説明

カーボンナノチューブ粉体、電極用導電助剤及びそれを用いた電極並びに該電極を用いた蓄電デバイス

【課題】粉体として取り扱いやすく、かつ蓄電デバイス等の電極の導電助剤として用いたときに、電極の導電性を大幅に改善することができるカーボンナノチューブ粉体、及びそれからなる電極用導電助剤、該導電助剤を用いた電極、並びに該電極を用いたリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスを得る。
【解決手段】カーボンナノチューブが集合して形成された板状の粉体であって、カーボンナノチューブが、板状の面方向に並行に延びるように配向し、かつ配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有するカーボンナノチューブ粉体を用いることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブが配向しながら集合して形成されたカーボンナノチューブ粉体、それからなる電極用導電助剤、及びそれを含有する電極、並びに該電極を用いたリチウムイオン電池及び電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、優れた電気伝導性、熱伝導性、及び機械的強度を有しており、研究及び開発が近年盛んに行われている。
【0003】
カーボンナノチューブは、アスペクト比が大きい繊維状物であるため、不規則に絡まり合い、粉体として取扱いにくいという問題があった。このため、リチウムイオン電池及び蓄電デバイスなどに用いる電極用の導電助剤として研究レベルでは検討されているものの、工業的レベルで導電助剤として実用化されていないのが現状である。
【0004】
また、カーボンナノチューブを安価に製造する方法が開発されておらず、従来のカーボンナノチューブは価格が極めて高いものであった。
【0005】
カーボンナノチューブを量産することができる方法として、金属触媒を担持した基板の上に、CVD法(化学的気相成長法)によりカーボンナノチューブを生成させ成長させる方法が知られている(特許文献1など)。このような方法によれば、一方向に配向したカーボンナノチューブを効率良く製造することができる。
【0006】
しかしながら、このような方法で成長させたカーボンナノチューブを、基板から剥離するには、カーボンナノチューブをピンセットで挟み基板から剥離する方法や、カッターブレードなどの刃を用いてカーボンナノチューブを切断して基板から分離しなければならず、カーボンナノチューブの製造工程として非常に複雑になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−182352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、粉体として取り扱いやすく、かつ蓄電デバイス等の電極の導電助剤として用いたときに電極の導電性を大幅に改善することができるカーボンナノチューブ粉体、それからなる電極用導電助剤、該導電助剤を用いた電極、並びに該電極を用いたリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、カーボンナノチューブが集合して形成された板状の粉体であって、カーボンナノチューブが、板状の面方向に並行に延びるように配向し、かつ配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有することを特徴としている。
【0010】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、カーボンナノチューブが配向しながら集合して形成された板状の粉体であるので、従来の不規則に絡み合った高アスペクトのカーボンナノチューブに比べ、粉体として取扱いやすい。
【0011】
また、カーボンナノチューブが、板状の面方向に並行に延びるように配向し、かつ配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有しているので、剪断応力等をかけて分散させた際、カーボンナノチューブ同士が絡み合いを維持しながら広がっていく。このため、優れた電気伝導性、熱伝導性、及び機械的強度を被配合物に付与することができる。
【0012】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、Caの含有量が1重量%以下であることが好ましい。また、Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ1重量%以下であることがさらに好ましい。
【0013】
また、Caの含有量は、0.1重量%以下であることがさらに好ましく、Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ0.01重量%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の電極用導電助剤は、電極内の導電性を高めるため電極内に含有される導電助剤であって、上記本発明のカーボンナノチューブ粉体からなることを特徴としている。
【0015】
本発明の電極は、上記本発明の導電助剤を含有することを特徴としている。
【0016】
本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の電極を用いたことを特徴としている。このような蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池や、電気二重層キャパシタなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、粉体として取扱いやすく、かつ蓄電デバイス等の電極の導電助剤として用いたときに電極の導電性を大幅に改善することができる。
【0018】
本発明の電極用導電助剤は、蓄電デバイス等の電極に含有させることにより、電極の集電性等を大幅に改善することができる。
【0019】
本発明の電極は、上記本発明の導電助剤を含有しているので、集電性などの特性において優れている。
【0020】
