説明

カードコネクタ

【課題】プッシュイン・プッシュアウト機構を有するカードコネクタの低背化および小型化を容易にする。
【解決手段】プッシュイン・プッシュアウト機構16において、カム要素20はハート形カム25、その周りのカム溝26を有し、揺動アーム21の自由端21aがカム溝26と滑合しカム溝26を滑らかに摺動する。カム溝26は、直線状ガイド溝27の一部、第1の傾斜面28、第1の凸所29、第1の凹所30、第2の傾斜面31、第2の凸所32、第2の凹所33、第3の傾斜面34、第3の凸所35、第3の凹所36、第4の傾斜面37、第4の凸所38からなる。自由端21aはこれ等の順に一方向に摺動する。各凸所から凹所へはステップ状の一段で連なり、浅い面である凸所と深い面である凹所の間の位置高低差は上記一段分の寸法になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器、情報端末機器等に取り付けられるカードコネクタに係り、特に携帯機器に使用され微小化するSDカード、SIMカード等のICカードに対応した小型化が容易なカードコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、カメラ、録音機、携帯電話、携帯型オーディオ、PDA(Personal Digital Assistance)等の電子機器や情報端末機器等において、情報の記録、伝達あるいは処理に用いられるICチップと呼ばれるIC部品が組込まれたPCカード、SDカード、SIMカード(各商品名)等のICカードの利用が増大してきている。通常、これ等のICカードは上記機器に取り付けられたカードコネクタに装着され使用される。そして、高機能化あるいは多機能化と共にその小型化が進む携帯機器にあって、特にSDカードやSIMカード等の小型のメモリカードが装着されるカードコネクタの小型化が広く求められている。
【0003】
このようなカードコネクタは、通常、カードの挿抜のためのカード受口、カードを収容しカードに内蔵された例えばICと電気接続するコンタクトが設けられたコネクタハウジングを有する。ここで、ICカードの装着における利便性および安全性から、カードのコネクタハウジング内への挿入/ロック、およびコネクタハウジングからの排出(イジェクト)をカードの後端部の押圧のみで行えるようにした、いわゆるプッシュイン・プッシュアウト機構を備えたカードコネクタが主流になってきている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
このプッシュイン・プッシュアウト機構を有する従来のカードコネクタの一例について図8ないし図10を参照しその主要部を説明する。図8は従来におけるカードコネクタの外観斜視図であり、図9はカードコネクタのカバー部材である上ハウジング部材を取り外し、その本体である下ハウジング部材とカードプッシュ部材を分解して示した斜視図である。図10は、カードコネクタのプッシュイン・プッシュアウト機構においてカードのロック、イジェクトに用いられるカム要素の一例を示し、(a)はカム要素の概略平面図、(b)はハート形カムの周りのカム溝の段差図である。
【0005】
図8,9に示すように、従来におけるカードコネクタは、コネクタ本体である下ハウジング部材101、この下ハウジング部材101と組合されてコネクタハウジングを形成するカバー部材の上ハウジング部材102、カードコネクタのプッシュイン・プッシュアウト機構103、カードの電極部と電気接続する複数個のコンタクト104を有している。ここで、下ハウジング部材101は、適宜な合成樹脂材料などの絶縁材料によって成形して作られ、金属板材料の上ハウジング部材102と組合され中空の偏平なカード収容スペースを形成する。そして、カード受口105が上記カード収容スペースに対するカード200の挿抜口として作られている。
【0006】
このようなカードコネクタにおいて、コンタクト104では、その複数の端子部104aがカードコネクタの取り付けられた機器の回路基板の配線にハンダ接合される。そして、上記端子部104のカード挿入方向に延在した弾性接片から成る複数の接点部104bが、カード200の裏面に配置した電極部である複数の電極パッド(不図示)に加圧接触するようになっている。
【0007】
そして、図9に示すように、プッシュイン・プッシュアウト機構103は、下ハウジング部材101の一方の側の縁辺に沿って滑動可能に装着されたカードプッシュ部材106、その前端部に取り付けられたカード係合部107、カードプッシュ部材106を弾性付勢するバネ部材108を備えている。更に、プッシュイン・プッシュアウト機構103は、下ハウジング部材101の側縁の下板部に形成したカム要素109、カム要素109に滑合する揺動アーム110を有している。
