説明

ガス検知器

【課題】 通電により加熱された状態で検知対象ガスに感応するガス感応素子を有するガスセンサを具えてなるものにおいて、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に得ることのできるガス検知器を提供すること。
【解決手段】 前記ガスセンサを具えたガス検知器において、ガスセンサの起動時にゼロガスが導入されている状態において、センサ出力値が対数関数的に経時的に変化する特定の時間範囲内で選ばれた2つの測定時の各々においてガスセンサより実際に取得されるセンサ出力値に基づいて、前記特定の時間範囲内におけるいずれかの測定時を出力補正対象測定時として当該出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測して、これを補正用出力値として取得し、この補正用出力値に基づいて、前記出力補正対象測定時においてガスセンサより実際に取得されるセンサ出力値を補正する機能を有する出力補正機構を具えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱線型半導体式ガスセンサを具えてなるガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば可燃性ガスや毒性ガスを検知するガスセンサの一つとして、例えば白金もしくは白金合金線よりなる線状抵抗体によって形成されたコイルが埋設された金属酸化物半導体の表面でのガス吸着による金属酸化物半導体の抵抗値の変化を検出することにより検知対象ガスのガス濃度を測定する熱線型半導体式ガスセンサが知られている。
熱線型半導体式ガスセンサにおいては、例えば接触燃焼式センサやニューセラミック式センサなどに比べて、高い感度が得られるという反面、センサ起動時に、センサ出力が安定するまでに長時間の時間を要するという問題がある。
【0003】
すなわち、熱線型半導体式ガスセンサの起動時においては、例えば、検知対象ガスを含まないゼロガスが導入される場合には、熱線型半導体式ガスセンサに対して通電が開始されると、熱線型半導体式ガスセンサのセンサ出力は、通電開始直後に急激に立ちあがり、その後、センサ出力が経時的に低下していき、通電を開始してから数分間から数時間の時間が経過した後において、ゼロ出力で安定する。一方、所定濃度の検知対象ガスが含まれる場合には、電源を投入してから数分間から数時間の時間が経過した後において、検知対象ガスの濃度に応じた一定の出力値で安定する。
【0004】
以上のように、熱線型半導体式ガスセンサを具えたガス検知器においては、ガス濃度の測定を始めるに際しては、熱線型半導体式ガスセンサに対して通電を開始してからセンサ出力が安定するまで待つことが必要であった。
従って、電源投入直後から使用したいという要請があり、また、駆動用電源として用いられる蓄電池の容量に制約のあるポータブル型のガス検知器においては、熱線型半導体式ガスセンサは、不向きであるのが実情であった。
【0005】
このような問題に対して、例えば、半導体式ガスセンサの通電を開始した後における時刻である初期出力取り込み時のセンサ出力を、初期センサ出力として取り込み、この初期センサ出力と既知の正規化基準出力との関係に基づいて、初期センサ出力が、検知対象ガスが無い状態におけるセンサ出力に対応するものであると判定された場合に、ゼロ点補正用補正曲線と、初期センサ出力に基づいて、初期出力取り込み時以降のセンサ出力の予測値を求め、この予測値とセンサ出力とに基づいて検知対象ガスの濃度を算出する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−42992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱線型半導体式ガスセンサは、通常、例えば熱線型半導体式ガスセンサの仕様(構成)、電源がOFFされてから電源が再投入されるまでの時間である無通電時間の長さおよびその他の条件によって、そのセンサ起動時におけるセンサ出力特性にバラツキ(個体差)があり、センサ出力の経時的変化の程度は、一義的に決定されるものではない。