本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の電極を用いているので、電極の集電性等において優れており、例えば、急速な充放電を可能にすることができ、また長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に従う実施例におけるカーボンナノチューブ粉体を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図2】本発明に従う実施例におけるカーボンナノチューブ粉体を構成するカーボンナノチューブを拡大して示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図3】本発明に従う実施例におけるカーボンナノチューブ粉体を構成するカーボンナノチューブを拡大して示す走査型電子顕微鏡写真(倍率25000倍)。
【図4】本発明に従う調製例においてカーボンナノチューブ担持ワラストナイトを生成するのに用いた燃焼法による製造装置を示す模式図。
【図5】本発明に従う調製例で得られたカーボンナノチューブ担持ワラストナイトを示す走査型電子顕微鏡写真(a)と透過型電子顕微鏡写真(b)。
【図6】本発明に従う実施例において得られたカーボンナノチューブ粉体(熱処理前)を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率2500倍)。
【図7】本発明に従う調製例において得られたカーボンナノチューブ粉体の熱処理前及び熱処理後の熱重量分析測定チャート。
【図8】本発明に従う実施例1において作製した電極内のカーボンナノチューブの状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図9】比較例1Aにおいて作製した電極内の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図10】比較例1Bにおいて作製した電極内の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率10000倍)。
【図11】本発明に従う実施例1において作製した電極を用いたキャパシタの出力特性を示す図。
【図12】本発明に従う実施例2において作製した電極内のカーボンナノチューブの状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図13】比較例2で作製した電極内の状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図14】本発明に従う実施例2において作製した電極の放電レートに対する放電容量比を示す図。
【図15】本発明に従う実施例3において作製した電極内のカーボンナノチューブの状態を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図16】比較例3Aにおいて作製した電極内を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図17】比較例3Bにおいて作製した電極内を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図18】比較例3Cにおいて作製した電極内を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【図19】本発明に従う実施例3において作製した電極の放電レートに対する放電容量比を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、カーボンナノチューブが配向しながら集合して形成された板状の粉体であるため、従来の不規則に絡み合った高アスペクトのカーボンナノチューブに比べ、粉体として取扱いやすい形態を有している。板状の形態は特に限定されるものではないが、板状粉体としての厚みは、0.05μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、アスペクト比(カーボンナノチューブの成長方向の長さ/板状粉体の厚さ)は、5〜50000の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは50〜10000である。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブ粉体において、カーボンナノチューブは、板状の面方向に並行に並ぶように配向している。カーボンナノチューブの配向方向(成長方向)の長さは、例えば、1μm〜2500μmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは5μm〜250μmの範囲である。
【0024】
また、本発明のカーボンナノチューブ粉体において、カーボンナノチューブは、上述のように配向するとともに、配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有している。従って、カーボンナノチューブは、隣接するカーボンナノチューブとの間で絡み合う構造を有している。そのため、本発明のカーボンナノチューブ粉体を、剪断応力等をかけて分散させた際、カーボンナノチューブ同士は、互いに絡み合いを維持しながら拡がっていく。このため、活物質や活性炭素等の粉体を含む電極における導電助剤等として用いた場合、活物質等の粉体の表面を網目構造を形成して覆うように拡がる。このため、活物質等の粉体間の導電性を高めることができ、電極内の集電性を向上させることができる。
【0025】
本発明のカーボンナノチューブ粉体のBET比表面積は、10〜500m/gの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、100〜300m/gの範囲内である。
【0026】
本発明のカーボンナノチューブ粉体の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、触媒を付着させた金属酸化物粒子の表面に、CVD法または燃焼法によりカーボンナノチューブを生成させ、金属酸化物粒子の表面に対して略垂直方向に並行に成長したカーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子を製造し、カーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子から金属酸化物粒子を除去することにより、製造することができる。
【0027】
金属酸化物粒子を除去する方法は、使用する金属酸化物粒子に応じて種々選択することができる。例えば、珪酸アルカリ土類金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩、チタン酸アルカリ塩などの場合、酸処理及びアルカリ処理が挙げられる。珪酸アルカリ土類金属塩としては、例えば、ワラストナイトを挙げることができる。
【0028】
