説明

カーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、カーボンナノチューブの製造方法

【課題】CNTの成長活性度が高く、かつ、直径の制御性に優れたカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、これを用いたカーボンナノチューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】Fe、Co及びNiから選ばれる1以上の第1元素と、4A族元素及び5A族元素から選ばれる1以上の第2元素とを含む微粒子からなり、微粒子の周囲が有機酸及び有機アミンから選ばれる1以上の有機物からなる保護層で被覆されたカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、これを分散媒中に分散させた触媒分散液。並びに、この触媒分散液を基板表面に塗布し、基板表面にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させる触媒担持工程と、カーボンナノチューブ合成用触媒を担持させた基板表面にカーボンナノチューブを成長させる成長工程とを備えたカーボンナノチューブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、カーボンナノチューブの製造方法に関し、さらに詳しくは、カーボンナノチューブの合成に用いられるカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、カーボンナノチューブ合成用触媒を分散させた触媒分散液、並びに、この触媒分散液を用いて基板表面に直径及びその標準偏差が制御された高密度のカーボンナノチューブを生成させるカーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、黒鉛の一層に相当するグラフェンシート(炭素原子が六角網目状に配列したシート)を筒状に丸めた立体構造を持つ。CNTは、1枚の円筒状グラフェンシートからなる単層CNTと、複数枚の円筒状グラフェンシートが同心円状に重なった多層CNTとがある。また、合成された未処理のCNTの先端は、通常、「キャップ」と呼ばれる半球状のグラファイト層で閉じられた構造になっている。
【0003】
CNTは、nmオーダーの直径と、μm〜cmオーダーの長さを有しており、アスペクト比が極めて大きく、先端の曲率半径が数nm〜数十nmと極めて小さいという特徴がある。CNTは、機械的にも強靱で、化学的・熱的安定性に優れ、円筒部のらせん構造に応じて金属にも半導体にもなるという特徴がある。そのため、CNTは、発光デバイス用の電子配線材料、放熱材料、繊維材料、電子放出源(面光源)、トランジスタ材料、電子顕微鏡用の電子放出源(点光源)、あるいは、SPM用の探針等への応用が期待されている。
【0004】
CNTを合成する方法には、
(1)Arや水素等の気体雰囲気中において炭素棒間でアーク放電を行わせ、陰極上にCNTを堆積させるアーク法、
(2)触媒を混ぜたグラファイトの表面にYAGレーザー等の強いパルス光を当て、これにより発生した炭素の煙を電気炉で加熱し、反応管の側壁にCNTを付着させるレーザー蒸発法、
(3)触媒金属微粒子上で炭素化合物(例えば、メタン、アセチレン、ベンゼンなど)を熱分解させる化学気相成長法、
などが知られている。
【0005】
(1)及び(2)の合成法により得られるCNTは、いずれも完全にランダムな方向を向いて絡み合った状態になっている。また、多量のカーボンナノカプセルやアモルファス粒子等を含んでいる場合もある。一方、CNTの持つ究極の異方性を最大限に引き出すためには、多数本のCNTを基材表面に配向させることが望ましい。また、CNTを電子配線材料、放熱材料、繊維材料等に応用する場合において、高電流密度、高熱伝導性、高強度等を得るためには、CNTを基板表面に高密度に生成させることが望ましく、(3)の化学気相成長法がこの目的に適する。さらに、CNTの特性は直径に依存するので、CNT合成時にCNTの直径を任意に制御できることが望ましい。そのため、CNTを基材表面上に高密度に配向成長させる方法、CNTの合成に用いられる触媒粒子やCNTの直径制御等に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、トルエンにカチオン性界面活性剤(ジデシルジメチルアンモニウムブロマイド)を溶解させ、これに塩化コバルト六水和物を溶解させ、これに水素化ホウ素ナトリウムを加えて塩化コバルトを還元し、コバルト微粒子を得るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)このような方法により平均粒径約4nmのコバルト粒子が得られる点、
(2)このコバルト粒子をトルエンに分散させた触媒液をシリコン基材上に滴下し、硫化水素/水素混合ガスと接触させることによって基材表面に硫化コバルト粒子を生成させ、この触媒基材を反応管に入れてアセチレン/N2混合ガスを900℃で1時間流通させることによって、直径20〜50nm、長さ0.5〜5μmのCNTが得られる点、及び、
(3)CNT合成用触媒として、V〜VIII族の金属、例えば、Ni、Co、Mo、Fe、Cu、V、Pd等を用いることができる点、
が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、ガラス基板表面に膜厚1〜100nmの鉄ジルコニウム合金薄膜又は膜厚2.5nmのコバルトバナジウム合金薄膜を形成し、これを加熱する触媒の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)薄膜を形成した基板を加熱すると、薄膜内部に触媒として機能する結晶性の金属微粒子が生成する点、
(2)薄膜を形成した基板を加熱し、これと反応性の炭素ガスとを接触させると、基板表面にCNTを成長させることができる点、及び、
(3)鉄又はコバルトに4A族元素又は5A族元素を添加すると、基板の加熱温度(成長炉温度)を低温化することができる点、
が記載されている。
【0008】
また、非特許文献1には、Ti−Co合金ターゲットをレーザーアブレーションすることによって微粒子を生成させ、これを微分型静電分級器(Differential Mobility Analyzer, DMA)を用いて分級するTi−Co粒子の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)このような方法によって、平均粒径5.8nm、標準偏差1.09nmであるTi−Co微粒子が得られる点、及び、
(2)この微粒子をSi基板表面に担持し、熱CVD法を用いてCNTを成長させると、平均径5.7nm、標準偏差1.13nmであるCNTが得られる点、
が記載されている。
【0009】
また、非特許文献2には、Si基板表面に厚さ20nmのTiN薄膜(Coケイ化物の生成を抑制するためのバッファー層)を形成し、その表面にパルスアークプラズマにより生成したCo粒子を担持する触媒の製造方法が開示されている。同文献には、
(1)このような方法により、直径2〜3nmのCoナノ粒子が得られる点、及び、