ここで、カードプッシュ部材106は、バネ部材108、そしてカム要素109により適正に案内されカード挿抜方向に直線往復動できるようになっている。
【0008】
カード200のプッシュインでは、カード200は、カード200の後端部の押圧により、バネ部材108の弾発に抗してカード受口105から挿入される。この挿入では、カード200の前端のコーナー部に設けられたカード挿入姿勢指示用斜面(受圧斜面)200aがカード係合部107の加圧斜面107aを押圧する。そして、カードプッシュ部材106は、カード係合部107の前端面107bが下ハウジング部材101の前壁に達するまで、バネ部材108の弾発力に抗してカード200の挿入方向に移動する。ここで、このバネ部材108は、その一端がカードプッシュ部材106の前端に取り付けられ、その他端が下ハウジング部材101の前壁から突出したバネ受け突起111に外挿されてその位置決めがなされている。
【0009】
一方、カード200のプッシュアウトでは、カード200の後端部の再押圧により、今度はカードプッシュ部材106がバネ部材108にてカード200の排出方向に弾発され移動する。そして、カードプッシュ部材106の後端面がストッパー112に達するまで排出方向に移動する。
【0010】
上記カードプッシュ部材106の挿入方向あるいは排出方向の移動の切り替えは、カム要素109の案内構造によりなされる。ここで、上記揺動アーム110は、カードプッシュ部材106の後端側にその基端が回動可に支承され、その自由端がカム要素109のカム溝に係合している。この揺動アーム110がカードプッシュ部材106を案内し、その挿入方向あるいは排出方向の移動の切り替え、そしてカードプッシュ部材106の後述される錠止等を行う。
【0011】
このカム要素109の構造とその動作について図10を参照して説明する。カム要素109はハート形カム113の周りに掘られたカム溝114を有する。そして、揺動アーム110の自由端110aがカム溝114と滑合している。カード200のプッシュインでは、図10(a)の矢印で示すように、上記自由端110aが、直線状ガイド溝115から下ガイド溝116、一定の傾斜角度の第1の傾斜面117を通り溝凸所118に上る。そして、この自由端110aは、その後に第1の段差Aを垂直降下してカードロック作動開始用ガイド溝119に進む。この一連の動きに案内されて、カードプッシュ部材106がカード200を挿入状態にする。
【0012】
更に、自由端110aは、第2の段差Bを垂直降下してハートカム係合用凹所120においてハートカム係止部113aで係止されこの位置で安定して固持される。このようにして揺動アーム110が係止されカードプッシュ部材106が錠止される。この状態でカード200がロック状態になり、下ハウジング部材101に取り付けられたコンタクト104にカード200の電極パッドが安定的に接続し、カード200がカードコネクタに装着される。
【0013】
そして、カード200のプッシュアウトでは、自由端110aはハートカム係合用凹所120のハートカム係止部113aから離脱し、第3の段差Cを垂直降下して、カム溝114における最深部のカードイジェクト作動開始用ガイド溝121に進む。そして、カードプッシュ部材106の錠止が解除される。以後は、自由端110aはバネ部材108の弾発に従って第2の傾斜面122を通り上ガイド溝123に上り、更に第4の段差Dを垂直降下して下ガイド溝116から元の直線状ガイド溝115に戻る。この一連の動きによりカードプッシュ部材106がカード200をイジェクトさせることになる。
【0014】
上述したように、従来のカム要素109では、ハート形カム113の周囲に形成されるカム溝114の底面は、カードプッシュ部材106がカード挿抜方向に適正に直線往復動できるように、第1の段差A〜第4の段差Dを備えている。この4個の段差により、カム溝114に滑合している自由端110aは、カム溝114を逆行すること無くそれに沿って一定方向に摺動し、カードプッシュ部材106を上述したように適正に案内するようになっている。このため、従来のカム要素109では、図10(b)に示しているように、カム溝114における溝凸所118からその最深部であるカードイジェクト作動開始用ガイド溝121まで、少なくとも第1の段差A〜第3の段差Cによって形成されるカム溝114底面の位置高低差が必須になっている。
【特許文献1】特開2000−251025号公報
