説明

ガス供給システムおよびガス供給方法

【課題】 ガス供給装置の緊急事態への対応、および消費量が変動する用途への対応ができるとともに、こうした対応時においても、製品ガスやエネルギーのロスが少なく、ガス供給システム全体のエネルギー消費を最小化することができること。
【解決手段】 消費設備に給送される基準ガス量Goを設定し、基準ガス量Goをガス供給装置1から分流点Mに給送されるガス量Gsによって確保するように、ガス供給装置1から供出されるガスとベント流路L4に放出されるガスの、それぞれの圧力および流量を制御するとともに、消費設備に給送される所望のガス量Gが基準ガス量Goを超える場合の差量分dG、およびガス供給装置1が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時における所望のガス量Gを、バックアップ装置2から分流点Mに給送されるガス量Gwによって確保するように制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給システムおよびガス供給方法に関するもので、例えば、ガス供給装置より消費設備に対して製品ガスを供給するガス供給システムにおいて、ガス供給装置の異常発生時等にバックアップ装置から製品ガスを別途補完的に供給することができるガス供給システムおよびガス供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造プロセスをはじめ各種製造プロセスにおいて、各種気体あるいは液体の高純度ガスが用いられ、こうしたガスを所望の圧力条件や流量条件で安定的に供給するために、所定容量のガス供給装置やガス製造装置が用いられている。例えば、精留塔を利用した酸素や窒素あるいはアルゴン等々各種ガスの製造方法(深冷分離)が知られているが、こうしたガス製造装置は、需要者の敷地内に設置し(オンサイト)、常時製造される製品ガスを使用する使用形態がとられることがある。この形態では、ガス製造装置が停電等のトラブルで停止した場合、直ちにバックアップ装置による供給に切り換える必要がある。また、消費設備における消費量は常に一定ではなく、1日の内には時間単位で使用量が変動するため、ガス製造装置は消費量(需要量)の変動に対応できる構造に設計されることが多い。
【0003】
具体的には、図7に示すような、製品ガスを窒素ガスとし、その消費量の変動に対応できる高純度窒素のガス製造装置を挙げることができる(例えば特許文献1段落0003〜0005参照)。121は空気圧縮機である。122は2個1組の吸着塔であり、内部にモレキュラーシーブが充填されていて空気圧縮機121により圧縮された空気中のHOおよびCOを吸着除去する作用をする。123はHOおよびCOが吸着除去された圧縮空気を送る圧縮空気供給パイプである。124は熱交換器であり、吸着塔122によりHOおよびCOが吸着除去された圧縮空気が送り込まれる。126は精留塔であり、上部に凝縮器127a内蔵の分縮器127を備えており、熱交換器124により超低温に冷却され、パイプ125を経て送り込まれる圧縮空気をさらに冷却し、その一部を液化し液体空気136として底部に溜め、窒素のみを気体状態で天井部に溜めるようになっている。129は装置外から液体窒素134の供給を受けこれを貯蔵する液体窒素貯槽であり、内部の液体窒素(高純度品)134を、導入路パイプ130を経由させ精留塔126の天井部側に送入し、精留塔126内に供給される圧縮空気の寒冷源にしている。137は精留塔126の天井部に溜った窒素ガスを製品窒素ガスとして取り出す取出パイプで、超低温の窒素ガスを熱交換器124内に案内し、そこに送り込まれる圧縮空気と熱交換させて常温にしメインパイプ138に送り込む作用をする。141はメインパイプ138に設けられた流量制御弁である。142はバックアップ系ラインであり、液体窒素蒸発器143,これに液体窒素貯槽129から液体窒素134を供給する導入路パイプ144a,液体窒素蒸発器143で気化生成した窒素ガスをメインパイプ138に送入する案内パイプ144bおよびこの案内パイプ144bに設けられた圧力調節弁145から構成されている。この圧力調節弁145は2次側(使用側)の圧力が設定圧力より下がると、弁を開き(または弁の開度を調節し)2次側の圧力が設定圧力を保つように作用する。このバックアップ系ライン142では、精留塔ラインが故障したり、または製品窒素ガスの需要量(消費量)が精留塔126だけでは対応できないような量に大幅に増加したり(精留塔126内で生成される窒素ガスの最大生成量を越えたり)してメインパイプ138内の圧力が下がると、圧力調節弁145が開成作動するため、液体窒素貯槽129から液体窒素134が液体窒素蒸発器143に流れて気化し、その生成気化液体窒素ガスが製品窒素ガスとしてメインパイプ138内に流入するようになっている(同段落0003〜0005参照)。また、製品窒素ガスの需要量(消費量)が大幅に減少した場合には、これを流量指示調節計146で検出して放出弁147を開弁し、余剰の製品窒素ガスを大気に放出することで上記コントロール不能を防いでいる(同段落0009参照)。ここで、128aは還流液パイプ(案内路)、131はパイプ、131aは膨張弁、132は液面指示調節計、133はバルブ、135は液体窒素溜め、139は放出パイプ、140は保圧弁、148は不純物分析計、149は弁を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−210770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなガス製造装置では、以下のような課題があった。
(i)精留塔から供給される製品窒素ガス(ガス発生装置)や液体窒素貯槽から供給されるバックアップ用の窒素ガス(バックアップ装置)が、各々独立して制御されるため、設備間のギャップにより高純度製品ガスのロスが生じている。また、こうした製品ガスのロスは、ガス製造装置のエネルギーロスを発生させている。具体的には、以下に示すロスを挙げることができる。
(i−1)製品ガスの発生量と消費量のミスマッチから生じる余剰の製品ガスの大気放出によるロス
具体的には、ガス発生装置において安定的に製品ガスが作製され、消費量を超える製品ガスがベントから放出され、長期的にみれば、図8(A)のように、放出される製品ガスの余剰分がロスとなる。なお、放出ガスの一部は、消費設備に給送されるガスの安定化に供される。また、こうした製品ガスのロスは、これを作製するために費やされたガス発生装置におけるエネルギーロスを伴うものとなる。
(i−2)消費量の変動に対応したガス発生装置での余裕のある発生量を確保するために生じるエネルギーロス
短期的にも、図8(B)のように、上記(i−1)と同様のロスが生じる。特に、深冷分雛式のガス発生装置等では頻繁に発生量を変化させた場合、発生量を変化させるための消費エネルギー調整が困難であるために、余裕度のある一定量を発生させることから、製品ガスのロスおよびエネルギーロスが生じる。
(i−3)消費設備が要求する圧力を維持するために、ガス発生装置から供給される製品ガスの圧力を、ガス発生装置からのガス供給設備配管での圧力損失に余裕度を加えて設定することによるエネルギーロス
具体的には、図7の例であれば、還流液パイプ128a,取出パイプ137,熱交換器124およびメインパイプ138における圧力損失分に加え、余裕度が加算された高い供給圧力でガス発生装置を運転する必要があることから、その圧力差に相当するエネルギーロスが生じる。
(i−4)ガス発生装置の不慮の故障に備え、バックアップ装置を、余裕を持った供給圧力に設定した場合、ガス発生装置が消費設備の要求圧力より高い供給圧力で運転されることによって生じるエネルギーロス
具体的には、図7の例であれば、例えば消費設備の要求圧力が約7〜8MPaであって、メインパイプ138と案内パイプ144bの合流点における圧力バランスによってガス発生装置からの製品ガスのみが給送される場合、メインパイプ138の供給圧力は、案内パイプ144bよりも約0.01〜0.02MPa高く設定し、逆流を防止することが必要となる。また、バックアップ装置からのガスとともに消費設備に給送される場合においても、メインパイプ138と案内パイプ144bの供給圧力は、余裕を持った設定圧力が好ましく、消費設備の要求圧力より高い供給圧力で運転される。いずれの場合も、加算された高い供給圧力でガス発生装置を運転する必要があることから、その圧力差に相当するエネルギーロスが生じる。
