説明

ガスセンサ、空燃比制御装置および輸送機器

【課題】セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む酸化物半導体層を備えた抵抗型ガスセンサの耐久性および応答特性を改善する。
【解決手段】本発明によるガスセンサは、酸化物半導体層3を含むガス検出部1を備えた抵抗型のガスセンサである。酸化物半導体層3は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む。酸化物半導体層3に含まれるセリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和に対するジルコニウムイオンの物質量の割合は、45%以上60%以下であり、酸化物半導体層3は、80vol%以上の立方晶を含む結晶相を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、特に、酸化物半導体層を備えた抵抗型のガスセンサに関する。また、本発明は、そのようなガスセンサを備えた空燃比制御装置や輸送機器にも関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題やエネルギー問題の観点から、内燃機関の燃費を向上させたり、内燃機関の排気ガス中に含まれる規制物質(NOxなど)の排出量を低減したりすることが求められている。このためには、常に最適な条件で燃料の燃焼が行えるよう、燃焼状態に応じて燃料と空気との比率を適切に制御する必要がある。空気と燃料との比率は空燃比(A/F)と呼ばれ、三元触媒を用いる場合、最適な空燃比は理論空燃比である。理論空燃比とは、空気と燃料とが過不足なく燃焼する空燃比である。
【0003】
理論空燃比で燃料が燃焼している場合、排気ガス中には一定の酸素が含まれる。空燃比が理論空燃比よりも小さい場合、つまり、燃料の濃度が相対的に高い場合には、排気ガス中の酸素量が、理論空燃比の場合の酸素量に比べて減少する。一方、空燃比が理論空燃比よりも大きい(燃料の濃度が相対的に低い)場合には、排気ガス中の酸素量は増加する。このため、排気ガス中の酸素量あるいは酸素濃度を計測することによって、空燃比が理論空燃比からどの程度ずれているかを推定し、空燃比を調節して最適な条件で燃料が燃焼するように制御することが可能となる。
【0004】
排気ガス中の酸素濃度を計測するための酸素センサとして、特許文献1に開示されているような抵抗型の酸素センサが知られている。抵抗型酸素センサは、排気ガスに接するように設けられた酸化物半導体層の抵抗率の変化を検出する。排気ガス中の酸素分圧が変化すると、酸化物半導体層中の酸素空孔濃度が変動するので、酸化物半導体層の抵抗率が変化する。従って、この抵抗率の変化を検出することにより、酸素濃度を測定することができる。
【0005】
抵抗型酸素センサに用いられる酸化物半導体としては、耐久性や安定性の点から特許文献1にも開示されているようなセリア(酸化セリウム)が有望視されている。また、特許文献2には、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む酸化物(つまりセリウムとジルコニウムの複合酸化物)から形成された酸化物半導体層を備えた酸素センサにおいて、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和に対するジルコニウムイオンの物質量の割合を0.5%〜40%とすることによって、応答特性を向上させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−149189号公報
【特許文献2】特許第3870261号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている技術を用いても、酸化物半導体層の抵抗率の経時変化が大きいために、実用上十分な耐久性は得られない。また、応答特性を向上させるために特許文献2の技術を用いても、文献中にも記載されているように数秒程度の応答時間しか実現できず、車載用センサとして十分な応答特性が得られない。さらに、特許文献2で具体的に記載されている応答時間は、酸素分圧がリーン領域内で変化したときの応答時間であり、酸素分圧がリッチ領域とリーン領域との間で変化したときの応答時間ではない。つまり、特許文献2に開示されている組成は、車載用センサとして重要なリッチ・リーン検出精度に優れた組成ではない。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む酸化物半導体層を備えた抵抗型ガスセンサの耐久性および応答特性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるガスセンサは、酸化物半導体層を含むガス検出部を備えた抵抗型のガスセンサであって、前記酸化物半導体層は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含み、前記酸化物半導体層に含まれるセリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和に対するジルコニウムイオンの物質量の割合は、45%以上60%以下であり、前記酸化物半導体層は、80vol%以上の立方晶を含む結晶相を有する。
【0009】
ある好適な実施形態において、前記酸化物半導体層は、0.01wt%以上10wt%以下のAlを含む。
【0010】
ある好適な実施形態において、前記酸化物半導体層は、0.01wt%以上5wt%以下のSiを含む。