(2)Coナノ粒子を担持したTiN/Si基板を用いると、外径3〜6.6nmのCNTを成長させることができる点、
が記載されている。
さらに、非特許文献3には、あらかじめ液相中で合成した粒径の均一なナノ粒子を触媒として、ナノ粒子の径に対応する直径を有するCNTを合成する点が記載されている。
【0010】
【特許文献1】特許第3438041号公報
【特許文献2】特開2004−267926号公報
【非特許文献1】S.Sato et al., Chemical Physics Letters 402(2005)149-154
【非特許文献2】M.Hiramasu et al., Japanese Journal of Applied Physics, vol.44, No.22, 2005, pp.L693-695
【非特許文献3】Journal of Physical Chemistry, B105(2001)11424-11431
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
Fe、Co、Ni及びこれらの合金は、いずれもCNTを成長させるための触媒能が高いことが知られている。そのため、これらの金属又は合金からなる微粒子を基板表面に密に配置し、かつCNT合成条件を最適化すると、高密度のCNTを基板表面に成長させることができる。
通常の化学気相成長法によるCNT成長法では、触媒金属の薄膜や触媒金属の前駆体を基板表面に形成し、次いでこれに熱処理やプラズマ処理を施し、微粒子を生成し、これを触媒としてCNTを成長させる。しかしながら、これらの微粒子の粒径、数密度等を制御することは、極めて困難であり、それに伴いCNTの直径を制御することも難しい。
非特許文献3などでは、あらかじめ液相中で合成した粒径の均一なナノ粒子を触媒として、ナノ粒子の径に対応する直径を有するCNTを合成している。しかしながら、これまで報告されている液相合成ナノ粒子の触媒活性は極めて低く、基板上にランダムに成長した低密度のCNTしか得られていない。
一方、非特許文献1に開示されている気相法で生成したTi−Co二元合金微粒子は、微粒子の触媒活性が高いとともに微粒子の直径とCNTの直径がほぼ対応しており、CNTの配向成長と直径制御性に優れている。しかしながら、レーザーアブレーションによって微粒子を生成させ、これを静電的に分級する方法は、均一な粒径の粒子を得る方法としては効率が悪く、小さな粒径において均一なものを得るのが難しい。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、CNTの成長活性が高く、かつ、5nm以下の小さな直径領域において直径の制御性に優れたカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、これを用いたカーボンナノチューブの製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、直径の制御性に優れ、かつ、分級することなく使用することが可能なカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、これを用いたカーボンナノチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒は、Fe、Co及びNiから選ばれる1以上の第1元素と、4A族元素及び5A族元素から選ばれる1以上の第2元素とを含む微粒子からなり、前記微粒子の周囲が有機酸及び有機アミンから選ばれる1以上の有機物からなる保護層で被覆されていることを要旨とする。
また、本発明に係る触媒分散液は、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒を分散媒中に分散させたものからなる。
また、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、以下の工程を備えていることを要旨とする。
(イ) Fe、Co及びNiのいずれか1以上の第1元素を含む1種又は2種以上の第1原料と、4A族元素及び5A族元素のいずれか1以上の第2元素を含む1種又は2種以上の第2原料と、1種又は2種以上のアルコールと、有機酸及び有機アミンから得らればれる1以上の有機物とを有機溶媒中で溶解・混合する溶解・混合工程。
(ロ) 前記溶解・混合工程で得られた溶液を、不活性雰囲気下において180〜300℃で加熱する加熱工程。
さらに、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、本発明に係る触媒分散液を基板表面に塗布し、前記基板表面にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させる触媒担持工程と、前記カーボンナノチューブ合成用触媒を担持させた前記基板表面にカーボンナノチューブを成長させる成長工程とを備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
第1原料、第2原料、アルコール、並びに、有機酸及び/又は有機アミンを所定の比率で混合し、所定の温度で加熱すると、第1元素及び第2元素を含み、その周囲が保護層で被覆された触媒微粒子が得られる。保護層は、触媒微粒子の合成中における微粒子間の凝集を防ぐ作用がある。そのため、このような方法により、平均粒径が相対的に小さく、かつ、標準偏差の小さい微粒子が得られる。このようにして得られた微粒子を適当な分散媒に分散させ、この分散液を適当な基材表面に塗布・乾燥させると、触媒微粒子を基材表面に密に担持させることができる。さらに、これを用いてCNTを合成すると、触媒微粒子とほぼ同等の直径及び標準偏差を有する高密度、かつ垂直配向したCNTが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係るCNT合成用触媒は、第1元素と第2元素とを含む微粒子からなり、微粒子の周囲が保護層で被覆されていることを特徴とする。
「第1元素」とは、Fe、Co及びNiから選ばれる1以上の元素(主触媒元素)をいう。「第2元素」とは、4A族元素(Ti、Zr、Hf)及び5A族元素(V、Nb、Ta)から選ばれる1以上の元素(助触媒元素)をいう。微粒子は、第1元素及び第2元素のみからなるものでも良く、あるいは、第1元素及び第2元素に加えて、他の元素が含まれていても良い。他の元素としては、その他の金属・非金属元素や、出発原料に由来する元素(例えば、酸素)などがある。
触媒中に複数の第1元素が含まれる場合、それらの比率は、任意に選択することができる。同様に、触媒中に複数の第2元素が含まれる場合、そられらの比率は、任意に選択することができる。微粒子に第1元素及び第2元素以外の元素が含まれる場合、微粒子の触媒活性に悪影響を及ぼす元素は、少ない方が好ましい。なお、酸素は、CNTを合成する際に還元雰囲気にさらされることによってある程度除去されるので、触媒中に含まれていても良い。
これらの中でも、4A族元素(特に、Ti)は、他の元素に比べて、CNTの成長速度を増大させる効果が大きいので、第2元素として特に好適である。また、5A族元素(特に、V)は、他の元素に比べて、合成されたCNTの直径制御性に優れているので、第2元素として特に好適である。
