説明

ガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された有機層ポリエステル積層基材を準備する工程と、イオンプレーティングにより上記有機層に蒸発源材料を付着させて無機層を形成する工程と、を有するように構成して上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパー等の装置に対し、それらの性能を劣化させる酸素又は水蒸気等の化学成分の透過を防ぐために好ましく適用されている。特に最近の電子デバイスの高性能化と高品質化に伴い、ガスバリア性フィルムにおいても高いガスバリア性が求められている。
【0003】
特許文献1は、酸化珪素粉末100質量部と、導電性材料粉末5質量部以上100質量部以下とを含有するイオンプレーティング用蒸発源材料の原料粉末に関するものである。同文献によれば、絶縁性材料である酸化珪素とともに導電性材料が蒸発源材料中に導入されているので、ガスバリア膜をイオンプレーティングで形成する際に、蒸発源材料へのプラズマの集中的な照射の作用と、プラズマの蒸発源材料内部への浸透の作用と、が相乗的に発揮されて蒸発源材料の励起が効率よく行われる、とされている。そして、蒸発源材料の励起が効率良く行われるために、イオン化率が上昇してガスバリア膜の膜質が大きく改善される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−24255号公報(請求項1,第0039段落、第0041段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、無機酸化物からなるガスバリア膜(以下、「無機層」という。)の成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法のほか、イオンプレーティング法が採用されている。イオンプレーティング法で成膜された無機層は、基材への密着性と緻密さの点で、真空蒸着で成膜された蒸着膜よりも優れ、スパッタリング法で成膜されたスパッタ膜と同程度であるという特徴がある。一方、イオンプレーティング法による無機層の成膜は、成膜速度の点で、スパッタリング法の場合よりも大きく、真空蒸着法と同程度であるという特徴がある。
【0006】
特許文献1では、上記イオンプレーティング法の利点を利用しつつ、さらに、イオンプレーティング用蒸発源材料として酸化珪素と導電性材料粉末を含有することで、ガスバリア性の高い無機層を得ている。
【0007】
ところが、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載の発明において新たな課題があることが判明した。すなわち、ガスバリア性フィルムの基材としてポリエステル樹脂製の基材(以下、「ポリエステル基材」という場合がある。)を使用した場合に、この基材の上にガスバリア作用のある無機層をイオンプレーティングで形成すると、ポリエステル基材に対する熱負荷が大きくなることが判明した。
【0008】
そして、上記熱負荷が大きくなる傾向は、蒸着源材料に導電性材料を用いると顕著になり、場合によってはガスバリア性フィルムのガスバリア性がかえって悪化することがわかった。したがって、イオンプレーティング法を用いる場合、さらに蒸着源材料に導電性材料を用いる場合には、ポリエステル基材に対する熱負荷を軽減してガスバリア性を確保する必要があるという新たな課題が生じるのである。
【0009】
本発明は、上記課題を解決したものであって、その目的は、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記課題につき鋭意検討した結果、イオンプレーティングによる無機層の形成の際の熱負荷からポリエステル基材を保護することが重要であることがわかった。そして、ポリエステル基材と、イオンプレーティングにより形成される無機層との間に、メラミン系樹脂を含有する有機層を形成することにより、ポリエステル基材に対する熱負荷が軽減され、高いガスバリア性を有するガスバリア性フィルムが提供できることを見出した。
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された有機層ポリエステル積層基材を準備する工程と、イオンプレーティングにより上記有機層に蒸発源材料を付着させて無機層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
この発明では、ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された有機層ポリエステル積層基材を準備する工程と、イオンプレーティングにより上記有機層に蒸発源材料を付着させて無機層を形成する工程と、を有するので、有機層がポリエステル基材を熱負荷から保護し、ポリエステル基材からのオリゴマー析出が抑制されて同基材の平坦性が維持され、平坦な基材上に無機層を形成することができるようになる。その結果、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【0013】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法において、蒸発源材料が、酸化珪素100質量部と、導電性材料5質量部以上100質量部以下とを含有することが好ましい。
【0014】
この発明によれば、蒸着原材料が導電性材料を5質量部以上100質量部以下含有するので、イオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【0015】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法において、導電性材料が、金属、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0016】
この発明によれば、導電性材料が、金属、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであるので、蒸発源材料がイオン化されやすく、それ自体が持つエネルギーが大きくなるためにイオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【0017】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法において、導電性材料が、酸化亜鉛及び/又は酸化錫であることが好ましい。
【0018】
この発明によれば、導電性材料が酸化亜鉛及び/又は酸化錫であるので、蒸発源材料がイオン化されやすく、それ自体が持つエネルギーが大きくなるためにイオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【0019】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法において、ポリエステル基材のガラス転移温度が100℃以下であることが好ましい。
【0020】
この発明によれば、ポリエステル基材のガラス転移温度が100℃以下であるので、イオンプレーティングの際の熱負荷によるポリエステル基材からのオリゴマーの析出傾向が顕著となり、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】イオンプレーティング装置の一例を示す構成図である。
【図2】ガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図3】有機層ポリエステル積層基材表面のSEM観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された有機層ポリエステル積層基材を準備する工程と、イオンプレーティングにより有機層に蒸発源材料を付着させて無機層を形成する工程と、を有する。
【0025】
これにより、有機層がポリエステル基材を熱負荷から保護し、ポリエステル基材からのオリゴマー析出が抑制されて同基材の平坦性が維持され、平坦な基材上に無機層を形成することができるようになる。その結果、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムの製造方法を提供することができる。なお、本発明における「析出」は、ブリードアウト(染み出し)を含む意味で用いている。
【0026】
本発明においては、ポリエステル基材の表面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を有する有機層を設けた有機層ポリエステル積層基材をイオンプレーティング用の基材に使用する。その理由は、イオンプレーティングの際にかかるポリエステル基材への熱負荷を低減するためである。
【0027】