【0011】
あるいは、本発明によるガスセンサは、酸化物半導体層を含むガス検出部を備えた抵抗型のガスセンサであって、前記酸化物半導体層は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含み、前記酸化物半導体層は、さらに、0.01wt%以上10wt%以下のAlおよび0.01wt%以上5wt%以下のSiを含む。
【0012】
ある好適な実施形態において、本発明によるガスセンサは、酸素センサである。
【0013】
本発明による空燃比制御装置は、上記構成を有するガスセンサと、前記ガスセンサに接続され、内燃機関の空燃比を制御する制御部と、を備える。
【0014】
本発明による輸送機器は、上記構成を有する空燃比制御装置を備える。
【0015】
本発明によるガスセンサの製造方法は、酸化物半導体層を含むガス検出部と、前記ガス検出部を支持する基板とを備えた抵抗型のガスセンサの製造方法であって、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む溶液を用意する工程と、前記溶液から共沈法を用いて、ジルコニアを45mol%以上60mol%以下含むセリア−ジルコニア粉体を作製する工程と、前記セリア−ジルコニア粉体を用いて前記基板上に前記酸化物半導体層を形成する工程と、を包含する。
【0016】
本発明によるガスセンサでは、酸化物半導体層に含まれるセリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和に対するジルコニウムイオンの物質量の割合(以下では単に「ジルコニウムイオン比率」とも呼ぶ。)が45%以上60%以下であり、且つ、酸化物半導体層は、80vol%以上の立方晶を含む結晶相を有している。ジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下であることにより、ガス濃度の変化に対するガスセンサの応答時間が短くなり、応答特性が向上する。また、酸化物半導体粒子の粒成長が抑制されるので、耐熱性が向上する。さらに、酸化物半導体層の抵抗率の酸素分圧依存性が大きくなるので、リッチ・リーン検出精度が向上する。また、酸化物半導体層の結晶相が80vol%以上の立方晶を含んでいることにより、応答特性が向上するとともに抵抗率の経時変化が抑制される。このように、本発明によるガスセンサは、耐久性および応答特性に優れている。
【0017】
酸化物半導体層は、0.01wt%以上10wt%以下のAlを含むことが好ましい。酸化物半導体層のAl含有量が0.01wt%以上10wt%以下であると、基板と酸化物半導体層との密着性が向上し、酸化物半導体層の剥離を防止することができる。また、酸化物半導体粒子の粒成長を抑制する効果が高くなるので、耐熱性もいっそう向上する。これに対し、Al含有量が0.01wt%未満であると、上述したようなAl添加の効果がほとんどない。また、Al含有量が10wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層の抵抗率が増大してしまう。
【0018】
また、酸化物半導体層は、0.01wt%以上5wt%以下のSiを含むことが好ましい。酸化物半導体層のSi含有量が0.01wt%以上5wt%以下であると、基板と酸化物半導体層との密着性が向上し、酸化物半導体層の剥離を防止することができる。これに対し、Si含有量が0.01wt%未満であると、上述したようなSi添加の効果がほとんどない。また、Si含有量が5wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層の抵抗率が増大してしまう。
【0019】
本発明によるガスセンサは、酸素濃度を検出する酸素センサとして好適に用いられ、本発明によるガスセンサは、内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御装置に好適に用いられる。本発明によるガスセンサを備えた空燃比制御装置は、各種の輸送機器に好適に用いられる。
【0020】
本発明による抵抗型ガスセンサの製造方法は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む溶液から共沈法を用いて、ジルコニアを45mol%以上60mol%以下含むセリア−ジルコニア粉体を作製する工程を含んでいる。つまり、本発明によるガスセンサの製造方法では、セリア−ジルコニア粉体を共沈法を用いて作製する。そのため、セリアとジルコニアとの均一な固溶体が得られやすく、酸化物半導体層の結晶相における立方晶比率を十分に高くすることができる。従って、十分な応答特性が得られるとともに、抵抗率の経時変化を長期間にわたって十分に抑制できる。また、高い量産性も得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む酸化物半導体層を備えた抵抗型ガスセンサの耐久性および応答特性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
まず、図1および図2を参照しながら、本実施形態における抵抗型の酸素センサ(ガスセンサ)10の構造を説明する。図1および図2は、酸素センサ10を模式的に示す分解斜視図および断面図である。
【0024】
酸素センサ10は、図1および図2に示すように、所定のガス(ここでは酸素)を検出するためのガス検出部1と、ガス検出部1を支持する基板2とを備える。
【0025】
