説明

ガス拡散電極、膜−電極アセンブリー及びこれらを製造する方法

電気導電性ウェブを、エネルギーが500eV以下の第1のイオンビームに付し、次に、エネルギーが少なくとも500eV以上の、第1の金属のイオンを含む第2のイオンビームに付し、そして、エネルギーが少なくとも500eV以上の、貴金属のイオンを含む第3のイオンビームに付すことを特徴とするアイオノマー性成分が実質的に除去された混合金属被膜をガス拡散媒体上に形成する方法及びガス拡散電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、及び他の電気化学的アプリケーションに使用するためのガス拡散電極に関し、及びこれらについての製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、近い将来において、クリーン電気エネルギーの最も有望な供給源の1つであると考えられている。PEMFCは電気化学的な発電機であり、ガス状燃料(代表例では、純粋な水素又は混合状態のもの)と、通常は酸素又は空気から成るガス状酸化体とから直流電流を発生させるものである。セル(電池)の中心構成部分は、膜(メンブランス)―電極アセンブリーである。膜―電極アセンブリーは、膜を有しており、膜は、全工程をサポートする固体電解質であり、及びアノード(陽極)とカソード(陰極)のセル区画の物理的なセパレータ(分離器)であり、ガス拡散電極に結合するか又は連結されるイオン交換膜である。
【0003】
ガス拡散電極(複数形)、すなわちイオン交換膜の何れか側と接触している1個のカソード及び1個のアノードは、通常、ガス拡散媒体の触媒化層(catalyzed layer)を有している。これら要素のための数種類の技術的解決手段が従来技術から公知である。すなわち、触媒化層は、ある場合では、膜と連結する前に、触媒化層がガス拡散媒体に施され、及び/又はこれらは、触媒化されていない分散媒体を施す前に、膜表面に直接的に被覆される。ガス拡散媒体は、通常、電気的導電性のウェブと1個以上のガス拡散層を含んでいる。そして、導電性ウェブは、金属製又はカーボンベースのもので、及び金属メッシュ、フォーム又はクロス、織または不織布カーボンクロス、カーボンペーパー又は他の好ましくは多孔性、又は穿孔生媒体で構成されている。
【0004】
ガス拡散層は、電極構造体の内側に、燃料酸化(アノード側)と酸化体の還元(カソード側)の電気化学的な反応が起こる触媒作用側に向けて、ガス状反応物のための適切な通路(path)を提供するために設けられている。これらは通常、電気導電性の不活性充填物(例えば、カーボン粒子)と適切な、好ましくは疎水性バインダー(例えば、PTFE又は他のフッ素化バインダー)の混合物をベースにしている。浸透性の、そしてなめらかな構造(smooth structure)を提供し、質量輸送が困難になる(重くなる)という不利を負うことなくガス状反応物の適正な分配を確実に行い、そして膜との良好な接触を提供するために、ガス拡散層は、注意深く設計されるべきである。燃料電池のための改良されたガス拡散構造は、例えば特許文献1(US特許No.6103077)に開示されている。例えば、特許文献2(US特許No.6017650)に記載されているように、触媒化された層をガス拡散層上に施すことができる。従来技術の触媒化層は、白金等の貴金属層(貴金属層は任意にカーボン又はグラファイト層上に担持されている。)、適切なバインダー(バインダーは、ガス拡散層中に既に存在している疎水性バインダーと同一ものであって良い。)、及びアイオノマー性成分、通常はアイオノマー性ペルフルオロカーボン種、を含む。アイオノマー性成分は、触媒−バインダー混合物に加えることができ、及び/又はアイオノマー性成分は、後に、外部層(外部層は前塗装された触媒とバインダー粒子に塗るものである。)として施すことができる。
【0005】
この種のガス拡散電極は、この技術分野では公知のプロトン交換膜に結合されているが、卓越した特性を有する膜−電極アセンブリーを与えるものである。ここで、プロトン交換膜は、例えば、Nafion(登録商標)(U.S.company DuPontの登録商標)等のフルオロカーボン酸に基くものである。しかしながら、貴金属成分は、この種の構造においの活用範囲は低く、そして非常に高い特定の積載(負荷:loading)が必要とされている(市販されている製品のアノード側用とカソード側用の両方において、通常、0.3〜1mg/cm2の白金)。燃料電池の特性を適切なものとするためには、大量の貴金属が必要とされ、このことは、PEMFS(及びDMFC、ダイレクトメタノールフューエルセル等の他のタイプの燃料電池)が商業的成功を収めることを阻害する、唯一、最大の要因であると考えられる。
【0006】