イオンプレーティングは、本発明者の検討によれば、イオン化した蒸発源材料自体のエネルギーが大きいため、基材への熱負荷が大きくなる傾向を有する成膜方法であることが判明した。そして、被成膜基材としてポリエステル基材を用いる場合にはこの熱負荷により基材表面にオリゴマー成分が析出する現象が発生し、この析出により基材上に1μm程度の凹凸が生じることがわかった。一方、イオンプレーティングで形成される無機層の厚さは10nm〜300nm程度であるから、nmオーダーの無機層ではμmオーダーの凹凸を完全に覆うことができなくなる。その結果、無機層がポリエステル基材を覆うことができない領域が存在しガスバリア性フィルムのガスバリア性が低下する傾向となる。
【0028】
そして、有機層ポリエステル積層基材を用いることによる熱負荷の軽減効果は、イオンプレーティング用蒸発源材料として酸化珪素と導電性材料とを用いる場合に特に顕著に発揮される。なぜなら、蒸発源材料に導電性材料が用いられることにより、ポリエステル基材への熱負荷がより大きくなる傾向となるからである。
【0029】
すなわち、イオンプレーティング用蒸発源材料として導電性材料を用いることにより、蒸発源材料の励起が効率よく行われイオン化率が上昇するので、ポリエステル基材への熱負荷がより大きくなる。そのため、ポリエステル基材表面にオリゴマーが析出しやすくなり、ポリエステル基材表面に凹凸がより生じやすくなる。そして、上記の通り、この凹凸により無機層がポリエステル基材表面を完全に覆えなくなるため、ガスバリア性が確保しにくくなる。
【0030】
加えて、上記熱負荷によりポリエステル基材表面に析出したオリゴマー成分は、イオンプレーティング成膜の際に真空中に揮発しやすく、ガスとなって無機層の膜形成自体を阻害する傾向となる。その結果、無機層の膜厚が薄くなったり、膜質がかえって悪くなったりすることによって、ガスバリア性が低下しやすくなる。換言すれば、無機層の膜質を改善するために蒸発源材料に導電性材料を使用しているにもかかわらず、ポリエステル基材への熱負荷の増大により、かえってガスバリア性を確保できないという問題が生じるのである。
【0031】
このような、イオンプレーティングの際の熱負荷に伴う、ポリエステル基材からのオリゴマー析出によるガスバリア性フィルムのガスバリア性が確保できなくなる現象、特に蒸発源材料に導電性材料を用いると上記現象が顕著になる現象は、本発明者が新たに見出したものである。そして、この新たな現象(課題)を解決するために、ポリエステル基材の表面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層を形成するという点も本発明者によって新たに見出されたものである。
【0032】
例えば、特開2007−118479号公報には、反応性蒸着法で使用するポリエステルフィルムとして、一方の面に積層膜を設けた所定の基材フィルムを用い、ポリエステルフィルムの融解サブピークを所定の温度範囲とし、さらに積層膜が所定のガラス転移温度を有する水分散性ポリエステル樹脂とメラミン系架橋剤とを含み、上記水分散性ポリエステル樹脂が側鎖にカルボン酸およびまたはその塩を有するとともに、厚さを所定範囲としたポリエステルフィルムが開示されている。しかしながら、同公報には成膜方法としてイオンプレーティング法が用いられておらず、イオンプレーティング法を用いた場合のポリエステル基材への熱負荷に関する知見については全く認識されていない。
【0033】
なお、上記オリゴマーとは、ポリエステル基材を構成するポリマーに微量含有される分子量1500以下の低分子量のポリマーをいう。特に、ポリエチレンテレフタレートの場合は、オリゴマーは、通常、3量体を主成分とする環状オリゴエステル(環状オリゴマー)として1.5〜4重量%程度含有され、ポリエステル基材をガラス転移温度以上の温度で加熱するとポリエチレンテレフタレートフィルム内を拡散し該ポリエステルフィルム表面に六角形状の結晶として析出する傾向を有する。
【0034】
本発明においては、ポリエステル基材の表面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層を形成することで、成膜時の熱負荷によるオリゴマー析出を抑制できる。この抑制のメカニズムについては、明らかではないものの、以下のような内容と推測される。すなわち、ポリエステル基材がガラス転移温度以上になるとポリエステルの分子鎖の運動が大きくなる。そのため、オリゴマーは、ポリエステル基材内を拡散し易くなることでポリエステル基材表面に析出しやすくなる。しかし、ポリエステル基材の表面に形成された有機層には、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる樹脂が含有されている。そして、メラミン架橋の官能基数はトリアジン核1つにつき6つと多いので、上記樹脂は、架橋密度が高くなるとともに剛直となる。さらに、メラミンを用いるために耐熱性も高くなるため、より高温でも有機層内の分子運動が抑制される傾向となる。その結果、成膜時の熱負荷による有機層内の分子運動が抑制されると同時に、有機層が硬いため、ベースとなるポリエステル基材からのオリゴマー析出が抑制できると考えられる。
【0035】
以下、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法の各工程について、さらに詳しく説明する。
【0036】
(有機層ポリエステル積層基材の準備工程)
有機層ポリエステル積層基材を準備する工程では、ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された積層基材を準備する。より具体的には、ポリエステル基材上に有機層を形成する。
【0037】
ポリエステル基材は、上記のとおりポリエステル樹脂製の基材であって、主成分としてポリエステル系樹脂を用いるものである。なお、ここで主成分とは、基材の単位体積あたりの質量の50質量%以上含まれている成分をいう。
【0038】
ポリエステル基材に用いるポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、これらの共重合体、及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂のうちでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらの共重合体が好ましい。
【0039】
ポリエステル基材のガラス転移温度は、100℃以下であることが好ましい。これにより、イオンプレーティングの際の熱負荷によるポリエステル基材からのオリゴマーの析出傾向が顕著となり、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。上記例示したポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、ポリエチレンテレフタレート(PET)が80℃、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が22℃、ポリエチレンナフタレート(PEN)が124℃、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)が95℃、ポリブチレンナフタレート(PBN)が85℃である。したがって、ガラス転移温度を100℃以下とする見地からは、PET、PBT、PCT、PBNを用いることが好ましい。なお、これらガラス転移温度のデータは、「プラスチックス、Vol.56,No.2、97〜105頁」から引用したものである。また、ガラス転移温度の測定は、従来公知の方法で行うことができ、こうした方法として示差走査熱量測定(DSC)等を挙げることができる。測定条件も従来の知見に基づき適宜定めればよい。また、PENは、耐加水分解性を有するので、オリゴマーが析出しにくい傾向を有する。この点からも、PET、PBT、PCT、PBNを用いることが好ましい。
【0040】
ポリエステル基材に用いるポリエステル系樹脂としては、工業性、汎用性、コストの見地から、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0041】
ポリエステル基材の材質は、その全てがポリエステル系樹脂からなるフィルム状基材であってもよいし、他の樹脂や添加剤との混合物であってもよい。また、有機層が形成される側の面がポリエステル系樹脂を含有する層が形成されているフィルム状積層基材であってもよい。このフィルム状積層基材において、有機層が形成されるポリエステル系樹脂を含有する層以外の層は、ポリエステル系樹脂層でなくてもよい。ポリエステル系樹脂層以外の層の種類の選定にあたっては、耐熱性、熱膨張、光透過性等を考慮して各種の樹脂層が任意に選定される。
【0042】
ポリエステル基材の厚さは特に限定されないが、10μm以上500μm以下程度であることが好ましい。
【0043】
ポリエステル基材の表面は、必要に応じて、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、及び易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。また、有機層を直接形成しない側の面には、他の機能層を設けてもよい。機能層の例としては、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0044】
