説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】アルミニウム、マグネシウム等のより低廉な素材からなる基板を用いて、屈曲の少ない高品質なカーボンナノチューブを量産することができる方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛からなる基板11の表面に、金属または金属化合物からなる被膜12を被覆する工程と、被膜12の表面に金属触媒15を配置する工程と、金属触媒15が配置された基板11に炭素含有ガスを供給し、化学気相成長法により、金属触媒15にカーボンナノチューブ18を成長させる工程とを含むカーボンナノチューブの製造方法であって、金属または金属化合物は、基板11を構成する材料よりも融点が高く、かつ、カーボンナノチューブ18の成長工程において金属触媒15とは、合金化しない材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長法を利用して、金属触媒が配置された基板の表面にカーボンナノチューブを成長させることによる、カーボンナノチューブの製造方法に係り、特に、基板表面に対して垂直方向に配向したカーボンナノチューブを得るに好適なカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、カーボンナノチューブの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、熱CVD法、又はプラズマCVD法を利用した製造方法が知られている。特に、化学気相成長法(CVD法)を利用した場合には、カーボンナノチューブの配向や長さを制御することができる。
【0003】
例えば、化学気相成長法を利用したものとして、シリコン基板を準備し、シリコン基板の上にチタン膜及び金属触媒膜を順次形成し、これらの膜が形成されたシリコン基板の表面に、プラズマ化した炭素含有ガスを晒すことにより、カーボンナノチューブを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような製造方法によれば、基板表面に対して垂直方向に向かって、金属触媒にカーボンナノチューブを成長させることができ、これにより屈曲の少ないカーボンナノチューブを得ることができる。
【0005】
また、別の態様としては、前記基板として、アルミニウムまたはマグネシウムからなる基板を準備し、該基板の表面にシリコンの下地層を形成し、次いで下地層上に金属触媒層を形成した後、化学気相成長法により、この表面に炭素含有ガスを供給して、カーボンナノチューブを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−272284号公報
【特許文献2】特開2007−254167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法のように、シリコン基板を用いて製造した場合には、シリコンは、他の金属材料に比べて高価であるため、カーボンナノチューブの製造コストが高くなってしまう。
【0008】
そこで、特許文献2に記載の如く、基板の素材に、アルミニウムまたはマグネシウムを用いた場合には、シリコンを用いた場合に比べて安価にカーボンナノチューブを製造することができる。しかしながら、カーボンナノチューブの成長時に、基板の表面の下地層のシリコンと、金属触媒の金属とが合金化してしまう。これにより、金属触媒の活性化が妨げられ、カーボンナノチューブの成長を阻害するおそれがある。
【0009】
このような点を鑑みると、図9(a)に示すように、アルミニウムまたはマグネシウムからなる基板11の表面に、直接的に、金属触媒15を配置すればよいとも考えられる。しかしながら、図9(a)に示す状態の基板11を用いて化学気相成長法を行った場合、図9(b)に示すように、基板11の表面が、製造時の熱の影響により、軟化または溶融する。これにより、金属触媒15が基板11内に埋没したり、基板11を構成するアルミニウムまたはマグネシウムにより被覆されたりする。このような状態の金属触媒15では、カーボンナノチューブ50が成長し難く、仮に成長した場合であっても、カーボンナノチューブが屈曲してしまう。
【0010】
特に、カーボンナノチューブの成長速度を高めるためには、より大きなエネルギー(高い温度)条件下でカーボンナノチューブを成長させることが好ましいが、この場合、図9(b)に示す現象がさらに顕著なものとなることがわかった。
【0011】
本発明は、前記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アルミニウム、マグネシウム等のより低廉な素材からなる基板を用いて、屈曲の少ない高品質なカーボンナノチューブを量産することができるカーボンナノチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決すべく、発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、カーボンナノチューブの成長時の高温条件下において、たとえ基板の表面が軟化・溶融したとしても、その軟化・溶融した基板表面に、形状変化を起こさず、かつ、軟化・溶融した状態の金属が浸入しない被膜を設けることができれば、この被膜が熱影響を緩衝する緩衝膜として作用し、この被膜上に配置した金属触媒から好適にカーボンナノチューブを成長させることができるとの新たな知見を得た。
【0013】
