説明

ガイドワイヤ用芯及びこの芯の評価方法

【課題】品質に優れた医療用ガイドワイヤの提供。
【解決手段】ガイドワイヤ2は、カバー8と芯10とを備えている。カバー8は、芯10を覆っている。芯10は、主部16とテーパー部18とを有している。主部16の線径は、実質的に一定である。テーパー部18は、先端4に向かって縮径している。このガイドワイヤ2の製造では、線材に伸線が施される。この線材が、低温焼鈍に供される。この線材に最終伸線が施される。この線材に真直矯正が施され、芯10が得られる。この芯10の、長さ方向に沿って測定されたうねりの高さは、7μm以下である。この芯10に、時効処理が施される。さらに、この芯10の先端近傍に、センターレス研削機によるテーパー加工が施される。この芯10に、カバーが被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、消化管、気管のような体腔に挿入されるカテーテル等を案内するための医療用ガイドワイヤに関する。詳細には、本発明は、このガイドワイヤの芯の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルによる検査及び治療では、血管にガイドワイヤが挿入される。このガイドワイヤに沿ってカテーテルが血管に挿入される。カテーテルはガイドワイヤに案内されつつ、血管内を進む。カテーテルの先端が所定位置に達した後、ガイドワイヤが血管から抜かれる。このカテーテルを通じて、造影剤等が投与される。ガイドワイヤの一例が、特開2003−342696公報に開示されている。
【0003】
ガイドワイヤは、芯とこの芯を被覆するカバーとからなる。芯の製造では、線材に複数回の伸線が施される。これらの伸線により、線材は徐々に細径化し、かつ長尺化する。
【0004】
伸線後の線材は、湾曲している。この線材に真直矯正が施され、芯が得られる。真直矯正により、芯の真直性が高められる。真直性に優れた芯により、真直性に優れたガイドワイヤが得られる。真直性に優れたガイドワイヤは、血管への挿入時の操作性に優れる。真直性に優れたガイドワイヤにより、カテーテルが円滑に案内される。
【0005】
真直矯正後、芯の先端近傍が研削される。研削により、芯にテーパー部が形成される。テーパー部により、ガイドワイヤの先端近傍に柔軟性が付与される。柔軟性に優れたガイドワイヤは、細い血管にも挿入されやすい。
【0006】
血管は曲がっているので、この血管に挿入されたガイドワイヤは曲げられる。この曲げにより芯に塑性変形が生じると、その後の検査及び治療に支障を来す。芯には、曲げに対する復元性が要求される。
【0007】
ガイドワイヤが血管に挿入された状態で、医師は、このガイドワイヤの体外に位置する部位を操作する。この操作において、医師がガイドワイヤを回転させる。この回転のトルクは、ガイドワイヤの先端に伝達されなければならない。芯には、トルク伝達性が要求される。
【特許文献1】特開2003−342696公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
芯の先端近傍が研削されると、研削前は真直であった先端近傍が湾曲することがある。この芯が用いられたガイドワイヤは、円滑には血管に挿入されない。湾曲は、ガイドワイヤの品質を阻害する。湾曲の程度が大きな芯は、廃棄される。
【0009】
研削前に芯に熱処理が施されれば、湾曲が生じにくい。しかし、熱処理によっても、湾曲を十分に解消することは、困難である。しかも、熱処理によって芯の引張強さが低下することもある。引張強さが小さな芯は、復元性及びトルク伝達性に劣る。同様の問題は、カテーテル検査以外の用途に用いられるガイドワイヤにも生じている。
【0010】
本発明の目的は、品質に優れた医療用ガイドワイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、研削による芯の湾曲の原因がこの芯のうねりにあることを突き止めた。そして、このうねりの高さを従来のそれよりも小さく設定することで、研削後の芯の湾曲が抑制されることを見出した。本発明に係るガイドワイヤ用の芯では、長さ方向に沿って測定されたうねりの高さは、7μm以下である。好ましくは、この芯の引張強さは、2700MPa以上である。
【0012】
本発明に係るガイドワイヤは、線状の芯と、この芯を被覆するカバーとを備える。この芯は、線径が実質的に一定である主部と、線径が先端に向かって縮径するテーパー部とを有する。この主部における、長さ方向に沿って測定されたうねりの高さは、7μm以下である。