ポリエステル基材の少なくとも一方の面には、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成される。ポリエステルは、通常、ジカルボン酸等の多価カルボン酸とジオールとを重縮合して得られる。
【0045】
ポリエステルを構成するカルボン酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸や3価以上の多価カルボン酸等を挙げることができる。
【0046】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p′−ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを使用することができる。これらの芳香族ジカルボン酸の含有量は、有機層の強度や耐熱性の点で、全ジカルボン酸成分の通常30モル%以上、好ましくは35モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上とする。芳香族ジカルボン酸の含有量は、最も好ましくは、60〜100モル%の範囲とする。
【0047】
脂肪族および脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などおよびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0048】
また、多価カルボン酸としては、例えばトリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−プタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸などあるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
ポリエステルのグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4′−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4′−メチレンジフェノール、4,4′−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4′−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、4,4′−イソプロピリデンフェノール、4,4′−イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどを用いることができる。
【0050】
ポリエステルは、従来公知の各種合成方法によって製造することができる。
【0051】
ポリエステルは、有機層中でメラミンと架橋した樹脂として含有されている。すなわち、ポリエステルは、通常、メラミン系架橋剤を構成成分として含んでいる。このメラミン系架橋剤は、特に限定されるものではないが、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。
【0052】
また、メラミン系架橋剤としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体からなる縮合物のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。
【0053】
上記エーテル化に用いる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノールなどを好ましく使用することができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などを用いることができる。その中でもメチロール化メラミン樹脂が最も好ましい。更に、メラミン系架橋剤の熱硬化を促進するため、例えばp−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いることもできる。
【0054】
ポリエステルとメラミン系架橋剤とは、本発明の効果が奏される範囲において、任意の比率で混合して用いればよい。
【0055】
有機層には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、他の樹脂、例えば、上記以外のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂等が配合されていてもよい。
【0056】
また、有機層には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、各種の添加剤、例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、帯電防止剤、核剤等が配合されていてもよい。
【0057】
ポリエステル基材上への有機層の形成は、本発明の効果が奏される限り特に制限はない。こうした形成方法としては、例えば、共押出を挙げることができる。また、ポリエステル基材上に有機層形成用塗布液を塗布した後に、ポリエステルとメラミンとを架橋させることにより有機層を形成してもよい。さらに、未延伸又は一軸延伸したポリエステル基材上に有機層形成用塗布液を塗布し乾燥した後、延伸熱処理を経て二軸延伸フィルムを得ることにより有機層を形成してもよい。
【0058】
有機層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常は、0.001μm以上1μm以下とする。有機層の厚さを上記範囲とすれば、有機層ポリエステル積層基材をロール状に巻いた際にもブロッキングが発生しにくく、またオリゴマーの析出の抑制効果を奏しやすくなる。
【0059】
有機層は、ポリエステル基材の少なくとも一方の面に形成されるが、ポリエステル基材の両面に形成されてもよい。
【0060】
(無機層形成工程)
上記のようにして準備された有機層ポリエステル積層基材の有機層に、イオンプレーティングにより蒸発源材料を付着させて無機層を形成する。無機層は、通常、水蒸気等のガスを遮断する機能層として機能するものである。
【0061】
無機層は、イオンプレーティングにより蒸発源材料を有機層上に堆積させて形成する。
【0062】
<蒸発源材料>
蒸発源材料は、イオンプレーティング法においてイオン化させる原子の蒸発源として用いられるものである。
【0063】
蒸発源材料としては、例えば、無機酸化物、無機酸化窒化物、無機窒化物、無機酸化炭化物、無機酸化炭化窒化物、及び無機複合酸化物等から選ばれる1又は2以上の無機化合物を挙げることができる。具体的には、珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、セリウム、及び亜鉛から選ばれる1種又は2種以上の元素を含有する無機化合物を挙げることができ、より具体的には、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、珪素亜鉛合金酸化物及びインジウム合金酸化物等の無機酸化物や無機複合酸化物;珪素窒化物、アルミニウム窒化物、及びチタン窒化物等の無機窒化物;を挙げることができる。蒸発源材料は、上記材料を単独で用いてもよいし、本発明の要旨の範囲内で上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0064】
本発明においては、蒸発源材料が、酸化珪素100質量部と、導電性材料5質量部以上100質量部以下とを含有することが好ましい。これにより、イオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。蒸発源材料の上記組成比は、通常、後述する原料粉末の組成比を反映したものとなる。したがって、蒸発源材料のより好ましい組成比については、原料粉末の組成比と同様とすればよい。具体的には、導電性材料の含有量は、酸化珪素100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下とする。
【0065】
酸化珪素としては、珪素と酸素とから構成される化合物の粉末であればよく特に制限はないが、好ましくは二酸化珪素を用いる。二酸化珪素は、SiO(ここでのxは1.8〜2.2の範囲内であり、通常、SiOで表される。)で表すことができる。
【0066】
導電性材料としては、導電性を有する材料の粉末であれば特に制限はなく、好ましくは無機材料が用いられる。導電性材料としては、例えば、体積抵抗率が1.4μΩ・cm以上、1kΩ・cm以下の材料を挙げることができる。なお、本発明においては、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率を用いている。こうした導電性材料としては、例えば、金属、合金、及び導電性化合物を挙げることができる。導電性化合物としては、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物を挙げることができる。こうした材料のうち、導電性材料は、金属、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これにより、蒸発源材料がイオン化されやすく、それ自体が持つエネルギーが大きくなるためにイオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【0067】
