説明

ガスタービン燃焼器

【課題】低質油燃料焚きガスタービン燃焼器において、スワーラ表面に付着し堆積した未蒸発燃料や煤が原因でスワーラ表面のメタル温度が急激に変動し、バーナの信頼性が低下する。
【解決手段】燃焼室に液体燃料を噴射する液体燃料ノズル20と、液体燃料ノズル20の外周側に位置し、液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズル21と、噴霧空気ノズル21の外周側から燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラ17を有する燃焼器であって、パージ空気104を供給するパージ空気孔50を、スワーラ表面18上で噴霧空気孔21aと燃焼用空気孔24aの間に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油や灯油,A重油などの良質油よりも動粘度が高く、重金属分や残留炭素,窒素分,硫黄分を多く含む低質油を燃料として使用するガスタービン燃焼器に関わり、低質油燃料の燃焼においてバーナの信頼性を向上するためのバーナ構造と制御装置を備えたガスタービン燃焼器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスタービンでは、石油精製所や化学プラントで副次的に発生する残渣油などのいわゆる低質油を燃料として使用することが検討されている。低質油燃料は、ガスタービンで従来から使用されている軽油や灯油,A重油などの良質油燃料に比べて動粘度が高く、重金属分や残留炭素,窒素分,硫黄分の含有量が多いが安価である。そのため、低質油燃料を高効率ガスタービンで使用できれば、資源の有効利用や発電コストの低減、さらには高効率化によるCO2削減に貢献できる。
【0003】
従来の液体燃料焚きガスタービン燃焼器は、特許文献1で開示されているようなバーナ構造を採用している。特許文献1には、燃焼器の軸中心部に液体燃料を噴射する液体燃料ノズルを備え、その周囲には液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズル、さらに噴霧空気ノズルの周囲には火炎を安定化するためのスワーラ(燃焼用空気旋回器)を備えるバーナが開示されている。また、このバーナはスワーラに冷却孔を設け、ここからも燃焼用空気を噴射して、燃料と空気の混合促進により煤塵発生を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−33022号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料特性のひとつである蒸発温度は燃料の種類によって異なり、一般に低質油の方が良質油よりも蒸発温度が高く、蒸発しにくい。したがって、低質油燃料の燃焼では、蒸発しきれずに残った未蒸発燃料や煤が多く発生し、それらの一部はスワーラ表面に付着し堆積する。堆積した未蒸発燃料や煤の燃焼が繰り返されると、表面メタル温度が大きく変動することにより、熱応力が発生しバーナの信頼性が低下する。低質油燃焼では、このようなスワーラ表面のメタル温度の急激な変動によりバーナの信頼性が低下することが課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、低質油燃料を燃焼させた場合でも、スワーラ表面のメタル温度の急激な変動を抑制し、バーナの信頼性を向上させることができるバーナ構造と制御装置を備えたガスタービン燃焼器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、燃焼室と、前記燃焼室に前記液体燃料を噴射する液体燃料ノズルと、前記液体燃料ノズルの外周側に位置し、前記液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズルと、前記噴霧空気ノズルの外周側から前記燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラを有する燃焼器であって、前記スワーラにパージ空気を供給するパージ空気ノズルを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低質油燃料を燃焼させた場合でも、スワーラ表面のメタル温度の急激な変動を抑制し、バーナの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例1におけるガスタービン燃焼器を示す図。
【図2】本発明の実施例2におけるガスタービン燃焼器を示す図。
【図3】本発明の実施例2におけるパージ空気流量の制御を説明する図。