より良好な触媒活用を許容し、そして従って、貴金属の積載量を低くして、より良好な、触媒−膜インターフェースを達成する手段として、イオン交換膜の、触媒層での直接的な金属被覆(metallization)が提案されている。しかしながら、膜の直接的な金属被覆が効果的であり、実用的であるとの実証は今日までなされていない。スパッタリング又は超真空沈殿(UHV)に必要とされる高温は、デリケートなイオン−交換膜に大きなダメージを与えることになり、そして、通常の物理的及び化学的蒸着技術(PVD又はCVD)でさえも、制御が困難で、スケールアップが厄介であることが分かっている。膜の金属被覆の実質的な改良がUS6077621に開示されており、二重(dual)のIBADが、この目的のために提案されている。二重IBADは、イオン、ビーム、アシステッド、デポジション(IBAD)を発展させたもので、低温法であり、そしてスケールアップが非常に容易であるという有利な点を有している。膜は、最初に洗浄され、そしてエネルギーが500eV以下の第1のイオンビーム、例えば、Ar+ビームで織り込まれる(texture)。次により高いエネルギーイオン(O2+又はN2+等)を含む第2のビームが、沈殿させるべき金属のイオン(金属のイオンは、電子ビームにより事前に蒸発されている。)と共に膜に集中される。二重IBADは、所望の密度と多孔性を有する、より良好に制御されたフィルムの形成を可能とし、この一方で膜構造に与えるストレス(負荷を)を最小限にするという点で、通常のIBDA(IBDAでは単一ビームが使用される。)よりも相当に有利である。
【0007】
連続的な金属被覆法(metallization procss)において、サイズが大きいイオン−交換膜の取り扱いが非常に容易というわけではないので、この技術分野の更なる改良が特許文献3(特許No.6673127)に開示されている。この場合、非常に薄いイオン−交換膜層が、ガス拡散構造体上に形成され、そして次に二重IBDAに付される。この方法は、白金の積載量(負荷)を低減させながら、燃料電池に高い出力密度(power density)が得られるにもかかわらず、本発明が解決せんとする不利な点をなお有している。第1に、これらの電極は高い(良好な)特性を有してはいるが、しかし、この技術の信頼性は、アイオノマーフィルムによって影響され、そしてアイオノマーフィルムは、製造技術によって変動するものなので、これらの電極は予想不可能な部分を有している。この最新式の液体アイオノマーフィルムは、フルオロカーボン特性のものである。この理由は、これは、高出力密度を許容する、唯一知られているアイオノマー性材料だからである。そして、これは、DuPOntからの“Liquid Nafion”として商品化されている生成物等のフルオロカーボン酸のアルコール性又はヒドロアルコール性懸濁液から成形(recast)しなければならない。これら懸濁液の性質は、常に一定であるというわけではない。この理由は、平均分子量、懸濁された物品の組成学(形態学)的パラメータ、流動学的パラメータ、及び更に、他の要因がバッチ(batch)ごとに変動するからである。更に、最良のケースにおいて、触媒の液体アイオノマー付着粒子との活用要因が、統一性を有していない。
【0008】
ガス拡散電極のための液体アイオノマーは、先ず、特許文献4(US特許No.4876115)に、3次元触媒層の介在空間内にプロトン誘導通路を伸長させ、これにより、触媒の活用要因を改良する手段(この手段は、所望の反応側での、触媒自身の利用性と影響性の手段である。)として記載されている。この提案は、非常に薄い、そしてなめらかな、ある意味で2次元的層(この層は、膜表面と直接的に接触している。)に全ての触媒が存在する理想的な状態を擬似する、所定の範囲では効果的である。燃料電池内での白金の積載量(もしくは、より一般的に貴金属の積載量)を低下させるという問題の解決に加え、取り組むべき他の問題は、所定の工程条件下では、膜−電極アセンブリー内の、フルオロカーボン−ベースのアイオノマー性成分の安定性が低いということである。ある適応(自動車への適用等のもの)では、燃料電池は、その場その場での電力需要に依存した、不連続的な方法で操作される。PEMFCは、スタートアップ(立上り)が非常に速く、そして、急激に変化する電力需要の要求に非常に良好に追従するということで知られているので、この技術分野で操作(運転)される最も有力な候補である。
【0009】
