説明

ガスバリア性フィルム

【課題】
優れた酸素及び水蒸気遮断性能およびボイル・レトルト処理などの加熱殺菌処理に対する耐性および耐酸性をも併せて有するガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】
プラスチックフィルムの少なくとも一面に、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、樹脂層を積層したガスバリア性フィルムであって、その樹脂層は、20〜70重量%の水酸基を有する不飽和化合物と、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物との共重合体で構成される主剤と、イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤とで構成されるアクリル系樹脂と、0.0010〜0.10g/mの酸無水物から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた酸素及び水蒸気遮断性能およびボイル・レトルト処理などの加熱殺菌処理に対する耐性および耐酸性をも併せて有するガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコーティングをしないタイプの蒸着層のみのフィルムや、コーティングを実施しているタイプのフィルムにて酸性の内容物を取り扱う場合、酸性内容物を充填後、レトルト処理などを行った後のガスバリア性、密着性の低下が著しく、酸性内容物を充填、レトルト殺菌処理などを実施しても密着力の低下がなく、かつガスバリア性の低下のないものが強く望まれてきた。
【0003】
耐酸性を付与する方法として、耐酸性を持つ接着剤などの方法が開示されている(特許文献1)が、ガスバリア性の劣化抑制については、十分ではなく、密着力とガスバリア性の両立については不十分であった。
【0004】
また、酸性物を内容物とした加熱殺菌処理を行っても、蒸着層の本来持つ遮光性や酸素バリア性が維持される方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、内容物の水分蒸発を抑制する水蒸気バリア性については十分ではなかった。
【0005】
無機酸化物からなる蒸着原反にコーティングすることにより、耐酸ガスバリア性が付与された蒸着フィルムを提供する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、密着力の保持については十分に抑制されていない。
【0006】
上述のいずれの方法を実施しても酸性の内容物を充填し、レトルト処理などの殺菌処理を行った後の密着強度の維持およびガスバリア性の保持については、いずれも十分なものではなかった。
【特許文献1】特開昭61−47775号公報
【特許文献2】特開2005−178100号公報
【特許文献3】特開2006−273982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸性内容物充填後のボイル・レトルト処理などの熱水殺菌処理に対して、酸素及び水蒸気などのガスバリア性の劣化および密着力の劣化が少ないガスバリア性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、ポリエステルフィルムからなる基材の少なくとも一面に、無機化合物で構成される蒸着層と、ガスバリア層とが順次積層されているガスバリア性フィルムであって、前記樹脂層はアクリル系樹脂と、0.0010〜0.10g/mの酸無水物から構成されるガスバリア性フィルムとすることで、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた酸素バリア性および水蒸気バリア性にとどまらず、ボイル・レトルト処理など熱水殺菌処理に対する耐性、耐酸性をも有するガスバリア性フィルムが得られる。また、本発明のガスバリア性フィルムは、塩素等のハロゲンを含まない。さらに、本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア層形成時に高温での熱処理を必要としない。この結果、安価なコストで生産が可能であり、複雑な生産工程を経ないために生産適性にも優れるという特徴を有するガスバリア性フィルムを提供することができる。すなわち、本発明によれば、ガスバリア性が要求され、ボイル・レトルト処理工程を経る食品包装用フィルムとしても有用な使用用途の幅広いガスバリア性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは、プラスチックフィルムからなる基材の少なくとも一面に、無機化合物で構成される蒸着層と、樹脂層とが順次積層されているガスバリア性フィルムであって、前記樹脂層は、アクリル系樹脂と、0.001〜0.1g/mの酸無水物から構成されるガスバリア性フィルムとで構成される。
【0012】
本発明においては、無機化合物で構成される蒸着層上に樹脂層を設ける。この樹脂層が、蒸着層の不完全なガスバリア性を補うだけではなく、ガスバリア層を構成する樹脂が本来有するガスバリア性が機能する。この結果、格段にガスバリア性が向上する。