【図4】本発明の実施例3におけるガスタービン燃焼器を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
(構成)
図1は本発明の実施例1のガスタービン燃焼器を含むガスタービンプラントの概略構成図である。まず、ガスタービンプラントの概要を説明する。ガスタービンプラント1は、大気より吸入空気101を吸入し圧縮する空気圧縮機2、空気圧縮機2により圧縮した燃焼用空気102と液体燃料200を燃焼させ、燃焼ガス110を生成する燃焼器3、発生した燃焼ガス110を導いて駆動するタービン4、タービン4により回転し発電する発電機6、およびガスタービン起動時に空気圧縮機2を起動するガスタービン起動用モータ8から成る。タービン4の駆動後の燃焼ガス110は、排気ガス111となってタービン4から排出する。
【0012】
次に、バーナ13の構造を説明する。バーナ13は、燃焼器3の軸中心部に液体燃料200を噴射する液体燃料ノズル20を備える。本発明では、液体燃料200として残渣油などの低質油燃料を想定する。液体燃料ノズル20の外周には、液体燃料200を微粒化するための噴霧空気103を噴射する噴霧空気ノズル21を備える。また、噴霧空気ノズル21の外周には、スワーラ17に設けたパージ空気孔50からパージ空気104を噴射するためのパージ空気ノズル23を備える。パージ空気ノズル23の外周には火炎安定化のために燃焼用空気102aに旋回を与えるスワーラ17を備える。なお、パージ空気孔50は、スワーラ表面18上で噴霧空気孔21aと燃焼用空気孔24aの間の位置に複数個設置するのが望ましい。
【0013】
次に、空気の供給方法を説明する。燃焼用空気102は空気圧縮機2から燃焼器3に供給し、主室ライナ12を冷却した後に燃焼用空気孔24aから燃焼室5に噴射する。噴霧空気103としては、空気圧縮機2から抽気した抽気空気105をクーラー9で冷却した後、昇圧圧縮機7で昇圧した昇圧空気106を利用する。パージ空気104は、噴霧空気103の供給ラインからオリフィス305を介して分岐させて供給する。昇圧空気106の流量は、圧力調節弁300でバイパス空気107の流量を変化させて調節し、噴霧空気圧と燃焼器内圧の比を一定に保ちながら、噴霧空気103とパージ空気104を供給する。
【0014】
(作用・効果)
まず、低質油燃料の燃焼でスワーラ表面のメタル温度が急激に変動する原因を説明する。一般に低質油燃料は良質油燃料よりも蒸発温度が高く、蒸発しにくい特性をもつ。良質油燃料の場合、蒸発温度はスワーラ表面メタル温度よりも低い。その結果、スワーラ表面18に未蒸発燃料が付着してもすぐに蒸発するため、未蒸発燃料がスワーラ表面18に堆積することは少なく、表面メタル温度はほぼ一定となる。
【0015】
これに対して低質油燃料の場合、蒸発温度はスワーラ表面メタル温度よりも高い。一般に低質油燃料には高沸点炭化水素である重質分が多く含まれており、スワーラ表面18に未蒸発燃料が付着すると、重質分がスワーラ表面18で蒸発されずに堆積することになる。重質分から成る未蒸発燃料は火炎からの熱放射を受けることで燃焼して消滅し、再び堆積して燃焼するという現象が繰り返される。さらに、未蒸発燃料の燃焼により煤が発生し、煤も燃焼と消滅を繰り返す。したがって、未蒸発燃料や煤の燃焼と消滅の繰り返しにより、表面メタル温度が激しく変動する。このような過程でスワーラ表面のメタル温度が激しく変動すると、熱応力が生じバーナの信頼性が低下する。
【0016】
そこで、本実施例の燃焼器では、スワーラ17にパージ空気孔50を設け、そこからパージ空気104を噴射することにより、スワーラ表面18の未蒸発燃料や煤を除去している。そうすると、スワーラ表面18のメタル温度の急激な上昇を抑制でき、バーナの信頼性を向上させることができる。
【実施例2】
【0017】
(構成)
本発明の実施例2を図2に示す。本実施例の特徴は、スワーラ表面18に温度検知センサー30を設置し、その信号を受けて圧力調節弁300と流量調節弁301を調節して、パージ空気孔50からパージ空気104を噴射するように制御する制御装置33を備える点である。なお、温度検知センサー30は、スワーラ表面18上で噴霧空気孔21aと燃焼用空気孔24aの間の位置に複数個設置するのが望ましい。
【0018】
パージ空気104は、噴霧空気103の供給ラインから流量調節弁301を介して分岐する。パージ空気104を供給する際は、噴霧空気圧と燃焼器内圧の比を一定に保ちながら、流量調節弁301と圧力調節弁300を調節し、パージ空気104を供給する。
【0019】
(作用・効果)