しかしながら、ゼロ又はゼロ近傍の電力需要の状態、すなわち、電流が僅かしか発電されないか、又は全く発電されない場合(開回路電圧状態)、アノード側でのペルオキシドの一貫した生成が同様に発生する。これらの状態、特に長期間における場合では、ペルフルオロカーボン材料は、しばしば不安定である。また、この理由のために、代わりの膜(例えば、ポリベンジルイミダゾール、ポリエーテルケトン、又はポリスルホネート)が、燃料電池に適応するために発達して来ている。いずれの場合でも、特許文献4(US特許No.4876115)の教示に従う、電極インターフェースのためのプロトン伝導材料としては、これらの材料は、適切でないことがわかった。そして、上述した“Liquid Nafion”等のペルフルオロカーボン材料が常に使用されている。この成分の排除は、多くの理由のために、コストと信頼性のみならず、所定の工程条件下での全体的な化学的安定性にとって有益である。
【0010】
上述した理由のために、ガス拡散媒体の直接金属被覆が、過去に、いくつかの異なる技術を用いて試みられている。特許文献5(US特許No.6159533)は、ガス拡散媒体上に白金をPVD沈殿させることで、優れた性能が得られると主張している。しかしながら、実施例では、非常に薄い膜(20ミクロン)が設けられた燃料中で、非常に速いガス流速(空気について、3.5化学量論的割合、純粋水素について、2化学量論的割合)で、比較的高い圧力(約2バール)で、実際に記録された性能が、0.358Vで、中程度の732mA/cm2を超えることがない。
【0011】
並行(co-pending)している特許文献6(US特許No.60/580739)に開示された発明では、より興味深い結果が得られている。同文献には、アイオノマー性成分が除去され、二重IBAD沈殿を使用して貴金属被覆が設けられたガス拡散媒体が示されている。
【0012】
この種の電極と、Nafion112イオン−交換膜(約0.8Vで、0.3A/cm2、及び約0.7Vで、0.7A/cm2、1.5バールで、化学量論的割合が2、及びセル温度80℃で、純粋水素と空気を供給)を有する燃料電池に見られる電気化学的特性は、実際に工業に適用するため期待されたものにある程度接近するものである。高い電流密度(約1A/cm2)での、この種の電極に認められる、ある望ましくない限定は、パターン化された金属被膜により解決されている。この金属被膜は、並行する特許文献7(特許出願No.60/671336)(ここでは、参照文献として参照されている)に開示されているように、触媒のより良好な使用を可能とし、そして物質輸送(mass transport)を高めるものである。
【0013】
混合金属被膜を得るために、引用した並行する特許文献6(U.S.特許出願No.60/580739)に従う方法で、1種以上の金属が沈殿可能である。金属共−沈殿を得るために、原則として、第2の高エネルギービームを、2種以上の個々の対応する金属イオンと共に供給すれば十分である。
【0014】
混合した金属被膜の重要事項は、電気触媒の分野における、二元及び三元の金属合金の特性に関するものであり、例えば、不純物含有水素供給流の酸化における一酸化炭素及び他の有機種に耐性を与える、又は、酸素還元反応において、白金金属の触媒活性を高める特性に関するものである。一方、特許文献8(U.S.特許出願No.60/580739)の方法が、CO耐性燃料電池アノードのための、例えば、白金とルテニウムの共沈殿に有用であって良い。この方法では、2種の金属の微細で均一な分散が、既に所望の影響を与え、そして、この方法により得られたサンプルではカソードでの酸素還元反応の促進は観察されない。また、純粋水素の酸化の動力学は、このような方法で得られた混合金属被覆によっては促進されない。
【0015】
【特許文献1】US特許No.6103077
【特許文献2】US特許No.6017650
【特許文献3】特許No.6673127
【特許文献4】US特許No.4876115
【特許文献5】US特許No.6159533
【特許文献6】US特許No.60/580739
【特許文献7】特許出願No.60/671336
【特許文献8】U.S.特許出願No.60/580739
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的
本発明の目的は、二重IBAD沈殿によって得られる、好ましくはパターン化された、少なくとも2種の金属の混合金属被膜をガス拡散媒体上に含む、ガス拡散電極(このガス拡散電極は、従来技術の制限を克服する。)を提供することにある。
【0017】
他の局面では、本発明は、ガス拡散媒体の直接金属被覆(direct metalliation)によって得られ、1種の貴金属と少なくとも1種の第2の金属の積載量が低く、電気的特性が良好で、実質的にアイオノマー性フルオロカーボン成分が除去されたガス拡散電極を提供すること、及び同様のものを含む膜−電極アセンブリーを提供することを目的とする。
【0018】