本発明は、発明者らの新たな知見に基づくものであり、アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛からなる基板の表面に、金属または金属化合物からなる被膜を被覆する工程と、該被膜の表面に金属触媒を配置する工程と、前記金属触媒が配置された基板に炭素含有ガスを供給し、化学気相成長法により、前記金属触媒にカーボンナノチューブを成長させる工程とを含むカーボンナノチューブの製造方法であって、前記金属または金属化合物は、前記基板を構成する材料よりも融点が高く、かつ、前記カーボンナノチューブの成長工程において前記金属触媒とは合金化しない材料からなることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、まず、基板として、アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛からなる基板を準備する。この準備した基板の表面に対して、基板を構成する材料よりも融点が高く、かつ、前記カーボンナノチューブの成長工程において金属触媒とは合金化しない金属または金属化合物からなる被膜を被覆する。ここで、本発明でいう「被覆」とは、被覆した被膜の表面から、基板の表面が露呈しない、すなわち、孔がなく均一に、基板表面を覆うような被覆をいう。
【0015】
このような被膜の表面に金属触媒を配置することにより、カーボンナノチューブの成長工程において、たとえ基板の表面が軟化・溶融したとしても、基板の表面に被膜は安定して存在する。この結果、前記被膜が、熱影響を緩衝する膜(層)として作用するので、被膜の上の金属触媒の配置状態を維持し、より屈曲の少ないカーボンナノチューブを成長させることができる。被膜は密であるほどよく、特に、マグネシウムや亜鉛のようにイオン化しやすい金属には有効である。
【0016】
また、被膜の材料により、金属触媒の金属が、合金化することがないので、金属触媒からのカーボンナノチューブの成長は、阻害されることはない。これにより、より高温環境下においても、カーボンナノチューブの製造が可能となり、カーボンナノチューブの成長速度を高めることが可能となる。さらに、基板の素材に、シリコンなどに比べて低廉なアルミニウム、マグネシウム、または亜鉛を用いることにより、製造コストを低減することができる。
【0017】
ここで、被膜を構成する金属または金属化合物は、上述した融点の条件及び触媒との非合金化の条件を満たさせば、特に限定されるものではない。例えば、このような金属としては、チタン、ジルコニア、ランタン、バナジウム、ニオブ、ハフニウム、クロム、モリブデン、及びタングステンなどの群から選択された遷移元素の金属を挙げることができる。
【0018】
しかしながら、より好ましくは、前記被膜を構成する金属は、チタン、バナジウム、及びクロムからなる群から選択される少なくとも一種からなる。このような金属は、他に比べて安価に入手可能であり、スパッタリング等により基板の表面に被覆しやすい金属である。
【0019】
また、上述した金属化合物としては、前記金属の酸化物、窒化物、または酸化物を挙げることができる。この他にも、前記基板を構成する金属の酸化物、窒化物、または酸化物を挙げることができる。しかしながら、より好ましくは、被膜を構成する金属化合物は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び炭化チタンからなる群から選択される少なくとも一種からなる。
【0020】
このような金属化合物は、他に比べて安価に入手可能であり、特に、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化マグネシウムの場合には、基板を、酸化処理、窒化処理、炭化処理等の表面処理することにより、容易に得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る金属触媒としては、コバルト、ニッケル、及び鉄の群から選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。このような金属は、カーボンナノチューブの成長の際に活性化しやすく、安価に入手できるので、カーボンナノチューブを低コストで製造することができる。また、これらの金属は、少なくとも、カーボンナノチューブの成長工程において、被膜の金属または金属化合物とは合金化しない。
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法によれば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛のような低廉な素材からなる基板を用いて、屈曲の少ない高品質のカーボンナノチューブを量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係るカーボンナノチューブの製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、被膜を被覆する工程と金属触媒を配置する工程とを説明するための模式図、(b)は、カーボンナノチューブを成長させる工程を説明するための模式図、(c)は、製造されたカーボンナノチューブを説明するための模式図。
【図2】実施例1に係るプラズマCVD法を行う装置を説明するための図。
【図3】(a)は、実施例1に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図であり、(b)は、(a)を拡大した写真図。
【図4】(a)は、実施例2に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図であり、(b)は、(a)を拡大した写真図。