【0013】
ガスバリア性を有する樹脂の多くはポリマーの凝集力を高めるために極性基を含有する。このため、吸水性が見られることが多く、熱水殺菌処理耐性の発現を困難にする。本発明においては、熱水殺菌処理耐性を付与する目的で、特定の組成からなる樹脂組成物を用いてガスバリア層を形成する。これにより、吸水性の問題の解決に至った。
【0014】
すなわち、ガスバリア層の形成に用いる樹脂を特定の機能を発現する複数のモノマーから合成することで、ガスバリア性及び熱水殺菌処理耐性を発現させることができる。具体的には、本発明では、ガスバリア性を発現させるためのモノマーと、無機酸化物蒸着層と強固に密着すると共に熱水に対する耐性を有するモノマーとを共重合することで前記目的を達することができる。
【0015】
[基材]
本発明のガスバリア性フィルムにおいて、基材はプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリビニルアルコール、ナイロンフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムが好ましい。使用できるポリエステルとしては、例えば、ポリアルキレンテレフタレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど)、ポリアルキレンナフタレート(ポリエチレン−2,6−ナフタレートなど)などのホモ又はコポリアルキレンアリレート、液晶性ポリエステルなどが挙げられる。
【0016】
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、通常、延伸(一軸又は二軸)されている。延伸フィルムとしては、通常、二軸延伸フィルムを用いる場合が多い。延伸法としては、例えば、ロール延伸、圧延延伸、ベルト延伸、テンター延伸、チューブ延伸や、これらを組み合わせた延伸などの慣用の延伸法が適用できる。
【0017】
基材の厚みは、特に制限はないが、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、さらに好ましくは10〜30μm程度であるのが実用的である。
【0018】
[蒸着層]
本発明における蒸着層は無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される。蒸着層を無機酸化物もしくは無機窒化物とすることで、内容物の視認性が向上し、また使用後に廃棄され、焼却された時に焼却炉を痛めてしまう恐れもなくなる。さらに、アルミ箔等の無機物を積層した場合と比較すると、コスト面でも有利となり、また廃棄物とした際の重量も抑えることができる。使用できる無機酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化錫、酸化インジウム合金、酸化珪素、酸化窒化珪素等及びそれらの混合酸化物、無機窒化物としては窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化珪素等が例示できる。この中でも蒸着フィルムの加工コストやガスバリア性能等の面から酸化アルミニウム、酸化珪素および酸化窒化珪素が好ましい。蒸着方法は公知の方法を用いることができ、例えば真空蒸着やスパッタリング等が挙げられる。
【0019】
また、上記無機化合物を形成する際にインラインあるいはオフラインにて基材を事前に処理しておいても良い。前処理の方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などを用いて形成することができる。酸素ガス、Arなどの稀ガス、窒素ガス、炭酸ガス、空気の少なくとも1つあるいはこれらの混合ガスの雰囲気で、好ましくは0.1〜100Paの雰囲気で、高周波電源、直流電源、ハ゜ルス電源のすくなくともひとつの電源より供給された電流をマグネトロン電極のカソ−ド及びアノ−ド間で放電する。その際カソ−ドに金属蒸着層を構成する金属を用いる。金属としては、銅、クロム、ニッケル、錫、銀の少なくとも1つあるいはそれらの混合物である。カソ−ドにガス陽イオンが引き寄せられ、カソ−ド金属をスパッタする。そのスパッタされた金属がフィルムに付着し金属蒸着層を形成する。金属蒸着層の平均膜厚は、単位面積当たりの金属蒸着膜の重量をその金属の密度で割り返すことでえることができる。例えば、金属がアルミニウムの場合、単位面積当たりの重量が30ng/mのとき、これをアルミニウムの密度2.7g/cmで割り返すことにより平均膜厚0.11nmとなる。単位面積当たりの金属蒸着膜の重量は、原子吸光分光分析により求めることができる。すなわち、所定面積のサンプルを1規定の硝酸に所定時間以上浸漬して、金属を溶解し、原子吸光法で金属元素を定量する。金属蒸着層の平均膜厚は0.001〜1.0nmが好ましい。金属蒸着膜の平均膜厚が0.001nm未満となると密着力が十分に得られなくなるので0.001nm以上である事が好ましい。また、1.0nmを越えた場合、密着力が不十分となり好ましくない。
【0020】
[樹脂層]