例えば、カーボンナノチューブ粉体を担持した金属酸化物粒子に、酸処理及びアルカリ処理を施すことにより、金属酸化物粒子を除去することができ、簡易にカーボンナノチューブ粉体を製造することができる。
【0029】
カーボンナノチューブは、CVD法または燃焼法により生成させることができる。燃焼法としては、触媒を付着させた金属酸化物粒子を500℃〜1000℃に加熱し、加熱した金属酸化物粒子に炭化水素及び/または一酸化炭素を接触させる方法が挙げられる。この燃焼法においては、炭化水素または一酸化炭素と酸素含有ガスの燃焼によって金属酸化物粒子が加熱され、同時に炭化水素及び/または一酸化炭素と接触することにより、該金属酸化物粒子の表面にカーボンナノチューブが生成し成長することが好ましい。
【0030】
上記の製造方法によれば、カーボンナノチューブを、板状の集合体として成長させることができる。このため、カーボンナノチューブを板状の集合体として製造することができる。
【0031】
上記の製造方法において、金属酸化物粒子にカーボンナノチューブ生成触媒となる金属元素を担持させる為の金属イオンを含む溶液は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,In,Sn,Al,Ptのうちの少なくとも1種以上の元素と、Mo元素と含み、Mo元素1モルに対して、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,In,Sn,Al,Ptのうちの少なくとも1種以上の元素が、0.1〜1000モルの範囲で含まれることが好ましい。0.1モル未満であると、製造する事は可能であるが経済性に劣る場合がある。1000モルを超えると、金属酸化物粒子に担持されるカーボンナノチューブが著しく少なくなり、規則性も薄れる場合がある。
【0032】
以下、上記製造方法をさらに詳細に説明する。
【0033】
カーボンナノチューブを担持する結晶性金属酸化物粒子としては、例えば、珪酸アルカリ土類金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩、チタン酸アルカリ塩等が挙げられる。特に、繊維状の結晶性金属酸化物粒子であることが好ましい。繊維状の珪酸アルカリ土類金属塩としては珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸マグネシウム・アルミニウム、珪酸ストロンチウム、珪酸バリウム、等が挙げられる。繊維状のチタン酸アルカリ土類金属塩としては、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。繊維状のチタン酸アルカリ塩としては、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸リチウム、チタン酸セシウム等が挙げられる。
【0034】
結晶性金属酸化物粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、繊維状物の場合、繊維径10nm〜10μm、繊維長1μm〜1000μmの範囲のものが挙げられる。
【0035】
金属酸化物粒子の表面に担持させる触媒としては、Mo及び、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,In,Sn,Al,Ptのうちの少なくとも1種以上の元素を含む化合物、例えば金属単体、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭化物等が使用できる。中でも、Moと、Fe,Ni,Coのうちの少なくとも1種以上との酸化物及び水酸化物は、担持が容易で優れた触媒であり、表面に効率良くカーボンナノチューブを形成できる。
【0036】
金属酸化物粒子の表面に上記触媒を担持させる方法としては、スパッタリング、真空蒸着、CVD、鍍金等があげられるが、最も簡便で実用的な方法として、金属酸化物粒子を触媒金属の化合物溶液に浸漬する方法がある。
【0037】
単純に溶液に浸漬し分離、乾燥あるいは焼成するだけでも触媒金属は担持されるが、より確実に担持させる方法として、金属酸化物粒子がアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属元素を有する場合には、触媒化合物溶液に浸漬することでアルカリ金属元素あるいはアルカリ土類金属元素と触媒金属が置換し、効率的に触媒金属をこれら粒子の表面に固定する方法がある。その際、触媒化合物溶液を加熱してもよい。また、金属化合物が触媒としてカーボンナノチューブを形成するためには微細な粒子として担持される必要があるが、触媒金属化合物の加水分解等を利用して作製されたコロイドゾルに、金属酸化物粒子を浸漬する方法が有効である。例えば、硝酸ニッケル及びモリブデン酸アンモニウムの水溶液にワラストナイトを浸漬し、ニッケル及びモリブデン触媒を担持する。この場合、ワラストナイト表面のCaが液中のニッケルイオン及びモリブデン酸イオンと置換し、担持される。
【0038】
一方、塩化鉄及びモリブデン酸アンモニウムの水溶液を煮沸水に滴下することにより、水酸化鉄あるいは酸化鉄及び水酸化モリブデンあるいは酸化モリブデンの微粒子ゾルを形成し、このゾル中に金属酸化物粒子を浸漬し、分離、乾燥あるいは焼成することにより、酸化鉄微粒子触媒を担持することが可能である。この方法は金属酸化物粒子の表面に塩基が無くても担持が可能であり、幅広い金属酸化物粒子に応用できる。
【0039】
触媒の担持量は、成長させるカーボンナノチューブの量により、適宜選択すればよい。また、Mo元素1モルに対して、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,In,Sn,Al,Ptのうちの少なくとも1種以上の元素を、好ましくは、0.1〜1000モル、さらに好ましくは、1〜100モルとなるように担持する。
【0040】
触媒を担持させた金属酸化物粒子の表面上にカーボンナノチューブを生成させ成長させる方法としては、CVD法が挙げられる。この場合に用いられるCVD法は、一般にカーボンナノチューブの製造に用いられるエタン、エチレン、アセチレン等の炭化水素ガスと窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスを含む混合ガスによるものだけではなく、エタノールやトルエン等の常温で液体の炭化水素化合物やポリスチレン等の常温で固体の炭化水素を用いるCVD法も可能であり、大量に合成する方法としてむしろこれら液体や固体の炭化水素を用いる方法が望ましい。例えば、酸化ニッケル及び酸化モリブデン触媒を担持させた触媒担持ワラストナイトとポリスチレン樹脂粉末を混合し、窒素雰囲気下で700℃に加熱することでカーボンナノチューブ担持金属酸化物粒子を合成することができる。このときのワラストナイトとポリスチレンの混合比は、ワラストナイト1に対してポリスチレン0.01以上で可能であるが、効率の点より0.1〜10が望ましく、CVD温度は500〜1000℃が望ましい。