他の局面では、本発明は、好ましくはパターン化された混合金属被膜(この被膜は、直接金属被覆による。)をガス拡散媒体上に形成するための方法を提供することにある。これら目的、及び他の目的及び本発明の有利な点は、以下の詳細な説明によって、より明らかに説明される。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明
発明者は、驚くべきことに、特に燃料電池への適用において、従来技術の二重IBAD単一金属被覆の利点を保持する一方で、特性が良好である混合金属を得るための最良の方法が、後に施される層に異なる金属を沈殿(析出)させることを含むことを見出した。二重IBAD金属被覆の、(特に、アイオノマー性フルオロカーボン成分が不存在の状態での、)特定の形態学(morphology)では、2種の異なる金属の2種の被覆層が、同一の金属による実際の合金に非常に近似した電気化学的特性を示す。このようにして得られた二元白金−コバルト及び白金−クロム被覆(被膜)は、燃料電池への適用に特に有利であることがわかったが、しかし、本発明には、2種以上の金属の他の組合せもその範囲に含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
ある局面では、本発明の方法は、電気的に導電性のウェブを、エネルギーが500eV以下、好ましくは100〜500eVの範囲の第1のイオンビームに付し(ウェブを、イオンビームで処理すること。)、次に、エネルギーが少なくとも500eV、好ましくは500〜2000eVであり、且つ第1の金属のイオンを含む第2のビームに付し、次に、エネルギーが少なくとも500eV、好ましくは500〜2000eVの範囲で、且つ貴金属のイオンを含む少なくとも第3のビームに付すことを含む。後の高エネルギービームを、他の金属層の沈殿のために使用しても良い。好ましい実施の形態では、第1の金属は遷移金属、好ましくはコバルト又はクロムであり、そして第3のビーム中の貴金属は白金である。
【0021】
好ましい実施の形態では、電気導電性のウェブをエネルギービームに付す前に、パターン化されたマスク、例えば、多孔性の薄い金属シート又はポリマーフィルムが被せられ、これにより、パターン化された被膜が得られる。好ましい実施の形態では、パターン化マスクは、化学的なエッチングにより、薄い金属シートから得ることができる。好ましいパターンは、引用した、並行する特許出願No.60/671336(単一金属被覆のためのもの)に開示されたものと同様である。例えば、孔の隣り合う対の中心間の距離は、0.02〜0.5cmの範囲が好ましく、そして、マスクの開口割合は、30〜80%の範囲に含まれることが好ましい。任意に、パターン化したマスクは、等間隔に配置された多角形孔を含む多角形格子で、好ましくは、多角形孔は六角形で、円形状充填中心部を有し、これにより、結果として得られる金属被膜は、等間隔に配置され、且つ円形状の中心孔を有する多角形体、好ましくは六角形を含むものである。好ましい混合金属被膜は、合計厚さが5〜250nmの範囲であり、そして0.01〜0.3mg/cm2の範囲の積載量である。
【0022】
好ましい1実施の形態では、本発明のガス拡散電極は、ガス拡散媒体を含み、この技術分野では公知のように、ガス拡散媒体は、本質的に、電気導電性のウェブと、ガス拡散層を含む。導電性ウェブは、例えば、カーボンクロス又はペーパーであり、そして、ガス拡散層は、任意に、1種以上の電気導電性充填材(例えば、カーボン粒子)、及び少なくとも1種のバインダー、好ましくは疎水性バインダーを含む。好まし更なる実施の形態では、電気導電性充填材としてアセチレンブラックカーボン粒子が、ガス拡散層内に使用される。他の好ましい実施の形態では、フッ素化されたバインダー(例えば、PTFE)がガス拡散層内に使用される。
【0023】
イオン−交換膜の平滑表面との可能な最良の接触を提供することにより、パターン化された貴金属被膜を可能な限り活用するために、ガス拡散層が、可能な限りなめらか(平滑:smooth)であることが非常に好ましい。好ましい1実施の形態では、ガス拡散層は、少なくとも1000ガーレー秒(Gurley-second)の平滑さを有している。本発明のガス拡散電極は、この技術では公知のように、膜−電極アセンブリー(膜−電極アセンブリーは、イオン−交換膜を含んでいる。)を製造するために使用される。交換膜は、本発明の1種以上の異なるガス拡散電極と結合(連結)しても良く、この場合、その一方側で密接に接触するか、又は各側でそれぞれが密接に接触しても良い。このような密接な接触は、ホットプレス結合によって得られる。
【0024】
以下に、図面を使用して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの範囲に限られるものではない。
【0025】