本発明において、樹脂層は20〜70重量%の水酸基を有する不飽和化合物と、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物との共重合体で構成される主剤と、イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤とで構成されるアクリル系樹脂と、0.0010〜0.10g/mの酸無水物から構成される。
【0021】
[主剤]
本発明において、水酸基を有する不飽和化合物は、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシビニルエーテル、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等の不飽和化合物の単量体が挙げられる。これらの水酸基を有する不飽和化合物は単独で、または2種類以上組み合わせて選択することができる。これらの水酸基を有する不飽和化合物のうち、2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは2−ヒドロキシエチルメタクリレートが、良好な重合安定性が得られること、イソシアネート基との反応性が良好なことから好ましく、2−ヒドロキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
【0022】
水酸基を有する不飽和化合物成分の配合量は、共重合体中の20〜70重量%が好ましい。水酸基を含まない不飽和化合物成分の配合量が20重量%よりも少ない場合には共重合樹脂中に占める水酸基を含む不飽和化合物成分の相対量が減少し、ガスバリア性が十分に発現しない、架橋構造の不足に伴う塗膜強度や熱水処理耐性が不足するといった問題を生じる。一方、該成分の配合量が70重量%よりも多い場合には塗膜の造膜性が十分に良化せず、塗膜表面を平滑に、また塗膜を透明に仕上げることが困難となる。
【0023】
本発明において主剤を構成するもう一つの不飽和化合物成分は、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群のうち1つ以上の不飽和化合物である。
【0024】
使用できる不飽和カルボン酸エステルとしてはメチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルアクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
【0025】
使用できる不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0026】
使用できるその他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0027】
これらの成分のうち、好ましいのは、不飽和カルボン酸エステルである。不飽和カルボン酸エステルのうちメチルメタクリレート、メチルアクリレートが特に好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
【0028】
上記各成分を配合し、公知の技術を用いて共重合させて、共重合体を製造する。共重合体は、例えば酢酸プロピル−プロピレングリコールモノメチルエーテル−n−プロピルアルコール混合溶液などの溶剤に溶解させて、後述する硬化剤と混合する。共重合体と溶剤の配合比率には特に制限はなく、後述するガスバリア層を製造する方法に応じて適宜配合比率を調整すればよい。
【0029】
[硬化剤]
本発明では、硬化剤は、イソシアネート基を有する化合物である。イソシアネート基を有する化合物としては、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
使用できる芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、m−又はp−フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、4,4′−、2,4′−又は2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等が例示できる。
【0031】
使用できる芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,3−又は1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等が例示できる。
【0032】
使用できる脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート;IPDI)、4,4’−、2,4’−又は2,2’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−又は1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(水添XDI)等が例示できる。
【0033】
使用できる脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−、2,3−又は1,3−ブチレンジイソシアネート、2,4,4−又は2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が例示できる。