導電性材料として金属や合金を用いる場合には、材料及び蒸発源材料の製造方法に応じて、以下の事項に留意することが好ましい。すなわち、蒸発源材料は、後述するように、原料粉末を造粒又は圧縮成形して所定形状に成形し、このようにして成形された原料粉末を加熱または焼結することによって得ることができるが、導電性材料粉末に金属又は合金を用いて加熱または焼結により蒸発源材料を形成する場合に、金属や合金の種類に応じて酸化度合いの制御を行うことが望ましい。より具体的には、金属や合金は、加熱または焼結する際に大気中の酸素又は酸化珪素が有する酸素と反応して酸化される傾向を有する。このため、原料粉末に用いる金属又は合金としては、若干の酸化が起きても導電性を維持できる材料か、酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる材料を用いることが好ましい。
【0068】
若干の酸化が起きても導電性を維持できる金属や合金としては、例えば、アルミニウム、珪素、銅、銀、ニッケル、クロム、金、白金、インジウム、錫、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、及びこれら金属の合金から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。これら金属や合金のうち、アルミニウムを例にとって説明すると、アルミニウムはAlとなるまで酸化が進むと絶縁性となるが、アルミニウムに対する酸素の導入量を少なく制御することによって導電性を維持することができる。したがって、若干の酸化が起きても導電性を維持できる金属や合金を用いる場合には、加熱または焼結の際の温度や雰囲気等の各種条件を制御することにより蒸発源材料に含まれる導電性材料の導電性を確保することができる。上記金属や合金のうち、導電性の観点から好ましいのは、金、銀、銅、白金、インジウム、錫、亜鉛、及びこれら金属の合金であり、コストの観点から好ましいのは、アルミニウム、錫、亜鉛である。
【0069】
酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる金属や合金としては、インジウム、亜鉛、錫、セリウム、及びこれら金属の合金を挙げることができる。これら金属や合金のうち亜鉛を例に取って説明すると、亜鉛はそれ自体導電性を有するが酸化物である酸化亜鉛(ZnO)も導電性を有するために、特に酸化の度合いを制御しなくても、加熱または焼結によって得られる蒸発源材料に含まれる導電性材料の導電性を確保することができる。したがって、こうした金属や合金を用いる場合には、これら材料の酸化度合いを制御しなくてもよい。上記材料のうち、導電性の観点から好ましいのは、インジウム、亜鉛、錫、及びこれら金属の合金であり、コストの観点から好ましいのは、亜鉛及び亜鉛の合金である。
【0070】
これに対して、原料粉末を造粒して所定形状に加工して蒸発源材料を得る場合には、金属や合金の酸化を考慮しなくてもよい場合がある。例えば、加熱または焼結することなくプレス等の方法により造粒を行う場合には、上記の酸化の影響を抑制することができる。また、加熱または焼結を行う場合においても、不活性ガス下や真空下で加熱または焼結を行えば、上記の酸化の影響を抑制することができる。このため、若干の酸化が起きても導電性を維持できる材料、又は酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる材料といった考慮をすることなく様々な材料を用いることができる。こうした材料としては、具体的には、上記例示した金属及び合金を用いればよい。
【0071】
次に、導電性材料として導電性化合物を用いる場合について説明する。導電性化合物としては、好ましくは、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つを挙げることができる。なお、金属酸化物や金属窒化物には2種以上の金属元素の酸化物や窒化物である複合酸化物や複合窒化物も含まれる。これは金属酸窒化物の金属元素についても同様である。こうした導電性化合物は、酸化及び/又は窒化されて化学的に安定な状態となっている場合がほとんどなので、蒸発源材料の製造時の加熱または焼結によって酸化されにくく、導電性を維持したまま酸化珪素中に存在しやすくなるので蒸発源材料の組成の制御も行いやすくなる。導電性化合物としては、導電性の安定性の観点から、好ましくは、インジウム、亜鉛、錫、及びセリウムから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物を用い、より好ましくは、インジウム、亜鉛、及び錫から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物、窒化物、酸窒化物を用いる。より具体的には、こうした導電性化合物として酸化亜鉛及び/又は酸化錫を用いることが好ましい。これにより、蒸発源材料がイオン化されやすく、それ自体が持つエネルギーが大きくなるためにイオンプレーティングの際のポリエステル基材に対する熱負荷がより大きい傾向となるため、その結果、メラミン系樹脂を含有する有機層を用いる意義が大きくなる。
【0072】
以上説明した導電性材料のうち、原料粉末を加熱または焼結して蒸発源材料を製造する場合に、酸化の進行度合いを制御しなくてもよく、得られる蒸発源材料の組成制御も行いやすく工業生産に適しているという観点からは、酸化が進んだ場合においても導電性を維持できる金属や合金、又は導電性化合物を用いることが好ましい。
【0073】
蒸発源材料は、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物であればよく、平均粒径が5mm以上であることが好ましい。平均粒径の上限は特に限定されない。したがって、2mm程度の塊状粒子であってもよいし、例えば平均粒径が10mm、50mm等の大きな塊状物であってもよい。平均粒径を2mm以上としたのは、2mm未満では粒子が細かくてイオンプレーティング装置内でのプラズマ照射時の衝撃により蒸発源材料が飛散しやすく、また、装置のボート(ハース)内に入れる際の取り扱いにも手間がかかる傾向となることによる。平均粒径の上限は特に限定されないが、強いて例示すれば200mm程度である。平均粒径の上限は、蒸着装置の材料投入部(ハース)に収納される程度の大きさであれば特に制限はない。また、蒸発源材料の粒子の形態も制限されない。なお、塊状粒子又は塊状物にするための圧縮成形又は造粒については、後述する各種の方法を適用できる。なお、この蒸発源材料の「平均粒径」も上記原料粉末の平均粒径と同様、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。
【0074】
酸化珪素粉末の構成元素と導電性材料粉末の構成元素は、通常、2次粒子の状態で蒸発源材料内に均一に分布し、その結果、導電性材料粉末の構成元素の作用により、プラズマが集中的に照射され、導電性材料を介して蒸発源材料の内部までプラズマが浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率的に行われることにより成膜される無機層のガスバリア性が高くなりやすくなる。その一方で、ポリエステル基材に対する熱負荷が大きくなるので、ポリエステル基材を保護するための有機層を用いる必要が出てくる。
【0075】
<蒸発源材料の製造方法>
蒸発源材料として酸化珪素及び導電性材料を含有するものを用いる場合、蒸発原材料は、通常、原料粉末としての酸化珪素粉末と導電性材料粉末との混合物を造粒又は圧縮成型して所定形状に成形し、このようにして成形された原料粉末を加熱又は焼結することによって得ることができる。
【0076】
酸化珪素粉末の性状は、通常、粉末状であり、平均粒径100μm以下、好ましくは5μm以下の粉末である。ここで、本発明において「平均粒径」とは、所定量(例えば1g)の粉末を粒度分布計(コールターカウンター法)で測定した結果で表したものである。また、酸化珪素粉末は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0077】
導電性材料粉末の性状は、通常、粉末状であり、平均粒径100μm以下、好ましくは5μm以下の粉末である。ここでの平均粒径も上記同様の測定方法で測定した結果で表される。また、導電性材料粉末は、若干の不純物や他の元素を含んでいてもよいが、通常99.9%以上の純度を有するものを用いる。
【0078】