ガス検出部1は、雰囲気ガス中の酸素分圧に応じて抵抗率が変化する酸化物半導体層3と、酸化物半導体層3の抵抗率を検出するための電極4とを含んでいる。酸化物半導体層3および電極4は、基板2によって支持されている。基板2は、アルミナやマグネシアなどの絶縁体から形成されている。基板2は、互いに対向する主面2aおよび裏面2bを有しており、主面2a上に酸化物半導体層3と電極4が設けられている。
【0026】
酸化物半導体層3は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含んでいる。つまり、酸化物半導体層3は、セリア(酸化セリウム)とジルコニア(酸化ジルコニウム)とを含む複合酸化物である。酸化物半導体層3は、微小な酸化物半導体粒子を含む多孔質構造を有し、雰囲気の酸素分圧に応じて酸素を放出あるいは吸収する。これにより、酸化物半導体層3中の酸素空孔濃度が変化し、酸化物半導体層3の抵抗率が変化するので、この抵抗率の変化を電極4で計測することにより、酸素濃度を検出することができる。酸化物半導体粒子の粒径は、典型的には、5nm〜500nmであり、酸化物半導体層3の空孔率は、典型的には、5%〜50%である。
【0027】
電極4は、導電性を有する材料から形成されており、例えば、白金や白金ロジウム合金、金などの金属材料から形成されている。電極4は、酸化物半導体層3の抵抗率の変化を効率よく計測できるよう、櫛歯状に形成されていることが好ましい。
【0028】
なお、ここでは図示しないが、ガス検出部1上には、触媒層が設けられていることが好ましい。触媒層は、触媒金属を含んでおり、触媒金属の触媒作用によって、検出すべきガス(つまり酸素)以外の少なくとも1種の物質を分解する。具体的には、ガス検出部1による酸素の検出に悪影響を及ぼすガスや微粒子(例えば完全には燃焼しなかった炭化水素や炭素、窒素酸化物など)を分解し、そのようなガスや微粒子がガス検出部1の表面に付着するのを防止する。触媒金属としては、例えば白金が用いられる。
【0029】
基板2の裏面2b側には、ガス検出部1を昇温させるためのヒータ5が設けられている。本実施形態におけるヒータ5は、抵抗損失を利用して加熱を行う抵抗加熱型の発熱素子である。ヒータ5から引き延ばされた電極6に電圧を印加すると、所定の形状に形成された発熱体に電流が流れて発熱体が発熱し、そのことによって加熱が行われる。熱は、基板2を介してガス検出部1に伝達される。ヒータ5によってガス検出部1を昇温させて酸化物半導体層3を速やかに活性化させることにより、内燃機関の始動時における検出精度を向上させることができる。
【0030】
本実施形態における酸素センサ10は、酸化物半導体層3中のジルコニウムイオンの存在比率と、酸化物半導体層3の結晶相(結晶構造)とに特徴を有している。以下、より具体的に説明する。
【0031】
本実施形態では、酸化物半導体層3に含まれるセリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和(モル数の和)に対するジルコニウムイオンの物質量(モル数)の割合(以下では単に「ジルコニウムイオン比率」と呼ぶ。)は、45%以上60%以下であり、また、酸化物半導体層3は、80vol%以上の立方晶を含む結晶相(結晶構造)を有する。酸化物半導体層3がこのような構成を有していることにより、下記のように酸素センサ10の耐久性および応答特性を改善することができる。
【0032】
まず、ジルコニウムイオン比率(セリアおよびジルコニアの物質量の和に対するジルコニアの物質量の割合でもある。)が45%以上60%以下であると、応答時間(より具体的には酸素分圧がリッチ領域とリーン領域との間で変化したときの応答時間)が短くなり、応答特性が向上する。また、高温に晒されたときの酸化物半導体粒子の粒成長が抑制されるので、耐熱性が向上する。さらに、リッチ領域とリーン領域とでの抵抗率の差(ギャップ)が大きくなる(つまり抵抗率の酸素分圧依存性が大きくなる)ので、リッチ・リーンの検出精度が向上する。なお、酸化物半導体粒子の粒成長が抑制される理由は、以下のように説明される。セリウムイオン比率が高いと、粒子間の凝集が強くなる傾向があり、熱により粒成長しやすい。これに対し、セリウムイオン比率が低いと、凝集が弱く均一に分散する傾向があり、粒成長しにくい。セリウムイオン比率を55%以下、つまり、ジルコニウムイオン比率を45%以上にすることによって、粒成長が十分に抑制される。また、45%以上の比率で存在するジルコニウムイオンが粒成長の障壁となるので、そのことによっても粒成長が抑制される。
【0033】
また、セリウムイオンに加えてジルコニウムイオンを含む酸化物半導体層3の結晶相は、立方晶だけでなく正方晶も含んでいるが、立方晶の割合が高いほど、応答特性が向上するとともに、抵抗率の経時変化が抑制される。具体的には、酸化物半導体層3の結晶相が80vol%以上の立方晶を含んでいることにより、応答特性を向上する効果や抵抗率の経時変化を抑制する効果が顕著となる。
【0034】
本実施形態における酸素センサ10は、ジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下であり、且つ、結晶相が80vol%以上の立方晶を含んでいるので、耐久性および応答特性に優れている。
【0035】
ここで、実際に本実施形態における酸素センサ10を試作し、ジルコニウムイオン比率を変化させて耐久性および応答特性を評価した結果を説明する。表1に、抵抗率および応答時間とジルコニウムイオン比率との関係を示す。
【0036】