(ii)また、こうしたロスは、ガス発生装置やバックアップ装置の拡大を招来し、特に、頻繁に、かつ大きく消費量が変動する用途に用いられるガス製造装置では、大きな課題となっている。
【0006】
本発明の目的は、ガス供給装置の緊急事態への対応、および消費量が変動する用途への対応ができるとともに、こうした対応時においても、製品ガスやエネルギーのロスが少なく、ガス供給システム全体のエネルギー消費を最小化することができるガス供給システムおよびガス供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示すガス供給システムおよびガス供給方法によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、ガス供給装置およびバックアップ装置を備え、消費設備に対して、所定範囲内において変動する所望の圧力および流量からなるガス量Gを供給するガス供給システムであって、
前記ガス供給装置から供出されるガスが給送される供給流路と、前記バックアップ装置から供出されるガスが給送されるバックアップ流路と、該供給流路とバックアップ流路との合流点から前記消費設備にガスが給送される給送流路と、該合流点までの前記供給流路が分岐され、前記ガス供給装置から供出されるガスの一部が分流されるベント流路と、前記それぞれの流路の圧力を検出する圧力検出器または/および流量を検出する流量検出器と、前記それぞれの流路の圧力または/および流量を調整する制御弁と、前記それぞれの圧力検出器,流量検出器からの出力を受信し、前記それぞれの出力を指標に前記それぞれの制御弁への制御信号を作成して送信する制御部と、を備え、
前記消費設備に給送される前記所定範囲内の最小ガス量Gb,最大ガス量Gm,平均ガス量Gaあるいは所定範囲内の任意のガス量のいずれかから基準ガス量Goを設定し、
該基準ガス量Goを前記ガス供給装置から前記分流点に給送されるガス量Gsによって確保するように、前記ガス供給装置から供出されるガスと前記ベント流路に放出されるガスの、それぞれの圧力および流量を制御するとともに、
前記所望のガス量Gが前記基準ガス量Goを超える場合の差量分dG、および前記ガス供給装置が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時における所望のガス量Gを、前記バックアップ装置から前記分流点に給送されるガス量Gwによって確保するように制御することを特徴とする。
【0009】
既述のように、バックアップ装置は、ガス供給装置の緊急事態への対応用あるいは消費量が変動する用途への対応用のいずれかのみに用いられるとともに、いずれの場合にも、ガス供給装置とバックアップ装置それぞれ所定の余裕度をもって運転されることから、製品ガスやエネルギーのロスの低減が大きな課題であった。こうした課題に対する検証の結果、本発明は、ガス発生装置とバックアップ装置のガスの供給制御を統合し、基準ガス量を担うガス発生装置とそれを超えたガス量を担うバックアップ装置の供給条件を最適化することにより、緊急事態を含む短時間に大きく変動する消費設備に供給するガス量を、所望の供給条件を維持しつつ、製品ガスやエネルギーのロスを少なく、確実に供給可能なガス供給システムを可能とした。また、消費設備の運転において、消費量が安定している場合には、基準ガス量Goを最大ガス量Gmに設定し、バックアップ装置は緊急事態のみ機能させる制御操作を行い、消費量が変動する場合には、その変動範囲に対応して基準ガス量Goを最小ガス量Gbや平均ガス量Gaあるいは所定範囲内の任意のガス量に設定することによって、製品ガスやエネルギーのロスを少なく、確実に供給可能なガス供給システムが可能となる。なお、ここでいう「ガス量」とは、所定圧力条件下でのガス流量をいい、標準状態(0℃,0.101MPa)でのガス流量で表わすことがある。
【0010】
本発明は、上記ガス供給システムであって、予め前記それぞれの流路に設けられた制御弁の開度に対する圧力特性または/および流量特性を求め、前記基準ガス量Goとなる基準圧力Poを中点として、前記供給流路およびベント流路に設けられた制御弁の、0〜基準圧力Poにおける開度に対する圧力特性と、前記バックアップ流路に設けられた制御弁の、基準圧力Po〜前記最大ガス量となる最大圧力Pmにおける開度に対する圧力特性を、1つの1次または数次の近似関数によって表わされる関係式に補正し、または/および前記基準ガス量Goとなる基準流量Foを中点として、前記供給流路およびベント流路に設けられた制御弁の、0〜基準流量Foまでの開度に対する流量特性と、前記バックアップ流路に設けられた制御弁の、基準流量Fo〜前記最大ガス量となる最大流量Fmまでの開度に対する流量特性を、1つの1次または数次の近似関数によって表わされる関係式に補正することを特徴とする。
ガス供給システムにおいては、複数の流路における精度の高い流量あるいは圧力制御が要求される。一方、検証過程において、各流路に用いられる制御弁の機能や発生源から供出されるガスの特性(発生装置や貯槽から供出されるガスの圧縮率等)によって、各制御弁の開度と流量や圧力の特性が異なるとの知見を得た。本発明は、同時に機能する各制御弁の開度−流量または圧力特性を考慮し、基準圧力あるいは基準流量を基準に各制御弁に対する制御信号を演算し、複数の制御弁があたかも1つの制御弁として機能するように補正することによって、緊急対応時のガス供給装置からバックアップ装置への切換えや消費量増加に伴うバックアップ装置からの補給に際しても、制御精度を維持することを可能にした。
【0011】
本発明は、上記ガス供給システムであって、前記バックアップ装置が、並列に配設された複数のガス貯留部を備え、
該ガス貯留部の少なくとも1つが、前記基準ガス量Goの供給可能な容量を有し、前記ガス供給装置が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時において、当該ガス貯留部から前記基準ガス量Goに相当するガス量をバックアップ流路に給送するとともに、前記ベント流路に設けられた制御弁によって、所望の圧力および流量からなるガス量Gを維持することを特徴とする。
バックアップ装置におけるガスの供出条件は、緊急対応時のガス供給装置からの切換えの場合と消費量増加に伴う補給の場合では異なることから、バックアップ装置を、複数のガス貯留部を備え、少なくともその1つが基準ガス量Goの供給可能な容量を有する構成とすることによって、緊急事態を含む短時間に大きく変動する場合であっても、消費設備に対して所望の供給条件を維持しつつ、製品ガスやエネルギーのロスを少なく、確実に供給可能なガス供給システムを可能とした。
【0012】
本発明は、上記ガス供給システムであって、前記ガス供給装置が、精留塔を備えた空気分離装置で構成され、高純度液化ガスを前記消費設備に供給し、前記バックアップ装置に該空気分離装置からの高純度液化ガスを貯留するガス貯留部を備えられるとともに、所定時間内に前記バックアップ装置から前記消費設備に供給される前記差量分dGの総量が、該所定時間内に前記空気分離装置から該ガス貯留部に給送されるガスの総量と略同量となるように制御されることを特徴とする。
高純度の窒素や酸素等のガス供給システムにおいては、ガス供給装置が精留塔を備えた空気分離装置で構成されることが好ましく、安定したガス量の供給に適する一方、上記のように、短時間の消費量の変動への追随は難しい。また、通常消費設備に供給されるガス量(消費量)は、所定時間内において所定量を基に増減を繰り返すことが多い。本発明は、こうした供給側と消費側の機能を整合させるように、例えば基準ガス量Goを最小ガス量Gbとした場合、精留塔によって平均ガス量Gaの製品ガスを作製し、ガス供給装置から最小ガス量Gbを給送するとともに、バックアップ装置に残量(Ga−Gb)を供給することによって、バックアップ装置から十分な補完量を確保することができる。つまり、ある短時間の時間帯において生じる平均ガス量Gaを超える消費量分は、他の(次の)短持間の時間帯における平均ガス量Gaを下回る消費量分で補完することができ、特に液化ガスの場合には、小さな容積で大容量のガスを貯留することができることから、ロスを最小化して十分なバックアップを行うことができる。さらに裕度を設け、所定期間、製品ガスの作製量を少し多くしてバックアップ装置に供給して貯留することによって、緊急対応時のガス供給装置からの切換えの場合にも、短時間で直前と同量供給できるガス量を確保することができる。