【特許文献2】特開2004−95449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、このような従来のプッシュイン・プッシュアウト機構を有するカードコネクタにおいては、上述したように、プッシュイン・プッシュアウト機構を構成するカム要素のカム溝底面が少なくとも3段から成る位置高低差を必要とし、この位置高低差がカム要素の薄型化あるいは低背化を制約するようになる。そして、例えばminiSDカード、microSDカード(各商品名)といわれる微小化したSDカードやSIMカード等のように、その肉厚が1mm以下になりその平面寸法が10mm〜15mm程度以下に微小化してくると、上記カム要素の薄型化の制約からカードコネクタの低背化およびその小型化の限界が顕在化するという大きな問題があった。
【0016】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その低背化が容易になる新規なカム要素を実現させ、従来に増して低背化および小型化するカードコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明にかかるカードコネクタは、下ハウジング部材と上ハウジング部材とによってハウジング形状のカード収容スペースが形成され、押圧によりカードを前記カード収容スペースに挿入してロックし、更にその再押圧により前記カードを前記カード収容スペースから排出してイジェクトするプッシュイン・プッシュアウト機構が設けられたカードコネクタにおいて、前記プッシュイン・プッシュアウト機構は、前記カードの挿入方向および排出方向に往復運動するカードプッシュ部材、該カードプッシュ部材を弾性付勢するバネ部材、前記カードプッシュ部材の往復運動を案内するカム要素を備え、前記カム要素は、ハート形カムおよび該ハートカムの周りにループ状に設けられたカム溝により形成され、該カム溝の底面は、深い面、傾斜面、浅い面およびステップ状の段部がこの順に繰り返して形成され、前記カードプッシュ部材の往復運動の案内は、前記カム溝底面の前記深い面、傾斜面、浅い面およびステップ状の段部をこれ等の順に一方向に摺動する揺動アームによって行われる、という構成になっている。
【0018】
そして、上記発明の好適な態様では、前記カム要素は前記下ハウジング部材に設けられ、前記揺動アームはその一端が前記カードプッシュ部材に揺動可能に支承され、その他端が前記カム溝に沿って摺動する、という構成になっている。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、その低背化を容易にする新規なカム要素が実現し、従来に増して低背化および小型化したカードコネクタが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。図1ないし図4は、本実施形態のカードコネクタの一例を示す図であって、図1は、カードコネクタの全体を示した外観斜視図であり、図2は、図1に示すカードコネクタのカバー部材である上ハウジング部材を取り外して示した斜視図である。そして、図3は、図2に示したカードコネクタの平面図であり、図4は、図3に示した領域Pの拡大部分図である。これ等の図面において、その要部に符号が付され、また互いに同一または類似の部分は共通の符号になっている。
【0021】
図1ないし図3に示されるように、本実施形態のカードコネクタ10は、コネクタ本体としての下ハウジング部材11と、この下ハウジング部材11と組合されるカバー部材としての上ハウジング部材12とにより中空で扁平なカード収容スペース13を有するハウジング形状に構成されている。ここで、下ハウジング部材11は加工性に優れた絶縁性の合成樹脂材料の成形により作られ、上ハウジング部材12は例えばステンレス等の金属板材料または絶縁性の合成樹脂材料により作られる。上ハウジング部材12は金属板材料で作る方が薄型化、強度、打ち抜き曲げ加工などの加工性において好適である。
【0022】
そして、上記ハウジングの後端部にカード受口14が上記カード収容スペース13に対するカード挿抜口として作られている。更に、下ハウジング部材11にはカードの電極パッドと加圧接触するための多数のコンタクト15が植設されている。このコンタクト15は、その複数の端子部15aがカード受口14の領域に形成され、機器の回路基板の配線にハンダ接合されるようになっている。なお、複数の端子部15aは、カード受口14の領域に形成されることとは限らず、ハウジングの前端部に形成されても良い。また、端子部15aからカード挿抜方向に伸びる弾性接片から成る複数の接点部15bがカード収容スペース13内に形成され、その弾性変位によりカードの電極パッドと加圧接触する。
【0023】