図面の簡単な説明
図1は、本発明の2種の分散電極の燃料電池構造内における定常状態の分極化曲線を、従来技術のものと比較して示している。
【実施例】
【0026】
市販されているガス拡散層(LT1400、De Nora North America/U.S.A)上に直接沈殿混合金属触媒被覆を施すために、二重IBADを使用した。ガス拡散層の設計は、3次元織布構造体から成り、3次元織布構造は、カーボンクロス担体(この担体は、PTFE処理されたカーボンの被膜を有する基体としてのものである。)を含む。このようなガス拡散層は、改良された引っ張り強さ特性を有し、そして、表面粗さが5500ガーレー秒であり、この表面粗さは、このような表面上の金属沈殿(この沈殿は、IBADによって得られたものである。)に完全に適するものであった。
【0027】
この試料を低エネルギービーム(200eV)に付して、表面の洗浄と織り込みを行い、次に異なる2種の金属のイオンを含む、2種の高エネルギービーム(500eVと2000eV)に付した。第1のもの(ガス拡散層の頂部に金属層を直接的に与える。)は、Co又はCrイオンの何れかを含み、一方、第2もの(第1の金属層の頂部に、他の金属層を直接的に沈殿させるために使用される。)は、Ptイオンを含んでいた。沈殿した全ての層は、予め設定された厚さ55nmを有しており、貴金属の合計積載量は、約0.08mg/cm2であった。
【0028】
制御試料も製造した。この制御試料は、同一の厚さと積載量が使用されたが、しかし、ガス拡散層の頂部に直接白金の単一層だけが沈殿していた。
【0029】
対応する膜−電極アセンブリー(MEA)を、Nafion(登録商標)112(DuPont/U.S.A.提供)を使用して製造した。MEAを製造する前に、膜を洗浄した。この洗浄は、膜を沸騰した3%H22に1時間浸し、次に1M H2SO4中で同様の時間沸騰させ、次に沸騰させた脱イオン水中ですすぎ(リンス)を行う(1時間)ことによってなされた。MEAは、140℃で5分間、及び相対圧力2.106Paで、ホットプレスを行なうことによって製造された。MEA製造アセンブリーには、液体アイオノマーは使用されなかった。
【0030】
定常状態の分極化測定を行なうように設計された燃料電池ステーションを使用して、全てのMEAを、5cm2燃料電池(Fuel Cell Technologies/U.S.A.)内で試験した。この電池は、アノードチャンバー内の参照電極(水素リファレンス)の補助下に、シングル及びハーフセルデータの同時測定が可能であった。この燃料電池試験ステーションはまた、加湿(humidification)、電池温度、及びガス流速の独立した制御が可能であった。全てのMEAは、試験を行なう前に、一連の工程を使用して調整された。最初の工程は、いわゆる「ブレークイン」工程であり、この工程では、電池の温度が、周囲から、N2下にゆっくりと操作温度にまで上昇された(約20℃/hr)。MEAの適切な状態を許容するために、約5時間、これらの状態に電池を保持した後、相対圧力(relative pressure)をゆっくりと350/400kPaまで上昇させた(それぞれアノード/カソード)。次にガスを飽和H2と空気に切り替え、そして電池を2時間、平衡させた。
【0031】
これらの条件下で得られた定常状態の分極化データを図1に示した。ここで、(1)は、Pt制御試料の曲線、(2)は、CoPt試料の曲線、及び(3)は、CrPt試料の曲線である。これらのデータから、混合金属被覆は触媒活性を明確に得ていることが明らかである。この活性を得た範囲は、Co又はCrと合金化されたPtにとって、予期したものと一致した。この明確に表面を覆った層への沈殿物は、驚くべきことに、実際の合金と同様の挙動(性質)を示すことが可能であった。パターン化した被覆について、並行する、引用したU.S.特許出願No.60/671336に記載されたものに類似する活性が観察された。これに加え、より露出した触媒は、物質輸送を改良するという利点を与え、この利点は、本発明の層状化された混合被膜特有のものであった。
【0032】
その考え(spirit)又は範囲内で、電極の種々の変化、及び本発明の方法の種々の変化がなされ得ると考えられるが、本発明は、本発明の請求の範囲に記載された範囲内に限定されるべきものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の2種の分散電極の燃料電池構造内における定常状態の分極化曲線を、従来技術のものと比較して示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導電性ウェブを、
エネルギーが500eVより高くない第1のイオンビームに付し、