【0013】
本発明は、上記いずれかのガス供給システムを用いたガス供給方法であって、
前記所望の圧力Pおよび流量Fに対する制御において、
(1)流量Fが、基準ガス量Goとなる基準流量Fo以下の場合
前記ガス供給装置から供出されるガスの流量Fsを減少させ、および/またはベント流路に放出されるガスの圧力および流量を調整し、前記給送流路を給送させる前記所望のガスの圧力Pおよび流量Fに調整する。このとき前記バックアップ装置からのガスの供給は停止する。
(2)流量Fが、前記基準ガス量Goとなる基準流量Foを超える場合
基準流量Foを超える差量分dGとなるガス流量を前記バックアップ装置から供給し、該ガス流量Fwを下式1のように制御する。
Fw=F−Fo+Fv …式1
このとき、前記ベント流路に放出されるガスの圧力および流量を調整し、前記給送流路を給送させる前記所望のガスの圧力Pおよび流量Fに調整する。
ことを特徴とする。
上記のように、ガス供給システムにおいては、所定範囲内において変動する消費量に対応した製品ガスの供給が要求される。本発明は、所定範囲内において設定された基準流量Foを閾値として、ガス発生装置とバックアップ装置のガスの供給制御を統合し、基準ガス量を担うガス発生装置とそれを超えたガス量を担うバックアップ装置の供給条件を最適化した制御を行なうことにより、緊急事態を含む短時間に大きく変動する消費設備に供給するガス量を、所望の供給条件を維持しつつ、製品ガスやエネルギーのロスを少なく、確実に供給することを可能とした。
【0014】
本発明は、上記ガス供給方法であって、精留塔を備えた空気分離装置で構成された前記ガス供給装置から、高純度液化ガスが前記消費設備に供給されるとともに前記バックアップ装置に供給され、前記(2)における該所定時間内の前記ガス流量Fwの総量を、該所定時間内に前記空気分離装置から前記バックアップ装置に給送されるガスの総量と略同量となるように制御することを特徴とする。
こうした制御を行うことによって、供給側と消費側の機能を整合させ、精留塔によって作製された製品ガスの内、所定量をガス供給装置から給送するとともに、残量をバックアップ装置に供給することによって、バックアップ装置から十分な補完量を確保することができる。また、所定期間、製品ガスの作製量を少し多くしてバックアップ装置に供給して貯留することによって、緊急対応時のガス供給装置からの切換えの場合にも、短時間で直前と同量供給できるガス量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るガス供給システムの1の構成例を示す概略図
【図2】本発明に係るガス供給システムにおける制御操作の効果を例示する説明図
【図3】本発明に係るガス供給システムにおける流量制御プロセスを例示する説明図
【図4】本発明に係るガス供給システムにおける圧力制御プロセスを例示する説明図
【図5】本発明に係るガス供給システムにおける制御プロセスを例示する説明図
【図6】本発明に係るガス供給システムの1の構成例を示す概略図
【図7】従来技術に係る高純度窒素のガス製造装置を例示する概略図
【図8】従来技術に係るガス製造装置における製品ガスのロスを例示する説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明に係るガス供給システム(以下「本システム」という)は、ガス供給装置およびバックアップ装置を備え、消費設備に対して、所定範囲内において変動する所望の圧力Pおよび流量Fからなるガス(以下「製品ガスS」という)のガス量Gを供給する構成を基本とし、消費設備に給送される所定範囲内の最小ガス量Gb,最大ガス量Gm,平均ガス量Gaあるいは所定範囲内の任意のガス量のいずれかから基準ガス量Goを設定し、該基準ガス量Goをガス供給装置から給送されるガス量Gsによって確保するように、ガス供給装置から供出されるガス(以下「供給ガスK」という)とベント流路に放出されるガス(以下「ベントガスV」という)の、それぞれの圧力および流量を制御するとともに、所望のガス量Gが基準ガス量Goを超える差量分dG、およびガス供給装置が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時における所望のガス量Gを、バックアップ装置から給送されるガス(以下「バックアップガスW」という)のガス量Gwによって確保するように制御することを特徴とする。
【0017】
ここで、本システムの対象となるガスとしては、充填容器1の内部においてガス状の各種気体や液化ガスあるいはこれらの混合体を形態とする高純度ガスを含む。具体的には、酸素や窒素や水素あるいはアルゴンなどの圧縮ガス、半導体製造プロセスなどで使用される特殊材料ガス(NH,BCL,CL,SiHCL,Si、HF、C、WF等に代表される蒸気圧の低い液化ガス)、二酸化炭素などの液化ガスなどを挙げることができる。また、バックアップガスWは、基本的に供給ガスKと同一のガスが用いられる。しかしながら、大量の供給ガスKをベースとする場合等バックアップ装置の使用条件によっては、純度あるいは組成が一部異なるバックアップガスWを用いる場合がある。
【0018】
<本発明に係るガス供給システムの1の構成例>
図1は、本システムの1の構成例(第1構成例)を示す概略図である。本システムは、ガス供給装置1およびバックアップ装置2を備え、消費設備3に対して、所定範囲内において変動する所望の圧力Pおよび流量Fからなるガス量Gを供給する。具体的には、ガス供給装置1からガス供給ガスKが給送される供給流路L1と、バックアップ装置2からバックアップガスWが給送されるバックアップ流路L2と、供給流路L1とバックアップ流路L2との合流点Mから消費設備3に製品ガスSが給送される給送流路L3と、合流点Mまでの供給流路L1が分岐され、供給ガスKの一部(ベントガスV)が分流されるベント流路L4と、を備える。それぞれの流路L1〜L4の圧力を検出する圧力検出器または/および流量を検出する流量検出器と、それぞれの流路L1〜L4の圧力または/および流量を調整する制御弁と、を備え、それぞれの圧力検出器,流量検出器からの出力を受信し、それぞれの出力を指標にそれぞれの制御弁への制御信号を作成して送信する制御部5と、を備える。第1構成例では、さらに給送流路L3に製品ガスSを精製する精製部6を備える。ここでは、主として、精留塔(図示せず)等を備えた空気分離装置11によって作製された高純度の窒素や酸素等(供給ガスK)を消費設備3に給送するガス供給システムを例として説明する。なお、第1構成例では、圧力検出器,流量検出器,制御弁について、複数の流路に共用できる場合や必ずしも必須でない場合には略すことがある。また、図中の制御用符号を( )内に併記することがある。
【0019】
本システムを用いたガス供給制御操作によって、図2(A)〜(D)に例示するような効果を得ることができる。図2(A)は、所定範囲内において変動する所望の圧力Pおよび流量Fからなるガス量Gと、所定範囲内の最小ガス量Gb,最大ガス量Gmおよび平均ガス量Gaを示す。図2(B)は、最小ガス量Gbを除いた、変動範囲のガス量G(破線)および所定時間内における変動範囲内の平均ガス量Ga(実線)を示す。図2(C)は、従前のガス供給システムにおける余裕度のある一定量を発生させた場合のガス量(破線)、本システムにおける所定範囲内の最小ガス量Gbを基準ガス量Goに設定にした場合の、ガス供給装置1によって供給ガスKが給送される範囲(淡色部)およびバックアップ装置2によってバックアップガスWが給送される範囲(濃色部)を示す。常に最大ガス量Gmに余裕度を加えたガス量を必要とする従前のシステムに比べ、本システムにおいては、平均ガス量Gaによって最小のガス量を確保することができる。本システムにおいて給送されるガス量が、従前のガス供給システムにおいて給送されるガス量に比べ、ロスとなるガス量に大きな差があることが判る。
【0020】
