説明

ガスバリヤーフィルム

【課題】 透明で可撓性にも優れたガスバリヤー性フィルムを低コストで提供する。
【解決手段】 本発明のガスバリヤーフィルムは、高分子フィルム上に炭素層が形成されたものである。前記炭素層が、燃焼または不完全燃焼により発生するスス(炭素)を高分子フィルムの上に付着させて形成されること、用いられる高分子フィルムは、透明性のあるものであること、が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリヤー性を有する透明高分子フィルムに関する。更に詳しくは、可視光領域において、高分子フィルムが、透明性かつ可撓性を有し、酸素及び水蒸気等の気体の透過率の極めて少ないものであって、水蒸気、酸素、その他有害な気体の透過を嫌う半導体用シリコンウェーハや精密電気部品の包装及び薬品や食品の包装に適した透明ガスバリヤーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリヤー性フィルムの製法は、種々の方法が知られている。それらを大別すると、
イ.高分子フィルムとAl(アルミニウム)箔をラミネートしたもの(特許文献1、2参照)、
ロ.フィルムにガスバリヤー性に優れた樹脂(塩化ビニリデンやビニルアルコール系重合体)をコーティングあるいはラミネートしたもの(特許文献3〜5参照)、
ハ.フィルムに金属又は金属酸化物の無機物を蒸着したもの(特許文献6〜8参照)、
ニ.上記ロ及びハを組み合わせたもの(特許文献9、10参照)、
である。
【0003】
イの方法で得られたガスバリヤーフィルムは、最も信頼性の高い製品であるが、透明性に欠けるという欠点があった。その結果、内容物の確認が出来ないため包装材料としての用途に制限があった。
【0004】
ロのコーテング品は高分子フィルムと気体分子との相互作用とにより、透過率に影響を及ぼすことが知られている。例えばポリエステルフィルムにポリ塩化ビニリデンをコーテングしたものでは水蒸気の存在が酸素の分離を困難にするという欠点があった。
【0005】
ハの蒸着品は、無機物を使用するためバリヤー性を高めようと膜厚を厚くすると、基材との密着性や透明性が低下する上に、脆くなる結果、可撓性がなくなり、本来の目的とするバリアー性が失われるという問題があった。また、蒸着するには大掛かりな設備を必要とし、コスト的に不利な面があり、誰でも容易に作ることが出来るものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−244790号公報
【特許文献2】特開平9−2486号公報
【特許文献3】特開平7−40516号公報
【特許文献4】特開平7−291307号公報
【特許文献5】特開平10−193525号公報
【特許文献6】特開平6−23899号公報
【特許文献7】特開平6−128725号公報
【特許文献8】特開平7−145256号公報
【特許文献9】特開平7−178788号公報
【特許文献10】特開平10−72659号公報
【非特許文献1】「高分子素材便覧」 高分子学会編、丸善(1989)、p.603−607
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて、透明で可撓性にも優れたガスバリヤー性フィルムを低コストで提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガスバリヤーフィルムは、高分子フィルム上に炭素層が形成されたものである。前記炭素層が、燃焼または不完全燃焼により発生するスス(炭素)を高分子フィルムの上に付着させて形成されること、用いられる高分子フィルムは、透明性のあるものであること、が好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、フィルムの透明性を損なわない程度に、微粒子からなる炭素粉末をフィルムの表面に形成させて、フィルムが本来有している酸素透過性や、水蒸気透過性を低下させたものであって、従来のものでは得られなかった高機能のガスバリヤーフィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは、シリコーン樹脂製シートが酸素透過性に優れているものの、経時変化とともに透過率が減少する傾向があり、その原因が、フィルム膜上に付着した微粒子にあって、微粒子の量が限界量を超えると、急速に透過率を減少させることを経験した結果を基に、透明で可撓性にも優れたガスバリヤー性フィルムを見いだした。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は、透明な高分子樹脂フィルムをベースとする。用いられる透明高分子フィルムの種類は、特に制限されるものではないが、ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・酢酸ビニルアルコールケン化物(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルフォンフィルム等が挙げられ、これらフィルム単独又はこれらフィルムを複合化したラミネートフィルムや、塩化ビニリデン膜付ナイロン(KON)等の表面をコートしたものであってもよい。
透明高分子フィルムの厚さは、15〜150μmのものが有利に用いられ、包装用に使用する場合は20〜120μmであって、単層又は複層フィルムいずれであっても良い。
透明高分子フィルムの表面に形成させる炭素層は、燃焼または不完全燃焼により発生するススを利用することが好ましい。
一般にススあるいは煙の粒径は1〜0.01μmの大きさで、浮遊しているため、固体表面に当たっても付着せず、濡らす作用が極めて少ない。しかし、フィルムの表面は鏡面ではなく、ミクロ的には凹凸があり、かつ帯電しているため、フィルムを煙の中に一定時間放置すると、表面はススにより一様に濡れる。本発明は、このことを主として利用する。
【0012】
燃焼または不完全燃焼により発生するスス(炭素)を透明高分子フィルムの上に付着させる方法は、通常「鮭」や「鰹」の燻製を製造するのに使用されている燻製設備を利用して得られる。あるいは、家庭用に市販されている燻製装置、例えば進誠産業社製「ホームスモーカー」装置を使用することも出来る。
【0013】
燻製装置を使用したススによる透明高分子フィルムの処理時間は、8時間以上24時間以下である。前述したススの濡れ特性から、8時間以内では効果が少なく、24時間以上処理しても処理効果の大幅な向上はない。また、フィルムにプラス、又はマイナスの静電気を与えて処理しても、その効果は少ない。この事実から、ススによる最大の効果を与える時間は8〜15時間である。
【0014】
ススによる透明高分子フィルムの処理の特徴は、どのようなフィルムでも一様に効果が得られること、簡便に処理が出来ること、および処理面は片面でも両面でも同時に処理できる点にある。処理温度は透明高分子フィルムの軟化点以下なら制限はないが、好ましくは室温での処理が望ましい。室温処理の場合、フィルムの劣化がなく、冷却や加熱も不要で、コスト上も有利である。さらに、ススの主成分である炭素が、透明高分子フィルム上に厚く堆積することはないため、常に透明性が維持出来、かつフィルム固有の特性を維持したまま、ガスバリヤー性が付与できる。
【0015】
透明高分子フィルムに付着したススの付着量は、測定可能な分析機器がなく、かつ測定できる精度の問題もあって特定できなかったが、厚さがオングストロームのレベルであると推定できる。また、本法の欠点は処理時間が長いことであるが、この点を除けば、ガスバリヤー性を付与する方法としては有意義である。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例を挙げてより具体的に説明する。
[実施例1]
間口2m、奥行き2.5m、高さ2mの燻製設備中にポリプロピレンフィルム(信越フィルム社製、商品名:PT30、厚さ30μm)を30cmの正方形に切り出し、室内にクリップで止めて、4、10、24時間(1日)、2日および3日放置して、両面を燻製処理した。室内温度は、平均して17℃だった。処理後、フィルムを処理室から取り出し、水蒸気透過率、酸素透過率、及び透明度を測定した。測定機器及び測定方法は以下の通り。
水蒸気透過率:PERMATRAN−W Model3/33MG(MOCON社製) JIS K7129 B法
酸素透過率:OX−TRAN Model2/21ML(MOCON社製) JIS K7126 B法
透明度:濁度計 NDH−2D(日本電色工業社製) JIS K7105法
結果を表1に示した。なお、単位は水蒸気透過率(g/m2・24Hr)、酸素透過率(cc/m2・24Hr・1atm)、透明度(%)である。
【0017】
【表1】