【図5】(a)は、実施例3に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図であり、(b)は、(a)を拡大した写真図。
【図6】(a)は、比較例1に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図であり、(b)は、(a)を拡大した写真図。
【図7】(a)は、比較例2に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図であり、(b)は、(a)を拡大した写真図。
【図8】比較例3に係るカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で観察したときの写真図。
【図9】従来のカーボンナノチューブの製造方法を説明するための図であり、(a)は、(a)は、金属触媒を配置した状態を説明するための模式図、(b)は、金属触媒の配置後に、カーボンナノチューブの成長を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本実施形態に基づき本発明を説明する。図1は、本実施形態に係るカーボンナノチューブの製造方法を説明するための模式図であり、(a)は、被膜を被覆する工程と金属触媒を配置する工程とを説明するための模式図、(b)は、カーボンナノチューブを成長させる工程を説明するための模式図、(c)は、製造されたカーボンナノチューブを説明するための模式図である。
【0025】
まず、図1(a)に示すように、カーボンナノチューブを成長させるための基板として、アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛からなる基板11を準備する。これらの材料は、融点が600℃以下の材料であり、シリコン等に比べて低廉である。基板11の厚みは、0.1mm〜数ミリ程度である。
【0026】
次に、この基板11の表面に、金属または金属化合物からなる被膜12を被覆する。この際、被膜12の表面から、下地となる基板11の表面が露呈しないように、被覆を行う。被覆した被膜12から、基板11の表面が露呈せず、すなわち、被膜12に孔がなく、均一に基板11の表面を覆うことができるのであれば、その被覆方法は特に限定されるものではない。
【0027】
被膜の被覆方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、アークプラズマガン法、イオンプレーティング法、またはイオンビームミキシング法などの物理気相成長法(PVD法)、プラズマCVD法、熱CVD法、Cat−CVD法などを利用した化学気相成長法(CVD法)により成膜してもよく、これらの方法を組み合わせた方法により成膜してもよい。
【0028】
さらに、被膜12を構成する金属または金属化合物としては、以下の2つの条件を満たす材料を用いる。まず、第一の条件として、基板11を構成する材料(アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛)よりも融点が高い材料であって、より好ましくは、1000℃以上の高融点材料を選定する。次に第二の条件として、後述する、カーボンナノチューブを成長させる温度環境下で、金属触媒15とは、合金化しない材料である。
【0029】
このような点を考慮した場合、被膜12を構成する金属は、チタン、バナジウム、及びクロムからなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましく、金属化合物としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び炭化チタンからなる群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。このような金属または金属化合物は、他に比べて安価に入手可能であり、上記被覆方法により、基板11の表面に被覆しやすい。
【0030】
また、ここで、被覆する被膜12の厚みは、被膜を構成する材料にもよるが、10nm〜500nmの範囲にあることが好ましく、この範囲にすることにより、後述するカーボンナノチューブの成長工程において、基板11が軟化(場合によっては溶融)したとしても、金属触媒15の配置状態を充分に保持することができる。
【0031】
すなわち、被膜12の厚みが、10nm未満の場合には、成長工程において、基板11が溶融したときに、被膜12も変形し、被膜12の表面に基板11の金属が侵入するおそれがある。一方、500nmを超えた場合であっても、それ以上の効果は期待できず、コスト増につながる。
【0032】
次に、金属触媒15を被膜12の表面に配置する。金属触媒15を構成する材料としては、コバルト、ニッケル、及び鉄から選択される少なくとも一種である。このような金属触媒15は、被膜12の被覆方法と同様に、PVD法またはCVD法を利用して配置してもよく、金属触媒15となる粒子をディップコート法、スピンコート法を利用して配置してもよい。
【0033】
また、後述する実施例で示すアークプラズマガン法により、金属触媒15を被膜12の表面に配置してもよい。この方法によれば、金属触媒15となる金属のターゲット材に、パルス的にアーク放電を接触させることにより、この金属を微粒子化して放出し、これを被膜12の表面にスパッタして、金属触媒15を配置することができる。
【0034】
PVD法またはCVD法により被覆した場合には、0.5〜5nm程度の被膜厚みであることが好ましく、この被膜は、後述するカーボンナノチューブの成長工程において、加熱された炭素含有ガスの接触により、図1(b)に示すように、被膜12の表面で微粒子化するものと考えられる。
【0035】