【0016】
触媒中に含まれる第1元素と第2元素の比率は、触媒活性度に影響を与える。第1元素は、その薄膜から熱処理やプラズマ処理で微粒子を形成した場合においては、それ自体でCNTを成長させるための相対的に高い触媒活性度を有しているが、液相法で合成された場合には、その触媒活性度は極端に小さくなる。しかしながら、これに第2元素を添加すると、液相法であっても触媒活性度を劇的に向上させることができる。このような効果を得るためには、第2元素の含有量(=第2元素の原子数×100/(第1元素の原子数+第2元素の原子数))は、2at%以上が好ましい。
一方、第2元素の含有量が過剰になると、触媒活性度はかえって低下する。従って、第2元素の含有量は、50at%以下が好ましい。
最適な第2元素の含有量は、第1元素及び第2元素の種類に応じて異なる。例えば、Fe−Ti二元合金又はFe−Ti−O系酸化物の場合、Ti含有量は、主触媒元素に対して、2〜50at%が好ましく、さらに好ましくは4〜40at%、さらに好ましくは10〜35at%、さらに好ましくは15〜30at%である。
また、例えば、Fe−V二元合金又はFe−V−O系酸化物の場合、V含有量は、主触媒元素に対して、2〜50at%が好ましく、さらに好ましくは4〜35at%、さらに好ましくは5〜30at%である。
また、例えば、Fe−Ti−V三元合金又はFe−Ti−V−O系酸化物(Ti/Vの原子比=1)の場合、(Ti+V)の含有量は、主触媒元素に対して、2〜50at%が好ましく、さらに好ましくは5〜45at%、さらに好ましくは、7〜35at%、さらに好ましくは11〜27at%である。
【0017】
触媒微粒子の直径及び標準偏差は、合成されるCNTの外径及び標準偏差に影響を与える。一般に、触媒微粒子の直径が小さくなるほど、外径の小さなCNTが得られる。また、触媒微粒子の直径の標準偏差が小さくなるほど、外径の標準偏差の小さなCNTが得られる。さらに、CNTの合成中における触媒微粒子の凝集が起きにくくなるほど、触媒微粒子の直径とほぼ同等の外径を有するCNTを合成することができる。
後述する本発明に係る製造方法を用いると、直径が1〜15nmである触媒微粒子を合成することができる。また、製造条件を最適化すると、直径が3〜5nmである触媒微粒子を合成することができる。さらに、後述する製造方法を用いると、分級することなく、直径の標準偏差が1nm以下である触媒微粒子を合成することができる。さらに、条件を最適化すると、直径の標準偏差が0.5nm以下である触媒微粒子を合成することができ、また、分散溶媒の極性調整による分別沈殿で、得られた粒子をさらに精密分級することもできる。
【0018】
保護層は、主として、微粒子を合成する際に微粒子の凝集を抑制し、粒子径を均一にする作用、及び、後述する分散液中に分散させる際に微粒子の凝集を抑制する作用を有する。保護層は、有機酸及び有機アミンから選ばれる1以上の有機物からなる。これらの有機物は、一分子内に疎水基と親水基を持つ界面活性剤の一種であり、微粒子表面をこれらで被覆することにより、合成時や分散時での微粒子の凝集を抑制することができる。
有機酸としては、具体的には、RCOOH、RSOH、RPOHなどがある。また有機アミンとしては、具体的には、RNH2、R2NH、R3Nなどがある。なお、Rは、アルキル鎖(CH3(CH2)x−)を表す。
保護層は、1種類の有機物からなるものでも良く、あるいは、2種以上の有機物からなるものでも良い。特に、2種以上の有機物を保護層として用いると、微粒子の粒子径が安定化し、均一化するという利点がある。
【0019】
次に、本発明に係る触媒分散液について説明する。
本発明に係る触媒分散液は、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒を分散媒中に分散させたものからなる。
分散媒は、触媒微粒子を均一に分散させることが可能なものであればよい。このような分散媒としては、ヘキサン、トルエン、クロロホルムなどの極性の低い有機溶媒が挙げられる。
また、触媒分散液中の触媒微粒子濃度は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、触媒微粒子の濃度が低くなるほど、微粒子を均一に分散させるのが容易化するが、触媒微粒子の濃度が低くなりすぎると、基板表面に触媒微粒子を密に配置させるのが困難となる。従って、触媒微粒子の濃度は、0.001wt%以上が好ましい。
一方、触媒微粒子の濃度が高くなりすぎると、基板表面に粒子の単分子膜を形成するのが困難となる。従って、触媒微粒子の濃度は、1.0wt%以下が好ましい。
最適な触媒微粒子の濃度は、基板の引き上げ速度など、他の製造条件にも依存するので、これらを考慮して最適な濃度を選択するのが好ましい。
【0020】
次に、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法について説明する。
本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法は、溶解・混合工程と、加熱工程とを備えている。
溶解工程は、第1原料と、第2原料と、アルコールと、有機物とを有機溶媒中で溶解・混合する工程である。
「第1原料」とは、Fe、Co及びNiのいずれか1以上の第1元素を含む化合物であって、有機溶媒に可溶なものをいう。第1原料には、このような条件を満たす1種類の化合物を用いても良く、あるいは、2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
第1原料としては、具体的には、
(1) 第1元素のイオンに有機物が配位した有機錯体、
(2) 第1元素の有機酸塩
などがある。
第1元素を含む有機錯体としては、具体的には、Fe(III)アセチルアセトナート、Fe(II)アセチルアセトナート、Co(II)アセチルアセトナート、Co(III)アセチルアセトナート、Ni(II)アセチルアセトナートなどがある。
また、第1元素を含む有機酸塩としては、具体的には、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、酢酸コバルト(II)、酢酸コバルト(III)、酢酸ニッケル(II)などがある。
【0021】
「第2原料」とは、4A族元素及び5A族元素のいずれか1以上の第2元素を含む化合物であって、有機溶媒に可溶なものをいう。第2原料には、このような条件を満たす1種類の化合物を用いても良く、あるいは、2種以上の化合物を組み合わせて用いても良い。
第2原料としては、具体的には、
(1) 第2元素(M)のイオン又はMOイオンに有機基が配位した有機錯体、
(2) 第2元素の有機酸塩、
などがある。
第2元素を含む有機錯体としては、具体的には、VOアセチルアセトナート、TiOアセチルアセトナート、Zrトリフルオロアセチルアセトナート、Hfトリフルオロアセチルアセトナート、Tiジイソプロポオキサイドビステトラメチルヘプタンジオネートなどがある。
また、第2元素を含む有機酸塩としては、具体的には、シュウ酸チタン、硫酸チタン、酸化硫酸バナジウム、硫酸バナジウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ハフニウムなどがある。