具体的には、例えば基準ガス量Goを最小ガス量Gbとした場合、精留塔によって平均ガス量Gaの供給ガスKを作製し、ガス供給装置1から基準ガス量Goを給送するとともに、バックアップ装置2によって残量(Ga−Gb)を給送することによって、バックアップ装置2から十分な補完量を確保することができる。つまり、図2(D)に例示するように、ある短時間の時間帯において生じる平均ガス量Gaを超える消費量分Ga1,Ga2・・Ganは、他の短持間の時間帯における平均ガス量Gaを下回る消費量分Gb1,Gb2・・Gbnで補完することができ、ロスを最小化して十分なバックアップを行うことができる。特に、供給ガスKが、液化ガスの場合には、高圧条件下において小さな容積で大容量のガスを貯留することができることから、小容量のバックアップガスWの貯留容器をバックアップ装置2に設けることによって、十分なバックアップを行うことができ、上記のロスの最小化に加えて、余剰の貯留量に伴うロスの発生を回避することができる。さらに、所定期間供給ガスKの作製量を少し多くしてバックアップ装置2の貯留量に余裕度を設け、バックアップガスWの供給量に余裕があるように設定することによって、緊急対応時のガス供給装置1からの切換えの場合にも、短時間で直前と同量供給できるガス量を確保することができる。
【0021】
〔ガス供給装置〕
ガス供給装置1は、空気分離装置(TCN)11を備える。空気分離装置11は、既述のガス製造装置(図7)のような深冷分離による精留塔を有する装置,他の深冷分離による装置,あるいは分離膜や吸着塔などを利用した装置等を用いることができる。なお、こうしたガス製造装置ではなく、高圧の液化ガスが収容された大容量のタンクを用い、気化させたガスを供給する装置も可能である。空気分離装置11には、供出される供給ガスKの圧力(PIC−MP)を検出する圧力検出器(図示せず)が設けられている。供給ガスKは、空気分離装置11から供出され、供給流路L1を流通し、ガス供給装置保護用開閉弁L1aおよびベント流路L4の分流点Vaを介して合流点Mに給送される。分流点Vaで分流された供給ガスKの一部は、ベント流路L4を流通してベント4から放出される。供給ガスKの流量は、供給流路L1に設けられた流量検出器F1によって検出され、制御弁R1によって調整される(FIC−TCN)。供給ガスKの圧力は、ベント流路L4に設けられた圧力検出器P4(PIC−TCN)によって検出され、ベント流路L4に設けられた制御弁R4(HIC−TCN)によって調整される。このとき、制御弁R4の調整は、強制的に全開状態にした開度に出力を一度合わせてから、圧力制御に復帰させる機能を有することが好ましい。全開状態を基準として、制御弁R4の開度−流量/圧力特性を利用することによって、製品ガスSやエネルギーのロスの発生を少なくすることができる。また、ベントガスVの流量を必要最小限に設定することによって、供給ガスKのロスを低減することができる。例えば、制御弁R4を全閉状態にして、ガス供給装置1の供給ガスKの圧力および流量を基準ガス量Goに設定する(TCN−SET)ことによって、供給ガスKのロスを軽減することができる。
【0022】
さらに、第1構成例においては、空気分離装置11から補給流路L5を流通させて、バックアップ装置2へバックアップ用の液化ガスを供給する機能を設けている。所定時間内にバックアップ装置2から消費設備3に供給される差量分dGの総量と略同量となるバックアップガスWが、空気分離装置11から給送されるように制御される。同時に、ガス供給装置1(空気分離装置11)が停止あるいは急速な供給量の低下状態の異常発生時において、本システムのバックアップが可能なバックアップガスWのガス量が常にバックアップ装置2に貯留されるように制御される。具体的なバックアップ装置2へ供給される液化ガスの流量は、補給流路L5に設けられた流量検出器F5と制御弁R5からなる流量調整機構(FIC−LIN)によって検出・調整される。また、上記の異常発生時には、空気分離装置11から制御部5に対して「装置遮断」信号が送信されるとともに、制御部5からの制御信号を受信して(TCN−SET)、ガス供給装置1の停止と同時に、制御弁R5の開度を全開にしてバックアップ装置2への緊急供給が行われる。
【0023】
〔バックアップ装置〕
第1構成例では、バックアップ装置2は、液化ガスが貯留され、並列に配設された複数(3つ)のガス貯留部21〜23を備え、蒸発器24によって気化されたバックアップガスWが供出される構成を例示する。バックアップガスWが高圧ガスとして貯留可能な場合には、蒸発器24は省略されるが、以下液化ガスとして貯留される場合を説明する。ガス貯留部21〜23のいずれか、あるいは、そのいくつかから供出された液化バックアップガスWは、蒸発器24によって気化され、バックアップ流路L2から合流点Mに給送される。バックアップガスWの圧力は、消費設備3での圧力変動に対応するように、バックアップ流路L2に設けられた圧力検出器P2(PI−C1)によって検出され、バックアップ流路L2に設けられた制御弁R2(HIC−C1)によって調整される。バックアップ流路L2には、蒸発器24の下流に気化されたバックアップガスWの圧力を検知するための圧力検出器P2a(TIA−GAN)が設けられ、合流点Mの直前にバックアップ装置2への逆流を防止するための逆止弁Maが設けられる。
【0024】
また、ガス供給装置1の停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生等緊急事態への対応時には、制御部5から発信された緊急指令信号に基づき(HS−C2)、制御弁R2が基準ガス量Goに相当するガス量を給送する開度に調整(予め設定された開度に切換)され(HIC−C2)、ガス供給装置1の停止等に伴う供給ガスKの減量を補完する。このとき、合流点Mに給送されたバックアップガスWは、給送流路L3に流通して製品ガスSとして消費設備3に給送される一方、その一部は供給流路L1を供給ガスKと逆方向に流通し、ガス供給装置1において、分流点Vaを介してベント流路L4を流通してベント4から放出される。これによって、消費設備3の使用条件に適合した製品ガスSの圧力Psを確保し、維持することができる。製品ガスSの圧力Psは、圧力検出器P4によって検出される。
【0025】
ガス貯留部21〜23には、液化ガスが所定量貯留される。バックアップガスWの給送に伴う減量分は、上記のように、補給流路L5を流通し、開閉弁21f〜23fを介して供給装置1から補給される。ただし、本バックアップ装置2は、こうした供給装置1から補給される構成に限定されるものではなく、外部からの補給あるいは大容量のガス貯留部21〜23からなる構成が可能である。ガス貯留部21〜23には、液化ガスの供給を担う開閉弁21a〜23a,内部ガス圧力を調整する圧力調整器21b〜23b,内部ガス圧力を検出する圧力検出器21c〜23c,内部液圧力とガス圧力とのバランス調整する圧力調整器21d〜23d,ガス貯留部用の蒸発器21e〜23eが設けられ、以下のように機能する。
(i)消費量の変動に対応するバックアップガスWの供給時には、開閉弁21a〜23aを開とするとともに、内部の気相に繋がる圧力調整器21b〜23bによって調整された内部ガス圧力によって液相の液化ガスが押し出される。ガス貯留部21〜23内部の気相−液相のバランス、つまり液面低下に伴う内部ガス圧力の変動は、蒸発器21e〜23eによって形成される気相部に設けられた圧力調整器21d〜23dによって調整される。
(ii)ガス供給装置1の緊急事態に対応するバックアップガスWの供給時には、開閉弁21a〜23aを開とするとともに、圧力調整器21d〜23dを基準ガス量Goに相当するガス量を給送する開度に調整(予め設定された開度に切換)し、急激に加圧された内部ガス圧力によって液化ガスを急速に押し出すことによって、迅速にバックアップ流路L2へのバックアップガスWの供給を可能にする。
【0026】
また、制御弁R2は、制御部5からの制御信号を電気的に伝達駆動させるタイプだけではなく、電気信号を制御弁駆動用空気の圧力信号(以下「空気信号」という)に変換して制御することができる。具体的には、図1(a)に示すように、通常時のバックアップガスWの給送時においては、切換弁Cに対する制御信号Cz(例えばON−OFF信号)が制御部5から送信され、切換弁Cを流路Xが開状態となるようにすると同時に、制御部5からの制御信号Cx(例えば4−20mAの絶縁電流信号)が電気信号−空気信号の変換器IPxに送信され、同じく変換器IPxに供給される空気信号Ax(例えば約0.4MPaの空気)が変換されて駆動用空気(例えば0.02〜0.1MPaの空気)が流路Lxを介して制御弁Rに供給され、所定の開度に設定される。緊急時のバックアップガスWの給送時においては、切換弁Cに対する制御信号Czによって切換弁Cを流路Lyが開状態となるよう切換えると同時に、制御部5からの制御信号Cy(Cxと同様の信号)が変換器IPy(IPxと同一構成)に送信され、空気信号Ay(Axと同様の空気)が変換されて駆動用空気が流路Lyを介して制御弁Rに供給され、所望のガス量Gの給送が可能な所定の開度に設定される。なお、こうした構成の制御弁は、制御弁R2に限定されるものではなく、他の制御弁R1やR4あるいはR5にも適用が可能である。