また、ディップコート法、スピンコート法を用いた場合には、被膜12の表面に、金属触媒15の粒径が1nm〜50nmとなるように、金属触媒15を配置する。この範囲の粒径とすることにより、燃料電池等に使用するに好適なチューブ径のカーボンナノチューブを得ることができる。
【0036】
次に、金属触媒15が配置された基板11を、CVD装置20の内部(槽内)に投入する。そして、金属触媒15に、カーボンナノチューブの原料となる炭素含有ガスを供給し、化学気相成長法(CVD法)により、金属触媒15にカーボンナノチューブ18を成長させる。
【0037】
このCVD装置20は、熱CVD装置、プラズマCVD装置、Cat−CVD装置などを挙げることができる。熱CVD装置を用いた場合には、炭素含有ガス、水素ガス、及び窒素ガス等を混合したガスを装置内部に導入し、600℃〜800℃程度に加熱した装置内部において、混合ガスを、被膜12上の金属触媒15に接触させることにより、金属触媒15を起点としてカーボンナノチューブ18を生成し、これを成長させることができる。
【0038】
一方、プラズマCVD装置を用いた場合には、炭素含有ガス、水素ガス、及び窒素ガス等を混合した混合ガスを導入するとともに、装置内部で混合ガスをプラズマ化し、このプラズマ化したガスを基板11表面に接触させることにより、金属触媒15からカーボンナノチューブ18を成長させることができる。
【0039】
また、炭素含有ガスとは、炭素原子を含む分子からなるガスであり、たとえば、メタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素、アルコールガス、ベンゼン等のガスを挙げることができ、これらのガスを混合したガスであってもよい。さらに、N,Ar,O,HOなどの微量添加ガスを加えてもよい。
【0040】
このような被膜12の表面に金属触媒15を配置することにより、カーボンナノチューブ18の成長工程において、基板11の表面が軟化または溶融したとしても、この基板11の表面状態によらず、基板11の表面に被膜12は安定して存在し、被膜12の表面に軟化または溶融した材料が浸入することはない。これにより、被膜12の上の金属触媒15は、安定した配置状態が維持される。この配置状態の金属触媒15から、基板11(被膜12)の表面に対して垂直方向に向かって、カーボンナノチューブ18は配向されながら成長する。
【0041】
このような結果、図1(c)に示すように、より屈曲の少ない、欠陥のないカーボンナノチューブ18を得ることができる。このようなカーボンナノチューブ18は、導電性が良いため、燃料電池を構成する部材に適用するに好適である。
【0042】
さらに、被膜12は、温度を高めても金属触媒15の金属と合金化せず、被膜12は溶融することなく形状は保持されるので、より高い温度条件下でもカーボンナノチューブ18の成長させることができる。これにより、カーボンナノチューブの成長速度を高めることが可能となる。
【実施例】
【0043】
以下に本発明を、実施例により説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
<被膜を被覆する工程>
まず、基板として、純度99%、厚さ0.2mm、10mm×10mmのアルミニウム基板(JIS:1100)を準備した。次に、被膜を構成する金属としてチタンを選定した。そして、アルミニウム基板を槽内に配置し、アルバック社製のアークプラズマガンを用いて、槽内圧力10−5Torr、放電電圧60V、放電間隔1sec、基板温度を室温とした放電条件で、チタンを放電回数600回でスパッタし、アルミニウム基板の表面に、被膜厚み10nmのチタン被膜を被覆した。ここで、チタン被膜には孔がなく、均一に被覆されていることを確認した。
【0045】
<金属触媒を配置する工程>
次に、チタン被膜の表面に金属触媒を配置した。金属触媒として、コバルトを選定した。チタン被膜の成膜方法と同じ放電条件で、チタン被膜の表面に、コバルトを放電回数300回でスパッタした。
【0046】
<カーボンナノチューブを成長させる工程>
図2に示すプラズマ増幅CVD装置20Aの槽内21に金属触媒を配置した基板11を配置した。炭素含有ガス(カーボンソースガス)にメタンガス、エッチングガスに水素ガス、成長速度向上添加ガスに窒素ガスを用いた。それぞれのガスは、流量調整弁22(MFC:太陽日産(株)社製、いずれも純度G1)を用いて、30sccm、90sccm、15sccmのフローレートとなるように調整して、槽内に導入した。
【0047】
一方、槽内の圧力を70Torr、プラズマ用マイクロ波Mの入力700W、成長時間5分の条件として、導入したガスをプラズマ化し、このプラズマ化したガスを金属触媒に接触させることにより(化学気相成長法)、金属触媒を起点として、カーボンナノチューブを生成し、これを成長させた。
【0048】
なお、このときの基板温度を測定し、プラズマPの発生中のアルミニウム基板の表面温度は、530℃であり、アルミニウムの強度が低下する温度であることがわかった。このようにして、得られたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で測定した。この観察したFE−SEM写真の結果を図3(a)及び(b)に示す。なお、図3(b)は、図3(a)の拡大写真図である。
【0049】
〔実施例2〕
実施例1と同じようにして、カーボンナノチューブを製造した。実施例1と相違する点は、アークブラズマガンでチタンを放電回数900回でスパッタし、被膜厚みを22nmにした点である。得られたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で測定した。この観察したFE−SEM写真の結果を図4(a)及び(b)に示す。なお、図4(b)は、図4(a)の拡大写真図である。