【0022】
アルコールは、第1原料及び第2原料を還元し、有機溶媒中において金属イオン又はMOイオンを非イオンの状態にするための還元剤である。還元剤には、1種類のアルコールを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
還元剤として使用可能なアルコールとしては、具体的には、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、1,2−テトラデカンジオールなどがある。
「有機物」とは、上述したように有機酸又は有機アミンからなる。有機物には、1種類の有機酸又は有機アミンを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
有機酸としては、具体的には、オレイン酸、カプロン酸、ラウリン酸、酪酸、リノール酸などがある。
また、有機アミンとしては、具体的には、オレイルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミンなどがある。
有機溶媒は、上述した第1原料、第2原料、アルコール及び有機物を溶解可能なものであればよい。また、溶液は、後述するように所定の温度に加熱されるので、沸点が200℃以上である溶媒を用いるのが好ましい。有機溶媒としては、具体的には、オクチルエーテル、フェニルエーテルなどがある。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
第1原料及び第2原料の比率は、作製しようとする触媒微粒子の組成に応じて最適な比率を選択する。本発明に係る方法を用いると、仕込み組成にほぼ一致する触媒微粒子が得られる。
また、溶液中における第1原料及び第2原料の濃度は、作製しようとする触媒微粒子の直径、標準偏差等に応じて最適な濃度を選択する。一般に、希薄溶液を用いると、粒径のそろった均一な触媒微粒子が得られる。第1原料及び第2原料に加える溶媒の量は、第1原料及び第2原料の種類にもよるが、通常、第1原料及び第2原料1mmolに対して、10〜50mL程度である。
還元剤は、上述したように溶液中に含まれる第1元素若しくは第2元素のイオン又はMOイオンに電子を与え、非イオンの状態にするためのものである。金属イオン又はMOイオンが還元されると、これらが互いに集まって微粒子を形成する。還元剤の添加量は、第1原料及び第2原料並びにその他の原料の種類にもよるが、通常、溶液中に含まれる第1元素若しくは第2元素のイオン又はMOイオンのモル数の1〜20倍程度である。
有機酸又は有機アミンは、溶液中において第1元素若しくは第2元素のイオン又はMOイオンと結合すると考えられている。この溶液中にさらに還元剤が加えられると、金属イオン又はMOイオンが還元されて微粒子状に凝集すると同時に、微粒子の周囲が有機酸又は有機アミンで被覆された状態となる。有機酸又は有機アミンの添加量は、第1原料及び第2原料並びにその他の原料の種類にもよるが、通常、溶液中に含まれる第1元素若しくは第2元素のイオン又はMOイオンのモル数の1〜10倍程度である。
【0024】
加熱工程は、溶解・混合工程で得られた均一な溶液を、不活性雰囲気下において180℃〜300℃で加熱する工程である。加熱により溶液中に、保護層で被覆された触媒微粒子が生成する。
溶液の加熱は、溶液中で生成した微粒子の酸化を防ぐために不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下など)で行う。
加熱温度は、使用する原料の種類や目的とする直径に応じて、最適な温度を選択する。一般に、加熱温度が低すぎると、原料間の反応が不十分となる。原料間の反応を効率よく進行させるためには加熱温度は、180℃以上が好ましい。
一方、加熱温度が高すぎると、微粒子の凝集が進行し、粒子の直径が不均質になる。従って、加熱温度は、300℃以下が好ましい。
反応終了後、遠心分離等の手段を用いて微粒子と溶媒とを分離すれば、本発明に係るCNT合成用触媒が得られる。また、分離した微粒子を適当な分散媒中に分散させれば、本発明に係る触媒分散液が得られる。
【0025】
次に、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法について説明する。
本発明の第1の実施の形態に係るカーボンナノチューブの製造方法は、触媒担持工程と、成長工程とを備えている。
【0026】
触媒担持工程は、本発明に係る触媒分散液を基板表面に塗布し、基板表面にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させる工程である。
基板の材質は、特に限定されるものではなく、CNT合成用触媒の組成、後述する成長工程における成長条件、CNTの用途等に応じて最適なものを選択する。基板の材質としては、具体的には、Si、熱酸化膜付Si、サファイヤ、マグネシア、種々の金属、酸化物、窒化物を堆積したSi基板、メソポーラス材料などがある。
【0027】
基板としてメソポーラス材料を用いる場合、基板表面のみがメソポーラス材料であっても良く、あるいは、基板全体がメソポーラス材料であっても良い。
表面のみがメソポーラスシリカからなる基板は、具体的には、
(1) シリコンアルコキシドに適量の水、エタノール、界面活性剤、及び酸を加えてゾル状態とし、
(2) これを適当な基板(例えば、Si基板など)表面に塗布して重縮合させることにより、基板表面に界面活性剤を含むメソポーラスシリカ膜を形成し、
(3) メソポーラスシリカ膜から界面活性剤を酸化又は溶媒抽出により除去する、
ことにより得られる。
また、全体がメソポーラスシリカからなる基板は、具体的には、
(1) シリコンアルコキシド(例えば、テトラアルコキシシランなど)に適量の水、エタノール、界面活性剤を加え、塩基性条件下でシリカ原料を加水分解させ、
(2) 溶液から粉末状の生成物を分離し、
(3) 粉末に含まれる界面活性剤を酸化又は溶媒抽出により除去し、
(4) 粉末を板状に成形し、焼結させる、
ことにより得られる。
シリコンアルコキシドに代えて特定の金属元素を含む金属アルコキシドを出発原料に用いると、シリカ以外の材料(例えば、チタニア、ジルコニア、アルミナなど)からなるメソポーラス材料が得られる。
【0028】
基板表面への触媒分散液の塗布方法には、
(1) 基板表面に触媒分散液をスプレー、ハケ塗り等により塗布する方法、
(2) 基板表面に触媒分散液をスピンコーティングする方法、
(3) 触媒分散液中に基板をディッピングし、所定の引き上げ速度で基板を引き上げる方法、
などがある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
特に、ディッピング法は、基板表面に均一に触媒分散液を塗布することができ、また、触媒分散液中の微粒子濃度や基板の引き上げ速度等を最適化すると、基板表面に微粒子を均一かつ密に担持させることができるので、塗布方法として好適である。
また、用いる基板表面が親水性の場合、触媒分散液を塗布する前に基板表面をシランカップリング剤などにより疎水処理する方が好ましい。予め疎水処理を施すことにより、微粒子を均一に担持できる。