【0034】
さらに、上記例示したイソシアネート化合物と水酸基を有する化合物等との部分縮合物や各種誘導体の1種またはこれらの2種以上を用いてもよい。例えば、各種低分子量のジオールからオリゴマーまで幅広いジオール類や必要に応じて3官能以上のポリオール類との部分縮合物等が挙げられる。主剤として用いる共重合樹脂はそれを単独で塗布した場合、ガスバリア性は発現するものの塗膜強度や熱水処理耐性といった物性は得られない。そこで、主剤である共重合樹脂が側鎖として有する水酸基と反応するイソシアネート基を有する化合物を硬化剤として用いる。架橋剤の添加により、架橋構造が生成されるので、ガスバリア性、塗膜強度および熱水処理耐性といった物性を兼ね備えたガスバリア層が形成される。
【0035】
共重合体で構成される主剤と硬化剤の架橋反応生成物により形成されるガスバリア層のガスバリア性を考慮すると、これらのイソシアネート基を有する化合物のうち、1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物が好ましい。架橋生成物の立体的構造は、ガスバリア性に大きく影響する。ガスバリア性を発現させるためには、キシリレンジイソシアネート骨格を有すると好ましい。これらの化合物は、キシリレンジイソシアネート骨格を有する。
【0036】
[酸無水物]
本発明における樹脂層には酸無水物を0.0010〜0.10g/mの範囲で含有する必要がある。酸無水物を含有させることで耐酸性が向上し、酸性環境下に曝された場合でも樹脂層と蒸着層の界面の接着性を維持できる。
【0037】
酸無水物は、ピロリメット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタリンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。これらは、1種または2種以上を混合して用いても良い。事前に化学的に結合した状態で含有されてもよく、また、化学的に結合されずに単に混合された状態で添加されても良い。したがって、樹脂層の原料を製造する場合に添加しても良いし、樹脂層を形成する際に添加してもよい。5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物が好ましい。酸無水物の添加量は、0.0010〜0.10g/mが好ましい。0.0010g/mより少ないと酸性環境に曝された際に、蒸着層と樹脂層の界面の剥離が生じ、0.10g/mより多いと酸無水物が樹脂中に分散し、樹脂自体がもろくなり耐酸性が低下する。
【0038】
酸無水物は、事前に主剤あるいは硬化剤と混合しておいても良いし、主剤、硬化剤を混合する際あるいは、混合攪拌後に添加しても良い。
【0039】
[その他の添加物]
上記共重合樹脂(主剤)コーティング液には、シランカップリング剤が添加されていても良い。シランカップリング剤は、分子中に有機官能基と加水分解性官能基を有し、無機物と有機物との密着力を向上させる効果がある。したがって、シランカップリング剤を添加すると、無機酸化物蒸着層とガスバリア層との密着力を熱水殺菌処理にも耐えうる程度に強固なものとすることができる。使用できるシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が例示できる。これらのシランカップリング剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0040】
シランカップリング剤の添加量はガスバリア層の形成に用いる主剤と硬化剤の和100重量部に対して0.1〜2重量部程度が好ましい。0.1重量部以下の添加量の場合にはシランカップリング剤の効果が薄く、十分な密着力が得られない。一方、2重量部より多く添加した場合にはシランカップリング剤がガスバリア層中で可塑剤のような働きをするため塗膜のガスバリア性が低下する。
【0041】
さらに、本発明にかかる共重合樹脂(主剤)コーティング液には、その特性を損なわない限りにおいて、熱安定剤、酸化防止剤、強化剤、顔料、劣化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、滑剤などを添加してもよい。
【0042】
使用できる熱安定剤、酸化防止剤及び劣化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
使用できる強化剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、セラミックウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。
【0044】
本発明における主剤には、無機層状化合物を混合してもよい。無機層状化合物の好ましい例としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、バーミキュライト、フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、黒雲母、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等が例示でき、膨潤性フッ素雲母又はモンモリロナイトが特に好ましい。これらの無機層状化合物は、天然に産するものであっても、人工的に合成あるいは変性されたものであってもよく、またそれらをオニウム塩などの有機物で処理したものであってもよい。