従って、上記特許文献1に記載の技術においては、膨大なデータを収集して種々の条件による場合分けを行い、複数の判定基準のそれぞれに対して、センサ出力を予測するに際して使用する0点補正用補正曲線を予め取得しておくことが必要とされると共に、ゼロ点補正用補正曲線を取得するために、複数の同種の半導体式センサを対象として、通電開始5分後以降のセンサ出力の変化と、上記の初期出力取り込み時のセンサ出力正規化値との関係とを調べておくことが必要とされるので、場合分けなどのアルゴリズムが煩雑であり、しかも、電源投入時における熱線型半導体式ガスセンサの実際の状態に応じた適正な出力補正を行うことはできない、という問題がある。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、通電により加熱された状態において検知対象ガスに感応するガス感応素子を有するガスセンサを具えてなるものにおいて、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に得ることのできるガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガス検知器は、通電により加熱された状態において検知対象ガスに感応するガス感応素子を有するガスセンサと、当該ガスセンサの起動時において、一定時間間隔毎の順次の測定時に取得される前記ガスセンサよりのセンサ出力値を補正する出力補正機構とを具えてなり、
前記ガスセンサについての、センサ起動時に検知対象ガスを含まないゼロガスが導入されている状態において取得されるセンサ出力値の経時的変化を示すセンサ出力初期変動特性曲線が、センサ出力値が経時的に対数関数的に減少する対数関数領域を有するものであり、
前記出力補正機構は、少なくとも前記センサ出力初期変動特性曲線における対数関数領域に対応する時間範囲内のいずれかの測定時を出力補正対象測定時とし、当該出力補正対象測定時において、
前記ガスセンサの起動時にゼロガスが導入されている状態において取得される、前記センサ出力初期変動特性曲線における対数関数領域に対応する時間範囲内において選ばれた、前記出力補正対象測定時以前の2つの測定時の各々におけるセンサ出力値に基づいて、当該出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測して当該予測されたセンサ出力値を補正用出力値として取得する補正用出力取得処理、および、
当該出力補正対象測定時において実際に取得されるガスセンサよりのセンサ出力値を、当該補正用出力取得処理によって取得された補正用出力値に基づいて補正する出力補正処理
を行う機能を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のガス検知器においては、前記出力補正機構は、前記出力補正対象測定時においてゼロガスが導入されていることが検出されたとき、当該出力補正対象測定時を前記2つの測定時のうちの時系列的に後の測定時として更新し、当該出力補正対象測定時の次の出力補正対象測定時における補正用出力取得処理および出力補正処理を行う機能を有する構成とされていることが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明のガス検知器においては、熱線型半導体式ガスセンサが用いられた構成とすることができる。
さらにまた、本発明のガス検知器は、ポータブル型のものとして構成することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス検知器によれば、例えば熱線型半導体式ガスセンサなどのガスセンサの起動時に、検知対象ガスを含まないゼロガスを導入させた状態において実際に取得される、2つの測定時におけるセンサ出力値の経時的な出力変化の傾向に基づいて予測される出力補正対象測定時におけるセンサ出力値は、当該ガスセンサについての実際のセンサ出力初期変動特性曲線に即したものであるので、当該予測されたセンサ出力値を補正用出力値として、出力補正対象測定時においてガスセンサより実際に取得されるセンサ出力値を当該補正用出力値によって補正することにより、ガスセンサの起動時におけるセンサ出力の経時的変化を補償することができ、従って、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を、センサ出力の安定化を待つことなく、早期に得ることができる。
また、ガスセンサの構成、電源がOFFされてから電源が再投入されるまでの無通電時間(無通電状態)の長さおよびその他の条件に拘らず、少なくとも2つの測定時におけるセンサ出力値が取得されさえすれば、出力補正対象測定時において実際に取得されるセンサ出力値を補正すべき補正用出力値を取得することができるので、高い汎用性を得ることができる。
さらにまた、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に得ることができるので、ポータブル型のものとして構成された場合に、極めて有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るガス検知器の一例における要部の構成の概略を示すブロック図である。