蒸発源材料を製造するための原料粉末においては、酸化珪素粉末の平均粒径と導電性材料粉末の平均粒径は、両方とも通常100μm以下、好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下とする。この範囲内の酸化珪素粉末及び導電性材料粉末を用いれば、粉末材料同士の混合が容易となり、分散むらのない原料粉末を得ることができる。こうした原料粉末を圧縮成形又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造すれば、単位体積あたりの小領域に微細な酸化珪素と、微細な導電性材料とが均一に存在しやすくなり、個々の粉末はイオンプレーティング装置内で発生するプラズマに容易に被爆することができる。特に蒸発源材料中において、酸化珪素内に導電性材料が存在しているので、その導電性材料の作用により、プラズマガンから照射されるプラズマが蒸発源材料に集中的に照射される。加えて、酸化珪素中に導電性材料が均一に混ざるように存在しているので、成膜時に照射されるプラズマが導電性材料を介して蒸発源材料内部まで浸透しやすくなり、蒸発源材料の励起が効率よく行われ、その結果、成膜される無機層のガスバリア性が著しく向上しやすくなる。そして、その際にポリエステル基材に熱負荷がかかるために、有機層でポリエステル基材を保護する必要がある。
【0079】
なお、平均粒径の下限は特に限定されないが、好ましくは0.2μmである。平均粒径を0.2μm以上とすれば、粉末材料同士を混合する際や圧縮成形又は造粒時等に飛散が起こりにくくなり生産性が向上するという利点が発揮されやすくなる。
【0080】
一方、酸化珪素粉末及び導電性材料粉末の一方又は両方が平均粒径100μmを超えると、粉末材料同士を混合しても分散が十分に起こりにくくなる。そのため、得られた原料粉末を圧縮成形又は造粒してイオンプレーティング用蒸発源材料を製造した場合であっても、単位体積あたりの小領域に微細な酸化珪素と、導電性材料とが均一に存在しにくくなり、上述した導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射、及び導電性材料を介した蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用を得にくくなり、その平均粒径が大きくなるにしたがって蒸発源材料の励起が不十分となる場合がある。
【0081】
蒸発源材料の原料粉末は、好ましくは、酸化珪素粉末を主体とするものである。これは、酸化珪素粉末は安価な材料なので原料粉末、蒸発源材料、及びガスバリア性シートの低コスト化が可能となり、食品分野のように包装用材料の厳しいコスト削減が求められる分野に好適に用いることができるからである。そして、蒸発源材料の原料粉末においては、導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射、及び導電性材料を介した蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用を奏し、無機層のガスバリア性を改善するために所定量の導電性材料粉末を用いている。こうした観点から、原料粉末中の導電性材料粉末の含有量は、酸化珪素粉末100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは70質量部以下とする。この範囲内の導電性材料粉末を含む混合粉末でイオンプレーティング用蒸発源材料を作製し、その蒸発源材料を用いてイオンプレーティングを行えば、上述した導電性材料の存在によるプラズマの集中的な照射と、導電性材料を介しての蒸発源材料内部までのプラズマの浸透の作用が良好に奏され、蒸発源材料の励起が効率的に行われ、ガスバリア性の高い無機層を得やすくなる。その一方で、ポリエステル基材への熱負荷が大きくなるために、有機層を用いてポリエステル基材を保護する必要がある。
【0082】
酸化珪素粉末100質量部に対して導電性材料粉末の含有量を5質量部未満とすると、導電性材料の添加効果(すなわちプラズマの集中的な照射とプラズマの蒸発源材料内部への良好な浸透)が生じにくくなることがあり、また、100質量部を超えると、得られた無機層が例えば褐色に着色したり硬くなったりすることが多いので、無機層を透明部材に形成する場合やガスバリア性シートの柔軟性を確保したいような場合には上限を100質量部とすればよい。
【0083】
酸化珪素粉末は、後述するイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法において造粒方法を用いる場合、その比表面積が600m/g以上の粉末とすることが好ましい。酸化珪素粉末の比表面積を600m/g以上とすることにより、混合する導電性材料粉末を吸着しやすく、Si−Oネットワーク内にSiと導電性材料とのネットワークを良好に組み込みやすくなる。例えば同じ体積の酸化珪素の粉末であっても、比表面積が600m/g以上の粉末を用いれば、1次粒子の官能基(シラノール基)が多くなっており、吸着サイトが多くなる。酸化珪素粉末の比表面積を600m/g未満とすると、導電性材料粉末に対する吸着性が不十分となりやすく、Si−Oネットワーク内にSiと導電性材料とのネットワークを良好に組み込みにくくなる場合がある。また、酸化珪素粉末の比表面積を600m/g未満とすると、造粒をしても固まりにくく、蒸発源材料を所望の塊状粒子又は塊状物にすることができないことがある。本発明において比表面積は、所定量(例えば1g)の粉末を自動比表面積測定装置(窒素吸着法、BETの式)で求めた値で評価した。
【0084】
このとき、Siと導電性材料とのネットワークがSi−Oネットワークに良好に組み込まれたか否かの評価は、イオンプレーティング法によって得られた無機層の膜質を測定し、導電性材料又は導電性材料を構成する元素が無機層内に均一に分布しており、かつその無機層が緻密であることから確認できる。なお、酸化珪素粉末の好ましい比表面積は800m/g以上であり、その上限は特に限定されないが1000m/g程度のものまで使用可能である。
【0085】
他方、後述するイオンプレーティング用蒸発源材料の製造方法において例えばCIPプレス等の圧縮成形方法を用いる場合、酸化珪素粉末の比表面積を1乃至60m/gの粉末とすることが好ましい。酸化珪素粉末の比表面積を1乃至60m/gとすることにより、圧縮成形により所定形状のイオンプレーティング用蒸発源材料を容易に形成することができる。
【0086】
蒸発源材料は、通常、上記原料粉末を準備する工程と、その原料粉末を圧縮成形又は焼結して所定形状を有するイオンプレーティング用蒸発源材料を成形する工程とを経て製造される。
【0087】
原料粉末を準備する工程では、上記説明した原料粉末として、平均粒径が好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm以下の酸化珪素粉末100質量部と、平均粒径が好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm以下の導電性材料粉末5質量部以上100質量部以下とを含有する原料粉末を準備する。準備される原料粉末は、例えば導電性材料粉末が酸化珪素粉末100質量部に対して5質量部以上100質量部以下で含有された原料粉末を、例えばミキサー等の混合手段によって混合されたものである。
【0088】
所定形状を有するイオンプレーティング用蒸発源材料を成形する工程は、特に制限はないが、原料粉末を構成する酸化珪素粉末と導電性材料粉末とを圧縮成形又は造粒させて平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物に加工する工程を含むことが好ましい。これにより、得られる蒸発源材料の蒸発時の飛散を防ぎやすくなる。さらに、所定形状を有するイオンプレーティング用蒸発源材料を成形する工程は、酸化珪素粉末と導電性材料粉末とを圧縮成形又は造粒させて塊状粒子又は塊状物に加工する工程の後、このようにして圧縮成形又は造粒させた塊状粒子又は塊状物を加熱または焼結する工程を更に含むことが好ましい。
【0089】
圧縮成形手段としては、例えば、原料粉末を所定形状に圧縮成形するものであり、具体的には、金型プレス、CIPプレス(静水圧プレス)、RIPプレス(ラバープレス)等の従来公知の各種の方法を適用できる。このうちCIPプレスを用いることが最も好ましい。また加熱または焼結する手段としては、その圧縮成形体を構成粉末の溶融温度よりも低い温度に加熱して粉体同士が結合するようにする、一般的な加熱または焼結手段を適用できる。
【0090】
加熱または焼結する温度は、好ましくは500℃以上、より好ましくは750℃以上、また、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1200℃以下の任意の温度とすることができる。この範囲内で加熱または焼結することにより、原料粉末中からの脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物にすることができる。なお上記温度は、このような焼結を生じさせる焼結温度以上の温度であっても良いが、焼結温度を下回る加熱温度で加熱し、焼結を生じさせることなく脱ガスを行っても良い。
【0091】