また、図2,3に示すようなプッシュイン・プッシュアウト機構16が下ハウジング部材11の一側縁に設けられている。このプッシュイン・プッシュアウト機構16は、下ハウジング部材11の側縁辺に沿いカード挿抜方向に進退動可に配置されたスライダーとしてのカードプッシュ部材17、該カードプッシュ部材17を弾性付勢するバネ部材18を備えている。ここで、カードプッシュ部材17は、例えば加工性に優れた液晶ポリマーのような合成樹脂から成る。そして、その下部領域にカード挿抜方向に延在するスライドガイド(不図示)が設けられ、ガイドスロット19と滑合してカードプッシュ部材17がスライダーとして直線往復運動できるようになっている。また、その中央領域に、カード挿抜方向に対し例えば一定角度に傾斜した加圧斜面17aが形成されている。
【0024】
更に、プッシュイン・プッシュアウト機構16は、下ハウジング部材11の側縁の下板部に形成したカム要素20、該カム要素20に係合する揺動アーム21を有している。ここで、カム要素20の形成される下板部は例えば加工性に優れる液晶ポリマーのような合成樹脂から成る。また、揺動アーム21はステンレス等の金属製が強度的に好ましく、その基端がカードプッシュ部材17の前端領域に形成された孔17bに回動可に支承され、その自由端がカム要素20のカム溝に滑合されている。そして、カードプッシュ部材17は、バネ部材18とカム要素20により適正にカード挿抜方向に直線往復動できるようになっている。
【0025】
カードのカードコネクタ10への挿入すなわちプッシュインでは、例えばmicroSDカードは、その後端部の押圧により、コイルスプリングのような圧縮バネを有するバネ部材18の弾発に抗してカード受口14から挿入される。この挿入においては、カードの前端のコーナー部に設けられたカード挿入姿勢指示用斜面である受圧斜面がカードプッシュ部材17の加圧斜面17aを押圧する。なお、カードが誤って後端から方向から挿入された場合、カードの後端部分が加圧斜面17aに当接することとなる。このためカードの後端がコンタクトに接触する位置まで挿入されることを防ぐことができる。そして、カードプッシュ部材17は、その前端面17cが下ハウジング部材11の隔壁縁端22に達するまでカードの挿入方向に移動する。上記バネ部材18は、その一端がカードプッシュ部材17の後端に取り付けられ、その他端が下ハウジング部材11の側縁から突出したバネ受け突起23に外挿されてその位置決めがなされている。
【0026】
そして、カードのカードコネクタ10からの排出すなわちプッシュアウトでは、カード後端の再押圧により、カードプッシュ部材17がバネ部材18にてカードの排出方向に弾発され移動する。そして、カードプッシュ部材17の後端面がストッパー24に達するまで排出方向に移動する。
【0027】
ここで、カードプッシュ部材17の挿入方向あるいは排出方向の移動の切り替えは、本実施形態の特徴的技術事項であるカム要素20案内によってなされる。このカム要素20の構造をその基本動作と共に図4を参照して説明する。図4は、カードコネクタ10のプッシュイン・プッシュアウト機構16においてカードのロック、イジェクトに用いられるカム要素の一例を示し、(a)はカム要素の概略平面図、(b)はハート形カム周りのカム溝の段差図である。
【0028】
下ハウジング部材11の下板部に設けられたカム要素20はハート形カム25が突出するようにその周りに掘られたカム溝26を有し、上述したように揺動アーム21の自由端21aがカム溝26と滑合し、自由端21aがカム溝26内を滑らかに摺動する。また、揺動アーム21は、図1に示す上ハウジング部材12の天板部の所定箇所に設けられたアーム押え12aにより押圧され、その自由端21aがカム溝26内から離脱することはない。このアーム押え12aは弾力性を備えたステンレス等の金属条片になっている。
【0029】
カードのプッシュインでは、揺動アーム21の自由端21aは、カム溝26底面の一部を構成し深い面に相当する待機状態になる直線状ガイド溝27から、カム溝26底面を構成している一定の傾斜角度の第1の傾斜面28を通り、その浅い面となる第1の凸所29に上る。その後、この自由端21aは、一段の垂直降下部29aを経て深い面となる第1の凹所30に進む。この第1の凹所30が従来の技術で説明したカードロック作動開始用ガイド溝119に相当している。この一連の動きが従来技術で説明したカードの挿入状態に対応する。
【0030】
次に、自由端21aは、第2の傾斜面31を通り浅い面となる第2の凸所32に上る。そして、同じ一段の垂直降下部32aを経て深い面となる第2の凹所33に進む。この第2の凹所33が従来のハートカム係合用凹所120に相当する。揺動アーム21はハート形カムの窪み部であるハートカム係止部25aで係止され、この第2の凹所33における位置で安定して固持される。このようにして揺動アーム21が係止されカードプッシュ部材17が錠止される。この状態がカードのロック状態であり、下ハウジング部材11に取り付けられたコンタクト15にカードの電極パッドが安定的に接続し、カードがカードコネクタ10に装着される。
【0031】