【0041】
また、燃焼法によりカーボンナノチューブを生成させ成長させることができる。具体的には、炭化水素ガスを不完全燃焼させ、その炎に触媒を担持した金属酸化物粒子を接触させることにより、燃焼ガスを炭素源とし、燃焼熱により触媒を担持させた金属酸化物粒子を加熱し、金属酸化物粒子の表面にカーボンナノチューブを生成させる。例えば、酸化ニッケル及び酸化モリブデン触媒を担持させた触媒担持ワラストナイトを調製し、これを空気/エチレンの体積比が10以下、好ましくは7以下の混合気体をガスバーナーにより燃焼させてできる炎に、1分以上好ましくは5〜15分程度接触させ、表面にカーボンナノチューブを生成させることができる。この際の温度は、500〜1000℃が好ましく、500〜900℃がより好ましく、さらには600〜800℃が好ましい。カーボンナノチューブが生成した後、該金属酸化物粒子との接触をやめる際に表面に生成したカーボンナノチューブが高温のまま空気と接触すると燃焼するため、500℃以下になるまで空気を遮断した状態で冷却するか、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスに接触させ冷却するのが望ましい。
【0042】
上記CVD法を用いる場合には、炭素源として高分子を用いることができる。
【0043】
上記燃焼法によりカーボンナノチューブを生成させる場合には、炭化水素と酸素含有ガスの燃焼反応によって金属酸化物粒子を加熱し、同時に炭化水素及び/または一酸化炭素と接触させることにより、カーボンナノチューブを生成させることが好ましい。
【0044】
担持されているカーボンナノチューブの金属酸化物の表面に対する略垂直方向の長さは、1μm〜1000μmであることが好ましく、1μm〜500μmであることがより好ましく、さらに好ましくは、5μm〜100μmである。
【0045】
金属酸化物粒子の表面にカーボンナノチューブを担持させて付着させる付着量は、触媒の担持量、供給する不活性ガス量、炭化水素の種類とその量、反応温度と時間等で制御することが可能である。燃焼法の場合も触媒の担持量、燃焼ガス量、空燃比、反応温度と時間等で制御することが可能である。
【0046】
カーボンナノチューブの付着量は、例えば熱分析などから求めることができる。熱分析を行い、800℃程度での加熱減量などから求めることができる。
【0047】
カーボンナノチューブを担持させる金属酸化物粒子としては、上述のように、繊維状もしくは板状のチタン酸カリウム、及びワラストナイトなどが挙げられる。その他のものとしては、ガラス繊維、セラミック繊維、繊維状ホウ酸アルミニウム、繊維状酸化チタンなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
上記のようにカーボンナノチューブを担持させた金属酸化物粒子から、金属酸化物粒子を除去することにより、カーボンナノチューブ粉体を製造することができる。
【0049】
金属酸化物粒子を除去する方法としては、上述のように、酸処理及びアルカリ処理が挙げられる。酸処理としては、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸や、酢酸などの有機酸を用いることができる。酸の濃度は、処理する金属酸化物粒子の量や、酸の種類などにより適宜選択される。一般には、0.1〜10N程度が好ましい。
【0050】
酸処理は、カーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子に酸溶液を接触させることにより行うことができる。具体的には、酸溶液に、カーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子を添加し、所定時間反応させることにより行うことができる。酸溶液の温度としては、一般に、0〜90℃程度が好ましい。また、酸処理の時間としては、一般には、1分〜48時間程度が好ましい。
【0051】
アルカリ処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ溶液の濃度は、処理する金属酸化物粒子の量やアルカリの種類などにより適宜選択される。一般には、0.1〜10N程度が好ましい。アルカリ処理を行う方法としては、カーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子を、アルカリ溶液に接触する方法が挙げられる。具体的には、アルカリ溶液中に、カーボンナノチューブを担持した金属酸化物粒子を添加することにより行うことができる。アルカリ溶液の温度としては、一般には、0〜90℃の範囲内の温度であることが好ましい。また、アルカリ処理の時間は、1分〜48時間であることが好ましい。
【0052】
酸処理及び/またはアルカリ処理により、金属酸化物粒子を溶解して除去した後、カーボンナノチューブを濾過して分離し、必要に応じて洗浄した後、乾燥することによりカーボンナノチューブ粉体を得ることができる。
【0053】
金属酸化物粒子を除去するための酸処理及びアルカリ処理は、使用する金属酸化物粒子に応じて、酸処理単独、アルカリ処理単独、酸処理及びアルカリ処理の両方を行うことができる。酸処理及びアルカリ処理の両方を行う場合には、酸処理した後に、アルカリ処理を行ってもよいし、アルカリ処理をした後、酸処理を行ってもよい。金属酸化物粒子が、ワラストナイトである場合には、酸処理をした後、アルカリ処理を行うことが好ましい。
【0054】
上記の製造方法においては、得られたカーボンナノチューブ粉体を、1000〜3200℃の範囲内の温度で熱処理することができる。加熱方法としては、カーボン抵抗加熱炉による加熱方法、マイクロ波加熱、及び電磁誘導加熱などによる直接加熱が挙げられる。このような熱処理を施すことにより、上記方法で製造されたカーボンナノチューブに含まれるカルシウム(Ca)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などの不純物を低減させることができる。熱処理のさらに好ましい温度範囲は、2000〜3000℃の範囲である。また、熱処理時間としては、例えば、1分〜240時間が挙げられる。熱処理温度が低すぎると、不純物を低減させる効果が十分に得られない場合がある。熱処理温度が高すぎると、カーボンが昇華してしまうことが懸念される。また、エネルギー効率や生産コストの面からも好ましくない。