なお、酸化物半導体層3は、セリア・ジルコニア粉体とビヒクルとを混合したペースト(セリア・ジルコニア粉体の含有量は10wt%)をアルミナから形成された基板2上に塗布した後に焼成することによって形成し、セリア−ジルコニア粉体のジルコニア含有量を調整することによってジルコニウムイオン比率を変化させた。例えばジルコニア含有量が45mol%の粉体を用いると、酸化物半導体層3におけるジルコニウムイオン比率は45%となる。酸化物半導体層3は、焼成後の厚さが20μmとなるように形成した。また、酸化物半導体層3に含まれる酸化物半導体粒子の粒径は、100nmであり、酸化物半導体層3の空孔率は10%であった。セリア−ジルコニア粉体は、後述する共沈法により作製した。
【0037】
また、抵抗率としては、700℃における体積抵抗率(Ω・m)を示している。体積抵抗率VRは、抵抗R、酸化物半導体層3の厚さt、互いに対向する電極の長さ(電極長)w、電極間の距離dを用いて下記式で表される。
VR=(R・t・w)/d
【0038】
抵抗Rの測定には、HORIBA製モデルガス評価装置を用い、酸素センサ10の温度(酸素センサ10を収容する炉内温度)を700℃としてA/F(空燃比)=12のときとA/F=16のときの抵抗率をそれぞれ測定した。酸化物半導体層3の厚さt、電極長w、電極間距離dは、株式会社キーエンス製超深度形状測定顕微鏡VK−8550を用いて測定した。
【0039】
また、応答時間(ms)を測定する際には、250ccの単気筒エンジンを使用し、燃料噴射量を変動させてA/Fを12から16へ(つまり酸素濃度が低いリッチ状態から酸素濃度が高いリーン状態へ)変化させたときの抵抗率が10倍になる(つまり抵抗率がもとの抵抗率の1000%に増加する)までの時間を応答時間として表1に示している。逆に、A/Fを16から12へ(酸素濃度が高いリーン状態から酸素濃度が低いリッチ状態へ)変化させたときは、抵抗率が1/10になる(つまり抵抗率がもとの抵抗率の10%に減少する)までの時間を応答時間とした。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、ジルコニウムイオン比率が45%、50%、60%の場合(実施例1、2および3)には、A/F=12のときの体積抵抗率とA/F=16のときの体積抵抗率との差が大きく、リッチ領域とリーン領域とで抵抗率のギャップが大きい。具体的には、200倍以上のギャップが確保されている。これに対し、ジルコニウムイオン比率が20%の場合(比較例1)、A/F=12のときの体積抵抗率とA/F=16のときの体積抵抗率との差が小さく、リッチ領域とリーン領域とで抵抗率のギャップが小さい。具体的には、ギャップは100倍程度である。また、ジルコニウムイオン比率が70%の場合(比較例3)には、抵抗率のギャップ自体は大きいものの、抵抗率が高くなりすぎ、検出に支障をきたしてしまう。
【0042】
また、表1に示すように、ジルコニウムイオン比率が45%、50%、60%の場合(実施例1、2および3)には、ジルコニウムイオン比率が20%、40%、70%の場合(比較例1、2および3)よりも、応答時間が短い。具体的には、A/Fを12から16へ変化させたときの応答時間は、実施例1、2および3では100ms以下であるのに対し、比較例1、2および3では100msを超える。また、A/Fを16から12へ変化させたときの応答時間は、実施例1、2および3では50ms以下であるのに対し、比較例1、2および3では50msを超える。このように、実施例1、2および3は、比較例1、2および3よりも応答時間が短く、特に、A/Fを12から16へ変化させたとき(すなわち酸素濃度が低い状態から高い状態に変化したとき)に応答時間に顕著な差がある。
【0043】
続いて、表2に、抵抗率の経時変化とジルコニウムイオン比率との関係を示す。表2には、経時変化を加速するために1000℃で熱処理を行ったときの抵抗率の推移(初期、100時間後、500時間後、1000時間後および5000時間後における抵抗率)を、初期の抵抗率を1とした相対値で示している。抵抗率の測定には、HORIBA製モデルガス評価装置を用いた。また、熱処理には、電気炉を使用し、大気雰囲気で所定の時間まで炉内温度を1000℃に保持した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、ジルコニウムイオン比率が45%、50%、60%の場合(実施例1、2および3)には、抵抗率の変化が5000時間後においても5%以下である。これに対し、ジルコニウムイオン比率が20%、40%の場合(比較例1および2)には、抵抗率が100時間後において既に10%以上変化してしまう。また、ジルコニウムイオン比率が70%の場合(比較例3)には、抵抗率の経時変化こそ小さいものの、表1に示したように、抵抗率が高すぎたり、応答時間が長かったりするので、酸素センサに用いる酸化物半導体層として不適である。
【0046】
上述したように、ジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下であることにより、応答特性が向上し、リッチ・リーンの検出精度が向上する。また、抵抗率の経時変化も抑制される。ただし、単純にジルコニウムイオン比率を上記範囲に設定しただけでは、上記の効果を得ることはできない。
【0047】