スワーラ表面18に未蒸発燃料や煤が堆積し燃焼し始めると、スワーラ表面温度が上昇するため、それらの堆積はスワーラ表面温度の上昇で判断できる。本実施例では、温度検知センサー30でスワーラ表面温度を監視し、その温度が設定温度Tcよりも高くなったときに制御装置33により流量調節弁301と圧力調節弁300を調節し、パージ空気104を噴射する。なお、温度検知センサー30を複数個設置した場合は、評価するスワーラ表面温度として、各センサーの検知温度の平均値、もしくはそれらの最大値を使用する。
【0020】
図3にパージ空気流量の制御の一例を示す。実線が本実施例の温度の推移(図3上図)及びパージ空気量の制御(図3下図)を示す。スワーラ表面温度(本図の本実施例のスワーラ表面メタル温度の変化70)が初期温度T0から上昇し、設定温度Tc1(本図制御装置が圧力調節弁の制御を開始する設定温度72)を超えた時点(本図の時間ts1)で、温度検知センサー30の信号を受けた制御装置33から流量調節弁301と圧力調節弁300に指令が行く。
【0021】
この指令により、流量調節弁301が開放し、圧力調節弁300の開度が小さくなって、噴霧空気圧と燃焼器内圧の比を一定に保ちながら、パージ空気104が供給される(本図パージ空気流量71)。パージ空気104により、スワーラ表面18で燃焼している未蒸発燃料や煤が除去されるため、スワーラ表面温度は急激に上昇することなく徐々に低下していく。
【0022】
その後、スワーラ表面温度が初期温度T0に戻ると(本図の時間tf1の時点)、流量調節弁301を閉止しパージ空気104の供給を止める。このように、スワーラ表面メタル温度の上昇に応じてパージ空気104を供給する制御によって、スワーラ表面メタル温度の変動を小さくできる。
【0023】
ここで、パージ空気104を供給しない比較例の場合を説明する。図3の上図の破線が、比較例の温度の推移を示す。比較例の場合、スワーラ表面18に堆積した未蒸発燃料の燃焼により、スワーラ表面メタル温度は、熱応力に対するメタル温度の制限値Tc2(本図熱応力に対するスワーラ表面メタル温度の制限値73)に接近する場合がある(本図比較例のスワーラ表面メタル温度の変化74)。
【0024】
これに対し本実施例の制御では、メタル温度のオーバーシュート分を考慮した設定温度Tc1を設定することで、表面メタル温度はTc2に対し十分に低く制御することが可能となり、バーナの信頼性を大幅に向上させることができる。本実施例のように、温度検知センサーで検知した温度に基づいて流量調節弁を調節する制御装置を備えた燃焼器では、スワーラ表面温度が上昇したときにのみパージ空気104を供給することにより、パージ空気104供給により生じるガスタービンの効率低下を最小限に抑えつつ、バーナ信頼性を向上させることができる。
【実施例3】
【0025】
(構成)
図4に本発明の実施例3を示す。本実施例の特徴は、パージ空気104を圧縮機2の抽気空気105から分岐させて供給する点である。燃焼器や制御系の構成、およびパージ空気流量の制御方法は実施例2と同様である。
【0026】
(作用・効果)
本実施例で供給するパージ空気104は、クーラー9による冷却前の抽気空気105から分岐するため、実施例2の場合と比べてパージ空気104の温度が高い。したがって、パージ空気104を燃焼室5内の燃焼領域に供給しても、燃焼領域の温度を大幅に低下させないため、燃焼安定性の低下を低減できる。また、パージ空気104は、昇圧圧縮機7で圧縮される抽気空気105から分岐するため、パージ空気104供給時には、昇圧圧縮機7で圧縮される抽気空気105の流量が減少する。したがって、実施例2に比べて昇圧圧縮機7にかかる負担は少なくなるため、パージ空気104供給時のガスタービンの効率低下を低減できる。したがって、本実施例により、燃焼安定性やガスタービンの効率低下を最小限に抑えながら、スワーラ表面18のメタル温度の急激な上昇を抑制して、バーナの信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ガスタービンプラント
2 空気圧縮機
3 燃焼器
4 タービン
5 燃焼室
6 発電機
7 昇圧圧縮機
8 ガスタービン起動用モータ
9 クーラー
10 外筒
12 主室ライナ
13 バーナ
17 スワーラ
18 スワーラ表面
20 液体燃料ノズル
20a 液体燃料孔
21 噴霧空気ノズル
21a 噴霧空気孔
23 パージ空気ノズル
24a 燃焼用空気孔
30 温度検知センサー
33,34 制御装置
50 パージ空気孔
70 本実施例のスワーラ表面メタル温度の変化
71 パージ空気流量
72 制御装置が圧力調節弁の制御を開始する設定温度
73 熱応力に対するスワーラ表面メタル温度の制限値
74 比較例のスワーラ表面メタル温度の変化
101 吸入空気
102,102a 燃焼用空気
103 噴霧空気
104 パージ空気
105 抽気空気
106 昇圧空気
107 バイパス空気