【0055】
本発明のカーボンナノチューブ粉体は、実質的にカーボンナノチューブのみから構成されていることが好ましい。従って、カーボンナノチューブが99重量%以上であることが好ましい。
【0056】
上記のように、カーボンナノチューブに含まれる不純物は、熱処理を施すことにより低減することができる。本発明のカーボンナノチューブ粉体を、電極等の導電助剤として用いる場合、不純物濃度の低いことが好ましい。上述のように、Caの含有量は1重量%以下であることが好ましく、Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ1重量%以下であることがさらに好ましい。また、Caの含有量は0.1重量%以下であることがさらに好ましく、Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ0.01重量%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
本発明の電極用導電助剤は、上記のように、本発明のカーボンナノチューブ粉体からなることを特徴としている。
【0058】
上述のように、本発明のカーボンナノチューブ粉体は、カーボンナノチューブが板状の面方向に並行に延びるように配向し、かつ配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有しているので、電極中の活物質等を網目状に覆うようにして、電極内に配合される。そのため、活物質等の粉体間の導電性を高めることができ、電極における集電性等を大幅に改善することができる。
【0059】
本発明の導電助剤を含有する電極を用いるデバイスとしては、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスが挙げられる。電極における本発明の導電助剤の含有割合は、特に限定されるものではないが、一般には1〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0060】
リチウムイオン電池の電極としては、一般に、活物質、導電助剤、及びバインダーが含有される。活物質の含有割合としては、一般に、80〜95重量%であり、導電助剤の含有割合としては1〜20重量%であり、バインダーの含有割合としては1〜10重量%である。本発明の導電助剤は、必要に応じて、導電性カーボンブラックなどの他の導電助剤と併用して用いてもよい。
【0061】
電気二重層キャパシタの電極は、一般に、活性炭、導電助剤、及びバインダーが含まれる。電極における活性炭の含有割合は、一般に、80〜95重量%であり、導電助剤の含有割合は、1〜20重量%であり、バインダーは、1〜10重量%である。本発明の導電助剤は、上述のように、必要に応じて他の導電助剤と併用して用いてもよい。
【0062】
リチウムイオン電池及び電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスの電極は、従来より公知の方法により製造することができる。例えば、リチウムイオン電池の電極の場合、活物質、導電助剤、及びバインダーを含むスラリーを作製し、このスラリーを集電体である金属箔の上にコーティングして電極を形成することができる。また、活物質、導電助剤、及びバインダーを、プレス成形等で成形することにより電極を形成してもよい。
【0063】
また、電気二重層キャパシタの電極は、活物質、導電助剤、及びバインダーを含むスラリーを集電体である金属箔の上にコーティングして形成することができる。また、活性炭、導電助剤、及びバインダーをシート状に成形した後金属箔を接着する方法などによって作製してもよい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能なものである。
【0065】
<カーボンナノチューブ粉体の調製例>
(触媒担持ワラストナイトの調製)
ワラストナイト(ナイグロス5番;繊維径:5μm、繊維長:50μm)10gに水500mlを加え、十分に攪拌し分散スラリーを作製した。
【0066】
水500mlに硝酸ニッケル(試薬特級)5.4gを加え溶解した。この溶液にモリブデン酸アンモニウム(試薬特級)0.7gを加え溶解した。この溶液(触媒液)を上記スラリーに加えた。
【0067】
このスラリーを1時間攪拌し、静置した後、デカンテーション法にて3回水洗し、濾別した。
【0068】
得られたケーキを120℃で1時間乾燥し、乳鉢で解砕し、触媒を担持したワラストナイトを得た。
【0069】
(カーボンナノチューブ担持ワラストナイトの調製)
得られた触媒担持ワラストナイト0.5gを、図4に示す装置におけるステンレスメッシュ製の容器1に入れ、ワラストナイトの表面に、カーボンナノチューブ(CNT)を生成させた。容器1の上面及び下面並びに周囲の側面は、ステンレスメッシュから形成されており、容器1の下方及び上方には、それぞれ孔の開いたステンレス板2及び3が配置されている。ステンレス板2の下方には、バーナー4が配置されており、容器1内の触媒担持ワラストナイトは、バーナー4からの火炎5に晒される。
【0070】
容器1、ステンレス板2及び3は、ステンレス管6内に挿入されている。
【0071】
エチレン1.75リットル/分及び空気10リットル/分をバーナー4に供給し、バーナー4からの火炎5に20分間触媒担持ワラストナイトを晒した後、バーナー4に供給するガスを窒素ガス10リットル/分に切り換え、2分間冷却した。得られた生成物は、3.1gであった。
【0072】
得られた生成物を、走査型電子顕微鏡(日立製作所製:S−4800)及び透過型電子顕微鏡(日本電子製:JEM−2010)を用いて観察した。図5は、得られた生成物を示す走査型電子顕微鏡写真(a)と透過型電子顕微鏡写真(b)である。
【0073】
図5(a)は走査型電子顕微鏡像(2500倍)であるが、ワラストナイトの表面に対して、略垂直方向に並行にカーボンナノチューブ(CNT)が成長した状態で、担持されているのが観察された。また、カーボンナノチューブは、ワラストナイトを挟んで対称な方向に成長しており、全体の構造は平面的な板状形状であった。走査型電子顕微鏡による観察で、測定されたワラストナイト表面におけるカーボンナノチューブのワラストナイト表面に対する略垂直方向の長さは、5〜50μmである。
【0074】
図5(b)は透過型電子顕微鏡像(30万倍)であるが、ワラストナイトの表面に生成担持されたカーボンナノチューブが、中空構造をしたカーボンナノチューブであることがわかる。