基板表面に触媒分散液を塗布した後、基板を乾燥させ、触媒分散液に含まれていた分散媒を除去する。その後、CNT成長工程に先立って、触媒微粒子を覆っている有機物からなる保護層を酸化雰囲気中での熱処理またはプラズマ処理によって除去するのが好ましい。予めこれらの処理を施すことにより触媒の活性度は向上する。
【0029】
成長工程は、CNT合成用触媒を担持させた基板表面にカーボンナノチューブを成長させる工程である。
CNTの成長は、具体的には、触媒を担持させた基板表面に炭素含有化合物ガスを供給し、炭素含有化合物ガスを熱分解させることにより行う。基板表面において炭素含有化合物ガスを熱分解させると、基材表面に担持された触媒を種としてCNTが成長する。
【0030】
炭素含有化合物としては、
(1) メタン、アセチレン、エチレン、エタン、プロパン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素、
(2) 上記炭化水素のHをヒドロキシ基(OH)で置換したメタノール、エタノール等のヒドロキシ化合物、
(3) 一酸化炭素、
などが好適である。これらの炭素含有化合物は、いずれか1種のみを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらの中でも、炭化水素及びヒドロキシ化合物は、CNTを効率よく生成させることができ、取り扱いも容易であるので、炭素含有化合物として特に好適である。
【0031】
また、炭素含有化合物ガスを基体表面に供給する場合、適当なキャリアガスを使用する。キャリアガスとしては、具体的には、水素、アンモニア、窒素、アルゴン、ヘリウム等、又はこれらの混合ガスが好適である。炭素含有化合物ガスとキャリアガスの比率、ガスの総流量等は、炭素含有化合物の種類、反応管の大きさ、熱分解方法等に応じて、最適なものを選択する。
【0032】
炭素含有化合物ガスを熱分解させる方法には、
(1) 反応容器内に基板を配置し、ヒータ、赤外線などを用いて基板を所定温度に加熱し、反応容器内に炭素含有化合物ガスを適当なキャリアガスとともに導入する熱化学気相成長(熱CVD)法、
(2) 反応容器内に基板を配置し、例えば、マイクロ波発振器を用いて反応容器内にプラズマを発生させることにより基板を所定温度に加熱し、反応容器内に炭素含有化合物ガスを適当なキャリアガスとともに導入するプラズマ気相成長(プラズマCVD)法、
(3) 反応容器内に基板を配置し、基板表面近傍に配置したホットフィラメントを用いて基板を所定温度に加熱し、反応容器内に炭素含有化合物ガスを適当なキャリアガスとともに導入するホットフィラメント気相成長(ホットフィラメント熱CVD)法、
(4) 上述した各種方法の組み合わせ、
などがある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
【0033】
CNTの合成は、まず、基板を反応容器に入れて所定の圧力(例えば、10-5Torr(1.3×10-3Pa)以下)まで減圧する。次いで、ガス供給装置を用いてキャリアガスを導入し、数Torr〜数百Torr程度の圧力に調整した後、加熱装置を用いて、基板を合成温度まで昇温させる。基板が合成温度に達したところで、さらに炭素含有化合物ガスを導入し、数分〜数時間、キャリアガスと炭素含有化合物ガスとを所定の流量比で圧力を調整しながら流す。これにより、基板表面にCNTが成長する。
CNTの合成温度は、少なくとも、炭素含有化合物ガスを熱分解させることが可能な温度以上であれば良い。CNTの合成温度は、通常、500〜1000℃である。
また、炭素含有化合物ガス及びキャリアガスの流量比、流量等は、炭素含有化合物ガスの種類、加熱方法等に応じて、最適な条件を選択する。
【0034】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るカーボンナノチューブの製造方法について説明する。
本実施の形態に係るCNTの製造方法は、Mo担持工程と、触媒担持工程と、成長工程とを備えている。
【0035】
Mo担持工程は、触媒を担持させる前に、基板表面にMo又はMo酸化物を担持させる工程である。
Moには、CNTを成長させる強い触媒作用はないが、CNTを成長させる際に触媒微粒子の凝集を抑制する作用がある。そのため、触媒微粒子の近傍にMoを共存させると、外径が均一であるCNTを合成することができる。このような効果は、金属Moだけではなく、Mo酸化物も持つ。
【0036】
基板表面にMo又はMo酸化物を担持させる方法には、以下のような方法がある。
第1の方法は、基板表面にMo酸化物を担持させる方法であり、塗布工程と、熱処理工程とを備えている。
塗布工程は、基板表面にMo化合物を含む溶液を塗布する工程である。Mo化合物としては、酢酸塩、モリブデン酸塩、リン酸塩、塩化物などがある。特に、酢酸塩及びモリブデン酸塩は、安価であり、取り扱いも容易であるので、出発原料として使用するMo化合物として好適である。
溶媒は、Mo化合物を溶解させることが可能なものであればよい。溶媒としては、具体的には、水、エタノール、メタノール、プロパノール、2−プロパノールなど、あるいはこれらの混合物を用いることができる。
溶液中のMo化合物濃度は、Moに換算して、0.01〜100mMol/Lが好ましい。Mo化合物濃度が0.01mMol/L未満であると、Mo担持による効果がほとんど得られない。一方、Mo化合物濃度が100mMol/Lを超えると、均一な溶液の調製が困難となる。
基板表面にMo化合物を含む溶液を塗布した後、基板を乾燥させ、溶媒を除去する。
【0037】
加熱工程は、Mo化合物が担持された基板を熱処理する工程である。これにより、Mo化合物に含まれる有機物(例えば、酢酸イオン等)が除去され、基板表面にMo酸化物が生成する。
加熱は、有機物を除去するために酸化雰囲気下(例えば、大気中)で行う。加熱温度は、有機物を除去可能な温度であれば良い。加熱温度は、具体的には、400〜600℃が好ましい。加熱時間は、特に限定されるものではなく、加熱温度に応じて最適な時間を選択する。
【0038】
第2の方法は、基板表面にMo薄膜を形成する方法である。薄膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着、スパッタリングなどの周知の方法を用いることができる。
基板表面に形成されるMo薄膜の厚さは、0.2〜10nmが好ましい。Mo薄膜の厚さが0.2nm未満であると、均一な膜厚制御が困難となる。一方、Mo薄膜の厚さが10nmを超えると、基板を加熱する際に粗大粒子が生成し、再現性のある結果が得られない。
【0039】
触媒担持工程は、Mo又はMo酸化物が担持された基板表面に触媒分散液を塗布し、基板表面にCNT合成用触媒を担持させる工程である。また、成長工程は、CNT合成用触媒を担持させた基板表面にカーボンナノチューブを成長させる工程である。触媒担持工程及び成長工程は、基板としてMo又はMo酸化物を担持させたものを用いる以外は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
次に、本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法、触媒分散液、並びに、カーボンナノチューブの製造方法の作用について説明する。