また、造粒手段としては、撹拌造粒、流動層造粒、押出造粒等の造粒方法を適用することもできる。具体的には、撹拌造粒とは、原料粉末を容器に入れ撹拌しながら液体の結着剤を添加して粉末を凝集させ、これを乾燥させる操作で、球形に近い塊状粒子を得る方法であり、流動層造粒法とは、原料粉末を入れた容器に下から熱風を送り粉末が空中にやや浮いた状態で結着剤を吹き付け、粉末を凝集乾燥させる操作で、比較的かさ高い塊状粒子を得る方法であり、押出造粒とは、原料粉末の湿塊を小孔から円柱状に押し出したのち乾燥させる操作で、比較的密度の高い塊状粒子を得る方法である。こうした造粒手段は通常結着剤を利用するが、その場合には、造粒後に例えば500℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成して結着剤を除去するのが一般的である。また、結着剤を使用しない場合にも、例えば500℃以上1500℃以下の任意の温度で加熱焼成する。これらの加熱焼成により、脱ガスを十分に行うことができると共に、平均粒径が2mm以上の塊状粒子又は塊状物を形成しやすくなる。
【0092】
原料粉末を圧縮成形又は造粒する際に、結着剤(バインダー)を利用する場合の代表例としては、デンプン、小麦蛋白、セルロース等を挙げることができるが、それ以外のものであっても構わない。こうした結着剤は、圧縮成形又は造粒を行った後に加熱焼成により除去されるのが一般的である。
【0093】
<イオンプレーティングによる無機層の形成>
無機層は、イオンプレーティングにより、上記説明した蒸発源材料を有機層上に付着させて形成される。イオンプレーティングの具体的な方法は従来公知のものを適宜用いればよい。
【0094】
図1は、イオンプレーティング装置の一例を示す構成図であり、詳しくは、後述の実施例で使用したホローカソード型イオンプレーティング装置の構成図である。図1に示すホローカソード型イオンプレーティング装置101は、真空チャンバー102と、このチャンバー102内に配設された供給ロール103a、巻き取りロール103b、コーティングドラム104と、バルブを介して真空チャンバー102に接続された真空排気ポンプ105と、仕切り板109,109と、その仕切り板109,109で真空チャンバー102と仕切られた成膜チャンバー106と、この成膜チャンバー106内の下部に配設された坩堝107と、アノード磁石108と、成膜チャンバー106の所定位置(図示例では成膜チャンバーの右側壁)に配設された圧力勾配型プラズマガン110、収束用コイル111、シート化磁石112、圧力勾配型プラズマガン110へのアルゴンガスの供給量を調整するためのバルブ113と、成膜チャンバー106にバルブを介して接続された真空排気ポンプ114と、酸素ガスの供給量を調整するためのバルブ116とを備えている。なお、図示のように、供給ロール103aと巻き取りロール103bはリバース機構が装備されており、両方向の巻き出し、巻き取りが可能となっている。
【0095】
このようなイオンプレーティング装置101を用いた無機層の形成は以下のように行われる。先ず、真空チャンバー102、成膜チャンバー106内を、真空排気ポンプ105,114により所定の真空度まで減圧し、次いで、成膜チャンバー106内に酸素ガスを所定流量導入し、真空排気ポンプ114と成膜チャンバー106との間にあるバルブの開閉度を制御することにより、チャンバー106内を所定圧力に保ち、基材フィルムを走行させ、アルゴンガスを所定流量導入した圧力勾配型プラズマガン110にプラズマ生成のための電力を投入し、アノード磁石108上の坩堝107にプラズマ流を収束させて照射することにより蒸発源材料を蒸発させ、高密度プラズマにより蒸発分子をイオン化させて、有機層上に所定の無機層を形成する。
【0096】
<無機層>
以上のようにして形成される無機層の厚さは、使用する無機化合物によっても異なるが、ガスバリア性確保の見地から、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、クラック等の発生を抑制する見地から、通常5000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。また、無機層は1層であってもよいし、合計厚さが上記範囲内となる2層以上の無機層であってもよい。2層以上の無機層の場合には、同じ材料同士を組み合わせてもよいし、異なる材料同士を組み合わせてもよい。
【0097】
(その他の工程)
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法においては、有機層ポリエステル積層基材を準備する工程及び無機層を形成する工程以外の工程を適宜設けてもよい。こうした工程としては、例えば、任意の層を形成する工程を挙げることができる。任意の層としては、本発明の特徴を阻害しない範囲で、例えば、従来公知のプライマー層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。これら各層の形成方法は、従来公知の方法を適宜用いればよい。
【0098】
以上説明した、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法においては、有機層ポリエステル積層基材を準備する工程及び無機層を形成する工程を行うので、イオンプレーティング成膜の際の熱負荷によるポリエステル基材からのオリゴマーの析出を抑制してガスバリア性フィルムのガスバリア性を高いレベルで確保することができるようになる。
【0099】
[ガスバリア性フィルム]
図2は、本発明に係るガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。ガスバリア性フィルム10は、上記説明した本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法によって製造されたものである。ガスバリア性フィルム10は、図2に示すように、ポリエステル基材1と、ポリエステル基材1上に設けられた有機層2と、その有機層2上に設けられた無機層3とを有する。無機層3は、イオンプレーティング法によって蒸発源材料を有機層2上に体積させることによって形成され、有機層2は、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有している。
【0100】
ポリエステル基材1のガラス転移温度は100℃以下であることが好ましい。その理由は既に説明したとおりである。
【0101】
無機層3を形成するための蒸発源材料は、酸化珪素100質量部と、導電性材料5質量部以上100質量部以下とを含有することが好ましい。また、導電性材料として、金属、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましく、導電性材料が、酸化亜鉛及び/又は酸化錫であることがさらに好ましい。これらの態様が好ましい理由はすでに説明したとおりである。
【0102】
ガスバリア性フィルム10は、上述のとおり、基材1、有機層2、及び無機層3で構成されているが、例えば、これら以外の層を有機層2と無機層3との間に適宜挿入したり、プラスチック基材1の有機層2が形成されていない側の面S2に積層したり、無機層3上に積層したりしてもよい。任意の層としては、本発明の特徴を阻害しない範囲で、例えば、従来公知のプライマー層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0103】
こうして構成された本発明に係るガスバリア性フィルム10は、良好なガスバリア性を有するものとなる。
【0104】
[装置]
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法によって得られたガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を必要とする種々の装置に使用することができる。こうした装置の例としては、例えば表示装置又は発電装置を挙げることができる。本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法によれば、良好なガスバリア性を示すガスバリア性フィルムが得られるので、高いガスバリア性が要求される装置を提供できる。より具体的には、装置の品質特性を低下させる水蒸気等のガス成分の影響を低減できる。
【0105】
表示装置としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、タッチパネル、電子ペーパー等を挙げることができる。また、これらの表示装置をアクティブマトリックス駆動する薄膜トランジスタも、この表示装置に含まれる。なお、これら各表示装置の構成は特に限定されず、それぞれ従来公知の構成を適宜採用することができ、且つそうした各表示装置に適用するガスバリア性フィルムによる封止手段も特に限定されず、従来公知の手段とすることができる。
【0106】