【0013】
本発明に係る医療用ガイドワイヤの製造方法は、
(1)線材に伸線を施す工程、
(2)この線材に真直矯正を施して、うねりの高さが7μm以下である芯を得る工程、
(3)この芯の先端近傍にテーパー加工を施す工程
及び
(4)この芯にカバーを被覆する工程
を含む。
【0014】
本発明に係るガイドワイヤ用の芯の評価方法は、
(1)表面粗さ計の触針を、線状である芯の長さ方向に沿って移動させ、この芯の高さの データ群を得る工程
及び
(2)このデータ群に基づき、この芯のうねり高さを算出する工程
を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る芯では、うねりの高さが7μm以下なので、研削による湾曲が生じにくい。この芯により、高品質なガイドワイヤが得られる。本発明に係る評価方法により、芯の品質が客観的に判断されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るガイドワイヤ2が示された断面図である。図1において、左端が先端4であり、右端が後端6である。このガイドワイヤ2は、カバー8、芯10、コイル12及び固着材14を備えている。このガイドワイヤ2の全長は、典型的には1500mmから2300mmである。このガイドワイヤ2の線径(太さ)は、典型的には0.30mmから0.60mmである。
【0018】
カバー8は、芯10を覆っている。カバー8は、合成樹脂からなる。典型的な合成樹脂は、テフロン(登録商標)樹脂である。カバー8により、血管へガイドワイヤ2が挿入されるときの円滑性が達成される。
【0019】
芯10は、主部16とテーパー部18とを備えてる。主部16における線径は、実質的に一定である。主部16における線径は、典型的には0.25mmから0.50mmである。テーパー部18は、先端4に向かって縮径している。芯10は、オーステナイト系ステンレス鋼からなる。この芯10は、強度と耐食性とに優れる。
【0020】
コイル12は、テーパー部18に巻かれている。コイル12は、テーパー部18の柔軟性を損なうことなく、テーパー部18を補強する。固着材14は、芯10に固定されている。
【0021】
図2は、図1のガイドワイヤ2の製造方法の一例が示されたフロー図である。この製造方法では、まず線材が準備される(STEP1)。この線材は、素線に溶体化処理と伸線とが繰り返されることで得られる。
【0022】
この線材に、溶体化処理がなされる(STEP2)。溶体化処理では、線材が加熱される。加熱により、炭素及び合金元素が固溶状態になる。加熱温度は、例えば1050℃である。その後、線材は急冷される。この溶体化処理により、炭化物等の析出が見られないオーステナイト組織が得られる。この組織は、加工性に優れる。
【0023】
この線材に、伸線が施される(STEP3)。伸線により、線材が細径化し、かつ長尺化する。この伸線は、冷間塑性加工である。伸線には、既知の伸線機が用いられうる。伸線では、加工硬化が生じる。伸線後の線材の組織には、加工歪みが存在する。
【0024】
この線材に、低温焼鈍が施される(STEP4)。低温焼鈍には、インライン炉が好適に用いられる。このインライン炉に線材が通されて、この線材が加熱される。その後に線材は、空気中で冷却される。インライン炉における好ましい雰囲気温度は、500℃以上600℃以下である。インライン炉における好ましい加熱時間は、20秒以上30分以下である。低温焼鈍と、後に詳説される最終伸線とを経て得られた線材は、延性と強度とに優れる。
【0025】
この線材に、最終伸線が施される(STEP5)。最終伸線により、線材がさらに細径化し、かつ長尺化する。この最終伸線は、冷間塑性加工である。最終伸線には、既知の伸線機が用いられうる。好ましくは、伸線機はダイヤモンドダイスを備える。伸線は、通常は湿式でなされる。最終伸線では、加工硬化が生じる。この加工硬化に起因して、線材は優れた強度を有する。
【0026】
この線材に真直矯正がなされ、芯10が得られる(STEP6)。典型的な真直矯正は、ロータリー方式加工である。このロータリー方式加工では、既知のロータリー矯正機が用いられる。ロータリー矯正機により、真直性に優れた芯10が得られる。
【0027】
この芯10が、所定長さに切断される(STEP7)。さらにこの芯10に、時効処理が施される(STEP8)。時効処理では、芯10がバッチ炉に装入される。バッチ炉の雰囲気温度は、300℃から500℃である。芯10は、この雰囲気に0.5時間から4時間保持され、冷却される。時効処理により、芯10の強度が高まる。時効処理では、最終伸線(STEP5)で生じた加工歪みが軽減される。