【0018】
表1より、24時間以上の処理時間では透明度が低下し、水蒸気透過率の改善効果も少ない。
【0019】
[実施例2]
PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム(東レ社製、商品名:ルミラーT60、厚さ30μm)を使用し、実施例1に示した装置で、同一時間、フィルム両面の燻製処理を行い、表2に示した結果を得た。物性の測定方法、使用した装置、物性測定値(単位)は実施例1と同一である。
【0020】
【表2】

【0021】
表2より、24時間以上の処理時間では透明度が低下し、水蒸気透過率の改善効果も少ない。
【0022】
[実施例3]
縦および横幅各20cm、厚さ42mmの不織布(三井化学社製、商品名:シンテックスR−033、通気量140cc/cm2/sec)を木箱の上に張り、その上に同寸法の厚さ30μmのポリプロピレンフィルム(実施例1に同じ)を重ね、箱の内部をわずか負圧にして、実施例1同様に煙で燻した。処理(片面)時間10時間後に得られたフィルムの水蒸気透過率は5.3g/m2・24Hrであった。
【0023】
[実施例4]
厚さ50μmのポリエチレンフィルム(タマポリ社製、商品名:UB、水蒸気透過率は20.9g/m2・24Hr)を使用し、実施例3と同一実験を行った。得られたものの水蒸気透過率は16.9g/m2・24Hrと低下した。
【0024】
[実施例5]
実施例4で得られた厚さ50μmのPEフィルムを下に、厚さ15μmのナイロンフィルム(出光石油化学社製、商品名:G−100、水蒸気透過率は250g/m2・24Hr)を上にして、接着剤(大日本インキ社製、商品名:ディックドライLX−605+Kw40)を使用してラミネートフィルムを作成した。なお、処理面はNYフィルムとPEフィルムの中間(NY−処理面−PE)になるようにした。得られたものの水蒸気透過率は10.8g/m2・24Hrと大幅に低下し、処理効果が認められた。
【0025】
[参考例]
実施例1(PPフィルム)、同2(PETフィルム)、同4(PEフィルム)を直接電極印加式装置(春日電機社製)を使用し、フィルム表面に+(プラス)、又は−(マイナス)のチャージを与えたフィルムを使用し、実施例1と同一条件で実験を行った。10時間処理後の水蒸気透過率を測定したその結果を表3に示した。
帯電電位測定器は、春日電機社製KD−110。単位kV。
濡れ特性測定器は、VETAPHONE社製、Corona-plus。単位dyn/cm。JIS K6768に準じて測定した。
【0026】
【表3】

【0027】
表3より、フィルムに電位を与えても、水蒸気透過率には影響がないことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、透明性と水蒸気あるいは酸素の透過性を低下したフィルムを低コストで得られるので、半導体製造産業や生鮮食品の包装・取り扱い・運搬等の産業に寄与するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フイルム上に炭素層が形成されたガスバリヤーフィルム。
【請求項2】
前記炭素層が、燃焼または不完全燃焼により発生するスス(炭素)で、高分子フィルムを燻して形成されたものである請求項1記載のガスバリヤーフィルム。
【請求項3】
高分子フィルムが透明なフィルムで、その厚さが10〜150μmである請求項1または請求項2に記載のガスバリヤーフィルム。

【公開番号】特開2008−6761(P2008−6761A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181607(P2006−181607)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(597165951)信越フィルム株式会社 (10)
【Fターム(参考)】