【0027】
〔精製部〕
第1構成例において給送流路L3に設けられた精製部6には、精製ユニット61およびフィルタ62が配設されるとともに、給送流路L3に消費設備3に給送される製品ガスSの所望の圧力Pおよび流量Fからなるガス量Gを確認する圧力検出器P3(PIC−GAN)および流量検出器F3(FI−GAN)が設けられる。精製ユニット61は、製品ガスSを構成する供給ガスKおよびバックアップガスW中の不純物、例えば微量の水分や油分を除去するために用いられ、活性炭や活性ゼオライト等の吸着剤等が充填される。フィルタ62は、製品ガスS中の微粒子や微小粉塵を除去するために用いられ、高分子樹脂やセラミックス等からなる濾材等が使用される。第1構成例においては、各々2系統を配設し切換え可能な構成によって、連続的に使用することができる。
【0028】
<本システムを用いたガス供給方法>
本システムを用いたガス供給方法は、(1)製品ガスSの所望の流量Fが、基準ガス量Goとなる基準流量Fo以下の場合あるいは(2)これを超える場合、(3)製品ガスSの所望の圧力Pが、基準ガス量Goとなる基準圧力Po以下の場合あるいは(4)これを超える場合、および(5)緊急事態の場合、において、所望の圧力Pおよび流量Fの製品ガスSを給送する操作、から形成される。こうした操作を体系的に表した制御図を、図3,4に例示する。
【0029】
図3は、主として製品ガスSを所望の流量Fに制御するために行われるガス供給装置1およびバックアップ装置2と制御部5との交信、および制御部5における演算と制御処理内容を示す。特に、ガス供給装置1に対する供給ガスKの流量制御処理内容を示す。供給ガスKの流量Fsと消費量(流量F)のギャップを最小化する流量制御が行われる。
【0030】
図4は、通常製品ガスSを所望の圧力Pに制御するために行われるガス供給装置1およびバックアップ装置2と制御部5との交信、および制御部5における演算と制御処理内容に加え、緊急事態においてバックアップガスWを製品ガスSとして給送する制御操作の内容を示す。ガス供給装置1は、消費設備3の所望の圧力Pに対応した基準圧力Poに設定される。通常時には、基準圧力Po(あるいは基準流量Fo)を超えるガス量dGがバックアップ装置2から供給開始されるに際して、基準ガス量Goの圧力制御を担う制御弁R4とバックアップ装置2の圧力制御を担う制御弁R2の特性の相違により制御がスムーズに移行しないことがないように、制御弁R2,R4の特性が補正され、所望の圧力Pに制御される。緊急時(ガス供給装置遮断時)には、時間遅れなくバックアップ装置2からのバックアップガスWの供給を開始するため、所望の圧力Pに対応した圧力P2に必要な開度に強制的に切換えさせる。
【0031】
〔基準ガス量Goの設定〕
消費設備3に給送される製品ガスSについて、予め把握された所定範囲内の最小ガス量Gb,最大ガス量Gm,平均ガス量Gaあるいは所定範囲内の任意のガス量のいずれかから基準ガス量Goを設定する。ガス供給装置1とバックアップ装置2のガスの供給制御を統合し、基準ガス量を担うガス供給装置1とそれを超えたガス量を担うバックアップ装置2の供給条件を最適化することによって、消費設備3に供給するガス量を、製品ガスSやエネルギーのロスを少なく、所望の供給条件を維持することを可能とした。また、ガス供給装置1において、ベントガスVの流量を必要最小限に設定することによって、供給ガスKのロスを低減することができる。
【0032】
具体的には、消費設備3の運転において、消費量が安定している場合には、基準ガス量Goを最大ガス量Gmに設定することによって、少ないロスで制御可能であり、バックアップ装置2は緊急事態のみ機能させる制御操作を行うことが好ましい。消費量の安定なベースが大きいと同時に変動量も大きな場合には、基準ガス量Goを最小ガス量Gbとすることによって、その変動範囲に対応してバックアップガスWを給送することによって、少ないロスで制御することができる。消費量の安定なベースが大きく変動量が小さな場合には、基準ガス量Goを平均ガス量Gaとすることによって、少ないロスで制御することができる。つまり、基準ガス量Goを超える変動範囲に対応してバックアップガスWを給送し、基準ガス量Goを以下の変動範囲に対応してベントガスVを増量あるいは供給ガスSを減量させることによって、少ないロスで制御することができる。また、消費設備3での消費量の変動範囲が予め判る場合には、こうした基準ガス量Goの設定を、ガス供給装置1やバックアップ装置2の応答性および安定性を確保することができる範囲において、その変動時間および変動範囲に対応して変更することによって、より少ないロスで制御することができる。さらに、消費量の変動範囲の設定が難しい場合には、最小ガス量Gb,最大ガス量Gm,平均ガス量Gaではなく、その中間量あるいは所定範囲内の任意のガス量に設定することによって、実際の消費量の変動時間および変動範囲に対応して変更することができ、より少ないロスで制御することができる。
【0033】
図3は、流量制御プロセスにおいて、基準流量Foを設定するプロセスを例示する。所定の変動範囲(±x)を有する所望の流量Fあるいは実測の消費量(製品ガスSの流量)に基づき(FI−GAN)、下式2によって演算されたFtが、予め把握された所定範囲とされる。
Ft=F+k1 …式2
ここで、k1:補正係数(±x)
こうした所定範囲から、最小ガス量Gbに相当する最小流量Fb(=F−x),最大ガス量Gmに相当する最大流量Fm(=F+x)あるいは平均ガス量Gaに相当する平均流量Fa(=Σ[Ft]/Σt)のいずれかから基準ガス量Go相当する基準流量Foが設定される。なお、平均流量Faの演算は所定時間t(例えば1〜30min)内の移動平均をすることが好ましい。単純平均値よりも消費量の変化を迅速に反映し、製品ガスやエネルギーのロスの発生を少なくすることができる。また、既述の通り所定範囲内の任意のガス量に相当する流量を基準流量Foに設定することも可能である。緊急事態においては、こうした設定は解除される。
【0034】
〔本システムを用いたガス供給における流量制御操作〕
本システムを用いたガス供給操作は、流量制御において、(1)流量Fが基準流量Fo以下の場合、(2)流量Fが基準流量Foを超える場合、における操作から形成される。その具体的な操作手順を詳述する。
【0035】
(1)流量Fが、基準流量Fo以下の場合の操作
基準流量Foを最大流量Fmに設定した場合、あるいは流量Fが所定時間基準流量Fo以下となる場合には、制御部5の制御に基づき、ガス供給装置1からの供給ガスKのみを製品ガスSとして給送する。具体的には、供給ガスKの流量Fsを減少させる操作、ベントガスVの圧力Pvおよび流量Fvを調整する操作、あるいはこれらを組合せた操作を行い、消費設備3に給送させる供給ガスKを所望の圧力Pおよび流量Fに調整される。このとき、バックアップ装置2からのバックアップガスWの供給は停止される。また、ベントガスVの流量Fvを必要最小限に設定することによって、供給ガスKのロスを低減することができる。例えば、制御弁R4を全閉状態にして、ガス供給装置1の供給ガス流量を基準流量Foに設定する(TCN−SET)ことによって、供給ガスKのロスを軽減することができる。
【0036】
(2)流量Fが、基準流量Foを超える場合
基準流量Foを最小流量Fbに設定した場合、あるいは流量Fが所定時間基準流量Foを超える場合には、制御部5の制御に基づき、基準流量Foに対してガス供給装置1からの供給ガスKにより供給し、基準流量Foを超える流量分(F−Fo)に対してバックアップ装置2からのバックアップガスWを補給し、両者を集合して製品ガスSとして給送する操作を行う。つまり、バックアップガスWのガス流量Fwを下式1のように制御する。
Fw=F−Fo+Fv …式1
このとき、ベント流路L4に放出されるガスの圧力Pvおよび流量Fvを調整し、給送流路L3を給送させる所望のガスの圧力Pおよび流量Fに調整する。
【0037】
具体的には、以下の操作が行われる。
(i)流量Fs≧流量Fの状態となる場合
このときは、上記(1)と同様の操作が行われる。バックアップガスWの供給はない。
(ii)流量Fs<流量Fの状態となる場合