【0028】
この芯10に、テーパー加工が施される(STEP9)。テーパー加工では、芯10の先端の近傍が研削される。典型的には、センターレス研削機によって研削がなされる。研削により、芯10にテーパー部18が形成される。このテーパー部18に、コイル12が巻かれる(STEP10)。さらに、芯10、コイル12及び固着材14が、既知の方法にて合成樹脂で被覆される(STEP11)。被覆により、カバー8が形成される。
【0029】
テーパー加工(STEP9)の前の芯10には、うねりが生じている。このうねりの測定結果が、図3に示されている。この測定には、表面粗さ計(東京精密株式会社の「Surfcom 574A」)が用いられる。芯10の任意の位置において、測定がなされる。測定では、芯10の長さ方向に沿って、触針が移動する。移動距離は、50mmである。この表面粗さ計により、移動方向に対して垂直な方向の距離(高さ)が測定される。この高さのデータ群が、チャートにプロットされる。このチャートの、長さ方向の倍率は2倍であり、高さ方向の倍率は1000倍である。このチャートにおいて、高さ方向の最大値と最小値との差が算出される。この差が、うねり高さHである。うねりのピッチは、10mmから20mm程度である。従って、移動距離が50mmである測定により、客観的なうねり高さHが算出されうる。
【0030】
うねり高さHは、真直矯正(STEP6)の後であって時効処理(STEP8)の前の芯10において測定されてもよく、時効処理(STEP8)の後であってテーパー加工(STEP9)の前の芯10において測定されてもよい。テーパー加工(STEP9)の後の主部16において、うねり高さHが測定されてもよい。
【0031】
うねりを有する芯10では、圧縮応力及び引張応力が複雑に複合して残留している。テーパー加工(STEP9)では、主に山部が研削される。テーパー加工がなされると、テーパー部18が湾曲する。湾曲が生じる理由の詳細は不明であるが、山部の除去により圧縮応力と引張応力とのバランスが崩れるためと思われる。本発明の得た知見によれば、従来の芯10のうねり高さHは、10μm以上である。本発明に係る製造方法では、真直矯正(STEP6)の後の芯10のうねり高さHが7μm以下なので、テーパー加工後の残留応力のアンバランスが生じにくい。従って、テーパー部18の湾曲が抑制される。湾曲抑制の観点から、うねり高さHは5μm以下がより好ましく、2μm以下が特に好ましい。理想的には、うねり高さHはゼロである。ロータリー方式加工において、ロータリー矯正機の加工条件が調整されることにより、うねり高さHが7μm以下である芯10が得られる。
【0032】
ロータリー方式加工に代えて、線材26に他の真直矯正(STEP6)がなされてもよい。他の真直矯正としては、捻回加工及びローラ方式加工が例示される。いずれの場合も、加工条件が調整されることで、うねり高さHが7μm以下である芯10が得られうる。うねり高さHが抑制されやすいとの観点から、ロータリー方式加工が最も好ましい。
【0033】
本発明に係る製造方法では、うねり高さHが7μm以下なので、テーパー加工(STEP9)に先立つ高温熱処理は必要ない。従って、この熱処理に起因する引張強さの低下が生じない。この製造方法により、強度に優れたガイドワイヤ2が得られる。
【0034】
この製造方法では、最終伸線(STEP5)に先立ち、低温焼鈍(STEP4)がなされる。通常の塑性加工では、加工硬化が延性の低下を招く。本発明に係る製造方法では、低温焼鈍がなされるので、最終伸線により、強度が高められるばかりか、意外にも延性が飛躍的に向上する。塑性加工によって延性が向上する理由は詳細には不明であるが、低温焼鈍と最終伸線との組み合わせにより、金属組織に何らかの変化が生じるためと思われる。この低温焼鈍と最終伸線との組み合わせにより、芯10の延性と強度とが両立される。この芯10は、復元性及びトルク伝達性にも優れる。
【0035】
時効処理(STEP8)の後であって、テーパー加工(STEP9)の前の芯10の引張強さは、2700MPa以上が好ましい。この芯10により、復元性及びトルク伝達性に優れたガイドワイヤ2が得られる。復元性及びトルク伝達性の観点からは、引張強さは大きいほど好ましい。引張強さが過大である芯10は延性に劣るので、引張強さは3000MPa以下が好ましい。引張強さは、「JIS Z 2241」の規定に準拠して測定される。
【0036】