Fe、Co及びNiは、いずれも、CNTを成長させる強い触媒作用があることが知られている。CNTの外径は、CNTが成長し始める時点での触媒微粒子の直径でほぼ決まる。従って、所定の外径を有し、かつ外径のそろったCNTを合成するためには、触媒微粒子の直径及び標準偏差も制御する必要がある。例えば、基板表面に金属薄膜を形成し、これを熱処理する方法では、触媒微粒子の直径及び標準偏差の制御には限界がある。
一方、非特許文献3のように、これらの金属を用いて予め直径のそろった微粒子を作製し、これを触媒とするCNT成長法がある。しかし、この方法では、極めて低い活性度しか得られない。
【0041】
一方、Fe、Co、Ni等の8〜10族元素に対し、4A族元素又は5A族元素を添加すると、触媒活性が向上することが知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。8〜10族元素に4A族元素又は5A族元素を添加することによって触媒活性が向上するのは、Ti等の4A族元素及びV等の5A族元素は、いずれも炭素との親和力が強く、炭化物が形成される際に熱を発生するためと考えられる。
特許文献1に開示されているように、合金ターゲットのレーザーアブレーションにより、4A族元素を含む合金微粒子を作製し、微分型静電分級器で分級すれば、比較的粒度分布の狭い触媒微粒子は得られるが、この方法は、非効率的である。
【0042】
これに対し、第1原料、第2原料、アルコール、並びに、有機酸及び/又は有機アミンを所定の比率で混合し、所定の温度で加熱すると、第1元素及び第2元素を含み、その周囲が保護層で被覆された触媒微粒子が得られる。保護層は、触媒微粒子の合成中における微粒子間の凝集を防ぐ作用がある。そのため、このような方法により、平均粒径が相対的に小さく、かつ、より標準偏差の小さい微粒子が得られる。しかも、合成後に微粒子を分級しなくても標準偏差が小さな微粒子が得られるので、触媒微粒子を低コスト化することができる。
また、保護層は、合成された微粒子を分散液中に分散させる場合において微粒子の凝集を抑制する作用もある。そのため、合成された微粒子を適当な分散媒に分散させて触媒分散液とし、この触媒分散液を基材表面に塗布・乾燥させると、粒径のそろった触媒微粒子を基材表面に密に担持させることができる。
【0043】
さらに、これを用いてCNTを合成すると、CNTの成長活性度が向上し、微粒子が凝集する前にCNTの成長が始まる。そのため、触媒微粒子径とほぼ同等の直径を有する高密度のCNTが得られる。特に、第2元素として4A族元素(特に、Ti)を用いた場合には、相対的に短時間で長さの長いCNTを高密度に成長させることができる。また、第2元素として5A族元素(特に、V)を用いた場合には、触媒微粒子径にほぼ一致する外径を有するCNTが得られる。
また、CNTを成長させる際に、基板としてメソポーラス材料を用いると、触媒微粒子を基板表面に密に配置することができ、かつ、CNT成長時における触媒微粒子の凝集がさらに抑制されるので、CNTの直径制御性がさらに向上する。また、基板表面にMo又はMo酸化物を共存させると、CNTの直径制御性がさらに向上する。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
[1. 触媒分散液の作製]
Feアセチルアセトナート(第1原料)、VOアセチルアセトナート(第2原料)、1,2−ヘキサデカンジオール(還元剤)、オレイン酸及びオレイルアミン(保護層)、並びに、オクチルエーテル(溶媒)を不活性ガス雰囲気下において所定の比率で混合し、これを250℃又は290℃で30分間反応させた。オクチルエーテルは、20mlとし、各原料の添加量は、Feアセチルアセトナート:VOアセチルアセトナート:還元剤:オレイン酸:オレイルアミン=0.9mmol:0.1mmol:7mmol:3mmol:3mmolとした。
反応終了後、室温に冷却し、遠心分離により触媒微粒子を得た。これをヘキサンに加えて触媒分散液を作製した。
【0045】
[2. 触媒分散液の評価]
得られた触媒分散液をTEMグリッドに滴下・乾燥させた後、微粒子のTEM観察を行った。図1(a)及び図1(b)に、Feアセチルアセトナート及びVOアセチルアセトナートを出発原料に用いた触媒微粒子(以下、「Fe−V−O微粒子」という)のTEM写真を示す。図1(a)は、250℃×30分の条件下で合成されたFe−V−O微粒子について、ジャストフォーカスにより格子像を撮影したものである。図1(a)より、平均粒径3.1nmの均一な触媒微粒子が得られていることがわかる。また、図1(b)は、290℃×30分間の条件下で合成されたFe−V−O微粒子について、アンダーフォーカスにより撮影したものである。図1(b)より、平均粒径4.5nmであり、その周囲が保護層で被覆された均一な触媒微粒子が得られていることがわかる。
【0046】
[3. CNTの合成及び評価]
基板には表面にメソポーラスシリカ膜を形成したSi基板(以下、単に「メソポーラスシリカ基板」という)、及び熱酸化膜付Si基板を用いた。メソポーラスシリカ基板は、公知の方法(例えば、J.Phys.Chem.B 2000, 104, 12095-12097参照)により作製した。すなわち、テトラエトキシシランに水及び酸を加えて熟成したゾル溶液に界面活性剤を加え、これをSi基板表面に塗布し、大気中で焼成することにより、メソポーラスシリカ基板を得た。次いで、メソポーラスシリカ基板にシランカップリング剤により疎水処理を施した。同様に、熱酸化膜付Si基板にも疎水処理を施した。
これらの基板を、それぞれ触媒分散液にディッピングし、一定の引き上げ速度(0.5mm/sec)で基板を引き上げ、乾燥させた。乾燥後、プラズマ処理により保護層を除去した。次いで、この基板を反応容器に入れ、熱CVD法によりCNTを生成させた。熱CVDは、炭素含有化合物ガスとしてアセチレンを用い、アセチレン流量:10sccm(cc/min)、水素(還元ガス)流量:45sccm(cc/min)、反応温度:700℃、反応時間:10minとした。
【0047】
図2(a)に、Fe−V−O触媒(V/(Fe+V):10at%、反応温度:250℃)を担持させたメソポーラスシリカ基板を用いて合成されたCNT膜の断面のSEM写真を示す。また、図2(b)に、基板表面から採取したCNTのTEM写真を示す。図2より、ほぼ一定の外径を有するCNTが基板に対して垂直に、かつ高密度に成長していることがわかる。図示はしないが、熱酸化膜付Si基板を用いた場合に比べると、メソポーラスシリカ基板を用いた方が、CNTの成長量が多いことがわかった。
次に、メソポーラスシリカ基板表面から採取したCNTの外径をTEM観察により測定し、その標準偏差を求めた。同様に、触媒分散液中の触媒微粒子の直径をTEM観察により測定し、その標準偏差を求めた。図3(a)及び図3(b)に、それぞれ、Fe−V−O触媒微粒子及びこれを用いて合成されたCNTのヒストグラムを示す。図3より、触媒微粒子の直径とCNTの直径がほぼ一致しており、標準偏差もほぼ一致していることがわかる。
【0048】
(実施例2、比較例1)
[1. 触媒分散液の作製]