そして、カードのプッシュアウトでは、自由端21aは第2の凹所33のハートカム係止部25aによる係止から離脱し、第3の傾斜面34を通り浅い面となる第3の凸所35に上る。その後に、同じ一段の垂直降下部35aを経て深い面となる第3の凹所36に進む。この第3の凹所36が従来の技術のカードイジェクト作動開始用ガイド溝121に相当する。この第3の凹所36においてカードプッシュ部材17の錠止が完全に解除される。そして、以後は、自由端21aはバネ部材18の弾発に従い、第4の傾斜面37を通り浅い面となる第4の凸所38に上り、その後に、同じ一段の垂直降下部38aを経て元の待機状態となる直線状ガイド溝27に戻る。この一連の動きによりカードプッシュ部材17がカードをイジェクト作動させる。
一連の傾斜面28,31,34,37は揺動アーム21の自由端21aの進行方向に対して上り傾斜面を形成し、一連の垂直降下部29a,32a,35a,38aは自由端21aの逆行を阻止するロック壁を形成する。垂直降下部の深い面に対する角度は自由端をロック可能であれば厳密に垂直でなくてもよい。
【0032】
このようにして、カム要素20において、そのカム溝26に滑合している自由端21aは、カム溝26を逆行すること無くそれに沿って一定方向に摺動し、カードプッシュ部材17を上述したように適正に案内する。
【0033】
上述したように、本実施形態のカム要素20では、ハート形カム25の周囲に形成されるカム溝26の底面は、図4(b)に明示したように、基本的には一段の位置高低差しかない。すなわち、直線状ガイド溝27を含み、第1の凹所30、第2の凹所33および第3の凹所36から成る深い面と、第1の凸所29、第2の凸所32、第3の凸所35および第4の凸所38から成る浅い面との間の一段差である。このために、本実施形態のカードコネクタ10では、図10で説明したような従来のカム要素を有するカードコネクタに較べて、カム要素に必要な厚さが低減でき、その薄型化あるいは低背化が極めて容易になる。
また、浅い面を設けることにより、傾斜面の頂点部にかかる揺動アーム21の自由端21aの力を面で受けることができるため、繰り返しプッシュイン・プッシュアウト機構16を動作させた場合、傾斜面の頂点部の磨耗を軽減できる。
【0034】
例えば、カム溝における一段の段差が0.1mm程度とすると、従来の技術では上述したように、少なくとも第1の段差A〜第3の段差Cにより形成されるカム溝114の位置高低差は0.3mmになる。これに対して、本実施形態のカム溝の高低差は一段の段差0.1mmとなり0.2mmの低背化を可能とする。ここで、microSDカードのようにカードの肉厚が0.7mm程度になり、カードコネクタ10の厚さが2.0mm程度に薄くなってくると、従来技術に較べた本実施形態における上記0.2mmの低背化は、カードコレクタ厚さの10%強の低減になり大きな効果を有するようになる。このような低減効果は、カードが更に微小化しそのカードコネクタが小型化すると更に顕著なものになる。このように、本実施形態のカードコネクタ10は、その低背化および小型化において極めて有効になってくる。
【0035】
上記実施形態では、カム溝26底面を構成し深い面である直線状ガイド溝27の一部、第1の凹所30、第2の凹所33および第3の凹所36の高さ位置が同一となる場合について説明している。また、カム溝26底面を構成する浅い面である、第1の凸所29、第2の凸所32、第3の凸所35および第4の凸所38の高さ位置が同一となる場合について説明している。本発明では、これ等の深い面の高さ位置はそれぞれに少し異なるようになっていてもよい。同様に、これ等の浅い面の高さ位置はそれぞれに少し異なるようになっていても構わない。
【0036】
次に、本実施形態のカードコネクタ10へのカードの押圧および再押圧によるカードのロック、イジェクトの動作機構について図5ないし図7を参照して説明する。ここで、図5(a)は、カードをロック可能な状態まで挿入した状態を示す平面図であり、図5(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構16の拡大図である。図6(a)は、カードをロック状態に挿入した状態を示す平面図であり、図6(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構16の拡大図である。そして、図7(a)は、カードをイジェクト可能な状態まで再挿入した状態を示す平面図であり、図7(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構16の拡大図である。
【0037】
なお、上記カードのカードコネクタ10内への挿入においては、図3に示すように、下ハウジング部材11の他側縁に設けられているスイッチ39が働き、カード挿入の信号がカードコネクタ10を取り付けている機器に伝送されるようになっている。