最終伸線(STEP5)における加工度は、40%以上が好ましい。加工度が40%以上である最終伸線により、十分な加工硬化が生じ、強度に優れた芯10が得られる。この観点から、加工度は60%以上がより好ましい。芯10の延性の観点から、加工度は80%以下が好ましく、72%以下が特に好ましい。加工度Rは、下記の数式によって算出される。
R = (1 - (D1 / D0)) * 100
この数式において、D0は最終伸線前の線径を表し、D1は最終伸線後の線径を表す。
【0037】
本発明に係る芯10に適した鋼種としては、SUS201、SUS201、SUS301、SUS302、SUS304、SUS305、SUS309、SUS310、SUS316、SUS317、SUS321、SUS347及びSUSXM15が例示される。特に、汎用性に優れたSUS304が好適に用いられうる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0039】
[実施例1]
鋼種がSUS304である線材に伸線を施し、線径を2.0mmとした。この線材に溶体化処理を行った。この溶体化処理において、線材は1050℃の温度に保持された。この線材に再度の伸線を行い、線径を0.52mmとした。この線材に、インライン炉による低温焼鈍を施した。インライン炉の雰囲気温度は、500℃であった。線材は、36秒間、この雰囲気に曝された。この線材に最終伸線を施し、線径を0.34mmとした。この線材にロータリー方式加工による真直矯正を施し、芯を得た。この芯に、バッチ炉による時効処理を施した。この時効処理において、芯は475℃の雰囲気中に2時間曝された。時効処理後の芯のうねり高さHを測定したところ、2μmであった。
【0040】
[実施例2及び3並びに比較例1]
真直矯正の条件を変更した他は実施例1と同様にして、芯を得た。
【0041】
[評価]
芯の先端の近傍に、センターレス研削機にてテーパー加工を施して、テーパー部を形成した。このテーパー部の湾曲の程度を目視で判定し、下記の基準に従って格付けした。
A:湾曲がほとんどない
B:やや湾曲がある
C:湾曲がある
この結果が、下記の表1に示されている。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示されるように、各実施例に係る芯は、比較例に係る芯に比べて湾曲の程度が小さい。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るガイドワイヤは、カテーテル検査のみならず、種々の医療用途に用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るガイドワイヤが示された断面図である。
【図2】図2は、図1のガイドワイヤの製造方法の一例が示されたフロー図である。
【図3】図3は、図1のガイドワイヤの芯の測定結果が示されたチャートである。
【符号の説明】
【0046】
2・・・ガイドワイヤ
8・・・カバー
10・・・芯
12・・・コイル
14・・・固着材
16・・・主部
18・・・テーパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状であって、長さ方向に沿って測定されたうねりの高さが7μm以下であるガイドワイヤ用の芯。
【請求項2】
引張強さが2700MPa以上である請求項1に記載の芯。
【請求項3】
線状の芯と、この芯を被覆するカバーとを備えており、
この芯が、線径が実質的に一定である主部と、線径が先端に向かって縮径するテーパー部とを有しており、
この主部における、長さ方向に沿って測定されたうねりの高さが7μm以下であるガイドワイヤ。
【請求項4】
線材に伸線を施す工程、
この線材に真直矯正を施して、うねりの高さが7μm以下である芯を得る工程、
この芯の先端近傍にテーパー加工を施す工程
及び
この芯にカバーを被覆する工程
を含む医療用ガイドワイヤの製造方法。
【請求項5】
表面粗さ計の触針を、線状である芯の長さ方向に沿って移動させ、この芯の高さのデータ群を得る工程
及び
このデータ群に基づき、この芯のうねり高さを算出する工程
を含むガイドワイヤ用の芯の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−195372(P2009−195372A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38396(P2008−38396)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】