【0075】
(カーボンナノチューブ担持ワラストナイトからのワラストナイトの除去)
得られたカーボンナノチューブ担持ワラストナイト200gを0.5Nの硝酸水溶液25リットル中に添加し、水溶液の温度を30℃に保持しながら約2時間撹拌した。
【0076】
撹拌後の水溶液を、ブフナー漏斗で濾過した後、ケーキ状の濾過物を純水で洗浄した。得られたケーキ状の濾過物を、反応容器に移し、これに1Nの水酸化ナトリウム水溶液25リットルを入れ、50℃に保持しながら約2時間撹拌した。
【0077】
再度ブフナー漏斗で濾過し、濾過物を50℃の温水5リットルで5回洗浄した。得られた濾過物を、120℃で12時間乾燥した。これにより、カーボンナノチューブ粉体161gが得られ、嵩密度は0.015g/mlであった。
【0078】
図6は、得られたカーボンナノチューブ粉体を示す走査型電子顕微鏡写真である。図6から明らかなように、ワラストナイトが除去されたカーボンナノチューブは、一方向に配向したカーボンナノチューブが板状に集合した形態を有していることがわかる。この板状に集合したカーボンナノチューブの厚みは、0.1〜10μmである。また、配向方向のカーボンナノチューブの長さは5〜50μm程度である。
【0079】
(熱処理)
得られたカーボンナノチューブ粉体について、熱処理を行なった。熱処理温度及び熱処理時間は、1500℃3時間及び2700℃3時間の各条件で行なった。具体的には、カーボンナノチューブ粉体21gを、直径100mm、高さ100mmの黒鉛坩堝に入れ、直径5mmの穴が開いた黒鉛製の蓋を坩堝の上にのせ、カーボン抵抗炉内に設置した。炉内を一旦真空にし、その後、炉内にArガスを1リットル/minで流しながら、昇温速度30℃/minで2700℃まで昇温し、3時間保持した後、自然放冷した。Arガスなどの不活性ガスを炉内に流すことにより、カーボンナノチューブ粉体から放出された不純物を炉外に放出することができる。坩堝からカーボンナノチューブ粉体を取り出し計量したところ20gであった。このようにして得られたカーボンナノチューブ粉体の嵩密度は0.043g/mlであり、比表面積はBET法により測定したところ146m/gであった。また、同様にしてカーボンナノチューブ粉体を1500℃にて熱処理を行った。
【0080】
熱処理前のカーボンナノチューブ粉体、1500℃で熱処理したカーボンナノチューブ粉体、及び2700℃で熱処理したカーボンナノチューブ粉体中の不純物を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES法:日産アーク社)により定量分析した。分析結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示すように、熱処理を施すことにより、Ca、Si、Fe、Ni及びMoなどの不純物が低減することがわかる。2700℃で熱処理したものは、不純物濃度が検出限界となっており、熱処理により高純度のカーボンナノチューブ粉体が得られていることがわかる。
【0083】
熱処理前のカーボンナノチューブ粉体と、1500℃で熱処理したカーボンナノチューブ粉体と、2700℃で熱処理したカーボンナノチューブ粉体の熱重量分析測定チャートを図7に示す。図7から明らかなように、熱処理を施すことにより、カーボンナノチューブ粉体の熱安定性が高められていることがわかる。
【0084】
図1は、2700℃での熱処理後のカーボンナノチューブ粉体を示す走査型電子顕微鏡写真である。図1から明らかなように、熱処理後においても、カーボンナノチューブ粉体は、カーボンナノチューブが集合して形成された板状の粉体であり、板状の面方向に並行に延びるようにカーボンナノチューブが配向していることがわかる。
【0085】
図2及び図3は、図1に示すカーボンナノチューブ粉体を構成するカーボンナノチューブを拡大して示す走査型電子顕微鏡写真である。図2は、倍率10000倍、図3は、倍率25000倍である。
【0086】
図2及び図3から明らかなように、カーボンナノチューブ粉体を構成するカーボンナノチューブは、板状の面方向に並行に延びるように配向すると共に、配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有している。本発明のカーボンナノチューブ粉体は、このように互いに絡み合う部分を有しているため、電極用導電助剤などとして用いた場合において、カーボンナノチューブ粉体と混合される他の粉体に対し、網目状構造を形成して他の粉体を被覆することができる。
【0087】
以下の実施例においては、2700℃で熱処理したカーボンナノチューブ粉体を用いた。
【0088】
<電気二重層キャパシタの製造>
(実施例1)
表2に示す配合割合となるように、活性炭、導電助剤、及びバインダーをメノウ乳鉢とメノウ乳棒で混合し、ローラーにて厚さ145μmのシートを作製した。活性炭としては、クレハ社製商品名「PW−15」を用い、導電助剤としては、上記実施例で得られた2700℃の熱処理後のカーボンナノチューブ粉体を用い、バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、三井デュポンフルオロケミカル社製、商品名「テフロン(登録商標)6J」)を用いた。
【0089】
得られたシートを導電性接着剤でアルミニウム箔に貼り付け、その後28mm×46mmのサイズに切断し、切断した2枚をそれぞれ正極及び負極として用いた。正極と負極の間にセルロースセパレータを配置し、電解液を含浸させた。電解液としては、1.4モル/リットルのトリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボーレイト(TEMA・BF)を溶解したプロピレンカーボネート(PC)溶液を用いた。正極及び負極に端子を取り付けた後、封口し、キャパシタを作製した。
【0090】
(比較例1A)
導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、導電性カーボンブラック(デンカブラック社製、粉状)を用いる以外は、実施例1と同様にして、表2に示す各配合でキャパシタを作製した。
【0091】
(比較例1B)
導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、気相法炭素繊維(昭和電工社製、VGCF)を用いる以外は、実施例1と同様にして、表2に示す各配合でキャパシタを作製した。
【0092】
【表2】

【0093】
〔キャパシタの評価〕