次に、エネルギーが少なくとも500eVであり、且つ第1の金属のイオンを含む第2のイオンビームに付し、
そして、エネルギーが少なくとも500eVであり、且つ貴金属のイオンを含む、少なくとも第3のイオンビームに付す、
ことを特徴とする混合金属被膜をアイオノマー性成分が実質的に除去されたガス拡散媒体上に形成する方法。
【請求項2】
前記第1の金属がコバルト又はクロムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気導電性ウェブを前記イオンビームに付す前に、前記電気導電性ウェブにパターン化したマスクを被せ、パターン化した混合金属被膜を得ることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パターン化したマスクが、孔が設けられた薄い金属シート又はポリマーフィルムであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記薄いパターン化したマスクが、化学的にエッチングした、薄い金属シートであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
互いに隣り合う前記孔の中心間の距離が0.02〜0.5cmであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記パターン化したマスクが、30〜80%の範囲に開口割合を有していることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記パターン化したマスクが、多角形格子であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記多角形格子が、等間隔に配置された多角形孔を有し、この多角形孔は、円形状充填中心部を有し、及び、結果として得られるパターン化された貴金属被膜は、等間隔に配置され、且つ円形状の中心孔を有する多角形体を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
混合金属被覆が、5〜250nmの範囲に合計厚さを有し、及び0.01〜0.3mg/cm2の積載量を有していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のイオンビームが、100〜500eVの範囲にエネルギーを有し、及び前記第2と第3のイオンビームが500〜2000eVの範囲にエネルギーを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
電気導電性のウェブ、
少なくとも1種の電気導電性充填物及び少なくとも1種の任意にフッ素化されたバインダーを含む非触媒化ガス拡散層、
及び請求項1に記載の方法によって得られた混合金属被膜、
を含むことを特徴とするガス拡散電極。
【請求項13】
前記電気導電性充填物が、炭素原子を有することを特徴とする請求項12に記載のガス拡散電極。
【請求項14】
前記分散層が1000ガーレー秒の平滑さを有することを特徴とする請求項13に記載のガス拡散電極。
【請求項15】
請求項12に記載のガス拡散電極を少なくとも1個及び、イオン交換膜を有することを特徴とする膜−電極アセンブリー。
【請求項16】
少なくとも1個の前記ガス拡散電極と前記イオン交換膜がホットプレスによって互いに結合されていることを特徴とする請求項15に記載の膜−電極アセンブリー。
【請求項17】
前記貴金属が白金であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記多角形が六角形であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記炭素原子がアセチレンブラックカーボン粒子であることを特徴とする請求項13に記載のガス拡散電極。

【図1】
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【公表番号】特表2009−541915(P2009−541915A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518738(P2008−518738)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006361
【国際公開番号】WO2007/003363
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(507414328)ビーエーエスエフ、フューエル、セル、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (8)
【Fターム(参考)】