図3の流量制御プロセスに例示するように、流量Fsと基準流量Foを比較し、操作内容を変えることが好ましい。以下の(ii−1)および(ii−2)において詳細を述べる。このとき、流量Fs,流量Fのいずれかが選択され、信号A10としてバッファBf1に入力されてメモリされる(A10)。つまり、上記(i)の場合には、ガス発生装置1で一部ベントガスVを放出しているので、消費量(FI−GAN)の流量Fがメモリされる。上記(ii)の場合には、バックアップ装置2からバックアップガスWを供給しているため、発生量(FIC−TCN)の流量Fsがメモリされる。その選択は、流量Fs<流量Fの状態と判断された信号がフィリップフロップ回路FF1に導入されて得られた制御信号が用いられる。
【0038】
(ii−1)流量Fs>基準流量Foとなる場合において
基準流量Foに対して、下式3のように補正係数k2(±y)を付加した演算信号A1に基づき、流量FsがFoとなるように、ガス供給装置1を制御される(TCN−SET)。
A1=Fs+(Fo−Fs)+k2 …式3
詳しくは、ガス供給装置1からの流量Fsに係る信号(FIC−TCN)は、バックアップガスWの流量Fw信号とともにフィリップフロップ回路FF1に導入され、得られた制御信号Fc1によって、演算信号A1がON−OFF制御される。ON−OFF制御された演算信号A3は、バッファBf2においてメモリされるとともに、演算信号A4として変換部Ex1に入力され、変換された演算信号A5によって、ガス供給装置1に対し流量FsがFoとなるように制御される(TCN−SET)。変換部Ex1においては、流量Fsの上昇と下降で増減幅、増減速度(制御周期)を変更することが好ましい。例えば、空気分離装置11においては、供給ガスKの製造量を減少させる場合と、増加させる場合の制御周期が異なり、減少時速度>増加時速度であることから、ガス供給装置1の供給ガスKの供給特性に合った制御によって、ガス供給装置1の効率を上げ、ロスを軽減することができる。
【0039】
(ii−2)流量Fs<基準流量Foとなる場合において
基準流量Foに対して、下式4のように補正係数k3(±y)を付加した演算信号A2に基づき、流量FsがFoとなるように、ガス供給装置1を制御される(TCN−SET)。
A2=Fs+(Fo−Fs)+k3 …式4
詳しくは、流量Fsに係る信号(FIC−TCN)は、ベントガスVの流量Fv信号とともにフィリップフロップ回路FF2に導入され、得られた制御信号Fc2によって、演算信号A2がON−OFF制御される。上記(ii−1)同様、ON−OFF制御された演算信号A3が変換された演算信号A5によって、ガス供給装置1に対し流量FsがFoとなるように制御される(TCN−SET)。
【0040】
〔本システムを用いたガス供給における圧力制御操作〕
本システムは、さらに、図4に例示するような圧力制御が行われる。具体的な圧力制御プロセスは、(3)圧力Pが基準圧力Po以下の場合、(4)圧力Pが基準圧力Poを超える場合、において以下の操作が行われる。
【0041】
このとき、本システムでは、予め各流路に設けられた制御弁の開度に対する圧力特性または/および流量特性を求め、基準ガス量Goとなる基準圧力Poまたは/および基準流量Foを中点として、供給流路L1およびベント流路L4に設けられた制御弁R1,R4の、0〜基準圧力Poにおける開度に対する圧力特性または/および0〜基準流量Foまでの開度に対する流量特性と、バックアップ流路L2に設けられた制御弁R2の、基準圧力Po〜最大ガス量となる最大圧力Pmにおける開度に対する圧力特性または/および基準流量Fo〜最大ガス量となる最大流量Fmまでの開度に対する流量特性を、1つの1次または数次の近似関数によって表わされる関係式に補正することが好ましい。各流路に用いられる制御弁の機能や供給ガスKの特性によって異なる各制御弁の開度と流量や圧力の特性を補正することによって、緊急対応時のガス供給装置からバックアップ装置への切換えや消費量増加に伴うバックアップ装置からの補給に際しても、制御精度を維持することができる。
【0042】
具体的には、図5(A)に例示する制御弁における開度−流量特性、および図5(B)に例示する制御弁における制御信号−開度特性を基に説明する。図5(A)に示すように、制御弁R1における開度−流量特性と制御弁R2における開度−流量特性は異なる特性を有する。従って、基準流量Foまでの供給ガスKの給送を制御弁R1によって調整し、基準流量Foを超えるバックアップガスWの給送を制御弁R2によって調整した場合、基準流量Fo前後でのシステム全体としての開度−流量特性は、変曲点を有することから精度よく制御することが難しい。特に基準流量Foを定期的あるいは随時変更する場合には一層安定した制御を行うことが難しい。従って、図5(B)に示すように、例えば、基準流量Foまでの流量における制御弁R1に対する制御信号−開度特性を線形化し、基準流量Fo以上の流量における制御弁R2に対する制御信号−開度特性を関数化した後さらに逆関数をかけるとともに、図5(A)に示す開度−流量特性から、変曲点のない連続性を有する制御信号(開度)−流量特性に基づく制御を行うことができる。複数の制御弁があたかも1つの制御弁として機能するように補正することによって、緊急対応時のガス供給装置からバックアップ装置への切換えや消費量増加に伴うバックアップ装置からの補給に際しても、制御精度を維持することができる。
【0043】
(3)圧力Pが、基準圧力Po以下の場合
基準圧力Poを最大圧力Pmに設定した場合、あるいは圧力Pが所定時間基準圧力Po以下となる場合には、制御部5の制御に基づき、ガス供給装置1からの供給ガスKのみを製品ガスSとして給送する。具体的には、供給ガスKの流量Fsを減少させる操作、ベントガスVの圧力Pvおよび流量Fvを調整する操作、あるいはこれらを組合せた操作を行い、消費設備3に給送させる供給ガスKを所望の圧力Pおよび流量Fに調整される。このとき、バックアップ装置2からのバックアップガスWの供給は停止される。また、ベントガスVの流量Fvを必要最小限に設定することによって、供給ガスKのロスを低減することができる。例えば、制御弁R4を全閉状態にして、ガス供給装置1の供給ガス流量を基準圧力Poに設定する(TCN−SET)ことによって、供給ガスKのロスを軽減することができる。
【0044】
具体的には、図4の圧力制御プロセスに例示するように、以下の操作が行われる。ここでは、基準圧力Poを「所望圧力Pの50%」と設定した場合を例に説明する。制御部5に入力された所望の圧力Pに係る信号(PIC−GAN)に基づき、基準圧力Po未満であることが確認された演算信号C1について、下式5のように演算した演算信号C2を得ることができる。
C2=C1×2 …式5
演算信号C2は、変換部Ex2に入力され、線形化(折れ線関数)された基準圧力Poまでの制御弁R4の制御信号(開度)−圧力(流量)特性を利用し、演算信号C3に関数変換される。変換された演算信号C3は、圧力検出器P4の出力(PIC−TCN)を指標として制御弁R4を調整する制御信号(HIC−TCN)として使用され、所望の圧力Pに調整される。
【0045】
また、当該圧力制御においては、供給ガスKの流量Fsの変動に合わせた圧力が必要となる。供給ガスKの流量Fsの変動によりガス供給装置1の内部と出口の圧力損失が変化する。供給ガスKの流量Fsの変動に見合った圧力設定をすることにより過剰圧力を防ぎエネルギー効率を最適化することができる。具体的には、供給ガスKの流量Fsの変動に伴う圧力損失の変動に対しては、流量Fsに係る信号(FIC−TCN)が変換部Ex3に入力され、下式6のような折れ線関数によって演算・補正された演算信号E1と、圧力検出器P4に係る信号(PIC−TCN)から得られた演算信号E3が用いられ、下式7によって演算された演算信号E2によってガス供給装置1の供給ガスKの圧力(PIC−MP)が制御される。
E1=k4×Fs+k5 …式6
ここで、k4は圧力損失を基に算出された係数,k5は補正定数を示す
E2=E1+E5 …式7
このとき、演算信号E5は、演算信号A4としてバッファBf3にメモリされる演算信号E3が変換された信号である。
【0046】
(4)圧力Pが、基準圧力Poを超える場合