【0038】
図3に示したように、カード収容スペース13内にmicroSDカード40を収容していない時においては、カードプッシュ部材17はバネ部材18の弾発力により後退し、カード受口14の一端に下ハウジング部材11と一体に設けたストッパー24に当接して待機状態となっている。
【0039】
図5(a)に示すように、microSDカード40の前端面を下ハウジング部材11の前壁41に当接するまでmicroSDカード40を挿入する時、この挿入に伴い受圧斜面40aがカードプッシュ部材17の加圧斜面17aを押圧し、バネ部材18を圧縮させながらカードプッシュ部材17を前進させる。
【0040】
この時、揺動アーム21は、図5(b)に示すようにカードプッシュ部材17と一緒に前進し、同アーム21の自由端21aをカム要素20におけるカム溝の軌道に従い、カードロック作動可能な状態になる第1の凹所30の位置まで進み、microSDカード40はロック状態可能な状態になる。
【0041】
次に、図6(a)に示すように、microSDカード40に対する押圧力を解除すると、カードプッシュ部材17および揺動アーム21はバネ部材18の弾発力により僅かに後退し、ハート形カム25のハートカム係止部25aに係合して後退を停止する。そして、揺動アーム21の自由端21aは第2の凹所33で係止される。
【0042】
この結果、microSDカード40は所定の挿入位置に停止しロック状態になる。そして、その電極パッド(不図示)はコンタクト15の接触部15bに加圧接触した状態に保たれる。
【0043】
次に、図7(a)に示すように、microSDカード40を挿入方向へ再押圧して受圧斜面40aにより加圧斜面17aを押圧する。この押圧によりカードプッシュ部材17はバネ部材18を圧縮しつつ前壁41に当接するまで僅かに前進する。この時、揺動アーム21はカードプッシュ部材17と一緒に前進し、第2の凹所33から脱出し第3の凹所36に進み、ロック解除可能な状態を形成する。
【0044】
次に、上記microSDカード40の挿入方向への押圧力を解除すると、カードプッシュ部材17はバネ部材18の弾発力により後退し、加圧斜面17aが受圧斜面40aを押圧し、microSDカード40をカード受口14より一定量突出させる。即ちカードイジェクトを行う。この時、上記揺動アーム21の自由端21aはカム要素20のカム溝26に沿い直線状ガイド溝27に戻り、この揺動アーム21に案内されてカードプッシュ部材17が一緒に後退する。このようにして、microSDカード40はカード受口14より突出される。
【0045】
本実施形態では、上述したようにカム要素20の薄型化あるいは低背化が容易になり、微小化するカードに対応したカードコネクタの低背化および小型化が可能になる。そして、このカム要素20を備えたプッシュイン・プッシュアウト機構により、カードの押圧および再押圧によるカードのロック、イジェクトの動作が確実に行える。このようにして、電子機器あるいは携帯機器に使用される微小化したICカードの利便性および安全性が向上する。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0047】
例えば、カム要素20は、上記実施形態では下ハウジング部材11に設けられているが、逆にカードプッシュ部材17の前端領域に設け、揺動アーム21は、その基端が下ハウジング部材11の前端領域に形成した孔に回動可に支承され、その自由端が上記カードプッシュ部材17の前端領域のカム要素20のカム溝に滑合されるように配置してもよい。
【0048】
また、上記プッシュイン・プッシュアウト機構において、カードプッシュ部材17を弾発させるバネ部材18として、伸縮バネを有する構造にしてもよい。この場合、下ハウジング部材11の側縁辺に取り付けられるカードプッシュ部材17、バネ部材18、カム要素20等の配置は、実施形態で説明したものと異なってくる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態にかかるカードコネクタを示す全体の斜視図である。
【図2】図1のカードコネクタのカバー部材である上ハウジング部材を取り外して示した斜視図である。
【図3】図2に示したカードコネクタの平面図である。
【図4】本発明の実施形態にかかるプッシュイン・プッシュアウト機構のカム要素の一例を示し、(a)は図3に示した領域Pの拡大部分図、(b)はハート形カムの周りのカム溝底面の段差図である。
【図5】カードをロック可能な状態まで挿入した状態を示す平面図であり、(a)はその全体図、(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構の拡大図である。