具体的には、例えば、有機EL素子としては、本発明に係るガスバリア性フィルム上に陰極と陽極を有し、両電極の間に、有機発光層(単に「発光層」ともいう。)を含む有機層を有するものを挙げることができる。発光層を含む有機層の積層態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。さらに、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。また、陽極と正孔輸送層との間に正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間に電子注入層を有してもよい。また、発光層は一層だけでもよく、また、第一発光層、第二発光層及び第三発光層等のように発光層を分割してもよい。さらに、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。なお、有機EL素子は発光素子であることから、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0107】
発電装置としては、例えば、太陽電池素子(太陽電池モジュール)を挙げることができる。発電装置の構成は特に限定されず、従来公知の構成を適宜採用することができる。さらに、そうした発電装置に適用するガスバリア性フィルムによる封止手段も特に限定されず、従来公知の手段とすることができる。例えば、ガスバリア性フィルムを太陽電池素子の裏面保護シートとして用いることができる。
【0108】
具体的には、例えば、太陽電池モジュールとしては、ガスバリア性フィルムを太陽電池バックシートとして使用した例を挙げることができる。こうした太陽電池モジュールは、太陽光側から厚さ方向に順に、前面基材(ガラス又はフィルム等の高光線透過性を有するもの)、充填材、太陽電池素子、リード線、端子、端子ボックス、太陽電池バックシートの構成で、それらがシール材を介して両端の外装材(アルミ枠等)に固定されている。その太陽電池バックシートとしては、裏面封止用フィルムと、外層側に配置されるフィルムとの間に、ガスバリア性シートを挟んで構成される例を挙げることができる。裏面封止用フィルムとしては、太陽電池モジュール側で太陽光を反射して電換効率を高めるべく、高度な反射率を有する例えば白色のポリエステルフィルム等が使用される。また、外層側に配置されるフィルムとしては、耐候性、耐加水分解性フィルム等が使用される。
【実施例】
【0109】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0110】
[実施例1]
<有機層ポリエステル積層基材を準備する工程>
有機層ポリエステル積層基材として、厚さ125μmのポリエステルフィルム(三菱樹脂株式会社製、O321E(W76−))を準備した。このポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル基材を使用している。そして、ポリエステル基材の両面に、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分が含有された有機層が形成されている。
【0111】
有機層の成分を表1に示す。表1の結果は、有機層をFT−IRおよび熱GC−MSによって組成分析した結果である。
【0112】
FT−IRの測定条件は以下のとおりとした。
【0113】
分析試料の作製:1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)とクロロホルムの混合溶媒を用いてPETフィルムを溶解し、溶液中に浮遊する不溶成分(有機層)を回収した。この不溶成分を再度HFIP洗浄し、FT−IR分析した。
・分析装置:VARIAN7000FT−IR/600UMA
・測定範囲:4000−600cm−1
・分解能:4cm−1
・積算回数:64
【0114】
熱分解GC−MSの測定条件は以下のとおりとした。
【0115】
分析試料の作製:1,1,1,3,3,3,−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)とクロロホルムの混合溶媒を用いてPETフィルムを溶解し、溶液中に浮遊する不溶成分(有機層)を回収した。この不溶成分を再度HFIP洗浄し、熱分解用金属ボードに入れ、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を加えた後、熱分解GC−MS分析した。
【0116】
熱分解;
・分析装置:フロンティア・ラボ製シングルショットパイロライザー、PY−2020is
・加熱炉温度:600℃
【0117】
GC−MS;
・分析装置:HP6890/5973−GC/MS
・カラム:UltraALLOY−1(長さ:30m,内径:0.25mm,膜厚:0.25μm)
・オーブン温度:40℃−15℃/分−320℃
・注入口温度:320℃
・スプリット比:1/50
・加熱雰囲気:He
【0118】
【表1】

【0119】
<無機層を形成する工程>
二酸化珪素粉末であるSiO粉末(東ソーシリカ製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:2μm、自動比表面積測定装置で窒素吸着法・BETの式で測定された比表面積:800m/g)を100質量部に対し、導電性材料である酸化鉛(ZnO)粉末(高純度化学製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:0.5μm、JIS−K7194準拠4探針法で測定された体積抵抗率が10Ω・cm)を30質量部加えて混合した。
【0120】
この原料粉末に、バインダー溶液として、2%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、10mmφの球状体を得た。その後、焼成炉に入れ、1000℃で1時間保持し、平均粒径7mmφの塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。
【0121】
得られた蒸発源材料の質量割合をX線分光分析装置(XPS/ESCA)により測定した結果、二酸化ケイ素100質量部に対して、酸化亜鉛の質量割合は30質量部であり、原料粉末の混合割合とほぼ一致していた。
【0122】
次に、上記有機層ポリエステル積層基材を、ホローカソード型イオンプレーティング装置にセットした。さらに、上記製造した蒸発源材料を、ホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することで磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は溶融状態を経て昇華することが確認された。イオンプレーティングを5秒間(蒸着レート:360nm/min)行って基板に堆積させることにより、膜厚50nmのSiOZn層を形成した。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略であり、以下の実施例、比較例においても同様である。
【0123】
<ガスバリア性フィルム>
以上のようにして得たガスバリア性フィルムの層構成は、ポリエステル基材/有機層/無機層である。
【0124】
<水蒸気透過率の測定>
以上のようにして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率の測定を行った。測定は、測定温度;37.8℃、湿度;100%RHの条件下で、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製 PERMATRAN−W 3/31)を用いて行った。結果を表2に示す。
【0125】
[実施例2]
酸化亜鉛粉末であるZnO粉末の含有量を15質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0126】
[実施例3]
酸化亜鉛粉末であるZnO粉末の含有量を60質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0127】
[実施例4]
無機層を形成する工程を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0128】
<無機層を形成する工程>
二酸化珪素粉末であるSiO粉末(東ソーシリカ製、粒度分布計・コールターカウンター法で測定された平均粒径:0.5μm、自動比表面積測定装置で窒素吸着法・BETの式で測定された比表面積:6.8m/g)を100質量部に対し、導電性材料である酸化錫(SnO)粉末を30質量部加えて混合した。
【0129】
この原料粉末に、バインダー溶液として、3%セルロース水溶液を滴下しながら原料粉末を回転させて、一晩撹拌した。次に、この原料粉末を乾燥し、その後乳鉢を用いて粉末形状に形成した。続いて、この粉末を62mm角の金型に入れ、0.2t/cmの圧力でプレス成形した。その後、このようにしてプレス成形された成形体を真空パックし、1.3t/cmの圧力でCIPプレス方法により圧縮成形した。その後、このようにして得られた圧縮成形体を焼成炉に入れ、500℃で24時間保持し、50mm角の塊状物からなるイオンプレーティング用蒸発源材料を得た。
【0130】
得られた蒸発源材料の質量割合をX線分光分析装置(XPS/ESCA)により測定した結果、二酸化珪素100質量部に対して、酸化錫の質量割合は30質量部であり、原料粉末の混合割合とほぼ一致していた。
【0131】