【0050】
〔実施例3〕
実施例1と同じようにして、カーボンナノチューブを製造した。実施例1と相違する点は、アークブラズマでチタンの代わりにバナジウムを用い、バナジウムを放電回数600回で放電し、被膜厚みを14nmにした点である。得られたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で測定した。この観察したFE−SEM写真の結果を図5(a)及び(b)に示す。なお、図5(b)は、図5(a)の拡大写真図である。
【0051】
〔比較例1〕
実施例1と同じようにして、カーボンナノチューブを製造した。実施例1と相違する点は、アークブラズマでチタンを放電回数300回でスパッタした点であり、顕微鏡観察で確認して、チタンが均一に基板の表面に被覆されていない(被膜の一部に複数の孔があり基板表面が露呈している)点である。得られたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で測定した。この観察したFE−SEM写真の結果を図6(a)及び(b)に示す。なお、図6(b)は、図6(a)の拡大写真図である。
【0052】
〔比較例2〕
実施例1と同じようにして、カーボンナノチューブを製造した。実施例1と相違する点は、アークブラズマでチタンのスパッタを行っていない点である。得られたカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡で測定した。この観察したFE−SEM写真の結果を図7(a)及び(b)に示す。なお、図7(b)は、図7(a)の拡大写真図である。
【0053】
〔比較例3〕
実施例1と同じようにして、カーボンナノチューブを製造した。実施例1と相違する点は、アークブラズマでチタン及びコバルトのスパッタを順次行う代わりに、金属ターゲットにCo/Ti合金ターゲット(モル組成55.2:44.8)を用いて、この合金を、放電回数300回で基板表面にスパッタを行った点である。この観察したFE−SEM写真の結果を図8に示す。
【0054】
〔結果〕
図3〜5に示すように、実施例1〜3のカーボンナノチューブは、分岐が少なく、屈曲のほとんどなく、チューブ径の変化もほとんど無かった。これに対して、図6〜8に示すように、比較例1〜3のカーボンナノチューブは、屈曲が多く、チューブ径の変化も大きかった。
【0055】
このことから、実施例1〜3の場合、カーボンナノチューブの成長工程において、たとえアルミニウム基板の表面が軟化(場合によっては溶融)し、その強度が低下したとしても、アルミニウム基板の表面にチタン被膜またはバナジウムは安定して存在したものと考えられる。これにより、被膜の上のコバルト触媒は、安定した配置状態が維持され、アルミニウム基板(被膜)の表面に対して垂直方向に、カーボンナノチューブは、配向しながら成長したものと考えられる。
【0056】
一方、比較例1の場合、アルミニウム基板の表面に、チタンを均一に覆わなかったため、チタン表面に溶融または軟化したアルミニウムが侵入し、コバルト触媒の表面にアルミニウムが一部被覆され、この結果、カーボンナノチューブが屈曲したものと考えられる。
【0057】
また、比較例2の場合、コバルト触媒が、アルミニウム基板の軟化または溶融により、図9(b)に示すように、コバルト触媒がアルミニウム基板内に埋没したり、アルミニウムにより被覆されたりし、この結果、カーボンナノチューブが屈曲したものと考えられる。
【0058】
さらに、比較例3の場合には、コバルト触媒が合金化していることにより、コバルト触媒の活性化が妨げられ、カーボンナノチューブの垂直方向の成長を阻害し、これにより、カーボンナノチューブが屈曲したものと考えられる。
【符号の説明】
【0059】
11:基板、12:被膜、15:金属触媒、18:カーボンナノチューブ、20:CVD装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、マグネシウム、または亜鉛からなる基板の表面に、金属または金属化合物からなる被膜を被覆する工程と、該被膜の表面に金属触媒を配置する工程と、前記金属触媒が配置された基板に炭素含有ガスを供給し、化学気相成長法により、前記金属触媒にカーボンナノチューブを成長させる工程とを含むカーボンナノチューブの製造方法であって、
前記金属または金属化合物は、前記基板を構成する材料よりも融点が高く、かつ、前記カーボンナノチューブの成長工程において前記金属触媒とは合金化しない材料からなることを特徴とするカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記被膜を構成する金属は、チタン、バナジウム、及びクロムからなる群から選択される少なくとも一種からなり、前記金属化合物は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び炭化チタンからなる群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記金属触媒は、コバルト、ニッケル、及び鉄からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−132068(P2011−132068A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292952(P2009−292952)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】