【0045】
[アクリル系樹脂]
アクリル系樹脂としては、上述の[主剤]に記載の化合物および[硬化剤]に記載の化合物により形成することができる。好ましくは上述の[主剤]において、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび[硬化剤]1,3−又は1,4−キシリレンジイソシアネート(XDI)およびその部分縮合物が好ましい。ガスバリア性、密着性の観点から好ましい。固形分%は、一般的には15〜25wt%が採用されるが、コーティング後の目標膜厚みとグラビアロールのWET塗布量に対して採用する。15wt%よりすくなくなると、乾燥後の膜厚の安定性を確保することが難しくなり、25wt%より大きくなると塗剤のポットライフの上昇などが発生し、安定してコーティングすることが難しくなる。
【0046】
配合としては、主剤の水酸基に対して、硬化剤のイソシアネートの比率が、0.8〜1.4が好ましい。0.8より小さくなると膜を保持することができなくなり、1.4より大きくなると膜が硬くなり、密着力が低下する。
【0047】
[コーティング層の製造]
上記共重合樹脂(主剤)溶液と、硬化剤とを、所定量配合して溶剤中に溶解して、ガスバリア層用のコーティング液を得る。使用できる溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、水等が挙げられる。
【0048】
本発明においてガスバリア層を構成する主剤と硬化剤との配合比は特に制限されるものではないが、硬化剤が少なすぎると主剤との間で生じる架橋反応が不十分なものとなり、塗膜が硬化不良を起こすだけでなく塗膜強度が十分発現せずに熱水処理耐性、基材との密着性等も不足する。また硬化剤の配合量が多すぎる場合にはブロッキングを生じる原因となるだけでなく、余剰のイソシアネート化合物が他の層に移行するなどして後加工等において不都合を生じることがある。
【0049】
本発明にかかるガスバリア層を製造する方法としては、特に制限はなく、基材フィルムに応じた方法で製造することができる。例えばオフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法などの印刷方式やロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ダイコーティング法、ナイフエッジコーティング法、グラビアコーティング法、キスコーティング法、スピンコーティング法等やこれらを組み合わせた方法を用いて、コーティング液をコーティングすればよい。
【0050】
蒸着層上に設けるガスバリア層の厚みは、好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.2〜2μmである。ガスバリア層の厚みが、0.1μm以上であると、ガスバリア性の十分な向上が得られ、コーティング時の加工性も高まり、膜切れやはじきなどの欠陥のないガスバリア層を形成することができる。一方、ガスバリア層の厚みが3μm以下であると、コーティング時の乾燥条件が低温、短時間であっても溶剤が十分に乾燥するので、フィルムにカール等の変形が生じることがなく、製造コストが高騰するといった問題点も起こらず好ましい。
【0051】
本発明のガスバリア性フィルムでは、ガスバリア層の上に、オーバーコート層を設けてもよい。オーバーコート層は、例えばポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸、エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル重合体及びそれらの金属架橋物等のプラスチック材料により形成される。厚さは目的に応じて適宜決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。
【0052】
オーバーコート層の形成方法としては、上記プラスチック材料からなるフィルム状のものを2液反応硬化型接着剤を用いて貼り合わせるドライラミネート法、無溶剤接着剤を用いて貼り合わせるノンソルベントラミネート法、上述したプラスチック材料を加熱溶融させカーテン状に押し出し、貼合わせるエクストルージョンラミネート法等のいずれも公知の積層方法により形成することができる。
【0053】
本発明においてコーティングにより蒸着層上にガスバリア層およびオーバーコート層を形成して積層する場合において、コーティング液に使用する溶剤にもよるが好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上の温度で乾燥させることが好ましい。乾燥温度が70℃より低い場合には塗膜の乾燥が不十分となり、充分なガスバリア性を有するフィルムを得ることが困難となる。また、巻き取った中間製品に対して主剤と硬化剤との間の架橋反応を十分に進行させる目的でエージング処理をすることもできる。エージング処理により架橋反応はより進行し、十分な塗膜強度、ガスバリア性、熱水処理耐性等が発現する。
