5ではサイドウィンドウを仮想線で示している。
【0047】
NPRM(NHTSA-2009-0183)に基づく車外放出防止性能評価試験では、図5(a)に例示するように、乗員を模擬したインパクタ160、12をエアバッグ100、10上の各打点に車内側から衝突させ、インパクタ160、12の車外側への移動量を測定する。移動量の測定は、インパクタ160、12がサイドウィンドウの内面に触れている状態におけるインパクタ160の最も車外表面に接している垂直面を基準として行われる。図5(a)では、図3に例示したA1打点をインパクタ160、12の衝突目標とした場合を例示している。
【0048】
エアバッグ100およびエアバッグ10ともに、フロントチャンバ124b、14の車外側ではストラップ136、16が車両前後方向に緊張している。そのため、フロントチャンバ124b、14に車内側からインパクタ160、12が衝突すると、フロントチャンバ124b、14はストラップ136、16に押し付けられる。その際、姿勢保持部130を設けていない従来のエアバッグ10では、フロントチャンバ14はシーム部18を中心にして車内側へ回転するように姿勢が変動する。
【0049】
一方、本実施形態のエアバッグ100では、姿勢保持部130によってフロントチャンバ124bには常に張力が加えられる。したがって、インパクタ160が接触してもフロントチャンバ124bの車内側に偏った姿勢は崩れることなく保持される。そのため、インパクタ12と比較して、インパクタ160の車外側への移動量は距離D1程度減少している。
【0050】
車外放出防止性能評価試験では、インパクタはエアバッグ上の複数箇所に衝突させて評価を行う。例えば、図5(b)のように、図3に例示したシーム部126付近にインパクタ160が衝突する場合もある。
【0051】
シーム部126、18は膨張しないため、シーム部126、18の付近には谷間が形成される。そのため、エアバッグ10として例示するように、シーム部18付近ではインパクタ12との接触がより車外側の位置で生じてしまう。一方、本実施形態のエアバッグ100では、姿勢保持部130によってシーム部126付近の谷間が埋められている。これにより、本来は谷間となる領域であっても、姿勢保持部130によってエアバッグ10よりも距離D2程度に車内側の位置でインパクタ160と接触可能となっている。
【0052】
上記説明したように、エアバッグ100のフロントチャンバ124bであれば、乗員と早期に接触可能であって、乗員との接触時にも姿勢を崩すことなく高い乗員拘束性能を発揮可能である。
【0053】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。図5は図4に対応していて、第2実施形態にかかるカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ200」と記載する。)の車両前側付近を車内側から見て例示している。図6に例示するエアバッグ200は、姿勢保持部230の形状において第1実施形態のエアバッグ100と異なる。
【0054】
姿勢保持部230は、第1実施形態の姿勢保持部130よりも幅の細い帯形状である。姿勢保持部230は、衝突想定領域Eの中心(A1打点)を通過するように取り付けられる。帯形状の姿勢保持部230であっても、図3と同様にフロントチャンバ124bを車内側に移動させて乗員の早期拘束を可能にし、図5のエアバッグ100と同程度の車外放出防止性能を発揮することが可能である。また、姿勢保持部230は帯形状の簡潔な構成であるため、姿勢保持部230に使用する材料を抑えることが可能である。したがって、製造コストの低下に資することができる。
【0055】
なお、姿勢保持部230は複数の打点を通過するように取り付けることも可能である。図7は、図6の姿勢保持部230の他の取り付け例を例示する図である。図7に例示するように、A1打点と、A1打点よりも車両後方かつ上方のA3打点を通過するよう、車両前後方向に傾斜させた姿勢で取り付けることも可能である。このように姿勢保持部230を取り付けることで、乗員が衝突する可能性の高い領域を広くより車内側へ位置させることが可能となる。
【0056】
(各実施形態の変形例)
上記各実施形態に共通する変形例を、第1実施形態を例に挙げて説明する。図8は、第1実施形態の変形例を例示する図である。図8(a)は図2(a)に対応し、図8(b)は図3に対応している。図8に例示するエアバッグ300は、姿勢保持部130の他に、さらに第2姿勢保持部330を備える点において、図2(a)等のエアバッグ100と異なっている。
【0057】
図8(a)に例示する第2姿勢保持部330は、姿勢保持部130上の所定の位置と、姿勢保持部130から離れた位置とに結合される。その際、第2姿勢保持部330は、第2姿勢保持部330の長さ分よりも離れた位置間に結合される。図8(a)では、第2姿勢保持部330の後端は、シーム部332に取り付けられている。
【0058】