表1および表2に示した例では、80vol%以上の立方晶を含むように酸化物半導体層3を形成したために、ジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下の範囲で優れた効果が得られている。セリウムイオンだけでなくジルコニウムイオンをも含む酸化物半導体層3において、80vol%以上の立方晶を含む結晶相を実現するためには、例えば共沈法により作製されたセリア−ジルコニア粉体を用いて酸化物半導体層3を形成すればよい。共沈法は、2種類以上の金属イオンを含む溶液にアルカリを添加して過飽和の状態にすると、複数種類の難溶性塩が同時に沈殿することを利用して粉体を作製する手法である。表1および表2に示した実施例1〜3および比較例1〜3はいずれも共沈法を用いている。共沈法を用いると、後に詳述するように均一性の高い粉体が得られるので、立方晶比率を高くすることができる。
【0048】
これに対し、特許文献2には、噴霧熱分解法により作製された粉体を用いて形成された酸化物半導体層が実施例として開示されている。噴霧熱分解法は、金属塩溶液を高温炉内に噴霧し、瞬時に熱分解することによって、金属酸化物の粉体を作製する手法である。しかしながら、噴霧熱分解法により作製された粉体を用いた場合には、ジルコニウムイオン比率を45%以上60%以下とし、且つ、立方晶の割合を80vol%以上にすることは困難である。特許文献2に開示されている酸素センサが耐久性および応答特性に劣るのはこのためである。
【0049】
表3に、粉体作製に共沈法を用いた場合と噴霧熱分解法を用いた場合とについて、結晶相における立方晶の比率(vol%)を示す。なお、共沈法を用いた例(実施例1〜3および比較例1〜3)では、以下の手順で粉体を作製した。まず、硝酸セリウム水溶液と塩基性硫酸ジルコニウム水溶液とを所定の濃度で混合し、次に、25wt%酸化ナトリウム水溶液を、混合液のpHが13になるまで添加して沈殿物を得た。その後、生成した沈殿物を固液分離して回収し、固形分を大気中700℃で3時間焼成することによって、セリア−ジルコニア粉体を得た。また、噴霧熱分解法を用いた例(比較例4〜9)では、硝酸セリウム水溶液とオキシ硝酸ジルコニウム水溶液とを所定の濃度で混合し、この混合水溶液を液滴として700℃の高温炉内に噴霧して熱分解することによって、セリア−ジルコニア粉体を得た。
【0050】
共沈法を用いた場合と噴霧熱分解法を用いた場合のいずれの例についても、得られた粉体10wt%と有機溶媒のビヒクル90wt%とを混合したペーストをアルミナ基板(白金を主成分とする電極が既に形成されたもの)上にスクリーン印刷法により印刷し、続いて大気中500℃で加熱し、その後、大気中1000℃で焼成することによって、厚膜の酸化物半導体層を形成した。この酸化物半導体層のX線回折パターンをRIGAKU製X線回折装置RINT2000を用いて測定することにより、結晶相における立方晶の比率を決定した。具体的には、測定されたデータから立方晶の(111)面と正方晶の(111)面のピーク角度とピーク強度とを求め、強度比(=正方晶のピーク強度/立方晶のピーク強度)から立方晶の比率を算出した。
【0051】
【表3】

【0052】
表3から、共沈法を用いた場合(実施例1〜3および比較例1〜3)には、噴霧熱分解法を用いた場合(比較例4〜9)よりも、立方晶の比率を高くできることがわかる。特に、噴霧熱分解法を用いると、ジルコニウムイオン比率が高くなるにつれて正方晶の比率が増加して立方晶の比率が大きく低下するのに対し、共沈法を用いると、ジルコニウムイオン比率が高くなっても正方晶の比率がさほど増加せず、立方晶の比率は高いまま(表3に例示しているものでは90vol%以上)である。
【0053】
表4に、共沈法を用いた実施例1〜3および比較例1〜3と、噴霧熱分解法を用いた比較例4〜9とについて、抵抗率および応答時間とジルコニウムイオン比率との関係を示す。実施例1〜3および比較例1〜3について示すデータは、表1に示したものと同じである。
【0054】
【表4】

【0055】
表4から、噴霧熱分解法を用いると、立方晶比率が低いために、応答時間が長かったり、抵抗率が高くなりすぎたりしてしまうことがわかる。特に、実施例1〜3と比較例6〜8とを比較すると、たとえジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下であっても立方晶比率が低い(具体的には80vol%未満である)と、十分な応答特性が得られず、抵抗率が高いことがわかる。
【0056】
また、表5に、共沈法を用いた実施例1〜3および比較例1〜3と、噴霧熱分解法を用いた比較例4〜9とについて、抵抗率の経時変化とジルコニウムイオン比率との関係を示す。実施例1〜3および比較例1〜3について示すデータは、表1に示したものと同じである。
【0057】
【表5】

【0058】
表5から、噴霧熱分解法を用いると、立方晶比率が低いために、抵抗率の経時変化が抑制されないことがわかる。特に、実施例1〜3と比較例6〜8とを比較すると、たとえジルコニウムイオン比率が45%以上60%以下であっても立方晶比率が低い(具体的には80vol%未満である)と、抵抗率の経時変化を抑制する効果を十分に得られないことがわかる。
【0059】
なお、噴霧熱分解法を用いた場合に立方晶比率が低くなり、十分な応答特性が得られなかったり、抵抗率の経時変化を十分に抑制できなかったりするのは、噴霧熱分解法を用いると、セリアとジルコニアとの均一な固溶体が得られにくく、粒子径も大きいためである。また、噴霧熱分解法を用いると、量産性が低いという問題もある。
【0060】
これに対し、共沈法では、2種類以上の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させるので、均一性の高い粉体が得られる。そのため、セリアとジルコニアとの均一な固溶体が得られやすく、粒子径も小さくすることができるので、立方晶比率が高くなり、十分な応答特性が得られるとともに、抵抗率の経時変化を十分に抑制できる。また、共沈法を用いると、量産性も高い。