基準圧力Poを最小圧力Pbに設定した場合、あるいは圧力Pが所定時間基準圧力Poを超える場合には、制御部5の制御に基づき、基準圧力Poに相当するガス量(通常基準流量Foに相当)をガス供給装置1からの供給ガスKにより供給し、基準圧力Poを超える圧力分(P−Po)に相当するガス量をバックアップ装置2からのバックアップガスWにより補給し、両者を集合して製品ガスSとして給送する操作を行う。このとき、給送流路L3を給送させる所望のガスの圧力Pおよび流量Fは、ベント流路L4に放出されるガスの圧力Pvおよび流量Fvにより調整する。
【0047】
具体的には、図4の圧力制御プロセスに例示するように、以下の操作が行われる。ここでは、上記(3)同様、基準圧力Poを「所望圧力Pの50%」と設定した場合を例に説明する。制御部5に入力された所望の圧力Pに係る信号(PIC−GAN)に基づき、基準圧力Po以上であることが確認された演算信号C4(無次元化した値)について、下式8のように演算した演算信号C5(無次元化した値)を得ることができる。
C5=(C4−0.5)×2 …式8
演算信号C5は、変換部Ex4に入力され、基準圧力Poを超えるバックアップガスWの給送を担う制御弁R2の制御信号(開度)−圧力(流量)特性を利用して補正された演算信号C6に関数変換(折れ線関数)される。変換された演算信号C6は、圧力検出器P2の出力(PI−C1)を指標として制御弁R2を調整する制御信号C7(HIC−C1)として使用され、所望の圧力Pに調整される。
【0048】
〔本システムにおける緊急事態が発生した場合の操作〕
本システムは、さらに、(5)緊急事態が発生した場合において、制御部5の制御に基づき、バックアップガスWのみを製品ガスSとして給送できるように、以下の操作が行われる。
【0049】
(i)緊急事態の検知
本システムにおけるガス供給装置1における緊急事態は、図1に示すようなガス供給装置1が有する検知機能に基づく異常判断によって発せられる「ガス供給装置遮断信号」以外に、供給ガスKの圧力(PIC−MP)や供給流量Fs(FIC−TCN),供給圧力Ps(PIC−TCN)および補給流路L5に設けられた流量検出器F5(FIC−LIN)の検出信号によって検知することができる。
【0050】
(ii)制御システムに対する操作
緊急事態が検知された時、ガス供給装置1が停止操作あるいは急速な供給量の低下操作がされると同時に、バックアップ装置2において、図1に示すように、制御部5から発信された緊急指令信号に基づき(HS−C2)、バックアップガスWによる補完ができる制御弁R2の開度に制御され(HIC−C2)、ガス供給装置1の停止等に伴う供給ガスKの減量が補完される。具体的には、図3に示すように、制御部5から発信された緊急指令信号(HS−GAC1)に基づく信号A11によってガス供給装置1の機能(TCN−SET)を停止させる(SW)。
【0051】
同時に、図4に示すように、制御部5から発信された緊急指令信号(HS−GAC2)に基づく信号C8によってガス供給装置1の圧力制御機能(PIC−TCN,HIC−TCN)を停止させ(SW)、緊急指令信号(HS−GAC3)に基づく信号によってガス供給装置1の圧力制御機能(PIC−MP)を停止させる(SW)とともに、緊急指令信号(HS−GAC4)に基づく信号をフィリップフロップ回路FF4に導入して得られた制御信号によって演算信号A3のバッファBf3へのメモリが制御(停止)される。
【0052】
また、ガス供給装置1からの「ガス供給装置遮断信号」の1つは、フィリップフロップ回路FF5に導入され、得られた制御信号によって、演算信号C6が制御弁R2を調整する制御信号C7(HIC−C1)として使用される場合に、変換部Ex4における関数変換による補正を行うことを制御(停止)する。「ガス供給装置遮断信号」のもう1つは、フィリップフロップ回路FF6に導入され、得られた制御信号によって、以下の3つの役割を果す。
(ア)緊急指令信号に基づく制御弁R2を強制的に開度制御する(HS−C2)。製品ガスSの圧力Psの低下を防止する。
(イ)下式9のように演算された演算信号D1を、演算信号D2として制御(接続)し、強制的に開度制御された制御弁R2の開度を設定し、バックアップガスWによる補完ができるように制御する(HIC−C2)。開度が大きすぎると圧力の過上昇を起こすので、適切な開度を設定する。
D1=1+log(A10/Fcm)/logR+k6 …式9
ここで、A10はバッファBf1に入力されてメモリされた流量Fs,流量Fいずれかの値、Fcmは所定範囲内の100%流量、Rは基準流量Foを無次元化された数値であり20〜60が設定され、k6は補正定数を示す。
(ウ)上記(b)によって設定された制御弁R2の開度条件でバックアップガスWを給送するように制御し(HIC−C2)、制御された制御信号D3を基に下式10のように制御信号D4を演算する。
D4=Po+D3×(1−Po) …式10
ここで、Poは基準圧力Poを無次元化した値を示し、例えば「0.5」とする。
演算された制御信号D4を用い、圧力検出器P3を指標として(PIC−GAN)所望のガス圧力Pとなるように圧力制御される(PIC−GAN)。このとき、制御弁R2に対して強制的に全開あるいは基準ガス量Goに相当するガス量を給送する開度に制御出力を設定(予め設定された開度に切換)した後、通常時の圧力制御に復帰させることによって、緊急事態に対する迅速な回復を図るとともに、所望の圧力Pおよび流量Fを確実に供給することができる。
【0053】
<本システムの他の構成例>
図6は、本発明に係るガス供給システムの他の構成例(第2構成例)を示す概略図である。第2構成例は、基本は本システムと同様の構成であるが、バックアップ装置2から給送されるバックアップガスWの制御方法、特に緊急時の制御方法において特有の機能を有する。第1構成例では、複数(3つ)のガス貯留部21〜23からの液化ガスを集合させて蒸発器24によって気化されたバックアップガスWを制御し、圧力Pwおよび流量Fwに調整されたバックアップガスWが供出される構成であったが、第2構成例では、バックアップ装置2に備えられた複数のガス貯留部21〜23のそれぞれにおいて、その内部の液化ガス気相部の圧力P21b〜P23bおよび供出する液化ガスの液圧P21a〜P23aを指標として、バックアップガスWの供出量を個々に独立して制御することができる構成を特徴とする。また、第2構成例は、供給ガスKが給送される流路L1の圧力PsとバックアップガスWが給送される流路L2の圧力Pwの差圧を測定する差圧検出器Pmが設けられている。以下、主に第1構成例と異なる構成および機能について詳述する。
【0054】
〔第2構成例におけるバックアップ装置〕
第2構成例におけるバックアップ装置2は、ガス貯留部21〜23のいずれからでもバックアップガスWが供出され、蒸発器24によって気化されてバックアップ流路L2から合流点Mに給送することができる機能を有する。こうした独立性を有したガス貯留部21〜23を備えることによって、バックアップ装置2として、種々の対応が可能となる。例えば、1つまたは特定のガス貯留部を、通常状態におけるバックアップガスW給送用として使用し、他のガス貯留部を、緊急事態におけるバックアップガスW給送用として使用することができる。または、通常状態,緊急事態いずれにおいても、複数のガス貯留部21〜23を、順番にあるいは同時に分担してバックアップガスW給送用として使用することも可能である。さらに、ガス貯留部21〜23の少なくとも1つ(例えばガス貯留部23とする)が、基準ガス量Goの供給可能な容量を有することが好ましい。緊急時専用のガス貯留部23を設定することによって、上記緊急事態が発生した場合に補給する基準ガス量GoのバックアップガスWを常時確保することができる。あるいは、常時いずれかのガス貯留部21〜23に基準ガス量GoのバックアップガスWが貯留されるように、バックアップガスWの給送量と補給量を設定することによって、同様の準備ができる。以下、主に1つのガス貯留部21を使用して場合を例として説明する。
【0055】
(i)通常状態において
消費量の変動に対応するバックアップガスWの供給時には、開閉弁21aを開とするとともに、圧力検出器21cの出力を指標とし(PIC−1)、ガス貯留部21内部の気相に繋がる圧力調整器21bによって調整された内部ガス圧力P21aによって液相の液化ガスを押し出される(HIC−1)。液面低下に伴う内部ガス圧力P21aの変動は、圧力検出器21cの出力を指標とし、圧力調整器21dによって調整される(HIC−1)。ガス貯留部21から供出される液化ガスの流量は、内部ガス圧力P21aおよび液面によって決定され、最終的には液圧P23の出力を指標として(PIC−1)、圧力調整器21bによって調整される。合流点Mに給送されるバックアップガスWの供給圧力Pwは、圧力検出器P2aによって検知される(TIA−GAN)。このとき、供給ガスKが給送される流路L1の圧力PsとバックアップガスWが給送される流路L2の圧力Pwの差圧(dPI−BK)が差圧検出器Pmで測定され、バックアップ装置2あるいはガス供給装置1を含む本システム全体の異常が監視される。