得られた各キャパシタを、充放電装置(北斗電工社製、「HJ−SM−8」)を用いて、定電流定電圧充電(2mA/cm、2.7V、30分間)及び定電流放電(2mA/cm、0V)を行い、容量を測定した。測定結果を表3に示す。
【0094】
【表3】

【0095】
次に、定電流定電圧充電(2mA/cm、2.7V、30分間)した後、1.35Vまで定電力放電を行い、容量の変化を測定した。結果を表4〜表6に示す。表4は、配合例1の結果を示しており、表5は、配合例2の結果を示しており、表6は、配合例3の結果を示している。
【0096】
また、配合例3における実施例1、比較例1A、及び比較例1Bの結果を図11に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
【表6】

【0100】
表4〜表6及び図11から明らかなように、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体を導電助剤として用いた実施例1においては、導電性カーボンブラックを導電助剤として用いた比較例1A、及び気相法炭素繊維を導電助剤として用いた比較例1Bに比べ、高い放電レートでの放電特性が優れていることがわかる。この原因を確認するため、デジタルマルチメータにて、それぞれのキャパシタの抵抗を測定した。測定は、交流電流1kHzで行った。測定結果を表7に示す。
【0101】
【表7】

【0102】
表7に示す結果から明らかなように、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体を導電助剤として用いた実施例1は、比較例1A及び比較例1Bに比べ抵抗値が低くなっている。従って、実施例1においては、電極内部の導電性が向上したため、高い放電レートにおける放電特性が改善されたものと思われる。
【0103】
〔SEM観察〕
実施例1、比較例1A及び比較例1Bにおいて作製した電極を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0104】
図8は、実施例1、図9は比較例1A、図10は比較例1Bの電極内部構造を示すSEM写真である。
【0105】
図8から明らかなように、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体を導電助剤として用いた実施例1の電極においては、カーボンナノチューブが互いに絡み合い、活性炭の表面上を網目状に覆っていることがわかる。また、活性炭の粉体間にもカーボンナノチューブが緻密に存在していることがわかる。従って、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体は、電極中において、活性炭の表面を網目状に覆うことにより、活性炭の粉体間の導電性を高め、電極における集電性を向上させることにより、高い放電レートでの放電特性が改善されていると考えられる。
【0106】
<MCMB負極/Liのリチウムイオン電池の製造>
(実施例2)
メソポーラスカーボンマイクロビーズ(MCMB)を負極活物質として用いた。この負極活物質と、導電助剤と、バインダー溶液と、溶媒とを、表8に示す割合で配合して、リチウムイオン電池の負極を作製した。
【0107】
MCMBとしては、MCMB−N(天津市鉄誠電池材料有限公司製)を用い、カーボンナノチューブ粉体及び気相法炭素繊維としては、上記と同様のものを用いた。また、バインダー溶液としては、PVdF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、商品名「KFポリマーK♯9210」)の10重量%溶液を用いた。なお、溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いた。
【0108】
表8に示す配合組成で、ホモジナイザー(日本精機製作所製、AM−3)を使用し、回転数3000rpmで15分間攪拌し、分散液を作製した。この分散液を、電極コーター(テックヨシダ社製、HSCB−250)にて、幅200mm、厚さ18μmの銅箔の上に、10cmの幅で塗布した。塗布後、120℃で乾燥させ、塗布密度12mg/cmの塗膜を得た。これを80mm×250mmサイズに切断し、電極ロールプレス(テックヨシダ社製、HRP2025D)で圧縮し、塗布層の密度を1.3g/cmに調整し、電極板を作製した。
【0109】
得られた電極板を直径14mmの円板に打ち抜き正極とした。負極(対極)としては、直径16mm×厚さ2mmの金属リチウム箔を用いた。正極と負極の間に、直径18mm×厚さ25μmの親水処理ポリプロピレン(PP)のセパレータ(セルガード社製♯3400)を挟み、電解液30μlを含浸させ、2005サイズのコインセルを作製した。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート(体積比1:1)の混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解した電解液を用いた。
【0110】
(比較例2)
表8に示すように、導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、気相法炭素繊維(昭和電工社製、VGCF)を用いる以外は、実施例2と同様にして、コインセルを作製した。
【0111】
【表8】

【0112】
〔コインセルの評価〕
得られた上記の各コインセルを、電池充放電装置(北斗電工社製、「HJ−SM−8」)を用いて、0.2C、0.5C、1.0C、及び1.5Cの電流にて放電容量を測定した。放電レートに対する放電容量比(vs0.2C)を図14に示す。
【0113】
図14から明らかなように、本発明に従う実施例2は、高い放電レートでも、高い放電容量を維持することができ、高い放電レートにおける放電特性において優れていることがわかる。
【0114】
〔SEM観察〕
実施例2及び比較例2の電極について、SEM観察した。
【0115】
図12は、実施例2の電極のSEM写真であり、図13は、比較例2の電極のSEM写真である。
【0116】
図12から明らかなように、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体を用いた実施例2においては、カーボンナノチューブがMCMB粒子の上を網目状に覆っていることがわかる。このため、活物質粒子間の導電性を高めることができ、電極における集電性が改善され、高い放電レートでの放電特性が改善されたものと考えられる。
【0117】
<コバルト酸リチウム正極/Liのリチウムイオン電池の製造>