【図2】熱線型半導体式ガスセンサを構成するガス感応素子の一例における構成の概略を、ガス感応部の一部を省略して示す斜視図である。
【図3】熱線型半導体式ガスセンサについての、(A)無通電時間が24時間である場合、(B)無通電時間が60分間である場合、(C)無通電時間が30分間である場合、(D)無通電時間が5分間である場合の、センサ出力初期変動特性曲線を示す図である。
【図4】本発明のガス検知器における出力補正機構による出力補正動作を説明するためのセンサ出力初期変動特性曲線の一例を示す図である。
【図5】実験例1におけるガス濃度の測定結果を示すグラフである。
【図6】実験例2におけるガス濃度の測定結果を示すグラフである。
【図7】実験例3におけるガス濃度の測定結果を示すグラフである。
【図8】実験例4におけるガス濃度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、例えば、LPG、メタン、水素、一酸化炭素、アルコールおよびその他の可燃性ガス、フロンガス、AsH3 、PH3 、SiH4 、B2 6 、GeH4 、NF3 などを検知対象ガスとする、例えば熱線型半導体式ガスセンサなどのいわゆる「固体センサ」を具えてなるポータブル型のガス検知器を例に挙げて説明する。
図1は、本発明に係るガス検知器の一例における要部の構成の概略を示すブロック図である。
このガス検知器は、例えば熱線型半導体式ガスセンサ10と、この熱線型半導体式ガスセンサ10を駆動するセンサ駆動手段20と、ガス検知器の動作制御を行う制御手段30と、ガス濃度測定および出力補正動作に係る情報が記録された記憶手段40と、後述する出力補正動作を行うに際しての時間情報を取得する計時手段50と、ガス検知器の動作設定を行うための操作手段(図示せず)と、検出されたガスの種類とその濃度値を表示する表示手段(図示せず)と、検知対象ガスの濃度が基準値を越えたことが検出されたときに警報を発する警報手段(図示せず)と、例えば蓄電池よりなる駆動用電源(図示せず)とを具えている。
【0015】
熱線型半導体式ガスセンサ10は、通電により加熱された状態において検知対象ガスに感応するガス感応素子(検出素子)を有し、このガス感応素子11は、図2に示すように、通電により発熱する抵抗体の周囲に、金属酸化物半導体、例えば酸化スズ(SnO2 )などの酸化触媒がアルミナ(Al2 3 )担体と共に焼結されてなるガス感応部12が形成されて構成されている。
抵抗体は、例えば白金またはその合金よりなる金属素線がコイル状に巻回されてなるコイル部13Aおよびこのコイル部13Aの両端に連続する直線状のリード部13Bを有するヒータ13よりなる。
【0016】
ガス感応素子11の構成例を示すと、ガス感応部12の最大外径Dが0.2〜1.3mm、全長Lが0.2〜1.3mmであり、ヒータ13を構成する金属素線の素線径がφ15〜50μm、全長が7.5〜25.5mm(コイル部13Aの長さが3.75〜22.6mm)、コイル部13Aの巻き数が8〜18である。
【0017】
センサ駆動手段20は、ガス感応部12の表面温度が所定温度例えば300〜400℃に維持されるよう、熱線型半導体式ガスセンサ10におけるヒータ13に適正な大きさに制御された電圧を印加する。ここに、ヒータ13に対する印加電圧は、例えば1.2〜2.6Vである。
【0018】
制御手段30は、センサ駆動手段20およびその他の構成部材の動作制御を行う動作制御機構と、熱線型半導体式ガスセンサ10の起動時において、一定時間間隔毎の順次の測定時に取得される、熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値を補正する出力補正機構と、この出力補正機構によって補正された補正センサ出力値に基づいてガス濃度を算出する機能を有するガス濃度算出機構とを具えてなる。
【0019】
記憶手段40に記録されるガス濃度測定に係る情報としては、例えば、熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値とガス濃度値との関係を示す当該熱線型半導体式ガスセンサ10に固有の個別検量線(感度曲線)、熱線型半導体式ガスセンサ10についての校正処理後におけるゼロ校正値、スパン校正値などを挙げることができ、センサ起動時における出力補正動作に係る情報としては、例えば、後述する出力補正動作においてセンサ出力値が利用される測定時(電源が投入されて通電が開始されてからの経過時間)の時間情報の設定値(t1およびt2)などを挙げることができる。