【0061】
本実施形態における酸素センサ10は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0062】
まず、基板2を用意する。基板2は、絶縁性の表面を備え、以下の工程で行う熱処理温度や酸素センサ10の使用温度において変形等が実質的に生じない程度の耐熱性を有していることが好ましい。基板2の材料としては、アルミナやマグネシアなどのセラミックス材料が好適に用いられる。
【0063】
次に、基板2の主面2a上に電極4を形成する。電極4は、導電性を有し、基板2と同程度の耐熱性を有する材料(例えば白金)から形成する。電極4の形成方法としては、例えば、スクリーン印刷法を用いることができる。
【0064】
続いて、電極4を覆うように酸化物半導体層3を形成する。具体的には、まず、セリア−ジルコニア粉体を用意する。例えば、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む溶液を用意し、この溶液から共沈法を用いて、ジルコニアを45mol%以上60mol%以下含むセリア−ジルコニア粉体を作製する。次に、このセリア−ジルコニア粉体を用いて基板2上に酸化物半導体層3を形成する。例えば、セリア−ジルコニア粉体と有機溶媒のビヒクルとを混合したペーストを、電極4を覆うように基板2の主面2a上に塗布し、その後焼成することによって、酸化物半導体層3を形成する。
【0065】
上述したようにして基板2の主面2a上に電極4および酸化物半導体層3を形成するのとは別途に、基板2の裏面2b上に、ヒータ5を形成する。ヒータ5の材料としては、白金やタングステンなどの金属材料を用いることができる。また、非金属材料を用いることもでき、例えば、酸化レニウムなどの良導体酸化物を用いることができる。ヒータ5を形成する方法としては、スクリーン印刷法が好適に用いられる。このようにして、酸素センサ10を製造することができる。
【0066】
続いて、酸素センサ10のより好ましい構成について説明する。
【0067】
酸素センサ10の耐久性および応答特性を向上させる観点からは、酸化物半導体層3の立方晶比率は、90vol%以上であることがより好ましい。ただし、ジルコニウムイオン比率が45%以上である場合、立方晶比率を95vol%超にすることが製法によっては難しいことがある。そのため、量産性の高い製法(例えば共沈法)を用いて簡便に製造し得るという点からは、立方晶比率は95vol%以下であることが好ましいといえる。
【0068】
また、酸化物半導体層3は、0.01wt%以上10wt%以下のAl(酸化物半導体層3中ではアルミナとして存在する。)を含むことが好ましい。酸化物半導体層3のAl含有量が0.01wt%以上10wt%以下であると、基板2と酸化物半導体層3との密着性が向上し、酸化物半導体層3の剥離を防止することができる。また、酸化物半導体粒子の粒成長を抑制する効果が高くなるので、耐熱性もいっそう向上する。これに対し、Al含有量が0.01wt%未満であると、上述したようなAl添加の効果がほとんどない。また、Al含有量が10wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層3の抵抗率が増大してしまう。
【0069】
酸化物半導体層3に所定の割合でAlを含有させるには、酸化物半導体層3の材料中にAlを添加してもよいし、基板2の材料にAlを含む材料(例えばアルミナ)を用い、酸化物半導体層3の形成プロセスにおいて基板2から酸化物半導体層3中にAlを拡散させてもよい。
【0070】
また、酸化物半導体層3は、0.01wt%以上5wt%以下のSi(酸化物半導体層3中ではシリカとして存在する。)を含むことが好ましい。酸化物半導体層3のSi含有量が0.01wt%以上5wt%以下であると、基板2と酸化物半導体層3との密着性が向上し、酸化物半導体層3の剥離を防止することができる。Si含有量が0.01wt%未満であると、上述したようなSi添加の効果がほとんどない。また、Si含有量が5wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層3の抵抗率が増大してしまう。
【0071】
酸化物半導体層3に所定の割合でSiを含有させるには、酸化物半導体層3の材料中にSiを添加してもよいし、基板2の材料にSiを含む材料を用い、酸化物半導体層3の形成プロセスにおいて基板2から酸化物半導体層3中にSiを拡散させてもよい。
【0072】
ここで、酸化物半導体層3のAl含有量およびSi含有量を変化させて、酸化物半導体層3の剥がれ難さ(基板2との密着性)を評価した結果を説明する。表6に、ジルコニウムイオン比率が45%である実施例4〜23について、Al含有量およびSi含有量と、剥離試験を行ったときの酸化物半導体層3の残存率との関係を示す。また、表7に、ジルコニウムイオン比率が60%である実施例24〜43について、同様の関係を示す。なお、剥離試験は、スコッチテープ(登録商標)を酸化物半導体層3に貼り付けた後に引き剥がすことによって行った。試験前の酸化物半導体層3の重量と、試験後の酸化物半導体層3の重量とを測定し、下記式から残存率を算出した。
残存率(%)=(試験後重量/試験前重量)×100
【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