(実施例3)
正極活物質として、コバルト酸リチウムを用いて正極を作製した。この正極活物質と、導電助剤とを、バインダー溶液と、溶媒とを、表9に示す割合となるように配合し、正極を作製した。実施例3においては、導電助剤として、本発明のカーボンナノチューブ粉体を用いた。また、バインダー溶液としては、PVdF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、商品名「KFポリマーK♯1710」)の10重量%溶液を用い、溶媒としては、実施例2と同様のものを用いた。
【0118】
表9に示す配合組成で、ホモジナイザー(日本精機製作所製、AM−3)を使用し、回転数5000rpmで15分間攪拌し、分散液を作製した。この分散液を、電極コーター(テックヨシダ社製、HSCB−250)にて、幅200mm、厚さ30μmのアルミニウム箔の上に、10cmの幅で塗布した。塗布後、120℃で乾燥させ、塗布密度20mg/cmの塗膜を得た。これを80mm×250mmサイズに切断し、電極ロールプレス(テックヨシダ社製、HRP2025D)で圧縮し、塗布層の密度を3g/cmに調整し、電極板を作製した。
【0119】
得られた電極板を直径14mmの円板に打ち抜き正極とした。負極(対極)としては、直径16mm×厚さ2mmの金属リチウム箔を用いた。正極と負極の間に、直径18mm×厚さ25μmの親水処理ポリプロピレン(PP)のセパレータ(セルガード社製♯3400)を挟み、電解液30μlを含浸させ、2005サイズのコインセルを作製した。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネート(体積比1:1)の混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解した電解液を用いた。
【0120】
(比較例3A)
導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、導電性カーボンブラック(ライオン社製、ケッチェンブラックECP)を用いる以外は、実施例3と同様にしてコインセルを作製した。
【0121】
(比較例3B)
導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、気相法繊維(昭和電工社製、VGCF)を用いる以外は、実施例3と同様にしてコインセルを作製した。
【0122】
(比較例3C)
導電助剤として、カーボンナノチューブ粉体に代えて、市販のカーボンナノチューブ(Nanocyl社製、NC7000)を用いる以外は、実施例3と同様にしてコインセルを作製した。
【0123】
【表9】

【0124】
〔コインセルの評価〕
得られた上記の各コインセルを、電池充放電装置(北斗電工社製、「HJ−SM−8」)を用いて0.2Cで満充電した後、0.2C、0.5C、及び1.0Cの電流で放電し放電容量を測定した。測定結果を図19に示す。
【0125】
図19に示すように、本発明に従いカーボンナノチューブ粉体を導電助剤として用いた実施例3は、高い放電特性を示しており、特に高い放電レートにおける放電特性において優れていることがわかる。
【0126】
〔SEM観察〕
上記実施例及び各比較例の電極を、SEMで観察した。
【0127】
図15は実施例3の電極を示しており、図16は比較例3Aの電極を示しており、図17は比較例3Bの電極を示しており、図18は比較例3Cの電極を示している。
【0128】
図15から明らかなように、本発明に従うカーボンナノチューブ粉体を用いた実施例3においては、カーボンナノチューブが活物質の表面を網目状に覆っており、このため、優れた放電特性が得られるものと思われる。
【符号の説明】
【0129】
1…ステンレスメッシュ製容器
2,3…孔が形成されたステンレス板
4…バーナー
5…火炎
6…ステンレス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが集合して形成された板状の粉体であって、
カーボンナノチューブが、板状の面方向に並行に延びるように配向し、かつ配向方向と垂直な方向に延びて互いに絡み合う部分を有することを特徴とするカーボンナノチューブ粉体。
【請求項2】
Caの含有量が1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ粉体。
【請求項3】
Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ1重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ粉体。
【請求項4】
Caの含有量が0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ粉体。
【請求項5】
Ca、Si及びFeの含有量が、それぞれ0.01重量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ粉体。
【請求項6】
電極内の導電性を高めるため電極内に含有される電極用導電助剤であって、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ粉体からなることを特徴とする電極用導電助剤。
【請求項7】
請求項6に記載の導電助剤を含有することを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を用いたことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項9】
請求項7に記載の電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項7に記載の電極を用いたことを特徴とする電気二重層キャパシタ。

【図11】
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【図14】
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【図19】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−63458(P2011−63458A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213632(P2009−213632)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000206901)大塚化学株式会社 (55)
【Fターム(参考)】