また、ガス濃度の算出に際して用いられる個別検量線は、複数種の検知対象ガスの各々について設定された複数のものが記録されていてもよい。
【0020】
以下、上記のガス検知器の動作について説明する。
上記のガス検知器においては、センサ駆動手段20によって適正な大きさに制御された電圧が熱線型半導体式ガスセンサ10におけるヒータ13に供給されてガス感応部12の表面温度が所定の温度状態、例えば300〜400℃に維持されるよう加熱された状態において、被検ガスが熱線型半導体式ガスセンサ10に供給されると、ガス感応部12を構成する金属酸化物半導体の抵抗値(検出出力値)に応じた検出信号(センサ出力)が制御手段30に入力されることにより、当該検出信号に応じたガス濃度が固有検量線に基づいて算出され、その結果が表示手段に表示される。
【0021】
而して、上述したように、通常、熱線型半導体式ガスセンサは、その起動時において、センサ出力が安定するまでに時間を要し、ガス検知器の電源投入後、直ちにガス濃度の測定を行うことができないものであるため、上記ガス検知器においては、電源が投入されて熱線型半導体式ガスセンサ10に対する通電が開始されると、ゼロガスが導入されている状態、例えば大気中においてガスが導入されている状態において、熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値を補正する出力補正動作が行われる。以下、出力補正動作について具体的に説明する。
【0022】
熱線型半導体式ガスセンサ10についての、センサ起動時に検知対象ガスを含まないゼロガスが導入されている状態において取得されるセンサ出力値の経時的変化を示すセンサ出力初期変動特性曲線は、図3に示すように、熱線型半導体式ガスセンサ10に対する通電の開始によりセンサ出力が急激に立ちあがり、その後、センサ出力が経時的に低下していき、通電を開始してから数分間から数時間の時間が経過した後において、0出力で安定するものであり、無通電時間の長さが長くなるに従って、センサ出力値が安定するまでの時間が長くなる傾向を有する。ここに、図3において一点鎖線で示す曲線(A)、破線で示す曲線(B)、実線で示す曲線(C)、二点鎖線で示す曲線(D)は、それぞれ、無通電時間が(A)24時間、(B)60分間、(C)30分間、(D)5分間であるときのセンサ出力初期変動特性曲線である。
このセンサ起動時にゼロガスが導入されている状態において取得されるセンサ出力値を、例えばメタンガス濃度100ppmを100%として換算したときの出力割合(%)として縦軸に、通電が開始されてからの経過時間(sec)を横軸に、それぞれ、対数目盛でとった両対数座標系において示すと、図4において破線で示すように、センサ出力値が経時的に対数関数的に変化する対数関数領域LA、換言すれば、両対数座標系において直線近似(対数関数で近似)可能な領域を有するセンサ出力初期変動特性曲線(α)が得られる。ここに、センサ出力値は、例えば1秒間の時間間隔毎に取得される。
このセンサ出力初期変動特性曲線(α)における対数関数領域LAは、その開始時間t0および終了時間tnは、例えば熱線型半導体式ガスセンサ10の構成(仕様)、無通電時間の長さ等の条件によって異なるが、例えば、通電が開始されてからの経過時間が少なくとも4秒以上であって、90秒以内の時間範囲内に存在している。
【0023】
そして、上記ガス検知器においては、制御手段30における出力補正機構によって、センサ出力初期変動特性曲線(α)における対数関数領域LAに対応する時間範囲(t0〜tn)内におけるいずれかの測定時を出力補正対象測定時とし、この出力補正対象測定時において、センサ出力初期変動特性曲線(α)における対数関数領域LAに対応する時間範囲内において選ばれた、当該出力補正対象測定時以前の第1の測定時t1および第2の測定時t2の2つの測定時の各々において熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されたセンサ出力値に基づいて、当該出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測してこの予測されたセンサ出力値を補正用出力値として取得する補正用出力取得処理、および、当該出力補正対象測定時において熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力値を、当該補正用出力取得処理によって取得された補正用出力値に基づいて補正する出力補正処理を含む出力補正動作が、第1の測定時t1および第2の測定時t2の各々における、熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値が記憶手段40に記録されることにより、行われる。