【図6】カードをロック状態にした状態を示す平面図であり、(a)はその全体図、(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構の拡大図である。
【図7】カードをイジェクト可能な状態まで再挿入した状態を示す平面図であり、(a)はその全体図、(b)はそのときのプッシュイン・プッシュアウト機構の拡大図である。
【図8】従来におけるカードコネクタの外観斜視図である。
【図9】図8のカードコネクタのカバー部材である上ハウジング部材を取り外し、その本体である下ハウジング部材とカードプッシュ部材を分解して示した斜視図である。
【図10】従来のカードコネクタのプッシュイン・プッシュアウト機構においてカードのロック、イジェクトに用いられるカム要素の一例を示し、(a)はカム要素の概略平面図、(b)はハート形カムの周りのカム溝底面の段差図である。
【符号の説明】
【0050】
10…カードコネクタ,11…下ハウジング部材,12…上ハウジング部材,12a…アーム押え,13…カード収容スペース,14…カード受口,15…コンタクト,15a…端子部,15b…接触部,16…プッシュイン・プッシュアウト機構,17…カードプッシュ部材,17a…加圧斜面,17b…孔,17c…前端面,18…バネ部材,19…ガイドスロット,20…カム要素,21…揺動アーム,21a…自由端,22…隔壁縁端,23…バネ受け突起,24…ストッパー,25…ハート形カム,25a…ハートカム係止部,26…カム溝,27…直線状ガイド溝,28…第1の傾斜面,29…第1の凸所,30…第1の凹所,31…第2の傾斜面,32…第2の凸所,33…第2の凹所,34…第3の傾斜面,35…第3の凸所,36…第3の凹所,37…第4の傾斜面,38…第4の凸所,39…スイッチ,40…microSDカード,40a…受圧斜面,41…前壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下ハウジング部材と上ハウジング部材とによってハウジング形状のカード収容スペースが形成され、押圧によりカードを前記カード収容スペースに挿入してロックし、更にその再押圧により前記カードを前記カード収容スペースから排出してイジェクトするプッシュイン・プッシュアウト機構が設けられたカードコネクタにおいて、
前記プッシュイン・プッシュアウト機構は、前記カードの挿入方向および排出方向に往復運動するカードプッシュ部材、該カードプッシュ部材を弾性付勢するバネ部材、前記カードプッシュ部材の往復運動を案内するカム要素を備え、
前記カム要素は、ハート形カムおよび該ハートカムの周りにループ状に設けられたカム溝により形成され、該カム溝の底面は、深い面、傾斜面、浅い面およびステップ状の段部がこの順に繰り返して形成され、
前記カードプッシュ部材の往復運動の案内は、前記カム溝底面の前記深い面、傾斜面、浅い面およびステップ状の段部をこれ等の順に一方向に摺動する揺動アームによって行われることを特徴とするカードコネクタ。
【請求項2】
前記カム溝の前記深い面は第1の凹所、第2の凹所、第3の凹所から成り、前記カードの押圧により、前記揺動アームの前記他端がその待機状態から前記第1の凹所に係合し、続いて前記ハート形カムの窪み部に設けられた前記第2の凹所において係止され、前記カードの再押圧により、前記揺動アームの前記他端は前記第3の凹所に係合してその待機状態に戻ることを特徴とする請求項1に記載のカードコネクタ。
【請求項3】
前記カム溝の前記深い面の高さ位置は略同一になっていることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか一項に記載のカードコネクタ。
【請求項4】
前記カム溝の前記浅い面の高さ位置は略同一になっていることを特徴とする請求項3に記載のカードコネクタ。
【請求項5】
前記カム要素は前記下ハウジング部材に設けられ、前記揺動アームはその一端が前記カードプッシュ部材に揺動可能に支承され、その他端が前記カム溝に沿って摺動することを特徴とする請求項1に記載のカードコネクタ。
【請求項6】
前記バネ部材は圧縮ばねであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のカードコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−91298(P2008−91298A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273944(P2006−273944)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000177690)山一電機株式会社 (233)
【Fターム(参考)】