110 燃焼ガス
111 排気ガス
200 液体燃料
300 圧力調節弁
301,302 流量調節弁
305 オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、
前記燃焼室に前記液体燃料を噴射する液体燃料ノズルと、
前記液体燃料ノズルの外周側に位置し、前記液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズルと、
前記噴霧空気ノズルの外周側から前記燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラを有する燃焼器であって、
前記スワーラにパージ空気を供給するパージ空気ノズルを備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項2】
請求項1に記載の燃焼器であって、
前記パージ空気ノズルは前記噴霧空気ノズルの外周側に位置し、
前記パージ空気を噴出するパージ空気孔は、前記噴霧空気を噴出する噴霧空気孔と、前記燃焼用空気を噴出する燃焼用空気孔の間に複数個配置されていることを特徴とする燃焼器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃焼器であって、
前記パージ空気ノズルに供給するパージ空気の流量を調節する流量調節弁と、
前記スワーラの表面に温度検知センサーを有し、
前記温度検知センサーで検知した温度に基づいて、前記流量調節弁を調節する制御装置を備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項4】
請求項3に記載の燃焼器であって、
前記パージ空気ノズルに供給するパージ空気の圧力を調節する圧力調整弁を有し、
前記温度検知センサーで検知した温度に基づいて、前記圧力調節弁を調節する制御装置を備えたことを特徴とする燃焼器。
【請求項5】
空気吸入し圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と液体燃料とを燃焼させ燃焼ガスを生成する燃焼器と、発生した燃焼ガスにより駆動するタービン4とを備え、
前記燃焼器は、燃焼室と、前記燃焼室に前記液体燃料を噴射する液体燃料ノズルと、前記液体燃料ノズルの外周側に位置し前記液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズルと、前記噴霧空気ノズルの外周側から前記燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラを有するガスタービンにおいて、
前記圧縮機から抽気した空気を、パージ空気として前記スワーラに供給するパージ空気ノズルを備えたことを特徴とするガスタービン。
【請求項6】
空気吸入し圧縮する圧縮機と、前記圧縮機で圧縮された圧縮空気と液体燃料とを燃焼させ燃焼ガスを生成する燃焼器と、発生した燃焼ガスにより駆動するタービン4とを備え、
前記燃焼器は、燃焼室と、前記燃焼室に前記液体燃料を噴射する液体燃料ノズルと、前記液体燃料ノズルの外周側に位置し前記液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズルと、前記噴霧空気ノズルの外周側から前記燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラを有し、
前記圧縮機から抽気した空気を圧縮する昇圧圧縮機と、
前記昇圧圧縮機で圧縮された空気を、前記噴霧空気ノズルに供給する供給ラインとを有するガスタービンにおいて、
前記供給ラインから抽気した空気を、パージ空気として前記スワーラに供給するパージ空気ノズルを備えたことを特徴とするガスタービン。
【請求項7】
燃焼室と、
前記燃焼室に前記液体燃料を噴射する液体燃料ノズルと、
前記液体燃料ノズルの外周側に位置し、前記液体燃料を微粒化するための噴霧空気を噴射する噴霧空気ノズルと、
前記噴霧空気ノズルの外周側から前記燃焼室に燃焼用空気を供給するスワーラを有し、
前記スワーラにパージ空気を供給するパージ空気ノズルを備えた燃焼器の運転方法であって、
前記スワーラの表面メタル温度の変動にもとづいてパージ空気の供給することを特徴とする燃焼器の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−74802(P2011−74802A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225888(P2009−225888)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)