【0024】
出力補正機構による補正用出力取得処理について具体的に説明すると、出力補正対象測定時が第2の測定時t2の次の測定時tmである場合には、先ず、図4に示すように、第1の測定時t1におけるセンサ出力値V1(実測値)と、第2の測定時t2におけるセンサ出力値V2(実測値)との間の経時的出力変化の傾向を検出すること、すなわち、2つのセンサ出力値V1、V2を対数関数で近似(両対数座標系において直線近似)することにより、図4において実線で示す近似曲線SLが取得される。
次いで、第2の測定時t2におけるセンサ出力値V2と、出力補正対象測定時tmにおける本来あるべきセンサ出力値(センサ出力初期変動特性曲線α上)との間の経時的出力変化の傾向が、第1の測定時t1におけるセンサ出力値V1と、第2の測定時t2におけるセンサ出力値V2との間の経時的出力変化の傾向と同一であるとの前提のもと、当該出力補正対象測定時tmにおけるセンサ出力値Vmが近似曲線SLにより予測されて、このセンサ出力値Vmが、出力補正対象測定時tmにおいて熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力値を補正すべき補正用出力値Vmとして取得される。
【0025】
出力補正機構による出力補正処理について具体的に説明すると、例えば、出力補正対象測定時tmにおいて熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力値(実測値)から、上記補正用出力取得処理により取得された補正用出力値Vmを減算することにより、出力補正対象測定時tmにおける補正センサ出力値が取得される。
【0026】
上記ガス検知器においては、上記補正用出力取得処理および出力補正処理を含む出力補正動作が、少なくとも前記センサ出力初期変動特性曲線αにおける対数関数領域LAに対応する時間範囲内であって、第2の測定時t2以降の順次の測定時(出力補正対象測定時)について、行われる。
【0027】
そして、制御手段30におけるガス濃度算出機構によって、出力補正機構による出力補正動作によって得られた補正センサ出力値に応じたガス濃度が、記憶手段40に記録されている個別検量線に基づいて算出される。ここに、検知対象ガスを含む被検査ガスが導入されている場合において、以上のような出力補正動作により取得される補正センサ出力値は、検知対象ガスのガス濃度に応じたものとなる。
【0028】
以上の出力補正動作において、第1の測定時t1は、実際上、熱線型半導体式ガスセンサ10に対する通電の開始直後は、センサ出力値の経時的変化の程度(変動幅)が大きいことから、電源が投入されてから熱線型半導体式ガスセンサ10についてのイニシャル処理に要する時間(例えば30秒程度)が経過する直前の時点(時刻)に設定されることが好ましい。
第2の測定時t2は、第1の測定時t1の後の特定の時刻を選択して設定することもできるが、出力補正対象測定時tmにおいてゼロガスが導入されていること(補正センサ出力値に基づいて算出されたガス濃度指示値が実質的に0ppmであること)が検出されたときに、当該出力補正対象測定時tmを新たな第2の測定時として更新設定されることが、補正の精度を向上させることができる点で、好ましい。
この場合には、第1の測定時t1におけるセンサ出力値V1(実測値)と、更新された新たな第2の測定時におけるセンサ出力値(実測値)との間の経時的出力変化の傾向を検出することにより新たな近似曲線が取得され、この近似曲線に基づいて、当該出力補正対象測定時tmの次の出力補正対象測定時t(m+1)において熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力値を補正すべき補正用出力値V(m+1)が取得される。
【0029】
以上のようなセンサ起動時における出力補正動作は、熱線型半導体式ガスセンサ10が校正処理、例えばゼロ校正および/またはスパン校正が適正に行われた状態であることを前提としており、熱線型半導体式ガスセンサ10自体の校正処理は、所定期間毎例えば6ヶ月間に1度の頻度で、行われる。
このような校正処理(暖機処理)は、例えば大気中(加湿された空気が熱線型半導体式ガスセンサ10に供給された状態)で、熱線型半導体式ガスセンサ10の無通電時間に応じて設定された暖機時間に基づいて、行われる。例えば、熱線型半導体式ガスセンサ10の無通電時間が1〜24時間の範囲内である場合には、暖機時間は例えば4時間程度に設定され、暖機処理における加熱条件は、ガス濃度測定を行うに際しての加熱条件と同一の条件に設定される。