第2原料としてVOアセチルアセトナート及び/又はTiOアセチルアセトナートを用いて、触媒分散液を作製した。なお、触媒分散液は、以下の4種類を作製した。また、その他の製造条件は、実施例1と同一とした。
(a) Feアセチルアセトナートのみを含むもの(以下、「Fe−O微粒子(比較例1)」という)。
(b) FeアセチルアセトナートとVOアセチルアセトナートの比が、98:2〜50:50であるもの(Fe−V−O微粒子)。
(b) FeアセチルアセトナートとTiOアセチルアセトナートの比が、98:2〜50:50であるもの(以下、「Fe−Ti−O微粒子」という)。
(c) Feアセチルアセトナートと(VOアセチルアセトナート+TiOアセチルアセトナート)の比が98:2〜50:50であり、かつ、VOアセチルアセトナートとTiOアセチルアセトナートの比が1:1であるもの(以下、「Fe−Ti−V−O微粒子」という)。
【0049】
[2. 触媒分散液の評価]
得られた触媒分散液のICP発光分析を行い、微粒子中のFeとV又はFeとTiの組成比を測定した。図4(a)に、Fe−V−O微粒子の仕込み組成と化学分析組成との関係を示す。また、図4(b)に、Fe−Ti−O微粒子の仕込み組成と化学分析組成との関係を示す。図4より、仕込み組成にほぼ一致する化学分析組成を有する触媒微粒子が得られていることがわかる。なお、図示はしないが、Fe−Ti−V−O微粒子についても同様の結果が得られた。
【0050】
[3. CNTの合成及び評価]
[1.]で得られた触媒分散液を用いて、CNTを合成した。使用した基板及びCNT合成条件は、実施例1と同一とした。
図5に、触媒組成とCNT膜厚の関係、並びに、Fe−O微粒子及びFe−Ti−O微粒子(Fe−10〜40at%Ti)を用いて合成されたCNT膜の断面のSEM写真を示す。Fe−O微粒子を用いた場合、CNTの生成本数が極めて少なく、CNTは基板表面を這うように生成していた。これに対し、Fe−Ti−O微粒子を用いた場合、基板に対して垂直に、かつ高密度にCNTが生成した。一定時間経過後のCNTの膜厚は、Ti含有量に依存しており、20〜25at%Tiの時に最も膜厚が厚くなった。
Fe−V−O微粒子及びFe−Ti−V−O微粒子を用いた場合も同様であり、いずれの組成も、基板に対して垂直に、かつ高密度にCNTが生成した。一定時間経過後のCNTの膜厚は、V量及びTi量に依存しており、Fe−V−O微粒子の場合は約10at%Vの時に、また、Fe−Ti−V−O微粒子の場合は約15at%(Ti+V)の時に最も膜厚が厚くなった。
【0051】
図6に、触媒微粒子(Fe−V−O微粒子、Fe−Ti−O微粒子及びFe−Ti−V−O微粒子)の直径と、これを用いて合成されたCNTの外径との関係を示す。なお、図6には、他の研究者が用いた予め合成した触媒の直径及びこれを用いて合成されたCNTの外径も併せて示した。出典は、以下の通りである。
(1) S.Sato et al., Chemical Physics Letters 402(2005)149-154(非特許文献1)
(2) M.Hiramasu et al., Japanese Journal of Applied Physics, vol.44, No.22, 2005, pp.L693-695(非特許文献2)
(3) Kobayashi et al., Thin Solid Films, 464(2004)286-289
(4) Cheung et al., J.Phys.Chem.B, 106(2002), 2429-2433
(5) Choi et al., J.Phys.Chem.B, 106(2002)12361-12365
(6) Fu et al., J.Phys.Chem.B, 108(2004)6124-6129
(7) Li et al., J.Phys.Chem.B, 105(2002)2429-2433
(8) Sato et al., Chem.Phys.Lett., 382(2003)361-366
(9) Hiramasu et al., Jpn.J.Appl.Phys., 44(2005)1150-1154
【0052】
図6中、黒塗りの印は、いずれも低密度かつランダムにCNTが成長しており、CNTが垂直配向した膜は得られていない。また、触媒微粒子の直径とCNTの外径との間にほとんど対応関係がないものが多い。
一方、Satoらにより得られたCNTは、高密度であり、かつ基板に対してほぼ垂直に配向していた。また、微粒子の直径とCNTの外径とがほぼ1:1に対応していた。しかしながら、この微粒子は、相対的に平均粒径が大きく、標準偏差も1nmを超えており、しかも、微分型静電分級器を用いて分級されたものであるため、大量合成に適用するのは困難である。また、Hiramasuらにより得られたCNTも同様に、高密度であり、かつ基板に対してほぼ垂直に配向していた。しかしながら、CNT合成中に微粒子が凝集したために、微粒子の直径とCNTの外径との間に1:1の対応関係はない。
これに対し、本発明に係る触媒分散液を用いた場合、高密度かつ垂直配向したCNTが得られ、しかも、いずれの触媒を用いた場合であっても微粒子の直径とCNTの外径との間にほぼ1:1の対応関係があった。さらに、CNTの外径は、3〜5nmの範囲にあり、外径の標準偏差は、いずれも1nm以下であった。
【0053】
(実施例3)
[1. 触媒分散液の作製]
実施例1と同一条件下(反応温度:250℃)で、Fe−V−O触媒を含む触媒分散液を作製した。
[2. CNTの合成及び評価]
メソポーラスシリカ基板を濃度0.6mMol/Lの酢酸モリブデンダイマーのエタノール溶液に浸漬し、乾燥させた。次いで、この基板を400℃で0.5時間熱処理した。熱処理後の基板にシランカップリング剤により疎水処理を施し、触媒の担持及びプラズマ処理後、実施例1と同一条件下で、CNTの合成を行った。
基板表面に合成されたCNT膜の断面をSEM観察したところ、図示はしないが、CNTが基板表面に垂直に、かつ高密度に成長していることを確認した。
次に、Fe−V−O触媒(V:10at%)を用いて合成されたCNTを基板表面から採取し、CNTの直径をTEM観察により測定し、その標準偏差を求めた。図3(c)にその結果を示す。図3より、基板表面にMo酸化物を予め担持させると、Mo酸化物を担持させない場合(実施例1、図3(b))と比べて、平均直径はほぼ同等であるが、標準偏差が小さいCNTが得られていることがわかる。
【0054】
(実施例4)
基板表面に厚さ1nmのMo薄膜を蒸着させた。以下、この基板を用いた以外は、実施例3と同一条件下で、CNTの合成を行った。その結果、Fe−V−O触媒のみの場合に比べて、平均直径はほぼ同等であるが、標準偏差の小さいCNTが得られていることを確認した。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るカーボンナノチューブ合成用触媒及びその製造方法は、直径制御性に優れ、高密度でかつ垂直配向したCNTを合成するための触媒及びその製造方法として使用することができる。