【0054】
本発明においては、耐酸密着性とは、対酸密着劣化度=(レトルト前の密着力−食酢充填後のレトルト処理後の密着力)/(レトルト前の密着力−蒸留水充填後のレトルト処理後の密着力)の値によって等級を区分したものである。対酸密着劣化度が10以上を1級、10より小さく5より大きい場合を2級、5以下を3級、3以下を4級、2以下を5級とした。この等級が3級以上の場合、実用上の使用にて問題がなく、密着が保持されている。3級未満の場合、本発明に実施している効果が十分に発揮されていないため、酸性内容物接触後に、密着性が不安定になる。
【0055】
本発明において、耐酸ガスバリア性とは、酸性液充填体のレトルト処理前後の酸素透過率、水蒸気透過率を測定し、両特性の劣化度を、対酸ガスバリア劣化度=(食酢充填後のレトルト処理後の透過率−レトルト前の透過率)/(蒸留水充填後のレトルト処理後の透過率−レトルト前の透過率)によって求め、この値によって等級を区分した。対酸ガスバリア劣化度が10以上を1級、10より小さく5より大きい場合を2級、5以下を3級、3以下を4級、2以下を5級とした。この等級が3級以上の場合、実用上の使用する範囲において、ガスバリア性に問題がなく、本発明の意図した効果が十分に発揮されている。3級未満の場合、本発明に実施している効果が十分に発揮されていないため、ガスバリア性の劣化が激しく実用上に不備を発生することとなる。
【0056】
本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を必要とする様々な分野に利用することができる。特にレトルト用包装材料として用いることに適する。
【実施例】
【0057】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお実施例中に「部」とは、特に注釈の無い限り「重量部」であることを意味する。
【0058】
[特性の評価方法]
本発明のガスバリア性フィルムの特性は、以下の評価方法を用いて、評価した。
【0059】
(1)酸素透過率
酸素透過率は、温度23℃、湿度0%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の酸素透過率測定装置(機種名、オキシトラン(登録商標)(OXTRAN 2/20))を使用して、JIS K7126(2000年版)に記載のB法(等圧法)に基づいて測定した。また、測定は2回行い、平均値を酸素透過率の値とした。
【0060】
(2)水蒸気透過率
水蒸気透過率は、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の水蒸気透過率透過率測定装置(機種名、パ−マトラン(登録商標)W3/33)を使用してJIS K7129(2000年版)に記載のB法(赤外センサー法)に基づいて測定した。また、測定は2回行い、平均値を水蒸気透過率の値とした。
【0061】
(3)ラミネ−ト強度
コーティング面にウレタン系2液型接着剤(接着剤 東洋モートン株式会社製ドライラミネート用接着剤 AD−503と東洋モートン株式会社製硬化剤 CAT−10)をドライで3.5μm相当をコ−トし、80℃×45sec乾燥させた後、60μmの未延伸PPフィルム(東レフィルム加工株式会社製無延伸ポリプロピレンフィルム ZK100)をコロナ処理面が接着剤層と向かい合うようにラミネ−トし、72時間、40℃雰囲気でエ−ジングする。その後、15mm幅×200mm長に切り取り、オリエンテック社製テンシロン万能試験機を用いて引張速度300mm/min.で90°剥離時の強度として評価した。フィルムサンプルの調整方法は次の通りである。
【0062】
(4)レトルト処理
コーティング面にウレタン2液型接着剤を固型分2μm厚相当をコ−トし、60μmの未延伸PPフィルムとラミネ−トし、40℃で48時間エージングする。エ−ジング後ラミネ−トフィルムを12cm角にカットする。60μmの未延伸PPフィルムを内側になるように2枚重ね、三方シ−ルする。袋状になったところに蒸留水あるいは食酢(ミツカン穀物酢)を100ml入れ、さらに空気が入らないようにして開放部分をシ−ルし、密封状態にする。このサンプルを株式会社トミー精工製オートクレープSR−240を用いて121℃の沸騰水中に30分間放置し、その後取り出してシ−ル部をカットし、内容物を排出後、一晩室温下で乾燥したのち酸素透過率、ラミネート強度の測定用サンプルとした。
【0063】
(5)耐酸密着性
耐酸密着性として、対酸密着劣化度=(レトルト前の密着力−食酢充填後のレトルト処理後の密着力)/(レトルト前の密着力−蒸留水充填後のレトルト処理後の密着力)の値によって等級を区分した。対酸密着劣化度が10以上を1級、10より小さく5より大きい場合を2級、5以下を3級、3以下を4級、2以下を5級とした。
【0064】
(6)耐酸ガスバリア性