図8(b)に例示するように、第2姿勢保持部330を備えることで、姿勢保持部130が結合している領域はさらに車内側へ引っ張られる。また、第2姿勢保持部330によって車両中央側のシーム部134付近の谷間が埋められ、この谷間付近での乗員との早期接触が可能となっている。このように、第1の姿勢保持部に重ねてさらに第2の姿勢保持部を取り付けることで、より広い領域においてエアバッグと乗員との距離が近くなる。これにより、乗員の車外放出防止性能をさらに向上させることが可能である。
【0059】
なお、上記実施形態では、端部チャンバとしてフロントチャンバを挙げて説明した。しかし、本発明の技術的思想は、車両後方側の端部チャンバであるリアチャンバに適用し、後部座席の側方においてエアバッグと乗員との距離を近接させることも可能である。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0061】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
また、上記実施形態においては本発明にかかるカーテンエアバッグを自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車両室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 …エアバッグ、14 …フロントチャンバ、18 …シーム部、100 …エアバッグ、102 …車両、104 …ルーフサイドレール、106 …フロントピラー、108 …センタピラー、110 …リアピラー、112 …インフレータ、114a …サイドウィンドウ、116 …前部座席、118 …後部座席、120 …タブ、122 …ボルト穴、124 …膨張領域、124a …メインチャンバ、124b …フロントチャンバ、126 …シーム部、128 …ガス流入口、130 …姿勢保持部、132 …縁部、136 …ストラップ、160 …インパクタ、200 …エアバッグ、230 …姿勢保持部、300 …エアバッグ、330 …第2姿勢保持部、332 …シーム部、A1、A3 …打点、D1、D2 …距離、E …衝突想定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内の側面部上方に収納され、該側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグであって、
当該カーテンエアバッグのうちガスが流入して膨張する膨張領域の車両前後方向の少なくとも一方の端部に非膨張領域によって区画された端部チャンバと、
当該カーテンエアバッグの車内側において、前記端部チャンバ上および周囲の膨張領域上の位置に、前記非膨張領域を跨いで結合される姿勢保持部と、を備え、
前記姿勢保持部が結合する位置間の距離は、該姿勢保持部なしに当該カーテンエアバッグが膨張展開した場合に、該姿勢保持部の長さより長いことを特徴とするカーテンエアバッグ。
【請求項2】
当該カーテンエアバッグの車外側であって当該カーテンエアバッグの前記端部チャンバ側の末端よりも中央側の領域と、該末端よりもさらに当該カーテンエアバッグから離れた位置であってサイドウィンドウよりも車内側に突出するピラーとに連結されるストラップをさらに備え、
前記ストラップは、膨張展開後の当該カーテンエアバッグによって車両前後方向に緊張する形状を有することを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項3】
前記ストラップの当該カーテンエアバッグへの取付位置は、前記非膨張領域であることを特徴とする請求項2に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項4】
前記姿勢保持部は幅広な形状であって、車外放出防止性能評価試験において乗員を模擬したインパクタの衝突目標となる衝突想定領域を覆って取り付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項5】
前記姿勢保持部は帯形状であって、車外放出防止性能評価試験において乗員を模擬したインパクタの衝突目標となる衝突想定領域に対し、該衝突想定領域の中心を通過するように設置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項6】
前記姿勢保持部上の所定の位置と、該姿勢保持部から離れた位置とに結合される第2姿勢保持部をさらに備え、
前記第2姿勢保持部は、該第2姿勢保持部の長さ分よりも離れた位置間に結合されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96780(P2012−96780A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200763(P2011−200763)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】