【0030】
而して、熱線型半導体式ガスセンサ10を具えたガス検知器においては、上述したように、熱線型半導体式ガスセンサ10のセンサ出力値が安定するまでの時間の間は、通常、ガス濃度測定を高い信頼性をもって行うことはできないものであるところ、上記ガス検知器によれば、電源投入後、熱線型半導体式ガスセンサ10のセンサ出力の安定化を待つことなく、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に得ることができる。
すなわち、本発明者らは、熱線型半導体式ガスセンサ10の起動時にゼロガスが導入されている状態においては、ガス検知器の電源が投入されて熱線型半導体式ガスセンサ10に対する通電が開始されてからセンサ出力値が安定するまでの間、熱線型半導体式ガスセンサ10のセンサ出力値は経時的に不規則に変化するわけではなく、一定の規則性を持って変化すること、すなわち、センサ出力値の経時的変化を示すセンサ出力初期変動特性曲線において、センサ出力値が経時的に対数関数的に減少する対数関数領域を有することに着目し、当該対数関数領域に対応する時間範囲内において選ばれた2つの測定時におけるセンサ出力値を取得しさえすれば、熱線型半導体式ガスセンサ10に固有のセンサ出力初期変動特性曲線を予め取得しておかなくても、対数関数領域に対応する時間範囲内におけるいずれの測定時におけるセンサ出力値であっても予測することができ、この予測されたセンサ出力値を補正用出力値とし、この補正用出力値に基づいて、熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力を補正することによりガス濃度測定を行うことができることを見出した。
【0031】
従って、熱線型半導体式ガスセンサ10の起動時にゼロガスが導入されている状態におけるセンサ出力値のセンサ出力初期変動特性曲線(α)における対数関数領域LAに対応する時間範囲内におけるいずれかの測定時を出力補正対象測定時とし、当該出力補正対象測定時において、熱線型半導体式ガスセンサ10の起動時にゼロガスが導入されている状態において熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得される、センサ出力初期変動特性曲線(α)における対数関数領域LAに対応する時間範囲内において選ばれた、出力補正対象測定時以前の第1の測定時t1およびその後の第2の測定時t2の2つの測定時の各々におけるセンサ出力値V1,V2に基づいて、出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測してこの予測されたセンサ出力値を補正用出力値として取得する補正用出力取得処理、および、当該出力補正対象測定時において実際に取得される熱線型半導体式ガスセンサ10よりのセンサ出力値を、補正用出力取得処理によって取得された補正用出力値に基づいて補正する出力補正処理を行う機能を有する出力補正機構を具えていることにより、上記構成のガス検知器によれば、第1の測定時t1と第2の測定時t2との間の経時的出力変化の傾向に基づいて予測される、第2の測定時t2以降の出力補正対象測定時におけるセンサ出力値は、実際のセンサ出力初期変動特性曲線(α)に即したものとなるので、当該予測されたセンサ出力値を補正用出力値として、熱線型半導体式ガスセンサ10より実際に取得されるセンサ出力値を当該補正用出力値によって補正することにより、熱線型半導体式ガスセンサ10の起動時におけるセンサ出力の経時的変化を補償することができ、従って、後述する実験例の結果に示されているように、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を、センサ出力の安定化を待つことなく早期に、具体的には、第2の測定時t2におけるセンサ出力値V2が取得された時点で、得ることができる。
【0032】
また、熱線型半導体式ガスセンサは、通常、センサ起動時におけるセンサ出力の経時的変化を示すセンサ出力特性にバラツキがあるものであるので、センサ起動時において出力補正を行うに際しては、例えば、個々の熱線型半導体式ガスセンサについての種々の条件でのセンサ出力初期変動特性曲線が必要となるところ、上記構成のガス検知器によれば、熱線型半導体式ガスセンサ10の構成(仕様)、電源がOFFされてから電源が再投入されるまでの無通電時間(無通電状態)の長さおよびその他の条件に拘らず、第1の測定時t1および第2の測定時t2の2つの測定時におけるセンサ出力値が取得されさえすれば、第2の測定時t2以降の測定時である出力補正対象測定時においてセンサ出力値を補正すべき補正用出力値を取得することができるので、高い汎用性を得ることができる。