表6および表7から、酸化物半導体層3のAl含有量が0.01wt%以上であることによって、基板2と酸化物半導体層3との密着性が向上し、酸化物半導体層3の剥離が防止されることがわかる。例えば表6の実施例4と実施例5との比較や表7の実施例24と実施例25との比較から、Al含有量が0.01wt%以上であると、Al含有量が0.01%未満の場合に比べ、酸化物半導体層3の残存率が著しく高くなることがわかる。ただし、表6の実施例5〜9と実施例10との比較や、表7の実施例25〜29と実施例30との比較からわかるように、Al含有量が10wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層3の抵抗率が増大してしまう。
【0076】
また、表6および表7から、酸化物半導体層3のSi含有量が、0.01wt%以上であることによって、基板2と酸化物半導体層3との密着性が向上し、酸化物半導体層3の剥離が防止されることがわかる。例えば表6の実施例4と実施例11との比較や表7の実施例24と実施例31との比較から、Si含有量が0.01wt%以上であると、Si含有量が0.01%未満の場合に比べ、酸化物半導体層3の残存率が著しく高くなることがわかる。ただし、表6の実施例11〜14と実施例15との比較や、表7の実施例31〜34と実施例35との比較からわかるように、Si含有量が5wt%を超えると、電気伝導の阻害度が高くなるため、酸化物半導体層3の抵抗率が増大してしまう。
【0077】
続いて、本実施形態における酸素センサ10を備え、内燃機関を駆動源とする輸送機器を説明する。図3に、酸素センサ10を備えた自動二輪車300を模式的に示す。
【0078】
自動二輪車300は、図3に示すように、本体フレーム301とエンジン(内燃機関)100とを備える。本体フレーム301の前端にヘッドパイプ302が設けられている。ヘッドパイプ302にはフロントフォーク303が左右方向に揺動可能に設けられている。また、フロントフォーク303の下端に前輪304が回転可能に支持されている。ヘッドパイプ302の上端にはハンドル305が取り付けられている。
【0079】
本体フレーム301の後端上部から後方に伸びるようにシートレール306が取り付けられている。本体フレーム301の上部には燃料タンク307が設けられ、シートレール306上にメインシート308aおよびタンデムシート308bが設けられている。また、本体フレーム301の後端に後方へ伸びるリアアーム309が取り付けられている。リアアーム309の後端に後輪310が回転可能に支持されている。
【0080】
本体フレーム301の中央部にはエンジン100が保持されている。エンジン100の前部にはラジエター311が取り付けられている。エンジン100の排気ポートには排気管312が接続されている。以下において詳細に説明するように、排気管にはエンジン100に近い順に酸素センサ10、三元系触媒104および消音器126が設けられている。酸素センサ10の先端部は排気管312の排気ガスが通過する通路内に露出しており、酸素センサ10は排気ガス中の酸素を検出する。酸素センサ10には、図1などに示したヒータ5が取り付けられており、エンジン100の始動時にはヒータ5により酸化物半導体層3を含むガス検出部1が昇温される(例えば5秒で700℃まで昇温される)ことによって、検出感度が高められる。
【0081】
エンジン100には、変速機315が連結されており、変速機315の出力軸316は駆動スプロケット317に取り付けられている。駆動スプロケット317はチェーン318を介して後輪310の後輪スプロケット319に連結されている。
【0082】
図4は、エンジン100の制御系の主要な構成を示している。エンジン100のシリンダ101には吸気弁110、排気弁106および点火プラグ108が設けられている。またエンジンを冷却する冷却水の水温を計測する水温センサ116が設けられている。吸気弁110は、空気吸入口をもつ吸気管122に接続されている。吸気管122にはエアーフローメータ112、スロットルバルブのスロットルセンサ114および燃料噴射装置111が設けられている。
【0083】
エアーフローメータ112、スロットルセンサ114、燃料噴射装置111、水温センサ116、点火プラグ108および酸素センサ10は、制御部であるコンピュータ118に接続されている。コンピュータ118には自動二輪車300の速度を示す車速信号120も入力される。
【0084】
図示しないセルモータによって、ライダーがエンジン100を始動させると、コンピュータ118はエアーフローメータ112、スロットルセンサ114および水温センサ116から得られる検出信号および車速信号120に基づき、最適な燃料量を計算し、計算結果に基づいて、燃料噴射装置111へ制御信号を出力する。燃料噴射装置111から噴射される燃料は、吸気管122から供給される空気と混合され、適切なタイミングで開閉される吸気バルブ110を介してシリンダ101へ噴出される。シリンダ101において噴出された燃料は燃焼し、排気ガスとなって排気弁106を介して排気管312へ導かれる。
【0085】
酸素センサ10は排気ガス中の酸素を検出し、検出信号をコンピュータ118へ出力する。コンピュータ118は、酸素センサ10からの信号に基づき、空燃比が理想空燃比からどの程度ずれているかを判断する。そして、エアーフローメータ112およびスロットルセンサ114から得られる信号によって定まる空気量に対して、理想空燃比となるように燃料噴射装置111から噴出する燃料量を制御する。このように、酸素センサ10と、酸素センサ10に接続されたコンピュータ(制御部)118とを含む空燃比制御装置によって、内燃機関の空燃比が適切に制御される。
【0086】