次に、実施例1と同様のポリエステル積層基材(厚さ125μmのポリエステルフィルム(三菱樹脂株式会社製、O321E(W76−)))を、ホローカソード型イオンプレーティング装置にセットした。さらに、上記製造した蒸発源材料を、ホローカソード型イオンプレーティング装置内の坩堝に投入した後、真空引きを行った。真空度が5×10−4Paまで到達した後、プラズマガンにアルゴンガスを15sccm導入し、電流110A、電圧90Vのプラズマを発電させた。チャンバー内を1×10−3Paに維持することで磁力によりプラズマを所定方向に曲げ、蒸発源材料に照射させた。坩堝内の蒸発源材料は溶融状態を経て昇華することが確認された。イオンプレーティングを5秒間(蒸着レート:360nm/min)行って基板に堆積させることにより、膜厚90nmのSiOSn層を形成した。
【0132】
[実施例5]
酸化錫粉末であるSnO粉末の含有量を15質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例4と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0133】
[実施例6]
酸化錫粉末であるSnO粉末の含有量を60質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例4と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0134】
[実施例7]
酸化亜鉛粉末であるZnO粉末の含有量を2質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0135】
表2の結果からわかるように、他の実施例と比較してガスバリア性が劣る結果となっている。これは、有機層を設けたことにより、ポリエステル基材からのオリゴマーの析出は抑制される効果は奏されるものの、蒸着原材料への導電性材料の含有量が少ないために無機層の膜質改善が不十分であるからと考えられる。
【0136】
[実施例8]
酸化亜鉛粉末であるZnO粉末の含有量を100質量部として蒸発源材料を得たこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0137】
表2の結果からわかるように、他の実施例と比較してガスバリア性が劣る結果となっている。これは、有機層を設けたことにより、ポリエステル基材からのオリゴマーの析出は抑制される効果は奏されるものの、蒸着原材料を導電性材料100質量部としたために、ガスバリア性に寄与する無機層中の二酸化珪素の含有量が少なくなったためと考えられる。
【0138】
[比較例1]
有機層ポリエステル積層基材を準備する工程を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0139】
<有機層ポリエステル積層基材を準備する工程>
有機層ポリエステル積層基材として、厚さ100μmのポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、HLEW)を準備した。このポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるポリエステル基材を使用している。もっとも、ポリエステル基材の両面に形成された有機層には、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分が含有されていない。
【0140】
有機層の成分表を表1に示す。表1から、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分が有機層中に存在しないことがわかる。なお、有機層の組成の分析は、FT−IRおよびH−NMR分析によって行った。
【0141】
FT−IRの測定条件は以下のとおりとした。
【0142】
分析試料の作製:アセトン(和光純薬アセトン300)を用いてPETフィルムを抽出し、アセトンに溶解した成分(有機層)を回収した。この溶解成分をFT−IR分析した。
・分析装置:VARIAN7000FT−IR/600UMA
・測定範囲:4000−600cm−1
・分解能:4cm−1
・積算回数:64
【0143】
H−NMRの測定条件は以下のとおりとした。
【0144】
分析試料の作製:アセトン(和光純薬アセトン300)を用いてPETフィルムを抽出し、アセトンに溶解した成分(有機層)を回収した。この溶解成分を重水素クロロホルムに溶解し、H−NMR分析した。
・分析装置:JEOL製 ECX−400P型 核磁気共鳴装置
・測定核:H(400MHz)
・POINT:64K
・パルスシーケンス:シングルパルス
・パルスアングル:9.0sec(45°)
・繰り返し時間:10.0sec
・積算回数:512回
・溶媒:CDCI3
・濃度:約9mg/0.5mL
・設定温度:55℃
・ケミカルシフト基準:TMS=0.00ppm
【0145】
[比較例2]
有機層ポリエステル積層基材を準備する工程を比較例1のようにしたこと以外は、実施例3と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0146】
[比較例3]
有機層ポリエステル積層基材を準備する工程を比較例1のようにしたこと以外は、実施例4と同様にしてガスバリア性フィルムを製造した。こうして得たガスバリア性フィルムにつき、水蒸気透過率を実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0147】
【表2】

【0148】
実施例1、3、4、比較例1〜3の結果が示すように、有機層の組成によって水蒸気透過率が異なる結果となる。そして、実施例1〜6に示すように、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層ポリエステル積層基材をイオンプレーティング用蒸着ポリエステルフィルムとして用いた場合は、水蒸気透過率が小さくなることがわかる。
【0149】
[参考実験]
上記実施例、比較例で使用した2種類の有機層ポリエステル積層基材をそれぞれ加熱して有機層表面へのオリゴマーの析出を観察した。具体的には、厚さ125μmのポリエステルフィルム(三菱樹脂株式会社製、O321E(W76−))及び厚さ100μmのポリエステルフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、HLEW)の両者を下記加熱条件で加熱した。その後、フィルム表面を、走査型電子顕微鏡(SEM:S−4500 株式会社日立製作所製)で観察した。
加熱条件:100℃、20時間
Clean Oven DTS82H(ヤマト科学株式会社製)使用
【0150】
観察結果を図3に示す。図3からわかるように、100℃で20時間加熱することにより、いずれのフィルム(PETフィルム)においてもオリゴマー析出が確認された。もっとも、有機層の組成によってオリゴマー析出量は異なり、析出量はHLEWよりO321E(W76−)の方が少なかった。この結果から、ポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を有する有機層を設けたポリエステルフィルムにおいてはオリゴマー析出が抑制されることが確認された。
【符号の説明】
【0151】
1 ポリエステル基材
2 有機層
3 無機層
10 ガスバリア性フィルム
S1 ポリエステル基材の片面
S2 ポリエステル基材の他の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル基材の少なくとも一方の面にポリエステルとメラミンとが架橋してなる成分を含有する有機層が形成された有機層ポリエステル積層基材を準備する工程と、
イオンプレーティングにより前記有機層に蒸発源材料を付着させて無機層を形成する工程と、
を有することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記蒸発源材料が、酸化珪素100質量部と、導電性材料5質量部以上100質量部以下とを含有する、請求項1に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記導電性材料が、金属、導電性を有する金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物から選ばれる少なくとも1つである、請求項2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料が、酸化亜鉛及び/又は酸化錫である、請求項2又は3に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステル基材のガラス転移温度が100℃以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−153952(P2012−153952A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14674(P2011−14674)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】