【0033】
以上のように、本発明によれば、例えば熱線型半導体式ガスセンサ10について、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に得ることができるので、熱線型半導体式ガスセンサを具えたポータブル型のガス検知器に極めて有用であり、このようなポータブル型のガス検知器によれば、センサ起動時において熱線型半導体式ガスセンサ10をガス濃度測定を行うことのできる状態を得るまでに必要とされる消費電力量を低減することができるので、例えば測定箇所の近くでガス検知器の電源を投入することにより、駆動用電源である電池の寿命を可及的に長くもたせることができると共に、例えば漏洩ガスの検知に緊急性を要する場合などにおいては、検知対象ガスの検出(検知対象ガスの存在の有無)を早期に行うことができる。
【0034】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
【0035】
<実験例1>
図2に示す構成の検出素子を具えた熱線型半導体式ガスセンサを作製した。この熱線型半導体式ガスセンサにおける検出素子(11)は、ガス感応部(12)の最大外径(D)が0.55mm、全長(L)が0.7mm、表面積が1.2mm2 であり、ヒータ(13)を構成する白金線の素線径がφ20μm、全長が12.4mm(コイル部(13A)の長さが8.9mm)、コイル部(13A)の巻き数が18であり、通電時におけるヒータ(13)の発熱量が0.15Wである。
この熱線型半導体式ガスセンサに対して所定の暖機処理を行うことによりゼロ校正およびスパン校正を行った後、電源を一旦OFFし、電源をOFFしてから60分間が経過した時点で(無通電時間が60分間)、大気中において、電源を再投入して1.2Vの電圧(電流約120mA)を印加して通電させ、通電開始から7秒間が経過した時点を第1の測定対象時(t1)、通電開始から25秒間が経過した時点を第2の測定対象時(t2)とし、上記出力補正動作を行いながらガス濃度測定を行った。結果を図5(曲線(β))に示す。
【0036】
図5において、縦軸はメタンガス濃度100ppmを100%として換算したときのガス濃度指示値(%)、横軸は電源が再投入されて通電が開始されてからの経過時間(sec)であり、破線で示す曲線(α)は、出力補正動作を行わなかった場合における当該熱線型半導体式ガスセンサについての実際のガス濃度指示値の経時的変化特性曲線である。 また、図5における曲線(β)において、第1の測定時(t1)以前の測定時におけるプロット(四角印)は、第1の測定時(t1)におけるセンサ出力値と、第2の測定時(t2)におけるセンサ出力値とを対数関数で近似して得られる近似曲線に基づいて外挿されたセンサ出力値を補正用出力値としてこの補正用出力値に基づいて実際に取得されるセンサ出力値を補正して得られた補正センサ出力値に応じたガス濃度指示値を示し、第1の測定時(t1)におけるセンサ出力値と第2の測定時(t2)におけるセンサ出力値との間の時間範囲内における測定時におけるプロット(四角印)は、上記近似曲線に基づいて補間されたセンサ出力値を補正用出力値としてこの補正用出力値に基づいて実際に取得されるセンサ出力値を補正して得られた補正センサ出力値に応じたガス濃度指示値を示している。以下、図6、図7および図8についても同様である。
【0037】
<実験例2>
実験例1において、所定の暖機処理が行われた後の無通電時間を24時間としたことの他は、実験例1と同様にして、ガス濃度の測定を行った。結果を図6に示す。
【0038】
<実験例3>
実験例1において、所定の暖機処理が行われた後の無通電時間を30分間としたことの他は、実験例1と同様にして、ガス濃度の測定を行った。結果を図7に示す。
【0039】
<実験例4>
実験例1において、所定の暖機処理が行われた後の無通電時間を5分間としたことの他は、実験例1と同様にして、ガス濃度の測定を行った。結果を図8に示す。
【0040】