図5に、酸素センサ10のヒータ5の制御フローを示す。エンジン100が始動され、メインスイッチがオン状態になる(ステップS1)と、ヒータ5への通電が開始される(ステップS2)。次に、ヒータ5の温度が検出され(ステップS3)、ヒータ5の温度が設定温度よりも低いか否かが判定される(ステップS4)。ヒータ5の温度の検出は、ヒータ5の抵抗値が温度に依存して変化することを利用し、ヒータ5に流れる電流(あるいはヒータ5に印加される電圧)を検出することによって行うことができる。ヒータ5の温度が設定温度よりも低い場合には、引き続いてヒータ5への通電が行われる(ステップS2)。一方、ヒータ5の温度が設定温度以上である場合には、ヒータ5への通電を一定時間停止し(ステップS5)、再びヒータ5への通電が開始された(ステップS2)後、ヒータ5の温度の検出が行われる(ステップS3)。このような制御フローにより、ヒータ5の温度が一定に保たれる。
【0087】
自動二輪車300は、耐久性および応答特性に優れた酸素センサ10を備えているので、長期間に亘って優れた検出精度で排気ガス中の酸素濃度およびその変化を検出することができる。そのため、適切な空燃比で燃料および空気を混合し、最適な条件で燃料を燃焼させることができ、排気ガス中のNOxをはじめ規制物質の濃度を低減することができる。また、燃費の向上をはかることも可能である。
【0088】
なお、ここでは自動二輪車を例示したが、本発明は四輪自動車などの他の輸送機器にも好適に用いられる。また、内燃機関はガソリンエンジンに限られず、ディーゼルエンジンであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によると、酸化物半導体層を備えた抵抗型ガスセンサの耐久性および応答特性を改善することができる。本発明によるガスセンサは、優れた耐久性および応答特性を有しているので、乗用車、バス、トラック、オートバイ、トラクター、飛行機、モーターボート、土木車両などの種々の輸送機器用の空燃比制御装置に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の好適な実施形態における酸素センサ10を模式的に示す分解斜視図である。
【図2】本発明の好適な実施形態における酸素センサ10を模式的に示す断面図である。
【図3】酸素センサ10を備えた自動二輪車の例を模式的に示す図である。
【図4】図3に示す自動二輪車におけるエンジンの制御系を模式的に示す図である。
【図5】酸素センサ10の制御フローの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0091】
1 ガス検出部
2 基板
3 酸化物半導体層
4 電極
5 ヒータ
6 電極
10 酸素センサ(ガスセンサ)
100 エンジン
300 自動二輪車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体層を含むガス検出部を備えた抵抗型のガスセンサであって、
前記酸化物半導体層は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含み、
前記酸化物半導体層に含まれるセリウムイオンおよびジルコニウムイオンの物質量の和に対するジルコニウムイオンの物質量の割合は、45%以上60%以下であり、
前記酸化物半導体層は、80vol%以上の立方晶を含む結晶相を有するガスセンサ。
【請求項2】
前記酸化物半導体層は、0.01wt%以上10wt%以下のAlを含む請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記酸化物半導体層は、0.01wt%以上5wt%以下のSiを含む請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
酸化物半導体層を含むガス検出部を備えた抵抗型のガスセンサであって、
前記酸化物半導体層は、セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含み、
前記酸化物半導体層は、さらに、0.01wt%以上10wt%以下のAlおよび0.01wt%以上5wt%以下のSiを含むガスセンサ。
【請求項5】
酸素センサである請求項1から4のいずれかに記載のガスセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のガスセンサと、
前記ガスセンサに接続され、内燃機関の空燃比を制御する制御部と、を備えた空燃比制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の空燃比制御装置を備えた輸送機器。
【請求項8】
酸化物半導体層を含むガス検出部と、前記ガス検出部を支持する基板とを備えた抵抗型のガスセンサの製造方法であって、
セリウムイオンおよびジルコニウムイオンを含む溶液を用意する工程と、
前記溶液から共沈法を用いて、ジルコニアを45mol%以上60mol%以下含むセリア−ジルコニア粉体を作製する工程と、
前記セリア−ジルコニア粉体を用いて前記基板上に前記酸化物半導体層を形成する工程と、を包含するガスセンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−85944(P2009−85944A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226709(P2008−226709)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】