耐酸ガスバリア性は、酸性液充填体のレトルト処理前後の酸素透過率、水蒸気透過率を測定し、両特性の劣化度を、対酸ガスバリア劣化度=(食酢充填後のレトルト処理後のガスバリア性−レトルト前のガスバリア性)/(蒸留水充填後のレトルト処理後のガスバリア性−レトルト前のガスバリア性)によって求め、この値によって等級を区分した。対酸ガスバリア劣化度が10以上を1級、10より小さく5より大きい場合を2級、5以下を3級、3以下を4級、2以下を5級とした。
【0065】
(実施例1)
(基材)
蒸着層が設けられた基材として、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面に酸化アルミ層を蒸着により設けた東レフィルム加工株式会社製 「バリアロックス」(登録商標)1011HGを用いた。
【0066】
(樹脂層の形成)
2−HEMAが21重量%となるようにMMAを配合し共重合体を製造した主剤と、DIC株式会社製イソシアネート硬化剤 DF−HARDENER HX−75および5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物を塗布、乾燥後に塗布厚が0.5g/m、酸無水物が0.042g/mとなるようにメチルエチルケトンに溶解し、コーティング液を調整した。
【0067】
上記基材の酸化アルミ層上に、ワイヤーバーを用いてコーティング液を塗布し、120℃で30秒間乾燥し、ガスバリア層を設けた。このようにしてガスバリア性フィルムを製造した。
【0068】
(実施例2)
2−HEMAを68重量%および酸無水物が0.055g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム2を得た。
【0069】
(実施例3)
2−HEMAを50重量%および酸無水物が0.02g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム3を得た。
【0070】
(実施例4)
2−HEMAを56重量%および酸無水物が0.0012g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム4を得た。
【0071】
(実施例5)
2−HEMAを38重量%および酸無水物が0.098g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、ガスバリア性フィルム5を得た。
【0072】
(比較例1)
コーティング液としてポリビニアルコールを用いた以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム1を得た。
【0073】
(比較例2)
2−HEMAを18重量%および酸無水物が0.002g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム2を得た。
【0074】
(比較例3)
2−HEMAを73重量%および酸無水物が0.012g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム3を得た。
【0075】
(比較例4)
2−HEMAを30重量%および酸無水物を添加しない以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム4を得た。
【0076】
(比較例5)
2−HEMAを25重量%および酸無水物が0.0008g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム5を得た。
【0077】
(比較例6)
2−HEMAを45重量%および酸無水物が0.11g/mとなるようにした以外は、実施例1と同様にして、コーティングフィルム6を得た。
以上の製膜条件及び結果のまとめを表1〜3に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも一面に、無機酸化物もしくは無機窒化物で構成される蒸着層と、樹脂層を積層したガスバリア性フィルムであって、
その樹脂層は、20〜70重量%の水酸基を有する不飽和化合物と、不飽和カルボン酸エステル、スチレン、不飽和カルボン酸、不飽和炭化水素及びビニルエステルからなる群から選択される1つ以上の不飽和化合物との共重合体で構成される主剤と、イソシアネート基を有する化合物で構成される硬化剤とで構成されるアクリル系樹脂と、0.0010〜0.10g/mの酸無水物から構成される、ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記蒸着層が、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化窒化珪素からなる群より選択された少なくとも1種あるいはそれらの混合物で構成される、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のガスバリア性フィルムを用いたレトルト用包装材料。

【公開番号】特開2010−131756(P2010−131756A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307101(P2008−307101)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【Fターム(参考)】