【0056】
(ii)緊急事態において
ガス供給装置1の緊急事態に対応するバックアップガスWの供給時には、開閉弁21a開状態において、制御部5から発信された緊急指令信号に基づき(HS−1)、圧力調整器21dを全開にする。製品ガスSの圧力Psの低下を防止する。同時に、圧力調整器21bを緊急事態の所定圧力に設定し(HIC−1)、急激に加圧された内部ガス圧力により液化ガスを急速に押し出すことによって、迅速にバックアップ流路L2へのバックアップガスWの供給を可能にする。圧力調整器21bの開度が大きすぎると圧力の過上昇を起こすので、適切な開度を設定する。合流点Mに給送されるバックアップガスWの供給圧力Pwは、圧力検出器P2aによって検知され(TIA−GAN)、製品ガスSの圧力Psは、圧力検出器P4によって検出され、ガス供給装置1の停止等に伴う供給ガスKの減量を補完する。
【0057】
上記(i),(ii)いずれの場合においても、逆止弁Maを介して合流点Mに供給されたバックアップガスは、給送流路L3を流通して製品ガスSとして消費設備3に給送され、ベント流路L4に設けられたベント弁R4によって調整され、所望の圧力Pおよび流量Fからなるガス量Gが維持される。製品ガスSの圧力は、圧力検出器P4によって検出される。
【符号の説明】
【0058】
1 ガス供給装置
11 空気分離装置
2 バックアップ装置
21〜23 ガス貯留部
21a〜23a,21f〜23f 開閉弁
21b〜23b,21d〜23d 圧力調整器
21c〜23c 圧力検出器
21e〜23e ガス貯留部用蒸発器
24 蒸発器
3 消費設備
4 ベント
5 制御部
6 精製部
61 精製ユニット
62 フィルタ
Ax,Ay 空気信号
C 切換弁
Cx,Cz 制御信号
F 消費設備所望の流量
F1,F3,F5 流量検出器
IPx 変換器
L1 供給流路
L2 バックアップ流路
L3 給送流路
L4 ベント流路
L5 補給流路
Lx,Ly 流路
M 合流点
Ma 逆止弁
P 消費設備所望の圧力
P1〜P4,P2a 圧力検出器
R,R1,R2,R4,R5 制御弁
Va 分流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給装置およびバックアップ装置を備え、消費設備に対して、所定範囲内において変動する所望の圧力および流量からなるガス量Gを供給するガス供給システムであって、
前記ガス供給装置から供出されるガスが給送される供給流路と、前記バックアップ装置から供出されるガスが給送されるバックアップ流路と、該供給流路とバックアップ流路との合流点から前記消費設備にガスが給送される給送流路と、該合流点までの前記供給流路が分岐され、前記ガス供給装置から供出されるガスの一部が分流されるベント流路と、前記それぞれの流路の圧力を検出する圧力検出器または/および流量を検出する流量検出器と、前記それぞれの流路の圧力または/および流量を調整する制御弁と、前記それぞれの圧力検出器,流量検出器からの出力を受信し、前記それぞれの出力を指標に前記それぞれの制御弁への制御信号を作成して送信する制御部と、を備え、
前記消費設備に給送される前記所定範囲内の最小ガス量Gb,最大ガス量Gm,平均ガス量Gaあるいは所定範囲内の任意のガス量のいずれかから基準ガス量Goを設定し、
該基準ガス量Goを前記ガス供給装置から前記分流点に給送されるガス量Gsによって確保するように、前記ガス供給装置から供出されるガスと前記ベント流路に放出されるガスの、それぞれの圧力および流量を制御するとともに、
前記所望のガス量Gが前記基準ガス量Goを超える場合の差量分dG、および前記ガス供給装置が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時における所望のガス量Gを、前記バックアップ装置から前記分流点に給送されるガス量Gwによって確保するように制御することを特徴とするガス供給システム。
【請求項2】
予め前記それぞれの流路に設けられた制御弁の開度に対する圧力特性または/および流量特性を求め、
前記基準ガス量Goとなる基準圧力Poを中点として、前記供給流路およびベント流路に設けられた制御弁の、0〜基準圧力Poにおける開度に対する圧力特性と、前記バックアップ流路に設けられた制御弁の、基準圧力Po〜前記最大ガス量となる最大圧力Pmにおける開度に対する圧力特性を、1つの1次または数次の近似関数によって表わされる関係式に補正し、
または/および前記基準ガス量Goとなる基準流量Foを中点として、前記供給流路およびベント流路に設けられた制御弁の、0〜基準流量Foまでの開度に対する流量特性と、前記バックアップ流路に設けられた制御弁の、基準流量Fo〜前記最大ガス量となる最大流量Fmまでの開度に対する流量特性を、1つの1次または数次の近似関数によって表わされる関係式に補正することを特徴とする請求項1記載のガス供給システム。
【請求項3】
前記バックアップ装置が、並列に配設された複数のガス貯留部を備え、
該ガス貯留部の少なくとも1つが、前記基準ガス量Goの供給可能な容量を有し、前記ガス供給装置が停止あるいは急速な供給量の低下状態の発生時において、当該ガス貯留部から前記基準ガス量Goに相当するガス量をバックアップ流路に給送するとともに、前記ベント流路に設けられた制御弁によって、所望の圧力および流量からなるガス量Gを維持することを特徴とする請求項1または2記載のガス供給システム。
【請求項4】
前記ガス供給装置が、精留塔を備えた空気分離装置で構成され、高純度液化ガスを前記消費設備に供給し、前記バックアップ装置に該空気分離装置からの高純度液化ガスを貯留するガス貯留部を備えられるとともに、所定時間内に前記バックアップ装置から前記消費設備に供給される前記差量分dGの総量が、該所定時間内に前記空気分離装置から該ガス貯留部に給送されるガスの総量と略同量となるように制御されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガス供給装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のガス供給システムを用いたガス供給方法であって、
前記所望の圧力Pおよび流量Fに対する制御において、
(1)圧力Pまたは流量Fが、基準ガス量Goとなる基準圧力Poまたは基準流量Fo以下の場合
前記ガス供給装置から供出されるガスの流量Fsを減少させ、および/またはベント流路に放出されるガスの圧力Pvおよび流量Fvを調整し、前記給送流路を給送させる前記所望のガスの圧力Pおよび流量Fに調整する。このとき前記バックアップ装置からのガスの供給は停止する。
(2)圧力Pまたは流量Fが、前記基準ガス量Goとなる基準圧力Poまたは基準流量Foを超える場合
基準流量Foを超える差量分dGとなるガス流量を前記バックアップ装置から供給し、該ガス流量Fwを下式1のように制御する。
Fw=F−Fo+Fv …式1
このとき、前記ベント流路に放出されるガスの圧力Pvおよび流量Fvを調整し、前記給送流路を給送させる前記所望のガスの圧力Pおよび流量Fに調整する。
ことを特徴とするガス供給方法。
【請求項6】
精留塔を備えた空気分離装置で構成された前記ガス供給装置から、高純度液化ガスが前記消費設備に供給されるとともに前記バックアップ装置に供給され、前記(2)における該所定時間内の前記ガス流量Fwの総量を、該所定時間内に前記空気分離装置から前記バックアップ装置に給送されるガスの総量と略同量となるように制御することを特徴とする請求項5記載のガス供給方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−46890(P2013−46890A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186056(P2011−186056)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000109428)日本エア・リキード株式会社 (53)
【Fターム(参考)】