以上の結果より明らかなように、センサ起動時に検知対象ガスを含まないゼロガス導入させた状態において取得される、第1の測定時および第2の測定時の各々におけるセンサ出力値の経時的出力変化の傾向に基づいて、第2の測定時以降の出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測してこの予測されたセンサ出力値を補正用出力値として取得し、出力補正対象測定時における熱線型半導体式ガスセンサより実際に取得されるセンサ出力値を補正用出力値により補正してガス濃度を測定する本発明に係るガス濃度測定方法によれば、熱線型半導体式ガスセンサの無通電時間の長さに関わらず、ガス濃度指示値は、電源が再投入されて熱線型半導体式ガスセンサに対する通電が開始されてから例えば5秒間が経過した時点以降において、ガス濃度指示値が例えば±5%の範囲内で、安定しており、電源投入後、ガス濃度測定を行うことのできる状態を早期に、これらの実験例においては、例えば、第2の測定時におけるセンサ出力値が得られた時点で、得ることができることが確認された。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、本発明は、熱線型半導体式ガスセンサに限定されるものではなく、例えば、半導体式ガスセンサ、接触燃焼式ガスセンサ、ニューセラミック式ガスセンサ、熱伝導式ガスセンサなどにも適用することができる。
また、センサ起動時における出力補正動作を行うに際して選ばれる第1の測定時(t1)および第2の測定時(t2)は、ガスセンサに固有のセンサ出力初期変動特性曲線における対数関数領域に対応する時間範囲内で設定されていれば、特に制限されるものではない。
さらにまた、上記センサ起動時における出力補正動作は電源が投入されてから一定時間の間行われるが、その後における出力補正が、ゼロ点を追尾する方法に切り換えられて行われるよう構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 熱線型半導体式ガスセンサ
11 ガス感応素子(検出素子)
12 ガス感応部
13 ヒータ
13A コイル部
13B リード部
20 センサ駆動手段
30 制御手段
40 記憶手段
50 計時手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により加熱された状態において検知対象ガスに感応するガス感応素子を有するガスセンサと、当該ガスセンサの起動時において、一定時間間隔毎の順次の測定時に取得される前記ガスセンサよりのセンサ出力値を補正する出力補正機構とを具えてなり、
前記ガスセンサについての、センサ起動時に検知対象ガスを含まないゼロガスが導入されている状態において取得されるセンサ出力値の経時的変化を示すセンサ出力初期変動特性曲線が、センサ出力値が経時的に対数関数的に減少する対数関数領域を有するものであり、
前記出力補正機構は、少なくとも前記センサ出力初期変動特性曲線における対数関数領域に対応する時間範囲内のいずれかの測定時を出力補正対象測定時とし、当該出力補正対象測定時において、
前記ガスセンサの起動時にゼロガスが導入されている状態において取得される、前記センサ出力初期変動特性曲線における対数関数領域に対応する時間範囲内において選ばれた、前記出力補正対象測定時以前の2つの測定時の各々におけるセンサ出力値に基づいて、当該出力補正対象測定時におけるセンサ出力値を予測して当該予測されたセンサ出力値を補正用出力値として取得する補正用出力取得処理、および、
当該出力補正対象測定時において実際に取得されるガスセンサよりのセンサ出力値を、当該補正用出力取得処理によって取得された補正用出力値に基づいて補正する出力補正処理
を行う機能を有することを特徴とするガス検知器。
【請求項2】
前記出力補正機構は、前記出力補正対象測定時においてゼロガスが導入されていることが検出されたとき、当該出力補正対象測定時を前記2つの測定時のうちの時系列的に後の測定時として更新し、当該出力補正対象測定時の次の出力補正対象測定時における補正用出力取得処理および出力補正処理を行う機能を有することを特徴とする請求項1に記載のガス検知器。
【請求項3】
ガスセンサが熱線型半導体式ガスセンサであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検知器。
【請求項4】
ポータブル型のものとして構成されていることを特徴とする請求項3に記載のガス検知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−149837(P2011−149837A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11600(P2010−11600)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】