また、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法は、電子顕微鏡などに用いられる電子放出源(点光源)、半導体の配線材料、放熱材料、繊維材料、走査型トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡、走査型近接場光学顕微鏡などの走査型プローブ顕微鏡に用いられる探針等に用いられるCNTの製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1(a)は、250℃×30分間の条件下で合成されたFe−V−O微粒子の電子顕微鏡写真(ジャストフォーカスによる格子像)であり、図1(b)は、290℃×30分間の条件下で合成されたFe−V−O微粒子の電子顕微鏡写真(アンダーフォーカス)である。
【図2】図2(a)は、Fe−V−O微粒子(反応温度:250℃)を用いて合成されたCNT膜の断面のSEM写真であり、図2(b)は、図2(a)に示す基板表面から採取されたCNTのTEM写真である。
【図3】図3(a)は、Fe−V−O微粒子(反応温度:250℃)の粒径ヒストグラムであり、図3(b)は、このFe−V−O微粒子を担持させたメソポーラスシリカ基板上に生成させたCNTの外径ヒストグラムであり、図3(c)は、Mo酸化物及びこのFe−V−O微粒子を担持させたメソポーラスシリカ基板上に生成させたCNTの外径のヒストグラムである。
【図4】図4(a)は、Fe−V−O微粒子の仕込み組成と化学成分組成との関係であり、図4(b)は、Fe−Ti−O微粒子の仕込み組成と化学成分組成との関係である。
【図5】触媒微粒子の組成とCNT膜厚との関係を示す図、並びに、Fe−O微粒子及びFe−Ti−O微粒子を用いて合成されたCNT膜の断面のSEM写真である。
【図6】触媒微粒子の直径と、これを用いて合成されたCNTの外径との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Co及びNiから選ばれる1以上の第1元素と、4A族元素及び5A族元素から選ばれる1以上の第2元素とを含む微粒子からなり、
前記微粒子の周囲が有機酸及び有機アミンから選ばれる1以上の有機物からなる保護層で被覆されているカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項2】
前記第2元素の含有量(=前記第2元素の原子数×100/(前記第1元素の原子数+前記第2元素の原子数))は、2〜50at%である請求項1に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項3】
前記微粒子は、直径が1〜15nmである請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項4】
前記微粒子は、直径の標準偏差が1nm以下である請求項1から3までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項5】
前記微粒子は、直径の標準偏差が0.5nm以下である請求項1から3までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒を分散媒中に分散させた触媒分散液。
【請求項7】
以下の工程を備えたカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
(イ) Fe、Co及びNiのいずれか1以上の第1元素を含む1種又は2種以上の第1原料と、
4A族元素及び5A族元素のいずれか1以上の第2元素を含む1種又は2種以上の第2原料と、
1種又は2種以上のアルコールと、
有機酸及び有機アミンから得らればれる1以上の有機物とを
有機溶媒中で溶解・混合する溶解・混合工程。
(ロ) 前記溶解・混合工程で得られた溶液を、不活性雰囲気下において180〜300℃で加熱する加熱工程。
【請求項8】
前記第1原料は、前記第1元素のイオンに有機物が配位した有機錯体、又は、前記第1元素の有機酸塩である請求項7に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項9】
前記第1原料は、Fe(III)アセチルアセトナートである請求項8に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記第2原料は、前記第2元素(M)のイオン若しくはMOイオンに有機物が配位した有機錯体、又は、前記第2元素の有機酸塩である請求項7から9までのいずれかに記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項11】
前記第2原料は、VOアセチルアセトナート又はTiOアセチルアセトナートである請求項10に記載のカーボンナノチューブ合成用触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載の触媒分散液を基板表面に塗布し、前記基板表面にカーボンナノチューブ合成用触媒を担持させる触媒担持工程と、
前記カーボンナノチューブ合成用触媒を担持させた前記基板表面にカーボンナノチューブを成長させる成長工程と
を備えたカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項13】
前記基板は、メソポーラス材料を含む請求項12に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項14】
前記基板は、メソポーラスシリカを含む請求項13に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項15】
前記触媒担持工程の前に、前記基板表面にMo又はMo酸化物を担持させるMo担持工程をさらに備えた請求項12から14までのいずれかに記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項16】
前記Mo担持工程は、
前記Mo化合物を含む溶液を前記基板表面に塗布する塗布工程と、
前記基板を熱処理し、前記基板表面にMo酸化物を形成する熱処理工程と
を備えている請求項15に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項17】
前記Mo化合物は、酢酸塩又はモリブデン酸塩である請求項16に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項18】
前記溶液中のMo化合物の濃度は、Mo濃度に換算して、0.01〜100mMol/Lである請求項16又は17に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項19】
前記Mo担持工程は、前記基板表面にMo薄膜を形成するものである請求項15に記載のカーボンナノチューブの製造方法。
【請求項20】
前記Mo薄膜の膜厚は、0.2〜10nmである請求項19に記載のカーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−268319(P2007−268319A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81792(P2006−81792)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】